説明

剥離試験装置

【課題】簡便且つ高精度に剥離試験を行うことが可能な剥離試験装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る剥離試験装置1は、試験体100から剥離させる試験膜110の一端を把持する把持部材80と、把持部材80に対して近接離隔する方向に直線移動自在に配置される移動部材30と、試験体100を保持した状態で試験体100の剥離面102に沿う方向に直線移動自在となるように移動部材30に配置される保持部材50と、移動部材30を直線移動させる移動機構20と、把持部材80に加わる荷重を測定する荷重測定器70と、移動部材30の直線運動を回転動力に変換して出力する第1変換機構62と、第1変換機構62から出力された回転動力を保持部材50の移動部材30に対する直線運動に変換する第2変換機構64と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば粘着テープ・粘着シートの粘着力、二つの部材を接着した場合の剥離接着強さ、またはめっき等による表面被膜の密着力等の試験に用いられる剥離試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、粘着テープ・粘着シートの粘着力(貼着力)や、接着剤等の剥離接着強さを測定する試験方法として、剥離試験が行われている。この剥離試験を行う方法として、例えば90度剥離試験、180度剥離試験、T形剥離試験、浮動ローラ法等がある。このうち、粘着テープ・粘着シートの試験方法については、例えばJIS Z 0237に90度剥離試験および180度剥離試験が規定されており、接着剤の試験方法については、例えばJIS K 6854−1〜4に90度剥離試験、180度剥離試験、T形剥離試験、浮動ローラ法がそれぞれ規定されている。
【0003】
粘着テープ等の粘着力を測定する場合、180度剥離試験では基材の強度や弾性率の影響を大きく受けるため、90度剥離試験によって測定することが望ましいと考えられている。但し、90度剥離試験においては、90度の剥離角度(粘着テープが貼着された試験板と引張られる粘着テープとがなす角度)を試験中一定に保つことが難しいという問題があった。すなわち、90度剥離試験では、試験板に貼着した粘着テープ等の一端を試験板と90度をなす方向に引張り、試験板から引きはがす(剥離する)際の荷重を測定するが、粘着テープを引きはがすにつれて剥離位置が試験板上を横方向に移動するため、剥離角度が変化してしまうという問題があった。
【0004】
このため、JIS Z 0237では、専用のジグを用いることにより、試験板を粘着テープ等の剥離長さだけ横方向にスライドさせる手法が紹介されている(非特許文献1参照)。このジグは、具体的には、粘着テープ等の一端を把持する上部つかみとスライド可能な試験板を備えるジグを把持する下部つかみとの間の距離が拡大するのに伴い、試験板が紐で引張られてスライドするように構成されている。
【0005】
また、粘着テープの剥離と試験板のスライドを機械的に連動させるのではなく、粘着テープ等を貼着した試験板をステッピングモータとボールねじによってスライドさせる手法等も提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−113438号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日本工業規格 JIS Z 0237
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記非特許文献1に記載の紐により試験板をスライドさせる手法では、紐の撓みや伸びによって剥離長さと試験板のスライド距離にズレが生じ、試験中に剥離角度が変動する場合があるという問題があった。特に、高速で剥離試験を行う場合には、慣性力によって試験板が剥離長さ以上にスライドしたり、激しい振動が生じたりしてしまうため、測定精度が著しく悪化するという問題があった。
【0009】
また、上記特許文献1に記載の手法では、粘着テープ等の一端を固定(把持)する固定部と試験板の両方について駆動装置を備えると共に、それぞれの移動速度を個別に制御する必要があり、測定装置が複雑且つ高コストになるという問題があった。
【0010】
本発明は、斯かる実情に鑑み、簡便且つ高精度に剥離試験を行うことが可能な剥離試験装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明は、試験体から剥離させる試験膜の一端を把持する把持部材と、前記把持部材に対して近接離隔する方向に直線移動自在に配置される移動部材と、前記試験体を保持した状態で前記試験体の剥離面に沿う方向に直線移動自在となるように前記移動部材に配置される保持部材と、前記移動部材を直線移動させる移動機構と、前記把持部材に加わる荷重を測定する荷重測定器と、前記移動部材の直線運動を回転動力に変換して出力する第1変換機構と、前記第1変換機構から出力された回転動力を前記保持部材の前記移動部材に対する直線運動に変換する第2変換機構と、を備えることを特徴とする、剥離試験装置である。
【0012】
(2)本発明はまた、前記第1変換機構は、前記移動部材の移動方向に沿って配置される第1ラックと、前記移動部材に回転自在に配置されて前記第1ラックと噛み合う第1ピニオンと、を備えていることを特徴とする、上記(1)に記載の剥離試験装置である。
【0013】
(3)本発明はまた、前記第2変換機構は、前記保持部材の前記移動部材に対する移動方向に沿って前記保持部材に配置される第2ラックと、前記移動部材に回転自在に配置されて前記第2ラックと噛み合う第2ピニオンと、を備えていることを特徴とする、上記(1)または(2)に記載の剥離試験装置である。
【0014】
(4)本発明はまた、前記試験膜の前記試験体からの剥離角度を変化させるように前記保持部材を前記移動部材に対して回動させる回動部材をさらに備えることを特徴とする、上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の剥離試験装置である。
【0015】
(5)本発明はまた、前記回動部材は、回転中心軸が前記試験膜の前記試験体からの剥離ポイントと略一致するように構成されることを特徴とする、上記(4)に記載の剥離試験装置である。
【0016】
(6)本発明はまた、前記第1変換機構から出力された回転動力を歯付ベルトまたはチェーンによって前記第2変換機構に伝達する伝動機構をさらに備えることを特徴とする、上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の剥離試験装置である。
【0017】
(7)本発明はまた、前記第1変換機構から出力された回転動力を歯付ベルトまたはチェーンによって前記第2変換機構に伝達する伝動機構をさらに備え、前記伝動機構は、前記第1変換機構から出力された回転動力を前記回動部材の回転中心軸と同軸的に配置された中間プーリまたは中間スプロケットを介して前記第2変換機構に伝達するように構成されることを特徴とする、上記(4)または(5)に記載の剥離試験装置である。
【0018】
(8)本発明はまた、前記第1変換機構から出力された回転動力を回転伝動軸によって前記第2変換機構に伝達する伝動機構をさらに備えることを特徴とする、上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の剥離試験装置である。
【0019】
(9)本発明はまた、前記第1変換機構から出力された回転動力を回転伝動軸によって前記第2変換機構に伝達する伝動機構をさらに備え、前記回転伝動軸は、前記回動部材の回転中心軸と同軸的に配置されることを特徴とする、上記(4)または(5)に記載の剥離試験装置である。
【0020】
(10)本発明はまた、前記回動部材の回転運動を前記保持部材の前記移動部材に対する直線運動に変換することによって前記回動部材を回動させた場合の前記保持部材の位置ずれを補正する補正機構をさらに備えることを特徴とする、上記(4)、(5)、(7)または(9)に記載の剥離試験装置である。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る剥離試験装置によれば、簡便且つ高精度に剥離試験を行うことが可能という優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】(a)および(b)本発明の実施の形態に係る剥離試験装置の概略図である。
【図2】(a)および(b)移動部材の周辺を拡大して示した概略平面図である。
【図3】(a)および(b)剥離試験装置による剥離試験の様子を示した概略平面図である。
【図4】(a)および(b)その他の形態の剥離試験装置の一例を示した概略図である。
【図5】(a)および(b)その他の形態の剥離試験装置のもう1つの例を示した概略図である。
【図6】図5(a)および(b)に示した剥離試験装置に補正機構を設けた例を示した概略図である。
【図7】(a)補正用第2回転軸の構造を示した概略図である。(b)図7(a)のD−D線断面図である。(c)回動部材を回動させた場合の補正機構の作動を示した概略平面図である。
【図8】図5(a)および(b)に示した剥離試験装置において移動部材を略鉛直方向に移動させるように構成した例を示した概略正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して説明する。なお、図面においては、歯車やラック等の歯を省略して記載している。
【0024】
まず、本発明の実施の形態に係る剥離試験装置1の構成について説明する。図1(a)および(b)は、本実施形態に係る剥離試験装置1の概略図である。なお、同図(a)は剥離試験装置1の平面図であり、同図(b)は剥離試験装置1の正面図である。本実施形態の剥離試験装置1は、平板状の試験体100の表面から、例えば粘着テープやめっき皮膜等の試験膜110を剥離する際に要する力を測定するものである。
【0025】
同図(a)および(b)に示されるように、剥離試験装置1は、基台10と、基台10の上部に配置された移動機構20と、移動機構20によって直線移動する移動部材30と、移動部材30上において回動する回動部材40と、回動部材40上において試験体100を保持した状態で直線移動する保持部材50と、移動部材30の直線運動を保持部材50の直線運動に変換する変換機構60と、を備えている。また、剥離装置1は、保持部材50に対向するように基台10上に配置された荷重測定器70と、荷重測定器70に接続されて試験体100から剥離する試験膜110の一端を把持する把持部材80と、剥離装置1全体を制御する制御装置90と、を備えている。
【0026】
基台10は、移動機構20、移動部材30および荷重測定器70等を支持すると共に、制御装置90を内部に収容する部材である。なお、基台10の形状は特に限定されるものではなく、各部材を適宜に配置して支持できるものであればよい。また、必要に応じて、基台10の上部の構成を覆うカバーを設けるようにしてもよい。
【0027】
移動機構20は、移動部材30を把持部材80に対して近接離隔する方向(本実施形態では、略水平方向)に直線往復移動させるものである。移動機構20は、図示は省略するが、移動部材30の移動をガイドするリニアガイド、およびステッピングモータにより駆動されるボールねじ伝導機構等を備えている。移動機構20は、制御装置90に制御されて移動部材30を任意の速度で移動させると共に、任意の位置で停止させることが可能に構成されている。なお、例えばリニアモータ等、その他の既知の手法によって移動機構20を構成するようにしてもよい。
【0028】
移動部材30は、回動部材40を回動自在に支持すると共に、移動機構20に駆動されて把持部材80に対して近接離隔する方向に直線往復移動する部材である。移動部材30上にはまた、後述する変換機構60の一部が配置されている。
【0029】
回動部材40は、保持部材50を直線移動自在に支持する部材であり、回動軸42を介して移動部材30上に回動自在に配置されている。より詳細には、回動部材40は、移動部材30の移動方向に対して略直交する方向(本実施形態では、略鉛直方向)を回転中心軸Cとして配置されており、±90°の範囲(詳細は後述する)で回動可能に構成されている。また、回動部材40は、止めねじ等の既知の手法により、任意の角度に回転させた状態で固定することが可能に構成されている。本実施形態では、回動部材40を回動させることにより、試験体100に対する試験膜110の剥離角度θを0°<θ≦180°の範囲内における任意の角度に設定可能としている。
【0030】
保持部材50は、クランプやねじ等の既知の手法によって試験体100を保持する部材であり、回動部材40に対して直線移動自在に配置されている。より詳細には、保持部材50は、試験体100から試験膜110が剥離される剥離面102が把持部材80に対向した状態で試験体100を保持するように構成されている。また、回動部材40上には、回動部材40の中心軸Cと直交する方向(本実施形態では、略水平方向)にガイドレール52が配置されており、保持部材50は、このガイドレール52上をスライド移動するスライダ54上に配置されている。従って、保持部材50は、試験体100を保持した状態でガイドレール52に沿って直線往復移動可能に構成されている。
【0031】
本実施形態では、保持部材50を回動部材40および移動部材30に対して直線移動させることによって剥離角度θが試験中一定に保たれるようにしている。従って、保持部材50は、剥離面102の横方向がガイドレール52に沿う状態(ガイドレール52と平行な状態)で試験体100を保持するように構成されている。さらに、本実施形態では、剥離角度θを任意の角度に設定可能とするために、剥離面102の縦方向が回動部材40の回転中心軸Cに沿う状態(回転軸Cと平行な状態)で試験体100を保持するように保持部材50を構成している。なお、回動部材40上にスライダ54を配置すると共に、保持部材50にガイドレール52を固定するようにしてもよい。
【0032】
変換機構60は、移動部材30の直線運動を保持部材50の直線運動に変換して保持部材50を移動させるものである。変換機構60は、移動部材30の直線運動を回転動力に変換して出力する第1変換機構62と、第1変換機構62から出力された回転動力を保持部材50の回動部材40および移動部材30に対する直線運動に変換する第2変換機構64と、第1変換機構62から出力された回転動力を第2変換機構に伝達する伝動機構66と、を備えている。
【0033】
第1変換機構62は、移動部材30の移動方向に沿って基台10上に配置された直線歯車である第1ラック62aと、移動部材30上において第1回転軸62bを介して回転自在に配置され、第1ラック62aと噛み合う歯車である第1ピニオン62cと、から構成されている。すなわち、第1変換機構62は、移動部材30と共に第1ピニオン62cを第1ラック62aに沿って移動させて回転させることにより、回転動力を出力するように構成されている。
【0034】
第2変換機構64は、保持部材50の回動部材40に対する移動方向に沿って保持部材50に配置された直線歯車である第2ラック64aと、回動部材40上において第2回転軸64bを介して回転自在に配置され、第2ラック64aと噛み合う歯車である第2ピニオン64cと、から構成されている。すなわち、第2変換機構64は、第1変換機構62から伝動機構66を介して伝達された回転動力によって第2ピニオン64cを回転させて第2ラック64aを直線移動させることにより、保持部材50を回動部材40および移動部材30に対して直線移動させるように構成されている。
【0035】
伝動機構66は、ベルト伝動機構から構成されており、第1ピニオン62cと共に第1回転軸62bに接続された第1プーリ66aと、第2ピニオン64cと共に第2回転軸に接続された第2プーリ66bと、この第1プーリ66aおよび第2プーリ66bに巻回される歯付ベルト(タイミングベルト)66cと、から構成されている。すなわち、伝動機構66は、第1回転軸62bから出力された回転動力をベルト駆動によって第2回転軸64bに伝達するように構成されている。
【0036】
伝動機構66はまた、歯付ベルト66cの張力調整機構として、移動部材30上に直線移動自在に配置されたテンションプーリ66dを備えている。このテンションプーリ66dは、ガイドレール66eおよびスライダ66fを介して配置されており、移動部材30上における第1回転軸62bおよび第2回転軸64bに対する位置を変更可能に構成されている。
【0037】
本実施形態では、このテンションプーリ66dの位置を変更することにより、歯付ベルト66cの張力を調整するようにしている。詳細は後述するが、本実施形態では、剥離角度θを変更するために回動部材40を回動させた場合に、第1回転軸62bおよび第2回転軸64bの軸間距離が大きく変化することとなる。このため、テンションプーリ66dは、比較的広い範囲を移動可能に構成されている。
【0038】
なお、伝動機構66は、チェーンおよびスプロケットを使用したチェーン伝動機構から構成されるものであってもよい。また、テンションプーリ66dを複数設けるようにしてもよい。
【0039】
荷重測定器70は、試験膜110を試験体100から剥離するのに要する荷重(引張り力)を測定するものである。本実施形態では、荷重測定器70をロードセルから構成している。荷重測定器70は、保持部材50に保持された試験体100の位置に合わせて、基台10上に設けられた架台12上に配置されている。また、荷重測定器40は制御装置90と電気的に接続されており、出力は制御装置90に送信される。なお、荷重測定器70における力の検出方式は特に限定されるものではなく、ひずみゲージ式、圧電式、容量式、電磁式または音叉式等のいずれであってもよい。
【0040】
把持部材80は、試験膜110の開放された一端、すなわち試験体100に付着していない端部を把持するものである。把持部材80は、ロッド82を介して荷重測定器70の着力点72に接続されている。なお、本実施形態では、2つの部材の間に試験膜110の端部を挟持するように把持部材80を構成しているが、把持部材80の構造はこれに限定されるものではなく、例えば、試験膜110の端部に設けた穴に係止する構造や、ねじによって試験膜110を固定する構造等、その他の構造であってもよい。
【0041】
制御装置90は、移動機構20の動作を制御すると共に、荷重測定器70からの出力を荷重の値に変換して出力または記憶するものである。制御装置90は、CPU、ならびにROM、RAMおよびハードディスク等の記憶手段を備えて構成されている。また、図示は省略するが、制御装置90には、剥離試験装置1を操作するための操作パネルや試験結果等の各種情報を出力するための表示パネル等が設けられている。
【0042】
なお、制御装置90を剥離試験装置1とは別体的に構成してもよく、一般的なPCを制御装置として使用してもよい。また、制御装置90を移動機構20の制御のみに使用し、荷重測定器70からの試験結果の出力は外部のPC等の処理装置に出力するようにしてもよい。
【0043】
図2(a)および(b)は、移動部材30の周辺を拡大して示した概略平面図である。移動部材30を移動させると、第1ラック62aに対する第1ピニオン62cの位置が変化することにより第1ピニオン62cが回転し、この回転動力が第1プーリ66aおよび歯付ベルト66cを介して第2プーリ66bに伝達され、第2ピニオン64cが回転する。そして、第2ピニオン64cの回転に伴って第2ラック64aが保持部材50と共にガイドレール52に沿って移動することにより、試験体100が剥離面102に沿って移動する。
【0044】
本実施形態の変換機構60では、第1ピニオン62cおよび第2ピニオン64cの歯数およびピッチを同一にすると共に、第1プーリ66aおよび第2プーリ66bの歯数を同一にしている。従って、本実施形態では、移動部材30の移動量、すなわち試験膜110の剥離長さと略同じ距離だけ保持部材50および試験体100が剥離面102に沿って移動するようになっている。これにより、試験体100から試験膜110が剥離するポイントである剥離ポイントPを、試験中常に把持部材80による引張り方向に沿った位置に置くことができる。すなわち、試験中常に剥離角度θを一定にすることが可能となっている。
【0045】
なお、例えば第1ピニオン62cおよび第2ピニオン64c、または第1プーリ66aおよび第2プーリ66bの歯数を異ならせることにより、試験膜110の伸びを考慮した減速比を変換機構60において設定するようにしてもよい。
【0046】
回動部材40は、上述のように、移動部材30に対して回転中心軸Cを中心として回動可能に構成されている。同図(a)は、剥離角度θを90°に設定した場合を示しており、本実施形態では、この状態から図の矢印Aの方向(剥離角度θを減少させる方向)および矢印Bの方向(剥離角度θを増加させる方向)にそれぞれ90°回動可能に回動部材40を構成している。これにより、本実施形態では、試験時の剥離角度θを0°<θ≦180°の範囲内で任意の角度に設定することが可能となっている。
【0047】
なお、本実施形態の構成では、剥離角度θを0°に設定できるようになっているが、剥離角度θが0°の場合は試験膜110を試験体100から剥離不可能であるため、剥離試験を行うことはできない。
【0048】
同図(b)は、剥離角度θを45°に設定した場合を示している。保持部材50および第2変換機構64は回動部材40と共に回動するため、このように回動部材40を回動させて剥離角度θを変更した場合においても、保持部材50および試験体100の移動方向は剥離面102に沿った方向に維持されるようになっている。すなわち、本実施形態では、剥離角度θの設定によらず、試験膜110の剥離長さと略同じ距離だけ試験体100を剥離面102に沿って移動させることが可能となっている。
【0049】
なお、回動部材40を回動させて剥離角度θを変更した場合、同図(a)および(b)に示されるように、第1プーリ66aおよび第2プーリ66bの軸間距離が変動することとなるが、本実施形態では、剥離角度θを変更した場合にも、テンションプーリ66dの位置を調整することによって歯付ベルト66cを適正な張力に調整することが可能となっている。すなわち、本実施形態では、歯付ベルト66cを交換することなく、剥離角度θを0°<θ≦180°の範囲で変更可能となっている。従って、テンションプーリ66dの移動範囲は、全ての剥離角度θに対応可能な範囲に設定されている。
【0050】
また、本実施形態では、回動部材40の回転中心軸Cが試験膜110の剥離ポイントPと略一致するように回動軸42を配置している。すなわち、回転中心軸Cが剥離面102の表面に沿って剥離ポイントPを略通過するようにしている。このようにすることで、剥離角度θを変更した場合にも、剥離ポイントPの位置が略変化しないようにすることが可能となる。これにより、試験体100に対する試験膜110の位置の設定等、剥離試験における各種条件設定を容易にすることができる。
【0051】
次に、剥離試験装置1を用いた剥離試験の手順について説明する。
【0052】
図3(a)および(b)は、剥離試験装置1による剥離試験の様子を示した概略平面図である。剥離試験では、まず、試験膜110が付された試験体100を保持部材50にセットする。試験膜110は、試験体100に貼着された粘着テープや粘着シート等であってもよいし、試験体100の表面にめっきや蒸着、溶射等によって形成された被膜であってもよい。
【0053】
次に、回動部材40を回動させて、剥離角度θを所定の角度に設定すると共に、テンションプーリ66dを移動させて歯付ベルト66cの張力を適宜に設定する。なお、同図(a)および(b)では、剥離角度θを90°に設定した例を示している。そして、移動部材30を把持部材80に近づけ、試験膜110の開放端を把持部材80に把持させる。
【0054】
なお、剥離角度θの設定は、手動で行ってもよいし、移動部材30にステッピングモータ等の駆動装置を設け、制御装置90によって回動部材40の回動を制御することにより、自動的に行ってもよい。テンションプーリ66dの調整についても同様である。
【0055】
次に、同図(a)および(b)に示されるように、移動機構20によって移動部材30を把持部材80から離隔する方向に移動させる。このとき、制御装置90は、試験条件に基づいて予め設定された速度で移動部材30を移動させるように、移動機構20を制御する。そして、荷重測定器70により、把持部材80に加わる引張力を測定する。
【0056】
移動部材30の移動に伴い、試験膜110は試験体100から徐々に剥離していく。従って、荷重測定器70は、試験膜110の試験体100から剥離するのに必要な力を測定することとなる。このとき、保持部材50は、変換機構60によって移動部材30と同じ速度で剥離面102に沿って移動することとなるため、剥離角度θは試験中一定に保たれる。なお、移動部材30の移動速度は、試験中一定にしてもよいし、変化させてもよい。
【0057】
荷重測定器70の測定結果は、時系列的なデータとして制御装置90に記憶されると共に、必要であれば表示パネルや外部の処理装置等に出力される。以上の手順により、1回の剥離試験が終了する。
【0058】
本実施形態では、変換機構60の第1変換機構62および第2変換機構64をラックアンドピニオン機構から構成すると共に、伝動機構66を歯付ベルトによるベルト伝動機構から構成しているため、従来の紐とプーリを使用した装置に比べて、非常に安定的且つ高精度に移動部材30の移動と保持部材50の移動を同期させることが可能となっている。すなわち、本実施形態では、移動部材30の直線運動を一旦回転運動に変換すると共に、歯車および歯付ベルトによるガタやズレの少ない確実な動力伝達を行うようにしているため、従来以上に安定的且つ高精度に移動部材30の移動と保持部材50の移動を同期させることが可能となっている。
【0059】
従って、本実施形態の剥離試験装置1によれば、試験中に剥離角度θを高精度に保持することができるため、従来以上に高精度な剥離試験を行うことが可能となっている。また、移動部材30を把持部材80から高速で離隔させる場合、すなわち試験膜110を試験体100から高速で剥離させる場合においても、保持部材50の移動を安定的に同期させることができるため、従来の装置では困難であった高速剥離試験についても、高精度に行うことが可能となっている。
【0060】
次に、剥離試験装置1のその他の形態について説明する。なお、以下の説明においては、上述の例の剥離試験装置1と共通の部分については説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。
【0061】
図4(a)および(b)は、その他の形態の剥離試験装置1の一例を示した概略図であり、同図(a)は移動部材30周辺を拡大して示した平面図、同図(b)は移動部材30周辺を拡大して示した正面図である。この例では、変換機構60において、上述の例とは異なる形態の伝動機構68を採用すると共に、これに合わせて移動部材30および回動部材40の形状を変更している。
【0062】
この例の伝動機構68は、第1ピニオン62cと共に第1回転軸62bに接続された第1プーリ68aと、第2ピニオン64cと共に第2回転軸64bに接続された第2プーリ68bと共に、回動部材40上において回転中心軸Cと同軸的に配置された中間回転軸68cと、この中間回転軸68cに接続された第1中間プーリ68dおよび第2中間プーリ68eと、を備えている。そして、第1プーリ68aおよび第1中間プーリ68dに第1歯付ベルト68fが巻回され、第2中間プーリ68eおよび第2プーリ68bに第2歯付ベルト68gが巻回されている。
【0063】
すなわち、この例の伝動機構68は、第1回転軸62bから出力された回転動力を第1歯付ベルト68fによるベルト駆動で中間回転軸68cに伝達し、その後、第1歯付ベルト68fによるベルト駆動で中間回転軸68cから第2回転軸64bに回転動力を伝達するように構成されている。
【0064】
この例では、中間回転軸68cを回動部材40の回転中心軸Cと同軸的に配置しているため、回動部材40を回動させて剥離角度θを変更した場合においても、第1回転軸62bと中間回転軸68cの軸間距離、および中間回転軸68cと第2回転軸64bの軸間距離が変化しないようになっている。従って、剥離角度θを変更した場合に第1歯付ベルト68fおよび第2歯付ベルト68gの張力を再調整する必要がないため、より簡便に剥離角度θを変更することができる。
【0065】
なお、この例においても、ベルト伝動機構に代えてチェーン伝動機構を採用することができる。また、この例では、第1回転軸62bと中間回転軸68cの軸間距離、および中間回転軸68cと第2回転軸64bの軸間距離が変動しないため、ベルト伝動機構に代えて歯車伝動機構を採用することもできる。すなわち、第1回転軸62bから出力された回転動力を第1の歯車列によって中間回転軸68cに伝達し、その後、第2の歯車列によって中間回転軸68cから第2回転軸64bに回転動力を伝達するように構成してもよい。さらに、歯車伝動機構を採用する場合には、かさ歯車等によって回転方向を変換して伝達するようにしてもよく、さらに回転する伝動軸等を介して動力を伝達するようにしてもよい。
【0066】
図5(a)および(b)は、その他の形態の剥離試験装置1のもう1つの例を示した概略図であり、同図(a)は移動部材30周辺を拡大して示した平面図、同図(b)は移動部材30周辺を拡大して示した正面図である。この例では、変換機構60において、伝動機構69を1つの回転伝動軸69aから構成すると共に、これに合わせて移動部材30および回動部材40等の形状を変更している。
【0067】
この例では、第1変換機構62は、第1ラック62aおよび第1ピニオン62cから構成され、第2変換機構64は、第2ラック64aおよび第2ピニオン64cから構成されている。そして、伝動機構69は、回動部材40の回転中心軸Cと同軸的に回動軸42を貫通して配置される回転伝動軸69aから構成されており、この回転伝動軸69aの両端部に第1ピニオン62cおよび第2ピニオン64cがそれぞれ接続されている。
【0068】
すなわち、この例では、第1ピニオン62cの回転動力を回転伝動軸69aの回転によってそのまま第2ピニオン64cに伝達するように構成されている。このような構成にすることで、変換機構60を非常に簡素に構成すると共に、移動部材30の移動と保持部材50の移動をきわめて安定的且つ高精度に同期させることが可能となる。
【0069】
なお、この例においては、保持部材50は、第2変換機構64との干渉を避けるために、接続部材50aを介してスライダ54に対してオフセットした状態で配置されている。また、第1ラック62aは、移動部材30と干渉しないようにブラケット14を介して第1ピニオン62cに向けてオフセットした状態で配置されている。第1ラック62aをオフセットさせるのではなく、第1ピニオン62cの回転動力を歯車列を介して回転伝動軸69aに伝達するように構成してもよい。
【0070】
図6(a)および(b)は、図5(a)および(b)に示した剥離試験装置1に補正機構200を設けた例を示した概略図であり、同図(a)は移動部材30周辺を拡大して示した平面図、同図(b)は移動部材30周辺を拡大して示した正面図である。
【0071】
上述の各例では、回動部材40を回転させた場合に、第2ピニオン64cに対する第2ラック64aの相対的な位置が変化することから、保持部材50が移動して試験体100の位置が若干ずれるようになっているが、この例では、回動部材40の回転運動を保持部材50の移動部材30に対する直線運動に変換する補正機構200を設けることによって保持部材50の位置ずれを補正するようにしている。
【0072】
この例では、スライダ54上に接続部材50aが配置され、第2ラック64aは接続部材50aに配置されている。また、接続部材50a上には、補正用ガイドレール56、およびこの補正用ガイドレール56上をスライド移動する補正用スライダ58が配置されている。そして、保持部材50は、第2接続部材50bを介して補正用スライダ58上に配置されている。
【0073】
補正用ガイドレール56は、ガイドレール52と略平行に配置されており、補正用スライダ58は、スライダ54と同一の方向、すなわち保持部材50に保持された試験体100の剥離面102に沿う方向に移動可能となっている。従って、この例では、保持部材50および試験体100は、スライダ54と共に剥離面102に沿って直線往復移動可能であると共に、スライダ54の移動とは別に補正用スライダ58と共に剥離面102に沿って直線往復移動可能となっている。
【0074】
補正機構200は、回動部材40の回転運動を補正用スライダ58および保持部材50の剥離面102沿う方向の直線運動に変換するように構成されている。補正機構200は、移動部材30上に配置された静止歯車210と、回動部材40に補正用第1回転軸220を介して回転自在に配置されて静止歯車210と噛み合う遊星歯車222と、遊星歯車222と共に補正用第1回転軸220に接続される第1かさ歯車224と、第1かさ歯車224と噛み合う第2かさ歯車230と、一端に第2かさ歯車230が接続されて回動部材40上に回転自在に配置される補正用第2回転軸240と、補正用第2回転軸240の他端に接続されるウォームギヤ250と、第2接続部材50bに配置されてウォームギヤ250と噛み合うウォームラック260と、から構成されている。
【0075】
静止歯車210は、回動部材40の回転中心軸Cを中心として移動部材30上に回転不能に固定されている。そして、遊星歯車222は、回動部材40の回動に伴って静止歯車210の周囲を公転すると共に自転するようになっている。すなわち、静止歯車210および遊星歯車222は、回動部材40の回転運動を補正用第1回転軸220の回転動力に変換して出力するように構成されている。
【0076】
第1かさ歯車224および第2かさ歯車230は、補正用第1回転軸220の回転動力の方向を変えて補正用第2回転軸240に伝達するようになっている。補正用第2回転軸240は、回動部材40に設けられた軸受44によって回転自在に支持されており、ガイドレール52および補正用ガイドレール56と略平行に配置されている。
【0077】
ウォームギヤ250は、補正用第2回転軸240と共に回転することで、ウォームラック260を直線移動させるようになっている。ウォームラック260は、延長ブラケット262を介して第2接続部材50bに接続されている。従って、保持部材50および試験体100は、ウォームラック260の直線移動に伴って、第2接続部材50aおよび補正用スライダ58と共に、補正用ガイドレール56に沿って直線移動するようになっている。
【0078】
図7(a)は、補正用第2回転軸240の構造を示した概略図であり、同図(b)は、同図(a)のD−D線断面図である。これらの図に示されるように、補正用第2回転軸240は、円筒状の円筒部材242と、この円筒部材242の内部に挿入される棒状の軸部材244と、から構成されており、第2かさ歯車230は円筒部材242に接続され、ウォームギヤ250は軸部材244に接続されている。そして、軸部材244にはキー244aが形成されると共に、円筒部材242にはキー244aが嵌合するキー溝242aが形成されている。
【0079】
すなわち、補正用第2回転軸240は、回転動力を伝達可能且つ伸縮自在に構成されており、第2かさ歯車230の回転動力をウォームギヤ250に伝達しつつ、第2かさ歯車230とウォームギヤ250の間の距離の変動を許容するようになっている。この例では、このように補正用第2回転軸240を構成すると共に、ウォームラック260を第2接続部材50bから離隔させて配置することで、変換機構60によるスライダ54および保持部材50の移動に影響することなく、回動部材40の回動に伴う保持部材50の位置ずれを補正することを可能としている。
【0080】
図7(c)は、回動部材40を回動させた場合の補正機構200の作動を示した概略平面図である。同図に示されるように、回動部材40を図の矢印Eの方向に回動させると、第2ピニオン64cに対する第2ラック64aの相対的な位置が変化し、第2ラック64a、スライダ54および接続部材50aが図の矢印Fの方向に移動することとなる。
【0081】
一方、補正機構200においては、回動部材40の回動に伴って遊星歯車222が静止歯車210の周囲を公転することにより自転し、この自転による回転動力が補正用第1回転軸220、第1かさ歯車224、第2かさ歯車230および補正用第2回転軸240を介してウォームギヤ250に伝達される。すると、ウォームギヤ250の回転に伴ってウォームラック260が図の矢印Gの方向に移動し、これにより、補正用スライダ58および第2接続部材50bが図の矢印Gの方向に移動することとなる。
【0082】
すなわち、補正機構200は、回動部材40を回動させた場合のスライダ54および接続部材50aの移動方向とは逆方向に補正用スライダ58および第2接続部材50bを移動させるように構成されている。そして、静止歯車210からウォームラック260までの減速比を適宜に設定して補正用スライダ58および第2接続部材50bの移動量を調整することにより、回動部材40を回動させた場合に保持部材50および試験体100の位置が変化しないようになっている。また、剥離試験の最中には、変換機構60による第2ラック64a、スライダ54および接続部材50aの移動に追随して補正用第2回転軸240が伸縮することにより、保持部材50および試験体100は第2ラック64a、スライダ54および接続部材50aと共に移動することとなり、剥離角度θが一定に保たれるようになっている。
【0083】
このように、この例の剥離試験装置1では、補正機構200を設けることにより、回動部材40を回動させた場合にも保持部材50および試験体100の位置が変化しないようになっている。これにより、試験体100に対する試験膜110の位置の設定等、剥離試験における各種条件設定をより容易にすることができる。
【0084】
また、図示は省略するが、補正機構200と共に、例えば回動部材40を回動させるステッピングモータ等を移動部材30に配置し、移動部材30の移動中に回動部材40を回動可能に構成することもできる。このようにした場合、剥離試験中に回動部材40を回動させて剥離角度θを変更しながら剥離試験を行う等、より多彩な態様で剥離試験を行うことが可能となる。
【0085】
なお、補正機構200は、第1かさ歯車224および第2かさ歯車230に代えてフェースギヤやハイポイドギヤ等を採用したものであってもよいし、ウォームギヤ250およびウォームラック260に代えてすべりねじ伝動機構やボールねじ伝動機構等を採用したものであってもよい。また、補正機構200は、補正用第2回転軸240において、キー244aに代えてスプラインやセレーション等を採用したものであってもよい。また、図1〜3に示した剥離試験装置1、または図4に示した剥離試験装置1に補正機構200を設けるようにしてもよいことは言うまでもない。
【0086】
図8は、図5(a)および(b)に示した剥離試験装置1において移動部材30を略鉛直方向に移動させるように構成した例を示した概略正面図である。この例では、基台10の上部に荷重測定器として電子天秤300を備えている。そして、把持部材80は、電子天秤300から垂下されたフック302に接続されるように構成され、移動部材30は、電子天秤300の下方において略鉛直方向に直線往復移動するように配置されている。
【0087】
このように、移動部材30を略鉛直方向に移動させるようにしてもよい。また、この場合に、荷重測定器として電子天秤300を採用することにより、より微細な剥離力を精密に測定することが可能となるため、従来の装置では測定不可能であった様々な材質の試験体100および試験膜110について剥離試験を行うことができる。
【0088】
なお、把持部材80は、電子天秤300から直接垂下されたものであってもよいし、フック302に試験膜110を引っかけるようにしてもよい。また、電子天秤300(またはロードセル)を基台の下部に配置し、移動部材30を電子天秤300(またはロードセル)の上方において略鉛直方向に直線往復移動するように配置するようにしてもよい。また、図1〜3に示した剥離試験装置1、図4に示した剥離試験装置1、または図6、7に示した剥離試験装置1において移動部材30を略鉛直方向に移動させるように構成してもよいことは言うまでもない。
【0089】
以上説明したように、本実施形態に係る剥離試験装置1は、試験体100から剥離させる試験膜110の一端を把持する把持部材80と、把持部材80に対して近接離隔する方向に直線移動自在に配置される移動部材30と、試験体100を保持した状態で試験体100の剥離面102に沿う方向に直線移動自在となるように移動部材30に配置される保持部材50と、移動部材30を直線移動させる移動機構20と、把持部材80に加わる荷重を測定する荷重測定器70と、移動部材30の直線運動を回転動力に変換して出力する第1変換機構62と、第1変換機構62から出力された回転動力を保持部材50の移動部材30に対する直線運動に変換する第2変換機構64と、を備えている。
【0090】
このような構成とすることで、従来以上に簡便且つ高精度に剥離試験を行うことができる。特に、移動部材30の直線運動を回転動力に変換して伝達するようにしているため、紐とプーリを使用した従来の装置に比べて安定的且つ高精度に移動部材30の移動と保持部材50の移動を同期させることが可能であり、従来以上に高精度な剥離試験を行うことができる。また、移動部材30の移動を制御するだけで保持部材50を試験体100の剥離面102に沿って高精度に移動させることが可能となるため、簡便に剥離試験を行うことができる。また、従来の装置では困難であった高速剥離試験についても、高精度に行うことができる。
【0091】
また、第1変換機構62は、移動部材30の移動方向に沿って配置される第1ラック62aと、移動部材30に回転自在に配置されて第1ラック62aと噛み合う第1ピニオン62cと、を備えている。このようにすることで、ガタやズレの少ない確実な動力伝達を行うことが可能となり、移動部材30および保持部材50の移動を安定的且つ高精度に同期させることができる。
【0092】
また、第2変換機構64は、保持部材50の移動部材30に対する移動方向に沿って保持部材50に配置される第2ラック64aと、移動部材30に回転自在に配置されて前記第2ラック64aと噛み合う第2ピニオン64cと、を備えている。このようにすることで、ガタやズレの少ない確実な動力伝達を行うことが可能となり、移動部材30および保持部材50の移動を安定的且つ高精度に同期させることができる。
【0093】
また、剥離試験装置1は、試験膜110の試験体100からの剥離角度θを変化させるように保持部材50を移動部材30に対して回動させる回動部材40をさらに備えている。このようにすることで、剥離角度θを容易に変更することが可能となるため、剥離試験を多彩な剥離角度θで行うことができる。
【0094】
また、回動部材40は、回転中心軸Cが試験膜110の試験体100からの剥離ポイントPと略一致するように構成されている。このようにすることで、剥離角度θの値によらず剥離ポイントPの位置を略一定に保つことが可能となるため、より簡便に剥離試験を行うことができる。
【0095】
また、剥離試験装置1は、第1変換機構62から出力された回転動力を歯付ベルト66cまたはチェーンによって第2変換機構64に伝達する伝動機構66をさらに備えている。このようにすることで、簡素且つ安価な構成でありながらもガタやズレの少ない確実な動力伝達を行うことが可能となり、移動部材30および保持部材50の移動を安定的且つ高精度に同期させることができる。
【0096】
また、剥離試験装置1は、第1変換機構62から出力された回転動力を歯付ベルト66cまたはチェーンによって第2変換機構64に伝達する伝動機構66をさらに備え、伝動機構66は、回動部材40の回動に伴って第1変換機構62と第2変換機構64の間の距離が変化した場合に歯付ベルト66cまたはチェーンの張力を調整する張力調整機構(テンションプーリ66d)を備えている。このようにすることで、歯付ベルト66cまたはチェーンを交換することなく剥離角度θを変更することが可能となり、多彩な剥離角度θの剥離試験をより簡便に行うことができる。
【0097】
また、剥離試験装置1は、第1変換機構62から出力された回転動力を歯付ベルト(第1歯付ベルト68fおよび第2歯付ベルト68g)またはチェーンによって第2変換機構64に伝達する伝動機構68をさらに備え、伝動機構68は、第1変換機構62から出力された回転動力を回動部材40の回転中心軸Cと同軸的に配置された中間プーリ(第1中間プーリ68dおよび第2中間プーリ68e)または中間スプロケットを介して第2変換機構64に伝達するように構成されるものであってもよい。このような構成にした場合、剥離角度θを変更するときに歯付ベルトまたはチェーンの張力を再調整する必要がないため、より簡便に剥離角度θを変更することができる。
【0098】
また、剥離試験装置1は、第1変換機構62から出力された回転動力を回転伝動軸69aによって第2変換機構64に伝達する伝動機構69をさらに備えるものであってもよい。このような構成にした場合、きわめて簡素且つ安価な構成でありながらもガタやズレのほとんど無い確実な動力伝達を行うことが可能となり、移動部材30および保持部材50の移動を安定的且つ高精度に同期させることができる。
【0099】
また、剥離試験装置1は、第1変換機構62から出力された回転動力を回転伝動軸69aによって第2変換機構64に伝達する伝動機構69をさらに備え、回転伝動軸69aは、回動部材40の回転中心軸Cと同軸的に配置されるものであってもよい。このような構成にした場合、きわめて簡素且つ安価な構成でありながらも、移動部材30および保持部材50の移動の安定的且つ高精度な同期と容易な剥離角度θの変更を両立させることができる。
【0100】
また、剥離試験装置1は、回動部材40の回転運動を保持部材50の移動部材30に対する直線運動に変換することによって回動部材40を回動させた場合の保持部材50の位置ずれを補正する補正機構200をさらに備えるものであってもよい。このような構成にした場合、剥離角度θを変更した場合の保持部材50および試験体100の位置ずれをなくすことが可能となるため、高精度な剥離試験をより簡便に行うことができる。また、剥離角度θを変化させながら剥離試験を行う等、より多彩な態様で剥離試験を行うことができる。
【0101】
なお、本実施形態では、移動部材30を略水平方向または略鉛直方向に移動させるように構成した例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば斜め方向に移動部材30を移動させるようにしてもよい。また、移動部材30、回動部材40、保持部材50および変換機構60等の剥離試験装置1が有する各要素の形状および配置構成は、本実施形態において示した例に限定されるものではなく、その他の適宜の形状および配置構成を採用することができる。また、試験体100の形状は、本実施形態において示した形状に限定されるものではなく、その他の形状であってもよい。
【0102】
また、本実施形態では、移動部材30に回動部材40を設けることで剥離角度θを変更可能に構成した例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、回動部材40を省略して剥離角度θが所定の角度に固定されるようにしてもよい。
【0103】
また、本実施形態では、第1変換機構62および第2変換機構64をラックアンドピニオン機構から構成した例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えばすべりねじ伝動機構や、直線状に配置したチェーンとスプロケットによる機構等、その他の機構によって第1変換機構62および第2変換機構64を構成するようにしてもよい。また、場合によっては、第1ピニオン62cおよび第2ピニオン64cに代えて、平面に沿って転動するローラ等を使用するようにしてもよい。
【0104】
また、本実施形態では、第1ピニオン62cおよび第2ピニオン64cを回転中心軸が略鉛直方向となるように配置した例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、第1ピニオン62cおよび第2ピニオン64cは回転中心軸がその他の方向となるように配置されるものであってもよい。
【0105】
また、本実施形態では、回動部材40を回転中心軸Cが略鉛直方向となるように配置した例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、回動部材40は、回転中心軸Cに略直交する方向に保持部材50を移動可能な構成であれば、回転中心軸Cがその他の方向となるように配置されるものであってもよい。
【0106】
また、本実施形態では、回動部材40の回転中心軸Cが剥離ポイントPと略一致するように構成した例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、剥離ポイントPからずれた位置に回転中心軸Cを設定するようにしてもよい。このようにした場合、移動部材30上のレイアウトをより効率的にすることができる場合がある。
【0107】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明の剥離試験装置は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の剥離試験装置は、接着等された各種部材や、塗料、メッキ等の各種剥離試験の分野において幅広く利用することができる。
【符号の説明】
【0109】
1 剥離試験装置
20 移動機構
30 移動部材
40 回動部材
50 保持部材
62 第1変換機構
62a 第1ラック
62c 第1ピニオン
64 第2変換機構
64a 第2ラック
64c 第2ピニオン
66、68、69 伝動機構
66c 歯付ベルト
66d テンションプーリ
68d 第1中間プーリ
68e 第2中間プーリ
68f 第1歯付ベルト
68g 第2歯付ベルト
69a 回転伝動軸
70 荷重測定器
80 把持部材
100 試験体
102 剥離面
110 試験膜
200 補正機構
C 回動部材の回転中心軸
P 剥離ポイント
θ 剥離角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験体から剥離させる試験膜の一端を把持する把持部材と、
前記把持部材に対して近接離隔する方向に直線移動自在に配置される移動部材と、
前記試験体を保持した状態で前記試験体の剥離面に沿う方向に直線移動自在となるように前記移動部材に配置される保持部材と、
前記移動部材を直線移動させる移動機構と、
前記把持部材に加わる荷重を測定する荷重測定器と、
前記移動部材の直線運動を回転動力に変換して出力する第1変換機構と、
前記第1変換機構から出力された回転動力を前記保持部材の前記移動部材に対する直線運動に変換する第2変換機構と、を備えることを特徴とする、
剥離試験装置。
【請求項2】
前記第1変換機構は、前記移動部材の移動方向に沿って配置される第1ラックと、前記移動部材に回転自在に配置されて前記第1ラックと噛み合う第1ピニオンと、を備えていることを特徴とする、
請求項1に記載の剥離試験装置。
【請求項3】
前記第2変換機構は、前記保持部材の前記移動部材に対する移動方向に沿って前記保持部材に配置される第2ラックと、前記移動部材に回転自在に配置されて前記第2ラックと噛み合う第2ピニオンと、を備えていることを特徴とする、
請求項1または2に記載の剥離試験装置。
【請求項4】
前記試験膜の前記試験体からの剥離角度を変化させるように前記保持部材を前記移動部材に対して回動させる回動部材をさらに備えることを特徴とする、
請求項1乃至3のいずれかに記載の剥離試験装置。
【請求項5】
前記回動部材は、回転中心軸が前記試験膜の前記試験体からの剥離ポイントと略一致するように構成されることを特徴とする、
請求項4に記載の剥離試験装置。
【請求項6】
前記第1変換機構から出力された回転動力を歯付ベルトまたはチェーンによって前記第2変換機構に伝達する伝動機構をさらに備えることを特徴とする、
請求項1乃至5のいずれかに記載の剥離試験装置。
【請求項7】
前記第1変換機構から出力された回転動力を歯付ベルトまたはチェーンによって前記第2変換機構に伝達する伝動機構をさらに備え、
前記伝動機構は、前記第1変換機構から出力された回転動力を前記回動部材の回転中心軸と同軸的に配置された中間プーリまたは中間スプロケットを介して前記第2変換機構に伝達するように構成されることを特徴とする、
請求項4または5に記載の剥離試験装置。
【請求項8】
前記第1変換機構から出力された回転動力を回転伝動軸によって前記第2変換機構に伝達する伝動機構をさらに備えることを特徴とする、
請求項1乃至5のいずれかに記載の剥離試験装置。
【請求項9】
前記第1変換機構から出力された回転動力を回転伝動軸によって前記第2変換機構に伝達する伝動機構をさらに備え、
前記回転伝動軸は、前記回動部材の回転中心軸と同軸的に配置されることを特徴とする、
請求項4または5に記載の剥離試験装置。
【請求項10】
前記回動部材の回転運動を前記保持部材の前記移動部材に対する直線運動に変換することによって前記回動部材を回動させた場合の前記保持部材の位置ずれを補正する補正機構をさらに備えることを特徴とする、
請求項4、5、7または9に記載の剥離試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−98115(P2012−98115A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−245282(P2010−245282)
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【特許番号】特許第4717156号(P4717156)
【特許公報発行日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(000162504)協和界面科学株式会社 (10)