説明

化合物半導体粒子の製造方法

【課題】極めて簡便な方法で発光特性の良好なInP−ZnSからなる化合物半導体粒子を高効率に製造できるようにする。
【解決手段】酢酸インジウム、酢酸亜鉛、ミリスチン酸、オクタデセンを所定量秤量して混合し、真空脱気させた後、窒素雰囲気下、加熱し、第1の溶液を作製する。また、所定量のトリストリメチルシリルホスフィン及びビストリメチルシリルスルフィドをオクタデセンに溶解させ、第2の溶液を作製する。次いで、第1の溶液を所定温度に加熱させた状態で第2の溶液を注入し、第1の溶液と第2の溶液とを接触させ、所定時間保持した後、室温まで冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物半導体粒子の製造方法に関し、より詳しくは、InPとZnSとが複合された化合物半導体粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ナノ粒子は、量子閉じ込め効果によって高効率で発光し、量子サイズ効果により発光波長が粒径に応じて変化することから、光機能性材料として有望視されている。この中でも重金属を含まないInPは、可視光領域で良好な発光特性を示すことから、太陽電池や発光ダイオード等の光電変換デバイス材料として注目されている。
【0003】
しかしながら、InPは励起子閉じ込めエネルギーが小さく、このためInPナノ粒子のみで発光させるのは困難である。すなわち、半導体ナノ粒子は、基底状態にある粒子が励起され、励起状態から基底状態に戻るときに発光するが、III−V族化合物半導体であるInPは励起子閉じ込めエネルギーが約5.5meVと小さく、励起子を閉じ込めるための閉じ込めエネルギーが小さいため、室温では励起状態から熱エネルギーで容易に失活し、このためInPナノ粒子単独では発光させるのが困難である。また、フッ酸を使用してInPの表面を光エッチングすることにより、表面欠陥を低減させて発光させることも可能であるが、発光効率が低い上に、製法上煩雑な処理工程が必要となる。
【0004】
そこで、従来より、InPよりもバンドギャップエネルギーの大きいII−VI族化合物半導体、例えばバンドギャップエネルギーが約3.6eVのZnSでInPを被覆し、InPをコア部、ZnSをシェル部としたコア−シェル構造として表面欠陥の低減と同時に励起子の閉じ込めエネルギーを高め、これにより発光させることが行われている。
【0005】
例えば、非特許文献1には、InP/ZnSコア−シェル構造のナノ粒子を作製し、青色の可視光領域から近赤外領域までをカバーすることのできるコロイダルInPナノ結晶の発光体が報告されている。
【0006】
この非特許文献1では、InP/ZnSコア−シェル構造のナノ粒子を以下のようにして作製している。
【0007】
まず、P源としてのトリストリメチルシリルホスフィン及びオクチルアミンを非極性溶媒であるオクタデセンに溶解させ、P−アミン混合溶液を作製する。次いで、In源としての酢酸インジウム、界面活性剤としてのミリスチン酸、及びオクタデセンとを所定量ずつ秤量して混合し、この混合物をアルゴン雰囲気下、加熱し、これに前記P−アミン混合溶液を注入し、これによりInPナノ粒子溶液を作製する。
【0008】
次いで、Zn源としてのステアリン酸亜鉛をオクタデセンに溶解させたステアリン酸亜鉛溶液、及びイオウ単体をオクタデセンに溶解させたイオウ溶液を用意し、これらステアリン酸亜鉛溶液及びイオウ溶液を所定のヒートサイクルでもって前記InPナノ粒子溶液に注入しInP/ZnSコア−シェル構造のナノ粒子を作製している。具体的には、150℃の温度に調整されたInPナノ粒子溶液にステアリン酸亜鉛溶液及びイオウ溶液を注入し、10分間放置した後、その後温度を220℃まで上昇させて30分間ZnSシェルを成長させ、その後再び150℃に溶液温度を低下させ、以降は上述した一連の処理を繰り返している。そして、所望のInP/ZnSが得られるまで前記一連の処理を複数回繰り返した後、反応溶液を室温まで低下させ、その後ヘキサン、メタノールを用いてメタノール相が透明になるまで抽出精製を行い、未反応物や副生成物を除去した後、クロロホルムやトルエンのような有機溶媒中に分散させ、これによりコア−シェル構造のInP/ZnSナノ粒子分散溶液を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Renguo Xie、外2名、“Colloidal InP Nanocrystals as Efficient Emitters Covering Blue to Near-Infrared” J. AM. CHEM. SOC. 2007年, 129, p. 15432 〜15433、及びSupporting Information S1〜S2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、非特許文献1に記載された製法では、上述のように一定のヒートサイクルでもって一連の処理を複数回繰り返さなければならず、製造工程が煩雑な上に再現性にも欠け、高品質のInP/ZnSナノ粒子を安定的に得るのが困難である。
【0011】
しかも、InPナノ粒子溶液の作製時に残存する未反応のIn源、P源が、ZnやSと予期しない反応を起こすおそれがあり、このため合成プロセスを厳密に管理する必要がある。
【0012】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、極めて簡便な方法で発光特性の良好なInP−ZnSからなる化合物半導体粒子を高効率に製造できる化合物半導体粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意研究を行ったところ、In成分を含有した原料とZn成分を含有した原料とを溶解させて溶液を作製する一方、P成分を含有した原料とS成分を含有した原料とを溶解させた溶液を作製し、両溶液を接触させることにより、非特許文献1のように煩雑な工程を経なくても、良好な発光特性を有するInP−ZnS複合ナノ粒子を容易かつ高効率に得ることができるという知見を得た。
【0014】
本発明はこのような知見に基づきなされたものであって、本発明に係る化合物半導体粒子の製造方法は、In成分を含有した第1の原料とZn成分を含有した第2の原料とを溶解させて第1の溶液を作製する一方、P成分を含有した第3の原料とS成分を含有した第4の原料とを溶解させた第2の溶液を作製し、前記第1の溶液と前記第2の溶液とを接触させてInPとZnSとが複合した化合物半導体粒子を製造することを特徴としている。
【0015】
また、本発明の化合物半導体粒子の製造方法は、前記第1の溶液を所定温度に加熱し、前記第2の溶液を前記加熱された前記第1の溶液に注入することにより前記第1の溶液と前記第2の溶液とを接触させるのが好ましい。
【0016】
また、本発明の化合物半導体粒子の製造方法は、前記第1の溶液が、界面活性剤を含有するのが好ましい。
【0017】
また、本発明の化合物半導体粒子の製造方法は、前記第3の原料が、トリストリメチルシリルホスフィンであるのが好ましい。
【0018】
また、本発明の化合物半導体粒子の製造方法は、前記第4の原料が、ビストリメチルシリルスルフィドであるのが好ましい。
【0019】
また、本発明の化合物半導体粒子の製造方法は、前記第1の原料が、酢酸インジウムであり、前記第2の原料が、酢酸亜鉛であるのが好ましい。
【0020】
また、本発明の化合物半導体粒子の製造方法は、前記In成分と前記Zn成分との混合比率が、モル比で9/1〜1/9であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
上記化合物半導体粒子の製造方法によれば、酢酸インジウム等のIn成分を含有した第1の原料と酢酸亜鉛等のZn成分を含有した第2の原料とを溶解させて第1の溶液を作製する一方、トリストリメチルシリルホスフィン等のP成分を含有した第3の原料とビストリメチルシリルスルフィド等のS成分を含有した第4の原料とを溶解させた第2の溶液を作製し、前記第1の溶液と前記第2の溶液とを接触させてInPとZnSとが複合した化合物半導体粒子を製造するので、非特許文献1のような煩雑な一連の繰り返し工程を経る必要はなく、未反応物や副生成物が生じることもなく、極めて簡便な方法で発光特性の良好な化合物半導体粒子を容易に高効率で得ることができる。
【0022】
具体的には、前記第1の溶液を所定温度に加熱し、前記第2の溶液を前記加熱された前記第1の溶液に注入することにより前記第1の溶液と前記第2の溶液とを接触させることにより、前記第1の溶液と第2の溶液との間で合成反応が容易に進行し、これによりInP−ZnS複合ナノ粒子を高効率で得ることができる。
【0023】
また、前記第1の溶液は、界面活性剤を含有することにより、第1及び第2の溶液が接触後に生成したナノ粒子が凝集するのを回避することができ、分散性の良好なナノ粒子分散液を合成することができる。
【0024】
また、前記In成分と前記Zn成分との混合比率をモル比で9/1〜1/9とすることにより、可視光領域で発光波長のピークが異なるInP−ZnSからなる種々の化合物半導体ナノ粒子を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例で作製した各試料の発光スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、本発明を実施するための形態を詳説する。
【0027】
本発明に係る化合物半導体粒子の製造方法は、In成分を含有した第1の原料とZn成分を含有した第2の原料とを溶解させて第1の溶液を作製する一方、P成分を含有した第3の原料とS成分を含有した第4の原料とを溶解させた第2の溶液を作製し、第1の溶液と第2の溶液とを接触させるようにしたものであり、これにより第1の溶液と第2の溶液とが反応し、InP−ZnS複合ナノ粒子を作製することができる。
【0028】
〔背景技術〕の項でも述べたように、重金属を含まないInPのナノ粒子は、太陽電池や発光ダイオード等の光電変換デバイス材料として注目されているが、InPは励起子閉じ込めエネルギーが小さいことから、熱エネルギーで容易に失活してしまうため、InP単独で発光させるのは困難である。
【0029】
このため、従来では、InPよりもバンドギャップエネルギーの大きなZnSで前記InPを被覆し、InPをコア部、ZnSをシェル部としたコア−シェル構造とすることにより、励起子の閉じ込めエネルギーを高め、これにより所望の発光させていた。
【0030】
そして、斯かるコア−シェル構造のInP/ZnSでは、InPナノ粒子の表面をZnSで被覆させる必要があることから、非特許文献1に記載されているように、InPナノ粒子溶液を作製し、その後、このInPナノ粒子溶液に亜鉛含有溶液及びイオウ含有溶液を注入して合成していた。
【0031】
しかしながら、〔発明が解決しようとする課題〕の項でも述べたように、上述のような製造方法では、ヒートサイクルを含む一連の繰り返し工程を経なければならず、製造工程が煩雑な上に高品質の化合物半導体粒子を得るのが困難であり、コスト面も含め生産性に劣っていた。
【0032】
そこで、本発明者が鋭意研究を行ったところ、上記製法に代わる新たな製法としてIn成分及びZn成分を含有した溶液にP成分及びS成分を含有した溶液を注入し、両溶液を接触させることにより、極めて簡便な方法で発光特性の良好なInP−ZnSの複合ナノ粒子を合成できることを見出した。そして、これにより従来のようにヒートサイクルを含む一連の繰り返し工程を経る必要もなく、また、未反応物質が残存したり副生成物が製造されることもなく、高効率で高品質なInP−ZnSからなる化合物半導体ナノ粒子を得ることができる。
【0033】
尚、本発明では化合物半導体ナノ粒子の形態は、特に限定されるものではなく、InP/ZnSコア−シェル構造、InPとZnSとの複合体、或いは前記コア−シェル構造と前記複合体との混合物のいずれであってもよく、いずれの場合も所望の良好な発光特性を得ることができる。例えば、前記コア−シェル構造の場合は、InPはZnSによって閉じ込め効果が高められて励起子発光し、また、前記複合体の場合は、励起子閉じ込めエネルギーの高いZnSとの複合化により、発光するに十分な閉じ込めエネルギーを得ることができ、いずれの場合も良好な発光特性を得ることができる。
【0034】
以下、上記化合物半導体粒子の製造方法の一例を具体的に詳述する。
【0035】
まず、In成分を含有した第1の原料、Zn成分を含有した第2の原料、界面活性剤、及びこれらに溶解する有機溶媒を用意する。そしてこれらを所定量秤量して混合し、真空脱気させた後、必要に応じて窒素雰囲気下、加熱し、これにより第1の原料及び第2の原料を有機溶媒に溶解させ、第1の溶液を作製する。
【0036】
第1の原料と第2の原料との混合比率は、特に限定されるものではないが、In成分とZn成分とがモル比で1/9〜9/1となるように調整するのが好ましく、斯かる範囲で発光特性の低下を招くことなく、可視光領域での発光波長の波長ピークを調整することが可能である。
【0037】
尚、In成分とZn成分の混合比率が1/9未満になると、ナノ粒子中のZnSの含有モル量が過剰となり、このため発光波長が短波長側に変移して可視光領域外となって視認できなくなる。一方、In成分とZn成分の混合比率が9/1を超えると、ナノ粒子中のZnSの含有モル量が少なくなってバンドギャップエネルギーが赤外域となり視認できなくなる。
【0038】
また、第1の原料としては、In成分を含有していれば特に限定されるものではなく、例えば、酢酸インジウム、塩化インジウム、ヨウ化インジウム、炭酸インジウム、インジウムアセチルアセトナート、臭化インジウム、フッ化インジウム等を使用することができる。
【0039】
第2の原料としては、Zn成分を含有していれば特に限定されるものではなく、酢酸亜鉛、塩化亜鉛、ヨウ化亜鉛、臭化亜鉛、フッ化亜鉛、酸化亜鉛、亜鉛アセチルアセトナート等を使用することができる。
【0040】
界面活性剤は、第1の原料同士、第2の原料同士、或いは第1の原料と第2の原料が凝集するのを回避するために分散剤として混入され、例えば、ミリスチン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、パクセン酸、リノール酸、カプリル酸等を使用することができる。
【0041】
有機溶媒についても、第1及び第2の原料に溶解するものであれば特に限定するものではなく、例えば、オレイルアミン等の脂肪族アミン、オクタデカン等のアルカンやオクタデセン等のアルケンを使用することができる。
【0042】
次に、P成分を含有した第3の原料、S成分を含有した第4の原料、及び両者に溶解する有機溶媒を用意し、第3及び第4の原料を有機溶媒に溶解させ、第2の溶液を作製する。
【0043】
第3の原料としては、P成分を含有していれば特に限定されるものではなく、例えば、トリストリメチルシリルホスフィン、トリストリエチルシリルホスフィン等を使用することができるが、これらの中では反応性に富んだトリストリメチルシリルホスフィンを好んで使用することができる。
【0044】
第4の原料としては、S成分を含有していれば特に限定されるものではなく、イオウ単体やビストリメチルシリルスルフィド、ビストリエチルシリルスルフィド、ビストリプロピルシリルスルフィド等のアルキルシリル化イオウ化合物等を使用することができるが、これらの中では反応性に富んだアルキルシリル化イオウ化合物を好んで使用することができる。
【0045】
また、有機溶媒についても、上述と同様、第3及び第4の原料に溶解するものであれば特に限定するものではなく、例えば、オレイルアミン等の脂肪族アミン、オクタデカン等のアルカンやオクタデセン等のアルケンを使用することができる。
【0046】
次いで、第1の溶液を所定温度に加熱させた状態で第2の溶液を注入し、第1の溶液と第2の溶液とを接触させ、所定時間保持した後、室温まで冷却する。そしてこれにより、平均粒径が2〜5nmのInP−ZnS複合ナノ粒子溶液を作製することができる。
【0047】
このように本実施の形態では、In成分を含有した第1の原料とZn成分を含有した第2の原料とを溶解させて第1の溶液を作製する一方、P成分を含有した第3の原料とS成分を含有した第4の原料とを溶解させた第2の溶液を作製し、前記第1の溶液と前記第2の溶液とを接触させてInPとZnSとが複合した化合物半導体粒子を製造するので、非特許文献1に記載されたような煩雑な一連の繰り返し工程を経る必要はなく、また未反応物や副生成物が生じることもなく、極めて簡便な方法で発光特性の良好な化合物半導体粒子を高効率で得ることができる。
【0048】
すなわち、前記第1の溶液を所定温度に加熱し、前記第2の溶液を前記加熱された前記第1の溶液に注入することにより前記第1の溶液と前記第2の溶液とを接触させることにより、前記第1の溶液と第2の溶液との間で合成反応が容易に進行し、これによりInP−ZnS複合ナノ粒子を高効率で得ることができる。
【0049】
また、前記第1の溶液に界面活性剤を含有させているので、第1及び第2の溶液の接触後に生成するナノ粒子の分散性を確保することができる。
【0050】
また、前記In成分と前記Zn成分との混合比率をモル比で9/1〜1/9とすることにより、可視光領域で発光波長のピークが異なるInP−ZnSからなる種々の化合物半導体ナノ粒子を容易に得ることができる。
【0051】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、要旨を変更しない範囲で種々の変形が可能であるのはいうまでもない。
【0052】
次に、本発明の実施例を具体的に説明する。
【実施例】
【0053】
〔試料番号1〕
第1の原料として酢酸インジウム(In(CHCOO))、第2の原料として酢酸亜鉛(Zn(CHCOO)・2HO)、界面活性剤としてミリスチン酸(C1327COOH)、非極性溶媒としてオクタデセン(C1836)を用意した。そして、In成分とZn成分の混合比率がモル比で1:1となるように、酢酸インジウム及び酢酸亜鉛をそれぞれ0.4ミリモルずつ秤量し、さらにミリスチン酸1.2ミリモル、及びオクタデセン19.6gを秤量した。そしてこれら秤量物をセプタムキャップ付き三つ口フラスコに投入し、100℃の温度で30分間、真空脱気した。次いで、雰囲気を窒素置換し、マントルヒータを使用して三つ口フラスコを300℃の温度に加熱し、これにより三つ口フラスコの内容物を溶解させ、第1の溶液を作製した。
【0054】
次に、第3の原料としてトリストリメチルシリルホスフィン(C27PSi)、第4の原料としてビストリメチルシリルスルフィド(C18SSi)、及びオクタデセンを用意した。そして、これらトリストリメチルシリルホスフィン0.2ミリモル、ビストリメチルシリルスルフィド0.2ミリモル、及びオクタデセン8gをグローブボックス中でバイアル瓶に測り採って溶解させ、第2の溶液を作製した。
【0055】
次いで、300℃に加熱した第1の溶液中にセプタムキャップの上方から第2の溶液を注射器で一気に注入した後、マントルヒータの温度を270℃に設定して3時間を保持し、その後室温になるまで自然冷却し、これにより試料番号1のInP−ZnS複合ナノ粒子溶液を作製した。尚、InP−ZnS複合ナノ粒子の粒径を透過電子顕微鏡で測定したところ、平均粒径は3nmであった。
【0056】
〔試料番号2〕
In成分とZn成分の混合比率がモル比で9:1となるように酢酸インジウム0.72ミリモル及び酢酸亜鉛0.08ミリモルを秤量し、またトリストリメチルシリルホスフィン0.36ミリモル、ビストリメチルシリルスルフィド0.04ミリモルを秤量した以外は、試料番号1と同様の方法・手順で試料番号2のInP−ZnS複合ナノ粒子溶液を作製した。尚、試料番号1と同様の方法・手順で、InP−ZnS複合ナノ粒子の粒径を測定したところ、平均粒径は5nmであった。
【0057】
〔試料番号3〕
In成分とZn成分の混合比率がモル比で1:9となるように、酢酸インジウム0.08ミリモル、酢酸亜鉛を0.72ミリモルを秤量し、またトリストリメチルシリルホスフィン0.04ミリモル、ビストリメチルシリルスルフィド0.36ミリモルを秤量した以外は、試料番号1と同様の方法・手順で試料番号3のInP−ZnS複合ナノ粒子溶液を作製した。尚、試料番号1と同様の方法・手順で、InP−ZnS複合ナノ粒子の粒径を測定したところ、平均粒径は2nmであった。
【0058】
〔試料の評価〕
試料番号1〜3のナノ粒子溶液を少量採取し、トルエンで希釈した後、波長300nmの励起光を用いて発光特性を測定した。
【0059】
図1は、試料番号1〜3の発光スペクトルを示し、横軸が波長(nm)、縦軸が発光強度(a.u.)である。
【0060】
この図1から明らかなように、試料番号1では、波長ピークが520nmの光が観察され、試料番号2では、波長ピークが560nmの光が観察され、試料番号3では、波長ピークが490nmの光が観察された。すなわち、In成分とZn成分との混合比率が大きくなると、発光波長の波長ピークが長波長側に変移し、In成分とZn成分との混合比率が小さくなるに伴い、発光波長の波長ピークが短波長側に変移することが分かった。尚、量子効率は、いずれの試料についても4〜8%であった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
煩雑な繰り返し工程を経なくても、未反応物や副生成物が生じることもなく、極めて簡便な方法で発光特性の良好なInP−ZnS複合ナノ粒子を高効率で得ることができ、太陽電池や発光ダイオード等の光電変換デバイスに利用可能な新規な化合物半導体ナノ粒子の製法を実現できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
In成分を含有した第1の原料とZn成分を含有した第2の原料とを溶解させて第1の溶液を作製する一方、P成分を含有した第3の原料とS成分を含有した第4の原料とを溶解させた第2の溶液を作製し、
前記第1の溶液と前記第2の溶液とを接触させてInPとZnSとが複合した化合物半導体粒子を製造することを特徴とする化合物半導体粒子の製造方法。
【請求項2】
前記第1の溶液を所定温度に加熱し、前記第2の溶液を前記加熱された前記第1の溶液に注入することにより前記第1の溶液と前記第2の溶液とを接触させることを特徴とする請求項1記載の化合物半導体粒子の製造方法。
【請求項3】
前記第1の溶液は、界面活性剤を含有することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の化合物半導体粒子の製造方法。
【請求項4】
前記第3の原料は、トリストリメチルシリルホスフィンであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の化合物半導体粒子の製造方法。
【請求項5】
前記第4の原料は、ビストリメチルシリルスルフィドであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の化合物半導体粒子の製造方法。
【請求項6】
前記第1の原料は、酢酸インジウムであり、前記第2の原料は、酢酸亜鉛であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の化合物半導体粒子の製造方法。
【請求項7】
前記In成分と前記Zn成分との混合比率は、モル比で9/1〜1/9であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の化合物半導体粒子の製造方法。

【図1】
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