説明

創傷治療用外用剤

【課題】糜爛、褥瘡、皮膚潰瘍等の難治性疾患に対し、十分な治癒促進効果を有しつつ、瘢痕化の防止、ヨウ素の創傷面への蓄積を低減することができる低毒性の新たな創傷治療用外用剤を提供する。
【解決手段】油性基剤とヨウ素を含有する創傷治療用外用剤であって、前記油性基剤が、ワセリン、ゲル化炭化水素から選択されるいずれか1以上であることを特徴とし、該油性基剤の配合量が50〜99重量%で、W/O型のエマルジョンであり、白糖を含まないことを特徴とする創傷治療用外用剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糜爛、褥瘡、皮膚潰瘍及び火傷などの皮膚損傷を伴う疾患を治療するための創傷治療用外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚組織や粘膜は種々の原因によりしばしば損傷を受ける。
これらの皮膚組織等の損傷である傷や潰瘍は一般に「創傷」と呼ばれ、その具体例として、糜爛、切り傷、擦過傷、火傷、褥瘡、皮膚の潰瘍などが挙げられる。
これら創傷は痛みを伴い、また、感染症を引き起こす可能性、さらには治癒過程に問題が生じてケロイド状となったり瘢痕等が残る場合もあるため、早期のうちに完全に治癒させることが望ましい。
特に褥瘡や皮膚潰瘍は、寝たきりの老齢者のみならず、障害者、栄養状態の悪い人、或いは回復力の弱い状態の人などに生じ易く、多くは長期化する為、大きな社会問題となっている。
【0003】
褥瘡は、皮膚が圧迫されることにより局所の血流が阻害され、その結果、皮膚組織が循環不全により損傷する病態をいい、軽症のものでは皮膚表面が爛れるだけに止まるが、重症のものでは皮下組織から骨、靱帯に至る皮膚潰瘍を形成する。
とりわけ、重傷の場合は極めて難治性で、場合によっては細菌感染から死に至ることもある。
【0004】
近年、創傷治癒促進を目的とした種々の創傷治療薬、特に外用剤の開発が進んでいる。
これらの例としては、フィブリノリジン、デオキシリボヌクレアーゼ、ストレプトキナーゼ、ストレプトドルナーゼなどの繊維素溶解酵素や、塩化リゾチーム等を含有する壊死組織除去剤、硫酸ゲンタマイシン、スルファジアジン銀、バシトラシン、硫酸フラジオマイシン等を含有する抗菌剤、トラフェルミン、ブクラデシンナトリウム、トレチノイントコフェリル(トコレチナート)、アルプロスタジルアルファテクス、ソルコセリル(幼牛血液抽出物)、アルクロキサ等を含有する肉芽形成促進剤、白糖、ポビドンヨード、ヨウ素等を含有するヨウ素製剤、ペンダザック、ジメチルイソプロピルアズレン(グアイアズレン)、エピネフリンなどを有効成分として含有する製剤等が挙げられる。
【0005】
特に、白糖は創傷治癒作用を有すること、ポビドンヨードは(ヨウ素による)殺菌作用を有することが知られており、白糖とポビドンヨードとを混合した創傷治療用外用剤は、創傷治癒作用と殺菌作用とを併せもつ製剤として、以前から褥瘡や皮膚潰瘍等の創傷治療に使用されてきた。
現在では、製剤的な安定性と均一性とを改良した白糖・ポビドンヨード配合剤が市販され、褥瘡を含む創傷治療に広く臨床の場で使用されるに至っている。
【0006】
しかしながら、白糖・ポビドンヨード配合剤を含む種々の創傷治療用外用剤、医療用具として種々の創傷保護材が医療の場に供され、創傷を治療する手段が進歩したにもかかわらず、褥瘡、皮膚潰瘍は、未だ難治性の疾患であり、特に高齢化社会の到来とともに褥瘡の治癒促進は今後の重要課題となる。
【0007】
創傷治癒促進を目的とした外用剤にはその作用効果を高めるべく、通常、高濃度の白糖が含まれる(特許文献1)が、これによっても創傷治癒促進効果が得られないばかりか、瘢痕化を惹起するといった弊害を生じさせる。
これら従前の薬剤は創面の乾燥、洗滌性を優先し、水溶性の基剤が多く用いられ、創面の保護については考慮されていない。
更に、前記外用剤は創傷面及びその周辺の皮膚にヨウ素製剤の蓄積をきたし、ヨウ素の残存により皮膚の着色(所謂ヨウ素焼け)やヨウ素製剤そのものによる刺激などの副作用が懸念される他、特定の疾患を有している患者には使用禁忌である等の問題も多い。
以上より、褥瘡、皮膚潰瘍等の難治性疾患に対し、十分な治癒促進効果を有しつつ、瘢痕化の防止、ヨウ素の創傷面への蓄積を低減することができる低毒性の新たな創傷治療用外用剤の開発が強く望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−38342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑み、褥瘡、皮膚潰瘍等の難治性疾患に対し、十分な治癒促進効果を有しつつ、瘢痕化の防止、ヨウ素の創傷面への蓄積を低減することができる低毒性の新たな創傷治療用外用剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、項1に係る発明は、油性基剤とヨウ素を含有する創傷治療用外用剤であって、白糖を実質的に含まないことを特徴とする創傷治療用外用剤に関する。
項2に係る発明は、油性基剤とヨウ素を含有する創傷治療用外用剤であって、白糖を含まないことを特徴とする創傷治療用外用剤に関する。
項3に係る発明は、前記油性基剤が、ワセリン、ゲル化炭化水素から選択されるいずれか1以上であることを特徴とする請求の範囲第1項又は第2項に記載の創傷治療用外用剤に関する。
項4に係る発明は、前記ワセリンが、白色ワセリン、親水ワセリンから選択されるいずれか1以上であることを特徴とする請求の範囲第1項乃至第3項いずれか記載の創傷治療用外用剤に関する。
項5に係る発明は、前記油性基剤の配合量が、50〜99重量%であることを特徴とする請求の範囲第1項乃至第4項いずれか記載の創傷治療用外用剤に関する。
項6に係る発明は、前記ヨウ素の配合量が、0.01〜5重量%であることを特徴とする請求の範囲第1項乃至第5項いずれか記載の創傷治療用外用剤に関する。
項7に係る発明は、外用剤の剤型が、パスタ剤、軟膏剤、クリーム剤、液剤、ゲル剤、貼付剤、パップ剤、パッチ剤のいずれか1つである請求の範囲第1項乃至第6項いずれか記載の創傷治療用外用剤に関する。
項8に係る発明は、前記創傷が、糜爛、切り傷、擦過傷、火傷、褥瘡、皮膚潰瘍から選択されるいずれか1つであることを特徴とする請求の範囲第1項乃至第7項いずれか記載の創傷治療用外用剤に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明にかかる創傷治療用外用剤は、殺菌作用に基づく創傷面からの感染症を予防しつつ、創傷面に過度の乾燥をきたすことなく、適度な湿潤環境に維持することを可能とする。
それにより、創傷治療効果の促進、瘢痕化の防止、ヨウ素の創傷面への蓄積を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1−a】対照群として、ラットの創傷面を経時的に観察した写真である。
【図1−b】ユーパスタによる治療効果をラットの創傷面の観察により示した写真である。
【図1−c】本発明にかかる創傷治療用外用剤による治療効果をラットの創傷面の観察により示した写真である。
【図2】本発明にかかる創傷治療用外用剤による治療効果をラットの創傷部皮膚組織のヘマトキシリン・エオジン染色により示した写真である。
【図3】本発明にかかる創傷治療用外用剤による治療効果をマウスの創傷面積により表した図である。
【図4】本発明にかかる創傷治療用外用剤による治療効果をマウスの創傷部皮膚組織のヘマトキシリン・エオジン染色により示した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは鋭意研究の結果、殺菌作用を有するヨウ素に、保湿作用を有する油性基剤を組み合わせたヨウ素製剤であって、創傷治癒作用を有するとされている白糖を実質的に含まないことを特徴とする創傷治療用外用剤が、褥瘡・皮膚潰瘍等の難治性疾患に有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明にかかる創傷治療用外用剤は、ヨウ素の十分な殺菌作用により、創傷面からの感染症を予防できると同時に、油性基剤の保湿作用により、適度な創傷面の湿潤度維持を可能とし、それによる治癒促進作用、瘢痕化の防止、創傷面へのヨウ素の残存量を低減することができる。
更に、本発明者らは、従来技術において創傷治癒を促進する為に含有されていた高濃度の白糖を含有しないことにより、創傷面の過度の乾燥を防ぎ、瘢痕化を惹起することなく治癒を促進させることを見出した。
その為、本発明の創傷治療用外用剤では、白糖を実質的に含まないことを特徴の一つとし、創傷面における過度の乾燥による治癒効果の低下や瘢痕化を惹起するといった弊害を生じさせることもない。
本発明において特筆すべきは、製剤中にワセリンやゲル化炭化水素などの油性基剤を含むことにより、適度な創傷面の湿潤度維持を可能とし、それによる治癒促進作用、瘢痕化の防止、創傷面へのヨウ素の残存量を低減することができることにある。
【0015】
ヨウ素及びその製剤は古くから消毒剤として、一方のワセリンやゲル化炭化水素などの油性基剤は皮膚保護剤や各種製剤の基剤として広く用いられており、その安全性は確認されている。
しかしながら、現在までに糜爛、褥瘡、皮膚潰瘍及び火傷などの皮膚損傷を伴う疾患の治療薬における有効成分として、上記組み合わせが応用された例はない。
以下に、これらの効果を発揮することができる本発明の実施形態について詳説する。
【0016】
本発明における油性基剤は通常、軟膏として使用されている油脂性基剤であれば限定されるものではないが、特にワセリン、ゲル化炭化水素を使用することが望ましい。
またワセリン、ゲル化炭化水素を混合させた油性基剤を用いても良い。
【0017】
本発明における「ワセリン」は、白色ワセリン、黄色ワセリン若しくは親水ワセリンのいずれでもよいが、「白色ワセリン」又は「親水ワセリン」を用いるのが好ましい。
「白色ワセリン」とは、石油から得た炭化水素類の混合物を脱色して精製したものであり、日本薬局方に記載されたものを用いればよい。
一般市場で入手できる「白色ワセリン」として、丸石製薬株式会社の「軟膏基剤 日本薬局方 白色ワセリン 500g」を例示することができる。
「親水ワセリン」とは、白色ワセリン、サラシミツロウ、ステアリルアルコール、コレステロール等の混合物であり、日本薬局方に記載されたものを用いればよい。
一般に入手できる「親水ワセリン」として、丸石製薬株式会社の「軟膏基剤 日本薬局方 親水ワセリン 500g」を例示することができる。
【0018】
本発明における「ゲル化炭化水素」としては、例えば流動パラフィンとポリエチレン樹脂の混合物があげられ、一般市場で入手できる「ゲル化炭化水素」として大正製薬株式会社の「プラスチベース」(登録商標)を例示することができる。
【0019】
本発明の創傷治療用外用剤におけるワセリン、ゲル化炭化水素などの油性基剤の含有率は、50重量%〜99重量%、好ましくは70重量%〜97重量%、より好ましくは85重量%〜95重量%である。
この理由は、50重量%未満であると、保湿効果を十分に発揮できない為、99重量%を超えると、製剤化自体が困難であり、いずれの場合も好ましくないからである。
【0020】
本発明における「ヨウ素」は、特に限定されるものではなく、1−ビニル−2−ピロリドンの重合体との複合体(ポビドンヨード)や界面活性剤との複合体といったヨードホールとして存在してもよい。
創傷治療用外用剤における「ヨウ素」の含有率は、0.01重量%〜5重量%、好ましくは0.05重量%〜2重量%、より好ましくは0.1重量%〜0.9重量%である。
この理由は、0.01重量%未満であると、殺菌作用を十分に発揮できない為、5重量%を超えると、創傷面及びその周辺の皮膚にヨウ素製剤の蓄積をきたし、ヨウ素の残存により皮膚の着色(所謂ヨウ素焼け)やヨウ素製剤そのものによる刺激などの副作用が懸念される為、いずれの場合も好ましくないからである。
【0021】
本発明における創傷治療用外用剤は、創傷治癒作用を有するとされている白糖を実質的に含まないことを特徴としている。
かかる構成を有することにより、創傷面における過度の乾燥による治癒効果の低下や瘢痕化を惹起するといった弊害を生じさせることもない。
ここでいう白糖は、精製砂糖等の吸湿性を持つ糖類が含まれ、例えば日本薬局方に記載された白糖、精製白糖があげられる。
これらの糖類により創傷面の瘢痕化を惹起されるからである。
【0022】
従来、創傷治療用外用剤には高濃度(製剤中50〜90重量%)の白糖が含まれており、白糖が有する創傷治癒作用により創傷治癒促進効果が得られると考えられてきたが、期待する効果が十分に得られないばかりか瘢痕化を惹起するといった弊害を生じさせていた。
本発明者らは、高濃度の白糖を実質的に含まないようにすることで、創傷面が過度に乾燥させられることによる上記弊害を防ぐことができることを見出し、白糖を実質的に含まないことを特徴とする本発明の創傷治療用外用剤を開発するに至った。
ここでいう「白糖を実質的に含まない」とは、白糖を含まないか、若しくは白糖が有する創傷治癒作用等の薬理活性を発揮しない程度含まれることを意味する。
白糖がその薬理活性を発揮しない程度とは、白糖の有する薬理活性を発揮するのに必要とされる最小限度の配合量を下回る量であれば、特に限定されるものではないが、20重量%未満であるのが好ましい。
【0023】
本発明にかかる創傷治療用外用剤は、上記油性基剤とヨウ素製剤を必須成分として含有し、白糖を実質的に含まないことを特徴とすることから、ヨウ素の十分な殺菌作用に基づく創傷面からの感染症を予防でき、油性基剤の保湿作用による適度な創傷面の湿潤度維持が可能となり、創傷治療効果を促進させることができる。
更には創傷面を湿潤環境に維持することによる創傷治療促進、瘢痕化の防止、ヨウ素の創傷面への蓄積を低減することができる。
同時に、創傷面に過度の乾燥をきたす恐れのある白糖を実質的に含まないことから、治癒を遅らせたり、瘢痕化を惹起するといった弊害が生ずることもない。
【0024】
本発明の創傷治療用外用剤は上記の有効成分と共に薬学的に許容される製剤担体を用いて、外用剤として従来から公知の剤型とすることができる。
特に、パスタ剤、軟膏剤、クリーム剤、液剤、ゲル剤、貼付剤、パップ剤、パッチ剤などの剤型とすることが好ましい。
また、本発明の創傷治療用外用剤の調製・製造は、上記の剤型に応じ、前記ヨウ素剤成分と、製剤学的に慣用されている製剤技術を常法により混合、均一化することにより行うことができる。
例えば、ポビドンヨード及び白色ワセリンに各種の基剤成分や任意成分を徐々に加えながら練合し、均一の状態になるようにして本発明の創傷治療用外用剤が調製される。
【0025】
上記有効成分に加え、本発明の創傷治療用外用剤の調製・製造において用いられる成分のうち、基剤成分の具体例としては、例えば以下の成分が挙げられる。
【0026】
まず、脂肪類としては、例えば、中鎖脂肪酸トリグリセリド、ハードファット等の合成油、オリーブ油、ダイズ油、ナタネ油、ラッカセイ油、ベニバナ油、ヌカ油、ゴマ油、ツバキ油、トウモロコシ油、メンジツ油、ヤシ油等の植物油、豚脂、牛脂等の動物油及びこれらの硬化油等を挙げることができる。
ロウ類としては、例えばラノリン、ミツロウ、カルナバロウ、鯨ロウ等の天然ロウや、モンタンロウ等の鉱物ロウ、合成ロウ等を使用することができる。
また、炭化水素としては、例えば、パラフィン、流動パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、スクワラン、ポリエチレン末、ゲル化炭化水素等を挙げることができる。
【0027】
高級脂肪酸としては、例えばステアリン酸、ベヘニン酸、パルミチン酸、オレイン酸等を使用することができる。
また、高級アルコールとしては、例えばセタノール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、コレステロール等を使用することができ、さらに、多価アルコールとしては、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、1,3−ブチレングリコール等を挙げることができる。
【0028】
合成及び天然高分子としては、例えばカラギーナン、デンプン、デキストリン、デキストリンポリマー(カデキソマー)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(ポロクサマー)トラガント、アラビアゴム、ローカストビーンガム、ペクチン、ゼラチン、キサンタンガム、プルラン、アルギン酸塩、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸塩、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー等を使用することができる。
また、界面活性剤としては、例えばアルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ショ糖脂肪酸エステル等を使用することができる。
【0029】
低級アルコールとしては、例えばエタノール、イソプロピルアルコール等を使用することができる。
ケトン類としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン等を使用することができる。
粉体としては、例えばカオリン、タルク、酸化亜鉛、酸化チタン、ステアリン酸マグネシウム、無水ケイ酸、デンプン等を使用することができる。
セルロース誘導体としては、例えばメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース等を使用することができる。
無機塩類としては、例えばヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、硫酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム、硝酸カルシウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硫酸アルミニウム、ポリリン酸ナトリウム、塩化アンモニウム、硫酸鉄、リン酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、チオ硫酸ナトリウム、セスキ炭酸ナリウム、硫化ナトリウム、ホウ砂、酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、塩化カリウム等を使用することができる。
【0030】
より具体的に、各剤型と添加成分の関係を示せば次の通りである。
即ち、パスタ剤は、油性パスタ剤あるいは水性パスタ剤の剤型で使用でき、油性パスタ剤の場合には、基剤成分として、例えば脂肪類、ロウ類、炭化水素等が使用され、水性パスタ剤には、基剤成分として、例えば合成及び天然高分子、多価アルコール、界面活性剤等を使用することができる。
また、軟膏剤の場合には、基剤成分として、例えば脂肪類、多価アルコール、炭化水素等を使用することができる。
クリーム剤の場合には、基剤成分として、例えば界面活性剤、高級アルコール、高級脂肪酸、炭化水素、多価アルコール、水(精製水)等を使用することができる。
液剤及びゲル剤の場合には、基剤成分として、例えば水(精製水)、低級アルコール、ケトン類、脂肪類、多価アルコール、界面活性剤、炭化水素、合成及び天然高分子等を使用することができる。
【0031】
さらに、本発明の創傷治療用外用剤には、必要に応じてpH調整剤として水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物等を使用してもよく、また、防腐・保存剤として、例えば安息香酸ナトリウム等の安息香酸アルカリ金属塩、パラオキシ安息香酸エステル、ソルビン酸等を配合してもよい。
さらに、これも必要により、抗酸化剤として、例えばトコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール等を用いてもよい。
【0032】
上記により得られた本発明の創傷治療用外用剤は、エマルジョン型の製剤とすることもできるが、その場合のエマルジョンの形態はW/O型、O/W型どちらの形態であっても構わない。
また、本発明の創傷治療用外用剤は、皮膚外用剤自体をそのまま患部に塗布してもよいが、例えば、当該外用剤をさらに伸縮性を有する布や不織布あるいはプラスチックシート等に塗布したパップ剤やプラスター剤等の貼付剤として患部に適用してもよい。
【0033】
上記により得られた本発明の創傷治療用外用剤は、皮膚に対して安全であり、使用感も良好で、臨床的に優れ、かつ創傷に対して極めて有効な治癒促進作用を発揮することができるものである。
従って、本発明の創傷治療用外用剤は、糜爛、切り傷、擦り傷、火傷、褥瘡、皮膚潰瘍等の創傷の治癒に十分な効果を発揮することができるものである。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例に基づき更に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
尚、特記しない限り、配合量を重量%で表す。
【0035】
〔実施例1〕ラットにおける創傷治癒過程に対する効果
本発明にかかる創傷治療用外用剤について、以下の処方及び製法を用いて皮膚外用剤(軟膏剤)を得た。
処方例に用いた薬剤は以下の1)及び 2)である。
1)日本薬局方に記載された親水ワセリン(丸石製薬株式会社製)
前記親水ワセリン100g中、サラシミツロウ8g、ステアリルアルコール3g、コレステロール3g、白色ワセリン 適量、及び添加物としてジブチルヒドロキトルエンを含有する製剤で、軟膏基剤や皮膚保護剤に用いる。
2)ポビドンヨード(シグマ製)
3)ポリエチレングリコール400(和光純薬工業株式会社製)
【0036】
(処方1(100g中))
親水ワセリン 90.0g
ポビドンヨード 3.0g
ポリエチレングリコール400 3.5g
精製水 3.5g
(対照薬)
ユーパスタコーワの処方(100g中)
精製白糖 70.0g
ポビドンヨード 3.0g
その他、マクロゴールなどの添加物よりなる。
(製法)
上記処方に記載する割合で混合練合し、半固形状に調製した。
【0037】
(ラット創傷治癒促進作用)
〔実験方法〕
Slc:SD系ラット(雄、6週齢)をペントバルビタール麻酔下で、横臥位に固定し背部皮膚を軽く引き伸ばして皮革用ポンチ(直径1.8cm)で皮膚を打ち抜き、左右対称な全層性欠損創を作製した。創作製から7日間、処方1並びに3%ポビドンヨード及び70%白糖を含有する市販の褥瘡治療剤「ユーパスタコーワ」(興和株式会社製)をそれぞれ、1日1回150mgずつ創面に塗布した。
また、対照群としては創作製を行い、塗布の空操作のみを7日間行った。
創傷面積は、週3回デジタルカメラで背部を撮影し、画像解析ソフトNIH Image(米国国立衛生研究所製)を用いて測定した。
尚、創傷面積は左右の平均値とし、5例の平均値及び標準偏差値で表示した。
更に、塗布7日後に各塗布群のラット背部の創傷面を含む皮膚を採取し、10%中性緩衝ホルマリン液で固定した後、パラフィン切片を作製し、ヘマトキシリン・エオジン染色し、病理学的な観察も併せて行った。
【0038】
〔結果〕
<創傷面積縮小作用及び治癒率>を示した以下の表1より、処方1を塗布した群の方が創傷面積を縮小し、約64%の治癒率を示したが、ユーパスタ群では無処置の対照群と比較して差は認められなかった。
創傷の治癒過程の外観を図1に示した。
対照群(図1−a)及びユーパスタ塗布群(図1−b)では、非常に厚い痂皮が形成され、特にユーパスタ塗布群では一側の創面にひきつれ、ヨウ素の残存を示す創周辺の褐色の汚れが認められた。
処方1(図1−c)塗布群では、これらの厚い痂皮あるいは褐色の創周辺部の汚れは認められず、「きれいな」創面の治癒が観察された。
創傷部皮膚組織のヘマトキシリン・エオジン染色した観察結果を図2に示した。
全ての塗布群の全例で創傷部位に肉芽組織形成がみられ、特に処方1塗布群での創縁部では表皮の再生像もみられた(図2−b)。
また、ユーパスタ塗布群の数例の一部で、フィブリン凝集物や死滅した細胞が残存する肉芽組織形成初期の像及びその部位下の皮下組織で顕著な血管新生がみられた(図2−c)。
これはユーパスタ中の白糖によりサイトカインや成長因子等を含む滲出液が吸収され、そのために線維芽細胞等の遊走と増殖の低下により肉芽形成が遅延したのではないかと考えられた。
【0039】
【表1】

【0040】
各群5例測定し、各値は平均±標準偏差で示した。
治癒率は以下の式により算出した。
【0041】
治癒率(%)=100×〔1−(塗布7日後の創傷面積/塗布0日の創傷面積)〕
【0042】
〔実施例2〕マウスにおける創傷治癒過程に対する効果
本発明にかかる創傷治療用外用剤について、以下の処方及び製法を用いて皮膚外用剤(軟膏剤)を得た。
〔処方例〕
処方例に用いた薬剤は以下のとおりである。
・ 白色ワセリン(ナカライテスク株式会社製)
・ イソジンゲル(明治製菓株式会社製)
・ 1g中ポビドンヨードを100mg含み、その他マクロゴール4000、マクロゴール6000及びマクロゴール400よりなる市販の創傷面の消毒、熱傷皮膚面の消毒剤。
(処方2 (100g中))
白色ワセリン 90.0g
イソジンゲル 10.0g
(製法)
イソジンゲル及び白色ワセリンを上記処方に記載する割合で混合練合し、半固形状に調製した。
【0043】
< マウス創傷治癒促進作用 >
〔方法〕
Slc:ICR系マウス(雄、6週齢)をペントバルビタール麻酔下で、背部被毛を剃毛し生検トレパン(直径5mm、カイメディカル社)で皮膚を切り抜き全層性欠損創を作製した。
処方2を7日間適量塗布した。
また、対照群としては創作製を行い、塗布の空操作のみを7日間行った。
創傷面積は、週3回デジタルカメラで背部を撮影し、画像解析ソフトNIH Image(米国国立衛生研究所製)を用いて測定した。
尚、創傷面積は測定した5例の平均値及び標準偏差値で表示した。
さらに、塗布8日後に各塗布群のマウス背部の創傷面を含む皮膚を採取し、10%中性緩衝ホルマリン液で固定した後、パラフィン切片を作製し、ヘマトキシリン・エオジン染色し、病理学的な観察も併せて行った。
【0044】
〔結果〕
〔創傷面積縮小作用及び治癒率〕を示した以下の表2及び図3の結果より、対照群及び処方2塗布群ともに創傷面積を縮小したが、治癒率は処方2塗布群の方が約88%と対照群に比べ早い治癒が認められた。
図4に示したように、対照群及び処方2塗布群の全例で、肉芽組織形成がみられ、新たな炎症反応などはみられず、創傷した組織が修復(治癒)段階にあることが示唆された。
しかしながら、表皮再生は対照群では5例中2例のみに認められたのに対して、処方2塗布群では全例で表皮の再生が認められた。
【0045】
【表2】

【0046】
各群5例測定した。各値は平均±標準偏差で示した。
治癒率は以下の式により算出した。
【0047】
治癒率(%)
=100×〔1−(塗布8日後の創傷面積/塗布0日の創傷面積)〕
【0048】
以上の実施例1及び2から、本発明にかかる創傷治療用外用剤の優れた創傷治療効果が示された。
尚、本発明にかかる創傷治療用外用剤として、上記以外の処方例を以下に示す。
(処方3(100g中))
親水ワセリン 70.0g
ポビドンヨード 3.0g
ポリエチレングリコール400 13.5g
精製水 13.5g
【0049】
本発明にかかる創傷治療用外用剤として、実用的な処方例を以下に示す。
(処方4(100g中))
ヨウ素 :0.9g
ヨウ化ナトリウム :1.7g
精製水 :3.0g
ポロクサマー235 :4.0g
ポロクサマー403 :1.0g
親水ワセリン :89.4g
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の創傷治療用外用剤は、創傷面に過度の乾燥をきたすことなく、適度な湿潤環境に維持することにより、効果的に、創傷を治療できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白色ワセリンとヨウ素を含有する創傷治療用外用剤であって、該油性基剤の配合量が50〜99重量%で、W/O型のエマルジョンであり、白糖を含まないことを特徴とする創傷治療用外用剤。

【図3】
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【図1−a】
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【図1−b】
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【図1−c】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−77143(P2010−77143A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−264278(P2009−264278)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【分割の表示】特願2007−512978(P2007−512978)の分割
【原出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【Fターム(参考)】