説明

匂いコーディングシステム及び方法、匂い合成システム、並びに、プログラム

【課題】より少ない要素臭によってより多く(任意)の種類のターゲット臭をコード化し、そのコードに基づいて要素臭を組み合わせて匂いの合成を可能にする。
【解決手段】本発明の匂いコーディングシステムでは、複数の匂い物質の分子構造情報に対応して分子情報パラメータ(図8参照)を格納する分子情報データベース及び複数の要素臭物質について多変量解析結果(PC1及びPC2)を格納する要素臭データベースが設けられ、ターゲット臭物質の分子情報に基づいて、分子情報データベースから対応する分子情報パラメータを取得する。また、分子情報検索部によって得られた分子情報を用いて、ターゲット臭物質の多変量解析を実行し、多変量解析結果を取得する。そして、ターゲット臭物質の多変量解析結果(PC1値及びPC2値)に基づいて、要素臭データベースからターゲット臭物質を合成するための要素臭物質に関する情報を取得する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、匂いコーディングシステム及び方法、匂い合成システム、並びに、プログラムに関し、例えば、ターゲット臭を発する物質(以下、「ターゲット臭物質」という。)を限られた数の要素臭物質で表現してコード化する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
匂いを分子の部分構造により定量的に評価し、匂い情報をコーディングする試みは、匂い受容の分子生物学的な知見からも十分にその有効性が期待される。匂いを部分構造の組合せ、すなわち匂いコードにより記述できる事の証明は、匂いコード情報を用いて匂いを合成することで実施可能である。そして、匂い物質の部分構造で記述された匂いコードによる匂いの合成が可能となれば、匂いコードを匂いの基本情報として用いることが可能となる。これは匂い情報通信において非常に大きな意義があり、匂いの質の定量的な記述が可能になることを意味している。このように匂いコードによる匂いの検出、再生のための基礎技術を開発する事で匂いの情報通信は大きな進歩を期待できる。
【0003】
このような匂いコードによる匂いの記録再生システムの例として、特許文献1に開示されたものがある。具体的には、特許文献1による匂いの記録再生システムでは、まず、記録の対象となる匂い(対象臭)を特性の異なる複数のガスセンサを有するセンサアレイに導入してセンサ応答パターンを測定し、その応答パターンを補正して、その補正パターンをレシピとして記録する。そして、再生側では、レシピに基づいて、複数用意した匂いの要素となる成分臭(要素臭)を混ぜ合わせて匂いを発生させて、その匂い(調合臭)を再生する。
【0004】
【特許文献1】特開2005−249634号公報
【特許文献2】特開2007−093559号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のシステムでは、再生側において対象臭を再現するための要素臭を予め準備しておく必要があり、任意の匂いを合成することはできない。つまり、ターゲットである対象臭毎に個別に要素臭を用意する必要がある。これでは、10000種類以上存在すると言われている匂いを合成することは事実上不可能である。
【0006】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、より少ない要素臭によってより多く(任意)の種類のターゲット臭をコード化し、そのコードに基づいて要素臭を組み合わせて匂いの合成を可能にするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明による匂いコーディングシステムは、ターゲット臭物質の合成レシピを作成してコーディングする匂いコーディングシステムであって、複数の匂い物質の分子構造情報に対応して分子情報パラメータを格納する分子情報データベースと、複数の要素臭物質について多変量解析結果を格納する要素臭データベースと、ターゲット臭物質の分子情報に基づいて、分子情報データベースから対応する分子情報パラメータを取得する分子情報検索部と、分子情報検索部によって得られた分子情報を用いて、ターゲット臭物質の多変量解析を実行し、多変量解析結果を取得する多変量解析部と、ターゲット臭物質の多変量解析結果に基づいて、要素臭データベースからターゲット臭物質を合成するための要素臭物質に関する情報を取得する要素臭決定部と、要素臭物質に関する情報をコード化して出力する匂いコード出力部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明による匂いコーディングシステムは、さらに、コード化された要素臭物質に関する情報を、ネットワークを介して設置された匂い合成システムに送信する通信部や、要素臭決定部で得られた要素臭物質の混合比を演算する混合比演算部を備えている。そして、匂いコード出力部は、この混合比に関する情報をさらにコード化して出力する。
【0009】
また、多変量解析部は、N個の情報からなるターゲット臭物質の分子情報を圧縮してk個の評価値(N>k)を生成し、この演算結果を多変量解析結果とする。より具体的には、ターゲット臭物質の分子情報を用いて、分子サイズに相関を有する第1の評価値と、ターゲット臭物質の電荷分布に相関を有する第2の評価値を演算して、これらを多変量解析結果とするようにしている。
【0010】
なお、要素臭データベースは、複数の要素臭物質の分子情報を圧縮して得られた評価値を各要素臭物質に対応させて格納している。より具体的には、要素臭データベースは、複数の要素臭物質の分子情報を用いて、分子サイズに相関を有する第1の評価値と、電荷分布に相関を有する第2の評価値を演算し、これらの値を、第1及び第2の評価値をそれぞれ構成軸とする2次元平面に配置してなる情報である。
【0011】
さらなる本発明の特徴は、以下本発明を実施するための最良の形態および添付図面によって明らかになるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、より少ない要素臭によってより多く(任意)の種類のターゲット臭をコード化し、そのコードに基づいて要素臭を組み合わせて匂いの合成が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。ただし、本実施形態は本発明を実現するための一例に過ぎず、本発明を限定するものではないことに注意すべきである。また、各図において共通の構成については同一の参照番号が付されている。
【0014】
<本発明の原理>
感覚の定量には、明確な感覚内容の違いを反映した数値情報が必要となる。例えば視覚では、色の三原色を光の波長という物理量によって数値化し、表現している。また聴覚でも、音階を周波数という物理量によって数値化することで表現できる。一方、嗅覚では、Amooreが、同一系統の匂いを持つ分子間に共通する最も重要な要素は分子の形であるという、立体化学説を唱え、その結果、5種の受容体の形状と電荷の正と負の関係から原臭を7 種に定めた。
【0015】
しかし、分子の形が違うのに同様の匂いを発するものがあり、さらに7種の受容サイトで識別できる匂いの数は2の7乗=128種であり、到底10000種以上あるといわれている匂い分子を識別できないという矛盾を抱えている。よって、嗅覚では、明確な基準となる匂いを定めることができないので、匂い情報の数値化は困難であるといえる。
【0016】
そこで、我々は、人間が実際どのようにして感覚を認識しているかに着目した。まず、視覚では赤オプシン、青オプシン、緑オプシンという受容体が存在し、それぞれが受け持つ光の波長に反応し、それを脳で統合することによって色を認識している。このため、嗅覚においても生体系での匂いの認識を基に、匂いの認識に必要な数値情報の検討を行うことにした。生体系における匂い受容体は、2004年度ノーベル医学・生理学賞を受賞したBuckとAxelにより、7回膜貫通型タンパク質であることが発見された。ゲノム解析の結果、匂い結合部位と考えられる部分のアミノ酸配列の違いから、約350種類の異なる匂い受容体が存在することがわかった。つまり、図1に示されるように、所定の物質に対して、特定の匂い受容体が活性化されて、匂いを感じるということになるのである。
【0017】
また、匂い受容体には、ある官能基に対し特異的に応答するものもあれば、官能基には関係なくサイズに対して応答するものもある。このように匂い受容体は、ある特定の匂い分子を受容するのではなく、匂い分子の持つある共通の分子情報を認識し、複数の匂い分子を受容しているといえる。このことによって、10000種類以上存在するといわれている匂い分子を少ない受容体で認識することができるのである。匂い受容体に匂い分子が結合すると、受容体は活性化され、電気信号を発生させ脳に伝達する。この電気信号の組み合わせによって、我々は匂いを認識している。受容により活性化された匂い受容体の組み合わせを匂いコードと呼び、この匂いコードによって匂いを表現することができるといえる。
【0018】
例えば、図2に示されるように、ターゲット臭物質(匂いコードで表現すべき物質)が、匂い受容体a、c、d及びfを刺激する場合、コード化のために、同じく受容体a、c、d及びfを刺激する物質を要素臭物質とすればよい。このとき、複数の物質間で同じ受容体を重複して刺激しても良い(例えば、図2における受容体c)。このように、ターゲット物質と要素臭物質1及び2とが全く異なるものであっても、それらが同じ匂い受容体を刺激するものであるので、人間は、ターゲット臭と物質1及び2の混合臭とを同様な匂いとして認識することになるのである。
【0019】
本発明は以上のような原理を利用して、ターゲット物質をある限られた範囲の既知の物質で表し、このターゲット物質の匂いを、容易にかつより正確に再現できるようにする。
【0020】
<新規な人工的匂いコードの作成方法の開発>
分子モデリング生体系の受容体による分子認識を評価するに当たり、匂い分子の形状及び特性を表現する必要がある。ここでは、分子情報科学的見地よりCambridgeSoft社のChem3D ver.9.0 の分子モデリングを用いる。分子モデリングとは、計算機上で分子を構築し、分析ツールや解析ツールとを組み合わせ、最適化された分子モデルを3次元的に表現することである。この分子モデリングを用いることで、匂い分子の性質を数値情報として抽出することができる。
【0021】
パラメータの選定匂いの分子情報を抽出するため、多種類の匂い分子の分子モデリングによる解析を行い、匂いに寄与するパラメータの選定を行った。解析に用いた匂い分子群として、特徴的部位を一つのみ有する物質と複数有する物質を用いる。前者には、例えば、アルケン、アルコール、アルデヒド、カルボン酸、エーテル、芳香族化合物、エステルからそれぞれ複数(例えば数十種類)ずつ選ぶ。後者には、先ほど述べた官能基の組み合わせによって構成される、オイゲノール、フェネチルアルコール、リナリルアセテート、ベンジルアセテート、シトラールを選び、例えば合計211種類の匂い分子を用いる。匂い分子の性質は、生体系での匂い受容に特に関係があると思われる、立体構造に関する情報と電気的なものに関する情報を取り扱う。立体構造に関するものには、ClusterCount、Exact Mass、Polar Surface Area等を、電気的なものにはDipole、Electronic Energy、Repulsion Energy等、合計59種類のパラメータを選ぶ。この中から明らかに匂いの受容に関係なさそうなパラメータを取り除きパラメータを26種類(例)まで絞り込む(図8参照)。
【0022】
人工的な匂いコードの作成分子モデリングによって得られた数値情報を用い、多変量解析を行う。多変量解析はパラメータを圧縮し、総合的特性を抽出する解析方法であり、例えば、主成分分析、因子分析、PLS分析等が含まれる。多変量解析をすることにより得られた主成分得点の散布図(図3参照)を見ることで、その主成分が何を表しているか推測することができる。多変量解析によって得られた固有ベクトルの値が、要約された分子情報として取り扱うことができ、この要約された分子情報を人工的な匂いコードの要素として用いることができる。また、多変量解析から得られた寄与率は、パラメータを絞り込む際に参考にするとよい。
【0023】
なお、多変量解析(ここでは主成分分析を例にとる)について一般的に記述すると、次のようになる。つまり、データ行列をXとすると、Xは、行がn個のサンプル(匂い分子)の並び、列がp個のデータ(分子情報データ)の並びで、n×pの行列で表すことができる。また、分散行列あるいは共分散行列をMとして、Xを固有値(PC1やPC2に相当)によって次のように分解する。
M=AΛA
ここで、Λは固有値(λi)を対角要素とする対角行列で、Aは固有値λi対応する固有ベクトルai(図8の重み係数に相当)としてA=[ a1 a2 a3..... ap]である。そして、固有値を大きいものから順に選びq<pなる少数のqを選ぶと、元のp個のデータはq個に圧縮され、次元が圧縮される。このとき内積Xaiを第i主成分得点という。
【0024】
<要素臭の分布:要素臭データベース>
図3は、多変量解析によって得られた主成分散布図を示している。この散布図を見ると、右側にエタノールやギ酸などの分子量が小さい匂い分子が、左側にドデカノールやドデカン酸などの分子量が大きい分子がプロットされており、左に行くほど分子サイズが大きくなっている。つまり、横軸のPC1は主に匂い分子のサイズに関する情報を持っていると考えられる。また、電荷のないアルケンとベンゼンが上方に、電荷を持つそれ以外のものが、かたまって下方にプロットされていることから縦軸のPC2は電荷に関する情報を持っていると考えられる。
【0025】
続いて、匂いコードとPC1との関係について述べる。PC1と匂い強度の関係匂いの強度は、閾値によって表現される。ここで、閾値とは、生体の感覚に興奮を生じさせるために必要な刺激の最小の値のことであり、匂いでいうと人間が匂い分子を嗅いだ際感知できる最小の濃度のことを意味する。文献から得た官能試験のデータと独自で行った官能試験の結果を用いてPC1との関係を調べた。匂い分子はアルコール、アルデヒド、カルボン酸の中から炭素数1から7までに関して調べた。PC1と閾値の関係を調べると図4Aのグラフが得られる。また閾値は、炭素数が大きくなるにつれて値が小さくなることが知られているので、図4には炭素数と閾値の関係も示されている(図4B)。図4A(PC1と閾値の関係)及び図4B(炭素数と閾値の関係)を見比べると、これら2つのグラフは似たような傾向を示している。そして、このグラフの相関係数は0.827と比較的高いことから、PC1から閾値の推定ができると考えられる。
【0026】
また、電荷PC2と匂いとの関係であるが、分子に電荷の偏りが大きいと匂いが強いことが分っている。そして、官能基が多く含まれている物質は、電荷の偏りが大きく、匂いを発する。逆に、官能基が少ない物質ほど電荷の偏りが小さく、発する匂いも弱い。
【0027】
以上のPC1とPC2についての考察に基づくと、PC1(分子サイズに相関がある値)及び官能基の種類によっても受容体が受容するかしなかいが決まる。
【0028】
そこで、図3に示される主成分散布図を要素臭データベースとして用意し、ターゲット物質を多変量解析して得られた結果(PC1,PC2)を図3上にプロットすることにより、ターゲット物質の匂いを要素臭で表すことができる。つまり、ターゲット物質が刺激する受容体と同じ受容体を刺激する要素臭を選択すればターゲット物質の匂いを表現することができるようになる。
【0029】
なお、図5に示されるように、PC1やPC2の他に、PC3として形状に関する評価値(分子構造が直線的か枝分かれがあるか等)やPC4として分子の双極子モーメント(Dipole)に関する評価値を要素臭の情報として用いることができる。
【0030】
<匂い合成のレシピ>
上述のように、図3に分布する要素臭の組み合わせによってターゲット物質の匂いを表現することができる。例えば、図6で示されるように、分子情報から作成された匂いコードの要素をプロットした主成分散布図を基に匂いコードPC1が近いもので例えば2つの要素臭でターゲット臭を混合するように選択する。このようにしてターゲット物質の匂い合成レシピを作成することができる。新たに用いた匂いコードによるレシピ作成手法は候補として用いる物質の種類が数10種類と非常に多く、また、固定的な静止画像では無く分子の動的な性質を反映するパラメータを基に計算している。そのため、同じサイズ情報を基にしているがその適合度は画像解析による方法よりも高くなっていると考えられる。
【0031】
ところで、ターゲット臭は、単に要素臭の組み合わせでは表現できない。つまり、要素臭それぞれの強さ(濃度)が関係してくる。よって、要素臭の濃度を考慮して選択された要素臭に重み付けする必要がある。
【0032】
そこで、本発明の実施形態における混合濃度の推定はQSAR解析を用いている。ここで、QSAR解析とは、化学構造と生物活性間の関係解析のことを意味する。この解析は薬学、とりわけドラッグデザインにおいて用いられる解析方法である。薬物と受容体の相互作用が、薬物の化学構造に加え、定量的に測定可能な物理化学的なパラメータよって決定される。このことから一連の薬理作用が測定でき、物理化学的なパラメータを用いて構造と活性の関係を数学的に計算することができる。このことからQSAR解析を生体系の薬物受容だけでなく、生体系の匂い分子の受容に関しても用いることができると考え、要素臭の混合比を決定する際の指標とする。
【0033】
よって、ターゲット臭を表現する匂いコードは、要素臭の組み合わせとそれらの重み係数で表すことができる。そして、要素臭は、後述のように、例えば、17個の官能基或いは発香団と12個の炭素鎖の組み合わせで表される。この場合、要素臭としては、17×12=204個提供されている。204個の要素臭の組み合せにより、より多くの物質の匂いを表現することができる(約40万種類存在すると言われている匂いの全てを表現できるか否かは別として、相当数の匂いを表現できるようになる)。17個の官能基は、アルコール (R-OH)、フェノール(-OH)、ケトン(>CO)、カルボン酸(-COOH)、エステル(-COOR)、ラクトン(-CO-O-)、チオール(-SH)、エーテル(-O-)、アルデヒド(- CHO)、チオエーテル(-S-)、ニトロ基(-NO2)、アミド(-NH2)、ニトリル(-CN)、イソニトリル(-NC)、チオシアン(-SCN)、イソチオシアン(-NCS)、ベンゼン(C6H6)である。12個の炭素鎖に関しては、CH2がn個直列につながったもので、n=1から12までのものが蒸気圧を持ち、匂い分子として生物に作用する。要素臭はこれら官能基と炭素鎖との組合せからなり、本実施形態では、17×12=204個存在することになる。
【0034】
<匂いコーディングシステム構成>
上述のように、本発明による匂いコーディングの原理・考え方について説明したが、以下、その匂いコーディングを実現するためのシステム及びアルゴリズムについて詳細に説明する。
【0035】
図7は、本発明の実施形態による匂いコーディングシステム10の概略構成を示す図である。図7に示されるように、匂いコーディングシステム10は、各種演算を実行する処理部11と、利用者が各種データや指示を入力するための入力部12と、電荷と形状に関する分子情報を分子構造に対応して格納している分子情報データベース13と、演算を実行するときにデータやプログラムを一時的に格納するRAM(Random Access Memory)14と、少なくとも後述のフローチャートに基づくプログラムを格納するROM(Read Only Memory)15と、例えば204種類の要素臭のデータであって、図3に対応する情報を格納する要素臭データベース16と、匂いコーディングの結果得られた匂いコード(合成レシピ)を、例えばネットワークを介して匂い合成装置に送信するための通信部17と、表示部やプリンタ等で構成される出力部18と、を備える。そして、各構成部はバス19を介して相互に接続されている。
【0036】
入力部12には、匂い合成の対象であるターゲット物質の分子構造情報(複数の分子名)が入力される。この分子構造情報は、既知の情報として入力されたり、或いは、例えば前処理として特許文献2に開示された方法によって検出された分子構造情報が用いられる。
【0037】
処理部11は、さらに、分子情報検索部111と、主成分分析部(多変量解析部)112と、要素臭決定部113と、QSAR分析部114と、を備えている。分子情報検索部111は、ターゲット物質の分子構造(分子名)に基づいて、分子情報データベース13から電荷及び形状等に関する分子情報を検索して取得する。主成分分析部(多変量解析部)112は、分子情報検索部111で取得した分子情報に含まれるパラメータを圧縮して総合的な特性を抽出し、分子サイズに相関を有する成分情報PC1と電荷分布に相関、或いは電荷分布の偏りに相関を有する成分情報PC2とからなる特徴点(主成分)情報を生成する。要素臭決定部113は、主成分分析部(多変量解析部)112で得られた特徴点情報を要素臭データベース16上にプロットし、ターゲット臭を表現できる要素臭を選択する。QSAR分析部114は、選択された要素臭の混合比(匂いの強さ)を決定する重み係数を算出し、要素臭のデータと重み係数をコード化して出力する。
【0038】
分子情報データベース13は、図8に示されるように、電荷や形状等に関するパラメータから構成される。分子情報データベース13においては、複数の分子構造情報のそれぞれに対応して各パラメータ値がテーブル化されている。従って、分子構造情報が入力されれば、それに対応するパラメータが出力されるようになっている。
【0039】
要素臭データベース16は、例えば上述の204種類の物質を多変量解析して得られた第1主成分PC1(分子サイズと相関のある値)及び第2主成分PC2(電荷分布に相関を有する値)を、それぞれを横軸及び縦軸に設定した平面上にプロットして得られたものである(例えば、図3参照)。図3に示されるように、要素臭は、その物質の分子サイズが大きいほど左側に位置し、官能基が多いほど、或いは官能基自身の匂いの強さが強いほど(COOH基の方がOH基よりも強い)電荷が大きいので下側に位置している。そして、ターゲット臭に対して受容する受容体と同じ受容体を受容させる要素臭の組合せが選択される。これは、PC1(分子サイズと相関のある値)が同じであると同じ受容体を受容させるという性質、及び同じ官能基を持っていると同じ受容体を受容させるという性質に基づくものである。
【0040】
<要素臭データベースの作成>
図9は、要素臭データベース16を作成する方法を説明するためのフローチャートである。図9において、まずステップS901では、入力部12から最初の要素臭物質の分子構造情報が入力される。上述のように、要素臭を構成する匂い分子の数は限定されており、例えば204種類である。これらの物質は炭素鎖(CHn)と官能基との組み合せで表されるので、分子構造情報は明らかである。
【0041】
ステップS902では、分子情報検索部111が、ステップS901で得られた分子構造情報をポインタとして用い、分子情報データベース13から対応する要素臭の分子情報パラメータを取得する。分子情報データベース13は、例えば、図13及び14に示されるように(これらはターゲット臭の分子情報パラメータ値であるがこれと同様に)、各成分V1乃至V26(図8参照)に対応するパラメータ値を有している。これにより、分子情報検索部111は、分子構造情報(分子名)に対応するパラメータ値を取得できるようになっている。
【0042】
ステップS903では、主成分分析部(多変量解析部)112が、ステップS902で得られた要素臭の分子情報パラメータ値と分子情報データベース13に含まれるPC1及びPC2の重み係数を掛け合わせてPC1値とPC2値を演算する。この演算は、V1乃至V26までの26次元の情報を2次元までに圧縮するものである。ここでは、PC1とPC2の2つの値だけであるが、その他形状情報PC3(直線的な形状か枝分かれのある形状かを示す情報)や分子双極子モーメント情報PC4等がある(図5参照)。ここでは、PC1及びPC2で主成分得点として大部分を占めるので、2次元からなる情報のみを用いることとしている。
【0043】
ステップS904では、処理部11(正確には要素臭決定部114の一部の機能)が、ステップS903で得られたPC1値及びPC2値をPC1−PC2平面上にプロットし、その位置を当該要素臭の位置として要素臭データベース13(例えば、図3参照)に登録する。
【0044】
ステップS905では、全ての要素臭についてプロット処理が完了したか判断し、完了していれば処理を終了し、完了してなければ全ての要素臭について完了するまで、ステップS901乃至S904の処理が繰り返される。全ての要素臭に関して処理が完了すると、図3に示されるような要素臭データベース16が出来上がる。
【0045】
<ターゲット臭の合成レシピ作成>
図10は、ターゲット臭の合成レシピを作成する方法を説明するためのフローチャートである。なお、ステップS1001からS1003までの工程は、要素臭データベース作成のステップS901からS903と同等のものである。
【0046】
図10において、まずステップS1001では、入力部12から分析すべきターゲット臭物質の分子構造情報が入力される。ターゲット臭の分子構造が既知であれば、その既知情報をそのまま入力すればよい。未知であれば、当該物質を分析して分析結果から分子構造情報を取得する。分析の方法としては、例えば、特許文献2に開示された方法が用いられる。
【0047】
ステップS1002では、分子情報検索部111が、ステップS1001で得られた分子構造情報をポインタとして用い、分子情報データベース13から対応するターゲット臭物質の分子情報パラメータを取得する。つまり、分子情報検索部111は、図8の分子情報データベース13に格納されている、当該ターゲット臭物質に対応する分子情報パラメータV1乃至V26に対応する値を取得する。例えば、フェネチルアルコールやリナリルアセテートの場合には、図13及び14に示されるような値となっている。
【0048】
ステップS1003では、主成分分析部(多変量解析部)112が、ターゲット臭物質に対して主成分分析(多変量解析)を実行する。この主成分分析(多変量解析)は、例えば、分子情報データベース13(図8)に含まれるPC1及びPC2の重み係数とステップS1002で得られた分子情報パラメータとをパラメータ毎に掛け合わせ、PC1値とPC2値を取得する。これによって、26次元の情報が2次元の情報に圧縮される。このように、26次元の情報をPC1値及びPC2値の2次元の情報で表せるのは、PC1及びPC2が物質の特徴を表すものとして大部分を占めるからである。
【0049】
ステップS1004では、要素決定部113が、ステップS1003で得られたPC1値とPC2値を図3の要素臭データベース16の2次元平面上にプロットし、ターゲット臭を表現するのに適する要素臭を決定する。要素臭決定の規則としては、例えば、要素臭物質(単純な匂い物質)からターゲット臭物質と同じ発香団(官能基)を1つ持ち、PC1値が同じ物質を要素臭物質とする。ターゲット臭物質が複数の発香団を含む場合は、その数だけ要素臭物質が選択される。また、PC2値も使う場合は、PC2は分子の極性に関する主成分であるが、極性は加算が近似的に成り立つため、あるPC2を2つの物質のPC2の和で表わすことができるという考えに基づいて要素臭決定がなされる。そこで、ターゲット臭と同じPC1値を持つ要素臭物質(単純な匂い物質)をPC2の大きいものと小さいものから選択する。その際、各要素臭のPC2値の和がターゲット臭のPC2値と近くなるものを選ようにする。ここでは、例示として2種類の決定方法を示したが、もちろんこれらに限られるものではない。
【0050】
ステップS1005では、QSAR分析部114が、QSAR解析を用いてステップS1004で決定された要素臭の混合比(重み係数)を決定する。後述の実施例からより具体的に理解できるが、簡単に処理内容を説明すると、ターゲット臭物質の匂いの強さと同等の匂いの強さになるように、決定された各要素臭物質の匂いの強さを決定する。よって、ターゲット臭よりも匂いの強い要素臭に関してはより小さい重み係数が掛けられ、匂いの弱い要素臭に関してはより大きい重み係数が掛けられることになる。
【0051】
ステップS1006では、処理部11が、決定された要素臭の情報と混合比の情報をコード化して出力部18に出力し、通信部17を介して遠隔的に設置された匂い合成システム(図11参照)に送信する。コード化の方法としては、例えば、要素臭の種類に対応するビットを用意し(本実施形態では204ビット)、選択された要素臭のビットが“1”、選択されてない要素臭のビットが“0”となるようにする。また、重み係数については、数値自体を例えば8ビットで表現する。また、204種類の要素臭は、7ビットの情報があれば表現できるので、それぞれ1から204までを7ビット情報で表現し、かつ重み係数ついては数値自体を例えば8ビットで表現するようにしてもよい。さらに、ターゲット臭物質の物質名を併せてコード化し、送信するようにしても良い。このようにするのは、ターゲット臭物質から要素臭物質を決定することは上述のようなアルゴリズムで可能だが、要素臭物質の情報からターゲット臭物質を特定するのはできないからであり(不可逆的処理だから)、ターゲット臭物質の名称が明確であれば合成された匂いを嗅ぐ利用者に安心感を与えられるからである。
【0052】
<匂い合成システムの構成>
図11は、匂いコード(要素臭コード及び混合比情報(重み係数))に基づいて、ターゲット臭を合成する匂い合成システム20の概略構成を示す図である。図11に示されるように、匂い合成システム20は、匂い合成に関わる処理を実行する処理部21と、利用者が指示や情報を入力するための入力部22と、処理部21による処理実行中に一時的に資料されるRAM23と、例えば図12で示される匂い合成プログラムが格納されるROM24と、匂いコーディングシステム100から伝送されてきた匂いコードを受信する通信部25と、処理部21の制御に従って実際に匂いを発生する匂い発生装置26とを備えている。そして、それぞれの構成部がバス27によって接続されている。
【0053】
処理部21は、受信した匂いコードを復号し、匂い合成に使用する要素臭の情報と、要素臭の重み係数を取得する匂いコード復号部211と、要素臭の情報と重み係数に基づいて匂い発生装置26を制御する匂い発生制御部212とを備えている。
【0054】
匂い発生装置26は、各要素臭物質を構成する匂い溶液261(本実施形態では204種類の溶液)であって、各溶液が独立したビン容器に収められた匂い溶液261と、重み係数によって匂いの強弱を制御するための定量ポンプ262と、匂い物質を霧化して発するネブライザ263と、を備えている。
【0055】
<匂い合成処理>
図12は、匂い合成システム20による匂い合成処理を説明するためのフローチャートである。ステップS1201では、通信部25が、匂いコーディングシステム100から送信されてきた匂いコードを受信する。或いは、入力部22から匂いコードが入力されるようにしてもよい。
【0056】
ステップS1202では、匂いコード復号部211が、取得した匂いコードを復号して、要素臭物質に関する情報及び重み係数情報を取得する。これによって、ターゲット臭がどの要素臭を用いて合成され、各要素臭の混合比も判明する。
【0057】
ステップS1203では、匂い発生制御部212が、ステップS1202で取得した要素臭物質に関する情報及び重み係数情報に基づいて、合成に用いる匂い溶液261のビン容器のみをONとし、その他のビン容器はOFFにし、さらにONとされたビン容器からの滴下量(匂い物質の量=匂いの強さ)を制御する。そして、該当するビン容器から出力された要素臭物質がネブライザ263に送られ、匂いが発生される。
【0058】
<実施例>
以下、要素臭物質でターゲット臭物質を表現する場合の実際の例について説明する。ここで取り上げるターゲット臭物質は、フェネチルアルコールとリナリルアセテート(酢酸リナリル)である。
【0059】
図13は、ターゲット臭物質であるフェネチルアルコールの分子情報パラメータと後述の演算によって要素臭物質と決定されるヘプタノールとプロピリベンゼンの分子情報パラメータとを示す表である。また、図14は、同様に、ターゲット臭物質であるリナリルアセテートの分子情報パラメータと後述の演算によって要素臭物質と決定されるウンデセンと酢酸オクチルの分子情報パラメータとを示す表である。なお、図13及び14に示されるパラメータ情報は、生の物理量としてのパラメータ値を示しているのではなく、生の物理量としてのパラメータ値を、全匂いデータ(要素臭+ターゲット臭)の各パラメータ値の平均値と標準偏差を用いて標準化((データ−平均値)/標準偏差)した値を示している。
【0060】
図10のフローチャートで示された処理工程に従い、図8に示されたPC1及びPC2の重み係数と図13及び図14に示されたパラメータ値の内積値(Σvi×x i)を演算すると、図15及び16で示された値が得られる。つまり、フェネチルアルコールは、PC1=-0.196241339、PC2=1.767037306、リナリルアセテートは、PC1=-6.760193322、PC2=2.043352871となる。
【0061】
そして、図6に示されるように、ターゲット臭のPC1及びPC2を要素臭データベース16にプロットし、要素臭を決定する(図10及びその説明参照)。本実施例では、フェネチルアルコール合成のための要素臭はプロピルベンゼンとヘプタノールと決定された。また、リナリルアセテート合成のための要素臭はウンデセンと酢酸オクチルと決定された。
【0062】
続いて、要素臭の混合比(重み係数)を算出する。図17は、混合比を算出する過程を示す図である。図17において、Pとは物質固有の油への溶け込み易さを示す指標であり、Pの逆数が匂いの強さCを示すものとされている。このP値は、分子情報データベースに、各物質に関連付けられて格納されている。
【0063】
図17Aで示されるように、まずターゲット臭物質及び要素臭のP値が取得される。次に、図17Bにおいて、各要素臭物質のlogPの値からターゲット臭物質のlogPの値を減算する。つまり、リナリルアセテートに関しては3.426-2.7797及び5.121-2.7797を、フェネチルアルコールに関しては、3.193-1.572及び2.377-1.572を算出する。これは、ターゲット臭物質から要素臭物質がどれくらいずれているかを確かめるものである。続いて、図17Cに示されるように、それぞれの結果に対してlogの逆関数を取る。すると、ターゲット臭物質に関してはπ=0なので、10^π=1となり、またP=1/Cであるから、それぞれのターゲット臭物質の匂いの強度が1であるときに、要素臭の強度を図17Dに示される値とするとよいことが分かる。このようにQSAR解析を行って混合比が得られた。
【0064】
<官能検査による比較>
図18は、PC1による匂い合成レシピと従来の画像解析による匂い合成レシピを示す図である。得られた合成レシピを、従来の分子モデリング画像のフィッティングを用いた匂い合成のレシピと比較することでその有効性を評価した。これら2つの方法で得られた匂い合成のレシピにより合成された匂いのうち、どちらがターゲットに近いかを5段階評価を行った。すなわち、従来のレシピに比べて、1:大きく劣る、2:少し劣る、3:同じ、4:優れる、5:大きく優れる、という評価を4人のパネルによって行った。その結果を図19に示す。また、参考のため比較対象の画像解析による合成レシピの官能評価結果を図20に示す。こちらは、合成臭と単独の要素臭がターゲットの匂いに近いかどうかを5段階評価(1:全く異なる、2:異なる、3:どちらとも言えない、4:似ている、5:区別できない)により点数化したものである。
【0065】
比較の結果、フェネチルアルコールとリナリルアセテート(酢酸リナリル)は主成分散布図を基にして得られたレシピの方からターゲット臭に近い匂いを作ることができた。しかし、合成により近い匂いを作ることが難しかったシトラールについてはレシピを変えた場合も良い官能検査とはならなかった。これは部分構造、あるいは匂いコードによる分解の単位が適切で無いことが理由と考えられる。このように、基本的には匂いコードPC1の持つ分子情報の方が、生体系で匂い受容体が認識している分子情報を、より一層反映していることがわかった。結果として、分子モデリングによる立体的な画像情報は分子のフレキシブルな構造変化を反映しておらず、モーメントや電化分布,形状など高次の情報も反映していない。対象の要素臭による匂い合成の良し悪しは、このような分子のより豊富な情報を必要とすることがわかる。
【0066】
<まとめ>
本実施形態による匂いコーディングシステムでは、複数の匂い物質の分子構造情報に対応して分子情報パラメータ(図8参照)を格納する分子情報データベース及び複数の要素臭物質について多変量解析結果(PC1及びPC2)を格納する要素臭データベースが設けられ、ターゲット臭物質の分子情報に基づいて、分子情報データベースから対応する分子情報パラメータを取得する。また、分子情報検索部によって得られた分子情報を用いて、ターゲット臭物質の多変量解析を実行し、多変量解析結果を取得する。そして、ターゲット臭物質の多変量解析結果(PC1値及びPC2値)に基づいて、要素臭データベースからターゲット臭物質を合成するための要素臭物質に関する情報を取得する。この要素臭物質に関する情報をコード化して出力する。このようにすることにより、少数の要素となる匂い物質により、多くの(任意の)匂いを合成できる匂いコードを生成することができる。また、この匂いコードを用いれば、任意の匂いを遠隔的に存在する匂い合成システムで再現することができる。よって、応用例としては、酒、味噌や醤油等の醸造蔵で検知した様々な匂いを遠隔的に存在する利用者に届け、この利用者は発酵具合を遠隔地でチェックすることができる。
【0067】
また、ターゲット臭物質の分子情報を用いて、分子サイズに相関を有する第1の評価値(PC1)と、ターゲット臭物質の電荷分布に相関を有する第2の評価値(PC2)を演算して、これらを多変量解析結果とするようにしている。上述のように、分子情報は26個のパラメータ(26次元の情報)で表されるところ、PC1及びPC2という2次元の情報のみで表現し、これを基に要素臭を選択しているので、アルゴリズムが非常に簡単である。アルゴリズムは簡単であるが、PC1及びPC2は物質の特徴を顕著に捉えている指標であるので、再現誤差も少ないのである。
【0068】
なお、本発明は、実施形態の機能を実現するソフトウェアのプログラムコードによっても実現できる。この場合、プログラムコードを記録した記憶媒体をシステム或は装置に提供し、そのシステム或は装置のコンピュータ(又はCPUやMPU)が記憶媒体に格納されたプログラムコードを読み出す。この場合、記憶媒体から読み出されたプログラムコード自体が前述した実施形態の機能を実現することになり、そのプログラムコード自体、及びそれを記憶した記憶媒体は本発明を構成することになる。このようなプログラムコードを供給するための記憶媒体としては、例えば、フロッピィ(登録商標)ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−R、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROMなどが用いられる。
【0069】
また、プログラムコードの指示に基づき、コンピュータ上で稼動しているOS(オペレーティングシステム)などが実際の処理の一部又は全部を行い、その処理によって前述した実施の形態の機能が実現されるようにしてもよい。さらに、記憶媒体から読み出されたプログラムコードが、コンピュータ上のメモリに書きこまれた後、そのプログラムコードの指示に基づき、コンピュータのCPUなどが実際の処理の一部又は全部を行い、その処理によって前述した実施の形態の機能が実現されるようにしてもよい。
【0070】
また、実施の形態の機能を実現するソフトウェアのプログラムコードがネットワークを介して配信されることにより、システム又は装置のハードディスクやメモリ等の記憶手段又はCD-RW、CD-R等の記憶媒体に格納され、そのシステム又は装置のコンピュータ(又はCPUやMPU)が当該記憶手段や当該記憶媒体に格納されたプログラムコードを読み出して実行することによっても、達成されるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】匂いを検知する受容体について説明するための図である。
【図2】ターゲット臭物質を要素臭物質で表す基本原理を説明するための図である。
【図3】多変量解析の結果得られた要素臭データベースの内容を示す図である。
【図4】PC1と匂いとの関係を説明するための図である。
【図5】主成分PC1及びPC2以外の主成分についても考慮した場合の要素臭データベースを示す図である。
【図6】要素臭選択の例を示す図である。
【図7】本発明の実施形態による匂いコーディングシステムの概略構成を示す図である。
【図8】分子情報データベースの一部の内容(例)を示す図である。
【図9】要素臭データベースを作成する処理を説明するためのフローチャートである。
【図10】ターゲット臭の匂いコーディング処理を説明するためのフローチャートである。
【図11】本発明の実施形態による匂い合成システムの概略構成を示す図である。
【図12】ターゲット臭を合成する処理を説明するためのフローチャートである。
【図13】ターゲット臭物質(例1)と要素臭物質の分子情報を示す表である。
【図14】ターゲット臭物質(例2)と要素臭物質の分子情報を示す表である。
【図15】主成分PC1の演算結果を示す表である。
【図16】主成分PC2の演算結果を示す表である。
【図17】QSAR演算例を示す図である。
【図18】PC1による匂い合成レシピと従来の画像解析による匂い合成レシピを示す図である。
【図19】本発明の匂い合成のレシピに従って合成した匂いの5段階評価(官能評価)を行った結果を示す図である。
【図20】従来の画像解析による合成レシピに従って合成した匂いの5段階評価(官能評価)を行った結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲット臭物質の合成レシピを作成してコーディングする匂いコーディングシステムであって、
複数の匂い物質の分子構造情報に対応して分子情報パラメータを格納する分子情報データベースと、
複数の要素臭物質について多変量解析結果を格納する要素臭データベースと、
前記ターゲット臭物質の分子情報に基づいて、前記分子情報データベースから対応する分子情報パラメータを取得する分子情報検索部と、
前記分子情報検索部によって得られた分子情報を用いて、前記ターゲット臭物質の多変量解析を実行し、多変量解析結果を取得する多変量解析部と、
前記ターゲット臭物質の多変量解析結果に基づいて、前記要素臭データベースから前記ターゲット臭物質を合成するための要素臭物質に関する情報を取得する要素臭決定部と、
前記要素臭物質に関する情報をコード化して出力する匂いコード出力部と、
を備えることを特徴とする匂いコーディングシステム。
【請求項2】
さらに、前記コード化された要素臭物質に関する情報を、ネットワークを介して設置された匂い合成システムに送信する通信部を備えることを特徴とする請求項1に記載の匂いコーディングシステム。
【請求項3】
さらに、前記要素臭決定部で得られた要素臭物質の混合比を演算する混合比演算部を備え、
前記匂いコード出力部は、前記混合比に関する情報をさらにコード化して出力することを特徴とする請求項1に記載の匂いコーディングシステム。
【請求項4】
前記多変量解析部は、N個の情報からなる前記ターゲット臭物質の分子情報を圧縮して主要なk個の評価値(N>k)を生成し、この演算結果を前記多変量解析結果とすることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の匂いコーディングシステム。
【請求項5】
前記多変量解析部は、前記ターゲット臭物質の分子情報を用いて、分子サイズに相関を有する第1の評価値を演算して前記多変量解析結果とすることを特徴とする請求項4に記載の匂いコーディングシステム。
【請求項6】
前記多変量解析部は、さらに、前記ターゲット臭物質の分子情報を用いて、前記ターゲット臭物質の電荷分布に相関を有する第2の評価値を演算して前記多変量解析結果とすることを特徴とする請求項5に記載の匂いコーディングシステム。
【請求項7】
前記要素臭データベースは、前記複数の要素臭物質の分子情報を圧縮して得られた評価値を各要素臭物質に対応させて格納していることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の匂いコーディングシステム。
【請求項8】
前記要素臭データベースは、前記複数の要素臭物質の分子情報を用いて、分子サイズに相関を有する第1の評価値と、電荷分布に相関を有する第2の評価値を演算し、これらの値を、第1及び第2の評価値をそれぞれ構成軸とする2次元平面に配置してなる情報であることを特徴とする請求項7に記載の匂いコーディングシステム。
【請求項9】
ターゲット臭物質の合成レシピに基づいて匂いを合成する匂い合成システムであって、
各種要素臭物質を収容する複数の容器と、各容器に接続された複数の定量ポンプとを含む匂い発生装置と、
前記合成レシピを示す匂いコードを取得し、この匂いコードを復号してターゲット臭物質を表現する要素臭に関する情報を取得する匂いコード復号部と、
前記匂いコード復号部によって得られた前記ターゲット臭物質を表現する要素臭に関する情報に基づいて、前記匂い発生装置における前記複数の定量ポンプのON/OFF及び匂い物質量を制御する匂い発生制御部と、
を備えることを特徴とする匂い合成システム。
【請求項10】
前記匂いコード復号部は、前記ターゲット臭物質を表現する要素臭の混合比に関する情報を取得し、
前記匂い発生制御部は、前記匂い物質量を制御することを特徴とする請求項9に記載の匂い合成システム。
【請求項11】
ターゲット臭物質の合成レシピを作成してコーディングする匂いコーディング方法であって、
分子情報検索部が、前記ターゲット臭物質の分子情報に基づいて、複数の匂い物質の分子構造情報に対応して分子情報パラメータを格納する分子情報データベースから対応する分子情報パラメータを取得する第1の工程と、
多変量解析部が、前記分子情報検索部によって得られた分子情報を用いて、前記ターゲット臭物質の多変量解析を実行し、多変量解析結果を取得する第2の工程と、
要素臭決定部が、前記ターゲット臭物質の多変量解析結果に基づいて、複数の要素臭物質について多変量解析結果を格納する要素臭データベースから前記ターゲット臭物質を合成するための要素臭物質に関する情報を取得する第3の工程と、
匂いコード出力部が、前記要素臭物質に関する情報をコード化して出力する第4の工程と、
を備えることを特徴とする匂いコーディング方法。
【請求項12】
さらに、通信部が、前記コード化された要素臭物質に関する情報を、ネットワークを介して設置された匂い合成システムに送信する第5の工程を備えることを特徴とする請求項11に記載の匂いコーディング方法。
【請求項13】
さらに、混合比演算部が、前記要素臭決定部で得られた要素臭物質の混合比を演算する第6の工程を備え、
前記第4の工程において、前記匂いコード出力部が、前記混合比に関する情報をさらにコード化して出力することを特徴とする請求項11に記載の匂いコーディング方法。
【請求項14】
前記第2の工程において、前記多変量解析部が、N個の情報からなる前記ターゲット臭物質の分子情報を圧縮してk個の評価値(N>k)を生成し、この演算結果を前記多変量解析結果とすることを特徴とする請求項11乃至13の何れか1項に記載の匂いコーディング方法。
【請求項15】
前記第2の工程において、前記多変量解析部が、前記ターゲット臭物質の分子情報を用いて、分子サイズに相関を有する第1の評価値を演算して前記多変量解析結果とすることを特徴とする請求項14に記載の匂いコーディング方法。
【請求項16】
前記第2の工程において、前記多変量解析部が、さらに、前記ターゲット臭物質の分子情報を用いて、前記ターゲット臭物質の電荷分布に相関を有する第2の評価値を演算して前記多変量解析結果とすることを特徴とする請求項15に記載の匂いコーディング方法。
【請求項17】
前記要素臭データベースは、前記複数の要素臭物質の分子情報を圧縮して得られた評価値を各要素臭物質に対応させて格納していることを特徴とする請求項11乃至16の何れか1項に記載の匂いコーディング方法。
【請求項18】
前記要素臭データベースは、前記複数の要素臭物質の分子情報を用いて、分子サイズに相関を有する第1の評価値と、電荷分布に相関を有する第2の評価値を演算し、これらの値を、第1及び第2の評価値をそれぞれ構成軸とする2次元平面に配置してなる情報であることを特徴とする請求項17に記載の匂いコーディング方法。
【請求項19】
請求項11乃至18に記載の匂いコーディング方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2008−308649(P2008−308649A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−160477(P2007−160477)
【出願日】平成19年6月18日(2007.6.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 刊行物:電気学会研究会資料 ケミカルセンサ研究会 CHS−06−19〜31 発行日:2006年12月18日 発行者:社団法人 電気学会 村岡 泰夫
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】