説明

剥離剤組成物及び剥離シート

【課題】所定の剥離力特性を有し、かつ硬化状態の違いによる剥離力の変動を防止する剥離剤組成物を提供する。
【解決手段】本発明に係る剥離剤組成物は、1分子中の各分子末端及び側鎖にアルケニル基を有し、1分子中のアルケニル基含有量が1.0〜5.0質量%であると共にアリール基含有量が0.5質量%未満であるオルガノポリシロキサンと、1分子中の各分子末端にアルケニル基を有し、1分子中のアリール基含有量が0.5質量%〜12.0質量%であるオルガノポリシロキサンと、1分子中の各分子末端のみにアルケニル基を有し、又はアルケニル基を有さない質量平均分子量50,000〜500,000の直鎖状オルガノポリシロキサンを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
所定の剥離力特性を有し、かつ硬化状態の違いによって剥離力特性が変動しにくい剥離シート及びそれに用いられる剥離剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境対応と生産性向上を目的として、無溶剤型のシリコーン系剥離剤が使用されつつある。このタイプの剥離剤は、有機溶剤が使用されないため、環境への負荷が少なく、また溶剤型のものと比べて高速塗工が可能であるので、生産性の向上も期待できる。
【0003】
無溶剤型剥離剤を用いた剥離シートは、一般用粘着ラベル等の粘着シートを製造する際に使用される。このような粘着シートは、例えば長尺状の剥離シートの上に、所定のサイズにカットされた粘着シート(粘着ラベル)を複数、剥離可能に連設してなる粘着ラベルシートに適用される。この粘着ラベルシートは、例えば長尺状の粘着体の粘着シート基材側の表面から、所定の部分を囲むように、フラットダイやダイカットロールによって、粘着シートが所定のサイズになるように抜き加工が施された後、粘着シートの不要部分(粘着ラベルの周辺部分)を取り除く工程(いわゆるカス上げ工程)を経て作製される。この粘着ラベルシートの粘着ラベルは、ラベリングマシーン等により被着体に貼り付けられる。このような用途では剥離力が低すぎると、カス上げ工程や粘着ラベルを貼付する際に粘着ラベルの浮きや剥がれによるラベル飛びが起こる虞があり、また剥離力が高すぎると、カス上げ工程でのカス切れトラブルや、ラベルを貼付する際にラベルを剥離シートから剥離できないことがあるため、所定の剥離力特性が必要とされる。
【0004】
上記剥離力特性を得るためには、従来、比較的ビニル基含有量が高いオルガノポリシロキサンと、ケイ素原子結合水素原子を有するオルガノポリシロキサンとを主成分にしたシリコーン組成物が一般的に使用される。しかし、ビニル基含有量が高い場合、シリコーン組成物の硬化状態の違いによって、得られる剥離シートの剥離力の変動が大きくなり、例えば、シリコーン組成物の硬化温度が高いときと低いときとの得られる剥離シートの剥離力が大きく異なるという問題がある。そのため、剥離シートの剥離力を安定させるためには、硬化温度の厳密な制御が求められるが、例えば季節要因によって外気の温度が異なる場合、硬化温度を一定に制御することは困難である。
【0005】
また、従来、側鎖にフェニル基を有する直鎖状のオルガノポリシロキサンを含有する剥離剤組成物(例えば、特許文献1〜3)や、低分子量のオルガノポリシロキサンと、高分子量のオルガノポリシロキサンとを含有する剥離剤組成物(例えば、特許文献4)等が知られている。しかし、これら剥離剤組成物は、剥離力の速度依存性を向上させ、或いは塗工性や滑り性を向上させるためのものであって、シリコーン硬化状態の違いによる剥離力変動を抑えることはできない。
【特許文献1】特許第3504692号公報
【特許文献2】特開平2−187466号公報
【特許文献3】特開2003−192897号公報
【特許文献4】特許第3891260号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、一般用粘着ラベルに適した剥離力特性を有し、シリコーン硬化状態の違いによって生じる剥離力変動を抑えることができる剥離シート、及びその剥離シートに使用される剥離剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る剥離剤組成物は、以下の(A)〜(C)成分を含むことを特徴とする。
(A)以下の(a)及び(b)成分を含むオルガノポリシロキサン
(a)1分子中の各分子末端及び側鎖にアルケニル基を有し、1分子中のアルケニル基含有量が1.0〜5.0質量%であると共にアリール基含有量が0.5質量%未満であるオルガノポリシロキサン
(b)1分子中の各分子末端にアルケニル基を有し、1分子中のアリール基含有量が0.5〜12.0質量%であるオルガノポリシロキサン
(B)1分子中の各分子末端のみにアルケニル基を有し、又はアルケニル基を有さない質量平均分子量50,000〜500,000の直鎖状オルガノポリシロキサン
(C)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン
【0008】
(a)成分は、以下の一般式(I)で示されるオルガノポリシロキサンであることが好ましい。
R1R22SiO(R22SiO)m(RR1SiO)nOSiR22R1 ・・・・(I)
一般式(I)において、Rは脂肪族不飽和結合を有しない同一又は異種の一価炭化水素基である。R1は炭素数2〜10のアルケニル基、R2はR又はR1であって、m+nは自然数である。
【0009】
(b)成分は、以下の一般式(II)で示されるオルガノポリシロキサンであることが好ましい。
R1XR(3-X)SiO(R2SiO)a(RR1SiO)b(RR2SiO)cOSiR1yR(3-y) ・・・・(II)
一般式(II)において、Rは脂肪族不飽和結合を有しない同一又は異種の一価炭化水素基、R1はアルケニル基、R2はアリール基である。x、y、a、b、及びcは整数を表し、1≦x≦3、1≦y≦3、a≧1、b≧0、c≧1である。
【0010】
(B)成分は、以下の一般式(III)で示されるオルガノポリシロキサンであることが好ましい。
R1vR(3-v)SiO(R2SiO)dSiR1wR(3-w) ・・・・(III)
式(III)中、Rは脂肪族不飽和結合を有しない同一又は異種の一価炭化水素基、R1はアルケニル基である。また、d、v、及びwは整数を表し、0≦v≦3、0≦w≦3である。
【0011】
25℃における粘度は100〜700mPa・sであり、有機溶剤を含有しない、いわゆる無溶剤型の剥離剤組成物であることが好ましい。
【0012】
本発明に係る剥離シートは、上記剥離剤組成物が硬化被膜されて形成された剥離剤層を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、剥離シートの剥離力特性を所望のものとすることができると共に、硬化状態の違いによる剥離力の変動を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下本発明について、実施形態を用いてさらに詳細に説明する。
本発明に係る剥離シートは、剥離シート基材の一方の面に剥離剤層を備えて構成され、粘着体の部材として使用されるものである。この粘着体は、剥離シートの剥離剤層上に、粘着シート基材の一方の面に粘着剤層を備えた粘着シートが、剥離剤層と粘着剤層とが接するように、積層されたものである。
【0015】
上記粘着体は、例えば長尺状の剥離シートの上に、所定のサイズにカットされた粘着シート(粘着ラベル)を複数、剥離可能に連設してなる粘着ラベルシートに適用される。この粘着ラベルシートは、例えば長尺状の粘着体の粘着シート基材側の表面から、所定の部分を囲むように、フラットダイやダイカットロールによって、粘着シートが所定のサイズになるように抜き加工が施された後、粘着シートの不要部分(粘着ラベルの周辺部分)が取り除かれて作製される。
【0016】
剥離剤層は、剥離シート基材上に、剥離剤組成物が塗工された後、加熱により、或いは加熱と紫外線等の光照射が併用されて、剥離剤組成物が硬化被膜されて形成される。剥離剤層に使用される剥離剤組成物は、以下の(A)〜(D)成分を含有する。
【0017】
(A)成分は、以下の(a)及び(b)成分を含むオルガノポリシロキサンである。
(a)成分としては、1分子中の各分子末端及び側鎖にアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンが使用される。(a)成分における、1分子中のアルケニル基含有量は1.0〜5.0質量%であり、好ましくは2.0〜3.5質量%であると共に、1分子中のアリール基含有量は0.5質量%未満である。具体的には、以下の一般式(I)で示されるオルガノポリシロキサンが好適に用いられる。
R1R22SiO(R22SiO)m(RR1SiO)nOSiR22R1 ・・・・(I)
【0018】
一般式(I)において、Rは脂肪族不飽和結合を有しない同一又は異種の一価炭化水素基である。R1は炭素数2〜10のアルケニル基、R2はR又はR1であって、m+nは自然数である。上記アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、ヘキセニル基等の炭素数2〜10のものが例示されるが、コスト面からビニル基が好ましい。また、Rの一価炭化水素基としては、炭素数1〜12、好ましくは1〜10のものが挙げられ、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基が例示されるが、Rのうちいくつかはトリル基やフェニル基等のアリール基であっても良い。硬化性及び剥離性の観点から、Rのうち80モル%以上がメチル基であることが好ましく、さらに分子中にアリール基を含まなくても良く、例えば式(I)におけるRは、全てアルキル基であっても良い。(a)成分の質量平均分子量は、例えば3,000〜20,000であり、好ましくは4,000〜10,000である。また、(a)成分の25℃における粘度は、50〜600mPa・sであることが好ましく、100〜500mPa・sであることがより好ましい。これにより、剥離剤組成物の剥離シート基材への塗工性をより優れたものとすることができる。
【0019】
(b)成分としては、1分子中の各分子末端にアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンが使用される。(b)成分における、1分子中のアリール基含有量は0.5〜12.0質量%であり、好ましくは3.0〜8.0質量%である。(b)成分としては、具体的には、下記一般式(I)で示されるオルガノポリシロキサンが好適に使用される。
R1XR(3-X)SiO(R2SiO)a(RR1SiO)b(RR2SiO)cOSiR1yR(3-y) ・・・・(II)
【0020】
式(II)中、Rは脂肪族不飽和結合を有しない同一又は異種の一価炭化水素、R1はアルケニル基、R2はアリール基である。x、y、a、b、及びcは整数を表し、1≦x≦3、1≦y≦3である。また、a>b及びa>cであると共に、a≧1、b≧0、c≧1であり、(b)成分は側鎖にアルケニル基を有していなくても良い。
【0021】
一般式(II)において、Rとしては炭素数1〜12、好ましくは1〜10の一価炭化水素基が挙げられ、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基等が挙げられる。また、硬化性及び剥離性の観点から、Rのうち80モル%以上がメチル基であることが好ましい。また、R1のアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、ヘキセニル基等の炭素数2〜10のものが例示されるが、コスト面からビニル基が好ましい。R2のアリール基としては、フェニル基、トリル基などが挙げられるが、コスト面からフェニル基が好ましい。(b)成分の質量平均分子量は、例えば3,000〜20,000であり、好ましくは4,000〜10,000である。また、(b)成分の25℃における粘度は、50〜600mPa・sであることが好ましく、100〜500mPa・sであることがより好ましい。これにより、剥離剤組成物の剥離シート基材への塗工性をより優れたものとすることができる。
【0022】
(A)成分において、(a)成分及び(b)成分の配合比率(質量比)は、(a):(b)=90:10〜10:90であることが好ましく、(a):(b)=90:10〜40:60であることがさらに好ましい。(a)成分の量が少ないと、得られる剥離シートの剥離力を十分に上昇させることができず、また(b)成分の量が少ないと、硬化状態の違いによる得られる剥離シートの剥離力の変動を抑えることができないため、(a)成分と(b)成分との比は上記範囲であることが好ましい。
【0023】
(B)成分としては、各分子末端のみにアルケニル基を有し、又はアルケニル基は有さない質量平均分子量50,000〜500,000の直鎖状オルガノポリシロキサンが使用される。(B)成分は、側鎖にアルケニル基等の脂肪族不飽和結合を有さないことから、後述する架橋剤によって、分子末端のみが付加反応し、或いは分子末端及び側鎖のいずれもが付加反応しない。(B)成分は、具体的には、下記一般式(III)で示されるオルガノポリシロキサンであることが好ましい。
R1vR(3-v)SiO(R2SiO)dSiR1wR(3-w) ・・・・(III)
【0024】
式(III)中、Rは脂肪族不飽和結合を有しない同一又は異種の一価炭化水素基、R1はアルケニル基である。d、v、及びwは整数を表し、0≦v≦3、0≦w≦3である。好ましくは1≦v≦3、1≦w≦3であって、分子末端にはアルケニル基を有していたほうが良い。(B)成分の質量平均分子量は、100,000〜500,000であることが好ましく、より好ましくは200,000〜500,000である。そして、(B)成分の質量平均分子量は、(a)成分及び(b)成分それぞれの質量平均分子量よりも大きくしたほうが良い。剥離剤組成物において(B)成分は、(A)成分100質量部に対して、1〜10質量部含まれることが好ましい。(B)成分を1質量部未満とすると、硬化状態の違いによる剥離力の変動を十分に抑えることができず、また10質量部より多く配合すると剥離剤組成物の粘度が上昇し、塗工性が低下する。
【0025】
一般式(III)において、Rとしては炭素数1〜12、好ましくは1〜10であり、例えばメチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基等が挙げられ、Rのうち80モル%以上がメチル基であることが好ましい。また、R1のアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、ヘキセニル基等の炭素数2〜10のものが例示されるが、コスト面からビニル基が好ましい。
【0026】
(C)成分としては、1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子(SiH)を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンの架橋剤が使用される。具体的には、ジメチルハイドロジェンシロキシ基末端封鎖ジメチルシロキサン−メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、トリメチルシロキシ基末端封鎖ジメチルシロキサン−メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、トリメチルシロキシ基末端封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、ポリ(ハイドロジェンシルセスキオキサン)等が挙げられ、これらが単独で使用されても良いし、混合して使用されても良い。本実施形態では、これら架橋剤のSiHと、剥離剤組成物中のアルケニル基との付加反応により硬化被膜が形成される。
【0027】
剥離剤組成物において(C)成分は、ケイ素原子結合水素原子の数が、アルケニル基の
数に対して、1.0〜5.0(モル比)になるように添加されることが好ましく、1.2〜3.0(モル比)になるように添加されることがより好ましい。このモル比は、剥離剤組成物をH−NMRで分析して得られるスペクトルのピーク面積から求められる。モル比が1.0より小さいと当該組成物の硬化性が低下し、5.0より大きいと剥離シートの剥離力が重くなり、剥離性能が悪化する虞がある。
【0028】
(D)成分は、白金族金属系触媒であって、剥離剤組成物に触媒量添加されている。白金族金属系触媒に用いられる白金系化合物の例としては、微粒子状白金、炭素粉末担体上に吸着された微粒子状白金、塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸、塩化白金酸のオレフィン錯体、パラジウム、ロジウム触媒等が挙げられる。白金族金属系触媒は、付加反応型のオルガノポリシロキサン及び架橋剤の合計量に対し、白金系金属として1〜1000質量ppm程度添加される。
【0029】
剥離剤組成物には、上記(A)〜(D)成分の他、所望により、反応抑制剤、密着向上剤、液状α−オレフィン成分等の粘度調整剤等の添加剤が加えられていても良い。反応抑制剤は、触媒の活性を抑制し、室温における保存安定性を付与する目的で添加され、アセチレン系化合物、オキシム化合物、有機窒素化合物、有機燐化合物、有機塩素化合物等が使用される。また、剥離剤塗工後の硬化工程で加熱のほかに紫外線照射等の光照射が行われる場合、剥離剤組成物には光開始剤が添加されていても良い。
【0030】
本実施形態に係る剥離剤組成物は、無溶剤型剥離剤組成物であって、溶剤を含有しておらず、また25℃における粘度は100〜700mPa・sであることが好ましい。溶剤を含有していないことにより、環境に優しい剥離剤組成物を提供することができる。また、粘度を上記範囲に調整することによって、剥離剤組成物の塗工性を良好なものとすることができる。
【0031】
剥離シート基材及び粘着シート基材としては、剥離シート若しくは粘着シートの基材として知られている公知の基材から適宜選択して使用することができ、例えば、上質紙、グラシン紙、コート紙、キャストコート紙、無塵紙などの紙、これらの紙基材にポリエチレンなどの熱可塑性樹脂をラミネートしたラミネート紙、熱可塑性樹脂等によって形成された樹脂フィルム、紙、金属箔およびこれらの複合体などを用いることができる。剥離シート基材及び粘着シート基材の坪量(単位面積当りの質量)は、使用目的に応じて適宜選定されるが、通常は20〜500g/mであり、好ましくは50〜300g/mの範囲である。
【0032】
粘着剤層を形成する粘着剤としては、公知の粘着剤を特に制限無く用いることができ、例えばアクリル系粘着剤等が使用される。粘着体は、例えば、剥離剤層の上に粘着剤が塗布されて粘着剤層が形成された後、粘着剤層の上にさらに粘着シート基材が貼付されて形成される。また、粘着体は、粘着シート基材の上に粘着剤層が形成された後、粘着シートと剥離シートとが貼り合わされて形成されても良い。剥離剤組成物及び粘着剤は、例えば、グラビアコート法、バーコート法、スプレーコート法、スピンコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ダイコート法等の既存の方法によって塗工される。粘着剤層の坪量は、特に限定されないが、5〜100g/mであることが好ましく、10〜60g/mであることがより好ましい。また、剥離剤層の坪量は、特に限定されないが、0.05〜5g/mであることが好ましく、0.1〜3.0g/mであることがより好ましい。
【0033】
上記剥離剤組成物の構成により、本実施形態では、剥離シートの粘着シートに対する剥離力を、一般用粘着ラベルに好適な値とすることができ、好ましく200〜1000mN/50mmとすることができる。剥離シートは、剥離力が200mN/50mm未満となると、粘着シートが剥離シートから浮き、或いは不意に剥がれることがある。また、剥離力が1000mN/50mmを超えると、粘着シートが剥離シートから剥がれにくくなる。上記剥離力は、ラベルの剥離性能をより向上させるためには、400〜600mN/50mmとすることがさらに好ましい。
【0034】
本実施形態では、上記剥離剤組成物の構成により、剥離剤層の硬化状態の違いによって、剥離シートの剥離力が変化することが防止される。そのメカニズムは以下のように推察される。本実施形態では、オルガノポリシロキサン成分として、分子量が比較的小さい(A)成分と、分子量が比較的大きい(B)成分とが用いられている。分子量が小さい(A)成分は、速く硬化され剥離シート基材近傍に硬化被膜を生成しやすい傾向にあり、これにより、(B)成分は、剥離剤層の表層付近、すなわち粘着剤層との界面付近に相対的に多く偏析することとなる。特に、本実施形態では、(A)成分にはアリール基含有率が高い(b)成分が含まれることにより、(A)成分と(B)成分の分子構造や極性の違いにより、これらは相溶しにくく、(B)成分は表層により偏析しやすくなると推察される。剥離剤層の表層に偏析された(B)成分は、アルケニル基の含有量が少なく、硬化成膜時ほとんど付加反応しないので、硬化温度等の硬化条件の違いによって成膜状態はほとんど変わらず、したがって剥離力の変動が抑えられると推察される。また、アルケニル基含有率の高い(a)成分は、剥離剤層の剥離力を十分に上昇させ、剥離シートの剥離力特性を好適な値にする作用を有する。
【0035】
なお、本明細書において、質量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、各オルガノポリシロキサンを測定し、ポリスチレン換算値として求めたものをいう。測定条件は以下の通りである。
測定装置:Shodex GPC SYSTEM-21H(商品名、昭和電工社製)
カラム:Waters, styragel(R) HR5E を2本使用
測定溶媒:クロロホルム 測定温度:40℃
流量:1.0ml/分 試料濃度:1.0%
【0036】
また、本明細書において粘度とは、JIS K7117−1の4.1(ブルックフィールド形回転粘度計)に準拠し、25℃において測定されたものである。
【0037】
また、H−NMRは以下の条件で分析するものである。
測定機器:AVENCE500(商品名、BRUKER BIOSPIN社製)、500MHz
測定溶媒:重クロロホルム 測定温度:23℃
【実施例】
【0038】
本発明について、以下実施例を用いて説明するが、本発明は以下の実施例の構成に限定されるわけではない。
【0039】
[実施例1]
(a)成分である質量平均分子量7,000の両末端ジメチルビニルシリル基封鎖ジメチルシロキサン−メチルビニルシロキサン共重合体(以下、ポリシロキサンa1という)75.1質量部と、(b)成分である質量平均分子量5,000の両末端ジメチルビニルシリル基封鎖ジメチルシロキサン−メチルフェニルシロキサン共重合体(以下、ポリシロキサンb1という)12.3質量部と、質量平均分子量400,000の両末端ジメチルビニルシリル基封鎖ジメチルポリシロキサン((B)成分)3.0質量部と、架橋剤である両末端トリメチルシリル基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン((C)成分)9.2質量部と、反応抑制剤である1−エチニル−シクロヘキサノール(沸点180℃)0.4質量部と、白金族金属系触媒(Pt錯体)((D)成分)2.0質量部とを添加混合して剥離剤組成物を得た。なお、ポリシロキサンa1、b1及び(B)成分のビニル基含有量、フェニル基含有量、25℃における粘度は表1に示す通りであった。得られた剥離剤組成物において、25℃における粘度は350mPa・sであった。また、剥離剤組成物におけるビニル基に対するケイ素原子結合水素原子のモル比(H/Viモル比)は1.6であった。
【0040】
次に、剥離シート基材である坪量80g/mのグラシン紙に、剥離剤組成物を乾燥後の塗工量(坪量)が1.0g/mになるように均一に塗工して、3条件(A:150℃30秒、B:160℃30秒、C:140℃30秒)で加熱処理して剥離剤組成物を硬化させ、剥離シート基材の一方の面に剥離剤層が形成された3種類の剥離シートを得た。それら3種類の剥離シートそれぞれの剥離剤層の上に、アクリル酸エステル系共重合体(モノマー組成:アクリル酸−2−エチルヘキシル49質量%、アクリル酸ブチル50質量%、アクリル酸1質量%)を含むアクリル系エマルション型粘着剤(固形分60質量%)を乾燥後の塗工量が30g/mになるように塗工した後、100℃で2分間加熱処理して粘着剤層を形成した。粘着剤層の上に、粘着シート基材である坪量64g/mの上質紙(日本製紙社製、商品名「NPIフォーム」)を貼り合わせ3種類の粘着体を得た。
【0041】
[実施例2]
剥離剤組成物の配合比率を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様に実施した。得られた剥離剤組成物において、25℃における粘度は340mPa・sであった。
【0042】
[実施例3]
剥離剤組成物の配合比率を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様に実施した。得られた剥離剤組成物において、25℃における粘度は420mPa・sであった。
【0043】
[比較例1]
ポリシロキサンa1の代わりに、質量平均分子量12,000の両末端ジメチルビニルシリル基封鎖ジメチルシロキサン−メチルフェニルシロキサン共重合体(以下、ポリシロキサンb2という)を剥離剤組成物に配合すると共に、配合比率を表2に示すようにした以外は、実施例1と同様に実施した。なお、ポリシロキサンb2のビニル基含有量、フェニル基含有量、25℃における粘度は表1に示す通りであった。得られた剥離剤組成物において、25℃における粘度は640mPa・sであった。
【0044】
[比較例2]
ポリシロキサンb1の代わりに、質量平均分子量7,800の両末端ジメチルビニルシリル基封鎖ジメチルシロキサン−メチルビニルシロキサン共重合体(以下、ポリシロキサンa2という)を剥離剤組成物に配合すると共に、配合比率を表2に示すようにした以外は、実施例1と同様に実施した。なお、ポリシロキサンa2のビニル基含有量、フェニル基含有量、25℃における粘度は表1に示す通りであった。得られた剥離剤組成物において、25℃における粘度は270mPa・sであった。
【0045】
[比較例3]
(B)成分を剥離剤組成物に配合せずに、配合比率を表2に示すようにした以外は、実施例1と同様に実施した。得られた剥離剤組成物において、25℃における粘度は370mPa・sであった。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
各実施例及び比較例の剥離シートを以下の方法により評価した。
(1)塗工性評価
各実施例、比較例において、剥離シート基材に剥離剤組成物を塗工したときの塗工性について評価した。塗工性が良好であったものを「○」、塗工性が悪かったものを「×」として評価した。
【0049】
(2)剥離力
各実施例、比較例で得られた粘着体を、温度25℃湿度50%の条件下で1日放置後、幅50mm、長さ150mmに裁断して剥離力の測定を行った。剥離力の測定は万能引っ張り試験機(オリエンテック社製、商品名「TENSILON UTM−4−100」)を用いて行い、剥離シートを固定し、温度23℃湿度50%の環境下で、粘着シートを剥離速度0.3m/分で180°方向に引っ張ることにより、粘着シートに対する剥離シートの剥離力を測定した。
【0050】
剥離剤組成物の硬化条件が150℃30秒であるとき(A条件)の剥離力が、200〜1000mN/50mmであれば、剥離シートの剥離力特性が良好であるとして「○」とした。一方、上記範囲以外の剥離力であれば、剥離力特性が一般粘着ラベル用途に適していないとして「×」とした。
【0051】
(3)剥離安定性試験
剥離剤組成物の硬化条件が160℃30秒であるとき(B条件)の剥離力をB、硬化条件が140℃30秒であるとき(C条件)の剥離力をCとして、剥離力安定率(C/B)を算出した。剥離力安定率が1.0〜1.3であれば剥離安定性が良好であるとして「○」とした。剥離力安定率が1.0未満、或いは1.3より大きければ剥離力が不安定で、使用不可であるとして「×」とした。
【0052】
【表3】

【0053】
以上評価結果から明らかなように、1分子中のアルケニル基含有量が高いポリシロキサン((a)成分)と、1分子中のフェニル基含有量が高いポリシロキサン((b)成分)とを含むと共に、直鎖状オルガノポリシロキサン((B)成分)を含む剥離剤組成物である実施例1〜3では、硬化状態の違いによる剥離力の変動を抑えることができると共に、所望の剥離力特性を得ることができた。それに対して、(b)成分を含まない比較例2や、(B)成分を含まない比較例3では、硬化状態の違いによって剥離力の変動が大きくなり、剥離安定性を高めることができなかった。一方、(a)成分を含有しない比較例1では、剥離力が低くなりすぎ、所望の剥離力特性を得ることができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(A)〜(C)成分を含むことを特徴とする剥離剤組成物。
(A)以下の(a)及び(b)成分を含むオルガノポリシロキサン
(a)1分子中の各分子末端及び側鎖にアルケニル基を有し、1分子中のアルケニル基含有量が1.0〜5.0質量%であると共にアリール基含有量が0.5質量%未満であるオルガノポリシロキサン
(b)1分子中の各分子末端にアルケニル基を有し、1分子中のアリール基含有量が0.5〜12.0質量%であるオルガノポリシロキサン
(B)1分子中の各分子末端のみにアルケニル基を有し、又はアルケニル基を有さない質量平均分子量50,000〜500,000の直鎖状オルガノポリシロキサン
(C)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン
【請求項2】
前記(a)成分は、以下の一般式(I)で示されるオルガノポリシロキサンであることを特徴とする請求項1に記載の剥離剤組成物。
R1R22SiO(R22SiO)m(RR1SiO)nOSiR22R1 ・・・・(I)
一般式(I)において、Rは脂肪族不飽和結合を有しない同一又は異種の一価炭化水素基である。R1は炭素数2〜10のアルケニル基、R2はR又はR1であって、m+nは自然数である。
【請求項3】
前記(b)成分は、以下の一般式(II)で示されるオルガノポリシロキサンであることを特徴とする請求項1に記載の剥離剤組成物。
R1XR(3-X)SiO(R2SiO)a(RR1SiO)b(RR2SiO)cOSiR1yR(3-y) ・・・・(II)
一般式(II)において、Rは脂肪族不飽和結合を有しない同一又は異種の一価炭化水素基、R1はアルケニル基、R2はアリール基である。x、y、a、b、及びcは整数を表し、1≦x≦3、1≦y≦3、a≧1、b≧0、c≧1である。
【請求項4】
前記(B)成分は、以下の一般式(III)で示されるオルガノポリシロキサンであることを特徴とする請求項1に記載の剥離剤組成物。
R1vR(3-v)SiO(R2SiO)dSiR1wR(3-w) ・・・・(III)
式(III)中、Rは脂肪族不飽和結合を有しない同一又は異種の一価炭化水素基、R1はアルケニル基である。また、d、v、及びwは整数を表し、0≦v≦3、0≦w≦3である。
【請求項5】
25℃における粘度が100〜700mPa・sであり、有機溶剤を含有しないことを特徴とする請求項1に記載の剥離剤組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の剥離剤組成物が硬化被膜されて形成された剥離剤層を有することを特徴とする剥離シート。