説明

動画用セルの作成方法

【課題】 セル上に、陰の部分などを彩色するための輪郭を熟練者に依らず、低コストで付与することができる動画用セルの作成方法を提供する。
【解決手段】 紫外線により発光する蛍光物質を含有し、可視光線下で目視困難な材料によりセル上に線画を付与し、紫外線を照射して線画を発光させた状態で線画に彩色を行うことを特徴とする動画用セルの作成方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は動画用セルの作成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】動画制作に使用される動画セルは、一般にサーモグラフィ法により、つぎのような工程で作られている。
【0003】1)赤外線を吸収する材料(黒の鉛筆など)により、紙などに線画を描き原画を作成する。
【0004】2)前記原画、熱転写インク層が赤外線を吸収しない、可視光線下で目視可能なインクからなる熱転写記録媒体、セル(ポリエチレンテレフタレート、セルロースアセテートなどのプラスチックシート材からなる)を重ね、セル側から赤外線を照射し、原画の線画をセル上に複写する。
【0005】3)セル上に複写された線画に彩色を施す。彩色は手作業で行われている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】前記のごとき方法により形成されたセル上の最終的に完成した画像は、通常、線画による輪郭と、それに囲まれた、彩色された部分よりなるが、輪郭があることが不自然な印象を与える場合(例えば人物の顔面に生じた陰の部分)や、意図的に輪郭を除く場合は、彩色の境界としての輪郭をその部分に設けることができない。しかし、彩色は手作業で行なわれるため、彩色の境界を示す何らかの輪郭が必要である。
【0007】そこで、そのような場合は、つぎのようにして当該部分の輪郭を付与している。
【0008】1)原画を作成する際、セル上に転写させたくない輪郭の部分を、赤外線を吸収しない材料(赤、青の鉛筆など)で描く。他の部分は赤外線を吸収する材料(黒の鉛筆など)で描く。
【0009】2)赤外線露光によるサーモグラフィ法で原画のうち赤外線を吸収する材料で描いた線画をセル上へ複写する。
【0010】3)得られたセルを原画に重ね、原画のうち、前記赤外線を吸収しない材料で描かれた線画を、陰などを彩色する際に用いる色と同じ色で、手作業でトレースする。
【0011】しかしながら、このトレースの作業は専門の熟練者に依らなければならず、非常に経費のかかる工程となっている。
【0012】本発明は、前記の点に鑑みて、セル上に、陰の部分などを彩色するための輪郭を熟練者に依らず低コストで設けることができる、動画用セルの作成方法を提供することを課題とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】請求項1に係る発明は、紫外線により発光する蛍光物質を含有し、可視光線下で目視困難な材料によりセル上に線画を付与し、紫外線を照射して線画を発光させた状態で線画に彩色を施すことを特徴とする動画用セルの作成方法に関する。
【0014】請求項2に係る発明は、つぎの工程イ、ロによりセル上に紫外線により発光する蛍光物質を含有し、可視光線下で目視困難な材料による線画を付与することを特徴とする請求項1記載の動画用セルの作成方法に関する。
【0015】イ.赤外線を吸収する材料で線画を付与した原画を作成する。
【0016】ロ.前記原画、熱転写インク層が紫外線により発光する蛍光物質を含有し、赤外線を吸収しない、可視光線下で目視困難なインクからなる熱転写記録媒体、セルの順に重ね、セル側から赤外線を照射して、セル上に前記インクよりなる線画の複写を得る。
【0017】請求項3に係る発明は、つぎの工程1、2、3、4、5からなることを特徴とする動画用セルの作成方法に関する。
【0018】1.赤外線を吸収する材料で線画を付与した原画を作成する。
【0019】2.前記原画、熱転写インク層が赤外線を吸収しない、可視光線下で目視可能なインクからなる熱転写記録媒体、セルの順に重ね、セル側から赤外線を照射して、セル上に前記インクよりなる線画の複写を得る。
【0020】3.赤外線を吸収する材料で前記原画に線画を追加する。
【0021】4.前記線画を追加した原画、熱転写インク層が紫外線により発光する蛍光物質を含有し、赤外線を吸収しない、可視光線下で目視困難なインクからなる熱転写記録媒体、前記工程2で得られたセルの順に重ね、セル側から赤外線を照射して、セル上に、前記紫外線により発光する蛍光物質を含有し、可視光線下で目視困難なインクよりなる線画の複写を得る。
【0022】5.前記工程4で得られたセルに紫外線を照射し、前記追加線画に対応する線画を発光させた状態で彩色を施す。
【0023】
【発明の実施の形態】本発明を図面を参照して説明する。図6は本発明の方法により作成された動画用セルを示す部分平面図である。図6において、4はセル材であり、セル材は通常ポリエチレンテレフタレート、セルロースアセテート、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ナイロンなどのプラスチックからなる透明なシート状物である。セル材4の裏面には、可視光線下で目視可能な材料で線画(輪郭線、トレース線)1a′、1b′が施されている。
【0024】本発明の特徴は、紫外線により発光する蛍光物質を含有し、可視光線下で目視困難な材料によりセル材の裏面にさらに線画1c′を付与した点にある。この線画1c′は、輪郭があることが不自然な印象を与える部分(例えば人物の顔面に生じた陰の部分や、意図的に輪郭を除きたい部分など)を他の部分と区分けする可視光線下で目視困難な境界として機能するものである。
【0025】すなわち、線画1c′は可視光線下では目視困難であるが、紫外線照射すると蛍光を発光し、目視可能となることから、作業者は彩色の境界を目視で認識することができ、例えば図6においては、線画1b′と線画1c′で囲まれた部分E(明るい部分)と線画1a′と線画1c′で囲まれた部分F(陰の部分)に容易に彩色を施すことができ、その彩色作業には特別の熟練を要しない。なお、彩色は通常セル材4の裏面(線画と同じ側の面)に施される。
【0026】本発明において、可視光線下で目視困難な材料とは、その色が無色透明である場合のほか、動画用セル作成に支障のない淡色ないし薄い無彩色、特に好ましくは淡白色のものをいう。
【0027】本発明において、紫外線により発光する蛍光物質を含有し、可視光線下で目視困難な材料によりセルに線画を付与する方法としては、サーモグラフィ法や手書きによる方法などが採用できる。また原画をデジタルデータに変換して、熱転写プリンタ、インクジェットプリンタ、プロッタ、電子写真プリンタなどにより付与することができる。可視光線下で目視可能な材料によりセルに線画を付与する方法としても同様な方法が採用できる。
【0028】つぎにサーモグラフィ法を利用して、紫外線により発光する蛍光物質を含有し、可視光線下で目視困難な材料による線画をセルに付与する方法としては、たとえばつぎの工程イ、ロからなる方法があげられる。
【0029】イ.赤外線を吸収する材料で線画を付与した原画を作成する。
【0030】ロ.前記原画、熱転写インク層が紫外線により発光する蛍光物質を含有し、赤外線を吸収しない、可視光線下で目視困難なインクからなる熱転写記録媒体、セルの順に重ね、セル側から赤外線を照射して、セル上に前記インクよりなる線画の複写(紫外線照射下では蛍光を発光し目視可能であるが、可視光線下では目視困難な線画)を得る。
【0031】通常、セル上の画像には、前記の紫外線照射下では蛍光を発光し目視可能であるが、可視光線下では目視困難な輪郭に加えて、可視光線下で目視可能な輪郭が必要である。以下、そのような動画用セルをサーモグラフィ法を利用して作成する方法について説明する。
【0032】図1〜5は該動画用セルの作成方法を工程順に示す概略断面図である。なお図1、3では、説明の都合上、各部材を間隔をあけて描いているが、実際には相互に密着しているものである。
【0033】工程1図1に示すごとく、赤外線を吸収する材料(黒の鉛筆など)で紙などのシート状物1上に線画1a、1bを描き、原画A1を作成する。線画1a、1bは完成後のセルにおいて可視光線下で目視可能な輪郭となる線画(図6R>6の線画1a′、1b′)に対応するものである。
【0034】工程2図1に示すごとく、前記原画A1、基材2上に熱転写インク層3を有し、熱転写インク層3が赤外線を吸収しない、可視光線下で目視可能なインクからなる熱転写記録媒体B、セル材4からなるセルCの順に重ねる。この場合、熱転写記録媒体Bの熱転写インク層3とセルCが接触するように重ねる。ついで加圧下にセルC側から赤外線10を照射して、図2に示すごとく、セルC上に前記インクよりなる線画の複写3a、3bを得、セルC1を作成する。
【0035】工程3図3に示すごとく、赤外線を吸収する材料(黒の鉛筆など)で原画A1に線画1cを追加し、原画A2を作成する。線画1cは完成後のセルにおいて輪郭にならない線画(図6の可視光線下で目視困難な線画1c′)に対応するものである。
【0036】工程4図3に示すごとく、前記線画1cを追加した原画A2、基材5上に熱転写インク層6を有し、熱転写インク層6が、紫外線により発光する物質を含有し、赤外線を吸収しない、可視光線下で目視困難なインクからなる熱転写記録媒体D、前記工程2で得られたセルC1の順に重ねる。この場合、熱転写記録媒体Dの熱転写インク層6とセルC1の線画3a、3bのある側が接触するように重ねる。ついで加圧下にセルC1側から赤外線10を照射して、図4に示すごとく、セルC1上に、前記紫外線により発光する物質を含有し、可視光線下で目視困難なインクよりなる線画の複写6cを得、セルC2を作成する。
【0037】なお、この場合線画3a、3bの部分にも熱転写インク層6のインクによる線画6a、6bが複写されるが、何ら支障はない。
【0038】工程5図5に示すごとく、工程4で得られたセルC2に紫外線20を照射し、追加線画1cに対応する線画6cを発光させた状態で線画3bと動画6cで囲われた部分Eに彩色を施し、さらに線画3aと線画6cで囲われた部分Fに彩色を施す。彩色は通常線画3a、3b、6cと同じ側の面に施す。かくして、完成した動画用セルが得られる。
【0039】本発明に用いる熱転写記録媒体Dは、熱転写インク層のインクが蛍光物質と熱溶融性ビヒクルとからなるものである。蛍光物質としては赤外線および可視光線を吸収しないものが使用され、蛍光顔料としては、たとえばスターリングインダストリアルカラー社のFLARE810 UV Blueなどがあげられ、蛍光染料としては、たとえば三井化学(株)製のEB−501、EG−302、ER−107などがあげられる。
【0040】熱溶融性ビヒクルは従来のサーモグラフィ法用の熱転写記録媒体のものがとくに制限なく使用でき、転写感度等を考慮してワックス類や熱可塑性樹脂から適宜選択すればよい。
【0041】本発明に用いる熱転写記録媒体Bは、熱転写インク層のインクが赤外線を吸収しない着色剤、とくに黒色の着色剤と熱溶融性ビヒクルとからなるものであり、従来の動画用熱転写記録媒体が使用できる。赤外線を吸収しない黒色の着色剤としては、ブラックベース1067(山本化成(株)製)などの染料や、ペリレン系などの顔料があげられる。
【0042】
【実施例】つぎに実施例をあげて本発明を説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0043】実施例〈熱転写記録媒体Bの製造〉厚さ12μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの片面に下記の処方のインクをホットメルトコーティングして厚さ4μmの熱転写インク層を形成し、熱転写記録媒体Bを得た。
【0044】
成分 重量% パラフィンワックス 55 カルナバワックス 20 エチレン−酢酸ビニル共重合体 5 ペリレン系黒色顔料 20
【0045】〈熱転写記録媒体Dの製造〉厚さ12μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの片面に下記の処方のインクをホットメルトコーティングして厚さ4μmの熱転写インク層を形成し、熱転写記録媒体Dを得た。得られた熱転写記録媒体Dのインク層は可視光線下では淡白色を呈していた。
【0046】
成分 重量% パラフィンワックス 49 ダイヤカルナ30K 15 (三菱化学(株)製α−オレフィン− 無水マレイン酸共重合ワックス)
エチレン−酢酸ビニル共重合体 13 分散剤 3 蛍光顔料 20 (スターリングインダストリアルカラー社製 FLARE810 UV Blue)
【0047】〈動画用セルの作成〉図6に示される動画用セルを図1〜5に示されるサーモグラフィ法を利用した方法により作成した。
【0048】まず、図1に示されるごとく、黒鉛筆で輪郭1a、1bを描いた原画A1、熱転写記録媒体B、セルC(厚さ125μmのポリエチレンテレフタレートフィルム)をこの順に重ね、動画用熱転写プリンター(デュプロシステム(株)製TR−88)で、加圧下にセルC側から赤外線を照射して、図2に示されるごとく、セルCに黒色の輪郭3a、3bを形成して、セルC1を得た。
【0049】前記原画A1に黒鉛筆で輪郭1cを追加した原画A2を作成し、図3に示されるごとく、この原画A2、熱転写記録媒体D、前記で得られたセルC1をこの順に重ね、前記動画用熱転写プリンターで、加圧下にセルC1側から赤外線を照射して、図4に示されるごとく、セルC1に輪郭6cを形成して、セルC2を得た。セルC2において、輪郭6cは可視光線下ではほとんど視認できなかった。
【0050】つぎに、図5に示されるごとく、セルC2に市販のブラックライトを用いて紫外線を照射したところ、輪郭6cがブルーの蛍光色に発光して明瞭に視認できた。この状態で輪郭3bと輪郭6cで囲まれた明るい部分Eと輪郭3aと輪郭6cで囲まれた陰の部分Fに彩色を施し、図6に示されるセルを完成した。明るい部分Eと陰の部分Fとの間のブルーに発光している輪郭6cが明瞭に視認できるので、彩色は容易であった。
【0051】
【発明の効果】本発明の方法によるときは、動画用セル上の陰の部分などを彩色するための輪郭を熟練者に依らず、低コストで付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の動画用セルをサーモグラフィ法により作成する方法の一実施例における工程2を示す概略断面図である。
【図2】前記工程2で得られた状態を示す概略断面図である。
【図3】前記実施例の工程4を示す概略断面図である。
【図4】前記工程4で得られた状態を示す概略断面図である。
【図5】前記実施例の工程5を示す概略断面図である。
【図6】本発明の方法により得られた動画用セルの一実施例を示す部分平面図である。
【符号の説明】
A1、A2 原画
B 熱転写記録媒体
C、C1、C2 セル
D 熱転写記録媒体
1a、1b、1c 赤外線を吸収する線画
3a、3b 可視光線下で目視可能な線画
6c 可視光線下で目視困難で、紫外線照射により蛍光を発光する線画
E 明るい部分
F 陰の部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】 紫外線により発光する蛍光物質を含有し、可視光線下で目視困難な材料によりセル上に線画を付与し、紫外線を照射して線画を発光させた状態で線画に彩色を施すことを特徴とする動画用セルの作成方法。
【請求項2】 つぎの工程イ、ロによりセル上に紫外線により発光する蛍光物質を含有し、可視光線下で目視困難な材料による線画を付与することを特徴とする請求項1記載の動画用セルの作成方法。
イ.赤外線を吸収する材料で線画を付与した原画を作成する。
ロ.前記原画、熱転写インク層が紫外線により発光する蛍光物質を含有し、赤外線を吸収しない、可視光線下で目視困難なインクからなる熱転写記録媒体、セルの順に重ね、セル側から赤外線を照射して、セル上に前記インクよりなる線画の複写を得る。
【請求項3】 つぎの工程1、2、3、4、5からなることを特徴とする動画用セルの作成方法。
1.赤外線を吸収する材料で線画を付与した原画を作成する。
2.前記原画、熱転写インク層が赤外線を吸収しない、可視光線下で目視可能なインクからなる熱転写記録媒体、セルの順に重ね、セル側から赤外線を照射して、セル上に前記インクよりなる線画の複写を得る。
3.赤外線を吸収する材料で前記原画に線画を追加する。
4.前記線画を追加した原画、熱転写インク層が紫外線により発光する蛍光物質を含有し、赤外線を吸収しない、可視光線下で目視困難なインクからなる熱転写記録媒体、前記工程2で得られたセルの順に重ね、セル側から赤外線を照射して、セル上に、前記紫外線により発光する蛍光物質を含有し、可視光線下で目視困難なインクよりなる線画の複写を得る。
5.前記工程4で得られたセルに紫外線を照射し、前記追加線画に対応する線画を発光させた状態で彩色を施す。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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