説明

包摂反応においてホスト化合物の選択性を高める低分子多糖類、およびそれを用いた苦味成分および臭い成分を包摂する方法

【課題】包摂効率を改善する包摂補助剤およびそれを用いた包摂度の高い包摂方法を提供する。
【解決手段】
臭い成分または苦味成分の臭いまたは苦味をなくす方法であって、臭い成分または苦味成分を含む組成物と低分子多糖類との第1の混合物を得る工程、および該第1の混合物とγ−シクロデキストリンとの第2の混合物を得る工程を包含し、ここで、該低分子多糖類が、約16個のD−グルコースからなり、約6個のD−グルコースのホモグルコース鎖を単位とする螺旋構造をもつ、方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低分子多糖類およびγ-シクロデキストリン(以下本明細書ではγ-CDという)を用いて、苦味成分および臭い成分などを包摂する方法に関する。より特定すれば、本発明は、分子量約3,000の低分子多糖類およびγ-CD用いて、苦味成分および臭い成分などを包摂する方法に関する。この分子量約3,000の低分子多糖類は、約16個のD−グルコースからなり、約6個のD−グルコースのホモグルコース鎖を単位とする螺旋構造をもつ水溶性多糖類である。本発明はまた、上記の方法によって得られる消臭組成物、苦味のない組成物、および抗酸化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
水に難溶性の物質、易分解性の物質、安定性の低い物質などを包摂し、食品などの製造においてその取り扱いを改善し、そしてその物性を改善するためにγ-CDが用いられている。γ−CDは、グルコースからなる環状のオリゴ糖であり、ホストとして疎水性の空洞に種々の化合物(ゲスト)を取り込み、包摂化合物(包摂体)を形成することが知られている。
【0003】
例えば特許文献1は、CoQ10の抗酸化活性を効果的に利用できる脂溶性物質CoQ10およびγ-CDの複合体を記載している。特許文献2は、ユビキノンのサイクロデキストリン(CD)類による肝機能改善剤を記載している。特許文献3は、クロロフィルがCDまたはCD誘導体で包摂されて成ることを特徴とする包摂化合物を記載している。特許文献4は、αリポ酸用可溶化促進剤として、修飾型CDまたは天然型CDおよび可溶化補助剤を使用するαリポ酸水溶液およびその製造方法を記載している。特許文献5は、ギムネバ・シルベスタ抽出物固体をさらに水中で酸析処理または精製処理したものを水溶液とし、これをCDで包摂することによって苦味を抑制したギムネバ・シルベスタ抽出物を含む組成物を記載している。特許文献6もまた、シクロデキストリンを添加して苦味を低減する方法を記載している。特許文献7および非特許文献1は、CDによりEPAやDHAのn−3不飽和脂肪酸類を包摂し、魚臭を消臭する方法を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−183006号公報
【特許文献2】特開2007−308445号公報
【特許文献3】特開2003−321474号公報
【特許文献4】特開2006−321784号公報
【特許文献5】特開2003−95986号公報
【特許文献6】特開平1−120263号公報
【特許文献7】特開昭60−34156号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】食品開発者のためのシクロデキストリン入門、服部賢治郎監修、寺尾啓二著、94〜95頁、日本食料新聞社(2004年、東京)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記シクロデキストリン類による包摂処理によっても、例えば、EPAなどに由来する魚特有の臭気を完全になくすることは達成されておらず、包括処理後粉末化されても、ゲスト化合物が完全に包摂されないため、長時間の保存によって臭気が増し、ときには着色度が増加するなどの問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記先行技術の課題を解決し、約3000の分子量をもつ低分子多糖類が、γ-CDの包摂能力を顕著に改善し、この低分子多糖類とγ−シクロデキストリンを併用することによって。苦味成分、臭い成分などをほぼ完全に包摂することを見出と本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は以下の項目に関し得る。
【0009】
(項目1) 臭い成分または苦味成分の臭いまたは苦味をなくす方法であって、
臭い成分または苦味成分を含む組成物と低分子多糖類との第1の混合物を得る工程、および
上記第1の混合物とγ−シクロデキストリンとの第2の混合物を得る工程を包含し、
ここで、上記低分子多糖類が、約16個のD−グルコースからなり、約6個のD−グルコースのホモグルコース鎖を単位とする螺旋構造をもつ、方法。
【0010】
(項目2) 上記低分子多糖類が約3,000の分子量を有し、上記第1の混合物を得る工程が0.1〜20重量%濃度の上記低分子多糖類の存在下で行われ、そして上記第2の混合物を得る工程が0.01〜30重量%濃度の臭い成分または苦味成分、および0.01〜30重量%濃度のγ−シクロデキストリン存在下で行われる、項目1に記載の方法。
【0011】
(項目3) 上記臭い成分または苦味成分が、ドコサヘキサエン酸(DHA)、ドコサヘキサエン酸エチルエステル(DHAE)、ドコサヘキサエン酸グリセライド(DHATG)、エイコサペンタエン酸(EPA)、エイコサペンタエン酸エチルエステル(EPAEE)、エイコサペンタエン酸グリセライド(EPATG)、ビタミンE(VE)およびビタミンE酢酸エステル(VEA)からなる群から選択される、項目1に記載の方法。
【0012】
(項目4) 上記臭い成分または苦味成分を含む組成物が、カテキン含有組成物、ギンコール含有組成物、ポリフェノール含有組成物および田七人参または朝鮮人参抽出物からなる群から選択される、項目1に記載の方法。
【0013】
(項目5) 上記第1の混合物を得る工程、および上記第2の混合物を得る工程が、窒素雰囲気下、室温で少なくとも1時間行われる、項目1に記載の方法。
【0014】
(項目6) 上記第1の混合物を得る工程における上記低分子多糖類が、上記第2の混合物を得る工程におけるγ−シクロデキストリンに対し、少なくとも1/2.5の重量比で用いられる、項目1に記載の方法。
【0015】
(項目7) 項目1に記載の方法で用いるためのキットであって、約16個のD−グルコースからなり、約6個のD−グルコースのホモグルコース鎖を単位とする螺旋構造をもつ低分子多糖体を含む容器、γ−シクロデキストリンを含む容器、および項目1〜6に記載の方法を実施するための指示書を含むキット。
【0016】
(項目8) 項目1〜6に記載の方法で調整された、無味無臭の調製物。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、低分子多糖類とγ-CDとの組み合わせによって、苦味成分および臭い成分を包摂してマスクし、苦味および臭みを取り除き、無味粉末および無臭粉末を簡単に製造することができる。
【0018】
本発明によれば、低分子多糖類とγ-CDとの組み合わせによって、ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)、ビタミンE(VE)、α−リポ酸などの不快な臭気を生じる成分、あるいは田七人参抽出物、苦丁茶のカテキン含有組成物、ギムネマ・シルベスタ抽出物、ニガウリ抽出物、イソフラボン、グアバフェノン、トウガラシなどに含まれる辛味成分を包摂してマスクし、苦味および臭みを取り除き、無味粉末および無臭粉末を簡単に製造することができる。
【0019】
本発明によれば、低分子多糖類とγ-CDとの組み合わせによって、DHA誘導体、EPA誘導体、ビタミンEおよびその誘導体、その他n−3系およびn−6系脂肪酸とその誘導体などに由来する魚油臭などを包摂してマスクし、無味粉末および無臭粉末を簡単に製造することができる。
【0020】
本発明によれば、低分子多糖類とγ-CDとの組み合わせによって、CoQ10などの易酸化性成分をマスクし、抗酸化性を高めた粉体を簡単に製造することができる。
【0021】
本発明によれば、小量の包摂剤で被包摂物をマスクできる。例えば、被包摂物が、センナ抽出物である場合、苦味を除去するためにゲスト化合物の重量に対して通常約10倍の重量で用いられるγ−CDが、ゲスト化合物の重量に対して約0.2〜3倍の重量で苦味を除去できる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、臭い成分または苦味成分の臭いまたは苦味をなくす方法であって、臭い成分または苦味成分を含む組成物と低分子多糖類との第1の混合物を得る工程、およびこの第1の混合物とγ−シクロデキストリンとの第2の混合物を得る工程を包含し、ここで、上記低分子多糖類は、約16個のD−グルコースからなり、約6個のD−グルコースのホモグルコース鎖を単位とする螺旋構造をもつ。
【0023】
本明細書で用いる用語「臭い成分または苦味成分」は、制限されずに、ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)およびビタミンE(VE)、α−リポ酸DHA誘導体、EPA誘導体、ビタミンEおよびその誘導体、その他n−3系およびn−6系脂肪酸とその誘導体などの人によっては嫌われるいわゆる魚臭さを呈する成分、ならびに酸化されやすく、酸化されることによって不快な臭いを発生する成分(本明細書では、有臭物質または無臭化対象物とも称される)、あるいは、田七人参抽出物、苦丁茶のカテキン含有組成物、ギムネマ・シルベスタ抽出物、ニガウリの抽出物、イソフラボン、グアバフェノンなどの苦味成分、トウガラシの辛味成分を包含する。
【0024】
上記分子量約3,000の低分子多糖類は、ホモグルコースからなる水溶性多糖類であり、例えば、デンプンから調製され得、好ましくは、螺旋の1巻きがD−グルコース残基6個からなる右巻き螺旋構造を有し得、その結果、その螺旋の中央にヨウ素分子Iが取り込まれてヨウ素呈色反応で発色するような構造を有している。このような低分子多糖類は、例えば、備前化成株式会社(岡山県赤磐市徳富363)からポタコーゲン(登録商標)として市販され入手可能である。
【0025】
特定の理論に拘束されることは意図されないが、臭い成分または苦味成分などのゲストが完全にマスクされるのは、以下のように考えられる。
【0026】
γ−CDは環状化合物であり、環内に対象となる化合物を包摂して包摂体を形成する包摂化合物の代表物質である。一方、ポタコーゲン(登録商標)はデンプンから調整した分子量約3,000のホモグルコースからなる水溶性の低分子多糖体であって、デンプンのヨウ素呈色反応はデンプンがD−グルコース残基6個からなる右巻き螺旋構造をとり、その螺旋の中央にヨウ素分子Iが取り込まれて発色するようにわずかに包摂能を有している。ポタコーゲン(登録商標)は分子量約3,000であるが、デンプンは分子量2〜3百万の巨大分子であり、両者の螺旋構造を比較すると、ポタコーゲン(登録商標)の螺旋構造はデンプンのそれに比較して非常に粗であって緩やかであり、例えばDHAでさえもその螺旋構造中に包摂されると考えられる。このようなポタコーゲンの構造が、γ-CDと相互作用し、苦味成分および臭い成分などの非包摂物質を包摂する能力を向上すると考えられる。
【0027】
従って、有臭のDHAEを例にして説明すると、DHAEの構造の一部がポタコーゲン(登録商標)に包摂され、次いでポタコーゲン(登録商標)との包摂体がγ−シクロデキストリンに包摂されてDHAEの無臭化物が完成されると考えられる。
【0028】
本明細書で用いる用語「包摂」は、特定成分の分子が、適切な条件下で組みを合わさって、他の分子がつくったトンネル型、層状または網状構造の隙間に入りこんむことをいい、他の分子は、代表的には、γ-CDとポタコーゲン(登録商標)との組み合わせである。
【0029】
本発明は、ポタコーゲン(登録商標)の包摂能とγ-CDの包摂能との組み合わせによりその協同作用および/または相乗作用によって、DHAなどの苦味成分および臭い成分をそれぞれ単独で用いるより完全に包摂し、向上した包摂能によって無臭化および無味化できると考えられる。従って、この意味で、ポタコーゲン(登録商標)は、「包摂補助剤」と称され得る。
【0030】
上記低分子多糖類は約3,000の分子量を有し得、上記第1の混合物を得る工程は0.1〜20重量%濃度の前記低分子多糖類の存在下で行われ、そして上記第2の混合物を得る工程は0.01〜30重量%濃度の臭い成分または苦味成分、および0.01〜30重量%濃度のγ−シクロデキストリン存在下で行われ得る。
【0031】
好ましくは、上記第1の混合物を得る工程は、3〜7重量%濃度の上記低分子多糖類の存在下、そして上記第2の混合物を得る工程は、1〜18重量%濃度の臭い成分または苦味成分、および10〜20重量%濃度のγ−CDの存在下で行われる。
【0032】
上記第1の混合物を得る工程、および上記第2の混合物を得る工程は、窒素雰囲気下、すなわち、窒素ガス気流下もしくは窒素を充填した密閉容器内、または低真空状態で攪拌して実施され得る。
【0033】
上記第2の混合物は、さらに、フリーズドライによって粉末体とされ得るか、または、適当量のデキストリン加えて攪拌均一化してからフリーズドライによって粉末体され得る。フリーズドライに代えて、当該技術分野で公知の、飽和水溶液法、混練法、混合粉砕法などによっても上記第2の混合物は、粉末体にされ得る。
【実施例】
【0034】
(実施例1)
スターラーチップを入れた100mL容量のナス形フラスコ中に、ポタコーゲン(登録商標)とγ-シクロデキストリン(γ−CD)とを、以下の表1に示す重量で溶解した水溶液60mlに、80%のドコサヘキサエン酸エチルエステル(DHAE)を含む油を以下の表1に示す重量だけ加えた。このナス形フラスコ中に窒素ガスを満たして密栓した後に、室温で5.5〜6時間の間スターラー上で攪拌した。1夜放置後、3,800rpm、5分間遠心分離を行って生成した沈殿物(包摂体)を分取した。この沈殿物を100℃、1時間加温して乾燥後その重量を測定した。ポタコーゲン(登録商標)とγ−シクロデキストリンおよびDHAEの各添加量と生成した沈殿量の結果を表1に示した。
【0035】

表1.低分子多糖体とγ−CDとを用いたDHAEの包摂化条件の検討およびその結果
(単位:g)
DHAE添加量 0.97 1.36 2.02 2.67 3.15 4.15
ポタコーゲン添加量 2.0 2.0 2.05 2.01 2.0 2.02
γ−CD添加量 2.02 2.1 2.1 2.01 2.01 2.02
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−-−−−−−−−−−−−−
回収DHAE量 0.07 0.31 0.61 1.09 1.38 1.90
包摂体重量 3.03 4.25 6.18 3.31 3.59 3.59
包摂収率(%)* 60.7 77.8 100 49.5 50.1 41.5
包摂体中のDHAE含量(%)* 22.4 25.5 34.0 35.3 41.6 48.8
包摂収率(%):
{(DHAE添加量−回収DHAE量)/(DHAE+ポタコーゲン+γ−CD)添加量}×100で算出した。
【0036】
包摂体中DHAE含量(%):{(DHAE添加量−回収DHAE量)/DHEA添加量}×100で算出した。
【0037】
なお、回収DHAE量は、遠心分離の上澄液に残存するDHAE量であって、上澄液を乾燥して測定したDHAE重量である。
【0038】

これらの一連の包摂反応の結果、ポタコーゲン(登録商標)とγ-シクロデキストリンとの重量比が約(1:1)の組み合わせにおいて、DHAEの包摂体が水溶液中に白色の沈殿を生成することが見出された。この白色包摂体は、DHAEの添加量に依存して無臭〜有臭を呈し、包摂体中のDHAE含量が高いほど(データは示さず)臭いが強い傾向にあり、包摂収率100%が得られる組み合わせが包摂体が無臭である限界であることが明らかになった。表1に示す結果から明らかなように包摂収率100%が得られる組み合わせは、DHAEと包摂化剤(γ−CD+ポタコーゲン(登録商標))との重量比は1:2であった。
【0039】

(実施例2)
上記のDHAE包摂反応における包摂化剤であるγ−CDおよびポタコーゲン(登録商標)の添加順序を変えることによって、包摂体に取り込まれるDHAE含量が影響を受けるか否かを検討した。
【0040】
DHAE量は一定とし、γ−CDとポタコーゲン(登録商標)の重量比は2:1として、γ−CDとポタコーゲン(登録商標)の添加順序を変えた時の包摂体に取り込まれるの推定DHAE含量を算出した。反応はいずれも、実施例1と同様に窒素で満たされた容器中で行った。結果を表2に示す。
【0041】

表2.γ−CDとポタコーゲン(登録商標)の添加順序を変えたときに包摂体に取り込まれる推定DHAE量

添加順序 包摂体の推定DHAE含量
γ−CD → DHAE → ポタコーゲン(登録商標) 39.9%
ポタコーゲン(登録商標) → DHAE→ γ−CD 84.2%
ポタコーゲン(登録商標) → DHAE→ γ−CD 97.0%
ポタコーゲン(登録商標) → DHATG → γ−CD 85.9%
ポタコーゲン(登録商標) → DHAF → γ−CD 106.0%

表2において、包摂体中に取り込まれた推定DHAE量は、γ−CD、DHAEおよびポタコーゲンの添加量の合計量から、生成された包摂体量の差を未包摂DHAEとし、この値をDHAE添加量から差し引いた値と、γ−CDとポタコーゲン(登録商標)の和の商から算出した値である。
【0042】
この結果、先ず、DHAEをポタコーゲン(登録商標)と反応させた後にγ−CDと反応させる方法(推定DHAE含量84%以上)が、DHAEをγ−CDと反応させた後にポタコーゲン(登録商標)と反応させる方法(推定DHAE含量40%)よりDHAEが高率で包摂されることが明らかになった。
【0043】
また、DHAEに代えて、DHATGまたはDHAFを用いて上記と同様の試験を行ってところ、表2に一部結果が示されるように、DHAEと同様に、最初にDHATGまたはDHAFをポタコーゲン(登録商標)と反応させた後にγ−CDと反応させる方がこれら物質が高率で包摂されることが見出された。
【0044】

(実施例3)
本実施例では、包摂反応における適正なDHAE含量を検討した。DHAEとγ−CDとポタコーゲン(登録商標)との反応順序は、実施例2に示される結果に従ってDHAEをポタコーゲン(登録商標)と反応させた後にγ−CDと反応させ、かつDHAEを暫時増量してその生成される包摂体の重量を求め、そしてその形態を比較した。結果を表3に示す。
【0045】
なお、ポタコーゲン(登録商標)とγ-CDとの重量比は1:3とした。表3においてPoGはポタコーゲン(登録商標)を表し、そしてDHAE含量は、DHAE重量/(DHAF重量+ポタコーゲン(登録商標)重量+γ−CD重量)である。
【0046】

表3.包摂 反応におけるDHAE添加量の検討
DHAE含量 20% 30% 37.95% 50%
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
PoG 1.0g 1.0g 1.32g 1.0g
DHAE(80%) 1.34g 2.4g 4.27g 6.66g
γ−CD 3.0g 3.0g 3.4g 3.0g
O 15mL 15mL 15mL 15mL
包摂物収量(%) 91.8 92.2 94.5 −
包摂物形態 白色粉末 白色粉末 白色粉末 黄色粉末
無臭 無臭 微臭 有臭

表3に示される結果から、包摂化剤(ポタコーゲン+γ−CD)重量に対する、DHAE重量が約40%になると粉末が微臭を呈することが明らかになり、無臭の白色粉末を得るための包摂化剤重量に対するDHAE重量は最大30〜33%程度が妥当であると判断された。
【0047】

(実施例4)
ポタコーゲン(登録商標)5.0gとDHAE(80%含量)6.7gと蒸留水75mLを300mLナスフラスコに採り、窒素を満たして密栓して、スターラー上で室温下に1時間攪拌する。その後、d−α−トコフェロール0.8gとγ-CD15gを入れて攪拌すると短時間で黄白色の固形物が形成された。フリーズドライ粉末にするとパサパサの無味無臭の帯電体黄色粉末となった。
【0048】
一般に、本発明の方法によって得られた臭い成分または苦味成分の包摂体は、d−α−トコフェロールのように、被包摂対象物が有色である場合、包摂体中の被包摂対象物の濃度が増加するにつれて白色から淡い有色になった。
【0049】

(実施例5)
表3に示される結果から、DHAE20〜30%以下の含有の包摂物が白色無臭品であったことから、DHAE包摂物の安定性とコストダウンを計るためにポタコーゲン(登録商標)とγ-CDとの量比を調べるためと他の賦形剤(デキストリン)を混合した場合の粉末の形態を調べた。まず実施例3と同様の手順を用い、表4に示す量でDHAEと包摂化剤を用いて包摂反応を行った。
【0050】


表4.包摂反応に用いたDHAEと包摂化剤の量、そしてさらにデキストリンを
添加して得られた粉末の包摂体の性状
PoG 10g 10g 10g
DHAE(80%) 25.09g 25g 25g
γ−CD 30g 25g 20g
O 75mL 80mL 80mL
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
包摂物形態 白色粉末 白色粉末 湿潤粉末
(20%DHAE含有) 無臭 無臭 無臭

次いで、賦形剤(デキストリン)を、ポタコーゲン(登録商標)とγ-CDによって包摂体を生成した後に、DHAE含量がいずれも得られる粉末の総重量に対して20%となるように賦形剤(デキストリン)添加し、かつ攪拌して得られた包摂体を粉末にして比較したところ、PoG:γ-CD=1:2.5以上で行った包摂反応により白色で無臭の粉末が得られた。その一方、PoG:γ-CD=1:2で行った包摂反応からは少し湿った粉末が生成された。この粉末は、実施例3において、「微臭」を生じた試験区で得られた粉末と比較して、「微臭」を帯びてくるまでの時間が速く、賦型剤を用いる場合にも、少なくともPoG:γ-CD=1:2.5以上の比率で包摂反応を行うことが好ましいと考えられた。
【0051】

(実施例6)
回転子を入れた300mLビーカーにセンナ抽出液(Brix:31.7)40.6gとポタコーゲン(登録商標)13gおよび蒸留水27mLを加えてマグネチックスターラー上で室温下1時間攪拌する。次いでγ−CD15.4gを添加して同様に室温下1時間攪拌する。褐色の粘稠液体を凍結乾燥した後にフリーズドライを行って、苦味のない包摂体を35gを得た。
【0052】

(実施例7)
苦丁茶、ギムネマの抽出粉末の水溶液を実施例6に準拠して包摂されたフリーズドライ粉末を84%以上の収率で得たが、いずれもセンナと同様に有色で苦味のない包摂体を得た。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば、不快な魚臭成分などを低分子多糖類とγ-CDとの組み合わせによって、苦味成分および臭い成分をマスクし、苦味および臭みを取り除き、無味粉末および無臭粉末を簡単に製造することができ、これら粉末は、食品、医薬品、化粧品などの素材として用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
臭い成分または苦味成分の臭いまたは苦味をなくす方法であって、
臭い成分または苦味成分を含む組成物と低分子多糖類との第1の混合物を得る工程、および
該第1の混合物とγ−シクロデキストリンとの第2の混合物を得る工程を包含し、
ここで、該低分子多糖類が、約16個のD−グルコースからなり、約6個のD−グルコースのホモグルコース鎖を単位とする螺旋構造をもつ、方法。
【請求項2】
前記低分子多糖類が約3,000の分子量を有し、前記第1の混合物を得る工程が0.1〜20重量%濃度の前記低分子多糖類の存在下で行われ、そして前記第2の混合物を得る工程が0.01〜30重量%濃度の臭い成分または苦味成分、および0.01〜30重量%濃度のγ−シクロデキストリン存在下で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記臭い成分または苦味成分が、ドコサヘキサエン酸(DHA)、ドコサヘキサエン酸エチルエステル(DHAE)、ドコサヘキサエン酸グリセライド(DHATG)、エイコサペンタエン酸(EPA)、エイコサペンタエン酸エチルエステル(EPAEE)、エイコサペンタエン酸グリセライド(EPATG)、ビタミンE(VE)およびビタミンE酢酸エステル(VEA)からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記臭い成分または苦味成分を含む組成物が、カテキン含有組成物、ギンコール含有組成物、ポリフェノール含有組成物および田七人参または朝鮮人参抽出物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の混合物を得る工程、および前記第2の混合物を得る工程が、窒素雰囲気下、室温で少なくとも1時間行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の混合物を得る工程における前記低分子多糖類が、前記第2の混合物を得る工程におけるγ−シクロデキストリンに対し、少なくとも1/2.5の重量比で用いられる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法で用いるためのキットであって、約16個のD−グルコースからなり、約6個のD−グルコースのホモグルコース鎖を単位とする螺旋構造をもつ低分子多糖体を含む容器、γ−シクロデキストリンを含む容器、および請求項1〜6に記載の方法を実施するための指示書を含むキット。
【請求項8】
請求項1〜6に記載の方法で調整された、無味無臭の調製物。

【公開番号】特開2010−202603(P2010−202603A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−51361(P2009−51361)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(391007356)備前化成株式会社 (16)
【Fターム(参考)】