説明

創傷被覆材

【課題】創傷からの滲出液による湿潤環境を維持しながら治療する方法に好適な、さらに改良された創傷被覆材を提供する。
【解決手段】創傷部に向かって突出する多数の凸部(5)およびその周囲に形成される凹部(6)を有し、前記凸部(5)には厚さ方向に貫通する孔(4)を有する樹脂製のシート材からなる第1層(1)および、水を吸収保持可能なシート材からなる第2層(2)の少なくとも2層から構成され、創傷部位に接する側から第1層(1)、第2層(2)の順に積層されてなることを特徴とする創傷被覆材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱傷、褥瘡、挫傷、切傷、擦過傷、潰瘍等の創傷の治療に好適な創傷被覆材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、創傷の治療において、創傷面を乾燥させずに湿潤環境に保つことが創傷の治癒に有効であることがわかってきた。特に、創傷部位からの滲出液に含まれる成分が、創傷の治癒の促進に役立つため、消毒を行わず、創傷部位からの滲出液による湿潤環境を維持しながら治療する方法(以下、「湿潤治療法」ということがある。)が知られている。そのため、このような治療方法に適用される種々の創傷被覆材が開発されている。
【0003】
湿潤治療法を効果的に行うためには、滲出液が適度に保持されることで創傷面の適度な湿潤環境が保持されることが肝要であり、創傷被覆材は滲出液を速やかに吸い上げてしまうのではなく、創傷面上において滲出液が適度に保持されるようにする機能を備えていることが求められる。しかし、一方で、湿潤治療法は、湿潤環境が保たれるように創傷被覆材を肌にしっかりと固定して行うため、創傷面上に閉鎖領域が形成されることになり、滲出液が新たに滲み出してきて過剰に貯留されると、創傷面が滲出液により圧迫されて「下掘れ現象」(滲出液の圧力によって創傷部位の皮膚がえぐられる現象)を起こす。このため、創傷被覆材は創傷面上から滲出液を適度に排出する機能を備えていることも求められる。
【0004】
また、創傷部位に接する材料に通気性がなく創傷面に強く貼り付いてしまうと、創傷被覆材を剥がすときに、治癒したもしくは治癒しかけた箇所を再び傷つけてしまったりするおそれがある。そのため、創傷面に強く貼り付いてしまわないことも求められる。
【0005】
従来の創傷被覆材としては、例えば、特許文献1に、親水性を有する物質が分散または被覆された多孔性フィルムを用いた被覆材が開示されている。しかし、この創傷被覆材は、親水性の多孔性フィルムを使用することにより専ら滲出液の排出性が改善されたものであり、創傷面上に滲出液を適度に保持するという目的にはそぐわない。
【0006】
また、特許文献2には、キチン・キトサンセルロース混合繊維で構成される綿、織編物または不織布等、もしくは所望によりそれらに親水性コロイド剤を塗布したものを潰瘍面に適用する創傷被覆材が開示されている。しかし、この創傷被覆材は、滲出液を吸収する機能に重きが置かれており、創傷面上に滲出液を適度に保持する機能は不十分である。さらに、親水性コロイド剤が直接皮膚に当たる状態で創傷被覆材を長時間貼り付けたままにしておくと、発赤や汗疹ができるという問題点が指摘されている。
【0007】
さらに、肌面側に位置する肌面シートと、非肌面側に位置する液不透過性シートと、肌面シートと液不透過性シートとの間に設けられる吸収層とを備え、創傷部と肌面シートとの間で創傷部から滲み出る滲出液を保持して創傷部を湿潤状態にするとともに、滲出液が過剰となったときに、肌面シートに形成された孔を通じて過剰な滲出液を吸収層に吸収させるようにした創傷被覆材が知られている(特許文献3参照)。
しかしながら、この創傷被覆材は、肌面シートがフラットなフィルムに多数の孔を形成したものであり、このようなフラットなフィルムにより形成された肌面シートを用いた場合、滲出液は肌面シートと創傷面との間で保持されにくく、すぐに孔を通じて吸収層に吸収されてしまい、滲出液が少量の場合には創傷部が乾いてしまうという問題を生じていた。
【0008】
【特許文献1】特開平7−80020号(請求項1、段落[0010]、[0011])
【特許文献2】特開平10−151184号(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2008−113781号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、創傷からの滲出液による湿潤環境を維持しながら治療する方法に好適な、さらに改良された創傷被覆材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、創傷部に向かって突出する多数の凸部およびその周囲に形成される凹部を有し、前記凸部に厚さ方向に貫通する孔を有する樹脂製のシート材からなる第1層および、水を吸収保持可能なシート材からなる第2層の少なくとも2層を積層することによって、創傷部の湿潤状態を適度に保持できる創傷被覆材が得られ、従来の問題が一挙に解決できることを見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、
[1]創傷部に向かって突出する多数の凸部およびその周囲に形成される凹部を有し、前記凸部に厚さ方向に貫通する孔を有する樹脂製のシート材からなる第1層および、水を吸収保持可能なシート材からなる第2層の少なくとも2層から構成され、創傷部位に接する側から第1層、第2層の順に積層されてなることを特徴とする創傷被覆材、
[2]前記第1層のシート材が、ポリオレフィン樹脂製である前記[1]記載の創傷被覆材、
[3]孔の断面積が、創傷部対向面から他方の面に向かって徐々に大きくなる形状である前記[1]または[2]に記載の創傷被覆材、
[4]前記第1層のシート材の厚さが100〜2000μmであり、前記第1層の孔は、創傷部位に接する側の面での開孔径が直径相当240〜1100μmであり、他方の面での開孔径が前記創傷部位に接する側の面での開孔径の0.7〜0.9倍であり、50〜400個/cmの密度で存在する前記[1]〜[3]のいずれかに記載の創傷被覆材、
[5]前記第2層のシート材が、エアレイド不織布またはパルプの積層シートである前記[1]〜[4]のいずれかに記載の創傷被覆材、
[6]第2層の第1層と対向する面とは反対側に、液不透過性シート材からなる第3層が積層されてなる前記[1]〜[5]のいずれかに記載の創傷被覆材、
[7]第1層と第2層との間および第2層と第3層との間に、液透過性シート材が積層されてなる前記[6]記載の創傷被覆材、および
[8]液透過性シート材が、親水性の不織布よりなる前記[7]記載の創傷被覆材、
に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の創傷被覆材は、創傷からの滲出液による湿潤環境を維持しながら治療する方法に適用すべく、滲出液が創傷から滲み出した箇所において、湿潤環境を維持する一方で、過剰な滲出液を吸収することで滲み出した滲出液の面積が大きく広がらないように捕捉することができる。このため、創傷部位近傍の領域に滲出液が保持されて治療効果を高める一方、創傷のない正常な皮膚のかぶれの原因となる滲出液の無駄な広がりを防止することができる。
また、本発明の創傷被覆材は、創傷部と第1層の凹部との間に滲出液を貯留する空間が形成されるため、創傷部から流出する滲出液を保持でき、創傷部の湿潤状態を保持することができる。滲出液が多くなると、第1層の凸部に形成された孔を通して吸収層に吸収させることができる。さらに、凸部に孔が形成されるため、創傷部と第1層と間に滲出液が保持されやすくなり、第2層(吸収層)への滲出液の通過を制限するシート材(以下、液透過性シート材という。)は設けなくてもよい。
したがって、本発明の創傷被覆材は、各種の創傷の治療に好適に使用でき、特に褥瘡の予防または治療用被覆材として使用するのが最適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の創傷被覆材は、創傷部位を覆うように創傷部位に貼付されるための被覆材であって、創傷からの滲出液による湿潤環境を維持しながら治療する方法に適用できる。本発明において、「創傷」とは、皮膚が傷ついたものを広く意味し、熱傷、褥瘡、挫傷、切傷、擦過傷、潰瘍、手術創等が含まれる。
以下、本発明の創傷被覆材の構成について、必要に応じて図面を参照しつつ説明する。
【0014】
本発明の創傷被覆材は、創傷部に向かって突出する多数の凸部(5)およびその周囲に形成される凹部(6)を有し、前記凸部(5)に厚さ方向に貫通する孔(4)を有する樹脂製のシート材からなる第1層(1)および、水を吸収保持可能なシート材からなる第2層(2)の少なくとも2層から構成され、創傷部位に接する側から第1層(1)、第2層(2)の順に積層されてなるものである。本発明の創傷被覆材は、所望により、前記第1層(1)、第2層(2)に加えて、第3層(3)が積層されてなるものとすることができる。
【0015】
図1は、本発明の好ましい例を示す模式的な断面図であり、この例では第3層(3)を有している。使用時には第1層(1)が創傷部位に接するように使用される。
【0016】
以下では、各層について詳細に説明する。
第1層:
第1層(以下、肌面シートともいう。)は、滲出液が創傷から滲み出した箇所において、湿潤環境を維持する一方で、過剰な滲出液を第2層側へ排出することで、滲み出した滲出液の面積が大きく広がらないように捕捉することを主な目的として設けられる。創傷の治癒においては、本来は創傷部位近傍の領域に滲出液が保持されていれば足り、該領域を超えて滲出液が創傷部位の周囲に広がることは好ましくない。そのように滲出液が広がった部分において、創傷のない正常な皮膚がかぶれて、新たに創傷部位が拡大したりして治癒を遅らせることがあるためである。したがって、本発明では、滲出液の面積が大きく広がらないようにするための第1層を設けており、それによって創傷の治癒を速やかならしめる効果を奏する。
【0017】
第1層を構成するシート材(以下、「第1シート材」ということがある。)は、樹脂製のシート材である。
【0018】
本発明において、シート材とは、その厚さに特に限定されることなく、有孔のシート材および無孔のシート材の両方を広く意味し、例えば樹脂フィルム、布帛、不織布、ネットなどが含まれる。
【0019】
第1シート材は、創傷部位に向かって突出する多数の凸部(5)およびその周囲に形成される凹部(6)を有する凸凹シートであり、前記凸部(5)に厚さ方向に貫通する孔(以下、単に「貫通孔」ということがある。)を有する。この孔(4)は、それぞれが独立していることが好ましく、第1シート材内部には、面内方向に通水する経路は存在しないことが好ましい。前記貫通孔(4)が液の通過を許容する。第1シート材は、貫通孔(4)を多数有するため、創傷部位に強く貼り付いてしまうことを防止できる。
【0020】
貫通孔(4)は、円筒状であってもよく、漏斗状であってもよいが、第1シート材の厚さ方向において、第2層に近づくにつれ傾斜的に孔径が大きくなっている形状であること、すなわち、孔の断面積が、創傷治療部対向面から他方の面に向かって徐々に大きくなる形状であることが好ましい。言いかえれば、貫通孔(4)が、図2に示されるような、創傷に接しない側(第2層側)を底面とする円錐台(頂点を切り取った円錐)若しくは円錐台様の形状であることが好ましい。このように第2層に近づくにつれ傾斜的に孔径が大きくなっている貫通孔(4)のことを、以下では「傾斜孔」ということがある。図1および図2は、貫通孔が傾斜孔である例を示している。
【0021】
貫通孔(4)の孔径としては、第1シート材において創傷部位に接する側の面(以下、「創傷側の面」ということがある。)での開孔径が直径相当で240〜1100μmであることが好ましい。240μm未満では、滲出液が第2層の方に通過するのを阻害する傾向にあるので好ましくない。一方、1100μmを超えると、第2層が創傷部位の皮膚と接触するおそれがあり、そのために創傷被覆材を創傷部位から剥がしにくくなったり、適度な滲出液の貯留空間を確保できなくなったりするおそれがあるので好ましくない。なお、上記の「直径相当」とは、開孔形状が円形であるときにはそのまま直径を意味し、円形でないときにはその開孔と面積が等しい円の直径を意味する。
【0022】
貫通孔(4)が傾斜孔である場合、創傷側の面での開孔径は、上記したように他方の面すなわち第2層側の面での開孔径よりも小であり、第2層側の面での開孔径の0.7〜0.9倍であることが好ましい。前記「創傷側の面での開孔径」は、創傷側において第1シート材と接する平面を想定し、この平面に接する箇所での孔径を意味し、前記「第2層側の面での開孔径」は、第2層の側において第1シート材と接する平面を想定し、この平面に接する箇所での孔径を意味する。
【0023】
また、貫通孔(4)は、第1層に多数存在していればその数は特に限定されないが、50〜400個/cm程度の密度で存在することが好ましく、60〜325個/cm程度の密度で存在することがより好ましい。さらに、創傷側の面における貫通孔(4)の開孔率としては、第1シート材全体に対して15〜60%であることが好ましい。
貫通孔(4)の深さとしては、概ね100〜2000μmが好ましく、概ね250〜500μmがより好ましい。
貫通孔(4)について、密度、開孔率および深さを上記の好ましい範囲とすることは、滲出液が面内方向に広がるのを防止するという点で有利である。
【0024】
第1シート材は、創傷部と凹部(6)との間に滲出液の貯留空間を形成する。これは、創傷面と第1層との間における前記貯留空間に、創傷部からの滲出液を保持することにより創傷部の湿潤状態を保持できるという点で優れている。また、第1シート材は滲出液が多くなると、凸部(5)に形成された貫通孔(4)を通して吸収層(2)に吸収させることができるため、滲出液が面内方向に広がるのを防止するという点でも優れている。
【0025】
第1シート材としては、樹脂フィルムが好ましく、さらに詳しくは、樹脂フィルムに穿孔の施された有孔フィルムが好ましい。第1シート材を構成する樹脂としては、ポリオレフィン樹脂が好ましく、中でもポリエチレン樹脂が好ましい。したがって、第1シート材としては、ポリオレフィン樹脂性の有孔フィルムがより好ましく、ポリエチレン樹脂製の有孔フィルムが特に好ましい。
【0026】
また、第1シート材は、親水性、疎水性のいずれであってもよいが、表面が疎水性であることが好ましい。ポリオレフィン樹脂性であれば、表面を疎水性とすることができる。疎水性であることは、創傷部位に強く貼り付いてしまうことを防止するうえでも有利である。
【0027】
第1シート材は、加圧により水が透過可能となる性質を有していることが好ましい。本発明において、「加圧により水が透過可能となる」とは、シートにかかる水圧が所定の圧力を超えると水が透過可能となることを意味する。このため、以下では、「加圧により水が透過可能となる」性質を、「初期耐水圧性」ということがある。
【0028】
第1層の初期耐水圧性は、比較的低いもので足り、後述する第2層の初期耐水圧性よりも低いことが好ましい。初期耐水圧性が低いとは、相対的に低い水圧で水が透過することを意味する。
【0029】
第1シート材の初期耐水圧性は、第1シート材の表面が疎水性である場合に具現されやすく、また、貫通孔(4)が傾斜孔である場合に具現されやすい。さらに、第1シート材の初期耐水圧性は、貫通孔(4)が50〜400個/cmの密度で存在する場合に具現されやすく、開孔率が15〜60%である場合に具現されやすい。なお、本明細書において第1シート材の初期耐水圧性という場合、創傷部位に接する側からの初期耐水圧性を意味する。
【0030】
第1シート材の初期耐水圧性においては、加圧により水が上記の貫通孔(4)を通じて透過する。したがって、第1シート材において、貫通孔以外の部分では、実質的に透水しないことが好ましい。
【0031】
第1シート材が初期耐水圧性を有していることは、例えば次の方法で確認することができる。すなわち、金属製の枠などを利用して第1シート材を空中で一定の高さに水平に保持し、その上から該シート材の同じ箇所に水をピペットで徐々に滴下したとき、初期耐水性を有していれば、初期には水が該シート材の下に落下せず、滴下量が増すにつれ水がシート材の下に落下するようになる。
【0032】
第1シート材は、創傷部の湿潤状態を保持するだけでなく、創傷から滲み出す滲出液が面方向に広がるのを防ぐ作用をする。本発明の創傷被覆材が創面に装着されてからあまり時間が経過していない、創傷から滲出液が滲み出す初期の段階では、上記の創傷部と凹部(6)との間の貯留空間に滲出液が侵入する。これにより、滲出液は、前記貯留空間によって面方向に動かないように捕捉された状態となり、創傷箇所よりもその面積を大きく広げることなく、創傷面と第1層との間で保持されて、湿潤環境が保たれる。このような、滲出液の面積を大きく広げることなく湿潤環境を保つ効果を奏するうえで、第1シート材が初期耐水圧性を有することは有利であり、貫通孔(4)が傾斜孔であることもまた有利である。
また、創傷部からの滲出液が多い場合は凸部(5)に形成された孔(4)から吸収層(2)に吸収させる。これにより、創傷から滲み出す滲出液が面方向に広がるのを防ぐ。
【0033】
次の段階では、滲出液がさらに滲み出して、その圧力が増すと、滲出液は第1層を透過して第2層へと進むことになるが、滲出液は第1層を通じて逆戻りしないことが好ましい。
例えば外力により創傷被覆材が圧迫されて滲出液が創傷部位にまで逆戻りすると、繁殖した雑菌による感染の原因にもなりかねない。そのような滲出液の逆戻りを防ぐうえで、貫通孔が傾斜孔であることは有利である。
【0034】
第2層:
第2層は、創傷部位から滲み出して前記第1層を透過した滲出液を吸収するための層である。したがって、第2層は、水を吸収保持可能なシート材からなる。水を吸収保持可能なシート材は、滲出液を吸収保持可能だからである。
【0035】
水を吸収保持可能とは、液体の水に接して自然に吸収し、吸収した水の少なくとも一部を重力に抗してシート材内の空隙間に保持できることをいう。したがって、水を吸収したシート材を持ち上げたときに、吸収した水の一部が落下せずに保持されていれば、吸水保持可能なシート材ということができる。水を吸収保持可能なシート材は、毛細管現象により水を吸い上げることのできるシート材が好ましい。
【0036】
第2層を構成するシート材(以下、「第2シート材」ということがある。)に用いられる、水を吸収保持可能なシート材としては、スポンジ状のシート材でもよいが、コットン等の親水性の繊維、あるいは親水化処理された繊維で構成されたシート材が好ましい。かかる第2シート材としては、例えば、親水化処理された不織布、綿状パルプ、エアレイド不織布またはパルプの積層シート等が好ましく用いられる。
【0037】
第2シート材が繊維で構成されている場合、創傷被覆材をカットした際に切り口から繊維屑や他の副材料等が脱落しない程度に、バインダー(接着剤)や圧縮により繊維間接着されていることが好ましい。したがって、繊維の少なくとも一部に熱融着性の繊維を用いることも好ましい。
【0038】
第2シート材としては、エアレイド不織布が特に好ましい。エアレイド不織布とは、空気中に原料パルプ繊維や短繊維を均一に分繊し、回転式多孔シリンダーまたは移動式スクリーンベルトに繊維を沈着させると共に、水溶性の接着剤を噴霧して繊維間接着を行なって得られる不織布である。滲出液が吸収され易いようにするために、パルプ繊維を主成分としたエアレイド不織布を用いるのがとりわけ好ましい。かかる不織布の製造方法としては、DAN−WEB法や本州法等が用いられ得る。
【0039】
前記エアレイド不織布は、湿潤時における強力低下が少ない合成繊維、具体的にはナイロン6やナイロン66といったポリアミド、ポリエチレンテレフタレートといったポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン等の合成繊維を含んでいることが好ましい。
【0040】
また、エアレイド不織布は、バインダー繊維を含んでいてもよい。バインダー繊維とは、繊維の全体および一部が、温度条件により、溶融、凝固の状態変化を示すことで、接着力を発現する繊維のことをいう。具体的なバインダー繊維としては、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂等の低融点樹脂やポリオレフィン系樹脂等から単独で構成される全融性の繊維、ポリエチレン樹脂/ポリプロピレン樹脂、低融点ポリエステル系樹脂/ポリプロピレン樹脂等の融点に差を有する2樹脂からなる芯鞘型の複合繊維、および、サイドバイサイド型の複合繊維等が挙げられる。
【0041】
第2シート材には、滲出液の吸収、保持力をより高めるために高い吸水性を有する樹脂粉末などの吸収材(7)が含まれていてもよい。エアレイド不織布においては、不織布を構成する繊維等の要素同士が加圧状態において接着剤で接着されているので、創傷被覆材をカットして用いた場合などに、高い吸水性を有する樹脂粉末やフラッフパルプなどが脱落し難い。吸収材(7)とは、液体と接触すると短時間に吸収、膨潤し、ゲル化する材料をいう。かかる吸収材(7)としては、ポリアクリル酸系、でんぷん系、カルボキシメチルセルロース系、ポリビニルアルコール系、ポリエチレンオキサイド系の、いわゆる高吸水性樹脂(SAP)やアルギン酸、デキストラン等の高い吸水性能を有する天然多糖類等を用いるのが好ましい。前記吸収材(7)としては、粉末状、粒状のものだけでなく繊維状のものも用いられ得る。また、前記吸収材をカルシウム塩で処理することにより、吸収材に創傷面の止血効果を付与することもできる。
【0042】
第2層としてのエアレイド不織布が滲出液を吸収すると、エアレイド不織布のパルプ繊維間の水素結合が解かれるとともに、水溶性バインダーが溶出して湿潤時の繊維間接合が低下する。特にエアレイド不織布が高い吸水性を有する樹脂を含む場合、高い吸水性を有する樹脂のゲル化による強度低下や、ゲル化に伴う樹脂の容積の増大により、構成する繊維同士の絡まりや結合が物理的に断裂されるので、エアレイド不織布の湿潤強度の顕著な低下が生じるおそれもある。しかし、エアレイド不織布は、少なくとも水不溶性の長繊維およびバインダー繊維を含むことで、最低限必要な繊維間接合を保持でき、これにより、エアレイド不織布の湿潤時の強度低下を抑制することができる。したがって、滲出液を吸収した後に発生しがちな、エアレイド不織布の強度低下による創傷被覆材の第2層からの剥離分解は抑制可能であり、それによって創傷被覆材を創傷面から容易にかつ美しく剥がすことができる。
【0043】
第2層としてのエアレイド不織布は、パーフォレートされていることにより柔軟化されていてもよい。ここで、「パーフォレート」とは、不織布に多数の孔を空ける加工をいう。エアレイド不織布は、接着剤で繊維間が接合されているので、布の剛性が大きくなりやすく、柔軟性が損なわれる場合がある。しかし、前記パーフォレートによりエアレイド不織布を柔らかくすることができるので、それによって創傷被覆材を肌面に沿いやすいものとすることができる。また、パーフォレート加工を施した不織布は、孔を介しても滲出液を吸収し得るので、一旦、滲出液を吸収し始めると、吸収速度が大きくなる。 パーフォレートされて生じる孔の断面形状は、特に限定されるものではない。また、前記孔はエアレイド不織布を完全に貫通していてもよいし、貫通していなくてもよい。
【0044】
第2シート材は、シート状の複合体を用いていてもよい。このシート状の複合体は、例えば、不織布にアクリル酸モノマーを含浸させた後に重合および架橋反応させることによって得られる。別の前記シート状の複合体は、有機触媒と水とからなる混合溶媒に、強い水和性を示す繊維状物(例えば、ミクロフィブリル等)と水膨潤性を有する固状体(例えば、種々の多糖類、凝集剤、高吸収性樹脂(SAP)等)とを分散させた分散液を不織布等のシート状支持体に流延した後、当該分散液を乾燥させて得られる。
【0045】
また、第2シート材に、間歇的に切り込みを入れること、例えばパーフォレートによる孔を形成すること等により、第2シート材に伸縮性を付与してもよい。
【0046】
第2シート材の厚さは、特に限定されるものではないが、滲出液を吸収するキャパシティを考慮すれば、0.4〜0.8mm程度が好ましい。また、第2シート材の目付は、60〜170g/m2が好ましい。
【0047】
第3層:
本発明の創傷被覆材は、前記第1層(1)および第2層(2)を有するが、さらに所望により、例えば図1に示されるように第3層(3)を有していてもよい。第3層(3)は、第2層(2)に吸収された滲出液が外部に移ることを防ぐ目的で設けられる。本発明の創傷被覆材は、必ずしも第3層(3)を有していなくてもよいが、第3層(3)を有しない場合には、第2層(2)に吸収された滲出液が外部に移って例えば衣服や寝具を汚すことを防ぐために、別途のシート材を併用することが好ましい。
【0048】
第3層(3)としては、樹脂フィルム、布帛もしくは不織布を用いることが好ましく、また、それらを組み合わせて用いてもよい。中でも、樹脂フィルムが第3層(3)の液不透過性シート材として特に好ましい。
【0049】
前記樹脂フィルムとしては、液体の透過を防止する樹脂フィルムが好ましく、例えば、オレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステル系樹脂、ナイロン系樹脂等で形成された樹脂フィルムが好適に挙げられる。また、ポリウレタン系樹脂等で形成された伸縮性を有する樹脂フィルムも好ましく用いられる。伸縮性を有する樹脂フィルムを用いることにより、創傷被覆材の皮膚へのフィット性を高めることができる。樹脂フィルムの厚さは、特に限定されるものではなく、強度や柔軟性等を考慮して適宜設定すればよい。
【0050】
第3層(3)として液体の透過を防止する樹脂フィルムを用いれば、滲出液が創傷被覆材の外部に移ることを効果的に防止できるとともに、外部から水や汚れが浸入することを防止するうえでも効果的である。また、第3層(3)として樹脂フィルムを使用することにより、滲出液の蒸発を防いで湿潤環境をより効果的に維持することも可能である。
【0051】
なお、図9に示されるように、必要に応じて、液体の透過を防止する樹脂フィルムの一部にスリット(10)等を設けて用いてもよく、この場合は該スリット(10)が液体の通路となりうるが、このような場合でも該スリットが設けられた箇所以外は液体の透過を防止するので、特に断らない限り、このような態様で用いられていても「液体の透過を防止する樹脂フィルム」であることに変わりはない。
【0052】
第3層(3)の外表面には、所望により着色や模様等を施すことができる。例えば、皮膚の色に似せた着色を施して目立たないものとすることができる。逆に積極的に目立つような模様、イラスト、写真印刷等を施して、遊び心を満足させるようなファション性を付与してもよい。
【0053】
また、第3層(3)は透視可能であってもよく、これにより内部の層における滲出液の状態を目視することが可能となり、被覆材を交換する時期が分かりやすくなる。
【0054】
本発明の創傷被覆材は、積層シート状であるため、例えば長尺のロールとして供給し、使用時に所望の大きさにカットして使用されてもよい。この場合、前記第3層(3)を有する創傷被覆材においても、前記第1層〜第3層は同一の面積で積層されていることになる。したがって、創傷面に貼り付けるにあたっては、絆創膏などを使用すればよい。
【0055】
また、本発明の創傷被覆材は、使用前に予め使いやすい大きさにカットされて供給されてもよい。この場合の創傷被覆材において、前記第1層(1)および第2層(2)の面積が略同じであり、前記第3層(3)は前記第1層(1)および第2層(2)を覆いかつその面積が前記第1層(1)および第2層(2)の面積より大であることが好ましい。より具体的に説明すると、例えば図4に示されるように、第1層(1)および第2層(2)が同一形状で積層されていて、該積層部分の外周の一部または全部において前記第3層(3)がはみ出していることが好ましい。図4は、第1層(1)の側から見た模式的な平面図であり、第2層(2)は第1層(1)の裏側に隠れており、前記外周の全部において第3層(3)がはみ出している例を示す。
【0056】
前記の第3層(3)の面積が第1層(1)および第2層(2)の面積より大である態様においては、該第3層(3)における第1層(1)および第2層(2)を有する側(以下、「内側」ということがあり、その反対側を「外側」ということがある)の第1層(1)および第2層(2)が積層されていない表面(以下、「露出面」ということがある)の少なくとも一部に粘着部(11)を有することが好ましい。この粘着部(11)は、創傷被覆材を皮膚に固定する目的で設けられる。このため、該粘着部(11)としては、創傷被覆材を固定することができ、かつ、容易に剥がすことができる状態を保てる粘着部(11)が好ましい。具体的には、肌に接触してもかぶれ難い、低刺激性の粘着剤、例えばアクリル系やシリコン系等の粘着剤を用いて構成される粘着部が好ましく、公知の救急絆創膏等(例:「バンドエイド(登録商標)」)に用いられている粘着部を採用することができる。
【0057】
前記の第3層(3)における内側の露出面の少なくとも一部に粘着部(11)を有する態様においては、例えば図5および図6に示されるような「第1層および第2層の外周近傍の少なくとも一部において粘着部(11)を有しない態様」、あるいは図7および図8に示されるような「第1層(1)および第2層(2)の外周近傍の少なくとも一部において第3層を有しない態様」も好ましい。図7および図8における第3層(3)の露出面には粘着部(11)を有していてもよい。
【0058】
前記した「第1層(1)および第2層(2)の外周近傍の少なくとも一部において前記粘着部を有しない態様」のうち、図5に示されるような粘着部を有しない部分(以下、「非粘着部」ということがある。)が第3層(3)の周縁部にまで及んでいる態様は、第3層(3)として通気性の乏しいシート材(例えば無孔の樹脂フィルム等)を用い、該通気性の乏しいシート材に粘着部が設けられている場合に好ましい。周縁部を通じて通気性を確保するためである。一方、図6に示されるような非粘着部(12)が第3層(3)の周縁部にまで及んでおらず、第3層(3)の周縁部が全周にわたって粘着部を有する態様は、第3層として通気性シート材(例えば不織布等)を用い、該通気性シート材に粘着部が設けられている場合に好ましい。不織布等の通気性のシート材は、粘着部により通気性を阻害されうるが、非粘着部(12)においては通気性が保たれるからである。
これらの好ましい態様において、前記の粘着部を有しない部分あるいは第3層(3)を有しない部分は皮膚に粘着せず、開放領域が形成される。そのため、この開放領域を通じて空気が創傷部位の周囲に供給されることにより、嫌気性菌の増殖を抑止し、感染を防止するという効果を奏する。
【0059】
前記の効果を奏しうる開放領域を形成する他の態様としては、例えば図9に示されるように、第1層(1)および第2層(2)の外周の少なくとも一部に沿って第3層(3)にスリット(10)もしくは小孔が設けられていてもよい。図9において、第3層(3)の露出面には粘着部を有していてよい。前記スリット(10)もしくは小孔の大きさおよび数は、空気の供給によるメリットと、滲出液が外部に移ることのデメリットを勘案して適宜設定すればよい。
前記スリット(10)もしくは小孔を塞がずに、かつスリット(10)もしくは小孔が外側から見て隠れるように外側にさらにシート材を設けることは、滲出液で衣服や寝具を汚すのを防ぐうえで効果的である。
【0060】
液透過性シート材:
本発明の創傷被覆材は、前記第1層(1)および第2層(2)を必須の構成要件とし、第1層(1)と第2層(2)の間に、第2層(2)への滲出液の通過を制限するシート材(透過性シート材)を有しないが、所望により、透過性シート材を第1層(1)と第2層(2)との間に有していてもよい。また、本発明の創傷被覆材が、第3層(3)を有する場合、図1に示されるように、所望により、液透過性シート材(8)を第1層(1)と第2層(2)との間および/または第2層(2)と第3層(3)との間に有していてもよい。図3に液透過性シート材(8)を用いた本発明の創傷被覆材の模式図を示す。図3の創傷被覆材は、第2シート材と液透過性シート(8)とをこれら両シートよりも広い第1シート材と第3シート材とにより挟み、第1シート材と第3シート材のはみ出した周縁をヒートシール(9)により接合したものである。なお、各シート間は特に接着剤等は介在していない。
【0061】
液透過性シート材としては、親水性の不織布であることが好ましい。親水性の不織布であることが好ましい。親水性の不織布としては親水処理を施されたレーヨン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ナイロン等の不織布が用いられうる。液透過性シート材(8)は、第1シート材の孔を通過した滲出液が第2シート材へ透過することを許容するとともに、第2シート材が繊維材料から構成されている場合に、第2シート材の形状を保つために役立つ。また、第2シート材に高い吸収性を示す樹脂粉末が含まれている場合には、樹脂粉末が第2シート材から脱落することも防止される。
【0062】
製造方法:
本発明の創傷被覆材の製造方法は、前記した第1層(1)および第2層(2)、もしくは第1層(1)、第2層(2)および第3層(3)が積層した構造を形成できればよく、本発明の目的を阻害しない限りは特に限定されるものではなく、公知の方法を適宜採用すればよい。本発明の創傷被覆材において、各層は、接着剤により一体化されていることを要せず、第3層(3)を有する場合、図3のように第1層(1)と第3層(3)との周縁部をシール等により接合されていればよい。
【0063】
以上のように、本発明の創傷被覆材は、滲出液が創傷から滲み出した箇所において、湿潤環境を維持する一方で、過剰な滲出液を吸収することで滲み出した滲出液の面積が大きく広がらないように捕捉することができる。このため、創傷部位近傍の領域に滲出液が保持されて治療効果を高める一方、創傷のない正常な皮膚のかぶれの原因となる滲出液の無駄な広がりを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の創傷被覆材を例示する拡大部分模式図(断面図)である。
【図2】本発明の創傷被覆材における第1層の斜視図である。
【図3】本発明の創傷被覆材を例示する模式平面図である。
【図4】本発明の創傷被覆材を例示する模式平面図である。
【図5】本発明の創傷被覆材を例示する模式平面図である。
【図6】本発明の創傷被覆材を例示する模式平面図である。
【図7】本発明の創傷被覆材を例示する模式平面図である。
【図8】本発明の創傷被覆材を例示する模式平面図である。
【図9】本発明の創傷被覆材を例示する模式平面図である。
【符号の説明】
【0065】
1 第1層
2 第2層(吸収層)
3 第3層(液不透過性シート)
4 孔
5 凸部
6 凹部
7 吸収材
8 液透過性シート材
9 ヒートシール
10 スリット
11 粘着部
12 非粘着部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
創傷部に向かって突出する多数の凸部およびその周囲に形成される凹部を有し、前記凸部には厚さ方向に貫通する孔を有する樹脂製のシート材からなる第1層および、水を吸収保持可能なシート材からなる第2層の少なくとも2層から構成され、創傷部位に接する側から第1層、第2層の順に積層されてなることを特徴とする創傷被覆材。
【請求項2】
前記第1層のシート材が、ポリオレフィン樹脂製である請求項1記載の創傷被覆材。
【請求項3】
孔の断面積が、創傷部対向面から他方の面に向かって徐々に大きくなる形状である請求項1または2に記載の創傷被覆材。
【請求項4】
前記第1層のシート材の厚さが100〜2000μmであり、前記第1層の孔は、創傷部に対向する側の面での開孔径が直径相当240〜1100μmであり、他方の面での開孔径が前記創傷部位に接する側の面での開孔径の0.7〜0.9倍であり、50〜400個/cmの密度で存在する請求項1〜3のいずれかに記載の創傷被覆材。
【請求項5】
前記第2層のシート材が、エアレイド不織布またはパルプの積層シートである請求項1〜4のいずれかに記載の創傷被覆材。
【請求項6】
第2層の第1層と対向する面とは反対側に、液不透過性シート材からなる第3層が積層されてなる請求項1〜5のいずれかに記載の創傷被覆材。
【請求項7】
第1層と第2層との間および第2層と第3層との間に、液透過性シート材が積層されてなる請求項6記載の創傷被覆材。
【請求項8】
液透過性シート材が、親水性の不織布よりなる請求項7記載の創傷被覆材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−131163(P2010−131163A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−309502(P2008−309502)
【出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(591040708)株式会社瑞光 (78)
【Fターム(参考)】