説明

医療検査用カセット

【課題】細紐状やテープ状など細長い検体を処理する場合であっても、この検体が折れ曲がったり丸まったりせず、検体を短時間で効率的に薬液処理できる医療検査用カセットを提供する。
【解決手段】底板部2aに多数の透孔5が穿設され、上面が開放された方形の容器であるカセット本体2と、上板部3aに多数の透孔5が穿設され、前記カセット本体2の上面に着脱自在に取り付け可能である蓋3とからなる医療検査用カセット1であって、前記カセット本体2の底板部2aからはカセット本体2の内部を小室2gに仕切る仕切り壁2bが立設され、前記小室2gの底面は長辺の長さが短辺の長さの2倍以上の矩形状であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療検査用顕微鏡標本の作製に使用する医療検査用カセットに関し、更に詳しくは、検体が細紐状やテープ状など細長く撓みやすい形状であっても、略直線状の姿勢が保持され、脱水、キシレン処理等の途中で検体が折れ曲がったり丸まったりせず、従って、検体が重なりあった部分で薬液処理が不十分になるというトラブルもなく、その結果、検体の全体を均一に処理することができる、細紐状やテープ状など細長く撓みやすい検体に適した医療検査用カセットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、顕微鏡標本を作製するために検体を前処理するための医療検査用カセットとして、底板部に多数の透孔が穿設され、上面が開放された方形の容器であるカセット本体と、上板部に多数の透孔が穿設され、前記カセット本体の上面に着脱自在に取り付け可能である蓋とからなる医療検査用カセットが使用されている。この種の医療検査用カセットの代表的なものとして、側面にミクロトームのアダプターを係止するためのアダプター係止部2hを備えたカセット(図16,図17)、斜面状の記録部2eを備えたカセット(図18,図19)などが挙げられる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記カセットを使用して顕微鏡標本を作製する方法は特許文献1にも記載されているが、図17,図19に示すように、まず、カセット本体2内に採取した検体Sを収容して蓋3を取り付けて、記録部2eには被験者の氏名や番号等を記入しておく。次いで、カセット本体2の底板部や蓋3の上板部に穿設された透孔5からアルコールを流入させて検体Sの水分を除去し、キシレンにより後述する液状パラフィンとの親和性を付与する。
【0004】
次に、図20に示すように、検体SをトレイTに移して該トレイTにカセット本体2を載せ、医療検査用カセット1の上からパラフィンを注入する。次いで、図示しないが、パラフィンを冷却固化させた後、トレイTを取り除くことにより、検体Sを包埋したパラフィンがカセット本体2の底部に付着してなるパラフィンブロックを得る。その後、ミクロトームでパラフィンに包埋された検体Sをスライスして薄片を得て、これに染色等の所定の処理を施すことにより顕微鏡標本を得るのである。
【0005】
しかしながら、細紐状やテープ状など、撓みやすい形状の検体を上記の医療検査用カセットで処理すると、検体が丸くなったり曲がったりすることが多く、また、検体の端部が薬液処理などの際にその流勢に押し流されて、この検体が部分的に折れ曲がったり、甚だしい場合には全体的に丸まったりする場合があり、その結果、検体が重なりあった部分で検体表面に汚れが残ったり、パラフィンとの親和性が十分付与されないなど、薬液処理が不十分となる虞れがある。薬液処理が不十分な場合には、好適な顕微鏡標本が作製できないばかりか、貴重な検体を台無しにしてしまうこともあり、検査の信頼性を大きく損なう危険性がある。
【特許文献1】実用新案登録第2507446号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、カセット本体に仕切り壁を立設して、カセット本体の内部を長辺の長さが短辺の長さの2倍以上である矩形の小室に区画することにより、上記の如き欠点を解消し、細紐状やテープ状など細長い検体を処理する場合であっても、この検体が丸まったり折れ曲がったりすることがなく抑制されて略線状の姿勢が保持され、検体を適切に薬液処理できる医療検査用カセットを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明の請求項1に係る発明は、底板部に多数の透孔が穿設され、上面が開放された方形の容器であるカセット本体と、上板部に多数の透孔が穿設され、前記カセット本体の上面に着脱自在に取り付け可能である蓋とからなる医療検査用カセットであって、前記カセット本体の底板部からはカセット本体の内部を小室に仕切る仕切り壁が立設され、前記小室の底面は長辺の長さが短辺の長さの2倍以上の矩形状であることを特徴とする医療検査用カセットを内容とする。
【0008】
本発明の請求項2に係る発明は、仕切り壁はカセット本体の長辺方向または短辺方向に延設されることを特徴とする請求項1に記載の医療検査用カセットを内容とする。
【0009】
本発明の請求項3に係る発明は、カセット本体の底板部の個々の透孔は、カセットの長辺方向及び短辺方向に延設される直線状の桟で隔てられており、仕切り壁は桟の上に立設されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の医療検査用カセットを内容とする。
【0010】
本発明の請求項4に係る発明は、仕切り壁の高さは小室の高さの半分以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の医療検査用カセットを内容とする。
【0011】
本発明の請求項5に係る発明は、蓋の上板部裏面からは補助壁が垂設されており、カセット本体に蓋を取り付けると仕切り壁と補助壁が近接することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の医療検査用カセットを内容とする。
【0012】
本発明の請求項6に係る発明は、補助壁が小室内に嵌合するループ状であることを特徴とする請求項5に記載の医療検査用カセットを内容とする。
【0013】
本発明の請求項7に係る発明は、カセット本体の底板部裏面の周縁部分及び蓋の上板部表面の周縁部分には透孔が穿設されない外周領域が設けられ、この外周領域には間隙保持用突起が突設されていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の医療検査用カセットを内容とする。
【0014】
本発明の請求項8に係る発明は、間隙保持用突起の最長部分の長さは、カセット本体の底板部又は蓋の上板部に穿設された透孔の最長部分よりも長い寸法であることを特徴とする請求項7に記載の医療検査用カセットを内容とする。
【0015】
本発明の請求項9に係る発明は、間隙保持用突起は対向する二つの長辺の外周に沿って、それぞれ2〜3個設けられていることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の医療検査用カセットを内容とする。
【0016】
本発明の請求項10に係る発明は、カセット本体の底板部裏面であってカセット本体の小室の下方に相当する部分、及び/又は、蓋の上板部表面であってカセット本体の小室の上方に相当する部分に、横長の乱流用突起が突設されていることを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の医療検査用カセットを内容とする。
【0017】
本発明の請求項11に係る発明は、乱流用突起が2以上の異なる方向に延設されていることを特徴とする請求項10に記載の医療検査用カセットを内容とする。
【0018】
本発明の請求項12に係る発明は、蓋及び/又はカセット本体が耐薬品性の透明材料からなることを特徴とする請求項1乃至請求項11のいずれかに記載の医療検査用カセットを内容とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の医療検査用カセットは、カセット本体の底板部からカセット本体の内部を小室に仕切る仕切り壁が立設され、前記小室の底面は長辺の長さが短辺の長さの2倍以上の矩形であるため、細長くて撓みやすい検体を薬液処理する場合でも、検体はたとえ丸まったり曲ろうとしても側壁や仕切り壁によって阻止され、これらの壁に沿って強制的に略線状に伸ばされるので折れ曲がったり丸まったりせず、略直線状の姿勢が保持され、従って検体が重なりあうことがないので、薬液処理は適切に行われて好適な顕微鏡標本が作製でき、検査の信頼性を高めることができる。
この場合、仕切り壁をカセット本体の長辺方向または短辺方向に延設すると、カセット内部は無駄なく小室に区画されて効率よく使用され、多数の小室を形成することができる。また、仕切り板をカセットの長辺方向及び短辺方向に延設された桟の上に立設すると、透孔が仕切り板により塞がれないため小室内に薬液が流入しやすくなるので、薬液処理を短時間で適切に行うことができ、また検査の信頼性を高めることができる。
【0020】
仕切り壁の高さを小室の高さの半分以上とすれば、小室に投入した細長い検体の一端が仕切り壁を越えて隣の小室に移動する虞れがなく、検体を略真っ直ぐに伸ばしたまま適切に薬液処理を行うことができる。
【0021】
蓋の上板部裏面から補助壁を垂設し、カセット本体に蓋を取り付けると仕切り壁と補助壁が近接するようにすれば、仕切り壁の高さを低くしたとしても、カセット本体に蓋を取り付ければ小室は仕切り壁と補助壁により上下で区画され、薬液処理中にその流勢に押されて検体が隣の小室に移動することが防止される。
【0022】
補助壁を小室内に嵌合するループ状とすれば、カセット本体に蓋を取り付けた際には補助壁が小室に立設された仕切り壁やカセット本体の側壁に当接し、小室は完全に区画されるので検体の隣の小室への移動が確実に防止されるとともに、カセット本体に対する蓋のがたつきを防止できる。
【0023】
カセット本体の底板部裏面の周縁部分及び蓋の上板部表面の周縁部分には透孔がない外周領域を設け、この外周領域に間隙保持用突起を突設すると、医療検査用カセットを積み重ねたり並接した場合に隣接する該カセットの間には薬液が流入できる間隙が形成され、しかも積み重ねたカセットに少々のズレが生じたとしてもこの間隙は適切に保持される。従って、カセット内への薬液の流入が妨げられることなく、均一な薬液処理を短時間で効率的に行うことができる。
【0024】
間隙保持用突起の最長部分の長さを透孔の最長部分よりも長い寸法とすると、積み重ねた医療検査用カセットの位置がずれて間隙保持用突起が透孔の上に配置されたとしても、この間隙保持用突起が透孔内に没入することがないため、隣接するカセットの間隙は均一且つ確実に保持される。従って薬液のカセット内への流入が妨げられることがなく、均一な薬液処理を行うことができる。
間隙保持用突起については、対向する二つの長辺の外周に沿って、それぞれ2〜3個設けるのが好ましく、この場合は長辺側に設けられた間隙保持用突起の間及び短辺側を通って外周の全ての方向から薬液が流入し、薬液処理が一層均一に行われる。
【0025】
カセット本体の底板部裏面であってカセット本体の小室の下方に相当する部分、及び/又は、蓋の上板部表面であってカセット本体の小室の上方に相当する部分に、横長の乱流用突起を突設すると、積み重ねられた医療検査用カセットの間隙を流れる薬液の流路がこの乱流用突起により撹乱され、該カセットの間を単に素通りするだけでなく、医療検査用カセット内にも流入するため、薬液処理が一層効果的に行われる。
【0026】
乱流用突起を2以上の異なる方向に延設すると、ある乱流用突起と平行に薬液が流入したとしても、この薬液は他の乱流用突起と衝突して流路が乱されて医療検査用カセット内に流入するため、薬液処理が一層効果的に行われる。
【0027】
蓋及び/又はカセット本体を耐薬品性の透明材料とすると、作業中にカセット内部にある検体の状態を視認できるため作業効率が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明を好ましい実施例を示す図面に基づいて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されないことは云うまでもない。
本発明の医療検査用カセット1は、例えば図1〜図3に示すような、底板部2aに多数の透孔5が穿設され、上面が開放された方形の容器であるカセット本体2と、上板部3aに多数の透孔5が穿設され、前記カセット本体2の上面に着脱自在に取り付け可能である蓋3とからなる医療検査用カセット1に関するものであり、例えば図4及び図5に示すような、カセット本体2の底板部2aからはカセット本体2の内部を小室2gに仕切る仕切り壁2bが立設され、前記小室2gの底面は長辺の長さが短辺の長さの2倍以上の矩形状であることを特徴とするものである。
【0029】
本発明の医療検査用カセット1は、例えば図4,図5に示すように、かかるカセットの内部に仕切り壁2bが立設されて小室2gに区画され、小室2gの底面は長辺の長さが短辺の長さの2倍以上(図4では約8倍)の矩形状とされている。このような医療検査用カセット1を使用し、医療検査用カセット1の内部に細長くて撓みやすい検体Sを入れてアルコール処理、キシレン処理を行うと、検体Sが丸まったり曲ろうとしても小室を形成する壁によって強制的に阻止されて略直線状の姿勢を保持し、また、検体Sの端部が流勢に押し流されたとしても、この端部が仕切り壁2bや側壁と衝突するため、結局、検体Sが仕切り壁に沿って略真っ直ぐに伸びた状態が保たれる。従って、検体Sは折れ曲がったり丸まったりせず、重なりあった部分が生じないので、検体Sの表面に汚れが残ったりせず、薬液処理は適切に行われて好適な顕微鏡標本が作製でき、検査の信頼性を高めることができる。
【0030】
ここで、小室2gの底面における長辺の長さが短辺の長さの2倍未満であれば、上記した検体Sの姿勢保持効果が不十分となるため好ましくない。なお、好ましくは、長辺の長さが短辺の長さの4倍以上であり、更に好ましくは6倍以上である。上限は特に制限されないが、矩形状が余り細長くなると、検体の収納や取り出しが困難になるので、通常、20倍程度が好ましい。
【0031】
本発明において、医療検査用カセット1の内部を小室2gに区切るために、例えば図5,図6に示すように、カセット本体2の底板部2aから仕切り壁2bが立設される。なお、図5は図2のA−A断面図であるが、仕切り壁2bの真上で切断されているため、底板部2aと仕切り板2bが連続して記載されており、その境界が判りづらいため、破線で小室2gの形状を記載することにより、底板部2aと仕切り板2bの境界を示した。
この仕切り壁2bが延設される方向や長さ等は、小室2gが適切な形状となる限り、特に限定されないが、カセット本体2の長辺方向または短辺方向に延設されると、カセット1の内部が無駄なく小室2gに区画されて効率よく使用され、多数の小室2gが隙間なく形成されるため好ましい。また、図4に示すように、仕切り壁2bが短辺方向だけ、或いは長辺方向だけに延設されると(図4では長辺方向だけに延接されている)、長辺と短辺の比がより大きくなり、小室2gが長細く形成され、検体の姿勢保持効果が十分に発揮されるため更に好ましい。但し、小室2gの長辺の長さが短辺の長さの2倍以上となる限り、長辺方向に延設される仕切り板2bと短辺方向に延設される仕切り板2bを両方立設してもよく、この場合には形成される小室2gの数が多くなるので、多数の検体Sを同時に処理することができる。
【0032】
また、仕切り板2bを、例えば図4〜図6に示すように、カセットの長辺方向及び短辺方向に延設された桟6の上に立設すると、仕切り板2bが透孔5を塞がないため薬液などが小室2gに容易に流入し、薬液処理を短時間で適切に行うことができ、これにより検査の信頼性が高められる。
【0033】
仕切り壁2bの高さは、小室2g内に投入された検体Sが隣接する小室2gに移動しない程度であれば特に限定されず、例えば図6に示すように、小室2gの高さの半分以上であれば、小室2g内に収納した細長い検体Sの一端が仕切り壁2gを越えて隣の小室2gに移動する虞れがないため、検体Sを真っ直ぐに伸ばしたまま適切な薬液処理を行うことができる。
なお、仕切り壁2bの高さが小室2gの幅の約1.2倍を超えると、検体Sが小室2gに嵌り込んでしまい、薬液処理の終了後に検体Sを取り出しにくくなる傾向があるため、好ましくは小室2gの幅(短辺方向の長さ)の約1.2倍以下とする。
【0034】
本発明においては、例えば図6に示すように、さらに補助壁3bを設けることもできる。
補助壁3bは、蓋3の上板部3a裏面から垂設されており、医療検査用カセット1の内部を上部から区切る働きをする。また、この補助壁3bはカセット本体2に蓋3を取り付けたときに仕切り壁2bと近接するようになっており、これにより仕切り壁2bと補助壁3bが一連の壁状になり、検体Sが隣接する小室2gへ移動するのを防止する。この補助壁3bは仕切り壁2bを低く形成して検体Sを取り出しやすくした場合に特に有効であり、仕切り壁2bを低くしたとしても、その分補助壁3bを長くすればよい。
【0035】
補助壁3bの形状は、仕切り壁2bと協働して検体Sの移動を制限できるかぎり特に限定されないが、好ましくは、補助壁3bが仕切壁2bを両側から挟着するように設けられ、このようにすることにより、小室は確実に区画され、検体が隣の小室に移動するのを確実に防止することができる。また、図7〜図9に示すように、補助壁3bを小室2g内に嵌合するループ状とすることもできる。この場合、図6に示した通り、カセット本体2に蓋3を取り付けた際には補助壁3bが小室2g内全周に亘って嵌まり込み、両側に立設された仕切り壁2bに当接するので、小室2bは完全に区画される。これにより検体の移動を一層確実に防止できるとともに、カセット本体2に対する蓋3のがたつきを防止できるため、医療検査用カセット1の取り扱いが容易になる。
【0036】
本発明の医療検査用カセット1は、大量の検体Sを同時に薬液処理する場合には、複数の医療検査用カセット1を積み重ねるか、又は、横方向に並接して使用する。従って、カセット1を積み重ねたり並接した場合においても、隣接するカセット1の間に薬液が流入可能な間隙を形成させて、適切な薬液処理を行うために、間隙保持用突起7を設けるのが好ましい。
間隙保持用突起7の位置は特に限定されないが、カセット本体2の底板部2a裏面と蓋3の上板部3a表面の相対する位置に透孔5が穿設されない領域を設け、この領域に間隙保持用突起7を設けるのが好ましく、該領域がカセット本体2の底板部2a裏面の周縁部分及び蓋3の上板部3a表面の周縁部分に設けられた外周領域4であれば更に好ましい。なお、既に示した図1においては間隔保持突起7は外周領域4に突設されている。
【0037】
間隔保持用突起7は蓋3の表面側に設けても、カセット本体2の裏面側に設けてもよく、さらにその両方に設けてもよいが、例えば、蓋3の外周領域4に間隙保持用突起7を突設した場合、医療検査用カセット1を積み重ねたとしても間隔保持用突起7がカセット本体2の外周領域4に当接するため、カセット1間の間隙が適切に維持されるとともに、該カセット1同士が少々ずれて積み重ねられた場合でも、間隙保持用突起7が透孔5を塞がないため好ましい。
なお、間隙保持用突起7は桟6の部分に設けることもでき、更には、外周領域4と桟6の両方に設けることもできる。
【0038】
間隙保持用突起7の形状は、透孔5からの薬液の流入を妨げないように、透孔5に没入しないサイズ及び形状のものが好ましく、更に、最長部分の長さが透孔5の最長部分よりも長い、適当な高さの直方体状のものが好ましい。また、間隙保持用突起7の角が透孔5に引っ掛かっても容易に外すことができるように、角がアール処理されていればさらに好ましい。
ここで、間隙保持用突起7の最長部分とは、該突起7の底面における一点と他点の距離が最長となる場合においてこれらの点を結ぶ部分のことを云い、例えば該突起7が直方体の場合はその底面である長方形の対角線を指す。また、透孔5の最長部分とは透孔の底面における一点と他点の距離が最長となる場合においてこれらの点を結ぶ部分のことを云い、例えば透孔5が正方形である場合はその対角線、円形である場合はその直径を指す。
【0039】
具体的には、間隙保持用突起7の長さや幅は、カセット本体2の底板部2a及び蓋3の上板部3aに穿設された透孔5の形状や大きさによっても異なるが、例えば、透孔5が一辺の長さ2mm程度の正方形の場合、長さ2.5〜4.0mm程度、幅0.7〜1.5mm程度が好ましい。長さ、幅が上記より小さいと、隣接するカセット間で横ズレが生じた場合に、該間隙保持用突起7が透孔5内に没入してしまう虞れがあり、また、上記の長さより大きくなると、薬液の流れに支障を生じる場合がある。
【0040】
前記外周領域4に設ける間隙保持用突起7は、4〜6個程度を略等間隔に設けるのが好ましい。ここで、略等間隔とは、外周のうち一辺に全ての突起が設けられるようなことがないというほどの意味であり、厳密な意味での等間隔である必要はない。間隙保持用突起7の配置に偏りがある場合は、該突起7の間隔が狭くなる部分が生じ、この部分からの薬液流入が減少するため、検体を均一に薬液処理することが困難になる虞れがある。
またその数が3個以下であると、その配置方法によっては、該カセット間に横ズレが生じて間隙保持用突起7のうち一つが相対する外周領域4から外れただけで十分な間隙保持が出来なくなる虞れがある一方、7個以上であっても、間隙保持性がさほど向上しない上に、該間隙保持用突起の間隔が狭くなって薬液の流入量が減少するため、薬液処理の効率は該突起が6個以下のものと比較して悪化する場合がある。
【0041】
外周領域4の間隙保持用突起7は、長辺、短辺、長辺と短辺の両方、のいずれに設けてもよいが、対向する長辺の外周に沿って、それぞれ2〜3個設けるのが好ましい。対向する短辺に設けると、間隙保持用突起が占める割合が大きくなり、短辺方向からの薬液の流入に支障をきたす場合があるからである。
尚、一辺に設けられる間隙保持用突起7の長さの和は該長辺の長さのそれぞれ1/3以下である方が好ましい。1/3を超えると該突起が占める割合が大きくなり、該長辺側から流入する薬液の量が減少し、検体の均一な薬液処理が困難になる場合がある。
【0042】
また間隙保持用突起7の高さは、カセット1の大きさによっても異なるが、例えばカセット1の大きさが長辺30mm、短辺20mm、高さ6mm程度の場合、間隙保持用突起7の高さは0.2〜1.5mm程度が好ましい。
【0043】
本発明においては、例えば図10に示したように、カセット本体2の底板部2a裏面であってカセット本体2の小室2gの下方に相当する部分、及び/又は、蓋3の上板部3a表面であってカセット本体2の小室2gの上方に相当する部分に乱流用突起8を設けてもよい(図10では蓋3の側だけに設けられている)。この場合、積み重ねた医療検査用カセット1の間に生じる間隙に流入した薬液が乱流用突起8と衝突することにより乱流が生じ、このため該間隙を単に素通りするだけの薬液の量が減少して小室2g内に流入する有効な薬液の量が増大する。
なお、この乱流用突起8が高いほど生じる乱流も大きく、また前記間隙保持用突起7の高さと同じにすると外周領域4だけでなく、中央部でも隣接するカセット1を支持できるため、積み重ねたカセット1が大幅にずれた場合でもカセット1の間隙が適切に保たれるという利点がある。しかしながら、この場合、乱流用突起8の角が透孔5に引っ掛かりやすく、医療検査用カセット1が扱いにくくなるため、乱流用突起8の高さは間隙保持用突起7よりも小さいほうが好ましい。
【0044】
乱流用突起8の数については、隣接するカセット1の間隙に適切な乱流を生じさせ、各小室2g内に薬液を流入させるようにするため、各小室2g毎に1〜2個設けることが好ましい。
また、乱流用突起8の向きについては、その全てを同じ向きに配置することも出来るが、いずれの方向から薬液が流入しても乱流が生じやすくするために、2以上の異なる方向に乱流用突起8を延接することが好ましい。なお、略直交する2方向に乱流用突起8が延接された場合は、乱流が広い範囲に生じるため、少ない数で適切な乱流を生じさせることができる。既に示した図1においては、それぞれ長辺方向及び短辺方向、即ち直交する2方向に延接された乱流用突起8が示されている。
【0045】
また、本発明において、蓋3はカセット本体2に着脱自在に取り付け可能であるが、その構造は特に限定されず、例えば図5に示したように、蓋3の前方に設けられた係合舌片3dをカセット本体2の係合孔2dに挿入した上で、蓋3の後方に設けられた係合鉤3cをカセット本体2の鉤受け2cに係合させることにより、蓋3をカセット本体2に取り付けル構造が例示できる。
また、好ましくは図示したように、カセット本体2の上面と記録部2eの境目に空気抜き孔2fが穿設される。同様に、係合舌片3dにも空気抜き孔2fが設けられるのが好ましい(図2、図3)。特に、上記したように、斜面状の記録部2eを有する医療検査用カセット1は、薬液処理の際などに記録部2eの裏側の空間に空気が溜まってしまい、この部分だけ浮力が大きくなって医療検査用カセット1が傾いてしまうため、適切な処理ができなくなることがあるが、この空気抜き孔2fから記録部2eの裏側の空間に溜まった空気を抜くことにより浮力が解消され薬液処理の効率を高めることができる。
【0046】
本発明のカセット1の材料は、標本作成に使用する化学薬品に対して耐性を有する合成樹脂や金属が好ましく、例えば、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ステンレス等が挙げられる。また、カセット本体2を樹脂で、蓋3を金属で作ることもでき、更に、その逆も可能である。
【0047】
また、カセット本体2、蓋3のいずれかが、又はその両方が透明材料で作成されることにより、蓋3のみが透明材料からなる場合は蓋3の外側から、また、カセット本体2のみが透明材料からなる場合はカセット本体2(側壁又は底板部)の外側から、更に、カセット本体2と蓋3の両方が透明材料からなる場合は、カセット本体2及び蓋3の両方の外側から、内部の検体Sの状態を視認することができる。即ち、カセット1内部に収容した検体Sの状況(検体Sが折れ曲がったり丸まったりしているか否か、大きさ、個数、形状、色、カセット本体内での存在位置、濾紙とともに検体Sを収容した場合は、濾紙の位置、濾紙上の検体の方向等)を明確に視認することができ、顕微鏡標本作成の効率化、確実化を図るとともに、精度の高い検査結果を得ることができる。
【0048】
透明材料としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエステル(特にPET)樹脂が好適であり、とりわけ耐薬品性に優れ低コストという点からポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂が好適である。
【0049】
以上、好ましい実施例に基づいて本発明を説明したが、本発明は上記実施例に制限されないことは勿論である。
例えば、カセット本体2として、内部が長辺方向に延接された5枚の仕切り板2b及び短辺方向に延接された1枚の仕切り板2bが立設されたもの(図11参照)や、短辺方向に延接された5枚の仕切り板2bが立設されたもの(図12参照)を採用してもよい。
また、仕切り壁2bをやや低くして、その分補助壁3bを長くしたり、あるいは補助壁3bをループ状でなく、単なる板状としてもよい(図13参照)。
間隙保持用突起7や乱流用突起8は蓋3の表面側でなく、カセット本体2の裏面側に突設してもよいし(図14参照)、また、蓋3に設ける場合においても、これらのを全て1方向にそろえて設けたり、小室2gの上にそれぞれ乱流用突起8を設けてもよい(図15参照)。
更に、上記実施例で示した斜面状の記録部2eを有する医療検査用カセットのみならず、側面にミクロトームのアダプター係止部2hを備えた医療検査用カセットにも適用できることは云うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0050】
叙上のとおり、本発明の医療検査用カセットは、カセット本体の底板部からはカセット本体の内部を小室に仕切る仕切り壁が立設され、前記小室の底面は長辺の長さが短辺の長さの2倍以上の矩形であるため、細長く丸まったり曲りやすい検体を薬液処理する場合においても、検体が仕切り壁に沿って略真っ直ぐに伸ばされて略直線状の姿勢が保持され、薬液の流勢により検体の端部が押し流されたとしても検体が折れ曲がったり丸まったりせず、また、重なりあった部分がないので、薬液処理が短時間で均一且つ効率的に行われるとともに、検査の信頼性が飛躍的に高められる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】医療検査用カセットの一例を示す正面図である。
【図2】図1の平面図である。
【図3】図1の底面図である。
【図4】図1におけるカセット本体の平面図である。
【図5】図2のA−A断面図である。
【図6】図2のB−B断面図である。
【図7】図1における蓋の底面図である。
【図8】図1における蓋の正面図である。
【図9】図1における蓋の左側面図である。
【図10】図2のC−C断面図である。
【図11】カセット本体の他の例を示す平面図である。
【図12】カセット本体の更に他の例を示す平面図である。
【図13】医療検査用カセットの別の例を示す断面図である。
【図14】医療検査用カセットの更に別の例を示す正面図である。
【図15】蓋の更に別の例を示す平面図である。
【図16】従来の医療検査用カセットの一例を示す斜視図である。
【図17】図16の断面図である。
【図18】従来の医療検査用カセットの他の例を示す斜視図である。
【図19】図18の断面図である。
【図20】医療検査用カセットの使用方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0052】
1 医療検査用カセット
2 カセット本体
2a 底板部
2b 仕切り壁
2c 鉤受け
2d 係合孔
2e 記録部
2f 空気抜き孔
2g 小室
2h アダプター係止部
3 蓋
3a 上板部
3b 補助壁
3c 係合鉤
3d 係合舌片
4 外周領域
5 透孔
6 桟
7 間隙保持用突起
8 乱流用突起
S 検体
T トレイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底板部に多数の透孔が穿設され、上面が開放された方形の容器であるカセット本体と、上板部に多数の透孔が穿設され、前記カセット本体の上面に着脱自在に取り付け可能である蓋とからなる医療検査用カセットであって、
前記カセット本体の底板部からはカセット本体の内部を小室に仕切る仕切り壁が立設され、前記小室の底面は長辺の長さが短辺の長さの2倍以上の矩形状であることを特徴とする医療検査用カセット。
【請求項2】
仕切り壁はカセット本体の長辺方向または短辺方向に延設されることを特徴とする請求項1に記載の医療検査用カセット。
【請求項3】
カセット本体の底板部の個々の透孔は、カセットの長辺方向及び短辺方向に延設される直線状の桟で隔てられており、仕切り壁は桟の上に立設されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の医療検査用カセット。
【請求項4】
仕切り壁の高さは小室の高さの半分以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の医療検査用カセット。
【請求項5】
蓋の上板部裏面からは補助壁が垂設されており、カセット本体に蓋を取り付けると仕切り壁と補助壁が近接することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の医療検査用カセット。
【請求項6】
補助壁が小室内に嵌合するループ状であることを特徴とする請求項5に記載の医療検査用カセット。
【請求項7】
カセット本体の底板部裏面の周縁部分及び蓋の上板部表面の周縁部分には透孔が穿設されない外周領域が設けられ、この外周領域には間隙保持用突起が突設されていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の医療検査用カセット。
【請求項8】
間隙保持用突起の最長部分の長さは、カセット本体の底板部又は蓋の上板部に穿設された透孔の最長部分よりも長い寸法であることを特徴とする請求項7に記載の医療検査用カセット。
【請求項9】
間隙保持用突起は対向する二つの長辺の外周に沿って、それぞれ2〜3個設けられていることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の医療検査用カセット。
【請求項10】
カセット本体の底板部裏面であってカセット本体の小室の下方に相当する部分、及び/又は、蓋の上板部表面であってカセット本体の小室の上方に相当する部分に、横長の乱流用突起が突設されていることを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の医療検査用カセット。
【請求項11】
乱流用突起が2以上の異なる方向に延設されていることを特徴とする請求項10に記載の医療検査用カセット。
【請求項12】
蓋及び/又はカセット本体が耐薬品性の透明材料からなることを特徴とする請求項1乃至請求項11のいずれか記載の医療検査用カセット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2008−304242(P2008−304242A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−150069(P2007−150069)
【出願日】平成19年6月6日(2007.6.6)
【出願人】(591242450)村角工業株式会社 (38)
【Fターム(参考)】