説明

創傷治癒における使用のためのIL−17B

IL-17Bは、軟骨細胞、骨の増殖を刺激することが知られており、神経組織で高発現し、その結果、疾患組織が修復される。IL-17Bが存在しない場合、創傷治癒に対して顕著な負の影響が認められる。本発明は、創傷治癒プロセスを加速させるために、局所投与、非経口投与、または他の投与手段によりIL-17Bを提供する段階を含む。本発明は、単独か、または創傷治癒を助けることが知られる他のサイトカインもしくは成長因子との組み合わせのいずれかでIL-17Bを利用する薬学的組成物およびその製剤をさらに包含する。本発明はまた、この薬学的組成物を用いた、患者の創傷の処置方法も企図する。


【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
A. 創傷および創傷治癒
ヒトの皮膚は、表皮および真皮の2つの別個の層からなる。これらの層より下には皮下組織が存在する。これらの組織の第1の機能は、動物に対して防護、感覚、および体温調節を提供することである。第2にこれらの層は、外部の力または物体からの衝撃を緩衝することによって、生物体の内部器官をショックまたは外傷から防護する。
【0002】
最も外側の皮膚層である表皮は、厚さが約0.04mmで、無血管性であり、4つの細胞型(ケラチノサイト、メラノサイト、ランゲルハンス細胞、およびメルケル細胞)からなり、いくつかの上皮細胞層へと層を成している(Leeson et al., (1985) Textbook of Histology, WB Saunders Co., Philadelphia)。表皮の最も内部にある上皮層は基底膜であり、これは直接真皮と接し、表皮を真皮に定着させている。皮膚で生じる全ての上皮細胞分裂は基底膜で起こる。細胞分裂後、上皮細胞は表皮の外表面に向けて移動する。細胞は、移動の間に、角質化として知られるプロセスを受け、そのため、核を失い、強く、平らで、耐性のある非生存の細胞へと転換される。移動は、細胞が最も外側の表皮構造である角質層に達した時に完了する。角質層は、下層組織の乾燥を防ぐのに役立つ、乾いた耐水性の扁平上皮細胞層である。死滅した上皮細胞であるこの層は、続いてはがれ落ち、基底膜から表面へ移動中の角質化細胞により置き換えられる。表皮性の上皮は無血管性であるため、基底膜はその栄養供給を真皮に依存している。
【0003】
真皮は、表皮に栄養を供給する、高度に血管化した組織層である。加えて、真皮は神経終末、リンパ管、コラーゲンタンパク質、および結合組織を含む。真皮は厚さが約0.5mmであり、主に線維芽細胞およびマクロファージからなる。これらの細胞型は、皮膚を含む動物の全結合組織にみられるタンパク質であるコラーゲンの生成および維持に大きく関与している。コラーゲンは、皮膚の張り、つまり弾力性に主に関与している。コラーゲンに富む真皮の下に見出される皮下組織は、皮膚の可動性、断熱性、カロリー貯蔵、およびその上の組織に対しては血液を提供している。
【0004】
皮膚および/または下層軟組織に損傷があると、健常な生物体内においては、生じた創傷を修復するプロセスが直ちに開始される。ヒトでは、このプロセスは、損傷が表皮に限られかつ基底膜が無傷のままである場合を除き、損傷外皮の全再生には至らない(Wokalek, H., (1988) CRC Critical Reviews in Biocompatibility, vol. 4, issue 3:209-46)。したがって、創傷がより広範囲な組織障害によって特徴付けられる場合、損傷した組織、破壊された組織、または失った組織は、同様の組織で再構成されることはないと考えられるが、その代わり、瘢痕組織に置き換えられると考えられる。表皮と真皮の両方を完全に貫通する組織崩壊によって特徴付けられる創傷は、全層創傷として知られており、一方、表皮に及ぶだけで真皮を完全には突き通さない創傷は、中間層創傷と呼ばれている。
【0005】
創傷治癒とは、障害を受けた組織の修復が達成されるプロセスである。組織損失の少ないまたは組織損失のない創傷は、第一または一次癒合により治癒するといわれるが、組織損失を被った深創傷は、第二または二次癒合により治癒する。創傷治癒プロセスは、炎症、肉芽組織形成、ならびにマトリクスの形成およびリモデリングと呼ばれる3つの異なるステージからなる(Ten Dijke et al., (1989) Biotechnology, vol. 7:793-98)。
【0006】
創傷を負うと組織縁部が切り離され、創傷へと血液が流出するため、軟組織損傷に対する炎症反応が直ちに開始され、これは、凝固カスケードを活性化し、止血をもたらす。最初、創傷部位周囲の組織では血管拡張の短いフェーズがあり、その後、血管収縮がある。血小板は創傷に存在し、凝集して凝塊を形成し、また多くの血管作動性化合物、化学誘引物質、および成長因子を放出する(Goslen, J. B., (1988) J. Dermatol. Surg. Onco., vol 9:959-72)。線維芽細胞および上皮細胞は、創傷へ移入するために、暫定的なフィブロネクチンマトリクスを用いるので、凝塊それ自体が、創傷の最終的な修復に不可欠である。加えて、創傷周縁の毛細管透過性が増大し、多核白血球(PMN)が、血流の低下により毛細管壁に付着して、単球同様、創傷へと移動する(Eckersley et al., (1988) British Medical Bulletin, vol. 44, No. 2:423-36)。
【0007】
好中球などのPMNは創傷の初期に見出される主要な細胞型である。PMNおよびマクロファージは創傷を清浄にするプロセスを開始する。この清浄プロセスは主に失活組織およびその他の残屑を貪食することにより達成される。損傷後3〜5日目までに、PMNはマクロファージに大半が取って代わられ、死滅したおよび外来の物質は除去され続ける。1972年、SimpsonおよびRoss(J. Clin. Invest., vol 51:2009-23)により、創傷部位でのPMNのほぼ完全な欠如は創傷治癒を阻害しないことが示された。しかし、創傷修復におけるマクロファージの役割は不可欠でありうる(Diegelmann et al., (1981) Plast. Reconstr. Surg., vol. 68:107-113)。実験的な単球減少症の創傷では、肉芽組織形成、線維増殖、およびコラーゲンの素質が著しく損なわれ、治癒が遅延する(Leibovich et al., (1975) Am. J. Path., vol 78:71-100;Mustoe et al., (1989) Am. J. Surg., vol 158:345-50;Pierce et al., (1989) Proc. Nat. Acad. Sci. USA, vol. 86:2229-33)。
【0008】
創傷に見出される場合、マクロファージは、単球と線維芽細胞両方の化学誘引物質として働く、形質転換成長因子β(TGF-β)および血小板由来成長因子(PDGF)などの様々な生物学的活性物質を放出することが知られている(Rappollee et al., (1988) Science, vol. 241:708-12;Pierce et al.、前記;Pierce et al., (1989) J. Cell Biol., vol. 109:429-40)。Obberghen-Schilling et al., (1988) J. Biol. Chem., vol. 263:7741-46;Paulsson et al., (1987) Nature, vol. 328:715-17;およびCoffey et al., (1987) Nature, vol. 328:817-20を参照のこと。活性化マクロファージは、失活したコラーゲンおよびフィブリン凝塊を消化する。凝塊の溶解は、二次創傷治癒フェーズとして、創傷部位に肉芽組織を形成させる。
【0009】
肉芽組織の形成は、損傷を負った後3〜4日目に開始され、再上皮化が起こるまで開放性創傷において続けられる。このステージは、線維芽細胞の増殖および創傷部位へのそれらの移動を特徴とし、創傷部位において線維芽細胞は、消化された凝塊の代わりとして、コラーゲン、フィブロネクチン、およびヒアルロン酸からなる基質(ground substance)として知られる細胞外マトリクスを生成する。この細胞外マトリクスは、 内皮細胞、線維芽細胞、およびマクロファージがその上で動くことのできる骨格として働く。これは筋線維芽細胞によっても利用され、二次癒合で治癒する全層創傷において、創傷収縮プロセスによる創傷の閉鎖が促進される。
【0010】
筋線維芽細胞は、全層創傷を負った直後に常在性線維芽細胞の分化を経て派生する。これらの筋線維芽細胞は、新しく沈着した細胞外マトリクスを用いて放射状に並び、フィブロネクサス(fibronexus)と呼ばれるマトリクスに付随して収縮し、創傷のより急速な閉鎖を促進する(Singer et al., (1984) J. Cell Biol., vol. 98:2091-2106)。
【0011】
創傷の閉鎖に加えて、再上皮化もまたこの創傷治癒ステージ中に起こる。上皮細胞は創傷縁部で増殖し、基質をわたって移動する。上皮細胞は生存血管組織上でしか動くことができない。移動は上皮細胞間の接触阻害により停止し、このポイントで上皮細胞は分裂および分化し、上皮を再構成する(Hunt et al., (1979) Fundamentals of wound management, Appleton-Century-Crofts)。
【0012】
肉芽組織の形成が進行すると、内皮細胞の分裂および移動によりつくられる新しい血管の形成である血管新生も、創傷の低酸素条件の結果として生じる。Knightonら((1983) Science, vol. 221:1283-85)は、マクロファージが低酸素条件下、血管新生を刺激することを示した。その結果生じる血管化の増加により、創傷の血流および酸素供給が増加する。最終的には、創傷治癒がマトリクスの形成およびリモデリングのフェーズに進むと、この新しく形成された脈管構造の多くは退縮し、相対的に無血管性の瘢痕を残す。
【0013】
肉芽組織の形成が開始し、創傷が新しい上皮で覆われた後もその肉芽組織の形成が長く続き、一年を上回って継続されうる場合、1'コラーゲンおよびマトリクスのリモデリングが開始する。創傷治癒のこの最終ステージは、脈管遮断と、主にI型コラーゲンからなるマトリクスによる肉芽組織および細胞の置換とによって特徴付けられる。この相対的に無細胞性で無血管性である新しい組織は瘢痕となる。瘢痕の形成は主に、創傷組織の抗張力を回復させる働きをする。しかし、瘢痕は、損傷を受ける前の組織の抗張力に対し、約80%を上回る抗張力を有することはないと考えられる。
【0014】
B. インターロイキンおよびIL-17ファミリー
インターロイキン(IL)は、身体の免疫反応において主要な役割を果たすポリペプチドファミリーである。IL-17ファミリーは、最初に発見されたメンバーであるIL-17(現在はIL-17Aと命名されている)と50〜70%の配列相同性を示す5つのインターロイキンからなるサブグループである。いずれも保存されたシステインを共有する。この保存されたシステインは、骨形態形成タンパク質(BMP)、形質転換成長因子β(TGF-β)、神経成長因子(NGF)、および血小板由来成長因子BB(PDGF-BB)などの他の成長因子で見出される古典型システインノット構造モチーフ(classic cysteine knot structural motif)を形成することが示されている(少なくともIL-17Fについては)(Hymowitz et al., (2001) EMBO J. 20(19):5332-41)。IL-17AおよびIL-17Fは、インターロイキンに典型であるように、抗原刺激および分裂刺激に反応して主にT細胞で発現される。対照的に、IL-17B、IL-17C、IL-17D、およびIL-17Eは幅広い各種組織で発現される(Moseley et al., (2003) Cytokine & Growth Factor Rev. 14:155-174)。多くの成長因子同様、IL-17ファミリーのリガンドメンバーは堅く会合した二量体(IL-17B;Shi et al. (2000) J. Biol. Chem. 275 (25):19167-76)またはジスルフィド結合ホモ二量体(IL-17D;Starnes et al. J. Immunol.)として発現される。
【0015】
IL-17B(zcyto7、CX1、およびNERFとしても知られる)は、脊髄組織、具体的には神経細胞および背根神経節で強く発現され、気管で弱く発現される。このタンパク質のインビトロでの投与は、軟骨細胞および骨芽細胞の増殖を刺激する。この遺伝子は染色体5q32に位置している。このことは、米国特許第6,528,621号、同第6,500,928号、および同第6,630,571号において広範囲にわたって記載されており、その記載は参照により本明細書に組み入れられる。他の研究者は、成人の膵臓、小腸、胃での発現を報告し、それが単球細胞株からの腫瘍壊死因子α(TNF-α)およびインターロイキン1β(IL-1β)の発現を誘導しうると報告している(Li et al., (2000) PNAS 97:773-8)。
【0016】
C. 創傷治癒を促進するための現行法
感染またはその他の合併症を除く、通常の創傷治癒プロセスでは、組織機能の完全な回復を得られることが多い。古典的に医療は、創傷治癒を促進できるものに限定されてきた。これまで、このような行為は、初期創傷の清浄および創面切除、適切であれば創傷または移植皮膚の縫合、乾燥および感染を防止するための包帯による創傷手当、ならびに感染のリスクを低下させるための局部または全身のいずれかによる抗生物質の適用に限定されてきた。このような処置は、自然治癒プロセスの最適な状態を提供するように設計されている。
【0017】
動物モデルにおいて、多くのサイトカインおよび/または成長因子が、急性と慢性両創傷の創傷治癒プロセスを加速しうることが認められている。これらの由来因子には、血小板由来成長因子(PDGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、表皮成長因子(EGF)、造血コロニー刺激因子(CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、ならびに形質転換成長因子αおよびβ(TGF-αおよびTGF-β)が含まれる。加えて、IL-17B以外のインターロイキン(IL)、インスリン、インスリン様成長因子IおよびII(それぞれIGF-IおよびIGF-II)、インターフェロン(IFN)、KGF(Keratinocyte Growth Factor;ケラチノサイト成長因子)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、血小板由来内皮細胞成長因子(PD-ECGF)、ならびに幹細胞因子(SCF)を含む他の成長因子は、創傷治癒プロセスに関与する細胞型の活性化、増殖、および/または刺激を促進することができる。
【0018】
上記の各成長因子は、創傷治癒プロセスに大いに関与する細胞型、すなわち単球/マクロファージ、好中球、線維芽細胞、ならびに内皮および上皮細胞に対して分裂促進物質、阻害物質、または化学誘引物質として作用することができうるため、上記成長因子は広範囲にわたり動物の創傷治癒モデルにおいて研究されてきた。創傷治癒に関連して最も研究されている成長因子であるEGFは、創傷部位に反復して適用すると、表面創傷および熱傷の治癒を加速させることが見出されている。PDGFおよびTGF-βは、創傷ができた直後に切開部位に1回適用すると、切開創傷の治癒速度を増加させる。しかし、IL-17ファミリーのメンバーなどの他の因子の使用を記載した研究は文献に見出すことができない。
【0019】
したがって、本発明の目的は、創傷治癒プロセスを加速させるための方法を提供することである。正常に治癒すると考えられる創傷に関して、記載の方法はこのプロセスを加速させると考えられる。典型的に治癒しにくい創傷について、本方法はこれらの創傷の治癒もまた可能にすると考えられる。本方法は、損傷修復に要する時間を減少させるはずであり、したがって、創傷が治癒する際に耐えねばならない損傷に苦しむ時間を、短くするものと考えられる。
【発明の概要】
【0020】
本発明は、治療的有効量のIL-17Bを患者の創傷領域に投与することにより、損傷患者における加速された創傷治癒を促進する方法を提供する。これは、コラーゲンベースのクリーム、フィルム、マイクロカプセル、または粉末;ヒアルロン酸またはその他のグリコサミノグリカン由来の調製物;クリーム、フォーム(foam)、縫合材料;および創傷包帯(wound dressing)を含む様々な材料に治療剤を組み込むことにより達成することができる。または、治療剤は、局所投与用に設計された薬学的に許容される溶液に組み込んでもよい。さらに、治療剤は非経口投与用に製剤化してもよい。
【0021】
本発明の方法は、切開損傷、圧迫損傷、熱損傷、急性損傷、慢性損傷、感染損傷、および無菌損傷における創傷治癒を加速させるのに有効である。
【0022】
加えて、IL-17Bは、以下のタンパク質の少なくとも1つを含む混合剤に組み込むこともできる:GM-CSF、CSF、EGF、FGF、G-CSF、IGF-I、IGF-II、インスリン、インターフェロン、インターロイキン、KGF、M-CSF、PD-ECGF、PDGF、SCF、TGF-α、およびTGF-β。これらの混合剤はまた、損傷を受けた患者における加速された創傷治癒を促進するのに有効である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】2つの時点での、野生型およびIL-17B(zcyto7)ノックアウトマウスでの、創傷の周囲における、増加した発赤の出現に関するグラフ表示である。
【図2】野生型と比較した場合のノックアウトマウスにおける、様々なサイトカイン/成長因子のRNAレベルでの過剰発現を倍率(fold)で示す。
【図3】野生型と比較した場合のノックアウトマウスにおける、完全に分化した正常表皮に関連付けられる様々な遺伝子のRNAレベルでの過小発現(underexpression)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
詳細な説明
典型的な創傷は局部的であるため、創傷の修復をもたらすのに必要な細胞型を、損傷領域内および損傷領域周辺に集めねばならない。したがって、これらの細胞型の創傷治癒活性を促進するのに必要な因子は、負傷領域に存在していることが好ましい。これらの目標を達成するためには、ポリペプチドの局所的な送達が最も効率的な方法である。
【0025】
本発明は、IL-17Bが特に局所的に、すなわち創傷部位表面に投与された場合、全ての型の創傷に関して創傷治癒プロセスを加速させることができるという発見に基づいている。そのように送達されると、機械的、熱、慢性または急性、感染または無菌の全ての型の創傷は、自然治癒のまま、または現在可能な方法で処置される同様の創傷と比べて、より急速な治癒を経る。しかし上述の通り、創傷治癒プロセスにおいて役割を有するポリペプチドの非経口投与もまた、本発明により構想されるものである。
【0026】
本発明によると、「損傷」という用語は、患者の皮膚表面から下層組織内に及ぶ創傷として定義されるものとし、実際に損傷は、創傷の入口と出口の両方を残して、患者を完全に通過してもよい。「患者」とは、上記に定義した損傷を被った動物を指す。「治療剤」とは、加速された創傷治癒など、治療的に望ましい結果をもたらす化合物を意味する。本発明において、治療剤はIL-17B(zcyto7)である。加えて、「治療剤」という用語は、以下の化合物の少なくとも1つと組み合わせたIL-17Bの組み合わせを指す:CSF、EGF、FGF、IGF-I、IGF-II、インスリン、インターフェロン、インターロイキン、KGF、M-CSF、PD-ECGF、PDGF、SCF、TGF-α、およびTGF-β。ここで、「加速された創傷治癒」とは、本発明に従って治療剤を投与した結果、治療剤で処置を受けていない創傷と比べてより急速に起こる創傷治癒プロセスとして定義される。
【0027】
CSFは造血を制御するホルモン様糖タンパク質であり、骨髄に見出される正常造血前駆細胞のクローン増殖および成熟に必要とされる。これらの因子は多くの組織で産生される。ヒト供給源から単離された4つのCSFが同定されている: 顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)[Welte et al., (1985) Proc. Nat. Acad. Sci. USA, vol. 82:1526-30];顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)[Cantrell et al., (1985) Proc. Nat. Acad. Sci. USA, vol. 82:6250-54];マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF);およびマルチコロニー刺激因子(multi-colony stimulating factor)(multi-CSF、インターロイキン-3とも呼ばれる)[Nicola et al., (1984) Proc. Nat. Acad. Sci. USA, vol. 81:3765-69]、それぞれは、特定の未成熟前駆細胞型の成熟細胞への分化を引き起こす。加えて、これらの因子は成熟細胞型の維持にもまた必要とされる。インビトロにおいては、適切なCSFを培地から抜くと、CSFに依存する最終分化造血細胞の急速な変性が引き起こされる。IL-17Bと組み合わせることができる2つの特定のCSFは、G-CSFおよびGM-CSFである。
【0028】
EGFはポリペプチド成長因子である(プロセシングを受けた成熟形態はアミノ酸53個の長さである(Gray et al., (1983) Nature, vol. 303:722-25))。ヒトでは、このタンパク質は胃酸分泌を阻害し、一方でマウスEGFは、内皮細胞、上皮細胞、および線維芽細胞様細胞(fibroblastic cell)を含む多くの細胞型に対して分裂促進性であることが知られている(Nakagawa et al., (1985) Differentiation, vol. 29:284-88)。
【0029】
FGFは、強力な抗凝固性のヘパリンに堅く結合する、サイズが14〜18kDの単鎖タンパク質のファミリーを含む。酸性および塩基性の2つのFGF型が報告されている。アミノ酸146個の塩基性型(bFGF)は、酸性FGF(aFGF)と比べてより安定であり、線維芽細胞、内皮細胞、およびケラチノサイトなどの中胚葉細胞を刺激する場合、10倍強力である。Esch et al., (1985) Proc. Nat. Acad. Sci. USA, vol. 85:6507-11を参照のこと。
【0030】
インスリンは、膵島の細胞により分泌されるタンパク質ホルモンである。インスリンは、グルコース、アミノ酸、脂肪酸、およびケトン体の血中レベルの上昇に反応して分泌され、細胞膜を横断する代謝産物およびイオンの輸送を調節し、かつ様々な細胞内生合成経路を制御することにより、グルコース、アミノ酸、脂肪酸、およびケトン体の効率的な貯蔵および細胞燃料としての使用を促進する。インスリンは、グルコース、脂肪酸、およびアミノ酸の細胞へのエントリーを促進する。加えて、グリコーゲン、タンパク質、および脂質の合成を促進し、一方でグルコース生成、グリコーゲン変性、タンパク質異化、および脂肪分解を阻害する。インスリンは2つのジスルフィド架橋によって連結されたαおよびβサブユニットからなる。
【0031】
IGF-IおよびIGF-IIは、成長ホルモンの効果を仲介する成長ホルモン依存性ファミリーのメンバーである。これらのタンパク質は骨格成長の制御に重要であることが知られている。両分子とも、インスリンに近い構造相同性を有し、同様の生物活性をもつ。IGF-Iはプロインスリンと43%のアミノ酸配列相同性を共有し、一方でIGF-IIはIGF-Iと60%の相同性を共有する。IGFは、哺乳動物の血漿中に検出可能な遊離IGF種が本質的に存在しないという点で、本明細書に記載の他のタンパク質と比較していくぶん独特である。代わりに、IGFは高分子量の特定の担体血漿タンパク質に結合する(Ooi et al., (1988) J. Endocr., vol. 118:7-18)。IGF種の両方ともDNA、RNA、およびタンパク質の合成を刺激し、いくつかの細胞型の増殖、分化、および走化性に関与する。IGF-Iの局部投与は末梢神経の再生を刺激することが知られている。加えて、IGF-IおよびPDGFをブタの創傷に局所投与すると、相乗作用を示し、いずれかの因子を単独で投与する場合と比べて、より有効な治癒を促進する(Skoffher et al., (1988) Acta. Paediatr. Scand. (Suppl), vol. 347:110-12)。
【0032】
インターフェロンは、広範なウイルスの感染に対して細胞を抵抗性にするタンパク質として最初に同定された。α-IFN、β-IFN、γ-IFNの3つのインターフェロン型が同定されており、T細胞およびNK(natural killer;ナチュラルキラー)細胞によって産生される。α-IFNは15程度の密接に関連したタンパク質のファミリーからなり、一方でβ-IFNおよびγ-IFNは1つの種として存在している。加えて、既知の全α-IFNサブタイプ間の共通性領域を組み込むように設計された、合成コンセンサスα-IFNが、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,897,471号に記載されている。全てのIFNは、リンホカインカスケードにおいて重要な役割を果たす成長阻害分子である。それぞれが、正常細胞、癌細胞、および宿主免疫防御細胞において広範な制御作用を発揮する。γ-IFNの活動には、貪食および腫瘍殺傷能を増強するためのマクロファージ活性化が含まれる。現時点では、これらのタンパク質は主に癌治療において使用されている(Balkhill et al., (1987) Lancet, pg:317-18)。
【0033】
KGFは、正常間質線維芽細胞により分泌される上皮細胞特異的分裂促進物質である。インビトロにおいては、ヒトケラチノサイトの増殖を刺激する場合、EGFと同程度強力であることが示されている(Marchese et al., (1990) J. Cell Physiol., vol. 144, No. 2:326-32)。
【0034】
CSF-1としても知られるM-CSFは、マクロファージ前駆細胞に単独で作用するホモ二量体のコロニー刺激因子である。このマクロファージ系列特異的タンパク質は、線維芽細胞および間質細胞株によってインビトロで構成的に産生される。インビボでは他のCSFと異なり、M-CSFは胚発生早期に出現し、これは、このポリペプチドの潜在的な発生上の役割を示唆する(DeLamarter, J., (1988) Biochemical Pharmacology, vol. 37, No. 16:3057-62)。
【0035】
PD-ECGFは、分子量約45kDを有する血小板由来内皮細胞分裂促進物質である。内皮細胞分裂促進物質であるFGFファミリーとは対照的に、PD-ECGFはヘパリンに結合もしなければ、線維芽細胞増殖の誘導もしない。しかし、PD-ECGFは、インビトロでの内皮細胞の成長および走化性、ならびにインビボでの血管新生を刺激する(Ishikawa et al., (1989) Nature, vol. 338:557-61)。
【0036】
PDGFは、線維芽細胞および平滑筋細胞のような間葉細胞型に対する強力な刺激物質であるが、上皮細胞または内皮細胞の成長は刺激しない(Ross et al., (1986) Cell, vol. 45:155-69)。PDGFは低濃度で、線維芽細胞に対する化学誘引物質として作用し、単球および好中球に対する化学誘引物質および活性化シグナルとしても作用する(Deuel et al., (1982) J. Clin. Invest., vol. 69:1046-49)。
【0037】
SCFは、初期造血前駆細胞、神経幹細胞、および始原生殖幹細胞の成長を刺激する新規の細胞成長因子である(1990年9月28日出願のPCT/US90/05548)。SCFは、コロニー刺激因子と協同して強力な相乗活性を呈し、その結果コロニーの数およびより大きいサイズのコロニーの数が増加する(Martin et al., (1990) Cell, vol. 63:203-11)。したがって、単独か、または他のコロニー刺激因子もしくは他の造血成長因子と組み合わせた、薬理学的用量でのSCFの動物への投与は、多岐にわたる器官系において、障害を受けた細胞を改善することにつながりうる。
【0038】
TGF-αおよびTGF-βは相乗的に作用し、特定の癌細胞株の足場非依存的な成長を誘導する。TGF-βはジスルフィド連結ホモ二量体タンパク質のクラスからなり、各鎖はアミノ酸112個から構成される(Sporn et al., (1987) J. Cell Biol., vol. 105:1039-45)。この二量体タンパク質は、使用するアッセイに応じて、有糸分裂誘発、成長阻害、および分化誘導などの多くの生物学的効果をもたらす。TGF-β1は創傷治癒に関連して最も研究されているTGF-β種である(Ten Dijke、前記)。クラスとしては、TGF-βが単球および線維芽細胞の強力な化学誘引物質である。
【0039】
「局所投与」は、創傷および近傍上皮の表面への治療剤の送達として定義されるものとする。「非経口投与」は、患者への注射による治療剤の全身性送達である。本発明の趣旨の範囲内での治療剤の「治療的有効量」は、患者の担当医または獣医により決定されると考えられる。そのような量は、当業者によって容易に確定され、本発明に従って投与すると、加速された創傷治癒が可能となると考えられる。治療的有効量に影響を与える因子には、使用する治療剤の特定の活性、創傷の種類(機械的または熱的、全層または中間層など)、創傷のサイズ、創傷の深さ(全層の場合)、感染の有無、損傷を負ってからの経過時間、ならびに患者の年齢、身体の状況、他の病態の存在、および栄養状態が含まれる。加えて、患者が受けうる他の薬物療法によって、投与する治療剤の治療的有効量の決定がもたらされると考えられる。「薬学的に許容される」とは、治療剤に加えて、製剤を構成する構成要素が、本発明に従って治療される患者への投与に適していることを意味する。
【0040】
本発明によると、「創傷包帯」は、創傷を被覆および防護するのに利用される任意の様々な材料である。例としては、閉鎖包帯、絆創膏(adhesive dressing)、防腐包帯、保護包帯が含まれる。薬学的調製物において、「クリーム」は、局所投与に適した水中油型または油中水型の半固形乳剤である。本発明によると、使用するクリームおよびフォームはまた、本明細書に記載の治療剤と共に使用するのに適していると考えられる。
【0041】
IL-17Bは、本発明の教示の通りに治療的有効量で投与すると、全ての型の創傷において創傷治癒プロセスを有意に加速させる。自然の創傷システムでは、IL-17Bなどの細胞外成長因子が律速な量で存在しうる。したがって、そのような因子の非経口および/または局所投与は加速された創傷治癒を促進しうる。
【0042】
インビトロでは、IL-17Bは、軟骨細胞および骨芽細胞の増殖を刺激することが知られている。これはまた、TGF-αおよびIL-1βなどの他のサイトカインの発現を誘導しうる。インビボでは、外因性IL-17Bの投与は、損傷に応答する生物体の能力を増強すると考えられている。
【0043】
比較可能なまたは増強されたインビボ生物活性を有する任意のIL-17B類似体を、本発明の方法に従って使用することができる。好ましくは、IL-17Bは、類似体を産生するための、分子を変化させる組換え方法によって産生される。そのような類似体は、天然のタンパク質の一次構造におけるアミノ酸の欠失、挿入、または置換により作製されてもよく、またはペグ化などのタンパク質の化学修飾により作製されてもよい。例えば、原核宿主微生物においてこれらのポリペプチドの発現を可能にするためには、翻訳の開始に開始メチオニンコドンが必要である。他の類似体は、より高いインビトロおよび/またはインビボ生物活性を有してもよく、より高いpHまたは温度安定性を呈してもよく、より広い範囲の環境条件にわたって生物活性を維持してもよく、またはインビボでのより長い半減期またはクリアランスを有してもよい。
【0044】
商業的な薬学的適用に向けたIL-17Bの十分な量を製造するためには、これらのタンパク質は一般に、組換え宿主細胞の発現産物として産生される。IL-17Bの生物学的に活性な形態は、これらのポリペプチドをコードする適切な発現ベクターによって大腸菌(E. coli)などの原核宿主を形質転換し、外因性の遺伝子を発現させる条件下で成長させた場合に、そのような宿主から大量に回収できることが知られている。したがって、この方法で産生されたIL-17Bを利用するのが好ましい。
【0045】
組換えIL-17Bは、患者への投与に適した薬学的製剤に製剤化される。当業者には正しく認識されるように、そのような製剤は薬学的に許容されるアジュバントおよび希釈剤を含んでもよい。全身に投与する場合、治療剤の治療的有効量は、非経口経路、すなわち皮下注射、静脈内注射、筋肉内注射、または腹腔内注射により送達される。非経口注射による創傷処置は、その損傷の種類、重篤度、および位置を含む様々な因子に応じて、治療剤の単回投与、複数回投与、または連続的な投与のいずれかを伴いうる。
【0046】
投与される局所的なIL-17Bの量は当業者により決定されうるが、最も効果のある範囲が約10〜約75μg/cm2になるとの予想とともに、約0.05〜約100μg/cm2の範囲のIL-17Bが予想されると考えられる。好ましい態様では、投薬量は50μg/cm2である。非経口のような、すなわち筋肉内または皮下などの他の投与様式は、より少量であり、かつ患者の体重1kgあたりのμgに基づくことが予想される。
【0047】
本発明の好ましい態様では、組換えIL-17Bは、患者における加速された創傷治癒を促進するよう、創傷部位に局所投与すべきである。この局所投与は、単回投与としてもよく、または複数の指定の間隔をおいた反復投与としてもよい。好ましい投薬計画が、治療される損傷の種類および重篤度により変化することは当業者には容易に正しく認識されると考えられる。例えば、外科的切開創傷は、損傷を負わす物体から組織へわずかなエネルギーが伝達するときに、周囲組織にわずかな障害をもたらす。治療剤の単回の局所投与は、治療されていない同一の創傷と比べて、有意に、より急速な治癒をもたらすことが見出されている。感染があり、かつ慢性的に肉芽を形成している創傷では、治療剤の毎日の反復適用によって、治療を受けていない同様の創傷と比べて、より急速な創傷治癒がもたらされることが見出されている。既に糖尿病を患う患者においては、患者はグルコース不均衡によって皮膚損傷に対してより感受性であるため、IL-17Bが特に有用であると考えられる。
【0048】
純粋または実質的に純粋な化合物として、すなわちいかなる薬学的製剤中にも組み込まれていない化合物として治療剤を投与することができるが、それよりも、治療剤は、薬学的製剤または組成物中に存在させるのが好ましい。そのような製剤は治療的有効量の治療剤を、1つまたは複数の薬学的に許容される担体および/またはアジュバントと共に含む。使用される担体には、製剤中の他の成分に対する適合性がなければならない。好ましくは、製剤は、酸化もしくは還元剤、または記載のポリペプチドに対して不適合性であることが知られる他の物質は含まないと考えられる。全ての製剤化方法は、生物学的活性成分を、担体および/またはアジュバントと会合させる段階を含む。一般に、本発明の治療剤は、作用物質を、液体担体、微細に分割した(finely divided)固体担体、またはその両方と会合させることにより、製剤化されると考えられる。
【0049】
本発明による局所投与に適した製剤は、治療的有効量の治療剤を、1つまたは複数の薬学的に許容される担体および/またはアジュバントと共に含む。水性またはコラーゲンベースの担体媒質は、本発明に記載の治療剤の局所投与に好ましい。製剤を投与するが1回の場合は、コラーゲンベースの担体媒質が好ましい。そのような媒質の例としては、Zyderm.RTM.(Collagen Corp., Palo Alto, Calif.)がある。治療する創傷に対して、指定の間隔で治療剤を複数回投与することが必要である場合は、薬学的に許容される水性媒質を送達のために利用するのが好ましい。しかし、創傷の処置に慣例的に用いられる様々な材料中に治療剤を組み込むことも可能である。そのような材料にはヒアルロン酸または他のグルコサミノグリカン由来の調製物、縫合物、創傷包帯が含まれる。
【0050】
本発明に従って使用される治療剤が1つより多くのタンパク質からなる場合、得られる混合剤は、ただ1つのポリペプチドを治療剤として含む製剤と同じ様式で一般に投与される。
【0051】
創傷治癒領域におけるIL-17Bの1つの特定の使用は、化学療法に関連付けられる粘膜炎の処置における使用である。粘膜炎は、消化管、特に口腔の内壁に存在する急速に分裂した上皮細胞が、癌の処置によって破壊された場合に起き、粘膜組織が潰瘍形成および感染に対して無防備な状態となる。粘膜炎は、口から肛門までの消化管に沿ってどこにでも生じる可能性がある。口の粘膜炎は、癌の手術、化学療法、および放射線照射におけるおそらく最も一般的な消耗性の合併症である。これは、化学療法のみにより処置された患者の20〜40%、および放射線照射と化学療法の併用を受けている患者の最大50%に起こり、特に頭頚部癌を有する患者に起こる。ドキソルビシン、パクリタキセル、およびカペシタビンなどの薬物は、一般に乳癌において使用され、口および消化管の粘膜炎に関連付けられることが多い。粘膜炎の予後(consequence)は、ほとんど介入を必要としない軽度のものから致命的な合併症を生じうる重篤なもの(血液量減少、電解質異常、および栄養不良)まで存在しうる。実施例において後述するIL-17Bノックアウトマウスに対する創傷治癒効果に基づくと、化学療法または放射線照射療法を受けている患者に対するIL-17Bの投与は、そのような症候群を予防的に防ぐか、または癌の処置が原因で粘膜炎を患う状態からの治癒を促進させると考えられる。
【0052】
IL-17Bのさらなる特定の使用は、圧迫潰瘍の処置および/または予防である。圧迫潰瘍は、患者が体重を移動させることなく長時間1つの姿勢のままでいる場合に破壊される皮膚の領域である。これは、車椅子を使用する患者または寝たきりの患者では、短期間であっても(例えば手術または損傷後)よくあることである。皮膚に対する持続的な圧力は、その領域への血液供給を減少させ、影響を受けた組織は死滅する。圧迫潰瘍は、発赤皮膚として始まるが、しかし徐々に悪化し、水疱、その後開放性の爛れ(open sore)、最終的にはクレーターを形成する。圧迫潰瘍の最も一般的な場所は、肘、踵、腰、足首、肩、背中、および後頭部のような骨ばった隆起(皮膚に近い骨)にわたって存在する。実施例において後述するIL-17Bノックアウトマウスに対する創傷治癒効果に基づくと、圧迫潰瘍のリスクがある患者に対するIL-17Bの投与は、そのような爛れを予防的に防ぐか、または既に圧迫潰瘍を患う状態からの治癒を促進させると考えられる。
【0053】
IL-17Bの追加的な使用は、炎症性腸疾患(IBD)の処置におけるものである。IBDとは、腸の炎症をもたらす2つの慢性疾患である、潰瘍性大腸炎およびクローン病を指す。疾患は共通したいくつかの特徴を有するが、いくつかの重要な違いがある。潰瘍性大腸炎は、結腸とも呼ばれる大腸の炎症性疾患である。潰瘍性大腸炎では腸の内側の内壁−または粘膜−が炎症を起こし、潰瘍を生じる。潰瘍性大腸炎は、直腸領域において最も重篤となることが多く、常習的な下痢をもたらしうる。結腸の内壁が障害を受けると、粘液および血液がしばしば糞便中に現れる。クローン病は、疾患が関わる腸の領域が潰瘍性大腸炎とは異なり、最も一般的には小腸の終わりの部分、末端回腸、および大腸の部分が冒される。しかし、クローン病は、それらの領域に限定されず、消化管のいずれの部分をも攻撃しうる。クローン病は、潰瘍性大腸炎と比較して、腸壁の層のより深部に及ぶ炎症を引き起こす。クローン病は概して腸壁全体に関わる傾向があり、一方で、潰瘍性大腸炎は腸の内壁のみを冒す。実施例において後述するIL-17Bノックアウトマウスに対する創傷治癒効果に基づくと、潰瘍性大腸炎およびクローン病を有する患者に対するIL-17Bの投与は、それらの患者の腸管に存在する障害からの治癒を促進させると考えられる。
【0054】
IL-17B処置は、上皮の修復および/または増殖が調節不全となっている疾患の処置に有用でもありうる。そのような疾患の一例は乾癬である。乾癬は非伝染性で終生の皮膚疾患である。国立衛生研究所(National Institutes of Health)によれば、750万人もの米国人が乾癬を有している。最も一般的な形態であるプラーク乾癬(plaque psoriasis)は、隆起した赤い斑として、または鱗屑と呼ばれる死滅した皮膚細胞の銀白色の沈着物で覆われた病変として現れる。鱗屑の生成は、表皮における通常の創傷治癒反応の調節不全の結果であると考えられる。乾癬は、免疫システムが身体に対し、過剰反応して皮膚細胞の成長を加速させるよう命令した場合に、発症すると考えられる。通常、皮膚細胞は成熟し、かつ28〜30日毎に皮膚表面から脱落する。乾癬が発症した場合、皮膚細胞は3〜6日で成熟し、皮膚表面へと移動する。皮膚細胞は、脱落する代わりに積み重なり、可視的な病変が生じる。特に、IL-17Bのアンタゴニストは、皮膚細胞の成長周期のこの調節不全を処置するのに有用でありうる。
【0055】
本発明を以下の非限定的な実施例によってさらに説明する。
【0056】
実施例1
野生型またはIL-17B(zcyto7)ホモ接合体ノックアウトマウスをイソフルランで麻酔し、背を剃って除毛した。24時間後、マウスをイソフルランで麻酔し、背をポビドンヨードおよびイソプロピルアルコールのパッドで清浄した。動物には0.5cm2または1cm2の1つまたは2つのいずれかの全層創傷を負わせた;これらは、背側の全層皮膚片を外科的に切除することにより、いずれか一方の側腹上に引き起こした。創傷領域にはその後、Johnson & Johnsonの生物閉鎖(Bioocclusive)包帯を施し、これらの包帯は3日で取り除いた。動物は毎日試験し、創傷のサイズおよび身体的外見を査定した。様々な時間点で0.5cm2の創傷の周囲の皮膚領域1cm2を外科的に切除し、これらの試料を、組織学的な評価用にホルマリン固定で処理するか、またはRNA単離用に液体窒素で急速凍結した。様々な時点で最終的なサイズおよび外見の観察を行った。動物はその後安楽死させ、両方の創傷の周囲皮膚を、組織学的な評価用および実施例2に記載されるRNA単離用に収集した。
【0057】
組織学的な評価のために、試料をパラフィンで包埋し、標準的な技法により、ヘマトキシリンで染色し、かつエオシンで対比染色した。その後、光学顕微鏡により、これらの切片を評点付けした。1つの研究では、IL-17B(zcyto7)ノックアウトマウスの組織学的評価から、肉芽組織の減少および創傷床領域への上皮移動の低下が示された。これはノックアウト動物における治癒反応の低下と一致する。
【0058】
2つの別々の創傷治癒実験からの創傷床の視覚的査定もまた、IL-17B(zcyto7)ノックアウトマウスが、創傷後早い時点と遅い時点の両方で、創傷床の周囲組織に腫張および発赤の増加を呈することを示した。このことは、炎症反応がこの動物で増大しかつ持続したことを示唆する。図1は、これらの実験の1つの観察結果をグラフで表示する。図に示す通り、野生型対照と比較した場合に、ノックアウトマウスのより高い割合が、両時点での創傷周辺の異常な発赤を呈する。
【0059】
実施例2
実施例1の観察実験は、RNAに基づく発現測定により支持された。野生型およびノックアウトマウスからの正常組織および創傷組織における293個の遺伝子の発現について、マルチプレックスアプローチを用いて試験した。マウスの皮膚組織試料のマルチプレックス遺伝子発現アッセイは、本質的には、Yangら(Yang et al.,「BADGE, BeadsArray for the Detection of Gene Expression, a High-Throughput Diagnostic Bioassay」, GenomeResearch, 11:1888-1898 (2001))によって記載された通りに実施した。全RNAを標準的なフェノール:クロロホルム抽出プロトコルを用いて組織から調製し、Ambion MessageAmp aRNA増幅キット (Ambion, Inc. Austin, TX)を用いて、ビオチン化UTPおよびCTP(PerkinElmer Life Sciences, Boston, MA)を組み込んだアンチセンスRNA(aRNA)に転換した。aRNAは260nmの吸光度で定量した。
【0060】
遺伝子特異的なセンスオリゴヌクレオチド(25mer)を5'-アミノユニリンカー(5'-amino uni-linker)を用いて合成し、製造元のプロトコル(Luminex Corp., Austin, TX)に従ってLuminex xMAPカルボキシル化マイクロスフェア(carboxylated microsphere)にカップリングさせた。遺伝子特異的な各オリゴヌクレオチドは、別個の色付き/番号付きマイクロスフェアにカップリングさせた; 1回の反応でオリゴヌクレオチド1nmolを2.5×106個のマイクロスフェアにカップリングさせ、10nM Tris/0.1mM EDTA、pH 8.0の100μlに懸濁した。血球計算盤を用いてマイクロスフェアの力価を求めた。
【0061】
捕捉プローブをカップリングしたマイクロスフェアへのaRNAのハイブリダイゼーションについては、各遺伝子につきマイクロスフェア5,000個をプールし、混合し、あらかじめ94℃で35分間加熱することにより無作為に断片化しておいたaRNA 10μgを有するハイブリダイゼーション緩衝液60μlに懸濁した。試料は60℃で4〜5時間、常に混合しながらハイブリダイズさせた。ハイブリダイゼーションは3M 塩化テトラメチルアンモニウム(TMAC)(Sigma, St. Louis, MO)、50mM Tris pH 8.0、および4mM EDTA、pH 8.0中で実施した。続いて、真空マニホールドにて洗浄して未結合のaRNAを取り除き、混合物をストレプトアビジン-R-フィコエリスリン結合体と共に400RPMで振盪しながら15分間、室温でインキュベートし、洗浄し、洗浄緩衝液(1×PBS、1mM EDTA、0.01%Tween 20)75μlに再懸濁した。
【0062】
マイクロスフェアをLuminex 100 xMAPシステム(Luminex Corp., Austin, TX)にて分析し、個別に色付けしたマイクロスフェアの各セットにつき少なくとも200種類の事象を分析した。
【0063】
多くの遺伝子では、研究過程の間、野生型とノックアウトマウスの間で差次的ないかなる強固な発現も示されなかった。しかし、ノックアウト動物では、組織中の多くのサイトカインおよびケモカイン遺伝子について転写の上方制御が示された。創傷後7日目にプロファイリングした42個のサイトカインまたはケモカインの転写のうち36%は、野生型と比較してノックアウトで2倍を上回る上方制御を呈した。これらはTNF-α、IL-6、IL-1β、IL-20(zcyto10)、IL-22(zcyto18)、およびIL-31(zcytor17lig)を含んでいた。創傷後7日目にこれらの遺伝子の上方制御があった試料データのセットを図2に示す。
【0064】
ノックアウト組織における炎症性サイトカインの過剰発現とは対照的に、完全に分化した表皮に関連付けられる転写物の発現量不足(under-representation)があった。これは、IL-17B(zcyto7)ノックアウト環境において、完全に分化した表皮の形成が遅延したことを示唆する。特に、分化した表皮に全て関連付けられるケラチン1(KRT1)、ケラチン10(KRT10)、およびインボルクリン(IVL)が、野生型動物と比較してノックアウトで発現量不足であった。加えて、ケラチノサイトの可動化および創傷環境でのその移動に必要であることが以前に報告されているケモカインである、CXCL11の発現低下もあった。完全に分化した表皮に関連付けられる転写の下方制御があった試料データのセットを図3に示す。
【0065】
実施例3
皮膚リーシュマニア症のマウスモデルは、本質的に、Current Protocols in Immunology, David Sacks and Peter Melby, Chapter 19.2.1-19.2.20 (1998)の「Animal models for the analysis of immune responses to leishmaniasis」に記載された通りに実施した。このモデルを用いて創傷治癒におけるzcyto7の役割を調査した。
【0066】
歴史的に、皮膚L.メジャー(L. major)感染に対する感受性は、感染部位の慢性および進行性腫脹、Th2反応の発生(低いIFN-g:IL-4産生比;高レベルのIL-4産生)、ならびに高レベルのIL-10産生、血清IgEレベルの上昇、ならびにL.メジャーの全身播種に関連付けられてきた。皮膚L.メジャー感染に対する抵抗性は、最終的に治癒する感染部位の急性腫脹、Th1反応の発生(高いIFN-g:IL-4産生比)、血清IgEの不在、および感染部位へのL.メジャーの封じ込めに関連付けられてきた。
【0067】
最近の刊行物では、L.メジャーに対するCD4+ T細胞反応(Th1対Th2)は、皮膚L.メジャー感染のマウスモデルにおける抵抗性対感受性を決定するただ1つの因子ではないことが示されている。例えば、最近では、なぜいくつかのマウス系統はTh1反応の発生を含むL.メジャー抵抗性であるのに、より重篤かつ遷延性の腫脹を感染部位で発症するのかを説明するために、創傷治癒における遺伝子欠陥が示唆されている(Sakthianandeswaren et al., (2005) PNAS 102 (43):15551-15556)。または、感染部位への好中球動員の欠陥により、C57Bl/6マウスでは、同様のL.メジャー疾患表現型がもたらされうる(Ribeiro-Gomes et al., (2004) J. Immunol. 172:4454-4462)。
【0068】
全てのマウスをメスとし、齢数を一致させた。C57Bl/6コンジェニックホモ接合体zcyto7野生型およびzcyto7遺伝子標的(「zcyto7ノックアウト」)マウスを施設内のストックから得た。zcyto7コンジェニック系は、ホモ接合体zcyto7ノックアウトマウス(OzGene, Bentley, Australia)とC57Bl/6マウスの施設内での戻し交配により得た。C57Bl/6およびBALB/c対照マウスはCharles River Laboratories, Wilmington, MAから購入した。
【0069】
リーシュマニア・メジャー(Leishmania major)(L.メジャー、WHOM/IR/-/173系統)を凍結ストックからインビトロで培養した。感染性L.メジャーのプロマスチゴートをPNA選択により調製した。PNA選択は、培養プロマスチゴート(4×108/ml)をPNAコーティングアガロースビーズ(1:20希釈;Sigma, St. Louis, MO)と共にインキュベートし、続いて、差次的沈降によりPNA結合プロマスチゴートをペレット化することにより実施した。上清中の遊離のプロマスチゴートを収集し、洗浄し、計数し、マウス感染に適切な濃度でPBSに再懸濁した。
【0070】
マウス(n=5/群)は、0日目のモデルに対して、一方の後脚の足蹠にPBS 30ul中1×106の感染性L.メジャープロマスチゴートを皮下注射した。疾患の進行は、12週間にわたって毎週、足蹠厚を計測ノギス(metric caliper)で測定し、体重を実験用秤で測定し、目視による足蹠病変の臨床スコアリングを行うことにより経過観察した。臨床スコアリング:0=病変なし、1=1mm未満の開放性病変、2=足蹠の一部を覆う開放/壊死性病変(〜1から4mm)、3=足蹠の大部分を覆う開放/壊死性病変(4mmを上回る)。モデルは2日前(day -2)、6週目、12週目に眼採血(eye-bleed)によって血清を収集した。指定の時点でマウスを屠殺し、血清、脾臓、および排出膝窩(draining popliteal)リンパ節をインビトロ分析用に収集した。BALB/cマウスは、感染後6週目、その時点でL.メジャー疾患が重篤であったため、屠殺し、血清を収集した。BALB/cマウスからは、インビトロ分析用の脾臓およびリンパ節を収集しなかった。
【0071】
L.メジャー溶解産物抗原は、PBS中のL.メジャープロマスチゴートの無菌高濃度懸濁液を繰り返し凍結融解し、続いて、高速遠心分離により残屑を取り除いて調製した。溶解産物上清は、使い切りのアリコートで-80℃に保存した。生存L.メジャーが残存していないことは、顕微鏡検査およびインビトロ培養により確認した。タンパク質濃度はBCAキット(Pierce)を用いて推定した。インビトロT細胞刺激用の溶解産物の最適希釈は、 [3H]取り込みの予備実験で確認した。
【0072】
脾臓およびリンパ節のリンパ球の単一細胞懸濁液を培養培地(RPMI+10%FCS)中で調製した。マウス各群から脾臓およびリンパ節の細胞(5×105/ウェル)をプールし、平底96ウェルプレートにて、L.メジャー溶解抗原(1:100および1:200希釈)またはConA(0.5ug/ml)のいずれかの培地を入れてウェル3つ組とし、37℃で培養した。製造元の使用説明書に従いLuminexキットを用いてサイトカインレベルを分析するために、細胞上清を48時間で収集した。さらに12時間、1uCi/ウェルの[3H]-チミジンと共に細胞をパルス処理し、その後、TopCountベータカウンターを用いて取り込まれた[3H]のCPMを分析するために、細胞を収集した。マウス各群に対する各抗原について、平均CPMとしてデータをプロットした。
【0073】
L.メジャー特異的な血清IgG1およびIgG2aの相対レベルをELISAにより定量した。ELISAプレートをPBS中のL.メジャー抗原(3.4ug/ml)で一晩コーティングした。プレートをPBS+1%BSAでブロッキングし、洗浄し、その後PBS+1%BSAで連続希釈した血清試料と共に2〜3時間インキュベートした。プレートは、ビオチン化ヤギ抗マウスIgG1またはIgG2a抗体(Southern Biotech, Brmingham, AL)、ストレプトアビジン-ホースラディッシュペルオキシダーゼ結合体(Jackson Immunoresearch, West Grove, PA)、およびHRP基質(TMB One Solution;Promega, Madison, WI)との連続1時間のインキュベーションにより展開させた。発色は0.1N HClの添加により停止させた。各ウェルの吸光度を450nmおよび630nmの両方においてSpectra MAX 190 ELISAプレートリーダー(Molecular Devices, Sunnyvale, CA)を用いて読み取った。データは、Y軸を[A450−A630]、対してX軸を血清の1/希釈としてプロットした。
【0074】
血清総IgEの相対レベルをELISAにより定量した。ELISAプレートをIgE特異的ヤギ抗マウスIgE抗体(Southern Biotech, Birmingham, AL)で一晩コーティングした。プレートをPBS+1%BSAでブロッキングし、洗浄し、その後PBS+1%BSAで連続希釈した血清試料と共に2〜3時間インキュベートした。プレートは、ビオチン化ヤギ抗マウスIgE抗体(Southern Biotech, Birmingham, AL)、ストレプトアビジン-ホースラディッシュペルオキシダーゼ結合体(Jackson Immunoresearch, West Grove, PA)、およびHRP基質(TMB One Solution;Promega, Madison, WI)との連続1時間のインキュベーションにより展開させた。発色は0.1N HClの添加により停止させた。各ウェルの吸光度を450nmおよび630nmの両方においてSpectra MAX 190 ELISAプレートリーダー(Molecular Devices, Sunnyvale, CA)を用いて読み取った。データは、Y軸を[A450−A630]、対してX軸を血清の1/希釈としてプロットした。
【0075】
対照BALB/cマウスは、この系統について予想された通り、L.メジャーに対して感受性であり、重篤/進行性のL.メジャー疾患を発症した。進行性疾患の兆候には、解消しない感染足蹠の進行性腫脹、感染足蹠における大きな開放性病変の発生、および経時的な体重増加不良が含まれた。このマウスはまた、血清中、高レベルの総IgEを有していた。
【0076】
対照C57Bl/6マウスは、この系統について予想された通り、L.メジャーに対して抵抗性であり、感染後8週目までに解消する限定的な足蹠腫脹を発症し、かつ正常に体重が増加した。このマウスにおいてはまた、インビトロでのL.メジャー抗原に対する高いIFN-γ:IL-4産生比、ならびに血清におけるL.メジャー特異的抗体の高いIgG2a:IgG1比、およびIgEの不在によって特徴付けられるTh1反応が発生した。
【0077】
C57Bl/6コンジェニックzcyto7野生型マウスは、C57Bl/6対照マウスのものと区別がつかないL.メジャー疾患表現型を有していた。このマウスはL.メジャーに抵抗性であり、感染後8週目までに解消する中程度の足蹠腫脹を発症した。このマウスにおいてはまた、インビトロでのL.メジャー抗原に対する高いIFN-γ:IL-4産生比、ならびに血清におけるL.メジャー特異的抗体の高いIgG2a:IgG1比、およびIgEの不在によって特徴付けられるTh1反応が発生した。
【0078】
C57Bl/6コンジェニックzcyto7遺伝子標的マウスは、L.メジャーに対して抵抗性であり、正常に体重が増加した。しかし、このマウスの足蹠は、C57Bl/6およびzcyto7野生型マウスと比べて、解消するのに時間が有意に長くかかった(12週間を上回る)、有意に大きな足蹠を発症した。小さな開放性病変の発生もまた、このマウスの足蹠に生じた;C57Bl/6およびzcyto7野生型マウスの足蹠には病変が観察されなかった。C57Bl/6コンジェニックzcyto7遺伝子標的マウスは、12週目に、より大きな脾臓および排出リンパ節を有していた。このことは、この時点でこのマウスが対照マウスと比べてより重篤な疾患症候を有することと一致する。このマウスにおいては、インビトロでのL.メジャー抗原に対する高いIFN-γ:IL-4産生比、ならびに血清におけるL.メジャー特異的抗体の高いIgG2a:IgG1比、およびIgEの不在によって特徴付けられるTh1反応が発生した。
【0079】
このデータは、zcyto7が、L.メジャーに対するTh1反応の発生には必要とされず、むしろ創傷治癒に、またはインビボでのL.メジャー感染の免疫制御に重要とされうることを示唆する。
【0080】
実施例4
DSS大腸炎モデルにおいて変容した疾患進行を呈するIL17Bノックアウトマウス
疾患感受性を調査するために、マウスに大腸炎のデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)モデルを経験させた。このモデルは、出血性下痢、体重減少、結腸の短縮、および好中球浸潤を伴う粘膜潰瘍が現れる急性大腸炎を誘発する。DSS誘発性大腸炎は、炎症性細胞の粘膜固有層への浸潤によって組織学的に特徴付けられ、リンパ組織過形成、限局性腺窩障害(focal crypt damage)、および上皮潰瘍を伴う。これらの変化は、DSSの上皮への毒性の影響が原因で、粘膜固有層細胞の貪食およびTNF-αおよびTNF-γの産生により発生すると考えられる。
【0081】
DSS大腸炎を誘発させるために、マウスは、飲用水中2〜2.5%の試薬級デキストラン硫酸ナトリウム(DSS, MP Biochemicals, Solon, OH;分子量36,000〜50,000)溶液の自由投与により処置した。動物には5日間にわたってDSS飲用水を与え、その後、通常の水に戻した。このモデルを用いて、DSS処置に反応した大腸炎の発病および続いてDSSを中止した後の大腸炎の回復の両方を測定することができる。研究過程の間、疾患の進行は、体重減少によりモニターすることができる。典型的な研究において、正常マウスはDSS処置の開始から7〜8日以内に体重が5〜10%減少すると考えられるが、DSSの入っていない飲用水にて5日後には正常体重に戻ると考えられる。表1に示す通り、IL17Bノックアウトマウスのこのモデルは、疾患のピークに体重減少の増大を呈した。加えて、IL17Bノックアウトマウスは通常の水に移すと、回復遅延を呈した:野生型動物は通常の水にて5日後であったが、IL17Bノックアウトマウスは研究過程を通じて、失った体重を取り戻していた。
【0082】
【表1】

【0083】
したがって、IL17Bの欠乏はDSS大腸炎モデルにおける疾患の悪化をもたらす。このような表現型は、このモデルに固有の障害および炎症が、免疫細胞または上皮細胞によって調節または修復されないことに起因しうる。
【0084】
本発明の特定の態様は、説明を目的に本明細書に記載されているが、本発明の精神および範囲から逸脱することなく様々な修正を施しうることは上記から正しく認識されると考えられる。したがって、本発明は添付の特許請求の範囲による限定を除き、限定されることはない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
IL-17Bの投与を含む、そのような処置を必要とする患者における創傷治癒を促進するための方法。
【請求項2】
IL-17Bが真核宿主細胞の発現産物である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
IL-17Bが原核宿主細胞の発現産物である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
原核宿主細胞が大腸菌(E. coli)である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
創傷の種類が、機械的創傷、熱創傷、急性創傷、慢性創傷、感染創傷、および無菌創傷からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項6】
創傷治癒が、粘膜炎、皮膚圧迫潰瘍、糖尿病性皮膚創傷、および炎症性腸疾患からなる群より選択される疾患の処置に関するものである、請求項1記載の方法。
【請求項7】
患者がヒトである、請求項1記載の方法。
【請求項8】
GM-CSF、CSF、EGF、FGF、KGF、PD-ECGF、PDGF、TGF-α、TGF-β、IL、IFN、IGF-I、IGF-II、KGF、M-CSF、およびSCFからなる群より選択される少なくとも1つの他の因子を投与する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
投与が、局所投与、皮下投与、静脈内投与、筋肉内投与、または腹腔内投与からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項10】
投与が局所投与である、請求項8記載の方法。
【請求項11】
IL-17Bの局所投与が、コラーゲンベースのクリーム、コラーゲンベースのフィルム、コラーゲンベースのマイクロカプセル、コラーゲンベースの粉末、ヒアルロン酸またはその他のグリコサミノグリカン、クリーム、フォーム(foam)、縫合材料、および創傷包帯(wound dressing)からなる群より選択されるIL-17B含有創傷被覆物の適用を介して行われる、請求項9記載の方法。
【請求項12】
GM-CSF、CSF、EGF、FGF、KGF、PD-ECGF、PDGF、TGF-α、TGF-β、IL、IFN、IGF-I、IGF-II、KGF、M-CSF、およびSCFからなる群より選択される少なくとも1つの他の因子を投与する段階をさらに含む、請求項10記載の方法。
【請求項13】
IL-17Bの局所投与が、IL-17Bを含む溶液の適用を介して行われる、請求項9記載の方法。
【請求項14】
GM-CSF、CSF、EGF、FGF、KGF、PD-ECGF、PDGF、TGF-α、TGF-β、IL、IFN、IGF-I、IGF-II、KGF、M-CSF、およびSCFからなる群より選択される少なくとも1つの他の因子を投与する段階をさらに含む、請求項12記載の方法。
【請求項15】
1つまたは複数の薬学的に許容される担体またはアジュバントと組み合わせてIL-17Bを含む薬理学的組成物。
【請求項16】
GM-CSF、CSF、EGF、FGF、KGF、PD-ECGF、PDGF、TGF-α、TGF-β、IL、IFN、IGF-I、IGF-II、KGF、M-CSF、およびSCFからなる群より選択される少なくとも1つの他の因子をさらに含む、請求項14記載の組成物。
【請求項17】
IL-17Bのアンタゴニストの投与を含む、上皮修復の調節不全を伴う疾患の処置のための方法。
【請求項18】
疾患が乾癬である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
アンタゴニストが、IL-17Bに特異的に結合する抗体である、請求項17記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−509364(P2010−509364A)
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−536488(P2009−536488)
【出願日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際出願番号】PCT/US2007/084151
【国際公開番号】WO2008/073653
【国際公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(505222646)ザイモジェネティクス, インコーポレイテッド (72)
【Fターム(参考)】