説明

加熱オーブン内の低分子量物を測定する測定装置および低分子量物を測定する測定方法

【課題】電気絶縁性シートを加熱延伸して製造する際、オーブン内の塵埃とオリゴマ蒸気から発生するオリゴマ粒子が、シート表面に付着し、異物欠点や塗布欠点が発生しやすい。塵埃とオリゴマを簡単な方法で、連続的に測定する装置や方法がなかった。
【解決手段】熱風に含まれる塵埃と低分子量物の濃度を、微小な粒子の帯電を検知する静電誘導で測定する。熱風循環搬送経路内に検知器を設置し連続的に測定できるようにした。オリゴマ蒸気に対しては、熱風を冷却する冷却手段を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気絶縁性シートを加熱しながら延伸し製造する際、加熱気流中の低分子量物を粒子濃度として連続測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気絶縁性シートのうち、二軸延伸ポリエステルフィルムは、耐熱性に優れ、生産性にも優れており、受容紙、光学用途、プリンターリボン等の用途に広く使用されている。近年は、IT分野の伸びに伴い、ディスプレイ用の反射防止フィルム、液晶用バックライト用拡散板、タッチパネル用などの基材や光ディスプレイ及び液晶位相差板など光学用部材の工程紙など、光学用フィルムの用途への使用が増えている。
【0003】
光学フィルム向けに要求されるのは、高い透明性と他用途に比べフィルム表面の付着異物や塗布欠点の低減などがある。そのため、水系樹脂あるいは水分散系樹脂塗布工程後で発生する異物付着欠点、はじき欠点を大幅に減少させることが必要となっている。
【0004】
光学フィルムの製膜工程は、溶融したポリエステル樹脂をシート状に押しだし、冷却ドラムで急冷し、シート化した後、加熱しながらフィルム走行方向に3から5倍に延伸される。続いて、横方向に3から5倍に延伸されるのが一般的である。この横方向への延伸工程は、オーブン(あるいはテンター、ステンターと呼ばれる)で行われる。
【0005】
オーブンは大型の装置であり、オーブン内には加熱蒸気で温められた空気を循環している。オーブン内には、一定の温度の熱風を循環させるため、熱交換機や循環ファンが配置されている。また、オーブン内に新鮮な空気を送る給気配管と、オーブン内一部の空気を排気する排気配管などがある。
【0006】
特許文献1には、上述の異物付着欠点や塗布はじき欠点を抑制するため、塵埃量を制御したオーブンを用いることが開示されている。特許文献1では、オーブン内の塵埃度は、0.3μm以下の塵埃が5000個/ft以下、より好ましくは、0.3μm以下の塵埃が3000個/ft以下、更に好ましくは0.3μm以下の塵埃が1000個/ft以下とすることで、欠点が大幅に少なくなることが開示されている。塵埃量を制御するため、オーブンの区枠された各室に、給気と排気設備を設け、新鮮な空気を取り込みながら換気回数を多くとることなどが開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、オーブン内を清浄に保つため、オーブン内の浮遊粒子を捕集する乾式電気集塵機を有するオーブンが開示されている。図3に概略図を示した。オーブン1内で、フィルム2はクリップ3によって把持され、図3紙面を手前から奥に走行する。加熱された空気が給気手段4によってフィルム2の表面に運ばれ、フィルム2を加熱する。熱風は、循環経路5によって集められ、熱交換器6で再加熱され、ファン7で再び給気手段4に送り込まれる。乾式電気集塵機8は、加熱空気の循環経路5に設置され、一部の熱風が乾式電気集塵機8に導かれる。乾式電気集塵機8では、浮遊する粒子を帯電させ、続いて外部電界を作用させて粒子を静電気力で捕捉している。乾式電気集塵機8を通った熱風は、ポンプ(図示せず)で循環経路5に戻される。
【0008】
特許文献1には、オーブン内の塵埃の測定方法としては、パーティクルカウンターを用いる方法が開示されている。また、特許文献2には、浮遊粒子の重量を測定する方法として、熱風の一部を100分間に渡り吸引し、耐熱性のあるろ紙に通し、0.3μm以上の大きさの浮遊粒子を捕集して、重量変化を測定する方法が開示されている。いずれの方法も、オーブン内の塵埃と粒子を対象として、長時間に渡り、オーブンから熱風を吸引するなどして測定する必要があった。
【0009】
また、特許文献1には、塵埃や浮遊粒子とオリゴマ粒子とを区別して測定する方法が開示されている。この方法は、オリゴマサンプリング装置を用いる。オリゴマとは、たとえばポリエステルフィルムから析出する低分子量の分子である。オリゴマは、エステル分子が数個程度結合したものが多い。オリゴマサンプリング装置は、オーブン内の空気を100〜200分かけて吸引し蛇管にオリゴマを捕集する。採取したオリゴマ粒子をメタノールに溶かし、紫外線分光光度計でエステル基の吸光度を測定し、検量線よりオリゴマ濃度(mg/m)を求める方法が開示されている。この方法も、測定には100分〜200分を要し、さらに、捕集したオリゴマを溶液で溶かすなどの後処理が必要で、連続的に測定できるものではなかった。
【0010】
本発明者らの知見によると、特許文献1と特許文献2に開示された、オーブン内で熱風中の塵埃や粒子の濃度を一定以下に抑える方法では、フィルム表面の付着異物や塗布欠点の低減に効果があるものの、十分とは言えなかった。熱風の中の塵埃や粒子が短時間に悪化してしまうと、たとえば120分間分で平均化されてしまい、検出することができないでいた。また、検出できたとしても、多くの製品不良を発生させてしまっていた。
【0011】
本発明者らの知見によると、熱風中の浮遊粒子や塵埃以外に、オリゴマや塗材などの有機化合物成分が、熱風中に気化あるいは昇華し、オーブン内の蒸気にごく少量含まれていることも欠点になる。熱風に含まれるオリゴマや有機化合物の蒸気は、オーブン内の温度が低い場所において、蒸気中での飽和蒸気圧を超えてしまい、蒸気が液体や固体粒子に変化しオーブン内で析出してしまう。析出したオリゴマ粒子が、フィルムに付着し、異物付着や塗布欠点の原因となることが判った。
【0012】
ここで、蒸気から液体や固体に析出するオリゴマ粒子の量は、熱風の温度によって許容できる濃度と重量が変化するので、熱風中に含まれるオリゴマ蒸気の濃度や重量を測定する必要がある。しかし、熱風中のオリゴマ蒸気の濃度からオリゴマの粒子量を測定する方法はなかった。
【0013】
オリゴマ蒸気を測定のために、特許文献1に開示された前述のオリゴマサンプリング装置を、冷却して用いても測定可能であるが、オーブン内の空気を数時間かけて吸引し後処理を行って測定する必要があり、連続的に測定することができなった。
【0014】
つまり、オーブン内のオリゴマ蒸気から発生するオリゴマ粒子を含み、オーブン内の清浄度に関する、粒子濃度を簡単な方法で、連続的に測定する方法はなく、フィルム表面の付着異物や塗布欠点の低減が十分でなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2009−12242号公報
【特許文献2】特開2006−212805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、上述した従来の技術の上記問題点を解決し、オーブン内のオリゴマ蒸気を含む、オーブン内の清浄性を簡単な方法で連続的に測定する方法を提供する。
【0017】
本発明の他の目的は、オーブン内での清浄性を高め、フィルム表面の付着異物や塗布欠点の低減により、たとえば光学部材向けのフィルムの高い品位を実現する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために本発明によれば、シートを熱風中で加熱し延伸するオーブンにおいて、熱風に含まれる塵埃と低分子量物を、熱風循環搬送経路内で連続測定する低分子量物測定装置であって、帯電した低分子量物の電荷と逆極性の電荷を静電誘導によって検出する検出部を有し、該検出部の流路上流側に、熱風を冷却する冷却手段を有する、オーブン内の低分子量物を測定する測定装置を提供する。また、前記検出部は、オーブンから系外へ加熱エアを排気する排気配管に設置された測定装置を提供する。また、前記冷却手段が、冷却フィン、または、水系の液滴を噴霧する手段であるオーブン内の低分子量物を測定する測定装置を提供する。
【0019】
さらに、シートを熱風中で加熱し延伸するオーブンで、熱風に含まれる塵埃とシートから析出する低分子量物を測定する方法であって、a)前記シートを加熱する熱風温度より20℃以上低い温度の熱風循環搬送経路内で、塵埃と低分子量物が有する摩擦帯電電荷量を検出し、b)前記摩擦帯電電荷量による電気信号と、あらかじめ検量した、塵埃とシートから析出する低分子量物の単位体積あたりの濃度との関係式を用い、オーブン内の熱風中に含まれる塵埃と低分子量物の単位体積あたりの濃度を測定することを特徴するオーブン内の塵埃と低分子量物を測定する測定方法を提供する。
【0020】
さらに、シートが2軸配向ポリエステルフィルムであり、測定する低分子量物がテレフラル酸構造体を有するオリゴマであるオーブン内の塵埃と低分子量物を測定する測定方法を提供する。
【0021】
本発明において、「低分子量物の帯電」とは、次の通りである。低分子量物とは、オーブン内で加熱延伸するフィルムから析出するオリゴマやフィルム表面へのコーティング成分などの低分子量化合物である。「帯電」とは、静電荷を帯びた状態を示し、低分子量物がオーブン内壁や給排気管の壁面などと衝突するときに発生した摩擦帯電と、温度変化によって発生した静電荷によって発生した帯電状態をいう。
【0022】
本発明において、「低分子量物」とは、ポリマーより分子量が低い化合物のことである。たとえば、ポリエステルフィルムの場合に析出しやすい、線状オリゴマと環状オリゴマのことである。線状オリゴマとは、テレフタル酸モノヒドロキシエチルテレフタレート、ビス−β-ヒドロキシエチルテレフタレートがある。環状オリゴマには環状三量体、環状二量体である。また、塗液などに含まれているポリエステルやアクリル系の化合物である。
【0023】
本発明において、「静電誘導」とは、帯電した粒子が検出部に衝突したりごく近傍を通過する際に発生した、導体の電荷誘導現象である。接地しない導体には、帯電した粒子とは逆極性の誘導電荷が発生する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、後述の実施例からも明らかなように、オーブン内のオリゴマ蒸気から発生する粒子を含み、オーブン内の塵埃や粒子濃度が簡単な方法で連続的に測定することができる。
【0025】
この測定により、フィルムの塗布欠点を、塵埃量のみを制御した場合に比べて、さらに抑制することも可能である。このため、オーブン内の熱風の清浄性を制御しながらフィルムを製造できるため、高品位なフィルムを安定して得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明のオーブン内における、粒子と蒸気の測定方法を示す概略説明図である。
【図2】図1に示す本発明のオーブン内における、粒子と蒸気の測定方法の拡大図である。
【図3】従来の技術によるオーブン内の浮遊粒子の捕集を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を用いて、本発明の最良の実施形態の例を、電気絶縁性シートとしてプラスチックフィルム(以下、単に、フィルムという)を用いる場合を例にとって、説明する。本発明は、これらの例に限られるものではない。
本発明が適用されるフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、ポリフェニレンサルファイドフィルム、ナイロンフィルム、アラミドフィルム、ポリエチレンフィルム等がある。
【0028】
特に、好適に使用されるポリエステル類の具体的な例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート及びポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート等を挙げる事ができ、特に、ポリエチレンテレフタレートとポリエチレン−2,6−ナフタレートは、機械強度や寸法安定性などの物理的な性質に優れ、且つ生産性にも優れているため、特に好ましく用いられる。また本発明で用いられるポリエステル類は、先に挙げたものの内1種類単独でも、2種類以上のポリエステルの共重合体や、2種類以上のポリエステルの混合体等であってもかまわない。また、これらのポリエステル類の中に、目的に応じて各種の添加剤を添加する事ができる。例えば、易滑性付与のためにコロイダルシリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、有機シリコーン及びポリジビニルベンゼンスルホン酸などの不活性粒子を添加することができる。また、帯電防止剤や酸化防止剤などが添加されていてもかまわない。
【0029】
次にフィルムの製膜方法について簡単に説明する。
【0030】
フィルムは、十分に乾燥させた樹脂ペレットを押出機に供給し、スリット状の吐出口を有する口金から溶融したペレットをシート状に押出し、冷却ロール上で冷却して未延伸のフィルムを得る。次に、未延伸のフィルムを二軸延伸させる方法について説明する。二軸延伸の方法としては、未延伸ポリエステルを、長手方向あるいは幅方向に延伸し、続いて先の延伸方向と直行する方向の延伸を行う逐次二軸延伸や、長手方向と幅方向に一度に延伸する同時二軸延伸などの方法でもかまわない。延伸は1段階で行っても2段階以上で段階的に行ってもかまわないが、フィルムの表面のキズやロールへ粘着痕などの欠点が発生しにくく、光学用に求められる視認性を得る延伸方法が好ましい。
【0031】
ここでは、長手方向に延伸された一軸延伸ポリエステルフィルムを引き続きオーブンに入れ幅方向に延伸する方法で説明する。
【0032】
図1は、フィルム2を加熱し幅方向に延伸するためのオーブン1の概略図である。
【0033】
フィルム2は、オーブン1内のレール上を走行するクリップ3に把持された状態で、オーブン1中で加熱されて、クリップ3が走行するレールの広がりに伴って、フィルム2が幅方向に延伸される。フィルム2の幅方向の延伸倍率は、2から5倍程度である。
【0034】
図1では、オーブン1の一室を示している。オーブン1は、所定の処理を行うため、区分けされた室から構成されている。通常、フィルムの走行方向上流から、加熱室、延伸室、熱固定室、冷却室などから構成されている。オーブン1内には加熱蒸気で温めた熱風を多量に循環している。オーブン1内には、一定の温度に保つための熱交換機6や温めた熱風を循環する循環ファン7が設置されている。熱風は、給気装置の配管4から送られ、走行するフィルム2の近くで、ノズル10から噴出される。噴出した熱風がフィルム2を加熱し、フィルムの温度が上昇する。
【0035】
ノズル10は、スリット状でも穴形状でもよく、フィルム2に温度ムラができないように工夫され噴出されている。
【0036】
フィルムを加熱した熱風は、循環装置5で熱交換器6に戻され、さらに循環ファン7にて再びオーブン内を循環する。熱交換器6の出口付近でフィルターなどで塵埃を除去しているが、オーブン内の熱風がそのまま同じもので循環させると、次第に、フィルターで除去できなかった塵埃や粒子が増大する。フィルターでは、熱風中に溶け込んだオリゴマや塗液などの低分子量の蒸気は除去できないのでオリゴマ蒸気量も増大する。
【0037】
そこで、オーブン1内の熱風の清浄性を維持するため、オーブン1内に新鮮な空気を導入するとともに、熱風の一部をオーブン1の系外に排出している。図1では、新鮮な空気を導入するため、フレッシュエア供給配管11が熱交換器6前に配管されている。フィレッシュエア供給配管11からの空気は、循環熱風と一緒になって、熱交換器6に導かれ、所定の温度に加熱されて、オーブン1内を循環する。一方、一部の熱風を排気する排気配管12はオーブン内の壁面や天井にあって、ポンプにつながれた(図示せず)排気配管12から、熱風の一部が系外に排気される。排気された熱風は、大気へ開放されることが多い。
【0038】
図2は、図1の排気配管12の拡大図である。図2に示すように排気配管12には、冷却装置30と検出器20が配置される。排気配管12は、各室毎に1箇所以上あり、各室の排気をひとまとめにするように、何本かの排気配管12が最終的に集まっている。各室とは、加熱室、延伸室、熱固定室、冷却室であるが、それぞれの室は複数から構成されている(たとえば熱固定1室、熱固定2室、熱固定3室など)。
【0039】
図1、図2は、オーブン1の天井上に設置された、排気配管12を示す。図2では、熱固定3室にセンサを設置した状態を示した。図2の下側が、フィルム2が幅方向に延伸されるオーブン1の熱固定3室につながっている。なお、図2では、排気配管12がオーブン1の上部から排気するように示しているが、オーブン1の横手や下から排気配管12を繋げてもよい。排気配管12は、図示しないブロアによってオーブン1中の熱風を吸引している。排気配管内の流れは矢印Yの方向である。
【0040】
検出器20は、排気配管12の上流で、冷却手段30、検出器20の順で設置されている。
【0041】
検出器20は、プローブ21、絶縁ホルダ25、接地端子26、処理回路22、検出器本体23で構成されている。検出器本体23は、処理回路22とケーブルで接続されている。ケーブルの長さは、10〜20mあり、オーブンから離れた場所で検出レベルを確認することができる。
【0042】
検出器20は、排気配管12にほぼ垂直に挿入され、排気配管12の熱風の流れに差し込まれている。プローブ21は、絶縁ホルダ25で、排気配管12と電気的に絶縁されている。排気配管12と接地端子26は、電気的に0Vに接地されている。プローブ21で検知したデータは、処理回路22を経由して検出器本体23に送られる。
【0043】
本発明において、熱風中のオリゴマ濃度を測定するために、熱風の温度を冷却により引き下げ、オリゴマ蒸気を液滴粒子として析出させることが重要である。そのため、検出器20の手前には、冷却装置30が設置されている。冷却装置30は、排気配管12内の熱風を冷却するように、配置されている。検出器20と冷却装置30の距離は、およそ1〜2mであるが、熱風が所定の温度まで冷却できるのであれば、検出器20との距離はいくらでもかまわない。
【0044】
冷却装置30には、内部に冷却水を流した冷却部材(例えば冷却フィン)を配置してもよいし、管壁のまわりを冷却してもよい。熱風中のオリゴマ蒸気を効率よく液滴粒子として析出するために、微小なミストを冷却空気と一緒に冷却装置30の先端から吐出させて、熱風を冷却する方法も好ましい。この場合、ミストを作成する液体は常温の蒸留水が好ましい。微小なミストは、表面積が大きく熱風を冷却する効果が高く、また、熱風中に溶けたオリゴマ蒸気が析出する際に核になることができ、粒子を析出しやすくなる効果がある。さらに、同時に、冷却した空気を導入することで、冷却効果も高まる。
【0045】
また、図2では冷却手段30が設置されているが、排気配管の中の熱風の温度が、オーブン1内を循環する熱風の制御温度より20℃以上低い場合は、冷却手段30はなくても良い。これは、オーブン内の熱風の温度は、排気配管12の検出部20に達するまでに、自然冷却されるためである。検出部20は、循環する熱風の制御温度より20℃以上低い場所であれば、取り付け場所を選ばない。オーブン1内を循環する熱風の制御温度より20℃以上低い場合とは、オーブン1でもっとも高温の熱固定室と冷却室入り口との温度差が概ね20℃であることに由来する。
【0046】
本発明者らは、排気配管12の上部において、循環する熱風の制御温度より30℃低いことを付き止め、排気配管12の上部での測定が好ましいことを見出した。さらに、冷却を進めるとオリゴマなどの低分子量物が析出しやすくなるため、検出感度が高くなるので好ましい。排気配管12の系外へ排気する熱風であれば、オリゴマ蒸気の濃度をモニタするために、熱風をさらに冷却したとしても再加熱する必要がなく、再加熱のエネルギーがかからない利点がある。排気配管12のオリゴマ量は、循環装置5内の加熱エアに含まれるオリゴマ量とほぼ同じになっている。これは、フィルム2と給気ノズル10の間からオーブン全体へ広がるからである。
【0047】
一方、循環装置5内の加熱エアの温度はオーブン内より低温になっておらず、オリゴマが析出しにくく感度は低い。そこで、オーブン1内を循環する熱風の一部を循環装置5内から分岐させて分岐熱風として、冷却装置を通して測定を行っても良い。
【0048】
次に、検出器20の動作について説明する。
【0049】
検出器20は、液滴や粒子のもつ微小な帯電を検知し、熱風の含まれる粒子全部の帯電量に応じた電気信号を発生する。すなわち、粒子の濃度に比例した電気信号を発生する。本発明者らの知見によると、熱風中の粒子は、次の2つの過程で、静電荷を帯びた状態となっている。ひとつは、壁面やフィルム、配管構造物と衝突することによる接触帯電である。もうひとつは、粒子が温度変化によって帯電する現象である。特に、オリゴマ蒸気から粒子が析出し冷却されるとき、生成した粒子は帯電しやすくなる。どちらによっても、オーブン1中の熱風に含まれる粒子は帯電しやすく、この帯電を利用して高感度に検知することができることを見出した。
【0050】
熱風中の粒子の微小な帯電を検知するのは、検出器20の先端に配置された接地されていない導体で構成されたプローブ21である。プローブ21の形状は棒状であって、直径が15〜30mmφで長さが100〜200mmで材質は耐熱性のあるものが好ましく、SUS製などが挙げられる。プローブ21は、排気配管12に挿入したとき、配管内を通過した帯電粒子を検出しやすいように、排気配管12の半径より少なくとも大きく、およそ直径の0.9倍の大きさに設定されている。
【0051】
帯電した微小な粒子が、プローブ21の近傍に接近すると、粒子の帯電極性と逆極性の電荷がプローブ21の先端に静電誘導で誘起される。そのため、プローブ21には、電流が流れ、この微小電流を検知することで粒子濃度を測定する。このとき、帯電した粒子がプローブ21に接近したり遠ざかったりする交流的な変化を信号として検出させることが好ましい。これは、プローブ21にオリゴマ等の低分子量物や液滴が堆積した場合、信号にオフセットされるが交流信号のみを利用することで検出レベルへの影響を小さくすることができるためである。
【0052】
粒子濃度への換算は、検出器20からの信号の強度から、あらかじめ得た検量線で求める方法が使われる。検量線は、あらかじめ熱風の中に規定量の粒子を流し、信号の強度との相関を取っておく。そして、排気配管12の流速から単位時間、単位流量あたりの重量に計算により求めることができる。また、他の方法としては、熱風中のオリゴマの帯電量をブローオフ法によって求め、1秒間あたりに流れる電流量から換算し、重量を求める方法でもよい。ポリエステルフィルムのオリゴマの帯電量は、本発明者らの知見によると、粒子の大きさ1μmφでおよそ1×10−16[C]であるので、1秒間あたりに流れる電流から、概算の個数が分かる。
【0053】
既知のオリゴマ重量を熱風に流して検量線を得る場合、信号強度と、単位流量[m]あたりに噴射した粒子の重量[g]を3点作成し、検量線を作成することが好ましい。この場合、単位体積あたりの粒子重量に対して、信号強度は比例関係となる。
【0054】
また、上記のように正確な値を検量しなくても、オーブン1内の清浄度が良くなっているのか、悪くなっているのか傾向を知ることも重要である。この場合、得られた信号の変化率をモニタするだけでよい。この場合、信号の変化は、流量と粒子の帯電量に依存するが、概ね、流量に比例して大きくなるので流量の換算を行うことが好ましい。
【0055】
オーブン1内の熱風に蒸気として溶け込んだ有機低分子量物やオリゴマについて以下に詳細を説明する。
【0056】
有機低分子量物は、おもに、オーブン内で乾燥させるインラインコートの成分である。ポリエステスフィルムは、長手方向のみ延伸した後、片面または両面に、接着性付与などを目的として各種の水系樹脂または水分散系樹脂を塗布することがある。ポリエステルフィルムの表面に塗布する樹脂としては特に限定されないが、ポリエステル、アクリルポリマー、ポリアミドおよびポリウレタンなどの水溶液または水分散液が好適に用いられる。塗液が薄く塗布された後、幅方向に延伸され二軸延伸フィルムとなるが、オーブンは水系塗材の乾燥工程として使用される場合がある。そのため、熱風中に塗材成分が蒸気として溶け出す場合がある。オリゴマは、ポリエステルフィルムを高温で処理すると、昇華し、熱風中に溶け出す。気化した低分子量物や添加剤、オリゴマが、オーブン内1の低温部と接触すると、液滴や固体になり、これら異物がフイルムに付着するとフイルム欠点となることが判った。
【0057】
本来、熱風中の蒸気量を測定する必要があるが、蒸気の濃度を連続測定することは困難である。そこで、本発明者らは、オリゴマ蒸気が存在する場合には、必ずオリゴマ粒子(固体)が存在し、その微小なオリゴマ粒子の濃度が蒸気量と相関性のあることを見出した。さらに、オーブン1の熱風を効率的に低温化することで液滴粒子化し蒸気が測定できることを見出した。効率的に低温化する手段は、たとえば、ミストを噴霧してオーブン内を循環する熱風の温度よりも冷却するなどである。
【0058】
そして、上述の液滴粒子の持つ微小な帯電を静電誘導を利用して連続的に検知し、オンラインで測定する。この方法によれば、稼動するオーブン1内の熱風に含まれる低分子量物を連続的に測定することができる。また、同時に塵埃量をも連続的に測定することができる。
【0059】
検出器20を配置する場所であるが、一般に、オーブン1は、予熱、延伸、熱固定、冷却を含む複数のうち、区分けされ、熱固定ゾーンで最高温度となり、フィルム2から低分子量のオリゴマーや含有成分が昇華しやすくなり、下流側の低温の部分で昇華成分が析出固化してフィルム2表面へ付着することが問題となる。したがって、熱固定ゾーンの最高温度部分に続く下流側の位置において、設置することが好ましい。
【0060】
ここで、隣接する各室の温度は、概ね20℃の範囲内に保たれていることが多い。20℃を超える範囲である場合は、たとえば、熱固定室と冷却室との間に、中間室を設けて、熱の室間移動を防ぎ、中間室の排気を強化している場合がある。よって、中間室の排気配管12に検出器20を取り付け、オーブン1内の蒸気量を検知することも好ましい。
【0061】
本発明のフィルムの厚みは、特に限定はされないが、光学用途として好適に用いられる30μm以上360μm以下である事が好ましい。フィルムの厚みが30μm未満であったり、360μmよりも厚い場合、フィルムとしての生産性が不良となることがあり好ましくない。
【実施例】
【0062】
固有粘度0.65のポリエチレンテレフタレートを、180℃の温度で5時間減圧下で乾燥し、押出し機に投入して280℃の温度で溶融した後、フィルターで濾過後、口金からシート状に押し出した。
押し出されたシート状物を、静電印加キャスト法により冷却ロールに密着させて冷却固化し、未延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。未延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを、ロール群からなる縦延伸機で90℃の温度で2.5倍延伸し、冷却して一軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。
【0063】
この一軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの両面に、バーコーターを用いて、下記の組成からなる塗液を塗工した後、オーブン1により3倍に延伸し、熱固定処理を行って厚み100μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。品番は100U48であった。
【0064】
塗液の処方は、蒸留水94重量部と、ポリエステル系易接着材を5重量部と、平均粒径が0.1μmのコロイダルシリカ粒子を1重量部添加したものを塗液とした。
【0065】
検出器1は、熱固定室の上流から3室目の排気配管12に設置した。熱固定3室の熱風温度は220℃であった。熱固定3室の排気量は30m/分であった。排気配管12の大きさは、断面が350mm角であった。検出器1は、オーブン1の天井部にあって、配管が天井へ立ち上がる直管部分に設置した。オーブン1からの距離は、およそ3mであった。排気配管12に20mmφの穴を空け、検出器1を垂直に挿入した。
【0066】
検出部1での熱風の温度は、175℃であった。冷却装置30は、検出部1から1.5m離して設置した。冷却装置は、排気配管12の壁面から冷却水を10〜20μmの大きさのミストにして空気とともに流した。流量は1時間あたり0.2×10−3とした。
【0067】
検出器1は、DT370(関西オートメーション(株)製)を用いた。微量な信号を取るためのプローブ形状は、プローブ21の長さ150mm、プローブの直径18mmφとして、絶縁ホルダ25の長さ50mm、設置端子26の長さ50mm(全体で250mm)とした。排気配管12の直径以上をカバーできるようにした。
【0068】
本測定機から、帯電した粒子が検出部を通過する際、静電誘導によって発生する信号を取り出し増幅した。通常、粒子が検出器に近づいてくる場合と、遠ざかる場合では信号の極性が反転するので、信号反転回路を取り付けた。測定時間を1秒に設定し、帯電した粒子の10秒間の平均出力値をレコーダーに連続的に出力した。
【0069】
その結果、フィルムがなく熱風を循環したとき(ブランク)の出力を1とすると、フィルム製膜中は、2.25倍の出力値が得られた。また、オリゴマを抑制したポリエチレンテレフタレート原料フィルム製膜中では出力が小さく、1.8倍であった。
【0070】
さらに、冷却装置を稼動して、熱風温度を120℃に低下させたところ、4.2倍の出力値が得られた。4.2倍の出力値を維持するように、ファンの回転数やフレッシュの給気量を増加させて製膜した。オーブン内の熱風の清浄性を制御しながらフィルムを製造できるため、高品位なフィルムを安定して得ることができた。
【0071】
オーブンのファン回転数を落とし給排気量を20%低下させると、出力値は上昇し始め、5分後に5倍に上昇し検出することができた。以上から、給排気量の変化やフィルム原料の違いが短時間に出力値から読み取れるので、オーブン内加熱エアに含まれているオリゴマ重量を連続的に測定することができた。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、本発明の二軸延伸熱可塑性樹脂ポリエステルフィルムは、特に限定はされないがプラズマディスプレイ、液晶ディスプレイの部材などの光学用途フィルム、表面保護材、電気絶縁材料及び離型等の各種用途、中でも光学用途及び表面保護材など欠点に厳しい用途に有効に用いられる事ができる。
【符号の説明】
【0073】
1: オーブン
2:フィルム
3:クリップ
4:給気配管
5:循環配管
6:熱交換機
7:循環ファン
8:電気集塵機
10:給気ノズル
11:フレッシュエア供給配管
12:排気配管
20:検出器
21:プローブ
22:処理回路
23:検出器本体
25:絶縁ホルダ
26:接地端子
27:帯電した粒子
30:冷却装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートを熱風中で加熱し延伸するオーブンにおいて、熱風に含まれる塵埃と低分子量物を、熱風循環搬送経路内で連続測定する低分子量物測定装置であって、
帯電した低分子量物の電荷と逆極性の電荷を静電誘導によって検出する検出部を有し、該検出部の流路上流側に、熱風を冷却する冷却手段を有することを特徴とする、オーブン内の低分子量物を測定する測定装置。
【請求項2】
前記検出部が、オーブンから系外へ加熱エアを排気する排気配管に設置されたことを特徴とする請求項1に記載のオーブン内の低分子量物を測定する測定装置。
【請求項3】
前記冷却手段が、冷却フィン、または、水系の液滴を噴霧する手段であることを特徴とする請求項1または2に記載のオーブン内の低分子量物を測定する測定装置。
【請求項4】
シートを熱風中で加熱し延伸するオーブンで、熱風に含まれる塵埃とシートから析出する低分子量物を測定する方法であって、
a)前記シートを加熱する熱風温度より20℃以上低い温度の熱風循環搬送経路内で、塵埃と低分子量物が有する摩擦帯電電荷量を検出し、
b)前記摩擦帯電電荷量による電気信号と、あらかじめ検量した、塵埃とシートから析出する低分子量物の単位体積あたりの濃度との関係式を用い、
オーブン内の熱風中に含まれる塵埃と低分子量物の単位体積あたりの濃度を測定することを特徴するオーブン内の塵埃と低分子量物を測定する測定方法。
【請求項5】
シートが2軸配向ポリエステルフィルムであり、測定する低分子量物がテレフラル酸構造体を有するオリゴマであることを特徴とする請求項4に記載のオーブン内の塵埃と低分子量物を測定する測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−132693(P2012−132693A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282597(P2010−282597)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】