説明

加圧ボールペン用インキ組成物

【課題】書き味が良好で、且つチップ先端からのインキ漏れ及び垂れ下がりのない加圧ボールペン用インキ組成物を提供する。
【解決手段】着色剤と、剪断減粘性付与剤と、有機溶剤と、樹脂と、粒子径が0.02〜1.0μmである高分子微粒子を含有し、剪断速度0.19sec−1(20℃)におけるインキ粘度が50,000mPa・s以上、剪断速度500sec−1(20℃)におけるインキ粘度が30,000mPa・s以下とする。また、好ましくは、前記高分子微粒子をアクリル系微粒子にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加圧ボールペン用インキ組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、インキ収容筒内に加圧ガスを封入し、この加圧ガスの圧力やノック作動等により、インキ収容管内の空間部を圧縮し、この圧縮による圧力によって、インキ収容筒内に充填したボールペン用インキをチップ先端側へ押圧する加圧式ボールペンはよく知られている。こうした加圧ボールペンは、チップ先端やボールペンチップの嵌合部からのインキ漏れが発生しやすく、インキ粘度を100,000〜200,000mPa・s(20℃)と粘度を高く設定し、結果的には書き味を犠牲にしているのが現実であった。
【0003】
こうした問題を鑑みて、特開2002−205484号「ボールペンリフィール」では、圧力を0.15MPa以上、0.4MPa以下とし、インキ粘度10,000〜50,000mPa・s(25℃)としたインキ及びこのインキに構造粘性を付与したインキや特開平10−236065号「ボールペン」のように、圧力を大気圧(0.1MPa)と同等以上、5気圧(0.5MPa)以下とし、インキ粘度1,000〜40,000mPa・s(23℃)の水を主溶剤とした剪断減粘性を付与したインキを充填するとともに、チップ内に、ボールを常に軸方向前方に押圧する弾性体を配設した弁機構を具備した構造が開示されている。
【特許文献1】「特開2002−205484号公報」
【特許文献2】「特開平10−236065号公報」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
確かに、インキ粘度を低下させることで、書き味は良好となるが、インキ粘度が低い程、チップ先端からのインキ漏れが発生しやすくなることも事実である。特に加圧ボールペンにおいては、圧力が加わっているため、よりインキ漏れが発生しやすかった。
【0005】
また、加圧ボールペンのインキを押圧する圧力は、インキ収容筒内に収容するインキ量の多い初期状態に比べ、インキ量の少ない終了間際のほうが小さくなる。これは、インキの消費に伴って、加圧ガスを封入している空間が多くなるためである。
【0006】
従って、収容するインキ量が多くなればなる程、インキ量の多い初期状態と、インキ量の少ない終了間際での圧力変化が大きく、初期状態に加える圧力をより高くする必要があるので、チップ先端からのインキ漏れが発生しやすいという問題があった。
【0007】
ところで、従来のボールペンにおいて、剪断減粘性を付与したインキ(以下ゲルインキという。)を収容したゲルインキボールペンのインキ収容量は、油性ボールペン用インキを収容した油性ボールペンの収容量より、2倍〜3倍多く収容している。これは、ボール径を同一とした時、ゲルインキボールペンと油性ボールペンにおいて、総筆記距離を同等とする目的等のためである。
【0008】
本発明はこうした問題を鑑みて、書き味が良好で、且つチップ先端からのインキ漏れ及び垂れ下がりのない加圧ボールペン用インキ組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
「1.着色剤と、剪断減粘性付与剤と、有機溶剤と、樹脂と、粒子径が0.02〜1.0μmである高分子微粒子を含有し、剪断速度0.19sec−1(20℃)におけるインキ粘度が50,000mPa・s以上、剪断速度500sec−1(20℃)におけるインキ粘度が30,000mPa・s以下としたことを特徴とする加圧ボールペン用インキ組成物。
2.前記高分子微粒子が、アクリル系微粒子であることを特徴とする第1項に記載の加圧ボールペン用インキ組成物。
3.前記アクリル系微粒子が、スチレンメタアクリル酸エステル系架橋微粒子である、第2項に記載の加圧ボールペン用インキ組成物。
4.前記スチレンメタアクリル酸エステル系架橋微粒子が、スチレンを10〜50%と、アクリルモノマーとを内部架橋した微粒子であることを特徴とする第3項に記載の加圧ボールペン用インキ組成物。」である。
【0010】
また、インキ粘度の測定は、イギリス、キャリメ社製CSLレオメータ等を用いて、温度20℃で行った。筆記時のインキ粘度は、剪断速度500sec−1、静止時のインキ粘度は、剪断速度0sec−1の近似値として、剪断速度0.19sec−1のインキ粘度とした。
【0011】
本発明の第1の特徴は、剪断速度0.19sec−1(20℃)におけるインキ粘度が50,000mPa・s以上、剪断速度500sec−1(20℃)におけるインキ粘度が30,000mPa・s以下とした剪断減粘性を付与したインキとすることである。
【0012】
剪断速度0.19sec−1(20℃)におけるインキ粘度が50,000mPa・s未満では、圧力を加えた時に、チップ先端及びチップの嵌合部からのインキ漏れを防止できない。また、剪断速度500sec−1(20℃)におけるインキ粘度が30,000mPa・sより高くなると、書き味が良好でなくなる。
【0013】
第2の特徴は、加圧ボールペン用インキ組成物中に粒子径が、0.02〜1.0μmである高分子微粒子を含有することである。
【0014】
前述したように、剪断減粘性を付与したインキとし、静止時のインキ粘度を50,000mPa・s以上とすることで、チップ先端部からのインキ漏れ出しを発生しにくくしているが、インキ組成物中に粒子径が、0.02〜1.0μmである高分子微粒子を含有し、加圧ボールペン用インキの樹脂、溶剤と、高分子微粒子の表面との相互作用により、インキに構造粘性を付与することにより、より完全にチップ先端からのインキ漏れを防止することができる。
【0015】
高分子微粒子の形状は、粒子径の小さい球状であると、ボールとチップ先端部との隙間から吐出されやすく好ましいが、粒径が1.0μmを越えるとチップ先端部の隙間から吐出されにくく、0.02μm未満では、チップ先端のインキ漏れ防止効果が薄いため、粒子径は、0.02〜1.0μm、好ましくは0.02〜0.5μmとする。
【0016】
また、高分子微粒子の含有量は、0.5質量%未満では、チップ先端のインキ漏れ防止効果が薄く、5.0%を越えると筆跡濃度が薄くなるため、インキ組成物中に0.5質量%〜5.0質量%とすることが好ましい。
【0017】
高分子微粒子としては、アクリル系微粒子、ポリスチレン粒子、ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド縮合物、シリコーン系微粒子等が例示できるが、この中でもアクリル系微粒子は、経時安定性に優れているため好ましく、さらにアクリル系微粒子の中でもスチレンアクリル系微粒子は、油性ボールペンに一般的に使用するエチレングリコールモノフェニルエーテル、ベンジルアルコールのような高沸点溶剤への分散能が高く、インキ中に均一に分散するので好ましい。また、スチレンアクリル系微粒子の中でも、スチレンメタアクリル酸エステルを架橋した微粒子を内部構造にすることにより、有機溶剤中で粒子形状が変化を起こさず、さらに加熱状態での粒子形状変化が少ない。
【0018】
また、スチレンメタアクリル酸エステル系架橋微粒子は、スチレン量を10〜50%、好ましくは、20〜30%とすることで、インキ中に均一に分散し、有機溶剤中で安定するので好ましい。スチレン量が10%未満だと、アクリル量が多過ぎるため、微粒子の粒度分布が広く、均一な粒径の微粒子が得られないばかりでなく、溶剤分散安定性が悪くなり、経時的に微粒子が沈降を起こし、筆記不良の原因となる。スチレン量が50%を越えると、微粒子の作製が困難になるとともに、溶剤分散した場合の膨潤度が高く、有機溶剤中で粒子形状が変化しやすい。
【0019】
本発明の加圧ボールペン用インキ組成物は、前述したインキ粘度の設定と、剪断減粘性付与剤による非ニュートン粘性と、高分子微粒子による構造粘性の相乗効果により、チップ先端部からのインキ漏れを確実に防止することができる。
【0020】
本発明に採用する着色剤としては、染料及び/又は顔料が用いられる。染料としては、従来から油性ボールペンに採用されているアルコール可溶染料、油溶性染料、直接染料、酸性染料、塩基性染料、含金染料、及び各種造塩タイプ染料等が採用可能である。これらの着色剤は単独又は2種以上混合して使用してもかまわない。含有量は、インキ組成物全量に対し、20〜40質量%が望ましい。顔料としては、有機、無機、加工顔料、例えば、カーボンブラック、フタロシアニン系、アゾ系、キナクリドン系、キノフタロン系、スレン系、トリフェニルメタン系等がある。これらの着色材は単独、2種以上混合して使用してもかまわない。含有量は、インキ組成物全量に対し、1〜20重量%が望ましい。
【0021】
また、有機溶剤は、インキ成分の溶媒、分散媒として用いる。具体的には、ベンジルアルコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等のアルコール類及びグリコール類、エチレングリコールモノフェニルエーテル等のグリコールエーテル類、Nメチルピロリドン等の含窒素系溶剤等が使用可能である。これらは、単独、2種以上混合して使用してもかまわない。含有量は、インキ組成物全量に10〜60質量%が好ましい。
【0022】
インキ粘度調整剤として樹脂を含有する。樹脂は、フェノール樹脂、マレイン樹脂、アミド樹脂、キシレン樹脂、水添ロジン樹脂、ケトン樹脂、テルペン樹脂、ブチラール樹脂等が挙げられる。これらは、紙面への定着剤,固着剤としても効果を示す。これらは単独、2種以上混合して使用してもかまわない。
【0023】
また、泣き、ボテ性能を良好にするために、曳糸性付与剤も適時採用可能である。添加剤の例として、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、ヒドロキシプロピルセルロース、ゴム系高分子化合物等が挙げられる。これらは、単独又は2種以上混合して使用してもかまわない。その他添加剤として、界面活性剤、防錆剤、分散剤、潤滑剤、染料溶解安定剤等が適時選択して添加することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の加圧ボールペン用インキ組成物は、剪断減粘性付与剤と高分子微粒子の相乗効果により、書き味が良好で、且つチップ先端からのインキ漏れ及び垂れ下がりを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
次に、本発明の加圧ボールペン用インキ組成物の実施例を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0026】
加圧ボールペン用インキ組成物は、先ず、有機溶剤としてベンジルアルコール、エチレングリコールモノフェニルエーテルを採用し、これを所定量秤量して60℃に加温した後、ディスパー攪拌機を用いて、高分子微粒子として粒径0.8μmのスチレンアクリル酸エステル架橋微粒子(日本ペイント社製 マイクロジェル)を均一に分散させた。次いで潤滑剤としてオレイン酸と、曳糸性付与剤としてポリビニルピロリドンK−90(和光純薬工業株式会社製)と、インキ粘度調整剤(油溶性粘度調整樹脂)としてハイラック110H(日立化成工業株式会社製、ケトン樹脂)と、剪断減粘性付与剤として脂肪酸アマイドワックスと、着色剤として染料系のスピロンブラックGMH−スペシャル(保土谷化学工業株式会社製)及びバリファーストバイオレット1701(オリエント化学工業株式会社製)とを、ディスパー攪拌機を用いて溶解させ、黒色の加圧ボールペン用インキ組成物を得た。具体的な配合量は下記の通りである。
【0027】
着色剤(スピロンブラックGMH−スペシャル) 15.0質量%
着色剤(バリファーストバイオレット1701) 15.0質量%
有機溶剤(ベンジルアルコール) 17.7質量%
有機溶剤(エチレングリコールモノフェニルエーテル) 26.6質量%
剪断減粘性付与剤(脂肪酸アマイドワックス) 1.2質量%
高分子微粒子(スチレンアクリル酸エステル架橋微粒子) 2.0質量%
インキ粘度調整剤(ハイラック110H) 20.0質量%
曳糸性付与剤(ポリビニルピロリドンK−90) 0.5質量%
潤滑剤(オレイン酸) 2.0質量%
【0028】
実施例2〜4
各加圧ボールペン用インキ組成物を表1に示す通りに配合した以外は実施例1と同様にして、加圧ボールペン用インキ組成物を得ている。
【0029】
表1

【0030】
比較例1
高分子微粒子を添加せず、その他の配合を表2に記載した通りとした以外は実施例1と同様にして加圧ボールペン用インキ組成物を得た。
【0031】
比較例2〜5
各インキ組成物の配合を表2に記載した通りとした以外は実施例1と同様にして加圧ボールペン用インキ組成物を得た。
【0032】
表2

【0033】
試験方法及び評価
各実施例及び比較例の加圧ボールペン用インキ組成物を0.3mlをインキ収容管に充填した後、圧縮空気を封入し、0.3MPaを維持した状態で、ボール径が0.7mmのボールを抱持したボールペンチップを装着した加圧ボールペンレフィルを作成し、下記の試験を行い、評価した。
1.筆感(手書き筆記において)
低筆圧で筆記可能で滑らかで特に良好ものを ……◎
良好なものを ……○
やや劣るものを ……△
低筆圧で筆記できず滑り感のないものを ……× とした。
2.インキ漏れ出し:各例の加圧ボールペンレフィルのチップを下向きに直立して温度30℃、湿度80%RHで24時間放置後のチップ先端部のインキ漏れ出しの有無を目視にて観察した。
チップ先端からインキの漏れ出しが認められないもの ……○
チップ先端からインキの漏れ出しが認めらたもの ……× とした。
【0034】
各実施例及び比較例の評価結果は、表1及び表2に示す通りである。
比較例1は、高分子微粒子を含まないために、剪断速度0.19sec−1(20℃)におけるインキ粘度が50,000mPa・s以上であってもインキ漏れ出しが発生してしまった。
【0035】
比較例2、3は、剪断速度0.19sec−1(20℃)におけるインキ粘度が低過ぎるために、インキ漏れ出しを防止することができなかった。また、筆跡の滲みや裏抜けが発生してしまった。
【0036】
比較例4は、剪断減粘性付与剤を添加せず、剪断速度0.19sec−1(20℃)におけるインキ粘度を高くしたため、剪断速度500sec−1(20℃)におけるインキ粘度も高く、ボール回転抵抗が強くなるため筆感が良好とはならない。
【0037】
比較例5は、剪断減粘性付与剤を添加せず、剪断速度0.19sec−1(20℃)におけるインキ粘度を低くしたため、インキ漏れ出しを防止することができなかった。また、速度500sec−1(20℃)におけるインキ粘度は高く、ボール回転抵抗が強くなるため筆感が良好とはならない。
【0038】
また、表中には記載していないが、加圧しない大気圧(0.1MPa)の状態では、実施例、比較例共に筆記する事ができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のインキ組成物を充填する加圧式のボールペン構造は特に限定されるのでなく、例えば、インキ充填後のインキ収容管内に加圧ガスを封入したり、ポンピングによりインキ収容管内の空気を圧縮する等のボールペン構造が例示できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤と、剪断減粘性付与剤と、有機溶剤と、樹脂と、粒子径が、0.02〜1.0μmである高分子微粒子を含有し、剪断速度0.19sec−1(20℃)におけるインキ粘度が50,000mPa・s以上、剪断速度500sec−1(20℃)におけるインキ粘度が30,000mPa・s以下としたことを特徴とする加圧ボールペン用インキ組成物。
【請求項2】
前記高分子微粒子が、アクリル系微粒子であることを特徴とする請求項1または2に記載の加圧ボールペン用インキ組成物。
【請求項3】
前記アクリル系微粒子が、スチレンメタアクリル酸エステル系架橋微粒子である、請求項3に記載の加圧ボールペン用インキ組成物。
【請求項4】
前記スチレンメタアクリル酸エステル系架橋微粒子が、スチレンを10〜50%と、アクリルモノマーとを内部架橋した微粒子であることを特徴とする請求項4に記載の加圧ボールペン用インキ組成物。