説明

包括固定化担体の保管方法及び製造方法

【課題】担体ブロックを安定して保管及び運搬することができ、且つ品質安定性の高い包括固定化担体を得ることができる。
【解決手段】
固定化材料内に微生物を包括固定した包括固定化担体30を、処理槽で使用するまでの保管方法において、包括固定化担体を使用する時までは、包括固定化担体の使用サイズに切断する前の大きなサイズの担体ブロック28の状態で、15℃以下の水中又は相対湿度90%以上で温度15℃以下の大気中に保管する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包括固定化担体の保管方法及び製造方法に係り、特に、窒素除去を目的とした廃水処理に適した包括固定化担体の保管方法及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下水、工場廃水、農業廃水中などの廃水処理方法として、生物学的手法は物理化学的手法と比較して安価なことから幅広く適用されており、代表的なものとして下水に適用されている活性汚泥法がある。しかし、廃水の有機物除去や窒素除去に大きく関与する活性汚泥内の硝化細菌のような増殖速度の遅い微生物は、十分に増殖しないうちに反応槽外へ流出してしまうため、特に、低水温時においては反応速度が著しく低下して水質悪化の要因となる。このことから、硝化細菌等の微生物を処理槽内に高濃度且つ安定に保持する方法として、樹脂系及びプラスチック担体に微生物を付着固定させた付着型担体を用いた廃水処理方法(例えば、特許文献1及び2)や、生物活性炭による上水処理方法(例えば、特許文献3及び4)等が実用化されている。また、硝化細菌等の微生物を固定化材料内に包括固定化する包括固定化担体を製造し、この包括固定化担体を廃水処理槽に充填して硝化細菌の濃度を高めた廃水処理方法が行われている。
【0003】
しかし、上記の付着型担体を用いた廃水処理方法では、付着した微生物の剥離や目的とする硝化細菌等の微生物とは異なる微生物が担体に付着するため、十分に目的とする微生物を保持することが困難であった。一方、上記の包括固定化担体を用いた廃水処理方法では、目的とする微生物を担体内で馴養できるため、担体内で高濃度に微生物を保持させることが可能となり、これにより廃水処理の高速化が可能となった。
【0004】
このような包括固定化担体は、チューブ成形法、滴下造粒法、シート成形法などによって製造される。チューブ成形法は、微生物と高分子材料の混合物を数ミリ径のビニルチューブ内に注入して重合させながら押し出し、これを一定長さに切断して円柱状の担体を製造する方法である。この方法は、形状精度が高い担体が得られる反面、大量生産には適さない。また滴下造粒法は、微生物と高分子材料の混合物を別の液体内に滴下し、球形の担体を製造する方法である。この方法は、大量生産は容易であるが、粒径がばらつくといった問題がある。また、シート成形法は、微生物と高分子材料の混合物をシート状にし、細かく切断することによって、角型の担体を製造する方法である(例えば、特許文献5)。この方法は形状精度が高く、大量生産にも適した方法であることから、大量の担体が必要となる廃水設備では、シート成形法で包括固定化担体を製造することが多い。
【0005】
しかし、一般的に空気中の酸素はラジカルと反応をすることから、固定化材料が空気と接触することは、固定化材料の固定化を阻害する要因の一つとなる。シート成形時においては、固定化材料と空気との接触面積が大きいことから、重合が不安定になることによる担体強度の低下や、未重合材料の残存に伴う包括固定化担体投入時のCODの流出等の問題があった。
【0006】
これらを解決するための手段として、本発明者らは、現在、ブロック成形法を出願中である。このブロック成形法とは、略立方体又は直方体の成型枠に微生物と固定化材料(高分子材料)の混合液を注入して固定化することで、固定化材料の空気との接触面積を少なくする方法である。これにより、固定化材料の空気との接触による担体強度の低下やばらつき、未重合材料の残存等を抑制することが可能となる。
【0007】
このような包括固定化担体は、通常、製造工場(造粒工場)において、シート状やブロック状に成形された担体を略3mm角状に切断することによって造粒され、この包括固定化担体を投入する処理槽まで保管及び運搬されている。
【特許文献1】特開2002−159985号公報
【特許文献2】特開2004−41981号公報
【特許文献3】特開2003−200183号公報
【特許文献4】特開平10−290992号公報
【特許文献5】特開2003−235553号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来の包括固定化担体の保管及び運搬方法では、相互に接触しあう包括固定化担体同士が接着して団子状に固まりやすく、廃水処理効率の低下を招く一因となっていた。このため、包括固定化担体と略同量の水中に包括固定化担体を浸漬させた状態で運搬する必要があり、必要な包括固定化担体重量の約2倍量を運搬しなければならず、作業負荷が大きいという問題があった。
【0009】
また、上記したような保管及び運搬時の作業負荷を軽減させるべく、切断してペレット化する前の担体ブロックのまま通常の大気中で長時間保管及び運搬しようとすると、担体ブロックの外部のみが乾燥し、担体ブロックの内部と外部との含水率に差が生じて担体ブロックが変形することが問題であった。また、担体ブロック内部で微生物の活性が高まって、メタンや硫化水素等が発生して担体ブロック内部に亀裂が入ったりし、包括固定化担体を切断する際に形状や品質にばらつきが生じるという問題もあった。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みて成されたもので、担体ブロックを安定して保管及び運搬することができ、且つ品質安定性の高い包括固定化担体を得ることができる包括固定化担体の保管方法及び製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の請求項1は前記目的を達成するために、固定化材料内に微生物を包括固定した包括固定化担体を、処理槽で使用するまでの保管方法において、前記包括固定化担体を使用する時までは、前記包括固定化担体の使用サイズに切断する前の大きなサイズの担体ブロックの状態で、15℃以下の水中又は相対湿度90%以上で温度15℃以下の大気中に保管することを特徴とする包括固定化担体の保管方法を提供する。
【0012】
本発明者らは、従来のように、あらかじめ切断してペレット化した包括固定化担体を保管及び運搬するのではなく、包括固定化担体を使用する時まで、ペレット化する前の担体ブロックのまま保管及び運搬することにより、包括固定化担体を保管及び運搬する時の作業負荷を軽減できることに注目した。
【0013】
さらに、本発明者らは、担体ブロックをより安定に保管する方法及び条件について鋭意検討した結果、担体ブロックを安定して保管及び運搬することができ、且つ品質安定性の高い包括固定化担体を得られる保管方法及び条件を見出した。
【0014】
本発明によれば、包括固定化担体を使用する時までは、包括固定化担体の使用サイズに切断する前の大きなサイズの担体ブロックの状態で、15℃以下の水中又は相対湿度90%以上で温度15℃以下の大気中に保管する。
【0015】
これにより、担体ブロックの保管時に、担体ブロックの表面が乾燥して担体ブロックの内部と表面とで含水率に差が生じて変形したり、担体ブロックの内部からガスが発生して担体ブロックの内部に亀裂が入ったりする等の不具合が生じにくく、包括固定化担体を切断する際に形状や品質にばらつきが生じることを抑制できる。また、水中で保管する際も、従来よりも大幅に使用する水量を低減できる。
【0016】
ここで、担体ブロックとは、固定化材料内に微生物を包括固定したブロック状の担体であり、包括固定化担体に切断してペレット化する前のものである。また、担体ブロックの形状は、主には略直方体又は立方体であるが、円筒状等のその他の形状でもよい。 また、相対湿度とは、室温(約20℃)での相対湿度である。
【0017】
請求項2は請求項1において、前記担体ブロックが略直方体であると共に、前記担体ブロックの縦:横:深さの比が、1:1:1〜1:1:20であることを特徴とする。
【0018】
本発明者らは、担体ブロックの保管条件を各種検討した結果、適切な担体ブロックの大きさ及び形状の範囲を見出し、これにより、品質安定性の高い包括固定化担体を得ることが可能となった。
【0019】
すなわち、請求項2によれば、担体ブロックが略直方体であると共に、担体ブロックの縦:横:深さの長さの比が、1:1:1〜1:1:20の範囲であれば、担体ブロックを切断してペレット化するときに担体ブロックにかかる圧力を比較的均一にすることができ、さらに運搬等の作業性が向上する。なお、担体ブロックの縦:横:深さの長さの比が、1:1:3〜1:1:7の範囲が好ましい。
【0020】
請求項3は請求項1又は2において、前記担体ブロックの底面の縦:横の比が、50mm:50mm〜150mm:150mmの範囲であると共に、前記担体ブロックの体積が0.12L〜22.5Lの範囲であることを特徴とする。
【0021】
請求項3によれば、担体ブロックの底面の縦:横の比が、50mm:50mm〜150mm:150mmの範囲であると共に、担体ブロックの体積が0.12L〜22.5Lの範囲であれば、例えば、担体ブロックの内部が嫌気状態になることでのガス発生による担体ブロック内部での亀裂の発生を抑制でき、且つ生産性を低下させることがない。
【0022】
したがって、担体ブロックを安定して保管及び運搬することができ、且つ品質安定性の高い包括固定化担体を得ることができる。なお、担体ブロックの体積が2.4L〜7.3Lの範囲であることが好ましい。
【0023】
本発明の請求項4は前記目的を達成するために、固定化材料内に微生物を包括固定した包括固定化担体の製造方法において、前記微生物と前記固定化材料とを混合した混合液を重合させてゲル化することにより、前記包括固定化担体の使用サイズよりも大きなサイズの担体ブロックを形成し、前記包括固定化担体の使用時まで前記担体ブロックを、15℃以下の水中又は相対湿度90%以上で温度15℃以下の大気中に保管し、前記包括固定化担体の使用時に、保管した担体ブロックを前記使用サイズに切断して包括固定化担体を製造することを特徴とする包括固定化担体の製造方法を提供する。
【0024】
本発明によれば、微生物と固定化材料とを混合した混合液を重合させてゲル化することにより、包括固定化担体の使用サイズよりも大きなサイズの担体ブロックを形成し、包括固定化担体の使用時まで担体ブロックを、15℃以下の水中又は相対湿度90%以上で温度15℃以下の大気中に保管し、包括固定化担体の使用時に、保管した担体ブロックを使用サイズに切断して包括固定化担体を製造するので、担体ブロックを安定して保管及び運搬することができ、且つ品質安定性の高い包括固定化担体を得ることができる。
【0025】
請求項5は請求項4において、前記担体ブロックが、略直方体形状の成型枠内において前記微生物と前記固定化材料とを混合した混合液を重合させてゲル化することにより作製されると共に、前記成型枠内の縦:横:深さの比が、1:1:1〜1:1:20であることを特徴とする。
【0026】
請求項5によれば、担体ブロックが、略直方体形状の成型枠内において微生物と固定化材料とを含む混合液を重合させてゲル化することにより作製されると共に、成型枠内の縦:横:深さの比が、1:1:1〜1:1:20であるので、請求項2の担体ブロックを作製できる。したがって、担体ブロックを安定して保管及び運搬することができ、且つ品質安定性の高い包括固定化担体を得ることができる。なお、成型枠内の縦:横:深さの比が、1:1:3〜1:1:7の範囲であることが好ましい。
【0027】
請求項6は請求項4又は5において、前記成型枠内の底面の縦:横の長さが、50mm:50mm〜150mm:150mmの範囲であると共に、前記担体ブロックの体積が0.12L〜22.5Lの範囲であることを特徴とする。
【0028】
請求項6によれば、請求項3の担体ブロックを製造することができ、これにより、担体ブロックを安定して保管及び運搬することができ、且つ品質安定性の高い包括固定化担体を得ることができる。
【0029】
請求項7は請求項4〜6の何れか1において、前記担体ブロックを格子状に切断した後、格子状に切断された前記担体ブロックを、1mm〜10mm角の略立方体状に切断して包括固定化担体を製造し、処理槽内へ投入することを特徴とする。
【0030】
請求項7によれば、担体ブロックを格子状に切断した後、格子状に切断された担体ブロックを略立方体状に切断して1mm〜10mm角の略立方体状の包括固定化担体を製造し、処理槽内へ投入するので、これにより、担体ブロックを安定して保管及び運搬することができ、且つ品質安定性の高い包括固定化担体を得ることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、担体ブロックを安定して保管及び運搬することができ、且つ品質安定性の高い包括固定化担体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、添付図面に従って、本発明に係る包括固定化担体の保管方法及び製造方法の好ましい実施の形態について説明する。
まず、本実施形態における包括固定化担体を製造するための各種装置(図1及び図2)の構成について説明する。
【0033】
図1は、担体ブロックの製造装置10の構成を説明する図である。
【0034】
図1に示されるように、担体ブロックの製造装置10は、主に、原料が貯留された原料槽12と、薬品が貯留された薬品槽14、22と、原料と薬品を混合する攪拌・押出装置20と、混合液を重合して担体ブロック28を製造する成型枠26と、を備えている。
【0035】
原料槽12は、原料となる微生物(活性汚泥等)が貯留されている。また、薬品槽14には固定化材料等の薬品が貯留されており、薬品槽22には重合開始剤等の薬品が貯留されている。
また、ポンプ16、18、24は、原料槽12の原料、薬品槽14の薬品、薬品槽22の薬品を、攪拌・押出装置20に導入する駆動手段であり、原料槽12、薬品槽14、22と、攪拌・押出装置20との間にそれぞれ設けられている。これにより、包括固定化担体を製造する原料となる混合液を、攪拌・押出装置20において混合し、成型枠26へ押し出せるようになっている。
【0036】
成型枠26は、攪拌・押出装置20から押し出された混合液をその内部で重合させる容器である。この成型枠26は、混合液の重合反応を促進させるための加熱手段が設けられることが好ましい。
【0037】
成型枠26の内部は、底面は横:縦の比が、50mm:50mm〜150mm:150mmの範囲で調整可能となっていることが好ましい。
固定化する微生物としては、活性汚泥中に含まれる細菌群で、硝化細菌群、脱窒細菌群、嫌気性アンモニア酸化細菌群等の複合微生物を用いることができる。また、対象微生物の固定化初期濃度を高めるため、活性汚泥濃度は、10000mg−ss/L〜40000mg−ss/Lであることが好ましい。また、アオコ分解菌、PCB分解菌、ダイオキシン分解菌、環境ホルモン分解菌等の純粋微生物等、を用いることもできる。
【0038】
上記微生物は、培養によって濃縮分離されたものの他に、下水処理場の活性汚泥、湖沼、河川や海の汚泥、土壌などの各種の微生物を含む微生物含有物等も含まれる。上記固定化材料としては、以下のものが使用できるが、これらに限定されない。
(モノメタクリレート類)ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、メトキシジエチレングリコールメタクリレート、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート、メタクリロイルオキシエチルハイドロジェンフタレート、メタクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネート、3クロロ2ヒドロキシプロピルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、2ヒドロキシメタクリレート、エチルメタクリレート等。
(モノアクリレート類)2ヒドロキシエチルアクリレート、2ヒドロキシプロピルアクリレート、イソブチルアクリレート、tブチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、イソボルニルアクリレート、シクロへキシルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、2エトキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコールアクリレート、ノニルフェノキシポリプロピレングリコールアクリレート、シリコン変性アクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、アクリロイルアキシエチルハイドロジェンサクシネート、ラウリルアクリレート等。
(ジメタクリレート類)1,3ブチレングリコールジメタクリレート、1,4ブタンジオールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ブチレングリコールジメタクリレート、ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ポリプレングリコールジメタクリレート、2ヒドロキシ1,3ジメタクリロキシプロパン、2,2ビス4メタクリロキシエトキシフェニルプロパン、3,2ビス4メタクリロキシジエトキシフェニルプロパン、2,2ビス4メタクリロキシポリエトキシフェニルプロパン等。
(ジアクリレート類)エトキシ化ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、1,6ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2,2ビス4アクリロキシヒエトキシフェニルプロパン、2ヒドロキシ1アクリロキシ3メタクリロキシプロパン等。
(トリメタクリレート類)トリメチロールプロパントリメタクリレート等。
(トリアクリレート類)トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパンEO付加トリアクリレート、グリセリンPO付加トリアクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート。
(テトラアクリレート類)ペンタエリスリトールテトラアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、プロポキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート等。
(ウレタンアクリレート類)ウレタンアクリレート、ウレタンジメチルアクリレート、ウレタントリメチルアクリレート等。
(その他)アクリルアミド、アクリル酸、ジメチルアクリルアミド等。
【0039】
上記の固定化材料は、一種類又は二種類以上を組み合わせて使用してもよい。本実施形態では、分子量4000以上のプレポリマを使用することが好ましい。
固定化材料の濃度は、包括固定化担体の質量に対して3質量%〜10質量%であることが好ましい。また、固定化材料は、水で調製した固定化材料溶液として用いられることが好ましい。
【0040】
また、本実施形態における重合は、過硫酸カリウムを用いたラジカル重合が最適であるが、紫外線や電子線を用いた重合やレドックス重合でもよい。過硫酸カリウムを用いた重合では、過硫酸カリウムの添加量は、0.001質量%〜0.25質量%の範囲であることが好ましく、重合促進剤の添加量は、0.001質量%〜0.5質量%の範囲であることが好ましい。重合促進剤としては、βジメチルアミノプロピオニトリル、NNN’N’テトラメチルエチレンンジアミン、亜硫酸ソーダ等を用いることが好ましい。
次に、上記の担体ブロック28を切断して、包括固定化担体30を製造するための担体ブロックの切断装置50について説明する。
【0041】
図2は、担体ブロックの切断装置50を説明する図である。
【0042】
図2に示されるように、担体ブロックの切断装置50は、主に、担体ブロック28を固定しながら搬送する搬送手段62及び押出板64と、格子状切断刃66A、66Bと、回転状切断刃68と、を備えている。
【0043】
搬送手段62及び押出板64は、担体ブロック28を格子状切断刃66A、66Bへ、所定の速度で押し出すように構成されている。搬送手段62及び押出板64の具体的な例としては、ボールねじ機構やシリンダ機構等の搬送速度の制御が可能な搬送手段により、押出板が可動するようになっている。
【0044】
格子状切断刃66A、66Bは、それぞれ所定間隔毎に切断刃が格子状に複数設けられている。図2の格子状切断刃66Aと格子状切断刃66Bとは、相互に2次元的に直交する方向に複数段に配置されている。
格子状切断刃66A、66Bとしては、ワイヤソーやカッター刃を格子状に組んだものを使用できる。また、本実施形態においては、3mm角の立方体形状の包括固定化担体30を製造するため、間隔が3mm程度の格子状切断刃を使用することが好ましい。
回転状切断刃68は、細い3mm程度の格子状に切断された担体ブロック28を、搬送方向に対して直交する方向に所定の回転速度で回転して、担体ブロック28を切断するものである。
【0045】
格子状切断刃66A、66B及び回転状切断刃68に用いられる切断刃は、厚さの薄いもの、例えば厚さ1mmのものが使用される。本実施形態では、包括固定化担体のサイズは、1mm〜10mm角の範囲であることが好ましい。
【0046】
また、本実施形態では、複数段にわたり設けた格子状切断刃と回転状切断刃を用いる例を挙げたが、格子状切断刃66は、相互に直交する網目状に組まれた網目状の切断刃を採用してもよいし、回転状切断刃68の替わりにギロチン式の切断刃を採用してもよい。
【0047】
次に、図1及び図2を用いて、包括固定化担体30を製造する方法について説明する。
まず、図1に示されるように、原料槽12内の原料(活性汚泥等)と薬品槽14内の薬品(固定化材料等)は、ポンプ16、18を駆動されることによって、混合されながら攪拌・押出装置20に送液される。次いで、攪拌・押出装置20に送液された混合液は、別の薬品槽22からポンプ24によって送液された薬品(重合開始剤等)と混合されて攪拌される。そして、成型枠26の中に押し出される。
【0048】
その後、20℃〜30℃に加熱された成型枠26内で、混合液の重合反応が進行し、ゲル化される。このとき、混合液は、固定化材料、水、活性汚泥、重合開始剤、重合促進剤等を含有している。10分〜60分間、重合反応が進み、ゲル化された担体ブロック28が製造される。その後、ゲル化された担体ブロック28は、成型枠26から取出される。
【0049】
その後、担体ブロック28は、図2の担体ブロックの切断装置50の固定ステージ65内で、搬送手段62により所定の搬送速度で搬送されながら、格子状切断刃66A、66Bにより格子状に切断される。次いで、格子状に切断された担体ブロック28は、回転状切断刃68により3mm角の略立方体状に切断され、包括固定化担体30が製造される。
【0050】
そして、包括固定化担体30は処理槽へ投入され、各種処理に使用される。
【0051】
以上の包括固定化担体の製造方法において、担体ブロック28を成形しながら、連続的に担体ブロック28を切断して包括固定化担体30を製造した後、大量の水に浸漬して保管及び運搬することも可能であるが、担体ブロック28の状態で保存し、必要なとき又は場所で必要な量だけ、例えば図2の切断装置50を用いて3mm角の略立方体状に切断する方が、作業効率上及び包括固定化担体の性能上好ましい。しかし、担体ブロック28のまま大気中で長期間放置すると、3mm角の略立方体状のばらつきの要因となる担体ブロック28内部からのガス発生や担体ブロック28の表面の乾燥による変形などの問題があることを確認した。
【0052】
本発明は、運搬時の作業負荷の軽減、及び包括固定化担体の品質安定性を向上させるために、ペレット化する前の担体ブロック28の状態で安定に保管及び運搬するようにしたことが特徴である。
【0053】
以下、本発明に係る担体ブロック28の保管方法の詳細について説明する。
【0054】
図3は、担体ブロック28を説明する斜視図である。図3において、符号Lは担体ブロックの底面の縦の長さを示し、符号Wは底面の横の長さを示し、符号Dは担体ブロック28の深さを示す。
【0055】
図3に示されるように、担体ブロック28は、主に、略直方体又は立方体の形状であり、縦(L):横(W):深さ(D)の比が1:1:1〜1:1:20の範囲であることが好ましく、1:1:3〜1:1:7の範囲であることがより好ましい。
すなわち、担体ブロック28の縦:横の長さの比が1:1であれば、担体ブロック28の切断時にかかる圧力を均一にすることができ、安定した3mm角の略立方体状に切断しやすくなる。また、担体ブロック28の縦横の長さに対して深さが大きすぎると、運搬時や切断装置50への投入時に破損しやすくなり、一方、深さが小さすぎると、生産能力の低下につながる等の不具合を生じるが、担体ブロック28が上記の範囲を満たす形状であれば、そのような不具合が生じにくい。
【0056】
また、担体ブロック28の底面の縦:横の比が、50mm:50mm〜150mm:150mmの範囲であると共に、担体ブロックの体積が0.12L〜22.5Lの範囲であることが好ましい。また、担体ブロックの体積が2.4L〜7.3Lであることがより好ましい。
【0057】
担体ブロック28の体積及び形状を上記の範囲とすることにより、生産性を低下させることなく取り扱いもしやすくなる。さらに、担体ブロック28の内部が嫌気状態になることでのガス発生による担体ブロック内部での亀裂の発生を抑制できる。
【0058】
また、担体ブロック28は、15℃以下の水中又は相対湿度90%以上で温度15℃以下の大気中に保管されることが好ましい。
【0059】
これは、担体ブロック28を通常の大気中に放置した場合、担体ブロック28の表面が乾燥し、担体ブロック28の内部と外部との含水率に偏りが生じ、これにより担体ブロック28が変形するためである。また、保管温度を15℃超にすると、担体ブロック28内の菌体活性が高まり、担体ブロック28の内部のガス発生を抑制するためである。
【0060】
なお、相対湿度は、室温(約20℃)における相対湿度である。
【0061】
このような相対湿度及び保管温度下で保管する方法としては、例えば、公知の恒温恒湿槽内で保管する方法、水分を含ませたスポンジ等と一緒に保管する方法、少量の水が入れられた水槽内で保管する方法等を採用できるが、これに限定されない。
以上に説明した本発明に係る包括固定化担体の保管方法及び製造方法によれば、担体ブロックを安定して保管及び運搬することができる。また、包括固定化担体を使用する時に、担体ブロック28を切断して包括固定化担体にするので、品質安定性の高い包括固定化担体を必要なときに必要な量だけ得ることができる。
【0062】
以上、本発明に係る包括固定化担体の保管方法及び製造方法の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、各種の態様が採り得る。
たとえば、本実施形態において、担体ブロックの製造装置10と担体ブロックの切断装置50とを、別の装置として構成した例について説明したが、これに限られることはなく、一体の装置として構成することも可能である。
【0063】
また、本実施形態において、担体ブロック28の成形方法として、成型枠26内で成形するブロック成形法を採用したが、これに限定されることはなく、本発明の一部は、シート成形法、チューブ成形法等のその他の成形法にも適用可能である。
【実施例】
【0064】
以下、本発明に係る実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。包括固定化担体30の組成は、以下のようにした。
(包括固定化担体30の組成)
活性汚泥:硝化細菌の汚泥 3.0 質量%
(硝化細菌数の濃度 5×10cells/mL)
固定化材料:ポリエチレングリコールジアクリレート 10.0 質量%
重合促進剤:NNN’N’テトラメチルエチレンジアミン 0.5 質量%
重合開始剤:過硫酸カリウム 0.25質量%
1.)保管温度と湿度
まず、体積4L(縦100mm×横100mm×深さ400mm)の担体ブロック28を、保管温度20℃下で、相対湿度60%〜90%の範囲で7日間保管した。各湿度における担体ブロック28の変形を目視評価し、この結果を表1に示した。
【0065】
【表1】

表1に示されるように、相対湿度が90%であれば、担体ブロック28の表面は乾燥せず、変形しないことが解った。しかし、相対湿度が60%〜85%である場合、担体ブロック28の表面が乾燥し、担体ブロック28が変形することが解った。
【0066】
また、担体ブロック28の水に浸漬して保管する場合、水の量が従来の約半分以下と少なくても、担体ブロック28は変形しなかった。
【0067】
これより、相対湿度が90%以上又は水中で担体ブロック28を保管することにより、担体ブロック28の表面が乾燥して変形することを抑制できることが解った。また、水中に浸漬して保管する際も、水の使用量を従来の約50%以下に低減できることが解った。
【0068】
次に、上記と同じサイズ(体積4L)の担体ブロック28を約2Lの水中に浸漬し、温度を変えて7日間保管した後に、切断して得られる包括固定化担体30の形状ばらつきを測定した。
【0069】
包括固定化担体30の形状のばらつきは、担体ブロック28を略3mm角状の包括固定化担体30に切断したときの、切断した担体ブロックの質量に対する1mm角以下の包括固定化担体30及び5mm角以上の包括固定化担体30の質量の割合(単位:%)とした。この評価結果を図4に示す。
【0070】
図4に示されるように、担体ブロック28の保管温度が15℃以下であると、包括固定化担体30の形状のばらつきは約1%と小さく、問題ないレベルであった。しかし、担体ブロック28の保管温度が20℃以上であると、担体ブロック28内部からのガス発生による亀裂が確認され、切断すると包括固定化担体30の形状のばらつきが大きくなった。これは、担体ブロック28の保管温度が20℃以上であると、担体ブロック28内の微生物の菌体活性が高まるためと考えられる。
【0071】
これより、担体ブロック28内部からのガス発生を抑制するためには、担体ブロック28の保管温度を15℃以下とすることが有効であることが解った。
【0072】
2.)担体ブロック28の体積
担体ブロック28のサイズ(体積)を変えて、15℃の温度下にて7日間、水中で保管した場合の担体ブロック28内部からのガス発生の有無及び包括固定化担体の形状のばらつきについて評価した。この結果を図5に示す。
【0073】
図5に示されるように、担体ブロック28の体積が30L以上である場合、担体ブロック28内にガス発生によると推測される気泡の存在が確認された。また、その気泡の発生量の増加に伴い、包括固定化担体30の形状のばらつきが急激に増加した。
【0074】
一方、担体ブロック28の体積が22.5L以下である場合、担体ブロック28内の気泡による亀裂はほとんどみられなかった。これは、発生したガスが、担体ブロック28の体積が小さいため、外部へ抜けやすくなったためと考えられる。
【0075】
これより、担体ブロック28の体積は、0.12L〜22.5Lであることが好ましく、2.4L〜7.3Lであることがより好ましい。
【0076】
3.)包括固定化担体の担体強度及び形状の評価
体積4L(縦100mm×横100mm×深さ400mm)の担体ブロック28を5体(A〜E)作製し、保管温度15℃下にて7日間、水中で保管した。その後、担体ブロック28を略3mm角状に切断し、包括固定化担体30の形状のばらつき及び担体強度を測定した。
【0077】
担体強度は、レオメータを使用し、一定の力で包括固定化担体30を圧縮し、担体ゲルが破壊する時の単位面積あたりの圧縮力として測定した。また、包括固定化担体30の形状のばらつきは、上記1)と同様に行った。この結果を、表2に示す。
【0078】
【表2】

表2に示されるように、担体ブロックA〜Eのいずれも、包括固定化担体30の形状のばらつきは1.1%〜1.8%の範囲であり、ばらつきは小さかった。また、担体ブロックA〜Eのいずれも、担体強度は4.1kgf/m〜4.5kgf/mであり、ばらつきは少なく良好であった。
【0079】
一方、従来の保管方法における包括固定化担体の担体強度及び形状と比較した結果、同等以上であった。これより、本発明に係る包括固定化担体の保管方法による品質の低下はなく良好であることが解った。
【0080】
4) 廃水処理試験
(処理槽の運転条件)
・供試廃水:アンモニア性窒素含有無機廃水(NH−N 40mg/L含有)
・包括固定化担体の充填率:10%
・水温:20℃
・滞留時間:3時間
アンモニア性窒素の測定方法は、下水試験法のイオンクロマトグラフ法で行った。図6に廃水処理試験のグラフを示す。
図6に示されるように、連続運転150日以上行ったところ、処理水中のアンモニア性窒素濃度は低減し、硝化速度125mg/L−担体/時間以上、硝化率95%以上の安定した硝化性能を確認できた。これは、従来の保管方法で保管した包括固定化担体とほぼ同等以上の性能であった。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本実施形態における担体ブロックの製造装置を説明する図である。
【図2】本実施形態における担体ブロックの切断装置を説明する図である。
【図3】本実施形態における担体ブロックを説明する斜視図である。
【図4】本実施例のグラフである。
【図5】本実施例のグラフである。
【図6】本実施例のグラフである。
【符号の説明】
【0082】
10…担体ブロックの製造装置、12…原料槽、14…薬品槽、16、18…ポンプ、20…攪拌・押出装置、22…薬品槽、26…成型枠、28…担体ブロック、30…包括固定化担体、50…担体ブロックの切断装置、62…搬送手段、64…押出板、65…固定ステージ、66A、66B…格子状切断刃、68…回転状切断刃

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定化材料内に微生物を包括固定した包括固定化担体を、処理槽で使用するまでの保管方法において、
前記包括固定化担体を使用する時までは、前記包括固定化担体の使用サイズに切断する前の大きなサイズの担体ブロックの状態で、15℃以下の水中又は相対湿度90%以上で温度15℃以下の大気中に保管することを特徴とする包括固定化担体の保管方法。
【請求項2】
前記担体ブロックが略直方体であると共に、前記担体ブロックの縦:横:深さの比が、1:1:1〜1:1:20であることを特徴とする請求項1の包括固定化担体の保管方法。
【請求項3】
前記担体ブロックの底面の縦:横の比が、50mm:50mm〜150mm:150mmの範囲であると共に、前記担体ブロックの体積が0.12L〜22.5Lの範囲であることを特徴とする請求項1又は2の包括固定化担体の保管方法。
【請求項4】
固定化材料内に微生物を包括固定した包括固定化担体の製造方法において、
前記微生物と前記固定化材料とを混合した混合液を重合させてゲル化することにより、前記包括固定化担体の使用サイズよりも大きなサイズの担体ブロックを形成し、
前記包括固定化担体の使用時まで前記担体ブロックを、15℃以下の水中又は相対湿度90%以上で温度15℃以下の大気中に保管し、
前記包括固定化担体の使用時に、保管した担体ブロックを前記使用サイズに切断して包括固定化担体を製造することを特徴とする包括固定化担体の製造方法。
【請求項5】
前記担体ブロックが、略直方体形状の成型枠内において前記微生物と前記固定化材料とを混合した混合液を重合させてゲル化することにより作製されると共に、前記成型枠内の縦:横:深さの比が、1:1:1〜1:1:20であることを特徴とする請求項4の包括固定化担体の製造方法。
【請求項6】
前記成型枠内の底面の縦:横の長さが、50mm:50mm〜150mm:150mmの範囲であると共に、前記担体ブロックの体積が0.12L〜22.5Lの範囲であることを特徴とする請求項4又は5の包括固定化担体の製造方法。
【請求項7】
前記担体ブロックを格子状に切断した後、格子状に切断された前記担体ブロックを、 1mm〜10mm角の略立方体状に切断して包括固定化担体を製造し、処理槽内へ投入することを特徴とする請求項4〜6の何れか1の包括固定化担体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−160263(P2007−160263A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−362319(P2005−362319)
【出願日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】