説明

化粧品成型装置及び化粧品成型方法

【課題】 成型条件を精度良く設定することができ、また、狭スペース化を図ることができる化粧品成型装置及び化粧品成型方法を得る。
【解決手段】 口紅材料が充填可能な金型10の外面に加熱又は冷却可能なペルチェ素子22を配設し、制御部24によって、ペルチェ素子22に通電される電流値及び電流の向きを制御してペルチェ素子22を介して金型10の温度をコントロールすることで、金型10の温度制御が容易になり、該温度を精度良く設定することができる。このため、高品質の口紅を成型することができる。また、口紅など結晶構造を左右する温度履歴を柔軟に調整することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば口紅又はアイライナー等の化粧品を成型する化粧品成型装置及び化粧品成型方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
口紅やアイライナーなど棒状の化粧品は、顔料やパール顔料をオイルや固形ワックスなどで混練した後、加熱溶融し(化粧品材料)、化粧品を成型するための金型へ流し込んで成型する。そして、該金型を冷却し、該化粧品材料を固化させた後、固化した化粧品材料を金型から離型させる(例えば、特許文献1)。
【0003】
このように、金型を用いた成型方法では、複雑な形状の製品でも加工が容易で量産性に優れているため、さまざまなものが製造されるが、口紅やアイライナーなどの成型品は、オイルや固形ワックスが主成分で人体の皮膚上に塗布することを目的としているため、プラスチック成型などに比べて固化温度が低く、成型物も非常に柔らかい。また、冷却過程の温度変化の履歴によってワックスの結晶構造が変化し、折損強度や外観、使用感が大きく異なる。
【0004】
このような、口紅やアイライナーなどの成型品は、化粧品材料温度、流し込み温度、金型温度、などの成型条件の幅が狭いため、安定して高品質に成型するのは非常に困難である。
【0005】
例えば、口紅の成型温度では以下の通りである。すなわち、成型材料の口紅が溶融状態にある(以下、口紅材料)という)とき、口紅材料の温度が高い方が材料の流動性が良く、逆に該温度が低いと流動性が悪くなる。
【0006】
しかし、口紅材料の温度が高すぎると、金型内へ流し込まれた際に、口紅の顔料やパール材料の対流によっていわゆる”ムラ”などの模様が生じる。逆に、口紅材料の温度が低すぎると、口紅材料の流動性が悪く、口紅の先端部に相当する金型の奥方に口紅材料を十分に充填することができず、口紅のシャープなエッジラインや平面部分を得ることができない。
【0007】
また、金型温度については、金型温度が口紅材料の温度に近いほど口紅材料の流動性が良くなるため、口紅の先端部に相当する金型の奥方まで口紅材料を充填することができる。しかし、金型温度を高く設定すると、金型内で口紅材料が固化するまでの時間が長くなり、金型を冷却する冷却時間を長くしなければならない。逆に、冷却時間を短くするため、金型温度を低く設定すると、口紅の表面にフローマークが発生し、外観が汚くなってしまう。
【0008】
そこで、従来は、一例として、図5(A)に示すように、金型100の表面にヒータ102を接触させ、金型100の温度を上昇させた後、図5(B)に示すように、口紅材料が収容された充填機104に設けられた各ノズル106から金型100内へ口紅材料を充填する。
【0009】
次に、図5(C)に示すように、冷水や冷媒を循環させて冷却した金属製の冷却板108(なお、便宜上、冷水や冷媒を流動させるためのパイプは図示を省略している)に金型100を密着させて金型100を冷却し、口紅材料を固化させた後、図5(D)、(E)に示すように、金型100を構成する上部金型100Aを取外し、該上部金型100Aの代わりに、図5(F)に示すように、口紅収納筒110が設けられた口紅ケース112が配置されたホルダー114を下部金型100Bに装着する。
【0010】
そして、下部金型100Bを保持する保持部材115を下部金型100Bから取外した後、下部金型100Bを若干開いた状態で、ホルダー114を上方へ持ち上げ、図5(H)に示すように、成型された口紅116を下部金型100Bから離型させる。
【0011】
ところで、口紅などの成型品はオイルとワックスを混合して目的の使用感を作り出すが、口紅には、ワックス成分の結晶構造が温度により変化し結晶の大きさによって口紅の表面から汗のようにオイルを噴出する発汗現象や、該オイルが再び成型品に戻る際にオイルに溶融しにくいワックスのみが析出し白い粉を噴いたようなブルーム現象が生じる場合がある。
【0012】
このような結晶の大きさは急冷すれば小さくなり、徐冷すれば大きくなる。結晶が小さいと、口紅等の硬度は高くなるが、使用感は硬くなり、結晶が大きくなると、硬度は低くなるが、使用感はやわらかくなる。
【0013】
発汗現象などオイルが噴出しやすくなる結晶の大きさは、オイルとワックス相溶性や処方によって変化し、結晶状態の制御は成型品をどのように冷却したかによって制御できる。従って、適切な冷却方法を確保するため、段階的に金型100を冷却する場合もあり、この場合、温度の異なる複数の冷却板108の間を金型100が通過することとなる(図5(C)参照)。
【0014】
しかしながら、ヒータ102を用いて金型温度を上昇させたり、冷却板108を用いて金型100を冷却したりする場合、金型温度を精度良く設定することが困難である。また、冷却板108において、冷水や冷媒を循環させて冷却する場合、設備が大掛かりとなり、その分のスペースが別途必要となる。
【特許文献1】特許第2810323号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は上記事実を考慮し、成型条件を精度良く設定することができ、また、狭スペース化を図ることができる化粧品成型装置及び化粧品成型方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1に記載の発明は、化粧品成型装置において、溶融された化粧品材料を吐出可能な吐出装置と、前記吐出装置から吐出された化粧品材料が充填可能に設けられ、外面に加熱又は冷却可能なペルチェ部材が配設された化粧品金型と、前記ペルチェ部材と接続し、通電される電流値及び電流の向きを制御してペルチェ部材を介して前記化粧品金型の温度をコントロールする制御部と、を有することを特徴とする。
【0017】
請求項1に記載の発明では、化粧品材料が充填可能な化粧品金型の外面に加熱又は冷却可能なペルチェ部材を配設し、制御部によって、ペルチェ部材に通電される電流値及び電流の向きを制御してペルチェ部材を介して化粧品金型の温度をコントロールするようにしている。
【0018】
ここで、ペルチェ部材とはペルチェ効果を有する部材のことである。このペルチェ効果は、熱エネルギーと電気エネルギーが相互に変換する熱電効果の一種であり、異種の導体の接触面を通じて電流を流したとき、その接触面で熱量の発熱又は吸熱が起きる現象のことで、電流の向きを変えると発熱又は吸熱が逆転するという性質を有している。
【0019】
このペルチェ部材によって化粧品金型の温度を制御することで、化粧品金型の温度制御が容易になり、該温度を精度良く設定することができる。このため、高品質の製品を成型することができる。また、口紅など結晶構造を左右する温度履歴を柔軟に調整することができる。
【0020】
さらに、例えば、冷却板等と比較して化粧品金型の温度を早く冷却することができ、成型サイクルを短くすることができる。また、化粧品金型の温度を段階的に冷却することができるため、口紅の発汗現象を防止することができる。
【0021】
請求項2に記載の発明は、化粧品を成型する金型を予熱する予熱工程と、前記予熱工程で前記金型が予熱された後、金型内へ、溶融された化粧品材料を充填する充填工程と、前記充填工程で前記金型内へ充填された前記化粧品材料を冷却する冷却工程と、を備えた化粧品成型方法において、前記金型の外面に、加熱又は冷却が可能なペルチェ部材を配設し、金型を加熱又は冷却して前記予熱工程及び冷却工程を行うことを特徴とする。
【0022】
請求項2に記載の発明では、金型の外面に、加熱又は冷却が可能なペルチェ部材を配設し、金型を加熱又は冷却して予熱工程及び冷却工程を行うことで、化粧品金型を移動させることなく、その場で、予熱工程、充填工程及び冷却工程を行うことができる。このため、スペースの狭小化を図ることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、上記構成としたので、請求項1に記載の発明では、ペルチェ部材によって化粧品金型の温度を制御することで、化粧品金型の温度制御が容易になり、該温度を精度良く設定することができるため、高品質の製品を成型することができる。また、口紅など結晶構造を左右する温度履歴を柔軟に調整することができる。さらに、例えば、冷却板等と比較して化粧品金型の温度を早く冷却することができるため、成型サイクルを短くすることができる。また、化粧品金型の温度を段階的に冷却することができ、口紅の発汗現象を防止することができる。
【0024】
請求項2に記載の発明では、金型の外面に、加熱又は冷却が可能なペルチェ部材を配設し、金型を加熱又は冷却して予熱工程及び冷却工程を行うことで、化粧品金型を移動させることなく、その場で、予熱工程、充填工程及び冷却工程を行うことができるため、スペースの狭小化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
次に、本発明の実施形態に係る化粧品成型装置について説明する。
【0026】
口紅を成型する場合、図1に示すように、一つの金型10で複数の口紅を成型する(なお、ここでは便宜上5個としたが、一般的には8〜16個である)。この金型10は、アルミニウム或いは真鍮で形成されており、図2(A)、(B)に示すように、下部金型12及び上部金型14で構成され、下部金型12には溶融状態の口紅(以下、「口紅材料」という)が充填可能な筒状の充填部(図示省略)が形成されている。一方、上部金型14には、下部金型12に対応して、該充填部と連通する穴部18が形成されている。
【0027】
また、下部金型12は幅方向の中心に沿って二つに分割しており、幅方向に沿って開放可能となっている。このため、金型10の長手方向の両端部には、略コ字状の保持部材20が嵌め込まれるようになっており、下部金型12及び上部金型14の型締め力が保持され、充填された口紅材料が充填部から漏れ出さないようにしている。
【0028】
さらに、下部金型12の外面には、略全面に渡ってペルチェ素子22がそれぞれ配設されている。このペルチェ素子22に電流を流すと、前述したペルチェ効果により、一方の面では吸熱反応が起こり、他方の面では発熱反応が起こる。その結果、一方の面は冷却され、他方の面は加熱される。この反応は可逆反応であるため、電流を流す向きを変えることで、吸熱反応面を発熱反応面に、発熱反応面を吸熱反応面に変えることができる。
【0029】
図1に示すように、ペルチェ素子22には制御部24が接続されており、制御部24には、図示はしないが、ペルチェ素子22に直流電圧を印加する電源回路及び該電源回路と接続されるドライバが備えられている。
【0030】
このドライバを介して電源回路による電圧を変えることで、ペルチェ素子22の温度を変え、該ペルチェ素子22を介して金型10の温度をコントロールするようにしている。また、電流の向きを変えることでペルチェ素子22の加熱又は冷却が切り換えられる。
【0031】
一方、金型10の上方には、口紅材料が収容された充填機26が設けられている。この充填機26には、金型10の穴部18に対応して、5本のノズル28が垂下している。充填機26が作動すると、各ノズル28から定量の口紅材料が吐出され、穴部18を通じて充填部内へ充填される。
【0032】
次に、本発明の実施形態に係る化粧品成型方法について説明する。
【0033】
図1及び図4に示すように、まず、制御部24によって、ペルチェ素子22の温度を上昇させ、金型10の温度を上げる。これにより、金型10を予熱する(約15〜30℃)。金型10が所定温度に到達すると(時間で制御しても良いし、また、金型10に温度センサ(図示省略)を設け、該温度センサと制御部24を接続させて温度センサによる温度によって制御しても良い。)、溶融された口紅材料(約85〜95℃)が、充填機26から所定量吐出され、穴部18を通じて充填部へ充填される。
【0034】
次に、制御部24によって、電流の向きを変えて、ペルチェ素子22の温度を下降させ、金型10の温度を冷却する(約10〜30℃)。このとき、口紅材料の結晶構造によって、印加する電圧値を変え、段階的に金型10を冷却しても良い(冷却I、II)。
【0035】
口紅材料が固化した状態で、図2(B)に示すように、金型10を構成する上部金型14を取外すと、下部金型12の上面には、穴部18に相当する位置に口紅30の後端部が露出することとなる。
【0036】
そして、上部金型14の代わりに、図2(C)に示すように、口紅収納筒32が設けられた口紅ケース34が配置されたホルダー36を下部金型12に装着する。これにより、口紅30の後端部が、口紅収納筒32内へ収納される。
【0037】
次に、図2(D)に示すように、下部金型12の両端部に嵌め込まれた保持部材20を取外し、下部金型12を若干開いた状態で、ホルダー36を上方へ持ち上げ、図2(E)に示すように、成型された口紅30を下部金型12から離型させる。
【0038】
そして、図3に示すように、口紅ケース34をベルトコンベア38上に載置し(なお、ここでは、口紅ケース34を保持するホルダーは図示を省略している)、ベルトコンベア38の両側に配置されたバーナー40によって口紅30の表面を加熱する(いわゆるフレーミング処理)。これにより、口紅30の表面の結晶構造を再構成し、口紅30の表面の光沢、発汗防止、発粉防止等が得られる。
【0039】
次に、本発明の実施形態に係る化粧品成型装置の作用について説明する。
【0040】
図1に示すように、本発明では、口紅材料が充填可能な金型10の外面に加熱又は冷却可能なペルチェ素子22を配設し、制御部24によって、ペルチェ素子22に通電される電流値及び電流の向きを制御してペルチェ素子22を介して金型10の温度をコントロールすることで、金型10の温度制御が容易になり、該温度を精度良く設定することができる。このため、高品質の口紅30を成型することができる。また、口紅30など結晶構造を左右する温度履歴を柔軟に調整することができる。
【0041】
さらに、例えば、冷却板等と比較して金型10の温度を早く冷却することができ、成型サイクルを短くすることができる。また、金型10の温度を段階的に冷却することができるため、口紅30の発汗現象を防止することができる。
【0042】
また、金型10の外面に、加熱又は冷却が可能なペルチェ素子22を配設し、金型10を加熱又は冷却可能とすることで、ペルチェ素子22によって、金型10の予熱工程及び冷却工程を行うことができる。これにより、金型10を移動させることなく、その場で、予熱工程、充填工程及び冷却工程を行うことができる。このため、スペースの狭小化を図ることができる。
【0043】
なお、本形態はあくまでも一実施例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において適宜変更可能であることは言うまでもない。
【0044】
例えば、本形態では口紅30について説明したが、アイライナーやその他の化粧品についても適用可能である。この場合、金型10の加熱及び冷却における温度、時間等は該化粧品によって異なる。
【0045】
また、ここでは、下部金型12の外面の略全面に渡って一つのペルチェ素子22を配設したが、これに限るものではない。例えば、図示はしないが、下部金型の外面下方であっても良く、また、下部金型の外面に上下方向で複数のペルチェ素子を配設し、下部金型の充填部の開口側と奥側とで各々温度制御できるようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施の形態に係る成型装置の構成を説明する斜視図である。
【図2】(A)〜(E)は、本発明の実施の形態に係る成型装置による成型後の工程を示す斜視図である。
【図3】フレーミング処理を示す斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る成型装置による成型条件を示すグラフである。
【図5−1】(A)〜(C)は、従来の成型方法を示す斜視図である。
【図5−2】(D)〜(H)は、従来の成型後の工程を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0047】
10 金型(化粧品金型)
22 ペルチェ素子(ペルチェ部材)
24 制御部
26 充填機(吐出装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融された化粧品材料を吐出可能な吐出装置と、
前記吐出装置から吐出された化粧品材料が充填可能に設けられ、外面に加熱又は冷却可能なペルチェ部材が配設された化粧品金型と、
前記ペルチェ部材と接続し、通電される電流値及び電流の向きを制御してペルチェ部材を介して前記化粧品金型の温度をコントロールする制御部と、
を有することを特徴とする化粧品成型装置。
【請求項2】
化粧品を成型する金型を予熱する予熱工程と、
前記予熱工程で前記金型が予熱された後、金型内へ、溶融された化粧品材料を充填する充填工程と、
前記充填工程で前記金型内へ充填された前記化粧品材料を冷却する冷却工程と、
を備えた化粧品成型方法において、
前記金型の外面に、加熱又は冷却が可能なペルチェ部材を配設し、金型を加熱又は冷却して前記予熱工程及び冷却工程を行うことを特徴とする化粧品成型方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【公開番号】特開2006−158513(P2006−158513A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−351556(P2004−351556)
【出願日】平成16年12月3日(2004.12.3)
【出願人】(500470840)アサヌマ コーポレーション株式会社 (18)
【Fターム(参考)】