説明

加熱乾燥用樹脂組成物及び加熱乾燥塗膜

【課題】配合安定性や塗膜の物性を損なうことなく、より優れた乾燥性を発揮する加熱乾燥用樹脂組成物及び加熱乾燥塗膜を提供する。
【解決手段】樹脂、充填剤及び金属粉を必須成分として含有する加熱乾燥用樹脂組成物であって、該金属粉と充填剤との質量比が3/7以上、9/1未満である加熱乾燥用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱乾燥用樹脂組成物及び加熱乾燥塗膜に関する。より詳しくは、各種機能を発揮する塗膜を基材上に形成するために用いられる加熱乾燥用樹脂組成物及び加熱乾燥塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
加熱乾燥用樹脂組成物は、基材上の塗膜形成を加熱乾燥により行うことによって、効率的な塗膜形成を可能にし、また、比較的厚膜で充填剤を含む塗膜も形成することができるものであり、工業的に広く使用されている材料である。適用分野としては、自動車、鉄道車両、船舶、航空機、電気機器、建築構造物、建設機器等の様々な分野を挙げることができ、例えば、最近では自動車等における制振材用途や耐チッピング材用途にも好適に使用され、従来用いられてきた材料の転換等によって、そのような用途への使用実績の向上が期待されている。このように、自動車等の製造ラインにおいて制振材用途や耐チッピング材用途等に用いられる加熱乾燥用樹脂組成物としては、通常、制振性能や耐チッピング性能を高く安定的に得るための成膜性等の特性が要求されることになる。
【0003】
従来の加熱乾燥用樹脂組成物としては、例えば、水系樹脂分散液、マイカ、銅粉及び炭酸カルシウムを含有する制振塗料組成物において、銅粉と炭酸カルシウムとの質量比を1/4〜2/5としたものが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−242707号公報(第1−2頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の加熱乾燥用樹脂組成物の課題としては、近年の環境問題に対応するために要求されるものがあり、該樹脂組成物を工業的に供給し、使用するにあたっては、そのような環境問題に関する性能・特性を充分に満たすものであることが求められることになる。すなわち、近年の環境問題に対する意識の高まり、特に地球温暖化抑制の観点から、分野を問わず二酸化炭素排出量削減に向けた様々な取り組みがなされている。特に、二酸化炭素排出量の大部分を占める工業分野においては対策が急がれており、例えば各種製造ラインにおける使用エネルギーの削減が進められている。加熱乾燥用樹脂組成物においても、その主要な用途である車両や建材等の製造ライン(例えば、塗装ライン)に用いられる場合に、その加熱乾燥工程における乾燥熱量の低減が図られることになる。これに伴い、加熱乾燥用樹脂組成物の乾燥性の向上が求められている。
これに関して、特許文献1には、銅粉と炭酸カルシウムとの質量比を上記範囲に制御することにより、銅粉の含有量を低下させたとしても制振塗料組成物の乾燥速度が高まると記載されている。
しかしながら、特許文献1に記載された制振塗料組成物の乾燥性向上効果は、示差熱熱重量同時測定装置(TG/DTA)を用いて微量のサンプルについて確認されたものであり、実際には、特許文献1に記載された質量比(銅粉/炭酸カルシウム)では実用的な乾燥性向上は認められない。また、単に銅粉(金属粉)の配合量を増やすだけでは、配合安定性や塗膜の物性(制振性等)を損なうことになりかねない。
このように、従来の技術には、配合安定性や塗膜の物性に影響を及ぼすことなく実用に堪える乾燥性向上を実現可能な樹脂組成物について、更に検討する余地があった。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、配合安定性や塗膜の物性を損なうことなく、より優れた乾燥性を発揮する加熱乾燥用樹脂組成物及び加熱乾燥塗膜を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、乾燥性に優れた加熱乾燥用樹脂組成物について種々検討し、樹脂組成物における金属粉と充填剤との配合比に着目した。そして、金属粉と充填剤との質量比を特定の範囲に調整することにより、樹脂組成物の乾燥性(水等の溶媒の揮発促進性)が実用的なレベルで向上することを見出した。また、このような樹脂組成物は、配合安定性や得られる塗膜の物性にも優れたものであることを見出し、特に、得られる塗膜の制振性が向上することを見出した。そして、このような樹脂組成物が、自動車をはじめ様々な工業分野において、制振性等の物性に優れた加熱乾燥塗膜の形成に極めて有用であることも見出し、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0008】
すなわち本発明は、樹脂、充填剤及び金属粉を必須成分として含有する加熱乾燥用樹脂組成物であって、上記金属粉と充填剤との質量比が3/7以上、9/1未満であることを特徴とする加熱乾燥用樹脂組成物である。
本発明はまた、上記加熱乾燥用樹脂組成物を110℃以上の温度で加熱乾燥して得られる加熱乾燥塗膜であって、上記塗膜は、膜厚が1.5mm以上であることを特徴とする加熱乾燥塗膜でもある。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
本発明の加熱乾燥用樹脂組成物(以下、単に樹脂組成物ともいう。)に必須成分として含有される樹脂は、本発明の作用効果を発揮できるものであれば限定されないが、ガラス転移温度が−20〜40℃であると、得られる塗膜が実用温度域での制振性に優れたものとなる点で好ましい。上記樹脂のガラス転移温度としてより好ましくは、−15〜35℃であり、更に好ましくは、−10〜30℃である。なお、ガラス転移温度(Tg)は、例えば、既に得られている知見に基づいて決定されてもよいし、後述する単量体成分の種類や使用割合によって制御されてもよいが、理論上は、以下の計算式(1)より算出することができる。
【0010】
【数1】

【0011】
式中、Tg′は、樹脂(ポリマー)のTg(絶対温度)である。W′、W′、・・・Wn′は、全単量体成分に対する各単量体の質量分率である。T、T、・・・Tnは、各単量体成分からなるホモポリマー(単独重合体)のガラス転移温度(絶対温度)である。
【0012】
上記樹脂はまた、重量平均分子量が2万〜40万であることが好ましい。重量平均分子量が上記範囲にあると、得られる塗膜が制振性に優れたものとなる。重量平均分子量としてより好ましくは、3万〜40万であり、更に好ましくは4万〜30万である。
なお、重量平均分子量(Mw)は、以下の測定条件下で、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定により求めることができる。
測定機器:HLC−8120GPC(商品名、東ソー社製)
分子量カラム:TSK−GEL GMHXL−Lと、TSK−GELG5000HXL(いずれも東ソー社製)とを直列に接続して使用
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
検量線用標準物質:ポリスチレン(東ソー社製)
測定方法:測定対象物を固形分が約0.2質量%となるようにTHFに溶解し、フィルターにてろ過した物を測定サンプルとして分子量を測定する。
【0013】
本発明の加熱乾燥用樹脂組成物における上記樹脂の配合量は、上記樹脂組成物の固形分(不揮発分)の総量100質量%に対して、10〜60質量%であることが好ましい。より好ましくは15〜50質量%である。
なお、上記樹脂の種類等、更に好ましい形態については後述する。
【0014】
本発明の加熱乾燥用樹脂組成物はまた、充填剤及び金属粉を必須成分とするものである。樹脂組成物が金属粉を含有することにより、熱伝導率が向上し、水等の溶媒の揮発を効果的に促進することができるため、樹脂組成物の乾燥性が向上することとなる。乾燥性が向上すると、加熱乾燥塗膜中に残留する水分(溶媒)量を充分に低減することができ、樹脂間の絡み合い(摩擦)を充分に大きくすることができるため、その結果、塗膜の制振性も向上することとなる。また、樹脂組成物が充填剤を含有することにより、該樹脂組成物が配合安定性に優れたものとなる。
上記加熱乾燥用樹脂組成物において、金属粉と充填剤との質量比は、3/7以上、9/1未満である。これにより、配合安定性や塗膜の物性を損なうことなく、樹脂組成物の乾燥性を充分に向上させることが可能となる。上記質量比が3/7未満であると、乾燥性向上効果を充分に発揮できないおそれがある。一方、9/1以上であると、樹脂組成物を構成する成分の分散状態が悪くなり、安定性が低下するおそれがある。上記質量比として好ましくは4/6〜8/2であり、より好ましくは5/5〜8/2である。
【0015】
上記金属粉は、アスペクト比が3以上であることが好ましい。アスペクト比は、粒子の直径と厚みとの比であり、値が大きいほど粒子が偏平である(相対的に直径が大きく薄い)ことを示す。同重量の金属粉であれば、アスペクト比が大きいほど、すなわち偏平であるほど熱伝導効率が高くなるため、該金属粉を含有する樹脂組成物がより乾燥性に優れたものとなる。上記金属粉のアスペクト比としてより好ましくは4以上であり、更に好ましくは5以上である。
なお、アスペクト比はデジタルマイクロスコープ(KEYENCE社製)を用いて粒子を観察し、10個のサンプルの平均値として算出することができる。
【0016】
上記金属粉はまた、粒径が0.5〜100μmであることが好ましい。より好ましくは1〜100μmであり、更に好ましくは1〜50μmである。金属粉の粒径が大きすぎると、熱伝導効率が充分に高くならず、樹脂組成物の乾燥性が充分に向上しないおそれがある。一方、粒径が小さすぎると、樹脂組成物における上記充填剤等の分散性が低下し、樹脂組成物の安定性が充分に高くならないおそれがある。
【0017】
上記金属粉の配合量としては、加熱乾燥用樹脂組成物の固形分100質量%に対して、20〜70質量%とすることが好ましい。より好ましくは、30〜60質量%であり、更に好ましくは40〜50質量%である。
【0018】
上記金属粉としては、単体金属だけでなく、金属酸化物等の金属化合物を用いることも可能である。上記金属粉として、具体的には、例えば、銅粉、アルミナ粉、アルミニウム粉、銀粉、錫粉、金粉、鉄粉、ステンレス粉、合金属粉等の1種又は2種以上を用いることができる。中でも、熱伝導率が高くしかも安価である点で、銅粉、アルミナ粉が好ましい。
なお、アルミニウム粉のように粉塵爆発のおそれのあるものは、ペースト状にして用いてもよい。
【0019】
上記充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、カオリン、シリカ、タルク、硫酸バリウム、酸化鉄、酸化チタン、ガラストーク、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、珪藻土、クレー等の無機質の充填剤;ガラスフレーク、マイカ等の鱗片状無機質充填剤;金属酸化物ウィスカー、ガラス繊維等の繊維状無機質充填剤等が挙げられる。中でも、樹脂組成物の配合安定性を高めることができる点で炭酸カルシウム、酸化チタンが好ましく、安価である点で炭酸カルシウムがより好ましい。
上記充填剤の配合量としては、加熱乾燥用樹脂組成物の固形分100質量%に対して、5〜60質量%とすることが好ましい。より好ましくは、10〜50質量%であり、更に好ましくは20〜40質量%である。
なお、上記充填剤には、上述した金属粉は含まれないものとする。これにより、本願発明の作用効果が充分に発揮されることとなる。
【0020】
以下に、本発明の加熱乾燥用樹脂組成物が含む樹脂の好ましい形態について更に説明する。
本発明の加熱乾燥用樹脂組成物に含有される樹脂は、媒体中に溶解又は分散された形態で存在することが好ましい。すなわち、上記加熱乾燥用樹脂組成物は、媒体と、媒体中に溶解又は分散されたポリマーとを有するものであることが好ましい。媒体としては、水性媒体であることが好ましく、例えば、水や、水と混じりあう溶媒と水との混合溶媒等が挙げられる。中でも、本発明の加熱乾燥用樹脂組成物を含む塗料等の配合物を塗布する際の安全性や環境への影響を考慮すると、水が好適である。
【0021】
本発明の加熱乾燥用樹脂組成物における上記樹脂の存在形態として特に好ましくは、上記樹脂が水性媒体中に均一に分散され、エマルションを形成する形態である。このような形態において、上記樹脂は、コア部とシェル部とからなる2層以上のコア・シェル構造を有することが好ましい。この場合、コア部とシェル部とが完全に相溶し、これらを区別できない均質構造のものであってもよく、これらが完全には相溶せずに不均質に形成されるコア・シェル複合構造やミクロドメイン構造であってもよい。これらの構造の中でも、エマルションの特性を充分に引き出し、安定なエマルションを作製するためには、コア・シェル複合構造であることが好ましい。コア部とシェル部とを有するエマルションは、実用温度範囲内の幅広い範囲における制振性に優れる。
なお、上記コア・シェル複合構造においては、コア部の表面がシェル部によって被覆された形態であることが好ましい。この場合、コア部の表面は、シェル部によって完全に被覆されていることが好適であるが、完全に被覆されていなくてもよく、例えば、網目状に被覆されている形態や、所々においてコア部が露出している形態であってもよい。
【0022】
上記樹脂がコア部とシェル部とを有するエマルション粒子の形態である場合には、コア部を形成する樹脂(重合体)と、シェル部を形成する樹脂(重合体)とは、例えば、重量平均分子量やガラス転移温度、SP値(溶解度係数)、使用される単量体の種類、単量体の使用割合等の各種物性のうちいずれかにおいて異なるものであればよい。中でも、重量平均分子量、ガラス転移温度の少なくとも1つで差を有するものであることが好適である。
【0023】
本発明の加熱乾燥用樹脂組成物が含む樹脂がエマルションを形成する形態である場合、エマルション粒子(エマルションを形成する上記樹脂の粒子)の平均粒子径は100〜450nmであることが好ましい。
平均粒子径がこの範囲にあるエマルション粒子を用いることにより、本発明の作用効果をより顕著なものとすることができる。また、例えば上記樹脂組成物を制振材用途に適用する場合に、制振材に要求される基本性能を充分なものとしたうえで、制振性をより優れたものとすることができる。
上記上限は、400nmであることがより好ましい。更に好ましくは、350nmである。エマルション粒子の平均粒子径がこのような範囲であると、本発明の加熱乾燥用樹脂組成物の作用効果がより効果的に発揮されることになる。
平均粒子径(体積平均粒子径)は、例えば、エマルションを蒸留水で希釈し充分に攪拌混合した後、ガラスセルに約10ml採取し、これを動的光散法による粒度分布測定器(Particle Sizing Systems社製「NICOMP Model 380」)で測定することにより求めることができる。
【0024】
本発明の加熱乾燥用樹脂組成物において、上記平均粒子径を有するエマルション粒子は、標準偏差をその体積平均粒子径で割った値(標準偏差/体積平均粒子径×100)で定義される粒度分布が40%以下であることが好ましい。より好ましくは、30%以下である。粒度分布が40%を超えると、エマルション粒子の粒子径分布の幅が非常に広いものとなり、一部に粗大粒子を含むものとなるために、そのような粗大粒子の影響で加熱乾燥用樹脂組成物が充分な加熱乾燥性を発揮することができないおそれがある。
【0025】
上記エマルションのpHとしては特に限定されないが、例えば、2〜10であることが好ましく、より好ましくは、3〜9である。更に好ましくは、7〜8である。エマルションのpHは、エマルションに、アンモニア水、水溶性アミン類、水酸化アルカリ水溶液等を添加することによって調整することができる。
本明細書中、pHは、pHメーター(堀場製作所社製「F−23」)を用いて測定した25℃における値である。
【0026】
上記エマルションの粘度としては特に限定されないが、例えば、1〜10000mPa・sであることが好ましく、より好ましくは、5〜500mPa・sである。
なお、粘度は、B型回転粘度計(東機産業社製)を用いて、25℃、20rpmの条件下で測定することができる。
【0027】
本発明の加熱乾燥用樹脂組成物に含有される樹脂の種類は、本発明の作用効果を妨げない限り限定されない。本発明の加熱乾燥用樹脂組成物は、上記樹脂、充填剤及び金属粉を必須成分とするものであり、高い熱伝導率を有する金属粉により樹脂組成物の熱伝導率を上昇させるとともに、充填剤により樹脂組成物の安定性及び塗膜の物性を確保することによって、樹脂組成物の安定性や塗膜の物性を損なうことなく乾燥性を向上させるものである。このことから、上記樹脂として熱伝導率が同程度のものを用いる限り、その種類によって本発明の作用効果は大きく左右されない。従って、上記樹脂は用途に応じて適宜選択すればよい。
【0028】
本発明の加熱乾燥用樹脂組成物が含む樹脂として、具体的には、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、SBR(スチレンブタジエンゴム)樹脂、エポキシ樹脂、酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル−エチレン系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン系樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)樹脂、ポリオレフィン樹脂等の1種又は2種以上を用いることができる。
これらの樹脂はいずれも、同程度の熱伝導率を有するものである。上述したように、熱伝導率が同程度であれば樹脂の種類は本発明の作用効果を大きく左右するものではないから、上述した樹脂の中から用途に応じて適宜選択することが可能である。
なお、上述した樹脂の2種以上を用いる場合には、その2種以上の樹脂が混合された混合物であってもよく、例えばコア・シェル構造を有する重合体のように、多段重合により得られる重合体であってもよい。中でも、樹脂の粒子がコア・シェル構造を有することが好ましい。
【0029】
本発明の加熱乾燥用樹脂組成物を構成する樹脂の原料となる単量体成分としては、本発明の作用効果を発揮することができればよいが、不飽和カルボン酸単量体を含んでなるものであることが好ましい。より好ましくは、不飽和カルボン酸単量体及び不飽和カルボン酸単量体と共重合可能な他の単量体とを含んでなるものである。不飽和カルボン酸単量体としては、分子中に不飽和結合とカルボキシル基とを有する化合物であれば特に限定されるものではないが、エチレン系不飽和カルボン酸単量体を含むことが好ましい。
なお、本発明の加熱乾燥用樹脂組成物に含有される樹脂が、コア部とシェル部とを有するエマルション粒子である場合、不飽和カルボン酸単量体及び不飽和カルボン酸単量体と共重合可能な他の単量体は、エマルションのコア部を形成する単量体成分、シェル部を形成する単量体成分のいずれに含まれていてもよく、これらの両方に用いられるものであってもよい。
【0030】
上記エチレン系不飽和カルボン酸単量体としては特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、モノメチルフマレート、モノエチルフマレート、モノメチルマイエート、モノエチルマイエート等の不飽和カルボン酸類又はその誘導体等の1種又は2種以上が挙げられる。
これらの中でも、(メタ)アクリル系単量体が好ましい。
(メタ)アクリル系単量体とは、(メタ)アクリル酸、及び、(メタ)アクリル酸の塩や(メタ)アクリル酸エステル等の(メタ)アクリル酸誘導体を意味する。
すなわち、本発明の加熱乾燥用樹脂組成物を構成する樹脂は、アクリル樹脂(アクリル共重合体)であることが好ましい。
【0031】
本発明において、「アクリル共重合体」とは、少なくとも2種以上の単量体成分を用いて得られる共重合体であって、該単量体成分の少なくとも1種が、(メタ)アクリル系単量体である共重合体を意味する。これらの中でも、(メタ)アクリル酸系単量体を含む単量体成分を用いて得られるものであることが好ましい。(メタ)アクリル酸系単量体とは、(メタ)アクリル酸及びその塩を意味する。すなわち、上記アクリル共重合体は、単量体成分の少なくとも1種が、C(R)=CH−COOR、又は、C(R)=C(CH)−COOR(R、R、R及びRは、同一若しくは異なって、水素原子、金属原子、アンモニウム基、有機アミン基を表す。)で表される単量体である単量体成分を用いて得られるものであることが好ましい。
【0032】
上記アクリル共重合体の原料となる単量体成分は、全単量体成分100質量%に対して(メタ)アクリル酸系単量体を0.1〜20質量%、その他の共重合可能なエチレン系不飽和単量体を99.9〜80質量%含んでなることが好ましい。(メタ)アクリル酸系単量体を含むことにより、本発明の加熱乾燥用樹脂組成物において、無機粉体等の充填剤の分散性が向上し、塗膜の制振性がより向上することになる。また、その他の共重合可能なエチレン系不飽和単量体を含むことにより、ポリマーの酸価、Tgや物性等を調整しやすくなる。上記単量体成分において、(メタ)アクリル酸系単量体が0.1質量%未満であっても、20質量%を超えても、いずれも、ポリマーが安定に共重合できないおそれがある。
より好ましくは、全単量体成分100質量%に対して(メタ)アクリル酸系単量体を0.5〜3質量%、その他の共重合可能なエチレン系不飽和単量体を99.5〜97質量%含んでなることである。
その他の共重合可能なエチレン系不飽和単量体には、後述する(メタ)アクリル酸系単量体以外の(メタ)アクリル系単量体、窒素原子を有する不飽和単量体、芳香環を有する不飽和化合物、(メタ)アクリル酸系単量体と共重合可能なその他の単量体が含まれる。
【0033】
上記アクリル共重合体の原料となる単量体成分において、(メタ)アクリル酸系単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、シトラコン酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸等の1種又は2種以上を使用することが好適である。
また、(メタ)アクリル酸系単量体以外の(メタ)アクリル系単量体としては、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、tert−ブチルアクリレート、tert−ブチルメタクリレート、ペンチルアクリレート、ペンチルメタクリレート、イソアミルアクリレート、イソアミルメタクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、オクチルアクリレート、オクチルメタクリレート、イソオクチルアクリレート、イソオクチルメタクリレート、ノニルアクリレート、ノニルメタクリレート、イソノニルアクリレート、イソノニルメタクリレート、デシルアクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルアクリレート、ドデシルメタクリレート、トリデシルアクリレート、トリデシルメタクリレート、ヘキサデシルアクリレート、ヘキサデシルメタクリレート、オクタデシルアクリレート、オクタデシルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、2−ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、アリルアクリレート、アリルメタアクリレート等の他、これらの塩やエステル化物等の1種又は2種以上を使用することが好適である。
【0034】
上記塩としては、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩等であることが好ましい。金属塩を形成する金属原子としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属原子等の1価の金属原子;カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属原子等の2価の金属原子;アルミニウム、鉄等の3価の金属原子が好適であり、また、有機アミン塩としては、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩等のアルカノールアミン塩や、トリエチルアミン塩が好適である。
【0035】
上記単量体成分としてはまた、上記(メタ)アクリル酸(塩)系単量体と共重合可能なその他の単量体を含んでいてもよい。その他の単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン等の芳香環を有する不飽和化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−n−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−i−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等の窒素原子を有する不飽和化合物等が挙げられる。中でも、窒素原子を有する不飽和化合物が好ましい。特に好ましくは、アクリロニトリルである。
【0036】
上記アクリル共重合体の原料となる単量体成分としては、(メタ)アクリル系単量体を全単量体成分100質量%に対して、20質量%以上含有するものであることが好ましい。より好ましくは、30質量%以上である。
【0037】
上記アクリル共重合体を形成する単量体成分は、更に、官能基を有する不飽和単量体を含んでいてもよい。該官能基を有する不飽和単量体における官能基としては、例えば、エポキシ基、オキサゾリン基、カルボジイミド基、アジリジニル基、イソシアネート基、メチロール基、ビニルエーテル基、シクロカーボネート基、アルコキシシラン基等が挙げられる。これらの官能基は、不飽和単量体の1分子中に1種あってもよく、2種以上あってもよい。
【0038】
上記官能基を有する不飽和単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−n−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−i−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、ジアリルフタレート、ジアリルテレフタレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等の多官能性不飽和単量体類;グリシジル(メタ)アクリレート、アクリルグリシジルエーテル等のグリシジル基含有不飽和単量体類等が挙げられる。これらの中でも、官能基を2個以上有する不飽和単量体(多官能性不飽和単量体)を用いることが好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
上記アクリル共重合体として2種以上のアクリル共重合体を用いる場合には、Tgが異なるものを用いることが好適である。このようにガラス転移温度(Tg)に差を設けることにより、幅広い温度領域下でより高い制振性を発現させることが可能となり、特に実用的範囲である20〜60℃域での制振性が格段に向上されることとなる。なお、3種以上のアクリル共重合体を用いる場合には、このうちの少なくとも2種のアクリル共重合体がTgの異なるものであればよく、残りの1種以上については、当該2種のアクリル共重合体のいずれかとTgが同じものであってもよい。
【0040】
上記Tgの異なるアクリル共重合体として、Tgの高いものを「アクリル共重合体(1)」、低いものを「アクリル共重合体(2)」とすると、これらのTg差は10〜60℃であることが好ましい。
差が10℃未満であったり、温度差が大き過ぎると、実用的範囲での制振性がより充分なものとはならないおそれがある。
また、より好ましくは15〜55℃であり、更に好ましくは20〜50℃である。
【0041】
上記アクリル共重合体(1)のガラス転移温度(Tg1)としては、Tg1が−10℃以上、また、30℃以下のものが好適である。より好ましくは、Tg1が−5℃以上、また、25℃以下である。更に好ましくは、Tg1が0℃以上、また、20℃以下である。これにより、本発明の加熱乾燥用樹脂組成物を用いて形成された塗膜が優れた制振性を有することとなる。
また、上記アクリル共重合体(2)のガラス転移温度(Tg2)としては、−50℃以上、10℃以下が好ましい。より好ましくは、−30℃以上、−10℃以下である。
【0042】
本発明の加熱乾燥用樹脂組成物が上述したアクリル共重合体のエマルションを含むものである場合、アクリル共重合体のエマルションのみを含むものであってもよく、その他のエマルション樹脂と混合したものであってもよい。その他のエマルション樹脂としては、上述した各種樹脂が挙げられ、これらの1種又は2種以上を含むものであってもよい。この場合、アクリル共重合体のエマルションと他のエマルション樹脂との質量比(アクリル共重合体のエマルション/他のエマルション樹脂)が、100〜50/0〜50となるように設定することが好ましい。
【0043】
本発明の加熱乾燥用樹脂組成物は、必要に応じて更に他成分を含有してもよい。上記他成分としては、発泡剤及び増粘剤を含有することが好ましい。これにより、上記樹脂組成物が制振性に優れた塗膜を形成することができるものとなる。
上記発泡剤としては、例えば、低沸点炭化水素内包の加熱膨張カプセル、有機発泡剤、無機発泡剤等が好適であり、これらの1種又は2種以上を使用することができる。加熱膨張カプセルとしては、例えば、マツモトマイクロスフィアーF−30、F−50(松本油脂社製);エクスパンセルWU642、WU551、WU461、DU551、DU401(日本エクスパンセル社製)等が挙げられ、有機発泡剤としては、例えば、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル、N,N−ジニトロソペンタメチレンテトラミン、p−トルエンスルホニルヒドラジン、p−オキシビス(ベンゼンスルホヒドラジド)等が挙げられ、無機発泡剤としては、例えば、重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、シリコンハイドライド等が挙げられる。上記発泡剤の配合量としては、加熱乾燥用樹脂組成物の固形分100重量部に対し、0.5〜5.0重量部とすることが好ましい。より好ましくは、1.0〜3.0重量部である。
上記増粘剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース系誘導体、ポリカルボン酸系樹脂等が挙げられる。中でも、ポリカルボン酸系の会合型アルカリ可溶性増粘剤を用いることが好ましい。増粘剤の配合量としては、加熱乾燥用樹脂組成物の固形分100重量部に対し、固形分で0.01〜2重量部とすることが好ましい。より好ましくは、0.05〜1.5重量部であり、更に好ましくは、0.1〜1重量部である。
【0044】
その他、本発明の制振材配合物に配合することのできる他成分としては、例えば、顔料;溶媒;水系架橋剤;可塑剤;安定剤;湿潤剤;防腐剤;発泡防止剤;分散剤;消泡剤;老化防止剤;防黴剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤等の1種又は2種以上を使用することができる。
なお、上記他成分は、例えば、バタフライミキサー、プラネタリーミキサー、スパイラルミキサー、ニーダー、ディゾルバー等を用いて、上記加熱乾燥用樹脂組成物等と混合され得る。
【0045】
上記顔料としては、例えば、後述する着色剤や防錆顔料等の1種又は2種以上を使用することができる。上記顔料の配合量としては、加熱乾燥用樹脂組成物100重量部に対し、50〜700重量部とすることが好ましい。より好ましくは、100〜550重量部である。
【0046】
上記着色剤としては、例えば、カーボンブラック、弁柄、ハンザイエロー、ベンジンイエロー、フタロシアニンブルー、キナクリドンレッド等の有機又は無機の着色剤が挙げられる。
上記防錆顔料としては、例えば、リン酸金属塩、モリブデン酸金属塩、硼酸金属塩等が挙げられる。
なお、上記着色剤及び防錆顔料としては、上記充填剤としての作用を発揮しないものを用いることが好ましい。これにより、本発明の作用効果をより顕著なものとすることができる。
【0047】
上記溶媒としては、例えば、エチレングリコール、ブチルセロソルブ、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート等が挙げられる。溶剤の配合量としては、加熱乾燥用樹脂組成物の固形分濃度が上述した範囲となるように適宜設定すればよい。
【0048】
上記水系架橋剤としては、例えば、エポクロスWS−500、WS−700、K−2010、2020、2030(いずれも商品名、日本触媒社製)等のオキサゾリン化合物;アデカレジンEMN−26−60、EM−101−50(いずれも商品名、ADEKA社製)等のエポキシ化合物;サイメルC−325(商品名、三井サイテック社製)等のメラミン化合物;ブロックイソシアネート化合物;AZO−50(商品名、50質量%酸化亜鉛水分散体、日本触媒社製)等の酸化亜鉛化合物等が好適である。水系架橋剤の配合量としては、例えば、加熱乾燥用樹脂組成物の固形分100重量部に対し、固形分で0.01〜20重量部とすることが好ましく、より好ましくは、0.15〜15重量部、更に好ましくは、0.5〜15重量部である。
上記加熱乾燥用樹脂組成物に架橋剤を混合することにより、樹脂の強靱性が向上し、その結果、高温領域で充分な高制振性が発現する。中でもオキサゾリン化合物を用いることが好ましい。
【0049】
上記分散剤としては、例えば、ヘキサメタリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム等の無機質分散剤及びポリカルボン酸系分散剤等の有機質分散剤が挙げられる。
上記消泡剤としては、例えば、シリコン系消泡剤等が挙げられる。
【0050】
上記他成分としては更に、多価金属化合物を用いてもよい。この場合、多価金属化合物により、加熱乾燥用樹脂組成物の安定性、分散性、加熱乾燥性や、加熱乾燥用樹脂組成物から形成される塗膜の制振性が向上することとなる。多価金属化合物としては特に限定されず、例えば、酸化亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
上記多価金属化合物の形態としては、例えば、粉体、水分散体や乳化分散体等であってよい。中でも、加熱乾燥用樹脂組成物中への分散性が向上することから、水分散体又は乳化分散体の形態で使用することが好ましく、より好ましくは乳化分散体の形態で使用することである。また、多価金属化合物の使用量は、加熱乾燥用樹脂組成物中の固形分100重量部に対して、0.05〜5.0重量部とすることが好ましい。より好ましくは0.05〜3.5重量部である。
【0051】
上記加熱乾燥用樹脂組成物の好ましい形態の1つとして、該樹脂組成物が発泡剤及び増粘剤を含む形態が挙げられる。樹脂組成物がこのような形態であると、得られる塗膜が制振性に優れたものとなる。この形態において、樹脂組成物の粘度は、例えば5万mPa・s以上であることが好ましい。このように、上記加熱乾燥用樹脂組成物が更に発泡剤及び増粘剤を含み、粘度が5万mPa・s以上である形態は、本発明における好適な実施形態の1つである。
【0052】
本発明の加熱乾燥用樹脂組成物は、樹脂組成物の総量100質量%に対して、固形分を40〜90質量%含有してなることが好適であり、より好ましくは、50〜90質量%であり、更に好ましくは、60〜90質量%である。
また、上記加熱乾燥用樹脂組成物のpHは、7〜11とすることが好ましく、より好ましくは、7〜9である。
また、上記樹脂がエマルションを形成する形態において、上記加熱乾燥用樹脂組成物におけるエマルションの配合量としては、例えば、加熱乾燥用樹脂組成物の固形分100質量%に対し、エマルションの固形分が10〜60質量%となるように設定することが好ましく、より好ましくは、15〜60質量%である。
【0053】
以下に、本発明の加熱乾燥用樹脂組成物の製造方法について説明する。
上記加熱乾燥用樹脂組成物に含有される樹脂の製造方法としては、上記樹脂がエマルションを形成する形態においては、乳化剤の存在下で乳化重合法により単量体成分を重合することになるが、乳化重合を行う形態としては特に限定されず、例えば、水性媒体中に単量体成分、重合開始剤及び乳化剤を適宜加えて重合することにより行うことができる。また、分子量調節のために重合連鎖移動剤等を用いることが好ましい。
乳化剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、両性の各種界面活性剤、及び、高分子界面活性剤の1種又は2種以上を用いることができる。
【0054】
本発明の加熱乾燥用樹脂組成物に含有される樹脂がコア部とシェル部とを有するエマルション粒子である場合、通常の乳化重合法を用いて得ることが好ましい。具体的には、乳化剤及び/又は保護コロイドの存在下、水性媒体中で単量体成分を乳化重合させてコア部を形成した後、該コア部を含むエマルションに更に単量体成分を乳化重合させてシェル部を形成する多段重合により得ることが好ましい。このように、本発明の加熱乾燥用樹脂組成物に含有される樹脂がコア部とシェル部とを有するエマルション粒子であって、該エマルション粒子がコア部を形成した後、シェル部を形成する多段重合により得られるものである形態もまた、本発明の好適な形態の1つである。
コア部とシェル部とを有するエマルションを多段重合により製造する形態においては、水等の水性溶媒中にコア部を構成する単量体成分の一部を滴下してシード粒子を形成する初期重合を行った後、残りの単量体成分を追加してコア部を形成し、その後、シェル部を構成する単量体成分を加えてシェル部を形成することが好ましい。
【0055】
上記水性媒体としては特に限定されず、例えば、水、水と混じり合うことができる溶媒の1種又は2種以上の混合溶媒、このような溶媒に水が主成分となるように混合した混合溶媒等が挙げられる。これらの中でも、水を用いることが好ましい。
【0056】
上記乳化剤の使用量としては、全重合性不飽和結合基を含有する化合物の使用量に対して、下限値が0.1〜10質量%である。0.1質量%未満であると、機械安定性を充分に向上できないうえに、重合安定性が充分に維持できないおそれがある。より好ましくは、0.5〜5質量%であり、最も好ましくは、1〜3質量%である。
【0057】
上記アニオン系界面活性剤としては特に限定されず、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンオレイルエーテル硫酸ナトリウム塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、ポリオキシアルキレン(モノ、ジ、トリ)スチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレン(モノ、ジ、トリ)ベンジルフェニルエーテル硫酸エステル塩、アルケニルコハク酸ジ塩;及び、ナトリウムドデシルサルフェート、カリウムドデシルサルフェート、アンモニウムアルキルサルフェート等のアルキルサルフェート塩;ナトリウムドデシルポリグリコールエーテルサルフェート;ナトリウムスルホリシノエート;スルホン化パラフィン塩等のアルキルスルホネート;ナトリウムドデシルベンゼンスルホネート、アルカリフェノールヒドロキシエチレンのアルカリ金属サルフェート等のアルキルスルホネート;高アルキルナフタレンスルホン酸塩;ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物;ナトリウムラウレート、トリエタノールアミンオレエート、トリエタノールアミンアビエテート等の脂肪酸塩;ポリオキシアルキルエーテル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンカルボン酸エステル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンフェニルエーテル硫酸エステル塩;コハク酸ジアルキルエステルスルホン酸塩;ポリオキシエチレンアルキルアリールサルフェート塩等の1種又は2種以上を用いることができる。
【0058】
上記アニオン性乳化剤として特に好適な化合物としては、例えば、ラテムルWX、ラテムル118B、ペレックスSS−H、エマルゲンA−60、B−66、レベノールWZ(花王社製)、ニューコール707SF、ニューコール707SN、ニューコール714SF、ニューコール714SN、AB−26S、ABEX−2010、2020、2030、DSB(ローディア日華社製)等を挙げることができる。
また、これらのノニオンタイプに相当する界面活性剤も使用することができる。
【0059】
上記アニオン性乳化剤としてはまた、反応性乳化剤として、反応性アニオン系界面活性剤、スルホコハク酸塩型反応性アニオン系界面活性、アルケニルコハク酸塩型反応性アニオン系界面活性剤等の1種又は2種以上を用いることができる。
スルホコハク酸塩型反応性アニオン系界面活性剤の市販品としては、ラテムルS−120、S−120A、S−180及びS−180A(いずれも商品名、花王社製)、エレミノールJS−2(商品名、三洋化成工業社製)、アデカリアソープSR−10、SR−20、SR−30(ADEKA社製)等が挙げられる。
アルケニルコハク酸塩型反応性アニオン系界面活性剤の市販品としては、ラテムルASK(商品名、花王社製)等が挙げられる。
更に、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンスルフォネート塩(例えば、三洋化成工業社製「エレミノールRS−30」、日本乳化剤社製「アントックスMS−60」等)、アリルオキシメチルアルキルオキシポリオキシエチレンのスルフォネー卜塩(例えば、第一工業製薬社製「アクアロンKH−10」等)等のアリル基を有する硫酸エステル(塩)、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム(例えば、花王社製「ラテムルPD−104」等)等も用いることができる。
【0060】
また、上記アニオン性乳化剤としては更に、反応性乳化剤として、下記の界面活性剤等も用いることができる。
炭素数3〜5の脂肪族不飽和カルボン酸のスルホアルキル(炭素数1〜4)エステル塩型界面活性剤、例えば、2−スルホエチル(メタ)アクリレートナトリウム塩、3−スルホプロピル(メタ)アクリレートアンモニウム塩等の(メタ)アクリル酸スルホアルキルエステル塩型界面活性剤;スルホプロピルマレイン酸アルキルエステルナトリウム塩、スルホプロピルマレイン酸ポリオキシエチレンアルキルエステルアンモニウム塩、スルホエチルフマル酸ポリオキシエチレンアルキルエステルアンモニウム塩等の脂肪族不飽和ジカルボン酸アルキルスルホアルキルジエステル塩型界面活性剤。
【0061】
上記ノニオン系界面活性剤としては特に限定されず、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル;ソルビタン脂肪族エステル;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪族エステル;グリセロールのモノラウレート等の脂肪族モノグリセライド;ポリオキシエチレンオキシプロピレン共重合体;エチレンオキサイドと脂肪族アミン、アミド又は酸との縮合生成物等が挙げられる。また、アリルオキシメチルアルコキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン(例えば、ADEKA社製「アデカリアソープER−20」等)、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル(例えば、花王社製「ラテムルPD−420」、「ラテムルPD−430」等)等の反応性を有するノニオン系界面活性剤も用いることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0062】
上記カチオン系界面活性剤としては特に限定されず、例えば、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、エステル型ジアルキルアンモニウム塩、アミド型ジアルキルアンモニウム塩、ジアルキルイミダゾリニウム塩等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0063】
上記両性界面活性剤としては特に限定されず、例えば、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルジメチルアミンオキサイド、アルキルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、アルキルアミドプロピルベタイン、アルキルヒドロキシスルホベタイン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0064】
上記高分子界面活性剤としては特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコール及びその変性物;(メタ)アクリル系水溶性高分子;ヒドロキシエチル(メタ)アクリル系水溶性高分子;ヒドロキシプロピル(メタ)アクリル系水溶性高分子;ポリビニルピロリドン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0065】
上記界面活性剤の中でも、環境面からは、非ノニルフェニル型の界面活性剤を用いることが好適である。
上記界面活性剤の使用量としては、用いる界面活性剤の種類や単量体成分の種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、上記樹脂を形成するのに用いられる単量体成分の総量100重量部に対して、0.1〜10重量部であることが好ましく、より好ましくは、0.5〜5重量部である。更に好ましくは、1〜3重量部である。
【0066】
上記保護コロイドとしては、例えば、部分ケン化ポリビニルアルコール、完全ケン化ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール類;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース塩等のセルロース誘導体;グアーガム等の天然多糖類等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。なお、保護コロイドは単独で使用されてもよいし、界面活性剤と併用されてもよい。
上記保護コロイドの使用量としては、使用条件等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、上記樹脂を形成するのに用いられる単量体成分の総量100重量部に対して、5重量部以下であることが好ましく、より好ましくは3重量部以下である。
【0067】
上記重合開始剤としては、熱によって分解し、ラジカル分子を発生させる物質であれば特に限定されないが、水溶性開始剤が好適に使用される。例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩類;2,2′−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、4,4′−アゾビス(4−シアノペンタン酸)等の水溶性アゾ化合物;過酸化水素等の熱分解系開始剤;過酸化水素とアスコルビン酸、t−ブチルヒドロパーオキサイドとロンガリット、過硫酸カリウムと金属塩、過硫酸アンモニウムと亜硫酸水素ナトリウム等のレドックス系重合開始剤等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
上記重合開始剤の使用量としては特に限定されず、重合開始剤の種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、上記樹脂を形成するのに用いられる単量体成分の総量100重量部に対して、0.1〜2重量部であることが好ましく、より好ましくは、0.2〜1重量部である。
【0068】
上記重合開始剤にはまた、乳化重合を促進させるため、必要に応じて還元剤を併用することができる。還元剤としては、例えば、アスコルビン酸、酒石酸、クエン酸、ブドウ糖等の還元性有機化合物;例えば、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム等の還元性無機化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
上記還元剤の使用量としては特に限定されず、例えば、上記樹脂を形成するのに用いられる単量体成分の総量100重量部に対して、0.05〜1重量部であることが好ましい。
【0069】
上記重合連鎖移動剤としては特に限定されず、例えば、ヘキシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ヘキサデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン類;四塩化炭素、四臭化炭素、臭化エチレン等のハロゲン化炭化水素;メルカプト酢酸2−エチルヘキシルエステル、メルカプトプロピオン酸2−エチルヘキシルエステル、メルカプトピロピオン酸トリデシルエステル等のメルカプトカルボン酸アルキルエステル;メルカプト酢酸メトキシブチルエステル、メルカプトプロピオン酸メトキシブチルエステル等のメルカプトカルボン酸アルコキシアルキルエステル;オクタン酸2−メルカプトエチルエステル等のカルボン酸メルカプトアルキルエステルや、α−メチルスチレンダイマー、ターピノーレン、α−テルピネン、γ−テルピネン、ジペンテン、アニソール、アリルアルコール等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ヘキシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ヘキサデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン類を用いることが好ましい。重合連鎖移動剤の使用量としては、例えば、全単量体成分100重量部に対して、通常2.0重量部以下、好ましくは1.0重量部以下である。
【0070】
上記乳化重合においては、必要に応じて、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム等のキレート剤、ポリアクリル酸ナトリウム等の分散剤や無機塩等の存在下で行ってもよい。また、単量体成分や重合開始剤等の添加方法としては、例えば、一括添加法、連続添加法、多段添加法等の方法を適用することができる。また、これらの添加方法を適宜組み合わせてもよい。
【0071】
上記製造方法における乳化重合条件に関し、重合温度としては特に限定されず、例えば、0〜100℃であることが好ましく、より好ましくは、40〜95℃である。また、重合時間も特に限定されず、例えば、1〜15時間とすることが好適で、より好ましくは、5〜10時間である。
また単量体成分や重合開始剤等の添加方法としては特に限定されず、例えば、一括添加法、連続添加法、多段添加法等の方法を適用することができる。また、これらの添加方法を適宜組み合わせてもよい。
【0072】
本発明の加熱乾燥用樹脂組成物に含有される樹脂の製造方法においては、乳化重合によりエマルションを製造した後、中和剤によりエマルションを中和することが好ましい。これにより、エマルションが安定化されることになる。中和剤としては特に限定されず、例えば、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、モルホリン等の三級アミン;ジグリコールアミン、アンモニア水;水酸化ナトリウム等を用いることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、加熱乾燥用樹脂組成物から形成される塗膜の耐水性等が向上することから、塗膜の加熱時に揮散する揮発性塩基を用いることが好ましい。より好ましくは、加熱乾燥性が良好となり、制振性が向上することから、沸点が80〜360℃のアミンを用いることである。このような中和剤としては、例えば、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、モルホリン等の三級アミン、ジグリコールアミンが好適である。より好ましくは、沸点が130〜280℃のアミンを用いることである。
なお、上記沸点は、常圧での沸点である。
【0073】
上記製造方法により製造されたエマルションに、上述した充填剤及び金属粉を混合することにより、本発明の加熱乾燥用樹脂組成物を得ることができる。また、必要に応じて、更に上述した他成分を混合してもよい。
【0074】
上記加熱乾燥用樹脂組成物は、例えば、基材に塗布して乾燥することにより塗膜を形成することができる。基材としては特に限定されるものではない。また、上記樹脂組成物を基材に塗布する方法としては、例えば、刷毛、へら、エアスプレー、エアレススプレー、モルタルガン、リシンガン等を用いて塗布することができる。
上記樹脂組成物の塗布量は、用途や所望する性能等により適宜設定すればよいが、乾燥時(後)の塗膜の膜厚が、1.5mm以上となるようにすることが好ましい。本発明の加熱乾燥用樹脂組成物は乾燥性に優れるものであるため、膜厚が厚い場合に特にその効果がより顕著に発揮される。上記塗膜の膜厚として、より好ましくは1.5〜8.0mmであり、更に好ましくは、3.0〜6.0mmである。
また、乾燥時(後)の塗膜の面密度が1.0〜7.0kg/mとなるように塗布することも好ましい。より好ましくは、2.0〜6.0kg/mである。なお、本発明の樹脂組成物を使用することにより、乾燥時に膨張やクラックが生じにくく、しかも傾斜面の塗料のずり落ちも発生しにくい塗膜を得ることが可能となる。
【0075】
上記樹脂組成物を塗布した後、乾燥して塗膜を形成させる条件としては、加熱乾燥してもよく、常温乾燥してもよいが、本発明における樹脂組成物は、加熱乾燥性に優れることから、効率性の点で加熱乾燥することが好ましい。加熱乾燥の温度としては、110℃以上とすることが好ましい。より好ましくは、110〜180℃、更に好ましくは、120〜170℃である。
本発明の加熱乾燥用樹脂組成物を110℃以上の温度で加熱乾燥して得られる加熱乾燥塗膜であって、該塗膜は、膜厚が1.5mm以上である加熱乾燥塗膜もまた、本発明の1つである。
【0076】
本発明の加熱乾燥用樹脂組成物は、金属粉と充填剤とを3/7以上、9/1未満の質量比で含むことで、乾燥性に優れるだけでなく、この樹脂組成物を塗布、乾燥して得られる塗膜は、制振性にも優れたものとなる。
塗膜の制振性は、塗膜の損失係数を測定することにより評価することができる。
損失係数は、通常ηで表され、塗膜に対して与えた振動がどの程度減衰したかを示すものである。上記損失係数は、数値が高いほど制振性能に優れていることを示す。上記樹脂組成物から形成される塗膜の損失係数のピーク値として好ましくは、20%以上である。より好ましくは、21%以上であり、更に好ましくは、22%以上であり、特に好ましくは、23%以上である。
上記損失係数の測定方法としては、共振周波数付近で測定する共振法が一般的であり、半値幅法、減衰率法、機械インピーダンス法がある。本発明において、塗膜の損失係数としては、片持ち梁法を用いた共振法(3dB法)により測定することが好適である。片持ち梁法を用いる測定は、例えば、小野測機社製のCF−5200型FFTアナライザーを用いて行うことができる。
また、上記損失係数は、冷間圧延鋼板(SPCC−SD:250×10×1.6mm)上に200×10×3.0mmの塗膜容量で塗布し、95℃×30分乾燥後、130℃×60分焼付け乾燥することで被膜を形成して測定することが好ましい。損失係数の測定は、例えば、20℃、30℃、40℃、50℃及び60℃の各温度における損失係数を共振法(3dB法)により測定し、その中のピーク値により評価するのが好ましい。また、上記塗膜の実用温度範囲が通常では20〜60℃であるので、20〜60℃の各温度における損失係数を合計した値で制振性能を評価してもよく、20℃、40℃及び60℃における損失係数を合計した総損失係数が0.20以上であることが好ましい。総損失係数としてより好ましくは、0.27以上であり、更に好ましくは、0.30以上である。
【0077】
本発明の加熱乾燥用樹脂組成物の用途としては特に限定されないが、乾燥性に優れ、しかも制振性等の物性に優れた塗膜を形成することができるため、自動車をはじめ、製造ラインにおける使用エネルギーの削減が求められる様々な工業分野において、塗料等の材料として好適に使用できる。中でも、自動車、鉄道車両、船舶、航空機、電気機器、建築構造物、建設機器等に用いる制振性塗膜の形成に極めて有用である。
【発明の効果】
【0078】
本発明の加熱乾燥用樹脂組成物は、上述の構成よりなり、配合安定性や塗膜の物性を損なうことなく、より優れた乾燥性を発揮するものであり、自動車、鉄道車両、船舶、航空機、電気機器、建築構造物、建設機器等の工業的な用途に好適に適用することができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0079】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0080】
なお、以下の実施例において、各種物性等は以下のように評価した。
<ガラス転移温度(Tg)>
各段で用いた単量体組成から、下記計算式(1)を用いて算出した。
【0081】
【数2】

【0082】
なお、全ての段で用いた単量体組成から算出したTgを「トータルTg」として記載した。
上記計算式(1)により重合性単量体成分のガラス転移温度(Tg)を算出するのに使用したそれぞれのホモポリマーのTg値を下記に示した。
スチレン(St):100℃
メチルメタクリレート(MMA):105℃
2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA):−70℃
ブチルアクリレート(BA):−56℃
アクリル酸(AA):95℃
【0083】
<不揮発分(N.V.)>
得られたエマルション約1gを秤量、熱風乾燥機で110℃×1時間後、乾燥残量を不揮発分として、乾燥前質量に対する比率を質量%で表示した。
<pH>
pHメーター(堀場製作所社製「F−23」)により25℃での値を測定した。
<粘度>
B型回転粘度計(東機産業社製)を用いて、25℃、20rpmの条件下で測定した。
【0084】
<平均粒子径、粒度分布>
動的光散乱法による粒度分布測定器(Particle Sizing Systems社製「NICOMP Model 380」)を用い、体積平均粒子径を測定した。
また、標準偏差をその体積平均粒子径で割った値(標準偏差/体積平均粒子径×100)を粒度分布として算出した。
<重量平均分子量>
以下の測定条件下で、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定した。
測定機器:HLC−8120GPC(商品名、東ソー社製)
分子量カラム:TSK−GEL GMHXL−Lと、TSK−GELG5000HXL(いずれも東ソー社製)とを直列に接続して使用
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
検量線用標準物質:ポリスチレン(東ソー社製)
測定方法:測定対象物を固形分が約0.2質量%となるようにTHFに溶解し、フィルターにてろ過した物を測定サンプルとして分子量を測定した。
【0085】
<金属粉のアスペクト比>
デジタルマイクロスコープ(KEYENCE社製)を用いて粒子を観察し、10個のサンプルの平均値として算出した。
<水分飛散率>
カチオン電着板(日本テストパネル社製、Φ0.8×70×150)上に、加熱乾燥用樹脂組成物(塗料配合物)をウェット膜厚が5mmとなるように塗布し、オーブンで125℃において20分乾燥した。乾燥前後の重量変化から、下記式により水分飛散率を算出した。
水分飛散率(%)=(組成物中の水分量)/{(乾燥前重量)−(乾燥後重量)}×100
<塗膜状態>
水分飛散率測定で作成した乾燥塗膜の状態を目視にて観察し、以下の基準で評価した。
良好:基材からの塗膜はがれや塗膜表面の亀裂等なし
剥離:基材からの塗膜はがれ発生
【0086】
<制振性試験>
各実施例及び比較例で得られた加熱乾燥用樹脂組成物を冷間圧延鋼板(SPCC・幅15mm×長さ250mm×厚み1.5mm)上に3mmの厚みで塗布して150℃で30分間乾燥し、冷間圧延鋼板上に面密度4.0kg/mの制振材被膜を形成した。制振性の測定は、片持ち梁法(小野測機社製損失係数測定システム)をもちいて、それぞれの温度(20℃、40℃、60℃)における損失係数を共振法(3dB法)により測定した。また、制振性の評価は、総損失係数(20℃、40℃、60℃での損失係数の合計)により行い、総損失係数の値が大きいほど制振性に優れるものとした。
【0087】
(製造例1)
撹拌機、還流冷却管、温度計、窒素導入管及び滴下ロートを取り付けた重合器に脱イオン水300部を仕込んだ。その後、窒素ガス気流下で撹拌しながら内温を75℃まで昇温した。一方、上記滴下ロートにスチレン200部、メチルメタクリレート105部、2−エチルヘキシルアクリレート190部、アクリル酸5部、t−ドデシルメルカプタン2.0部、予め20%水溶液に調整したレベノールWZ(商品名、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム:花王社製)90.0部及び脱イオン水97部からなる1段目の単量体乳化物を仕込んだ。次に、重合器の内温を80℃に維持しながら、上記単量体乳化物のうちの8部、5%過硫酸カリウム水溶液5部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液10部を添加し、初期重合を開始した。20分後、反応系内を80℃に維持したまま、残りの単量体乳化物を120分にわたって均一に滴下した。同時に5%過硫酸カリウム水溶液50部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液50部を120分かけて均一に滴下し、滴下終了後60分同温度を維持した。次に、滴下ロートにスチレン105部、メチルメタクリレート100部、ブチルアクリレート290部、アクリル酸5部、t−ドデシルメルカプタン2.0部、予め20%水溶液に調整したレベノールWZ90.0部及び脱イオン水97部からなる2段目の単量体乳化物を仕込み、120分にわたって均一に滴下した。同時に5%過硫酸カリウム水溶液50部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液50部を120分かけて均一に滴下し、滴下終了後90分同温度を維持し、重合を終了した。得られた反応液を室温まで冷却後、ジグリコールアミン12部を添加し、不揮発分55%、pH8.0、粘度420mPa・s、粒子径230nm、粒度分布22%、重量平均分子量65000、1段目のTg10℃、2段目のTg−10℃、トータルTg0℃のエマルションを得た。
【0088】
(実施例1〜6、比較例1〜3)
<加熱乾燥用樹脂組成物の調製及び加熱乾燥塗膜の作製>
表1に示す配合で加熱乾燥用樹脂組成物を調製して上述した方法により加熱乾燥塗膜を作製し、水分飛散率、塗膜状態及び制振性を評価した。結果を表1に示す。
なお、表1中の添加物名等は以下のとおりである。
炭酸カルシウム:NN#200、充填剤、日東粉化工業社製
分散剤:アクアリックDL−40S、ポリカルボン酸系分散剤(有効成分44%)、日本触媒社製
増粘剤:アクリセットWR−650、アルカリ可溶性のアクリル系増粘剤(有効成分30%)、日本触媒社製
消泡剤:ノプコ8034L、主成分:疎水性シリコーン+鉱物油、サンノプコ社製
発泡剤:F−30、松本油脂社製
銅粉A:アスペクト比=1、福田金属箔粉工業社製
銅粉B:アスペクト比=約5、和光純薬工業社製
アルミナ粉A:CB−P10、アスペクト比=1、昭和電工社製
アルミナ粉B:デンカアルセン、アスペクト比=約10、電気化学工業社製
【0089】
(比較例4)
水分飛散率の測定及び制振性試験において、加熱乾燥条件をオーブンにて150℃、40分としたこと以外は比較例1と同様にして塗膜を作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0090】
【表1】

【0091】
表1に示す結果から、金属粉と充填剤との質量比が3/7を下回る例(比較例1、3)では、水分飛散率が充分に高くならないことがわかった。一方、上記質量比が9/1以上である例(比較例2)では、塗膜状態が悪くなることがわかった。
また、本発明に相当する実施例1〜6では、塗膜状態及び制振性を損なうことなく高い水分飛散率を実現できることがわかった。更に、同種の金属粉であっても、アスペクト比のより大きな金属粉を用いると、より高い乾燥性を実現できることがわかった(実施例2、4)。
また、金属粉を添加しない場合には、実施例1〜6と同程度の水分飛散率及び制振性を実現するために、より高温で長時間乾燥する必要があることがわかった(比較例4)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂、充填剤及び金属粉を必須成分として含有する加熱乾燥用樹脂組成物であって、該金属粉と充填剤との質量比が3/7以上、9/1未満であることを特徴とする加熱乾燥用樹脂組成物。
【請求項2】
前記樹脂は、ガラス転移温度が−20〜40℃であることを特徴とする請求項1に記載の加熱乾燥用樹脂組成物。
【請求項3】
前記樹脂は、重量平均分子量が2万〜40万であることを特徴とする請求項1又は2に記載の加熱乾燥用樹脂組成物。
【請求項4】
前記金属粉は、アスペクト比が3以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の加熱乾燥用樹脂組成物。
【請求項5】
前記加熱乾燥用樹脂組成物は、更に発泡剤及び増粘剤を含み、粘度が5万mPa・s以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の加熱乾燥用樹脂組成物。
【請求項6】
前記加熱乾燥用樹脂組成物は、制振材用であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の加熱乾燥用樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の加熱乾燥用樹脂組成物を110℃以上の温度で加熱乾燥して得られる加熱乾燥塗膜であって、
該塗膜は、膜厚が1.5mm以上であることを特徴とする加熱乾燥塗膜。

【公開番号】特開2012−126774(P2012−126774A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277849(P2010−277849)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】