説明

医療検査用カセット

【課題】積層、並接したカセットに相当大きなずれが生じても、積み重ねられた上下のカセット間に又は並接された隣り同士のカセット間に均一な空間部を形成・維持することができ、薬液の透過性、拡散性、及び検体との接触性が高められ、均一且つ効率的な薬液処理が可能となり、検査精度を向上させることができる医療検査用カセットを提供する。
【解決手段】耐薬品性材料からなるカセット本体1と板状体の蓋2とを具備してなり、前記カセット本体1が上面を開放し、検体を収容し得る方形の容器で、多数の透孔3を有し、前記蓋2がカセット本体1に着脱自在に取り付けられ、多数の透孔3を有してなる医療検査用カセットにおいて、前記蓋2の表面の縦、横の中心線にわたって空間部形成用突起14、15を設けるとともに、空間部形成用突起14、15により区画される4つの領域内にそれぞれ補助突起21を設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療検査用顕微鏡標本の作製に使用する医療検査用カセットに関し、更に詳しくは、蓋の表面に空間部形成用突起を設け、カセットを積み重ねて、又は並接して薬液処理を施す際の薬液の透過性を改良した医療検査用カセットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種のカセットは、例えば、図7に示すように、耐薬品性合成樹脂からなるカセット本体1と蓋2とを具備してなる。カセット本体1は、上面を開放した方形の容器で、底部に多数の透孔3を有し、短辺側の一側壁の外側に底部に向かって末広がり状に傾斜した板状の記録部4を設け、その内側に係止溝5を有し、他の側壁の外側に係止部6を有する。
【0003】
蓋2は、着脱可能な板状体で、板面に多数の透孔7を有し、裏面の外周面に沿ってカセット本体内に嵌合するリブ8を有し、短辺側の一方側には前記係止溝5の記録部4の裏面に沿って嵌入係合する傾斜状係止片9を有し、短辺側の他方側にはカセット本体1よりも僅かに大き目の突縁部10を有し、係合部6と係合する係止片11を有している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
上記カセットを使用して顕微鏡標本を作製するには、まず、採取した検体12をカセット本体1内に収容して蓋2を取り付け、記録部4に被検者の氏名等を記録しておく。蓋2の傾斜状係止片9は、カセット本体1の係止溝5 に係合し、また係止片11はカセット本体1の係止部6に係合して蓋2を固定する。
【0005】
続いて、透孔7、3を通じて、検体12を水洗し、次いでアルコールにより検体12の水分を除去し、キシレンにより後述する液状パラフィンとの親和性を付与する。
次に、図示しないが、検体12を包埋したパラフィンがカセット本体1の底部に付着してなるカセットブロックを得、ミクロトームでパラフィンの検体12を包埋した部分をスライスし、スライスした薄片に染色、その他の所定の処理を施すことにより顕微鏡標本を得るのである。
【0006】
しかしながら、カセットは、通常、複数個を積み重ねたり並接して上記した薬液処理がなされるが、図7に示したような従来のカセットの場合は、上部又は隣のカセットの底面と下部又は隣のカセットの蓋の表面とが密着するため、上部又は隣のカセットの蓋2の透孔7及びカセット本体1の透孔3を透過した薬液がそのまま下部又は隣のカセットの蓋2の透孔7からカセット本体1内に流入して検体12を処理した後、カセット本体1の透孔3から更に下部又は隣のカセットの蓋2の透孔7よりカセット本体1内に流入するという操作を繰り返すことになり、したがって、薬液の透過は略一方方向のみとなり、薬液処理は必ずしも十分に効率的であるとは云い難い。
【0007】
上記問題を解決するために、図8に示すように、蓋の表面の外側(図8では四隅)に識別表示13を突設し、カセットを積み重ねた場合や並接した場合に、該識別表示13によりカセット間に空間部を形成させ、この空間部からも薬液をカセット内に流入させることにより、薬液の透過性を改善したカセットが報告されているが、上記の如く、蓋2の外側のみに識別表示13のような突起を設けた場合は、図9〜11に示すように、積み重ねたカセットが少しずれただけで、上位カセットの上下又は左右のいずれかの側が下位カセットの突起上から滑落し、空間部形成の機能を果たすことができず、従って、薬液透過性は低下することが避けられない。また、脱落している側と脱落していない側とで空間部Sの大きさが異なるために薬液透過量に不均一が生じ、その結果、均一な薬液処理が不可能となるという問題をはらんでいる。さらに、これらの問題は、カセットを並接して薬液処理を施す場合にも生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−5800号公報(図29、図1参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の如き欠点を解消し、積み重ねたカセットや並接したカセットがずれてもカセットとカセットとの間に空間部が形成され、一方方向からのみならず、積み重ねた又は並接したカセットとカセットとの間からも薬液を流入させることにより、薬液処理が均一で且つ処理効率が改善された医療検査用カセットを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る発明は、耐薬品性材料からなるカセット本体と板状体の蓋とを具備してなり、前記カセット本体が上面を開放し、検体を収容し得る方形の容器で、多数の透孔を有し、前記蓋がカセット本体に着脱自在に取り付けられ、多数の透孔を有してなる医療検査用カセットにおいて、前記蓋の表面の縦、横の中心線にわたって空間部形成用突起を設けるとともに、空間部形成用突起により区画される4つの領域内にそれぞれ補助突起を設けたことを特徴とする医療検査用カセットを内容とする。
【0011】
本発明の請求項2に係る発明は、空間部形成用突起を断続的に設けた請求項1記載の医療検査用カセットである。
【0012】
本発明の請求項3に係る発明は、カセット本体が仕切璧により複数個の小室に区画されている請求項1又は2記載の医療検査用カセットである。
【0013】
本究明の請求項4に係る発明は、蓋及び/又はカセット本体が耐薬品性の透明材料からなる請求項1〜3のいずれか1項に記載の医療検査用カセットである。
【0014】
本究明の請求項5に係る発明は、透明材料がポリプロピレン樹脂である請求項1〜4のいずれか1項に記載の医療検査用カセットである。
【0015】
本究明の請求項6に係る発明は、透明材料がポリエステル樹脂である請求項1〜5のいずれか1項に記載の医療検査用カセットである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の医療検査用カセットによれば、積み重ねた場合や並接した場合において、上下のカセットに例えば50%近い大きなずれが生じても、蓋に設けた空間部形成用突起によりカセットとカセットとの間に均一な空間部(スペース)が形成・維持されるので、薬液処理の際の薬液の透過性、拡散性、及び検体との接触性が飛躍的に高められ均一、且つ効率的な薬液処理が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1(a)は本発明の実施例1におけるカセットを示す斜視図であり、(b)は本発明の実施例2におけるカセットを示す斜視図である。
【図2】図2は実施例1のカセットの長さ方向の断面図である。
【図3】図3は同カセットが長さ方向にずれた状態を示す側面図である。
【図4】図4は同カセットが長さ方向に逆にずれた状態を示す側面図である。
【図5】図5は同カセットが巾方向にずれた状態を示す側面図である。
【図6】図6は同カセットが長さ方向、巾方向、斜め方向にずれた状態を上面から示す図面である。
【図7】図7は従来のカセットの一例を示す断面図である。
【図8】図8は従来のカセットの他の例を示す斜視図である。
【図9】図9は同カセットが長さ方向にずれた状態を示す側面図である。
【図10】図10は同カセットが逆の長さ方向にずれた状態を示す側面図である。
【図11】図11は同カセットが巾方向にずれた状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、耐薬品性材料からなるカセット本体と蓋とを具備してなり、カセット本体が上面を開放し、検体を収容し得る方形の容器で、多数の透孔を有し、前記蓋がカセット本体に着脱自在に取り付けられ、多数の透孔を有してなる医療検査用カセットにおいて、前記蓋の表面の縦、横の中心線にわたって空間部形成用突起を設けるとともに、空間部形成用突起により区画される4つの領域内にそれぞれ補助突起を設けたことを特徴とするものである。そして上記空間部形成用突起及び補助突起は、カセットを積み重ねたり並接した場合において、カセットとカセットとの間に薬液を透過させるための空間部を形成させるためのものである。
【0019】
本発明において、空間部形成用突起は板状体の蓋の表面の縦、横の中心線にわたって交叉状に設けられる。また、空間部形成用突起により区画される4つの領域内には、それぞれ補助突起が設けられる。
【0020】
空間部形成用突起は、連続的に設けても、断続的に設けてもよいが、蓋の表面に平行な方向の薬液の流動性を妨げない観点からは、断続的に設けるのが好ましい。
【0021】
また、空間部形状用突起は、蓋の透孔を塞がないように透孔と透孔との間に設けるのが好ましい。空間部形成用突起は、連続的に設ける場合は、断面が半円形、半楕円形、半矩形、半多角形等のロッド状のものでよく、また、断続的に設ける場合は、半球状、半楕円球状、矩形柱状等の突起を適宜間隔を置いて列設すればよい。
【0022】
空間部形成用突起及び補助突起の高さは好ましくは、少なくとも0.3mmの高さ、より好ましくは、少なくとも0.5mmの高さで設けられる。空間部形成用突起が0.3mmよりも低くなると、カセットとカセットとの間に形成される空間部が小さくなり薬液の透過性の改善効果が不十分となる。尚、空間部形成用突起の高さの上限は、カセットの大きさにより一概には規定できないが、余り高くなると積み重ねたり並接した場合に場所をとり、処理効率が低下するとともに、取り扱い性も悪くなる。従って、10mm程度が好ましい。
【0023】
本発明のカセットの材料は、標本作成に使用する化学薬品に対して耐性を有する合成樹脂や金属が好ましく、例えば、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリプロピレン、ステンレス等が挙げられる。
また、カセット本体を樹脂で作り、蓋を金属で作ることもでき、更に、その逆も可能である。
【0024】
また、カセット本体、蓋のいずれかが、又はその両方が透明材料で作成されることにより、蓋のみが透明材料からなる場合は蓋の外側から、また、カセット本体のみが透明材料からなる場合は、カセット本体(側壁又は底部)の外側から、更に、カセット本体と蓋の両方が透明材料からなる場合は、カセット本体及び蓋の両方の外側から、内部の検体の状況を視認することができる。即ち、カセット内部に収容した検体の状況(大きさ、個数、形状、色、カセット本体内での存在位置、濾紙とともに検体を収容した場合は、濾紙の位置、濾紙上の検体の方向等)を明確に視認することができ、顕微鏡標本作成の効率化、確実化を図るとともに、精度の高い検査結果を得ることができる。
【0025】
透明材料としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエステル(特にPET)樹脂が好適であり、とりわけ耐薬品性に優れ低コストという点からポリプロピレン樹脂が好適である。
【0026】
さらにまた、カセット本体を仕切壁で区画して複数個の小室にすることにより、同時に複数個の検体が処理されるので極めて効率的である。しかし、前記したように、既存のミクロトーム等の装置を使用する場合には、カセットの大きさに自ら制約があり、従って、複数個の小室を設ける場合は、2〜9個程度が好ましい。9個を越えると、小室のサイズが小さくなり過ぎ、収容、処理する検体のサイズも制限され不都合な場合がある。
【0027】
以下、本発明の実施例を示す図面に基づいて詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されないことは云うまでもない。
【実施例】
【0028】
実施例1
実施例1の医療検査用カセットは、図1(a)、図2に示すように、耐薬品性材料からなるカセット本体1と板状体の蓋2とを具備してなり、カセット本体1が、上面を開放した、検体を収容し得る方形の容器で、多数の透孔3を有し、短辺側の一側壁の外側に底部に向かって末広がり状に傾斜した板状の記録部4を備えるとともに、その内側に係止溝5を有し、他の側壁の外側に係止部6を有してなる。
【0029】
一方、蓋2は多数の透孔7を有し、裏面の外周面に沿ってカセット本体1内に嵌合するリブ8を有し、短辺側の一方側には前記係止溝5に記録部4の裏面に沿って嵌入係合する傾斜状係止片9を、他方側にはカセット本体1よりも僅かに大き目の突縁部10を有し、前記係止部6と係合する係止片11を有してなる。
【0030】
さらに、蓋2の表面には、縦方向の中心線付近の透孔7のリブ上に空間部形成用突起14が、また、横方向の中心線付近の透孔7のリブ上に、前記突起14に十字状に空間部形成用突起15が断続的に設けられ、全体として交叉状の空間部形成用突起を形成しているとともに、十字状の空間部形成用突起14、15により区画される4つの領域内に、それぞれ1個の補助突起21を設けている。
【0031】
また、図2に示したように、カセット本体1の内部には採取した検体を区分して入れられるように、2条の仕切壁16が立設され、3個の小室が形成されている。必要に応じ、さらに該2条の仕切壁16と直交するようにカセット本体1の長辺方向に1条又は2条の横仕切壁17を設けて小室を6個又は9個設けることができる。
【0032】
このように 蓋2の表面の縦方向、横方向の中心線に沿って、十字状を形成するように空間部形成用突起14、15を交叉状に設けることにより、図3〜図6に示すように、積み重ねた又は並接したカセットが長辺方向、短辺方向にずれたとしても、カセットとカセットとの間には交叉する空間部形成用突起14、15及び補助突起21が介在することにより、該突起14、15及び補助突起21の高さに相当する空間部Sが形成されるため、従来のカセットのように縦方向からのみの一方方向や不均一なものではなく、横方向からの均一な薬液の流入・透過が可能となり、検体の薬液処理効果を均一且つ効率的にすることが可能となる。
尚、図6において、長辺方向、短辺方向、斜め方向のずれを、それぞれ一点鎖線のA1、B1、C1、D1、波線のA2、B2、C2、D2、二点鎖線のA3、B3、C3、D3で示す。
以上のように、空間部形成用突起14、15を、蓋2の縦、横の中心線にわたってに交叉状に設けるとともに、空間部形成用突起により区画される4つの領域内にそれぞれ補助突起21を設けることにより、長辺方向、短辺方向、斜め方向のいずれの方向に50%近くずれたとしてもカセット間では均一な空間部Sが形成確保され、均一な薬液の流入・透過が可能となり、均一且つ効率的に薬液処理がなされ、検査精度が高められる。
【0033】
実施例2
実施例2の医療検査用カセットは、図1(b)に示すように、補助突起21の向きが実施例1と90度異なっているが、作用効果は殆ど同じである。
【0034】
本発明は医療検査用カセットの板状体の蓋の表面の少なくとも縦、横の中央部に空間部形成用突起を設けるとともに、空間部形成用突起により区画される4つの領域内にそれぞれ補助突起21を設けたことを特徴とし、とりわけ、空間部形成用突起を断続的に設けたことを特徴とするものであるが、本発明は上記実施例で示した如き形状のカセットに限られず、蓋とカセット本体とからなる全てのカセットに適用可能であることは云うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明に係る医療検査用カセットは、積層、並接したカセットに相当大きなずれが生じても、板状体の蓋の上面に設けた空間部形成用突起からずれ落ちることがなく、従って、積み重ねられた上下のカセット間に又は並接された隣り同士のカセット間に均一な空間部を形成・維持することができ、薬液の透過性、拡散性、及び検体との接触性が飛躍的に高められ、均一且つ効率的な薬液処理が可能となり、検査精度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0036】
1 カセット本体
2 蓋
3 透孔
4 記録部
5 係止溝
6 係止部
7 透孔
8 リブ
9 傾斜状係止片
10 突縁部
11 係止片
12 検体
13 識別表示
14 空間部形成用突起
15 空間部形成用突起
16 仕切壁
17 横仕切壁
21 補助突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐薬品性材料からなるカセット本体と板状体の蓋とを具備してなり、前記カセット本体が上面を開放し、検体を収容し得る方形の容器で、多数の透孔を有し、前記蓋がカセット本体に着脱自在に取り付けられ、多数の透孔を有してなる医療検査用カセットにおいて、前記蓋の表面の縦、横の中心線にわたって空間部形成用突起を設けるとともに、空間部形成用突起により区画される4つの領域内にそれぞれ補助突起を設けたことを特徴とする医療検査用カセット。
【請求項2】
空間部形成用突起を断続的に設けた請求項1記載の医療検査用カセット。
【請求項3】
カセット本体が仕切璧により複数個の小室に区画されている請求項1又は2記載の医療検査用カセット。
【請求項4】
蓋及び/又はカセット本体が耐薬品性の透明材料からなる請求項1〜3のいずれか1項に記載の医療検査用カセット。
【請求項5】
透明材料がポリプロピレン樹脂である請求項1〜4のいずれか1項に記載の医療検査用カセット。
【請求項6】
透明材料がポリエステル樹脂である請求項1〜5のいずれか1項に記載の医療検査用カセット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−180748(P2009−180748A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−121708(P2009−121708)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【分割の表示】特願2003−331187(P2003−331187)の分割
【原出願日】平成15年9月24日(2003.9.24)
【出願人】(591242450)村角工業株式会社 (38)
【Fターム(参考)】