説明

動物糞尿処理方法

【課題】 動物の泥状糞尿を効率よく脱水して、その特異的な悪臭の発生を抑制することができ、かつ液肥やコンポスト用原料として有用な生成物を回収するのに好適な脱水方法を提供する。
【解決手段】 含水率90質量%以上の動物糞尿の質量に基づき0.1〜10質量%のリセルロースファイバーを添加し、少なくとも1分間かきまぜたのち、さらに動物糞尿の質量に基づき0.01〜10.0質量%の有機高分子凝集剤を加えてかきまぜ、十分にフロックを形成させ、次いで搾液する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、鶏、豚、牛、馬のような家禽、家畜の泥状糞尿を効率よく脱水して無臭化する方法に関するものである。
【0002】鶏、豚、牛、馬のような家禽、家畜の糞尿は、通常そのままで肥料として使われるか、あるいは乾燥して燃焼して処理されているが、鶏糞や牛糞のような泥状糞は、著しい悪臭を発散する上に、腐敗菌や害虫の発生源となり、環境汚染の点で大きな問題となっている。
【0003】ところで、上記したような動物の泥状糞は一般に90質量%以上の水分を含んでいるが、これをプレス脱水し、含水量75質量%以下にすると悪臭が激減する上に、搾出された液状部分は液肥として利用することができ、また搾出残滓は自燃性を生じて焼却処理が容易になるほか、コンポスト化も可能なことから、近年、泥状糞尿を効率よく脱水する方法が検討され、これまで例えば泥状糞尿中の固形分に基づき0.5〜5倍量の微細シラス粒を加え、乾燥する方法(特開昭51−68985号公報)、機械的手段により汚物から搾液する方法(特公昭47−8977号公報、特公昭47−34635号公報)などが提案されている。
【0004】また、有機性汚泥の脱水については、有機高分子凝集剤を添加し、フィルタープレスで脱水する方法(特開昭64−85200号公報)、セルロース系物質、糖類及びその誘導体の中から選ばれた処理剤を加えて処理する方法(特開昭49−19653号公報)、古紙を加えてスラリーを形成させ、それに高分子凝集剤を加えて凝集させたのち、脱水処理する方法(特開昭60−222118号公報)などが提案されている。
【0005】しかしながら、泥状糞尿にシラスを加えて乾燥する方法は、その乾燥物を焼成してシラスバルーンを製造する方法の一部であり、シラスバルーンを目的としない場合に利用しても実用的なメリットがないため、利用範囲が制限されるのを免れないし、また機械的手段により搾液の効率を高めたとしても、その脱水率の向上には限度がある上に、作業中の悪臭の発生は避けられないという欠点がある。
【0006】また、動物泥状糞尿は一般の汚泥に比べ脱水しにくいため、有機性汚泥の脱水方法を適用しても含水率を十分に低くすることができない上、糞尿に特有の悪臭の発生を抑制するには、必ずしも有効でない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、このような事情のもとで、動物の泥状糞尿を効率よく脱水して、その特異的な悪臭の発生を抑制することができ、かつ液肥やコンポスト用原料として有用な生成物を回収するのに好適な脱水方法を提供することを目的としてなされたものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、含水率の高い動物糞尿を効率よく脱水しうる方法について鋭意研究を重ねた結果、動物糞尿にリセルロースファイバーと有機高分子凝集剤及び場合によりさらに無機凝集剤を添加してフロックを形成させたのちプレス脱水することにより、含水率65質量%以下にまで脱水しうることを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0009】すなわち、本発明は、含水率90質量%以上の動物糞尿の質量に基づき0.1〜10質量%のリセルロースファイバーを添加し、少なくとも1分間かきまぜたのち、さらに動物糞尿の質量に基づき0.01〜10.0質量%の高分子凝集剤を加えてかきまぜ、十分にフロックを形成させ、次いで搾液することを特徴とする動物糞尿処理方法を提供するものである。
【0010】
【発明の実施の形態】本発明方法において用いるリセルロースファイバーは、古紙を先ず常法に従ってシュレッダーなどを用いて粗粉砕し、次いで解繊用摩砕機のような微粉砕機を用いて完全に繊維化することにより得られる淡かっ色綿状物質である。
【0011】そして、古紙が印刷物である場合には、粗粉砕後に脱墨する必要があるが、この脱墨処理は、通常の再生紙を脱墨する場合と同様の方法、例えばアルカリを加えて蒸煮する方法によって行うことができる。この際、脱墨を促進するために、セッケン、スルホン化油、ベントナイト、メタケイ酸ナトリウムや界面活性剤のような分散剤を併用することもできる。
【0012】このようにして完全に繊維化したファイバーを必要に応じ水洗後、乾燥すれば、リセルロースファイバーが淡かっ色綿状物質として得られる。このものは、太さ、長さの異なったセルロース繊維が三次元的に絡み合った構造を有している。図1は、この組織構造を示す100倍拡大顕微鏡写真である。このリセルロースファイバーは、燃えやすい、吸湿、吸水性が高い、放湿、放水性が高いという特徴を有し、脱水能力が非常に高く、95質量%以上という高含水量の動物糞尿原液に対し、0.5〜3質量%添加し、搾液するだけで、65質量%若しくはそれ以下の含水量まで脱水することができる。
【0013】次に、本発明方法において用いる有機高分子凝集剤としては、ノニオン系、カチオン系又は両性の合成高分子凝集剤を用いるのが好ましい。このノニオン系合成高分子凝集剤としては、例えばポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシド、尿素−ホルマリン樹脂を挙げることができるし、カチオン系合成高分子凝集剤としては、例えばポリアミノメチルアクリルアミド、ポリビニルイミダゾリン、キトサン、アイオネン系共重合体、エポキシアミン系共重合体を、また両性合成高分子凝集剤としては、例えば、レシチン系両性界面活性剤、カゼイン分解物系両性界面活性剤などを挙げることができる。これらの合成高分子凝集剤の分子量は、通常、数万ないし数百万の範囲にある。
【0014】これらの合成高分子凝集剤のあるものは、例えば液状高分子凝集剤「E−513」及び「E−555」(いずれもハイモ社製)として市販されている。これらの有機高分子凝集剤は、通常0.1〜0.5質量%濃度の水溶液として動物糞尿に添加される。
【0015】また、必要に応じ、これらの有機高分子凝集剤と併用される無機高分子凝集剤としては、例えばポリ硫酸鉄(III)、ポリ塩化鉄(III)、ポリ塩化アルミニウム、ポリ硫酸アルミニウムなどがある。これらの無機高分子凝集剤は、通常5〜15質量%濃度の水溶液として動物糞尿に添加される。
【0016】本発明方法におけるリセルロースファイバーの使用量は、動物糞尿原液に対し、0.1〜10質量%の範囲内で選ばれるが、この量は糞尿を排泄する動物の種類によって変動する。すなわち、牛の場合は糞中の繊維量が多いので、リセルロースファイバーの使用量は少なくてもよいし、また鶏は糞中の繊維量が少ないのでリセルロースファイバーの使用量を多くする必要がある。さらに、同じ種類の動物であっても飼料の成分が異なれば、それに対応してリセルロースファイバーの使用量を増減することも必要である。
【0017】次に、有機高分子凝集剤の使用量は、糖物糞尿原液の質量に基づき、通常0.01〜10.0質量%の範囲内で選ばれる。この使用量も動物の種類、飼料の成分により変動するが、従来の下水汚泥の脱水処理の場合に比べ、1/4〜1/5とかなり少なくすることができる。
【0018】動物の糞尿組成は、飼育環境、季節により変動するので、この組成に応じリセルロースファイバー及び有機高分子凝集剤の使用量を、上記範囲内において適宜増減することが必要である。
【0019】本発明方法においては、リセルロースファイバーと有機高分子凝集剤の添加順序が重要であり、先ずリセルロースファイバーを加えてかきまぜ、スラリーを形成させたのち、有機高分子凝集剤を添加させる。この添加順序を逆にすると、所望の脱水効果は得られない。このスラリーを形成させるには、少なくとも1分間、好ましくは3〜5分間激しくかきまぜることが必要である。
【0020】次に、このようにして形成させたスラリーに、有機高分子凝集剤を添加し、かきまぜると、次第にフロックが形成してくるので、十分にフロックが形成されたならば搾液処理を行う。このフロック形成に要する時間は少なくとも2分、通常は3〜7分間である。
【0021】このようにして十分にフロック形成させた処理物を、例えばスクリュープレス方式、ベルトプレス方式、加圧ろ過方式により搾液する。この際のプレス圧力としては、通常29400〜68600Pa、好ましくは49000Pa以上の範囲内で選ばれる。これよりも低い圧力を用いる方式、例えば真空脱水方式を用いることもできるが、リセルロースファイバーの脱水性能は、圧力が高ければ高いほど発揮されるので、できるだけ高いプレス圧力の搾液機を用いて行うのが好ましい。
【0022】本発明方法においては、有機高分子凝集剤とともに、無機高分子凝集剤を併用すると、より低い含水量の脱水ケーキを得ることができる。この際の無機高分子凝集剤の使用量は、併用する有機高分子凝集剤の2〜20倍量、好ましくは1.0〜5.0倍量の範囲で選ばれる。
【0023】本発明方法により処理すると、搾出液が得られるが、この搾出液には、動物の種類、飼育環境、採取時期によって異なるが、窒素分10〜20質量%、リン酸成分3〜10質量%及びカリウム成分5〜15質量%を含んでいるので、カンキツ類、リンゴ、ブドウ、ナシ、モモ、カキ、クリなどの農作物用の液肥として用いることができる。
【0024】また、本発明方法によると、90質量%以上という高含水量の動物糞尿から、65質量%又はそれ以下という非常に低含水量の脱水ケーキが得られるが、これは自燃性を有するので、燃焼処理しやすいだけでなく、容易にコンポスト化しうるという利点もある。
【0025】
【実施例】次に実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0026】参考例 リセルロースファイバーの製造段ボール古紙をシュレッダーにより、3mm平方程度の細片に粗粉砕したのち、微粉砕用解繊機[(株)山本百馬製作所製、古紙微粉砕装置]により、完全に繊維状化し、水分5〜15質量%に乾燥する。
【0027】実施例1豚の泥状糞尿(含水率95.3質量%)20リットルに参考例で得たリセルロース0.2kg(糞尿に対し約0.7質量%に相当)を添加し、2分間かきまぜてスラリー化したのち、液状両性高分子凝集剤(ハイモ社製、商品名「E−513」)の0.28質量%濃度の水溶液2.0リットル(糞尿に対し0.028質量%)を加え、約3分間かきまぜたところ、汚泥中のフロックの形成が認められた。次いで、この処理物をスクリュープレス式汚泥脱水機(新明和社製、商品名「SSP−1000」)に投入し、スクリューの回転速度2.4min-1で脱水した。このようにして、含水率61.2質量%の脱水ケーキ2.8kgを得た。
【0028】実施例2実施例1における液状両性高分子凝集剤の代りに、液状カチオン性高分子凝集剤(ハイモ社製、商品名「E−555」)の0.23質量%濃度の水溶液2.5リットル(糞尿に対し0.029質量%)を用いる以外は実施例1と同様にして脱水処理し、含水率61.7質量%の脱水ケーキ2.8kgを得た。
【0029】実施例3実施例1で用いたものと同じ豚の泥状糞尿(含水率95.3質量%)1リットルに、参考例で得たリセルロース、実施例1で用いたのと同じ液状両性高分子凝集剤「E−513」及びポリ硫酸鉄の11質量%濃度の水溶液を表1に示す量で添加し、実施例1と同様の脱水条件下で脱水した。得られた脱水ケーキの含水率を表1に示す。
【0030】
【表1】


【0031】実施例4分離した液の性質を確認するために、実施例3で用いた泥状糞尿1リットルに、実施例3で用いたリセルロース、凝集剤と同じものを表2に示す量で用い、脱水処理した。このようにして得た分離水の物性及び含有成分を表2に示す。
【0032】
【表2】


【0033】この表から分るように、無機高分子凝集剤を併用することにより、分離水中のリン酸分は著しく低下するので、排水に際し、富栄養化による環境汚染の防止に有効である。
【0034】比較例実施例1におけるリセルロースの代りに、同量の古紙離解ファイバーを用い、実施例1と同様に脱水処理したところ、得られた脱水ケーキの含水率は74.2質量%であった。
【0035】
【発明の効果】本発明によると、非常に脱水しにくく、悪臭による環境汚染の原因となっていた動物の泥状糞尿を容易に含水率65質量%若しくはそれ以下に脱水することができ、かつ液肥として有用な分離水及びコンポスト原料として好適な脱水ケーキを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 リセルロースの組織構造を示す顕微鏡拡大写真図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 含水率90質量%以上の動物糞尿の質量に基づき0.1〜10質量%のリセルロースファイバーを添加し、少なくとも1分間かきまぜたのち、さらに動物糞尿の質量に基づき0.01〜10.0質量%の有機高分子凝集剤を加えてかきまぜ、十分にフロックを形成させ、次いで搾液することを特徴とする動物糞尿処理方法。
【請求項2】 有機高分子凝集剤とともに、その添加量の2〜20倍量の無機高分子凝集剤を添加する請求項1記載の動物糞尿処理方法。
【請求項3】 無機高分子凝集剤が、ポリ硫酸鉄(III)、ポリ塩化鉄(III)、ポリ塩化アルミニウム及びポリ硫酸アルミニウムの中から選ばれた少なくとも1種である請求項2記載の動物糞尿処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2003−88900(P2003−88900A)
【公開日】平成15年3月25日(2003.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−285849(P2001−285849)
【出願日】平成13年9月19日(2001.9.19)
【出願人】(501369879)
【Fターム(参考)】