説明

動物用耳標

【課題】 雄部材と雌部材との合体時における作業性の向上を図る。
【解決手段】 雄部材2は動物の耳に係止されるフランジ21と、このフランジ21に立設された中空状の軸部22と、この軸部22の上端部に設けられた頭部23とによって構成されている。頭部23は、係合面24aを有する係合部24と、この係合部24に一体化され金属によって形成された尖鋭部25とからなる。雌部材3は、有底円筒状に形成され雄部材2の頭部23を収納する収納部34を有する本体31と、この本体31の外周部に動物の耳に係止されタグ基板36が収納される基板収納部32とからなる。本体31の下端部には開口33が設けられており、この開口33の内周面には、6個の液体排出路としての溝33aないし33fが設けられている。開口33の収納部34側の周縁には、雄部材2の係合面24aが係合する内フランジ35が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物の耳に取り付ける動物用耳標に関し、特に血統、生年月日、生産地など動物がもつ固有の情報を記録した耳標に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の動物用耳標としては、フランジ状に形成されたパネル部、このパネル部から立設された中空状の軸部およびこの軸部の一端部に設けられた頭部からなる雄部材と、開口を有するパネル部、開口の周縁から立設されたボスおよびこのボスの開口側と反対側を覆う端部カバーからなる前記情報が表記された雌部材とを備えたものがある。このような構成において、取付工具の硬質ピンを雄部材の軸部の中空部に挿入し、取付工具を操作し、雄部材の頭部を雌部材の開口から強制的にボス内に挿入することにより、肩部が開口の周縁に係合して雄部材と雌部材とが結合する。(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特公平3−76889号公報(明細書2頁右欄43行〜3頁左欄27行、第1図および第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した従来の動物用耳標においては、雌部材のボスが端部カバーによって覆われた構造になっているため、雄部材の肩部およびチップを雌部材の開口から挿入する際にボス内が気密状態なる。一方、この種の動物用耳標においては、雄部材と雌部材とを結合させる直前にこれら両部材を一旦消毒用の薬液の中に浸漬させている。このときに雌部材のボス内に薬液が充填されていると、この薬液の圧力によって雄部材の肩部およびチップを雌部材の開口から挿入できないようなことがあるという問題があった。
【0004】
本発明は上記した従来の問題に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、雄部材と雌部材との結合時における作業性の向上を図るところにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的を達成するために、請求項1に係る発明は、動物の耳に係止される係止部、この係止部から立設された軸部およびこの軸部の一端に設けられ係合部を有する頭部によって形成された雄部材と、この雄部材の頭部が強制的に挿入される開口、この開口の周縁に設けられ挿入された頭部の係合部が係合する内フランジ、挿入された頭部を収納する有底円筒状に形成された収納空間および動物の耳に係止される係止部を有する雌部材とを備え、前記内フランジに前記収納空間と外部との間を連通する液体排出路を設けたものである。
【0006】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において、前記液体排出路を溝としたものである。
【0007】
請求項3に係る発明は、請求項2に係る発明において、前記溝を複数設け、これら複数の溝を非対称位置に設けたものである。
【0008】
請求項4に係る発明は、請求項1ないし3のうちのいずれか一項に係る発明において、前記雌部材の係止部を前記収納空間の周囲に円環状に形成し、この係止部内にアンテナ基板を収納したものである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る発明によれば、雄部材と雌部材との結合時において、仮に雌部材の収納空間内に薬液が充填されていたとしても、薬液は液体排出路を通って外部に排出されるから、薬液によって結合の作業が阻止されるようなことがない。また、液体排出路を動物の耳側に設けたことにより、これら液体排出路から排出される薬液が動物の耳に直接付着するから消毒効果が向上する。また、液体排出路を設けたことにより、雌部材の収納部内に収納する薬液の量を調整したりする必要がないため作業性が向上する。
【0010】
請求項3に係る発明によれば、雌部材から雄部材を抜き取ろうとしても、雄部材の係合部が雌部材に設けられた複数の溝のうちの2つの溝の両方に対向するようなことがないから、雄部材の抜き取りを阻止することができる。
【0011】
請求項4に係る発明によれば、動物に関する情報が書き込まれるアンテナ基板が係止部内に収納されているため、雨水等によって情報が消去するようなことがない。また、リーダによって動物に関する情報を電子データとして読取り、読み取った電子データをパソコン等によって管理することができるため、多数の動物の情報を管理する作業が容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。図1は本発明に係る動物用耳標を結合する以前の全体の外観を示す斜視図、図2は同じく雄部材の縦断面図、図3は同じく雌部材の縦断面図、図4は同じく雌部材の底面図、図5は本発明に係る動物用耳標の縦断面図である。図1に全体を符号1で示す動物用耳標は、略全体がプラスチックによって形成された雄部材2と、この雄部材2と結合され全体がプラスチックによって形成された雌部材3とによって構成されている。
【0013】
雄部材2は、図2に示すように円板状に形成され動物の耳に係止される係止部としてのフランジ21と、このフランジ21から一体に立設された軸部22と、この軸部22の上端部に設けられた頭部23とによって概ね構成されている。頭部23は、プラスチックによって略円錐台状に形成された係合部24と、この係合部24にインサート成形によって一体化され金属とによって円錐状に形成された尖鋭部25とからなる。
【0014】
軸部22は上部に向かって漸次径が小さくなるように形成され、この軸部22とフランジ21と係合部24とがプラスチックによって一体に形成されており、これらフランジ21、軸部22、係合部24の中心部には中空部22aが設けられている。尖鋭部25の中央部には、中空部22aと連通する径が小さい非貫通孔25aが設けられており、これら中空部22aと非貫通孔25aには、雄部材2と雌部材3とを結合させるための取付工具のピン(いずれも図示せず)が挿入される。係合部24と軸部22との間には、雄部材2と雌部材3とを結合させたときに、雌部材3の後述する内フランジ35に係合する係合面24aが形成されている。
【0015】
雌部材3は、図3に示すように、中央部に有底円筒状に形成された本体31と、この本体31の外周部に偏平なリング状に形成され動物の耳に係止される係止部としての基板収納部32とからなり、全体がプラスチックによって一体に形成されている。本体31の下端部には、逆すり鉢状に形成された開口33が設けられており、この開口33の最小径Rは上述した雄部材2の軸部22の径よりも大きく、かつ係合部24の径よりも小さく形成されている。この開口33の内周面には、図4に示すように6個の液体排出路としての溝33aないし33fが円周方向に等角度おいて設けられている。すなわち、互いに対向する溝33aと溝33dおよび溝33bと溝33eならびに溝33cと溝33fとが、互いに対称位置に位置付けられるように円周方向に180°位相をずらして設けられている。
【0016】
図3において、34は本体31の内側に設けられ、開口33から挿入された雄部材2の頭部23を収納する収納部であって、上部には頭部23の尖鋭部25を収納する凹部34aが設けられている。開口33の収納部34側の周縁部には、開口33から挿入された雄部材2の頭部23の係合面24aが係合する内フランジ35が設けられている。基板収納部32は中空状に形成されており、この中空部32a内には、リング状に形成されたアンテナ基板36が設けられている。このアンテナ基板36にはアンテナ用のコイルが配線されているとともに非接触によって情報の読み書きが行われるICチップ(図示せず)が実装されている。
【0017】
このように構成された雄部材2と雌部材3とを結合させるには、取付工具のピン(いずれも図示せず)を雄部材2の中空部22aから非貫通孔25aに挿入するとともに、取付工具によって雄部材2の尖鋭部25と雌部材3の開口33とを対向させるように保持する。この状態で、雄部材2と雌部材3とを消毒用の薬液内に一旦浸漬させ、薬液から取り出した後に、尖鋭部25と開口33とを動物の耳40を挟むように位置付け、取付工具のピンによって尖鋭部25を開口33に押し込むように取付工具を操作する。尖鋭部25を開口33に押し込むことにより、係合部24と開口33がわずかに弾性変形するので雄部材2の頭部24が雌部材3の収納部34内に強制的に挿入され、図5に示すように雄部材2の係合面24aが雌部材3の内フランジ35に係合し、雄部材2の頭部24が雌部材3の収納部34内に収納される。
【0018】
このとき、仮に雌部材3の収納部34内に薬液が充填されていたとしても、開口33に溝33aないし33fが設けられていることにより、雄部材2の頭部24を雌部材3の収納部34内に挿入する際に、収納部34内に充填されていた薬液がこれら溝33aないし33fから外部に排出される。したがって、雌部材3の収納部34内への雄部材2の頭部24の挿入作業を容易に行うことができるから作業性が向上する。また、液体排出路としての溝33aないし33fを動物の耳40側に設けたことにより、これら溝33aないし33fから排出される薬液が動物の耳40に直接付着するから消毒効果が向上する。また、溝33aないし33fを設けたことにより、雌部材3の収納部34内に収納する薬液の量を調整したりする必要がないため作業性が向上する。
【0019】
また、動物に関する情報が書き込まれるアンテナ基板36が基板収納部32内に収納されているため、雨水等によって情報が消去するようなことがない。また、リーダによって動物に関する情報を電子データとして読取り、読み取った電子データをパソコン等によって管理することができるため、多数の動物の情報を管理する作業が容易になる。
【0020】
図6および図7は本発明の第2の実施の形態の必要性を説明するための図であって、図6は雄部材の正面図、図7は雌部材の底面図、図8は本発明の第2の実施の形態を示す雌部材の底面図である。上述した第1の実施の形態において、雄部材2と雌部材3とを結合させた図5の状態から、第三者が意図的に雄部材2を矢印A方向に引っ張ることにより、雄部材2の頭部23を雌部材3の収納部34内から抜き取り、雌部材3を他の動物に適用するという悪質な再利用方法がある。
【0021】
すなわち、雄部材2と雌部材3とを結合させた図5の状態から、強引に雄部材2を矢印A方向に引っ張ると、雄部材2の係合面24aが雌部材3のうちフランジ35に係合しているため、雄部材2の係合部24と軸部22の上端部との間の一部が、図6に示すように破断することがある。この状態で、さらに雄部材2を矢印A方向に引っ張ると、雄部材2の頭部23は、雌部材3の収納部34内を弾性変形しながら軸部22の破断していない部位22bを回動中心として略90°回動する。
【0022】
このように雄部材2の頭部23が90°回動した状態になると、図7に示すように、回動する以前には雌部材3の内フランジ35に係合していた雄部材2の係合部24が、円周方向に互いに180°位相がずれている2つの溝33aおよび溝33dに対向することがある。雄部材2の係合部24が溝33aおよび溝33dに対向すると、係合部24と内フランジ35との係合が解除されるから、雄部材2の頭部23が雌部材3の開口33から抜き取られることがある。
【0023】
この不具合を解消するために、この第2の実施の形態においては、図8に示すように、雌部材3の開口33に奇数個(3個)の溝33g,33h,33iを設け、これら3個の溝33g,33h,33iを円周方向に等角度おいて設けた点に特徴を有する。すなわち、3個の溝33g,33h,33iは、互いに非対称の位置に設けられているため、互いが円周方向に180°位相をずらした位置に設けられていない。したがって、雄部材2の頭部23が、図6を用いて説明したように軸部22の破断していない部位22bを回動中心として略90°回動した状態となって、雄部材2の係合部24が3個の溝33g,33h,33iのうちのいずれか2つの溝に対向するようなことがない。このため、係合部24は必ず雌部材3の内フランジ35に係合した状態が保持されるため、雄部材2の頭部23が雌部材3の開口33から抜き取られるようなことがない。
【0024】
この第2の実施の形態では、溝33g,33h,33iを奇数個としたが、偶数個としてもよく、その場合は円周方向の間隔を等角度とせずに、偶数個の溝を互いに非対称位置に設け、偶数個の溝のうちのいずれか2個が円周方向に180°位相がずれた位置に位置付けられないようにすればよい。
【0025】
なお、本実施の形態においては、液体排出路として溝33aないし33iの例を説明したが、雌部材3の収納部34内と外部とを連通する貫通孔を内フランジ35に設けるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る動物用耳標を結合する以前の全体の外観を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る動物用耳標の雄部材の縦断面図である。
【図3】本発明に係る動物用耳標の雌部材の縦断面図である。
【図4】本発明に係る動物用耳標の雌部材の底面図である。
【図5】本発明に係る動物用耳標の縦断面図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態における必要性を説明するための雄部材の正面図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態における必要性を説明するための雌部材の底面図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態を示す雌部材の底面図である。
【符号の説明】
【0027】
1…動物用耳標、2…雄部材、3…雌部材、21…フランジ(係止部)、22…軸部、22a…中空部、23…頭部、24…係合部、24a…係合面、25…尖鋭部、25a…非貫通孔、31…本体、32…基板収納部(係止部)、33…開口、33aないし33i…溝(液体排出路)、34…収納部、35…内フランジ、36…アンテナ基板、40…動物の耳。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物の耳に係止される係止部、この係止部から立設された軸部およびこの軸部の一端に設けられ係合部を有する頭部によって形成された雄部材と、この雄部材の頭部が強制的に挿入される開口、この開口の周縁に設けられ挿入された頭部の係合部が係合する内フランジ、挿入された頭部を収納する有底円筒状に形成された収納空間および動物の耳に係止される係止部を有する雌部材とを備え、前記内フランジに前記収納空間と外部との間を連通する液体排出路を設けたことを特徴とする動物用耳標。
【請求項2】
前記液体排出路を溝としたことを特徴とする請求項1記載の動物用耳標。
【請求項3】
前記溝を複数設け、これら複数の溝を非対称位置に設けたことを特徴とする請求項2記載の動物用耳標。
【請求項4】
前記雌部材の係止部を前記収納空間の周囲に円環状に形成し、この係止部内にアンテナ基板を収納したことを特徴とする請求項1ないし3のうちいずれか一項記載の動物用耳標。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−267671(P2007−267671A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−97200(P2006−97200)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(304020498)サクサ株式会社 (678)
【出願人】(000112680)フジタ製薬株式会社 (2)