説明

前紡工程のドラフト装置

【課題】ローラゲージ調整作業の際に、ローラの位置調整に支障のない状態にベルトテンションを解除する作業を容易に行うことができ、ローラゲージ調整後にベルトテンションを適正テンションにすることができる前紡工程のドラフト装置を提供する。
【解決手段】ドラフト装置11は、ローラゲージ変更可能なミドルボトムローラ15及びバックボトムローラ16がミドルローラ用ベルト及びバックローラ用ベルト48により駆動される。バックローラ用ベルト48のテンション調整機構56はベルト48に対して上方側から接触するテンションプーリ47と、テンションプーリ47がベルト48に対して適正なテンションを付与する状態にテンションプーリの支持部材58を上方側から押圧するコイルばね62と、コイルばね62の押圧力解除操作をテンションプーリ47より上方において可能なキャップ64とを備えている。ミドルローラ用ベルトも同様な機構でテンション調整が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前紡工程のドラフト装置に係り、詳しくは、例えば、練条機やコーマのように複数本のスライバを、ローラゲージ変更可能なボトムローラがベルトにより駆動されるドラフト装置でドラフトした後、1本のスライバに束ねる工程を備えた前紡工程のドラフト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の前紡工程のドラフト装置においては、紡出する繊維の種類等により、ローラのニップ距離(ローラゲージ)を変更する。ドラフト装置のボトムローラをベルトで駆動するとき、一般に、ローラゲージの変更は、ベルトのテンションを弛め、ローラゲージの調整後、テンション機構を調整してベルトを適正なテンションにする。また、ベルトが伸びたときも、テンション機構を調整し、ベルトを適正なテンションにする。
【0003】
従来、スライバを引延ばすドラフト装置として、図6に示すようなドラフト装置が提案されている(特許文献1参照)。このドラフト装置は、ドライブプーリ71,72が平ベルト73によって互いに駆動結合され、ベルト走行方向Pにおいてドライブプーリ71とドライブプーリ72の間に転向ローラ74が配置されている。平ベルト73の引張りは、引張りレバー75に取り付けられた転向ローラ76により行われる。引張りレバー75は回転軸77を介して回転可能に支持されている。ばね78は所定の支持伸びになるように平ベルト73に初応力をかけ、クランプねじ79によって転向ローラ76はその位置に固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平5−502271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のドラフト装置では、平ベルト73のテンションを弛める場合は、クランプねじ79を弛め、ばね78のばね力に抗して引張りレバー75を図6の反時計方向に傾動させて平ベルト73に加わっていたテンションを弛めた状態でクランプねじ79を締めて引張りレバー75をその位置に固定する。ところが、特許文献1のドラフト装置では、引張りレバー75やクランプねじ79等がドライブプーリ71,72より下方に配設されている。そのため、このような構成を一般の練条機やコーマのドラフト装置に適用した場合、引張りレバー75やクランプねじ79の位置が、ドラフト装置のボトムローラを支持するブラケットが位置調整可能に取り付けられるフレームより下方になり、ローラゲージの変更時に平ベルト73に加わっているばね力の解除作業が行い難い。また、作業者によりベルトテンションの調整にばらつきが生じるという問題もある。
【0006】
本発明は、前記の問題に鑑みてなされたものであって、その目的はローラゲージ調整作業の際に、ローラの位置調整に支障のない状態にベルトテンションを解除する作業を容易に行うことができ、ローラゲージ調整後にベルトテンションを簡単に適正テンションにすることができる前紡工程のドラフト装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、ローラゲージ変更可能なボトムローラがベルトにより駆動されるドラフト装置を備えた前紡工程のドラフト装置である。そして、前記ベルトに対して上方側から接触するテンションプーリと、前記テンションプーリが前記ベルトに対して適正なテンションを付与する状態に前記テンションプーリの支持部材を上方側から押圧する押圧部と、前記押圧部の押圧力解除操作を前記テンションプーリより上方において可能な押圧力解除部とを備えている。
【0008】
この発明では、ローラゲージ変更可能なボトムローラはベルトにより駆動され、ベルトは上方側から接触するテンションプーリにより適正なテンション状態に保持されて駆動される。テンションプーリは、テンションプーリの支持部材を上方側から押圧する押圧部の作用により、ベルトに対して適正なテンションを付与する状態に保持される。ローラゲージの変更時には、押圧力解除部を操作して、テンションプーリによるベルトに対する押圧力を解除した状態でローラゲージが目的のゲージに調整される。押圧力解除部は押圧部の押圧力解除操作をテンションプーリより上方において行うことが可能なため、作業者は押圧力解除を容易に行うことができる。また、ローラゲージ調整作業の終了後に、押圧力解除部を押圧状態にすることで、ベルトテンションは適正テンションに復帰する。したがって、ローラゲージ調整作業の際に、ローラの位置調整に支障のない状態にベルトテンションを解除する作業を容易に行うことができ、ローラゲージ調整後にベルトテンションを簡単に適正テンションにすることができる。なお、本発明において「押圧部の押圧力解除」とは、押圧部の押圧力を完全に無くすことに加え、ローラゲージ調整作業に支障がない程度まで押圧部の押圧力を低減させることをも含む。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記押圧部は、ばねである。押圧部としては、例えば、ばねや油圧ダンパを使用することができるが、この発明では、ばねを押圧部として使用するため、油圧ダンパを使用する場合に比べて押圧部をコンパクトにすることができる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記ばねは、前記ばねの上側端部と係合して前記ばねを押圧する状態で前記ベルトのテンション調整を行うテンション調整機構のハウジングに螺合状態で取り付けられるとともに、前記ばねに前記ベルトが適正テンションとなる押圧力が加わる状態で螺入が規制されるねじ部を有するキャップにより押圧状態に保持される。この発明では、ベルトのテンション調整機構のハウジングに螺合状態で取り付けられているキャップを取り外すと、ばねによる押圧力が解除される。また、キャップをその螺入が規制される位置まで螺入すると、ばねが押圧状態に復帰してベルトテンションは適正テンションに復帰する。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記押圧部は油圧ダンパである。この発明では、押圧部を押圧状態にする作業及び押圧解除状態にする作業は、油圧ダンパを、所定圧力の作動油を供給する作動油供給源に連通する状態と、ドレンタンクに連通する状態とに切り換えることにより行われる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ローラゲージ調整作業の際に、ローラの位置調整に支障のない状態にベルトテンションを解除する作業を容易に行うことができ、ローラゲージ調整後にベルトテンションを簡単に適正テンションにすることができる前紡工程のドラフト装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】一実施形態のバックボトムローラ駆動部の概略側面図。
【図2】ドラフト装置及びコイラ装置を示す概略側面図。
【図3】(a)は図4のA−A線におけるテンション調整機構の断面図、(b)はキャップとコイルばねの関係を示す部分拡大断面図。
【図4】ボトムローラ駆動部の概略平面図。
【図5】別の実施形態のテンション調整機構の側面図。
【図6】従来技術の側面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1〜図4にしたがって説明する。
図2に示すように、ドラフト装置11は、図示しないコーマの複数のコーミングヘッドあるいは練条機の複数のケンスから供給される複数本のスライバSをドラフトした後、ギャザラー12を介してコイラ装置13へ供給する。ドラフト装置11は、フロントボトムローラ14、ミドルボトムローラ15及びバックボトムローラ16を備えた3線式の構成となっている。フロントボトムローラ14、ミドルボトムローラ15及びバックボトムローラ16と対応する位置に、フロントトップローラ17、ミドルトップローラ18及びバックトップローラ19が配置されている。また、フロントボトムローラ14の前側には、フロントボトムローラ14及びフロントトップローラ17から送り出されるフリースFの進行方向を下方へ変更させる転向ローラ20が配設されている。
【0015】
コイラ装置13は、コイラトランペット21、一対のコイラカレンダーローラ22及びチューブホイール23を備えている。そして、ギャザラー12から下方に向かって進行するとともにコイラカレンダーローラ22で再度圧縮された後のスライバSを、チューブホイール23を用いてケンス24内に収納する。
【0016】
次にドラフト装置11のボトムローラの駆動部の構成を説明する。図4に示すように、フロントボトムローラ14は一対のブラケット30間に回転可能に支持され、一端側にプーリ31が一体回転可能に固定されている。図1及び図4に示すように、プーリ31は、フロントローラ駆動モータ32の出力軸に一体回転可能に固定された駆動プーリ33、プーリ31及びプーリ31の下方に配設されたプーリ34に巻き掛けられたフロントローラ用ベルト35を介してフロントローラ駆動モータ32により駆動される。
【0017】
図4に示すように、ミドルボトムローラ15は、一対のブラケット36間に回転可能に支持され、一端側にプーリ37が一体回転可能に固定されている。一対のブラケット36は、ミドルボトムローラ15の軸方向と直交する方向への固定位置調整可能にボルト38を介して図示しないフレームに取り付けられている。バックボトムローラ16は、一対のブラケット39間に回転可能に支持され、一端側にプーリ40が一体回転可能に固定されている。一対のブラケット39は、バックボトムローラ16の軸方向と直交する方向への固定位置調整可能にボルト41を介して図示しないフレームに取り付けられている。
【0018】
図1及び図4に示すように、バックボトムローラ16は、バックローラ駆動用モータ42の出力軸に一体回転可能に固定された駆動プーリ43と、プーリ40を含めて合計4個のプーリ44,45,46と、1個のテンションプーリ47間に巻き掛けられたバックローラ用ベルト48を介してバックローラ駆動用モータ42により駆動される。
【0019】
ミドルボトムローラ15も、バックボトムローラ16と同様な構成で、ミドルローラ駆動用モータ49によりミドルローラ用ベルト50を介して駆動される。図4に示すように、ミドルローラ駆動用モータ49はバックローラ駆動用モータ42と対称の位置に配置されている。ミドルボトムローラ15は、ミドルローラ駆動用モータ49の出力軸に一体回転可能に固定された駆動プーリ51と、プーリ37を含めて合計4個のプーリ52,53(1個はプーリ52,53で隠れている。)と、1個のテンションプーリ55間に巻き掛けられたミドルローラ用ベルト50を介してミドルローラ駆動用モータ49により駆動される。なお、図1にはミドルボトムローラ15の駆動部の図示は省略している。
【0020】
フロントローラ用ベルト35、バックローラ用ベルト48及びミドルローラ用ベルト50として歯付きベルトが使用されている。また、駆動プーリ33,43,51及び歯付きベルトの歯側に接触する状態で歯付きベルトが巻き掛けられているプーリ(例えば、プーリ40,45,46等)として歯付きプーリが使用されている。
【0021】
次にバックローラ用ベルト48及びミドルローラ用ベルト50のテンション調整機構56,57について説明する。両テンション調整機構56,57は同じ構成のため、バックローラ用ベルト48用のテンション調整機構56について説明する。図1、図3(a)及び図4に示すように、テンション調整機構56は、テンションプーリ47を回転可能に支持する支持部材58がハウジング59に対して上下方向に移動可能に支承されている。支持部材58は図3(a)に示すように、正面逆L字状に形成されるとともに、図1に示すように下部に上下方向に延びる長孔58aを有している。長孔58aは、ハウジング59にボルト60(図3(a)及び図4に図示)で固定された2段の円柱状のガイド部61の小径部61aに係合し、ガイド部61の大径部61bは、支持部材58のテンションプーリ47側の面に当接して支持部材58をガイドする。
【0022】
支持部材58の上面には支持部材58を上方側から押圧する押圧部としてのコイルばね62の下側端部が固定されている。ハウジング59の上部にはコイルばね62と対応する位置にねじ孔63aが形成された支持部63が突設されている。支持部63にはコイルばね62の上側端部と係合してコイルばね62を押圧するキャップ64が、ねじ孔63aに螺合する状態で取り付けられている。キャップ64は、コイルばね62の上側部が収容される凹部64aを有し、キャップ64は、コイルばね62にバックローラ用ベルト48が適正テンションとなる押圧力が加わる状態で螺入が規制されるねじ部64bを有する。この実施形態ではキャップ64のねじ部64bは、キャップ64が支持部63を貫通してキャップ64の頭部が支持部63に当接した状態でその螺入が規制されるようになっている。キャップ64の頭部にはねじ回しの先端が係合する溝部64cが形成されている。キャップ64は、コイルばね62の押圧力を解除する押圧力解除部として機能する。
【0023】
次に前記のように構成された装置の作用を説明する。ドラフト装置11は、紡出条件に対応したドラフト比となるように、フロントボトムローラ14、ミドルボトムローラ15及びバックボトムローラ16が各駆動用モータ32,49,42により駆動される。そして、複数本のスライバSがドラフト装置11で所定の倍率にドラフトされてフリースFとなってフロントローラから送り出された後、ギャザラー12及びコイラトランペット21を通過して1本のスライバSに集束され、コイラ装置13のコイラカレンダーローラ22で再度圧縮された後、チューブホイール23を経てケンス24に収容される。
【0024】
ローラゲージ変更可能なボトムローラであるミドルボトムローラ15及びバックボトムローラ16はそれぞれミドルローラ用ベルト50及びバックローラ用ベルト48により駆動され、両ベルト48,50は上方側から接触するテンションプーリ47,55により適正なテンション状態に保持されて駆動される。両テンションプーリ47,55は、それぞれテンションプーリ47,55の支持部材58を上方側から押圧するコイルばね62の作用により、各ベルト48,50に対して適正なテンションを付与する状態に保持される。
【0025】
ローラゲージの変更時には、作業者は押圧力解除部を操作して、即ちキャップ64を支持部63から取り外してテンションプーリ47,55によるバックローラ用ベルト48及びミドルローラ用ベルト50に対する押圧力を解除する。その状態でバックボトムローラ16及びミドルボトムローラ15の位置がブラケット39,36の固定位置を変更することにより変更されてローラゲージが目的のゲージに調整される。作業者は、キャップ64をその上方からねじ回しの先端を溝部64c係合させて回動させることによりキャップ64を取り外す。即ち、押圧力解除部はコイルばね62の押圧力解除操作をテンションプーリ47,55より上方において行うことが可能なため、作業者は押圧力解除を容易に行うことができる。
【0026】
ローラゲージ調整作業の終了後、作業者はキャップ64をねじ孔63aにその螺入が規制される状態となるまで螺入させる。キャップ64はその螺入が規制される位置まで螺入されると、コイルばね62は支持部材58を介してテンションプーリ47,55をベルトテンションが適正テンションとなる状態に押圧する押圧状態に復帰する。
【0027】
経時変化等によりバックローラ用ベルト48あるいはミドルローラ用ベルト50が伸びて、その伸び量が大きくなるとベルトを新しいベルトと交換するか、テンション調整機構56,57のばね(コイルばね62)が伸びたベルトに対して適正な押圧力を加える状態に支持部材58を介してテンションプーリ47,55を押圧する必要がある。この実施形態の構成では、ベルトを交換せずに、伸びた後のベルトに対して伸びる前の押圧力と同じ押圧力を加えることができるコイルばね62と交換することで対応することができる。また、コイルばね62を交換する代わりに、キャップ64として螺入が規制される位置にキャップ64が螺合された状態において、コイルばね62の長さがベルトが伸びる前の長さと同程度となる凹部64aを有する(凹部64aの深さが異なる)キャップ64と交換することによっても対応することができる。
【0028】
この実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)ドラフト装置11は、ローラゲージ変更可能なミドルボトムローラ15及びバックボトムローラ16がミドルローラ用ベルト50及びバックローラ用ベルト48により駆動される。ドラフト装置11は、各ベルト50,48に対して上方側から接触するテンションプーリ55,47と、各テンションプーリ55,47が各ベルト50,48に対して適正なテンションを付与する状態に各テンションプーリ55,47の支持部材58を上方側から押圧する押圧部(コイルばね62)を備えている。また、押圧部(コイルばね62)の押圧力解除操作をテンションプーリ55,47より上方において可能な押圧力解除部(キャップ64)を備えている。したがって、ローラゲージ調整作業の際に、ミドルボトムローラ15及びバックボトムローラ16の位置調整に支障のない状態にベルトテンションを解除する作業を容易に行うことができ、ローラゲージ調整後にベルトテンションを簡単に適正テンションにすることができる。
【0029】
(2)押圧部は、ばね(コイルばね62)である。押圧部としては、例えば、ばねや油圧ダンパを使用することができるが、ばねを押圧部として使用するため、油圧ダンパを使用する場合に比べて押圧部をコンパクトにすることができる。
【0030】
(3)コイルばね62は、その上側端部と係合してコイルばね62を押圧する状態でバックローラ用ベルト48及びミドルローラ用ベルト50のテンション調整をそれぞれ行うテンション調整機構56,57の一部を構成し、キャップ64により押圧状態に保持される。キャップ64は、ハウジング59に突設された支持部63のねじ孔63aに螺合状態で取り付けられるとともに、コイルばね62に各ベルト48,50が適正テンションとなる押圧力が加わる状態でねじ孔63aへの螺入が規制されるねじ部64bを有する。したがって、ベルトのテンション調整機構56,57のハウジング59に螺合状態で取り付けられているキャップ64を取り外すと、コイルばね62による押圧力が解除される。また、キャップ64をその螺入が規制される位置まで螺入すると、コイルばね62が押圧状態に復帰してベルトテンションは適正テンションに復帰する。その結果、作業者により調整後のテンションがばらつくことを防止することができる。
【0031】
(4)テンション調整機構56,57は、コイルばね62あるいはキャップ64を交換することで、バックローラ用ベルト48あるいはミドルローラ用ベルト50が経時変化によってその伸びが大きくなった場合でも、ベルトを新品に換えることなくベルトの伸びが大きくなる前と同様にテンション調整を行うことができる。したがって、ベルト交換に比べて、交換コストを低くすることができる。
【0032】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○ 図5に示すように、押圧部として油圧ダンパ65を使用してもよい。図5はバックローラ用ベルト48のテンション調整機構56を示している。油圧ダンパ65は、所定圧力の作動油を供給する作動油供給源66に連通する管路67aと、供給された作動油をドレンタンク68に戻す管路67bとに切換え弁69を介して選択的に連通されるように構成されている。この構成では、油圧ダンパ65が管路67aを介して作動油供給源66に連通された状態では、テンションプーリ47を介してバックローラ用ベルト48に対して適正なテンションを付与する状態となる位置まで支持部材58を押圧する。そして、油圧ダンパ65が管路67bを介してドレンタンク68に連通された状態では、作動油による押圧が解除される。したがって、ローラゲージ変更のためにバックボトムローラ16の位置を変更する際に、ベルトのテンションが変更作業に支障を来すことはない。切換え弁69には手動操作弁が使用されており、切換え弁69はその操作レバー69aを作業者がテンションプーリ47より上方において操作可能な位置に配設されている。手動操作弁は図示しないディテント機構を備え、切換え弁69は油圧ダンパ65を作動油供給源66に連通する状態あるいはドレンタンク68に連通する状態にそれぞれ安定して保持されるようになっている。ミドルローラ用ベルト50のテンション調整機構57も同様に構成してもよい。また、この構成では、バックローラ用ベルト48あるいはミドルローラ用ベルト50が経時変化によってその伸びが大きくなった場合でも、油圧ダンパ65が管路67aを介して作動油供給源66に連通された状態では、各ベルト48,50に対して適正なテンションを付与する状態となる位置まで支持部材58を押圧する。
【0033】
○ 切換え弁69は電磁操作弁であてもよい。切換え弁69が電磁操作弁の場合は、電磁操作弁の操作スイッチは、作業者が操作スイッチをテンションプーリ47より上方において操作可能な位置に配設されている。
【0034】
○ 押圧部のばねとしてコイルばね62に代えて板ばねを使用してもよい。板ばねを使用する場合も板ばねの下端側を支持部材58に固定し、キャップ64が板ばねの上端側に係合した状態で、その螺入が規制される位置まで螺入させると、板ばねにベルトが適正テンションとなる押圧力が加わる状態となる。
【0035】
○ 押圧部としてばねを使用する場合、ばねの下端側を支持部材58に固定せずに、ばねの上端をキャップ64に固定してもよい。この場合、キャップ64を取り外すと、ばねはキャップ64と共に取り外される。
【0036】
○ キャップ64のねじ部64bを小径部の先端から基端まで周面全体に形成する代わりに、先端側のねじ部64bをなくすとともに、ねじ部64bのない部分の径をねじ孔63aの内径より小さく形成してもよい。この場合、キャップ64の螺入が規制されるまでキャップ64を回動する操作量が少なくなる。
【0037】
○ キャップ64の溝部64cは、先端がマイナスのねじ回しに対応した形状ではなく先端がプラスあるいは六角形のねじ回しに対応した形状であってもよい。
○ キャップ64を支持部63に取り付ける構成は、ねじ孔63aにキャップ64を螺合する構成に限らない。例えば、キャップ64としてねじ部64b及び溝部64cを省略した形状のものを使用し、支持部63にはねじ孔63aに代えて孔を形成してキャップ64をその孔に挿入する。そして、キャップ64の抜け止めを図るため、キャップ64の頭部を押さえる位置と、頭部と係合しない位置とに移動可能な押さえ片を設ける。この場合、押さえ片をキャップ64の頭部と係合しない位置に移動させた状態ではキャップ64を支持部63の孔から離脱させることができる。また、キャップ64を孔に挿入した状態で押さえ片をキャップ64の頭部と係合する位置に配置すれば、キャップ64はコイルばね62を、各テンションプーリ55,47が各ベルト50,48に対して適正なテンションを付与する状態に支持部材58を押圧する状態に保持する。
【0038】
○ ドラフト装置11は3線式のドラフト装置に限らず、4線式あるいは5線式のドラフト装置であってもよい。また、フロントローラとバックローラの2線式のドラフト装置であってもよい。
【0039】
○ ドラフト装置11の前側に配置される転向ローラ20を省略してもよい。
○ 前紡工程は練条機やコーマに限らず、複数本のスライバをドラフトした後に1本のスライバに束ねる工程を備えた紡機、例えば、スライバラップマシーンやリボンラップマシーンに適用してもよい。
【0040】
○ 前紡工程は、カードのようにドラフト装置でドラフトされた幅広の繊維束(ウェブ)をスライバにする工程を備えた紡機であってもよい。
○ キャップ64を取り外すとコイルばね62による押圧力が解除される構成に代えて、キャップ64の螺合を全て緩める前にコイルばね62が自由長となるか、またはローラゲージ調整作業に支障がない程度の押圧力になるばね長とすることで押圧力が解除される構成としてもよい。この場合は、キャップ64を取り外す必要がないのでキャップ64の紛失が防止され、また、押圧力を復帰させる場合にキャップ64を再装着する手間も省ける。
【0041】
以下の技術的思想(発明)は前記実施形態から把握できる。
(1)請求項4に記載の発明において、前記油圧ダンパは、所定圧力の作動油を供給する作動油供給源に連通する状態と、供給された作動油をドレンタンクに戻す状態とに切換え弁を介して切り換えられる。
【符号の説明】
【0042】
11…ドラフト装置、15…ボトムローラとしてのミドルボトムローラ、16…同じくバックボトムローラ、48…ベルトとしてのバックローラ用ベルト、50…同じくミドルローラ用ベルト、47,55…テンションプーリ、56,57…テンション調整機構、58…支持部材、59…ハウジング、62…押圧部としてのコイルばね、64…押圧力解除部を構成するキャップ、64b…ねじ部、65…油圧ダンパ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローラゲージ変更可能なボトムローラがベルトにより駆動されるドラフト装置を備えた前紡工程のドラフト装置であって、
前記ベルトに対して上方側から接触するテンションプーリと、
前記テンションプーリが前記ベルトに対して適正なテンションを付与する状態に前記テンションプーリの支持部材を上方側から押圧する押圧部と、
前記押圧部の押圧力解除操作を前記テンションプーリより上方において可能な押圧力解除部と
を備えていることを特徴とする前紡工程のドラフト装置。
【請求項2】
前記押圧部は、ばねである請求項1に記載の前紡工程のドラフト装置。
【請求項3】
前記ばねは、前記ばねの上側端部と係合して前記ばねを押圧する状態で前記ベルトのテンション調整を行うテンション調整機構のハウジングに螺合状態で取り付けられるとともに、前記ばねに前記ベルトが適正テンションとなる押圧力が加わる状態で螺入が規制されるねじ部を有するキャップにより押圧状態に保持される請求項2に記載の前紡工程のドラフト装置。
【請求項4】
前記押圧部は油圧ダンパである請求項1に記載の前紡工程のドラフト装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−117181(P2012−117181A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270074(P2010−270074)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】