説明

創傷治療用組成物、創傷治療用組成物の製造方法及び皮膚外用薬

【課題】低コストで製造可能な、活性酸素を含む創傷治療用組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】、海水又は海洋深層水を電気分解して活性酸素を発生させ、活性酸素を含む酸性水を生成することにより、創傷治療用組成物を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性酸素を含有する創傷治療用組成物、創傷治療用組成物の製造方法、及び、皮膚外用薬に係わる。
【背景技術】
【0002】
体内又は体外の組織が破壊、欠損した状態を創傷と呼ぶ。この創傷の治癒過程は、一般的に、(1)血液凝固期、(2)炎症期、(3)増殖期、(4)成熟期(リモデリング期)の4段階に分類される。
つまり、皮膚などに損傷が生じると、まず出血が起こり、この血液が凝固することで血塊が形成されて創傷部分が一時的に閉鎖される(血液凝固期)。次に、創傷部位では好中球による細菌除去、リンパ球による免疫応答、マクロファージによる細菌や異物の貧食等、組織修復前の異物除去過程が進行して炎症が発生する(炎症期)。
【0003】
その後、血小板が放出する各種サイトカインにより血管新生、線維芽細胞活性が促され、肉芽が形成される(増殖期)。最終的には肉芽である傷跡の赤み、膨隆が経時的に軽減し治癒に至る(成熟期)。
【0004】
上述の過程の中で、創傷部位では好中球やマクロファージなどが産生する活性酸素が様々な酵素や因子の活性化を促進し、細胞増殖が促進され、創傷治癒が促進されることが知られている。このため、活性酸素を外部から供給することにより、上述の様々な酵素や因子の活性化を促進させることが提案されている。
【0005】
例えば、グリセリン等の高粘度物質にオゾンを溶解又は封入して殺菌等の効果を持たせた粘稠体を形成し、オゾンの散失を抑制して効果を持続させたオゾン封入粘稠体が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、非酸化グリセリンに400ppm以上のオゾンを溶解させることにより、殺菌効果及び創傷治癒効果を発揮するのに充分なオゾン濃度を、長期的に維持することが可能なオゾン溶存混合溶液が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平10−139645号公報
【特許文献2】特開2005−232094号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述のオゾン封入粘稠体や、オゾン溶存混合溶液は、グリセリン等の高粘度物質に活性酸素を封入することで構成されている。このため、活性酸素としてオゾンを外部からグリセリン内に導入する必要があり、高濃度のグリセリンと、導入するためのオゾンとを準備しなければならない。さらに、高濃度のグリセリンに活性酸素やオゾンを均一に溶解させなければならない。このため、上述のオゾン封入粘稠体や、オゾン溶存混合溶液を大量に生産する場合には、製造コストが高くなってしまう。
【0008】
また、上記特許文献1及び特許文献2には、オゾン以外の活性酸素及び活性酸素種の記載がなく、オゾン以外の活性酸素及び活性酸素種に対して適用することは開示されていない。従って、オゾン以外の活性酸素及び活性酸素種を、上述のオゾン封入粘稠体や、オゾン溶存混合溶液に、直接適用することができない。
【0009】
上述した問題の解決のため、本発明においては、低コストで製造可能な、活性酸素を含む創傷治療用組成物及び創傷治療用組成物からなる皮膚外用薬を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の創傷治療用組成物は、海水又は海洋深層水を電気分解することで発生した活性酸素を含有することを特徴とする。また、本発明の創傷治療用組成物は、水と、水中に保持されたオゾンのマイクロナノバブルとを備えることを特徴とする。
【0011】
本発明の創傷治療用組成物の製造方法は、海水又は海洋深層水を電気分解して活性酸素を発生させ、活性酸素を含む酸性水を生成する工程を含むことを特徴とする。また、本発明の創傷治療用組成物の製造方法は、水中にオゾンのマイクロナノバブルを導入し、活性酸素を含む水を製造する工程を含むことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の皮膚外用薬は、海水又は海洋深層水を電気分解することで発生した活性酸素を含有することを特徴とする。また、本発明の皮膚外用薬は、水中にオゾンのマイクロナノバブルが保持されていることを特徴とする。
【0013】
本発明の創傷治療用組成物及び創傷治療用組成物の製造方法によれば、海水又は海洋深層水を電気分解することで活性酸素を発生させ、この活性酸素を用いて創傷治療用組成物を製造することができる。このため、創傷治療用組成物の製造コストを低減することができる。
また、製造した創傷治療用組成物を用いて、低コストの皮膚外用薬を提供することができる。
【0014】
なお、本発明において活性酸素とは、狭義の活性酸素に加え、広義の活性酸素を含む。具体的には、一重項酸素、スーパーオキシド、ヒドロキシラジカル、過酸化水素、オゾン、ペルオキシラジカル、アルコキシラジカル、ヒドロペルオキシド等である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、低コストで生産可能な活性酸素を含む創傷用治療組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の具体的な実施の形態について説明する。
本実施の形態の創傷治療用組成物は、海水又は海洋深層水を電気分解することにより活性酸素を発生させ、この活性酸素を含む創傷治療用組成物を作製する。
【0017】
海水及び海洋深層水には、もともと電解質が溶解しているため、食塩等の電解質を溶解させずに電気分解を行うことができる。このため、海水又は海洋深層水を用いて電気分解をすることにより、導電率を向上させるための水への食塩等の電解質の添加が不要になる。
従って、海水又は海洋深層水を電気分解することにより、真水に溶解させる食塩等のコストを低減することができる。また、水に電解質を溶解させるための工程が不要になり、製造工程数を削減できる。
【0018】
また、海洋深層水は、太陽光線が届かず光合成が行われないため有機物が少なく、細菌及び陸上や大気からの有害な人工汚染物が表層水に比べて非常に少ない。このため、海洋深層水は表層水に比べて清浄性が高い。
従って、創傷治療用組成物としては、海洋深層水を用いることが創傷部分の塗布に適している。
【0019】
次に、海水又は海洋深層水の電気分解について説明する。
海水又は海洋深層水の電気分解は、図1及び図2に構成の一例を示す三室型電気分解システムや、二室型電気分解システムにより行うことができる。
【0020】
図1に示す三室型電気分解システムについて説明する。
三室型電気分解システムは、カソード室(陰極室)11と、中間室12と、アノード室(陽極室)13とを備える。そして、中間室12は、カソード室11とアノード室13の間に設けられている。
中間室12とカソード室11との間には、中間室12側からカチオン膜16とカソード極14が備えられている。また、中間室12とアノード室13との間には、中間室12側からアニオン膜17とアノード極15が備えられている。
【0021】
カソード室11には、陰極室液として真水(HO)が供給される陰極室液の供給口18、及び、三室型電気分解システムにより電気分解されて発生したカソード室11内のアルカリ性水の排出口19が備えられている。アノード室13には、陽極室液として真水(HO)が供給される陽極室液の供給口22、及び、三室型電気分解システムで電気分解されて発生したアノード室13内の酸性水の排出口23が備えられている。
また、中間室12には、中間室液として電解質を含む水(HO+NaCl)例えば海水又は海洋深層水が供給される中間室液の供給口20、及び、三室型電気分解システムにより電気分解されて発生する中間室12内の循環水(HO)の排出口21とが備えられている。この排出口21から排出される循環水は、再び中間室12の供給口20から中間室液として供給され、三室型電気分解システム内で循環するように構成されている。
【0022】
中間室12に供給された中間室液は、カソード極14とアノード極15との間で電気分解される。そして、中間室12内において、中間室液に含まれる電解質(NaCl)のうち、陽イオン(Na)は、カソード極14に引き寄せられてカチオン膜16を通過してカソード室11へ移動する。また、中間室液に含まれる電解質(NaCl)のうち、陰イオン(Cl)は、アノード極15に引き寄せられてアニオン膜17を通過してアノード室13へ移動する。
【0023】
また、カソード室11内では、電場をかけることにより陽極室液(HO)の電気分解が起こり、水素(H)と水酸化物イオン(OH)が発生する。そして、中間室12からの陽イオン(Na)と水酸化物イオン(OH)との反応により、陽イオンの水酸化物(NaOH)が発生する。
また、アノード室13内では、電場をかけることにより陰極室液(HO)の電気分解が起こり、水素(H)と酸素イオン(O)が発生する。そして、酸素イオン(O)から、活性酸素となる酸素(O)と、活性酸素種となるオゾン(O)が発生する。また、酸素イオン(O)と、中間室12からの陰イオン(Cl)との反応により、次亜塩素酸イオン(ClO)が発生し、次亜塩素酸(HClO)が発生する。次亜塩素酸は殺菌効果を有するため、創傷治療用組成物の成分として有効に働く。
【0024】
上述のように、中間室12に供給された海水又は海洋深層水を電気分解することにより、アノード室13内に活性酸素、及び、次亜塩素酸等を含む酸性水を生成することができる。そして、海水又は海洋深層水の電気分解により得られた酸性水には、上述のように活性酸素が含まれている。このため、この酸性水をそのままの状態で創傷治療用組成物として使用することができ、また、酸性水から活性酸素を含む創傷治療用組成物を製造することができる。
【0025】
また、上述の方法によれば、海水又は海洋深層水を用いることにより、予め中間室12内に食塩等の電解質や固体電解質を充填することなく、三室型電気分解システムにより、活性酸素を発生させることができる。このため、予め充填する電解質又は固体電解質の分のコストを低減することができる。
【0026】
次に、図2に示す二室型電気分解システムについて説明する。
二室型電気分解システムは、アノード室(陽極室)31とカソード室(陰極室)32とを備える。アノード室31とカソード室32との間には、カチオン交換膜とアニオン交換膜とが密着一体化(積重)された隔膜33を備える。
また、アノード室31内には、隔膜33の反対側にアノード極34が備えられ、カソード室32内には、隔膜33の反対側にカソード極35が備えられている。つまり、二室型電気分解システム内において、アノード極34とカソード極35とが隔膜33を挟んで対極の位置に備えられている。
【0027】
アノード室31には、陽極室液として電解質を含む水(HO+NaCl)、例えば海水又は海洋深層水が供給される陽極室液の供給口36、及び、二室型電気分解システムにより電気分解されたアノード室31内の酸性水の排出口37とが備えられている。また、カソード室32には、陰極室液として電解質を含む水(HO+NaCl)、例えば海水又は海洋深層水が供給される陰極室液の供給口38、及び、二室型電気分解システムにより電気分解されたカソード室32内のアルカリ性水の排出口39とが備えられている。
【0028】
アノード室31及びカソード室32に供給された、陽極室液及び陰極室液は、アノード極34とカソード極35との間で電気分解される。そして、陽極室液及び陰極室液に含まれる電解質(NaCl)からの陽イオン(Na)は、カソード極35に引き寄せられて、隔膜33を通り、カソード室32へ移動する。また、陽極室液及び陰極室液に含まれる電解質(NaCl)からの陰イオン(Cl)は、アノード極34に引き寄せられて、隔膜33を通り、アノード室31へ移動する。
【0029】
カソード室32内では、電場をかけることにより陽極室液中の水(HO)の電気分解が起こり、水素(H)と水酸化物イオン(OH)が発生する。また、カソード室32内で電解質が電気分解されて発生した陽イオン(Na)及びアノード室31から移動してきた陽イオン(Na)と、水酸化物イオン(OH)との反応により、陽イオンの水酸化物(NaOH)が発生する。
【0030】
また、アノード室31内では、陰極室液中の水(HO)の電気分解が起こり、水素(H)と酸素イオン(O)が発生する。そして、酸素イオン(O)から、活性酸素となる酸素(O)と、活性酸素種となるオゾン(O)や過酸化水素(H)が発生する。また、アノード室31内で電解質が電気分解されて発生した陰イオン(Cl)及びカソード室32から移動してきた陰イオン(Cl)と、酸素イオン(O)とが発生し、次亜塩素酸(HClO)や塩素(Cl)が発生する。次亜塩素酸は殺菌効果を有するため、創傷治療用組成物の成分として有効に働く。
【0031】
上述のように、アノード室31及びカソード室32に供給された海水又は海洋深層水を電気分解することにより、アノード室31内に活性酸素、活性酸素種、及び、次亜塩素酸等を含む酸性水を生成することができる。そして、この発生させた酸性水には、上述のように活性酸素が含まれている。このため、この酸性水をそのままの状態で創傷治療用組成物として使用することができ、また、酸性水から活性酸素を含む創傷治療用組成物を製造することができる。
【0032】
また、創傷治療用組成物への活性酸素の供給は、上述の海水又は海洋深層水の電気分解の他に、水中へマイクロナノバブルを導入することにより行うことができる。
図3にオゾンを水中へ導入するための装置の構成の一例を示す。
図3に示す装置は、オゾン発生装置41、混合水槽42、及び、キャビテーションポンプ43を備える。
【0033】
混合水槽42とキャビテーションポンプ43とは、配管により接続されている。そして、混合水槽42とキャビテーションポンプ43との間を、水が循環できるように構成されている。
また、上述の装置は、図示しない水の供給部と排出部とを備える。この水の供給部から装置内に継続的に水が供給され、装置内を循環する。そして、装置内を循環する水の一部が排出部から排出される。これにより、常に一定量の水が装置内を循環するように構成されている。
【0034】
オゾン発生装置41は、混合水槽42とキャビテーションポンプ43との間の配管に、オゾン発生装置41からの配管によって接続されている。
オゾンは、公知の方法を用いて製造することができ、例えば、空気又は酸素を原料とする紫外線による光化学反応、電気分解、放射線照射、コロナ放電等の方法により製造することができる。また、オゾン発生装置41としては、公知の発生装置を使用することができる。
【0035】
また、キャビテーションポンプ43は、気液混合ポンプと特殊ミキサーとから構成される。
キャビテーションポンプ43の気液混合ポンプにより、オゾン発生装置41で発生したオゾンが水中に粗混合される。さらに、キャビテーションポンプ43の特殊ミキサーで発生するキャビテーションにより、オゾンバブルの径をナノメートル単位からマイクロメートル単位までの大きさに調整することができる。
このように、装置内でマイクロナノバブルを発生させ、循環する水中にマイクロナノバブルが供給される。
【0036】
水中に供給されたマイクロナノバブルは、一部が水中に溶解し、残りが水中にナノメートル単位、又は、マイクロメートル単位の微小な気泡となって分散し、水中に気泡の状態で保持される。
上述の装置では、混合水槽42中で、供給されたオゾンの泡がはじける瞬間に発生する圧力により、オゾンを水に溶解させることができる。このため、オゾンを水に溶解させるために、オゾンに圧力を加える手段を省略することができる。このため、装置の構成を簡略化することができる。また、オゾンに圧力を加える手段を駆動する必要がないため、創傷治療用組成物の製造コストを低下させることができる。
【0037】
また、マイクロナノバブルよりも大きい通常の気泡は、気泡自身の浮力により上昇するため、水中から外部に放出されてしまう。しかし、水中の気泡をナノメートル単位、又は、マイクロメートル単位まで微小化することにより、浮力による上昇がなくなり、気泡を水中に浮遊させることができる。このため、オゾンの水への溶解度以上の濃度で、水中にオゾンを保持することができ、高濃度のオゾンを含む創傷治療用組成物を製造することができる。
【0038】
オゾンのマイクロナノバブルが導入される水は特に限定されず、例えば、蒸留水等の真水や、海水又は海洋深層水を使用することができる。また、上述の海水又は海洋深層水の電気分解により、活性酸素を含む酸性水等を用いて、創傷治療用組成物の活性酸素濃度をさらに向上させることもできる。
【0039】
図4に、上述の図3に示した装置を用いて、水中にオゾンを導入した場合の創傷治療用組成物生産速度[L/min]と、水中に導入されたオゾン濃度[ppm]を示す。
上述の図3に示した装置において各構成は、混合水槽42の大きさが20L、オゾン発生装置41からのオゾンの供給量が0.4L/min、キャビテーションポンプ43の駆動速度が20〜40L/minの条件で行った。また、水温は20℃、装置内の水の平均滞留時間は0.5〜1minである。
【0040】
図4に示すグラフから、創傷治療用組成物の生産速度を5L/minとすることにより、15ppm以上のオゾン濃度を達成できたことがわかる。また、創傷治療用組成物の生産速度を40L/minとした場合でも、4ppm以上のオゾン濃度を達成できたことがわかる。
このように、オゾンの水への溶解度が0.57g/L(20℃)であるのに対し、オゾンのマイクロナノバブルを水中に導入することにより、飽和溶解度以上のオゾンを水中に保持させることができる。
従って、上述の構成の装置を用いて、水中にオゾンを導入して創傷治療用組成物を製造することにより、水中へのオゾンの溶解度以上の高濃度のオゾンを含む創傷治療用組成物を製造することができる。
【0041】
なお、創傷治療用組成物中のオゾン濃度が高すぎる場合、皮膚に対する刺激性が高くなる。また、創傷治療用組成物中のオゾン濃度が高すぎる場合、創傷治療用組成物中に保持されているオゾンが大気中に放散されやすくなると考えられる。このため、創傷治療用組成物のオゾン濃度は、0.01〜5ppm程度が好ましく、さらに、0.5〜1ppm程度がより好ましい。
【0042】
創傷治療用組成物中にマイクロナノバブルとして保持されているオゾンは揮発しづらいため、上述の方法により高濃度のオゾンを含有する水を製造し、これを原液とし、必要時に適宜希釈して使用することが可能である。
また、オゾンは、活性酸素種であるだけでなく、殺菌性を有している。このため、オゾンのマイクロナノバブルを導入した創傷治療用組成物には、活性酸素による効果に併せて、殺菌効果を持たせることができる。
【0043】
海水又は海洋深層水を使用して、電気分解又はオゾンの導入により創傷治療用組成物を製造した場合、創傷治療用組成物の浸透圧が人の体液に比べて高い場合がある。創傷治療用組成物の浸透圧と人の体液の浸透圧との差が大きい場合には、高浸透圧ショックが発生する場合がある。
創傷治療用組成物が創傷部位に接触した際の高浸透圧ショックを軽減するためには、創傷治療用組成物の浸透圧を人の体液と等張となるように調整する必要がある。なお、創傷治療用組成物と人の体液とを完全に等張にする必要はなく、創傷部位に接触した際の等浸透圧ショックが緩和される程度に、創傷治療用組成物の浸透圧を調整できればよい。
【0044】
創傷治療用組成物の浸透圧を調整する方法としては、例えば、精製水により希釈する方法や、逆浸透膜法、電気透析法、拡散透析法等の公知の脱塩操作による方法を行うことができる。
特にモザイク荷電膜を用いた拡散透析法は、脱塩操作前後での創傷治療用組成物の成分の変成が少ないため、好適に用いることができる。
【0045】
上述の脱塩操作の一例として、拡散透析装置を用いた拡散透析法について、図5を用いて説明する。図5は、モザイク荷電膜を有する拡散透析装置の構成の一例である。
図5に示すモザイク荷電膜を有する拡散透析装置は、原水室51,52,53と、水室54,55,56とがそれぞれ交互に連接されている。そして、原水室51,52,53と、水室54,55,56との間には、モザイク荷電膜57,58,59,60,61がそれぞれ介在している。
【0046】
モザイク荷電膜は、カチオン性重合体成分およびアニオン性重合体成分からなるカチオン性およびアニオン性のイオン交換膜が、互いに相接して膜の表裏両面間を貫通していることにより、イオンの拡散透析を行うことが可能な荷電膜である。イオンの透過は、原水と透析水との浸透圧の差によって行われる。
【0047】
モザイク荷電膜は、膜のイオンチャンネルを透過しやすい塩類などのイオンと、透過しにくい非イオン性または分子量の大きい分子とが容易に分離される特異な分離膜である。そして、モザイク荷電膜は、脱塩方法として常圧下での拡散透析および加圧下での圧透析に使用される。このため、モザイク荷電膜を用いた拡散透析法では、成分の変成が少ない。従って、原水に含まれる活性酸素への影響がほとんどなく、浸透圧を調整した後の創傷治療用組成物中の活性酸素の濃度と、浸透圧を調整する前の原水中の活性酸素の濃度がほとんど変化しない。
【0048】
原水室51,52,53には、原水として海水又は海洋深層水を電気分解して活性酸素が導入された創傷治療用組成物、又は、オゾンが導入された創傷治療用組成物が、原水供給ライン62から供給される。この原水には、電解質(NaCl)が含まれている。また、水室54,55,56には、透析水として蒸留水が、蒸留水供給ライン63から供給される。
【0049】
そして、原水室51,52,53に供給された原水から、陽イオン(Na)及び陰イオン(Cl)がモザイク荷電膜57,58,59,60,61を通過し、水室54,55,56へ移動する。これにより、原水から透析水に塩が移動し、原水を脱塩することができる。
このため、原水室51,52,53からは、脱塩された原水が、原水排出ライン64により排出される。また、水室54,55,56からは、塩を含む透析水が透析水排出ライン65により排出される。
【0050】
次に、上述の脱塩操作の他の例として、電気透析法を図6を用いて説明する。図6は、電気透析膜を有する電気透析装置の構成の一例である。
図6に示す電気透析膜を有する電気透析装置は、水室71、水室72、原水室75、水室73、原水室76、及び、水室74が連通している。そして、水室71と水室72との間には、カチオン交換膜77が介在している。また、原水室75と水室72との間には、アニオン交換膜79が介在し、原水質75と水室73との間には、カチオン交換膜78が介在している。さらに、原水室76と水室73との間には、アニオン交換膜80が介在し、原水室76と水室74との間には、カチオン交換膜81が介在している。
【0051】
また、水室71内のカチオン交換膜77の反対側には、カソード極82が備えられる。水室74内のカチオン交換膜81の反対側には、アノード極83が備えられる。従って、電気透析膜を有する電気透析装置内において、カソード極82とアノード極83とが装置内の対極の位置に備えられている。
【0052】
原水室75,76には、原水として海水又は海洋深層水を電気分解して活性酸素が導入された創傷治療用組成物、又は、オゾンが導入された創傷治療用組成物が、原水供給ライン84から供給される。この原水には、電解質(NaCl)が含まれている。また、水室71,72,73,74には、透析水として蒸留水が、蒸留水供給ライン85から供給される。
【0053】
そして、原水室75に供給された原水から、陽イオン(Na)がカソード極82に引き寄せられ、アニオン交換膜79を通過して水室72に移動する。また、陰イオン(Cl)が、アノード電極83に引き寄せられ、カチオン交換膜78を通過して水室73に移動する。
同様に、原水室76に供給された原水から、陽イオン(Na)がカソード極82に引き寄せられ、アニオン交換膜80を通過して水室73に移動する。また、陰イオン(Cl)が、アノード電極83に引き寄せられ、カチオン交換膜81を通過して水室74に移動する。
【0054】
上述のように、原水室75,76に供給された原水から、陽イオン(Na)及び陰イオン(Cl)が、アニオン交換膜79,80、カチオン交換膜78,81を通過し、水室72,73,74へ移動する。これにより、原水から透析水に塩が移動し、原水を脱塩することができる。
このため、原水室75,76からは、脱塩された原水が、原水排出ライン86によって排出される。また、水室71,72,73,74からは塩を含む透析水が、透析水排出ライン87によって排出される。
【0055】
上述の方法により、創傷治療用組成物中の浸透圧が、人の体液に比べ浸透圧が高い場合に、創傷治療用組成物の浸透圧を調整することで、人の体液と等張にすることができる。
【0056】
なお、上述の活性酸素が導入された創傷治療用組成物は、そのまま人の皮膚に直接塗布して使用する他に、コットンやガーゼに浸漬することで使用したり、スプレー瓶等により噴霧したりすることで、皮膚創傷部位に供給することができる。
また、活性酸素が導入された創傷治療用組成物は、液体であるため、入浴や足湯等の方法により、皮膚創傷部位を創傷治療用組成物に直接浸すことでも使用することができる。
【0057】
さらに、本発明の創傷治療用組成物はそのまま用いるだけでなく、皮膚外用薬の原料として使用することができる。皮膚外用薬の形態としては特に限定されず、例えば、水タイプ、乳液タイプ、軟膏タイプ、又は、パックタイプ等の様々な形態で用いることができる。
また、皮膚外用薬は、上述の創傷治療用組成物を各種の成分、例えば、ワセリン、流動パラフィン、スクワラン等の炭化水素類、油脂、ワックス類、各種エステル油、動物油、植物油、シリコーン油、脂肪酸、高級アルコール等の油剤、エタノール、ブタノール、多価アルコール等のアルコール類、非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤等の乳化剤、酸化チタン、マイカ、酸化鉄等の顔料、カルボキシビニルポリマー、キサンタンガム、ヒアルロン酸ナトリウム等の高分子類、竹酢液、ユーカリオイル等の天然物抽出液、エキス、色素、ビタミン類、紫外線吸収剤、ホルモン剤、香料、抗酸化剤、抗菌剤、防腐剤、キレート剤等に適宜混合することで使用できる。
さらに、本発明の創傷治療用組成物、及び、創傷治療用組成物を含む皮膚外用薬は、創傷治療用組成物の浸透圧を適宜調整することにより、家畜や伴侶動物にも使用することが可能である。
【0058】
以上の説明からわかるように、本発明に係わる創傷治療用組成物及び創傷治療用組成物を含む皮膚外用薬を創傷部位に供給することにより、体内に存在する好中球やマクロファージ等が産生する活性酸素に加え、創傷治療用組成物からも創傷部位に活性酸素が供給される。このため、創傷部位における活性酸素濃度が高くなり、多量のバイオシグナルが存在する状態となる。その結果、組織細胞の新生が促進され、創傷部位を短期間で治癒させることが可能となる。
【0059】
本発明は、上述の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲でその他様々な構成が取り得る。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の創傷治療用組成物を製造するために使用する、三室型電気分解システムの構成の一例を示す図である。
【図2】本発明の創傷治療用組成物を製造するために使用する、二室型電気分解システムの構成の一例を示す図である。
【図3】本発明の創傷治療用組成物を製造するために使用する、水中へマイクロナノバブルを導入する装置の構成の一例を示す図である。
【図4】創傷治療用組成物生産速度と、導入されたオゾン濃度との関係を示す図である。
【図5】本発明の創傷治療用組成物を製造するために使用する、拡散透析装置の構成の一例を示す図である。
【図6】本発明の創傷治療用組成物を製造するために使用する、電気透析装置の構成の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0061】
11,32 カソード室、12 中間室、13,31 アノード室、14,35,82 カソード極、15,34,83 アノード極、16 カチオン交換膜、17 アニオン交換膜、18,38 陰極室液の供給口、19,39 アルカリ性水の排出口、20 中間室液の供給口、21 水の排出口、22,36 陽極室液の供給口、23,37 酸性水の排出口、33 隔膜、41 オゾン発生装置、42 キャビテーションポンプ、43 混合水槽、51,52,53,75,76 原水室、54,55,56,71,72,73,74 水室、57,58,59,60,61 モザイク荷電膜、62,84 原水供給ライン、63,85 蒸留水供給ライン、64,86 原水排出ライン、65,87 透析水排出ライン、77,78,81 カチオン交換膜、79,80 アニオン交換膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水又は海洋深層水を電気分解することで発生した活性酸素を含有することを特徴とする創傷治療用組成物。
【請求項2】
前記創傷治療用組成物の浸透圧が、人の体液とほぼ等張であることを特徴とする請求項1に記載の創傷治療用組成物。
【請求項3】
水と、
前記水中に保持されたオゾンのマイクロナノバブルとを備える
ことを特徴とする創傷治療用組成物。
【請求項4】
前記水が、海水又は海洋深層水であることを特徴とする請求項3に記載の創傷治療用組成物。
【請求項5】
前記創傷治療用組成物の浸透圧が、人の体液とほぼ等張であることを特徴とする請求項3に記載の創傷治療用組成物。
【請求項6】
海水又は海洋深層水を電気分解して活性酸素を発生させ、前記活性酸素を含む酸性水を生成する工程を含む
ことを特徴とする創傷治療用組成物の製造方法。
【請求項7】
前記酸性水の浸透圧を調整する工程を備えることを特徴とする請求項6に記載の創傷治療用組成物の製造方法。
【請求項8】
前記酸性水の浸透圧を調整する工程を、逆浸透膜法、電気透析法、拡散透析法から選ばれる少なくとも1種類の方法で行うことを特徴とする請求項7に記載の創傷治療用組成物の製造方法。
【請求項9】
前記拡散透析法を、モザイク荷電膜を有する拡散透析装置により行うことを特徴とする請求項8に記載の創傷治療用組成物の製造方法。
【請求項10】
前記海水又は海洋深層水の電気分解を、三室型電気分解システム、二室型電気分解システムから選ばれる少なくとも1種類以上の方法で行うことを特徴とする請求項6に記載の創傷治療用組成物の製造方法。
【請求項11】
水中にオゾンのマイクロナノバブルを導入し、活性酸素を含む水を製造する工程を含む
ことを特徴とする創傷治療用組成物の製造方法。
【請求項12】
前記酸性水の浸透圧を調整する工程を備えることを特徴とする請求項11に記載の創傷治療用組成物の製造方法。
【請求項13】
前記酸性水の浸透圧を調整する工程を、逆浸透膜法、電気透析法、拡散透析法から選ばれる少なくとも1種類の方法で行うことを特徴とする請求項12に記載の創傷治療用組成物の製造方法。
【請求項14】
前記拡散透析法を、モザイク荷電膜を有する拡散透析装置により行うことを特徴とする請求項13に記載の創傷治療用組成物の製造方法。
【請求項15】
海水又は海洋深層水を電気分解することで発生した活性酸素を含有する
ことを特徴とする皮膚外用薬。
【請求項16】
水中にオゾンのマイクロナノバブルが保持されている
ことを特徴とする皮膚外用薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−292783(P2009−292783A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−149633(P2008−149633)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】