説明

加飾木材

【課題】
木質基材に意匠を印刷してなる加飾木材であって、天然木材の照りを高度に維持し、しかも、耐久性に優れた加飾木材を提供する。
【解決手段】
木質基材の一面全面に、意匠性を有する印刷層を配してなる加飾木材であって、印刷層が紫外線硬化型インクの硬化物からなり、かつ、印刷層の可視光領域における透過率が7%以上であることを特徴とする加飾木材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は加飾木材に関する。詳しくは、木質基材に、紫外線硬化型インクにより意匠を印刷してなる加飾木材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、天然木材のなかでも比較的安価で入手が容易な木材の表面に、木目などの模様を印刷したプラスチックフィルムを貼り合わせることにより装飾を施してなる加飾木材が知られている。このような加飾木材は、車両用内装材、建築用内装材、家具などの部材として広く用いられている。しかしながら、木材本来の質感を十分に活かすことができず、高級感に欠けるという問題があった。
【0003】
そこで、木材に直接印刷することにより装飾を施してなる、新しい加飾木材が検討されるようになった。特に、近年、印刷分野ではインクジェット印刷技術が目覚ましい進歩を遂げたのに伴い、木材に対してもインクジェット印刷技術を用いて加飾することが試みられている。しかしながら、紙面への印刷とは異なり、木材表面への印刷は容易でないのが現状である。
【0004】
セルロースを主成分とする木材は、親水性であるとともに、木材組織(導管、仮導管など)に起因する微細な空隙が多く存在するため、吸水性が高い。一方、インクジェット印刷に用いられるインクは、通常、水系である。そのため、木材表面に直接インクを吐出すると、インクが木材内部にまで浸透してしまい、木材表面に定着させることができないという問題があった。また、インクが木材表面にとどまったとしても、インクの浸透性は、木材組織のインク親和性や、空隙の大きさなどによって異なるため、着弾したインクは浸透性の高い箇所へと移動し、所定の箇所に定着させることができず、その結果、色斑や色滲みなどの欠点が発生するという問題があった。
【0005】
このような問題に対し、木材表面に、インクを受け止め保持するためのインク受容層を設けることが考えられる。例えば、特許文献1には、木材などのような吸水性の高い媒体の印刷面に、エマルジョンタイプの接着剤を塗布することによりインク受容層を形成し、このインク受容層の表面にインクジェットプリンタを用いて水系インクにより印刷を行う印刷方法が記載されている。また、特許文献2には、木材表面の立体的美観を維持することを目的に、インク受容層の形成に際し、木材表面に露出する導管の内部を、インク受容層の材料により適度に充填し、凹部がなお残るように制御すること、具体的には、インク受容層に残る凹部の深さが10〜300μmとなるようにインク受容層を形成することが記載されている。これらによれば、吸水性の高い木材に対して、定着性のある模様を印刷することができる。
【0006】
しかしながら、インク受容層を形成することは、工程負荷が大きく、コストが高くなるという問題があった。また、インク受容層の形成に際し、導管に起因する凹部の深さを制御することは困難であった。さらに、水系インク、特に、着色剤として顔料を含む水系インクは光の透過性が低いため、これを用いて木材表面に印刷すると、「照り」と呼ばれる天然木材に特有の光沢が損なわれるという問題があった。すなわち、木材の美観(見た目の美しさ、美的価値)は、木目の美しさだけでなく、角度によって見え隠れする光沢の美しさにある。照りは、木材表面からの反射光に基づいて生じるもので、木材表面における繊維質の配向性の分布が、照りとして観察されるものである。しかしながら、光透過性の低い水系インクを用いることにより、照りが損なわれてしまうのである。
【0007】
最近では、インクジェット印刷用のインクとして、紫外線硬化型インクが注目を浴びている。紫外線を照射することにより直ちに硬化するもので、これを用いることにより、木材のようにインク浸透性の高い材料や、フィルム、セラミック、金属のようにインク浸透性の無い材料など様々な材料に対し、インク受容層を形成することなく、直接、吐出することが可能となる。しかも、紫外線硬化型インクの硬化物は、結晶化度が高く、透明性に優れている。
【0008】
木材への適用例として、例えば、特許文献3には、基材にゴムノキ、ポプラなどの早生樹を用いた住宅および家具用材であって、紫外線硬化型インクを、インクジェットプリンタを用いて基材表面の一部に吐出することにより木目模様を印刷してなる住宅および家具用材が記載されている。これは、木目模様が不鮮明な早生樹の有効利用を図るもので、木材本来の質感を活かすため、木材表面の一部にのみインクを吐出して木目模様を印刷し、それ以外の部分では木材の地模様を露出させている。そのため、照りは認められるものの、全体としての一体感に欠け、不自然さを払拭できないものであった。また、木材が露出する部分では、光や熱、湿気などの自然的要因や、摩擦などの物理的要因による劣化が激しく、割れや変色などが生じ易い。そのため、例えば、車両用内装材のように過酷な環境に曝される用途への適用は困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−190462号公報
【特許文献2】特開2008−93910号公報
【特許文献3】特開2006−347149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、木質基材に意匠を印刷してなる加飾木材であって、天然木材の照りを高度に維持し、しかも、耐久性に優れた加飾木材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、木質基材の一面全面に、意匠性を有する印刷層を配してなる加飾木材であって、印刷層が紫外線硬化型インクの硬化物からなり、かつ、印刷層の可視光領域における透過率が7%以上であることを特徴とする加飾木材である。
【0012】
前記加飾木材において、印刷層は、インクジェット印刷により付与形成されたものであることが好ましい。
また、前記加飾木材は、印刷層の表面に、塗装層を配してなるものであることが好ましい。このとき、塗装層と印刷層とを合わせた層の可視光領域における透過率は、7%以上であることが求められる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、天然木材の照りを高度に維持し、しかも、耐久性に優れた加飾木材を提供することができる。
すなわち、印刷層の可視光領域における透過率が7%以上であることにより、木質基材が有する天然木材の照りを、印刷層を透して視認することができ、木材本来の美観を備えた加飾木材となる。また、印刷層を、木質基材の一面全面に配することにより、加飾木材に高度な耐久性を付与することができる。
本発明の加飾木材は、車両用内装材、建築用内装材、家具などの部材として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
本発明の加飾木材は、木質基材の一面全面に、意匠性を有する印刷層を配してなる加飾木材であって、印刷層が紫外線硬化型インクの硬化物からなり、かつ、印刷層の可視光領域における透過率が7%以上であることを特徴とする。
【0015】
本発明において用いられる木質基材の形状としては、印刷に適した形状、すなわち、少なくとも1つの平坦面を有する形状であれば特に限定されないが、好ましくは、木材をスライスして板状あるいはシート状に加工したものである。なかでも、成形性に優れるという点からシート状(連続シート状または枚葉シート状)のものがより好ましく、連続加工性に優れるという点から連続シート状のものが特に好ましい。シート状木質基材として、典型的には、突板を挙げることができる。なお、印刷面(印刷層を配する面)は大凡平坦であればよく、木材組織に起因する微細な空隙(凹部)が存在していてもよいのは当然である。
【0016】
シート状木質基材の厚さは、50〜600μmであることが好ましく、100〜500μmであることがより好ましい。厚さが50μm未満であると、シート状木質基材の強度が低下し、取扱いが困難になる虞がある。厚さが600μmを超えると、成形性が悪くなる虞がある。
【0017】
木質基材、特にシート状木質基材は、その破損防止を目的に、基材の非印刷面に、織編物や、不織布、紙などの繊維質材料を貼り合わせて裏打ちしたものであってもよい。さらに、木質基材として、合板や集成材を用いることもできる。
【0018】
木質基材の樹種としては、特に限定されず、目的に応じて適宜選択すればよい。例えば、松、杉、桧、楢、欅、桜、楡、黒柿、栃、桂、楓、槐、楠、キハダ、シオジ、タブオキ、アカダモ、タモ、セン、ミズナラなどの国産材、チーク、ローズウッド、マホガニー、バーズアイメープル、ブラックウォールナット、ゼブラウッド、コクタン(黒檀)、アボデイラ、シタン(紫檀)、マンガシノロ、サテンウッド、ブラジリアンローズ、アンデスローズ、ブラジリアンコア、アフリカンローズ、ユーラシアンチーク、ホワイトタガヤ、バンゼルローズ、アマゾンローズ、タマクラ、パイン、シャム柿、ブビンガ、オリーブウォールナット、アイリスローズ、クラロウォールナット、シルバーハート、ラテンウォールナット、カリン(花梨)、レッドウッド、パープルウッド、アメリカンチェリー、シルキーオーク、タイワンクス、黒レオ(ダオ)、白レオ、サペリ、マコレ、マドローナ、ミルトル、メープル、アガチスなどの輸入材を挙げることができる。木質基材は、寸法変化や割れ止め、変色防止などを目的として薬品処理されていてもよく、さらに染料や顔料により着色処理されていてもよい。
【0019】
本発明の加飾木材は、前記木質基材の1つの平坦面の全面に、意匠性を有する印刷層を配してなるものである。
【0020】
本発明において印刷層とは、意匠性(装飾性)を付与することを目的に、印刷により付与形成される層をいう。意匠としては、模様を描くのが一般的であるが、これに限定されるものでなく、単なる着色であってもよく、要するに、何らかの意匠性を有していればよい。模様についても特に限定されるものでなく、例えば、より高級な本杢調の外観を付与したいのであれば木目模様を、木工細工調の外観を付与したいのであれば木目込み模様を、新規な外観を付与したいのであれば石目模様、布目模様、皮絞模様、花柄模様、水玉模様、幾何学模様、キャラクターなどを、目的に応じて適宜選択すればよい。
【0021】
また、印刷方法についても特に限定されるものでなく、例えば、凸版印刷、平板印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、またはインクジェット印刷などを挙げることができる。なかでも、従来の印刷方法では難しかった繊細で多彩な表現および小ロット印刷が可能であるという点で、インクジェット印刷が好ましい。
【0022】
印刷層は、紫外線硬化型インクの硬化物からなる。紫外線硬化型インクは、紫外線を照射することにより直ちに硬化するもので、かかる硬化物は、結晶化度が高く、化学的および物理的に安定しており、光や熱、湿気、摩擦などに対する耐久性に優れている。そのため、紫外線硬化型インクの硬化物からなる印刷層を、木質基材の一面全面に配することにより、加飾木材に高度な耐久性を付与することができるのである。ここで、木質基材の一面全面に印刷層を配するとは、木質基材の印刷面において、木質基材が露出することのないように、全面を印刷層で被覆することをいう。例えば、模様を描く場合において、背景に木質基材そのものの色を活かす場合には、その部分に無色のインクを付与し、無色の印刷層を形成する。
【0023】
印刷層の可視光領域における透過率は、7%以上であることが求められ、さらには、15%以上であることが好ましい。可視光領域とは、人間の目が感じることのできる約400〜700nmの波長領域をいい、本発明においては、その全域にわたって、7%以上の透過率を有することが求められる。透過率が7%未満であると、木質基材が有する天然木材の照りを隠蔽してしまい、木材本来の美観が損なわれる。透過率は、後述の実施例に記載の方法により求めることができる。
【0024】
透過率は、7%以上である限り、部分的に異なっていてもよい。例えば、模様部分と背景部分とで透過率が異なっていてもよい。
さらに、デザイン上、木材本来の美観を損なわない範囲内で、透過率が7%未満の部分が存在していてもよい。
【0025】
印刷層の厚さは、10〜50μmであることが好ましく、20〜40μmであることがより好ましい。厚さが10μm未満であると、均一な層を形成することが困難となり、十分な意匠性を付与することができない虞がある。厚さが50μmを超えても、さらなる意匠性の向上は認められず、原料増によりコストが高くなったり、インクジェット印刷の場合には、吐出点が増えることにより工程負荷が大きくなったりする虞がある。
【0026】
本発明において用いられる紫外線硬化型インクは、基本的に、反応性オリゴマー、反応性モノマーおよび光重合開始剤(以上を紫外線硬化型樹脂という)と、着色剤とから構成される。ここで、オリゴマーとは、モノマーが2〜数十程度結合した重合体をいう。オリゴマーを用いるのは、モノマー単独では、得られる硬化物の硬度や接着性が劣り、十分な耐久性を得ることができないからである。また、反応性とは、分子中に反応性の官能基を有することをいう。反応性の官能基として、一般には、アクリル官能基、エポキシ官能基などを挙げることができるが、本発明においては、汎用性が高く、多種多様の硬化樹脂を得ることができるという点から、専らアクリル官能基であるものとする。紫外線が照射されることにより、光重合開始剤がラジカルになり、これが反応性オリゴマーおよび反応性モノマーの官能基を活性化して、次々に鎖状に結合してポリマー(アクリル樹脂)へと転換する。
【0027】
反応性オリゴマーとしては、例えば、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、シリコンアクリレート、ポリブタジエンアクリレートなどを挙げることができ、これらは1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、接着性、強靱性、耐薬品性、低温特性が優れるという理由から、ウレタンアクリレートが好ましい。
【0028】
反応性モノマーは、粘度調整のための希釈剤として用いられる。反応性モノマーとしては、例えば、6官能のジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、5官能のジペンタエリスリトールヒドロキシペンタアクリレート、4官能のペンタジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、3官能のトリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレート、グリセリルトリアクリレート、2官能のヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリテトラメチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパンアクリル酸安息香酸エステル、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコール(200)ジアクリレート、ポリエチレングリコール(400)ジアクリレート、ポリエチレングリコール(600)ジアクリレート、ポリエチレングリコール(1000)ジアクリレート、ポリプロピレングリコール(400)ジアクリレート、ポリプロピレングリコール(700)ジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物ジアクリレート、単官能のカプロラクトンアクリレート、トリデシルアクリレート、イソデシルアクリレート、イソオクチルアクリレート、イソミリスチルアクリレート、イソステアリルアクリレート、2−エチルヘキシルジグリコールジアクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、2−アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、ネオペンチルグリコールアクリル酸安息香酸エステル、イソアミルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、エトキシジエチレングリコールアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、メトキシジプロピレングリコールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、ノニルフェノールエチレンオキサイド付加物アクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、イソボニルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、2−アクリロイロキシエチルコハク酸、2−アクリロイロキシエチルフタル酸、2−アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタル酸などを挙げることができる。さらに、これらに、リン、フッ素、エトキシ基、またはプロポキシ基などの官能基を付与したものや、エチレンオキサイドやプロピレンオキサイドなどで変性させたものであることができる。これらは1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0029】
光重合開始剤としては、例えば、2,2−ジメチル−2−ヒドロキシアセトフェノン、1−ヒドロキシ−1−シクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン等のアセトフェノン系、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)ブタン−1−オン、1−メチル−1−{4−(メチルチオ)フェニル}−2−モルホリノプロパン−1−オン、2−メチル−1−{4−(メチルチオ)フェニル}−2−モルホリノプロパン−1−オン、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン、イソプロリルチオキサントン(2−および4−異性体の混合物)等のチオキサントン系、2,4,6−トリメチルベンジルジフェニルホスフィンオキシド、ベンゾフェノン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド等のベンゾフェノン系、カンファーキノン等のキノン系、ベンゾイン系、ケタール系などを挙げることができ、これらは1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。この他、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキシドと1−フェニル−2,2−ジヒドロキシ−2−メチルプロパノンとの混合物、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキシドと1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンとの混合物などを挙げることができる。
光重合開始剤としては、反応性オリゴマーおよび反応性モノマーとの相溶性がよく、低臭気であり、自然光で反応しないものを適宜選択すればよい。
光重合開始剤の開始反応を促進させるためには、添加剤として増感剤を用いるとよい。
【0030】
着色剤としては、顔料および染料のいずれも使用可能である。耐候性や耐光性が求められる場合には、顔料を用いることが好ましく、鮮明性が求められる場合には、染料を用いることが好ましい。
【0031】
顔料は有機、無機を問わず任意のものが選択される。
有機顔料としては、例えば、ニトロソ類、染付レーキ類、アゾレーキ類、不溶性アゾ類、モノアゾ類、ジスアゾ類、縮合アゾ類、ベンゾイミダゾロン類、フタロシアニン類、アントラキノン類、ペリレン類、キナクリドン類、ジオキサジン類、イソインドリン類、アゾメチン類、ピロロピロール類などを挙げることができる。
無機顔料としては、例えば、酸化物類、水酸化物類、硫化物類、フェロシアン化物類、クロム酸塩類、炭酸塩類、ケイ酸塩類、リン酸塩類、炭素類(カーボンブラック)、金属粉類などを挙げることができる。
【0032】
また、染料としては、例えば、アゾ類、アントラキノン類、インジゴイド類、フタロシアニン類、カルボニウム類、キノンイミン類、メチン類、キサンテン類、ニトロ類、ニトロソ類などを発色団または色原体とする、油溶性染料、分散染料、酸性染料、反応性染料、カチオン染料、直接染料などを挙げることができる。
【0033】
なお、木質基材そのものの色を活かす場合に用いられる無色のインクは、着色剤を含まない構成とする。
【0034】
紫外線硬化型インクは、この他、必要に応じて、分散剤、熱安定剤、酸化防止剤、防腐剤、消泡剤、浸透剤、増感剤などの添加剤を含んでいてもよい。
【0035】
紫外線硬化型インクは、前記成分を適宜混合し、分散させた後、濾過することにより調製することができる。混合は、いかなる順序で行ってもよいが、速やかに行うことが好ましい。また、分散には、ロールミル、ボールミル、コロイドミル、ジェットミル、ビーズミルなどの分散機を用いることができる。
【0036】
本発明の加飾木材を製造するには、木質基材の一面全面に、紫外線硬化型インクを、例えば、模様を描くように印刷により付与した後、直ちに、紫外線を照射して紫外線硬化型インクを硬化させることにより達成される。前記の通り、印刷方法は特に限定されないが、インクジェット印刷が好ましい。
【0037】
インクジェット印刷の場合、紫外線硬化型インクの液滴の重量は、60〜140pgであることが好ましく、90〜120pgであることがより好ましい。液滴の重量が60pg未満であると、吐出されるインク液滴が飛び散って、意匠性に影響する虞がある。液滴の重量が140pgを超えると、同じく、吐出されるインク液滴が飛び散って、意匠性に影響する虞がある。
【0038】
インクジェット印刷の場合、紫外線硬化型インクの常温(25℃)における粘度は、100mPa・s以下であることが好ましい。常温(25℃)における粘度が100mPa・sを超えると、プリンタヘッド部への供給系(チューブ、配管などのインク流路)において、流動性を保持できない虞がある。さらに、インクジェットの吐出性を考慮すると、60±1℃における粘度が1〜15mPa・sであることが好ましい。
【0039】
インクジェット印刷の場合、紫外線硬化型インクの60±1℃における表面張力は、20〜40dyne/cmであることが好ましく、25〜35dyne/cmであることがより好ましい。60±1℃における表面張力が20dyne/cm未満であると、濡れ性が大きく滲み易くなるとともに、プリンタヘッド部へのインクの供給が困難になる虞がある。吐出時の表面張力が40dyne/cmを超えると、濡れ性が小さく弾かれ易く、模様が筋状になるなど、意匠性が損なわれる虞がある。吐出時の表面張力を前記範囲に設定することにより、様々な木質基材に対応することが可能となる。
【0040】
紫外線硬化型インクの付与量は、20〜100g/mであることが好ましく、40〜80g/mであることが好ましい。付与量をこの範囲に設定することにより、好ましくは10〜50μm、より好ましくは20〜40μmの厚さを有する印刷層となる。
【0041】
紫外線照射の条件として、紫外線ランプの照射出力は、50〜280W/cmであることが好ましく、80〜200w/cmであることがより好ましい。また、照射時間は、0.1〜20秒間であることが好ましく、0.1〜5秒間であることがより好ましい。照射出力や時間が下限未満であると、硬化反応が十分に進まず、印刷層の強度が低下したり、未反応のオリゴマーやモノマーにより皮膚障害を引き起こしたりする虞がある。照射出力や時間が上限を超えると、印刷層にヒビ割れやシワが生じる虞がある。
【0042】
本発明の加飾木材は、木質基材と、その一面全面に配された印刷層とを必須の構成とするものであるが、必要に応じてさらにその表面に、塗装層が配されたものであってもよい。塗装層とは、艶感を付与したり、色や模様を重ねたりすることによる、意匠性のさらなる向上を目的に、塗装により付与形成される樹脂層をいう。これにより、耐久性をさらに向上させることもできる。
【0043】
塗装層は、無色であってもよいし、着色されていてもよい。このとき、木質基材が有する天然木材の照りを隠蔽することのないように、塗装層と印刷層とを合わせた層の可視光領域における透過率は、7%以上であることが求められ、さらには、15%以上であることが好ましい。透過率は、後述の実施例に記載の方法により求めることができる。
【0044】
塗装層の厚さは、10〜30μmであることが好ましく、15〜25μmであることがより好ましい。厚さが10μm未満であると、均一な層を形成することができない虞がある。厚さが30μmを超えると、塗装斑、ユズ肌、ピンホール、亀裂が生じ易くなり、外観が損なわれる虞がある。
【0045】
塗装層は、印刷層の全面に樹脂を含む塗料を塗装し、乾燥、固化させることにより形成される。樹脂としては、例えば、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、アミノアルキド樹脂などを挙げることができ、これらは1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、加工が容易であるという理由から、ポリウレタン樹脂が好ましい。
塗装層の形成に用いられる塗料は、かかる樹脂を有機溶剤に溶解したものであり、加工に適した動粘性を備えたものである。
塗料は、必要に応じて、着色剤、増粘剤、沈降防止剤、消泡剤、帯電防止剤、酸化防止剤、硬化触媒、防眩剤、レベリング剤、平滑剤、紫外線吸収剤、架橋剤などの添加剤を含んでいてもよい。
【0046】
塗装方法は特に限定されるものでなく、例えばスプレーガン、スプレーコーター、カーテンコーター、フローコーターなどを用いる方法を挙げることができる。
【0047】
付与量は、10〜50g/mであることが好ましく、15〜40g/mであることがより好ましい。付与量が10g/m未満であると、均一な層を形成することができない虞がある。付与量が50g/mを超えると、塗装斑、ユズ肌、ピンホール、亀裂が生じ易くなり、外観が損なわれる虞がある。
【0048】
乾燥固化条件は、塗料中の有機溶剤を蒸発させ、均一な層形成が可能である限り特に限定されるものでなく、例えば、50〜100℃、5〜30分間の範囲で適宜設定することができる。
【0049】
かくして、本発明の加飾木材を得ることができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、透過率の測定、および、加飾木材の評価(照り、耐摩耗性)は、以下の方法に従った。
【0051】
[透過率]
離型紙の表面に、各実施例および比較例と同様の条件にて、印刷層(単独層)、塗装層(単独層)、および、印刷層と塗装層との積層体をそれぞれ形成した。離型紙を剥がして得られた試験片について、自記分光光度計(型番「UV−3100PC」、株式会社島津製作所製)を用いて、スキャン速度が高速、スリット幅が2.0nm、サンプリングピッチがAutoの条件で、350〜800nmの波長領域における透過率を測定し、そのうち400〜700nmの波長領域における透過率について平均値を求めた。
【0052】
[照り]
加飾木材を目視にて観察し、以下の基準に従って判定した。
○:木質基材の照りが明瞭に認められる
△:木質基材の照りが僅かに認められる
×:木質基材の照りが認められない
【0053】
[耐摩耗性(摩擦に対する耐久性)]
幅70mm、長さ300mmの大きさの試験片を採取し、裏面に幅70mm、長さ300mm、厚さ10mmの大きさのウレタンフォームを両面テープで固定して、平面摩耗試験機T−TYPE(株式会社大栄科学精機製作所製)に固定した。ガーゼをかぶせた平面摩擦子に荷重2500g/cmを掛けて試験片を摩耗した。平面摩擦子は試験片の表面上140mmの間を60往復/分の速さで3000回往復摩耗した。摩耗後の試験片を目視にて観察し、以下の基準に従って判定した。
○:塗装層および印刷層の破損、もしくは欠損が発生しない
×:塗装層および印刷層の破損、もしくは欠損が発生した
【0054】
[実施例1〜3および比較例1]
接着剤(フェノール系樹脂)を介してトリコット編地を裏打ちした厚さ300μmのアガチス突板の一面全面に対して、処方1に示す組成の紫外線硬化型インク(イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック、クリアー(無色)の5色)を、木目模様を描くようにシリアル型インクジェットプリンタを用いて付与した後、直ちに紫外線を照射して紫外線硬化型インクを硬化させる、という操作を繰り返して、厚さ40μmの印刷層を形成した。印刷条件および紫外線照射条件は以下の通りである。
ここで、実施例1〜3および比較例1は、各色インクの付与量(打点数)を調整することによって着色の程度(可視光領域における透過率)を異ならせたもので、インクの総付与量(総打点数)は同じである。
【0055】
<処方1>
1)各色の顔料
2)商品名「フローレンDOPA−33」;1重量部
(分散剤、変性アクリル系共重合物、共栄社化学株式会社製)
3)商品名「CN983」;20重量部
(反応性オリゴマー、ウレタンアクリレート、サートマージャパン株式会社製)
4)商品名「SR238F」;72重量部
(反応性モノマー、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、サートマージャパン株式会社製)
5)商品名「イルガキュア184」;5重量部
(光重合開始剤、1−ヒドロキシ−1−シクロヘキシルフェニルケトン、チバスペシャルティケミカルズ株式会社製)
【0056】
ここで、イエローインクの顔料としては、商品名「PV FAST YELLOW H2G」(C.I.ピグメントイエロー120、ベンゾイミダゾロン、クラリアントジャパン株式会社製)を2重量部用い、マゼンタインクの顔料としては、商品名「INKJET RED E5BO02」(C.I.ピグメントバイオレット19、キナクリドン、クラリアントジャパン株式会社製)を2重量部用い、シアンインクの顔料としては、商品名「HOSTERPERM BLUE P−BFS」(C.I.ピグメントブルー15:4、銅フタロシアニン、クラリアントジャパン株式会社製)を2重量部用い、ブラックインクの顔料としては、商品名「NIPex35」(カーボンブラック、デグサジャパン株式会社製)を2重量部用いた。また、クリアーインクには顔料を添加しなかった。
【0057】
インクの調製は、前記材料をミキサーにて混合した後、ビーズミル分散機にて分散させ、次いで、濾過して不溶物を除去することにより行った。
得られたインクの常温(25℃)における粘度はいずれも60mPa・sであり、60℃における粘度はいずれも8mPa・sであり、60℃における表面張力はいずれも30dyne/cmであった。
【0058】
<印刷条件>
ヘッド加熱温度:60℃
ノズル径:70μm
印加電圧:50V
パルス幅:20μs
駆動周波数:3kHz
解像度:360dpi
繰り返し印刷回数:4回
インク1液滴の重量:110pg
インク総付与量:40g/m
【0059】
<紫外線照射条件>
ランプ種類:メタルハライドランプ
電圧:120W/cm
照射時間:1秒
照射回数:20回
照射距離:10mm
【0060】
次いで、印刷層の表面全面に対して、処方2に示す組成の塗料(固形分19重量%)を、スプレーガン(商品名「スプレーガンW−101」、アネスト岩田株式会社製)を用いてウェット付与量が50g/mとなるように付与した後、70℃で30分間熱風乾燥して、厚さ30μmの塗装層を形成した。
【0061】
<処方2>
1)商品名「アクリディック WXU−880」;200重量部
(アクリル樹脂、DIC株式会社製)
2)メチルイソブチルケトン;130重量部
3)キシレン;75重量部
4)酢酸ブチル;70重量部
5)トルエン;70重量部
6)商品名「バーノックDN−980」;5重量部
(架橋剤、ポリイソシアネートプレポリマー、DIC株式会社製)
【0062】
塗料の調製は、前記材料のうち1〜5をミキサーにて全体が均一になるまで混合した後、材料6を加えてさらに混合し、次いで、濾過して不純物を除去することにより行った。
【0063】
かくして、実施例1〜3および比較例1の加飾木材を得た。
これらについて、照り、および、耐摩耗性を評価した結果を表1に示す。あわせて、印刷層、塗装層、および、印刷層と塗装層との積層体について、別途求めた可視光領域における透過率を表1に示す。
【0064】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質基材の一面全面に、意匠性を有する印刷層を配してなる加飾木材であって、印刷層が紫外線硬化型インクの硬化物からなり、かつ、印刷層の可視光領域における透過率が7%以上であることを特徴とする加飾木材。
【請求項2】
印刷層が、インクジェット印刷により付与形成されたものであることを特徴とする、請求項1に記載の加飾木材。
【請求項3】
印刷層の表面に、塗装層を配してなるものであり、かつ、塗装層と印刷層とを合わせた層の可視光領域における透過率が7%以上であることを特徴とする、請求項1または2に記載の加飾木材。

【公開番号】特開2012−111069(P2012−111069A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260054(P2010−260054)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】