効率的な人工多能性幹細胞の樹立方法
GLISファミリーのメンバー(例:GLIS1)およびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質と、Klfファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質とを体細胞に接触させる工程を含む、iPS細胞の樹立効率改善方法、該方法により得られうる、GLISファミリーのメンバーまたはKlfファミリーのメンバーをコードする外来性核酸を含むiPS細胞、および該iPS細胞を分化誘導することによる体細胞の製造方法が提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工多能性幹細胞(以下、iPS細胞という)の樹立効率の改善方法およびそのための薬剤に関する。より詳細には、本発明は、GLISファミリーのメンバーおよびKlfファミリーのメンバーを用いたiPS細胞の樹立効率改善方法、およびそのための薬剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
近年、マウスおよびヒトのiPS細胞が相次いで樹立された。Takahashi及びYamanakaは、Fbx15遺伝子座にネオマイシン耐性遺伝子をノックインしたレポーターマウス由来の線維芽細胞に、Oct3/4, Sox2, Klf4及びc-Myc遺伝子を導入し強制発現させることによって、iPS細胞を誘導した(Takahashi, K. and Yamanaka, S., Cell, 126: 663-676 (2006))。Okitaらは、Fbx15よりも多能性細胞に発現が限局しているNanogの遺伝子座に緑色蛍光タンパク質(GFP)及びピューロマイシン耐性遺伝子を組み込んだトランスジェニックマウスを作製し、該マウス由来の線維芽細胞で上記4遺伝子を強制発現させ、ピューロマイシン耐性かつGFP陽性の細胞を選別することにより、遺伝子発現やエピジェネティック修飾が胚性幹(ES)細胞とほぼ同等のiPS細胞(Nanog iPS細胞)を樹立することに成功した(Okita, K. et al., Nature, 448: 313-317 (2007))。同様の結果が他のグループによっても再現された(Wernig, M. et al., Nature, 448: 318-324 (2007); Maherali, N. et al., Cell Stem Cell, 1: 55-70 (2007))。その後、c-Myc遺伝子を除いた3因子によってもiPS細胞を作製できることが明らかとなった(Nakagawa, M. et al., Nat. Biotethnol., 26: 101-106 (2008))。
【0003】
さらに、Takahashiら(Takahashi, K. et al., Cell, 131: 861-872 (2007))は、ヒトの皮膚由来線維芽細胞にマウスと同様の4遺伝子を導入することにより、iPS細胞を樹立することに成功した。一方、Yuらは、Klf4とc-Mycの代わりにNanogとLin28を使用してヒトiPS細胞を作製した(Yu, J. et al., Science, 318: 1917-1920 (2007))。このように、体細胞に特定因子を導入することにより、ヒト及びマウスで、分化多能性においてES細胞と遜色のないiPS細胞を作製できることが示された。
【0004】
以降、iPS細胞の樹立効率向上を目指して様々な試みがなされている。例えばOct3/4, Sox2, Klf4, c-Mycの4因子と共にヒト細胞不死化遺伝子として知られるTERTとSV40ラージT抗原を導入してiPS細胞を樹立した例(Park, I.H. et al., Nature, 451: 141-146 (2008))や、前記4因子にNanogおよびLin28を加えてiPS細胞を樹立した例(Liao, J. et al., Cell Research, 18: 600-603 (2008))、さらには前記4因子またはc-Mycを除いた3因子にUTF1を加えてiPS細胞を樹立した例(Zhao, Y. et al., Cell Stem Cell, 3: 475-479 (2008))などが挙げられる。しかしながら、未だ十分な改善がなされていないのが現状である。
【発明の概要】
【0005】
発明の要約
本発明者らは以前より、ES細胞等の多能性細胞で特異的に発現する遺伝子に拘らず、広く転写因子の遺伝子ライブラリーの中から、Klf4の代替因子としてiPS細胞を樹立することができる遺伝子を網羅的に探索しており、GLISファミリーに属する遺伝子(例:GLIS1)、PTXファミリーに属する遺伝子(例:PITX2)、またはDMRT-like family B with proline-rich C-terminal, 1遺伝子(DMRTB1)を、Oct3/4, Sox2及びc-Mycの3遺伝子とともにマウスおよびヒトの皮膚由来線維芽細胞に導入した場合にiPS細胞を効率よく樹立することができたことから、これらの転写因子を、Klf4の機能を代替し得る新規核初期化物質として同定するに至っている(米国仮出願No.61/208,853、出願日:2009年2月27日および米国仮出願No.61/276,123、出願日:2009年9月8日)。
【0006】
本発明者らは次に、これらKlf4代替因子であるGLIS1、PITX2およびDMRTB1をKlf4と併用した場合のiPS細胞樹立に及ぼす影響を検討した。その結果、PITX2およびDMRTB1はKlf4との併用効果が全く認められなかったのに対して、GLIS1とKlf4とを併用することにより、マウスおよびヒト細胞のいずれに対してもiPS細胞樹立に対する劇的な相乗効果が認められるという予想外の結果が得られた。本発明者らはこれらの知見に基づいて更なる研究を行い、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りのものである。
[1] 以下の(1)及び(2):
(1)GLISファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
(2)Klfファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
を体細胞に接触させることを含む、iPS細胞の樹立効率改善方法。
[2] 前記(1)の物質が、GLIS family zinc finger 1 (GLIS1) または該GLIS1をコードする核酸を含む、上記[1]記載の方法。
[3] 前記(2)の物質が、Klf4または該Klf4をコードする核酸を含む、上記[1]または[2]記載の方法。
[4] 以下の(1)及び(2):
(1)GLISファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
(2)Klfファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
を含有してなる、iPS細胞の樹立効率改善剤。
[5] 前記(1)の物質が、GLIS1または該GLIS1をコードする核酸を含む、上記[4]記載の改善剤。
[6] 前記(2)の物質が、Klf4または該Klf4をコードする核酸を含む、上記[4]または[5]記載の改善剤。
[7] 以下の(1)、(2)及び(3):
(1)GLISファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
(2)Klfファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
(3)前記(1)及び(2)の物質と組み合わせることにより体細胞からiPS細胞を誘導しうる核初期化物質、
を体細胞に接触させることを含む、iPS細胞の製造方法。
[8] 前記(1)の物質が、GLIS1または該GLIS1をコードする核酸を含む、上記[7]記載の方法。
[9] 前記(2)の物質が、Klf4または該Klf4をコードする核酸を含む、上記[7]または[8]記載の方法。
[10] 前記(3)の核初期化物質が、Octファミリーのメンバー、Soxファミリーのメンバー、Mycファミリーのメンバー、Lin28ファミリーのメンバーおよびNanog、並びにそれらをコードする核酸からなる群より選択される、上記[7]〜[9]のいずれかに記載の方法。
[11] 前記(3)の核初期化物質が、Oct3/4またはそれをコードする核酸を含む、上記[7]〜[9]のいずれかに記載の方法。
[12] 前記(3)の核初期化物質が、Oct3/4およびSox2、またはそれらをコードする核酸を含む、上記[11]記載の方法。
[13] 前記(3)の核初期化物質が、Oct3/4、Sox2およびc-Myc、またはそれらをコードする核酸を含む、上記[11]記載の方法。
[14] 以下の(1)、(2)及び(3):
(1)GLISファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
(2)Klfファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
(3)前記(1)及び(2)の物質と組み合わせることにより体細胞からiPS細胞を誘導しうる核初期化物質、
を含有してなる、体細胞からのiPS細胞の誘導剤。
[15] 前記(1)の物質が、GLIS1または該GLIS1をコードする核酸を含む、上記[14]記載の剤。
[16] 前記(2)の物質が、Klf4または該Klf4をコードする核酸を含む、上記[14]または[15]記載の剤。
[17] 前記(3)の核初期化物質が、Octファミリーのメンバー、Soxファミリーのメンバー、Mycファミリーのメンバー、Lin28ファミリーのメンバーおよびNanog、並びにそれらをコードする核酸からなる群より選択される、上記[14]〜[16]のいずれかに記載の剤。
[18] 前記(3)の核初期化物質が、Oct3/4またはそれをコードする核酸を含む、上記[14]〜[16]のいずれかに記載の剤。
[19] 前記(3)の核初期化物質が、Oct3/4およびSox2、またはそれらをコードする核酸を含む、上記[18]記載の剤。
[20] 前記(3)の核初期化物質が、Oct3/4、Sox2およびc-Myc、またはそれらをコードする核酸を含む、上記[18]記載の剤。
[21] 以下の(1)及び(2):
(1)GLISファミリーのメンバーをコードする外来性核酸からなる群より選択される1種以上の核酸、
(2)Klfファミリーのメンバーをコードする外来性核酸からなる群より選択される1種以上の核酸、
を含む、iPS細胞。
[22] 前記外来性核酸がゲノムに組み込まれている、上記[21]記載のiPS細胞。
[23] 上記[21]または[22]記載のiPS細胞に分化誘導処理を行い、体細胞に分化させることを含む、体細胞の製造方法。
[24] 下記の(1)および(2):
(1) 上記[7]〜[13]のいずれかに記載の方法によりiPS細胞を製造する工程、および
(2) 上記工程(1)で得られたiPS細胞に分化誘導処理を行い、体細胞に分化させる工程、
を含む、体細胞の製造方法。
[25] iPS細胞の樹立効率改善のための、以下の(1)及び(2):
(1) GLISファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
(2) Klfファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
の使用。
[26] iPS細胞の樹立効率改善のための、GLISファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質の使用であって、該物質を、Klfファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質とともに体細胞に接触させることを特徴とする、使用。
[27] iPS細胞の製造のための、以下の(1)、(2)及び(3):
(1)GLISファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
(2)Klfファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
(3)前記(1)及び(2)の物質と組み合わせることにより体細胞からiPS細胞を誘導しうる核初期化物質、
の使用。
[28] iPS細胞の製造のための、以下の(1)及び(2):
(1)GLISファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
(2)Klfファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
の使用であって、該因子を、前記(1)及び(2)の物質と組み合わせることにより体細胞からiPS細胞を誘導しうる核初期化物質とともに体細胞に接触させることを特徴とする、使用。
[29] iPS細胞の製造のための、(1)GLISファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質の使用であって、該物質を、(2)Klfファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、および、前記(1)及び(2)の物質と組み合わせることにより体細胞からiPS細胞を誘導しうる核初期化物質とともに体細胞に接触させることを特徴とする、使用。
[30] 体細胞の製造における、上記[21]または[22]記載のiPS細胞の使用。
[31] 体細胞の製造における細胞ソースとしての、上記[21]または[22]記載のiPS細胞。
【0008】
前述のように、本発明のiPS細胞樹立効率改善剤は、体細胞からのiPS細胞の樹立効率を顕著に改善することができるので、例えば、自家移植によるヒト移植医療への応用に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、ヒトGateway(登録商標)エントリークローン(N. Goshima et al., Nature methods, 2008)から機能別エントリークローンを絞り込むまでのステップを示した概念図である。
【図2】図2は、転写因子のエントリークローンから体細胞初期化因子スクリーニング用の転写因子ライブラリーを作製した手順を示す図である。
【図3】図3は、3遺伝子(Oct3/4, Sox2, c-Myc)と、G06(遺伝子名:GLIS1)、H08(遺伝子名:DMRTB1)またはH10(遺伝子名:PITX2)との計4種の遺伝子をレトロウイルスでNanog-GFPマウスの皮膚由来線維芽細胞に導入して得られたGFP陽性コロニーの形態を示す写真である。「Klf-G6-1」は3遺伝子と共にG06(遺伝子名:GLIS1)を導入して得られたiPS細胞クローンを、「Klf-H8-2」は3遺伝子と共にH08(遺伝子名:DMRTB1)を導入して得られたiPS細胞クローンを、「Klf-H10-1」および「Klf-H10」は3遺伝子と共にH10(遺伝子名:PITX2)を導入して得られたiPS細胞クローンを、それぞれ示す。P0はコロニー樹立時、P1は1継代目(24ウエル)、P2は2継代目(6ウエル)の写真を示す。それぞれ3枚ずつの写真のうち、左はGFP陽性コロニー像、中央は位相差像、右はGFP陽性コロニー像と位相差像とを重ね合わせた写真を示す。Klf-H10-1のみReseed法で樹立し、それ以外はMSTO法で樹立した。
【図4】図4は、3遺伝子(Oct3/4, Sox2, c-Myc)と、F09(遺伝子名:IRX6)、G06(遺伝子名:GLIS1)、H08(遺伝子名:DMRTB1)またはH10(遺伝子名:PITX2)との計4種の遺伝子をレトロウイルスでNanog-GFPマウスの皮膚由来線維芽細胞に導入して得られたGFP陽性コロニーのコロニー樹立時の形態を示す写真である。「Klf-F9」は3遺伝子と共にF09(遺伝子名:IRX6)を導入して得られたiPS細胞クローンを、「Klf-G6-1」および「Klf-G6-2」は3遺伝子と共にG06(遺伝子名:GLIS1)を導入して得られたiPS細胞クローンを、「Klf-H8-1」および「Klf-H8-2」は3遺伝子と共にH08(遺伝子名:DMRTB1)を導入して得られたiPS細胞クローンを、「Klf-H10」は3遺伝子と共にH10(遺伝子名:PITX2)を導入して得られたiPS細胞クローンを、それぞれ示す。「Reseed」はReseed法で樹立した結果を、「MSTO」はMSTO法で樹立した結果を示す。
【図5】図5は、G6-1(Klf-G6-1)、H8-2(Klf-H8-2)およびH10(Klf-H10)の各iPS細胞クローンについてgenomic-PCRを行った結果を示す写真である。図中「skin」は体細胞ソースとして用いた線維芽細胞を示す。また「plasmid」はpMXsに組み込まれた各遺伝子を増幅したポジティブコントロールである。
【図6】図6は、図5とは別のH10(Klf-H10)iPS細胞クローンについてgenomic-PCRを行った結果を示す写真である。図中「skin」は体細胞ソースとして用いた線維芽細胞を示す。また「plasmid」はpMXsに組み込まれた各遺伝子を増幅したポジティブコントロールである。
【図7】図7は、G6-1(Klf-G6-1)、H8-2(Klf-H8-2)およびH10(Klf-H10)の各iPS細胞クローンについてRT-PCRを行った結果を示す写真である。図中「skin」は体細胞ソースとして用いた線維芽細胞を、また「ES」および「iPS」は、マウス由来のES細胞およびiPS細胞を示す。また「Sox2 RT-」はネガティブコントロールである。
【図8】図8は、図7とは別のH10(Klf-H10)iPS細胞クローンについてRT-PCRを行った結果を示す写真である。。図中「skin」は体細胞ソースとして用いた線維芽細胞を、また「ES」および「iPS」は、マウス由来のES細胞およびiPS細胞を示す。また「Sox2 RT-」はネガティブコントロールである。
【図9】図9は、2因子(Oct3/4、Sox2)または3因子(Oct3/4、Sox2、Klf4)にG6(GLIS1)、H8(DMRTB1)またはH10(PITX2)を組み合わせてNanog-GFPマウスの皮膚由来線維芽細胞に導入して樹立したiPS細胞(GFP陽性細胞)のコロニー数をカウントした結果を示すグラフである。インディペンデントな3回(コントロールのみ4回)の実験結果をまとめた。
【図10】図10は、感染の22日後における、示した因子を導入した皮膚由来線維芽細胞に由来するNanog-GFP陽性コロニー数を示す。
【図11】図11は、感染の22日後における、示した因子を導入した皮膚由来線維芽細胞に由来するNanog-GFP陽性コロニーの割合を示す。グラフはインディペンデントな3回の実験の平均を標準偏差(エラーバー)と共に示している。**: p<0.01
【図12】図12は、皮膚由来線維芽細胞に由来するNanog-GFP陽性コロニーを示す(P0; 継代(passage)0)。蛍光像(左);位相差像(中央);マージ像(右)
【図13】図13は、感染の20日後における、示した因子を導入したMEFに由来するNanog-GFP陽性コロニー数を示す。感染の3日後に線維芽細胞をフィーダー細胞上に蒔き直した。
【図14】図14は、感染の20日後における、示した因子を導入したMEFに由来するNanog-GFP陽性コロニーの割合を示す。グラフはインディペンデントな3回の実験の平均を標準偏差(エラーバー)と共に示している。**: p<0.01
【図15】図15は、MEFからのNanog-GFP陽性コロニーを示す(P0; 継代0)。蛍光像(左);位相差像(中央);マージ像(右)
【図16】図16は、3因子(Oct3/4, Sox2, c-Myc)にKlf4及び/又はG6(GLIS1)を組み合わせて成人の皮膚由来線維芽細胞(HDF)に導入して樹立したiPS細胞(ES様細胞)のコロニー数をカウントした結果を示すグラフである。図中「104」はフィーダー細胞上への蒔き直しの数が5×104個/100 mmディッシュの結果を、また「105」は5×105個/100 mmディッシュの結果を示す。インディペンデントな3回の実験結果をまとめた。
【図17】図17は、3因子(Oct3/4, Sox2, c-Myc)にKlf4及び/又はG6(GLIS1)を組み合わせて成人の皮膚由来線維芽細胞(HDF)に導入して樹立された非iPS細胞(非ES様細胞)のコロニー数をカウントした結果を示すグラフである。図中「104」はフィーダー細胞上への蒔き直しの数が5×104個/100 mmディッシュの結果を、また「105」は5×105個/100 mmディッシュの結果を示す。インディペンデントな3回の実験結果をまとめた。
【図18】図18はOct3/4、Sox2、c-Myc、Klf4およびG6で樹立したiPSコロニー(ES様コロニー)の位相差像を示す写真である。
【図19】図19は、感染の約30日後における、示した因子を導入したヒト皮膚由来線維芽細胞(上: 5×104細胞、下: 5×105細胞)に由来するESC様コロニー数を示す。
【図20】図20は、感染の約30日後における、示した因子を導入したヒト皮膚由来線維芽細胞(上: 5×104細胞、下: 5×105細胞)に由来するESC様コロニーの割合を示す。グラフはインディペンデントな3回の実験の平均を標準偏差(エラーバー)と共に示している。*: p<0.05; **: p<0.01
【図21】図21は、OSK + GLIS1により生じたヒトESC様コロニーを示す。
【図22】図22は、樹立されたヒトiPSクローンにおける導入遺伝子のゲノムPCR解析を示す。AHDF: 成人皮膚由来線維芽細胞
【図23】図23は、OSK + GLIS1により生じたヒトiPSCにおけるESCマーカー遺伝子のRT-PCR解析を示す。AHDF: 成人皮膚由来線維芽細胞;201B7: OSKMにより生じたヒトiPSクローン
【図24】図24は、DNAマイクロアレイによる決定で、OSK + GLIS1で生じたiPSCと成人HDF(上)、およびOSK + GLIS1を導入されたiPSCとOSKMを導入されたiPSC(下)の全体的な遺伝子発現を比較した散布図を示す。相関係数(R2)を算出した。
【図25】図25は、OSK + GLIS1で生じたヒトiPSCのテラトーマ形成を示す。
【図26】図26は、様々なマウス組織におけるGLIS1の発現を示す。各マウス組織から単離したトータルRNAを定量的RT-PCRにより調べた。グラフはインディペンデントな4回の実験の平均を標準偏差(エラーバー)と共に示している。
【図27】図27は、GLIS1 shRNAに暴露された皮膚由来線維芽細胞における内因性GLIS1の定量的RT-PCR解析を示す。グラフはインディペンデントな2回の実験の平均を平均誤差(エラーバー)と共に示している。
【図28】図28は、3つの初期化因子(OSK)によるiPSC樹立効率に及ぼすGLIS1 shRNAの効果を示す。GLIS1 shRNAと共にまたは無しでOSKを皮膚由来線維芽細胞に導入した4週間後に、Nanog-GFP陽性コロニー数をカウントした。
【発明を実施するための形態】
【0010】
発明の詳細な説明
本発明は、体細胞の核初期化工程において、(1) GLISファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、および(2) Klfファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質(以下、本発明の樹立効率改善因子ともいう)を該体細胞に接触させることを含む、iPS細胞の樹立効率の改善方法を提供する。ここで体細胞の核初期化は、核初期化物質を体細胞に接触させることにより行われるので、本発明はまた、前記(1)および(2)の物質と共に、(3) 前記(1)および(2)の物質と組み合わせることにより体細胞からiPS細胞を誘導しうる核初期化物質(以下単に、核初期化物質ともいう)を体細胞に接触させることを含む、iPS細胞の製造方法を提供する。尚、本明細書では、前記(3)の物質(核初期化物質)のみではiPS細胞が樹立できず、本発明の樹立効率改善因子とともに体細胞に接触させることによりiPS細胞が樹立される場合も、「樹立効率の改善」に該当するものとして取り扱う。
【0011】
(a) 体細胞ソース
本発明においてiPS細胞作製のための出発材料として用いることのできる体細胞は、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、サル、ウシ、ブタ、ラット、イヌ等)由来の生殖細胞以外のいかなる細胞であってもよく、例えば、角質化する上皮細胞(例、角質化表皮細胞)、粘膜上皮細胞(例、舌表層の上皮細胞)、外分泌腺上皮細胞(例、乳腺細胞)、ホルモン分泌細胞(例、副腎髄質細胞)、代謝・貯蔵用の細胞(例、肝細胞)、境界面を構成する内腔上皮細胞(例、I型肺胞細胞)、内鎖管の内腔上皮細胞(例、血管内皮細胞)、運搬能をもつ繊毛のある細胞(例、気道上皮細胞)、細胞外マトリックス分泌用細胞(例、線維芽細胞)、収縮性細胞(例、平滑筋細胞)、血液と免疫系の細胞(例、Tリンパ球)、感覚に関する細胞(例、桿細胞)、自律神経系ニューロン(例、コリン作動性ニューロン)、感覚器と末梢ニューロンの支持細胞(例、随伴細胞)、中枢神経系の神経細胞とグリア細胞(例、星状グリア細胞)、色素細胞(例、網膜色素上皮細胞)、およびそれらの前駆細胞(例、組織前駆細胞)等が挙げられる。細胞の分化の程度や細胞を採取する動物の齢などに特に制限はなく、未分化な前駆細胞(体性幹細胞も含む)であっても、最終分化した成熟細胞であっても、同様に本発明における体細胞の起源として使用することができる。ここで未分化な前駆細胞としては、たとえば神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、歯髄幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞)が挙げられる。
【0012】
体細胞を採取するソースとなる哺乳動物個体は特に制限されないが、得られるiPS細胞がヒトの再生医療用途に使用される場合には、拒絶反応が起こらないという観点から、患者本人またはHLAの型が同一もしくは実質的に同一である他人から体細胞を採取することが特に好ましい。ここでHLAの型が「実質的に同一」とは、免疫抑制剤などの使用により、該体細胞由来のiPS細胞から分化誘導することにより得られた細胞を患者に移植した場合に移植細胞が生着可能な程度にHLAの型が一致していることをいう。たとえば主たるHLA(例えばHLA-A、HLA-BおよびHLA-DRの3遺伝子座)が同一である場合などが挙げられる(以下同じ)。また、ヒトに投与(移植)しない場合、例えば、患者の薬剤感受性や副作用の有無を評価するためのスクリーニング用の細胞のソースとしてiPS細胞を使用する場合には、同様に患者本人または薬剤感受性や副作用と相関する遺伝子多型が同一である他人から体細胞を採取することが望ましい。
【0013】
哺乳動物から分離した体細胞は、核初期化工程に供するに先立って、細胞の種類に応じてその培養に適した自体公知の培地で前培養することができる。そのような培地としては、例えば、約5〜20%の胎仔ウシ血清を含む最小必須培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地、F12培地などが挙げられるが、それらに限定されない。本発明の樹立効率改善因子および核初期化物質(さらに必要に応じて、後述する他のiPS細胞の樹立効率改善物質)との接触に際し、例えば、カチオニックリポソームなど導入試薬を用いる場合には、導入効率の低下を防ぐため、無血清培地に交換しておくことが好ましい場合がある。
【0014】
(b) 本発明のiPS細胞樹立効率改善因子
本発明におけるGLISファミリーは、5つのC2H2型 (Cys2-His2-type) Zincフィンガー領域を有するKruppel-like zinc finger familyであり、Gli transcription factorへの類似性からこのように命名された(Glis= Gli similar、Kim, Y.S. et al., J. Biol. Chem., 277(34), 30901-30913 (2002))。GLISファミリーは胚発生の過程における種々の遺伝子発現を正もしくは負に制御する転写因子で構成される。この遺伝子ファミリーのメンバーとしては、例えば、GLIS family zinc finger 1(GLIS1)、GLIS2、GLIS3などが挙げられ、GLIS1が好ましく例示されるが、これに限定されない。尚、GLIS1はマウスES細胞では発現していない遺伝子である。
【0015】
GLISファミリーのメンバーとしては、任意の哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、サル、ウシ、ウマ、ブタ、イヌ等)の細胞・組織[例えば、胸腺、骨髄、脾臓、脳、脊髄、心臓、骨格筋、腎臓、肺、肝臓、膵臓もしくは前立腺の細胞・組織、これら細胞の前駆細胞、幹細胞または癌細胞など]由来のタンパク質またはそれをコードする核酸を用いることができるが、ヒト又はマウスの細胞・組織由来のものが好ましい。
【0016】
ヒト及びマウス由来のGLISファミリーメンバーのアミノ酸配列およびcDNA配列情報は、表1に記載されるNCBI accession numbersを参照することにより取得することができ、当業者は、該cDNA配列情報に基づいて容易に各タンパク質をコードする核酸を単離し、また必要に応じて、組換えタンパク質を製造することができる。
【0017】
【表1】
【0018】
また、上記の各アミノ酸配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上の同一性を有し、且つ野生型タンパク質と同等のiPS細胞樹立効率改善効果を有する天然もしくは人工の変異タンパク質及びそれをコードする核酸も、本発明のiPS細胞樹立効率改善因子として利用することができる。ここでiPS細胞の樹立効率改善効果は、所定の初期化因子(例えば、Oct3/4およびSox2の2因子、さらにc-Mycを加えた3因子など)のみを体細胞に導入した場合と、該初期化因子の導入に加えて本発明のiPS細胞樹立効率改善因子を体細胞に接触させた場合とで、出現するiPS細胞のコロニー数を比較することにより検証することができる。
【0019】
本発明のGLISファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸は、ファミリーに属する因子のいずれか1種のみを用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
Klf(Kruppel-like factor)ファミリーは増殖、分化、発生、アポトーシス等の種々の生物学的プロセスを制御する転写因子であるが(McConnell, B.B. et al., Bioassays, 29: 549-557 (2007))、詳しい働きはよくわかっていない。この遺伝子ファミリーのメンバーとして、Klf1、Klf2、Klf4およびKlf5などが挙げられ、好ましくはKlf4であるが、これに限定されない。なお前述したようにGLISファミリーは5つのC2H2型 Zincフィンガー領域を有しているが、Klfファミリーは3つのC2H2型 Zincフィンガー領域を有している。
【0021】
Yamanakaらは、4遺伝子(Oct3/4、Sox2、Klf4およびc-Myc)はそれぞれ同一ファミリーに属する他の遺伝子によって代替できると考え、Klf4をKlf1、Klf2もしくはKlf5に代えてもiPS細胞を樹立できることを示している(WO 2007/069666 A1、Nakagawa, M. et al., Nat. Biotethnol., 26: 101-106 (2008))。また最近、Jiangらのグループは、ES細胞にレチノイン酸による分化誘導処理を施すと、Klf4だけでなくKlf2やKlf5の発現も低下することに着目し、Klf2、Klf4及びKlf5を同時にノックダウンしたところ、ES細胞の分化が誘導されることを見出し、Klf2やKlf5等のKlfファミリーの少なくとも一部は、ES細胞におけるKlf4の機能を代替し得る可能性を示している(Jiang, J. et al., Nat. Cell Biol., 10: 353-360 (2008))。彼らはさらに、Oct3/4, Sox2及びc-Mycの3遺伝子とともに、Klf2もしくはKlf5遺伝子、あるいは他の転写因子やエピジェネティック調節因子をMEFに導入し、Klf2やKlf5がKlf4を代替し得ることを確認するとともに、エストロゲン受容体に類似するオーファン核内受容体であるEsrrbもまた、Klf4を代替し得ることを見出している(Feng, B. et al., Nat. Cell Biol., 11: 197-203 (2009))。以上により、Klf1、Klf2、Klf5、さらにはEsrrbもまた、本明細書の実施例で確認されたKlf4の効果(GLISファミリーとの併用によるiPS細胞樹立効率改善効果)を有していると考えられる。
【0022】
Klfファミリーのメンバーとしては、任意の哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、サル、ウシ、ウマ、ブタ、イヌ等)の細胞・組織[例えば、胸腺、骨髄、脾臓、脳、脊髄、心臓、骨格筋、腎臓、肺、肝臓、膵臓もしくは前立腺の細胞・組織、これら細胞の前駆細胞、幹細胞または癌細胞など]由来のタンパク質またはそれをコードする核酸を用いることができるが、ヒト又はマウスの細胞・組織由来のものが好ましい。
【0023】
ヒト及びマウス由来のKlfファミリーメンバーのアミノ酸配列およびcDNA配列情報は、表2に記載されるNCBI accession numbersを参照することにより取得することができ、当業者は、該cDNA配列情報に基づいて容易に各タンパク質をコードする核酸を単離し、また必要に応じて、組換えタンパク質を製造することができる。
【0024】
【表2】
【0025】
また、上記の各アミノ酸配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上の同一性を有し、且つ野生型タンパク質と同等のiPS細胞樹立効率改善効果を有する天然もしくは人工の変異タンパク質及びそれをコードする核酸も、本発明のiPS細胞樹立効率改善因子として利用することができる。
【0026】
本発明のKlfファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸は、ファミリーに属する因子のいずれか1種のみを用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
なお、核初期化の対象となる体細胞が、前記本発明のiPS細胞樹立効率改善因子であるGLISファミリーのメンバー、またはKlfファミリーのメンバーのいずれかにおける構成要素の一部を、樹立効率改善のために十分なレベルで内在的に発現している条件下にあっては、当該内在的に発現している構成要素を除いた残りの構成要素のみの組合わせもまた、本発明における「iPS細胞樹立効率改善因子」の範疇に含まれ得る。
【0028】
本発明のiPS細胞樹立効率改善因子をタンパク質として体細胞へ導入するには、自体公知の細胞へのタンパク質導入方法を用いて実施することができる。そのような方法としては、例えば、タンパク質導入試薬を用いる方法、タンパク質導入ドメイン(PTD)もしくは細胞透過性ペプチド(CPP)融合タンパク質を用いる方法、マイクロインジェクション法などが挙げられる。タンパク質導入試薬としては、カチオン性脂質をベースとしたBioPOTER Protein Delivery Reagent(Gene Therapy Systmes)、Pro-JectTM Protein Transfection Reagent(PIERCE)およびProVectin(IMGENEX)、脂質をベースとしたProfect-1(Targeting Systems)、膜透過性ペプチドをベースとしたPenetrain Peptide(Q biogene)およびChariot Kit(Active Motif)、HVJエンベロープ(不活化センダイウイルス)を利用したGenomONE(石原産業)等が市販されている。導入はこれらの試薬に添付のプロトコルに従って行うことができるが、一般的な手順は以下の通りである。本発明のタンパク性iPS細胞樹立効率改善因子を適当な溶媒(例えば、PBS、HEPES等の緩衝液)に希釈し、導入試薬を加えて室温で5-15分程度インキュベートして複合体を形成させ、これを無血清培地に交換した細胞に添加して37℃で1ないし数時間インキュベートする。その後培地を除去して血清含有培地に交換する。
【0029】
PTDとしては、ショウジョウバエ由来のAntP、HIV由来のTAT(Frankel, A. et al, Cell 55, 1189-93 (1988); Green, M. & Loewenstein, P.M. Cell 55, 1179-88 (1988))、Penetratin (Derossi, D. et al, J. Biol. Chem. 269, 10444-50 (1994))、Buforin II (Park, C.B. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 97, 8245-50 (2000))、Transportan (Pooga, M. et al. FASEB J. 12, 67-77 (1998))、MAP (model amphipathic peptide) (Oehlke, J. et al. Biochim. Biophys. Acta. 1414, 127-39 (1998))、K-FGF (Lin, Y.Z. et al. J. Biol. Chem. 270, 14255-14258 (1995))、Ku70 (Sawada, M. et al. Nature Cell Biol. 5, 352-7 (2003))、Prion (Lundberg, P. et al. Biochem. Biophys. Res. Commun. 299, 85-90 (2002))、pVEC (Elmquist, A. et al. Exp. Cell Res. 269, 237-44 (2001))、Pep-1 (Morris, M.C. et al. Nature Biotechnol. 19, 1173-6 (2001))、Pep-7 (Gao, C. et al. Bioorg. Med. Chem. 10, 4057-65 (2002))、SynB1 (Rousselle, C. et al. Mol. Pharmacol. 57, 679-86 (2000))、HN-I (Hong, F.D. & Clayman, G.L. Cancer Res. 60, 6551-6 (2000))、HSV由来のVP22等のタンパク質の細胞通過ドメインを用いたものが開発されている。PTD由来のCPPとしては、11R (Cell Stem Cell, 4: 381-384 (2009)) や9R (Cell Stem Cell, 4: 472-476 (2009))等のポリアルギニンが挙げられる。
【0030】
本発明のiPS細胞樹立効率改善因子のcDNAとPTD配列もしくはCPP配列とを組み込んだ融合タンパク質発現ベクターを作製して組換え発現させ、融合タンパク質を回収して導入に用いる。導入は、タンパク質導入試薬を添加しない以外は上記と同様にして行うことができる。
【0031】
マイクロインジェクションは、先端径1μm程度のガラス針にタンパク質溶液を入れ、細胞に穿刺導入する方法であり、確実に細胞内にタンパク質を導入することができる。
【0032】
その他、エレクトロポレーション法、セミインタクトセル法(Kano, F. et al. Methods in Molecular Biology, Vol. 322, 357-365 (2006))、Wr-t ペプチドによる導入法(Kondo, E. et al., Mol. Cancer Ther. 3(12), 1623-1630 (2004))などのタンパク質導入法も用いることができる。
【0033】
タンパク質導入操作は1回以上の任意の回数(例えば、1回以上10回以下、または1回以上5回以下等)行うことができ、好ましくは導入操作を2回以上(たとえば3回または4回)繰り返して行うことができる。導入操作を繰り返し行う場合の間隔としては、例えば6〜48時間、好ましくは12〜24時間が挙げられる。
iPS細胞の樹立効率を重視するのであれば、本発明のiPS細胞樹立効率改善因子を、タンパク質としてではなくそれをコードする核酸の形態で用いることがむしろ好ましい。該核酸はDNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよい。好ましくはDNAが挙げられる。また、該核酸は二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。二本鎖の場合は、二本鎖DNA、二本鎖RNAまたはDNA:RNAのハイブリッドでもよい。好ましくは該核酸は二本鎖DNA、特にcDNAである。
【0034】
本発明の核酸性iPS細胞樹立効率改善因子は、例えば、ヒトもしくは他の哺乳動物 (例えば、マウス、ラット、サル、ブタ、イヌなど) の細胞・組織[例えば、胸腺、骨髄、脾臓、脳、脊髄、心臓、骨格筋、腎臓、肺、肝臓、膵臓もしくは前立腺の細胞・組織、これら細胞の前駆細胞、幹細胞または癌細胞など]由来のcDNAから、常法に従ってクローニングすることができる。
【0035】
本発明のiPS細胞樹立効率改善因子の体細胞への導入は、自体公知の細胞への遺伝子導入方法を用いて実施することができる。本発明のiPS細胞樹立効率改善因子をコードする核酸は、宿主となる体細胞で機能し得るプロモーターを含む適当な発現ベクターに挿入される。発現ベクターとしては、例えば、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、センダイウイルスなどのウイルスベクター、動物細胞発現プラスミド(例、pA1-11,pXT1,pRc/CMV,pRc/RSV,pcDNAI/Neo)などが用いられ得る。
【0036】
用いるベクターの種類は、得られるiPS細胞の用途に応じて適宜選択することができる。例えば、アデノウイルスベクター、プラスミドベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、センダイウイルスベクターなどが使用され得る。
【0037】
発現ベクターにおいて使用されるプロモーターとしては、例えばEF1αプロモーター、CAGプロモーター、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、RSV(ラウス肉腫ウイルス)プロモーター、MoMuLV(モロニーマウス白血病ウイルス)LTR、HSV-TK(単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ)プロモーターなどが用いられる。なかでも、EF1αプロモーター、CAGプロモーター、MoMuLV LTR、CMVプロモーター、SRαプロモーターなどが好ましい。
【0038】
発現ベクターは、プロモーターの他に、所望によりエンハンサー、ポリA付加シグナル、選択マーカー遺伝子、SV40複製起点などを含有していてもよい。選択マーカー遺伝子としては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
【0039】
本発明のiPS細胞樹立効率改善因子をコードする核酸は、単独で発現ベクター上に組み込んでもよいし、幾つかを組み合わせて1つの発現ベクター上に組み込んでもよい。さらに、1以上の初期化遺伝子とともに1つの発現ベクターに組み込んでもよい。
【0040】
上記において、本発明のiPS細胞樹立効率改善因子や初期化因子の遺伝子を組み合わせて1つの発現ベクターに組み込む場合、これら複数の遺伝子は、好ましくはポリシストロニック発現を可能にする配列を介して発現ベクターに組み込むことができる。ポリシストロニック発現を可能にする配列を用いることにより、1種類の発現ベクターに組み込まれている複数の遺伝子をより効率的に発現させることが可能になる。ポリシストロニック発現を可能にする配列としては、例えば、口蹄疫ウイルスの2A配列(配列番号:9; PLoS ONE 3, e2532, 2008、Stem Cells 25, 1707, 2007)、IRES配列(U.S. Patent No. 4,937,190)など、好ましくは2A配列を用いることができる。
【0041】
本発明のiPS細胞樹立効率改善因子をコードする核酸を含む発現ベクターは、ベクターの種類に応じて、自体公知の手法により細胞に導入することができる。例えば、ウイルスベクターの場合、該核酸を含むプラスミドを適当なパッケージング細胞(例、Plat-E細胞)や相補細胞株(例、293細胞)に導入して、培養上清中に産生されるウイルスベクターを回収し、各ウイルスベクターに応じた適切な方法により、該ベクターを細胞に感染させる。例えば、レトロウイルスベクターを用いる具体的手段が WO2007/69666、Cell, 126, 663-676 (2006) および Cell, 131, 861-872 (2007) に開示されており、レンチウイルスベクターを用いる場合については、Science, 318, 1917-1920 (2007) に開示がある。iPS細胞を再生医療のための細胞ソースとして利用する場合、本発明のiPS細胞樹立効率改善因子の発現(再活性化)またはそれらの外来性核酸が組み込まれた近傍に存在する内因性遺伝子の活性化は、iPS細胞由来の分化細胞から再生された組織における発癌リスクを高める可能性があるので、本発明のiPS細胞樹立効率改善因子をコードする核酸は細胞の染色体に組み込まれず、一過的に発現することが好ましい。かかる観点からは、染色体への組込みが稀なアデノウイルスベクターの使用が好ましい。アデノウイルスベクターを用いる具体的手段は、Science, 322, 945-949 (2008) に記載されている。また、アデノ随伴ウイルスも染色体への組込み頻度が低く、アデノウイルスベクターと比べて細胞毒性や炎症惹起作用が低いので、別の好ましいベクターとして挙げられる。センダイウイルスベクターは染色体外で安定に存在することができ、必要に応じてsiRNAにより分解除去することができるので、同様に好ましく利用され得る。センダイウイルスベクターについては、J. Biol. Chem., 282, 27383-27391 (2007)、Proc. Jpn. Acad., Ser. B 85, 348-362(2009)、または特許第3602058号に記載のものを用いることができる。
【0042】
レトロウイルスベクターやレンチウイルスベクターを用いる場合は、いったん導入遺伝子のサイレンシングが起こったとしても、後に再活性化される可能性があるので、例えば、Cre/loxPシステムを用いて、不要となった時点で本発明のiPS細胞樹立効率改善因子をコードする核酸を切り出す方法が好ましく用いられ得る。即ち、該核酸の両端にloxP配列を配置しておき、iPS細胞が誘導された後で、プラスミドベクターもしくはアデノウイルスベクターを用いて細胞にCreリコンビナーゼを作用させ、loxP配列に挟まれた領域を切り出すことができる。また、LTR U3領域のエンハンサー−プロモーター配列は、挿入突然変異によって近傍の宿主遺伝子を上方制御する可能性があるので、当該配列を欠失、もしくはSV40などのポリアデニル化配列で置換した3’-自己不活性化(SIN)LTRを使用して、切り出されずゲノム中に残存するloxP配列より外側のLTRによる内因性遺伝子の発現制御を回避することがより好ましい。Cre-loxPシステムおよびSIN LTRを用いる具体的手段は、Soldner et al., Cell, 136: 964-977 (2009)、Chang et al., Stem Cells, 27: 1042-1049 (2009) などに開示されている。
【0043】
一方、非ウイルスベクターであるプラスミドベクターの場合には、リポフェクション法、リポソーム法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム共沈殿法、DEAEデキストラン法、マイクロインジェクション法、遺伝子銃法などを用いて該ベクターを細胞に導入することができる。ベクターとしてプラスミドを用いる具体的手段は、例えばScience, 322, 949-953 (2008) 等に記載されている。
【0044】
プラスミドベクターやアデノウイルスベクター等を用いる場合、遺伝子導入は1回以上の任意の回数(例えば、1回以上10回以下、または1回以上5回以下など)行うことができる。2種以上の発現ベクターを体細胞に導入する場合には、これらの全ての種類の発現ベクターを同時に体細胞に導入することが好ましいが、この場合においても、導入操作は1回以上の任意の回数(例えば、1回以上10回以下、または1回以上5回以下など)行うことができ、好ましくは導入操作を2回以上(たとえば3回または4回)繰り返して行うことができる。
【0045】
尚、アデノウイルスやプラスミドを用いる場合でも、導入遺伝子が染色体に組み込まれることがあるので、結局はサザンブロットやPCRにより染色体への遺伝子挿入がないことを確認する必要がある。そのため、上記Cre-loxPシステムのように、いったん染色体に導入遺伝子を組み込んだ後に、該遺伝子を除去する手段を用いることは好都合であり得る。別の好ましい一実施態様においては、トランスポゾンを用いて染色体に導入遺伝子を組み込んだ後に、プラスミドベクターもしくはアデノウイルスベクターを用いて細胞に転移酵素を作用させ、導入遺伝子を完全に染色体から除去する方法が用いられ得る。好ましいトランスポゾンとしては、例えば、鱗翅目昆虫由来のトランスポゾンであるpiggyBac等が挙げられる。piggyBacトランスポゾンを用いる具体的手段は、Kaji, K. et al., Nature, 458: 771-775 (2009)、Woltjen et al., Nature, 458: 766-770 (2009) に開示されている。
【0046】
別の好ましい非組込み型ベクターとして、染色体外で自律複製可能なエピゾーマルベクターが挙げられる。エピゾーマルベクターを用いる具体的手段は、Yu et al., Science, 324, 797-801 (2009)に開示されている。必要に応じて、エピゾーマルベクターの複製に必要なベクター要素の5’側および3’側にloxP配列を同方向に配置したエピゾーマルベクターに、本発明のiPS細胞樹立効率改善因子をコードする核酸を挿入した発現ベクターを構築し、これを体細胞に導入することもできる。
【0047】
該エピゾーマルベクターとしては、例えば、EBV、SV40等に由来する自律複製に必要な配列をベクター要素として含むベクターが挙げられる。自律複製に必要なベクター要素としては、具体的には、複製開始点と、複製開始点に結合して複製を制御するタンパク質をコードする遺伝子であり、例えば、EBVにあっては複製開始点oriPとEBNA-1遺伝子、SV40にあっては複製開始点oriとSV40 large T antigen遺伝子が挙げられる。
【0048】
また、エピゾーマル発現ベクターは、本発明のiPS細胞樹立効率改善因子をコードする核酸の転写を制御するプロモーターを含む。該プロモーターとしては、前記と同様のプロモーターが用いられ得る。また、エピゾーマル発現ベクターは、前記と同様に、所望によりエンハンサー、ポリA付加シグナル、選択マーカー遺伝子などをさらに含有していてもよい。選択マーカー遺伝子としては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
【0049】
本発明で使用されるloxP配列としては、バクテリオファージP1由来の野生型loxP配列(配列番号:10)の他、導入遺伝子の複製に必要なベクター要素を挟む位置に同方向で配置された場合に、組換えを起こしてloxP配列間の配列を欠失させ得る任意の変異loxP配列が挙げられる。変異loxP配列としては、例えば、5’側反復配列に変異のあるlox71(配列番号:11)、3’側反復配列に変異のあるlox66(配列番号:12)、スペーサー部分に変異のあるlox2272やlox511などが挙げられる。該ベクター要素の5’側および3’側に配置される2つのloxP配列は、同一であっても異なっていてもよいが、スペーサー部分に変異のある変異loxP配列の場合は同一のもの(例、lox2272同士、lox511同士)が用いられる。好ましくは、5’側反復配列に変異のある変異loxP配列(例、lox71)と3’側反復配列に変異のある変異loxP配列(例、lox66)との組合せが挙げられる。この場合、組換えの結果染色体上に残るloxP配列は5’側および3’側の反復配列に二重変異を有するため、Creリコンビナーゼに認識されにくく、不必要な組換えにより染色体の欠失変異を起こすリスクが低減される。変異loxP配列であるlox71とlox66との組合せを用いる場合、前記ベクター要素の5’側および3’側にいずれの変異loxP配列を配置してもよいが、変異部位がloxP配列の外端に配置されるような向きで変異loxP配列を挿入する必要がある。
【0050】
2つのloxP配列は、導入遺伝子の複製に必要なベクター要素(即ち、複製開始点、または複製開始点に結合して複製を制御するタンパク質をコードする遺伝子配列)の5’側および3’側に、同方向に配置される。loxP配列が挟むベクター要素は、複製開始点、または複製開始点に結合して複製を制御するタンパク質をコードする遺伝子配列のいずれか一方だけであってもよいし、両方であってもよい。
【0051】
エピゾーマルベクターは、例えばリポフェクション法、リポソーム法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム共沈殿法、DEAEデキストラン法、マイクロインジェクション法、遺伝子銃法などを用いて該ベクターを細胞に導入することができる。具体的には、例えばScience, 324: 797-801 (2009)等に記載される方法を用いることができる。
【0052】
iPS細胞から導入遺伝子の複製に必要なベクター要素が除去されたか否かの確認は、該ベクター要素内部および/またはloxP配列近傍の塩基配列を含む核酸をプローブまたはプライマーとして用い、該iPS細胞から単離したエピソーム画分を鋳型としてサザンブロット分析またはPCR分析を行い、バンドの有無または検出バンドの長さを調べることにより実施することができる。エピソーム画分の調製は当該分野で周知の方法により行えばよく、例えば、Science, 324: 797-801 (2009)等に記載される方法を用いることができる。
【0053】
(c) 核初期化物質
本発明において「核初期化物質」とは、体細胞に導入することにより、あるいは本発明の樹立効率改善因子(すなわち(1)GLISファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、および(2)Klfファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質)と共に体細胞に接触させることにより、該体細胞からiPS細胞を誘導することができる物質(群)であれば、タンパク性因子またはそれをコードする核酸(ベクターに組み込まれた形態を含む)、あるいは低分子化合物等のいかなる物質から構成されてもよい。タンパク性因子またはそれをコードする核酸である公知の核初期化物質としては、好ましくは以下の組み合わせが例示される(以下においては、タンパク性因子の名称のみを記載する)。
(1) Oct3/4, Klf4, c-Myc
(2) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2(ここで、Sox2はSox1, Sox3, Sox15, Sox17またはSox18で置換可能である。また、Klf4はKlf1, Klf2またはKlf5で置換可能である。さらに、c-MycはT58A(活性型変異体), L-Mycで置換可能である。)
(3) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, Fbx15, Nanog, ERas, TclI
(4) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, TERT, SV40 Large T antigen(以下、SV40LT)
(5) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, TERT, HPV16 E6
(6) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, TERT, HPV16 E7
(7) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, TERT, HPV16 E6, HPV16 E7
(8) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, TERT, Bmi1
(以上、WO 2007/069666を参照(但し、上記(2)の組み合わせにおいて、Sox2からSox18への置換、Klf4からKlf1もしくはKlf5への置換については、Nature Biotechnology, 26, 101-106 (2008)を参照)。「Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2」の組み合わせについては、Cell, 126, 663-676 (2006)、Cell, 131, 861-872 (2007) 等も参照。「Oct3/4, Klf2(またはKlf5), c-Myc, Sox2」の組み合わせについては、Nat. Cell Biol., 11, 197-203 (2009) も参照。「Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, hTERT, SV40LT」の組み合わせについては、Nature, 451, 141-146 (2008)も参照。)
(9) Oct3/4, Klf4, Sox2(Nature Biotechnology, 26, 101-106 (2008)を参照)
(10) Oct3/4, Sox2, Nanog, Lin28(Science, 318, 1917-1920 (2007)を参照)
(11) Oct3/4, Sox2, Nanog, Lin28, hTERT, SV40LT(Stem Cells, 26, 1998-2005 (2008)を参照)
(12) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, Nanog, Lin28(Cell Research 18 (2008) 600-603を参照)
(13) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, SV40LT(Stem Cells, 26, 1998-2005 (2008)も参照)
(14) Oct3/4, Klf4(Nature 454:646-650 (2008)、Cell Stem Cell, 2, 525-528 (2008))を参照)
(15) Oct3/4, c-Myc(Nature 454:646-650 (2008)を参照)
(16) Oct3/4, Sox2 (Nature, 451, 141-146 (2008), WO2008/118820を参照)
(17) Oct3/4, Sox2, Nanog (WO2008/118820を参照)
(18) Oct3/4, Sox2, Lin28 (WO2008/118820を参照)
(19) Oct3/4, Sox2, c-Myc, Esrrb (ここで、EsrrbはEssrrgで置換可能である。Nat. Cell Biol., 11, 197-203 (2009) を参照)
(20) Oct3/4, Sox2, Esrrb (Nat. Cell Biol., 11, 197-203 (2009) を参照)
(21) Oct3/4, Klf4, L-Myc (Proc. Natl. Acad. Sci. U S A., 107(32), 14152-14157 (2010) を参照)
(22) Oct3/4, Klf4, Sox2, L-Myc, Lin28 (WO2011/016588を参照)
(23) Oct3/4, Nanog
(24) Oct3/4 (Cell 136: 411-419 (2009)、Nature, 08436, doi:10.1038 published online(2009)
(25) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, Nanog, Lin28, SV40LT(Science, 324: 797-801 (2009)を参照)
【0054】
上記(1)-(25)において、Oct3/4に代えて他のOctファミリーのメンバー、例えばOct1A、Oct6などを用いることもできる。また、Sox2(またはSox1、Sox3、Sox15、Sox17、Sox18)に代えて他のSoxファミリーのメンバー、例えばSox7などを用いることもできる。さらに上記 (1)-(25)の組合せにおいてc-MycまたはLin28を核初期化物質として含む場合、c-MycまたはLin28に代えてそれぞれL-MycまたはLin28Bを用いることもできる。
【0055】
本発明のiPS細胞樹立効率改善因子と組み合わせて用いられる「核初期化物質」としては、上記(1)-(25)の因子の組合せにおいてKlfファミリーのメンバーが含まれる場合には、これらを除いた残りの因子を含むものが好適に用いられる。また、上記(1)-(24)の組合せにKlfファミリーのメンバーが含まれていない場合には、本発明の樹立効率改善因子と組み合わせて用いられる核初期化物質として、該因子の組合せを用いればよい。
【0056】
また、上記の核初期化物質に加えて任意の他の物質をさらに含む組み合わせも、本発明における「核初期化物質」として好適に用いられる。核初期化の対象となる体細胞が上記(1)-(25)のいずれかにおける構成要素の一部を、核初期化のために十分なレベルで内在的に発現している条件下にあっては、当該構成要素を除いた残りの構成要素のみの組合わせもまた、本発明における「核初期化物質」の範疇に含まれ得る。
【0057】
これらの組み合わせの中で、Octファミリーのメンバー、Soxファミリーのメンバー、Mycファミリーのメンバー、Lin28ファミリーのメンバーおよびNanogから選択される一以上の物質が、好ましい核初期化物質の例として挙げられる。特に、Oct3/4およびSox2の組合せ、Oct3/4、Sox2およびc-Mycの組合せ、Oct3/4、Sox2およびL-Mycの組合せ、またはOct3/4、Sox2、L-MycおよびLin28の組合せが好ましい。
【0058】
なおc-MycはiPS細胞の樹立を促進するが、c-Mycはまた non-iPS transformed cells (partially reprogrammed cells や nullipotent transformed cells)の発生をも促進してしまう。本発明者らはGLIS1をOct3/4,Sox2およびKfl4と共に発現させることにより、マウスおよびヒトのadult skin fibroblastsからのiPS細胞の樹立を劇的に促進することを明らかにしただけでなく、c-Mycと異なりGLIS1は、前述のnon-iPS transformed cellsの発生を促進しないことも明らかにした。従ってc-Mycを使用することなくGLIS1を使用する形態が、特に好ましい。
【0059】
上記の各タンパク性因子のマウス及びヒトcDNA配列情報は、WO 2007/069666に記載のNCBI accession numbersを参照することにより取得することができ(Nanogは当該公報中では「ECAT4」との名称で記載されている。尚、Lin28、Lin28b、Esrrb、Esrrg、L-Mycのマウス及びヒトcDNA配列情報は、それぞれ下記NCBI accession numbersを参照することにより取得できる。)、当業者は容易にこれらのcDNAを単離することができる。
遺伝子名 マウス ヒト
Lin28 NM_145833 NM_024674
Lin28b NM_001031772 NM_001004317
Esrrb NM_011934 NM_004452
Esrrg NM_011935 NM_001438
L-Myc NM_008506 NM_001033081
【0060】
核初期化物質としてタンパク性因子自体を用いる場合には、得られたcDNAを適当な発現ベクターに挿入して宿主細胞に導入し、培養した細胞またはその馴化培養液から組換えタンパク性因子を回収することにより調製することができる。一方、核初期化物質としてタンパク性因子をコードする核酸を用いる場合、得られたcDNAを、上記本発明の核酸性iPS細胞樹立効率改善因子の場合と同様にして、ウイルスベクター、エピゾーマルベクターもしくはプラスミドベクターに挿入して発現ベクターを構築し、核初期化工程に供される。必要に応じて、上記Cre-loxPシステムやpiggyBacトランスポゾンシステムを利用することもできる。尚、核初期化物質として2以上のタンパク性因子をコードする核酸を細胞に導入する場合、各核酸を別個のベクターに担持させてもよいし、複数の核酸をタンデムに繋いでポリシストロニックベクターとすることもできる。後者の場合、効率的なポリシストロニック発現を可能にするために、口蹄疫ウイルスの2A self-cleaving peptideを各核酸の間に連結することが望ましい(例えば、Science, 322, 949-953, 2008を参照)。
【0061】
核初期化物質の体細胞への接触は、(a) 該物質がタンパク性因子である場合、上記本発明のタンパク性iPS細胞樹立効率改善因子と同様にして、また(b) 該物質がタンパク性因子をコードする核酸である場合、上記本発明の核酸性iPS細胞樹立効率改善因子と同様にして、それぞれ行うことができる。また、(c) 核初期化物質が低分子化合物である場合の体細胞への接触は、該低分子化合物を適当な濃度で水性もしくは非水性溶媒に溶解し、ヒトまたは他の哺乳動物より単離した体細胞の培養に適した培地(例えば、約5〜20%の胎仔ウシ血清を含む最小必須培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地、F12培地など)中に、核初期化物質濃度が体細胞において核初期化が起こるのに十分で且つ細胞毒性がみられない範囲となるように該溶液を添加して、細胞を一定期間培養することにより実施することができる。核初期化物質濃度は用いる核初期化物質の種類によって異なるが、約0.1nM〜約100nMの範囲で適宜選択される。接触期間は細胞の核初期化が達成されるのに十分な時間であれば特に制限はないが、通常は陽性コロニーが出現するまで培地に共存させておけばよい。
【0062】
(d) 他のiPS細胞の樹立効率改善物質
従来iPS細胞の樹立効率が低いために、近年、その効率を改善する物質が種々提案されている。よって前記本発明のiPS細胞樹立効率改善因子に加え、他のiPS細胞樹立効率改善物質を体細胞に接触させることにより、iPS細胞の樹立効率をより高めることが期待できる。
【0063】
他のiPS細胞の樹立効率改善物質としては、例えば、VPA以外のヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤[例えば、トリコスタチンA(TSA)、酪酸ナトリウム、MC 1293、M344等の低分子阻害剤、HDACに対するsiRNAおよびshRNA(例、HDAC1 siRNA Smartpool(登録商標)(Millipore)、HuSH 29mer shRNA Constructs against HDAC1 (OriGene)等)等の核酸性発現阻害剤など]、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば5’-azacytidine (5’azaC))(Nat. Biotechnol., 26(7): 795-797 (2008))、G9aヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤[例えば、BIX-01294 (Cell Stem Cell, 2: 525-528 (2008))等の低分子阻害剤、G9aに対するsiRNAおよびshRNA(例、G9a siRNA(human) (Santa Cruz Biotechnology)等)等の核酸性発現阻害剤など]、L-channel calcium agonist (例えばBayk8644) (Cell Stem Cell, 3, 568-574 (2008))、p53阻害剤(例えばp53に対するsiRNA、shRNA、ドミナントネガティブ体など (Cell Stem Cell, 3, 475-479 (2008); Nature 460, 1132-1135 (2009)))、Wnt Signaling activator(例えばsoluble Wnt3a)(Cell Stem Cell, 3, 132-135 (2008))、2i/LIF (2iはmitogen-activated protein kinase signallingおよびglycogen synthase kinase-3の阻害剤; PloS Biology, 6(10), 2237-2247 (2008))、ES細胞特異的miRNA(例えば、miR-302-367クラスター (Mol. Cell. Biol.doi:10.1128/MCB.00398-08)、miR-302 (RNA (2008) 14: 1-10)、miR-291-3p, miR-294およびmiR-295 (以上、Nat. Biotechnol. 27: 459-461 (2009)))等が挙げられるが、それらに限定されない。前記で核酸性の発現阻害剤はsiRNAもしくはshRNAをコードするDNAを含む発現ベクターの形態であってもよい。
【0064】
尚、前記核初期化物質の構成要素のうち、例えばSV40 large T等は、体細胞の核初期化のために必須ではなく補助的な因子であるという点において、iPS細胞の樹立効率改善物質の範疇にも含まれ得る。核初期化の機序が明らかでない現状においては、核初期化に必須の因子以外の補助的な因子について、それらを核初期化物質として位置づけるか、あるいはiPS細胞の樹立効率改善物質として位置づけるかは便宜的であってもよい。即ち、体細胞の核初期化プロセスは、体細胞への核初期化物質およびiPS細胞の樹立効率改善物質の接触によって生じる全体的事象として捉えられるので、当業者にとって両者を必ずしも明確に区別する必要性はないであろう。
【0065】
iPS細胞の樹立効率改善物質の体細胞への接触は、該改善物質が(a) タンパク性因子である場合、(b) 該タンパク性因子をコードする核酸である場合、あるいは(c) 低分子化合物である場合に応じて、本発明のiPS細胞樹立効率改善因子および核初期化物質についてそれぞれ上記したのと同様の方法により、実施することができる。
【0066】
本発明のiPS細胞樹立効率改善因子を含む、iPS細胞の樹立効率改善物質は、該物質の非存在下と比較して体細胞からのiPS細胞樹立効率が有意に改善される限り、核初期化物質と同時に体細胞に接触させてもよいし、また、どちらかを先に接触させてもよい。一実施態様において、例えば、核初期化物質がタンパク性因子をコードする核酸であり、iPS細胞の樹立効率改善物質が化学的阻害物質である場合には、前者は遺伝子導入処理からタンパク性因子を大量発現するまでに一定期間のラグがあるのに対し、後者は速やかに細胞に作用しうることから、遺伝子導入処理から一定期間細胞を培養した後に、iPS細胞の樹立効率改善物質を培地に添加することができる。別の実施態様において、例えば、核初期化物質とiPS細胞の樹立効率改善物質とがいずれもウイルスベクターやプラスミドベクターの形態で用いられる場合には、両者を同時に細胞に導入してもよい。
【0067】
(e) 培養条件による樹立効率の改善
体細胞の核初期化工程において低酸素条件下で細胞を培養することにより、iPS細胞の樹立効率をさらに改善することができる(Cell Stem Cell, 5, p237-241(2009)を参照)。本明細書において「低酸素条件」とは、細胞を培養する際の雰囲気中の酸素濃度が、大気中のそれよりも有意に低いことを意味する。具体的には、通常の細胞培養で一般的に使用される5-10% CO2/95-90%大気の雰囲気中の酸素濃度よりも低い酸素濃度の条件が挙げられ、例えば雰囲気中の酸素濃度が18%以下の条件が該当する。好ましくは、雰囲気中の酸素濃度は15%以下(例、14%以下、13%以下、12%以下、11%以下など)、10%以下(例、9%以下、8%以下、7%以下、6%以下など)、または5%以下(例、4%以下、3%以下、2%以下など)である。また、雰囲気中の酸素濃度は、好ましくは0.1%以上(例、0.2%以上、0.3%以上、0.4%以上など)、0.5%以上(例、0.6%以上、0.7%以上、0.8%以上、0.95以上など)、または1%以上(例、1.1%以上、1.2%以上、1.3%以上、1.4%以上など)である。
【0068】
細胞の環境において低酸素状態を創出する手法は特に制限されないが、酸素濃度の調節可能なCO2インキュベーター内で細胞を培養する方法が最も容易であり、好適な例として挙げられる。酸素濃度の調節可能なCO2インキュベーターは、種々の機器メーカーから販売されている(例えば、Thermo scientific社、池本理化学工業、十慈フィールド、和研薬株式会社などのメーカー製の低酸素培養用CO2インキュベーター)。
【0069】
低酸素条件下で細胞培養を開始する時期は、iPS細胞の樹立効率が正常酸素濃度(20%)の場合に比して改善されることを妨げない限り特に限定されず、体細胞への本発明のiPS細胞樹立効率改善因子および核初期化物質の接触より前であっても、該接触と同時であっても、該接触より後であってもよいが、例えば、体細胞に本発明のiPS細胞樹立効率改善因子および核初期化物質を接触させた直後から、あるいは接触後一定期間(例えば、1ないし10(例、2,3,4,5,6,7,8または9)日)おいた後に低酸素条件下で培養することが好ましい。
【0070】
低酸素条件下で細胞を培養する期間も、iPS細胞の樹立効率が正常酸素濃度(20%)の場合に比して改善されることを妨げない限り特に限定されず、例えば3日以上、5日以上、7日以上または10日以上で、50日以下、40日以下、35日以下または30日以下の期間等が挙げられるが、それらに限定されない。低酸素条件下での好ましい培養期間は、雰囲気中の酸素濃度によっても変動し、当業者は用いる酸素濃度に応じて適宜当該培養期間を調整することができる。また、本発明の一実施態様において、iPS細胞の候補コロニーの選択を、薬剤耐性を指標にして行う場合には、薬剤選択を開始する迄に低酸素条件から正常酸素濃度に戻すことが好ましい。
【0071】
さらに、低酸素条件下で細胞培養を開始する好ましい時期および好ましい培養期間は、用いられる核初期化物質の種類、正常酸素濃度でのiPS細胞樹立効率などによっても変動する。
【0072】
(f) iPS細胞の選択および確認
本発明のiPS細胞樹立効率改善因子と核初期化物質(および他のiPS細胞の樹立効率改善物質)とを接触させた後、細胞を、例えばES細胞の培養に適した条件下で培養することができる。マウス細胞の場合、通常の培地に分化抑制因子としてLeukemia Inhibitory Factor(LIF)を添加して培養を行う。一方、ヒト細胞の場合には、LIFの代わりに塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)および/または幹細胞因子(SCF)を添加することが望ましい。また通常、細胞は、フィーダー細胞として、放射線や抗生物質で処理して細胞分裂を停止させたマウス胎仔由来の線維芽細胞(MEF)の共存下で培養される。MEFとしては、通常STO細胞等がよく使われるが、iPS細胞の誘導には、SNL細胞(McMahon, A. P. & Bradley, A. Cell 62, 1073-1085 (1990))等がよく使われている。フィーダー細胞との共培養は、本発明のiPS細胞樹立効率改善因子および核初期化物質の接触より前から開始してもよいし、該接触時から、あるいは該接触より後(例えば1-10日後)から開始してもよい。
【0073】
iPS細胞の候補コロニーの選択は、薬剤耐性とレポーター活性を指標とする方法と目視による形態観察による方法とが挙げられる。前者としては、例えば、分化多能性細胞において特異的に高発現する遺伝子(例えば、Fbx15、Nanog、Oct3/4など、好ましくはNanogまたはOct3/4)の遺伝子座に、薬剤耐性遺伝子および/またはレポーター遺伝子をターゲッティングした組換え細胞を用い、薬剤耐性および/またはレポーター活性陽性のコロニーを選択するというものである。そのような組換え細胞としては、例えばFbx15遺伝子座にβgeo(β-ガラクトシダーゼとネオマイシンホスホトランスフェラーゼとの融合タンパク質をコードする)遺伝子をノックインしたマウス由来のMEFやTTF(Takahashi & Yamanaka, Cell, 126, 663-676 (2006))、あるいはNanog遺伝子座に緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子とピューロマイシン耐性遺伝子を組み込んだトランスジェニックマウス由来のMEFやTTF(Okita et al., Nature, 448, 313-317 (2007))等が挙げられる。一方、目視による形態観察で候補コロニーを選択する方法としては、例えばTakahashi et al., Cell, 131, 861-872 (2007)に記載の方法が挙げられる。レポーター細胞を用いる方法は簡便で効率的ではあるが、iPS細胞がヒトの治療用途を目的として作製される場合、安全性の観点から目視によるコロニー選択が望ましい。
【0074】
選択されたコロニーの細胞がiPS細胞であることの確認は、上記したNanog(もしくはOct3/4)レポーター陽性(ピューロマイシン耐性、GFP陽性など)および目視によるES細胞様コロニーの形成によっても行い得るが、より正確を期すために、アルカリフォスファターゼ染色や、各種ES細胞特異的遺伝子の発現を解析したり、選択された細胞をマウスに移植してテラトーマ形成を確認する等の試験を実施することもできる。
【0075】
本発明のiPS細胞樹立効率改善因子をコードする核酸を体細胞に導入した場合、得られるiPS細胞は、当該外来性核酸を含む点で、従来公知のiPS細胞とは異なる新規細胞である。特に、当該外来性核酸がレトロウイルスやレンチウイルス等を用いて体細胞に導入された場合、当該外来性核酸は通常、得られるiPS細胞のゲノム中に組み込まれているので、外来性核酸を含むという形質は安定に保持される。
【0076】
(g) iPS細胞の用途
このようにして樹立されたiPS細胞は、種々の目的で使用することができる。例えば、ES細胞などの多能性幹細胞で報告されている分化誘導法(例えば、神経幹細胞への分化誘導法としては、特開2002-291469、膵幹様細胞への分化誘導法としては、特開2004-121165、造血細胞への分化誘導法としては、特表2003-505006に記載される方法などがそれぞれ例示される。胚葉体の形成による分化誘導法としては、特表2003-523766に記載の方法などが例示される。)を利用して、iPS細胞から種々の細胞(例、心筋細胞、血液細胞、神経細胞、血管内皮細胞、インスリン分泌細胞等)への分化を誘導することができる。したがって、患者本人やHLAの型が同一もしくは実質的に同一である他人から採取した体細胞を用いてiPS細胞を誘導すれば、そこから所望の細胞(即ち、該患者が罹病している臓器の細胞や疾患に対する治療効果を発揮する細胞など)に分化させて該患者に移植するという、自家移植による幹細胞療法が可能となる。さらに、iPS細胞から分化させた機能細胞(例、肝細胞)は、対応する既存の細胞株よりも実際の生体内での該機能細胞の状態をより反映していると考えられるので、医薬候補化合物の薬効や毒性のin vitroスクリーニング等にも好適に用いることができる。
【0077】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されないことは言うまでもない。
【実施例】
【0078】
[参考例1: 新規初期化因子のスクリーニング]
Goshimaらが作製したヒトGateway(登録商標)エントリークローン(N. Goshima et al., Nature methods, 2008記載のライブラリーを用いる。Y. Maruyama et al., Nucleic Acid Res., 2009でデータベース公開)をもとに、図1に記載の方法で、ヒトの網羅的遺伝子約20000クローンを整列化した。即ち、ヒトGateway(登録商標)エントリークローン中全長ORFを含む約50000クローンを、NCBI RefSeqの37900配列(24200遺伝子)に対してcoverage 80%以上、アミノ酸同一性95%以上の基準でblastp検索をかけ、ORFの3’末端に終止コドンを持つN-typeと、終止コドンを持たないF-typeの各type内で配列に重複のない、約20000エントリークローンからなるサブライブラリーを構築した。この整列化した約20000エントリークローンを、バイオインフォマティクス手法によりタンパク質キナーゼ、タンパク質フォスファターゼ、転写因子、GPCR、及びその他のクローン群に分類し、転写因子のエントリークローンからなるサブライブラリー(ヒトの全転写因子の50%以上をカバー)を構築した(図1)。この転写因子のサブライブラリーから、エントリークローンごとに、図2に示すようにpMXs-GWデスティネーションベクターとのLR反応により発現クローンDNAを作製し、この反応液を大腸菌DH5αに導入し、クローン化して転写因子発現ライブラリーを構築した(初期化因子スクリーニング用転写因子発現ライブラリー)。また、ヒトOct3/4, Sox2, Klf4, c-Mycの各遺伝子も同じpMXs-GWに組み込み、各発現クローンを構築した。このDNAよりリコンビナントレトロウィルスを作製し、以下の実験に用いた。
【0079】
iPS細胞誘導実験は、Nanog-GFPマウス(Okita et al., Nature,448, 313-317 (2007))の皮膚由来線維芽細胞を用いて行った。その際、フィーダー細胞であるMSTO(マイトマイシンCで処理して細胞分裂を止めたSNL細胞)上でレトロウイルスの感染を行う系(以下MSTO法、Cell, 126, 663-676 (2006))と、感染時はフィーダー細胞を用いず、感染後、細胞を播き直した後にMSTO上で培養を行う系(以下Reseed法、Nature Biotech., 26, p101-106 (2008))の両方の系で実験を行った。
【0080】
1stスクリーニングとして24-well plateでiPS細胞誘導を行った。Gelatin(Reseed法)またはMSTO上(MSTO法)にNanog-GFPマウスの皮膚由来線維芽細胞を播き、翌日、各種プラスミドから作製したレトロウイルスを感染させた(Day0)。具体的にはOct3/4、Sox2およびc-Mycの3遺伝子と前述の転写因子ライブラリーからの1遺伝子とを、1:1:1:1の割合で感染させた。ネガティブコントロールとしてOct3/4、Sox2およびc-Mycの3遺伝子を1:1:1の割合で感染させた。またポジティブコントロールとしてOct3/4、Sox2、Klf4 およびc-Mycの4遺伝子を1:1:1:1の割合で感染させた。
【0081】
感染から2日目までは10%FBS/DMEMで、3日目からはES培地(Cell, 126, 663-676 (2006))で培養した。はじめにGelatin上に播いた場合(Reseed法)は、3日目にMSTO上に播き直した。以後2日ごとに培地の交換を行い、21日目からはピューロマイシン選択を行い、28日目に細胞の観察を行った。その結果、3遺伝子と共に、サンプルF09(遺伝子名:IRX6)、サンプルG06(遺伝子名:GLIS1)、サンプルH08(遺伝子名:DMRTB1)、サンプルH10(遺伝子名:PITX2)の各遺伝子を導入したウエルにおいて、GFP-positiveのコロニーが現われ、マウスのiPS細胞が樹立されたことが確認された。また6-well plateで再度iPS誘導を行ったところ、同様にGFP-positiveコロニーが現われ、再現性が得られた。各iPS細胞のコロニー形成時、1継代目および2継代目のGFP陽性コロニー像および位相差像を、図3および図4に示す。
【0082】
以上の結果より、これら4つの因子はKlf4の代替えとなる新規初期化因子であることが明らかとなった。尚、アダルトマウスの皮膚由来線維芽細胞の代わりにMEF(マウス胎児由来線維芽細胞)やHDF(ヒトの皮膚由来線維芽細胞)を用いて同様の実験を行った場合も、同様にiPS細胞(GFP陽性コロニー)が樹立された。
【0083】
[参考例2: 樹立したマウスiPS細胞の解析]
QIAGEN社の「Gentra Puregene Cell Kit」を用いてゲノムを抽出し、PCR酵素(Takara Ex Taq)を用いて、参考例1で樹立したiPS細胞を用いてGenomic-PCRを行った。結果を図5および図6に示す。いずれのiPS細胞においても導入した遺伝子のみがゲノム上に挿入されており、導入に用いなかった遺伝子はゲノム上に挿入されていないことが確認された。なお、G6-1クローン(遺伝子名:GLIS1)においては、導入に用いたc-Mycがゲノム上に挿入されていなかった(図5)。レトロウイルスベクターはゲノム上に挿入されなければ安定的に発現しないので、このクローンG6-1はOct3/4, Sox2およびGLIS1の3因子のみの発現で樹立されたと考えられた。
【0084】
次に、Rever Tra Ace kit(Takara)を使用してRT-PCR解析を行った。結果を図7および図8に示す。参考例1で樹立したiPS細胞は、いずれもES細胞特異的なマーカー遺伝子であるNanog, Oct3/4, Sox2, Rex1およびECAT1を発現していた。以上の結果から、新規初期化因子を用いて樹立した細胞はiPS細胞であることが確認された。
【0085】
[実施例1:G6とKlf4の併用によるマウスiPS細胞の樹立]
(a) マウスiPS細胞樹立効率に及ぼすG6とKlf4の併用効果
参考例1で同定されたKlf4の代替えとなる新規初期化因子であるG6(遺伝子名:GLIS1)、H8(遺伝子名:DMRTB1)およびH10(遺伝子名:PITX2)をKlf4と組み合わせた場合にiPS細胞が樹立されるかどうかを検討した。実験は参考例1と同じNanog-GFPマウスの皮膚由来線維芽細胞を用い、Reseed法で行った。導入に用いた遺伝子の組み合わせを以下に示す。
(1) Oct3/4、Sox2
(2) Oct3/4、Sox2、G6(遺伝子名:GLIS1)
(3) Oct3/4、Sox2、H8(遺伝子名:DMRTB1)
(4) Oct3/4、Sox2、H10(遺伝子名:PITX2)
(5) Oct3/4、Sox2、Klf4
(6) Oct3/4、Sox2、Klf4、G6
(7) Oct3/4、Sox2、Klf4、H8
(8) Oct3/4、Sox2、Klf4、H10
【0086】
初期化に使用するレトロウイルスは、前日に100mm培養ディッシュ (Falcon) の1枚当り2.5 x 106で播種したPlat-E細胞 (Morita, S. et al., Gene Ther. 7, 1063-1066) にレトロウイルス発現ベクター (pMXs-Oct3/4, pMXs-Sox2, pMXs-Klf4, pMXs-G6, pMXs-H8, pMXs-H10) を個々に導入して作製した。培養液はDMEM/10% FCS (DMEM (Nacalai tesque) にウシ胎仔血清を10%加えたもの) を使用し、37℃、5% CO2で培養した。
【0087】
ベクターの導入のためにFuGene6 transfection reagent (Roche) 27μLをOpti-MEM I Reduced-Serum Medium (Invitrogen) 300μLに入れ、細胞を室温で5分間静置した。その後、各発現ベクターを9μg加え、細胞をさらに室温で15分静置してからPlat-Eの培養液に加えた。2日目にPlat-Eの上清を新しい培地に換え、3日目に培養上清を回収して0.45μm sterile filter (Whatman) で濾過し、polybrene (Nacalai) を4μg/mLとなるように加えてウイルス液とした。
【0088】
Nanog-GFPマウスの皮膚由来線維芽細胞は、マウスの背・腹部分の皮膚から真皮を剥がし、ゼラチンコートしたディッシュ上に置いて培養することにより得られた細胞を使用した。
【0089】
前記線維芽細胞を100mmデッシュ (Falcon) に1枚当り8.0 x 105で播種した。培養液はDMEM/10% FCSを使用し、37℃、5% CO2で培養した。翌日、レトロウイルス液(前記(1)〜(8)のいずれかの組み合わせ)を加え、一晩感染させて遺伝子を導入した。
【0090】
ウイルス感染の翌日、レトロウイルス液を除去し、DMEM/10% FCSに交換して感染3日目までDMEM/10% FCSで培養した。感染から3日目に培地を除き、PBS 10mLを加えて細胞を洗浄した。PBSを除いた後、0.25% Trypsin/ 1mM EDTA (Invitrogen)を加えて、37℃で5分間程度反応させた。細胞が浮き上がったらES細胞用培地(DMEM (Nacalai tesque) に15%牛胎仔血清、2mM L-グルタミン(Invitrogen)、100μM 非必須アミノ酸 (Invitrogen)、100μM 2-メルカプトエタノール (Invitrogen)、50U/mL ペニシリン (Invitrogen) と50μg/mL ストレプトマイシン (Invitrogen) を加えたもの)を加えて懸濁し、あらかじめフィーダー細胞を播いておいた100mmデッシュに播いた。なおフィーダー細胞にはマイトマイシンCで処理して、細胞分裂を止めたSNL細胞(McMahon, A. P. & Bradley, A. Cell 62, 1073-1085 (1990))を用いた。以後コロニーが観察できるようになるまで2日ごとにES細胞用培地の交換を行い、感染から26〜28日目にGFP陽性コロニー数をカウントした。3回の独立した実験結果を表3および図9に示す(図9は表3をグラフ化したものである。コントロールのみ4回の独立した実験結果を示す)。
【0091】
【表3】
【0092】
Oct3/4およびSox2にG6、H8またはH10を加えても、この条件ではiPS細胞が樹立できないか、樹立できてもごくわずかであった。またOct3/4、Sox2およびKlf4にH8またはH10を加えても、加えない場合(Oct3/4、Sox2およびKlf4)に比べてiPSコロニー数は上昇しなかった。それに対してOct3/4、Sox2およびKlf4にG6を加えることにより、iPSコロニー数の劇的な上昇が認められた。この値はOct3/4およびSox2にG6を加えた場合のコロニー数と、Oct3/4およびSox2にKlf4を加えた場合のコロニー数とを合わせた値をはるかに超える値であり、Klf4とG6とを併用することによりiPS細胞樹立効率に対する相乗効果が認められることが明らかになった。
【0093】
(b) 3初期化因子(OSK)によるマウスiPS細胞樹立に及ぼすGLIS1とc-Mycの樹立改善効果の比較
次に、OSKでのiPSC樹立を促進する能力についてGLIS1とc-Mycとを比較した。アダルトマウスの皮膚由来線維芽細胞では、形成されたGFP陽性コロニー数による評価で、GLIS1の効果はc-Mycの効果と同等であった(図10)。GLIS1とc-Mycの両方をOSKと共に共導入した場合のGFP陽性コロニー数の相乗的な増加も観察された。
【0094】
次に、導入後に出現した全コロニーに対するGFP陽性コロニーの割合を解析した。一元配置反復測定分散分析検定およびポストホック・ボンフェローニ検定を分析のために用いた。0.05未満(*)または0.01(**)未満のP値を統計的に有意な差とした。結果を図11に示す。重要なことに、GLIS1はGFP陽性コロニーの形成を特異的に促進し、部分的に初期化された細胞または形質転換された細胞のいずれかを表すGFP陰性コロニーの形成を促進しなかった(図11)。対照的に、c-MycはGFP陽性コロニーよりもGFP陰性コロニーの数を顕著に増加させた(図11)。c-Mycのこの望ましくない効果は、GLIS1を共発現させた場合に抑制された。同様の結果がマウス胚性線維芽細胞(MEF)で得られた(図13および図14)。GFP陽性コロニーを図12および図15に示す。
OSK + GLIS1によりMEFから樹立したiPS細胞はgermline-competentであることも確認された。
【0095】
[実施例2:G6とKlf4の併用によるヒトiPS細胞の樹立]
(a) ヒトiPS細胞樹立効率に及ぼすG6とKlf4の併用効果
Klf4とG6(GLIS1)との併用による相乗効果がヒト細胞に対しても認められるかどうか、成人の皮膚由来線維芽細胞(HDF)を用いて検討を行った。導入に用いた遺伝子の組み合わせを以下に示す。
(1) Oct3/4、Sox2、c-Myc
(2) Oct3/4、Sox2、c-Myc、Klf4
(3) Oct3/4、Sox2、c-Myc、G6(遺伝子名:GLIS1)
(4) Oct3/4、Sox2、c-Myc、Klf4、G6
【0096】
HDFに対して、Takahashi, K. et al., Cell, 131: 861-872 (2007)に記載の方法に従い、レンチウイルス(pLenti6/UbC-Slc7a1)を用いて、マウスエコトロピックウイルスレセプターSlc7a1遺伝子を発現させた。この細胞(2.6×105個/60mm dish)に対して、Takahashi, K. et al., Cell, 131: 861-872 (2007) に記載の方法に従い、前記(1)〜(4)の組み合わせの遺伝子をレトロウイルスで導入した。ウイルス感染から6日後に細胞を回収し、フィーダー細胞上への蒔き直しを行った(5×104個または5×105個/100 mmディッシュ)。フィーダー細胞にはマイトマイシンCで処理して、細胞分裂を止めたSNL細胞(McMahon, A. P. & Bradley, A. Cell 62, 1073-1085 (1990))を用いた。感染7日後から霊長類ES細胞培養用培地 (ReproCELL) に4 ng/mLの組換えヒトbFGF(WAKO)を加えた培地で培養を行った。感染から30〜35日目にES細胞様のコロニー数をカウントした。3回の独立した実験結果を図16(ES様コロニー)および図17(非ES様コロニー)に、またOct3/4、Sox2、c-Myc、Klf4およびG6で樹立したiPSコロニーの位相差像を図18に、それぞれ示す。Oct3/4、Sox2およびc-MycにKlf4を加えた場合、および、Oct3/4、Sox2およびc-MycにG6(GLIS1)を加えた場合に比して、Oct3/4、Sox2およびc-MycにKlf4とG6の両方を加えることにより、格段に多数のES細胞様コロニーが出現した(図16)。またこれらのコロニーはES細胞様の形態を示した(図18)。以上のようにヒト細胞においても、Klf4とG6とを併用することによりiPS細胞樹立効率に対する相乗効果が認められた。
【0097】
(b) 3初期化因子(OSK)によるヒトiPS細胞樹立に及ぼすGLIS1とc-Mycの樹立改善効果の比較
次に、実施例1(b)に記載した手法と同様の手法で、OSKと組み合わせてiPSCを樹立する場合における、GLIS1による樹立促進効果とc-Mycによる樹立促進効果とを比較した。ヒト成人由来の線維芽細胞を用いた場合において、GLIS1はc-Mycと同等の効果を示し、OSKと共導入されたときにESC様コロニーの形成を促進した(図19)。重要なことに、GLIS1はESC様コロニーの形成を特異的に促進し、非ESC様コロニーの形成を促進しなかった。対照的に、c-MycはESC様コロニーよりも非ESC様コロニーの数を顕著に増加させた(図20)。OSK + Gis1により生じたヒトESC様コロニーを図21に示す。
【0098】
次に、QIAGENのGentra Puregene Cell Kitを用いてゲノムを抽出し、PCR用酵素(Takara Ex Taq)を用いてゲノミックPCRを行った。結果を図22に示す。樹立されたヒトiPSC株において導入遺伝子の存在が確認された(図22)。Rever Tra Ace kit (Takara)を用いてRT-PCR解析を行った。結果を図23に示す。OSK + GLIS1により生じた細胞は、Oct3/4、Sox2、NanogおよびRex1を含む未分化ESCマーカー遺伝子を発現した(図23)。
【0099】
続いてDNAマイクロアレイ解析を行った。トータルRNAをCy3で標識し、製造者のプロトコルに従ってWhole Human Genome Microarray(Agilent)にハイブリダイズさせた。G2505C Microarray Scanner System (Agilent)を用いてアレイをスキャンした。データ解析はGeneSpring GX11.0.1ソフトウェアプログラム(Agilent)を用いて行った。結果を図24に示す。OSK + GLIS1により樹立された細胞の全体的な遺伝子発現は、OSKMで生じたiPSCと類似していた(図24)。次に、以前に記載されたようにしてテラトーマ形成を行った(Cell, 131(5), 861-872 (2007))。OSK + GLIS1により生じた細胞は、3胚葉全ての様々な組織を含むテラトーマを生じた(図25)。以上の結果により、GLIS1はOSKによるヒトiPSCの樹立を強力かつ特異的に促進することが実証された。
【0100】
実施例3:GLIS1の発現および機能解析
次に、GLIS1の発現パターンを調べた。マウス発現配列タグ(EST)データベース解析により、GLIS1の表示は接合子、特に受精卵に偏っていることが予測された(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/UniGene/ESTProfileViewer.cgi?uglist=Mm.331757; 2010年4月24日現在)。また、MGIにより提供されるGene Expression Dataは、第二減数分裂中期の卵母細胞におけるGLIS1の中程度の発現、2細胞胚における弱い発現、および8細胞〜E4.5の胚では発現は検出されないことを示した(http://www.informatics.jax.org/searches/expression.cgi?32989; 2010年4月24日現在)。これらのウェブベースの解析は、GLIS1が卵母細胞および1細胞胚において特異的に発現することを強く示した。これらの知見を実験的に確かめるために、未受精卵、1細胞胚、2細胞胚、および胚盤胞から、ならびに腎臓、胎盤、脳、肺、肝臓、脾臓および卵巣を含むアダルトマウスのいくつかの組織からトータルRNAを単離した。また、マウスESC、MEF、および成人皮膚由来線維芽細胞から単離したトータルRNAも用いた。リアルタイムPCR解析により、1細胞胚および未受精卵でGLIS1の最も高い発現が検出され(図26)、2細胞胚および胎盤組織で穏やかな発現レベルが検出され(図26)、腎臓、卵巣、ESC、MEF、および皮膚由来線維芽細胞を含むいくつかの組織での発現は弱かった(図26)。これらのデータにより、GLIS1 RNAは未受精卵および1細胞胚において豊富であることが確かめられた。
【0101】
線維芽細胞において内因性GLIS1の発現レベルは低いが、内因性GLIS1がOSKによるiPSC樹立の際に役割を果たしているかどうかを次に調べた。そのためにいくつかのレトロウイルスベクターを構築し、GLIS1 shRNAを発現させた。shRNAによるノックダウンは以前に記載されたようにして行った(Nature, 460(7259), 1132-1135 (2009))。shRNA2 (標的配列(配列番号3の822-842番目の位置): ggcctcaccaaccctgcacct; 配列番号13)およびshRNA6 (標的配列 (配列番号3の1457-1477番目の位置): gcccttcaatgcccgctacaa; 配列番号14)をアダルトマウスの皮膚由来線維芽細胞にトランスフェクトした場合、それらは効果的にGLIS1を抑制したが、shRNA4 (標的配列 (配列番号3の857-877番目の位置): gggcaatgaacccatctcaga; 配列番号15)の効果はより低かった(図27、対応のあるt検定を統計解析のために用いた)。次に、Nanog-GFPレポーターを含む線維芽細胞に、これらのshRNAの各々をOSKと共に導入したところ、shRNA2およびshRNA6は、GFP陽性コロニー数を有意に減少させた(図28)。shRNA4で観察された効果はより弱かった。この結果は、内因性GLIS1はOSKによるiPSC樹立の際に補助的役割を果たすことを示唆する。
【0102】
本発明を好ましい態様を強調して説明してきたが、好ましい態様が変更され得ることは当業者にとって自明であろう。本発明は、本発明が本明細書に詳細に記載された以外の方法で実施され得ることを意図する。したがって、本発明は添付の「特許請求の範囲」の精神および範囲に包含されるすべての変更を含むものである。
【0103】
ここで述べられた特許および特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、ここに引用されたことによって、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
【0104】
本出願は米国仮特許出願第61/305,107号および同第61/379,949号に基づくものであり、それらの出願の内容は、ここに引用されたことによって本明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工多能性幹細胞(以下、iPS細胞という)の樹立効率の改善方法およびそのための薬剤に関する。より詳細には、本発明は、GLISファミリーのメンバーおよびKlfファミリーのメンバーを用いたiPS細胞の樹立効率改善方法、およびそのための薬剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
近年、マウスおよびヒトのiPS細胞が相次いで樹立された。Takahashi及びYamanakaは、Fbx15遺伝子座にネオマイシン耐性遺伝子をノックインしたレポーターマウス由来の線維芽細胞に、Oct3/4, Sox2, Klf4及びc-Myc遺伝子を導入し強制発現させることによって、iPS細胞を誘導した(Takahashi, K. and Yamanaka, S., Cell, 126: 663-676 (2006))。Okitaらは、Fbx15よりも多能性細胞に発現が限局しているNanogの遺伝子座に緑色蛍光タンパク質(GFP)及びピューロマイシン耐性遺伝子を組み込んだトランスジェニックマウスを作製し、該マウス由来の線維芽細胞で上記4遺伝子を強制発現させ、ピューロマイシン耐性かつGFP陽性の細胞を選別することにより、遺伝子発現やエピジェネティック修飾が胚性幹(ES)細胞とほぼ同等のiPS細胞(Nanog iPS細胞)を樹立することに成功した(Okita, K. et al., Nature, 448: 313-317 (2007))。同様の結果が他のグループによっても再現された(Wernig, M. et al., Nature, 448: 318-324 (2007); Maherali, N. et al., Cell Stem Cell, 1: 55-70 (2007))。その後、c-Myc遺伝子を除いた3因子によってもiPS細胞を作製できることが明らかとなった(Nakagawa, M. et al., Nat. Biotethnol., 26: 101-106 (2008))。
【0003】
さらに、Takahashiら(Takahashi, K. et al., Cell, 131: 861-872 (2007))は、ヒトの皮膚由来線維芽細胞にマウスと同様の4遺伝子を導入することにより、iPS細胞を樹立することに成功した。一方、Yuらは、Klf4とc-Mycの代わりにNanogとLin28を使用してヒトiPS細胞を作製した(Yu, J. et al., Science, 318: 1917-1920 (2007))。このように、体細胞に特定因子を導入することにより、ヒト及びマウスで、分化多能性においてES細胞と遜色のないiPS細胞を作製できることが示された。
【0004】
以降、iPS細胞の樹立効率向上を目指して様々な試みがなされている。例えばOct3/4, Sox2, Klf4, c-Mycの4因子と共にヒト細胞不死化遺伝子として知られるTERTとSV40ラージT抗原を導入してiPS細胞を樹立した例(Park, I.H. et al., Nature, 451: 141-146 (2008))や、前記4因子にNanogおよびLin28を加えてiPS細胞を樹立した例(Liao, J. et al., Cell Research, 18: 600-603 (2008))、さらには前記4因子またはc-Mycを除いた3因子にUTF1を加えてiPS細胞を樹立した例(Zhao, Y. et al., Cell Stem Cell, 3: 475-479 (2008))などが挙げられる。しかしながら、未だ十分な改善がなされていないのが現状である。
【発明の概要】
【0005】
発明の要約
本発明者らは以前より、ES細胞等の多能性細胞で特異的に発現する遺伝子に拘らず、広く転写因子の遺伝子ライブラリーの中から、Klf4の代替因子としてiPS細胞を樹立することができる遺伝子を網羅的に探索しており、GLISファミリーに属する遺伝子(例:GLIS1)、PTXファミリーに属する遺伝子(例:PITX2)、またはDMRT-like family B with proline-rich C-terminal, 1遺伝子(DMRTB1)を、Oct3/4, Sox2及びc-Mycの3遺伝子とともにマウスおよびヒトの皮膚由来線維芽細胞に導入した場合にiPS細胞を効率よく樹立することができたことから、これらの転写因子を、Klf4の機能を代替し得る新規核初期化物質として同定するに至っている(米国仮出願No.61/208,853、出願日:2009年2月27日および米国仮出願No.61/276,123、出願日:2009年9月8日)。
【0006】
本発明者らは次に、これらKlf4代替因子であるGLIS1、PITX2およびDMRTB1をKlf4と併用した場合のiPS細胞樹立に及ぼす影響を検討した。その結果、PITX2およびDMRTB1はKlf4との併用効果が全く認められなかったのに対して、GLIS1とKlf4とを併用することにより、マウスおよびヒト細胞のいずれに対してもiPS細胞樹立に対する劇的な相乗効果が認められるという予想外の結果が得られた。本発明者らはこれらの知見に基づいて更なる研究を行い、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りのものである。
[1] 以下の(1)及び(2):
(1)GLISファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
(2)Klfファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
を体細胞に接触させることを含む、iPS細胞の樹立効率改善方法。
[2] 前記(1)の物質が、GLIS family zinc finger 1 (GLIS1) または該GLIS1をコードする核酸を含む、上記[1]記載の方法。
[3] 前記(2)の物質が、Klf4または該Klf4をコードする核酸を含む、上記[1]または[2]記載の方法。
[4] 以下の(1)及び(2):
(1)GLISファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
(2)Klfファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
を含有してなる、iPS細胞の樹立効率改善剤。
[5] 前記(1)の物質が、GLIS1または該GLIS1をコードする核酸を含む、上記[4]記載の改善剤。
[6] 前記(2)の物質が、Klf4または該Klf4をコードする核酸を含む、上記[4]または[5]記載の改善剤。
[7] 以下の(1)、(2)及び(3):
(1)GLISファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
(2)Klfファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
(3)前記(1)及び(2)の物質と組み合わせることにより体細胞からiPS細胞を誘導しうる核初期化物質、
を体細胞に接触させることを含む、iPS細胞の製造方法。
[8] 前記(1)の物質が、GLIS1または該GLIS1をコードする核酸を含む、上記[7]記載の方法。
[9] 前記(2)の物質が、Klf4または該Klf4をコードする核酸を含む、上記[7]または[8]記載の方法。
[10] 前記(3)の核初期化物質が、Octファミリーのメンバー、Soxファミリーのメンバー、Mycファミリーのメンバー、Lin28ファミリーのメンバーおよびNanog、並びにそれらをコードする核酸からなる群より選択される、上記[7]〜[9]のいずれかに記載の方法。
[11] 前記(3)の核初期化物質が、Oct3/4またはそれをコードする核酸を含む、上記[7]〜[9]のいずれかに記載の方法。
[12] 前記(3)の核初期化物質が、Oct3/4およびSox2、またはそれらをコードする核酸を含む、上記[11]記載の方法。
[13] 前記(3)の核初期化物質が、Oct3/4、Sox2およびc-Myc、またはそれらをコードする核酸を含む、上記[11]記載の方法。
[14] 以下の(1)、(2)及び(3):
(1)GLISファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
(2)Klfファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
(3)前記(1)及び(2)の物質と組み合わせることにより体細胞からiPS細胞を誘導しうる核初期化物質、
を含有してなる、体細胞からのiPS細胞の誘導剤。
[15] 前記(1)の物質が、GLIS1または該GLIS1をコードする核酸を含む、上記[14]記載の剤。
[16] 前記(2)の物質が、Klf4または該Klf4をコードする核酸を含む、上記[14]または[15]記載の剤。
[17] 前記(3)の核初期化物質が、Octファミリーのメンバー、Soxファミリーのメンバー、Mycファミリーのメンバー、Lin28ファミリーのメンバーおよびNanog、並びにそれらをコードする核酸からなる群より選択される、上記[14]〜[16]のいずれかに記載の剤。
[18] 前記(3)の核初期化物質が、Oct3/4またはそれをコードする核酸を含む、上記[14]〜[16]のいずれかに記載の剤。
[19] 前記(3)の核初期化物質が、Oct3/4およびSox2、またはそれらをコードする核酸を含む、上記[18]記載の剤。
[20] 前記(3)の核初期化物質が、Oct3/4、Sox2およびc-Myc、またはそれらをコードする核酸を含む、上記[18]記載の剤。
[21] 以下の(1)及び(2):
(1)GLISファミリーのメンバーをコードする外来性核酸からなる群より選択される1種以上の核酸、
(2)Klfファミリーのメンバーをコードする外来性核酸からなる群より選択される1種以上の核酸、
を含む、iPS細胞。
[22] 前記外来性核酸がゲノムに組み込まれている、上記[21]記載のiPS細胞。
[23] 上記[21]または[22]記載のiPS細胞に分化誘導処理を行い、体細胞に分化させることを含む、体細胞の製造方法。
[24] 下記の(1)および(2):
(1) 上記[7]〜[13]のいずれかに記載の方法によりiPS細胞を製造する工程、および
(2) 上記工程(1)で得られたiPS細胞に分化誘導処理を行い、体細胞に分化させる工程、
を含む、体細胞の製造方法。
[25] iPS細胞の樹立効率改善のための、以下の(1)及び(2):
(1) GLISファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
(2) Klfファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
の使用。
[26] iPS細胞の樹立効率改善のための、GLISファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質の使用であって、該物質を、Klfファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質とともに体細胞に接触させることを特徴とする、使用。
[27] iPS細胞の製造のための、以下の(1)、(2)及び(3):
(1)GLISファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
(2)Klfファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
(3)前記(1)及び(2)の物質と組み合わせることにより体細胞からiPS細胞を誘導しうる核初期化物質、
の使用。
[28] iPS細胞の製造のための、以下の(1)及び(2):
(1)GLISファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
(2)Klfファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
の使用であって、該因子を、前記(1)及び(2)の物質と組み合わせることにより体細胞からiPS細胞を誘導しうる核初期化物質とともに体細胞に接触させることを特徴とする、使用。
[29] iPS細胞の製造のための、(1)GLISファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質の使用であって、該物質を、(2)Klfファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、および、前記(1)及び(2)の物質と組み合わせることにより体細胞からiPS細胞を誘導しうる核初期化物質とともに体細胞に接触させることを特徴とする、使用。
[30] 体細胞の製造における、上記[21]または[22]記載のiPS細胞の使用。
[31] 体細胞の製造における細胞ソースとしての、上記[21]または[22]記載のiPS細胞。
【0008】
前述のように、本発明のiPS細胞樹立効率改善剤は、体細胞からのiPS細胞の樹立効率を顕著に改善することができるので、例えば、自家移植によるヒト移植医療への応用に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、ヒトGateway(登録商標)エントリークローン(N. Goshima et al., Nature methods, 2008)から機能別エントリークローンを絞り込むまでのステップを示した概念図である。
【図2】図2は、転写因子のエントリークローンから体細胞初期化因子スクリーニング用の転写因子ライブラリーを作製した手順を示す図である。
【図3】図3は、3遺伝子(Oct3/4, Sox2, c-Myc)と、G06(遺伝子名:GLIS1)、H08(遺伝子名:DMRTB1)またはH10(遺伝子名:PITX2)との計4種の遺伝子をレトロウイルスでNanog-GFPマウスの皮膚由来線維芽細胞に導入して得られたGFP陽性コロニーの形態を示す写真である。「Klf-G6-1」は3遺伝子と共にG06(遺伝子名:GLIS1)を導入して得られたiPS細胞クローンを、「Klf-H8-2」は3遺伝子と共にH08(遺伝子名:DMRTB1)を導入して得られたiPS細胞クローンを、「Klf-H10-1」および「Klf-H10」は3遺伝子と共にH10(遺伝子名:PITX2)を導入して得られたiPS細胞クローンを、それぞれ示す。P0はコロニー樹立時、P1は1継代目(24ウエル)、P2は2継代目(6ウエル)の写真を示す。それぞれ3枚ずつの写真のうち、左はGFP陽性コロニー像、中央は位相差像、右はGFP陽性コロニー像と位相差像とを重ね合わせた写真を示す。Klf-H10-1のみReseed法で樹立し、それ以外はMSTO法で樹立した。
【図4】図4は、3遺伝子(Oct3/4, Sox2, c-Myc)と、F09(遺伝子名:IRX6)、G06(遺伝子名:GLIS1)、H08(遺伝子名:DMRTB1)またはH10(遺伝子名:PITX2)との計4種の遺伝子をレトロウイルスでNanog-GFPマウスの皮膚由来線維芽細胞に導入して得られたGFP陽性コロニーのコロニー樹立時の形態を示す写真である。「Klf-F9」は3遺伝子と共にF09(遺伝子名:IRX6)を導入して得られたiPS細胞クローンを、「Klf-G6-1」および「Klf-G6-2」は3遺伝子と共にG06(遺伝子名:GLIS1)を導入して得られたiPS細胞クローンを、「Klf-H8-1」および「Klf-H8-2」は3遺伝子と共にH08(遺伝子名:DMRTB1)を導入して得られたiPS細胞クローンを、「Klf-H10」は3遺伝子と共にH10(遺伝子名:PITX2)を導入して得られたiPS細胞クローンを、それぞれ示す。「Reseed」はReseed法で樹立した結果を、「MSTO」はMSTO法で樹立した結果を示す。
【図5】図5は、G6-1(Klf-G6-1)、H8-2(Klf-H8-2)およびH10(Klf-H10)の各iPS細胞クローンについてgenomic-PCRを行った結果を示す写真である。図中「skin」は体細胞ソースとして用いた線維芽細胞を示す。また「plasmid」はpMXsに組み込まれた各遺伝子を増幅したポジティブコントロールである。
【図6】図6は、図5とは別のH10(Klf-H10)iPS細胞クローンについてgenomic-PCRを行った結果を示す写真である。図中「skin」は体細胞ソースとして用いた線維芽細胞を示す。また「plasmid」はpMXsに組み込まれた各遺伝子を増幅したポジティブコントロールである。
【図7】図7は、G6-1(Klf-G6-1)、H8-2(Klf-H8-2)およびH10(Klf-H10)の各iPS細胞クローンについてRT-PCRを行った結果を示す写真である。図中「skin」は体細胞ソースとして用いた線維芽細胞を、また「ES」および「iPS」は、マウス由来のES細胞およびiPS細胞を示す。また「Sox2 RT-」はネガティブコントロールである。
【図8】図8は、図7とは別のH10(Klf-H10)iPS細胞クローンについてRT-PCRを行った結果を示す写真である。。図中「skin」は体細胞ソースとして用いた線維芽細胞を、また「ES」および「iPS」は、マウス由来のES細胞およびiPS細胞を示す。また「Sox2 RT-」はネガティブコントロールである。
【図9】図9は、2因子(Oct3/4、Sox2)または3因子(Oct3/4、Sox2、Klf4)にG6(GLIS1)、H8(DMRTB1)またはH10(PITX2)を組み合わせてNanog-GFPマウスの皮膚由来線維芽細胞に導入して樹立したiPS細胞(GFP陽性細胞)のコロニー数をカウントした結果を示すグラフである。インディペンデントな3回(コントロールのみ4回)の実験結果をまとめた。
【図10】図10は、感染の22日後における、示した因子を導入した皮膚由来線維芽細胞に由来するNanog-GFP陽性コロニー数を示す。
【図11】図11は、感染の22日後における、示した因子を導入した皮膚由来線維芽細胞に由来するNanog-GFP陽性コロニーの割合を示す。グラフはインディペンデントな3回の実験の平均を標準偏差(エラーバー)と共に示している。**: p<0.01
【図12】図12は、皮膚由来線維芽細胞に由来するNanog-GFP陽性コロニーを示す(P0; 継代(passage)0)。蛍光像(左);位相差像(中央);マージ像(右)
【図13】図13は、感染の20日後における、示した因子を導入したMEFに由来するNanog-GFP陽性コロニー数を示す。感染の3日後に線維芽細胞をフィーダー細胞上に蒔き直した。
【図14】図14は、感染の20日後における、示した因子を導入したMEFに由来するNanog-GFP陽性コロニーの割合を示す。グラフはインディペンデントな3回の実験の平均を標準偏差(エラーバー)と共に示している。**: p<0.01
【図15】図15は、MEFからのNanog-GFP陽性コロニーを示す(P0; 継代0)。蛍光像(左);位相差像(中央);マージ像(右)
【図16】図16は、3因子(Oct3/4, Sox2, c-Myc)にKlf4及び/又はG6(GLIS1)を組み合わせて成人の皮膚由来線維芽細胞(HDF)に導入して樹立したiPS細胞(ES様細胞)のコロニー数をカウントした結果を示すグラフである。図中「104」はフィーダー細胞上への蒔き直しの数が5×104個/100 mmディッシュの結果を、また「105」は5×105個/100 mmディッシュの結果を示す。インディペンデントな3回の実験結果をまとめた。
【図17】図17は、3因子(Oct3/4, Sox2, c-Myc)にKlf4及び/又はG6(GLIS1)を組み合わせて成人の皮膚由来線維芽細胞(HDF)に導入して樹立された非iPS細胞(非ES様細胞)のコロニー数をカウントした結果を示すグラフである。図中「104」はフィーダー細胞上への蒔き直しの数が5×104個/100 mmディッシュの結果を、また「105」は5×105個/100 mmディッシュの結果を示す。インディペンデントな3回の実験結果をまとめた。
【図18】図18はOct3/4、Sox2、c-Myc、Klf4およびG6で樹立したiPSコロニー(ES様コロニー)の位相差像を示す写真である。
【図19】図19は、感染の約30日後における、示した因子を導入したヒト皮膚由来線維芽細胞(上: 5×104細胞、下: 5×105細胞)に由来するESC様コロニー数を示す。
【図20】図20は、感染の約30日後における、示した因子を導入したヒト皮膚由来線維芽細胞(上: 5×104細胞、下: 5×105細胞)に由来するESC様コロニーの割合を示す。グラフはインディペンデントな3回の実験の平均を標準偏差(エラーバー)と共に示している。*: p<0.05; **: p<0.01
【図21】図21は、OSK + GLIS1により生じたヒトESC様コロニーを示す。
【図22】図22は、樹立されたヒトiPSクローンにおける導入遺伝子のゲノムPCR解析を示す。AHDF: 成人皮膚由来線維芽細胞
【図23】図23は、OSK + GLIS1により生じたヒトiPSCにおけるESCマーカー遺伝子のRT-PCR解析を示す。AHDF: 成人皮膚由来線維芽細胞;201B7: OSKMにより生じたヒトiPSクローン
【図24】図24は、DNAマイクロアレイによる決定で、OSK + GLIS1で生じたiPSCと成人HDF(上)、およびOSK + GLIS1を導入されたiPSCとOSKMを導入されたiPSC(下)の全体的な遺伝子発現を比較した散布図を示す。相関係数(R2)を算出した。
【図25】図25は、OSK + GLIS1で生じたヒトiPSCのテラトーマ形成を示す。
【図26】図26は、様々なマウス組織におけるGLIS1の発現を示す。各マウス組織から単離したトータルRNAを定量的RT-PCRにより調べた。グラフはインディペンデントな4回の実験の平均を標準偏差(エラーバー)と共に示している。
【図27】図27は、GLIS1 shRNAに暴露された皮膚由来線維芽細胞における内因性GLIS1の定量的RT-PCR解析を示す。グラフはインディペンデントな2回の実験の平均を平均誤差(エラーバー)と共に示している。
【図28】図28は、3つの初期化因子(OSK)によるiPSC樹立効率に及ぼすGLIS1 shRNAの効果を示す。GLIS1 shRNAと共にまたは無しでOSKを皮膚由来線維芽細胞に導入した4週間後に、Nanog-GFP陽性コロニー数をカウントした。
【発明を実施するための形態】
【0010】
発明の詳細な説明
本発明は、体細胞の核初期化工程において、(1) GLISファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、および(2) Klfファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質(以下、本発明の樹立効率改善因子ともいう)を該体細胞に接触させることを含む、iPS細胞の樹立効率の改善方法を提供する。ここで体細胞の核初期化は、核初期化物質を体細胞に接触させることにより行われるので、本発明はまた、前記(1)および(2)の物質と共に、(3) 前記(1)および(2)の物質と組み合わせることにより体細胞からiPS細胞を誘導しうる核初期化物質(以下単に、核初期化物質ともいう)を体細胞に接触させることを含む、iPS細胞の製造方法を提供する。尚、本明細書では、前記(3)の物質(核初期化物質)のみではiPS細胞が樹立できず、本発明の樹立効率改善因子とともに体細胞に接触させることによりiPS細胞が樹立される場合も、「樹立効率の改善」に該当するものとして取り扱う。
【0011】
(a) 体細胞ソース
本発明においてiPS細胞作製のための出発材料として用いることのできる体細胞は、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、サル、ウシ、ブタ、ラット、イヌ等)由来の生殖細胞以外のいかなる細胞であってもよく、例えば、角質化する上皮細胞(例、角質化表皮細胞)、粘膜上皮細胞(例、舌表層の上皮細胞)、外分泌腺上皮細胞(例、乳腺細胞)、ホルモン分泌細胞(例、副腎髄質細胞)、代謝・貯蔵用の細胞(例、肝細胞)、境界面を構成する内腔上皮細胞(例、I型肺胞細胞)、内鎖管の内腔上皮細胞(例、血管内皮細胞)、運搬能をもつ繊毛のある細胞(例、気道上皮細胞)、細胞外マトリックス分泌用細胞(例、線維芽細胞)、収縮性細胞(例、平滑筋細胞)、血液と免疫系の細胞(例、Tリンパ球)、感覚に関する細胞(例、桿細胞)、自律神経系ニューロン(例、コリン作動性ニューロン)、感覚器と末梢ニューロンの支持細胞(例、随伴細胞)、中枢神経系の神経細胞とグリア細胞(例、星状グリア細胞)、色素細胞(例、網膜色素上皮細胞)、およびそれらの前駆細胞(例、組織前駆細胞)等が挙げられる。細胞の分化の程度や細胞を採取する動物の齢などに特に制限はなく、未分化な前駆細胞(体性幹細胞も含む)であっても、最終分化した成熟細胞であっても、同様に本発明における体細胞の起源として使用することができる。ここで未分化な前駆細胞としては、たとえば神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、歯髄幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞)が挙げられる。
【0012】
体細胞を採取するソースとなる哺乳動物個体は特に制限されないが、得られるiPS細胞がヒトの再生医療用途に使用される場合には、拒絶反応が起こらないという観点から、患者本人またはHLAの型が同一もしくは実質的に同一である他人から体細胞を採取することが特に好ましい。ここでHLAの型が「実質的に同一」とは、免疫抑制剤などの使用により、該体細胞由来のiPS細胞から分化誘導することにより得られた細胞を患者に移植した場合に移植細胞が生着可能な程度にHLAの型が一致していることをいう。たとえば主たるHLA(例えばHLA-A、HLA-BおよびHLA-DRの3遺伝子座)が同一である場合などが挙げられる(以下同じ)。また、ヒトに投与(移植)しない場合、例えば、患者の薬剤感受性や副作用の有無を評価するためのスクリーニング用の細胞のソースとしてiPS細胞を使用する場合には、同様に患者本人または薬剤感受性や副作用と相関する遺伝子多型が同一である他人から体細胞を採取することが望ましい。
【0013】
哺乳動物から分離した体細胞は、核初期化工程に供するに先立って、細胞の種類に応じてその培養に適した自体公知の培地で前培養することができる。そのような培地としては、例えば、約5〜20%の胎仔ウシ血清を含む最小必須培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地、F12培地などが挙げられるが、それらに限定されない。本発明の樹立効率改善因子および核初期化物質(さらに必要に応じて、後述する他のiPS細胞の樹立効率改善物質)との接触に際し、例えば、カチオニックリポソームなど導入試薬を用いる場合には、導入効率の低下を防ぐため、無血清培地に交換しておくことが好ましい場合がある。
【0014】
(b) 本発明のiPS細胞樹立効率改善因子
本発明におけるGLISファミリーは、5つのC2H2型 (Cys2-His2-type) Zincフィンガー領域を有するKruppel-like zinc finger familyであり、Gli transcription factorへの類似性からこのように命名された(Glis= Gli similar、Kim, Y.S. et al., J. Biol. Chem., 277(34), 30901-30913 (2002))。GLISファミリーは胚発生の過程における種々の遺伝子発現を正もしくは負に制御する転写因子で構成される。この遺伝子ファミリーのメンバーとしては、例えば、GLIS family zinc finger 1(GLIS1)、GLIS2、GLIS3などが挙げられ、GLIS1が好ましく例示されるが、これに限定されない。尚、GLIS1はマウスES細胞では発現していない遺伝子である。
【0015】
GLISファミリーのメンバーとしては、任意の哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、サル、ウシ、ウマ、ブタ、イヌ等)の細胞・組織[例えば、胸腺、骨髄、脾臓、脳、脊髄、心臓、骨格筋、腎臓、肺、肝臓、膵臓もしくは前立腺の細胞・組織、これら細胞の前駆細胞、幹細胞または癌細胞など]由来のタンパク質またはそれをコードする核酸を用いることができるが、ヒト又はマウスの細胞・組織由来のものが好ましい。
【0016】
ヒト及びマウス由来のGLISファミリーメンバーのアミノ酸配列およびcDNA配列情報は、表1に記載されるNCBI accession numbersを参照することにより取得することができ、当業者は、該cDNA配列情報に基づいて容易に各タンパク質をコードする核酸を単離し、また必要に応じて、組換えタンパク質を製造することができる。
【0017】
【表1】
【0018】
また、上記の各アミノ酸配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上の同一性を有し、且つ野生型タンパク質と同等のiPS細胞樹立効率改善効果を有する天然もしくは人工の変異タンパク質及びそれをコードする核酸も、本発明のiPS細胞樹立効率改善因子として利用することができる。ここでiPS細胞の樹立効率改善効果は、所定の初期化因子(例えば、Oct3/4およびSox2の2因子、さらにc-Mycを加えた3因子など)のみを体細胞に導入した場合と、該初期化因子の導入に加えて本発明のiPS細胞樹立効率改善因子を体細胞に接触させた場合とで、出現するiPS細胞のコロニー数を比較することにより検証することができる。
【0019】
本発明のGLISファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸は、ファミリーに属する因子のいずれか1種のみを用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
Klf(Kruppel-like factor)ファミリーは増殖、分化、発生、アポトーシス等の種々の生物学的プロセスを制御する転写因子であるが(McConnell, B.B. et al., Bioassays, 29: 549-557 (2007))、詳しい働きはよくわかっていない。この遺伝子ファミリーのメンバーとして、Klf1、Klf2、Klf4およびKlf5などが挙げられ、好ましくはKlf4であるが、これに限定されない。なお前述したようにGLISファミリーは5つのC2H2型 Zincフィンガー領域を有しているが、Klfファミリーは3つのC2H2型 Zincフィンガー領域を有している。
【0021】
Yamanakaらは、4遺伝子(Oct3/4、Sox2、Klf4およびc-Myc)はそれぞれ同一ファミリーに属する他の遺伝子によって代替できると考え、Klf4をKlf1、Klf2もしくはKlf5に代えてもiPS細胞を樹立できることを示している(WO 2007/069666 A1、Nakagawa, M. et al., Nat. Biotethnol., 26: 101-106 (2008))。また最近、Jiangらのグループは、ES細胞にレチノイン酸による分化誘導処理を施すと、Klf4だけでなくKlf2やKlf5の発現も低下することに着目し、Klf2、Klf4及びKlf5を同時にノックダウンしたところ、ES細胞の分化が誘導されることを見出し、Klf2やKlf5等のKlfファミリーの少なくとも一部は、ES細胞におけるKlf4の機能を代替し得る可能性を示している(Jiang, J. et al., Nat. Cell Biol., 10: 353-360 (2008))。彼らはさらに、Oct3/4, Sox2及びc-Mycの3遺伝子とともに、Klf2もしくはKlf5遺伝子、あるいは他の転写因子やエピジェネティック調節因子をMEFに導入し、Klf2やKlf5がKlf4を代替し得ることを確認するとともに、エストロゲン受容体に類似するオーファン核内受容体であるEsrrbもまた、Klf4を代替し得ることを見出している(Feng, B. et al., Nat. Cell Biol., 11: 197-203 (2009))。以上により、Klf1、Klf2、Klf5、さらにはEsrrbもまた、本明細書の実施例で確認されたKlf4の効果(GLISファミリーとの併用によるiPS細胞樹立効率改善効果)を有していると考えられる。
【0022】
Klfファミリーのメンバーとしては、任意の哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、サル、ウシ、ウマ、ブタ、イヌ等)の細胞・組織[例えば、胸腺、骨髄、脾臓、脳、脊髄、心臓、骨格筋、腎臓、肺、肝臓、膵臓もしくは前立腺の細胞・組織、これら細胞の前駆細胞、幹細胞または癌細胞など]由来のタンパク質またはそれをコードする核酸を用いることができるが、ヒト又はマウスの細胞・組織由来のものが好ましい。
【0023】
ヒト及びマウス由来のKlfファミリーメンバーのアミノ酸配列およびcDNA配列情報は、表2に記載されるNCBI accession numbersを参照することにより取得することができ、当業者は、該cDNA配列情報に基づいて容易に各タンパク質をコードする核酸を単離し、また必要に応じて、組換えタンパク質を製造することができる。
【0024】
【表2】
【0025】
また、上記の各アミノ酸配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上の同一性を有し、且つ野生型タンパク質と同等のiPS細胞樹立効率改善効果を有する天然もしくは人工の変異タンパク質及びそれをコードする核酸も、本発明のiPS細胞樹立効率改善因子として利用することができる。
【0026】
本発明のKlfファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸は、ファミリーに属する因子のいずれか1種のみを用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
なお、核初期化の対象となる体細胞が、前記本発明のiPS細胞樹立効率改善因子であるGLISファミリーのメンバー、またはKlfファミリーのメンバーのいずれかにおける構成要素の一部を、樹立効率改善のために十分なレベルで内在的に発現している条件下にあっては、当該内在的に発現している構成要素を除いた残りの構成要素のみの組合わせもまた、本発明における「iPS細胞樹立効率改善因子」の範疇に含まれ得る。
【0028】
本発明のiPS細胞樹立効率改善因子をタンパク質として体細胞へ導入するには、自体公知の細胞へのタンパク質導入方法を用いて実施することができる。そのような方法としては、例えば、タンパク質導入試薬を用いる方法、タンパク質導入ドメイン(PTD)もしくは細胞透過性ペプチド(CPP)融合タンパク質を用いる方法、マイクロインジェクション法などが挙げられる。タンパク質導入試薬としては、カチオン性脂質をベースとしたBioPOTER Protein Delivery Reagent(Gene Therapy Systmes)、Pro-JectTM Protein Transfection Reagent(PIERCE)およびProVectin(IMGENEX)、脂質をベースとしたProfect-1(Targeting Systems)、膜透過性ペプチドをベースとしたPenetrain Peptide(Q biogene)およびChariot Kit(Active Motif)、HVJエンベロープ(不活化センダイウイルス)を利用したGenomONE(石原産業)等が市販されている。導入はこれらの試薬に添付のプロトコルに従って行うことができるが、一般的な手順は以下の通りである。本発明のタンパク性iPS細胞樹立効率改善因子を適当な溶媒(例えば、PBS、HEPES等の緩衝液)に希釈し、導入試薬を加えて室温で5-15分程度インキュベートして複合体を形成させ、これを無血清培地に交換した細胞に添加して37℃で1ないし数時間インキュベートする。その後培地を除去して血清含有培地に交換する。
【0029】
PTDとしては、ショウジョウバエ由来のAntP、HIV由来のTAT(Frankel, A. et al, Cell 55, 1189-93 (1988); Green, M. & Loewenstein, P.M. Cell 55, 1179-88 (1988))、Penetratin (Derossi, D. et al, J. Biol. Chem. 269, 10444-50 (1994))、Buforin II (Park, C.B. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 97, 8245-50 (2000))、Transportan (Pooga, M. et al. FASEB J. 12, 67-77 (1998))、MAP (model amphipathic peptide) (Oehlke, J. et al. Biochim. Biophys. Acta. 1414, 127-39 (1998))、K-FGF (Lin, Y.Z. et al. J. Biol. Chem. 270, 14255-14258 (1995))、Ku70 (Sawada, M. et al. Nature Cell Biol. 5, 352-7 (2003))、Prion (Lundberg, P. et al. Biochem. Biophys. Res. Commun. 299, 85-90 (2002))、pVEC (Elmquist, A. et al. Exp. Cell Res. 269, 237-44 (2001))、Pep-1 (Morris, M.C. et al. Nature Biotechnol. 19, 1173-6 (2001))、Pep-7 (Gao, C. et al. Bioorg. Med. Chem. 10, 4057-65 (2002))、SynB1 (Rousselle, C. et al. Mol. Pharmacol. 57, 679-86 (2000))、HN-I (Hong, F.D. & Clayman, G.L. Cancer Res. 60, 6551-6 (2000))、HSV由来のVP22等のタンパク質の細胞通過ドメインを用いたものが開発されている。PTD由来のCPPとしては、11R (Cell Stem Cell, 4: 381-384 (2009)) や9R (Cell Stem Cell, 4: 472-476 (2009))等のポリアルギニンが挙げられる。
【0030】
本発明のiPS細胞樹立効率改善因子のcDNAとPTD配列もしくはCPP配列とを組み込んだ融合タンパク質発現ベクターを作製して組換え発現させ、融合タンパク質を回収して導入に用いる。導入は、タンパク質導入試薬を添加しない以外は上記と同様にして行うことができる。
【0031】
マイクロインジェクションは、先端径1μm程度のガラス針にタンパク質溶液を入れ、細胞に穿刺導入する方法であり、確実に細胞内にタンパク質を導入することができる。
【0032】
その他、エレクトロポレーション法、セミインタクトセル法(Kano, F. et al. Methods in Molecular Biology, Vol. 322, 357-365 (2006))、Wr-t ペプチドによる導入法(Kondo, E. et al., Mol. Cancer Ther. 3(12), 1623-1630 (2004))などのタンパク質導入法も用いることができる。
【0033】
タンパク質導入操作は1回以上の任意の回数(例えば、1回以上10回以下、または1回以上5回以下等)行うことができ、好ましくは導入操作を2回以上(たとえば3回または4回)繰り返して行うことができる。導入操作を繰り返し行う場合の間隔としては、例えば6〜48時間、好ましくは12〜24時間が挙げられる。
iPS細胞の樹立効率を重視するのであれば、本発明のiPS細胞樹立効率改善因子を、タンパク質としてではなくそれをコードする核酸の形態で用いることがむしろ好ましい。該核酸はDNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよい。好ましくはDNAが挙げられる。また、該核酸は二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。二本鎖の場合は、二本鎖DNA、二本鎖RNAまたはDNA:RNAのハイブリッドでもよい。好ましくは該核酸は二本鎖DNA、特にcDNAである。
【0034】
本発明の核酸性iPS細胞樹立効率改善因子は、例えば、ヒトもしくは他の哺乳動物 (例えば、マウス、ラット、サル、ブタ、イヌなど) の細胞・組織[例えば、胸腺、骨髄、脾臓、脳、脊髄、心臓、骨格筋、腎臓、肺、肝臓、膵臓もしくは前立腺の細胞・組織、これら細胞の前駆細胞、幹細胞または癌細胞など]由来のcDNAから、常法に従ってクローニングすることができる。
【0035】
本発明のiPS細胞樹立効率改善因子の体細胞への導入は、自体公知の細胞への遺伝子導入方法を用いて実施することができる。本発明のiPS細胞樹立効率改善因子をコードする核酸は、宿主となる体細胞で機能し得るプロモーターを含む適当な発現ベクターに挿入される。発現ベクターとしては、例えば、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、センダイウイルスなどのウイルスベクター、動物細胞発現プラスミド(例、pA1-11,pXT1,pRc/CMV,pRc/RSV,pcDNAI/Neo)などが用いられ得る。
【0036】
用いるベクターの種類は、得られるiPS細胞の用途に応じて適宜選択することができる。例えば、アデノウイルスベクター、プラスミドベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、センダイウイルスベクターなどが使用され得る。
【0037】
発現ベクターにおいて使用されるプロモーターとしては、例えばEF1αプロモーター、CAGプロモーター、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、RSV(ラウス肉腫ウイルス)プロモーター、MoMuLV(モロニーマウス白血病ウイルス)LTR、HSV-TK(単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ)プロモーターなどが用いられる。なかでも、EF1αプロモーター、CAGプロモーター、MoMuLV LTR、CMVプロモーター、SRαプロモーターなどが好ましい。
【0038】
発現ベクターは、プロモーターの他に、所望によりエンハンサー、ポリA付加シグナル、選択マーカー遺伝子、SV40複製起点などを含有していてもよい。選択マーカー遺伝子としては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
【0039】
本発明のiPS細胞樹立効率改善因子をコードする核酸は、単独で発現ベクター上に組み込んでもよいし、幾つかを組み合わせて1つの発現ベクター上に組み込んでもよい。さらに、1以上の初期化遺伝子とともに1つの発現ベクターに組み込んでもよい。
【0040】
上記において、本発明のiPS細胞樹立効率改善因子や初期化因子の遺伝子を組み合わせて1つの発現ベクターに組み込む場合、これら複数の遺伝子は、好ましくはポリシストロニック発現を可能にする配列を介して発現ベクターに組み込むことができる。ポリシストロニック発現を可能にする配列を用いることにより、1種類の発現ベクターに組み込まれている複数の遺伝子をより効率的に発現させることが可能になる。ポリシストロニック発現を可能にする配列としては、例えば、口蹄疫ウイルスの2A配列(配列番号:9; PLoS ONE 3, e2532, 2008、Stem Cells 25, 1707, 2007)、IRES配列(U.S. Patent No. 4,937,190)など、好ましくは2A配列を用いることができる。
【0041】
本発明のiPS細胞樹立効率改善因子をコードする核酸を含む発現ベクターは、ベクターの種類に応じて、自体公知の手法により細胞に導入することができる。例えば、ウイルスベクターの場合、該核酸を含むプラスミドを適当なパッケージング細胞(例、Plat-E細胞)や相補細胞株(例、293細胞)に導入して、培養上清中に産生されるウイルスベクターを回収し、各ウイルスベクターに応じた適切な方法により、該ベクターを細胞に感染させる。例えば、レトロウイルスベクターを用いる具体的手段が WO2007/69666、Cell, 126, 663-676 (2006) および Cell, 131, 861-872 (2007) に開示されており、レンチウイルスベクターを用いる場合については、Science, 318, 1917-1920 (2007) に開示がある。iPS細胞を再生医療のための細胞ソースとして利用する場合、本発明のiPS細胞樹立効率改善因子の発現(再活性化)またはそれらの外来性核酸が組み込まれた近傍に存在する内因性遺伝子の活性化は、iPS細胞由来の分化細胞から再生された組織における発癌リスクを高める可能性があるので、本発明のiPS細胞樹立効率改善因子をコードする核酸は細胞の染色体に組み込まれず、一過的に発現することが好ましい。かかる観点からは、染色体への組込みが稀なアデノウイルスベクターの使用が好ましい。アデノウイルスベクターを用いる具体的手段は、Science, 322, 945-949 (2008) に記載されている。また、アデノ随伴ウイルスも染色体への組込み頻度が低く、アデノウイルスベクターと比べて細胞毒性や炎症惹起作用が低いので、別の好ましいベクターとして挙げられる。センダイウイルスベクターは染色体外で安定に存在することができ、必要に応じてsiRNAにより分解除去することができるので、同様に好ましく利用され得る。センダイウイルスベクターについては、J. Biol. Chem., 282, 27383-27391 (2007)、Proc. Jpn. Acad., Ser. B 85, 348-362(2009)、または特許第3602058号に記載のものを用いることができる。
【0042】
レトロウイルスベクターやレンチウイルスベクターを用いる場合は、いったん導入遺伝子のサイレンシングが起こったとしても、後に再活性化される可能性があるので、例えば、Cre/loxPシステムを用いて、不要となった時点で本発明のiPS細胞樹立効率改善因子をコードする核酸を切り出す方法が好ましく用いられ得る。即ち、該核酸の両端にloxP配列を配置しておき、iPS細胞が誘導された後で、プラスミドベクターもしくはアデノウイルスベクターを用いて細胞にCreリコンビナーゼを作用させ、loxP配列に挟まれた領域を切り出すことができる。また、LTR U3領域のエンハンサー−プロモーター配列は、挿入突然変異によって近傍の宿主遺伝子を上方制御する可能性があるので、当該配列を欠失、もしくはSV40などのポリアデニル化配列で置換した3’-自己不活性化(SIN)LTRを使用して、切り出されずゲノム中に残存するloxP配列より外側のLTRによる内因性遺伝子の発現制御を回避することがより好ましい。Cre-loxPシステムおよびSIN LTRを用いる具体的手段は、Soldner et al., Cell, 136: 964-977 (2009)、Chang et al., Stem Cells, 27: 1042-1049 (2009) などに開示されている。
【0043】
一方、非ウイルスベクターであるプラスミドベクターの場合には、リポフェクション法、リポソーム法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム共沈殿法、DEAEデキストラン法、マイクロインジェクション法、遺伝子銃法などを用いて該ベクターを細胞に導入することができる。ベクターとしてプラスミドを用いる具体的手段は、例えばScience, 322, 949-953 (2008) 等に記載されている。
【0044】
プラスミドベクターやアデノウイルスベクター等を用いる場合、遺伝子導入は1回以上の任意の回数(例えば、1回以上10回以下、または1回以上5回以下など)行うことができる。2種以上の発現ベクターを体細胞に導入する場合には、これらの全ての種類の発現ベクターを同時に体細胞に導入することが好ましいが、この場合においても、導入操作は1回以上の任意の回数(例えば、1回以上10回以下、または1回以上5回以下など)行うことができ、好ましくは導入操作を2回以上(たとえば3回または4回)繰り返して行うことができる。
【0045】
尚、アデノウイルスやプラスミドを用いる場合でも、導入遺伝子が染色体に組み込まれることがあるので、結局はサザンブロットやPCRにより染色体への遺伝子挿入がないことを確認する必要がある。そのため、上記Cre-loxPシステムのように、いったん染色体に導入遺伝子を組み込んだ後に、該遺伝子を除去する手段を用いることは好都合であり得る。別の好ましい一実施態様においては、トランスポゾンを用いて染色体に導入遺伝子を組み込んだ後に、プラスミドベクターもしくはアデノウイルスベクターを用いて細胞に転移酵素を作用させ、導入遺伝子を完全に染色体から除去する方法が用いられ得る。好ましいトランスポゾンとしては、例えば、鱗翅目昆虫由来のトランスポゾンであるpiggyBac等が挙げられる。piggyBacトランスポゾンを用いる具体的手段は、Kaji, K. et al., Nature, 458: 771-775 (2009)、Woltjen et al., Nature, 458: 766-770 (2009) に開示されている。
【0046】
別の好ましい非組込み型ベクターとして、染色体外で自律複製可能なエピゾーマルベクターが挙げられる。エピゾーマルベクターを用いる具体的手段は、Yu et al., Science, 324, 797-801 (2009)に開示されている。必要に応じて、エピゾーマルベクターの複製に必要なベクター要素の5’側および3’側にloxP配列を同方向に配置したエピゾーマルベクターに、本発明のiPS細胞樹立効率改善因子をコードする核酸を挿入した発現ベクターを構築し、これを体細胞に導入することもできる。
【0047】
該エピゾーマルベクターとしては、例えば、EBV、SV40等に由来する自律複製に必要な配列をベクター要素として含むベクターが挙げられる。自律複製に必要なベクター要素としては、具体的には、複製開始点と、複製開始点に結合して複製を制御するタンパク質をコードする遺伝子であり、例えば、EBVにあっては複製開始点oriPとEBNA-1遺伝子、SV40にあっては複製開始点oriとSV40 large T antigen遺伝子が挙げられる。
【0048】
また、エピゾーマル発現ベクターは、本発明のiPS細胞樹立効率改善因子をコードする核酸の転写を制御するプロモーターを含む。該プロモーターとしては、前記と同様のプロモーターが用いられ得る。また、エピゾーマル発現ベクターは、前記と同様に、所望によりエンハンサー、ポリA付加シグナル、選択マーカー遺伝子などをさらに含有していてもよい。選択マーカー遺伝子としては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
【0049】
本発明で使用されるloxP配列としては、バクテリオファージP1由来の野生型loxP配列(配列番号:10)の他、導入遺伝子の複製に必要なベクター要素を挟む位置に同方向で配置された場合に、組換えを起こしてloxP配列間の配列を欠失させ得る任意の変異loxP配列が挙げられる。変異loxP配列としては、例えば、5’側反復配列に変異のあるlox71(配列番号:11)、3’側反復配列に変異のあるlox66(配列番号:12)、スペーサー部分に変異のあるlox2272やlox511などが挙げられる。該ベクター要素の5’側および3’側に配置される2つのloxP配列は、同一であっても異なっていてもよいが、スペーサー部分に変異のある変異loxP配列の場合は同一のもの(例、lox2272同士、lox511同士)が用いられる。好ましくは、5’側反復配列に変異のある変異loxP配列(例、lox71)と3’側反復配列に変異のある変異loxP配列(例、lox66)との組合せが挙げられる。この場合、組換えの結果染色体上に残るloxP配列は5’側および3’側の反復配列に二重変異を有するため、Creリコンビナーゼに認識されにくく、不必要な組換えにより染色体の欠失変異を起こすリスクが低減される。変異loxP配列であるlox71とlox66との組合せを用いる場合、前記ベクター要素の5’側および3’側にいずれの変異loxP配列を配置してもよいが、変異部位がloxP配列の外端に配置されるような向きで変異loxP配列を挿入する必要がある。
【0050】
2つのloxP配列は、導入遺伝子の複製に必要なベクター要素(即ち、複製開始点、または複製開始点に結合して複製を制御するタンパク質をコードする遺伝子配列)の5’側および3’側に、同方向に配置される。loxP配列が挟むベクター要素は、複製開始点、または複製開始点に結合して複製を制御するタンパク質をコードする遺伝子配列のいずれか一方だけであってもよいし、両方であってもよい。
【0051】
エピゾーマルベクターは、例えばリポフェクション法、リポソーム法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム共沈殿法、DEAEデキストラン法、マイクロインジェクション法、遺伝子銃法などを用いて該ベクターを細胞に導入することができる。具体的には、例えばScience, 324: 797-801 (2009)等に記載される方法を用いることができる。
【0052】
iPS細胞から導入遺伝子の複製に必要なベクター要素が除去されたか否かの確認は、該ベクター要素内部および/またはloxP配列近傍の塩基配列を含む核酸をプローブまたはプライマーとして用い、該iPS細胞から単離したエピソーム画分を鋳型としてサザンブロット分析またはPCR分析を行い、バンドの有無または検出バンドの長さを調べることにより実施することができる。エピソーム画分の調製は当該分野で周知の方法により行えばよく、例えば、Science, 324: 797-801 (2009)等に記載される方法を用いることができる。
【0053】
(c) 核初期化物質
本発明において「核初期化物質」とは、体細胞に導入することにより、あるいは本発明の樹立効率改善因子(すなわち(1)GLISファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、および(2)Klfファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質)と共に体細胞に接触させることにより、該体細胞からiPS細胞を誘導することができる物質(群)であれば、タンパク性因子またはそれをコードする核酸(ベクターに組み込まれた形態を含む)、あるいは低分子化合物等のいかなる物質から構成されてもよい。タンパク性因子またはそれをコードする核酸である公知の核初期化物質としては、好ましくは以下の組み合わせが例示される(以下においては、タンパク性因子の名称のみを記載する)。
(1) Oct3/4, Klf4, c-Myc
(2) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2(ここで、Sox2はSox1, Sox3, Sox15, Sox17またはSox18で置換可能である。また、Klf4はKlf1, Klf2またはKlf5で置換可能である。さらに、c-MycはT58A(活性型変異体), L-Mycで置換可能である。)
(3) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, Fbx15, Nanog, ERas, TclI
(4) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, TERT, SV40 Large T antigen(以下、SV40LT)
(5) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, TERT, HPV16 E6
(6) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, TERT, HPV16 E7
(7) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, TERT, HPV16 E6, HPV16 E7
(8) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, TERT, Bmi1
(以上、WO 2007/069666を参照(但し、上記(2)の組み合わせにおいて、Sox2からSox18への置換、Klf4からKlf1もしくはKlf5への置換については、Nature Biotechnology, 26, 101-106 (2008)を参照)。「Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2」の組み合わせについては、Cell, 126, 663-676 (2006)、Cell, 131, 861-872 (2007) 等も参照。「Oct3/4, Klf2(またはKlf5), c-Myc, Sox2」の組み合わせについては、Nat. Cell Biol., 11, 197-203 (2009) も参照。「Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, hTERT, SV40LT」の組み合わせについては、Nature, 451, 141-146 (2008)も参照。)
(9) Oct3/4, Klf4, Sox2(Nature Biotechnology, 26, 101-106 (2008)を参照)
(10) Oct3/4, Sox2, Nanog, Lin28(Science, 318, 1917-1920 (2007)を参照)
(11) Oct3/4, Sox2, Nanog, Lin28, hTERT, SV40LT(Stem Cells, 26, 1998-2005 (2008)を参照)
(12) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, Nanog, Lin28(Cell Research 18 (2008) 600-603を参照)
(13) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, SV40LT(Stem Cells, 26, 1998-2005 (2008)も参照)
(14) Oct3/4, Klf4(Nature 454:646-650 (2008)、Cell Stem Cell, 2, 525-528 (2008))を参照)
(15) Oct3/4, c-Myc(Nature 454:646-650 (2008)を参照)
(16) Oct3/4, Sox2 (Nature, 451, 141-146 (2008), WO2008/118820を参照)
(17) Oct3/4, Sox2, Nanog (WO2008/118820を参照)
(18) Oct3/4, Sox2, Lin28 (WO2008/118820を参照)
(19) Oct3/4, Sox2, c-Myc, Esrrb (ここで、EsrrbはEssrrgで置換可能である。Nat. Cell Biol., 11, 197-203 (2009) を参照)
(20) Oct3/4, Sox2, Esrrb (Nat. Cell Biol., 11, 197-203 (2009) を参照)
(21) Oct3/4, Klf4, L-Myc (Proc. Natl. Acad. Sci. U S A., 107(32), 14152-14157 (2010) を参照)
(22) Oct3/4, Klf4, Sox2, L-Myc, Lin28 (WO2011/016588を参照)
(23) Oct3/4, Nanog
(24) Oct3/4 (Cell 136: 411-419 (2009)、Nature, 08436, doi:10.1038 published online(2009)
(25) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, Nanog, Lin28, SV40LT(Science, 324: 797-801 (2009)を参照)
【0054】
上記(1)-(25)において、Oct3/4に代えて他のOctファミリーのメンバー、例えばOct1A、Oct6などを用いることもできる。また、Sox2(またはSox1、Sox3、Sox15、Sox17、Sox18)に代えて他のSoxファミリーのメンバー、例えばSox7などを用いることもできる。さらに上記 (1)-(25)の組合せにおいてc-MycまたはLin28を核初期化物質として含む場合、c-MycまたはLin28に代えてそれぞれL-MycまたはLin28Bを用いることもできる。
【0055】
本発明のiPS細胞樹立効率改善因子と組み合わせて用いられる「核初期化物質」としては、上記(1)-(25)の因子の組合せにおいてKlfファミリーのメンバーが含まれる場合には、これらを除いた残りの因子を含むものが好適に用いられる。また、上記(1)-(24)の組合せにKlfファミリーのメンバーが含まれていない場合には、本発明の樹立効率改善因子と組み合わせて用いられる核初期化物質として、該因子の組合せを用いればよい。
【0056】
また、上記の核初期化物質に加えて任意の他の物質をさらに含む組み合わせも、本発明における「核初期化物質」として好適に用いられる。核初期化の対象となる体細胞が上記(1)-(25)のいずれかにおける構成要素の一部を、核初期化のために十分なレベルで内在的に発現している条件下にあっては、当該構成要素を除いた残りの構成要素のみの組合わせもまた、本発明における「核初期化物質」の範疇に含まれ得る。
【0057】
これらの組み合わせの中で、Octファミリーのメンバー、Soxファミリーのメンバー、Mycファミリーのメンバー、Lin28ファミリーのメンバーおよびNanogから選択される一以上の物質が、好ましい核初期化物質の例として挙げられる。特に、Oct3/4およびSox2の組合せ、Oct3/4、Sox2およびc-Mycの組合せ、Oct3/4、Sox2およびL-Mycの組合せ、またはOct3/4、Sox2、L-MycおよびLin28の組合せが好ましい。
【0058】
なおc-MycはiPS細胞の樹立を促進するが、c-Mycはまた non-iPS transformed cells (partially reprogrammed cells や nullipotent transformed cells)の発生をも促進してしまう。本発明者らはGLIS1をOct3/4,Sox2およびKfl4と共に発現させることにより、マウスおよびヒトのadult skin fibroblastsからのiPS細胞の樹立を劇的に促進することを明らかにしただけでなく、c-Mycと異なりGLIS1は、前述のnon-iPS transformed cellsの発生を促進しないことも明らかにした。従ってc-Mycを使用することなくGLIS1を使用する形態が、特に好ましい。
【0059】
上記の各タンパク性因子のマウス及びヒトcDNA配列情報は、WO 2007/069666に記載のNCBI accession numbersを参照することにより取得することができ(Nanogは当該公報中では「ECAT4」との名称で記載されている。尚、Lin28、Lin28b、Esrrb、Esrrg、L-Mycのマウス及びヒトcDNA配列情報は、それぞれ下記NCBI accession numbersを参照することにより取得できる。)、当業者は容易にこれらのcDNAを単離することができる。
遺伝子名 マウス ヒト
Lin28 NM_145833 NM_024674
Lin28b NM_001031772 NM_001004317
Esrrb NM_011934 NM_004452
Esrrg NM_011935 NM_001438
L-Myc NM_008506 NM_001033081
【0060】
核初期化物質としてタンパク性因子自体を用いる場合には、得られたcDNAを適当な発現ベクターに挿入して宿主細胞に導入し、培養した細胞またはその馴化培養液から組換えタンパク性因子を回収することにより調製することができる。一方、核初期化物質としてタンパク性因子をコードする核酸を用いる場合、得られたcDNAを、上記本発明の核酸性iPS細胞樹立効率改善因子の場合と同様にして、ウイルスベクター、エピゾーマルベクターもしくはプラスミドベクターに挿入して発現ベクターを構築し、核初期化工程に供される。必要に応じて、上記Cre-loxPシステムやpiggyBacトランスポゾンシステムを利用することもできる。尚、核初期化物質として2以上のタンパク性因子をコードする核酸を細胞に導入する場合、各核酸を別個のベクターに担持させてもよいし、複数の核酸をタンデムに繋いでポリシストロニックベクターとすることもできる。後者の場合、効率的なポリシストロニック発現を可能にするために、口蹄疫ウイルスの2A self-cleaving peptideを各核酸の間に連結することが望ましい(例えば、Science, 322, 949-953, 2008を参照)。
【0061】
核初期化物質の体細胞への接触は、(a) 該物質がタンパク性因子である場合、上記本発明のタンパク性iPS細胞樹立効率改善因子と同様にして、また(b) 該物質がタンパク性因子をコードする核酸である場合、上記本発明の核酸性iPS細胞樹立効率改善因子と同様にして、それぞれ行うことができる。また、(c) 核初期化物質が低分子化合物である場合の体細胞への接触は、該低分子化合物を適当な濃度で水性もしくは非水性溶媒に溶解し、ヒトまたは他の哺乳動物より単離した体細胞の培養に適した培地(例えば、約5〜20%の胎仔ウシ血清を含む最小必須培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地、F12培地など)中に、核初期化物質濃度が体細胞において核初期化が起こるのに十分で且つ細胞毒性がみられない範囲となるように該溶液を添加して、細胞を一定期間培養することにより実施することができる。核初期化物質濃度は用いる核初期化物質の種類によって異なるが、約0.1nM〜約100nMの範囲で適宜選択される。接触期間は細胞の核初期化が達成されるのに十分な時間であれば特に制限はないが、通常は陽性コロニーが出現するまで培地に共存させておけばよい。
【0062】
(d) 他のiPS細胞の樹立効率改善物質
従来iPS細胞の樹立効率が低いために、近年、その効率を改善する物質が種々提案されている。よって前記本発明のiPS細胞樹立効率改善因子に加え、他のiPS細胞樹立効率改善物質を体細胞に接触させることにより、iPS細胞の樹立効率をより高めることが期待できる。
【0063】
他のiPS細胞の樹立効率改善物質としては、例えば、VPA以外のヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤[例えば、トリコスタチンA(TSA)、酪酸ナトリウム、MC 1293、M344等の低分子阻害剤、HDACに対するsiRNAおよびshRNA(例、HDAC1 siRNA Smartpool(登録商標)(Millipore)、HuSH 29mer shRNA Constructs against HDAC1 (OriGene)等)等の核酸性発現阻害剤など]、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば5’-azacytidine (5’azaC))(Nat. Biotechnol., 26(7): 795-797 (2008))、G9aヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤[例えば、BIX-01294 (Cell Stem Cell, 2: 525-528 (2008))等の低分子阻害剤、G9aに対するsiRNAおよびshRNA(例、G9a siRNA(human) (Santa Cruz Biotechnology)等)等の核酸性発現阻害剤など]、L-channel calcium agonist (例えばBayk8644) (Cell Stem Cell, 3, 568-574 (2008))、p53阻害剤(例えばp53に対するsiRNA、shRNA、ドミナントネガティブ体など (Cell Stem Cell, 3, 475-479 (2008); Nature 460, 1132-1135 (2009)))、Wnt Signaling activator(例えばsoluble Wnt3a)(Cell Stem Cell, 3, 132-135 (2008))、2i/LIF (2iはmitogen-activated protein kinase signallingおよびglycogen synthase kinase-3の阻害剤; PloS Biology, 6(10), 2237-2247 (2008))、ES細胞特異的miRNA(例えば、miR-302-367クラスター (Mol. Cell. Biol.doi:10.1128/MCB.00398-08)、miR-302 (RNA (2008) 14: 1-10)、miR-291-3p, miR-294およびmiR-295 (以上、Nat. Biotechnol. 27: 459-461 (2009)))等が挙げられるが、それらに限定されない。前記で核酸性の発現阻害剤はsiRNAもしくはshRNAをコードするDNAを含む発現ベクターの形態であってもよい。
【0064】
尚、前記核初期化物質の構成要素のうち、例えばSV40 large T等は、体細胞の核初期化のために必須ではなく補助的な因子であるという点において、iPS細胞の樹立効率改善物質の範疇にも含まれ得る。核初期化の機序が明らかでない現状においては、核初期化に必須の因子以外の補助的な因子について、それらを核初期化物質として位置づけるか、あるいはiPS細胞の樹立効率改善物質として位置づけるかは便宜的であってもよい。即ち、体細胞の核初期化プロセスは、体細胞への核初期化物質およびiPS細胞の樹立効率改善物質の接触によって生じる全体的事象として捉えられるので、当業者にとって両者を必ずしも明確に区別する必要性はないであろう。
【0065】
iPS細胞の樹立効率改善物質の体細胞への接触は、該改善物質が(a) タンパク性因子である場合、(b) 該タンパク性因子をコードする核酸である場合、あるいは(c) 低分子化合物である場合に応じて、本発明のiPS細胞樹立効率改善因子および核初期化物質についてそれぞれ上記したのと同様の方法により、実施することができる。
【0066】
本発明のiPS細胞樹立効率改善因子を含む、iPS細胞の樹立効率改善物質は、該物質の非存在下と比較して体細胞からのiPS細胞樹立効率が有意に改善される限り、核初期化物質と同時に体細胞に接触させてもよいし、また、どちらかを先に接触させてもよい。一実施態様において、例えば、核初期化物質がタンパク性因子をコードする核酸であり、iPS細胞の樹立効率改善物質が化学的阻害物質である場合には、前者は遺伝子導入処理からタンパク性因子を大量発現するまでに一定期間のラグがあるのに対し、後者は速やかに細胞に作用しうることから、遺伝子導入処理から一定期間細胞を培養した後に、iPS細胞の樹立効率改善物質を培地に添加することができる。別の実施態様において、例えば、核初期化物質とiPS細胞の樹立効率改善物質とがいずれもウイルスベクターやプラスミドベクターの形態で用いられる場合には、両者を同時に細胞に導入してもよい。
【0067】
(e) 培養条件による樹立効率の改善
体細胞の核初期化工程において低酸素条件下で細胞を培養することにより、iPS細胞の樹立効率をさらに改善することができる(Cell Stem Cell, 5, p237-241(2009)を参照)。本明細書において「低酸素条件」とは、細胞を培養する際の雰囲気中の酸素濃度が、大気中のそれよりも有意に低いことを意味する。具体的には、通常の細胞培養で一般的に使用される5-10% CO2/95-90%大気の雰囲気中の酸素濃度よりも低い酸素濃度の条件が挙げられ、例えば雰囲気中の酸素濃度が18%以下の条件が該当する。好ましくは、雰囲気中の酸素濃度は15%以下(例、14%以下、13%以下、12%以下、11%以下など)、10%以下(例、9%以下、8%以下、7%以下、6%以下など)、または5%以下(例、4%以下、3%以下、2%以下など)である。また、雰囲気中の酸素濃度は、好ましくは0.1%以上(例、0.2%以上、0.3%以上、0.4%以上など)、0.5%以上(例、0.6%以上、0.7%以上、0.8%以上、0.95以上など)、または1%以上(例、1.1%以上、1.2%以上、1.3%以上、1.4%以上など)である。
【0068】
細胞の環境において低酸素状態を創出する手法は特に制限されないが、酸素濃度の調節可能なCO2インキュベーター内で細胞を培養する方法が最も容易であり、好適な例として挙げられる。酸素濃度の調節可能なCO2インキュベーターは、種々の機器メーカーから販売されている(例えば、Thermo scientific社、池本理化学工業、十慈フィールド、和研薬株式会社などのメーカー製の低酸素培養用CO2インキュベーター)。
【0069】
低酸素条件下で細胞培養を開始する時期は、iPS細胞の樹立効率が正常酸素濃度(20%)の場合に比して改善されることを妨げない限り特に限定されず、体細胞への本発明のiPS細胞樹立効率改善因子および核初期化物質の接触より前であっても、該接触と同時であっても、該接触より後であってもよいが、例えば、体細胞に本発明のiPS細胞樹立効率改善因子および核初期化物質を接触させた直後から、あるいは接触後一定期間(例えば、1ないし10(例、2,3,4,5,6,7,8または9)日)おいた後に低酸素条件下で培養することが好ましい。
【0070】
低酸素条件下で細胞を培養する期間も、iPS細胞の樹立効率が正常酸素濃度(20%)の場合に比して改善されることを妨げない限り特に限定されず、例えば3日以上、5日以上、7日以上または10日以上で、50日以下、40日以下、35日以下または30日以下の期間等が挙げられるが、それらに限定されない。低酸素条件下での好ましい培養期間は、雰囲気中の酸素濃度によっても変動し、当業者は用いる酸素濃度に応じて適宜当該培養期間を調整することができる。また、本発明の一実施態様において、iPS細胞の候補コロニーの選択を、薬剤耐性を指標にして行う場合には、薬剤選択を開始する迄に低酸素条件から正常酸素濃度に戻すことが好ましい。
【0071】
さらに、低酸素条件下で細胞培養を開始する好ましい時期および好ましい培養期間は、用いられる核初期化物質の種類、正常酸素濃度でのiPS細胞樹立効率などによっても変動する。
【0072】
(f) iPS細胞の選択および確認
本発明のiPS細胞樹立効率改善因子と核初期化物質(および他のiPS細胞の樹立効率改善物質)とを接触させた後、細胞を、例えばES細胞の培養に適した条件下で培養することができる。マウス細胞の場合、通常の培地に分化抑制因子としてLeukemia Inhibitory Factor(LIF)を添加して培養を行う。一方、ヒト細胞の場合には、LIFの代わりに塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)および/または幹細胞因子(SCF)を添加することが望ましい。また通常、細胞は、フィーダー細胞として、放射線や抗生物質で処理して細胞分裂を停止させたマウス胎仔由来の線維芽細胞(MEF)の共存下で培養される。MEFとしては、通常STO細胞等がよく使われるが、iPS細胞の誘導には、SNL細胞(McMahon, A. P. & Bradley, A. Cell 62, 1073-1085 (1990))等がよく使われている。フィーダー細胞との共培養は、本発明のiPS細胞樹立効率改善因子および核初期化物質の接触より前から開始してもよいし、該接触時から、あるいは該接触より後(例えば1-10日後)から開始してもよい。
【0073】
iPS細胞の候補コロニーの選択は、薬剤耐性とレポーター活性を指標とする方法と目視による形態観察による方法とが挙げられる。前者としては、例えば、分化多能性細胞において特異的に高発現する遺伝子(例えば、Fbx15、Nanog、Oct3/4など、好ましくはNanogまたはOct3/4)の遺伝子座に、薬剤耐性遺伝子および/またはレポーター遺伝子をターゲッティングした組換え細胞を用い、薬剤耐性および/またはレポーター活性陽性のコロニーを選択するというものである。そのような組換え細胞としては、例えばFbx15遺伝子座にβgeo(β-ガラクトシダーゼとネオマイシンホスホトランスフェラーゼとの融合タンパク質をコードする)遺伝子をノックインしたマウス由来のMEFやTTF(Takahashi & Yamanaka, Cell, 126, 663-676 (2006))、あるいはNanog遺伝子座に緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子とピューロマイシン耐性遺伝子を組み込んだトランスジェニックマウス由来のMEFやTTF(Okita et al., Nature, 448, 313-317 (2007))等が挙げられる。一方、目視による形態観察で候補コロニーを選択する方法としては、例えばTakahashi et al., Cell, 131, 861-872 (2007)に記載の方法が挙げられる。レポーター細胞を用いる方法は簡便で効率的ではあるが、iPS細胞がヒトの治療用途を目的として作製される場合、安全性の観点から目視によるコロニー選択が望ましい。
【0074】
選択されたコロニーの細胞がiPS細胞であることの確認は、上記したNanog(もしくはOct3/4)レポーター陽性(ピューロマイシン耐性、GFP陽性など)および目視によるES細胞様コロニーの形成によっても行い得るが、より正確を期すために、アルカリフォスファターゼ染色や、各種ES細胞特異的遺伝子の発現を解析したり、選択された細胞をマウスに移植してテラトーマ形成を確認する等の試験を実施することもできる。
【0075】
本発明のiPS細胞樹立効率改善因子をコードする核酸を体細胞に導入した場合、得られるiPS細胞は、当該外来性核酸を含む点で、従来公知のiPS細胞とは異なる新規細胞である。特に、当該外来性核酸がレトロウイルスやレンチウイルス等を用いて体細胞に導入された場合、当該外来性核酸は通常、得られるiPS細胞のゲノム中に組み込まれているので、外来性核酸を含むという形質は安定に保持される。
【0076】
(g) iPS細胞の用途
このようにして樹立されたiPS細胞は、種々の目的で使用することができる。例えば、ES細胞などの多能性幹細胞で報告されている分化誘導法(例えば、神経幹細胞への分化誘導法としては、特開2002-291469、膵幹様細胞への分化誘導法としては、特開2004-121165、造血細胞への分化誘導法としては、特表2003-505006に記載される方法などがそれぞれ例示される。胚葉体の形成による分化誘導法としては、特表2003-523766に記載の方法などが例示される。)を利用して、iPS細胞から種々の細胞(例、心筋細胞、血液細胞、神経細胞、血管内皮細胞、インスリン分泌細胞等)への分化を誘導することができる。したがって、患者本人やHLAの型が同一もしくは実質的に同一である他人から採取した体細胞を用いてiPS細胞を誘導すれば、そこから所望の細胞(即ち、該患者が罹病している臓器の細胞や疾患に対する治療効果を発揮する細胞など)に分化させて該患者に移植するという、自家移植による幹細胞療法が可能となる。さらに、iPS細胞から分化させた機能細胞(例、肝細胞)は、対応する既存の細胞株よりも実際の生体内での該機能細胞の状態をより反映していると考えられるので、医薬候補化合物の薬効や毒性のin vitroスクリーニング等にも好適に用いることができる。
【0077】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されないことは言うまでもない。
【実施例】
【0078】
[参考例1: 新規初期化因子のスクリーニング]
Goshimaらが作製したヒトGateway(登録商標)エントリークローン(N. Goshima et al., Nature methods, 2008記載のライブラリーを用いる。Y. Maruyama et al., Nucleic Acid Res., 2009でデータベース公開)をもとに、図1に記載の方法で、ヒトの網羅的遺伝子約20000クローンを整列化した。即ち、ヒトGateway(登録商標)エントリークローン中全長ORFを含む約50000クローンを、NCBI RefSeqの37900配列(24200遺伝子)に対してcoverage 80%以上、アミノ酸同一性95%以上の基準でblastp検索をかけ、ORFの3’末端に終止コドンを持つN-typeと、終止コドンを持たないF-typeの各type内で配列に重複のない、約20000エントリークローンからなるサブライブラリーを構築した。この整列化した約20000エントリークローンを、バイオインフォマティクス手法によりタンパク質キナーゼ、タンパク質フォスファターゼ、転写因子、GPCR、及びその他のクローン群に分類し、転写因子のエントリークローンからなるサブライブラリー(ヒトの全転写因子の50%以上をカバー)を構築した(図1)。この転写因子のサブライブラリーから、エントリークローンごとに、図2に示すようにpMXs-GWデスティネーションベクターとのLR反応により発現クローンDNAを作製し、この反応液を大腸菌DH5αに導入し、クローン化して転写因子発現ライブラリーを構築した(初期化因子スクリーニング用転写因子発現ライブラリー)。また、ヒトOct3/4, Sox2, Klf4, c-Mycの各遺伝子も同じpMXs-GWに組み込み、各発現クローンを構築した。このDNAよりリコンビナントレトロウィルスを作製し、以下の実験に用いた。
【0079】
iPS細胞誘導実験は、Nanog-GFPマウス(Okita et al., Nature,448, 313-317 (2007))の皮膚由来線維芽細胞を用いて行った。その際、フィーダー細胞であるMSTO(マイトマイシンCで処理して細胞分裂を止めたSNL細胞)上でレトロウイルスの感染を行う系(以下MSTO法、Cell, 126, 663-676 (2006))と、感染時はフィーダー細胞を用いず、感染後、細胞を播き直した後にMSTO上で培養を行う系(以下Reseed法、Nature Biotech., 26, p101-106 (2008))の両方の系で実験を行った。
【0080】
1stスクリーニングとして24-well plateでiPS細胞誘導を行った。Gelatin(Reseed法)またはMSTO上(MSTO法)にNanog-GFPマウスの皮膚由来線維芽細胞を播き、翌日、各種プラスミドから作製したレトロウイルスを感染させた(Day0)。具体的にはOct3/4、Sox2およびc-Mycの3遺伝子と前述の転写因子ライブラリーからの1遺伝子とを、1:1:1:1の割合で感染させた。ネガティブコントロールとしてOct3/4、Sox2およびc-Mycの3遺伝子を1:1:1の割合で感染させた。またポジティブコントロールとしてOct3/4、Sox2、Klf4 およびc-Mycの4遺伝子を1:1:1:1の割合で感染させた。
【0081】
感染から2日目までは10%FBS/DMEMで、3日目からはES培地(Cell, 126, 663-676 (2006))で培養した。はじめにGelatin上に播いた場合(Reseed法)は、3日目にMSTO上に播き直した。以後2日ごとに培地の交換を行い、21日目からはピューロマイシン選択を行い、28日目に細胞の観察を行った。その結果、3遺伝子と共に、サンプルF09(遺伝子名:IRX6)、サンプルG06(遺伝子名:GLIS1)、サンプルH08(遺伝子名:DMRTB1)、サンプルH10(遺伝子名:PITX2)の各遺伝子を導入したウエルにおいて、GFP-positiveのコロニーが現われ、マウスのiPS細胞が樹立されたことが確認された。また6-well plateで再度iPS誘導を行ったところ、同様にGFP-positiveコロニーが現われ、再現性が得られた。各iPS細胞のコロニー形成時、1継代目および2継代目のGFP陽性コロニー像および位相差像を、図3および図4に示す。
【0082】
以上の結果より、これら4つの因子はKlf4の代替えとなる新規初期化因子であることが明らかとなった。尚、アダルトマウスの皮膚由来線維芽細胞の代わりにMEF(マウス胎児由来線維芽細胞)やHDF(ヒトの皮膚由来線維芽細胞)を用いて同様の実験を行った場合も、同様にiPS細胞(GFP陽性コロニー)が樹立された。
【0083】
[参考例2: 樹立したマウスiPS細胞の解析]
QIAGEN社の「Gentra Puregene Cell Kit」を用いてゲノムを抽出し、PCR酵素(Takara Ex Taq)を用いて、参考例1で樹立したiPS細胞を用いてGenomic-PCRを行った。結果を図5および図6に示す。いずれのiPS細胞においても導入した遺伝子のみがゲノム上に挿入されており、導入に用いなかった遺伝子はゲノム上に挿入されていないことが確認された。なお、G6-1クローン(遺伝子名:GLIS1)においては、導入に用いたc-Mycがゲノム上に挿入されていなかった(図5)。レトロウイルスベクターはゲノム上に挿入されなければ安定的に発現しないので、このクローンG6-1はOct3/4, Sox2およびGLIS1の3因子のみの発現で樹立されたと考えられた。
【0084】
次に、Rever Tra Ace kit(Takara)を使用してRT-PCR解析を行った。結果を図7および図8に示す。参考例1で樹立したiPS細胞は、いずれもES細胞特異的なマーカー遺伝子であるNanog, Oct3/4, Sox2, Rex1およびECAT1を発現していた。以上の結果から、新規初期化因子を用いて樹立した細胞はiPS細胞であることが確認された。
【0085】
[実施例1:G6とKlf4の併用によるマウスiPS細胞の樹立]
(a) マウスiPS細胞樹立効率に及ぼすG6とKlf4の併用効果
参考例1で同定されたKlf4の代替えとなる新規初期化因子であるG6(遺伝子名:GLIS1)、H8(遺伝子名:DMRTB1)およびH10(遺伝子名:PITX2)をKlf4と組み合わせた場合にiPS細胞が樹立されるかどうかを検討した。実験は参考例1と同じNanog-GFPマウスの皮膚由来線維芽細胞を用い、Reseed法で行った。導入に用いた遺伝子の組み合わせを以下に示す。
(1) Oct3/4、Sox2
(2) Oct3/4、Sox2、G6(遺伝子名:GLIS1)
(3) Oct3/4、Sox2、H8(遺伝子名:DMRTB1)
(4) Oct3/4、Sox2、H10(遺伝子名:PITX2)
(5) Oct3/4、Sox2、Klf4
(6) Oct3/4、Sox2、Klf4、G6
(7) Oct3/4、Sox2、Klf4、H8
(8) Oct3/4、Sox2、Klf4、H10
【0086】
初期化に使用するレトロウイルスは、前日に100mm培養ディッシュ (Falcon) の1枚当り2.5 x 106で播種したPlat-E細胞 (Morita, S. et al., Gene Ther. 7, 1063-1066) にレトロウイルス発現ベクター (pMXs-Oct3/4, pMXs-Sox2, pMXs-Klf4, pMXs-G6, pMXs-H8, pMXs-H10) を個々に導入して作製した。培養液はDMEM/10% FCS (DMEM (Nacalai tesque) にウシ胎仔血清を10%加えたもの) を使用し、37℃、5% CO2で培養した。
【0087】
ベクターの導入のためにFuGene6 transfection reagent (Roche) 27μLをOpti-MEM I Reduced-Serum Medium (Invitrogen) 300μLに入れ、細胞を室温で5分間静置した。その後、各発現ベクターを9μg加え、細胞をさらに室温で15分静置してからPlat-Eの培養液に加えた。2日目にPlat-Eの上清を新しい培地に換え、3日目に培養上清を回収して0.45μm sterile filter (Whatman) で濾過し、polybrene (Nacalai) を4μg/mLとなるように加えてウイルス液とした。
【0088】
Nanog-GFPマウスの皮膚由来線維芽細胞は、マウスの背・腹部分の皮膚から真皮を剥がし、ゼラチンコートしたディッシュ上に置いて培養することにより得られた細胞を使用した。
【0089】
前記線維芽細胞を100mmデッシュ (Falcon) に1枚当り8.0 x 105で播種した。培養液はDMEM/10% FCSを使用し、37℃、5% CO2で培養した。翌日、レトロウイルス液(前記(1)〜(8)のいずれかの組み合わせ)を加え、一晩感染させて遺伝子を導入した。
【0090】
ウイルス感染の翌日、レトロウイルス液を除去し、DMEM/10% FCSに交換して感染3日目までDMEM/10% FCSで培養した。感染から3日目に培地を除き、PBS 10mLを加えて細胞を洗浄した。PBSを除いた後、0.25% Trypsin/ 1mM EDTA (Invitrogen)を加えて、37℃で5分間程度反応させた。細胞が浮き上がったらES細胞用培地(DMEM (Nacalai tesque) に15%牛胎仔血清、2mM L-グルタミン(Invitrogen)、100μM 非必須アミノ酸 (Invitrogen)、100μM 2-メルカプトエタノール (Invitrogen)、50U/mL ペニシリン (Invitrogen) と50μg/mL ストレプトマイシン (Invitrogen) を加えたもの)を加えて懸濁し、あらかじめフィーダー細胞を播いておいた100mmデッシュに播いた。なおフィーダー細胞にはマイトマイシンCで処理して、細胞分裂を止めたSNL細胞(McMahon, A. P. & Bradley, A. Cell 62, 1073-1085 (1990))を用いた。以後コロニーが観察できるようになるまで2日ごとにES細胞用培地の交換を行い、感染から26〜28日目にGFP陽性コロニー数をカウントした。3回の独立した実験結果を表3および図9に示す(図9は表3をグラフ化したものである。コントロールのみ4回の独立した実験結果を示す)。
【0091】
【表3】
【0092】
Oct3/4およびSox2にG6、H8またはH10を加えても、この条件ではiPS細胞が樹立できないか、樹立できてもごくわずかであった。またOct3/4、Sox2およびKlf4にH8またはH10を加えても、加えない場合(Oct3/4、Sox2およびKlf4)に比べてiPSコロニー数は上昇しなかった。それに対してOct3/4、Sox2およびKlf4にG6を加えることにより、iPSコロニー数の劇的な上昇が認められた。この値はOct3/4およびSox2にG6を加えた場合のコロニー数と、Oct3/4およびSox2にKlf4を加えた場合のコロニー数とを合わせた値をはるかに超える値であり、Klf4とG6とを併用することによりiPS細胞樹立効率に対する相乗効果が認められることが明らかになった。
【0093】
(b) 3初期化因子(OSK)によるマウスiPS細胞樹立に及ぼすGLIS1とc-Mycの樹立改善効果の比較
次に、OSKでのiPSC樹立を促進する能力についてGLIS1とc-Mycとを比較した。アダルトマウスの皮膚由来線維芽細胞では、形成されたGFP陽性コロニー数による評価で、GLIS1の効果はc-Mycの効果と同等であった(図10)。GLIS1とc-Mycの両方をOSKと共に共導入した場合のGFP陽性コロニー数の相乗的な増加も観察された。
【0094】
次に、導入後に出現した全コロニーに対するGFP陽性コロニーの割合を解析した。一元配置反復測定分散分析検定およびポストホック・ボンフェローニ検定を分析のために用いた。0.05未満(*)または0.01(**)未満のP値を統計的に有意な差とした。結果を図11に示す。重要なことに、GLIS1はGFP陽性コロニーの形成を特異的に促進し、部分的に初期化された細胞または形質転換された細胞のいずれかを表すGFP陰性コロニーの形成を促進しなかった(図11)。対照的に、c-MycはGFP陽性コロニーよりもGFP陰性コロニーの数を顕著に増加させた(図11)。c-Mycのこの望ましくない効果は、GLIS1を共発現させた場合に抑制された。同様の結果がマウス胚性線維芽細胞(MEF)で得られた(図13および図14)。GFP陽性コロニーを図12および図15に示す。
OSK + GLIS1によりMEFから樹立したiPS細胞はgermline-competentであることも確認された。
【0095】
[実施例2:G6とKlf4の併用によるヒトiPS細胞の樹立]
(a) ヒトiPS細胞樹立効率に及ぼすG6とKlf4の併用効果
Klf4とG6(GLIS1)との併用による相乗効果がヒト細胞に対しても認められるかどうか、成人の皮膚由来線維芽細胞(HDF)を用いて検討を行った。導入に用いた遺伝子の組み合わせを以下に示す。
(1) Oct3/4、Sox2、c-Myc
(2) Oct3/4、Sox2、c-Myc、Klf4
(3) Oct3/4、Sox2、c-Myc、G6(遺伝子名:GLIS1)
(4) Oct3/4、Sox2、c-Myc、Klf4、G6
【0096】
HDFに対して、Takahashi, K. et al., Cell, 131: 861-872 (2007)に記載の方法に従い、レンチウイルス(pLenti6/UbC-Slc7a1)を用いて、マウスエコトロピックウイルスレセプターSlc7a1遺伝子を発現させた。この細胞(2.6×105個/60mm dish)に対して、Takahashi, K. et al., Cell, 131: 861-872 (2007) に記載の方法に従い、前記(1)〜(4)の組み合わせの遺伝子をレトロウイルスで導入した。ウイルス感染から6日後に細胞を回収し、フィーダー細胞上への蒔き直しを行った(5×104個または5×105個/100 mmディッシュ)。フィーダー細胞にはマイトマイシンCで処理して、細胞分裂を止めたSNL細胞(McMahon, A. P. & Bradley, A. Cell 62, 1073-1085 (1990))を用いた。感染7日後から霊長類ES細胞培養用培地 (ReproCELL) に4 ng/mLの組換えヒトbFGF(WAKO)を加えた培地で培養を行った。感染から30〜35日目にES細胞様のコロニー数をカウントした。3回の独立した実験結果を図16(ES様コロニー)および図17(非ES様コロニー)に、またOct3/4、Sox2、c-Myc、Klf4およびG6で樹立したiPSコロニーの位相差像を図18に、それぞれ示す。Oct3/4、Sox2およびc-MycにKlf4を加えた場合、および、Oct3/4、Sox2およびc-MycにG6(GLIS1)を加えた場合に比して、Oct3/4、Sox2およびc-MycにKlf4とG6の両方を加えることにより、格段に多数のES細胞様コロニーが出現した(図16)。またこれらのコロニーはES細胞様の形態を示した(図18)。以上のようにヒト細胞においても、Klf4とG6とを併用することによりiPS細胞樹立効率に対する相乗効果が認められた。
【0097】
(b) 3初期化因子(OSK)によるヒトiPS細胞樹立に及ぼすGLIS1とc-Mycの樹立改善効果の比較
次に、実施例1(b)に記載した手法と同様の手法で、OSKと組み合わせてiPSCを樹立する場合における、GLIS1による樹立促進効果とc-Mycによる樹立促進効果とを比較した。ヒト成人由来の線維芽細胞を用いた場合において、GLIS1はc-Mycと同等の効果を示し、OSKと共導入されたときにESC様コロニーの形成を促進した(図19)。重要なことに、GLIS1はESC様コロニーの形成を特異的に促進し、非ESC様コロニーの形成を促進しなかった。対照的に、c-MycはESC様コロニーよりも非ESC様コロニーの数を顕著に増加させた(図20)。OSK + Gis1により生じたヒトESC様コロニーを図21に示す。
【0098】
次に、QIAGENのGentra Puregene Cell Kitを用いてゲノムを抽出し、PCR用酵素(Takara Ex Taq)を用いてゲノミックPCRを行った。結果を図22に示す。樹立されたヒトiPSC株において導入遺伝子の存在が確認された(図22)。Rever Tra Ace kit (Takara)を用いてRT-PCR解析を行った。結果を図23に示す。OSK + GLIS1により生じた細胞は、Oct3/4、Sox2、NanogおよびRex1を含む未分化ESCマーカー遺伝子を発現した(図23)。
【0099】
続いてDNAマイクロアレイ解析を行った。トータルRNAをCy3で標識し、製造者のプロトコルに従ってWhole Human Genome Microarray(Agilent)にハイブリダイズさせた。G2505C Microarray Scanner System (Agilent)を用いてアレイをスキャンした。データ解析はGeneSpring GX11.0.1ソフトウェアプログラム(Agilent)を用いて行った。結果を図24に示す。OSK + GLIS1により樹立された細胞の全体的な遺伝子発現は、OSKMで生じたiPSCと類似していた(図24)。次に、以前に記載されたようにしてテラトーマ形成を行った(Cell, 131(5), 861-872 (2007))。OSK + GLIS1により生じた細胞は、3胚葉全ての様々な組織を含むテラトーマを生じた(図25)。以上の結果により、GLIS1はOSKによるヒトiPSCの樹立を強力かつ特異的に促進することが実証された。
【0100】
実施例3:GLIS1の発現および機能解析
次に、GLIS1の発現パターンを調べた。マウス発現配列タグ(EST)データベース解析により、GLIS1の表示は接合子、特に受精卵に偏っていることが予測された(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/UniGene/ESTProfileViewer.cgi?uglist=Mm.331757; 2010年4月24日現在)。また、MGIにより提供されるGene Expression Dataは、第二減数分裂中期の卵母細胞におけるGLIS1の中程度の発現、2細胞胚における弱い発現、および8細胞〜E4.5の胚では発現は検出されないことを示した(http://www.informatics.jax.org/searches/expression.cgi?32989; 2010年4月24日現在)。これらのウェブベースの解析は、GLIS1が卵母細胞および1細胞胚において特異的に発現することを強く示した。これらの知見を実験的に確かめるために、未受精卵、1細胞胚、2細胞胚、および胚盤胞から、ならびに腎臓、胎盤、脳、肺、肝臓、脾臓および卵巣を含むアダルトマウスのいくつかの組織からトータルRNAを単離した。また、マウスESC、MEF、および成人皮膚由来線維芽細胞から単離したトータルRNAも用いた。リアルタイムPCR解析により、1細胞胚および未受精卵でGLIS1の最も高い発現が検出され(図26)、2細胞胚および胎盤組織で穏やかな発現レベルが検出され(図26)、腎臓、卵巣、ESC、MEF、および皮膚由来線維芽細胞を含むいくつかの組織での発現は弱かった(図26)。これらのデータにより、GLIS1 RNAは未受精卵および1細胞胚において豊富であることが確かめられた。
【0101】
線維芽細胞において内因性GLIS1の発現レベルは低いが、内因性GLIS1がOSKによるiPSC樹立の際に役割を果たしているかどうかを次に調べた。そのためにいくつかのレトロウイルスベクターを構築し、GLIS1 shRNAを発現させた。shRNAによるノックダウンは以前に記載されたようにして行った(Nature, 460(7259), 1132-1135 (2009))。shRNA2 (標的配列(配列番号3の822-842番目の位置): ggcctcaccaaccctgcacct; 配列番号13)およびshRNA6 (標的配列 (配列番号3の1457-1477番目の位置): gcccttcaatgcccgctacaa; 配列番号14)をアダルトマウスの皮膚由来線維芽細胞にトランスフェクトした場合、それらは効果的にGLIS1を抑制したが、shRNA4 (標的配列 (配列番号3の857-877番目の位置): gggcaatgaacccatctcaga; 配列番号15)の効果はより低かった(図27、対応のあるt検定を統計解析のために用いた)。次に、Nanog-GFPレポーターを含む線維芽細胞に、これらのshRNAの各々をOSKと共に導入したところ、shRNA2およびshRNA6は、GFP陽性コロニー数を有意に減少させた(図28)。shRNA4で観察された効果はより弱かった。この結果は、内因性GLIS1はOSKによるiPSC樹立の際に補助的役割を果たすことを示唆する。
【0102】
本発明を好ましい態様を強調して説明してきたが、好ましい態様が変更され得ることは当業者にとって自明であろう。本発明は、本発明が本明細書に詳細に記載された以外の方法で実施され得ることを意図する。したがって、本発明は添付の「特許請求の範囲」の精神および範囲に包含されるすべての変更を含むものである。
【0103】
ここで述べられた特許および特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、ここに引用されたことによって、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
【0104】
本出願は米国仮特許出願第61/305,107号および同第61/379,949号に基づくものであり、それらの出願の内容は、ここに引用されたことによって本明細書に組み込まれる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)及び(2):
(1)GLISファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
(2)Klfファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
を体細胞に接触させることを含む、iPS細胞の樹立効率改善方法。
【請求項2】
前記(1)の物質が、GLIS family zinc finger 1 (GLIS1) または該GLIS1をコードする核酸を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記(2)の物質が、Klf4または該Klf4をコードする核酸を含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
以下の(1)及び(2):
(1)GLISファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
(2)Klfファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
を含有してなる、iPS細胞の樹立効率改善剤。
【請求項5】
前記(1)の物質が、GLIS1または該GLIS1をコードする核酸を含む、請求項4記載の改善剤。
【請求項6】
前記(2)の物質が、Klf4または該Klf4をコードする核酸を含む、請求項4または5記載の改善剤。
【請求項7】
以下の(1)、(2)及び(3):
(1)GLISファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
(2)Klfファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
(3)前記(1)及び(2)の物質と組み合わせることにより体細胞からiPS細胞を誘導しうる核初期化物質、
を体細胞に接触させることを含む、iPS細胞の製造方法。
【請求項8】
前記(1)の物質が、GLIS1または該GLIS1をコードする核酸を含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記(2)の物質が、Klf4または該Klf4をコードする核酸を含む、請求項7または8記載の方法。
【請求項10】
前記(3)の核初期化物質が、Octファミリーのメンバー、Soxファミリーのメンバー、Mycファミリーのメンバー、Lin28ファミリーのメンバーおよびNanog、並びにそれらをコードする核酸からなる群より選択される、請求項7〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記(3)の核初期化物質が、Oct3/4またはそれをコードする核酸を含む、請求項7〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記(3)の核初期化物質が、Oct3/4およびSox2、またはそれらをコードする核酸を含む、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記(3)の核初期化物質が、Oct3/4、Sox2およびc-Myc、またはそれらをコードする核酸を含む、請求項11記載の方法。
【請求項14】
以下の(1)、(2)及び(3):
(1)GLISファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
(2)Klfファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
(3)前記(1)及び(2)の物質と組み合わせることにより体細胞からiPS細胞を誘導しうる核初期化物質、
を含有してなる、体細胞からのiPS細胞の誘導剤。
【請求項15】
前記(1)の物質が、GLIS1または該GLIS1をコードする核酸を含む、請求項14記載の剤。
【請求項16】
前記(2)の物質が、Klf4または該Klf4をコードする核酸を含む、請求項14または15記載の剤。
【請求項17】
前記(3)の核初期化物質が、Octファミリーのメンバー、Soxファミリーのメンバー、Mycファミリーのメンバー、Lin28ファミリーのメンバーおよびNanog、並びにそれらをコードする核酸からなる群より選択される、請求項14〜16のいずれか1項に記載の剤。
【請求項18】
前記(3)の核初期化物質が、Oct3/4またはそれをコードする核酸を含む、請求項14〜16のいずれか1項に記載の剤。
【請求項19】
前記(3)の核初期化物質が、Oct3/4およびSox2、またはそれらをコードする核酸を含む、請求項18記載の剤。
【請求項20】
前記(3)の核初期化物質が、Oct3/4、Sox2およびc-Myc、またはそれらをコードする核酸を含む、請求項18記載の剤。
【請求項21】
以下の(1)及び(2):
(1)GLISファミリーのメンバーをコードする外来性核酸からなる群より選択される1種以上の核酸、
(2)Klfファミリーのメンバーをコードする外来性核酸からなる群より選択される1種以上の核酸、
を含む、iPS細胞。
【請求項22】
前記外来性核酸がゲノムに組み込まれている、請求項21記載のiPS細胞。
【請求項23】
請求項21または22記載のiPS細胞に分化誘導処理を行い、体細胞に分化させることを含む、体細胞の製造方法。
【請求項24】
下記の(1)および(2):
(1) 請求項7〜13のいずれか1項に記載の方法によりiPS細胞を製造する工程、および
(2) 上記工程(1)で得られたiPS細胞に分化誘導処理を行い、体細胞に分化させる工程、
を含む、体細胞の製造方法。
【請求項25】
iPS細胞の樹立効率改善のための、以下の(1)及び(2):
(1) GLISファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
(2) Klfファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
の使用。
【請求項26】
iPS細胞の樹立効率改善のための、GLISファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質の使用であって、該物質を、Klfファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質とともに体細胞に接触させることを特徴とする、使用。
【請求項27】
iPS細胞の製造のための、以下の(1)、(2)及び(3):
(1)GLISファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
(2)Klfファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
(3)前記(1)及び(2)の物質と組み合わせることにより体細胞からiPS細胞を誘導しうる核初期化物質、
の使用。
【請求項28】
iPS細胞の製造のための、以下の(1)及び(2):
(1)GLISファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
(2)Klfファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
の使用であって、該因子を、前記(1)及び(2)の物質と組み合わせることにより体細胞からiPS細胞を誘導しうる核初期化物質とともに体細胞に接触させることを特徴とする、使用。
【請求項29】
iPS細胞の製造のための、(1)GLISファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質の使用であって、該物質を、(2)Klfファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、および、前記(1)及び(2)の物質と組み合わせることにより体細胞からiPS細胞を誘導しうる核初期化物質とともに体細胞に接触させることを特徴とする、使用。
【請求項30】
体細胞の製造における、請求項21または22記載のiPS細胞の使用。
【請求項31】
体細胞の製造における細胞ソースとしての、請求項21または22記載のiPS細胞。
【請求項1】
以下の(1)及び(2):
(1)GLISファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
(2)Klfファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
を体細胞に接触させることを含む、iPS細胞の樹立効率改善方法。
【請求項2】
前記(1)の物質が、GLIS family zinc finger 1 (GLIS1) または該GLIS1をコードする核酸を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記(2)の物質が、Klf4または該Klf4をコードする核酸を含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
以下の(1)及び(2):
(1)GLISファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
(2)Klfファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
を含有してなる、iPS細胞の樹立効率改善剤。
【請求項5】
前記(1)の物質が、GLIS1または該GLIS1をコードする核酸を含む、請求項4記載の改善剤。
【請求項6】
前記(2)の物質が、Klf4または該Klf4をコードする核酸を含む、請求項4または5記載の改善剤。
【請求項7】
以下の(1)、(2)及び(3):
(1)GLISファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
(2)Klfファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
(3)前記(1)及び(2)の物質と組み合わせることにより体細胞からiPS細胞を誘導しうる核初期化物質、
を体細胞に接触させることを含む、iPS細胞の製造方法。
【請求項8】
前記(1)の物質が、GLIS1または該GLIS1をコードする核酸を含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記(2)の物質が、Klf4または該Klf4をコードする核酸を含む、請求項7または8記載の方法。
【請求項10】
前記(3)の核初期化物質が、Octファミリーのメンバー、Soxファミリーのメンバー、Mycファミリーのメンバー、Lin28ファミリーのメンバーおよびNanog、並びにそれらをコードする核酸からなる群より選択される、請求項7〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記(3)の核初期化物質が、Oct3/4またはそれをコードする核酸を含む、請求項7〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記(3)の核初期化物質が、Oct3/4およびSox2、またはそれらをコードする核酸を含む、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記(3)の核初期化物質が、Oct3/4、Sox2およびc-Myc、またはそれらをコードする核酸を含む、請求項11記載の方法。
【請求項14】
以下の(1)、(2)及び(3):
(1)GLISファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
(2)Klfファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
(3)前記(1)及び(2)の物質と組み合わせることにより体細胞からiPS細胞を誘導しうる核初期化物質、
を含有してなる、体細胞からのiPS細胞の誘導剤。
【請求項15】
前記(1)の物質が、GLIS1または該GLIS1をコードする核酸を含む、請求項14記載の剤。
【請求項16】
前記(2)の物質が、Klf4または該Klf4をコードする核酸を含む、請求項14または15記載の剤。
【請求項17】
前記(3)の核初期化物質が、Octファミリーのメンバー、Soxファミリーのメンバー、Mycファミリーのメンバー、Lin28ファミリーのメンバーおよびNanog、並びにそれらをコードする核酸からなる群より選択される、請求項14〜16のいずれか1項に記載の剤。
【請求項18】
前記(3)の核初期化物質が、Oct3/4またはそれをコードする核酸を含む、請求項14〜16のいずれか1項に記載の剤。
【請求項19】
前記(3)の核初期化物質が、Oct3/4およびSox2、またはそれらをコードする核酸を含む、請求項18記載の剤。
【請求項20】
前記(3)の核初期化物質が、Oct3/4、Sox2およびc-Myc、またはそれらをコードする核酸を含む、請求項18記載の剤。
【請求項21】
以下の(1)及び(2):
(1)GLISファミリーのメンバーをコードする外来性核酸からなる群より選択される1種以上の核酸、
(2)Klfファミリーのメンバーをコードする外来性核酸からなる群より選択される1種以上の核酸、
を含む、iPS細胞。
【請求項22】
前記外来性核酸がゲノムに組み込まれている、請求項21記載のiPS細胞。
【請求項23】
請求項21または22記載のiPS細胞に分化誘導処理を行い、体細胞に分化させることを含む、体細胞の製造方法。
【請求項24】
下記の(1)および(2):
(1) 請求項7〜13のいずれか1項に記載の方法によりiPS細胞を製造する工程、および
(2) 上記工程(1)で得られたiPS細胞に分化誘導処理を行い、体細胞に分化させる工程、
を含む、体細胞の製造方法。
【請求項25】
iPS細胞の樹立効率改善のための、以下の(1)及び(2):
(1) GLISファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
(2) Klfファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
の使用。
【請求項26】
iPS細胞の樹立効率改善のための、GLISファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質の使用であって、該物質を、Klfファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質とともに体細胞に接触させることを特徴とする、使用。
【請求項27】
iPS細胞の製造のための、以下の(1)、(2)及び(3):
(1)GLISファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
(2)Klfファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
(3)前記(1)及び(2)の物質と組み合わせることにより体細胞からiPS細胞を誘導しうる核初期化物質、
の使用。
【請求項28】
iPS細胞の製造のための、以下の(1)及び(2):
(1)GLISファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
(2)Klfファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、
の使用であって、該因子を、前記(1)及び(2)の物質と組み合わせることにより体細胞からiPS細胞を誘導しうる核初期化物質とともに体細胞に接触させることを特徴とする、使用。
【請求項29】
iPS細胞の製造のための、(1)GLISファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質の使用であって、該物質を、(2)Klfファミリーのメンバーおよびそれらをコードする核酸からなる群より選択される1種以上の物質、および、前記(1)及び(2)の物質と組み合わせることにより体細胞からiPS細胞を誘導しうる核初期化物質とともに体細胞に接触させることを特徴とする、使用。
【請求項30】
体細胞の製造における、請求項21または22記載のiPS細胞の使用。
【請求項31】
体細胞の製造における細胞ソースとしての、請求項21または22記載のiPS細胞。
【図19】
【図20】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図20】
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【図14】
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【図17】
【図18】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【公表番号】特表2013−519371(P2013−519371A)
【公表日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−552617(P2012−552617)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【国際出願番号】PCT/JP2011/053874
【国際公開番号】WO2011/102531
【国際公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「iPS細胞等幹細胞産業応用促進基盤技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願。平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「iPS細胞等幹細胞産業応用促進基盤技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(500535301)一般社団法人バイオ産業情報化コンソーシアム (22)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【国際出願番号】PCT/JP2011/053874
【国際公開番号】WO2011/102531
【国際公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「iPS細胞等幹細胞産業応用促進基盤技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願。平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「iPS細胞等幹細胞産業応用促進基盤技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(500535301)一般社団法人バイオ産業情報化コンソーシアム (22)
【Fターム(参考)】
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