説明

化学的酸素要求量測定方法及び測定装置

【課題】吸光光度法によるCOD測定において、サンプルの濁りや塩化銀の懸濁による過マンガン酸カリウムの吸光度測定への影響を除去して、簡便にCODを求めることが可能なCOD測定方法及びCOD測定装置を提供する。
【解決手段】試料液中の被酸化物質と過マンガン酸イオンとを反応させた後、510〜560nmの波長で測定した第1吸光度A1と、400〜450nm又は600〜900nmの波長で測定した第2吸光度A2とを用い、下記式(1)で求められる△Aの値から試料液の化学的酸素要求量を求める。
△A=A1−A2×a ・・・(1)
(ただし、aは0.5〜3.0の値をとる係数)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学的酸素要求量測定方法及び化学的酸素要求量測定装置に関する。さらに詳しくは、吸光光度法による簡易な方法で化学的酸素要求量(以下「COD」という。)を求めるCOD測定方法及び測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
CODは水質の汚染度を示すもので、酸性過マンガン酸カリウム滴定法(JIS K0102 17)はCODの測定方法として広く利用されている。その測定方法は、試料を硫酸酸性にし、過マンガン酸カリウムを添加して100℃で30分間反応させ、そのときの過マンガン酸の消費量を滴定にて求め、COD濃度を算出する方法である。
その他の測定方法として、滴定の代わりに過マンガン酸カリウムの吸光度を測定し消費量を求め、COD濃度を算出する吸光光度法がある。
【0003】
JIS法は操作が煩雑であること、滴定量に熟練を要すること、またいろいろな測定機材を必要とすることから、簡易化が困難である。
吸光光度法においては、反応の際に生成する二酸化マンガンの浮遊物や塩化物イオンのマスキング剤として添加している銀と塩化物イオンによって生成する塩化銀の沈殿、およびサンプルの濁りなどが過マンガン酸カリウムの吸光を測定する際に影響を及ぼす。
これらの対処法として、フィルターでろ過し、影響する要因を取り除いて過マンガン酸カリウムの吸光度を測定する方法(特許文献1参照)や、二酸化マンガンの生成を防ぐ目的でリン酸を添加し、その条件で反応させてその吸光度(α)を測定し、さらにシュウ酸ナトリウムによって残存する過マンガン酸カリウムを還元退色させた後の吸光度(β)と、サンプルの代わりに純水を反応させたときの吸光度(γ)を測定し、γ−(α−β)によって過マンガン酸の消費量を算出する方法(特許文献2参照)などがある。
いずれの場合も、反応後にいくつかの操作を要し、操作が煩雑である。
【特許文献1】特開2000−88840号公報
【特許文献2】特開昭52−06738号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、吸光光度法によるCOD測定において、サンプルの濁りや塩化銀の懸濁による過マンガン酸カリウムの吸光度測定への影響を除去して、簡便にCODを求めることが可能なCOD測定方法及びCOD測定装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
[1]試料液中の被酸化物質と過マンガン酸イオンとを反応させた後、510〜560nmの波長で測定した第1吸光度A1と、400〜450nm又は600〜900nmの波長で測定した第2吸光度A2とを用いて試料液の化学的酸素要求量を求めることを特徴とする化学的酸素要求量測定方法。
[2]下記式(1)で求められる△Aの値から試料液の化学的酸素要求量を求める[1]に記載の化学的酸素要求量測定方法。
△A=A1−A2×a ・・・(1)
(ただし、aは0.5〜3.0の値をとる係数)
[3]試料液中の被酸化物質と過マンガン酸イオンとを反応させる際、リン酸を添加する[1]又は[2]に記載の化学的酸素要求量測定方法。
[4]試料液中の被酸化物質と過マンガン酸イオンとを反応させる際、銀イオンを添加する[1]から[3]の何れかに記載の化学的酸素要求量測定方法。
[5]試料液中の被酸化物質と過マンガン酸イオンとを反応させる反応機構と、反応後の試料液の510〜560nmの波長における第1吸光度A1と、400〜450nm又は600〜900nmの波長における第2吸光度A2とを測定する吸光度測定手段と、第1吸光度A1と第2吸光度A2とを用いて試料液の化学的酸素要求量を演算する演算手段とを備える化学的酸素要求量測定装置。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、吸光光度法によるCOD測定において、サンプルの濁りや塩化銀の懸濁による過マンガン酸カリウムの吸光度測定への影響を除去して、簡便にCODを求めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
反応セルにサンプル、硫酸、リン酸を加えた後、過マンガン酸イオンとして過マンガン酸カリウムを加え、加熱手段を用いて100℃で30分間反応させる。
このとき、リン酸の添加は、サンプル中の汚染物質と過マンガン酸カリウとの酸化反応の過程で生成する二酸化マンガンによる混濁を防ぐ目的である。反応させた後、冷却して上澄み液を分取し、分光光度計にて測定する。なお、サンプル中に塩化物イオンを含む場合、加熱反応に先立ち、硫酸、リン酸、過マンガン酸カリウムに加えて、マスキング剤として銀イオンを添加して塩化銀の沈殿を生成させる。
【0008】
過マンガン酸カリウムの吸収スペクトルは、図1に示すように、波長525〜543nmに高い吸収が見られ、波長400nm付近および630〜900nm付近において過マンガン酸カリウムの吸光がほとんど無いことが分かった。
また、濁度標準液(カオリン標準液:2500mg/L)を適宜希釈した溶液を525nmおよび660nmにて測定し、濁りによる525nmおよび660nmの吸光度の関係を調べた。その結果、図2に示すように、濁りによる525nmと660nmの吸光度は比例(吸光度525nm = 吸光度660nm *係数a )していた。なお、図2の横軸における希釈率は、試料液中に占める濁度標準液(カオリン標準液:2500mg/L)の割合である。また、縦軸は、525nmの吸光度と660nmの吸光度との比である。
なお、カオリン標準液の場合の係数aは約1.45であったが、実際に試料液と過マンガン酸イオンとを測定する際に適切な係数aを検討した結果、下記の実施例に示すように、約1であった。
一般に濁度の濃度変化に対し、波長400〜900nmのいずれの波長において、吸光は比例関係にあることが分かった。
【0009】
これらのことから、反応溶液の過マンガン酸カリウムの吸光と濁りによる吸光を含んだ吸光を過マンガン酸カリウムの吸光が高い波長である510〜560nm(第1測定波長)で第1吸光度A1として測定し、濁りによる吸光を過マンガン酸カリウムの吸光が低い波長400〜450nm又は600〜900nm(第2測定波長)で第2吸光度A2として測定し、以下式(1)で求めた△Aから過マンガン酸カリウムのみの吸光を算出できることがわかった。
△A=A1−A2×a ・・・(1)
(ただし、aは0.5〜3.0の値をとる係数)
【0010】
第1測定波長は 520〜540nmであることが好ましく、525nm又は534nmであることがより好ましい。また、第2測定波長は 660〜900nmであることが好ましい。
係数aの値は、1.0〜2.0であることが好ましく、1.0〜1.5であることがより好ましい。特に、試料液が通常の環境水や排水である場合、係数aは、1付近であることが好ましい。
【0011】
また、試料液中の被酸化物質と過マンガン酸イオンとを反応させる反応機構と、反応後の試料液の第1測定波長における第1吸光度A1と、第2測定波長における第2吸光度A2とを測定する吸光度測定手段と、第1吸光度A1と第2吸光度A2とを用いて試料液の化学的酸素要求量を演算する演算手段とを備える化学的酸素要求量測定装置は、COD値を直接表示、出力することができる。
演算装置は、具体的には、上記△AをCOD値に換算する。上記一連の動作、演算は、予め内蔵の制御装置においてプログラムされていることが好ましい。
【実施例】
【0012】
以下の操作手順で測定を行った。
(1)キャップ付きねじ口試験管(全長75mm、胴径18mm、容量11mL)にサンプルを5mL、試薬1を2mL、試薬2を2滴(約0.1mL)入れ、蓋をして振り混ぜる。
(2)さらに試薬3を1mL添加し蓋をして振り混ぜる。
(3)キャップ付きねじ口試験管の専用ブロックヒータ(当社製TNP−HT)にセットして100℃・30分間に設定し加熱する。
(4)加熱後、ヒータから試験管を取り出して室温で5分間静置する。
(5)水道水を入れた容器に試験管を浸し冷却する。
(6)上澄み液の525nmにおける第1吸光度A1、660nmにおける第2吸光度A2を分光光度計にて測定する。
なお、使用した試薬の組成は以下のとおりである。
試薬1:硫酸10%およびリン酸30%の混合水溶液
試薬2:硝酸銀70%水溶液
試薬3:1/40N過マンガン酸カリウム溶液
【0013】
まず、サンプルとして各種COD値に対応するCOD標準液(シュウ酸ナトリウム溶液)を用い、第1吸光度A1と第2吸光度A2をした。図3に示すように、1吸光度A1と第2吸光度A2との差に対して、COD値は良好な相関を示した。
表1にJIS法でのCOD測定値、図3を検量線として用いた測定値(演算有り)を示す。また、比較のため、図3の場合と同様にして求めた525nmにおける第1吸光度A1とCOD値の関係を検量線として用いた測定値(演算無し)の結果を示す。
この結果から演算有りでのCOD測定値のほうがよりJIS法でのCOD測定値に近いことが分かった。また、図4は図3におけるJIS法でのCOD測定値と演算有りでのCOD測定値との比較であり、良好な相関が得られた。
【0014】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】過マンガン酸カリウムの吸収スペクトルである。
【図2】濁度標準液の希釈率と、525nmの吸光度と660nmの吸光度との比を示すグラフである。
【図3】本発明の方法に係る検量線である。
【図4】本発明の方法による測定値とJIS法による測定値との比較を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料液中の被酸化物質と過マンガン酸イオンとを反応させた後、510〜560nmの波長で測定した第1吸光度A1と、400〜450nm又は600〜900nmの波長で測定した第2吸光度A2とを用いて試料液の化学的酸素要求量を求めることを特徴とする化学的酸素要求量測定方法。
【請求項2】
下記式(1)で求められる△Aの値から試料液の化学的酸素要求量を求める請求項1に記載の化学的酸素要求量測定方法。
△A=A1−A2×a ・・・(1)
(ただし、aは0.5〜3.0の値をとる係数)
【請求項3】
試料液中の被酸化物質と過マンガン酸イオンとを反応させる際、リン酸を添加する請求項1又は請求項2に記載の化学的酸素要求量測定方法。
【請求項4】
試料液中の被酸化物質と過マンガン酸イオンとを反応させる際、銀イオンを添加する請求項1から請求項3の何れかに記載の化学的酸素要求量測定方法。
【請求項5】
試料液中の被酸化物質と過マンガン酸イオンとを反応させる反応機構と、反応後の試料液の510〜560nmの波長における第1吸光度A1と、400〜450nm又は600〜900nmの波長における第2吸光度A2とを測定する吸光度測定手段と、第1吸光度A1と第2吸光度A2とを用いて試料液の化学的酸素要求量を演算する演算手段とを備える化学的酸素要求量測定装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−170897(P2006−170897A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−366118(P2004−366118)
【出願日】平成16年12月17日(2004.12.17)
【出願人】(000219451)東亜ディーケーケー株式会社 (204)
【Fターム(参考)】