説明

加熱可能なピペット

【課題】溶液が冷却されることによる結晶の析出を防ぐため、ピペット1のニードル2を加熱する手段を提供する。
【解決手段】内側壁部21と外側壁部22を有する二重壁のニードル2を備え、当該壁部をステンレス鋼のような導電材料で製作し、内側壁部21と外側壁部21の導電接続部を設け、さらに、正極を内側壁部21、負極を外側壁部22と導電接続しているハウジング5と接触させて内側壁部21へ通電し、内側壁部21を抵抗発熱体として機能させることによりニードル2を加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、独立請求項1の前段部分による、加熱可能なピペットに関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
種々の化学、生化学、製薬の用途では、流体の局所的な移し変えが必要である。このような移し変えにおける一般的なやり方は、ピペットによるものであり、流体がニードル(針)を通してピペット内に回収され、このピペットを移動させて、次に流体をピペットから取り出して最終位置に小分けすることができる。多くの場合、移し変える流体を、ある温度範囲に維持しておく必要があり、それは、ピペットのニードルを加熱することで達成できる。
【0003】
例えば、ある化合物を生成する多くのプロセスでは、溶媒に溶かした溶質を有する溶液が必要である。適した量の溶質を溶かすことができるように、溶媒の沸点近くの高い温度で溶液を平衡状態にすることがよくある。冷却による結晶形成または析出を防ぐために、こういった溶液は、加熱可能なピペットを用いて移し変えされ得る。
【0004】
それに応じた加熱可能なピペットの一例として、WO 03/014732A1は、液体の分注または回収を行うためのニードルと、液体を特定の温度に維持するためのヒートシンクとを備えたピペットシステムを開示している。このヒートシンクは、熱をニードルに伝達できるようにするために、ニードルのある区間(section)を包んでいる。ニードルのある区間だけがヒートシンクによって加熱されることから、ヒートシンクまでの距離が大きくなるほど、ニードル内の液体の温度が低下する。特に、ヒートシンクで包まれていない大きな区間を持ったニードルを使うと、こういった温度低下が、結晶形成や析出をある程度もたらす可能性がある。
【0005】
米国特許第6,260,407B1号では、二重壁のニードルを備えたピペットが示されている。2つの壁の間には、ニードルをほぼ全長にわたって加熱することができる温度コントロール素子が配設される。この素子は、例えば、ニードルの2つの壁の間に巻かれた抵抗線、または、適合する流体を収容した管状コイルとして配設できる。通常、このような配設は、小さな寸法では、効率よく実施できない。
【0006】
従って、ニードルをほぼ全長にわたって加熱することができ、小さな寸法でも同様に簡単に作製可能な、ニードル付き加熱可能ピペットに対する要求がある。
【発明の開示】
【0007】
発明の開示
本発明によれば、この要求は、独立請求項1の特徴によって定められる加熱可能なピペットによって解決される。好ましい態様は、従属の請求項の主題である。
【0008】
とりわけ、本発明は、加熱可能なピペットに関し、これは、内側壁部によって定められた内側チャンネルを持ったニードルを備えている。当該アピペットは、内側壁部を抵抗にて加熱するために内側壁部を通して電流を導通させるように設けられており、好ましくは、電流は、内側壁部を通って実質的に長手方向に導通される。ニードルは、外側壁部を持っており、外側チャンネルが、外側壁部と内側壁部との間に定められている。外側チャンネルは、該外側チャンネル内に圧搾空気を供給するための圧搾空気手段に接続可能となっており、かつ、該外側チャンネルは、該外側チャンネルの外へ圧搾空気を供給するための出口開口部を持っている。
【0009】
内側壁部を直接通って電流を導通させることによって、内側壁部が抵抗体として機能する。特に、内側壁部が適切な材料、例えばステンレス鋼でできていれば、内側壁部のオーミック抵抗は無視できない。従って、同じ小さな寸法のニードルが使われたとしても、内側壁部は、該内側壁部の抵抗加熱のための抵抗体として、直接的に用いられ得る。
【0010】
内側壁部の温度は、内側壁部に加えられる電圧とアンペア数とに相互に関係する。従って、電流のプロパティ(特性)を調節することによって、精細な目盛上で容易に調節できる。さらに、該電流がニードルの実質的に長手方向に導通されるので、内側壁部は、そのほぼ全長にわたって加熱され得る。よって、内側チャンネル内の流体は、正確な所定温度に維持され得る。
【0011】
外側チャンネルと外側壁部とは、当該ピペットの種々の用途における種々の目的のために用いることができる。特に、当該ピペットの種々の用途では、圧搾空気の利用が必要とされる可能性もある。例えば、濾過装置で用いられる場合、当該ピペットのニードルは、隔膜を通してフィルターチャンバー内へ配設され得る。該フィルターチャンバーは、例えば、フィルターエレメントを介して収集チャンバーに接続されている。該隔膜は、フィルターチャンバー内でニードルをシールするので、出口開口部を通してフィルターチャンバー内に供給された圧搾空気は、該フィルターチャンバー内の過大圧力をもたらす。この過大圧力が、ニードルによってフィルターチャンバー内に供給された流体を、フィルターエレメントを通過させて収集チャンバー内へと行かせることができる。
【0012】
好ましい態様では、外側壁部と内側壁部との間の導電性接続部が、当該ピペットの末端部(distal end)領域に配設され、該ピペットは、電流を、導電性接続部を介し、内側壁部と外側壁部とを通して導通させるように配設される。該導電性接続部は、例えば、溶接によって実現できる。
【0013】
当該ピペットをこのように設けることで、電流は、当該ピペットの基部側端部(proximal end)領域において内側壁部に供給され、そして、当該ピペットの基部側端部領域において外側壁部から導き出すことができ、これによって、電流回路が確立する。こうして、ニードルの寸法を損なう導電手段を、ピペットの末端部領域に配設する必要がなくなる。
【0014】
好ましくは、第1の電極は、当該ピペットの基部側端部領域に設けられ、内側壁部に接触しており、第2の電極は、当該ピペットの基部側端部領域に設けられ、外側壁部に接触しており、第1の電極は、第2の電極に対して反対側にある。このような接触は、直接的な接触の他、例えば、当該ピペットの他の部材を介した間接的な接触がある。このように、電流は、内側壁部を通って一方の長手の方向へと導通され、そして、外側壁部を通って逆の方向へと導通される。
【0015】
第1の電極を正極、第2の電極を負極としてもよい。このように、電流は、当該ニードルの基部側端部から始まって、内側壁部を通って長手方向にニードルの末端部領域まで導通され、そこから、例えば、導電性接続部を通り、外側壁部を逆方向に通って、再び、当該ピペットの基部側端部領域に配設されている負極まで導通される。
【0016】
好ましくは、内側壁部の厚さは、ニードルに沿って変化する。内側壁部の厚さをニードルの長手方向に合わせて変えることによって、内側壁部のオーミック抵抗は、部分(sector)ずつ適合し、ニードルに沿った温度勾配が最適化できるようになる。こうして、内側チャンネル内にある流体の温度の状態が最適化され、そして、該流体の改善された均一な温度が得られる。
【0017】
出口開口部は、当該ピペットの末端部領域に設けることができ、そして、外側チャンネルは、当該ピペットの基部側端部領域で圧搾空気手段に接続される。流体が供給される場所とほぼ同じ位置で圧搾空気が必要になることがよくある。従って、出口開口部は、内側チャンネルの供給開口部の近傍に設けられることが好ましい。
【0018】
好ましくは、内側壁部の温度を検出するために、温度センサーが設けられる。該温度センサーによって、内側壁部の温度を制御することが可能になり、そして、電流のそれに応じた調節が、温度を安定させるために実施できる。それは、例えば、内側壁部を通って導通する電流を調節するための自動制御手段に接続でき、該制御手段は温度の変化に応答することができる。
【0019】
好ましい態様では、外側壁部は、ピペットの基部側端部領域でハウジングへと変化し、該ハウジングは、圧搾空気手段に接続された圧搾空気接続部を持っており、圧搾空気がハウジングを通って外側チャンネル内に供給可能になっている。温度センサーがハウジング内に設けられており、該センサーを圧搾空気から保護するために、シールが、ハウジング内において、圧搾空気接続部と温度センサーとの間に設けられる。このような配設は、本発明によるピペットを都合よく実現するものである。温度および圧搾空気を供給、調節、制御するための装備の大部分が、ピペットの基部側端部領域に設けられているため、ニードルを、遜色なく(comparably)小さな寸法にできる。
【0020】
本発明による加熱可能なピペットは、代表的な態様により、かつ添付された図面を参照することで以下の通りさらに詳細に説明される。
【0021】
発明を実施するための形態
図の断面では本発明による加熱可能なピペット1を示すが、ここで、重要部分を良好に図示するため、点線9で示したように2つの部分に分割している。
【0022】
当該加熱可能なピペット1は、二重壁となった(double walled)ニードル2を持っており、該ニードルは、内側壁部21によって定められた内側チャンネル23を有し、かつ、外側チャンネル24とを有しており、該外側チャンネルは、該内側壁部21とそれに同心の外側壁部22との間に設けられている。内側壁部21は、外側壁部22と同様に、円形断面(図には現れない)を持っており、内側チャンネル23が円管の形状を持ち、外側チャンネル24が環状管の形状を持つようになっている。内側壁部21は、導電性接続部25によって外側壁部22に接続されており、該導電性接続部は、当該加熱可能なピペット1の末端部11の近傍に配置されている。当該加熱可能なピペット1の末端部11近傍の外側チャンネル24の端部には、出口(outlet)開口部26が外側壁部22に設けられている。
【0023】
当該加熱可能なピペット1の基部側端部領域12には、外側壁部22が、ハウジング5へと変っている。内側チャンネル23は、該ハウジング5を通過し超えて延びている。外側壁部22に近いハウジング5の端部近傍には、圧搾空気接続部6が設けられており、ハウジング5を、例えばポンプ(図示せず)のような圧搾空気手段に接続している。該圧搾空気接続部6に隣接して、環状シール8が、ハウジング5の内部に、そして内側チャンネル23の周りに配設されている。該シール8の上には、温度センサー7が、内側壁部21と接触した状態にてハウジング5内に設けられている。ハウジング5よりも上にある内側チャンネル23には、正極(positive pole)3が、内側壁部21と接触した状態にて設けられ、そして、ハウジング5には、負極(negative pole)4が、該ハウジング5を介して外側壁部22と接触した状態にて設けられている。
【0024】
使用においては、正極3が、内側壁部21に電流を供給する。電流は、内側壁部21を通り、導電性接続部25を通り、外側壁部22を通り、ハウジング5を通り、負極4まで縦方向に導通される。内側壁部21、導電性接続部25、外側壁部22、ハウジング5は、正極3と負極4とで生成された回路において抵抗体であり、とりわけ、内側壁部21の抵抗が、内側壁部21の加熱に用いられる。内側壁部21の発生した熱は、その後、流体(内側チャンネル23を通して供給・回収される)へと伝達される。このようにして、流体の温度は、所定範囲内に維持され、それによって、例えば、流体の冷却による析出、結晶形成などが防止される。内側壁部21は、ステンレス鋼から作られており、それによって、側壁部21が同様の薄さでありながら、該内側壁部21の抵抗は、流体を正確な温度へと加熱するのに充分になっている。
【0025】
当業者によって理解されるように、上で説明したような電流回路は、正確に制御されかつ調節され得る。よって、内側壁部21の温度も正確に調節可能であり、それによって、流体の温度は、所定の狭い範囲内に維持できるようになる。流体を過剰加熱すること、そして、それによって例えば流体を沸騰させることは、また、ピペット1の適用に悪影響をもたらし得るため、このような正確な調節が、流体を、過剰加熱することのない、最大限可能な温度に維持することを可能にする。
【0026】
内側壁部21の温度は、温度センサー7によって測定される。この測定値を用いて、上で説明したような電流の制御および調節ができる。測定した温度を評価し、それによって電流を調節するために、当業者に知られている自動制御ユニットを温度センサー7と正極3に接続してよい。このようにして、流体の特性(properties)に依って予め定めた温度が、使用者によって制御ユニットに設定でき、自動的に制御および調節される。
【0027】
圧搾空気接続部6を通して、圧搾空気を供給することができ、これは、ハウジング5および外側チャンネル24を通って出口開口部26から出る。当該加熱可能なピペット1の末端部11の近傍でのそのような圧搾空気の供給は、当該加熱可能なピペット1の種々の適用で利用可能である。例えば、懸濁液を濾過するためのマルチウェル濾過装置で使われる場合、該濾過装置は、濾過チャンバーと、収集ウェルとを有しており、これらはフィルターエレメントによって互いに分離されており、濾過チャンバー内に過圧力(overpressure)を作り出すように圧搾空気が用いられ、それによって、懸濁液を、フィルターエレメントを通して収集ウェルへと行かせるものである。この目的のために、過圧力が加えられる場合に、濾過チャンバー内がシールされるように、当該加熱可能なピペット1を配設しなければならない。これは、例えば、濾過チャンバーを覆う隔膜によって実現でき、該隔膜は、当該加熱可能なピペット1のニードル2によって貫通される。さらに、こういったマルチウェル濾過装置で用いるために、当該加熱可能なピペット1は、収集ウェルと、該マルチウェル濾過装置の外部とに接続される、圧力の均等化のための長手方向の溝をさらに有することが可能である。このような溝によって、濾過チャンバー内の過圧力の供給を損ねることなしに、隔膜を通して圧力の均等化を得ることが可能になる。
【0028】
温度センサー7を、過大圧力の空気またはガスから守るために、シール8が、圧搾空気接続部6と温度センサー7との間でハウジング5を密閉する。
【0029】
本発明による加熱可能なピペットの他の代替的な態様も考えられる。これに関して、明確に述べるのは、次のとおりである。
・ピペットは、単一の壁部とされたニードルにて構成することもでき、電流回路は、外側壁部経由でなく、他の道筋で導通されてよい。
可能な限り流体内の均一な温度を得るために、内側壁部の抵抗は、内側チャネルに沿って内側壁部の厚さを変化させることによって、変えられてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図は、本発明による加熱可能なピペットの断面を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱可能なピペット(1)であって、内側壁部(21)によって定められた内側チャンネル(23)を持ったニードル(2)を備え、
当該ピペット(1)は、内側壁部(21)を抵抗にて加熱するために内側壁部(21)を通して電流を導通させるように設けられており、ニードル(2)は外側壁部(22)を持ち、かつ、外側チャンネル(24)が、外側壁部(22)と内側壁部(21)との間に定められており、
その特徴は、
外側チャンネル(24)が、該外側チャンネル(24)内に圧搾空気を供給するための圧搾空気手段に接続可能であり、かつ、
該外側チャンネル(24)が、該外側チャンネル(24)の外へ圧搾空気を供給するための出口開口部(26)を持っていることである、
前記加熱可能なピペット。
【請求項2】
外側壁部(22)と内側壁部(21)との間において、導電性接続部(25)が、ピペット(1)の末端部領域に設けられており、かつ、ピペット(1)は、電流を、該導電性接続部(25)を介し内側壁部(21)と外側壁部(22)とを通して導通させるように設けられている、請求項1に記載の加熱可能なピペット(1)。
【請求項3】
第1の電極(3)が、当該ピペット(1)の基部側端部領域(12)に設けられ、内側壁部(21)に接触しており、かつ、
第2の電極(4)が、当該ピペット(1)の基部側端部領域(12)に配設され、外側壁部(22)に接触しており、
第1の電極(3)が、第2の電極(4)に対して反対側にある、請求項1または2に記載の加熱可能なピペット(1)。
【請求項4】
第1の電極(3)が正極であり、第2の電極(4)が負極である、請求項3に記載の加熱可能なピペット(1)。
【請求項5】
内側壁部(21)の厚さが、ニードル(2)に沿って変化している、請求項1から4までのうちのいずれか1つに記載の加熱可能なピペット(1)。
【請求項6】
出口開口部(26)が、当該ピペット(1)の末端部領域に配設されており、かつ、
外側チャンネル(24)が、当該ピペット(1)の基部側端部領域(12)において、圧搾空気手段に接続されている、請求項1から7までのうちのいずれか1つに記載の加熱可能なピペット。
【請求項7】
内側壁部(21)の温度を検出するための温度センサー(7)が設けられている、請求項1から6までのうちのいずれか1つに記載の加熱可能なピペット(1)。
【請求項8】
外側壁部(22)が、当該ピペット(1)の基部側端部領域(12)でハウジング(5)へと変っており、該ハウジング(5)は、圧搾空気手段に接続された圧搾空気接続部(6)を持っており、それによって、圧搾空気が、ハウジング(5)を通して、外側チャンネル(24)内に供給可能なようになっており、温度センサー(7)がハウジング(5)内に設けられ、かつ、シール(8)が、ハウジング(5)内に、圧搾空気接続部(6)と温度センサー(7)との間に設けられている、請求項6および7に記載の加熱可能なピペット(1)。

【図1】
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【公開番号】特開2007−326098(P2007−326098A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−129278(P2007−129278)
【出願日】平成19年5月15日(2007.5.15)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】