説明

制振構造

【課題】建物の架構フレーム内に設置するX形ブレースを制振ダンパーとしても機能せしめて優れた制振効果が得られる有効適切な制振構造を提供する。
【解決手段】架構フレーム1内に2本の斜材5をX状に交差させてなるX形ブレース4を設置し、該X形ブレースを架構フレームに生じる層間変形によりダンパーとして作動せしめる。X形ブレースは、各斜材の中央部どうしが相対回転可能かつ相対変位可能に積層された状態でX状に交差してその交差部に粘弾性体6が介装される。各斜材の一端部の軸剛性が他端部の軸剛性に比して相対的に高剛性であるように両端部における軸剛性に有意な差を持たせる。各斜材にプレテンションを導入することも好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は建物における制振構造に関わり、特に架構フレーム内に設置するX形ブレースを制振ダンパーとして機能せしめて制振効果を得る制振構造に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の制振構造として特許文献1に示される耐震用ブレース装置を用いるものが提案されている。これは、互いに平行な剛性板材間に粘弾性体を挟在させてなる制振ダンパーをブレースとして用いて、それら二つの制振ダンパーを架構フレーム内にX状に交差させて配置するとともに、双方の中央交差部間にエネルギー吸収機能を有する緩衝材を介在させたものであり、各制振ダンパーが有する粘弾性体のみならずそれらの間に介在せしめた緩衝材によるエネルギー吸収効果も得られるというものである。
【0003】
また、特許文献2には、1組の引張材からなるブレース部材をプレテンションを導入した状態で架構フレーム内にX状に設置するという耐震架構が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−182359号公報
【特許文献2】特開2011−6903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示される耐震用ブレース装置は制振ダンパーとしていわゆる座屈拘束ブレースを用いるものであるが、座屈拘束ブレースはエネルギーを吸収する心材の座屈を防止するためにその外側に高剛性かつ大断面の座屈補剛材を装着する必要があり、したがってそのようなブレースを架構フレーム内にX状に設置することはかなりの設置スペースを必要として建築計画上および意匠上の制約を受けることが多い。
【0006】
また、特許文献2に示される耐震架構はブレースとしてワイヤを使用可能であるので、特許文献1に示されるような座屈拘束ブレースによる場合に比べればそれを設置する上での制約は少ないものの、それ自体はダンパーとして機能するものではないのでダンパー機能を必要とする場合には他の減衰要素を組み合わせる必要がある。
【0007】
上記事情に鑑み、本発明は架構フレーム内に設置するX形ブレースを制振ダンパーとしても機能せしめて優れた制振効果が得られる有効適切な制振構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、建物の柱と梁からなる架構フレーム内に2本の斜材をX状に交差させてなるX形ブレースを設置し、該X形ブレースを前記架構フレームに生じる層間変形によりダンパーとして作動せしめて制振効果を得る制振構造であって、前記X形ブレースは、前記各斜材の中央部どうしが相対回転可能かつ相対変位可能に積層された状態でX状に交差してその交差部に粘弾性体が介装されてなり、かつ前記各斜材は一端部の軸剛性が他端部の軸剛性に比して相対的に高剛性であるように両端部における軸剛性に差を有してなることを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の制振構造であって、前記各斜材はプレテンションが導入された状態で前記架構フレーム内に設置されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の制振構造は、基本的には一対二本の斜材をX状に交差させた状態で組み合わせて設置した単なるX形ブレースの形態ではあるものの、双方の斜材の間に粘弾性体を介装したことにより、架構フレームが層間変形を生じた際にはX形ブレース自体が制振ダンパーとして機能して優れた減衰効果を発揮し得るものである。
特に、各斜材の両端部の軸剛性に差を持たせたことにより、架構フレームが層間変形を生じた際には粘弾性体に回転変形が生じるのみならず同時にせん断変形も生じ、したがって粘弾性体の変形が顕著かつ十分に生じて優れた減衰効果を発揮するものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の制振構造の実施形態を示す図である。
【図2】同、V形ブレースの作動状況を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の制振構造の実施形態を図1〜図2を参照して説明する。これは、柱2と梁3とにより構成されている架構フレーム1内に、一対二本の斜材5をX状に交差させた状態で組み合わせてX形ブレース4として設置するとともに、各斜材5間に粘弾性体6を介装することによってそのX形ブレース4自体を制振ダンパーとして機能させることを主眼とするものである。
【0013】
図示例のX形ブレース4は各斜材5として小断面の鋼製ロッドが用いられていて、基本的にはそれら各斜材5の両端部がそれぞれ架構フレーム1の上下の仕口部に対してピン接合の形態で定着されて設置されるものであり、図2に示すように地震時に架構フレーム1に層間変形が生じた際には通常のX形ブレースと同様に一方の斜材5が引張側となってその引張耐力により架構フレーム1の変形を拘束するものである。
【0014】
そのうえで本実施形態の制振構造では、各斜材5の中央部に短尺帯板状の鋼板5aがそれぞれ設けられていて、各斜材5はそれらの鋼板5aどうしが相対回転可能かつ相対変位可能に積層された状態でX状に交差するように組み合わせられ、かつそれら鋼板5aの間には(b)に示すように粘弾性体6が双方の鋼板5aに対して接着された状態で介装されている。
したがって架構フレーム1が図2に示すように層間変形を生じた際には、双方の鋼板5aどうしが互いに逆方向に回転するような面内相対回転が生じ、それにより粘弾性体6に回転変形が生じてその粘弾性抵抗力による減衰効果が得られるものとなっている。
【0015】
しかも、本実施形態では、各斜材5の両端部での軸剛性が有意な差を有するものとされていて、それにより上記の粘弾性体6による減衰効果がより高められて効率的に減衰効果を発揮し得るものである。
すなわち、従来一般のX形ブレースでは各斜材の断面形状や断面寸法は全長にわたって均等とされていることが通常であるが、本実施形態における各斜材5は図示しているように両端部での断面寸法が異なるものとされている。
具体的には、図示例の場合には双方の斜材5における中央部よりも下部側の径寸法が上部側の径寸法に比較して大きくされており、したがって下部側の軸剛性が上部側の軸剛性に比べて相対的に高剛性とされている(換言すれば、上部側の径寸法が下部側の径寸法に比較して小さくされており、したがって上部側の軸剛性が下部側の軸剛性に比べて相対的に低剛性とされている)。
【0016】
各斜材5の軸剛性を通常のように全長にわたって均等とした場合には、図2に示したように架構フレーム1に層間変形が生じた場合には双方の鋼板5aどうしは相対回転を生じるだけで双方が同時に同方向に水平変位を生じてそれらの間に水平方向の相対変位は生じることはないが、本実施形態のように各斜材5の両端部の軸剛性に有意な差をもたせることにより、架構フレーム1が層間変形を生じた際には双方の鋼板5aの間に面内相対回転が生じることに加えて双方の鋼板5aの水平方向の変位量に差が生じてそれらの間に水平方向の相対変位も同時に生じることになり、それにより双方の鋼板5aの間に介装されている粘弾性体6には回転変形のみならずせん断変形も生じ、したがって単に回転変形する場合に比べれば全体の変形がより顕著かつ十分に生じて優れた減衰効果を発揮するものとなる。
【0017】
なお、各斜材5の両端部の軸剛性に差をもたせるためには、図示例のように各斜材5の両端部の径寸法を変化させることでも良いが、それに代えて、あるいはそれに加えて、双方の断面形状を変化させる(たとえば一方を円形断面とし、他方を角形断面とする等)ことでも良い。また、両端部を剛性の異なる異種の素材により形成したり、いずれか一方の端部の要所に対して軸剛性を高めるような適宜の補剛を施すようにしたり、あるいは逆にいずれか一方の端部の要所に軸剛性を低下させるような適宜の加工を施すことによっても、両端部の軸剛性に有意な差をもたせることが可能である。
【0018】
いずれにしても、各斜材5の両端部における軸剛性は、架構フレーム1全体の水平剛性や粘弾性体6の減衰特性その他の諸条件も考慮して、架構フレーム1の層間変形によって双方の鋼板5aどうしの間に相対回転のみならず水平方向の相対変位も有効に生じて粘弾性体6が確実かつ十分に変形し得るものとなるように適切に設定すれば良い。
勿論、その限りにおいては、図示例のように双方の斜材5の下部側を高剛性として上部側を低剛性とすることに限らず、それとは逆に双方の斜材5の下部側を低剛性として上部側を高剛性としたり、一方の斜材5は下部側を高剛性として上部側を低剛性とするが他方の斜材5は逆に下部側を低剛性として上部側を高剛性とすることでも良い。
【0019】
以上のように、本発明の制振構造は、基本的には一対二本の斜材5をX状に交差させた状態で組み合わせて設置した単なるX形ブレース4の形態ではあるものの、双方の斜材5の間に粘弾性体6を介装し、かつ各斜材5の両端部の軸剛性に差を持たせたことにより、それ自体が制振ダンパーとして有効に機能して優れた減衰効果を発揮し得るものである。
勿論、各斜材5としては小断面の鋼製ロッドを用いることが可能であるから、特許文献1に示される耐震用ブレース装置のように斜材として複雑かつ大断面の座屈拘束ブレースを用いる場合に比べれば全体の構成が遙かに簡略であり、したがって十分に低コストで製作できるし、これを架構フレーム1に設置するうえでの建築計画上および意匠上の制約も少なくて済み、一般の建物に広く適用できるものである。
【0020】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものでは勿論なく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内であれば適宜の設計的変更や応用が可能であることは当然である。
【0021】
たとえば、本発明における斜材5の素材としては上記実施形態のように小断面の鋼製ロッドを用いることが好適であるが、それに限るものではなく、所望の軸剛性を有して架構フレーム1の層間変形を粘弾性体6に伝達し得るものであり、かつ両端部の軸剛性に有意な差をもたせることが可能なものである限りにおいては、斜材5としてたとえばいわゆるフラットバー等の平坦な鋼製プレートを始めとして各種の素材、形態のものを自由に用いることが可能である。
なお、上記実施形態では斜材5として小径の鋼製ロッドを用いたことから、その中央部に粘弾性体6を介装するための鋼板5aを設けたのであるが、斜材5としてたとえばフラットバー等の平坦な部材を用いる場合にはそれ自体を交差部において積層してその間に粘弾性体6を装着すれば良いので、上記実施形態における鋼板5aは不要である。
【0022】
また、本発明においては特許文献2に示されるように斜材5に対して予めプレテンションを導入しておくことも好ましい。
すなわち、斜材5としてたとえばワイヤのように圧縮耐力を有していない単なる引張材を用いる場合には、その斜材は引張時に耐力を発揮するのみで圧縮時にはなんら機能しないものであるが、そのような斜材に対して特許文献2に示されるようにプレテンションを導入しておくことにより圧縮側の斜材5もプレテンションが消失するまでは座屈せずに耐力を発揮するから、少なくとも架構フレーム1の変形の初期段階においては双方の斜材5が同時に拘束力を発揮するものとなる。
したがって、本発明における斜材5に対してそのようにプレテンションを導入することにより、その斜材5としてPC鋼材のようなワイヤを用いることも可能となるし、その場合においても圧縮側の斜材5のプレテンションが消失して座屈するまでは制振ダンパーとして確実に機能するものとなる。
【符号の説明】
【0023】
1 架構フレーム
2 柱
3 梁
4 X形ブレース
5 斜材
5a 鋼板
6 粘弾性体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の柱と梁からなる架構フレーム内に2本の斜材をX状に交差させてなるX形ブレースを設置し、該X形ブレースを前記架構フレームに生じる層間変形によりダンパーとして作動せしめて制振効果を得る制振構造であって、
前記X形ブレースは、前記各斜材の中央部どうしが相対回転可能かつ相対変位可能に積層された状態でX状に交差してその交差部に粘弾性体が介装されてなり、かつ前記各斜材は一端部の軸剛性が他端部の軸剛性に比して相対的に高剛性であるように両端部における軸剛性に差を有してなることを特徴とする制振構造。
【請求項2】
請求項1記載の制振構造であって、
前記各斜材はプレテンションが導入された状態で前記架構フレーム内に設置されてなることを特徴とする制振構造。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−219553(P2012−219553A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88197(P2011−88197)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】