説明

化学蓄熱材成形体およびその製造方法

【課題】繰り返し使用しても反応性が低下しにくい化学蓄熱材成形体およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】樹脂を加熱して形成された多孔質体14に化学蓄熱材粒子15が担持されている、化学蓄熱材成形体17。化学蓄熱材粒子15は、平均粒子径が0.1〜1000μmであることが好ましく、その含有量が30〜85重量%であることが好ましい。多孔質体14は、樹脂および/または炭化物である。化学蓄熱材粒子15は、カルシウムまたはマグネシウムの化合物である。化学蓄熱材粒子15と樹脂とを混合して混合材料を調製する調製工程と、前記混合材料を加熱して前記樹脂の多孔質体14を形成する熱処理工程と、を有する化学蓄熱材成形体17の製造方法により製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学蓄熱材を含む化学蓄熱材成形体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学蓄熱材は、熱エネルギーの利用を図る上で有効なケミカルヒートポンプに代表される化学蓄熱システムに用いられる。
【0003】
放熱化学反応と吸熱化学反応とが可逆的に起こる化学蓄熱材は、再生利用が可能であるという利点がある。しかしながら、微粉体蓄熱材を使う従来の方法においては、複数回使用すると蓄熱材自身の固化等が進行しやすく、さらなる再生利用が難しいという問題があった。
【0004】
上記のような問題を解決するための様々な技術が提案されている。例えば、粒径0.3mm〜4mmの範囲の結晶性の石灰石を850℃〜1100℃の範囲で所定時間加熱した後に、該石灰石を500℃〜600℃の範囲で所定時間加熱することで、表面から内部に向かう多数の気孔が形成された生石灰を得る技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、内部空間の10〜60容量%の割合で粉体化学蓄熱材を収容したカプセルを、反応器または反応塔に充填する技術が知られている(例えば、特許文献2、特許文献3参照)。また、粉体の化学蓄熱材を一次成形して得た一次粒子に粘土鉱物を混合して二次成形した成形体を焼成して、化学蓄熱材間に隙間が形成された化学蓄熱材を得る技術が知られている(例えば、特許文献4参照)。
【0006】
さらに、車両のエンジン熱を反応熱とする化学蓄熱により、大きなスペース・重量を必要とせず、顕熱蓄熱による蓄熱量に比べてはるかに高い蓄熱量を得ることで、車両熱エネルギーの高度利用を図ることができる車両用化学蓄熱システムの技術が知られている(例えば、特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2539480号
【特許文献2】特公平6−80394号公報
【特許文献3】特公平6−80395号公報
【特許文献4】特開2009−132844号公報
【特許文献5】特開2009−57933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載のように、水和反応と脱水反応が繰り返されることにより体積の膨張と収縮を繰り返す化学蓄熱材そのものに気孔が形成されていると、微粉化しやすく、蓄熱システムとして反応性が低下しやすいという問題があった。
【0009】
また、特許文献2、3の構成では、カプセルの採用による熱伝導抵抗の増加や伝熱経路の複雑化によって、化学蓄熱材の放熱反応による熱を効率良く取り出すことができず、さらに蓄熱反応における熱を効率良く供給することができない問題があった。また、特許文献4の構成では、粘土鉱物が水和反応と脱水反応とが繰り返されるうちにセメント化し、固化してしまい、蓄熱システムとしての反応性が低下する原因となる。
【0010】
さらに、特許文献5に記載のように、車両廃熱の高度利用のシステム化には、繰り返し使用に耐えうる化学蓄熱反応する反応材が必要であるが、化学蓄熱材単体では、体積膨張・収縮を繰り返し、化学蓄熱材が崩壊・凝集し反応機能が低下する問題があった。
【0011】
本発明は、繰り返し使用しても反応性が低下しにくい化学蓄熱材成形体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、樹脂を加熱して形成された多孔質体に化学蓄熱材粒子が担持されている、化学蓄熱材成形体である。上記化学蓄熱材粒子は、平均粒子径が0.1〜1000μmであることが好ましい。本発明の化学蓄熱材成形体は、上記化学蓄熱材粒子の含有量が30〜85重量%であることが好ましい。
【0013】
また、本発明において、上記多孔質体は樹脂および/または炭化物である。上記多孔質体は三次元にランダムに貫通する貫通孔を多数有し、上記化学蓄熱材粒子は前記貫通孔に露出している構成が好ましい。上記化学蓄熱材粒子は、好ましくはカルシウムまたはマグネシウムの化合物である。
【0014】
さらに本発明は、上記化学蓄熱材成形体の製造方法であって、化学蓄熱材粒子と樹脂とを混合して混合材料を調製する調製工程と、当該混合材料を加熱して前記樹脂の多孔質体を形成する熱処理工程と、を有する。
【0015】
上記調製工程において、好ましくはさらに気孔形成材を混合して上記混合材料を調製する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の化学蓄熱材成形体は、反応媒体ガスである水蒸気の水和・脱水を繰り返しても、化学蓄熱材粒子の崩壊・凝集を防ぐことができる。また、繰り返し使用しても蓄熱放熱機能の維持が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態の化学蓄熱材成形体の模式的な断面図である。
【図2】蓄熱放熱実験装置の概略構成を示す模式図である。
【図3】蓄熱放熱実験における温度測定結果を示す図である。
【図4】蓄熱放熱実験における最高到達温度の結果を示す図である。
【図5】蓄熱発熱反応前の水酸化カルシウム単体のSEM写真を示す図である。
【図6】放熱工程を5回経た後の水酸化カルシウム単体のSEM写真を示す図である。
【図7】蓄熱放熱反応前の本発明に係る試料2のSEM写真を示す図である。
【図8】放熱工程を5回経た後の本発明に係る試料2のSEM写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態に関し、図面を用いてより詳細に説明する。
(化学蓄熱材成形体)
図1は、本実施形態の化学蓄熱材成形体の模式的な断面図である。図1に示されるように、化学蓄熱材成形体17は、多数の化学蓄熱材粒子15が、樹脂を加熱して形成された多孔質体14に担持されている。多孔質体14には、多数の細孔16が形成されている。
【0019】
化学蓄熱材粒子15としては、例えば水酸化カルシウム(Ca(OH))が用いられる。水酸化カルシウムは、脱水に伴って蓄熱(吸熱)し、水和(水酸化カルシウムへの復元)に伴って放熱する。すなわち、化学蓄熱材粒子15である水酸化カルシウムは、式(1)に示す反応で蓄熱、放熱を可逆的に繰り返しうる。
【0020】
Ca(OH) ⇔ CaO+HO 式(1)
式(1)に蓄熱量Qまたは放熱量Qを併せて示すと、式(2)、(3)に示す反応となる。
【0021】
Ca(OH)+Q → CaO+HO 式(2)
CaO+HO → Ca(OH)+Q 式(3)
化学蓄熱材粒子15は多孔質体14に担持されているので、蓄熱放熱反応を繰り返しても化学蓄熱材粒子15の崩壊・凝集を防ぐことができ、繰り返し蓄熱放熱反応に使用することができる。
【0022】
細孔16は、化学蓄熱材粒子15の蓄熱の際に反応生成物としての気体(式(2)においては水蒸気)を排出し、放熱の際に反応物としての気体(式(3)においては水蒸気)を供給するための流路として機能する。したがって、反応効率の点から、化学蓄熱材粒子15は、多孔質体14中にランダムに分散し保持されている構成が好ましく、化学蓄熱材粒子15は細孔16内に表面が露出するように保持されている構成が好ましく、細孔16は化学蓄熱材成形体17中に三次元にランダムに貫通する貫通孔が好ましい。
【0023】
多孔質体14は、樹脂を加熱して形成されたものである。たとえば、樹脂を加熱して一部または全部を熱分解して炭素化することにより形成された多孔質体14が例示される。この場合、樹脂材料または加熱条件を調整することにより、あるいは樹脂材料を気孔形成材とともに加熱することにより、多孔質体14を形成することができる。または、多数の樹脂粒子からなる樹脂を加熱して各粒子同士を融着することにより形成された多孔質体14が例示される。樹脂を加熱して炭素化して形成された多孔質体14は、蓄熱反応における加熱により変化することがなく、化学蓄熱材成形体17を繰り返し利用するのに好適である。
【0024】
化学蓄熱材粒子15は、平均粒子径が好ましくは0.1〜1000μm、さらに好ましくは0.5〜500μm、最も好ましくは1〜100μmである。化学蓄熱材粒子15の平均粒子径が0.1μm未満の場合、粉砕分級コストが大きくなり経済的でないとともに、多孔質体14中への分散が困難になる。また、化学蓄熱材粒子15の平均粒子径が1000μmを超えると、蓄熱放熱反応時に粒子の崩壊・凝集が顕著となり、蓄熱放熱機能が低下するとともに繰り返し使用が困難となる場合がある。なお、本明細書中における化学蓄熱材粒子の平均粒子径は、レーザー回折・散乱式測定装置を用いた測定方法、すなわちレーザー回折・散乱法(マイクロトラック法)によって得られた頻度分布の累積頻度50%値を意味する。レーザー回折・散乱式粒子径測定装置としては、例えば、日機装株式会社製マイクロトラックMT3000を用いることができる。
【0025】
化学蓄熱材粒子15は、化学蓄熱材成形体17の全体に対する含有量が30〜85重量%が好ましい。30重量%未満であると、十分な蓄熱放熱能力が得られないとともに多孔質体14内に埋没している割合が多くなり蓄熱放熱効率が低下し好ましくない。85重量%を超えると、多孔質体14の割合が少なくなり、蓄熱放熱反応に伴って化学蓄熱材粒子15が崩壊・凝集を生じやすく蓄熱放熱反応を繰り返すと反応効率が低下することがあり好ましくない。なお、本明細書中における化学蓄熱材粒子の含有量は、蛍光X線分析法により定量分析を行なって測定した値とする。蛍光X線分析測定装置としては、例えば、株式会社リガク製ZSX100eを用いることができる。
【0026】
化学蓄熱材粒子15は、放熱後蓄熱前の状態(例えば、式(1)のCa(OH))と蓄熱後放熱前の状態(例えば、式(1)のCaO)が異なるが、本明細書における化学蓄熱材粒子15の平均粒子径および含有量は、放熱後蓄熱前の状態での平均粒子径および含有量をいう。
【0027】
化学蓄熱材粒子15として、水酸化カルシウムが好ましく用いられる。水酸化カルシウムは可逆性が高く、長期間にわたって安定した蓄熱効果を得ることができる。また、水酸化カルシウムは、不純物に対する感度が低いので、この点でも長期安定的に使用することができる。その他に、水酸化マグネシウムが好ましく用いられる。これら、カルシウムやマグネシウムの化合物は、アルカリ土類金属の化合物であるため、環境負荷の小さい材料であり、化学蓄熱材成形体17の製造、使用、リサイクルを含めた安全性の確保が容易になる。また、平均粒子径を比較的容易にそろえることが可能であり所望の粒子径の粒子を得るためには好適である。水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムを化学蓄熱材とする化学蓄熱材成形体17は、100〜400℃の蓄熱材として使用することができる。なお、上記においては化学蓄熱材粒子15と反応する反応物として水蒸気を示したが、エタノールを用いても同じように、蓄熱放熱反応を生じさせることができる。
【0028】
多孔質体14の形成に用いられる樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、フラン樹脂などの熱硬化性樹脂、あるいは、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂などの熱可塑性樹脂のうちの1種類または2種類以上を混合して用いることができる。
【0029】
化学蓄熱材成形体17の形状は、特に制限されることなく、例えば、円柱、円筒、ブロック、べレット、顆粒状等が例示される。ペレット状、顆粒状の形状は、反応器への充填が容易となり、ハンドリングの点から至便性が高い。
【0030】
(化学蓄熱材成形体の製造方法)
本発明に係る化学蓄熱材成形体の製造方法は、化学蓄熱材粒子と樹脂とを混合して混合材料を調製する混合工程と、当該混合材料を加熱して樹脂の多孔質体を形成する熱処理工程とを有する。混合工程においては、例えば、樹脂を水または溶媒で溶かして液状とした後、化学蓄熱材粒子を混合する。好ましくは、気孔形成材も混合する。熱処理工程においては、所定の形状に成形した混合材料を加熱し、例えば樹脂を熱分解させることにより、炭素からなる多孔質体に化学蓄熱材粒子が担持されている化学蓄熱材成形体を製造する。熱処理工程における加熱温度は、使用する樹脂および気孔形成材に応じて適宜選択すればよく、例えば500〜1000℃の温度で加熱することができる。熱処理工程においては、樹脂を炭化させることに限定されることはなく、樹脂からなる、または樹脂と一部が炭化した材料からなる多孔質体を形成してもよい。
【0031】
気孔形成材としては、樹脂中の細孔の形成を促進する材料が用いられる。混合材料の加熱に伴って分解し、混合材料中で気孔形成材が占めていた空間が化学蓄熱材成形体中の細孔となるような材料が好ましく用いられる。気孔形成材は、特に制限されるものではないが、馬鈴薯、とうもろこし由来のでん粉が好適に用いられる。なお、気孔形成材としてでん粉を用いた場合、化学蓄熱材成形体を温水に浸漬してでん粉を溶出除去する方法でも細孔を形成することができる。
【0032】
樹脂としては、上述の通り熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂いずれであっても使用することができる。例えば、熱硬化性樹脂の粉末状初期縮合物を用い、所定量の気孔形成材と化学蓄熱材粒子とを混合して混合材料を調整し、混合材料を加熱して樹脂を硬化させることにより化学蓄熱材粒子が多孔質体に担持された化学蓄熱材成形体を製造することができる。
【0033】
また、例えば、粉末状あるいは、ペレット状の熱可塑性樹脂を用い、所定量の気孔形成材と化学蓄熱材粒子とを混合して混合材料を調製し、熱可塑性樹脂の軟化点以上の温度に加熱することすることにより化学蓄熱材粒子が多孔質体に担持された化学蓄熱材成形体を製造することができる。
【0034】
また、ポリビニルアルコール樹脂を用いる場合には、ポリビニルアルコールを温水で溶解し、所定濃度の水溶液とした後、気孔形成材と化学蓄熱材粒子とを混合し、成形して加熱することにより化学蓄熱材粒子が多孔質体に担持された化学蓄熱材成形体を製造することができる。ポリビニルアルコール樹脂を用いる場合は、混合材料を調製する工程において、ポリビニルアルコールの架橋剤となるアルデヒド類および酸触媒を添加することにより、ポリビニルホルマール、ポリビニルベンザール等のポリビニルアセタール樹脂からなる多孔質体を形成することもできる。
【0035】
いずれの樹脂を用いる場合においても、熱処理工程において、樹脂の全部が炭化するように加熱してもよいし、樹脂の一部が炭化するように加熱してもよいし、あるいは樹脂が炭化しないように加熱してもよい。
【0036】
本発明の化学蓄熱材成形体は、ケミカルヒートポンプ用蓄熱材料として排熱利用冷暖房システム、自動車エンジン熱利用の暖房、エンジン保温システムなどに用いることができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
(製造例)
<試料1〜5>
重合度1700、けん化度99%のポリビニルアルコールに水を加えて加熱溶解し、20重量%のポリビニルアルコール水溶液(PVA水)とした。平均粒子径100μmの水酸化カルシウムとPVA水を混合し、さらに熱硬化性フェノール樹脂(ベルパール(登録商標)S830 エア・ウォーター社製)、0.1規定硝酸ホルムアルデヒド溶液、コーンスターチでん粉を加え混合し混合材料を調製した。そして、混合材料を押し出し造粒機(ダルトン社製EXDS―60型)投入して、直径2mm、長さ10mmのペレットを得た。各材料の混合比率は表1に記載の通りとした。
【0039】
上記ペレットをマッフル炉に入れ、窒素雰囲気下、昇温速度50℃/時間で700℃まで昇温後、700℃で1時間保持して冷却することにより、試料1〜5の化学蓄熱材成形体を得た。試料1〜5中のCa(OH)の含有量を、蛍光X線分析装置(株式会社リガク製ZSX100e)により定量分析を行なって測定した。表1に測定値を示す。
【0040】
<試料6>
平均粒子径2000μmの水酸化カルシウムを使用した点、ペレットの大きさを直径5mm、長さ10mmとした点以外は、試料1〜5と同様の方法で試料6の化学蓄熱材成形体を得た。各材料の混合比率は表1に記載の通りとした。Ca(OH)の含有量を、蛍光X線分析装置(株式会社リガク製ZSX100e)により定量分析を行なって測定した。表1に測定値を示す。
【0041】
<試料7>
平均粒子径0.05μmの水酸化カルシウムを使用した。表1に記載の混合比率で各材料を混合した後、押し出し造粒機(ダルトン社製EXDF―60型)にて直径2mm、長さ10mmのペレットの作製を試みたが、均一に分散混合することができなかった。したがって、粘度状の混合物を粒径2mm程度となるように篩により目通しして顆粒状成形物とした。この顆粒状成形物をマッフル炉に入れ、窒素雰囲気下、昇温速度50℃/時間で700℃まで昇温後、700℃で1時間保持して冷却することにより、試料7の化学蓄熱材成形体を得た。試料7中のCa(OH)の含有量を、蛍光X線分析装置(株式会社リガク製ZSX100e)により定量分析を行なって測定した。表1に測定値を示す。
【0042】
【表1】

【0043】
(蓄熱放熱実験)
図2は、本実験で使用した蓄熱放熱実験装置の概略構成を示す模式図である。蓄熱放熱実験装置18は、蓄熱材3を投入する反応器1、反応物4を投入する蒸発・凝縮器2、反応器1内の蓄熱材3を加熱する電気炉7、蒸発・凝縮器2内の温度を一定に保つ恒温槽8、蒸発・凝縮器2に取り付けられたマントルヒーター12、反応器1内の圧力を測定する圧力ゲージ9、反応器1内の水分を吸引する真空ポンプ10、連結パイプ5、および連結パイプ5に設けられたバルブ6,11,13を備える。連結パイプ5は、反応器1、蒸発・凝縮器2、真空ポンプ10および外部を連結する。
【0044】
図2に示す蓄熱放熱実験装置18を用いて、以下の実験を行なった。まず、蓄熱材3に当初含まれている水分の脱着処理を行なって、蓄熱材3の初期化を行なうため、反応器1に蓄熱材3を充填し、バルブ6、13を閉じ、電気炉7により反応器1内の温度を500℃にし、バルブ11を開け、真空ポンプ10にて真空脱気を4時間行なった。次にバルブ11を閉じ、反応器1内の温度が室温まで戻ったのを確認した後、電気炉7により反応器1内の温度を60℃にし、また被反応材(水)4の入った蒸発・凝縮器2をマントルヒーター12により60℃に加熱しておき、その後バルブ6を開き、蒸発・凝縮器2から水蒸気を連結パイプ5を介して反応器1内に導入し、蓄熱材3を反応させ放熱工程に供した。そして、反応開始直後から1時間が経過するまでの蓄熱材3の温度を測定した。反応開始直後から1時間が経過したら放熱工程を終了とし、バルブ6を閉じて、電気炉7で反応器1を加熱して反応器1内の温度を500℃にして蓄熱工程に供し蓄熱材3を再生した。この蓄熱工程では、バルブ11を開けて蓄熱材3に水和した水分を十分に真空脱着した。蓄熱工程では、蒸発・凝縮器2内の温度を20℃とし、反応時間を4時間とした。蓄熱工程が終了したら再び放熱工程を行なった。
【0045】
蓄熱材3として、本発明の化学蓄熱材成形体である試料1〜7と、水酸化カルシウム単体(平均粒子径500μm)とを用いた。いずれの蓄熱材3を用いる場合にも、反応器1に充填する蓄熱材3の重量は同一とした。図3は、試料2と水酸化カルシウム単体とを用いた場合について放熱工程3回目の温度測定結果と、放熱工程5回目の温度測定結果を示す。温度は、反応開始直後の温度からの上昇温度で表す。
【0046】
図3に示すように、蓄熱材3として試料2を用いた場合、放熱工程3回目においては反応開始直後、試料2の温度は急上昇して300℃程度まで達した。放熱工程5回目においても、最高到達温度は160℃程度を示した。一方、蓄熱材3として水酸化カルシウム単体を用いた場合の最高到達温度は、放熱工程3回目においては200℃程度、放熱工程5回目においては120℃程度であった。このように、二つの蓄熱材を比較すると、蓄熱放熱反応を繰り返した後の最高到達温度に差が生じている。さらに、試料2はCa(OH)の含有率が40重量%程度であることを考慮すると、Ca(OH)の含有率が100重量%である単体に比べて十分な放熱を生じていることがわかる。
【0047】
図4は、それぞれの蓄熱材3について蓄熱放熱反応を繰り返したときの最高到達温度を示す。試料2、試料3、試料4では放熱工程15回目でも反応性が保持されていることがわかり、一方水酸化カルシウム単体では蓄熱放熱反応の初期から反応性が低下し、放熱工程5回目程度から顕著に反応性が低下していることがわかる。また、水酸化カルシウムの含有比率が16重量%の試料1では、蓄熱放熱反応を繰り返したときの反応性の低下率は低いものの、蓄熱放熱反応に寄与する化学蓄熱材の体積当りの量が少ないため十分な発熱量が得られにくいことがわかる。また、水酸化カルシウムの含有比率が93重量%の試料5では、繰り返し蓄熱放熱反応の初期では反応性が低下せず有効な反応効果が得られているが、繰り返し反応6回目以降からは、反応性が低下していることがわかる。また、水酸化カルシウムの粒子径が2000μmの試料6では、放熱工程6回目程度までは反応性を保持しているが、それ以降は、反応性が低下している。また、化学蓄熱材の粒子径が0.05μmの試料7では、蓄熱放熱反応の繰り返しによる反応性の低下しにくいものの、大きな発熱量が得られにくかった。
【0048】
図5は蓄熱発熱反応前の水酸化カルシウム単体のSEM写真を示し、図6は放熱工程を5回経た後の水酸化カルシウム単体のSEM写真を示す。図7は蓄熱放熱反応前の試料2のSEM写真を示し、図8は放熱工程を5回経た後の試料2のSEM写真を示す。これらの写真より、単体では繰り返しにより蓄熱材の凝集による粒子径の増大が認められるのに対し、本発明に係る試料2では粒子径の顕著な増大が認められないことが分かる。また、試料2では化学蓄熱材粒子の粒子形状が崩壊せず、維持されていることも認められる。
【0049】
以上説明したように、本発明の化学蓄熱材成形体は、反応性と形状安定性を有する蓄熱材として機能し、繰り返し使用しても性能低下の少ない蓄熱材として使用することが出来る。
【0050】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0051】
1 反応器、2 蒸発・凝縮器、3 反応材、4 被反応材、5 連結パイプ、6 バルブ、7 電気炉、8 恒温槽、9 圧力ゲージ、10 真空ポンプ、11 バルブ、12 マントルヒーター、13 バルブ、14 多孔質体、15 化学蓄熱材粒子、16 細孔、17 化学蓄熱材成形体、18 蓄熱放熱実験装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を加熱して形成された多孔質体に化学蓄熱材粒子が担持されている、化学蓄熱材成形体。
【請求項2】
前記化学蓄熱材粒子の平均粒子径が0.1〜1000μmである、請求項1に記載の化学蓄熱材成形体。
【請求項3】
前記化学蓄熱材粒子の含有量が30〜85重量%である、請求項1または2に記載の化学蓄熱材成形体。
【請求項4】
前記多孔質体は、樹脂および/または炭化物である、請求項1〜3のいずれかに記載の化学蓄熱材成形体。
【請求項5】
前記多孔質体は三次元にランダムに貫通する貫通孔を多数有し、前記化学蓄熱材粒子は前記貫通孔に露出している、請求項1〜4のいずれかに記載の化学蓄熱材成形体。
【請求項6】
前記化学蓄熱材粒子は、カルシウムまたはマグネシウムの化合物である、請求項1〜5のいずれかに記載の化学蓄熱材成形体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の化学蓄熱材成形体の製造方法であって、
化学蓄熱材粒子と樹脂とを混合して混合材料を調製する調製工程と、
前記混合材料を加熱して前記樹脂の多孔質体を形成する熱処理工程と、を有する、化学蓄熱材成形体の製造方法。
【請求項8】
前記調製工程において、さらに気孔形成材を混合して前記混合材料を調製する、請求項7に記載の化学蓄熱材成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−162746(P2011−162746A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−30358(P2010−30358)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年9月16日〜18日 化学工学会主催の「第41回秋季大会 研究発表講演要旨集」に発表
【出願人】(304000836)学校法人 名古屋電気学園 (22)
【出願人】(000126115)エア・ウォーター株式会社 (254)