説明

化学/生物兵器剤の処理

表面上の化学および/または生物兵器剤の無害化法であって、前記方法は、(i)過酸化物蒸気を含む雰囲気に兵器剤を曝露し、化学および/または生物剤をその上に持つ表面上に過酸化物蒸気を凝縮させる工程と、(ii)工程(i)の後、追加の過酸化物蒸気を含む雰囲気に兵器剤を曝露し、化学および/または生物剤をその上に持つ表面上に追加の過酸化物蒸気を凝縮させる工程と、(iv)必要に応じて、工程(ii)を繰り返す工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物および/または化学兵器剤に曝露された表面の除染法に関する。
【背景技術】
【0002】
国際公開第2008/145987号は、化学/生物兵器剤の無害化法を述べている。この方法は、過酸化物/水蒸気を含む雰囲気に兵器剤を曝露する工程と、化学/生物剤に曝露された表面上に過酸化物蒸気を凝縮させる工程と、を含み、このとき、雰囲気にはアンモニアガスが含まれている。アンモニアガスは凝縮液に溶けてアンモニア水酸化物を生成し、これが過酸化物と共に生物/化学剤に対して反応する。
【0003】
米国特許第7,102,052B2号および国際公開第2005/035067A2号は、生物剤と化学剤の両方で汚染された表面の除染法を詳細に述べている。アンモニアガスまたは他の窒素含有化合物と混合した過酸化水素蒸気を用いた化学除染の化学反応は全て解明されている。米国特許および国際特許出願に記載されている技術の長所は、気体を、外部の発生源からエンクロージャに加えても、エンクロージャ内で発生させても良く、気相工程であるため除染処理を終えた後に除去すべき残分や液体が無く、副生成物が酸素と水蒸気のみで、壊れやすい装置に害を与えないと考えられると言われている点である。ここに述べた方法の欠点は、国際出願のデータによれば、化学剤VXの除染に24時間かかることである。このように長い時間は、特に除染の必要な装置の部材が非常に多い場合には好ましくなく、この時間を短縮する技術は、繰り返される、または広範囲に及ぶ化学および生物攻撃に直面した場合に特に有益であろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2008/145987号パンフレット
【特許文献2】米国特許第7,102,052号
【特許文献3】国際公開第2005/035067号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的のひとつは、表面上の化学/生物兵器剤の改良された無害化法の提示である。望ましくは、本方法は、表面上の化学/生物兵器剤の無害化にかかる時間が短く、先行技術の方法よりも効率の良い処理法を提示する。本発明の目的はまた、既知の化学/生物兵器剤の無害化技術に代わる、商業的に実現可能な方法の提示である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様では、表面上の化学および/または生物兵器剤の無害化法を提示し、この方法は、
(i)過酸化物蒸気を含む雰囲気に兵器剤を曝露し、化学および/または生物剤をその上に持つ表面上に過酸化物蒸気を凝縮させる工程と、
(ii)工程(i)の後、追加の過酸化物蒸気を含む雰囲気に兵器剤を曝露し、化学および/または生物剤をその上に持つ表面上に追加の過酸化物蒸気を凝縮させる工程と、
(iii)必要に応じて、工程(ii)を繰り返す工程と、
を含む。
【0007】
本発明について更に述べる。以下の各節では、本発明の様々な態様を更に詳しく定義する。このように定義されたそれぞれの態様は、それに反することが明示されない限り、他のどのような態様と組み合わせても良い。特に、望ましい、または有益であるとして示された特徴は、望ましい、または有益であると示されている他のどのような特徴と組み合わせても良い。
【0008】
工程(i)の後、追加の過酸化物蒸気を含む雰囲気に兵器剤を曝露し、化学/生物剤をその上に持つ表面上に過酸化物蒸気を凝縮させる。文中で用いられている用語“追加の過酸化物蒸気を含む雰囲気”とは、前の工程の結果として存在するのではなく、新たな工程で加えられた過酸化物蒸気を含んでいる雰囲気を意味する。要約すると、“追加の過酸化物蒸気”は、前の工程では存在しなかった、または前の工程の結果として存在するのではない、未使用の新しい過酸化物蒸気である。
【0009】
本発明は、未使用の過酸化物蒸気の流れに連続的に兵器剤を曝露する状態を含まない。本方法では、工程(i)、工程(ii)、および必要に応じて追加の工程(ii)は、個別の(または、不連続な)工程であって、工程の間には、追加の未反応の過酸化物を加えることなく、凝縮した過酸化物蒸気が除染すべき表面上に留まっている時間がある。典型的に、それぞれの工程で、過酸化物蒸気を含む雰囲気を2から30分間に亘ってエンクロージャまたは装置の中に導入する。典型的に、それぞれの工程の間の時間(即ち、エンクロージャまたは装置に追加の過酸化物が加えられない時間)は5から60分間、または10から30分間である。典型的に、個別の工程(i)、工程(ii)、および必要に応じて繰り返される工程(ii)のそれぞれの間の時間は、独立して、少なくとも1分間、少なくとも5分間、少なくとも10分間、または少なくとも30分間である。
【0010】
国際公開第2008/145987号に概説されているように、過酸化水素と水蒸気が飽和に達して凝縮液の薄い層ができると、生物除染がより速いことは良く知られている。その理由は、微生物を攻撃する分子の数が、蒸気相よりも液相で遙かに多いためである。更に液相中では、液体状態での分子の運動エネルギーが低いため、各分子と標的微生物との接触時間がずっと長くなる。生物除染は事実上化学反応であるため、同じ議論が化学除染についても言える。蒸気が飽和に達して凝縮液が生じると、より速い反応が起こると考えられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の発明者は、驚くべきことに、典型的に、除染すべき表面を過剰の過酸化物に1回だけ曝露した後、過酸化物を塩基で除去する、先行技術の方法とは異なり、除染すべき表面を、追加の未反応の過酸化物蒸気に繰り返し曝露すると、過酸化物の新たな未反応の層が表面に凝縮することを発見した。この方法は、表面をより効率的かつ効果的に除染できることが分かった。遅くて効率の悪い方法よりも、迅速かつ効果的に除染できる方法が望ましいことは明白であろう。工程(ii)を繰り返すと過酸化物凝縮液の未反応の層が除染すべき表面に加わって、表面上の過酸化物濃度が回復できる。
【0012】
理論によって束縛しようとするものではないが、過酸化物が表面上に凝縮すると、分子の自然分解による濃度低下の他に、生物/化学剤との反応で少なくともその一部が消費されると考えられる。表面を繰り返し過酸化物に曝露することは、エンクロージャまたは装置中に存在する過酸化水素のモル数を回復する効果的な方法であることが分かった。これにより、生物/化学剤と反応する過酸化物分子が供給される。
【0013】
除染処理の効率と効果を更に高めるため、工程(ii)を、望ましくは少なくとも1回繰り返し(即ち、2回行い)、望ましくは2回繰り返し(即ち、3回行い)、より望ましくは3回またはそれ以上繰り返す。
【0014】
工程を繰り返すと過酸化水素濃度が高く保たれ、除染処理が著しくスピードアップする。この繰り返しによって表面上に存在する酸化種/ラジカルの濃度が高まるため、化学兵器剤との反応が速くなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明を行うための装置を示す概略図である。
【図2】本発明を行うための他の装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
あるひとつの実施の形態では、次の工程から成る、表面上の化学および/または生物兵器剤の無害化法を提示する。
(i)過酸化物蒸気を含む雰囲気に兵器剤を曝露し、化学および/または生物剤をその上に持つ表面上に過酸化物蒸気を凝縮させる工程と、
(ii)工程(i)の後、追加の過酸化物蒸気を含む雰囲気に兵器剤を曝露し、化学および/または生物剤をその上に持つ表面上に追加の過酸化物蒸気を凝縮させる工程と、
(iii)必要に応じて、工程(ii)を繰り返す工程。
【0017】
本発明のあるひとつの実施の形態において、本方法は、工程(i)の後、表面上に凝縮した過酸化物蒸気が気体状塩基と反応するよう、気体状塩基を加える工程を更に含む。このような方法は、化学兵器剤、例えば、G型剤およびV型剤の1つ以上を無害化するために特に用いられる。
【0018】
本発明の別の実施の形態では、工程(i)と工程(ii)を行う際、望ましくは、表面は塩基性でなく、また塩基はあまり存在せず(35ppm未満)、また望ましくは存在しない。望ましくは、装置内にアンモニアまたは塩基は存在しない。本発明のあるひとつの実施の形態において、本方法は、気体状塩基および/または塩基を加える工程を含まない。あるひとつの実施の形態において、アルカリ化合物は添加されず、または殆ど添加されず、および/または、存在せず、または殆ど存在しない(例えば、工程(i)と工程(ii)を行う際に)。望ましくは、アンモニアは存在せず、または添加されない。望ましくは、化学式 NR (式中、R、R、Rは後に定義)を持つ気体状塩基は、本件に記載の方法では添加されず、あるいは存在しない(例えば、工程(i)と工程(ii)を行う際に)。この実施の形態の利点のひとつは、アンモニア洗浄が不要なことである。この実施の形態は、本発明の方法で無害化する化学および/または生物兵器剤が生物兵器剤である、および/または、H型剤、病原体、生物毒素、胞子、およびプリオンの1つ以上を含んでいる場合の特別な用法である。
【0019】
望ましい実施の形態において、本発明は、表面上の化学および/または生物兵器剤の無害化法を提示し、この方法は、
(I)過酸化物蒸気を含む雰囲気に兵器剤を曝露し、化学/生物剤をその上に持つ表面上に過酸化物蒸気を凝縮させる工程と、
(II)工程(I)の後、表面上に凝縮した過酸化物蒸気が気体状塩基と反応するよう、気体状塩基を加える工程と、
(III)気体状塩基を除去する工程と、
(IV)工程(I)と工程(II)を少なくとも1回繰り返す工程と、
を含む。
【0020】
つまり、あるひとつの実施の形態において、工程(i)は、工程(I)に相当し(または等しく)、工程(ii)は、工程(IV)で繰り返される工程(I)に相当する(または等しい)。
【0021】
あるひとつの実施の形態では、次の工程から成る、表面上の化学および/または生物兵器剤の無害化法を提示する。
(I)過酸化物蒸気を含む雰囲気に兵器剤を曝露し、化学/生物剤をその上に持つ表面上に過酸化物蒸気を凝縮させる工程と、
(II)工程(I)の後、表面上に凝縮した過酸化物蒸気が気体状塩基と反応するよう、気体状塩基を加える工程と、
(III)気体状塩基を除去する工程と、
(IV)工程(I)と工程(II)を少なくとも1回繰り返す工程。
【0022】
本発明の発明者は、驚くべきことに、典型的に、過酸化物および/またはアンモニアを同時に1段階の反応に加えて表面を除染する、先行技術の方法とは異なり、工程を段階的に、また繰り返して行うと、除染処理の効率が著しく上がることを発見した。これは、塩基(望ましくはアンモニアである)が触媒作用を及ぼして過酸化物を分解するためと考えられる。つまり、2つの試薬を一緒に加えると、過酸化物濃度の劇的な低下が起こる。この実施例では、化学/生物兵器剤と反応するのは、塩基性環境中の過酸化物と考えられるため、装置中に存在する過酸化物が少なければ除染も少なくなる。
【0023】
特定の理論によって拘束しようとするものではないが、気体状塩基の存在下で表面上に過酸化物蒸気を凝縮させると、過酸化物の活性は低下すると考えられる。これは、表面の除染が起こる前に、アンモニアが過酸化物を分解するためである。つまり、気体状塩基(望ましくはアンモニア)と過酸化物を同時に加えると、除染処理の効率は、過酸化物を除染すべき表面上に凝縮させ、次に、気体状塩基(望ましくはアンモニアガス)を加える場合よりも著しく下がる。
【0024】
いくつかの先行技術の方法は、除染すべき表面を最初に過酸化物に曝露し、次にアンモニアに曝露する方法を提案している。しかし、これらの工程を連続的に繰り返すというものはない。
【0025】
本発明の発明者は、除染処理の効率と効果を更に高めるため、工程(I)と工程(II)、望ましくは更に工程(III)を少なくとも1回繰り返し(即ち、2回行い)、望ましくはこれらの工程を2回繰り返し(即ち、3回行い)、より望ましくはこれらの工程を3回またはそれ以上繰り返すことを発見した。
【0026】
工程(I)、工程(II)、望ましくは工程(III)を反復して、または間欠的に繰り返すことのもうひとつの予想外の利点は、化学/生物兵器剤の同程度の除染を達成するため、除染に必要な過酸化物および/または気体状塩基の総量が先行技術の方法で用いた総量よりも少ないことである。これは処理工程を繰り返す必要を考えると驚くべきことである。しかし、表面上の化学/生物兵器剤を無害化する前に、気体状塩基が過酸化物蒸気を不活性化する問題の解決は、本件に記載の方法の成果である。つまり、本発明において、過酸化物蒸気はより効率良く使用される。工程の繰り返しにより過酸化物濃度が回復できる。
【0027】
驚くべきことに、本発明の方法を使用すると、表面の除染を、5時間以内、望ましくは2時間以内、1時間以内、最も望ましくは45分以内に行えることが分かった。
【0028】
つまり、本発明の目的は、化学/生物兵器剤を含む表面の改良された除染法の提示であり、この方法では、最初の工程で、化学/生物兵器剤に曝露された表面上に過酸化物蒸気を凝縮させる。
【0029】
これは、過酸化物蒸気の濃度を、蒸気の露点を超えて表面上で蒸気の凝縮が起こるまで上げた状態とすることで達成できる。このような方法は、当技術において知られており、例えば、国際公開第2008/145987号を参照されたい。
【0030】
本方法では、適当であればどのような過酸化物を用いても良い。例えば、過酸化物は、過酸化水素、過酢酸、これらの混合物などの1つ以上のペルオキシ化合物から選ぶ。望ましくは、本発明で用いる過酸化物は過酸化水素である。
【0031】
望ましくは、過酸化物蒸気は水を含んでいる。典型的に過酸化物蒸気は、水蒸気と過酸化物蒸気との組み合わせとして存在する。
【0032】
選択する過酸化物は、望ましくは、化学/生物剤の酸化に必要な遊離基を生成できるものである。
【0033】
本発明で使用する過酸化物は適当であればどのような濃度であっても良い。典型的に、過酸化水素は、30質量%/水の濃度で使用すると考えられる。しかし、過酸化水素を、例えば、10質量%から75質量%/水、または、20質量%から45質量%/水の濃度で使用しても良い。
【0034】
本発明の方法で無害化する化学/生物兵器剤は、G型剤、V型剤、H型剤、病原体、生物毒素、胞子、およびプリオンの1つ以上を含んでいる。
【0035】
望ましくは、化学および/または生物剤をその上に持つ表面は、エンクロージャの中に置かれており、および/または、エンクロージャの少なくとも一部である。本発明の方法は、除染処理を行う前に、化学および/また生物剤をその上に持つ表面をエンクロージャ内に置く工程を含んでいても良い。例えば、処理すべき表面が、衣服または衣類の一部、呼吸装置、兵器、医療機器、またはその他の表面、あるいはエンクロージャ内に置くのに適した表面を含む装置である場合に、これを行う。エンクロージャは、望ましくは、コンテナまたはチャンバ、望ましくは、処理チャンバである。別の実施例では、除染すべき表面は、エンクロージャの少なくとも一部を含んでいる。例えば、処理すべき表面は、例えば、その表面(望ましくは、内部表面)または部材が処理される、倉庫、テント、部屋、航空機、戦車、その他の車両などの内部である。望ましくは、エンクロージャは、気密に作製できるものである。当技術で既知の適当な方法を利用してエンクロージャを気密にしても良いことは理解されよう。
【0036】
文中で用いられている用語“表面を含むエンクロージャ”には、化学および/または生物剤をその上に持つ表面をエンクロージャ内に置く、および/または、このような表面がエンクロージャの少なくとも一部である場合が含まれる。例えば、処理すべき表面は部屋の壁である。
【0037】
望ましくは、工程(i)において、表面を含むエンクロージャを、エンクロージャの体積1m当たり15から180gの過酸化物を含む雰囲気に曝露する。
【0038】
望ましくは、工程(ii)において、表面を含むエンクロージャを、エンクロージャの体積1m当たり5から75gの過酸化物を含む雰囲気に曝露する。
【0039】
工程(ii)は、1回、2回、3回、4回、またはそれ以上繰り返しても良い。
【0040】
本発明のあるひとつの実施の形態では、工程(ii)を繰り返す毎に、直前の工程(i)で、表面を含むエンクロージャが曝露された過酸化物の量(過酸化物(g)/エンクロージャの体積(m)で測定)に比べて少ない量の過酸化物に、表面を含むエンクロージャを曝露する。
【0041】
処理を反復して行い、それぞれの回で使用する過酸化物の量を減らすことで、過酸化物を有効に利用しながら表面の除染が最適化できる。
【0042】
あるひとつの実施の形態では、工程(ii)を繰り返す毎に、直前の工程(ii)で、表面を含むエンクロージャが曝露された過酸化物の量(過酸化物(g)/エンクロージャの体積(m)で測定)と比較して同じ量の過酸化物に、表面を含むエンクロージャを曝露する。
【0043】
望ましくは、工程(i)と工程(ii)において、化学/生物兵器剤を含んでいる表面を含むエンクロージャを、エンクロージャ(例えば、チャンバ)内に負荷した機材の程度に応じた量の過酸化物に間欠的に曝露する。負荷の軽いエンクロージャ、例えば、チャンバでは典型的に、除染すべきエンクロージャ1m当たり15から50gの過酸化物が必要である。典型的に、中程度の負荷のエンクロージャ、例えば、チャンバは、1m当たり50から75gの過酸化物に曝露し、負荷の重いエンクロージャ、例えば、チャンバは典型的に、除染すべきエンクロージャ1m当たり75から150gに曝露する。
【0044】
望ましくは、表面を、過酸化物蒸気を含む雰囲気に1時間未満または40分間未満曝露する。典型的に、表面を、過酸化物蒸気を含む雰囲気に約8から60分間、10から25、30、35分間、より望ましくは約10分間曝露する。処理のサイクル時間を速くするには、過酸化物蒸気を含む雰囲気への表面の曝露を短い滞留時間で行うと良い。
【0045】
先に概要を述べたように、本発明のあるひとつの実施の形態において、本方法は、気体状塩基を加える工程を更に含む。望ましくは、表面上に凝縮した過酸化物蒸気が気体状塩基と反応するよう、気体状塩基を加える。望ましくは、気体状塩基は工程(i)の後に加える。望ましくは、本方法は、気体状塩基の少なくとも一部、望ましくは全てを除く工程を更に含む。
【0046】
詳細には、先に概要を述べたように、望ましい実施の形態において、本発明は、表面上の化学および/または生物兵器剤の無害化法を提示し、この方法は、
(I)過酸化物蒸気を含む雰囲気に兵器剤を曝露し、化学/生物剤をその上に持つ表面上に過酸化物蒸気を凝縮させる工程と、
(II)工程(I)の後、表面上に凝縮した過酸化物蒸気が気体状塩基と反応するよう、気体状塩基を加える工程と、
(III)気体状塩基を除去する工程と、
(IV)工程(I)と工程(II)を少なくとも1回繰り返す工程と、
を含む。
【0047】
望ましくは、この実施の形態において、本方法は、過酸化物が除染すべき表面上に凝縮する一方、気体状塩基(望ましくはアンモニア)による過酸化物の脱プロトン化がこの表面上で起こるよう設計されている。
【0048】
本発明のこの実施の形態では、気体状塩基と反応して、ペルオキシラジカル(・OOR)(式中、Rは、水素、あるいは、置換または非置換アルキル基とすることができる)を生成することのできる過酸化物が選ばれる。
【0049】
過酸化物:気体状塩基のモル比は、1:0.10から1:0.75、または約1:0.15である。しかし、より望ましくは、過酸化物:気体状塩基のモル比は、1:0.01から1:1であり、更に望ましくは約1:0.03である。塩基、典型的にアンモニアは、触媒作用によって過酸化物を分解すると考えられる。つまり、本発明では、過酸化物に対して必要な塩基は化学量論的量よりも少ない。しかし、所望であれば、より多い化学量論的量の塩基を用いても良いことは理解されよう。
【0050】
望ましくは、工程(I)の後、表面上に凝縮した過酸化物蒸気が塩基と反応するよう、気体状塩基を加える。
【0051】
塩基を気体の形で加えると、除染すべき表面上への分散が良好になるため有益である。
【0052】
望ましくは、気体状塩基は、化学式 NR (式中、R、R、Rは独立して、C〜Cアルキルおよび水素から成る群より選ばれる)を持つ。アルキル基は置換されていてもされていなくても良い。適当な置換基は、窒素含有化合物の触媒活性にあまり悪影響を及ぼさないものである。望ましくは、NRは、N(CH、N(CHCHCH、N(CHCH、NH(CHCHCH、NH(CHCHCH)(CHCH)、NH(CHCH)(CH)、NH(CHCH、NH(CH、およびNHの1つ以上から選ばれる。最も望ましいNRはNH(アンモニア)である。
【0053】
最も望ましくは、気体状塩基がアンモニアで、過酸化物が、望ましくは30重量%/水の濃度を持つ過酸化水素である。
【0054】
望ましくは、気体状塩基の少なくとも一部は、表面上に凝縮した過酸化物蒸気に溶解する。望ましくは、塩基を加えた後、表面上に凝縮した層のpHは約9から13または14、望ましくは約9.5から約11.5またはそれ以上、より望ましくは約10から約11またはそれ以上、最も望ましくは11以上の範囲である。本発明の発明者は、凝縮した蒸気のpHが高い(例えば、上に示した範囲内である)と、蒸気がより酸性である(塩基性が低い)場合よりも除染過程が速いことを発見した。表面のpHはpH試験紙や他の適当な方法を用いて測定する。つまり、望ましくは、本件に記載の方法は、表面上に凝縮した過酸化物蒸気が気体状塩基と反応し、凝縮した蒸気のpHが約9.5から13または14、約9.5から約11.5またはそれ以上、より望ましくは約10から約11またはそれ以上、最も望ましくはpHが11以上の範囲となるよう、気体状塩基を加える工程を含む。
【0055】
望ましくは、工程(I)を繰り返す場合に、追加の過酸化物蒸気を含む雰囲気に兵器剤を曝露し、化学/生物剤をその上に持つ表面上に過酸化物蒸気を凝縮させる。望ましくは、工程(II)を繰り返す場合に、表面上に凝縮した過酸化物蒸気が気体状塩基と反応するよう、追加の気体状塩基を加える。望ましくは、文中で用いられている用語“追加の過酸化物蒸気を含む雰囲気”は、前の工程の結果として存在するのではなく、新たな工程で加えられた過酸化物蒸気を含んでいる雰囲気を意味する。望ましくは、用語“追加の気体状塩基”は、前の工程の結果として存在するのではなく、新たな工程で加えられた気体状塩基を意味する。要約すると、望ましくは“追加の過酸化物蒸気”は、前の工程では存在しなかった、または前の工程の結果として存在するのではない、未反応の新しい過酸化物蒸気である。望ましくは“追加の気体状塩基”は、前の工程では存在しなかった、または前の工程の結果として存在するのではない、未反応の新しい気体状塩基である。
【0056】
工程(I)、工程(II)、および/または工程(III)は、望ましくは個別の分かれた工程である。望ましくは、個別/単独の工程(I)、工程(II)、および/または工程(III)のそれぞれの間の時間は、独立して、少なくとも1分間、少なくとも5分間、少なくとも10分間、または少なくとも30分間である。
【0057】
本発明のあるひとつの実施の形態では、工程(I)と工程(II)を行った後、これらの工程を繰り返す前に、エンクロージャまたは装置から気体状塩基を除去する。望ましくは、気体状塩基の除去後、エンクロージャまたは装置(チャンバ内で反応を行うならばチャンバ、あるいは、例えば、表面自体がチャンバとなっている、例えば、表面が除染すべき部屋であるならば、その直近または表面)中に残っている気体状塩基は、工程(II)で加えた気体状塩基の総量に対して、10容量%未満、5容量%未満、2容量%未満、より望ましくは1容量%未満であり、更に望ましくは、気体状塩基は残っていない。最も望ましくは、全ての気体状塩基を除去する。塩基ガスは、洗浄によって少なくとも一部は除去できる。未反応の過酸化物を加える前に、装置から気体状塩基を可能な限り除去することが望ましい。こうすると、過酸化物が除染すべき表面上に凝縮する前の、塩基による過酸化物の分解が少なくなる。
【0058】
エンクロージャ、装置、またはチャンバ内に存在する気体状塩基の量はどのような既知の方法を用いて測定しても良く、例えば、電気化学センサ、ガスクロマトグラフィ、または赤外吸光度を用いる。既知量の塩基をエンクロージャ、装置、またはチャンバに加える。工程(III)後のエンクロージャ、装置、またはチャンバ内の塩基の量を標準的な手法を用いて測定すれば、エンクロージャ、装置、またはチャンバからの除去後に残留する気体状塩基の量が容易に計算できる。
【0059】
塩基性ガス、特にアンモニアを除去するための洗浄法は当技術において知られており、例えば、化学フィルタ(典型的に、CuClをドープした活性炭)に通すチャンバの換気が挙げられる。これにより気体(即ち、アンモニア)が洗浄され、残留する過酸化物が全て分解される。この換気期間の後、追加の過酸化物を加える。
【0060】
この実施の形態では、工程(III)で初めて気体状塩基を除去した後、少なくとも工程(I)と工程(II)を繰り返す。工程を繰り返すと過酸化水素濃度が高く保たれるため、除染過程が著しくスピードアップする。この繰り返しによって表面上に存在する・OOH反応中間体の濃度が高まるため、化学兵器剤との反応が速くなる。
【0061】
望ましくは、工程(I)と工程(II)を繰り返した後、気体状塩基をエンクロージャまたは装置からもう一度除去する。望ましくは、気体状塩基の除去後、エンクロージャまたは装置(チャンバ内で反応を行うならばチャンバ、あるいは、例えば、表面自体がチャンバとなっている、例えば、表面が除染すべき部屋であるならば、その直近または表面)中に残っている気体状塩基は、工程(II)で加えた気体状塩基の総量に対して、10容量%未満、5容量%未満、2容量%未満、より望ましくは1容量%未満であり、更に望ましくは、気体状塩基は残っていない。最も望ましくは、全ての気体状塩基を除去する。
【0062】
本発明の別の実施の形態では、工程(III)を行う前に、工程(I)と工程(II)を少なくとも2回、望ましくは少なくとも3回繰り返す。発明者は、表面の化学および/または生物剤を最初に過酸化物蒸気を含む雰囲気に曝露し、表面上に過酸化物蒸気を凝縮させると有益であることを発見した。この最初の工程は、望ましくは塩基の不在下で行う。先に概略を述べたように、化学および/または生物剤をその上に持つ表面のこの最初の曝露は、望ましくは、表面上の化学および/または生物剤の少なくとも一部を無害化する。過酸化物蒸気を含む雰囲気への最初の初期曝露の後、表面上に過酸化物蒸気を凝縮させ、望ましくは、表面上に凝縮した過酸化物蒸気が気体状塩基と反応するよう、気体状塩基を加える(工程(II))。この工程の後、望ましくは存在する塩基を除去せずに、工程(I)とそれに続く工程(II)を繰り返す。
【0063】
つまり、この実施の形態において、表面上の化学/生物兵器剤の無害化法は、
(I)望ましくは気体状塩基の不在下で、過酸化物蒸気を含む雰囲気に兵器剤を曝露し、化学/生物剤をその上に持つ表面上に過酸化物蒸気を凝縮させる工程と、(II)工程(I)の後、表面上に凝縮した過酸化物蒸気が気体状塩基と反応するよう、気体状塩基を加える工程と、
(Ia)工程(II)の後、過酸化物蒸気を含む雰囲気に兵器剤を曝露し、化学/生物剤をその上に持つ表面上に過酸化物蒸気を凝縮させる工程と、
(Ib)工程(Ia)の後、表面上に凝縮した過酸化物蒸気が気体状塩基と反応するよう、気体状塩基を加える工程と、
(III)気体状塩基を除去する工程と、
(IV)必要に応じて、望ましくは工程(III)を行う前に、工程(Ia)と工程(IIa)を少なくとも1回繰り返す工程と、
を含む。
【0064】
望ましくは、除染が完了して最終回の工程(II)を行ったら、過剰量の気体状塩基を加える。望ましくは、最終回の工程(II)を行う際に、加える塩基のモル量が、存在する過酸化物のモル量の少なくとも2倍、少なくとも5倍、より望ましくは少なくとも10倍、更に望ましくは少なくとも20倍、50倍、または100倍となるよう、気体状塩基を加える。
【0065】
エンクロージャまたは装置の中に過酸化物が殆ど残らないよう、過剰量の気体状塩基を加えて最終回の工程(II)を行うことは有益である。望ましくは、気体状過酸化物は、装置の全気体体積の5容量%未満であり、より望ましくは2容量%未満、更に望ましくは1%未満または0.5%未満である。望ましくは、過剰量の気体状塩基を加えて最終回の工程(II)を行った後、エンクロージャまたは装置中に残っている過酸化物蒸気は殆どなく、望ましくは残っていない。
【0066】
本発明の発明者は、除染が完了した時点でエンクロージャまたは装置中に過酸化物が残っていると、化学/生物兵器剤を無害化した表面に安全に接触できるようになる前に、エンクロージャまたは装置から気体状塩基を除去する必要があるだけでなく、過酸化物も除去しなければならないことを発見した。結合した過酸化物/塩基混合物の除去は、過酸化物を含まない(未反応の)単なる塩基混合物の場合よりも遙かに困難であることが分かった。
【0067】
望ましくは、最後の工程(II)で過剰の塩基を加えた後、エンクロージャまたは装置から気体状塩基を除去する。望ましくは、気体状塩基の除去後、エンクロージャまたは装置(反応をチャンバ内で行うならばチャンバ、あるいは、例えば、表面それ自体がチャンバとなっている、例えば、表面が除染すべき部屋であるならば、その直近または表面)中に残っている気体状塩基は、工程(II)で加えた気体状塩基の総量に対して、10容量%未満、5容量%未満、2容量%未満、より望ましくは1容量%未満であり、更に望ましくは残っていない。最も望ましくは、全ての気体状塩基を除去する。塩基ガスは、洗浄によって少なくとも一部は除去できる。
【0068】
工程(I)と工程(II)は、1回、2回、3回、4回、またはそれ以上繰り返しても良い。
【0069】
工程(I)、工程(II)、および工程(III)は、1回、2回、3回、4回、またはそれ以上繰り返しても良い。
【0070】
本発明のあるひとつの実施の形態では、工程(I)を繰り返す毎に、表面(または表面を含むエンクロージャ)が直前の工程(I)で曝露された過酸化物の量(過酸化物(g)/表面(cm)で測定)に比べて少ない量の過酸化物に表面(または表面を含むエンクロージャ)が曝露される。
【0071】
別の本発明の実施の形態では、工程(I)を繰り返す毎に、表面(または表面を含むエンクロージャ)が直前の工程(I)で曝露された過酸化物の量(過酸化物(g)/体積(m)で測定)に比べて少ない量の過酸化物に表面(または表面を含むエンクロージャ)が曝露される。
【0072】
繰り返される工程(I)において所定の条件下で加えられる過酸化物の量は、除染すべき表面上に過酸化物蒸気を凝縮させるのに十分であることは理解されよう。必要ならば、過酸化物の量を減少または変えながら、エンクロージャおよび/または装置および/またはチャンバ内の状態を変えても良い。
【0073】
本発明の追加の、または代わりとなる実施の形態では、工程(II)を繰り返す毎に、表面(または表面を含むエンクロージャ)が直前の工程(II)で曝露された気体状塩基の量(気体状塩基(g)/表面(cm)で測定、または気体状塩基(g)/体積(m)で測定)に比べて少ない量の気体状塩基に表面(または表面を含むエンクロージャ)が曝露される。
【0074】
あるひとつの実施の形態では、工程(I)を繰り返す毎に、表面(または表面を含むエンクロージャ)が直前の工程(I)で曝露された過酸化物の量(過酸化物(g)/表面(cm)で測定、または、過酸化物(g)/体積(m)で測定)に比べて少ない量の過酸化物に表面(または表面を含むエンクロージャ)が曝露され、また、工程(II)を繰り返す毎に、表面(または表面を含むエンクロージャ)が直前の工程(II)で曝露された気体状塩基の量(気体状塩基(g)/表面(cm)で測定、または気体状塩基(g)/体積(m)で測定)に比べて少ない量の気体状塩基に表面(または表面を含むエンクロージャ)が曝露される。
【0075】
本発明の別の実施の形態では、工程(I)を繰り返す毎に、表面(または表面を含むエンクロージャ)が直前の工程(I)で曝露された過酸化物の量(過酸化物(g)/表面(cm)で測定、または過酸化物(g)/体積(m)で測定)と比較して、同じ量の過酸化物に表面(または表面を含むエンクロージャ)が曝露される。本発明の追加の、または代わりとなる実施の形態では、工程(II)を繰り返す毎に、表面(または表面を含むエンクロージャ)が直前の工程(II)で曝露された気体状塩基の量(気体状塩基(g)/表面(cm)で測定、または気体状塩基(g)/体積(m)で測定)と比較して、同じ量の気体状塩基に表面(または表面を含むエンクロージャ)が曝露される。
【0076】
あるひとつの実施の形態では、工程(I)を繰り返す毎に、表面(または表面を含むエンクロージャ)が直前の工程(I)で曝露された過酸化物の量(過酸化物(g)/表面(cm)で測定、または過酸化物(g)/体積(m)で測定)と比べて少ない量の過酸化物に表面(または表面を含むエンクロージャ)が曝露され、また、工程(II)を繰り返す毎に、表面(または表面を含むエンクロージャ)が直前の工程(II)で曝露された気体状塩基の量(気体状塩基(g)/表面(cm)で測定、または気体状塩基(g)/体積(m)で測定)と比較して、同じ量の気体状塩基に表面(または表面を含むエンクロージャ)が曝露される。
【0077】
工程を交互に行い、またそれぞれの回で使用する過酸化物および/または気体状塩基の量を減らすことで、過酸化物および/または気体状塩基を有効に利用しながら表面の除染が最適化される。
【0078】
望ましくは、工程(I)において、化学/生物兵器剤を含む表面を、チャンバ内に負荷した機材の程度に応じた量の過酸化物に間欠的に曝露する。負荷の軽いチャンバでは典型的に、除染すべき体積1m当たり15から50cmの過酸化物が必要である。典型的に、中程度の負荷のチャンバは、1m当たり50から75cmの過酸化物に曝露し、負荷の重いチャンバは典型的に、1m当たり75から100cmに曝露する。
【0079】
望ましくは、工程(II)において、表面を、チャンバ内に負荷した機材の程度に応じた量の気体状塩基に間欠的に曝露する。典型的に、負荷の軽いチャンバでは、除染すべき体積1m当たり0.1から20リットルの気体状塩基(望ましくはアンモニア)が必要であり、中程度の負荷のチャンバは典型的に、体積1m当たり20から40リットルの気体状塩基に曝露し、負荷の重いチャンバは、体積1m当たり40から60リットルの気体状塩基に曝露する。
【0080】
工程(II)で塩基を加えると、除染すべき表面上に凝縮した過酸化物蒸気が塩基と反応する。つまり、エンクロージャおよび/または装置中に存在する過酸化物蒸気は、工程(II)で気体状塩基を加える前にエンクロージャおよび/または装置から取り除かれないことは理解されよう。
【0081】
望ましくは、表面を、過酸化物蒸気を含む雰囲気に1時間未満または40分間未満曝露する。典型的に、表面を、過酸化物蒸気を含む雰囲気に約8から60分間、10から25、30、または35分間、より望ましくは約10分間曝露する。処理のサイクル時間を速くするには、過酸化物蒸気を含む雰囲気への表面の曝露を短い滞留時間で行うと良い。
【0082】
望ましくは、気体状塩基は、添加後40分以内、30分以内、20分以内、15分以内に除去する。典型的に、気体状塩基は、添加後約10分で除去する。処理のサイクル時間を速くするには、塩基を迅速に除去すると良い。
【0083】
望ましくは、本発明では水以外の溶媒を用いない。水以外の微量の溶媒が存在することは理解されよう。文中において、微量の溶媒とは、存在する溶媒(水を含む)の全体積に対して、存在する溶媒が5容量%未満、望ましくは2容量%未満、より望ましくは0.5容量%未満であると定義する。
【0084】
望ましくは、過酸化物/水蒸気中に共溶媒は存在しない。望ましくは、過酸化物蒸気は、tert−ブチルアルコール、アセトニトリル、イソプロピルアルコール、およびこれらの1つ以上の混合物を含まない。望ましくは、過酸化物蒸気は、tert−ブチルアルコール、アセトニトリル、イソプロピルアルコール、テトラヒドロン(tetrahydron)、ジメチルスルホキシド、アセトン、アセトアルデヒド、プロピレンオキシド、アセトアミド、ジエチルアミン、ジメトキシエタン、およびこれらの1つ以上の混合物を含まない。
【0085】
望ましくは、本方法は、標準大気条件下、例えば、10℃から35℃、または10℃から20℃の温度、約101.325kPaの圧力で行う。
【0086】
処理の終了時、表面を含むエンクロージャ(例えば、装置またはチャンバ)を換気して除染を完了する。
【0087】
本発明のあるひとつの実施の形態では、除染処理を行う前に処理すべき表面をチャンバ内に置く。例えば、処理すべき表面が、衣服または衣類の一部、呼吸装置、兵器、医療機器、または他の表面、あるいはチャンバ内に置くのに適した表面を含む装置である場合にこのようにする。別の実施の形態において、処理すべき表面は、例えば、その表面(望ましくは内部表面)または部材を処理する、倉庫、テント、部屋、航空機、戦車、その他の車両などの内部である。
【0088】
本発明の実施に適した装置は、国際公開第2008/145987号に記載のものと同じである。本発明での使用に適した装置について、図1および図2に示す、非制限的な実施の形態を参照しながら述べる。
【0089】
図1に、チャンバ内部での使用に適した過酸化水素および水蒸気発生器の概略図を示す。ファン(11)により吸入口(10)から空気を装置内に吸入する。空気は空気加熱器(12)を通り、次に蒸発器(17)を通って、発生器から管(14)で繋がったノズル(13)より最終的に蒸発器から放出される。
【0090】
過酸化水素水溶液は瓶(15)内に蓄えられており、瓶は定量ポンプ(16)を備えた導管(22)で蒸発器に繋がっている。定量ポンプ(16)は蒸発器(17)への過酸化水素溶液の流量を制御する。蒸発器(17)を通る気流の中に過酸化水素溶液をフラッシュ蒸発させる。
【0091】
フラッシュ蒸発した過酸化水素と水蒸気は、出口管(14)を通って蒸発器から放出される。過酸化水素蒸気と水蒸気と空気との混合物はノズル(13)を通って発生器から放出される。あるひとつの実施の形態では、エンクロージャへ戻す前に、エンクロージャからの大量の空気の流れと過酸化水素蒸気流とを混ぜ合わせる。
【0092】
全工程を中央制御装置で制御し、空気流量と過酸化水素水溶液の蒸発速度を監視および調節する。定量ポンプ(16)が的確な時間に作動するよう、過酸化水素蒸気濃度を測定するためのセンサを設ける。
【0093】
図2は、チャンバ内部での使用に適した過酸化水素および水蒸気発生器と、別個の気体状アンモニア噴射流(injection stream)とを示す概略図である。ファン(110)により吸入口(100)から空気を装置内に吸入する。空気は空気加熱器(120)を通り、次に蒸発器(170)を通って、発生器から管(140)で繋がったノズル(130)より最終的に蒸発器から放出される。
【0094】
過酸化水素水溶液は瓶(150)内に蓄えられており、瓶は定量ポンプ(160)を備えた導管(220)で蒸発器に繋がっている。定量ポンプ(160)は蒸発器(170)への過酸化水素溶液の流量を制御する。蒸発器を通る気流の中に過酸化水素溶液をフラッシュ蒸発させる。
【0095】
フラッシュ蒸発した過酸化水素と水蒸気は、出口管(140)を通って蒸発器から放出される。過酸化水素蒸気と水蒸気と空気との混合物はノズル(130)を通って発生器から放出される。あるひとつの実施の形態では、エンクロージャへ戻す前に、エンクロージャからの大量の空気の流れと過酸化水素蒸気流とを混ぜ合わせる。
【0096】
アンモニアガスは、円筒(180)内に加圧されて蓄えられており、導管(210)内の圧力調整弁(190)と流量調整弁(200)を通り、次に出口管(240)を通る。アンモニアガスはノズル(250)を通って発生器から放出される。
【0097】
全工程を中央制御装置で制御し、空気流量と過酸化水素水溶液の蒸発速度とアンモニアガスの添加とを監視および調節する。定量ポンプ(160)と弁(200)が的確な時間に作動するよう、過酸化水素蒸気とアンモニアガスの濃度を測定するためのセンサを設ける。
【0098】
ノズル(130)と(250)は同じノズルであっても良いことは理解されよう。
【0099】
以下の非制限的な条項に関連して、本発明を述べる。
【0100】
1.表面上の化学/生物兵器剤を無害化する方法であって、この方法は、
(I)過酸化物蒸気を含む雰囲気に兵器剤を曝露し、化学/生物剤をその上に持つ表面上に過酸化物蒸気を凝縮させる工程と、
(II)工程(I)の後、表面上に凝縮した過酸化物蒸気が気体状塩基と反応するよう、気体状塩基を加える工程と、
(III)気体状塩基を除去する工程と、
(IV)工程(I)と工程(II)を少なくとも1回繰り返す工程と、
を含む。
【0101】
2.気体状塩基が、化学式 NR (式中、R、R、Rは独立して、C〜Cアルキルおよび水素から成る群より選ばれる)を持つ、条項1に記載の方法。
【0102】
3.化学式 NRを持つ気体状塩基がアンモニアである、条項2に記載の方法。
【0103】
4.過酸化物が過酸化水素である、先の条項のいずれかに記載の方法。
【0104】
5.工程(IV)が、工程(I)、工程(II)、および工程(III)の少なくとも1回の繰り返しを含んでいる、先の条項のいずれかに記載の方法。
【0105】
6.工程(IV)が、工程(I)、工程(II)、および必要に応じて工程(III)の少なくとも2回の繰り返しを含んでいる、条項5に記載の方法。
【0106】
7.工程(I)を繰り返す毎に、直前の工程(I)で表面が曝露された過酸化物の量(過酸化物(g)/体積(m)で測定)に比べて少ない量の過酸化物に表面を曝露する、先の条項のいずれかに記載の方法。
【0107】
8.それぞれの工程(I)における過酸化物蒸気の濃度を、蒸気の露点を超えて表面上で蒸気の凝縮が起こるまで上げる、先の条項のいずれかに記載の方法。
【0108】
9.気体状塩基を、工程(III)での洗浄によって除去する、先の条項のいずれかに記載の方法。
【0109】
10.工程(III)で殆ど全ての気体状塩基を除去する、先の条項のいずれかに記載の方法。
【0110】
11.化学/生物兵器剤が、G型剤、V型剤、H型剤、病原体、生物毒素、胞子、およびプリオンの1つ以上である、先の条項のいずれかに記載の方法。
【0111】
12.工程(IV)が、表面上に当初存在した化学/生物兵器剤が無害となるまで、工程(I)、工程(II)、および必要に応じて工程(III)の反復繰り返しを含む、先の条項のいずれかに記載の方法。
【0112】
13.過酸化物蒸気が水を含んでいる、先の条項のいずれかに記載の方法。
【0113】
14.過酸化物蒸気が共溶媒を含んでいない、条項13に記載の方法。
【0114】
15.表面上に凝縮した過酸化物蒸気のpHが9から14の範囲となるように、工程(II)の気体状塩基を加える、先の条項のいずれかに記載の方法。
【0115】
以下の非制限的な実施例を参照しながら、本発明を述べる。
【実施例】
【0116】
[実施例1]
除染すべき表面を含む、0.3m容量のチャンバを、20℃、50%RHとする。
(i)25mlの蒸気化した30%過酸化水素をチャンバに加え、30分間置いた。この条件により、表面上に微小凝縮液が生じた。
(ii)更に、追加の20mlの蒸気化した30%過酸化水素をチャンバに加え、30分間置いた。この条件により、表面上に微小凝縮液が生じた。
(iii)除染が完了するまで、工程(ii)を繰り返した。
(iv)次に、密閉したチャンバを10分間置いた後、換気した。
【0117】
[実施例2]
除染すべき表面を含む、0.3m容量のチャンバを、20℃、50%RHとする。
(I)15mlの蒸気化した30%過酸化水素をチャンバに加え、30分間置いた。この条件により、表面上に微小凝縮液が生じた。
(II)次に、1600mlのNHガスを1分間に亘ってチャンバに加えた。
(III)次に、密閉したチャンバを10分間置いた後、換気して、殆ど全ての気体状NHを除去した。
(IV)次に、除染が完了するまで、番号順にもう一度、工程(I)、工程(II)、および工程(III)を繰り返した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面上の化学および/または生物兵器剤を無害化する方法であって、
(i)過酸化物蒸気を含む雰囲気に兵器剤を曝露し、化学および/または生物剤をその上に持つ表面上に前記過酸化物蒸気を凝縮させる工程と、
(ii)工程(i)の後、追加の過酸化物蒸気を含む雰囲気に兵器剤を曝露し、化学および/または生物剤をその上に持つ表面上に追加の前記過酸化物蒸気を凝縮させる工程と、
(iii)必要に応じて、工程(ii)を繰り返す工程と、
を含むことを特徴とする、表面上の化学および/または生物兵器剤を無害化する方法。
【請求項2】
前記過酸化物は過酸化水素であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(iii)は、少なくとも更に2回の工程(ii)の実行を含むことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記化学および/または生物剤をその上に持つ表面は、エンクロージャの中に、および/または、少なくともエンクロージャの一部にあることを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記化学および/または生物剤をその上に持つ表面は、工程(i)を行う前に前記エンクロージャ内に置かれることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記エンクロージャは、コンテナ、チャンバ、または部屋であることを特徴とする、請求項4または請求項5に記載の方法。
【請求項7】
工程(ii)を繰り返す毎に、直前の工程(ii)で前記表面を含むエンクロージャが曝露された過酸化物の量(過酸化物(g)/体積(m)で測定)に比べて少ない量の過酸化物に前記表面を含むエンクロージャを曝露することを特徴とする、請求項4から請求項6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
それぞれの工程(i)および工程(ii)における前記過酸化物蒸気の濃度は、蒸気の露点を超えて表面上で蒸気の凝縮が起こるまで上げることを特徴とする、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記化学/生物兵器剤は、G型剤、V型剤、H型剤、病原体、生物毒素、胞子、およびプリオンの1つ以上であることを特徴とする、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
工程(iii)は、前記表面上に当初存在した前記化学/生物兵器剤が無害となるまで、工程(ii)の反復繰り返しを含むことを特徴とする、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記過酸化物蒸気は共溶媒を含まないことを特徴とする、請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
工程(i)と工程(ii)を行う間の時間は、5から60分間であることを特徴とする、請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
工程(iii)において、工程(ii)を繰り返す間の時間は、5から60分間であることを特徴とする、請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記方法は、塩基および/または気体状塩基および/またはアルカリ化合物を加える工程を含まないことを特徴とする、請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
気体状塩基を加える工程を更に含むことを特徴とする、請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記表面上に凝縮した過酸化物蒸気が気体状塩基と反応するよう、工程(i)後に気体状塩基を加えることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記方法は、前記気体状塩基の少なくとも一部、望ましくは全てを除去する工程を更に含むことを特徴とする、請求項15または請求項16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
(I)過酸化物蒸気を含む雰囲気に兵器剤を曝露し、化学/生物剤をその上に持つ表面上に前記過酸化物蒸気を凝集させる工程と、
(II)工程(I)の後、前記表面上に凝縮した過酸化物蒸気が気体状塩基と反応するよう、気体状塩基を加える工程と、
(III)前記気体状塩基を除去する工程と、
(IV)工程(I)と工程(II)を少なくとも1回繰り返す工程と、
を含むことを特徴とする、請求項15から請求項17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記気体状塩基は、化学式 NR (式中、R、R、Rは独立して、C〜Cアルキルおよび水素から成る群より選ばれる)を持つことを特徴とする、請求項15から請求項18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記化学式 NRを持つ前記気体状塩基はアンモニアであることを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
工程(IV)は、工程(I)と工程(II)との少なくとも1回の繰り返しを含むことを特徴とする、請求項18から請求項20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
工程(IV)は、工程(I)と工程(II)との少なくとも2回の繰り返しを含むことを特徴とする、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
工程(I)を繰り返す毎に、直前の工程(I)で前記表面が曝露された過酸化物の量(過酸化物(g)/体積(m)で測定)に比べて少ない量の過酸化物に前記表面を曝露することを特徴とする、請求項15から請求項22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記気体状塩基は、工程(III)での洗浄によって除去されることを特徴とする、請求項17から請求項23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
工程(IV)は、前記表面上に当初存在した前記化学/生物兵器剤が無害となるまで、工程(I)と工程(II)との反復繰り返しを含むことを特徴とする、請求項18から請求項24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記表面上に凝縮した過酸化物蒸気のpHが9から14の範囲となるよう、気体状塩基を(望ましくは、工程(II)で)加えることを特徴とする、請求項15から請求項25のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−520264(P2013−520264A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−554406(P2012−554406)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際出願番号】PCT/GB2011/000254
【国際公開番号】WO2011/104508
【国際公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(501468208)バイオケル ユーケイ リミテッド (10)