説明

創薬用ハンド機構の位置ずれ制御方法

【課題】保管用ラックへ効率よくチューブ挿入でき、チューブ挿入時に無理な力が保管用ラックやチューブに加わらない創薬用ハンド機構の位置ずれ制御方法を提供する。
【解決手段】チューブを保管用ラックの所定のポイントに挿入する際に、保管用ラックに既に収容されている前記ポイントに隣接した他のチューブなどにチューブが接触し挿入できない場合、チューブを一度持ち上げて、ポイントを距離α移動して再挿入する第1工程と、再挿入できない場合、チューブを一度持ち上げて、ポイントを初期のポイントを中心として円周方向に角度β移動して挿入し、挿入できる場所が見つかるまで、順次所定の角度βずつ移動して挿入し、一周しても挿入できない場合、距離αをΔα増大させて再挿入する第2工程とを有し、挿入できるポイントが見つかるか、あるいは、距離αが所定の最大値に到達するまで、第2工程を繰り返す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、創薬研究等の分野において、多数の試料を識別・保管・観察するために使用される創薬用試料保管システムに関するものであり、さらに詳しくは、創薬用試料を封入するチューブを碁盤目状に複数本縦立収容する保管用ラックに所定のチューブを挿入する創薬用ハンド機構の位置ずれを制御する制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
創薬研究等の分野においては、図4(a)に示すように試料を溶解した溶液をマイクロチューブ110と呼ばれる円筒状容器に封入し、このマイクロチューブ110を碁盤目状に、例えば、16行24列で384個に区画された保管用ラック100に縦列収容して運搬・保管・観察することが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、図4(b)に示すように16行24列で384個の総区画数を有する保管用ラック200であって、マイクロチューブ内の容量を増加させるために保管用ラック200を区画する隔壁を取り除き碁盤目の各格子点にチューブ支持ピン220を垂設し、角部を45度の角度で面取り処理、すなわちC面取り処理を施した四角筒状チューブ210を縦列収容して運搬・保管・観察することも提案されている。(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特許第3421252号公報(第2頁第5段落、図1)
【特許文献2】特開2007−33061号公報(第3頁第11段落、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、上述したような、例えば、四角筒状チューブ210を384本収容する保管用ラック200では、四角筒状チューブ210をハンド機構を用いて保管用ラック200の所定の区画に挿入する際に、区画と四角筒状チューブ210との間に0.3mm程度のクリアランスしか存在しないため、一回の操作で確実に挿入するためには、きわめて高精度のハンド機構が必要となり、不経済であった。また、通常のハンド機構を用いて四角筒状チューブ210の挿入を行う場合には、隣接する他の四角筒状チューブ210と接触したり、保管用ラック200に垂設されたチューブ支持ピン220と接触したりして、そのたびに四角筒状チューブ210を引き上げて再び挿入する作業を繰り返さなければならなかった。その時、挿入する位置を若干移動させて再挿入することも行われていたが、移動のさせ方に法則性がなく、経験と勘に頼った試行錯誤で行っていたため、きわめて非効率であった。
【0004】
また、ハンド機構によって四角筒状チューブ210を保管用ラック200に挿入する力を大きくすれば、挿入できる場合もあるが、四角筒状チューブ210や保管用ラック200に無理な力が掛かるため四角筒状チューブ210や保管用ラック200が傷みやすく、寿命が短くなるという課題も指摘されていた。
【0005】
そこで、本発明の目的は、ハンド機構の精度を上げることなく、保管用ラックへ効率よくチューブを挿入できるとともに、チューブ挿入時に無理な力が保管用ラックやチューブに加わることなく保管用ラックやチューブの長寿命化が図られる創薬用ハンド機構の位置ずれ制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、創薬用試料を封入するチューブを碁盤目状に複数本縦立収容する保管用ラックにターゲットチューブを挿入する創薬用ハンド機構の位置ずれ制御方法において、前記ターゲットチューブを保管用ラックの所定のポイントに前記ハンド機構により挿入する際
に、前記保管用ラックに既に収容されている前記ポイントに隣接した他のチューブや前記保管用ラックの構成部材の一部に前記ターゲットチューブが接触し挿入できない場合、該ターゲットチューブを一度持ち上げて、前記ポイントを所定の距離α移動して再度挿入する第1工程と、再度挿入した結果、再び挿入できない場合、前記ポイントを初期のポイントを中心として円周方向に所定の角度β移動して再度挿入し、挿入できる場所が見つかるまで、順次所定の角度βずつ移動して挿入し、一周しても挿入できるポイントが見つからない場合、前記所定の距離αを所定量Δα増大させて再度挿入する第2工程とを有し、挿入できるポイントが見つかるか、あるいは、所定の距離αが所定の最大値に到達するまで、前記第2工程を繰り返すことによって、前記の課題を解決するものである。
【0007】
なお、本発明において、「ターゲットチューブ」とは、ハンド機構によって、保管用ラックに挿入しようとしているチューブのことを意味しており、「ポイント」とは、ハンド機構がターゲットチューブを保管用ラックに収容する際に照準としている保管用ラック上の位置を意味しており、通常は、保管用ラックの一区画の中心を意味している。さらに、本発明における「ハンド機構」の形式は、特に限定されるものではないが、例えば、弾性を有するプラスチック等で成形された複数の爪と、保管用ラックの所定の区画にターゲットチューブを収納し、複数の爪を引き上げる際に、複数の爪とターゲットチューブとの挟持状態を解除するためにターゲットチューブの頭部を押圧する突き落とし棒とからなるハンド機構などが用いられる。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に係る発明は、創薬用試料を封入するチューブを碁盤目状に複数本縦立収容する保管用ラックにターゲットチューブを挿入する創薬用ハンド機構の位置ずれ制御方法において、前記ターゲットチューブを保管用ラックの所定のポイントに前記ハンド機構により挿入する際に、前記保管用ラックに既に収容されている前記ポイントに隣接した他のチューブや前記保管用ラックの構成部材の一部に前記ターゲットチューブが接触し挿入できない場合、該ターゲットチューブを一度持ち上げて、前記ポイントを所定の距離α移動して再度挿入する第1工程と、再度挿入した結果、再び挿入できない場合、前記ポイントを初期のポイントを中心として円周方向に所定の角度β移動して再度挿入し、挿入できる場所が見つかるまで、順次所定の角度βずつ移動して挿入し、一周しても挿入できるポイントが見つからない場合、前記所定の距離αを所定量Δα増大させて再度挿入する第2工程とを有し、挿入できるポイントが見つかるか、あるいは、所定の距離αが所定の最大値に到達するまで、前記第2工程を繰り返すことによって、ハンド機構の精度を上げることなく、保管用ラックへ効率よくチューブ挿入できるとともに、チューブ挿入時に無理な力が保管用ラックやチューブに加わることなく保管用ラックやチューブの長寿命化が図られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に本発明の創薬用ハンド機構の位置ずれ制御方法について、図1乃至図3に基づいて説明する。図1は、創薬用ハンド機構が、チューブを保管用プレートに挿入する際に、チューブと保管用ラック上の別のチューブや保管用ラックの構成部材、例えば、チューブ支持ピンとの衝突を検知する方法を概念的に示した図である。図2は、本発明の位置ずれ制御方法のフローチャートである。図3は、本発明の位置ずれ制御方法に基づいて、チューブが挿入できるポイントを探索している際のポイントの遷移を示しており、図中の小円の中に書かれた0から24の数字は、ポイントの遷移の順番を意味する番号である。
【0010】
まず、図1に基づき、チューブを保管用ラックに挿入する際に、チューブと保管用ラック上の別のチューブに衝突したことを検知する方法の一例について説明する。チューブ21は、ハンド機構10の爪11に挟持されて、保管用ラック上の所定のポイントに移動する。図1(a)は、ハンド機構10に付随する上限センサ12がONになっており、下限
センサ14がOFFになっているため、ハンド機構10が上昇状態にあることが認知される。この実施例においては、上昇センサ12及び下限センサ14は、発光ダイオードから放射された光が反射板13、15で反射されて戻ってくる光をフォト・トランジスタで検知する反射型光センサを用いている。
【0011】
図1(b)は、上限センサ12がOFFになっており、下限センサ14がONになっているため、ハンド機構10が下降状態にあることが認知される。この時、チューブ21は、隣接する別のチューブ23や、チューブ支持ピン22に衝突することなく、保管用ラック20上の所定のポイントに収容される。
【0012】
図1(c)は、下限センサ14がONになる前に、ハンド機構10の下降動作が停止されたため、ハンド機構10の爪11が、隣接する別のチューブ23やチューブ支持ピン22に衝突したことが認知される。図示した例では、隣接する別のチューブ23の頭部にチューブ21の底部が衝突している。このような状態になった時、ハンド機構10の爪11を一旦、上げてから、ポイントを若干移動して再び挿入するリトライ機能が作動する。
【0013】
次に図2及び図3に基づき、本発明の主要部であるリトライ機能について説明する。以下の説明において引用したS0〜S10の参照符号は、図2のフローチャートの各ステップに付した符号を意味している。
【0014】
まず、チューブが保管用ラックに収容された別のチューブや、保管用ラックのチューブ支持ピンなどの構成部材に衝突したことが認知される(S0)と、一旦、爪を上昇させる(S1)。次に爪のポイントを距離α移動させる(S2)。本実施例では、距離αは、0.2mmとしている。すなわち、図3に示したように、爪のポイントを、0ポイントから距離α移動した1ポイントに移動させる。
【0015】
次に爪を再び降下させる(S3)。この時、チューブが保管用ラックに収容された別のチューブや、保管用ラックのチューブ支持ピンなどの構成部材に衝突したか、衝突していないかが判別される(S4)。そして、衝突していなければ、チューブが正常に保管用ラックに収容されたことになり、チューブの収容動作が終了し、次のチューブの収容動作に移行する(S5)。
【0016】
一方、S4のステップの判別の結果、衝突していることが認知されると、ポイントを初期のポイント(図3の0ポイント)を中心として円周方向に角度β加算する(S6)。ここで角度βの大きさは、特に限定されるわけではないが、360度の整数分の1の値が望ましく、本実施例では、45°としている。そして、ポイントが初期のポイントを中心として円周方向に1周したかどうかが判別される(S7)。そして、S7のステップの判別の結果、1周していなければ、S1のステップにジャンプし、爪を一旦上昇させる(S1)。そして、距離αは、この段階では、変化していないので、初期のポイントとの距離をαに保ったまま、円周方向に角度β移動した位置で再び爪を降下させる(S3)。すなわち、図3に示したように、爪のポイントを、1ポイントから角度β移動した2ポイントに移動させる。
【0017】
このS1からS7間のステップが繰り返されて、チューブが、正常に挿入されるポイントが探索される。この時、爪のポイントは、図3に示したように3、4、5、6、7、8と移動する。その後、S6のステップにおいて、ポイントを初期のポイントを中心として円周方向に角度β加算させると、ポイントが初期のポイントを中心として円周方向に1周したことになるので、すなわち、ポイントの位置が図3に示した1ポイントとなるので、S1〜S7のループから抜け出て、S8のステップに移る。そこで距離αが所与の最大値か否かが判別される。その結果、距離αが最大値になっていた場合には、エラーとして、
その挿入動作を中止する(S9)。一方、距離αが最大値でない場合には、α=α+Δαの演算を行い(S10)、再び、S1のステップにジャンプする。本実施例では、Δαは、αと同じ0.2mmとし、距離αの最大値は、0.6mmとしている。すなわち、図3に示したように、爪のポイントを、1ポイントから半径方向に距離Δα移動した9ポイントに移動させる。
【0018】
そして、再び、S1からS7間のステップが繰り返されて、チューブが、正常に挿入されるポイントが探索される。S4のステップにおいて衝突しないポイントが見つからない場合、爪のポイントは、図3に示したように9、10、11、12、13、14、15、16と半径を0.4mmとする円周上を移動する。その後、S6のステップにおいて、ポイントを初期のポイントを中心として円周方向に角度β加算させると、ポイントが初期のポイントを中心として円周方向に1周したことになるので、すなわち、ポイントの位置が図3に示した9ポイントと同じになるので、S1〜S7のループから抜け出て、S8のステップに移る。そこで距離αが所与の最大値か否かが判別される。その結果、距離αが最大値になっていた場合には、エラーとして、その挿入動作を中止する(S9)。本実施例においては、最大値を0.6mmに設定したので、距離αは、まだ、最大値でないので、α=α+Δαの演算を行い(S10)、すなわち、距離αを0.6mmとして、再び、S1のステップにジャンプする。
【0019】
そして、再び、S1からS7間のステップが繰り返されて、チューブが、正常に挿入されるポイントが探索される。S4のステップにおいて衝突しないポイントが見つからない場合、爪のポイントは、図3に示したように17、18、19、20、21、22、23、24と移動する。その後、S6のステップにおいて、ポイントを初期のポイントを中心として円周方向に角度β加算させると、ポイントが初期のポイントを中心として円周方向に1周したことになるので、すなわち、ポイントの位置が図3に示したように17ポイントと同じになるので、S1〜S7のループから抜け出て、S8のステップに移る。そこで距離αが所与の最大値か否かが判別される。その結果、距離αは、0.6mmであり、最大値になっているので、エラーとして、この挿入動作を中止する(S9)。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、ハンド機構の精度を上げることなく、保管用ラックへ効率よくチューブを挿入できるとともに、チューブ挿入時に無理な力が保管用ラックやチューブに加わることなく保管用ラックやチューブの長寿命化が図られるものであって、創薬分野の他にも産業上の利用可能性は、きわめて高い。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に使用する創薬用ハンド機構が、チューブの衝突を検知する説明図。
【図2】本発明の創薬用ハンド機構の位置ずれ制御方法のフローチャート。
【図3】本発明の位置ずれ制御方法を用いて挿入できるポイントを探索している時のポイントの遷移を示した図。
【図4】マイクロチューブと保管用ラック示す斜視図。
【符号の説明】
【0022】
10 ・・・ ハンド機構
11 ・・・ 爪
12 ・・・ 上限センサ
13、15 ・・・ 反射板
14 ・・・ 下限センサ
20、100、200 ・・・ 保管用ラック
21、23、110、210 ・・・ マイクロチューブ
22、220 ・・・ チューブ支持ピン


【特許請求の範囲】
【請求項1】
創薬用試料を封入するチューブを碁盤目状に複数本縦立収容する保管用ラックにターゲットチューブを挿入する創薬用ハンド機構の位置ずれ制御方法において、
前記ターゲットチューブを保管用ラックの所定のポイントに前記ハンド機構により挿入する際に、前記保管用ラックに既に収容されている前記ポイントに隣接した他のチューブや前記保管用ラックの構成部材の一部に前記ターゲットチューブが接触し挿入できない場合、該ターゲットチューブを一度持ち上げて、前記ポイントを所定の距離α移動して再度挿入する第1工程と、
再度挿入した結果、再び挿入できない場合、前記ポイントを初期のポイントを中心として円周方向に所定の角度β移動して再度挿入し、挿入できる場所が見つかるまで、順次所定の角度βずつ移動して挿入し、一周しても挿入できるポイントが見つからない場合、前記所定の距離αを所定量Δα増大させて再度挿入する第2工程とを有し、
挿入できるポイントが見つかるか、あるいは、所定の距離αが所定の最大値に到達するまで、前記第2工程を繰り返すことを特徴とする創薬用ハンド機構の位置ずれ制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−267831(P2008−267831A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−107427(P2007−107427)
【出願日】平成19年4月16日(2007.4.16)
【出願人】(000003355)株式会社椿本チエイン (861)
【Fターム(参考)】