説明

包み袋

【課題】果実類や野菜類の育成中、小動物による食害、虫害、および、カビ菌や病源菌による病害、および、風害などの外傷を抑制・防止し、且つ、収穫後の熟成、保存、及び、流通を通して腐敗や外傷を抑制・防止することのできる包み袋の提供。
【解決手段】布帛を支持体とする包み袋であって、チタン酸化物系光触媒と、光の無い環境でも防カビ又は防菌機能を有するセラミックス触媒とを布帛の繊維に担持させたことを特徴とする包み袋。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柑橘類、ぶどう、桃、りんご、ナシ等の果実類、ならびにメロン、トマト、イチゴ、キャベツ、白菜等の野菜類を、育成、収穫、熟成、貯蔵、および、流通を通して、食害、虫害、被病、腐敗、外傷等から保護するための、布帛、特に編み布からなる農業用及び流通用資材に好適な包み袋に関する。
【背景技術】
【0002】
果実類の成長過程は多くのリスクに曝されている。育成中、樹上にあっては、鳥や小動物による食害に遭遇し、害虫による食害や被病に加えて、病原菌による被病も多発する。また、果実類は風害による外傷を受け易く、果実が実っても摘果作業時における不用意な取り扱いから外傷を受け易い。このような食害、虫害、被病、および、外傷を受けた果実類等は価値が減じ、ひどい場合には廃棄せざるを得なくなる。これら食害、虫害、被病、および、外傷を防ぎ、または、抑制するよい方法があると、果実の生産は大きなメリットを享受できることになる。また、野菜類の栽培も果実の育成と同様の問題を抱えている。
【0003】
果実類等は食害や虫害の他に、カビ菌類や病原菌類による被病や腐敗による被害を受けることが多いので、殺虫剤や農薬散布でこれらの被害の防止が計られている。減農薬、または、無農薬栽培による生産改善も図られているが、殺虫剤や殺菌剤等の農薬の利用なくして生産の成果をあげることは困難な状況である。一方、わが国の農薬生産量は外国に比べて耕地面積当たり異常に高いことがよく知られており、食品安全衛生上からも、殺虫剤や農薬の大いなる節減が求められている。このように、果実栽培において、殺虫剤や農薬の使用を減じ収穫の実をあげることが望まれる。
【0004】
また、摘果した果実を市場に出荷するには、多くの場合熟成期間が必要であり、また、出荷調整のための保存期間が必要である。しかし、倉庫や保冷庫で保存する間に、無視できない量の腐敗果実を出すことが度々あるので、出荷前腐敗を減らし保存効率をあげるため、薬剤の直接散布や消毒、または、菓皮にコーティングが行われたりしている。菓皮は農薬処理を受けていることが多いが、果実が菓皮と共に加工されたり、菓皮を食用に供したりすることがあるので、農薬管理は厳重になされなければならない。
【0005】
果実類に対する殺虫剤や農薬の使用や管理が重要な課題になっており、農薬汚染を大幅に減らすことが益々重要な問題として認識されている。果実の育成と保護に関して、効果的でわかり易く経済的にも利用しやすいシステムが開発されることが望まれる。
【0006】
上に述べた果実類の育成と殺虫剤および農薬との問題は、メロン、トマト、イチゴ、キャベツ、および、白菜等の野菜類の育成においても、育成中、鳥や小動物による食害に遭遇し、害虫による食害や被病に加えて、病原菌による被病も多発する。このように、野菜の育成と保護に関して、効果的でわかり易く経済的にも利用しやすいシステムが開発されることが望まれる。
【0007】
また、好天気で太陽光が十分に得られる時間帯では、紫外線による直接作用やオゾン発生による間接作用により優れた殺菌作用が得られるので、樹上の果実類が虫害をのぞいて病原菌に犯される危険はあまり高くない。しかし、樹上の果実類の育成時に遭遇する害虫やカビ病の被害は、太陽の紫外線が乏しく雨が多く低い気温下で発生しやすいという特徴がある。このような樹上の自然環境に加え、果実の収穫後は、倉庫、保冷庫、及び、流通期間を通して紫外線を受ける機会は乏しく、空気の換気が十分でない環境におかれることが多く、問題がしばしば発生していた。
【0008】
野菜類の育成、収穫、および、流通に置いても、食害、虫害、および、カビ菌や病原菌による被害を防ぎ、収穫作業時に受ける外傷を抑制し、収穫後の熟成時や、保管及び流通時の腐敗、及び、外傷を軽減・防止することの出来る保護用被覆物が求められる。これらの野菜類は直接食用に用いる食品であり殺虫剤や農薬使用の大いなる削減を図ることが望まれる。
【0009】
上記の課題に関して、次に示すような技術が開示されている。
【0010】
特許文献1では、ポリエチレン系繊維又はナイロン繊維からなる疎水性繊維の着色筒状編み地からなる袋が開示されており、紙袋の代わりに利用することにより果実の保護・成長促進が図れるとする技術が開示されている。
【0011】
特許文献2では、1〜10デニールの化学繊維糸を仮撚り加工し、伸縮性を付与した原糸を用いて筒状地袋に編成した後、撚りと撥水加工を施し、編地上に多数のしわと撥水性を保有せしめた事を特徴とする中晩柑類果樹の樹上越冬用袋が開示されている。
【0012】
特許文献3では、光触媒としてチタンと珪素の複合酸化物を、アルキルシリケート樹脂、シリコーン樹脂、又は、フッ素系樹脂をバインダーとして用い、袋類を構成する繊維表面に担持させたものを開示する。得られた袋物は変色や劣化が無く、持続性のある着臭防止、消臭効果があり、更に、抗菌、防カビ、防汚性があるのでカバン、バッグ、衣類カバーなどの袋物に利用できる発明を開示している。
【0013】
特許文献4では、酸化チタンとシリカを5〜15wt%含有し、酸化チタンとシリカの重量比を6/1〜5/5を含有するポリエステル系繊維を主体構成繊維とすることにより、優れた成長促進作用を有する植物栽培用不織構造体を得たとしている。保水性に優れ、特に植物根部の成長を促進することが出来る不織構造体が得られることを開示している。
【0014】
特許文献5では、有機物からなるフイルム状シートを加熱して、チタニアゾル液を直接フイルム表面に圧着してチタン酸化物を担持させたフイルムの製造方法を開示する。この方法は、わらわれの研究によると、光触媒の光分解作用により、チタン酸化物を担持している有機フイルム部分が分解作用を受けると共に悪臭の発生源となることがあった。
【0015】
特許文献6では、酸化チタンをコーティングしたとマイカ片を含む熱可塑性樹脂組成物を製膜し、作物栽培地面の地温を上昇させ、作物に飛来し寄生する害虫を防除いうるフイルムが開示する。しかしチタン酸化物とマイカ片による紫外線の反射効果による害虫忌避効果を与えているが、紫外線のない時間帯においては効果が低いと考えられる。
【0016】
特許文献7では、上記特許文献6と同様紫外線反射フイルムによる害虫忌避効果を期待している。
【0017】
特許文献8では、紫外線を反射する物質やカーボンを含有する三層のフイルムからなるフイルムを開示しており、地温降下機能、雑草防止、害虫忌避効果を図ったものである。
【0018】
特許文献9では、ポリエステル系繊維に酸化チタンとシリカを含有させ、植物栽培用不織構造体を用いて、優れた成長促進作用が得られることを開示しているが、食害、虫害、被病、腐敗、外傷の防止についての記載はない。
【特許文献1】実願53−111561号公報
【特許文献2】特開2001−57819号公
【特許文献3】特開2001−247175号公報
【特許文献4】特許2821017号公報
【特許文献5】特許第2939524号公報
【特許文献6】特許第1790525号公報
【特許文献7】特許第1837895号公報
【特許文献8】特許第1800665号公報
【特許文献9】特許第2821017号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明が解決しようとする課題は、果実が樹上で成長する間には、小動物による食害、虫害、および、カビ菌や病害菌による被害を防ぎ、収穫時の摘果作業時に受ける外傷を防止・抑制し、また収穫後の熟成や、保管及び流通時の腐敗、及び、外傷を軽減・防止することの出来る保護用包み袋を提供することである。つまり、果実の樹上生育期、収穫、成熟、保存、流通を通して使用することの出来る果実や野菜類の育成及び保護用に好適な包み袋および果実類、野菜類の保護方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
【0021】
すなわち、耐候性を持つ布帛からなる包み袋であって、チタン酸化物系光触媒と、光を必要としないセラミックス触媒とを担持させたことを特徴とする包み袋、ならびに
前記包み袋を用いて、樹上で育成中の果実又は野菜を、包装または覆うことにより、該果実類または野菜類の食害、虫害、病害又は外傷を抑制することを特徴とする果実または野菜の保護方法、および
包み袋を用いて、収穫作業中、収穫後、または流通時の果実類または野菜類を包装、または覆うことにより、該果実類または野菜類の防虫、腐敗の防止、および外傷を抑制することを特徴とする果実または野菜の保護方法
である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の包み袋は、ある環境下においては害虫を忌避し、また紫外線が弱い状況においてもカビ類や病原菌による発生を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明に使用される布帛に使用される繊維としては、合成繊維が好ましい。さらに好ましくは耐候性のあるナイロン又はポリエステル等の合成繊維を主成分とする繊維であることが好ましい。
【0024】
本発明の包み袋は、袋状、筒状、または、三角巾形状等の形態をとるのが好ましい。これにより果実類、野菜類を包み込むことができる。また布帛は伸縮性に富んだものが好ましく、これにより当該果実や野菜を容易に包み込むことが出来るようなる。すなわち伸縮性に富んだ布帛からなり開口部を有する形態のものであることが好ましい。
【0025】
伸縮性を提供するために布帛は、編地、例えばストッキング素材のごとき構造を持つことが好ましい。このような伸縮性布帛を用いて袋の両端は弾力的で引張って広げた後、十分に回復することができる。伸縮性を有することにより、耐衝撃性や伸縮性にすぐれていて、風害又は収穫時に受け易い外傷から、果実や野菜を守る役割も果たす。形や大きさは使用目的に応じて決められる。
【0026】
また包み袋の色、および、繊維の太さ、編み目の目開きの大きさは果実が受ける太陽光の量と通風に関係するので、使用条件や収穫期に応じて繊維の色、および、太さと目開きの大きさを調整することが好ましい。
【0027】
樹上で果実の育成が行われるとき、害虫の飛来は果樹や果実の発する色とホルモン臭を指標にしているとされている。この場合においても、害虫の飛来を忌避する効果を高めるため、包み袋の色及び布帛の目付け量と目開きの大きさが決定される。色は害虫の飛来を忌避するために自然界に少ない黒色又は白色に着色したものがよい。
【0028】
包み袋に光触媒作用による害虫の忌避効果を一層高めるために、編み地を使った場合、網目の目開きは小さいほうが良い。果実の種類によって最適な目開きを採用する必要があるが、たとえば、中晩柑類果実では目開きは3mm以下、望ましくは1mm以下にするのがよい。上述の包み袋をデコポンミカンの育成に使用した場合、使用しない場合に比べ、色班を防ぎ、良好な光沢を有し、着色促進効果がいちじるしく、糖分も優れた果実が得られている。
【0029】
次にチタン酸化物系光触媒について説明する。光触媒は、紫外線を受けて、触媒表面に強力な酸化還元電位を励起し、サイズの大きい花粉をはじめカビ菌や病原菌、更には、微小なウイルス類をも分解したり無力化したりすることが出来るとして注目されている環境材料の一つである。したがって、太陽光の下では、紫外線を受けたチタン酸化物等からなる光触媒による抗カビ、抗菌効果が提供される。本発明では、チタン酸化物系光触媒を包み袋を形成する布帛の繊維に担持し、包み袋に防カビおよび抗菌機能を持たせている。
【0030】
他種の光触媒を使用した場合、強い太陽光の下では、光触媒を担持する繊維も光触媒の影響により光分解を受け繊維を脆化させてしまう恐れがあることから、本発明においては光触媒としてチタン酸化物系光触媒を用いる。
【0031】
チタン酸化物系光触媒としては、二酸化チタンに代表されるチタンの酸化物が使用できる。なかでも、アパタイト被覆型酸化チタンと呼ばれるリン酸カルシウムなどの無機物を酸化チタン表面に被覆せしめたものや、チタンとケイ素とを複合酸化物の状態にせしめた光触媒を本発明の構成に用いることは、触媒の固体表面にチタンなどの触媒がむき出しになっていない分、適度な光触媒作用の制御が可能となり、担持している繊維を分解しにくくなるため好ましい態様である。
【0032】
通常のチタン酸化物系光触媒は、紫外光の少ない場所、曇天、雨天や光の少ないところ、または、暗所では光触媒の効果を十分に利用出来ない場合もある。生育時の場合果実類が病害を受け易いのは、太陽光が少なく気温の低い多雨の季節であった。
【0033】
したがって、光触媒として、波長500nm以下の可視光域の領域でも光触媒作用が発揮される酸素欠損型チタン酸化物、酸素の一部を窒素で置換した窒化チタン酸化物、または、ブルッカイト型ナノチタン酸化物を用い、紫外線以外に可視光でも光触媒効果を示す触媒を使用することも好ましい。このように、紫外線や可視光線で働く光触媒を用いて、樹上での育成中、および、収穫後の保存と流通時において紫外線の少ない環境下にあっても可視光による光触媒機能を利用できる。
【0034】
これらの可視光応答型チタン酸化物光触媒の光触媒機能を飛躍的に向上させるため、チタン酸化物の表面に微量の銀粒子を担持させることも好ましい。銀は電子を当該チタン酸化物に供与しn型半導体としての機能を向上させるとともに銀の表面は正の電気分極を受けて触媒分解力を大幅に向上させる。このために、チタン酸化物の粒子径が約10nmに対してAgのサイズは数nm、望ましくは約1nmが良い。
【0035】
本発明においては、チタン酸化物系光触媒以外の光触媒を併用することができる。このような触媒としてはWO3、SnO2等が例示することができる。
【0036】
本発明においては、光の無い環境でも防カビ又は防菌機能を有するセラミックス触媒をさらに布帛に担持させる。光の無い環境下でも防カビと抗菌機能を発揮するものとして、アルミのケイ酸塩であるゼオライト、中でも酸化銀と酸化亜鉛を担持させて得られる塩基性AgZnゼオライトを用いるのが好ましい。AgZnゼオライトは、アルミのケイ酸塩の結晶が囲む中心部にあるホールにAg2OやZnOを格納した構造を持つため、防カビと抗菌作用を与えるAg2OやZnOがアルミのケイ酸塩を介して周囲に、穏やかで確実な防カビおよび抗菌作用を与える。
【0037】
AgとZnの組成比(元素比)は任意であるが、Ag原子1に対しZn原子0.05以上の比となるのが好ましく、Ag原子1に対しおよそZn原子1の比であれば更に好ましい。
【0038】
AgZnゼオライトは微小な結晶を作成しにくく経済性良く得られる最少サイズは2μ m程度である。より小さい微粒子が得られるならばサブミクロン以下のものが望ましい。得られたAgZnゼオライトは、酸、アルカリ条件下でも、抗カビ抗菌効果は低下しないで、自然環境下における耐用年数が十分長くなるものが得られた。
【0039】
AgZnゼオライトは、抗カビ・抗菌剤として広範囲の防カビ・抗菌スペクトルをもち、カビ類や病原菌類を無力化して増殖を防止する能力に優れている。代表的な菌類である大腸菌、緑膿菌、黄色ブドウ球菌、黒コウジカビに対する生物活性限界M.I.C.は数100〜500ppmである。安全性の面では、Ag2OやZnOは化粧品を始め多くの製品に使われていて人体への影響は無視できるとされている。AgZnゼオライトの急性毒性はLD50(経口ラット)は5000mg/kg以上であり、変異原生試験では異常が認められていない安全性の高い抗菌剤である。
【0040】
AgZnゼオライトのM.I.C.値は、強力な工業用防カビ剤に比べて100倍以上大きく、防カビ効果は必ずしも十分ということが出来ない。しかし、農業用防カビ効果や抗菌効果は遅効性で十分であり、強力な防カビ・抗菌特性を必要としていないのと、前述の光触媒との併用効果により顕著な効果が提供される。
【0041】
本願に開示した光がない環境下で防カビ・抗菌用を与えるAgZnゼオライトの代わりに、Cuゼオライト、チアベンダゾール、バイナジン、プレベントール等の防カビ薬を用い、防カビ効果を上げることが出来るので、果樹や野菜等の食品以外への使用のためならば、これら薬剤の使用を除外するものではない。しかし、安全衛生上の問題からこれら薬剤の利用を避けることが望ましい。
【0042】
本発明で用いる果実用や野菜用の防カビ効果や抗菌効果は、時間をかけて保護するのが目的であり、強力な防カビ・抗菌特性は必要でなく、遅効性で十分その機能を発揮することが出来るのである。このように、光触媒による強力な害虫忌避作用、防カビ、および、抗菌作用に加えて、穏やかではあるが、補助的に光のない環境下でも防カビ、および、抗菌作用を持つセラミック触媒AgZnゼオライトを用いて、光触媒の機能が低下した状態でも、ハイブリッド効果によって果実類や野菜類に対し優れた保護効果を得るものである。
【0043】
かかる光触媒やセラミック触媒を布帛の繊維に担持させる際、実使用において風雨などに晒された場合の耐久性を向上させる意味で、バインダー樹脂を介して繊維に担持させておくことも好ましく行われる。この際のバインダー樹脂としては被膜物性が強いもので有れば特に限定されるものではないが、中でもシリコーン系バインダー樹脂、フッ素系バインダー樹脂、アクリル系バインダー樹脂、メラミン系バインダー樹脂およびポリウレタン系バインダー樹脂から選ばれた少なくとも1種以上のバインダー樹脂を用いることが実用上の点からは好ましく、このうちシリコーン系バインダー樹脂、および/またはフッ素系バインダー樹脂を用いる場合、得られた布帛または包み袋が撥水性という更なる付加機能をも有するという点で特に好ましい。
【0044】
本発明でバインダー樹脂を使用する場合、バインダー樹脂は、上に述べたチタン酸化物系光触媒と光の無い環境でも防カビ又は防菌機能を有するセラミックス触媒との合計重量に対し1:10〜10:1の重量比で用いることが好ましい。
【0045】
本発明においては、チタン酸化物系光触媒とセラミックス触媒のハイブリッド効果を用いることにより、晴天時、紫外線や光の無い夜間、雨天、曇天及び室内においても害虫忌避、カビ菌や病原菌の無力化、腐敗の抑制・防止効果が得られ、乾燥時、降雨時、高温時、低温時を通して耐候性に優れ且つ経済性に優れた果実保護用包み袋を提供することができる。
【0046】
さらに果実類に限定されず、本発明の包み袋の機能は、メロン、トマト、イチゴ、キャベツ、および、白菜等野菜類に用いて、野菜類の育成、収穫、熟成、貯蔵、および、流通を通して、野菜類を食害、虫害、被病、腐敗、外傷等から保護し、殺虫剤や農薬の使用を大はばに低減することができる。
【0047】
上に述べたチタン酸化物系光触媒と光の無い環境でも防カビ又は防菌機能を有するセラミックス触媒との布帛への付着量の和は、下の方としては0.01重量%以上、0.05重量%以上の順に好ましく、一方、上の方としては5重量%以下、1重量%以下、さらに0.5重量%以下の順に好ましい。
【0048】
チタン酸化物系光触媒と光の無い環境でも防カビ又は防菌機能を有するセラミックス触媒との混合比は、前記2種の和に対するチタン酸化物系光触媒の量が、下の方としては10重量%以上、20重量%以上、30重量%以上、さらに40重量%以上の順に好ましく、一方上の方としては、90重量%以下、80重量%以下、70重量%以下、さらに60重量%以下の順に好ましい。
【0049】
さらに、セラミックス触媒としてAgZnゼオライトとを利用した場合、チタン酸化物系光触媒とAgZnゼオライトとの混合比は、前記2種の和に対するチタン酸化物系光触媒の量が、下の方としては10重量%以上、20重量%以上、30重量%以上、さらに40重量%以上の順に好ましく、一方上の方としては、90重量%以下、80重量%以下、70重量%以下、さらに60重量%以下の順に好ましい。
【0050】
このようにして、太陽の光照射を受ける紫外線と強い可視光が得られる環境下では、光触媒による害虫忌避効果、防カビ、および、抗菌効果を発揮させ、紫外線や光のない環境下では、AgZnゼオライトからなるセラミックス触媒により防カビ、および、抗菌効果 を発揮するという優れたハイブリッド効果を実現したものである。
【0051】
本願開示になる包み袋は、果実が樹上にあっては成長を保護し、収穫後は熟成期間や保存期間、及び、流通期間における腐敗を抑制し、長期にわたって優れた果実保護用の機能を提供するものである。また、当該包み袋は、繰り返し利用することが出来るので、経済性にも優れている。太陽光が得られ豊富な光が得られるときは、チタン酸化物光触媒により、繊維から数mm程度離れた位置まで害虫に忌避効果を与え、飛来するカビ菌や病原菌を無力化する。光が得られない状況下では、チタン酸化物光触媒と略同量が繊維上に担持されているAgZnゼオライトにより、カビ菌と病原菌が穏やかに無力化される。
【0052】
このように包み袋にチタン酸化物系光触媒とAgZnゼオライトセラミックス触媒を複合的に担持し、ハイブリッド効果をあげることにより、当該包み袋は果実類の、成長、摘果、塾成、保存、出荷、販売を通して害虫、被病、腐敗、加傷防止について全環境下で有効に利用できる。
【0053】
また育成中の、野菜類であるメロンやトマトに当該包み袋を被せておくことにより害虫の飛来を防ぎ、病原菌による発病を大きく低減できる。また、キャベツや白菜を当該包み袋で覆って栽培すると虫害や病害を大幅に減らすことができる。
【0054】
以上述べたように、包み袋は野菜の育成と保護に利用して、殺虫剤や殺菌剤等農薬の使用を大きく低減することが出来る上に、保存や流通機構での保護にも有用である。
【実施例】
【0055】
<実施例1>
167dtex−48fのポリエステルフィラメントからなる東レ(株)製“テトロン”嵩高加工糸を市販の筒編機を用いて巾7.2cmの筒状編地とし、この編地に5〜20cm間隔の捻れを与えた上で高圧型のパッケージ染色機内に詰め込みDystar社製“タキシードBlack F conc”(黒色分散染料)を用い、浴比1:10で130℃で30分間染色し、次いでこれを取り出し12cmの長さにカットし、編み物である袋を製造した。この袋は、耐久性のある適度なシワと捻れを有しており、またストッキング素材のように伸縮性に富んでおり、直径10cmほどのデコポンミカンを楽に収容できるサイズであった。また袋の両端は特に収縮性に富んだものであった。デコポンミカンを収容したときの網目の大きさは約1mmとなるものであった。
【0056】
光触媒について説明する。純水50mlに硝酸銀5gを溶解し、硝酸銀溶液をつくり、硝酸銀溶液を攪拌しながらアンモニア水20mlを加えてアンモニア銀錯体溶液を作成した。可視光応答型のチタン酸化物として、昭和タイタニウム(株)製Brookite型の“ナノチタニアNTB−210”、粒径約10nm、500gを4Lの純水に加え攪拌して、先に調整したアンモニア銀錯体溶液と混合・攪拌して、酸化チタンアンモニア銀溶液を得た。次に、5%ブドウ糖溶液を添加し50℃に過熱・攪拌し、60分後、チタン酸化物上に、還元反応によりAg粒子の析出した可視光応答型Ag担持チタン酸化物系光触媒(Ag/TiO2)を得た。
【0057】
AgZnゼオライトとして粒径2μmのカネボウ化成(株)製“バクテキラーBM−102NSC”を用いた。
【0058】
東レ・ダウコーニングシリコーン(株)製シリコーン“SD−8000”を20重量%、イソシアネート系硬化剤5重量%、トルエン55重量%の溶液に、Ag担持チタン酸化物系光触媒10重量%とAgZnゼオライト粉末(“バクテキラーBM−102NSC”)10重量%を加えて、攪拌してコーティング液とした。前述の編み袋をこのコーティング液に含浸し、マングロールで絞液して乾燥した後、170℃で加熱しキュアーリングし目的とする包み袋を得た。このようにして得られた包み袋のAg担持チタン酸化物系光触媒およびAgZnゼオライトの付着量は包み袋を構成する布帛の重量に対し各々0.1重量%であった。
【0059】
<実施例2>
167dtex−48fのポリエステルフィラメントからなる東レ(株)製“テトロン”嵩高加工糸を市販の筒編機を用いて巾7.2cmの筒状編地とし、この編地に5〜20cm間隔の捻れを与えた上で高圧型のパッケージ染色機内に詰め込み、Dystar社製“タキシードBlack F conc”(黒色分散染料)を用いて浴比1:10で130℃で30分間染色する際、染浴に、大京化学(株)製“TR−T2”(チタンとケイ素の複合酸化物からなるチタン酸化物系光触媒の20wt%水分散液)および同社製“KB−1”(カネボウ化成(株)製のAgZnゼオライト系抗菌剤“バクテキラー”の20wt%水分散液)、明成化学工業(株)製“アサヒガードAG−7000”(フッ素系バインダー樹脂)を、それぞれ1%owf.混合して染色同時処理を行った。
【0060】
次いでこれを取り出し12cmの長さにカットし、編み物である袋を製造した。このようにして得られた包み袋のチタン酸化物系光触媒およびAgZnゼオライトの付着量は 包み袋を構成する布帛の重量に対し各0.2重量%であった。
【0061】
<実施例1および2の評価>
次に、実施例1および実施例2で得られた包み袋の性能を果実用の包み袋として評価した。
【0062】
まず、害虫忌避効果の評価法について説明する。入り口を開放した包み袋内に入れたイチゴと裸のイチゴ、及び、数匹のカメムシを容器に入れ、太陽光が当たるところに放置してカメムシの行動を観測した。その結果、カメムシは裸のイチゴに集まるが実施例1および実施例2で得られた包み袋の内部に置いたイチゴには近寄らないことが認められた。太陽光を直接受けない日影における忌避行動では、入り口を閉じることにより包み袋による飛来妨害効果が認められた。
【0063】
育成中のキャベツの株から上の部分を収穫前1ヶ月間、実施例1および実施例2で得られた包み袋ですっぽり覆っておいた。包み袋を被せなかった株は虫類による食害が見られたが、実施例1および実施例2で得られた包み袋で覆った株では食害が見られなかった。
【0064】
防カビ効果は、室内光下、JIS Z2911のカビ抵抗性試験評価法で判定した(判定「0」のものを合格とする)。
0 : 試験片の接種した部分に菌糸の発育がほとんど認められない。
1 : 試験片の接種した部分に認められる菌糸の発育部分の面積は、全面積の1/3を超えない。
2 : 試験片の接種した部分に認められる菌糸の発育部分の面積は、全面積の1/3を超える。
【0065】
また抗菌効果に関しては、試験菌種として黄色ぶどう球菌(Staphylococcus aureus)を用い、室内光下、JISL1920 b)定量試験法 に準じて評価を行った(静菌活性値2.2以上を合格とする)。その結果、実施例1および実施例2で得られた包み袋には良好な抗菌、防カビ効果が認められた(表1)。
【0066】
次に洗濯に対する耐久性評価について説明する。果実用包み袋の害虫忌避、防カビ、抗菌機能は、経済性を考慮して繰り返し使用出来ることが望ましい。そこで家庭洗濯5回前後の包み袋の染色、害虫忌避、抗カビ、抗菌性能を、耐洗濯性として評価した。
【0067】
洗濯処理は、JISL0217 103法に準拠して行った。耐洗濯性試験からは、5回の繰り返し洗濯後も、良好な抗菌、防カビ性能が維持されることがわかった(表1)。また光が得られない暗所の条件下での同様の試験により、AgZnゼオライトに期待される 抗菌、防カビ性が維持されることもわかった(表1)。
【0068】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は農業および繊維産業に関係し、果実類又は野菜類の生育時、食害、虫害、カビや病害菌による被害を防止し、また収穫後の熟成や、保管又は流通時の腐敗、外傷を軽減することができる。またこの包み袋は布帛を使用しているため繊維産業にも利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
布帛を支持体とする包み袋であって、チタン酸化物系光触媒と、光の無い環境でも防カビ又は防菌機能を有するセラミックス触媒とを布帛の繊維に担持させたことを特徴とする包み袋。
【請求項2】
該チタン酸化物系光触媒がチタンとケイ素の複合酸化物光触媒またはアパタイト被覆型酸化チタン光触媒のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の包み袋。
【請求項3】
該チタン酸化物系光触媒が可視光応答型のチタン酸化物系光触媒であることを特徴とする請求項1に記載の包み袋。
【請求項4】
該チタン酸化物系光触媒が酸素欠損型チタン酸化物、酸素の一部を窒素で置換した窒化チタン酸化物、または、ブルッカイト型ナノチタン酸化物である請求項1に記載の包み袋。
【請求項5】
光の無い環境でも防カビ又は防菌機能を有するセラミックス触媒がAgZnゼオライトである請求項1〜4いずれかの包み袋。
【請求項6】
チタン酸化物系光触媒およびセラミックス触媒がバインダー樹脂に担持されていることを特徴とする請求項1〜5いずれかの包み袋。
【請求項7】
バインダー樹脂が、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、アクリル系樹脂、メラミン系樹脂およびポリウレタン系樹脂から選ばれた少なくとも1種以上である請求項6記載の包み袋。
【請求項8】
布帛を構成する繊維がナイロン又はポリエステルを含有することを特徴とする請求項1〜7いずれかに記載の包み袋。
【請求項9】
布帛が伸縮性を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の包み袋。
【請求項10】
撥水性を有することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の包み袋。
【請求項11】
果実または野菜を包装又は覆う目的である請求項1〜10いずれかに記載の包み袋。
【請求項12】
請求項11記載の包み袋を用いて、樹上で育成中の果実又は野菜を、包装または覆うことにより、該果実類または野菜類の食害、虫害、病害又は外傷を抑制することを特徴とする果実または野菜の保護方法。
【請求項13】
請求項11記載の包み袋を用いて、収穫作業中、収穫後、または流通時の果実類または野菜類を包装、または覆うことにより、該果実類または野菜類の防虫、腐敗の防止、および外傷を抑制することを特徴とする果実または野菜の保護方法。

【公開番号】特開2006−112017(P2006−112017A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−302904(P2004−302904)
【出願日】平成16年10月18日(2004.10.18)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(592251190)東洋殖産株式会社 (1)
【Fターム(参考)】