説明

動物動作を定量化する方法、動物動作定量化装置

【課題】
動物の歩様把握のために採取された三次元加速度データをわかりやすく視覚的に表現し、「どの方向に、どの程度アンバランスなのか」を含め、歩様を定量的に把握する好適な方法と装置の提供する。
【解決手段】
円柱座標変換で得られた動物動作中の円柱座標(R、Θ、Z)加速度ベクトルデータのR、Θ、Zの3成分のうちRまたはZ成分でランキング(順位)表を作成、ランキング上位であるRまたはZ成分を与える注目Θ値の前後のRまたはZ成分(加速度ベクトル)データを角度と対応付けて、角度を円周に割り当てた円と該円周と直交するRまたはZ軸によって表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モーションセンサーを装着した動物の動作を分析する一般技術である。限定した用途で効果を具体的に示すのが適切であるので、「動物」を「二足または四足歩行動物」とし、「動作モード」を「歩様」として説明する。他の動作解析に関しては後述する。ここで、「歩様(英文はGAIT)」とは、歩行動物の歩き方、歩行の態様を示す動物行動学上の用語である。
【0002】
歩行動物は種を問わず、二足歩行するヒト、四足歩行の蓄獣を含む。これら動物にモーションセンサーを装着し該センサーから得られるデータから、正常な身体バランスがとれているか、アンバランスで転倒しやすい状態であるか、の弁別、さらに単なるバランス・アンバランスの弁別以上の「どの程度アンバランスなのか」、といったバランスに関する量的指標の抽出は、臨床診断・動物薬効試験などで必要である。
【背景技術】
【0003】
ヒト歩様を把握することは、転倒防止や歩行障害治療のリハビリで重要視され、力学センサー・画像センサー・加速度センサーでデータを採取して解析されてきた。これらセンサーのうち、フォースプレート(床反力の測定装置)などの力学センサー方式、モーションキャプチャーなどの動画像解析を組み合せた画像センサー方法(特許文献1参照)は、コスト・パフォーマンスで加速度センサー方式に対し、やや優位性を欠いている。特に画像方式は関節部位にマーカ装着する手間と画像記録や解析に高価な装置を要する問題がある。そこで、データ採取の容易性および経済性から、加速度センサーを用いた方式(特許文献2から6、非特許文献1から5参照)に注目する。
【0004】
特許文献2では、ヒトの脛骨および踵に加速度センサーを装着し歩行中に観測される複数の垂直方向時刻のピークに注目した歩様解析を開示している。さらに同文献にて、加速度の時系列データをフーリエ変換して周波数解析することが開示されている。
【0005】
特許文献3では、パーキンソン患者の指に加速度センサーを装着し、指同士の接触インターバル時間を解析する動作解析手法が開示されている。
【0006】
特許文献4では、ヒトの腹部に加速度センサーを装着し、採取されたデータと背屈力との関係で歩様解析する手法が開示されている。
【0007】
特許文献5では、四足歩行動物の牛に加速度センサーを装着し、加速度ベクトルの終点の移動を示すデータを採取し、該データを牛の前後・左右・上下のうちの2つの座標軸を組み合わせたリサージュ図形で視覚化し、歩様を定量化する方法が開示されている。これは疾病乳牛の治療前後の変化を定量化することで治療法でもある。
【0008】
こういった加速度データ解析について加速度センサーの原理からくる問題がある。加速度センサーの加速度検知は、加速度による分子構造のズレのエネルギーを電気信号に変換する素子によるものであり、かかる変換素子を三次元直交座標(x、y、z)方向に配設していることから、センサーデータは三次元直交座標(x、y、z)の加速度データである。ゆえに、ベクトル方向は直接的には得られない。
【0009】
特許文献6に、連続採取された歩行状態の特定期間内の加速度ベクトルデータを用いて、加速度センサ座標系における重力加速度方向および身体軸を自動修正する機能をもつ解析法が開示されている。しかし特許文献6の技術では、歩行状態に異常があると適切な座標方向・座標軸の修正ができない。
【0010】
なお、2つの生体データの解析にリサージュ図形を利用することは公知である。具体的には、特許文献7に第1 の測定信号をX 軸に、第2 の測定信号をY 軸にして、生体データのリサージュ波形を描くことでデータ解析する手法が開示されている。さらに本件と同一発明者らによる特許文献8には、歩行動物に装着された三次元直交座標(x、y、z)加速度センサーから採取される加速度ベクトルの3つの成分中の2成分のデータのリサージュ波形を描くことで歩行動物の歩様を解析する手法が具体的に記載されている(図2・図3参照)。
【0011】
非特許文献1から6は、加速度による歩様バランス定量化の学術的アプローチを開示している。特に、非特許文献6で3方向加速度センサの歩行データをフーリエ変換した周波数解析が開示されている。しかし、三次元直交座標(x、y、z)を用いた分析であって、ベクトル方向は直接的には得られない。その他の座標系での分析は開示されていない。
【0012】
以上例示した個々の公知技術およびこれらを組み合わせた技術では、歩行中に正常な身体バランスがとれている状態とアンバランスで転倒しやすい状態の「弁別」、その弁別に用いる具体的かつ視覚的にわかりやすい量的指標、特に、どの方向に、どの程度アンバランスなのか、というバランスに関する具体的かつ視覚的にわかりやすい量的指標については、まだ改善の余地がある。
【0013】
どの方向に、どの程度アンバランスなのか、というバランスに関する量的指標を三次元直交座標(x、y、z)以外の座標系で具体的に分析した先行文献は見当たらない。本発明では円柱座標(R、Θ、Z)を用いるが、それ自体は公知である(図1参照)。直交座標(x、y、z)と円柱座標(R、Θ、Z)とは、「R=(x2+y2)1/2、Θ=arctan(y/x)、Z=z」または「x=R cosθ、y=R sinθ、z=Z」の関係式で容易に相互変換される。
【0014】
【特許文献1】国際公開WO05-96939号公報「リハビリ支援用計測システム、及びリハビリ支援用計測方法」財団法人新産業創造研究機構
【特許文献2】特開2004-261525号公報「変形性膝関節症の判定方法および判定装置 」マイクロストーン株式会社
【特許文献3】特開2005-152053号公報「動作解析装置およびその利用」独立行政法人科学技術振興機構
【特許文献4】特開2006-87735号公報 「歩行解析装置」アイシン精機株式会社
【特許文献5】特開2006-218122号公報「脚状態診断システムとその診断方法」財団法人新産業創造研究機構
【特許文献6】特開2006−175206号公報「身体状態検出装置、その検出方法及び検出プログラム」独立行政法人産業技術総合研究所
【特許文献7】特開2005−245574号公報「信号処理方法及びそれを用いたパルスフォトメータ」日本光電工業株式会社
【特許文献8】特願2005-317524号「診断システム」財団法人新産業創造研究機構
【非特許文献1】神先秀人、外4名、「機器を使用した歩行の評価」、理学療法学、2003年6月20日、第30巻、第4号、p-258、図7-8
【非特許文献2】小林哲平、外3名「加速度センサを用いた運動学的歩行分析システム一般関節疾患の術後リハビリにおけるWalk―Mite有効性評価への適用」計測自動制御学会論文集、vol.42、No.5、p567 (2006)
【非特許文献3】松原正明、外5名「三次元加速度センサー計測装置による片側変形性股関節症術前・術後の歩行の検討」 リハビリテーション医学, vol.42, suppl,pp.S152 (2005) 第42回日本リハビリテーション医学会学術集会
【非特許文献4】和田義明、外5名「三次元加速度センサーを用いた計測装置による歩行の検討」 リハビリテーション医学, vol.42, suppl, pp.S335 (2005)第42回日本リハビリテーション医学会学術集会
【非特許文献5】下釜みずき、三宅美博, "共創型歩行介助システムへの加速度センサ導入による多様な歩行障害への対応," 第4回SICEシステムインテグレーション部門講演会講演論文集(SI2003), pp.175-176 (2003)
【非特許文献6】黄 健、関根正樹、外3名「3方向加速度センサを用いた歩行計測と周波数解析」日本機械学会 第76期全国大会講演会講演論文集(II),No.98-3(1998-10), pp.285-286.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
加速度センサーをもちいて歩様を定量化する多くの試みがなされているが、歩様バランスに注目し、そのバランス判定の明確な手続きが確立されるに至ってはいない。とりわけ、「どの方向に、どの程度アンバランスなのか」、というバランスに関する具体的かつ視覚的にわかりやすい量的指標については、技術的に未完成でがある。本発明は、三次元加速度データをわかりやすく視覚的に表現し、「どの方向に、どの程度アンバランスなのか」を含め、歩様を定量的に把握する好適な方法と装置を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の本質は、加速度の方向を分析するには直交座標(x、y、z)よりも円柱座標(R、Θ、Z)を利用したほうが、より適切であることによる。ただし単に座標変換しただけではなく、データをわかりやすく視覚的に表現する図示方法とその手順を提供している。これを以下に説明する。
【0017】
本発明は(請求項1)、動物に装着された三次元直交座標(x、y、z)加速度センサーから採取される加速度ベクトルデータによって動物動作を円柱座標(R、Θ、Z)を利用して定量化する方法であって、 円柱座標(R、Θ、Z)の軸(Z)方向を重力加速度(上下)方向、または円柱座標(R、Θ、Z)の径(R)方向を重力加速度(上下)方向とし、動物動作中に加速度センサーから採取される直交座標(x、y、z)の加速度ベクトルデータを前記円柱座標(R、Θ、Z)に変換する工程、前記変換で得られた動物動作中の円柱座標(R、Θ、Z)加速度ベクトルデータのR、Θ、Zの3成分のうち、2つの成分を対応付けて表す図を描画する工程を有する動物動作の定量化方法である(図14のフローチャート参照)。ここで、軸(Z)方向を重力加速度(上下)方向とした場合は、縦に円柱を立てた座標、径(R)方向を重力加速度(上下)方向とした場合は、横に円柱を寝かした座標である。これらを「縦円柱」「横円柱」座標と仮称する。
【0018】
また本発明は(請求項2)、2つの成分を対応付けて表す図が、径(R)方向の加速度ベクトルの大きさであるR成分のΘ分布を、Θの角度を円周に割り当てた円と該円周と直交するR軸によってR成分とΘとを対応付けて表す図である、および/または軸(Z)方向の加速度ベクトルの大きさであるZ成分のΘ分布を、Θの角度を円周に割り当てた円と該円周に直交するZ軸によってZ成分とΘとを対応付けて表す図とした方法である。
【0019】
図4が、本発明の「縦円柱」円柱座標(R、Θ、Z)であって、図2・図3同様に「側面」「正面(背面)」「平面」図を表示している。角度そのものの情報が表示されることに特徴がある。図4で真前はΘ=0、真後ろはΘ=π、真横(左右)はΘ=π/2,3π/2)で表される。
【0020】
図5が、本発明の加速度データ表示の例図であって、図5上図は、Θの角度を円周に割り当てた円1に1の円周と直交するZ軸5を記した図、図5下図は、Θの角度を円周に割り当てた円1に1の円周と直交するR軸4を記した図である。Z軸5・R軸4ともに、3つの角度例(Θ1Θ2Θ3、Φ1Φ2Φ3)のみ記し、該軸上に加速度データ例(○、●、△、▲、▽、▲、□、■)を記入した。Z軸・R軸は略してもかまわない。また、円1の円周がZ軸・R軸のゼロライン(Z=R=0)であるのが好適であるがその限定はない。
【0021】
図5上図を詳しく見ると、図5上図と図5下図ともに同様のΘ位置であるπ/2<Θ<πの右斜め後方のデータである。ここで注意を要することは、Z軸・R軸データを抽出する際の角度成分が厳密なπ/2<Θ<πの値、たとえば、Θ=1.00000・・・・やΘ=2.00000・・・・といった値をもつものを抽出するということではなく、任意の数値幅をもつものを抽出してかまわない、ということである。
【0022】
たとえばΘ=0の加速度データは、真前方向の加速度成分をもつものであるが、歩様解析において厳密な真前のみを注目することは無意味である。つまり、数度の角度以内(−λ<Θ<λ:λは数度)の範囲のデータがすべて真前方向であるとしてかまわない。つまり、数度の角度以内(−Δ<Θ<Δはπ/10以下)の範囲のデータがすべて真前方向であるとしてかまわない。厳密なΘ=0.00000・・・・の抽出とするとわずかなデータしか条件にフィットしないが、その分角度の分析分解能はあがる。逆に、Δの設定が歩様解析の分解能の条件であるので、Δは歩様定量化の条件として記録されるべきものである。
【0023】
Z軸・R軸は図6・図7のように互いに直交するように図示しても、そうでなくともよい。また異なるΘにおけるZ軸・R軸上のデータをΘの角度を円周に割り当てた円1の同心円複数の円で描画してもよい(図示略)。また、同心円状かつ半円、3分の1円、4分の1円等々の組み合わせで、注目すべきΘ=Θ1、Θ=Θ2、Θ=Θ3、Θ=Θ4等々のZ軸・R軸データが記載された円図または部分円図を組み合わせ描画してもよい(図示略)。ここでΘ=Θiは、正しくはΘi−Δ<Θ<Θi+Δであって、Δはπ/10以下が好適である。
【0024】
注目すべきΘ=Θ1、Θ=Θ2、Θ=Θ3、Θ=Θ4等々を如何にして選ぶか、であるが、以下のようにすればよい。すなわち、本発明では(請求項3)、円柱座標変換で得られた動物動作中の円柱座標(R、Θ、Z)加速度ベクトルデータのR、Θ、Zの3成分のうちR成分(加速度ベクトル)または/およびZ成分(加速度ベクトル)の大きさでランキング(順位)表を作成する工程、前記作成されたランキング(順位)表の上位にある加速度ベクトルデータのΘ成分の値Θ0に注目し、加速度ベクトルデータのΘ成分が、Θ0−Δ<Θ0<Θ0+Δ(Δはπ/10以下)であるデータを抽出する工程、注目Θ値であるΘ0から抽出された加速度ベクトルデータのr成分(加速度ベクトル)データをΘと対応付けて表す図を描画する工程をさらに有すると好適である((図15のフローチャート参照)。
【0025】
ここでΔは角度の小さい値であって、分析の精度または分解能にあたる値である。この値が大きいほど大雑把な分析、小さいほど角度について小さな差異にも敏感な分析になる一方、より多くのデータが必要になる。
【0026】
繰り返しになるが、Δは角度切り出しの角度範囲であって、分析の分解能である。アンバランス角度方向の考察など、プラスマイナス1度といったこまかい角度の差は無意味であるので、角度切り出しは、5度や10度の角度で切り出して問題ない。すなわち、0≦Θ<5、5≦Θ<10・・・・・85≦Θ≦90度といった範囲で切り分ければ十分である。逆に、ある歩様行動個体と他の類似した歩様行動をとる個体との歩様を厳密に弁別したければ、十分に多くのデータを長い時間をかけて採取して、上記の角度区分を、0≦Θ<1、2≦Θ<3・・・・・89≦Θ≦90度といった細かい範囲で切り分けて解析することも可能ではある。
【0027】
図6はΘ1<Θ<Θ2、図7はΘ3<Θ<Θ4の加速度データである。このようにZ軸・R軸を互いに直交するように図示するのが好適で、実際にZ軸・R軸の加速度データが直交する方向であることが把握しやすい。
【0028】
図6の部位では、正のZ軸データ、正のR軸データが観測されたのに対して、図7の部位では、Z軸データは負で逆方向、R軸データは小さくほとんどゼロである。このように「どの方向(角度)」で「どのような」加速度であるか把握でき、歩様が定量化できる。
【0029】
図8は「横円柱」座標の例であって、乳牛など四足歩行動物に好適な例である。乳牛の前方がZ軸、重力方向はR軸で、その方向はΘ=π/2とした例である。重力方向のΘの設定値は任意であるので後述する傾斜歩行面などの時には、傾斜角度も考慮して設定すればよい。
【0030】
図9は、図8に加速度データをプロットした例図であって、本図の角度位置(Θ1<Θ<Θ2)にては正のZ方向(乳牛の前方)加速度が観測されるが、R方向加速度はきわめて小さいことがわかる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によって、加速度センサーで採取された動物動作データが、従来よりもわかりやすく視覚化(グラフ化)され、歩様を定量的に把握できるようになる。歩様定量化について、より明確な手続きが確立され、様々な動作データの統一的評価ができるようになる。特に「どの方向に」歩様がアンバランスであるか、については、Θという角度で明確化され、それらとベクトルの大きさR値・Z値が対応しているので、バランス良好データのR値・Z値とバランス不良データのR値・Z値とを比較することで「どの程度アンバランスなのか」、も定量把握できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
発明実施の際に好適な他の工夫を説明する。本発明にても、従来からなされているように時系列データからパワスペクトルを得て定量化するのが好適である。すなわち(請求項4)、動物に装着された三次元直交座標(x、y、z)加速度センサーから採取される加速度ベクトルデータによって動物動作をを円柱座標(R、Θ、Z)を利用して定量化する方法であって、円柱座標(R、Θ、Z)の軸(Z)方向を重力加速度(上下)方向、または円柱座標(R、Θ、Z)の径(R)方向を重力加速度(上下)方向とし、 動物が動作中に加速度センサーから採取される直交座標(x、y、z)の加速度ベクトルデータを前記円柱座標(R、Θ、Z)に変換する工程、前記変換で得られた動物動作中の円柱座標(R、Θ、Z)加速度ベクトルデータのR成分(加速度ベクトル)または/およびZ成分(加速度ベクトル)の大きさでランキング(順位)表を作成する工程、前記作成されたランキング(順位)表の上位にある加速度ベクトルデータのΘ成分の値Θ0に注目し、加速度ベクトルデータのΘ成分が、Θ0−Δ<Θ0<Θ0+Δ(Δはπ/10以下)であるデータをフーリエ変換する工程を実施することも好適である。
【0033】
図10の上図は、従来の直交座標(x、y、z)で表された時系列の加速度ベクトルデータをフーリエ変換した対象例図。図10の下図は上図と同じ時系列の加速度ベクトルデータを円柱座標(R、Θ、Z)に変換し、変換で得られた動物動作中の円柱座標(R、Θ、Z)加速度ベクトルデータのRまたは/およびZ成分(加速度ベクトル)の大きさでランキング(順位)表を作成し、作成されたランキング(順位)表の上位にある加速度ベクトルデータのΘ成分の値に注目し、かかる注目Θ値の前後、すなわち、(注目Θ値−Δ)<(注目Θ値)<(注目Θ値+Δ)の範囲、または(注目Φ値−Δ)<(注目Φ値)<(注目Φ値+Δ)の範囲にある加速度ベクトルデータを抽出し、さらに抽出された加速度ベクトルデータのRまたは/およびZ成分(加速度ベクトル)時系列をフーリエ変換した図である。同じデータでありながら、本発明による図10下図の方がパワスペクトルの大きなピークを検知しており、より適切な歩様の把握と定量化がなされているのがわかる。
【0034】
また、本発明では(請求項5)、傾斜したトレッドミルを利用してもよい。すなわち、移動面に移動方向傾斜角(α)および/または移動方向に直交する方向傾斜角(β)を与える傾斜手段を具備した無限軌道面をもつトレッドミル上を動作する動物に装着された三次元直交座標(x、y、z)加速度センサーから採取される加速度ベクトルデータによって動物動作を円柱座標(R、Θ、Z)を利用して定量化する方法であって、円柱座標(R、Θ、Z)の軸(Z)方向または径(R)方向を重力加速度(上下)方向とし、移動方向傾斜および/または移動方向に直交する方向傾斜がある移動面を動物が動作中に加速度センサーから採取される直交座標(x、y、z)加速度ベクトルデータを前記円柱座標(R、Θ、Z)に変換する工程、前記変換で得られた動物動作中の円柱座標(R、Θ、Z)加速度ベクトルデータを移動方向傾斜角(α)および/または移動方向に直交する方向傾斜角(β)をパラメータとして表す図を描画する工程を実施することも好適である。
【0035】
図11が、歩行面に歩行方向傾斜角(α)を与える傾斜手段を具備した無限軌道回転移動面をもつトレッドミルの説明図、図12が、歩行面に直交する方向傾斜角(β)を与える傾斜手段を具備した無限軌道回転移動面をもつトレッドミルの説明図である。これらを利用してデータを採取し、歩行面の歩行方向傾斜角(α)であって上り勾配角度αup、歩行面の歩行方向傾斜角(α)であって下り勾配角度αdown、歩行面の歩行方向に直交する方向傾斜角(β)であって右上がり(右下がり)左右傾斜(カント)角度βright、歩行面の歩行方向に直交する方向傾斜角(β)であって左上がり(左下がり)左右傾斜(カント)角度βleftと採取データを関連付けた解析をおこなってもよい。
【0036】
すなわち(請求項6)、円柱座標(R、Θ、Z)の軸(Z)方向または径(R)方向を重力加速度(上下)方向とした次の段階で、かかる円柱座標(R、Θ、Z)の軸(Z)方向または径(R)方向を重力加速度(上下)方向から移動方向傾斜角および/または移動方向に直交する方向傾斜角だけシフトする工程、加速度センサーから採取されていた直交座標(x、y、z)加速度ベクトルデータを前記シフト後の円柱座標(R、Θ、Z)に変換する工程、前記シフト後の変換で得られた動物動作中のシフト後円柱座標(R、Θ、Z)加速度ベクトルデータを表す図を描画する工程を実施してもよい(図13参照)。
【0037】
さらに、複数の加速度センサーを動物に装着し、それらの加速度センサーの信号から、センサ装着位置の中間または2つのセンサー装着位置の延長線上にある加速度の極小点(不動点)の推定、も可能であろう。すなわち(請求項7)、2つ以上の加速度センサーが動物に装着されていて、該2つ以上の加速度センサーから得られる2つ以上の加速度データによる動物動作定量化データの差を出力する工程をさらに実施してもよい。ただし加速度の極小点(不動点)の推定のための方法・アルゴリズムは現時点では明確でない。
【0038】
本発明の実施装置は、基本的にソフトウェアであって、ここまでに説明した工程をなすアルゴリズムを実行するプログラムをパソコンなどにインストールすればよい。それらプログラムが各工程を実施する手段となる。請求項8の装置は請求項1、請求項9の装置は請求項3、請求項10の装置は請求項4、請求項11の装置は請求項5の工程を手段と置換したものであるので説明は省く。
【0039】
本発明は、動物動作を分析する一般技術であり、例として「動物」を「二足または四足歩行動物」とし、「動作モード」を「歩様」として説明した。しかしこれらに限定されることはなく、二足・四足歩行動物以外の動物、あるいはロボットを含む運動メカニズムに加速度センサーを装着して適用できる。分析対象の「動作モード」も無制限であって、たとえばヒトのスポーツ動作では、バッティング・スイング動作、水泳のストローク動作、臨床用途では、四肢の運動障害の動作分析に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】円柱座標(R、Θ、Z)と直交座標(x、y、z)および両座標の座標変換式
【図2】三次元直交座標(x、y、z)を利用して歩行動物の歩様バランスを定量化するための図例であって、加速度ベクトルの3成分中の2成分のデータの対応を描くための歩行動物「側面」「正面(背面)」「平面」図。
【図3】図2の歩行動物「側面」「正面(背面)」「平面」図に加速度センサーから採取される加速度ベクトルの終点を描いた例であって、3成分中の2成分がそれぞれ縦軸と横軸に反映されている。いわゆるリサージュ図形であってこの図自体にベクトルの角度情報はない。
【図4】本発明の円柱座標(R、Θ、Z)であって、図2・図3同様に「側面」「正面(背面)」「平面」図を表示している。角度そのものの情報が表示されることに特徴がある。
【図5】本発明の加速度データ表示の例図であって、上図は、Θの角度を円周に割り当てた円1に1の円周と直交するZ軸5を記した図、下図は、Θの角度を円周に割り当てた円1に1の円周と直交するR軸4を記した図である。Z軸5・R軸4ともに、3つの角度例(Θ1Θ2Θ3、Φ1Φ2Φ3)のみ記し、該軸上に加速度データ例(○、●、△、▲、▽、▲、□、■)を記入した。
【図6】Θ1<Θ<Θ2の加速度データ例 ○、△、▽、□がZ軸データ、■、●、▲、▲、■がR軸データである。
【図7】Θ3<Θ<Θ4の加速度データ例 ○、△、▽、□がZ軸データ、■、●、▲、▲、■がR軸データである。
【図8】「横円柱」座標の例であって、乳牛など四足歩行動物に好適な例である。乳牛の前方がZ軸、重力方向はR軸で、その方向はΘ=π/2とした例である。重力方向のΘの設定値は任意。傾斜歩行面などの時には、傾斜角度も考慮して設定すればよい。
【図9】図8に加速度データをプロットした例図であって、本図の角度位置(Θ1<Θ<Θ2)にては正のZ方向(乳牛の前方)加速度が観測されるが、R方向加速度はきわめて小さいことがわかる。
【図10】上図は従来の直交座標(x、y、z)で表された時系列の加速度ベクトルデータをフーリエ変換した対象例図。下図は上図と同じ時系列の加速度ベクトルデータを円柱座標(R、Θ、Z)に変換し、変換で得られた動物動作中の円柱座標(R、Θ、Z)加速度ベクトルデータのr成分(加速度ベクトル)の大きさでランキング(順位)表を作成し、作成されたランキング(順位)表の上位にある加速度ベクトルデータのθ、Φの2成分の値に注目し、かかる注目θ値または注目Φ値の前後、すなわち、(注目θ値−Δ)<(注目θ値)<(注目θ値+Δ)の範囲、または(注目Φ値−Δ)<(注目Φ値)<(注目Φ値+Δ)の範囲にある加速度ベクトルデータを抽出し、さらに抽出された加速度ベクトルデータのr成分(加速度ベクトル)時系列をフーリエ変換した図である。同じデータでありながら、本発明による下図の方がパワスペクトルの大きなピークを検知しており、適切な歩様定量化がなされているのがわかる。
【図11】歩行面に歩行方向傾斜角(α)を与える傾斜手段を具備した無限軌道回転移動面をもつトレッドミルの説明図
【図12】歩行面に直交する方向傾斜角(β)を与える傾斜手段を具備した無限軌道回転移動面をもつトレッドミルの説明図
【図13】円柱座標(R、Θ、Z)の軸(Z)方向または径(R)方向を重力加速度(上下)方向とした次の段階で、かかる軸(Z)方向または径(R)方向を重力加速度(上下)方向から移動方向傾斜角(α)および/または移動方向に直交する方向傾斜角(β)だけシフトすることの説明図
【図14】請求項1のフローチャートであって図中の「サブフローA」は請求項3のフローチャートである。
【図15】請求項3のフローチャート
【符号の説明】
【0041】
1 Θの角度を円周に割り当てた円
4 1の円周と直交するZ軸
5 1の円周と直交するR軸
○、●、△、▲、▽、▲、□、■は加速度ベクトルのデータ
H 歩行中の歩行動物(たとえばヒト)
αup 歩行面の歩行方向傾斜角(α)であって上り勾配角度
αdown 歩行面の歩行方向傾斜角(α)であって下り勾配角度
βright 歩行面の歩行方向に直交する方向傾斜角(β)であって右上がり(右下がり)左右傾斜(カント)角度
βleft 歩行面の歩行方向に直交する方向傾斜角(β)であって左上がり(左下がり)左右傾斜(カント)角度
Tr 無限軌道回転歩行面を有するトレッドミル
tup 歩行面に歩行方向傾斜角αupがある時間
tdown 歩行面に歩行方向傾斜角αdownがある時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物に装着された三次元直交座標(x、y、z)加速度センサーから採取される加速度ベクトルデータによって動物動作を円柱座標(R、Θ、Z)を利用して定量化する方法であって、
円柱座標(R、Θ、Z)の軸(Z)方向を重力加速度(上下)方向、または円柱座標(R、Θ、Z)の径(R)方向を重力加速度(上下)方向とし、動物動作中に加速度センサーから採取される直交座標(x、y、z)の加速度ベクトルデータを前記円柱座標(R、Θ、Z)に変換する工程、前記変換で得られた動物動作中の円柱座標(R、Θ、Z)加速度ベクトルデータのR、Θ、Zの3成分のうち、2つの成分を対応付けて表す図を描画する工程を有する動物動作の定量化方法。
【請求項2】
2つの成分を対応付けて表す図が、径(R)方向の加速度ベクトルの大きさであるR成分のΘ分布を、Θの角度を円周に割り当てた円と該円周と直交するR軸によってR成分とΘとを対応付けて表す図である、および/または軸(Z)方向の加速度ベクトルの大きさであるZ成分のΘ分布を、Θの角度を円周に割り当てた円と該円周に直交するZ軸によってZ成分とΘとを対応付けて表す図である請求項1の動物動作の定量化方法。
【請求項3】
円柱座標変換で得られた動物動作中の円柱座標(R、Θ、Z)加速度ベクトルデータのR、Θ、Zの3成分のうちR成分(加速度ベクトル)または/およびZ成分(加速度ベクトル)の大きさでランキング(順位)表を作成する工程、前記作成されたランキング(順位)表の上位にある加速度ベクトルデータのΘ成分の値Θ0に注目し、加速度ベクトルデータのΘ成分が、Θ0−Δ<Θ0<Θ0+Δ(Δはπ/10以下)であるデータを抽出する工程、注目Θ値であるΘ0から抽出された加速度ベクトルデータのr成分(加速度ベクトル)データをΘと対応付けて表す図を描画する工程をさらに有する請求項1または請求項2の動物動作の定量化方法。
【請求項4】
動物に装着された三次元直交座標(x、y、z)加速度センサーから採取される加速度ベクトルデータによって動物動作をを円柱座標(R、Θ、Z)を利用して定量化する方法であって、
円柱座標(R、Θ、Z)の軸(Z)方向を重力加速度(上下)方向、または円柱座標(R、Θ、Z)の径(R)方向を重力加速度(上下)方向とし、動物が動作中に加速度センサーから採取される直交座標(x、y、z)の加速度ベクトルデータを前記円柱座標(R、Θ、Z)に変換する工程、前記変換で得られた動物動作中の円柱座標(R、Θ、Z)加速度ベクトルデータのR成分(加速度ベクトル)または/およびZ成分(加速度ベクトル)の大きさでランキング(順位)表を作成する工程、前記作成されたランキング(順位)表の上位にある加速度ベクトルデータのΘ成分の値Θ0に注目し、加速度ベクトルデータのΘ成分が、Θ0−Δ<Θ0<Θ0+Δ(Δはπ/10以下)であるデータをフーリエ変換する工程を有する動物動作の定量化方法。
【請求項5】
移動面に移動方向傾斜角(α)および/または移動方向に直交する方向傾斜角(β)を与える傾斜手段を具備した無限軌道面をもつトレッドミル上を動作する動物に装着された三次元直交座標(x、y、z)加速度センサーから採取される加速度ベクトルデータによって動物動作を円柱座標(R、Θ、Z)を利用して定量化する方法であって、
円柱座標(R、Θ、Z)の軸(Z)方向または径(R)方向を重力加速度(上下)方向とし、移動方向傾斜および/または移動方向に直交する方向傾斜がある移動面を動物が動作中に加速度センサーから採取される直交座標(x、y、z)加速度ベクトルデータを前記円柱座標(R、Θ、Z)に変換する工程、前記変換で得られた動物動作中の円柱座標(R、Θ、Z)加速度ベクトルデータを移動方向傾斜角(α)および/または移動方向に直交する方向傾斜角(β)をパラメータとして表す図を描画する工程を有する動物動作の定量化方法。
【請求項6】
円柱座標(R、Θ、Z)の軸(Z)方向または径(R)方向を重力加速度(上下)方向とした次の段階で、かかる円柱座標(R、Θ、Z)の軸(Z)方向または径(R)方向を重力加速度(上下)方向から移動方向傾斜角および/または移動方向に直交する方向傾斜角だけシフトする工程、加速度センサーから採取されていた直交座標(x、y、z)加速度ベクトルデータを前記シフト後の円柱座標(R、Θ、Z)に変換する工程、前記シフト後の変換で得られた動物動作中のシフト後円柱座標(R、Θ、Z)加速度ベクトルデータを表す図を描画する工程をさらに有する請求項5の動物動作の定量化方法。
【請求項7】
2つ以上の加速度センサーが動物に装着されていて、該2つ以上の加速度センサーから得られる2つ以上の加速度データによる動物動作定量化データの差を出力する工程をさらに有する請求項1から請求項6のいずれかに記載された動物動作の定量化方法。
【請求項8】
動物に装着された三次元直交座標(x、y、z)加速度センサーから採取される加速度ベクトルデータによって動物動作を円柱座標(R、Θ、Z)を利用して定量化する装置であって、
直交座標(x、y、z)のz軸および円柱座標(R、Θ、Z)の軸(Z)方向を重力加速度(上下)方向とし、動物動作中に加速度センサーから採取される直交座標(x、y、z)の加速度ベクトルデータを前記円柱座標(R、Θ、Z)に変換する手段、前記変換で得られた動物動作中の円柱座標(R、Θ、Z)加速度ベクトルデータのR、Θ、Zの3成分のうち、2つの成分を対応付けて表す図を描画して表示する手段を有する動物動作の定量化装置。
【請求項9】
円柱座標変換で得られた動物動作中の円柱座標(R、Θ、Z)加速度ベクトルデータのR、Θ、Zの3成分のうちR成分(加速度ベクトル)または/およびZ成分(加速度ベクトル)の大きさでランキング(順位)表を作成する手段、前記作成されたランキング(順位)表の上位にある加速度ベクトルデータのΘ成分の値Θ0に注目し、加速度ベクトルデータのΘ成分が、Θ0−Δ<Θ0<Θ0+Δ(Δはπ/10以下)であるデータを抽出する手段、注目Θ値であるΘ0から抽出された加速度ベクトルデータのr成分(加速度ベクトル)データをΘと対応付けて表す図を描画する手段をさらに有する請求項8の動物動作の定量化装置。
【請求項10】
動物に装着された三次元直交座標(x、y、z)加速度センサーから採取される加速度ベクトルデータによって動物動作を円柱座標(R、Θ、Z)を利用して定量化する装置であって、
円柱座標(R、Θ、Z)の軸(Z)方向を重力加速度(上下)方向、または円柱座標(R、Θ、Z)の径(R)方向を重力加速度(上下)方向とし、動物が動作中に加速度センサーから採取される直交座標(x、y、z)の加速度ベクトルデータを前記円柱座標(R、Θ、Z)に変換する手段、前記変換で得られた動物動作中の円柱座標(R、Θ、Z)加速度ベクトルデータのR成分(加速度ベクトル)または/およびZ成分(加速度ベクトル)の大きさでランキング(順位)表を作成する手段、前記作成されたランキング(順位)表の上位にある加速度ベクトルデータのΘ成分の値Θ0に注目し、加速度ベクトルデータのΘ成分が、Θ0−Δ<Θ0<Θ0+Δ(Δはπ/10以下)であるデータをフーリエ変換する手段を有する動物動作の定量化装置。
【請求項11】
移動面に移動方向傾斜角(α)および/または移動方向に直交する方向傾斜角(β)を与える傾斜手段を具備した無限軌道面をもつトレッドミル上を動作する動物に装着された三次元直交座標(x、y、z)加速度センサーから採取される加速度ベクトルデータによって動物動作を円柱座標(R、Θ、Z)を利用して定量化する装置であって、円柱座標(R、Θ、Z)の軸(Z)方向または径(R)方向を重力加速度(上下)方向とし、移動方向傾斜および/または移動方向に直交する方向傾斜がある移動面を動物が動作中に加速度センサーから採取される直交座標(x、y、z)加速度ベクトルデータを前記円柱座標(R、Θ、Z)に変換する手段、前記変換で得られた動物動作中の円柱座標(R、Θ、Z)加速度ベクトルデータを移動方向傾斜角(α)および/または移動方向に直交する方向傾斜角(β)をパラメータとして表す図を描画する手段を有する動物動作の定量化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−109970(P2008−109970A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−293457(P2006−293457)
【出願日】平成18年10月30日(2006.10.30)
【出願人】(306037218)バイセン株式会社 (7)
【Fターム(参考)】