説明

加工用潤滑剤の潤滑性能の評価方法

【課題】 潤滑剤の潤滑性能を、通常の成形工程に近い状態で、荷重を測定する必要無しに簡易に評価し得る加工用潤滑剤の潤滑性能の評価方法を提供する。
【解決手段】 金属の加工に使用する潤滑剤の潤滑性能を評価する方法であって、一貫通孔内に大径部と小径部の異なる径の貫通孔が形成された金型を用い、大径部の金型上面からの深さよりも大きな高さを持つ円柱形状の被加工材を大径部に装填し、潤滑剤の適用下で押込み金型を所定量押下げることにより前記被加工材を大径部側から小径部側に押出し成形し、成形後の金型と押込み金型の間の被加工材の外径を測定して潤滑剤の潤滑性能を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属の鍛造、押出、引抜きなどの加工に用いられる加工用潤滑剤の潤滑性能の評価方法に関し、特には、線材を素材として冷間圧造によりボルト等の軸状部材を成形する際に使用する潤滑剤の潤滑性能を評価する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の潤滑剤の潤滑性能の評価方法としては、例えば特許第3227721号公報(特許文献1)や特開2001−286967号公報(特許文献2)に提案されている評価方法がある。また、これらの提案以前より行われている潤滑剤の潤滑性能の評価方法としては、特許文献1、2にも記載されているように、リング圧縮試験法、前方押出し法および後方押出し法などがあり、これらの評価方法は、実際の鍛造に近い条件で評価できるとして、広く行なわれている。
【0003】
しかしながら、上述の評価方法は、線材を素材として圧造により成形する際に使用する潤滑剤の潤滑性能を、通常の成形工程に近い状態で評価する方法として用いるためには、素材形状や装置・金型機構に関し、下記のような点で不適切である。
【0004】
例えば、リング圧縮試験法は、材料と金型の間にある潤滑剤の潤滑性能を絶対値で評価できることが長所であるが、リング形状の試験片を用いるため、予め機械加工により試験片を切り出す必要があり、潤滑剤の潤滑性能の評価を行う場合には、そのリング状試験片を切り出した後に皮膜処理を行う必要がある。そのため、通常の圧造成形に用いる素材をそのまま試験することができない。
【0005】
また、特許文献1、特許文献2に提案されている評価方法は、いずれも荷重測定を要件としており、ロードセルなどにより荷重を測定する機構を備えた装置が必要である。また、荷重測定精度が評価結果の制度に影響を及ぼす。更に、荷重測定のみによる潤滑性能の評価方法では、被加工材の合金種が異なる場合には、潤滑性能とは別に被加工材の変形抵抗の違いにより荷重が異なってくるため、潤滑性能を定量的に評価することが難しくなる。
【0006】
また、潤滑皮膜を施した線材を用いて潤滑性能の評価を行う場合、切り出された円柱状試験片の切断面は潤滑皮膜のない新生面となる。特許文献1に提案されている評価方法では、その切断面が試験片下面となってダイの上方ロート部分の面と接した後に下方ロート部分へと流動するため、試験片下面の切断面の潤滑性能の影響が試験結果に大きく現れる。このため、この評価方法で潤滑皮膜の評価を行うには、試験片切り出し後に皮膜処理を行う必要がある。また、試験片と押込みヘッドあるいはダイとの中心軸の傾きやずれが試験結果に影響を与える。
【特許文献1】特許第3227721号公報
【特許文献2】特開2001−286967号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の従来の評価方法が有する問題点を解消するためになしたものであって、その目的は、潤滑剤の潤滑性能を、通常の成形工程に近い状態で、荷重を測定する必要無しに簡易に評価し得る加工用潤滑剤の潤滑性能の評価方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明(請求項1)に係る加工用潤滑剤の潤滑性能の評価方法は、金属の加工に使用する潤滑剤の潤滑性能を評価する方法であって、一貫通孔内に大径部と小径部の異なる径の貫通孔が形成された金型を用い、大径部の金型上面からの深さよりも大きな高さを持つ円柱形状の被加工材を大径部に装填し、潤滑剤の適用下で押込み金型を所定量押下げることにより前記被加工材を大径部側から小径部側に押出し成形し、成形後の金型と押込み金型の間の被加工材の外径を測定して潤滑剤の潤滑性能を評価する加工用潤滑剤の潤滑性能の評価方法である。
【0009】
また、本発明(請求項2)に係る加工用潤滑剤の潤滑性能の評価方法は、上記請求項1記載の潤滑剤の潤滑性能の評価方法において、成形後の金型と押込み金型の間の被加工材の外径を測定することに代えて、成形後の被加工材の小径部の長さを測定して潤滑剤の潤滑性能を評価する加工用潤滑剤の潤滑性能の評価方法である。
【0010】
また、本発明(請求項3)に係る加工用潤滑剤の潤滑性能の評価方法は、上記請求項1又は2記載の潤滑剤の潤滑性能の評価方法であって、押込み金型と接する被加工材端部が、被加工材の径方向への材料流動が拘束されてなる加工用潤滑剤の潤滑性能の評価方法である。
【0011】
上記構成の加工用潤滑剤の潤滑性能の評価方法では、評価する潤滑剤の潤滑性能が悪ければ、大径部側から小径部側に押出し成形される際にかかる抵抗が大きくなるため、小径部側へ押し出される材料の流動が小さくなるとともに、金型と押込み金型の間の非拘束部分で径方向に膨らむ材料の流動が大きくなり、逆に、潤滑性能が良ければ、大径部側から小径部側に押出し成形される際にかかる抵抗が小さくなるため、小径部側へ押し出される材料の流動が大きくなるとともに、金型と押込み金型の間の非拘束部分で径方向に膨らむ材料の流動が小さくなるので、請求項1の発明のように、押出し成形後の金型と押込み金型の間の被加工材の外径を測定することで、その外径が小さいほど潤滑性能が良く、外径が大きいほど潤滑性能が悪いと判定できることから、潤滑剤の潤滑性能の評価ができる。また、請求項2のように、押出し成形後の被加工材の小径部の長さを測定しても、その長さが短いほど潤滑性能が良く、長いほど潤滑性能が悪いと判定できることから、同様に潤滑剤の潤滑性能の評価ができる。なお、請求項1の外径測定による評価は、押出し成形後の金型と押込み金型の間の被加工材の最大外径を測定して評価してもよいし、等間隔に複数の外径を測定しその平均外径を求めて評価してもよい。また、請求項2の被加工材の小径部の長さ測定による評価は、最大長さを測定して評価される。又は小径部の断面中心位置や断面D/4(ただし、Dは小径部の直径)点などの特定位置の長さを測定しても評価できるし、あるいはそれらの複数点の平均値の長さを求めても評価することができる。
【0012】
また、上記の評価方法において、潤滑性能をより精度よく評価するためには、特に限定するものではないが、請求項3の発明のように、押込み金型と接する被加工材端部における被加工材の径方向への材料流動を拘束するように構成することが好ましく、押込み金型と被加工材端部の当接部分の影響を排除して評価を行うことが可能となる。なお、このときの端面拘束手段としては、図1に示すように押込み金型に被加工材と同程度の径を持つ凹部を設けてもよいし、押込み金型の表面に被加工材の端面を固着状態になし得るような凹凸、例えば図2に示すような被加工材の端面と同心円状の山形溝形状を設けてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る加工用潤滑剤の潤滑性能の評価方法によれば、通常の成形工程に近い状態で、荷重を測定する必要無しに、押出し成形後の金型と押込み金型の間の被加工材の外径あるいは被加工材の小径部の長さを測定することで、潤滑剤の潤滑性能を簡易に評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。図1は、本発明に係る加工用潤滑剤の潤滑性能の評価方法に適用される装置の模式図であって、aは押出し成形前の状態、bは所定量の押出し成形後の状態である。図において、1は金型、2は押込み金型、3試験材(被加工材)である。
【0015】
金型1は、中心部にほぼ同心状に穿設された大径部4と小径部5からなる貫通孔6を有し、大径部4と小径部5の繋ぎ部7は滑らかなテーパが形成されている。なお、この繋ぎ部分7は、押出し成形の際に被加工材3の先端部分が大径部4から小径部5へ円滑に流動する形状であればよく、テーパの他に孔側に突出する円弧状などであってもよい。また、大径部4と小径部5の縮径率は、特に限定するものではないが、潤滑性能の高い潤滑剤の性能比較評価の場合には縮径率を大きく、逆に潤滑性能の低い場合には縮径率を小さくするとよく、こうすることで、評価による差異が現れやすくなる。また例えば、既に評価した潤滑剤を適用する対象加工(鍛造)工程が決まっている場合には、その加工(鍛造)工程に合わせるのがよい。
【0016】
押込み金型2は、被加工材3の端面と当接する面8は平面状であってもよいが、本例のように被加工材3とほぼ同径の浅い凹部9が形成されてあってもよいし、あるいは図2に示すように被加工材3の端面と同心円状の山形溝形状10が形成されてあってもよい。
【0017】
被加工材3は、丸棒材を所定の長さ(高さ)に切断したものである。なお、適用する潤滑剤によっては予め潤滑皮膜を施した丸棒材を所定の長さ(高さ)に切断したものとなる。この被加工材3の高さは、高いほど評価結果の差異が明確となるが、素材座屈の危険性が大きくなる。そのため、(被加工材3の高さ−大径部4の孔深さ)/被加工材3の外径の比率を1.0〜3.0とすることが好ましく、この範囲であれば、潤滑状態が悪い場合でも座屈を発生させることなく潤滑性能の評価ができる。
【0018】
上述の金型1、押込み金型2、被加工材3を使用しての潤滑剤の潤滑性能の評価試験は、まず、図示省略するプレス装置の固定盤に金型1を、可動盤に押込み金型2をそれぞれ設置するとともに、被加工材3を金型1の大径部4に装填する(図1aの状態)。次いで、この状態で押込み金型2を所定量(金型1と押込み金型2との間隔が所定の間隔になる位置まで)下降させ、被加工材3を大径部4側から小径部5側に押出し成形する(図1bの状態)。この後、金型1と押込み金型2の間の被加工材3の外径Dを測定して評価される。なお、評価は、最大外径を測定して評価してもよいし、外径Dを90度または60度などの等間隔に複数箇所測定しその平均外径を求めて評価してもよし、また更に、求めた最大外径や平均外径と被加工材3の外径dとの比率で求め評価してもよい。また、前記押込みの所定量は、特に限定するものではなく、一連の評価において任意の一定の押込み量を設定すればよい。
【実施例1】
【0019】
上記の構造の金型と押込み金型を準備し、以下の様な条件で潤滑剤の潤滑性能の評価を行った。その評価結果を表1に示す。なお、表1に示す評価は、押出し成形後の外径を60度間隔で3箇所測定しその平均外径と被加工材3の外径dとの比率(%)で求め、その小数点以下を四捨五入して表示した。
被加工材の初期外径d=9.7mm、初期高さh=60mm
金型の大径部内径=9.8mm、大径部深さ20mm、小径部内径=7.2mm
押込み金型凹部内径9.8mm、深さ4mmとし、
金型と押込み金型との間隔が10mmになるまで圧下(押出し)を行った。
なお、被加工材にはJIS規格のS10CおよびS25Cに準じた丸棒素材を用い、潤滑剤は2種類(AとB)を用い、この2種類を皮膜処理した被加工材と、更に皮膜処理と金属石鹸とを施した被加工材とを準備した。
【0020】
【表1】

【0021】
表1の結果より、皮膜A、Bともに金属石鹸との組み合わせで用いた方が潤滑性能が良く、金属石鹸の有無に関わらず皮膜Aの方が皮膜Bよりも潤滑性が良いという評価を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る加工用潤滑剤の潤滑性能の評価方法に適用される装置の模式図であって、aは押出し成形前の状態、bは所定量の押出し成形後の状態である。
【図2】本発明に係る押込み金型の別の実施形態の説明図であって、aは断面図、bはaのX部の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0023】
1:金型 2:押込み金型 3:試験材(被加工材)
4:大径部 5:小径部 6:貫通孔
7:繋ぎ部 8:当接面 9:凹部
10:山形溝形状


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属の加工に使用する潤滑剤の潤滑性能を評価する方法であって、一貫通孔内に大径部と小径部の異なる径の貫通孔が形成された金型を用い、大径部の金型上面からの深さよりも大きな高さを持つ円柱形状の被加工材を大径部に装填し、潤滑剤の適用下で押込み金型を所定量押下げることにより前記被加工材を大径部側から小径部側に押出し成形し、成形後の金型と押込み金型の間の被加工材の外径を測定して潤滑剤の潤滑性能を評価することを特徴とする潤滑剤の潤滑性能の評価方法。
【請求項2】
請求項1記載の潤滑剤の潤滑性能の評価方法において、成形後の金型と押込み金型の間の被加工材の外径を測定することに代えて、成形後の被加工材の小径部の長さを測定して潤滑剤の潤滑性能を評価する潤滑剤の潤滑性能の評価方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の潤滑剤の潤滑性能の評価方法において、押込み金型と接する被加工材端部が、被加工材の径方向への材料流動が拘束されてなる潤滑剤の潤滑性能の評価方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−53114(P2006−53114A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−236739(P2004−236739)
【出願日】平成16年8月16日(2004.8.16)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)