説明

加工機用加工油の性能評価方法

【課題】 簡易型試験機による実験室レベルの評価結果が、実機の加工機に適応でき、精度および信頼性が高く、試験評価時間の短い加工油の性能評価方法を提供すること。
【解決手段】簡易形状金型10を取付けた試験機1で、プレス機等の加工機に使用される加工油の性能を評価する性能評価方法であって、被加工材2に加工油を塗布し、塗布した被加工材2をダイス21と、パンチ13のいずれか一方にセットし、被加工材2をダイス21とパンチ13とで挟圧し、成形面にせん断面と、破断面とを混在させる成形条件で被加工材2からワーク3を成形し、成形されたワーク3に発生したせん断面と、破断面とからせん断面比率、又は、破断面比率を求めて加工油の性能を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工機用加工油(潤滑油)、特にプレス加工機等で例えばギアをせん断加工する際に使用される加工油の性能評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術の加工油の汎用的な評価方法として、例えば曾田式四球摩擦試験機を使い加工油の耐荷重能を試験評価する曾田式四球法が知られている。曾田式四球法は、3つの固定球に1つの回転球を押付け回転させ、規定時間運転内における球の焼付きの有無と、その状態を調べる。この操作を1回ごとに試験用鋼球及び試料である加工油を変えて繰返し、合格限界荷重を求め、これを耐荷重能とする。この耐荷重能を例えば、プレス成形時の材料と金型の極圧条件と想定して加工油の耐荷重能として評価する。また、この時の固定球の摩耗痕形状を比較することで加工油の性能差異を比較評価する(例えば、非特許文献1参照。)。
【0003】
また、潤滑剤(加工油)の性能評価方法であって、中央部に孔が設けられた被加工材に潤滑剤を塗布するとともに、被加工材を一対の凸部と凹部を備えた工具によりしごき加工中の工具にかかる荷重、しごき加工後の工具の表面性状、しごき加工後の被加工材の表面性状のうちいずれか一つ、又はそれらのうちの複数を測定する潤滑剤の性能評価方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、潤滑剤が外周面に被着されている柱状の金属被加工材を塑性変形させることにより潤滑剤の潤滑性能を評価する潤滑剤評価方法であって、金属被加工材をその両端面から一定のストロークで挟圧して金属被加工材の中間部を外周側へフランジ状に突出させる塑性加工を行い、そのときの金属被加工材に対する挟圧荷重に基づいて潤滑剤の潤滑性能を評価する潤滑剤評価方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【非特許文献1】JIS−K2519 潤滑油−耐荷重能試験方法
【特許文献1】特開2003−294727号公報
【特許文献2】特開2007−51920号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1によれば、曾田式四球法などの評価方法は、実際の加工機における成形条件を想定し、鋼球の焼付きの有無を調べ、あるいは、その状態あるいは摩耗痕の形状を比較する、実験室レベルでの加工油の性能評価を行う汎用的な性能評価法方である。しかし、加工機によるせん断加工は、せん断現象、破断現象が起こっており、焼付け現象、摩耗現象とは異なる。実際の加工機における成形条件を想定し曾田式四球法で加工油の性能評価を行っても、適正な性能評価が出来ない問題がある。
【0006】
特許文献1によれば、ダイスと鋼球との間で1回の加工で潤滑剤が塗布された被加工材がしごかれる割合(しごき率)を20〜70%に設定して、被加工材の焼付き状態で評価する。しごき率が20%以下であると焼付きが出にくく、潤滑剤の違いによる明確な評価が現れにくい。しごき率が70%以上になると、被加工材の材料強度が限界となり曲げ部で破断が発生してしまうため、潤滑剤の違いによる明確な評価が現れにくい。ギア等をせん断加工するプレス加工機に使用される加工油の評価は、しごき率が70%を遥かに超えているため、しごき率を20〜70%に設定して被加工材の焼付き状況で評価する方法では適正な評価が出来ない問題がある。
【0007】
また、特許文献2によれば、潤滑剤が塗布された金属被加工材をパンチ下型とで挟圧して塑性変形させ、最大挟圧荷重を測定する。最大挟圧荷重を基準に塑性変形後の面積/塑性変形前の面積で定義される最大表面拡大率又は塑性変形後の金属被加工材の高さで評価する。しかし、ギア等をせん断加工するプレス加工機に使用される加工油の評価は、塑性変形を超えたせん断、破断領域で評価になければならないため、最大表面拡大率又は塑性変形後の金属被加工材の高さでは評価できない問題がある。
【0008】
上述の非特許文献1、特許文献2、非特許文献3の評価方法は、いずれも実験室を重視し、試験機による加工油の性能評価法方である。しかし、実験室で評価された加工油を実際のプレス生産で使用してみると、必ずしも実験室で評価の良かった加工油が生産での良いという結果ではい。これは、上述した各評価方法の問題点に起因する。このため、従来技術では、試験結果のデータベースと加工油開発担当者の経験と勘にたより、適正な加工油の評価、選定がなされない問題がある。また、適正な加工油の選定あるいは加工油開発に多大な時間を要する問題がある。
【0009】
さらに、実際の生産ではプレス加工の破断による不良品の発生を抑制するため、良品の成形条件、例えばクリアランス、形状因子等に安全率を多く含ませる。従って、実機における加工油評価選定では、加工油の性能が均衡する場合、明確な差異は見えず加工油の適正な評価が出来ない問題がある。
【0010】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、簡易型試験機による実験室レベルの評価結果が、実機の加工機に適応でき、精度および信頼性が高く、試験評価時間の短い加工油の性能評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、加工機に使用される加工油の性能評価方法であって、被加工材に前記加工油を塗布する塗布工程と、加工油が塗布された被加工材を雌側工具及び雄側工具の少なくともいずれか一方にセットするセット工程と、セットした被加工材を雄側工具及び雌側工具の少なくともいずれか一方を用いて挟圧し、成形面にせん断面と破断面とを混在させる成形条件で前記被加工材からワークを成形する成形工程と、ワークに発生したせん断面及び破断面の少なくとも一方の断面から加工油の性能を評価する評価工程とを備える。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、加工油の性能評価は、成形面にせん断面が発生するせん断面比率又は、成形面に破断面が発生するする破断面比率で評価する。
【0013】
また、請求項3に記載の発明は、ワークは、成形面が半抜き状態で成形される。
【0014】
また、請求項4に記載の発明は、被加工材を成形する形状は、ギヤ形状である。
【0015】
また、請求項5に記載の発明は、加工油の性能評価は、成形条件を変化させる。
【0016】
また、請求項6に記載の発明は、成形条件は、雄側工具及び前記雌側工具とのクリアランスと、雄側工具及び前記雌側工具の少なくとも一方の面取り角度及び面取り深さと、被加工材の板厚と、ワークが成形される成形速度とであり、雄側工具と雌側工具との前記クリアランスと、雄側工具と雌側工具の少なくとも一方の面取り角度及び面取り深さと、被加工材の板厚と、成形速度のうち少なくとも1つを変化させる。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に記載の発明では、評価すべき加工油を被加工材に塗布し、パンチ等の雄側工具とダイス等の雌側工具とで挟圧し、せん断面と、破断面とを混在させる成形条件で成形しワークにする。この場合、成形加工は、パンチとダイスと備えた実験室レベルの簡易試験機で良く、実機の加工機でせん断加工する際に起こるせん断現象を発生させるので、加工油の評価結果は、実機の加工機に使用する加工油の適正な性能評価として使用できる。
【0018】
ワークの成形面のせん断面と破断面の混在する割合が50%近傍であると、評価すべき複数種の加工油の性能評価の差異が出易い。性能評価の差異を明確にするため、基準となる加工油のせん断面と破断面の混在割合が略50%になるように成形条件を設定する。この成形条件で成形されたワークの成形面に発生したせん断面と破断面の発生比率を評価すべき各々の加工油について求める。せん断面比率が高いほど、破断面比率の低いほど性能の良い加工油であり、せん断面比率あるいは破断面比率を使い数値として示せるので高い精度で加工油の性能を評価できる。
【0019】
また、数回の性能評価をおこなっても短い時間で済むので、1種類の加工油の試験評価を数回(例えば、10回)程度行うこともできる。すると、加工油の試料数を増すことができ、例えば、従来技術の評価と同じ評価時間であっても性能評価の信頼性を高めることもできる。
【0020】
さらに、実機による従来技術の性能評価方法では、加工油の明確な差異が見られないが、本発明の性能評価によれば臨界条件若しくは臨界条件付近で加工油の評価を行なうので明確な差異を得ることができる。このことから、例えば、最終評価時点で判明するやり直しを大幅に抑制でき、加工油の開発から実用化までの評価時間及び開発時間を短縮できる。
【0021】
以上により、簡易型試験機による実験室レベルの評価結果が、実機の加工機に適応でき、精度および信頼性が高く、試験評価時間の短い加工油の性能評価方法を提供できる。
【0022】
また、請求項2に記載の発明では、加工油の性能評価は、せん断面比率または破断面の比率で評価する。雄側工具と雌側工具とで被加工材が圧縮され、せん断面にはせん断応力が作用し、極圧下にある加工油が加工油として正常に機能し、組織が正常に流れ塑性加工が正常になされる。破断面は、引張り応力が作用し、加工面に亀裂が発生する。従って、せん断面比率が高く、破断面比率が低いほど性能の良い加工油で、数値として示せるので精度良く評価できる。例えば、成形されるワーク形状が、ギア形状の場合、ワークのギア先端部の成形面のせん断面数と、破断面数を拡大鏡、顕微鏡などで目視しカウントする。このカウント数から、せん断面比率は(せん断面数/ギア総数)×100(%)で求めることが出来る。結果、精度が高く、試験評価時間の短い加工油の性能評価方法を提供できる。
【0023】
また、請求項3に記載の発明では、簡易型試験機で成形されるワークは、成形面が半抜き状態で成形されるので、雄側工具の角部と雌側工具の角部とが当たることがなく、成形後のせん断面と破断面は角部の当りによる影響が除去される。
【0024】
例えば、雄側工具と雌側工具のクリアランスを実機で行なっている所謂ファインブランキング加工(精密せん断加工)相当の0又は、ほぼ0に近い僅かなクリアランスとした場合に成形時に雄側工具の角部が雌側工具の角部に当ることが起こり得る。このようなときでも、被加工材を雄側工具で打ち抜かないので雄側工具と雌側工具が成形中に当って破断面に雄側工具と雌側工具の接触による影響が出ることを抑制できる。
【0025】
そして、雄側工具と雌側工具のクリアランスが0又はほぼ0に近い僅かなクリアランスで成形加工を行うので、厳しい条件下で加工油の評価が可能となり、加工油の性能を正確に評価することができる。これらの作用に加工条件のバラツキが抑制され、精度および信頼性の高い加工油の性能評価方法を提供できる。
【0026】
また、請求項4に記載の発明では、被加工材を形成する形状は、ギヤ形状である。ギア形状の成形面は歯型形状であるので、被加工材に加わる加工応力が大きく加工油の性能に関する差異を明確に出せる。
【0027】
また、せん断面比率を(せん断面数/ギア総数)×100(%)とすることで、せん断面の定量化ができ、せん断面数、破断面数、ギア総数をカウントするだけで良く、短時間で精度良く、更に、バラツキも少なく加工油の性能を評価できるので、評価精度および信頼性を向上できると共に試験評価時間が短い加工油の性能評価方法を提供できる。
【0028】
また、請求項5に記載の発明では、加工油の性能評価は、成形条件を変化させることにより、せん断面比率を略50%に調整する。この調整により、加工油の性能評価の差異が明確になり、精度が高く、試験評価時間の短い加工油の性能評価方法を提供できる。
【0029】
また、基準比較が未知の加工油について性能評価あるいは開発する場合、せん断面比率が100%となる成形条件で試験評価した後、せん断面比率を下げて試験評価する。これにより、従来技術の勘に頼る試験評価に比べ、短時間で、実機に適応可能な加工油の性能評価あるいは加工油の開発を可能にする加工油の評価方法を提供できる。
【0030】
また、請求項6に記載の発明では、雄側工具及び前記雌側工具とのクリアランスと、
雄側工具及び雌側工具の少なくとも一方の面取り角度及び面取り深さと、被加工材の板厚と、ワークが成形される成形速度とであり、雄側工具と雌側工具とのクリアランスと、雄側工具と雌側工具の少なくとも一方の面取り角度及び面取り深さと、被加工材の前記板厚と、成形速度のうち少なくとも1つを変化させて、せん断面比率を略50%に調整する。この調整により、加工油の潤滑についての差異を明確にすることができ、精度が高く、試験評価時間の短い加工油の性能評価方法を提供できる。
【0031】
また、基準比較が未知の加工油について性能評価あるいは開発する場合、せん断面比率が100%となる成形条件で試験評価した後、せん断面比率を下げて試験評価することで、従来技術の勘に頼る試験評価に比べ、短時間で、実機に適応可能な加工油の性能評価あるいは加工油の開発を可能にする加工油の評価方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下に本発明の実施形態を図面を参照しつつ詳細に説明する。ここで、本実施形態は一例でありこれに限定されるものではない。
【0033】
図1は、本発明の実施形態に係わる加工機用の加工油の評価方法に使用される試験機の説明図である。図中、(a)は被加工材の成形前の状態を示し、(b)は被加工材の成形中でパンチが下死点に位置する状態を示し、(c)は被加工材の成形完了の状態を示す。加工機用の加工油の性能評価は、供試体である加工油を塗布した被加工材2を試験機1で成形加工し、成形加工後の被加工材2、即ちワーク3の成形面のせん断面数、破断面数を目視、カウントして行われる。
【0034】
試験機1は、簡易形状金型10をプレス機30に取付けて構成される。プレス機30は、汎用機で良く、また上下運動する装置ならプレス機でなくても良い。
【0035】
簡易形状金型10は、成形される製品の重要な部分を取り出し成形するもで、生産に用いられる本型に比べ簡易的であり、上型11と下型12から構成される。上型11には、外周面がギア形状の雄歯型部13aを有するパンチ13(雄側工具)と、ストリッパ14と、ストリッパ用加圧機15と、加圧ピン16とを備える。
【0036】
下型12は、内周面がギア形状の雌歯型部21aを有するダイス21(雌側工具)と、ノックアウト22と、ノックアウト用加圧機23とを備える。 パンチ13の雄歯型部13aと、ダイス21の雌歯型部21aとのクリアランスは0または、0に近い微小間隙(例えば、略5μm)を有する。ノックアウト22は、ダイス21の歯先内周面21bに摺動可能に内接する。ダイス21の上面には、パンチ13とで挟圧して成形加工される被加工材2が配置される。
【0037】
ストリッパ14は、加圧ピン16を介在し、ストリッパ用加圧機15で被加工材2を加圧し押さえる。ストリッパ用加圧機15は、シリンダ15aと、ピストンロッド15bとを備え、油圧などで加圧する加圧機能を有する。プレス機30は、被加工材2をパンチ13とダイス21とで挟圧し、被加工材2からギアであるワーク3を半抜き状態で成形する。後述する理由で、ワーク3は抜き状態で成形しても良いが、好ましくは半抜き状態が良い。また、ワーク3が半抜き状態で成形される場合は、パンチ13の雄歯型部13aが、ダイス21の雌歯型部21aより微小量オバーラップしても良い。
【0038】
ノックアウト22は、ノックアウト用加圧機23のピストンロッド23bに連結した加圧ピン24の上面に設けられ、成形されたワーク3をダイス21から払出す。ノックアウト用加圧機23はシリンダ23aと、ピストンロッド23bとを備え、空圧などで駆動される。
【0039】
図2は、成形前の被加工材2と、成形された半抜き状態のワーク3(成形後の被加工材2)の図である。図中、(a)は成形前の被加工材2示し、(a1)は(a2)のAA断面図である。(b)は成形されたワーク3を示し、(b1)は(b2)のBB断面図である。(b)に示すようにワーク3は、雌ギア形状のギア先端部3aと、雄ギア形状のギア先端部3cが形成されている。尚、点線は歯底を示す。ワーク3は、モジュールが0.56、板厚Tが5mm、半抜き量Hが4.5mmの半抜き状態のギアである。
【0040】
次に、本実施形態の作動と効果について説明する。
【0041】
図3は、本実施形態の加工油の性能評価方法に係わる工程のフロー図である。
【0042】
図3に示すように、加工油の性能評価方法は、加工油を塗布する塗布工程と、被加工材2をセットするセット工程と、被加工材2を加圧し押える押え工程と、被加工材を成形する成形工程と、ワークを払出す払出し工程と、加工油を評価する評価工程の6工程が順次なされる。
【0043】
(塗布工程):評価すべき加工油を脱脂した被加工材2の両面に塗布する。
【0044】
(セット工程):被加工材2をダイス21上面にセットする。
【0045】
(押え工程):セットされた被加工材2に向け上型11が降下され、ストリッパ14が被加工材2に当接する。引続き、ストリッパ用加圧機15により加圧ピン16を介在しストリッパ14で被加工材2を加圧し押える。
【0046】
(成形工程):プレス機30によりパンチ13が加圧され、被加工材2がパンチ13とダイス21とで挟圧され、半打抜きされたワーク3が成形される。この工程では、形成されるワーク3の成形面に、加工油の性能評価の差異が出やすいように、せん断面と、破断面とを混在させる。せん断面と、破断面との混在比率は、成形条件、即ちパンチ13とダイス21の金型条件(クリアランス、面取り角度、面取り深さ)あるいは加工条件(被加工材の板厚、成形速度)で変えることが出来る。基準となる加工油を性能評価の差異が出やすい略50%のせん断面比率(混在比率、略50%)に設定し、このせん断面比率にする成形条件で成形が行われる。性能の良い加工油ほど、せん断面が多く、破断面が少なく成形される。
【0047】
(払出し工程):ノックアウト用加圧機23により加圧ピン24を介在してノックアウト22が上方に移動し、ワーク3がダイス21から払出される。
【0048】
(評価工程):払出されたワーク3の各ギア先端部3aの成形面3b(図4)を拡大鏡、顕微鏡等により目視し、せん断面の数と破断面の数をカウントする。このカウント数から、(せん断面数/ギア総数)×100としたせん断面比率(%)を算出する。また、破断面比率(%)は、(破断面数/ギア総数)×100で算出される。パンチ13とダイス21とで被加工材2が圧縮され、せん断面にはせん断応力が作用し、極圧下にある加工油が加工油として正常に機能し、被加工材2の成形部の組織が正常に流れ塑性加工が正常になされる。破断面は、引張り応力が作用し、成形面に亀裂が発生する。従って、性能評価は、せん断面比率が高いほど、また、破断面比率が低いほど加工油の性能が高い。
【0049】
図4は、ワーク3のギア先端部3aを拡大鏡で目視した立体図である。図中、(a)全せん断面状態(せん断面比率100%)のギア先端部3aの成形面3bを示し、(b)は破断面状態のワーク3のギア先端部3aの成形面3bを示す。(b)に示すように成形面3bには、歯底から歯面にかけ三日月形状の亀裂の破断面Dが発生している。
【0050】
加工油、1種類につき上記の6工程を実施し、規定個数、例えば10個(N=10)の被加工材2を成形し、データの信頼性を上げる。個数が規定値かの判断は払出し工程と評価工程との間にて行われる。
【0051】
ここで、異なる加工油を評価する時は、パンチ13、ダイス21を洗浄、脱脂してから上記の6工程を実施する。
通常、製品を成形する実機のプレス機等の加工機は、一般的に成形面がせん断加工面になるように成形条件,金型条件,加工条件等々に余裕を含んで設定されている。このため、実機で加工油の性能評価を行っても、上記条件的な余裕の影響を受け明確な差異が得られず、正確な評価が困難である。
【0052】
しかし、成形条件、即ちパンチ13とダイス21の金型条件(クリアランス、面取り深さと、面取り深さ)あるいは加工条件(被加工材の板厚、成形速度)を変化させることにより正確な評価を行なうことができる。つまり、評価の基準となる加工油を成形する際にせん断面と破断面を混在させ、この混在比率を略50%にすることにより、せん断面と破断面が発生する成形上の臨界条件付近で被加工物の成形性(加工油の成形性)を判断できる。よって、加工油の性能に関して明確な差異を得ることができる。
また、せん断面と破断面の観察は、目視等々の手段により簡易に行なうことができ、従来技術に比べ短時間で試験評価できるものである。
【0053】
本実施形態では、試験機1は、パンチ13とダイス21を備えた簡易金型をプレス機30又は上下運動する装置に取付け、実験室レベルの簡易試験機を構成し、さらに、実機の加工機で加工する際に起こるせん断現象を発生させることができる。結果、簡易型試験機による実験室レベルの評価結果が、実機の加工機に適応でき、精度および信頼性が高く、試験評価時間の短い加工油の性能評価方法を提供できる。
【0054】
この試験機で行なう加工形態は、所謂ファインブランキング加工(精密せん断加工)である。ファインブランキング加工は加工条件の過酷さから加工油に高い要求性能が望まれる。そして、成形形状はギア形状としている。ギア形状は、山と谷のある歯型形状を有しているので被加工材に加わる応力等が高くなり成形時には加工油に高い要求性能が望まれる。これらの理由により簡易金型はファインブランキング加工を行う構造とし、加工油の潤滑性能の差異が大きく出る形状,条件等々としている。本実施形態のファインブランキング加工では、パンチとダイスのクリアランスが0又は、ほぼ0に近い僅かなクリアランスで行なわれる。このとき簡易形状金型10に取付けたパンチ13とダイス21との間のクリアランスが0又は、ほぼ0に近いことによりパンチ13の角部とダイス21の角部が当り成形面に影響を与えることを取除くため、図2に示すように半抜き状態で成形する。この結果、パンチ13の角部とダイス21の角部が当ることによる影響が少なく、精度および信頼性の高い加工油の性能評価方法を提供できる。但し、本発明における加工油の評価方法は、成形条件と成形形状によってはファインブランキング加工や半抜き状態の成形に限定されるものではなくその他の塑性加工方法であっても良い。
【0055】
このように本発明では、成形面をギア形状にすることで、せん断面の発生数と破断面の発生数をカウントして、(せん断面数/ギア総数)×100の式からせん断面比率(%)を算出できるので、目視等により確実且つ簡単に、しかも数値として評価することができる。結果、バラツキが少なく、精度および信頼性が高く、短時間で評価可能な加工油の評価方法を提供できる。
【0056】
尚、成形面がギア形状でない場合は、せん断面の発生長さと、破断面形状の発生長さからせん断面比率を算出できる。せん断面比率は、発生数から算出した方が発生長さから算出するよりバラツキが少なく、短時間で評価できるので、成形面はギア形状が好適である。
【0057】
被加工材の成形工程において、成形条件の金型条件、即ちパンチ13とダイス21の間のクリアランスと、パンチ13の面取り角度と、パンチ13の面取り深さと、ダイス21の面取り角度と、ダイス21の面取り深さとのうち少なくとも一つを変化させると、せん断面と、破断面の混在する割合は変化する。従って、せん断面と、破断面の混在する割合を略50%(せん断面比率略50%)になるように、金型条件を変えることで、加工油の限界付近での潤滑性能を明確にすることが可能となり、精度が高く、試験評価時間の短い加工油の性能評価方法を提供できる。
【0058】
また、被加工材の成形工程において、成形条件中の加工条件、即ち被加工材の板厚と、ワークが成形される成形速度の少なくともいずれか一つが変化させることにより、せん断面と、破断面の混在する割合が変化する。これによって、せん断面と、破断面の混在する割合を略50%(せん断面比率略50%)になるように、成被加工材の板厚及び成形速度の少なくともいずれかを変えることで、基準となる加工油の潤滑性能の限界付近で加工油の性能を明確にすることができ、精度が高く、試験評価時間の短い加工油の性能評価方法を提供できる。
【0059】
この他、評価対象の加工油について、1種類につき上記の6工程を実施し、数個(例えば、10個)のワーク3を成形し性能評価行なうようにすると試料数を増やして評価することにより評価結果の信頼性が増し、従来より高い評価精度の評価を短時間に行なうことができる。
【0060】
(性能評価方法の検証)
試験機1を使い、加工油であるA油、B油、C油の3種類を図3に示す工程に基づき、性能評価を実施し、本発明の加工油の性能評価方法を検証した。以下、検証結果を説明する。
【0061】
成形されるワークは、図2に示される半抜き状態のギアのワーク3(モジュールが0.56、板厚Tが5mm、半抜き量Hが4.5mm)である。せん断面と、破断面の混合条件は、50%に設定した。基準となる加工油はA油とした。パンチ13の形状は、実機と同じ面取り角度20°に設定し、基準となる加工油Aでのせん断面比率、破断面比率をそれぞれ50%にするため、面取り深さ0.53mmを試験から求めた。また、面取り角度20°で、面取り深さを変化させ、A油のせん断面比率を求めた。
【0062】
図5は、基準となる加工油であるA油の面取り深さと、せん断面比率の関係を示す図である。図中、(a)はせん断面比率を示し、(b)はパンチの図を示す。図から明らかなように、せん断面比率を50%近傍に設定すると、加工油の「良し悪し」の差異が明確に判断できる。
【0063】
図2のギアのワーク3、パンチ13の面取り角度20°、面取り深さ0.53mmの条件のもと、基準となる加工油であるA油と相対比較するB油、C油について本発明の性能評価方法と、実機の加工機による従来技術の性能評価方法とを実施し、せん断面比率を求めた。
【0064】
図6は、本発明の性能評価方法と、従来技術による性能方法の評価結果を示す。図中、(a)本発明の性能評価結果を示し、(b)は従来技術の性能評価結果を示す。図から明らかなように、従来技術の性能評価方法は、A油、B油、C油ともせん断面比率は100%で、3つの加工油とも差異が見られず性能評価は困難である。この結果、実機では、成形面が全てせん断面になるようにパンチ(面取り角度20°)の面取り深さを決めているため、加工油の性能についての差異が生じない。
【0065】
一方、本発明の性能評価方法によるA油、B油、C油の各せん断面比率は、それぞれ50%、21%、54%の結果となった。加工油としてC油が一番性能が優れており、次いでA油が良く、B油の順となった。B油が、C油、A油に比べかなり劣り、明確な差異がでる評価結果を得た。これは、基準となる加工油であるA油のせん断面比率を差異の出しやすい50%に設定し、パンチ13(面取り角度20°)の面取り深さ0.53mmにしたことによる。
【0066】
この結果から、本発明による加工油の性能評価方法は、従来技術の実機による性能評価方法では明確に出来なかった性能の差異を明確にし、しかも数値として評価できたことにより、本発明の妥当性が検証できた。
【0067】
また、前述の評価結果から明らかなように、生産での最終評価のやり直しが大幅に減少でき、従来技術の勘に頼る試験評価に比べ、加工油の開発から実用化までの試験評価時間が短縮できる。
【0068】
加工油を評価する場合、基準となる加工油(例えば、現在使用中の加工油)のせん断面比率を試験機1を使い試験評価して求める。次に、評価すべき加工油のせん断面比率を求め、準基加工油のせん断面比率と比較する。基準比較未知の加工油を性能評価あるいは開発する場合、せん断面比率が100%となる条件で試験評価した後、せん断面比率を下げて試験評価することで、従来のように勘に頼る試験評価に比べ、短時間で、実機に適応可能な加工油の評価方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施形態に係わる加工油の性能評価用の試験機の説明図である。
【図2】図1の試験機による成形前の被加工材と成形されたワークの図である。
【図3】本発明の実施形態の加工油の性能評価方法に係わる工程のフロー図である。
【図4】図1の試験機による半抜き状態のギア先端部を目視した立体図である。
【図5】本発明の実施形態のせん断面比率とパンチの面取り深さとの関係図である。
【図6】本発明法の評価方法と従来技術の評価方法の評価結果を示した図である。
【符号の説明】
【0070】
2 被加工材
3 ワーク
3b 成形面
13 パンチ(雄側工具)
21 ダイス(雌側工具)
D 破断面
T 板厚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工機に使用される加工油の性能評価方法であって、
被加工材に前記加工油を塗布する塗布工程と、
前記加工油が塗布された前記被加工材を雌側工具及び雄側工具の少なくともいずれか一方にセットするセット工程と、
セットした前記被加工材を前記雄側工具及び前記雌側工具の少なくともいずれか一方を用いて挟圧し、成形面にせん断面と破断面とを混在させる成形条件で前記被加工材からワークを成形する成形工程と、
前記ワークに発生した前記せん断面及び前記破断面の少なくとも一方の断面から前記加工油の性能を評価する評価工程と、を備える、ことを特徴とする加工油の性能評価方法。
【請求項2】
前記加工油の性能評価は、前記成形面に前記せん断面が発生するせん断面比率又は、前記成形面に前記破断面が発生するする破断面比率の少なくとも一方で評価する、ことを特徴とする請求項1に記載の加工油の性能評価方法。
【請求項3】
前記ワークは、前記成形面が半抜き状態で成形されることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の加工油の性能評価方法。
【請求項4】
前記被加工材を成形する形状は、ギヤ形状であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の加工油の性能評価方法。
【請求項5】
前記加工油の性能評価は、前記成形条件を変化させることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の加工油の性能評価方法。
【請求項6】
前記成形条件は、
前記雄側工具及び前記雌側工具とのクリアランスと、
前記雄側工具及び前記雌側工具の少なくとも一方の面取り角度及び面取り深さと、
前記被加工材の板厚と、
前記ワークが成形される成形速度とであり、
前記雄側工具と前記雌側工具との前記クリアランスと、
前記雄側工具と前記雌側工具の少なくとも一方の前記面取り角度及び前記面取り深さと、
前記被加工材の前記板厚と、
前記成形速度のうち少なくとも1つを変化させることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の加工油の性能評価方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate