説明

動物躾け剤とその製造方法

【課題】 デナトニウムカチオンを主成分とする苦味躾け剤において、小動物に躾けに有効な苦味を感知させるが、嫌悪行動を短縮化する液剤の配合を提供すること。
【解決手段】 デナトニウムカチオンを7〜50ppm、サッカリンをデナトニウム塩に対して1.5〜2.5モル倍比添加し、pH2.0〜4.0に調整して液剤を調合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は家庭用化学製剤・用品、より狭義にはペット等の小動物用の製剤・用品の加工技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
家庭内での犬、猫等の小動物類の飼育の流行がトレンドとして定着し、小動物の飼育の便宜に供する用品の市場が拡大している。また、一方で、鼠・カラス・猪・猿・鹿等の害獣の増加等によりこれらの食害を防止するための用品の開発ニーズも大きくなっている。
【0003】
小動物や害獣の食害の防止に供するために、例えば、唐辛子の辛味成分であるカプサイシン、西洋ワサビの催涙・辛味成分であるアリルマスタード油[主成分はアリルイソチオシアネイト]等を成分として含有する液剤・粉末剤・フィルム等が開発され、一部で実用化されている。しかし、カプサイシンは人体への刺激性が強いこと、天然抽出成分で高価であることが広範な実用化の障害になっている。アルマスタード油は簡単な化学合成で安価に提供できるが、化学構造中にイソチオシアネイト基を含んでいて化学的安定性に欠けること、揮発刺激性・悪臭のあることが広範な実用化の障害になっている。
【先行技術文献】
【0004】
最近になって化学合成品であるデナトニウム塩を苦味成分として配合する製剤・フィルムの実用化が検討され始めている。[例えば、特許文献1,2,3,4]さらにはデナトニウム塩を主成分とする小動物躾け剤も販売され始めている。[非特許文献3〜5]
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】 特開平09−169401号公報
【特許文献2】 特開2000−212477号公報
【特許文献3】 特開2003−333974号公報
【特許文献4】 特表2006−511633号公報
【0006】
【非特許文献1】 「化学生物総合管理」、第4巻第1号[2008.6]、26〜33頁
【非特許文献2】 「東京健康安全センター年報」、第57巻[2006]、133〜136頁
【非特許文献3】 http://houndcom.com/SHOP/care00083.html[犬の躾け用スプレイ製剤に関する商品説明のための記述]
【非特許文献4】 http://www.rakuten.co.jp/animal/597590/600292[犬の躾け用液体製剤に関する商品説明のための記述]
【非特許文献5】 http://www.babylon.com/definition/Urda[デナトニウム塩に関す特性の概要情報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
家庭で飼育する犬・猫等は室内で放し飼いにすることが多い。この場合に、特にペットの幼体に家具・畳・建具等への齧り・引っ掻き・爪研ぎ等の損傷行為に対する禁止を教育する必要がある。ある程度の発育段階までにこれらの行動禁止の躾けが完了しない場合には家庭内での矯正は困難になり、専門の業者による長期の躾けが必要で、時間と費用が嵩むことになる。
【0008】
通常、ペットの成長初期の躾けは損傷行為の都度、引き離し、語り掛けにより気長に教え込む必要がある。強い叱り付け、殴打・打擲等はペットの飼い主に対する不信感・警戒心を呼び起こすことになり性格を悪化させる可能性が大きい。
【0009】
しかし、温和な手段による躾けには生活場面での頻繁な接触の時間確保と手間を要し共稼ぎ・単身世帯・高齢者世帯では実質的に困難な場合が多い。このような場合に、損傷対象物に躾け剤[忌避剤]を塗布してペットが不快な味覚を学習して自ら損傷行為の躊躇に向かわせれば躾けを大いに効率化できることになる。
【0010】
本発明者等は既に晩橘類、グレープフルーツ等の皮に含まれる苦味成分であるナリンギンを主成分とする躾け剤を開発して上市し、先の市場ニーズの考察は的外れでないことを確証している。
【0011】
植物抽出物を主成分とする製剤は原料入手容易性、価格の変動が大きく、製品の安定供給、販売量拡大のための積極的な販売促進に困難が感じられたことから、本発明者等は低廉、安全で、価格・量的に安定供給可能な苦味物質を主成分とする躾け剤の開発を企図した。
【0012】
ここにおいて本発明者等は人体への安全性が詳細に確認され、化学的安定性においても化粧品・日用品の誤用・過飲防止用途への実績のあるデナトニウムカチオンを配合苦味成分として選択した。デナトニウム塩類を配合した動物忌避剤については既にいくつかの特許出願があり[例えば特許文献1〜4]、犬用の液体躾け剤も数品目が販売されている。[例えば非特許文献3〜5]しかし、いずれも単に苦味発現にのみ注目し、躾け過程でペットが受ける心理的ストレス[嫌悪行動]に着目したものはない。
【0013】
屋内飼育の犬・猫等の小動物は安全・快適・安穏な環境に適応した結果、ストレス耐性が極端に低下しており、特に幼体に不快な刺激を繰り返し与えると性格の悪化[人や動物に対する噛み癖、吠え癖、夜鳴き癖、不安行動等]が定着し成体期にまで引きづることになりかねない。成体期の悪い性格や癖を矯正するには専門家[調教師、動物医]の手を必要とし、費用・時間がかかることを覚悟しなければならない。
【0014】
ここにおいて、本発明者等は苦味感知によるストレス・嫌悪行動を早期に解消しうる躾け剤の配合研究を行ない、従来のデナトニウム塩[カチオン]を主成分とする躾け剤にはない新規で有益な効果、すなわち躾け剤摂取直後は強い苦味を感知するが、短時間のうちに不快感が解消する効果を発現する製剤配合とその製造方法を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は液状の製剤形態を採用する。液状とすることでコストを抑え、安定性を確保でき、使用の簡便性も実現できる。製品形態としては液体をビン・カン・カートン・ボトル等に充填したもの、ビン・カン・ボトルの口に手動ブッシュ式の噴射ノズルを取り付けて噴霧の便に供したもの、さらにジメチルエーテル・メタン・炭酸ガス・窒素ガス等のガス成分を圧縮充填した自己噴霧型ブッシュノズルを取り付けた形態が提案できる。
【0016】
デナトニウムカチオンは化学的には、N−[2−[(2,6−ジメチルフェニル)アミノ]−2オキソエチル]−N,N−ジエチルベンジルアンモニウムカチオンで、適宜のアニオンとの塩類として販売される。実用的にはアニオンとしてベンゾエイトアニオン[安息香酸アニオン]とサッカリンアニオンの塩が汎用される。
【0017】
デナトニウムカチオンの苦味の発現力は極めて強く、ヒトでは水溶液で1ppm以上で明確な苦味を感じると言われている。[非特許文献1,2]本発明ではデナトニウム塩の以外の添加物も用いるので製剤中の濃度としてはデナトニウムカチオンとして7〜50ppmの濃度範囲を選択する。50ppm以上の濃度は躾けの観点からは有効であるが、コスト面からは不経済であろう。
【0018】
本発明者等は苦味剤摂取後の幼犬の特異な行動に着目した。苦味剤を摂取[塗布したもの、あるいは含浸させた物を摂食後]に頻回に少量の水を飲む行動[以下、嫌悪行動と称する]を見せる。これを指標とすれば苦味知覚の解消時間を測定することが可能になる。種々の添加物の併用を試行した結果として甘味剤の添加、およびpHの調整が苦味の解消に有効なことが知られた。ただし、甘味料の添加は、種類によっては苦味剤摂取直後の苦味の感知自体を緩和し、躾け剤としての効果を減殺する場合のあることも知られた。
【0019】
配合実験を繰り返した結果、サッカリンを酸性条件下[pH2.0〜4.0]に添加すると躾け効果を減殺することなく苦味の早期の解消に有効であることが知られた。サッカリンはデナトニウムカチオンに対して1.5〜2.5モル倍比の添加が適当である。1.5未満では嫌悪行動解消効果は明確でなく2.5を越えると長期の保存試験で沈殿の生成という商品クレイムの原因となりかねない現象事例が観察された。
【0020】
また、本発明の製剤は長期の市場流通・使用期間[最大2年間]を考慮し、消費者が開封して室温下に保管して数ケ月の繰り返し使用を行なう場合も想定し、発カビ、雑菌増殖による濁り・異臭の発生等の商品クレイム発生の防止を目的として、所望により保存料[安息香酸または/およびパラヒドロキシ安息香酸[遊離酸として、あるいは塩類として添加する]、あるいは/およびそれらのエステル類、ソルビン酸、デヒドロ酢酸の遊離酸あるいは/およびそれらの塩類等]の単一、あるいは適宜の混合物としての添加も許容される。製剤の酸性保持のためには酸類[鉱酸類[塩酸、硫酸、リン酸、硼酸等]、有機酸[酢酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、酒石酸、フマール酸、グルコン酸等]]を添加すればよい。本発明の液体製剤は酸性に調製されているので、デナトニウムカチオンは添加原料塩のカウンターアニオンである安息香酸アニオン、あるいはサッカリンアニオンとは解離し大部分は遊離カチオンとして溶存し、苦味はデナトニウムカチオンにより発現するものと推測される。
【0021】
一方、嫌悪行動解消の目的で添加したサッカリンは酸性物質であるので、酸性条件下ではイミド窒素原子がプロトンと結合した非イオン体として溶存しているものと推測される。デナトニウム塩としてサッカリンデナトニウムを用いる場合にはデナトニウムカチオンに対してサッカリンが1倍モル比生成することになるので、本発明を構成するには0.5〜1.5倍モル比のサッカリンまたはその塩類[ソーダ塩、カリウム塩、アンモニウム塩等]を添加する必要がある。なお、pHの選択域の根拠は4.0を越えるとサッカリンの嫌悪行動解消効果が不明確になること、pH2.0を下回る範囲ではデナトニウムカチオンが化学構造内にアミド結合を有し長期の流通・保管条件下で加水分解等による変性・失効・着色・沈殿生成等の可能性が考えられることにある。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、犬・猫等の繊細な感性を有する室内飼育小動物の噛み付き、引っ掻き等のイタズラ防止に必要な苦味を呈するが、苦味感知によるストレス・嫌悪行動を短時間に解消し、小動物の性格悪化のおそれのない液体製剤を簡便に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
水にデナトニウムカチオン7〜50ppm、サッカリンの含有濃度が添加したデナトニウムカチオンに対し1.5〜2.5モル倍比になるようにサッカリン、またはその塩を添加し、所望であれば安息香酸、パラヒドロキシ安息香酸、それらの塩類またはエステル類、ソルビン酸またはその塩類、デヒドロ酢酸またはその塩等保存量の中から適宜に選択したものを単一もしくは所望の混合物として50〜3000ppmの範囲で添加する。さらに室温下で液体のpHが2.0〜4.0となるように酸を添加し均一に混合する。これを清潔なビン・カン・カートン・ボトル等の容器に充填し、所望であれば容器の密栓部に手動ブッシュノズルを採用する。さらに、使用の便のために容器内にガス物質を充填して自動噴霧式のスプレイ容器充填とすることも可能である。
【0024】
本発明の実施の態様を具体的に例示するため以下に実施例を示す。なお、本発明の範囲はこれらの実施例の範囲のみに限定されるものではなく、本発明の構成の説明、および別紙の特許請求の範囲の記載等を総合的に勘案して、本発明と技術思想・技術構成の枠組みを同じくするものを含むべきことは言うまでもない。
【実施例1】
【0025】
水道水1lに市販の安息香酸デナトニウムを10mg、サッカリンナトリウム7mg、を溶解しクエン酸適量を溶解してpH2.4に調製し濾過した。これを70℃に加熱し1%過酸化水素水で洗浄し滅菌水で濯いだペットボトルに充填して室内小動物用の躾け剤製品とした。
【実施例2】
【0026】
水道水1lに市販のデナトニウム塩50mg、サッカリンナトリウム50mg、安息香酸1000mgを溶解しクエン酸でpHを3.2に調製してボトルに充填し躾け剤製品とした。
【実施例3】
【0027】
実施例1の製剤配合にソルビン酸カリ酸2000mgを保存料として添加しクエン酸でpH2.7に調整して躾け剤製品とした。
【実験例1】
【0028】
水1lに安息香酸デナトニウム20mgを溶解した製剤を非撥水性塗装した板に1平方cmあたり200μlを少量ずつヘアドライアー乾燥しつつ塗布した。生後4ケ月の雑種の雄犬にこれを舐めさせると落ち着きがなくなり水を少量ずつ飲む動作[嫌悪行動]が1分間あたり4〜5回、7分間にわたって観察された。次に同液にサッカリンナトリウム15mg/1lを追加溶解した液を同様に舐めさせると5分後に嫌悪行動は止んだ。サッカリンナトリウムを添加した後にクエン酸でpH値を調整し、pH5.0、4.0、3.0、2.0とした液を同様に塗布し、同犬に舐めさせて観察した。なお、各液剤の試験は隔日午前、午後各1回とし、同日中では次回の試験までに3時間以上の間隔を取った。pH5.0で嫌悪行動は4分間、他のpH値で1.5〜2.5分間の範囲にあった。
【実験例2】
【0029】
水1lに安息香酸デナトニウム40ppmを溶解し、A.サッカリンナトリウム35mg、B.サイクラミン酸ソーダ35mg、C.アセスルファム35mgを溶解しクエン酸にてpH3.0に調整した。前例と同様に試験を行なった。嫌悪行動はA.で2.5分間観察されたが、B.,C.では直後に数回少量の水を飲んだが以後の嫌悪行動は観察されず、苦味の感知はなかったか、微弱と推測された。
【実験例3】
【0030】
水1lに安息香酸デナトニウム30mgに、A.サッカリンナトリウム21mg、B.27mg、C.31mg、D.34mg、E.41mgを溶解しクエン酸にてpH2.8に調整して500mlのボトルに充填し、3ケ月間の室温保存試験[2010年3月5日〜同年6月15日/広島県福山市の屋外の空調のないプレハブ式の物置小屋に遮光保管]を実施した。開栓して内容物をビーカーに注いで観察するとE.で不要物が見られた。
【実験例4】
【0031】
実験例3のA.〜D.の基本配合の液剤を塩酸にてa;pH4.0、b;3.0、c;2.0、d;1.0に調整し50℃の恒温槽に2ケ月保管した。B/d,C/d,D/dで褐色化の着色が観察された。また、配合Dの全てのpH域で微量の不要物の生成が観察された。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は小動物の躾け剤の配合と製造方法に関わりペット用品製造業、ペット用品販売業、ペット関連のサービス業等での実用化が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デナトニウムカチオンと、デナトニウムカチオンに対して1.5〜2.5モル倍比のサッカリンもしくはその塩と、これらの化合物を水溶液にしたときにpH2.0〜4.0に調整するのに必要量の酸を水溶液として含有してなることを特徴とする動物躾け剤。
【請求項2】
デナトニウムカチオンが7〜50ppmの濃度であることを特徴とする請求項1に記載の動物躾け剤。
【請求項3】
デナトニウムカチオンと、デナトニウム塩に対して1.5〜2.5モル倍比のサッカリンもしくはその塩と、これらの化合物を水溶液にしたときにpH2.0〜4.0調整するのに必要量の酸を水に溶解することを特徴とする動物躾け剤の製造方法。
【請求項4】
デナトニウムカチオンを7〜50ppm濃度に溶解することを特徴とする請求項3に記載の動物躾け剤の製造方法。

【公開番号】特開2012−97059(P2012−97059A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−258342(P2010−258342)
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【出願人】(502019140)株式会社バイオ (3)
【Fターム(参考)】