説明

医療用ケーブル

【課題】 粉末状潤滑材の不存在下でも、相手部材の材質の如何にかかわらず安定した滑り特性を呈する医療用ケーブルを提供する。
【解決手段】フッ素樹脂シース層の外周面を摩擦係数が可及的に低減された状態にもたらすことにより達成される。より具体的には、シールド層の外周面を凹凸状に形成し、この凹凸状の起伏に沿ってフッ素樹脂シース層を配することにより、滑り性が格段に改善された医療用ケーブルが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑り特性の改善された医療用ケーブルに関する。さらに詳しくは、本発明は、滑り特性が改善され、特に内視鏡などに適用される医療用ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡などに適用される医療用ケーブルの最外層(シース層)は通常、滑り性を有するフッ素樹脂で構成される。このケーブルは、例えば、シリコーンゴム被覆の光ファイバやフッ素樹脂からなる薬液搬送用チューブなどと一緒に柔軟な外套管に挿入されて供されるが、その際、ケーブル外周面の滑り性がしばしば阻害されるという問題が生じる。すなわち、該医療用ケーブルは、上記外套管内で接触する相手部材の材質の影響を受けて、その滑り性が低下する結果、該外套管内の内部での屈曲挙動などの全体運動が阻害されるという問題である。この傾向は、相手部材が特に滑り性に欠けたシリコーンゴムの場合、特に顕著になる。
【0003】
滑り性の調整に際しては、タルクに代表される粉末状潤滑材を部材間に介在させることが考えられる。しかし、この潤滑材は粉末状であるため、該外套管の中で偏りが生じ、よって滑り特性向上効果は部分的にしか得られない、という問題がある。他方、フッ素樹脂自体の滑り性を向上する方策として、フッ素樹脂に表面改質用充填材を添加することが知られている。しかし、この方策では、相手部材が滑り性に欠けたシリコーンゴム等の被覆体であるときは、十分に対応しきれず、該被覆体の断線が起こりやすくなる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明の課題は、上記の粉末状潤滑材の不存在下でも、相手部材の材質の如何にかかわらず安定した滑り特性を呈する医療用ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、上記の課題は、フッ素樹脂シース層の外周面を摩擦係数が可及的に低減された状態にもたらすことにより達成される。より具体的には、本発明によれば、シールド層の外周面を凹凸状に形成し、この凹凸状の起伏に沿ってフッ素樹脂シース層を配することにより、滑り性が格段に改善された医療用ケーブルが提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明の医療用ケーブルにあっては、以下のような顕著な効果が奏される。
a.フッ素樹脂シース層の外周面が格段に低い摩擦係数を呈するので、相手部材の材質に影響されることなく、これら部材との間で円滑な接触状態が確保される。
b.外套管内で、相手部材と密接した状態で全体運動する際にも、相手部材の断線等による破損が防止される。
c.フッ素樹脂シース層の外周面全体が均一な滑り特性を有するので、粉末状の潤滑材を使用した場合に見られる“偏り”がなく、全体的に均一な滑り特性の向上効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の医療用ケーブルについて、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係る医療用ケーブルの一例を模式的に示す平面図である。
図2は、図1の医療用ケーブル中のシールド層が金属素線群からなる編組である場合を模式的に示す平面図である。
図3は、図2のB−B線に沿った金属素線群配列の一例を示す拡大断面図である。
図4は、図1のA―A線に沿ったシールド層(図3)とフッ素樹脂シース層の状態を示す拡大断面図である。
図5は、本発明の医療用ケーブルおよび比較用の医療用ケーブルの滑り特性を示すグラフである。
【0008】
図1において、(1)は凹凸状外周面を呈するフッ素樹脂シース層(以下、“シース層”と略記する。)である。該凹凸状外周面は、凹部(D)と凸部(P)とが格子状に配されながら形成されている。図2には、図1のシース層(1)を剥ぎ取って、金属素線群からなるシールド層(2)を露出させた状態が示されている。この例では、シールド層(2)は金属素線群からなる編組構造であり、その外周面は、図1の凹凸面に対応して形成されている。すなわち、図2の凹部(D1)および凸部(P1)は、それぞれに図1の凹部(D)および凸部(P)に対応している。したがって、この凹凸状外周面のシールド層(2)を膜厚が一定のシースで被覆するとき、該シースはシールド層(2)の凹凸状起伏に沿って被覆され、その結果、凹凸状外周面を呈するシース層(1)が得られる。このシース層(1)の膜厚は、一般に0.05mm〜2.0mmの範囲から適宜採択される。
【0009】
本発明において、外周面が凹凸状のシールド層(2)を得るには、編組や横巻き方式において、少なくとも2種以上の、断面積を異にする金属素線(以下、“素線”と略記する。)を使用すればよい。編組を適用する際の素線配列の一例が、図3に示されている。この図3は、図2のB−B線に沿った拡大断面図であり、ここでは、素線(3a)〜(3f)からなる素線群(3)と、該素線より直径の大きい素線(4a)〜(4c)からなる素線群(4)とが交互に配列されて編組構造とされる。この場合、素線群(4)の外周面が凸部(P1)を形成し、素線群(3)または(4)と交わって配列されている素線群(S)が凹部(D1)を形成する。素線群(S)は素線群(3)または素線群(4)のいずれかである。ここで、凹部(D1)の深さ(d1)は、0.005mm〜0.1mmの範囲で調整すればよい。また、凹部(D1)または凸部(P1)の長さ(L1)は異なっていても同じでもよく、0.1mm〜5.0mmの範囲で調整すればよい。さらに、シールド層(2)自体の厚みは、一般に0.02mm〜1.3mmの範囲で適宜設定すればよい。
【0010】
このほか、厚さ、すなわち短軸長さの異なる扁平状素線を用いても、凹凸状のシールド層外周面が得られる。この場合は、長軸が凹部長さ(Ll)に相当する扁平状素線と、該素線より厚みが大きく且つ長軸が凸部長さ(Ll)に相当する扁平状素線とを交互に配列すればよい。
【0011】
さらに、上記の編組に替えて、横巻方式を採用して、外周面が凹凸状のシールド層(2)を得ることもできる。この場合は、外径が異なる素線を交互に並べて必要本数を引き揃え、それを横巻きすればよい。
【0012】
なお、図3について、補足すると、医療用ケーブル自体の断面は、実質的に円形であるので、図3に示した素線群の形状は、実際には弧状である。このことは、以下の図4についても同様である。
【0013】
図4には、図1のA―A線に沿ったシールド層(2)とシース層(1)の断面が示されている。さらに言えば、この図4は、一定の膜厚のシース層(1)を、図3のシールド層(2)の外周面の凹凸状の起伏に沿って配された状態を示している。
【0014】
以上の図1〜図4からも明らかなように、本発明の特徴とするところは、シールド層(2)の外周面の凹凸状態をそのままシース層(1)の外周面に反映させることにより、滑り性
の改善された医療用ケーブルを実現したことに在る。
【0015】
本発明において、シース層(1)を構成するフッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロ−エチレン−プロピレン(FEP)、およびエチレン−テトラフルオロエチレン(ETFE)等が挙げられるが、最終用途に応じて一連のフッ素樹脂群から適宜選択すればよい。
【0016】
上述のフッ素樹脂には、表面改質用充填材が添加されていてもよい。該充填材としては、カーボン、グラファイト、グラスファイバー、ブロンズ、二硫化モリブデン、ポリイミド、さらには芳香族ポリエステル等が挙げられる。これらの充填材は、相手部材の材質ないしは表面特性に応じて適宜選択すればよい。その添加量は、フッ素樹脂と充填材との合計量に対して、1〜20%程度であればよい。このような充填材は、フッ素樹脂シース層(1)の滑り性、特に各凸部(P)の滑り性を向上させる。したがって、このミクロな滑り特性が、シース(1)の外表面全体を凹凸状に因る滑り特性に加味されて、医療用ケーブル自体の滑り特性がさらに向上する。
【0017】
シールド層(2)を構成する素線としては、スズメッキ軟銅線、スズメッキ銅合金線、銀メッキ軟銅線、あるいはステンレス線等が好ましく採用される。また、シールド層(2)の内側に配するコア線については、電線、同軸ケーブル、チューブなどを最終用途に応じて単独または組み合わせて適宜配すればよい。該コア線を複数本使用する際には、それら複数本を押えテープで束ねてからシールド層(2)を適用してもよい。押えテープとしては、紙、フッ素樹脂、ポリエステル、あるいは銅ポリエステル等のテープが好ましく採用される。これらのテープ厚みは、0.003mm〜0.3mmの範囲から適宜採択される。
【0018】
次に、図1(及び図4)に示した医療用ケーブルの製造方法の一例について述べる。先ず、最終用途に応じたコア線を選択する。コア線を複数本用いる際には、これらを撚り機に掛けて所望の撚り構造に束ねる。次いで、編組シールド機にて、素線径の異なる2種のシールド素線を、図3に示すように、交互に重なる形状となるように編組して、外周面が凹凸状のシールド層(2)を形成する。最後に、このシールド層(2)の外周面に、フッ素樹脂をその膜厚が一定になるように押出し被覆する。これにより、凹凸状外観を呈するシース層(1)を有する医療用ケーブルが得られる。このとき、シールド素線群(3)、およびシールド素線群(4)の各本数および太さについては、得ようとする滑り特性との関係で適宜調整すればよい。編組条件としては、8/6の編組構成(1錘辺りの素線数6本、打込本数8本)で1本組織、16/3の編組構成(1錘辺りの素線数3本、打込本数16本)で2本組織等が挙げられるが、素線径、編組密度、編組角度等によりその構成を適宜調整すればよい。
【実施例】
【0019】
[実施例1]
先ず、コア線としてAWG40の導体を有する外径が0.6mmの被覆電線3本を準備し、これらを撚り機にて撚りピッチ20mmとなるように撚り合わせた。これらの電線の被覆材はPFAである。次に、シールド素線として、φ0.03のスズメッキ銅合金線を6本(図3、図4の(3a)〜(3f)および(S)に相当)、およびφ0.05のスズメッキ軟銅線を3本(図3、図4の(4a〜(4c)および(S)に相当)を用意し、これらを、編組シールド機を使って同図に示した配置となるように編組してシールド層(2)を形成した。このときのシールド層(2)の厚さは約0.06mm〜0.10mm、凹部深さ(d1)は約0.02mm、凹部及び凸部長さ(l1)は約0.15mm〜0.18mmであった。
最後に、上記のシールド層(2)の外周にPFA樹脂を押出被覆して厚さ約0.1mmのシース層(1)を形成し、外径が約1.78mmの医療用ケーブルを得た。
【0020】
[実施例2]
実施例1において、カーボン(表面改質用充填材)を5%添加したPFA樹脂を押出被覆する以外は同様の操作を繰り返して、外径が約1.78mmの医療用ケーブルを得た。
【0021】
[比較例1]
実施例1において、シールド素線をφ0.05のスズメッキ軟銅線(図3の(4a)〜(4c)使い)のみとして、厚さ0.125mmとなるようにシールド層(2)を形成する以外は同様の操作を繰り返して、外径が約1.78mmの医療用ケーブルを作成した。
【0022】
[比較例2]
比較例1において、カーボン(表面改質用充填材)を5%添加したPFA樹脂を用いる以外は同様の操作を繰り返して、外径が約1.78mmの医療用ケーブルを作成した。
【0023】
このようにして得られた各医療用ケーブルの滑り特性を、以下の評価方法にて評価した。
【0024】
先ず、実施例1および実施例2並びに比較例1および比較例2の各医療用ケーブルの250mmと、内径が1.7mmで膜厚が0.4mmのシリコーンゴムチューブ30mmを用意する。該シリコーンゴムチューブを拡径した後、各医療用ケーブルの先端から20mm以降に被覆し、4種の試験サンプルを作成した。
【0025】
次に、引抜試験機(SHIMADZU AGS−100A)を使って、各試験サンプルのシリコーンゴム製チューブを引抜く際の引抜強度を測定し、この測定値を医療用ケーブルの滑り特性の目安とした。該チューブ引抜条件は、引抜速度100mm/minで、移動距離100mmとした。ここで、医療用ケーブルの引抜き強度が0.28kgfであれば、該ケーブルの滑り特性は相手部材の材質に影響されることはないことが実験的に確認されている。
【0026】
評価結果は図5のグラフに示されている。このグラフから、以下のことが明らかになる。実施例1と比較例1、さらには実施例2と比較例2とを比べると、各実施例での引き抜き強度は、対応する比較例のおよそ半分で、しかも0.28kgf以下に低減されている。このような低減効果は、基本的に、シールド層(2)の凹凸状外表面に負うものである。これにより、ケーブル自体の滑り性が向上するので、粉末状の潤滑材を使用した場合に見られる“偏り”が無く、均一な滑り性向上の効果が得られる。さらに、表面改質用充填材を含むフッ素樹脂をシース層に使用すれば、その分だけ、滑り性が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の医療用ケーブルは、格段に向上した滑り特性を有するので、特に滑り性の要求が厳しい全ての多芯ケーブルタイプに幅広く利用される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る医療用ケーブルの一例を模式的に示す平面図。
【図2】図1の医療用ケーブル中のシールド層が金属素線群からなる編組である場合を模式的に示す平面図。
【図3】図2のB−B線に沿った素線群配列の一例を示す拡大断面図。
【図4】図1のA−A線に沿ったシールド層(図3)とシース層の状態を示す拡大断面図。
【図5】本発明の医療用ケーブルおよび比較用の医療用ケーブルの滑り特性を示すグラフ。
【符号の説明】
【0029】
1 シース層
2 シールド層
3a〜3f シールド素線
3 シールド素線(3a)〜(3f)からなるシールド素線群
4a〜4c シールド素線(3a)〜(3f)よりも太径のシールド素線
4 シールド素線(4a)〜(4c)からなるシールド素線群
S 素線群(3)または(4)と交わって配列されている素線群
D シース層外周面の凹部
P シース層外周面の凸部
D1 シールド層外周面の凹部
P1 シールド層外周面の凸部
d1 シールド層外表面の凹部深さ
L1 凹部または凸部の長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア線と、該コア線の外周に配されたシールド層と、さらに該シールド層の外周に配されたフッ素樹脂シース層とを含む医療用ケーブルにおいて、該シールド層の外周面は凹凸状に形成され、そして、この凹凸状外周面に沿った状態でフッ素樹脂シース層が配されていることを特徴とする医療用ケーブル。
【請求項2】
該シールド層外表面の凹部の深さ(d1)が0.005mm〜0.1mmである請求項1に記載の医療用ケーブル。
【請求項3】
該シールド層外表面の凹部の長さ(L1)が0.1mm〜5.0mmである請求項1または2に記載の医療用ケーブル。
【請求項4】
該シールド層が互いに径または厚みの異なる金属素線からなる編組である請求項1〜3のいずれかに記載の医療用ケーブル。
【請求項5】
該フッ素樹脂が、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロアルコキシアルカン、パーフルオロ−エチレン−プロピレン、またはエチレン−テトラフルオロエチレンからなる請求項1〜4のいずれかに記載の医療用ケーブル。
【請求項6】
該シース層が、表面改質用充填材を含む請求項1〜5のいずれかに記載の医療用ケーブル。
【請求項7】
該表面改質用充填材が、カーボン、グラファイト、グラスファイバー、ブロンズ、二硫化モリブデン、ポリイミド、または芳香族ポリエステルである請求項1〜6のいずれかに記載の医療用ケーブル。
【請求項8】
該表面改質用充填材の含有量が1%〜20%である請求項1〜7のいずれかに記載の医療用ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−252666(P2007−252666A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−81682(P2006−81682)
【出願日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(000226932)日星電気株式会社 (98)
【Fターム(参考)】