説明

匂いを伴う音声付動画の提供システム及び匂い情報データベース

【課題】人の趣向に応じて無限に開発される香料に対応し、香料の空中放出方法を選ばず、且つ取り扱いの容易な音声付動画への匂いを供給できるシステムを提供する。
【解決手段】匂い再生装置制御部19は、音声付動画メディア11から匂いの指定情報を入手すると共に、匂い情報データベースシステムから香料空中放出手段12の形式や種類を特定する香料空中放出手段識別情報と香料パック16a〜16dの識別情報を入手し、音声付動画の再生過程の時刻に応じた、各香料パック16a〜16dに対応した流量調節弁17a〜17dの開口率を制御する調合部制御情報を入手し、調合部15を制御して音声付動画メディア11の指定する匂いを再現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、匂いを伴う音声付動画の提供システム及び匂い情報データベースに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、映画などの動画に対して、その再生と同期させ場面に応じた種類の香料を気化して人に提供するシステムが販売されている。
【0003】
香料は、音声付動画の場面に応じて、複数種類の香料が予め用意され、場面に合わせて、気化して、人の鼻近近傍に供給する。
【0004】
別のシステムでは、数十種類の香料が用意される。匂いは、互いに異なった匂いを所定の比率で混合することで様々な匂いを人に感じさせる事が可能なことを利用し、音声付の動画の場面に応じて所望の匂いが得られるように、1つあるいは複数の香料を同時に発生混合して提供し、用意した香料の種類以上の匂いを人に提供する事が出来る(例えば、非特許文献1参照。)。
【0005】
どの香料とどの香料を混合すると何の香りになるのかについて、定式化されたものはなく、専ら経験的に模索される事が多い。また、ニューラルネットワークに代表される解析手法を用いて決める手法も存在する。香料は基本的な香料と香料を混ぜ合わせて新しいものを製作する方法がとられ、その混合比率などは知られると容易に同じ香料を複製できる為に、混合比率など秘密扱いする事が多い。
【0006】
匂いに原臭があるかどうかは未だ研究対象の内容である。また香料については、一般にその成分は非公開である。また、天然物から生成した香料も多く、科学的にその成分を特定する事が困難である。つまり、匂いの定義は非常に難しいとされている。
【0007】
嗅覚について、その感じ方や好みは個人によって大きく異なることが、匂いのメディアの産業化を難しくしている。ある人にとって好ましい香りが全ての人にとって好ましい香りとは言えないからである。
【0008】
多種類の香料は、匂い再生装置用に瓶などの容器に入れて販売され、使用者はそれを追加してそれまで発生する事が出来なかった匂いを発生させる事が可能になる。
【0009】
香料の空中への放出する方法は、香料を加熱して蒸気にする方法、瓶に入れられた香料の液面に存在する香料蒸気を取り出す方法、あるいは、香料をインクジェット方法にもとづいて微粒子化し、空中に放出気化する方法がある。
【0010】
また、特許文献1及び非特許文献1には、インターネットを介して、香料の配合情報や嗜好についてのデータベースを備えた匂い発生装置やそのための情報提供システムについて記載されている。しかし、多数の人々が、夫々の嗜好に対応して様々な物性の香料を設計して使用するとともに、様々な場面と原理で香料の人への作用をさせるために必要な、夫々の香料の空中に放出する器具が変わると、正しい濃度で人に作用させることが出来なくなる問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010−257126号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】月刊ディスプレイ 2010年9月号 Vo;16,No.9、pp.72−79(ISSN 1341−3961)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
画像は一般に、3種類の色覚細胞を介して人に認識されることから、その表示装置や情報伝達も3原色を用いて可能である。また聴覚は空中を伝わる音圧の時間的変化であり、その情報伝達や再生方法は容易である。しかし、嗅覚は、一般に原臭と言われる臭いがないか、あるいは数百の種類があるといわれている。
【0014】
このため、様々な匂いを発生するためには、様々な香料を準備して提供する必要があるが、実際のところ、1つの映画が必要とする匂いの種類は20種類以下であり、常時数百の香料を準備する事は無駄が多い。非常に多数の香料を用意しなくては、万能の匂い再生装置として機能させる事が出来ない一方で、香料をその数にあわせて準備することも困難になっている。
【0015】
また、匂いの趣向には個人差があり、それを使用する人が任意に香りを選べることが重要に成っている。さらに、様々な好みに対して、業者が香料を調合して開発して流通させる事は実際上困難であり、匂い再生装置普及の障害となっていた。
【0016】
同時に、香料の空中への放出装置は様々なものが考案されている。その種類によって、各香料を放出する効率や条件が変わることから、臭い情報をDVDなどのメディアに記録して販売するに、特定の香料の空中放出装置にしか対応しない情報提供方法ではその普及がおぼつかない。
【0017】
つまり、人の趣向に応じて無限に開発される香料に対応し、香料の空中放出方法を選ばず、且つ、取り扱いの容易な音声付動画への匂いを供給可能なシステムを提供する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
請求項1に係る発明は、音声付動画の再生と同期して複数種類の匂いを提供する匂い提供システムであって、
音声付動画の進行時刻に対応して定義される匂い情報付動画メディアは、動画の進行と共に変化する匂いに関しての情報を提供する匂い指定情報と、その被提供者への提供濃度を指定する情報を少なくとも含み、
複数種類の香料パックが設置・交換可能な匂い再生装置を有し、
上記交換可能な香料パックは、その内部に含む液体の香料の種類を識別する香料パック識別情報が付随しており、上記香料パックから提供された香料を空中に放出気化して提供する複数種類に交換可能な香料空中放出手段を有し、
匂い再生装置は、上記香料空中放出手段の種類を特定する識別情報と、音声付動画に対応して付加された匂い指定情報に対応して匂いの放出に用いる香料パックを、公共通信手段を介して送信される上記香料パック識別情報を元に得た当該香料パックの特性情報を用いて決定するとともに、
上記香料空中放出手段から放出される香料の量は、上記提供濃度を指定する情報、香料空中放出手段の種類、上記香料パック特性情報を用いて制御されることを特徴とする匂いを伴う音声付動画の提供システムである。
【0019】
請求項2に係る発明は、音声付動画の再生と同期して複数種類の匂いを提供する匂い提供システムであって、
音声付動画の進行時刻に対応して定義される匂い情報付動画メディアは、動画の進行と共に変化する匂いに関しての情報を提供する匂い指定情報と、その被提供者への提供濃度を指定する情報を含み、
複数種類の香料パックをそれに設置・交換可能な、匂い再生装置を有し、
上記交換可能な香料パックは、その内部に含む液体の香料の種類を識別する香料パック識別情報が付けられており、
上記香料パックから提供された香料を、空中に放出気化して提供する複数種類に交換可能な香料空中放出手段を有し、
匂い再生装置は、上記香料空中放出手段の種類を特定する識別情報と、音声付動画に対応して付加された匂い指定情報に対応して匂いの放出に用いる香料パックを、公共通信手段を介して送信される上記香料パック識別情報を元に得た当該香料パック特性情報を用いて決定するとともに、
上記音声付動画に対応して付加された匂い指定情報により指定される香料パックが、匂い再生装置に設置されていない場合には、設置されている香料パックのうちの単独あるいは複数の香料パックを選定して、上記香料パックから提供された香料を、空中に放出して提供する香料空中放出手段を有し、
上記香料パックを選定する情報は、上記匂い指定情報及び設置されている香料パックの識別情報が公共通信網を介して送信されて、設置されていない香料パックの香料が提供される時刻に設置されている香料パックの1つあるいは複数の香料パックからの香料を提供する際の、設置されている香料パックからの香料混合率が上記公共通信網を介して返信される情報に含まれることを特徴とするとともに、
上記香料パックから提供された香料を、空中に放出して提供する香料空中放出手段を有し、上記香料空中放出手段から放出される香料の量は、上記提供濃度を指定する情報、香料空中放出手段の種類、上記香料パックの識別情報を少なくとも用いて制御されることを特徴とする匂いを伴う音声付動画の提供システムである。
【0020】
請求項3に係る発明は、上記音声付動画はその音声付動画の継続時間において1つの所定の事象を指す特定事象に対して複数の匂い指定情報を有しており、
上記音声付動画が特定事象に対応する匂い指定情報を提供する際に、複数の匂い指定情報の中から1以上の匂い指定情報を操作者が選択可能とすること特徴とする請求項1または2に記載の匂いを伴う音声付動画の提供システムである。
【0021】
請求項4に係る発明は、上記請求項1乃至請求項3の何れかに記載の匂いを伴う音声付動画の提供システムにおいて、
公共通信手段を介した上記匂い指定情報及び設置されている香料パックの識別情報の送信先である匂い情報データベースシステムは、
予め香料パックの仕様情報提供者から受け取り、上記香料パックの仕様に対して識別情報を付与し、公共通信手段を介して、上記匂い指定情報に対応して上記香料パックの仕様情報を公開するものであって、
上記公共通信手段を介して上記匂い指定情報及び設置されている香料パックの識別情報の送信を受けた場合に、少なくともそれに対応する上記香料パックの仕様情報を返信することを特徴とする匂い情報データベースシステムである。
【0022】
請求項5に係る発明は、上記請求項4に記載の匂い情報データベースにおいて、
香料パックの仕様情報提供者から香料パックの含む香料の調合情報を受け取り、上記受け取った香料の調合情報をもとに、他の香料パックの代替香料パック、あるいはその一部として使用する場合の他の香料パックからの香料との調合比率の情報を提供するものであって、且つ香料パックの仕様情報提供者から受け取った香料の調合情報は、秘密情報とすることを特徴とする匂い情報データベースシステムである。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、一般不特定の調香者が、匂い再生用に調合したもの(香料パック)の選定に際し、公共通信手段を介してその情報を使用者に提供することで自由にしながら、匂い情報付動画メディアが意図した匂いを被体験者に提供可能にする。
【0024】
また、匂い情報付動画メディアの指定する匂いを提供できる香料が視聴者側で保有していない場合に、公共通信手段を介して、その代替香料を提案できることで、より柔軟に匂い情報付動画メディアを再生可能にする。
【0025】
製品情報を集積して解析する公共通信手段で接続されたデータシステムに対して、香料情報と、香料気化装置(香料空中放出装置)の情報を送り、適切な濃度で人に提供する為のパラメーターを入手する事が出来る。
【0026】
また、匂い情報付動画メディアが、ある匂いを特定の事象に関連付けられており、当該特定の事象に関連付けられている匂いを視聴者が変更可能にすることにより、個人の趣向に合わせた、匂いを伴う音声付動画の提供システムを提供できる。
【0027】
また、香料パックの校正用を秘密にして保ちながら、他の香料パックとの代替を可能にすることで、様々な香料パックが提案されてその情報が集められ、多様な匂い付き動画メディアへの匂い付加を可能にする香料パック群を提供する事が可能になる。
【0028】
尚、香料空中放出手段について、その種類についての情報は、型式の情報でも良いし、例えば、使用する香料の識別情報から、使用する(対応可能な)香料気化放出手段を特定できる識別情報であれば、香料の識別情報が、香料空中放出手段の種類を示す情報として代用可能であり、本発明はその場合でも、香料空中放出手段の種類に関する情報をデータシステムに送信することができる。
【0029】
尚、本発明において、匂い指定情報とは、匂いを指定する場合に予め決められ公開された香料の名称、あるいは香料を入れた香料パックを指定することで代えることも排除しない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の基本的な構成要素を説明した図である。
【図2】匂い再生部において、調合部の制御情報を解析する際の情報の流れを説明する図である。
【図3】匂い再生部において、適合する香料パックの有無を判断するアルゴリズムを説明する図である。
【図4】本発明の全体の情報の受渡しを説明する図である。
【図5】匂いメディアにおいて、特定の事象に対して関連付けられた香料パックからの香料の放出データの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
[第1実施形態]
図1を用いて、本発明の実施の形態を説明する。本発明は、現在、DVDやインターネットなどの公共通信回線を介して、音声付動画を再生されているが、このような音声付動画の各場面あるいは各事象に予め規定された匂いを、予め規定された時刻(音声付動画の進行時刻)に提供し、匂いによる臨場感や演出を可能にするシステムである。
【0032】
図1に図示しないが、音声付動画メディアの音声と画像を再生表示するための、パーソナルコンピューター(PC)を備えている。
【0033】
匂いを伴う音声付動画メディア11は例えば映画用DVDであり、映画コンテンツに対応して、どの場面でどのような匂いを再生するのかについての情報である「匂い指定情報」を備えている。「匂い指定情報」は、上記DVDに予め記録されていてもよいし、別途インターネットを介してPCに入手記憶されていてもよい。
【0034】
また、匂いについての記録方法は、どのような匂いかについて直接匂いの指定を行う方法で記載されていてもよいし、あるいは、特定の香料の入った香料パックを指定することで、結果的に匂いを指定していても良い(匂い指定情報)。
【0035】
(匂いの強度)
上記の匂いあるいは香料の指定情報は、再生する際の匂いの強度について指定している。記録される匂いの強度は、互いに異なる場面で放出される互いに異なる香料の相対的なその濃度の比率が、香料の放出手段の変更によっても変わらない必要がある。
【0036】
香料空中放出手段12の種類や原理が変更されても影響されない事が必要であって、例えば、人の鼻13の位置における気中の濃度である。本発明は、音声付動画メディア11については、人への作用量である濃度で記載することで、メディアへの匂い情報提供形態の標準化を行う事に特徴がある。つまり、メディアには、香料空中放出手段12についての情報は含まれることを要請していない。
【0037】
(メディアへの人の作用記載)
香料空中放出手段識別情報入力装置14は、操作者が、香料空中放出手段12の識別情報をPCなどから、あるいは調合部15のボタン操作によって入力してもよい。
【0038】
(情報取得の自動化)
香料空中放出手段12が異なれば、香料パックの香料によって異なる放出のされ方をして、予測できない香料濃度を視聴者に提供してしまう。実際に動作する際に、例えば、香料空中放出手段12を調合部15に接続した場合に自動的に得られる例えば電気的な信号情報を確実に得る方式が望ましいのは当然である。また図1において、気化部18と香料空中放出手段12は別個に構成されているが、気化部18香料空中放出手段12は一体としてもよい。また、香料パックにRF−IDタグが付属しており、非接触に識別情報が取得されることが望ましい。
【0039】
(香料パックの結合)
複数の香料パックをセット可能な調合部15は、ここでは4種類の香料パック16a〜16dを持っている。一つの香料パックは複数種類の香料を有して夫々が独立した香料パックとして働いていてもよく、その場合は複数の香料パックを有しているとして説明する。
【0040】
各香料パック16a〜16dからの香料は流量調節弁17a〜17dを介して気化部18に送られ、気化されて香料空中放出手段12に送られる。
【0041】
匂い再生装置制御部19は、音声付動画メディア11から入手した匂いに対して、公共通信手段21を介して匂い情報データベースシステムにアクセスし、どの香料パックから、どのタイミングで、どの程度の香料を気化して提供すればよいのか等の制御情報を入手する。匂い情報データベースシステムは、香料パック識別情報データベース22a、及び香料空中放出手段識別情報データベース22bを備えている。気化部18で気化させる香料の量は流量調節弁17a〜17dの制御で調整する。香料パック16a〜16dの識別は、例えば香料パックに付随する電子的に自動で調合部15に伝えられる方法で行われる。
【0042】
この実施の形態では、流量調節弁17a〜17dは液体である香料の流量を調節する弁として説明をしているが、香料バック16a〜16dから香料が出る際に既に気化されている場合には、気化部18は不要であり、香料パック16a〜16dから供給される香料を含んだ空気流量の絶対量を制御するようにしても良い。
【0043】
本実施の形態の説明では、気化部18は加熱と外気取り込み機構(図示せず)によって構成されている。一時的に加熱するが、外気によって希釈することで香料空中放出手段12までの流路で香料が飽和蒸気圧の低下によって凝固する事を回避する。
【0044】
気化部18を香り放出口20で行う事も本発明は排除しない。この場合には、超音波流動作用を利用した弾性表面波素子利用の液滴化による放出機構が望ましい。加熱する機構を用いると、香料の中にはアルコールを含むものが多く、発火した際にやけどする可能性がある。
【0045】
同時に、香料の種類の多さだけでなく、動画メディアや匂いつき音声付動画メディア再生の環境は、映画館などの公共の場から、個人住宅内、あるいは個室でのヘッドセットを使った使用まで、様々な形態が想定される。つまり、香料の再生する環境の違いに依存した香料空中放出装置を流通させ適用できる環境を実現できる。
【0046】
香料空中放出装置は、香料が液体の場合にその沸点の違いや、あるいは香料液面近傍の蒸気を放出に直接使用する場合で、夫々の香料の人に作用する際の濃度が変わる。また、人の鼻の至近距離から香料を放出する場合と、一般に空気砲と呼ばれる方式で人に気化した香料を作用させる場合で気化装置の動作を変更しなくてはならない。
【0047】
つまり、香料は夫々異なる物性上の違いを持っており、さらに香料空中放出装置の種類に従って人に作用する際の濃度が変わる。よって、再生する場合に、香料と再生装置(香料を空中に放出する装置)の情報の両方の関係が既知である事が必要である。また、ある匂いを再現する際の最適性についても、完全である場合は少なく、適合性の程度についてシステムの使用者に示す事が望まれる。
【0048】
具体的に香料空中放出装置の情報が用いられるケースとしては、香料を加熱気化して人に提供する場合に、沸点の低い香料の気化する際の加熱量を相対的に小さくする必要があるケースが挙げられる。また、インクジェット方式によって香料を気化する場合には香料の粘度等の物性値に従った動作パラメーターが必要であり、場合によっては使用できないことを伝える必要があるケースが挙げられる。
【0049】
よって、公共通信手段21を介して、匂い情報データベースシステムからは、入手した香料パック16a〜16dの情報、使用する香料空中放出手段12の各香料パック16a〜16dに対応した動作制御情報から、上記の流量調節弁17a〜17dの動作量や香料パック16a〜16dから送られる香料を含んだガスの量を制御するパラメーターが決定されて調合部15は動作する。
【0050】
情報の流れについて図2に整理する。匂い情報データベースシステムと接続して情報を送受する公共通信手段21は典型的にはインターネットである。調合部15(あるいは匂い再生装置制御部19)は、メディアの指定する匂いを再現する為に、その匂いの指定情報に加え、香料空中放出手段12の形式や種類を特定する香料空中放出手段識別情報と香料パックの識別情報を入手して、調合部15を制御するための調合部制御情報を入手する。
【0051】
調合部制御情報とは、図1に示す装置の場合には、音声付動画の再生過程の時刻に応じた、各香料パックに対応した流量調節弁17a〜17dの開口率のデータ配列である。
【0052】
<香料パックが存在しない場合>
図1を引き続き用いて、音声付動画メディア11に対応した、匂い指定情報によって、直接関連付けられる香料パックを調合部15が保持していない場合についての、本システムの動作を説明する。
【0053】
匂い指定情報に対応する香料パック16a〜16dが、その識別情報ID1からID4の何れでもない事が、公共通信手段21を介した匂い情報データベースシステムへの情報送信で明らかになった場合、匂い情報データベースシステムは、使用できる香料パック16a〜16dを使用して再生できる近似的な匂いについて、その再現のレベルを、公共通信手段21を介して提示し、音声付動画メディア11の匂い付き再生を、近似的な匂いを用いて行うことが有効である。
【0054】
互いに異なる匂いについて、多次元空間で表現し、その互いの距離を匂いの類似性として表現する方法が、QCMなどの匂いセンサの研究でなされている事が公知である。2つの匂いを例えば8種類のセンサで計測して、8種類のセンサの応答を8次元区間で表示してその匂いの8次元空間における距離を匂いの類似性として表示する方法である。
【0055】
(候補提案多次元パラメーター)
このように、匂い情報データベースシステムにおいて、香料パック識別情報データベース22aに、各香料パックの再生する匂いについて、多次元空間での位置をデータとして記録しておき、必要な香料パックについての多次元空間中における距離を数値として出すことが可能になる。
【0056】
(特定事象)
匂い指定情報には、音声付動画に登場する人物や事象それぞれについて、匂いあるいは香料が対応されていることが望ましい。特定事象、特に人格のあるものについて人の趣向が大きく異なることから、意図的に選定して変更することが実際上必要になる。
【0057】
匂い情報データベースシステムにおいては、特定事象に対して、操作者が選定する対象を提示する機能を持つ事が好ましい。不特定の香料設計者による、特定事象についての匂いの種類を多数提示することで匂いの選択をより多様にする事が可能になる。
【0058】
図5(a)〜(d)に、香料パック16a〜16dについての、各香料の人に作用する位置における濃度について、その時刻を横軸とした濃度変化を示すチャートを示す。ここでは、匂い指定情報は香料パックの識別情報そのもので表している。
【0059】
匂い指定情報は、上記の用に具体的な香料パック16a〜16dの識別番号によって記録されるかわりに、様々な匂いについて、名称を定義し、それを動画メディアに記録しても良い。
【0060】
(特定事象)
物語性のある音声付動画につけられる匂い指定情報について、さらに図3及び図4を用いて説明を行う。簡単の為に香料パック16a〜16dを用いる。香料パック16aは主人公(特定事象のひとつ)の登場する場面の一部に香りを供給する香料パックである。香料パック16bは、主人公に準ずるもの(特定事象のひとつ)、香料パック16cは例えば火災の現場の匂いを示すためのものである。香料パック16dは森林を示す匂いに対して動作させる香料パックである。
【0061】
本発明においては、動画メディアには登場する人物や現象などの特定事象に対応して、その対応する匂いが明示的に記録される形式もあり、また、匂い指定情報の無い音声付動画情報を解析して、その再生に先立ち特定事象に対応して匂い指定情報を提供することでもよい。
【0062】
本発明では、上記のように、特定事象に対して使用する香料が対応している場合に、特定事象に対応した匂いを発生する際に香料を供給する香料パックを、操作者が変更可能になる。匂いは、人によって趣向が大きく異なり、匂いの強さやその種類を予め設定することが望まれる。
【0063】
物語性のある音声付の動画に対して匂いを再生する場合、それを視聴するものの性別や、感情移入すべき主人公を選択可能である。一般に、匂いは、自分自身の匂いを感ずる事が出来ないために、物語性のある音声付動画を再生する場合に、どの人格に感情移入するかによって、放出すべき香料が変える事が求められる。
【0064】
このように音声付動画は1つの所定の事象を指すイメージ情報である特定事象に対して複数の匂い指定情報を有しており、操作者が性別や趣向に応じて複数の匂い指定情報の中から1または複数の匂い指定情報を選択し放出される香料を変更可能とすることが望ましい。
【0065】
性別によっても好む香料が大きく変わる事から、望まれる香料パックの種類や、動画メディアに対して使用する香料パックの候補や配合を複数提案する事が望ましい。特に、公共通信手段を介した香料パック提案手段への送信情報に、性別あるいは、感情移入すべき登場人物についての情報を同時に送信するとともに、匂い情報データベースシステムはそれを用いて、香料パックの提案や選定を行う事が望まれる。
【0066】
(不足時対応)
匂いは、互いに異なる香りの香料を組み合わせて全く異なる匂いを作る事が可能な事が知られている。本発明は、公共通信手段21を介して集められた香料のデータベースをもとに、音声付動画メディア11の求める匂いを再現する調合比率を提供すればよい。その際のフローチャートを図3に示す。
【0067】
匂い再生装置制御部19は、先ず、音声付動画メディア11から匂いあるいは香料指定情報を入手すると共に、公共通信手段21を介して匂い情報データベースシステムから設置香料パック識別情報及び空中線放出手段識別情報を入手する(ステップA1)。
【0068】
次いで、上記入手情報に基づいて、匂い再生に必要な香料パックがあるかどうかを判断し(ステップA2)、匂い再生に必要な香料パックがあれば匂い再生を開始する(ステップA3)。上記ステップA2で匂い再生に必要な香料パックが無いと判断された場合には、設置してある他の香料パックで指定された匂いを出せるかどうかを判断し(ステップA4)、他の香料パックで指定された匂いを出せる場合には、公共通信網を利用して、適合の程度を算出して提示する(ステップA5)。更に、この提示に基づいて、設置してある他の香料パックで再生できるかどうかの判断を行い、再生できる場合にはステップA3に進んで匂い再生を開始する。上記ステップA4で、設置してある他の香料パックでは指定された匂いを出せないと判断された場合、あるいはステップA6で、設置してある他の香料パックでは再生できないと判断された場合には、不足香料パック情報を表示する(ステップA7)。
【0069】
(本システムに於ける情報の流れ)
本発明に於ける、各機構間の情報の流れを図4に示す。
【0070】
香料は非常に多くの化学物質の合成物であって、化学的な分析を行っても正確にその特性を把握する事が困難である。また、匂いの記録や表現についても人によって受け取り方が異なる事が、他の視聴覚メディアと大きく異なる点である。
【0071】
よって、本発明では、公共通信手段、特にインターネット上に、不特定の参加者による、香料パック情報の登録が可能な環境を提供することで、様々な香料パックを流通させ適用できるシステムを提供する。
【0072】
同時に、香料の種類の多さだけでなく、動画メディアや匂いつき音声付動画メディア再生の環境は、映画館などの公共の場から、個人住宅内、あるいは個室でのヘッドセットを使った使用まで、様々な形態が想定される。つまり、香料の再生する環境の違いに依存した香料空中放出装置を流通させ適用できる環境を実現できる。
【0073】
香料空中放出装置は、香料が液体の場合にその沸点の違いや、あるいは香料液面近傍の蒸気を放出に直接使用する場合で、夫々の香料の人に作用する際の濃度が変わる。また、人の鼻の至近距離から香料を放出する場合と、一般に空気砲と呼ばれる方式で人に気化した香料を作用させる場合で気化装置の動作を変更しなくてはならない。
【0074】
つまり、香料は夫々異なる物性上の違いを持っており、さらに香料空中放出装置の種類に従って人に作用する際の濃度が変わる。よって、再生する場合に、香料と再生装置(香料を空中に放出する装置)の情報の両方の関係が既知で有る事が必要である。また、ある匂いを再現する際の最適性についても、完全である場合は少なく、適合性の程度についてシステムの使用者に示す事が望まれる。
【符号の説明】
【0075】
11…音声付動画メディア、12…香料空中放出手段、13…鼻、14…香料空中放出手段識別情報入力装置、15…調合部、16a〜16d…香料パック、17a〜17d…流量調節弁、18…気化部、19…匂い再生装置制御部、20…香り放出口、21…公共通信手段、22…情報データベースシステム、22a…香料パック識別情報データベース、22b…香料空中放出手段識別情報データベース。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音声付動画の再生と同期して複数種類の匂いを提供する匂い提供システムであって、
音声付動画の進行時刻に対応して定義される匂い情報付動画メディアは、動画の進行と共に変化する匂いに関しての情報を提供する匂い指定情報と、その被提供者への提供濃度を指定する情報を少なくとも含み、
複数種類の香料パックが設置・交換可能な匂い再生装置を有し、
上記交換可能な香料パックは、その内部に含む液体の香料の種類を識別する香料パック識別情報が付随しており、上記香料パックから提供された香料を空中に放出気化して提供する複数種類に交換可能な香料空中放出手段を有し、
匂い再生装置は、上記香料空中放出手段の種類を特定する識別情報と、音声付動画に対応して付加された匂い指定情報に対応して匂いの放出に用いる香料パックを、公共通信手段を介して送信される上記香料パック識別情報を元に得た当該香料パックの特性情報を用いて決定するとともに、
上記香料空中放出手段から放出される香料の量は、上記提供濃度を指定する情報、香料空中放出手段の種類、上記香料パック特性情報を用いて制御されることを特徴とする匂いを伴う音声付動画の提供システム。
【請求項2】
音声付動画の再生と同期して複数種類の匂いを提供する匂い提供システムであって、
音声付動画の進行時刻に対応して定義される匂い情報付動画メディアは、動画の進行と共に変化する匂いに関しての情報を提供する匂い指定情報と、その被提供者への提供濃度を指定する情報を含み、
複数種類の香料パックをそれに設置・交換可能な、匂い再生装置を有し、
上記交換可能な香料パックは、その内部に含む液体の香料の種類を識別する香料パック識別情報が付けられており、
上記香料パックから提供された香料を、空中に放出気化して提供する複数種類に交換可能な香料空中放出手段を有し、
匂い再生装置は、上記香料空中放出手段の種類を特定する識別情報と、音声付動画に対応して付加された匂い指定情報に対応して匂いの放出に用いる香料パックを、公共通信手段を介して送信される上記香料パック識別情報を元に得た当該香料パック特性情報を用いて決定するとともに、
上記音声付動画に対応して付加された匂い指定情報により指定される香料パックが、匂い再生装置に設置されていない場合には、設置されている香料パックのうちの単独あるいは複数の香料パックを選定して、上記香料パックから提供された香料を、空中に放出して提供する香料空中放出手段を有し、
上記香料パックを選定する情報は、上記匂い指定情報及び設置されている香料パックの識別情報が公共通信網を介して送信されて、設置されていない香料パックの香料が提供される時刻に設置されている香料パックの1つあるいは複数の香料パックからの香料を提供する際の、設置されている香料パックからの香料混合率が上記公共通信網を介して返信される情報に含まれることを特徴とするとともに、
上記香料パックから提供された香料を、空中に放出して提供する香料空中放出手段を有し、上記香料空中放出手段から放出される香料の量は、上記提供濃度を指定する情報、香料空中放出手段の種類、上記香料パックの識別情報を少なくとも用いて制御されることを特徴とする匂いを伴う音声付動画の提供システム。
【請求項3】
上記音声付動画はその音声付動画の継続時間において1つの所定の事象を指す特定事象に対して複数の匂い指定情報を有しており、
上記音声付動画が特定事象に対応する匂い指定情報を提供する際に、複数の匂い指定情報の中から1以上の匂い指定情報を操作者が選択可能とすること特徴とする請求項1または2に記載の匂いを伴う音声付動画の提供システムである。
【請求項4】
上記請求項1乃至請求項3の何れかに記載の匂いを伴う音声付動画の提供システムにおいて、
公共通信手段を介した上記匂い指定情報及び設置されている香料パックの識別情報の送信先である匂い情報データベースシステムは、
予め香料パックの仕様情報提供者から受け取り、上記香料パックの仕様に対して識別情報を付与し、公共通信手段を介して、上記匂い指定情報に対応して上記香料パックの仕様情報を公開するものであって、
上記公共通信手段を介して上記匂い指定情報及び設置されている香料パックの識別情報の送信を受けた場合に、少なくともそれに対応する上記香料パックの仕様情報を返信することを特徴とする匂い情報データベースシステム。
【請求項5】
上記請求項4に記載の匂い情報データベースにおいて、
香料パックの仕様情報提供者から香料パックの含む香料の調合情報を受け取り、上記受け取った香料の調合情報をもとに、他の香料パックの代替香料パック、あるいはその一部として使用する場合の他の香料パックからの香料との調合比率の情報を提供するものであって、且つ香料パックの仕様情報提供者から受け取った香料の調合情報は、秘密情報とすることを特徴とする匂い情報データベースシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−198694(P2012−198694A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61643(P2011−61643)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】