説明

動脈硬化の診断方法

【課題】動脈硬化の重症度、冠動脈疾患に罹患している患者における心筋梗塞、安定狭心症を起こす危険性の評価方法の提供。
【解決手段】被検試料中の小粒子低比重リポ蛋白、または小粒子低比重リポ蛋白と低比重リポ蛋白との比率、または小粒子低比重リポ蛋白と高比重リポ蛋白との比率を測定することを含み、被検試料中の小粒子低比重リポ蛋白量、小粒子低比重リポ蛋白と低比重リポ蛋白との比率、または小粒子低比重リポ蛋白と高比重リポ蛋白との比率の増加が、該試料を提供した冠動脈疾患を起こしている被験者における心筋梗塞や不安定狭心症等の心血管イベントを起こす危険性の存在を示すことを特徴とする、冠動脈疾患を起こしている被験者における心筋梗塞や不安定狭心症等の心血管イベントを起こす危険性を判断する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象における動脈硬化の重症度の診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低密度リポ蛋白(LDL)は血液中におけるコレステロール運搬の主役であり、動脈硬化性疾患の危険因子であるが、LDLの中でも特に粒子サイズが小さく平均的なLDLより高比重な、小粒子低比重リポ蛋白(以下、「小粒子LDL」という)は動脈硬化惹起性が通常のLDLより高くなることが知られている。
【0003】
従来の小粒子LDL測定法としては、超遠心法、高速液体クロマトグラフィー法、電気泳動法、を用いる方法などがある。超遠心法は比重の差を利用して小粒子LDLを分離し、そのコレステロール量や蛋白量を定量する方法であり、高速液体クロマトグラフィー法はゲルろ過カラムを用いてリポ蛋白粒子サイズにより分離、分析する方法である。一般的に用いられてきた電気泳動法は、ポリアクリルアミドゲルを用いてLDLの移動度や粒子直径を測る方法で、小粒子LDLは粒子サイズ25.5nm以下(JAMA, 260, p.1917-21, 1988等)または、LDLの相対移動度(VLDLからLDLまでの移動距離をVLDLからHDLまでの移動距離で除したもの)が0.4以上である(動脈硬化, 25, p.67-70, 1997)。このLDL粒子サイズの測定により、小粒子LDLを主に有するヒトでは通常サイズのLDLを主に有するヒトに比べて冠動脈疾患の発症のリスクが3倍高くなることが報告されている。しかし、粒子サイズの測定では動脈硬化の重症度との関連性を把握することはできない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】JAMA, 260, p.1917-21, 1988
【非特許文献2】動脈硬化, 25, p.67-70, 1997
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、動脈硬化の重症度、冠動脈疾患に罹患している患者における心筋梗塞、安定狭心症を起こす危険性の評価方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、小粒子LDL値が動脈硬化の進展度、重症度を示す冠動脈狭窄の病変枝数および冠動脈造影による重症度スコア(Gensini score)と関連性が高いことを見いだした。従来の冠動脈造影検査では患者に苦痛を与え、時間、費用の面からも負担の大きいものであったが、本発明ではこれらの判断を簡便に行うことができる。
【0007】
また、本発明者らは小粒子LDLを定量することにより、動脈硬化性疾患の重症度が高い患者において、血行再建術等の侵襲的治療の必要性を判断することができることを見いだした。
【0008】
すなわち、本発明は動脈硬化性疾患の患者検体中の小粒子LDLを測定することにより、動脈硬化の重症度を判断する方法、および冠動脈疾患を起こしている被験者における心筋梗塞や不安定狭心症等の心血管イベントを起こす危険性を判断する方法を提供するものである。動脈硬化の重症度および心血管イベントを起こす危険性を判断する方法としては、小粒子LDLの測定値を単独で用いても良いし、小粒子LDLの測定値をLDL測定値で除したもの(小粒子LDL/LDL)あるいは小粒子LDLの測定値を高比重リポ蛋白質(HDL)測定値で除したもの(小粒子LDL/HDL)も好適に用いることができる。本発明における小粒子LDLの測定値としては小粒子LDL中コレステロール、中性脂肪または蛋白質を用いることができる。
【0009】
本発明は具体的には以下の方法およびキットを提供する。
(1)被検試料中の小粒子低比重リポ蛋白、または小粒子低比重リポ蛋白と低比重リポ蛋白との比率、または小粒子低比重リポ蛋白と高比重リポ蛋白との比率を測定することを含み、被検試料中の小粒子低比重リポ蛋白量、小粒子低比重リポ蛋白と低比重リポ蛋白との比率、または小粒子低比重リポ蛋白と高比重リポ蛋白との比率の増加が、該試料を提供した被験者の動脈硬化の重症度の増加を示すことを特徴とする、動脈硬化の重症度を判断する方法、
(2)被検試料中の小粒子低比重リポ蛋白、または小粒子低比重リポ蛋白と低比重リポ蛋白との比率、または小粒子低比重リポ蛋白と高比重リポ蛋白との比率を測定することを含み、被検試料中の小粒子低比重リポ蛋白量、小粒子低比重リポ蛋白と低比重リポ蛋白との比率、または小粒子低比重リポ蛋白と高比重リポ蛋白との比率の増加が、該試料を提供した冠動脈疾患を起こしている被験者における心筋梗塞や不安定狭心症等の心血管イベントを起こす危険性の存在を示すことを特徴とする、冠動脈疾患を起こしている被験者における心筋梗塞や不安定狭心症等の心血管イベントを起こす危険性を判断する方法、
(3)前記小粒子低比重リポ蛋白の定量が小粒子低比重リポ蛋白中コレステロールまたは中性脂肪または蛋白質を測定することにより行われることを特徴とする(1)または(2)の方法、
(4)前記小粒子低比重リポ蛋白の定量が、被検試料中の小粒子低比重リポ蛋白をそれ以外の低比重リポ蛋白と分離する第1工程と、分離した小粒子低比重リポ蛋白中のコレステロール、中性脂肪または蛋白質を測定する第2工程から成る、(3)の方法、
(5)小粒子低比重リポ蛋白中のコレステロール、中性脂肪または蛋白質の測定用試薬を含む動脈硬化の重症度を判断するための小粒子低比重リポ蛋白測定用キット。
【発明の効果】
【0010】
実施例1および2に示すように、小粒子低比重リポ蛋白の量、または小粒子低比重リポ蛋白と低比重リポ蛋白との比率、または小粒子低比重リポ蛋白と高比重リポ蛋白との比率は、動脈硬化の重症度と相関しており、本発明の方法により、動脈硬化の重症度を判定することができる。また、実施例3に示すように、安定冠動脈疾患に罹患している被験者において、心筋梗塞や不安定狭心症等の心血管イベントの発生と小粒子低比重リポ蛋白の量、または小粒子低比重リポ蛋白と低比重リポ蛋白との比率、または小粒子低比重リポ蛋白と高比重リポ蛋白との比率が相関しており、本発明の方法により、心血管イベントを起こす危険性を判断することができ、また血行再建術等の治療の必要性を判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1における動脈硬化性狭窄の病変枝数とLDLコレステロール値(a), LDL粒子サイズ(b)、小粒子LDL中コレステロール値(c)、小粒子LDL中コレステロール/LDLコレステロール比:(d)、小粒子LDL中コレステロール/HDLコレステロール比(e)との関連性を示す図である。
【図2】実施例2におけるGensini scoreの4分割(Quartile)とLDLコレステロール値(a)、LDL粒子サイズ(b)、小粒子LDL中コレステロール値(c)、小粒子LDL中コレステロール/HDLコレステロール比(d)との関連性を示す図である。
【図3】実施例3における動脈硬化性疾患の状態とLDLコレステロール値(a), LDL粒子サイズ(b)、小粒子LDL中コレステロール値(c)、小粒子LDL中コレステロール/LDLコレステロール比:(d)、小粒子LDL中コレステロール/HDLコレステロール比(e)との関連性を示す図である。
【図4】実施例4における小粒子LDL中コレステロールと小粒子LDL中蛋白質の相関性を示す図である。
【図5】実施例5における小粒子LDL中コレステロールと小粒子LDL中中性脂肪の相関性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の方法において、小粒子低比重リポ蛋白、または小粒子低比重リポ蛋白と低比重リポ蛋白との比率、または小粒子低比重リポ蛋白と高比重リポ蛋白との比率を動脈硬化の重症度判断等の指標として用いるため、被検体中の小粒子低比重リポ蛋白(sLDL)、低比重リポ蛋白(LDL)および高比重リポ蛋白(HDL)を測定する必要がある。本発明の方法で用いる被検試料は、血液、血清または血しょうである。
【0013】
測定には、各リポ蛋白を分画し、それぞれのリポ蛋白を粒子サイズや密度を指標に定量すればよい。粒子サイズの直径は、報告者により異なるがLDLが22nm〜28nm(19nm〜30nm)、HDLが直径7〜10nmである。比重は、LDLが1.019〜1.063、HDLが1.063〜1.21である。LDL粒子直径はグラジエントゲル電気泳動(GGE)(JAMA, 260, p.1917-21, 1988)、NMR(HANDBOOK OF LIPOPROTEIN TESTING 2nd Edition、 Nader Rifai他編、p.609-623、AACC PRESS:TheFats of Life Summer 2002、LVDD 15 YEAR ANNIVERSARY ISSUE、Volume AVI No.3、p.15-16)により測定でき、比重は超遠心分離による分析(Atherosclerosis, 106, p.241-253, 1994: Atherosclerosis, 83, p.59, 1990)に基づいて決定できる。
【0014】
リポ蛋白の定量法として、種々の方法が知られており、これらの公知の方法を用いて定量すればよい。例えば、超遠心法、電気泳動法、高速液体クロマトグラフィーを用いる方法などがある。超遠心法は比重の差を利用して小粒子LDLを分離し、そのコレステロール量や蛋白量を定量する方法である(Atherosclerosis, 48 p.33-49, 1993: Atherosclerosis,106, p.241-253, 1994等)。電気泳動法はポリアクリルアミドゲルを用いてLDLの移動度や粒子直径を測る方法であり(JAMA, 260, p.1917-21, 1988等、動脈硬化, 25, p.67-70, 1997)、さらに、アガロース電気泳動において泳動後のゲルを脂質染色し、その染色パターンをコンピューター解析しリポ蛋白を定量する方法がある(特開2000-356641号公報)。
【0015】
また、sLDL、LDLおよびHDLに含まれるコレステロール、中性脂肪(トリグリセリド)またはタンパク質を測定してもよい。これらの方法は、直接粒子状のリポ蛋白を測定するものではないが、被検体のリポ蛋白濃度を反映している。例えば、コレステロールの定量方法として、分画とコレステロール定量の2つの操作から求める方法と総コレステロール、HDLコレステロール、トリグリセリド値により求めるFriedewald式による演算方法がある。また、分画操作を要しないLDLコレステロール定量方法があり(特開平11-318496号公報)、第1工程で試料中のLDL以外のリポ蛋白中コレステロールを選択的に消去し(消去とはエステル型コレステロールを分解し、その分解物が第2工程に検出されないようにすることを意味する)、第2工程でLDLコレステロールを定量することができる。さらに、1回の測定でHDLコレステロールと総コレステロールおよびLDLコレステロールと総コレステロールを連続的に測定する方法もあり(特表2003-501630号公報)、試料を1本の試験用チューブに入れ、試料中の非HDLコレステロールと抗アポB抗体の複合体を形成させ、複合体を形成していないリポ蛋白質、つまりHDLを測定する。次いで複合体を界面活性剤を用いて解離させ、残った非HDLコレステロールを酵素的に測定するものであり、2回の測定値をトータルすることにより総コレステロール値を得ることができる。リポ蛋白中のタンパク質を用いる方法においては、HDL中のアポ蛋白A-I、アポ蛋白A-II、LDL中のアポ蛋白B-100を測定すればよく、それぞれのアポ蛋白を特異的に認識する抗体を用いた免疫測定法により測定することができる。
【0016】
ただし、上記の方法においては、LDLおよびHDLは正確に定量することが可能であるが、小粒子LDLとLDLを充分に分別定量できない場合がある。従って、小粒子LDLは別途他の方法で定量することが望ましい。なお、小粒子LDLは、一般的にはLDL画分のうち直径が約22.0〜約25.5nmの亜分画、比重1.040〜1.063の亜分画を指す。LDLを大きさにより亜分画に分けているのは、LDLのうち粒子径が小さいものが動脈硬化惹起性が高く、LDLの中でもより悪性度が高いので、LDLの中でも小さいものを分別測定する必要があったからである。LDL内で直径分布や比重分布は連続しており、比重がどの程度以上のものが特に悪性度が高いというように明確に区別できるものではない。従って、上記の比重1.040〜1.063という値も小粒子LDLの特性として確立したものではなく、広く用いられており確立した値といえるLDLの比重範囲1.019〜1.063を中央点で分けたものである。例えば、別の報告では1.044〜1.060に分画される(Atherosclerosis:106 241-253 1994)。小粒子LDLの比重をどの範囲にするかは、報告者により若干の違いがあるが、いずれもその範囲で分別した場合の小粒子LDLの存在が臨床的な悪性度と関連している。
【0017】
小粒子LDLの定量法としていくつかの方法(臨床病理,25,p.406-413,2004、特開2004-264051、Atherosclerosis,125,231-242,1996等)があるが、これらを好適に用いることができる。
【0018】
例えば、臨床病理,25,p.406-413,2004の記載に従って、以下のようにして小粒子LDL中コレステロールの測定を行うことができる。血清を試料とし、ポリアニオンと二価陽イオンからなる分離剤と混合した場合、通常サイズのLDLの他、VLDL、カイロミクロンなどは凝集物を形成し、遠心分離やフィルター等により反応系から除去される。反応液中には凝集物を形成しない小粒子LDLおよびHDLが残る。この反応液にLDLコレステロール直接測定法の原理を利用した2試薬系の自動分析装置対応の試薬を作用させる。第1反応ではLDL以外のリポタンパク質に作用する界面活性剤の存在下でコレステロールエステラーゼ及びコレステロールオキシダーゼを作用させ、生じた過酸化水素を消去することにより、反応液中のHDLコレステロールのみが消去される。続く第2反応では試料中の小粒子LDL中コレステロールの測定を行う。これは、例えば、少なくともLDLに作用する界面活性剤を加え、第1工程で加えたコレステロールエステラーゼ及びコレステロールオキシダーゼの作用により生じた過酸化水素を定量することにより行うことができる。記載の方法に従って健常人の小粒子LDL中コレステロールを測定した場合、その平均値は約20mg/dLとなった(n=360)。
【0019】
また、上記方法による通常LDLと小粒子LDLの分離の後、小粒子LDL中タンパク質を測定する場合、第2工程で用いられる抗ヒトアポB抗体を作用させる方法としていくつかの方法(特許第2638137号公報,特開平02-64458号公報)等があり、これらを好適に用いることができる。
【0020】
小粒子LDL中中性脂肪を測定する場合、第2工程で用いられる分画操作を要しないLDL中の中性脂肪測定方法としていくつかの方法(WO00/43537号公報)等があり、これらを好適に用いることができる。
【0021】
上記の種々の方法により、被検体中の小粒子低比重リポ蛋白(sLDL)、低比重リポ蛋白(LDL)および高比重リポ蛋白濃度(HDL)濃度を測定することができ、小粒子低比重リポ蛋白の定量値、小粒子低比重リポ蛋白定量値と低比重リポ蛋白定量値との比率、または小粒子低比重リポ蛋白定量値と高比重リポ蛋白定量値との比率を指標に被験体と疾患との関係を判定することができる。
【0022】
本発明の方法は、動脈硬化の重症度を判断する方法であるが、該方法は、動脈硬化の重症度をスクリーニングする方法でもあり、また、重症度が低いか、重症度が中程度か、あるいは重症度が高い動脈硬化を鑑別して検出する方法でもある。
【0023】
また、本発明の方法は、冠動脈疾患を起こしている被験者における心筋梗塞や不安定狭心症等の心血管イベントを起こす危険性を判断する方法であるが、該方法は、心筋梗塞や不安定狭心症等の心血管イベントの発生確率を検出する方法でもあり、例えば、確率が低い、中程度、または高いと判断できる。また、測定値とイベントが発生する頻度を関連付けることにより、確率を数値で示すことも可能である。
【0024】
本発明の方法により、動脈硬化の進展度もしくは重症度ならびに冠動脈疾患を起こしている被験者における心筋梗塞や不安定狭心症等の心血管イベントを起こす危険性を評価判定することができる。本発明で、動脈とは、冠動脈、脳動脈、末梢動脈のいずれも包含するが、好適には冠動脈における進展度または重症度を判定することができる。動脈硬化の進展度または重症度は、動脈硬化の重症度、進展度を示す指標である冠動脈の病変枝数と相関している。小粒子低比重リポ蛋白の定量値、小粒子低比重リポ蛋白定量値と低比重リポ蛋白定量値との比率、または小粒子低比重リポ蛋白定量値と高比重リポ蛋白定量値との比率は冠動脈の病変枝数と相関しており、これらの値を指標に動脈硬化の進展度または重症度を判定することができる。小粒子低比重リポ蛋白の定量値が冠動脈疾患に罹患していない健常人よりも増加している場合、例えば、健常人に対して値が約1.5倍、約1.75倍または約2倍以上である場合、または小粒子低比重リポ蛋白定量値と低比重リポ蛋白定量値との比率もしくは小粒子低比重リポ蛋白定量値と高比重リポ蛋白定量値との比率が冠動脈疾患に罹患していない健常人よりも増加している場合に動脈硬化が進展しているまたは動脈硬化の重症度が高いと判断することができる。例えば、健常人の小粒子低比重リポ蛋白中コレステロールの平均値は20mg/dLであるが、血清中の小粒子低比重リポ蛋白中コレステロールの定量値が30、35または40mg/dLを超える場合、冠動脈の病変枝数は1、2または3を超える。従って、血清中の小粒子低比重リポ蛋白中コレステロールの定量値が30、35または40mg/dLを超える場合、すなわち健常人の値に対して約1.5倍、約1.75倍または約2倍以上である場合、動脈硬化が進展しており、または動脈硬化が重症であると判定し得る。同様に、血清中の小粒子低比重リポ蛋白中コレステロール定量値と低比重リポ蛋白コレステロール定量値との比率(小粒子LDL-C/LDL-C比(百分率%))が30%または35%以上のとき、動脈硬化が進展しており、または動脈硬化が重症であると判定し得、血清中の小粒子低比重リポ蛋白中コレステロール定量値と高比重リポ蛋白コレステロール定量値との比率(小粒子LDL-C/HDL-C比)が0.6、0.8、1.0または1.2以上のとき、動脈硬化が進展しており、または動脈硬化が重症であると判定し得る。
【0025】
さらに、動脈硬化の進展度または重症度は、冠動脈造影検査によるGensini scoreと相関しており、Gensini score が23.5以上の場合、動脈硬化が進展しており、または動脈硬化が重症であるとされる。小粒子低比重リポ蛋白の定量値、小粒子低比重リポ蛋白定量値と低比重リポ蛋白定量値との比率、または小粒子低比重リポ蛋白定量値と高比重リポ蛋白定量値との比率はGensini scoreと相関しており、これらの値を指標に動脈硬化の進展度または重症度を判定することができる。例えば、血清中の小粒子低比重リポ蛋白中コレステロールの定量値が約40mg/dLを超える場合、動脈硬化が進展しており、または動脈硬化が重症であると判定し得る。同様に、血清中の小粒子低比重リポ蛋白定量値と高比重リポ蛋白定量値との比率(小粒子LDL-C/HDL-C比)が0.8、0.9または1.0以上のとき、動脈硬化が進展しており、または動脈硬化が重症であると判定し得る。
【0026】
さらに、小粒子低比重リポ蛋白の定量値、小粒子低比重リポ蛋白定量値と低比重リポ蛋白定量値との比率、または小粒子低比重リポ蛋白定量値と高比重リポ蛋白定量値との比率を指標に冠動脈疾患を起こしている被験者での心筋梗塞や不安定狭心症等の心血管イベントを起こす危険性を評価・判断することが可能であり、また前記被験者の血行再建術等の治療の必要性を判断することができる。小粒子低比重リポ蛋白の定量値が冠動脈疾患に罹患していない健常人よりも増加している場合、例えば、健常人に対して値が約1.5倍、約1.75倍または約2倍以上である場合、または小粒子低比重リポ蛋白定量値と低比重リポ蛋白定量値との比率もしくは小粒子低比重リポ蛋白定量値と高比重リポ蛋白定量値との比率が冠動脈疾患に罹患していない健常人よりも増加している場合に心血管イベントを起こす危険性があると判断することができ、さらに血行再建術等の治療が必要であると判断することができる。動脈硬化が進展しているまたは動脈硬化の重症度が高いと判断することができる。例えば、血清中の小粒子低比重リポ蛋白中コレステロールの定量値が30、35または40mg/dLを超える場合、すなわち健常人の値に対して約1.5倍、約1.75倍または約2倍以上である場合、血清中の小粒子低比重リポ蛋白中コレステロール定量値と低比重リポ蛋白コレステロール定量値との比率(小粒子LDL-C/LDL-C比(百分率%))が30%または35%以上のとき、あるいは、血清中の小粒子低比重リポ蛋白中コレステロール定量値と高比重リポ蛋白コレステロール定量値との比率(小粒子LDL-C/HDL-C比)が0.6、0.8、1.0または1.2以上のとき、冠動脈疾患を起こしている被験者に心筋梗塞や不安定狭心症等の心血管イベントを起こす危険性があると判断することができ、また前記被験者に血行再建術等の治療の必要性があると判断できる。
【0027】
上記記載において、小粒子低比重リポ蛋白の定量値、小粒子低比重リポ蛋白定量値と低比重リポ蛋白定量値との比率、または小粒子低比重リポ蛋白定量値と高比重リポ蛋白定量値との比率に関する値は、一例であり、上記値には限定されない。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の詳細について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0029】
[実施例1]
冠動脈造影検査を受け冠動脈疾患と診断された入院連続患者177名を、動脈硬化性狭窄病変をきたした主要冠動脈(右冠動脈・左前下行枝・左回旋枝)の枝数から,有意狭窄のない0枝群,一枝群,二枝群,三枝群にわけ、小粒子LDL中コレステロール値、LDLコレステロール値、平均LDL粒子サイズ、小粒子LDL中コレステロールとLDLコレステロールとの比(小粒子LDL中コレステロール/LDLコレステロール)、および小粒子LDL中コレステロールとHDLコレステロールとの比(小粒子LDL中コレステロール/HDLコレステロール)の測定を行った。
【0030】
被検試料として血清を用い、平均LDL粒子サイズはグラジエントゲル電気泳動(JAMA,260,p.1917-21,1988)を用いて測定した。LDLコレステロールの測定は第1工程でLDL以外のリポ蛋白をコレステロールエステラーゼ、コレステロールオキシダーゼ、カタラーゼ酵素を用いて消去し、第2工程でコレステロールエステラーゼ、コレステロールオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ酵素を用いてLDLコレステロールを測定する方法(特開平11-318496号)を用いた。HDLコレステロールの測定は、第1工程でHDL以外のリポ蛋白をコレステロールエステラーゼ、コレステロールオキシダーゼ、カタラーゼ酵素を用いて消去し、第2工程でコレステロールエステラーゼ、コレステロールオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ酵素を用いてHDLコレステロールを測定する方法(特許3288033号)を用いた。小粒子LDLコレステロールの測定は、ポリアニオンと二価陽イオンからなる分離剤を用いてLDLを通常サイズのLDLと小粒子LDLに分離する工程と、分離後の小粒子LDL中コレステロールを測定する工程からなる方法(臨床病理,25,p.406-413,2004)を用いた。
その結果を図1に示す。
【0031】
冠動脈の病変枝数は動脈硬化の重症度、進展度を示す指標であるが、図1に示すように、ANOVA解析の結果、従来動脈硬化の危険因子として知られるLDLコレステロール値の測定では病変枝数との関連が認められず(a)、さらにより強い催動脈硬化作用を持つと言われる小粒子LDLについても、平均LDL粒子サイズでは全く関連が認められなかった(b)。しかしながら、小粒子LDL中コレステロールの定量値を求めた場合、各群において有意な差が認められた(c)。また、小粒子LDL中コレステロール/LDLコレステロール比(d)、小粒子LDL中コレステロール/HDLコレステロール比(e)を用いても重症度との関連が認められた。以上の記載は小粒子LDL測定値または小粒子LDL/LDL比または小粒子LDL/HDL比を求めることにより、動脈硬化の進展度、重症度を判断することができることを示すものである。
【0032】
[実施例2]
急性冠症候群にも糖尿病にも該当しない、すなわち糖尿病のない安定冠動脈疾患患者124名で冠動脈造影検査を行い、Gensini scoreによって点数化したものを冠動脈狭窄重症度の指標として4分割し、LDLコレステロール値、LDL粒子サイズ、小粒子LDL中コレステロール値および小粒子LDL中コレステロール/HDLコレステロール比の測定を行った。被検試料として血清を用い、LDL粒子サイズ、LDLコレステロール、HDLコレステロール、小粒子LDL中コレステロールの測定は実施例1と同様の方法を用いた。その結果を図2に示す。
【0033】
ANOVA解析で群間比較を行った結果、p<0.0083のときLDLコレステロール値(a)およびLDL粒子サイズ(b)では有意差が認められなかったが、小粒子LDL中コレステロール値ではQ1群に比べ重症群(Q3、Q4群)で明らかな差が認められた(c)。同様に、小粒子LDL中コレステロール/HDLコレステロール比(d)でも明らかな差が認められた。このことは、小粒子LDLの測定または小粒子LDL/HDL比を用いることにより動脈硬化の重症度を判断することができることを示すものである。
【0034】
[実施例3]
冠動脈疾患の入院患者301名を、異型狭心症(VAP)、安定冠動脈疾患で血行再建術の必要のない例(S-N)、安定冠動脈疾患で血行再建を要した例(Revasc)と急性冠動脈疾患(ACS)に分類し、LDLコレステロール値、LDL粒子サイズ、小粒子LDL中コレステロール値および小粒子LDL中コレステロール/HDLコレステロール比の測定を行った。被検試料として血清を用い、LDL粒子サイズ、LDLコレステロール、HDLコレステロール、小粒子LDL中コレステロールの測定は実施例1と同様の方法を用いた。その結果を図3に示す。
【0035】
ANOVA解析で群間比較を行った結果、図3に示すようにLDLコレステロール値(a)、およびLDL粒子サイズ(b)ではVAP群とRevasc群に有意差は認められなかった。一方、小粒子LDL中コレステロール値ではVAP群、S-N群とRevasc群およびACS群との間に有意差が認められた(c)。また、小粒子LDL中コレステロール/LDLコレステロール比ではVAP群、S-N群とRevasc群との間に(d)、小粒子LDL中コレステロール/HDLコレステロール比ではVAP群、S-N群とRevasc群およびACS群との間に有意差が認められた(e)。このことは、小粒子LDL測定値または小粒子LDL/LDL比または小粒子LDL/HDL比が、動脈硬化の重症度を判断するための方法、および冠動脈疾患を起こしている被験者での心筋梗塞や不安定狭心症等の心血管イベントを起こす危険性を判断し、血行再建術等の治療の必要性を判断するための方法となることを示すものである。
【0036】
[実施例4]
血清を試料とし、本発明法に基づき小粒子LDL中コレステロールおよび小粒子LDL中蛋白質の測定を行った。被検試料として血清を用い、小粒子LDL中コレステロールの測定は実施例1と同様の方法を用いた。小粒子LDL中蛋白質の測定は、ポリアニオンと二価陽イオンからなる分離剤を用いてLDLを通常サイズのLDLと小粒子LDLに分離する工程と、分離後の小粒子LDL中アポ蛋白B-100を抗ヒトアポB-100抗体を用いて測定する工程からなる方法を用いた。結果を図4に示す。図4に示すように、小粒子LDL中コレステロールと小粒子LDL中蛋白質は良好な相関性を示す。従って、本発明は小粒子LDL中蛋白質を測定することによっても実施可能である。
【0037】
[実施例5]
血清を試料とし、本発明法に基づき小粒子LDL中コレステロールおよび小粒子LDL中中性脂肪の測定を行った。被検試料として血清を用い、小粒子LDL中コレステロールの測定は実施例1と同様の方法を用いた。小粒子LDL中中性脂肪の測定は、ポリアニオンと二価陽イオンからなる分離剤を用いてLDLを通常サイズのLDLと小粒子LDLに分離する工程と、分離後の小粒子LDL中中性脂肪を測定する工程からなる方法を用いた。結果を図5に示す。図5に示すように、小粒子LDL中コレステロールと小粒子LDL中中性脂肪は良好な相関性を示す。従って、本発明は小粒子LDL中中性脂肪を測定することによっても実施可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検試料中の小粒子低比重リポ蛋白、または小粒子低比重リポ蛋白と低比重リポ蛋白との比率、または小粒子低比重リポ蛋白と高比重リポ蛋白との比率を測定することを含み、被検試料中の小粒子低比重リポ蛋白量、小粒子低比重リポ蛋白と低比重リポ蛋白との比率、または小粒子低比重リポ蛋白と高比重リポ蛋白との比率の増加が、該試料を提供した冠動脈疾患を起こしている被験者における心筋梗塞や不安定狭心症等の心血管イベントを起こす危険性の存在を示すことを特徴とする、冠動脈疾患を起こしている被験者における心筋梗塞や不安定狭心症等の心血管イベントを起こす危険性を判断する方法。
【請求項2】
前記小粒子低比重リポ蛋白の定量が小粒子低比重リポ蛋白中コレステロール、中性脂肪または蛋白質を測定することにより行われることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記小粒子低比重リポ蛋白の定量が、被検試料中の小粒子低比重リポ蛋白をそれ以外の低比重リポ蛋白と分離する第1工程と、分離した小粒子低比重リポ蛋白中のコレステロール、中性脂肪または蛋白質を測定する第2工程から成る、請求項2記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−169696(P2010−169696A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108044(P2010−108044)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【分割の表示】特願2005−42943(P2005−42943)の分割
【原出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(591125371)デンカ生研株式会社 (72)
【Fターム(参考)】