説明

動的表面張力の測定方法および測定装置

【課題】簡易な構造により低コストで、かつ、高精度な測定が可能な動的表面張力の測定方法を提供する
【解決手段】溶液を水平方向に噴出させる噴出ステップと、噴出された噴流を撮影して撮影噴流軌跡を得る撮影ステップと、水平方向に噴出する液体の噴流形状に関する運動方程式に、動的表面張力を与えて上記運動方程式を解き、解析噴流軌跡を導き出す解析ステップと、上記解析ステップで種々の動的表面張力を設定して導き出した複数の解析噴流軌跡と上記撮影ステップで撮影した撮影噴流軌跡とを比較照合して、撮影噴流軌跡に最も近い解析噴流軌跡を選定する比較照合ステップと、上記比較照合ステップで選定した解析噴流軌跡の動的表面張力を、溶液の動的表面張力として算出する算出ステップと備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体の動的表面張力を測定する測定方法および測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
界面活性剤水溶液において液体表面が新たに形成されたとき、内部の活性剤分子が表面に移動吸着して飽和状態に達するまで、液体の表面張力が時間によって変化する。このような動的表面張力のふるまいは、印刷におけるインクの挙動や発酵、醸造などの化学プロセスにおける破泡や起泡と関連して、色々な工業分野で問題となっており、その測定法として最大泡圧法や振動ジェット法等が知られている。
【0003】
最大泡圧法とは、例えば下記特許文献1に開示されているように、液体中に2個のノズルを設け、そのノズルに気体を通して液中で気泡を形成、膨張させながら、その時のノズル間の圧力差圧を測定することによって表面張力を測定する方法である。気泡の膨張速度により、測定の時間スケールを10ms〜10s程度の範囲で大きく変えることができるなどの利点を有する。
【0004】
振動ジェット法とは、例えば下記特許文献2に開示されているように、楕円形のノズルから噴流を噴出させ、振動しながら流下する楕円形噴流の波長から表面張力を測定する。この方法は、比較的簡易な装置で測定が可能であるという利点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−131212公報
【特許文献2】特開平5−99832公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の最大泡圧法や振動ジェット法には次のような問題点がある。すなわち、前者の最大泡圧法は、気泡発生のための機構や高感度で高応答の圧力センサーを必要とするため測定装置が高価になるなどの欠点がある。また、後者の振動ジェット法については、楕円断面のノズルの製作や振動波長の精度の良い測定が困難であるなどの欠点がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、このような問題点を解決するために提案された新たな動的表面張力の測定方法であって、溶媒に溶質が加えられて作成された溶液を水平方向に噴出させる噴出ステップと、上記噴出ステップで噴出された噴流を撮影して撮影噴流軌跡を得る撮影ステップと、水平方向に噴出する液体の噴流形状に関する運動方程式に、動的表面張力を与えて上記運動方程式を解き、解析噴流軌跡を導き出す解析ステップと、上記解析ステップで種々の動的表面張力を設定して導き出した複数の解析噴流軌跡と上記撮影ステップで撮影した撮影噴流軌跡とを比較照合して、撮影噴流軌跡に最も近い解析噴流軌跡を選定する比較照合ステップと、上記比較照合ステップで選定した解析噴流軌跡の動的表面張力を、溶液の動的表面張力として算出する算出ステップと、を備えている。
【0008】
本発明は、さらに詳しくは、静的表面張力σ0の溶媒に溶質が加えられて作成された密度ρの溶液を半径Rexitの円形噴出口より水平方向に体積流量Qで噴出させる噴出ステップと、上記噴出ステップで噴出された噴流を撮影して噴流軌跡(以下、撮影噴流軌跡)を得る撮影ステップと、表面が新しく形成されてから経過した時間(以下、表面経過時間)tsに依存して変化する溶液の動的表面張力σ(ts)を仮に設定し、水平方向に噴出する液体噴流に関する運動方程式に、前記の溶媒の静的表面張力σ0、溶質密度ρ、噴出口半径Rexit、体積流量Qと設定した動的表面張力σ(ts)を与えて上記運動方程式を解き、解析による噴流軌跡(以下、解析噴流軌跡)を導き出す解析ステップと、上記解析ステップで種々の動的表面張力を設定して導き出した複数の解析噴流軌跡と上記撮影ステップで撮影した撮影噴流軌跡とを比較照合して、撮影噴流軌跡に最も近い解析噴流軌跡を選定する比較照合ステップと、上記比較照合ステップで選定した解析噴流軌跡の動的表面張力を、溶液の動的表面張力として算出する算出ステップとを備えている。
【0009】
また、上述の動的表面張力σ(ts)を設定する式は下記式(A)であり、解析噴流軌跡を求めるための水平噴流の上記運動方程式は式(B)〜(G)である。

【0010】
ここで、式(A)中のtrは溶液の動的表面張力の緩和時間、nは式の特性を変える定数、σsは溶液の静的表面張力を表す。tr 、n、σs のパラメーターを変化させることによって、表面経過時間tsに対して任意の依存性を有する動的表面張力を設定することができる。式(B)〜式(G)中のgは重力加速度、sは噴流中心軸に沿った座標を表し、座標sにおける局所の噴流半径がR、噴流の広がり角がα、噴流の傾き角がθ、表面経過時間がts、噴流の軌跡の水平方向座標がxjet、鉛直方向座標がyjetで表されている。
【0011】
本発明の測定方法によれば、水平噴流が落下していく形状にもとづいて測定するため、上述の振動ジェット法や最大泡圧法のように微小な液面の凹凸や泡圧の圧力変動を捕らえる必要が無く、低コストで簡便に測定することができる。また、本発明の測定方法による測定値は、従来の最大泡圧法や振動ジェット法による測定結果とも一致しており、十分な測定精度を保っている。
【0012】
また本発明は、静的表面張力σ0の溶媒に溶質が加えられて作成された密度ρの溶液を半径Rexitの円形噴出口より水平方向に体積流量Qで噴出させるオリフィスと、上記オリフィスから噴出された噴流を撮影して噴流軌跡(以下、撮影噴流軌跡)を得るデジタルカメラと、表面が新しく形成されてから経過した時間(以下、表面経過時間)tsに依存して変化する溶液の動的表面張力σ(ts)を仮に設定し、水平方向に噴出する液体噴流に関する運動方程式に、前記の溶媒の静的表面張力σ0、溶質密度ρ、噴出口半径Rexit、体積流量Qと設定した動的表面張力σ(ts)を与えて上記運動方程式を解き、解析による噴流軌跡(以下、解析噴流軌跡)を複数導き出すとともに、導き出した複数の解析噴流軌跡と上記撮影噴流軌跡とを比較照合して、撮影噴流軌跡に最も近い解析噴流軌跡を選定し、その選定した解析噴流軌跡の動的表面張力を、溶液の動的表面張力として算出するコンピュータとを備える動的表面張力の測定装置であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の測定方法等によれば、簡易な測定装置により測定できるため、コストを削減することが可能となる。また、測定精度についても、従来の測定方法と比較して十分に高精度な測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態に用いられる測定装置を示す概略構成図
【図2】本実施形態に係る解析手段の機能ブロック図
【図3】本実施形態に係る解析手段による解析過程を説明する図
【図4】本実施の形態の測定方法に用いられる運動方程式の解析モデルを示す図
【図5】液体噴流の長さの微小要素を示す図
【図6】オリフィス出口付近の水平水噴流の拡大写真
【図7】本実施形態の測定方法を示すフローチャート図
【図8】噴流形状の理論値と測定値との比較を示す図
【図9】本実施形態の測定結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本実施の形態で用いられる動的表面張力の測定装置100を示す概略構成図である。本装置100は、大きく分けると、溶媒と界面活性剤等の溶質とからなる供試液体を水平方向に噴出させた噴流を撮影して噴流軌跡(以下、撮影噴流軌跡)を得る撮影手段101と、撮影した噴流形状の軌跡と理論的に解析した噴流形状の軌跡(以下、解析噴流軌跡)とを用いて、溶液の動的表面張力を算出する解析手段102とで構成されている。本実施形態では、撮影手段101と解析手段102は独立した別体の装置となっているが、一体に組み合わされた装置であってもよい。
【0016】
まず、本装置100の撮影手段101について説明する。撮影手段101は、貯液タンク103と、オーバーフロー104と、導管110と、円形オリフィス105と、ストロボ106と、デジタルカメラ107と、計量容器108と、電子天秤109とを備えている。
【0017】
貯液タンク103には、動的表面張力を測定しようとする溶液である供試液体Aが貯液されている。本実施形態の供試液体Aは、水(溶媒)に界面活性剤(溶質)が加えられて作成された界面活性剤水溶液が用いられているが、例えばオフセット印刷における湿し水、塗料などの液状物質等を測定することも可能である。この供試液体Aは、貯液タンク103からオーバーフロー104に供給され、導管110内を通って円形オリフィス105から噴出される。
【0018】
円形オリフィス105の形状、大きさ、材質については、特に限定しないが、溶液で濡れないようにテフロンシートで作成し、厚さを0.2mmまで薄くして、噴流内に境界層が形成されないようにしている。円形オリフィス105の直径は、約2mmである。円形オリフィス105からの噴流流速はオーバーフロー104のヘッドを変えることにより調整可能で、計量容器108と電子天秤109を用いて流量を重量法により測定することができる。噴流の慣性力に比して表面張力が大きくなるように、可能な限り小さい流量で行うことが望ましい。
【0019】
デジタルカメラ107は、円形オリフィス105から噴出される噴流の画像を撮影し、その画像データは後述する解析手段102へと送られる。
【0020】
次に、本実施形態の装置100における解析手段102について、図2および図3を用いて説明する。図2は、本装置100の解析手段102を示す機能ブロック図である。図3は、本装置100の解析手段102による解析過程を説明するための図である。
【0021】
本実施形態の解析手段102は、パーソナルコンピュータ102Aで構成されており、上記デジタルカメラ107で撮影した噴流形状の撮影軌跡を示す座標(以下、撮影座標という)を作成する撮影座標作成部201と、解析噴流軌跡を示す座標(以下、解析座標という)を作成する解析座標作成部202と、上記撮影座標と複数の上記解析座標とを比較照合して、上記撮影座標に最も近い解析座標を選定する比較照合手段と、上記比較照合照合手段が選定した解析座標の動的表面張力を、溶液の動的表面張力として算出する算出部203を備えている。
【0022】
撮影座標作成部201は、デジタルカメラ107から送られてきた撮影画像(図3A)から、噴流中心軸のx、 y座標を測定して噴流形状の撮影座標を求める(図3B)。画像の1ピクセルは約20μmに対応し、同じ測定条件における数回の測定において噴流の軌跡が1ピクセル程度の差で一致することが可能となっている。
【0023】
解析座標作成部202は、溶液の物性や噴出条件から、水平方向に噴出された供試液体Aの噴流形状の軌跡の座標を理論的に解析する。具体的には、水平方向に噴出する液体噴流に関する運動方程式202Aと、動的表面張力σ(ts)を設定する式202Bを有しており、後述するように、上記運動方程式202Aに溶媒の静的表面張力、溶質密度、噴出口半径Rexit、体積流量、および任意の溶液の動的表面張力の値を代入することで、その溶液の動的表面張力に対応した噴流形状の軌跡を作成することができるようになっている。以下、この運動方程式202Aと、動的表面張力σ(ts)を設定する式202Bについて図4、図5を用いて説明する。
【0024】
図4は、本実施形態の測定方法に用いられる運動方程式の解析モデルを示す図である。図5は、液体噴流の長さの微小要素を示す図である。本モデルでは、一様な速度分布で流出する噴流の表面形状について動的表面張力の効果を含めた解析を行っている。気液界面は管出口において新たに形成されるので、例えば界面活性剤水溶液を考えた場合、図4の噴流の中心軸に沿った距離sにおいて、その位置に至るまでに要した時間に応じた表面張力が現れる。また、図4の距離sにおける表面の、出口からの経過時間(表面経過時間)が明らかになるよう、一様な速度分布をもってオリフィスから流出する噴流を対象としている。
【0025】
図4において、噴流中心軸と噴口の交点を座標原点とし、水平方向座標をx[m]、鉛直上向き座標をy[m]とする。また、局所の噴流の半径をR[m]、速度をU[m/s]で表す。長さds[m]の噴流微小要素を図5に示す。図中のP[Pa]は圧力、σ[N/m]は供試液体の表面張力を表す。噴流中心軸の水平に対する傾斜角をθ[rad]、噴流半径の広がり角をαとすると、Rとαには以下の幾何学的関係がある。

【0026】
この微小要素における運動量変化と作用する種々の力について考察する。微小要素を通過する単位時間当たりの運動量Mは次のように求められる。

ここで、ρ(kg/m)は液体の密度である。噴流内の圧力Pは、ラプラスの方程式から近似的に次式のように求められる。

【0027】
図5の微小要素に作用する圧力、表面張力および重力が噴流の運動量変化に等しいことから、s方向の運動方程式は次式で表される。

gは重力加速度である。式(4)と同様に、sと垂直な方向の運動方程式は次式で表される。

【0028】
式(3)〜(5)中の表面張力sは界面活性剤溶液の場合、表面経過時間に依存して変化する。したがって、座標sにおける噴流の表面経過時間tsを求めてσを与える必要がある。噴流表面は噴口で形成された後、流れとともに速度U(m/s)で流下するので、表面経過時間tsは次式で表される。

【0029】
さらに、tsにおける表面張力はts= 0における初期表面張力(溶媒の表面張力)σ0(N/m)と十分時間が経過した後の表面張力(静的表面張力)σs(N/m)を用いて、一般的に下記の式で与えられることが知られている。

ここで、tr は溶液の動的表面張力の緩和時間、nは式の特性を変える定数を表す。
【0030】
速度Uは流量Qと噴流半径Rを用いて次の式(8)のように表される。

したがって、式(8)を用いて式(4)〜(6)を整理し、さらに噴流軌跡の水平方向座標をxjet、鉛直方向座標をyjetとすれば以下の式が得られる。

【0031】
上述の式(7) が動的表面張力σ(ts)を設定する式201Bであり、式(9)〜(14)が水平方向に噴出された噴流形状の軌跡を示す解析座標を求めるための運動方程式201Aである。
【0032】
なお、本実施形態では、噴流形状の軌跡の精度を高めるために、式(10)中のdσ/dsに関する項を無視して計算している。すなわち、式(10)中のdσ/dsを含む項は、表面張力の空間勾配に起因して、液体表面の接線方向に生じる力を表しており、液面の加減速をもたらす。一方、界面活性剤水溶液の液面には活性剤分子が密集して吸着しているため、吸着分子層における粘性(表面粘性)が極めて大きくなり、水の1千万倍以上のオーダーになることが知られている。このような表面粘性による力を定量的に式(10)中に含めることは困難であるが、大きな粘性は液面の加減速を抑制すると考えられる。すなわち、式(10)のdσ/dsを含む項が表面粘性によって相殺され、その効果がかなり減少することが考えられる。以上の理由から、本実施形態では式(10)中のdσ/dsに関する項を無視して噴流形状を計算している。
【0033】
噴流の噴出口にオリフィスを用いる場合には、縮流が生じる可能性がある。本実施形態では縮流についても考慮されており、図6を用いて説明する。図6は、オリフィス出口付近の水平水噴流の拡大写真を示す。図6を見ると、噴流はほぼ水平に噴出した後、重力により下向きに偏向している。また、オリフィス近傍の噴流径に注目すると、下流方向に僅かに減少する傾向が認められる。図6の噴流半径を測定したところ、x=2.5mm付近まで縮流による半径の減少が見られた。縮流後の噴流半径Rcは0.918mmであり、オリフィス半径Rexit=0.974mmとの比から縮流係数Cc=Rc/Rexitを求めるとCc=0.942となる。他の供試液体についても同様の噴流画像からCcを求めたところ、ほぼ一致する結果が得られた。このことから、縮流係数はノズルに固有の値であると考えられる。
【0034】
上記を考慮して、式(9)〜(14)の噴出口における境界条件として次式(15)を用いた。

【0035】
上述の式(7)および式(9)〜(14)を用いて、液体の動的表面張力を算出することが可能となっている。すなわち、まず、オリフィス出口における適切な境界条件の下、6つの未知数R、α、θ、ts、xjet、yjetを含む常微分方程式 (9)〜(14)をルンゲクッタ法により数値的に解き、噴流形状を求めることができる。
【0036】
ここで、噴流形状は液体の動的表面張力ごとに異なった形状を示しているため、動的表面張力の効果を含めた噴流形状を作成するためには所定の動的表面張力を運動方程式に代入する必要がある。言い換えると、上記運動方程式から動的表面張力を様々に変化させると、それぞれの動的表面張力に対応した画像の軌跡を理論的に算出することができるようになっている。図3Cでは、3つの動的表面張力に対応したそれぞれの解析軌跡a、b、cを例示している。
【0037】
比較照合部204は、式(7)中のn、tr、σsを任意に設定し、動的表面張力を様々に変化させることで、撮影座標と最も合致する解析座標を選定する。具体的にはまず、ある仮定した動的表面張力を代入して解析座標を作成し、その解析座標が撮影座標と一致するか否かを比較する。比較照合部204が一致すると判断した場合は、算出部203は、その動的表面張力が供試液体の動的表面張力であると算出する。比較照合部204が一致しないと判断した場合は、解析座標作成部202にフィードバックされ異なる動的表面張力が代入された新たな解析座標が作成される。こうして新たに作成された解析座標は再度比較照合部204に送られ、再度撮影座標と合致するか否かが比較照合される。このようにして、動的表面張力を様々に変化させることで複数の解析座標を作成し、撮影座標と最も合致する解析座標を選定する。
【0038】
図3Cでは、3つの解析座標a、b、cのうち、解析座標bが撮影座標と最も合致していることを示している。ここで、撮影座標と解析座標が完全に一致することは少ないため、本実施形態では、撮影画像と最も合致するn、tr 、σs を最小2乗法により求め、式(7)より液体の動的表面張力を算出する。
【0039】
以下、図7を用いて本実施形態の測定方法について説明する。図7は、本実施形態の測定方法を示すフローチャート図である。ます、測定しようとする液体をオリフィスから噴出させる(STEP1)。液体の密度ρは市販のボーメの比重計を用いて測定し、溶媒の静的表面張力s0はウィルヘルミー法を用いて電子天秤により測定している。また、噴流の流量Qは噴出した液体を容器に回収し、電子天秤で重量法により測定している。
【0040】
つぎに、噴出した液体の噴流形状の軌跡をデジタルカメラで撮影し(STEP2)、その画像データをコンピュータに読み込ませる。コンピュータの上記撮影座標作成部は、読み込んだ画像データから噴流の軌跡を示す撮影座標を作成する(STEP3)。さらにこの撮影座標の作成とは別に、コンピュータの解析座標作成部は、液体の動的表面張力を仮定して運動方程式に代入し、噴流の軌跡を示す解析座標を作成する(STEP4)。このようにして、撮影座標と解析座標の2つの軌跡を示す座標を作成する。
【0041】
つづいて、比較照合部において撮影座標と解析座標が一致するか否かを比較照合する(STEP5)。ここで、比較照合部が一致すると判断した場合は(STEP5で「一致する」の場合)、算出部は、STEP4で仮定した動的表面張力の値が、測定しようとする液体の動的表面張力を示していると算出することになる(STEP6)。他方、比較照合部が一致しないと判断した場合は(STEP5で「一致しない」の場合)、再度解析座標作成部に戻され、動的表面張力の値を変更して新たな解析座標が作成される。こうして新に作成された解析座標は再度撮影座標と比較照合される。この動作を繰り返し行うことで、最小二乗法により複数の解析座標の中から撮影座標に最も近似する解析座標を求め、その解析座標に代入した表面張力が溶液の動的表面張力であると算出される。
【0042】
以上のように、噴流に加わる慣性力、表面張力、圧力、重力を考慮して噴流の形状を近似的に解析し、解析による噴流形状と測定による噴流形状が一致する条件を用いて動的表面張力を算出する。
【0043】
次に、本実施形態の測定結果について説明する。供試液体には蒸留水,10%エタノール水溶液,界面活性剤水溶液を用いた.界面活性剤には代表的な界面活性剤であるポリオキシエチレンオクチルフェニールエーテルを用いた.この界面活性剤は分子に付加しているエチレンオキシド基のモル数によって諸特性が異なるため,付加モル数が異なる2種類(Triton X−100, X−405)で実験を行った.表面張力が時間に依存しない水およびエタノール水溶液は,本解析モデルの妥当性の検証のため用いた.界面活性剤水溶液では,濃度・種類の異なる5種類の溶液について測定を行った.
【0044】
動的表面張力の測定に先立ち、まず上述の理論モデルの妥当性について検討を行った。各液体の表面張力の時間依存性を用い、噴流形状を理論的に求めた。水、エタノール10%水溶液については表面張力をssで一定とし、界面活性剤(Triton X-100)500ppm水溶液については、振動ジェット法による測定結果を与えた。図8は、噴流形状の理論値と測定値との比較を示す図である。図8の横軸、縦軸はそれぞれ噴流中心軸のx、 y座標を表す。図中のプロット点は写真撮影より実測した噴流形状を表し、実線および破線は理論解析より求めた噴流形状を表す。実線は式(10)中のdσ /dsを含む項を無視した計算結果であり、破線はこれを考慮した結果である。水とエタノール水溶液ではsが時間的に変化しないため実線のみを示している。
【0045】
図8より、界面活性剤水溶液に対する結果を見ると、実験値は実線とよく一致しており、 dσ /dsを考慮した破線は、実験値から大きく外れる結果となった。これは先述したように、表面粘性により表面張力の空間勾配による効果が相殺されたためと考えられる。そこで、以下では式(10)中のdσ /dsに関する項を無視して噴流形状を計算する。他の供試液体についても、理論値を表す実線は実験値をよく近似しており、いずれも±3%の範囲内で一致した。本研究で提案する解析法により、噴流形状を精度よく予測できることがわかる。また、表面張力に依存して、噴流形状に有為な差が表れていることがわかる。
【0046】
濃度0〜1500ppmの界面活性剤Triton X-100水溶液およびTriton X-400水溶液 について、噴流中心軸の座標を画像から測定した。その噴流形状に基づき、供試液体の動的表面張力を測定した結果を図9に示す。横軸は表面経過時間ts、縦軸は表面張力σを表す。プロット点が振動ジェット法による測定結果、曲線が本実施形態の測定方法による測定結果を表す。図9(b)には、最大泡圧法による測定結果も比較のため示してある。図9において、本測定法と他の結果は、3%以内で良く一致していることがわかる。
【0047】
図9において、本実施形態における水平噴流法の測定の妥当性を示している。本測定法は、水平噴流が落下していく形状にもとづいて測定するため、振動ジェット法や最大泡圧法のように微小な液面の凹凸や泡圧の圧力変動を捕らえる必要が無く、低コストで簡便に測定できる利点を有する。
【符号の説明】
【0048】
100 測定装置
101 撮影手段
102 解析手段
102A コンピュータ
105 オリフィス
107 デジタルカメラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒に溶質が加えられて作成された溶液を水平方向に噴出させる噴出ステップと、
上記噴出ステップで噴出された噴流を撮影して撮影噴流軌跡を得る撮影ステップと、
水平方向に噴出する液体の噴流形状に関する運動方程式に、動的表面張力を与えて上記運動方程式を解き、解析噴流軌跡を導き出す解析ステップと、
上記解析ステップで種々の動的表面張力を設定して導き出した複数の解析噴流軌跡と上記撮影ステップで撮影した撮影噴流軌跡とを比較照合して、撮影噴流軌跡に最も近い解析噴流軌跡を選定する比較照合ステップと、
上記比較照合ステップで選定した解析噴流軌跡の動的表面張力を、溶液の動的表面張力として算出する算出ステップと、
を備えることを特徴とする動的表面張力の測定法。
【請求項2】
静的表面張力σ0の溶媒に溶質が加えられて作成された密度ρの溶液を半径Rexitの円形噴出口より水平方向に体積流量Qで噴出させる噴出ステップと、
上記噴出ステップで噴出された噴流を撮影して撮影噴流軌跡を得る撮影ステップと、
表面が新しく形成されてから経過した時間(以下、表面経過時間)tsに依存して変化する溶液の動的表面張力σ(ts)を仮に設定し、水平方向に噴出する液体噴流に関する運動方程式に、前記の溶媒の静的表面張力σ0、溶質密度ρ、噴出口半径Rexit、体積流量Qと設定した動的表面張力σ(ts)を与えて上記運動方程式を解き、解析による解析噴流軌跡を導き出す解析ステップと、
上記解析ステップで種々の動的表面張力を設定して導き出した複数の解析噴流軌跡と上記撮影ステップで撮影した撮影噴流軌跡とを比較照合して、撮影噴流軌跡に最も近い解析噴流軌跡を選定する比較照合ステップと、
上記比較照合ステップで選定した解析噴流軌跡の動的表面張力を、溶液の動的表面張力として算出する算出ステップと、
を備えることを特徴とする請求項1記載の動的表面張力の測定法。
【請求項3】
動的表面張力σ(ts)を設定する式が下記式(A)であり、解析噴流軌跡を求めるための水平噴流の上記運動方程式が式(B)〜(G)である請求項2記載の動的表面張力の測定法。

ここで、式(A)中のtr は溶液の動的表面張力の緩和時間、nは式の特性を変える定数、σsは溶液の静的表面張力を表す。式(B)〜式(G)中のgは重力加速度、sは噴流中心軸に沿った座標を表し、座標sにおける局所の噴流半径がR、噴流の広がり角がα、噴流の傾き角がθ、表面経過時間がts、噴流の軌跡の水平方向座標がxjet、鉛直方向座標がyjetで表されている。
【請求項4】
静的表面張力σ0の溶媒に溶質が加えられて作成された密度ρの溶液を半径Rexitの円形噴出口より水平方向に体積流量Qで噴出させるオリフィスと、
上記オリフィスから噴出された噴流を撮影して撮影噴流軌跡を得るデジタルカメラと、
表面が新しく形成されてから経過した時間(以下、表面経過時間)tsに依存して変化する液体の動的表面張力σ(ts)を仮に設定し、水平方向に噴出する液体噴流に関する運動方程式に、前記の溶媒の静的表面張力σ0、溶質密度ρ、噴出口半径Rexit、体積流量Qと設定した動的表面張力σ(ts)を与えて上記運動方程式を解き、解析による噴流軌跡(以下、解析噴流軌跡)を複数導き出すとともに、導き出した複数の解析噴流軌跡と上記撮影噴流軌跡とを比較照合して、撮影噴流軌跡に最も近い解析噴流軌跡を選定し、その選定した解析噴流軌跡の動的表面張力を、溶液の動的表面張力として算出するコンピュータと、
を備えることを特徴とする動的表面張力の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図3】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−112589(P2011−112589A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−271146(P2009−271146)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 〔刊行物名〕 「日本機械学会論文集B編 第75巻 第755号」 〔発行日〕 平成21年7月25日 〔発行所〕 社団法人 日本機械学会 〔刊行物名〕 「実験力学会講演論文集No.9(2009)」 〔発行日〕 平成21年8月5日 〔発行所〕 日本実験力学会
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(506122327)公立大学法人大阪市立大学 (122)