化学プロセスにおける制御方法および化学プロセスを制御するためのプログラム
【課題】原料を反応器内での存在量が所定の範囲となるように継続的に供給しながら、触媒を添加することで反応を進行させる化学プロセスにおいて、何らかの外乱により触媒の物性が変化した場合であっても、安定した制御を行なうことが可能な化学プロセスにおける制御方法および化学プロセスを制御するためのプログラムを提供する。
【解決手段】ステップS120では、算出した触媒の触媒活性比scaleに基づいて、2回目以降に投入すべき触媒の量を決定する。続くステップS122では、算出した触媒の触媒活性比scaleと予め定められたしきい値Thとを比較して、投入ポンプの触媒投入速度speedを段階的に決定する。ステップS124では、決定された触媒の追加投入量および決定された触媒投入速度speedに基づいて、2回目以降の触媒の投入継続時間tを決定する。
【解決手段】ステップS120では、算出した触媒の触媒活性比scaleに基づいて、2回目以降に投入すべき触媒の量を決定する。続くステップS122では、算出した触媒の触媒活性比scaleと予め定められたしきい値Thとを比較して、投入ポンプの触媒投入速度speedを段階的に決定する。ステップS124では、決定された触媒の追加投入量および決定された触媒投入速度speedに基づいて、2回目以降の触媒の投入継続時間tを決定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、化学プロセスにおける制御方法および化学プロセスを制御するためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
原料を反応器内での存在量が所定の範囲となるように継続的に供給しながら、触媒を添加することで反応を進行させる化学プロセスが知られている。一般に、反応器に供給された触媒はある一定の速度で失活し、反応器内の有効触媒(失活していない触媒)の量は時間の経過とともに減少するため、適宜追加投入する必要があり、このような化学プロセスでは、反応器に投入する触媒の量を適切に調整することで、反応速度が制御される。
【0003】
この反応速度は、主として、反応器の周囲に設けられた温度制御(除熱または加熱)装置の性能を考慮してその範囲が決定される。より具体的には、反応によって生じる熱(発熱または吸熱)により反応器内の温度が変化した場合であっても、当該温度を一定の温度範囲に制御できるように反応速度は制限される。すなわち、投入する触媒の量は、この反応速度が適切な範囲に制御可能なようにその上限値を算出した上で、この上限値を超えないような投入計画として予め決定される。これは、運転の安定化および生成される製品品質の維持を図るためである。
【0004】
このように反応の進行に伴って生じる熱の大きさに応じて、反応速度を制御する方法がいくつか提案されている。
【0005】
たとえば、特開2001−294603号公報(特許文献1)には、モノマー、触媒及び乳化剤の連続投入開始時点から一定時間経過後にその時点の反応熱を計測し、その反応熱から製品ポリマーの粒径を予測した上で、製品ポリマーの予測粒径が所定の範囲内にない場合には、ポリマー、触媒及び乳化剤の投入量を調整して、製品ポリマーの最終粒径を目標値に近づける、ポリマー粒子の製造方法が開示されている。
【0006】
また、特開2004−283780号公報(特許文献2)には、化学プロセスの反応温度制御で反応器の温度と、原料または触媒の反応熱に影響するデータを有する外乱データベースからのデータとに基づいて、ジャケットの温度補正量を算出する演算手段と、操作手順制御の実行の有無、該反応器の内部圧力を計測した圧力値及び温度に基づいて該ジャケットの温度補正の要否を判定する判定手段と、判定手段で該温度補正を必要と判断した場合に温度補正量により補正する補正手段を備える、化学プロセスの反応温度制御装置が開示されている。
【0007】
また、特表2007−522311号公報(特許文献3)には、バッファータンクから反応装置へ触媒スラリーを供給するために各管路にポンプ手段を設け、反応装置中の反応物質の濃度の関数で触媒の流量を調整することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−294603号公報
【特許文献2】特開2004−283780号公報
【特許文献3】特表2007−522311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、何らかの外乱によって投入する触媒の物性(代表的には、触媒活性)が変化すると、予め決定された投入計画に従って触媒を投入しても、所望の反応速度を維持することができないという課題がある。例えば、投入する触媒の触媒活性が計画値より低い側に変動した場合には、反応終了までの所要時間が長くなり、その結果、生産性が低下するという課題を生じる。一方、投入する触媒の触媒活性が計画値より高い側に変動した場合には、反応によって生じる熱が大きくなり、反応器の温度制御が不安定化し、その結果、製品品質が低下するという課題を生じる。
【0010】
これらの課題は、原料を反応器内での存在量が所定の範囲となるように継続的に供給しながら、触媒を添加することで反応を進行させる化学プロセスにおける反応速度が、反応器内の有効触媒量と触媒活性の積に比例することを考慮していないことに起因する。すなわち、触媒の性能が変化した場合には、投入する触媒の物性を適切に評価した上で、予め決定された投入計画を見直す必要がある。
【0011】
上述した特許文献1〜3は、いずれもこのような課題を解決するものではない。
この発明は、このような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、原料を反応器内での存在量が所定の範囲となるように継続的に供給しながら、触媒を添加することで反応を進行させる化学プロセスにおいて、何らかの外乱により触媒の物性が変化した場合であっても、安定した制御を行なうことが可能な化学プロセスにおける制御方法および化学プロセスを制御するためのプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明のある局面によれば、反応器内での存在量が所定の範囲となるように第1原料を供給する原料供給手段と、第1原料と反応器内に予め仕込まれている第2原料との化学反応を促進するための触媒を投入する触媒投入手段とを含む化学プロセスにおける制御方法を提供する。この制御方法は、処理開始後に所定量の触媒を投入するステップと、触媒の投入後における第1原料の供給累積値に基づいて、触媒の物性を評価するステップと、評価した触媒の物性に基づいて、触媒の追加投入時の投入量を決定するステップと、評価した触媒の物性に基づいて、触媒の追加投入時の投入速度を決定するステップと、追加投入時の投入量および追加投入時の投入速度に基づいて、触媒の追加投入時の触媒投入手段による投入継続時間を決定するステップと、触媒の追加投入の条件が成立した場合に、投入継続時間にわたって触媒を投入速度で追加投入するステップとを有する。
【0013】
好ましくは、触媒投入手段は、触媒の投入速度を複数段階に切替可能であり、触媒の追加投入時の投入速度を決定するステップでは、触媒の物性と予め定められたしきい値との比較によって、複数段階のうち1つの投入速度が選択される。
【0014】
さらに好ましくは、触媒投入手段における投入速度の切替可能な段数は、2または3である。
【0015】
好ましくは、制御方法は、反応器内の温度および第1原料の供給量に基づいて、触媒の追加投入の条件が成立しているか否かを判断するステップをさらに有しており、触媒の追加投入の条件が成立しているか否かを判断するステップは、反応器内の温度が所定のしきい温度以下であるか否かを判断するステップと、第1原料の供給量が所定のしきい量以下であるか否かを判断するステップとを含み、反応器内の温度が所定のしきい温度以下であり、かつ第1原料の供給量が所定のしきい量以下である場合に、触媒の追加投入の条件が成立していると判断される。
【0016】
好ましくは、制御方法は、触媒を追加投入するステップの実行後に所定期間だけ待機し、触媒の追加投入の条件が成立しているか否かを再度判断するステップをさらに有し、待機する所定期間は、触媒の物性に応じて設定される。
【0017】
好ましくは、触媒の物性を評価するステップは、処理開始後に触媒が最初に投入されてから第1原料の供給累積値が所定のしきい累積値に到達するまでに要した時間に基づいて触媒の反応誘導時間を算出するステップと、第1原料の供給累積値が所定のしきい累積値に到達した後から規定期間が経過した時点における第1原料の供給累積値を、標準累積値で除算することで、触媒の触媒活性比を算出するステップとを含む。
【0018】
この発明の別の局面に従えば、反応器内での存在量が所定の範囲となるように第1原料を供給する原料供給手段と、第1原料と反応器内に予め仕込まれている第2原料との化学反応を促進するための触媒を投入する触媒投入手段とを含む化学プロセスを制御するためのプログラムを提供する。このプログラムは、処理開始後に所定量の触媒を投入する手段と、触媒の投入後における第1原料の供給累積値に基づいて、触媒の物性を評価する手段と、評価した触媒の物性に基づいて、触媒の追加投入時の投入量を決定する手段と、評価した触媒の物性に基づいて、触媒の追加投入時の投入速度を決定する手段と、追加投入時の投入量および追加投入時の投入速度に基づいて、触媒の追加投入時の触媒投入手段による投入継続時間を決定する手段と、触媒の追加投入の条件が成立した場合に、投入継続時間にわたって触媒を投入速度で追加投入する手段としてコンピュータを機能させる。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、原料を反応器内での存在量が所定の範囲となるように継続的に供給しながら、触媒を添加することで反応を進行させる化学プロセスにおいて、何らかの外乱により投入する触媒の物性が変化した場合であっても、安定した制御を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態に従う化学プロセスを処理するためのシステムSYSの概略構成図である。
【図2】この発明の実施の形態に従う触媒活性の評価手順を説明するための図である。
【図3】触媒投入開始から原料1の供給累積値が所定のしきい累積値に到達するまでに要した時間Tと既知の反応誘導時間dTとの関係をプロットした図である。
【図4】反応開始から規定期間が経過するまでの間に供給された原料1の供給累積値と既知の触媒活性比との関係をプロットした図である。
【図5】図1に示す投入ポンプのより詳細な構成図である。
【図6】図1に示す投入ポンプの別形態を示す構成図である。
【図7】この発明の実施の形態に従う化学プロセスの制御に係る処理手順を示すフローチャートである。
【図8】この発明の実施の形態に従うプロセス制御に係る処理手順を提供するための機能ブロック図である。
【図9】本発明に関連する制御方法を図1に示すセミバッチ式の化学プロセスに適用した場合の時間的変化を示すグラフである。
【図10】本実施の形態に従う制御方法を図1に示すセミバッチ式の化学プロセスに適用した場合の時間的変化を示すグラフである。
【図11】この発明の実施の形態に従う制御機能を提供するための代表的なハードウェア構成であるコンピュータのハードウェア構成を示す概略構成図である。
【図12】この発明の実施の形態の変形例に従う化学プロセスの制御に係る処理手順を示すフローチャートである。
【図13】本実施の形態の変形例に従う制御方法を図1に示すセミバッチ式の化学プロセスに適用した場合の時間的変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0022】
<対象プロセス>
図1は、本発明の実施の形態に従う化学プロセスを処理するためのシステムSYSの概略構成図である。
【0023】
図1を参照して、本実施の形態に従うシステムSYSは、反応器2を含み、この反応器2においてセミバッチ方式の化学プロセスを処理する。処理開始前において、反応器2内には、溶媒中に溶解している仕込み原料が規定量だけ予め仕込まれている(液相LP)とともに、気相の原料1がその圧力が一定となるように充填されている(気相GP)ものとする。また、セミバッチ処理中には、触媒が反応器2内に適宜投入される。
【0024】
この化学プロセスでは、気相の原料1(気相GP)がその分圧に応じて溶媒(液相LP)に吸収される。液相LPに吸収された原料1は、反応器2内に存在する有効触媒の量と触媒活性の積に応じた反応速度で仕込み原料と反応し、溶媒中に製品が生成される。この製品の生成に伴って、原料1は、この製品の量に見合う量だけ液相LPに吸収されることになる。この原料1の液相LPへの吸収に伴って、原料1の圧力が低下するが、後述するように原料1はその圧力が一定となるように供給量(供給速度)を制御されるので、原料1は生成される製品に見合う供給速度で反応器2に継続的に供給され、反応器内における原料1の存在量は所定の範囲に調整されることになる。すなわち、原料1として気相の物質を用いる場合には、その反応器2内での存在量を所定の範囲に調整するために、圧力制御を行なう。なお、原料1として液相の物質を用いる場合には、圧力制御に代えて、別の制御方法を採用してもよい。
【0025】
このように、本実施の形態に従うシステムSYSは、反応器2に原料の一部を継続的に供給しながら、触媒を添加することで反応を進行させるセミバッチ方式の化学プロセスである。なお、反応器2には、原料1と仕込み原料との反応を促進させ、また生成された製品を均一化する目的で、液相LPを攪拌するためのインペラ4が挿入されている。
【0026】
反応器2には、供給ライン12を通じて気相の原料1が供給可能に構成される。この供給ライン12の経路上には、流調弁10および流量計56が設けられる。流調弁10は、圧力コントローラ16によってその開度(原料1の流量)を制御される。圧力コントローラ16は、代表的にPID調節計であり、反応器2内に設けられた圧力センサ14で検出される反応器内圧力検出値が予め設定される反応器内圧力目標値と一致するように、流調弁10に対して開度指令を与える。すなわち、圧力コントローラ16は、反応器2内の圧力についてのフィードバック制御を行なう。この圧力コントローラ16の制御動作によって、反応器2内の原料1の圧力はほぼ一定に維持される。
【0027】
さらに、反応器2には、供給ライン20を通じて不活性ガスが供給可能に構成され、供給ライン24を通じて仕込み原料が供給可能に構成される。また、供給ライン20および24の経路上には、それぞれ開閉弁18および22が設けられる。
【0028】
さらに、反応器2の周囲には、反応器2内の温度制御を行なうためのジャケット6が設けられており、このジャケット6の内部には、反応器2を除熱するための冷媒、または反応器2を加熱するための熱媒(これらを総称して、「冷熱媒」とも称す。)がポンプ40により供給される。すなわち、冷熱媒を反応器2の周囲に供給することで、反応器2内の温度が適切に制御される。
【0029】
ポンプ40には、流調弁30を介して冷媒が供給可能に構成されるとともに、流調弁32を介して熱媒が供給可能に構成される。これらの流調弁30および32の出側は、ジャケット6から戻された冷熱媒の戻りライン54と合流しており、これらの合流点とポンプ40の入側とは供給ライン38を介して接続される。
【0030】
このようなライン構成を採用することで、ジャケット6において反応器2の温度制御に用いられた後の冷熱媒に、必要な冷媒または熱媒を供給することで、反応器2に対する温度制御に適した温度の冷熱媒を再生することができる。
【0031】
より具体的には、このような冷熱媒の温度制御は、第1温度コントローラ26および第2温度コントローラ28によるいわゆるカスケード制御によって実現される。第1温度コントローラ26は、代表的にPID調節計であり、予め設定される反応器内温度目標値に対する反応器2内に設けられた温度センサ60で検出される反応器内温度検出値の偏差に応じた制御出力を、第2温度コントローラ28へ出力する。第2温度コントローラ28は、第1温度コントローラ26からの制御出力を自身の制御目標値として扱い、供給ライン38の経路上に設けられた温度センサ36で検出される冷熱媒温度検出値がこの制御目標値と一致するように、流調弁30または32に対して開度指令を与える。この温度コントローラ26および28の制御動作によって、反応器2内の温度が温度目標値となるように、適切な温度の冷熱媒がジャケット6に供給される。
【0032】
さらに、反応器2には、投入ライン50を通じて触媒が投入可能に構成される。この投入ライン50の経路上には、投入ポンプ52および流量計58が設けられる。投入ポンプ52は、典型的には、モータ駆動される定容量型のプランジャポンプからなる。そのため、投入ポンプ52により投入される触媒量(触媒投入量)は、モータの回転数とモータの運転時間との積によって定まる。すなわち、モータの回転数に応じて単位時間当たりに投入される触媒量(以下、「投入速度」とも称す)が定まり、モータ(すなわち、プランジャポンプ)が1回の投入動作で運転される時間(以下、「投入継続時間」とも称す)にわたって、触媒がこの投入速度で投入される。したがって、1回の投入動作によって投入される触媒量(積算量)は、投入速度と投入継続時間との積に相当する。本実施の形態においては、投入ポンプ52の投入速度が複数段階(典型的には、2〜3段階)に設定可能に構成されており、後述する触媒投入コントローラがこれらの設定可能な複数段数のうち、触媒の触媒活性に応じて適切なものを選択する。さらに、触媒投入コントローラは、選択された投入速度に応じて、必要な量の触媒を追加投入するための投入継続時間を決定し、投入ポンプ52を駆動する。
【0033】
さらに、反応器2の底部8には、液相LP内に生成される製品を取り出すための製品ライン42が接続されている。また、製品ライン42の経路上には、開閉弁44が設けられる。
【0034】
さらに、反応器2の上部には、反応器2内の気体を排出するためのベントライン46が接続されている。また、ベントライン46の経路上には、開閉弁48が設けられている。
【0035】
<触媒の触媒活性に応じた触媒投入量の制御>
一般的に、反応期間の全体にわたって、反応速度を一定に維持するように触媒を投入することが好ましい。本発明に関連する制御方法では、触媒の物性(典型的には、触媒活性)が予め定められた標準値であることを前提とする投入計画に従って、触媒投入量および投入タイミングが定められていた。そのため、触媒の触媒活性が何らかの外乱(代表的に、環境温度や溶媒中の不純物の量など)によって変化し、当該標準値から大きく外れてしまった場合には、同じ投入計画に従って触媒を投入したとしても、反応器2で生じる反応速度は大きく異なったものとなってしまう。
【0036】
そこで、本実施の形態に従う制御方法では、処理開始後の触媒の初回投入時に、対象の触媒の物性(典型的には、触媒活性)を評価し、この評価した触媒の物性に基づいて、触媒の追加投入量、追加投入速度、追加投入継続時間、および追加投入タイミングを適切に制御する。このような処理によって、触媒の物性が何らかの外乱により変化した場合であっても、反応を安定化させることができる。以下、触媒の物性の典型例として、触媒活性を評価する処理について説明する。
【0037】
本実施の形態に従う制御方法では、触媒活性を示す値として、反応誘導時間dTおよび触媒活性比scaleという2つのパラメータを考える。
【0038】
反応誘導時間dTは、触媒の最初の投入開始から、実質的な反応が始まるまでに要する時間を意味する。投入された触媒は、その触媒活性の度合いが高いほど、原料1と仕込み原料との反応を短時間で開始させる。そのため、この反応誘導時間dTが小さいほど、触媒の触媒活性が高いと評価できる。
【0039】
触媒活性比scaleは、原料1と仕込み原料との間で実質的な反応が開始した後、規定期間内にどの程度の量の製品が生成されたか、言い換えれば、規定期間内に原料1がどの程度供給されたかを、標準の触媒における原料1の供給累積値を基準に評価したものである。この触媒活性比scaleは、標準の触媒における触媒活性に比較して、対象の触媒の触媒活性がどの程度変化しているかを評価できる。
【0040】
図2は、この発明の実施の形態に従う触媒活性の評価手順を説明するための図である。図2には、図1に示すシステムSYSにおいて、触媒の最初の投入前後における原料1の供給累積値の時間的変化が示される。
【0041】
図2を参照して、時刻T1において処理が開始、すなわち触媒の投入が開始されたとする。触媒の投入によって、原料1と仕込み原料とは徐々に反応が進行し始める。そして、この反応による生成物(製品)の増加にほぼ比例して、原料1の供給累積値も増加する。そして、この原料1の供給累積値が所定のしきい累積値Th1に到達した時点(時刻T2)で、原料1と仕込み原料との実質的な反応が開始したと判断する。すなわち、時刻T1から時刻T2までの時間Tが、対象の触媒の反応誘導時間dTに比例することになる。
【0042】
時刻T2以降、原料1と仕込み原料との反応に伴って、原料1の供給累積値は増加し続ける。そして、この時刻T2から規定期間経過後(時刻T3)の原料1の供給累積値Sが取得される。この時刻T3における原料1の供給累積値は、対象の触媒の触媒活性比scaleに比例することになる。
【0043】
このように、処理開始後の触媒の初回投入後における原料1の供給累積値の時間的変化に基づいて、触媒の触媒活性を評価することができる。
【0044】
パイロットデータを用いて上述の関係を検証した結果を図3および図4に示す。
図3は、触媒投入開始から原料1の供給累積値が所定のしきい累積値に到達するまでに要した時間Tと既知の反応誘導時間dTとの関係をプロットした図である。図4は、反応開始から規定期間が経過するまでの間に供給された原料1の供給累積値と既知の触媒活性比との関係をプロットした図である。
【0045】
図3に示すように、触媒の反応誘導時間dTは、触媒投入開始から原料1の供給累積値が所定のしきい累積値に到達するまでに要した時間Tと強い比例関係にあることが分かる。また、図4に示すように、触媒の触媒活性は、反応開始から規定期間が経過するまでの間に供給された原料1の供給累積値と強い比例関係にあることが分かる。
【0046】
<投入ポンプの構成>
上述したように、触媒活性の影響を受けずに反応速度を安定化するためには、各回の追加触媒投入量を適切に制御することが好ましい。ところで、各回の追加触媒投入量を制御する方法としては、投入継続時間を一定値に維持したまま、触媒の投入速度のみを変更する方法が考えられる。しかしながら、設備制約から、投入速度の制御精度を高めることができない場合も多い。
【0047】
図5は、図1に示す投入ポンプ52のより詳細な構成図である。図5を参照して、投入ポンプ52は、投入ライン50に設けられたポンプ本体52Pと、ポンプ本体52Pと機械的に連結されたモータ52Mと、モータ52Mを駆動するインバータ装置(INV)52Vとからなる。ポンプ本体52Pは、典型的に、1回転当たりの吐出量が一定値である、定容量型のプランジャポンプである。このようなプランジャポンプでは、要求される投入速度を実現するために比較的複雑な回転数制御が必要となる。また、要求される投入速度がポンプ本体52Pの定格値に対して相対的に小さい場合などでは、実際の投入速度において大きな誤差が生じやすい。
【0048】
そこで、本実施の形態に従う制御方法では、投入ポンプ52に対して予め複数の投入速度を設定可能に構成しておき、この予め定められた複数の投入速度の中から、触媒の物性に応じて適切なものを選択する。したがって、投入速度は段階的(離散的)に変更されることなる。そこで、必要な触媒投入量を実現するために、選択された投入速度に応じて投入継続時間を決定する。したがって、決定される投入継続時間は連続的に変更されることになる。
【0049】
より具体的には、インバータ装置52Vに対して、2段階のポンプ速度(高速信号「H」および低速信号「L」のいずれか)が与えられる。インバータ装置52Vは、高速信号「H」および低速信号「L」に応答して、モータ52Mをそれぞれ高速信号「H」および低速信号「L」に相当する回転速度で駆動する。なお、モータ52Mの回転速度をより多くの段数、たとえば3段階に変更できるようにしてもよい。但し、モータ52Mの回転速度を変更する段数は、2段階または3段階がより好ましい。これは、各段数における投入速度を予め実験的に取得しておく必要があり、段数が多くなりすぎると、制御精度が低下するからである。
【0050】
図5に示すような1台の投入ポンプの回転数を段階的に変更する構成に代えて、容量の異なる複数の投入ポンプを並列的に配置することで、触媒の投入速度を段階的に変更する構成を採用することもできる。
【0051】
図6は、図1に示す投入ポンプの別形態を示す構成図である。図6を参照して、投入ポンプユニット52Aは、供給ライン525に対して並列接続された2台の投入機構からなる。より具体的には、投入ポンプユニット52Aは、低容量ポンプ521および開閉弁522と、高容量ポンプ523および開閉弁524とを含む。高容量ポンプ523の投入速度は、低容量ポンプ521の投入速度に比較して大きく設計されている。そして、低容量ポンプ521および開閉弁522は、低速信号「L」に応答して作動し、高容量ポンプ523および開閉弁522は、高速信号「H」に応答して作動する。したがって、投入ポンプユニット52Aの投入速度は、低速信号「L」のみが与えられた場合<高速信号「H」のみが与えられた場合<低速信号「L」および高速信号「H」がともに与えられた場合、といった関係に従って段階的に変化する。
【0052】
すなわち、低速信号「L」および高速信号「H」の活性化の組合せによって、投入ポンプユニット52Aの触媒投入速度を2段階もしくは3段階に切替えることができる。
【0053】
<処理手順>
以下、図7を用いて、触媒の物性(反応誘導時間dTおよび触媒活性比scale)を評価した上で、化学プロセスの制御を行なうための処理手順について説明する。
【0054】
図7は、この発明の実施の形態に従う化学プロセスの制御に係る処理手順を示すフローチャートである。なお、図7に示すフローチャートの開始前の前提として、反応器2(図1)内には、溶媒中に溶解された仕込み原料が規定量だけ仕込まれているとともに、気体の原料1がその圧力が一定となるように充填されているものとする。
【0055】
図7を参照して、操業開始の指令が与えられると、投入ポンプ52に運転指令が与えられて、投入ライン50(図1)を通じて反応器2への触媒の投入が開始される(ステップS100)。なお、触媒の投入は継続的に行なわれるので、たとえば、5kgの触媒を投入する場合には、投入ポンプ52には選択可能な複数段のうち、規定の段数を選択するための指令(低速信号「L」または高速信号「H」)が与えられるとともに、当該選択された段数における投入速度(たとえば、10kg/hr)と必要な投入量との関係に基づく投入継続時間(たとえば、0.5hr)にわたって運転指令が与えられる。触媒の規定量の投入が完了すると、後述する触媒活性の評価が完了するまで、所定期間(たとえば、0.5hr)だけ待機する(ステップS102)。この待機後、処理はステップS130へ進む。
【0056】
一方、この触媒の投入開始と並行して、原料1の供給累積値のカウンタがゼロリセットされた上で、供給ライン12(図1)を通じて反応器2内に供給される原料1の供給量の累積が開始される(ステップS110)。
【0057】
続いて、触媒の反応誘導時間dTの評価が行なわれる。具体的には、順次算出される原料1の供給累積値がしきい累積値Th1(たとえば、0.5kg)に到達したか否かが判断される(ステップS112)。算出される原料1の供給累積値が所定のしきい累積値Th1に到達したと判断された場合(ステップS112においてYESの場合)には、処理の開始指令が与えられてから現時点までの経過時間に基づいて触媒の反応誘導時間dTを算出する(ステップS114)。より具体的には、図3に示すような一次関数を対象のプラントについて予め実験的に取得しておき、この一次式に経過時間を当てはめることで反応誘導時間dTを算出する。
【0058】
さらに続いて、触媒活性比scaleの評価が行なわれる。具体的には、規定期間(たとえば、0.25hr)だけ待機(ステップS116)し、その直後における原料1の供給累積値を取得し、この取得した供給累積値を標準累積値(触媒が標準の触媒活性をもつ場合の供給累積値)で除算した結果を、触媒の触媒活性比scaleとして算出する(ステップS118)。したがって、触媒が標準の触媒活性をもつ場合には、scale=1となる。なお、この待機中にも、原料1の供給量の累積は継続している。
【0059】
この算出した触媒の触媒活性比scaleに基づいて、まず、2回目以降に投入すべき触媒の量を決定する。すなわち、触媒の追加投入時の投入量を決定する(ステップS120)。より具体的には、触媒が標準の触媒活性をもつ場合の触媒投入量(標準値)をbaseとすると、2回目以降の触媒投入量(追加分)Mは、以下のような数式で算出される。
【0060】
追加投入量(追加分)M=触媒投入量(標準値)base/触媒活性比scale
続いて、算出した触媒の触媒活性比scaleに基づいて、投入ポンプ52の触媒投入速度speedを決定する(ステップS122)。
【0061】
たとえば、投入ポンプ52の投入速度を2段階(触媒投入速度speed_Lおよびspeed_H)に変更可能な場合には、触媒活性比scaleと予め定められたしきい値ThSとを比較し、触媒活性比scale<しきい値ThSであれば、高速の触媒投入速度speed_Hが設定され、触媒活性比scale≧しきい値ThSであれば、低速の触媒投入速度speed_Lが設定される。
【0062】
あるいは、投入ポンプ52の投入速度を3段階(触媒投入速度speed_L,speed_M,speed_H)に変更可能な場合には、触媒活性比scaleと予め定められた第1しきい値ThS1および第2しきい値ThS2(但し、ThS1<ThS2)とを比較し、触媒活性比scale<しきい値ThS1であれば、第3段の触媒投入速度speed_Hが設定され、しきい値ThS1≦触媒活性比scale<しきい値ThS2であれば、第2段の触媒投入速度speed_Mが設定され、触媒活性比scale≧しきい値ThS2であれば、第1段の触媒投入速度speed_Lが設定される。
【0063】
なお、上述の説明では、触媒活性比scaleをしきい値と比較することで、投入ポンプ52の投入速度を判断する一例の構成を示したが、その他の判断ロジックを用いてもよい。
【0064】
また、ステップS120に示す触媒投入量(追加分)Mを決定する処理と、ステップS122に示す投入ポンプ52の触媒投入速度speedを決定する処理との実行順序は、入れ替えてもよく、あるいは同時並行的に実行してもよい。
【0065】
さらに、算出された2回目以降の触媒投入量(追加分)Mおよび決定された触媒投入速度speedに基づいて、2回目以降の触媒の投入継続時間tを決定する(ステップS124)。より具体的には、2回目以降の触媒投入量(追加分)Mおよび触媒投入速度speedを用いて、2回目以降の触媒投入時の投入継続時間tは、以下のような数式で算出される。
【0066】
投入継続時間t=触媒投入量(追加分)M/触媒投入速度speed
このように、2回目以降の触媒投入量および触媒投入速度speedを触媒活性比scaleに応じて変化させることで、触媒活性が何らかの外乱により変化した場合であっても、反応を安定的に制御することができる。
【0067】
その後、処理はステップS130へ進む。
ステップS130では、2回目以降の触媒の投入条件(触媒の追加投入条件)が成立しているか否かが判断される。具体的には、反応器内温度検出値が所定のしきい温度(たとえば、50.1℃)以下であるか否か(ステップS130a)、および原料1の供給量が所定のしきい量(たとえば、24kg/hr)以下であるか否か(ステップS130b)が判断される。そして、これらの条件がいずれも満足された場合、すなわち反応器内温度検出値が所定のしきい温度以下であり、かつ原料1の供給量が所定のしきい量以下である場合に、2回目以降の触媒の投入条件が成立していると判断される。
【0068】
これは、原料1と仕込み原料との反応によって生じる熱により反応器2内の温度は外乱を受けるが、反応器内温度検出値が所定のしきい温度以下であることは、この外乱の影響を受けることなく、反応器2内の温度制御が適切に実行されているとみなすことができる。また、原料1の供給量は反応器2内での反応速度に応じたものとなるので、原料1の供給量が所定のしきい量以下であることは、反応器2内での反応速度が低下しているとみなすことができる。したがって、上述のような条件を設定することで、反応器2内の温度制御が適切に実行されており、かつ反応器2内での反応速度が低下している場合に限って、2回目以降の触媒の投入(追加投入)を許可する。
【0069】
この2回目以降の触媒の投入を許可する条件の成立タイミングは、触媒の触媒活性に応じて変動する。言い換えれば、ステップS130に示すような条件を設定することで、触媒活性が何らかの外乱により変化した場合であっても、反応を安定的に制御することができる。
【0070】
2回目以降の触媒の投入条件が成立していると判断された場合(ステップS130においてYESの場合)には、2回目以降の触媒の投入を行なう(ステップS132)。すなわち、投入ポンプ52をステップS120において決定された触媒投入速度speedで、ステップS122において決定された投入継続時間tだけ動作させる。
【0071】
この触媒の投入完了後、反応器2内での反応が進行するまで、反応誘導時間dTに応じた期間だけ待機する(ステップS134)。これは、投入された触媒によって引き起こされた反応が継続している間は、次の触媒の投入を抑制するための処理である。具体的には、安全係数α(通常、1より大きい値)を用いて、待機期間Twは、以下のような数式で算出される。
【0072】
待機期間Tw=安全係数α×反応誘導時間dT
ステップS134による待機後、触媒を追加投入する必要があるか否かが判断される(ステップS136)。触媒を追加投入する必要があると判断された場合(ステップS136においてYESの場合)に、処理はステップS130に戻る。一方、触媒を追加投入する必要がないと判断された場合(ステップS136においてNOの場合)には、触媒の追加投入を行なわず、処理を終了する。
【0073】
この触媒を追加投入する必要があるか否かの判断の具体的な内容としては、原料1の供給累積値が所定の上限値に到達しているか否かで判断される。
【0074】
原料1の供給累積値が所定の上限値に到達しており、触媒を追加投入する必要がない場合には処理は終了し、その後、開閉弁44が開放されて生成された製品が製品ライン42を通じて搬出される。
【0075】
<制御構造>
図8は、この発明の実施の形態に従うプロセス制御に係る処理手順を提供するための機能ブロック図である。なお、図8に示す各機能ブロックは、代表的に、後述するようにコンピュータがプログラムを実行することで実現される。
【0076】
図8を参照して、本実施の形態に従うシステムSYSは、圧力コントローラ(PID)16と、第1温度コントローラ(PID)26と、第2温度コントローラ(PID)28と、触媒投入コントローラ80と、反応誘導時間算出部82と、触媒活性比算出部84と、累積加算部86とをその制御機能として含む。
【0077】
上述したように、圧力コントローラ16は、反応器2内に設けられた圧力センサ14(図1)で検出される反応器内圧力検出値が予め設定される反応器内圧力目標値と一致するようにフィードバック制御を行なうことで、流調弁10の開度指令を出力する。
【0078】
第1温度コントローラ26は、予め設定される反応器内温度目標値に対する反応器2内に設けられた温度センサ60(図1)で検出される反応器内温度検出値の偏差に応じた値を制御出力として第2温度コントローラ28へ出力する。また、第2温度コントローラ28は、供給ライン38の経路上に設けられた温度センサ36(図1)で検出される冷熱媒温度検出値が、第1温度コントローラ26からの制御出力(制御目標値)と一致するように、流調弁30または32の開度指令を出力する。
【0079】
累積加算部86は、供給ライン12の経路上に設けられた流量計56(図1)で検出される原料1供給量検出値を所定周期に加算することで、原料1の供給量の累積を行なう。この累積加算部86は、内部カウンタを有しており、この内部カウンタのカウントアップにより累積演算を行なう。また、操業開始指令が与えられると、この累積加算部86の内部カウンタはゼロリセットされる。
【0080】
反応誘導時間算出部82は、累積加算部82aとタイマ82bとを含んでいる。操業開始の指令が与えられると、累積加算部82aが原料1の供給量の累積を開始するとともに、タイマ82bが時間計測を開始する。そして、反応誘導時間算出部82は、累積加算部82aで累積される原料1の供給累積値が所定のしきい累積値Th1に到達すると、その時点においてタイマ82bで計測されている時間を取得する。さらに、反応誘導時間算出部82は、当該タイマ82bにおける計測時間を反応誘導時間dTとして、触媒投入コントローラ80へ出力する。
【0081】
触媒活性比算出部84は、タイマ84a、累積加算部84b、および除算器84cを含んでいる。タイマ84aは、反応誘導時間算出部82から反応誘導時間dTが出力されると、時間計測を開始する。また、累積加算部84bは、原料1の供給量の累積を行なう。そして、タイマ84aで計測されている時間が規定期間に到達すると、除算器84cは、その時点において累積加算部84bで累積されている原料1の供給累積値を標準累積値で除算する。触媒活性比算出部84は、この除算結果を触媒の触媒活性比scaleとして、触媒投入コントローラ80へ出力する。
【0082】
触媒投入コントローラ80は、操業開始の指令、反応器内温度検出値、反応誘導時間dT、触媒活性比scaleなどに基づいて、反応器2内に触媒を投入するための投入ポンプ52の投入動作を制御する。具体的には、操業開始の指令が与えられると、投入ポンプ52に所定のポンプ速度の指令を、所定の投入継続時間にわたって与えることで、反応器2内に所定量の触媒を投入する(1回目の触媒投入)。その後、反応誘導時間算出部82および触媒活性比算出部84からそれぞれ反応誘導時間dTおよび触媒活性比scaleが入力されると、触媒投入コントローラ80は、2回目以降の触媒の投入(追加投入)における、触媒投入量、触媒投入速度(ポンプ速度)および投入継続時間を決定する。さらに、触媒投入コントローラ80は、2回目以降の触媒の投入条件(追加投入条件)が成立しているか否か判断し、この追加投入条件が成立している場合に、触媒の触媒活性に応じた量だけ触媒が追加投入されるように、決定されたポンプ速度の指令を、決定された投入継続時間にわたって投入ポンプ52へ与える。このように、触媒投入コントローラ80は、投入ポンプ52の投入動作を反応完了まで継続的に実行する。
【0083】
このような動作を実行するために、触媒投入コントローラ80は、投入量決定ロジック80a、投入速度決定ロジック80bおよび投入継続時間決定ロジック80cを含む。投入量決定ロジック80aは、触媒活性比scaleに基づいて、2回目以降の触媒の投入における触媒投入量を決定する。投入速度決定ロジック80bは、触媒活性比scaleに基づいて、2回目以降の触媒の投入における投入ポンプ52の触媒投入速度(ポンプ速度)を決定する。また、投入継続時間決定ロジック80cは、触媒投入量および触媒投入速度(ポンプ速度)に基づいて、投入継続時間を決定する。
【0084】
<適用例>
上述した本実施の形態に従う制御方法を図1に示すセミバッチ式の化学プロセスに適用した場合のシミュレーション結果を、本発明に関連する制御方法と比較して以下に示す。
【0085】
図9は、本発明に関連する制御方法を図1に示すセミバッチ式の化学プロセスに適用した場合の時間的変化を示すグラフである。図9(a)には、本発明に関連する制御方法における触媒の投入計画が示される。図9(a)に示す投入計画では、標準の触媒活性に基づいて算出された触媒投入量の触媒が間欠的に反応器2内に投入される。すなわち、初回の触媒投入量は、約40kg/hrの供給速度で15分間行なわれ、10kgの触媒が投入される。そして、2回目以降は、約100分間隔で、約30kg/hrの供給速度で6分間行なわれ、3kgの触媒が投入される。投入された触媒は時間の経過とともに失活するので、反応器2内の有効触媒重量は、図9(a)に示すような時間的変化を生じる。
【0086】
図9(a)に示す投入計画は、触媒の触媒活性が一定であるとの前提で定められたものであり、この触媒活性が何らかの外乱によって変化した場合には、反応速度を適切に制御することができない。
【0087】
図9(b)には、図9(a)に示す投入計画に従って触媒が投入された場合の原料1の供給量(∝反応器2内の反応速度)の時間的変化が示されており、図9(c)には、図9(a)に示す投入計画に従って触媒が投入された場合における製品の生成量の時間的変化が示されている。なお、図9(b)および図9(b)の符号「50%」および「−50%」は、触媒の触媒活性が標準値に比較して、50%増加した場合、および50%低下した場合をそれぞれ示す(以下のシミュレーション結果においても同様である。)。
【0088】
図9(b)に示すように、触媒の触媒活性が高くなれば、反応器2内の反応速度は増加するので、原料1の供給量も増大し、反対に、触媒の触媒活性が低くなれば、反応器2内の反応速度は低下するので、原料1の供給量も減少する。この原料1の供給量の増大、すなわち反応に伴って発生する熱の増大によって、反応器2内の温度制御が乱されて、製品の品質に悪影響を与えるおそれがある。また、図9(c)に示すように、単位時間当たりの製品生成量は、この触媒活性の程度に依存して大きく変動するため、安定的に生産を行なうことができない。
【0089】
このように、予め触媒投入量を固定した投入計画に従ってプロセス制御を行なった場合には、触媒活性の程度に依存して、その製品品質および生産効率が影響を受ける。
【0090】
図10は、本実施の形態に従う制御方法を図1に示すセミバッチ式の化学プロセスに適用した場合の時間的変化を示すグラフである。なお、投入ポンプ52の投入速度は、2段階に切り替え可能であるものとする。図10(a)には、本実施の形態に従う制御方法において投入される触媒の時間的変化を示す。本実施の形態に従う制御方法によれば、触媒の投入タイミング、触媒投入量、および投入速度は、対象プロセスの状態に依存して定まる。その結果、図10(a)に示すように、初回の触媒投入量は同一であっても、触媒の触媒活性が高くなれば、投入速度が低い側に維持されるとともに、その投入継続時間は短縮され、かつその投入間隔は短くなる。一方、触媒の触媒活性が低くなれば、その投入速度が高い側に設定されるとともに、その投入継続時間も延長され、かつその投入間隔は長くなる。
【0091】
このように触媒の投入タイミング、触媒投入量、および投入速度を対象プロセスの状態に応じて変更することで、図10(b)に示すように、触媒の触媒活性の程度に影響されることなく、原料1の供給量(∝反応器2内の反応速度)を均質化することができる。その結果、図10(c)に示すように、単位時間当たりの製品生成量についても、触媒の触媒活性の程度に影響されることなく均質化できる。
【0092】
上述したように、本実施の形態に従う制御方法によれば、触媒の触媒活性の程度に影響されることなく、反応器2内の温度制御を安定的に行なうことができるとともに、製品を安定的に生産することもできる。
【0093】
<ハードウェア構成>
上述した本実施の形態に従う制御方法を実行するための制御機能は、代表的に、コンピュータによって提供される。
【0094】
図11は、この発明の実施の形態に従う制御機能を提供するための代表的なハードウェア構成であるコンピュータ100のハードウェア構成を示す概略構成図である。
【0095】
図11を参照して、コンピュータ100は、FD(Flexible Disk)駆動装置111およびCD−ROM(Compact Disk-Read Only Memory)駆動装置113を搭載したコンピュータ本体101と、モニタ102と、キーボード103と、マウス104とを含む。
【0096】
コンピュータ本体101は、FD駆動装置111およびCD−ROM駆動装置113に加えて、相互にバスで接続された、演算装置であるCPU(Central Processing Unit)105と、メモリ106と、記憶装置である固定ディスク107と、通信インターフェース109とを含む。
【0097】
本実施の形態に従う制御機能は、CPU105がメモリ106などのコンピュータハードウェアを用いて、プログラムを実行することで実現される。一般的に、このようなプログラムは、FD112やCD−ROM114などの記録媒体に格納されて、またはネットワークなどを介して流通する。そして、このようなプログラムは、FD駆動装置111やCD−ROM駆動装置113などにより記録媒体から読取られて、または通信インターフェース109にて受信されて、固定ディスク107に格納される。さらに、このようなプログラムは、固定ディスク107からメモリ106に読出されて、CPU105により実行される。
【0098】
CPU105は、様々な数値論理演算を行なう演算処理部であり、プログラムされた命令を順次実行することで、本実施の形態に従う制御機能を提供する。メモリ106は、CPU105のプログラム実行に応じて各種の情報を記憶する。
【0099】
モニタ102は、CPU105が出力する情報を表示するための表示部であって、一例としてLCD(Liquid Crystal Display)やCRT(Cathode Ray Tube)などから構成される。すなわち、モニタ102には、プロセス制御の状態などが表示される。
【0100】
マウス104は、クリックやスライドなどの動作に応じたユーザから指令を受付ける。キーボード103は、入力されるキーに応じたユーザから指令を受付ける。
【0101】
通信インターフェース109は、コンピュータ100と他の装置との間の通信を確立するための装置であり、各種データを外部から受付可能である。
【0102】
なお、上述したようなコンピュータに代えて、その一部または全部を専用のハードウェアによって実現してもよい。
【0103】
<本実施の形態による作用・効果>
この発明の実施の形態によれば、触媒の物性(触媒活性)の程度に応じて、追加投入する触媒の量を調整できるので、反応器内の温度制御を安定的に行なうことができるとともに、製品を安定的に生産することもできる。
【0104】
また、この発明の実施の形態によれば、必要な量の触媒を追加投入する際に、適切な投入速度を複数段階の投入速度から選択するとともに、投入継続時間を連続的に変更する。そのため、投入継続時間を固定した上で、投入速度を連続的に調整する場合に比較して、触媒の投入速度の精度を高めることができるとともに、制御系および触媒供給設備などを簡素化することができる。また、プロセス全体の運転管理を容易化することもできる。そのため、触媒の触媒活性が大きく変化した結果、追加投入すべき触媒の量が大きく変動するような場合であっても、すなわち、追加投入すべき触媒の量が微量から大量にわたるような広い運転レンジが要求される場合であっても、高い制御精度を維持することができる。
【0105】
さらに、触媒の触媒活性が低い場合には、投入速度を高めて、短時間に相対的に多くの触媒を投入することができるので、反応時間の長期化による生産効率の低下を抑制することができる。
【0106】
[変形例]
上述の実施の形態においては、2回目以降の触媒投入量を制御するために、投入速度を段階的に変更するとともに、投入継続時間を連続的に変更する構成について例示した。これに対して、設備制約によって、触媒の投入速度を全く変更できない場合もある。このような場合には、触媒の触媒活性に応じて投入継続時間のみを変更するようにしてもよい。以下、このような構成を有する変形例について説明する。
【0107】
図12は、この発明の実施の形態の変形例に従う化学プロセスの制御に係る処理手順を示すフローチャートである。図12に示すフローチャートは、図7に示す実施の形態に従うフローチャートにおいて、ステップS122を取り除いた上で、ステップS124に代えて、ステップS124Aを実行するようにしたものである。その他のステップについては、対応するステップと同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0108】
ステップS124Aでは、算出された2回目以降の触媒投入量(追加分)Mに基づいて、2回目以降の触媒の投入継続時間t’が決定される。より具体的には、投入ポンプ52による触媒投入速度speedが一定値(spped_const)であるとして、2回目以降の触媒投入量(追加分)Mを用いて、2回目以降の触媒投入時の投入継続時間t’は、以下のような数式で算出される。
【0109】
投入継続時間t’=触媒投入量(追加分)M/触媒投入速度spped_const
そして、ステップS130において、2回目以降の触媒の投入条件が成立していると判断された場合(YESの場合)には、この決定された投入継続時間t’の期間にわたって投入ポンプ52が投入動作を行なう。
【0110】
このように、本実施の形態の変形例においては、2回目以降の触媒投入量(投入継続時間t’に比例)を触媒活性比scaleに応じて変化させることで、触媒活性が何らかの外乱により変化した場合であっても、反応を安定的に制御する。
【0111】
<適用例>
上述した本実施の形態の変形例に従う制御方法を図1に示すセミバッチ式の化学プロセスに適用した場合のシミュレーション結果を以下に示す。
【0112】
図13は、本実施の形態の変形例に従う制御方法を図1に示すセミバッチ式の化学プロセスに適用した場合の時間的変化を示すグラフである。なお、投入ポンプ52の投入速度は、固定値であるものとする。図13(a)には、本実施の形態の変形例に従う制御方法において投入される触媒の時間的変化を示す。本実施の形態の変形例に従う制御方法によれば、触媒の投入タイミングおよび触媒投入量(投入継続時間)は、対象プロセスの状態に依存して定まる。その結果、図13(a)に示すように、初回の触媒投入量は同一であっても、触媒の触媒活性が高くなれば(50%)、その投入継続時間は短縮され、かつその投入間隔は短くなる。一方、触媒の触媒活性が低くなれば、その投入継続時間も延長され、かつその投入間隔は長くなる。
【0113】
このように触媒の投入タイミングおよび投入量(投入継続時間)を対象プロセスの状態に応じて変更することで、図13(b)に示すように、触媒の触媒活性の程度に影響されることなく、原料1の供給量(∝反応器2内の反応速度)を均質化することができる。その結果、図13(c)に示すように、単位時間当たりの製品生成量についても、触媒の触媒活性の程度に影響されることなく均質化できる。
【0114】
上述したように、本実施の形態の変形例に従う制御方法によれば、触媒供給設備などの制約によって、触媒の投入速度を変更できない場合であっても、触媒の触媒活性の程度に影響されることなく、反応器2内の温度制御を安定的に行なうことができるとともに、製品を安定的に生産することもできる。
【0115】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0116】
2 反応器、4 インペラ、6 ジャケット、8 底部、10,30,32 流調弁、12,20,24,38 供給ライン、14 圧力センサ、16 圧力コントローラ、18,44,48 開閉弁、26 第1温度コントローラ、28 第2温度コントローラ、36,60 温度センサ、40 ポンプ、42 製品ライン、46 ベントライン、50 投入ライン、52 投入ポンプ、52A 投入ポンプユニット、52M モータ、52P ポンプ本体、52V インバータ装置、54 戻りライン、56,58 流量計、80 触媒投入コントローラ、80a 投入速度決定ロジック、80b 投入継続時間決定ロジック、82 反応誘導時間算出部、82a 累積加算部、82b タイマ、84 触媒活性比算出部、84a タイマ、84b 累積加算部、84c 除算器、86 累積加算部、100 コンピュータ、101 コンピュータ本体、102 モニタ、103 キーボード、104 マウス、106 メモリ、107 固定ディスク、109 通信インターフェース、111 FD駆動装置、113 CD−ROM駆動装置、521 低容量ポンプ、522,524 開閉弁、523 高容量ポンプ、525 供給ライン、dT 反応誘導時間、GP 気相、LP 液相、SYS システム。
【技術分野】
【0001】
この発明は、化学プロセスにおける制御方法および化学プロセスを制御するためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
原料を反応器内での存在量が所定の範囲となるように継続的に供給しながら、触媒を添加することで反応を進行させる化学プロセスが知られている。一般に、反応器に供給された触媒はある一定の速度で失活し、反応器内の有効触媒(失活していない触媒)の量は時間の経過とともに減少するため、適宜追加投入する必要があり、このような化学プロセスでは、反応器に投入する触媒の量を適切に調整することで、反応速度が制御される。
【0003】
この反応速度は、主として、反応器の周囲に設けられた温度制御(除熱または加熱)装置の性能を考慮してその範囲が決定される。より具体的には、反応によって生じる熱(発熱または吸熱)により反応器内の温度が変化した場合であっても、当該温度を一定の温度範囲に制御できるように反応速度は制限される。すなわち、投入する触媒の量は、この反応速度が適切な範囲に制御可能なようにその上限値を算出した上で、この上限値を超えないような投入計画として予め決定される。これは、運転の安定化および生成される製品品質の維持を図るためである。
【0004】
このように反応の進行に伴って生じる熱の大きさに応じて、反応速度を制御する方法がいくつか提案されている。
【0005】
たとえば、特開2001−294603号公報(特許文献1)には、モノマー、触媒及び乳化剤の連続投入開始時点から一定時間経過後にその時点の反応熱を計測し、その反応熱から製品ポリマーの粒径を予測した上で、製品ポリマーの予測粒径が所定の範囲内にない場合には、ポリマー、触媒及び乳化剤の投入量を調整して、製品ポリマーの最終粒径を目標値に近づける、ポリマー粒子の製造方法が開示されている。
【0006】
また、特開2004−283780号公報(特許文献2)には、化学プロセスの反応温度制御で反応器の温度と、原料または触媒の反応熱に影響するデータを有する外乱データベースからのデータとに基づいて、ジャケットの温度補正量を算出する演算手段と、操作手順制御の実行の有無、該反応器の内部圧力を計測した圧力値及び温度に基づいて該ジャケットの温度補正の要否を判定する判定手段と、判定手段で該温度補正を必要と判断した場合に温度補正量により補正する補正手段を備える、化学プロセスの反応温度制御装置が開示されている。
【0007】
また、特表2007−522311号公報(特許文献3)には、バッファータンクから反応装置へ触媒スラリーを供給するために各管路にポンプ手段を設け、反応装置中の反応物質の濃度の関数で触媒の流量を調整することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−294603号公報
【特許文献2】特開2004−283780号公報
【特許文献3】特表2007−522311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、何らかの外乱によって投入する触媒の物性(代表的には、触媒活性)が変化すると、予め決定された投入計画に従って触媒を投入しても、所望の反応速度を維持することができないという課題がある。例えば、投入する触媒の触媒活性が計画値より低い側に変動した場合には、反応終了までの所要時間が長くなり、その結果、生産性が低下するという課題を生じる。一方、投入する触媒の触媒活性が計画値より高い側に変動した場合には、反応によって生じる熱が大きくなり、反応器の温度制御が不安定化し、その結果、製品品質が低下するという課題を生じる。
【0010】
これらの課題は、原料を反応器内での存在量が所定の範囲となるように継続的に供給しながら、触媒を添加することで反応を進行させる化学プロセスにおける反応速度が、反応器内の有効触媒量と触媒活性の積に比例することを考慮していないことに起因する。すなわち、触媒の性能が変化した場合には、投入する触媒の物性を適切に評価した上で、予め決定された投入計画を見直す必要がある。
【0011】
上述した特許文献1〜3は、いずれもこのような課題を解決するものではない。
この発明は、このような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、原料を反応器内での存在量が所定の範囲となるように継続的に供給しながら、触媒を添加することで反応を進行させる化学プロセスにおいて、何らかの外乱により触媒の物性が変化した場合であっても、安定した制御を行なうことが可能な化学プロセスにおける制御方法および化学プロセスを制御するためのプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明のある局面によれば、反応器内での存在量が所定の範囲となるように第1原料を供給する原料供給手段と、第1原料と反応器内に予め仕込まれている第2原料との化学反応を促進するための触媒を投入する触媒投入手段とを含む化学プロセスにおける制御方法を提供する。この制御方法は、処理開始後に所定量の触媒を投入するステップと、触媒の投入後における第1原料の供給累積値に基づいて、触媒の物性を評価するステップと、評価した触媒の物性に基づいて、触媒の追加投入時の投入量を決定するステップと、評価した触媒の物性に基づいて、触媒の追加投入時の投入速度を決定するステップと、追加投入時の投入量および追加投入時の投入速度に基づいて、触媒の追加投入時の触媒投入手段による投入継続時間を決定するステップと、触媒の追加投入の条件が成立した場合に、投入継続時間にわたって触媒を投入速度で追加投入するステップとを有する。
【0013】
好ましくは、触媒投入手段は、触媒の投入速度を複数段階に切替可能であり、触媒の追加投入時の投入速度を決定するステップでは、触媒の物性と予め定められたしきい値との比較によって、複数段階のうち1つの投入速度が選択される。
【0014】
さらに好ましくは、触媒投入手段における投入速度の切替可能な段数は、2または3である。
【0015】
好ましくは、制御方法は、反応器内の温度および第1原料の供給量に基づいて、触媒の追加投入の条件が成立しているか否かを判断するステップをさらに有しており、触媒の追加投入の条件が成立しているか否かを判断するステップは、反応器内の温度が所定のしきい温度以下であるか否かを判断するステップと、第1原料の供給量が所定のしきい量以下であるか否かを判断するステップとを含み、反応器内の温度が所定のしきい温度以下であり、かつ第1原料の供給量が所定のしきい量以下である場合に、触媒の追加投入の条件が成立していると判断される。
【0016】
好ましくは、制御方法は、触媒を追加投入するステップの実行後に所定期間だけ待機し、触媒の追加投入の条件が成立しているか否かを再度判断するステップをさらに有し、待機する所定期間は、触媒の物性に応じて設定される。
【0017】
好ましくは、触媒の物性を評価するステップは、処理開始後に触媒が最初に投入されてから第1原料の供給累積値が所定のしきい累積値に到達するまでに要した時間に基づいて触媒の反応誘導時間を算出するステップと、第1原料の供給累積値が所定のしきい累積値に到達した後から規定期間が経過した時点における第1原料の供給累積値を、標準累積値で除算することで、触媒の触媒活性比を算出するステップとを含む。
【0018】
この発明の別の局面に従えば、反応器内での存在量が所定の範囲となるように第1原料を供給する原料供給手段と、第1原料と反応器内に予め仕込まれている第2原料との化学反応を促進するための触媒を投入する触媒投入手段とを含む化学プロセスを制御するためのプログラムを提供する。このプログラムは、処理開始後に所定量の触媒を投入する手段と、触媒の投入後における第1原料の供給累積値に基づいて、触媒の物性を評価する手段と、評価した触媒の物性に基づいて、触媒の追加投入時の投入量を決定する手段と、評価した触媒の物性に基づいて、触媒の追加投入時の投入速度を決定する手段と、追加投入時の投入量および追加投入時の投入速度に基づいて、触媒の追加投入時の触媒投入手段による投入継続時間を決定する手段と、触媒の追加投入の条件が成立した場合に、投入継続時間にわたって触媒を投入速度で追加投入する手段としてコンピュータを機能させる。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、原料を反応器内での存在量が所定の範囲となるように継続的に供給しながら、触媒を添加することで反応を進行させる化学プロセスにおいて、何らかの外乱により投入する触媒の物性が変化した場合であっても、安定した制御を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態に従う化学プロセスを処理するためのシステムSYSの概略構成図である。
【図2】この発明の実施の形態に従う触媒活性の評価手順を説明するための図である。
【図3】触媒投入開始から原料1の供給累積値が所定のしきい累積値に到達するまでに要した時間Tと既知の反応誘導時間dTとの関係をプロットした図である。
【図4】反応開始から規定期間が経過するまでの間に供給された原料1の供給累積値と既知の触媒活性比との関係をプロットした図である。
【図5】図1に示す投入ポンプのより詳細な構成図である。
【図6】図1に示す投入ポンプの別形態を示す構成図である。
【図7】この発明の実施の形態に従う化学プロセスの制御に係る処理手順を示すフローチャートである。
【図8】この発明の実施の形態に従うプロセス制御に係る処理手順を提供するための機能ブロック図である。
【図9】本発明に関連する制御方法を図1に示すセミバッチ式の化学プロセスに適用した場合の時間的変化を示すグラフである。
【図10】本実施の形態に従う制御方法を図1に示すセミバッチ式の化学プロセスに適用した場合の時間的変化を示すグラフである。
【図11】この発明の実施の形態に従う制御機能を提供するための代表的なハードウェア構成であるコンピュータのハードウェア構成を示す概略構成図である。
【図12】この発明の実施の形態の変形例に従う化学プロセスの制御に係る処理手順を示すフローチャートである。
【図13】本実施の形態の変形例に従う制御方法を図1に示すセミバッチ式の化学プロセスに適用した場合の時間的変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0022】
<対象プロセス>
図1は、本発明の実施の形態に従う化学プロセスを処理するためのシステムSYSの概略構成図である。
【0023】
図1を参照して、本実施の形態に従うシステムSYSは、反応器2を含み、この反応器2においてセミバッチ方式の化学プロセスを処理する。処理開始前において、反応器2内には、溶媒中に溶解している仕込み原料が規定量だけ予め仕込まれている(液相LP)とともに、気相の原料1がその圧力が一定となるように充填されている(気相GP)ものとする。また、セミバッチ処理中には、触媒が反応器2内に適宜投入される。
【0024】
この化学プロセスでは、気相の原料1(気相GP)がその分圧に応じて溶媒(液相LP)に吸収される。液相LPに吸収された原料1は、反応器2内に存在する有効触媒の量と触媒活性の積に応じた反応速度で仕込み原料と反応し、溶媒中に製品が生成される。この製品の生成に伴って、原料1は、この製品の量に見合う量だけ液相LPに吸収されることになる。この原料1の液相LPへの吸収に伴って、原料1の圧力が低下するが、後述するように原料1はその圧力が一定となるように供給量(供給速度)を制御されるので、原料1は生成される製品に見合う供給速度で反応器2に継続的に供給され、反応器内における原料1の存在量は所定の範囲に調整されることになる。すなわち、原料1として気相の物質を用いる場合には、その反応器2内での存在量を所定の範囲に調整するために、圧力制御を行なう。なお、原料1として液相の物質を用いる場合には、圧力制御に代えて、別の制御方法を採用してもよい。
【0025】
このように、本実施の形態に従うシステムSYSは、反応器2に原料の一部を継続的に供給しながら、触媒を添加することで反応を進行させるセミバッチ方式の化学プロセスである。なお、反応器2には、原料1と仕込み原料との反応を促進させ、また生成された製品を均一化する目的で、液相LPを攪拌するためのインペラ4が挿入されている。
【0026】
反応器2には、供給ライン12を通じて気相の原料1が供給可能に構成される。この供給ライン12の経路上には、流調弁10および流量計56が設けられる。流調弁10は、圧力コントローラ16によってその開度(原料1の流量)を制御される。圧力コントローラ16は、代表的にPID調節計であり、反応器2内に設けられた圧力センサ14で検出される反応器内圧力検出値が予め設定される反応器内圧力目標値と一致するように、流調弁10に対して開度指令を与える。すなわち、圧力コントローラ16は、反応器2内の圧力についてのフィードバック制御を行なう。この圧力コントローラ16の制御動作によって、反応器2内の原料1の圧力はほぼ一定に維持される。
【0027】
さらに、反応器2には、供給ライン20を通じて不活性ガスが供給可能に構成され、供給ライン24を通じて仕込み原料が供給可能に構成される。また、供給ライン20および24の経路上には、それぞれ開閉弁18および22が設けられる。
【0028】
さらに、反応器2の周囲には、反応器2内の温度制御を行なうためのジャケット6が設けられており、このジャケット6の内部には、反応器2を除熱するための冷媒、または反応器2を加熱するための熱媒(これらを総称して、「冷熱媒」とも称す。)がポンプ40により供給される。すなわち、冷熱媒を反応器2の周囲に供給することで、反応器2内の温度が適切に制御される。
【0029】
ポンプ40には、流調弁30を介して冷媒が供給可能に構成されるとともに、流調弁32を介して熱媒が供給可能に構成される。これらの流調弁30および32の出側は、ジャケット6から戻された冷熱媒の戻りライン54と合流しており、これらの合流点とポンプ40の入側とは供給ライン38を介して接続される。
【0030】
このようなライン構成を採用することで、ジャケット6において反応器2の温度制御に用いられた後の冷熱媒に、必要な冷媒または熱媒を供給することで、反応器2に対する温度制御に適した温度の冷熱媒を再生することができる。
【0031】
より具体的には、このような冷熱媒の温度制御は、第1温度コントローラ26および第2温度コントローラ28によるいわゆるカスケード制御によって実現される。第1温度コントローラ26は、代表的にPID調節計であり、予め設定される反応器内温度目標値に対する反応器2内に設けられた温度センサ60で検出される反応器内温度検出値の偏差に応じた制御出力を、第2温度コントローラ28へ出力する。第2温度コントローラ28は、第1温度コントローラ26からの制御出力を自身の制御目標値として扱い、供給ライン38の経路上に設けられた温度センサ36で検出される冷熱媒温度検出値がこの制御目標値と一致するように、流調弁30または32に対して開度指令を与える。この温度コントローラ26および28の制御動作によって、反応器2内の温度が温度目標値となるように、適切な温度の冷熱媒がジャケット6に供給される。
【0032】
さらに、反応器2には、投入ライン50を通じて触媒が投入可能に構成される。この投入ライン50の経路上には、投入ポンプ52および流量計58が設けられる。投入ポンプ52は、典型的には、モータ駆動される定容量型のプランジャポンプからなる。そのため、投入ポンプ52により投入される触媒量(触媒投入量)は、モータの回転数とモータの運転時間との積によって定まる。すなわち、モータの回転数に応じて単位時間当たりに投入される触媒量(以下、「投入速度」とも称す)が定まり、モータ(すなわち、プランジャポンプ)が1回の投入動作で運転される時間(以下、「投入継続時間」とも称す)にわたって、触媒がこの投入速度で投入される。したがって、1回の投入動作によって投入される触媒量(積算量)は、投入速度と投入継続時間との積に相当する。本実施の形態においては、投入ポンプ52の投入速度が複数段階(典型的には、2〜3段階)に設定可能に構成されており、後述する触媒投入コントローラがこれらの設定可能な複数段数のうち、触媒の触媒活性に応じて適切なものを選択する。さらに、触媒投入コントローラは、選択された投入速度に応じて、必要な量の触媒を追加投入するための投入継続時間を決定し、投入ポンプ52を駆動する。
【0033】
さらに、反応器2の底部8には、液相LP内に生成される製品を取り出すための製品ライン42が接続されている。また、製品ライン42の経路上には、開閉弁44が設けられる。
【0034】
さらに、反応器2の上部には、反応器2内の気体を排出するためのベントライン46が接続されている。また、ベントライン46の経路上には、開閉弁48が設けられている。
【0035】
<触媒の触媒活性に応じた触媒投入量の制御>
一般的に、反応期間の全体にわたって、反応速度を一定に維持するように触媒を投入することが好ましい。本発明に関連する制御方法では、触媒の物性(典型的には、触媒活性)が予め定められた標準値であることを前提とする投入計画に従って、触媒投入量および投入タイミングが定められていた。そのため、触媒の触媒活性が何らかの外乱(代表的に、環境温度や溶媒中の不純物の量など)によって変化し、当該標準値から大きく外れてしまった場合には、同じ投入計画に従って触媒を投入したとしても、反応器2で生じる反応速度は大きく異なったものとなってしまう。
【0036】
そこで、本実施の形態に従う制御方法では、処理開始後の触媒の初回投入時に、対象の触媒の物性(典型的には、触媒活性)を評価し、この評価した触媒の物性に基づいて、触媒の追加投入量、追加投入速度、追加投入継続時間、および追加投入タイミングを適切に制御する。このような処理によって、触媒の物性が何らかの外乱により変化した場合であっても、反応を安定化させることができる。以下、触媒の物性の典型例として、触媒活性を評価する処理について説明する。
【0037】
本実施の形態に従う制御方法では、触媒活性を示す値として、反応誘導時間dTおよび触媒活性比scaleという2つのパラメータを考える。
【0038】
反応誘導時間dTは、触媒の最初の投入開始から、実質的な反応が始まるまでに要する時間を意味する。投入された触媒は、その触媒活性の度合いが高いほど、原料1と仕込み原料との反応を短時間で開始させる。そのため、この反応誘導時間dTが小さいほど、触媒の触媒活性が高いと評価できる。
【0039】
触媒活性比scaleは、原料1と仕込み原料との間で実質的な反応が開始した後、規定期間内にどの程度の量の製品が生成されたか、言い換えれば、規定期間内に原料1がどの程度供給されたかを、標準の触媒における原料1の供給累積値を基準に評価したものである。この触媒活性比scaleは、標準の触媒における触媒活性に比較して、対象の触媒の触媒活性がどの程度変化しているかを評価できる。
【0040】
図2は、この発明の実施の形態に従う触媒活性の評価手順を説明するための図である。図2には、図1に示すシステムSYSにおいて、触媒の最初の投入前後における原料1の供給累積値の時間的変化が示される。
【0041】
図2を参照して、時刻T1において処理が開始、すなわち触媒の投入が開始されたとする。触媒の投入によって、原料1と仕込み原料とは徐々に反応が進行し始める。そして、この反応による生成物(製品)の増加にほぼ比例して、原料1の供給累積値も増加する。そして、この原料1の供給累積値が所定のしきい累積値Th1に到達した時点(時刻T2)で、原料1と仕込み原料との実質的な反応が開始したと判断する。すなわち、時刻T1から時刻T2までの時間Tが、対象の触媒の反応誘導時間dTに比例することになる。
【0042】
時刻T2以降、原料1と仕込み原料との反応に伴って、原料1の供給累積値は増加し続ける。そして、この時刻T2から規定期間経過後(時刻T3)の原料1の供給累積値Sが取得される。この時刻T3における原料1の供給累積値は、対象の触媒の触媒活性比scaleに比例することになる。
【0043】
このように、処理開始後の触媒の初回投入後における原料1の供給累積値の時間的変化に基づいて、触媒の触媒活性を評価することができる。
【0044】
パイロットデータを用いて上述の関係を検証した結果を図3および図4に示す。
図3は、触媒投入開始から原料1の供給累積値が所定のしきい累積値に到達するまでに要した時間Tと既知の反応誘導時間dTとの関係をプロットした図である。図4は、反応開始から規定期間が経過するまでの間に供給された原料1の供給累積値と既知の触媒活性比との関係をプロットした図である。
【0045】
図3に示すように、触媒の反応誘導時間dTは、触媒投入開始から原料1の供給累積値が所定のしきい累積値に到達するまでに要した時間Tと強い比例関係にあることが分かる。また、図4に示すように、触媒の触媒活性は、反応開始から規定期間が経過するまでの間に供給された原料1の供給累積値と強い比例関係にあることが分かる。
【0046】
<投入ポンプの構成>
上述したように、触媒活性の影響を受けずに反応速度を安定化するためには、各回の追加触媒投入量を適切に制御することが好ましい。ところで、各回の追加触媒投入量を制御する方法としては、投入継続時間を一定値に維持したまま、触媒の投入速度のみを変更する方法が考えられる。しかしながら、設備制約から、投入速度の制御精度を高めることができない場合も多い。
【0047】
図5は、図1に示す投入ポンプ52のより詳細な構成図である。図5を参照して、投入ポンプ52は、投入ライン50に設けられたポンプ本体52Pと、ポンプ本体52Pと機械的に連結されたモータ52Mと、モータ52Mを駆動するインバータ装置(INV)52Vとからなる。ポンプ本体52Pは、典型的に、1回転当たりの吐出量が一定値である、定容量型のプランジャポンプである。このようなプランジャポンプでは、要求される投入速度を実現するために比較的複雑な回転数制御が必要となる。また、要求される投入速度がポンプ本体52Pの定格値に対して相対的に小さい場合などでは、実際の投入速度において大きな誤差が生じやすい。
【0048】
そこで、本実施の形態に従う制御方法では、投入ポンプ52に対して予め複数の投入速度を設定可能に構成しておき、この予め定められた複数の投入速度の中から、触媒の物性に応じて適切なものを選択する。したがって、投入速度は段階的(離散的)に変更されることなる。そこで、必要な触媒投入量を実現するために、選択された投入速度に応じて投入継続時間を決定する。したがって、決定される投入継続時間は連続的に変更されることになる。
【0049】
より具体的には、インバータ装置52Vに対して、2段階のポンプ速度(高速信号「H」および低速信号「L」のいずれか)が与えられる。インバータ装置52Vは、高速信号「H」および低速信号「L」に応答して、モータ52Mをそれぞれ高速信号「H」および低速信号「L」に相当する回転速度で駆動する。なお、モータ52Mの回転速度をより多くの段数、たとえば3段階に変更できるようにしてもよい。但し、モータ52Mの回転速度を変更する段数は、2段階または3段階がより好ましい。これは、各段数における投入速度を予め実験的に取得しておく必要があり、段数が多くなりすぎると、制御精度が低下するからである。
【0050】
図5に示すような1台の投入ポンプの回転数を段階的に変更する構成に代えて、容量の異なる複数の投入ポンプを並列的に配置することで、触媒の投入速度を段階的に変更する構成を採用することもできる。
【0051】
図6は、図1に示す投入ポンプの別形態を示す構成図である。図6を参照して、投入ポンプユニット52Aは、供給ライン525に対して並列接続された2台の投入機構からなる。より具体的には、投入ポンプユニット52Aは、低容量ポンプ521および開閉弁522と、高容量ポンプ523および開閉弁524とを含む。高容量ポンプ523の投入速度は、低容量ポンプ521の投入速度に比較して大きく設計されている。そして、低容量ポンプ521および開閉弁522は、低速信号「L」に応答して作動し、高容量ポンプ523および開閉弁522は、高速信号「H」に応答して作動する。したがって、投入ポンプユニット52Aの投入速度は、低速信号「L」のみが与えられた場合<高速信号「H」のみが与えられた場合<低速信号「L」および高速信号「H」がともに与えられた場合、といった関係に従って段階的に変化する。
【0052】
すなわち、低速信号「L」および高速信号「H」の活性化の組合せによって、投入ポンプユニット52Aの触媒投入速度を2段階もしくは3段階に切替えることができる。
【0053】
<処理手順>
以下、図7を用いて、触媒の物性(反応誘導時間dTおよび触媒活性比scale)を評価した上で、化学プロセスの制御を行なうための処理手順について説明する。
【0054】
図7は、この発明の実施の形態に従う化学プロセスの制御に係る処理手順を示すフローチャートである。なお、図7に示すフローチャートの開始前の前提として、反応器2(図1)内には、溶媒中に溶解された仕込み原料が規定量だけ仕込まれているとともに、気体の原料1がその圧力が一定となるように充填されているものとする。
【0055】
図7を参照して、操業開始の指令が与えられると、投入ポンプ52に運転指令が与えられて、投入ライン50(図1)を通じて反応器2への触媒の投入が開始される(ステップS100)。なお、触媒の投入は継続的に行なわれるので、たとえば、5kgの触媒を投入する場合には、投入ポンプ52には選択可能な複数段のうち、規定の段数を選択するための指令(低速信号「L」または高速信号「H」)が与えられるとともに、当該選択された段数における投入速度(たとえば、10kg/hr)と必要な投入量との関係に基づく投入継続時間(たとえば、0.5hr)にわたって運転指令が与えられる。触媒の規定量の投入が完了すると、後述する触媒活性の評価が完了するまで、所定期間(たとえば、0.5hr)だけ待機する(ステップS102)。この待機後、処理はステップS130へ進む。
【0056】
一方、この触媒の投入開始と並行して、原料1の供給累積値のカウンタがゼロリセットされた上で、供給ライン12(図1)を通じて反応器2内に供給される原料1の供給量の累積が開始される(ステップS110)。
【0057】
続いて、触媒の反応誘導時間dTの評価が行なわれる。具体的には、順次算出される原料1の供給累積値がしきい累積値Th1(たとえば、0.5kg)に到達したか否かが判断される(ステップS112)。算出される原料1の供給累積値が所定のしきい累積値Th1に到達したと判断された場合(ステップS112においてYESの場合)には、処理の開始指令が与えられてから現時点までの経過時間に基づいて触媒の反応誘導時間dTを算出する(ステップS114)。より具体的には、図3に示すような一次関数を対象のプラントについて予め実験的に取得しておき、この一次式に経過時間を当てはめることで反応誘導時間dTを算出する。
【0058】
さらに続いて、触媒活性比scaleの評価が行なわれる。具体的には、規定期間(たとえば、0.25hr)だけ待機(ステップS116)し、その直後における原料1の供給累積値を取得し、この取得した供給累積値を標準累積値(触媒が標準の触媒活性をもつ場合の供給累積値)で除算した結果を、触媒の触媒活性比scaleとして算出する(ステップS118)。したがって、触媒が標準の触媒活性をもつ場合には、scale=1となる。なお、この待機中にも、原料1の供給量の累積は継続している。
【0059】
この算出した触媒の触媒活性比scaleに基づいて、まず、2回目以降に投入すべき触媒の量を決定する。すなわち、触媒の追加投入時の投入量を決定する(ステップS120)。より具体的には、触媒が標準の触媒活性をもつ場合の触媒投入量(標準値)をbaseとすると、2回目以降の触媒投入量(追加分)Mは、以下のような数式で算出される。
【0060】
追加投入量(追加分)M=触媒投入量(標準値)base/触媒活性比scale
続いて、算出した触媒の触媒活性比scaleに基づいて、投入ポンプ52の触媒投入速度speedを決定する(ステップS122)。
【0061】
たとえば、投入ポンプ52の投入速度を2段階(触媒投入速度speed_Lおよびspeed_H)に変更可能な場合には、触媒活性比scaleと予め定められたしきい値ThSとを比較し、触媒活性比scale<しきい値ThSであれば、高速の触媒投入速度speed_Hが設定され、触媒活性比scale≧しきい値ThSであれば、低速の触媒投入速度speed_Lが設定される。
【0062】
あるいは、投入ポンプ52の投入速度を3段階(触媒投入速度speed_L,speed_M,speed_H)に変更可能な場合には、触媒活性比scaleと予め定められた第1しきい値ThS1および第2しきい値ThS2(但し、ThS1<ThS2)とを比較し、触媒活性比scale<しきい値ThS1であれば、第3段の触媒投入速度speed_Hが設定され、しきい値ThS1≦触媒活性比scale<しきい値ThS2であれば、第2段の触媒投入速度speed_Mが設定され、触媒活性比scale≧しきい値ThS2であれば、第1段の触媒投入速度speed_Lが設定される。
【0063】
なお、上述の説明では、触媒活性比scaleをしきい値と比較することで、投入ポンプ52の投入速度を判断する一例の構成を示したが、その他の判断ロジックを用いてもよい。
【0064】
また、ステップS120に示す触媒投入量(追加分)Mを決定する処理と、ステップS122に示す投入ポンプ52の触媒投入速度speedを決定する処理との実行順序は、入れ替えてもよく、あるいは同時並行的に実行してもよい。
【0065】
さらに、算出された2回目以降の触媒投入量(追加分)Mおよび決定された触媒投入速度speedに基づいて、2回目以降の触媒の投入継続時間tを決定する(ステップS124)。より具体的には、2回目以降の触媒投入量(追加分)Mおよび触媒投入速度speedを用いて、2回目以降の触媒投入時の投入継続時間tは、以下のような数式で算出される。
【0066】
投入継続時間t=触媒投入量(追加分)M/触媒投入速度speed
このように、2回目以降の触媒投入量および触媒投入速度speedを触媒活性比scaleに応じて変化させることで、触媒活性が何らかの外乱により変化した場合であっても、反応を安定的に制御することができる。
【0067】
その後、処理はステップS130へ進む。
ステップS130では、2回目以降の触媒の投入条件(触媒の追加投入条件)が成立しているか否かが判断される。具体的には、反応器内温度検出値が所定のしきい温度(たとえば、50.1℃)以下であるか否か(ステップS130a)、および原料1の供給量が所定のしきい量(たとえば、24kg/hr)以下であるか否か(ステップS130b)が判断される。そして、これらの条件がいずれも満足された場合、すなわち反応器内温度検出値が所定のしきい温度以下であり、かつ原料1の供給量が所定のしきい量以下である場合に、2回目以降の触媒の投入条件が成立していると判断される。
【0068】
これは、原料1と仕込み原料との反応によって生じる熱により反応器2内の温度は外乱を受けるが、反応器内温度検出値が所定のしきい温度以下であることは、この外乱の影響を受けることなく、反応器2内の温度制御が適切に実行されているとみなすことができる。また、原料1の供給量は反応器2内での反応速度に応じたものとなるので、原料1の供給量が所定のしきい量以下であることは、反応器2内での反応速度が低下しているとみなすことができる。したがって、上述のような条件を設定することで、反応器2内の温度制御が適切に実行されており、かつ反応器2内での反応速度が低下している場合に限って、2回目以降の触媒の投入(追加投入)を許可する。
【0069】
この2回目以降の触媒の投入を許可する条件の成立タイミングは、触媒の触媒活性に応じて変動する。言い換えれば、ステップS130に示すような条件を設定することで、触媒活性が何らかの外乱により変化した場合であっても、反応を安定的に制御することができる。
【0070】
2回目以降の触媒の投入条件が成立していると判断された場合(ステップS130においてYESの場合)には、2回目以降の触媒の投入を行なう(ステップS132)。すなわち、投入ポンプ52をステップS120において決定された触媒投入速度speedで、ステップS122において決定された投入継続時間tだけ動作させる。
【0071】
この触媒の投入完了後、反応器2内での反応が進行するまで、反応誘導時間dTに応じた期間だけ待機する(ステップS134)。これは、投入された触媒によって引き起こされた反応が継続している間は、次の触媒の投入を抑制するための処理である。具体的には、安全係数α(通常、1より大きい値)を用いて、待機期間Twは、以下のような数式で算出される。
【0072】
待機期間Tw=安全係数α×反応誘導時間dT
ステップS134による待機後、触媒を追加投入する必要があるか否かが判断される(ステップS136)。触媒を追加投入する必要があると判断された場合(ステップS136においてYESの場合)に、処理はステップS130に戻る。一方、触媒を追加投入する必要がないと判断された場合(ステップS136においてNOの場合)には、触媒の追加投入を行なわず、処理を終了する。
【0073】
この触媒を追加投入する必要があるか否かの判断の具体的な内容としては、原料1の供給累積値が所定の上限値に到達しているか否かで判断される。
【0074】
原料1の供給累積値が所定の上限値に到達しており、触媒を追加投入する必要がない場合には処理は終了し、その後、開閉弁44が開放されて生成された製品が製品ライン42を通じて搬出される。
【0075】
<制御構造>
図8は、この発明の実施の形態に従うプロセス制御に係る処理手順を提供するための機能ブロック図である。なお、図8に示す各機能ブロックは、代表的に、後述するようにコンピュータがプログラムを実行することで実現される。
【0076】
図8を参照して、本実施の形態に従うシステムSYSは、圧力コントローラ(PID)16と、第1温度コントローラ(PID)26と、第2温度コントローラ(PID)28と、触媒投入コントローラ80と、反応誘導時間算出部82と、触媒活性比算出部84と、累積加算部86とをその制御機能として含む。
【0077】
上述したように、圧力コントローラ16は、反応器2内に設けられた圧力センサ14(図1)で検出される反応器内圧力検出値が予め設定される反応器内圧力目標値と一致するようにフィードバック制御を行なうことで、流調弁10の開度指令を出力する。
【0078】
第1温度コントローラ26は、予め設定される反応器内温度目標値に対する反応器2内に設けられた温度センサ60(図1)で検出される反応器内温度検出値の偏差に応じた値を制御出力として第2温度コントローラ28へ出力する。また、第2温度コントローラ28は、供給ライン38の経路上に設けられた温度センサ36(図1)で検出される冷熱媒温度検出値が、第1温度コントローラ26からの制御出力(制御目標値)と一致するように、流調弁30または32の開度指令を出力する。
【0079】
累積加算部86は、供給ライン12の経路上に設けられた流量計56(図1)で検出される原料1供給量検出値を所定周期に加算することで、原料1の供給量の累積を行なう。この累積加算部86は、内部カウンタを有しており、この内部カウンタのカウントアップにより累積演算を行なう。また、操業開始指令が与えられると、この累積加算部86の内部カウンタはゼロリセットされる。
【0080】
反応誘導時間算出部82は、累積加算部82aとタイマ82bとを含んでいる。操業開始の指令が与えられると、累積加算部82aが原料1の供給量の累積を開始するとともに、タイマ82bが時間計測を開始する。そして、反応誘導時間算出部82は、累積加算部82aで累積される原料1の供給累積値が所定のしきい累積値Th1に到達すると、その時点においてタイマ82bで計測されている時間を取得する。さらに、反応誘導時間算出部82は、当該タイマ82bにおける計測時間を反応誘導時間dTとして、触媒投入コントローラ80へ出力する。
【0081】
触媒活性比算出部84は、タイマ84a、累積加算部84b、および除算器84cを含んでいる。タイマ84aは、反応誘導時間算出部82から反応誘導時間dTが出力されると、時間計測を開始する。また、累積加算部84bは、原料1の供給量の累積を行なう。そして、タイマ84aで計測されている時間が規定期間に到達すると、除算器84cは、その時点において累積加算部84bで累積されている原料1の供給累積値を標準累積値で除算する。触媒活性比算出部84は、この除算結果を触媒の触媒活性比scaleとして、触媒投入コントローラ80へ出力する。
【0082】
触媒投入コントローラ80は、操業開始の指令、反応器内温度検出値、反応誘導時間dT、触媒活性比scaleなどに基づいて、反応器2内に触媒を投入するための投入ポンプ52の投入動作を制御する。具体的には、操業開始の指令が与えられると、投入ポンプ52に所定のポンプ速度の指令を、所定の投入継続時間にわたって与えることで、反応器2内に所定量の触媒を投入する(1回目の触媒投入)。その後、反応誘導時間算出部82および触媒活性比算出部84からそれぞれ反応誘導時間dTおよび触媒活性比scaleが入力されると、触媒投入コントローラ80は、2回目以降の触媒の投入(追加投入)における、触媒投入量、触媒投入速度(ポンプ速度)および投入継続時間を決定する。さらに、触媒投入コントローラ80は、2回目以降の触媒の投入条件(追加投入条件)が成立しているか否か判断し、この追加投入条件が成立している場合に、触媒の触媒活性に応じた量だけ触媒が追加投入されるように、決定されたポンプ速度の指令を、決定された投入継続時間にわたって投入ポンプ52へ与える。このように、触媒投入コントローラ80は、投入ポンプ52の投入動作を反応完了まで継続的に実行する。
【0083】
このような動作を実行するために、触媒投入コントローラ80は、投入量決定ロジック80a、投入速度決定ロジック80bおよび投入継続時間決定ロジック80cを含む。投入量決定ロジック80aは、触媒活性比scaleに基づいて、2回目以降の触媒の投入における触媒投入量を決定する。投入速度決定ロジック80bは、触媒活性比scaleに基づいて、2回目以降の触媒の投入における投入ポンプ52の触媒投入速度(ポンプ速度)を決定する。また、投入継続時間決定ロジック80cは、触媒投入量および触媒投入速度(ポンプ速度)に基づいて、投入継続時間を決定する。
【0084】
<適用例>
上述した本実施の形態に従う制御方法を図1に示すセミバッチ式の化学プロセスに適用した場合のシミュレーション結果を、本発明に関連する制御方法と比較して以下に示す。
【0085】
図9は、本発明に関連する制御方法を図1に示すセミバッチ式の化学プロセスに適用した場合の時間的変化を示すグラフである。図9(a)には、本発明に関連する制御方法における触媒の投入計画が示される。図9(a)に示す投入計画では、標準の触媒活性に基づいて算出された触媒投入量の触媒が間欠的に反応器2内に投入される。すなわち、初回の触媒投入量は、約40kg/hrの供給速度で15分間行なわれ、10kgの触媒が投入される。そして、2回目以降は、約100分間隔で、約30kg/hrの供給速度で6分間行なわれ、3kgの触媒が投入される。投入された触媒は時間の経過とともに失活するので、反応器2内の有効触媒重量は、図9(a)に示すような時間的変化を生じる。
【0086】
図9(a)に示す投入計画は、触媒の触媒活性が一定であるとの前提で定められたものであり、この触媒活性が何らかの外乱によって変化した場合には、反応速度を適切に制御することができない。
【0087】
図9(b)には、図9(a)に示す投入計画に従って触媒が投入された場合の原料1の供給量(∝反応器2内の反応速度)の時間的変化が示されており、図9(c)には、図9(a)に示す投入計画に従って触媒が投入された場合における製品の生成量の時間的変化が示されている。なお、図9(b)および図9(b)の符号「50%」および「−50%」は、触媒の触媒活性が標準値に比較して、50%増加した場合、および50%低下した場合をそれぞれ示す(以下のシミュレーション結果においても同様である。)。
【0088】
図9(b)に示すように、触媒の触媒活性が高くなれば、反応器2内の反応速度は増加するので、原料1の供給量も増大し、反対に、触媒の触媒活性が低くなれば、反応器2内の反応速度は低下するので、原料1の供給量も減少する。この原料1の供給量の増大、すなわち反応に伴って発生する熱の増大によって、反応器2内の温度制御が乱されて、製品の品質に悪影響を与えるおそれがある。また、図9(c)に示すように、単位時間当たりの製品生成量は、この触媒活性の程度に依存して大きく変動するため、安定的に生産を行なうことができない。
【0089】
このように、予め触媒投入量を固定した投入計画に従ってプロセス制御を行なった場合には、触媒活性の程度に依存して、その製品品質および生産効率が影響を受ける。
【0090】
図10は、本実施の形態に従う制御方法を図1に示すセミバッチ式の化学プロセスに適用した場合の時間的変化を示すグラフである。なお、投入ポンプ52の投入速度は、2段階に切り替え可能であるものとする。図10(a)には、本実施の形態に従う制御方法において投入される触媒の時間的変化を示す。本実施の形態に従う制御方法によれば、触媒の投入タイミング、触媒投入量、および投入速度は、対象プロセスの状態に依存して定まる。その結果、図10(a)に示すように、初回の触媒投入量は同一であっても、触媒の触媒活性が高くなれば、投入速度が低い側に維持されるとともに、その投入継続時間は短縮され、かつその投入間隔は短くなる。一方、触媒の触媒活性が低くなれば、その投入速度が高い側に設定されるとともに、その投入継続時間も延長され、かつその投入間隔は長くなる。
【0091】
このように触媒の投入タイミング、触媒投入量、および投入速度を対象プロセスの状態に応じて変更することで、図10(b)に示すように、触媒の触媒活性の程度に影響されることなく、原料1の供給量(∝反応器2内の反応速度)を均質化することができる。その結果、図10(c)に示すように、単位時間当たりの製品生成量についても、触媒の触媒活性の程度に影響されることなく均質化できる。
【0092】
上述したように、本実施の形態に従う制御方法によれば、触媒の触媒活性の程度に影響されることなく、反応器2内の温度制御を安定的に行なうことができるとともに、製品を安定的に生産することもできる。
【0093】
<ハードウェア構成>
上述した本実施の形態に従う制御方法を実行するための制御機能は、代表的に、コンピュータによって提供される。
【0094】
図11は、この発明の実施の形態に従う制御機能を提供するための代表的なハードウェア構成であるコンピュータ100のハードウェア構成を示す概略構成図である。
【0095】
図11を参照して、コンピュータ100は、FD(Flexible Disk)駆動装置111およびCD−ROM(Compact Disk-Read Only Memory)駆動装置113を搭載したコンピュータ本体101と、モニタ102と、キーボード103と、マウス104とを含む。
【0096】
コンピュータ本体101は、FD駆動装置111およびCD−ROM駆動装置113に加えて、相互にバスで接続された、演算装置であるCPU(Central Processing Unit)105と、メモリ106と、記憶装置である固定ディスク107と、通信インターフェース109とを含む。
【0097】
本実施の形態に従う制御機能は、CPU105がメモリ106などのコンピュータハードウェアを用いて、プログラムを実行することで実現される。一般的に、このようなプログラムは、FD112やCD−ROM114などの記録媒体に格納されて、またはネットワークなどを介して流通する。そして、このようなプログラムは、FD駆動装置111やCD−ROM駆動装置113などにより記録媒体から読取られて、または通信インターフェース109にて受信されて、固定ディスク107に格納される。さらに、このようなプログラムは、固定ディスク107からメモリ106に読出されて、CPU105により実行される。
【0098】
CPU105は、様々な数値論理演算を行なう演算処理部であり、プログラムされた命令を順次実行することで、本実施の形態に従う制御機能を提供する。メモリ106は、CPU105のプログラム実行に応じて各種の情報を記憶する。
【0099】
モニタ102は、CPU105が出力する情報を表示するための表示部であって、一例としてLCD(Liquid Crystal Display)やCRT(Cathode Ray Tube)などから構成される。すなわち、モニタ102には、プロセス制御の状態などが表示される。
【0100】
マウス104は、クリックやスライドなどの動作に応じたユーザから指令を受付ける。キーボード103は、入力されるキーに応じたユーザから指令を受付ける。
【0101】
通信インターフェース109は、コンピュータ100と他の装置との間の通信を確立するための装置であり、各種データを外部から受付可能である。
【0102】
なお、上述したようなコンピュータに代えて、その一部または全部を専用のハードウェアによって実現してもよい。
【0103】
<本実施の形態による作用・効果>
この発明の実施の形態によれば、触媒の物性(触媒活性)の程度に応じて、追加投入する触媒の量を調整できるので、反応器内の温度制御を安定的に行なうことができるとともに、製品を安定的に生産することもできる。
【0104】
また、この発明の実施の形態によれば、必要な量の触媒を追加投入する際に、適切な投入速度を複数段階の投入速度から選択するとともに、投入継続時間を連続的に変更する。そのため、投入継続時間を固定した上で、投入速度を連続的に調整する場合に比較して、触媒の投入速度の精度を高めることができるとともに、制御系および触媒供給設備などを簡素化することができる。また、プロセス全体の運転管理を容易化することもできる。そのため、触媒の触媒活性が大きく変化した結果、追加投入すべき触媒の量が大きく変動するような場合であっても、すなわち、追加投入すべき触媒の量が微量から大量にわたるような広い運転レンジが要求される場合であっても、高い制御精度を維持することができる。
【0105】
さらに、触媒の触媒活性が低い場合には、投入速度を高めて、短時間に相対的に多くの触媒を投入することができるので、反応時間の長期化による生産効率の低下を抑制することができる。
【0106】
[変形例]
上述の実施の形態においては、2回目以降の触媒投入量を制御するために、投入速度を段階的に変更するとともに、投入継続時間を連続的に変更する構成について例示した。これに対して、設備制約によって、触媒の投入速度を全く変更できない場合もある。このような場合には、触媒の触媒活性に応じて投入継続時間のみを変更するようにしてもよい。以下、このような構成を有する変形例について説明する。
【0107】
図12は、この発明の実施の形態の変形例に従う化学プロセスの制御に係る処理手順を示すフローチャートである。図12に示すフローチャートは、図7に示す実施の形態に従うフローチャートにおいて、ステップS122を取り除いた上で、ステップS124に代えて、ステップS124Aを実行するようにしたものである。その他のステップについては、対応するステップと同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0108】
ステップS124Aでは、算出された2回目以降の触媒投入量(追加分)Mに基づいて、2回目以降の触媒の投入継続時間t’が決定される。より具体的には、投入ポンプ52による触媒投入速度speedが一定値(spped_const)であるとして、2回目以降の触媒投入量(追加分)Mを用いて、2回目以降の触媒投入時の投入継続時間t’は、以下のような数式で算出される。
【0109】
投入継続時間t’=触媒投入量(追加分)M/触媒投入速度spped_const
そして、ステップS130において、2回目以降の触媒の投入条件が成立していると判断された場合(YESの場合)には、この決定された投入継続時間t’の期間にわたって投入ポンプ52が投入動作を行なう。
【0110】
このように、本実施の形態の変形例においては、2回目以降の触媒投入量(投入継続時間t’に比例)を触媒活性比scaleに応じて変化させることで、触媒活性が何らかの外乱により変化した場合であっても、反応を安定的に制御する。
【0111】
<適用例>
上述した本実施の形態の変形例に従う制御方法を図1に示すセミバッチ式の化学プロセスに適用した場合のシミュレーション結果を以下に示す。
【0112】
図13は、本実施の形態の変形例に従う制御方法を図1に示すセミバッチ式の化学プロセスに適用した場合の時間的変化を示すグラフである。なお、投入ポンプ52の投入速度は、固定値であるものとする。図13(a)には、本実施の形態の変形例に従う制御方法において投入される触媒の時間的変化を示す。本実施の形態の変形例に従う制御方法によれば、触媒の投入タイミングおよび触媒投入量(投入継続時間)は、対象プロセスの状態に依存して定まる。その結果、図13(a)に示すように、初回の触媒投入量は同一であっても、触媒の触媒活性が高くなれば(50%)、その投入継続時間は短縮され、かつその投入間隔は短くなる。一方、触媒の触媒活性が低くなれば、その投入継続時間も延長され、かつその投入間隔は長くなる。
【0113】
このように触媒の投入タイミングおよび投入量(投入継続時間)を対象プロセスの状態に応じて変更することで、図13(b)に示すように、触媒の触媒活性の程度に影響されることなく、原料1の供給量(∝反応器2内の反応速度)を均質化することができる。その結果、図13(c)に示すように、単位時間当たりの製品生成量についても、触媒の触媒活性の程度に影響されることなく均質化できる。
【0114】
上述したように、本実施の形態の変形例に従う制御方法によれば、触媒供給設備などの制約によって、触媒の投入速度を変更できない場合であっても、触媒の触媒活性の程度に影響されることなく、反応器2内の温度制御を安定的に行なうことができるとともに、製品を安定的に生産することもできる。
【0115】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0116】
2 反応器、4 インペラ、6 ジャケット、8 底部、10,30,32 流調弁、12,20,24,38 供給ライン、14 圧力センサ、16 圧力コントローラ、18,44,48 開閉弁、26 第1温度コントローラ、28 第2温度コントローラ、36,60 温度センサ、40 ポンプ、42 製品ライン、46 ベントライン、50 投入ライン、52 投入ポンプ、52A 投入ポンプユニット、52M モータ、52P ポンプ本体、52V インバータ装置、54 戻りライン、56,58 流量計、80 触媒投入コントローラ、80a 投入速度決定ロジック、80b 投入継続時間決定ロジック、82 反応誘導時間算出部、82a 累積加算部、82b タイマ、84 触媒活性比算出部、84a タイマ、84b 累積加算部、84c 除算器、86 累積加算部、100 コンピュータ、101 コンピュータ本体、102 モニタ、103 キーボード、104 マウス、106 メモリ、107 固定ディスク、109 通信インターフェース、111 FD駆動装置、113 CD−ROM駆動装置、521 低容量ポンプ、522,524 開閉弁、523 高容量ポンプ、525 供給ライン、dT 反応誘導時間、GP 気相、LP 液相、SYS システム。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応器内での存在量が所定の範囲となるように第1原料を供給する原料供給手段と、前記第1原料と前記反応器内に予め仕込まれている第2原料との化学反応を促進するための触媒を投入する触媒投入手段とを含む化学プロセスにおける制御方法であって、
処理開始後に所定量の前記触媒を投入するステップと、
前記触媒の投入後における前記第1原料の供給累積値に基づいて、前記触媒の物性を評価するステップと、
評価した前記触媒の物性に基づいて、前記触媒の追加投入時の投入量を決定するステップと、
評価した前記触媒の物性に基づいて、前記触媒の追加投入時の投入速度を決定するステップと、
前記追加投入時の投入量および前記追加投入時の投入速度に基づいて、前記触媒の追加投入時の前記触媒投入手段による投入継続時間を決定するステップと、
前記触媒の追加投入の条件が成立した場合に、前記投入継続時間にわたって前記触媒を前記投入速度で追加投入するステップとを備える、化学プロセスにおける制御方法。
【請求項2】
前記触媒投入手段は、前記触媒の投入速度を複数段階に切替可能であり、
前記触媒の追加投入時の投入速度を決定するステップでは、前記触媒の物性と予め定められたしきい値との比較によって、前記複数段階のうち1つの前記投入速度が選択される、請求項1に記載の化学プロセスにおける制御方法。
【請求項3】
前記触媒投入手段における投入速度の切替可能な段数は、2または3である、請求項2に記載の化学プロセスにおける制御方法。
【請求項4】
前記制御方法は、前記反応器内の温度および前記第1原料の供給量に基づいて、前記触媒の追加投入の条件が成立しているか否かを判断するステップをさらに備え、
前記触媒の追加投入の条件が成立しているか否かを判断するステップは、
前記反応器内の温度が所定のしきい温度以下であるか否かを判断するステップと、
前記第1原料の供給量が所定のしきい量以下であるか否かを判断するステップとを含み、
前記反応器内の温度が所定のしきい温度以下であり、かつ前記第1原料の供給量が所定のしきい量以下である場合に、前記触媒の追加投入の条件が成立していると判断される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の化学プロセスにおける制御方法。
【請求項5】
前記制御方法は、前記触媒を追加投入するステップの実行後に所定期間だけ待機し、前記触媒の追加投入の条件が成立しているか否かを再度判断するステップをさらに備え、
待機する前記所定期間は、前記触媒の物性に応じて設定される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の化学プロセスにおける制御方法。
【請求項6】
前記触媒の物性を評価するステップは、
処理開始後に前記触媒が最初に投入されてから前記第1原料の供給累積値が所定のしきい累積値に到達するまでに要した時間に基づいて前記触媒の反応誘導時間を算出するステップと、
前記第1原料の供給累積値が所定のしきい累積値に到達した後から規定期間が経過した時点における前記第1原料の供給累積値を、標準累積値で除算することで、前記触媒の触媒活性比を算出するステップとを含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の化学プロセスにおける制御方法。
【請求項7】
反応器内での存在量が所定の範囲となるように第1原料を供給する原料供給手段と、前記第1原料と前記反応器内に予め仕込まれている第2原料との化学反応を促進するための触媒を投入する触媒投入手段とを含む化学プロセスを制御するためのプログラムであって、
前記プログラムは、
処理開始後に所定量の前記触媒を投入する手段と、
前記触媒の投入後における前記第1原料の供給累積値に基づいて、前記触媒の物性を評価する手段と、
評価した前記触媒の物性に基づいて、前記触媒の追加投入時の投入量を決定する手段と、
評価した前記触媒の物性に基づいて、前記触媒の追加投入時の投入速度を決定する手段と、
前記追加投入時の投入量および前記追加投入時の投入速度に基づいて、前記触媒の追加投入時の前記触媒投入手段による投入継続時間を決定する手段と、
前記触媒の追加投入の条件が成立した場合に、前記投入継続時間にわたって前記触媒を前記投入速度で追加投入する手段としてコンピュータを機能させる、化学プロセスを制御するためのプログラム。
【請求項1】
反応器内での存在量が所定の範囲となるように第1原料を供給する原料供給手段と、前記第1原料と前記反応器内に予め仕込まれている第2原料との化学反応を促進するための触媒を投入する触媒投入手段とを含む化学プロセスにおける制御方法であって、
処理開始後に所定量の前記触媒を投入するステップと、
前記触媒の投入後における前記第1原料の供給累積値に基づいて、前記触媒の物性を評価するステップと、
評価した前記触媒の物性に基づいて、前記触媒の追加投入時の投入量を決定するステップと、
評価した前記触媒の物性に基づいて、前記触媒の追加投入時の投入速度を決定するステップと、
前記追加投入時の投入量および前記追加投入時の投入速度に基づいて、前記触媒の追加投入時の前記触媒投入手段による投入継続時間を決定するステップと、
前記触媒の追加投入の条件が成立した場合に、前記投入継続時間にわたって前記触媒を前記投入速度で追加投入するステップとを備える、化学プロセスにおける制御方法。
【請求項2】
前記触媒投入手段は、前記触媒の投入速度を複数段階に切替可能であり、
前記触媒の追加投入時の投入速度を決定するステップでは、前記触媒の物性と予め定められたしきい値との比較によって、前記複数段階のうち1つの前記投入速度が選択される、請求項1に記載の化学プロセスにおける制御方法。
【請求項3】
前記触媒投入手段における投入速度の切替可能な段数は、2または3である、請求項2に記載の化学プロセスにおける制御方法。
【請求項4】
前記制御方法は、前記反応器内の温度および前記第1原料の供給量に基づいて、前記触媒の追加投入の条件が成立しているか否かを判断するステップをさらに備え、
前記触媒の追加投入の条件が成立しているか否かを判断するステップは、
前記反応器内の温度が所定のしきい温度以下であるか否かを判断するステップと、
前記第1原料の供給量が所定のしきい量以下であるか否かを判断するステップとを含み、
前記反応器内の温度が所定のしきい温度以下であり、かつ前記第1原料の供給量が所定のしきい量以下である場合に、前記触媒の追加投入の条件が成立していると判断される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の化学プロセスにおける制御方法。
【請求項5】
前記制御方法は、前記触媒を追加投入するステップの実行後に所定期間だけ待機し、前記触媒の追加投入の条件が成立しているか否かを再度判断するステップをさらに備え、
待機する前記所定期間は、前記触媒の物性に応じて設定される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の化学プロセスにおける制御方法。
【請求項6】
前記触媒の物性を評価するステップは、
処理開始後に前記触媒が最初に投入されてから前記第1原料の供給累積値が所定のしきい累積値に到達するまでに要した時間に基づいて前記触媒の反応誘導時間を算出するステップと、
前記第1原料の供給累積値が所定のしきい累積値に到達した後から規定期間が経過した時点における前記第1原料の供給累積値を、標準累積値で除算することで、前記触媒の触媒活性比を算出するステップとを含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の化学プロセスにおける制御方法。
【請求項7】
反応器内での存在量が所定の範囲となるように第1原料を供給する原料供給手段と、前記第1原料と前記反応器内に予め仕込まれている第2原料との化学反応を促進するための触媒を投入する触媒投入手段とを含む化学プロセスを制御するためのプログラムであって、
前記プログラムは、
処理開始後に所定量の前記触媒を投入する手段と、
前記触媒の投入後における前記第1原料の供給累積値に基づいて、前記触媒の物性を評価する手段と、
評価した前記触媒の物性に基づいて、前記触媒の追加投入時の投入量を決定する手段と、
評価した前記触媒の物性に基づいて、前記触媒の追加投入時の投入速度を決定する手段と、
前記追加投入時の投入量および前記追加投入時の投入速度に基づいて、前記触媒の追加投入時の前記触媒投入手段による投入継続時間を決定する手段と、
前記触媒の追加投入の条件が成立した場合に、前記投入継続時間にわたって前記触媒を前記投入速度で追加投入する手段としてコンピュータを機能させる、化学プロセスを制御するためのプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−162439(P2010−162439A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−4864(P2009−4864)
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】
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