説明

化学物質同定センサおよびそれを用いた化学物質の同定方法

【課題】多数の化学物質などの標的物質とハイブリタイゼーションを起こしたビーズを確実に所定の部位に配置することができるとともに、化学的結合部位の必要のない化学物質同定センサおよびそれを用いた測定方法を提供することを目的とする。
【解決手段】窪み2を有した貫通孔3を設けたプレート1と、このプレート1によって区画された第一、第二の領域4,5を備え、前記貫通孔の窪み2にプローブ機能を有した微小球11を配置するとともに、前記第一、第二の領域4,5のいずれか一方の内部および前記貫通孔3の内部に液体を充填する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は化学物質などの試料を高精度に測定することができる化学物質同定センサおよびそれを用いた同定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、溶液中に存在するタンパク質などを測定する方法として、ビーズの表面にタンパク質プローブを有する化学物質同定センサが知られており、この化学物質同定センサは例えばビーズの表面に生物活性剤であるプローブを吸着させ、溶液中に於いてこのプローブ部分とハイブリッタイゼーションを起こす標的物質を検出する技術が知られている。そして、この化学物質同定センサの一例としてはビーズが測定中に動かないようにビーズを基体の表面にある分離した部位に結合または付着させることのできる基体/ビーズのペアリングを使用した技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特表2002−533727号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来の化学物質同定センサの構成では、ビーズを基体の特定の部位に配置させるため、混合、振動または攪拌などの方法によって行われ、基体と定着させるために化学物質による結合が行われるが、前記方法によって、アレイの全ての部位にビーズが配置できるとは限らず、反対に一つのアレイに複数のビーズが配置されてしまうという課題を有している。
【0005】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、多数の化学物質などの標的物質とハイブリタイゼーションを起こしたビーズを確実に所定の部位に配置することができるとともに、化学的結合部位の必要のない化学物質同定センサおよびそれを用いた測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は、窪みを有した貫通孔を設けたプレートと、このプレートによって区画された第一、第二の領域を備え、前記貫通孔の窪みにプローブ機能を有した微小球を配置するとともに、前記第一、第二の領域のいずれか一方の内部および前記貫通孔の内部に液体を充填した構成とするものである。
【発明の効果】
【0007】
前記構成により、ビーズを貫通孔の一部に設けた窪みに容易に配置することができるセンサ構造を実現していることから、ビーズを基体の特定の部位に化学的に結合または付着させる必要がなくなり、確実に一個のビーズを貫通孔の上部に設けた窪みに固定することができる化学物質同定センサおよびそれを用いた測定方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態1における化学物質同定センサの構成について、図面を参照しながら説明する。図1は本発明の化学物質同定センサの一部切り欠き斜視図であり、図2は同断面図である。図1および図2において、1はシリコンからなるプレートであり、このプレート1の一部は肉薄部1aとなっている。
【0009】
さらに、第一の領域4と第二の領域5は肉薄部1aに設けられた窪み2を有した貫通孔3によってのみ連通されている。また、第一の領域4と第二の領域5の内部にはそれぞれ光ファイバーなどの光導入口8および光検出口9が設置されており、これら光導入口8および光検出口9は、さらに測定器(図示せず)へと接続されている。
【0010】
また、第一の領域4、第二の領域5および窪み2を有した貫通孔3の内部は液体10によって満たされている。ここで、液体10は測定する対象化学物質が存在する液体物質である。さらに、第一の領域4および第二の領域5には蓋板の一例としてキャップ6,7が当接されており、これによって第一の領域4および第二の領域5は外部雰囲気から遮断されており、その結果として内部圧力を制御することを可能としている。
【0011】
なお、本実施例では第一の領域4、第二の領域5を共に液体10によって満たすとしたが、これにより貫通孔3を通って第二の領域5へ通過した光は第二の領域5を満たす液体10の中を拡散するので、第二の領域5側に設置された光検出口9への導入が容易になるという利点も有している。しかしながら一方で、第二の領域5で光を拡散させることが好ましくない場合は第二の領域5側には液体を満たさなくてもよい。この場合は貫通孔3を通過した光は直接光検出口9へ到達する。
【0012】
そして、窪み2の凹部には粒子(ビーズ)11を配置しており、この粒子11を介して化学物質の同定を行うものである。また、粒子(ビーズ)11の材質は特に限定するものではないが、好ましくは励起光14、検出光15に対して透明性を有していることが好ましく、このような透明性を有している材料としては、ガラス、セラミック材料などの無機材料、あるいはポリカーボネート、ポリスチレン、ポリオレフィン等の樹脂材料が適している。
【0013】
また、粒子11の大きさは0.5〜100μm程度の直径を持つ球形であることにより、本発明のプレート1に設けた窪み2の内部へ安定した保持ができる。しかしながら、球形以外の形状について排除するものではなく、たとえば表面へのプローブ12の付着量を増やすため、表面に凹凸があるいびつな形状であっても本発明への適用は可能である。
【0014】
また、粒子11の表面にはプローブ12が付着されるが、このプローブ12は検出対象物質13に対応した特定の化合物として合成されたものである。例えば、DNAプローブは特定の塩基配列と結合する相補的塩基配列をもったDNAであり、溶液中に特定配列を持ったDNAの存在有無を判定したい場合、このDNAプローブと結合(ハイブリタイゼーション)を起こすかどうかによって測定できる。
【0015】
特に、本発明ではプローブ12に蛍光標識を行っておき、検出対象物質13が結合した場合に、外部からの入力光である励起光14に対して蛍光を発するようにしておく。これにより、粒子11の表面を通過した検出光15はハイブリタイゼーションの有無によってその色調が変化するが、本発明のセンサでは検出光15は貫通孔3を通過したものだけを観察することができることから、他からのノイズが少なくすることが可能であり、これによって、より高精度な化学物質の同定が可能になる。
【0016】
なお、プローブ12の種類はDNAの他にRNA,タンパク質等を用いることが可能である。
【0017】
次に、前記本発明の化学物質同定センサを用いて、液体10に存在する化学物質を同定する方法について説明する。図3および図4は本発明の化学物質同定センサの使用方法を示す断面図である。ここで、図3に示す本実施の形態1の化学物質同定センサの第一の領域4においては、プレート1の窪み2の内部に、プローブ12が表面に形成された粒子11が保持されている。ここで、貫通孔3の開口部は粒子11より小さいので、この粒子11を保持する方法として第二の領域5側を減圧して貫通孔3を吸引することによって、強固な保持が容易に実現される。また、この保持方法は第一の領域4と第二の領域5の圧力差を利用したものであるので、窪み2に粒子11を吸着させるために化学的結合部位を別途設ける必要がないという利点を有している。
【0018】
また、第一の領域4と第二の領域5はプレート1によって仕切られていることから、第一の領域4の内部を加圧手段(図示せず)によって加圧することによって、貫通孔3を介して第二の領域5へ液体10を移動させながら粒子11を窪み2へと移動させながら粒子11を窪み2に保持させることが可能となる。
【0019】
このように、第一の領域4と第二の領域5を個別に制御できるような構成とすることによって、吸引あるいは加圧などの手段を用いて粒子11を容易に制御することができる。さらに、液体10を別の薬液などに容易に置換することも可能となるセンサ構造を実現することができる。
【0020】
次に、図3に示すように第一の領域4側から励起光14を導入すると光は第一の領域4の内部を満たした液体10の内部を散乱しながら透過し、図に示すように窪み2を有した貫通孔3の内部へも進入する。このとき、窪み2に保持された粒子11は貫通孔3を確実に塞いでいるので、貫通孔3を透過してきた励起光15は粒子11の表面を透過してきた光である。そして、図のように、溶液4の内部に検査対象物質13が無い、あるいは濃度が低い場合、粒子11の表面に形成されたプローブ12が検査対象物質13とハイブリタイゼーションは起こらず、この状態での粒子11の表面を通過した光が検出光15として検出され、参照応答が測定される。
【0021】
次に、図4に示すように溶液4中に検査対象物質13が存在する状態では、プローブ12が検査対象物質13とハイブリタイゼーションを起こし、この状態での粒子11の表面を通過した検出光15が検出される。この際、プローブ12と検査対象物質13がハイブリタイゼーションを起こしている状態では、プローブ12が蛍光を発するように修飾しておけば、通過した検出光15は蛍光を伴っており、前記参照応答と区別される。こうして、液体4の内部に検査対象物質13が存在するかどうかが判定できるのである。
【0022】
このように、プレート1に貫通孔3を有する窪み2を設けたことによって、確実に、プローブ12を表面に有した粒子11を保持できる上、貫通孔3を通過した光は必ず粒子11の表面を通過しているので、より高精度な測定が可能である。従って、プレート1の材質は本実施の形態1にて説明したシリコン以外でも可能であるが、不透明であることがより望ましい。これによって、第二の領域5側に透過してくる光は貫通孔3を通過したものだけとなり、第二の領域5側での光検出がより高精度になる。なお、検出側である第二の領域5は必ずしも液体で満たされていなくても光検出はできるが、液体で満たされる場合には、貫通孔3を通過した光は第二の領域に存在する液体10の内部で散乱し、光検出口9への導入が簡単になるという利点を有している。
【0023】
さらに、本実施の形態1における保持方法では第一の領域4側を減圧雰囲気にすれば、一度保持された粒子11でも再度、保持を解除することができることから、任意の時に粒子11を液体10の中に分散させて、プローブ12と検査対象物質13の反応を促進させることができる。例えば、検査対象物質13が液体中に無い状態で粒子11を窪み2に保持させて参照応答を測定した後、検査対象物質13が含まれる液体10を添加した後、粒子11の保持を解除すれば粒子11は液体10の中に容易に分散することで検査対象物質13とプローブ12の反応が促進し、再度吸引によって粒子11を保持した後に測定を行えば、参照応答との比較によって検査対象物質13の有無判定がより高精度になるという利点を有している。
【0024】
また、プレート1および肉薄部1aはシリコンで構成されており、これによってプレート1および肉薄部1aの内部に形成された窪み2および貫通孔3の加工については、半導体プロセスを用いることによって効率良く、且つ高精度に作製することが可能となる。
【0025】
なお、肉薄部1aに設けた窪み2を有した貫通孔3は複数個設けることによって、より確実な測定が可能である。
【0026】
以上説明してきたように、本実施の形態1で説明してきた化学物質同定センサおよびこれを用いた化学物質の同定方法は、ウイルス、食料品産地などの特定DNA配列の検出を行うDNAセンサ、SNP(一塩基多型)配列を検出するSNPセンサ、アレルゲン(アレルギー抗原)の存在を検出する抗原センサ等、農業分野、医療分野、環境分野などに広く用いることができる。
【0027】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2における化学物質同定センサについて、図面を用いて説明する。
図5に示すように、プレート1の片側を外部雰囲気に開放した構造とすることもでき、この場合は化学物質同定センサを直接液体10につけることで、溶液10中に存在する検査対象物質の有無を測定できる。
【0028】
本実施の形態2では、第一の領域4を開放空間にした構造であり、第二の領域5は圧力制御口16以外は外部雰囲気より閉じられている。この場合は、第一の領域4側が開放空間であるため、第一の領域4側の圧力を制御するために、液体10の中へ浸水させる化学物質同定センサの液面よりの沈み込み量を制御すればよい。つまりこれを深く沈めればより強い圧力で貫通孔3へ粒子11を保持させることができる。第二の領域5に接続された圧力制御口16による第二の領域5の圧力制御と合わせれば、第二の領域5側を陽圧にすることによって、一度窪み2に保持された粒子11を再度分散させることも可能である。
【0029】
また第一の領域4は開放空間であるため、第一の領域4側に分散させる粒子11の交換、液体10の交換等がより簡単であるという利点を有する。
【産業上の利用可能性】
【0030】
以上のように、本発明にかかる化学物質同定センサおよびそれを用いた化学物質の同定方法は、例えば、液体中に存在する検査対象物質の有無や濃度を高精度に検出する用途に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施の形態1における化学物質同定センサの一部切り欠き斜視図
【図2】同化学物質同定センサの断面図
【図3】同化学物質同定センサの使用方法を示す断面図
【図4】同断面図
【図5】本発明の実施の形態2における化学物質同定センサの断面図
【符号の説明】
【0032】
1 プレート
1a 肉薄部
2 窪み
3 貫通孔
4 第一の領域
5 第二の領域
6 キャップ
7 キャップ
8 光導入口
9 光検出口
10 液体
13 検査対象物質
14 励起光
15 検出光
16 圧力制御口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窪みを有した貫通孔を設けたプレートと、このプレートによって区画された第一、第二の領域を備え、前記貫通孔の窪みにプローブ機能を有した微小球を配置するとともに、前記第一、第二の領域のいずれか一方の内部および前記貫通孔の内部に液体を充填した化学物質同定センサ。
【請求項2】
第一の領域および第二の領域の内部に液体を充填した請求項1に記載の化学物質同定センサ。
【請求項3】
第一の領域および第二の領域の圧力を個別に制御する請求項1に記載の化学物質同定センサ。
【請求項4】
プレートを不透明とした請求項1に記載の化学物質同定センサ。
【請求項5】
プレートをシリコンとした請求項1に記載の化学物質同定センサ。
【請求項6】
貫通孔の開口径をビ−ズの外形よりも小さくした請求項1に記載の化学物質同定センサ。
【請求項7】
窪みを有していない貫通孔から吸引することによってビーズを吸引するための吸引手段を設けた請求項1に記載の化学物質同定センサ。
【請求項8】
窪みを有する貫通孔を形成したプレートの一面側である第一の領域を加圧することによってビーズを窪みに配置するための加圧手段を設けた請求項1に記載の化学物質同定センサ。
【請求項9】
プローブ機能として、検出する化学物質と結合することにより蛍光を発するように修飾されて微小球の表面に形成した請求項1に記載の化学物質同定センサ。
【請求項10】
窪みを有した貫通孔を設けたプレートと、このプレートによって区画された第一、第二の領域を備え、前記貫通孔の窪みにプローブ機能を有した微小球を配置するとともに、前記第一、第二の領域の内部および前記窪みを有した貫通孔の内部に液体を充填した化学物質同定センサを用いて、前記二つの領域のいずれか一方より、光を照射し、他方の領域より窪みを有した貫通孔を通過してきた光の波長と光量を測定する化学物質の同定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−145097(P2009−145097A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−320535(P2007−320535)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】