説明

医療用チューブおよび医療用カテーテル

【課題】 薄肉・柔軟で、かつ、優れた耐キンク性および引張強度を両立した医療用チューブ等を提供する。
【解決手段】 シャフトチューブ19における3つの層(11・12・13)では、隣り合う2つの層が複層となって、残りの層に対してずれるようになっており、ずれる層同士にて、一方層に対して他方層がずれるために要する荷重を第1荷重とし、ずれる界面を境にして、吸引ルーメン15から乖離した側に位置する単層または複層の破断に要する荷重を第2荷重とすると、第2荷重のほうが、第1荷重よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用チューブ、および、その医療用チューブを含む医療用カテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
経皮的に血管内に挿入したカテーテルが、脳、心臓、または、腹部等の臓器に導かれ、そのカテーテルを通じて、治療薬、塞栓物質、または造影剤等が投与あるいは注入されたり、血栓等が吸引されたりする医療行為は、従来から行われている。近年では、医学の進歩により、カテーテルを通じて、細い末梢血管に対して、治療薬、塞栓物質、または造影剤等を注入したり、血栓等を吸引したりすることが必要とされており、カテーテルには、様々な操作性が求められている。
【0003】
この操作性としては、例えば、術者の押込み力をカテーテルの先端まで確実に伝達する押込み性(プッシャビリティー)、細く屈曲した末梢血管への到達性、および、血管の屈曲部または湾曲部でもカテーテルが折れ曲がりを生じない耐キンク性等が、挙げられる。そして、耐キンク性またはプッシャビリティーが確保されるために、カテーテルに対し、編組構造またはコイル構造を有する補強層が含まれることがある。
【0004】
また、コイル構造は、その優れた耐キンク性または高屈曲時の内腔維持性により、特に、カテーテル先端側における柔軟部で、それら特性を発揮することが確認されている。
【0005】
また、カテーテルの手元部では、プッシャビリティーが求められ、外層樹脂は剛性の高い樹脂を必要としているが、剛性の高い樹脂は、一般的に靭性が低く、外層厚さを薄くすると外層が割れてしまい、耐キンク性または引張強度が低下してしまう問題点も確認されている。したがって、カテーテルにおける外層を薄肉にすることは、技術的に困難であった。
【0006】
また、カテーテルのシャフトチューブ[医療用チューブ]の引張強度を向上させる方法として、カテーテルの長手方向に、軸方向部材を使用する方法が提案されている。例えば、特許文献1に記載の脈管カテーテルは、ブレードからなる補強層に沿って延在する軸方向部材を、さらに有する。このような軸方向部材が組み込まれることで、シャフトチューブの伸長が防止できる(なお、軸方向部材はブレードに隣接するあらゆるポリマー層にも固定されない)。
【0007】
また、コイル構造の引張強度を向上させる方法として、コイル構造の外側に、編組構造を付与することが提案されている。例えば、特許文献2に記載のカテーテルでは、金属製平板密巻コイルの外側に、金属製平角編組が被い、さらに、その外側に、樹脂被覆層が被う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2002−535049号公報
【特許文献2】特許2541872号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載のカテーテルでは、軸方向への伸長が防止されるが、より高い引張力に対しては、軸方向部材の素線強度を高めていかなくてはならない。そのため、曲げ剛性の異方向性が現れる。また、螺巻きされたコイル構造に対する軸方向部材は、特許文献1でも懸念されているように、カテーテルの長さ方向に沿った突起が形成されてしまう。
【0010】
また、特許文献2に記載のカテーテルでは、コイル構造に起因する屈曲時の耐圧縮力の確保と、編組構造に起因する耐引張力の確保とを、両立させている。しかし、高引張力を得るために、編組を構成する素線の厚さまたは幅が大きくなってしまうと、コイル構造により得られる屈曲時の耐圧縮力が低減される。そのため、柔軟性かつ高耐引張力を求められるカテーテルの先端側への適用は難しい。
【0011】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものである。そして、その目的は、薄肉・柔軟で、かつ、優れた耐キンク性および引張強度を両立した医療用チューブ等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
医療用チューブは、中空を囲み、その中空に最も近いコイル層と、コイル層を囲む中間層と、中間層を囲む外層と、を含む。医療用チューブでは、コイル層、中間層、および外層にて、隣り合う層同士であるコイル層および中間層では、少なくとも一方の層の溶融によって、部分的または全体的に、両層が連なり、隣り合う層同士である中間層および外層では、部分的または全体的に、両層が連なっている。そして、3つの層では、隣り合う2つの層が複層となって、残りの層に対してずれるようになっており、ずれる層同士にて、一方層に対して他方層がずれるために要する荷重を第1荷重とし、ずれる界面を境にして、中空から乖離した側に位置する単層または複層の破断に要する荷重を第2荷重とすると、第2荷重のほうが、第1荷重よりも大きい。
【0013】
例えば、隣り合うコイル層と中間層とを含む複層が、外層に対してずれるようになっていると、第1荷重は、外層に対して中間層がずれるために要する荷重であり、第2荷重は、外層の破断に要する荷重であり、第2荷重は、中間層の破断に要する荷重よりも大きいと望ましい。
【0014】
また、例えば、隣り合う外層と中間層とを含む複層が、コイル層に対してずれるようになっていると、第1荷重は、中間層に対してコイル層がずれるために要する荷重であり、第2荷重は、外層と中間層とを含む複層の破断に要する荷重であり、外層に対して中間層がずれるために要する荷重は、外層の破断に要する荷重よりも大きく、かつ、中間層の破断に要する荷重よりも大きいと望ましい。
【0015】
なお、コイル層は、金属または樹脂であると望ましい。
【0016】
また、中間層は、熱可塑性樹脂、または、熱可塑性エラストマーであると望ましい。
【0017】
なお、中間層が熱可塑性エラストマーの場合、その熱可塑性エラストマーは、ポリアミドエラストマー、または、ポリウレタンエラストマーであると望ましい。
【0018】
また、外層は、熱可塑性樹脂、または、熱可塑性エラストマーであると望ましい。
【0019】
なお、外層が熱可塑性エラストマーの場合、ショアD硬度が、50D以上74D以下であると望ましい。
【0020】
また、医療用シャフトチューブは、外径を2.00mm以下、内径を1.60mm以下にしていると望ましい。
【0021】
なお、以上の医療用チューブを含む医療用カテーテルも本発明といえ、例えば、吸引カテーテルであるが挙げられる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、医療用チューブは、薄肉・柔軟でありながら、優れた耐キンク性および引張強度を両立する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】は、シャフトチューブの断面図である。
【図2】は、シャフトチューブの断面図である。
【図3】は、血栓カテーテルの斜視図である。
【図4】は、実施例および比較例の諸情報をまとめた表である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[実施の形態1]
実施の一形態について、図面に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、便宜上、ハッチングや部材符号等を省略する場合もあるが、かかる場合、他の図面を参照するものとする。
【0025】
図3は、医療用カテーテルの一種である吸引カテーテル、特に、血栓吸引カテーテル39を示した斜視図である。血栓吸引カテーテル39は、シャフトチューブ19、ハブ31、コネクタ32、および、ガイドワイヤールーメンシャフト33を含む。
【0026】
シャフトチューブ19は、内部の中空を、血栓を通過させる吸引ルーメン15とした医療用チューブである。なお、血栓等の病変の吸引口15Tが形成されている側を先端側、先端側の反対側を末端側とする。
【0027】
ハブ31は、血栓吸引カテーテル39の操作者の把持する部分であり、シャフトチューブ19の末端側に取り付けられる。なお、ハブ31にも、吸引ルーメン[中空]15と同様な空洞が形成されており、その空洞と吸引ルーメン15とは連なっている。
【0028】
コネクタ32は、ハブ31につながっており、例えば、不図示のシリングが取り付けられる(なお、コネクタ32にも空洞が形成されており、その空洞は、ハブ31の空洞と連なっている)。すると、シリングの吸引によって、血栓が吸引ルーメン15に引き込まれる。
【0029】
ガイドワイヤールーメンシャフト33は、血栓吸引カテーテル39を血管内に導く場合に使用するガイドワイヤー(不図示)を通過させるシャフトである。
【0030】
以上のような血栓吸引カテーテル39におけるシャフトチューブ19について、図1の断面図を用いて説明する。なお、図1は、シャフトチューブ19の長手方向に沿った断面図である。
【0031】
図1に示すように、シャフトチューブ19は複層構造である。詳説すると、シャフトチューブ19は、コイル層11、中間層12、および外層13の3層を含む。
【0032】
コイル層[補強層]11は、素線11Lと呼ばれる線状部材を螺旋状にして(螺旋にして)形成される層であり、3層のうち、吸引ルーメン15に最も近い層となって、吸引ルーメン15を囲む。なお、図1に示すように、螺旋状の素線11L同士を、近接または接触させる巻き方は密着巻きと称され、そのような巻き方をされたコイル層11は、密巻きコイル層11とも称される。
【0033】
また、コイル層11の材料は、特に限定されることはなく、例えば、金属であっても樹脂であってもかまわない。金属としては、ステンレス鋼、または、タングステン、白金、イリジウム、あるいは、金等の放射線不透過性が高い金属が挙げられる。また、ステンレス鋼のバネ鋼の素線、あるいは、タングステンの素線11Lは、比較的高い引張弾性率を有するため、コイル層11に好適といえる。
【0034】
一方、樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン類、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ポリアミドエラストマー等のポリアミド類、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステルエラストマー等のポリエステル類、ポリウレタン、ポリウレタンエラストマー、アラミド、または、ポリアリレート等が挙げられる。
【0035】
また、素線11Lの断面形状は、特に限定されず、平線、丸線、または、異径線等の各種形状のものであってもかまわない。なお、ここでいう平線とは、素線の軸方向に垂直な断面形状が、長方形または長方形の角を丸めた形状であり、一般に平角線と呼ばれるものも含む。
【0036】
中間層12は、コイル層11を囲む(被う)層である。そして、この中間層12の材料としては、特に限定されることはなく、例えば、熱可塑性樹脂、または、熱可塑性エラストマーが挙げられる。
【0037】
熱可塑性樹脂としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、変性ポリオレフィン等のオレフィン類、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリウレタン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリレート、ポリイミド、ポリアミドイミド、または、これら樹脂のポリマーブレンドあるいはポリマーアロイ等が挙げられる。
【0038】
一方、熱可塑性エラストマーとしては、ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、オレフィン系エラストマー、または、これらエラストマーのポリマーブレンド或いはポリマーアロイ等が挙げられる。
【0039】
なお、中間層12の材料には、重合時に使用される重合助剤のほかに、造影剤、可塑剤、補強剤、または、顔料等の各種添加剤が含まれてもよい。
【0040】
外層13は、中間層12を囲む(被う)層である。そして、この外層13の材料としては、中間層12と同様に、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマーが挙げられる。
【0041】
特に、外層13の材料としては、ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー等のエラストマー類、または、これらのポリマーブレンドあるいはポリマーアロイ等が、高屈曲時での靭性が高くて望ましい。さらに望ましくは、50D以上74D以下のショアD硬度を有するポリアミドエラストマーは、薄肉での引張強度と、高屈曲化での靭性との両方を、比較的高く維持できるのでよい。
【0042】
そして、吸引ルーメン15を囲み、その吸引ルーメン15に最も近いコイル層11と、コイル層11を囲む中間層12と、中間層12を囲む外層13と、を含むシャフトチューブ19は、以下のように設計される。
【0043】
詳説すると、コイル層11、中間層12、および外層13にて、隣り合う層同士であるコイル層11および中間層12では、加熱等によって、少なくとも一方の層が溶融し、部分的または全体的に、両層11・12が連なる。例えば、中間層12が、熱によって溶け(溶融し)、溶け出した中間層12の少なくとも一部が、コイル層11に強固に接着する(このような、層の溶融に起因した層同士の接着を、溶着または固着と称してもよい)。
【0044】
そして、連なりあった2層、すなわち、隣り合ったコイル層11と中間層12とで一体的に形成された複層は、外層13に対してずれるように設計される。このようなずれが生じる場合、ずれる層同士において、一方層に対して他方層がずれるために、荷重(力)が必要とされる。例えば、外層13に対して中間層12がずれるためには、荷重が必要とされる[この荷重を第1荷重とする]。
【0045】
なお、この荷重(ずれ強度)とは、樹脂層(中間層12)と金属層(コイル層11)とが溶着、密着、または接触といった種々の連なった状態から、接触面に対して、剪断荷重がかけられた場合に、2層間にずれが発生する荷重のことである。
【0046】
具体的には、1層の樹脂層と1層の金属層とに対して、長軸方向へ引張荷重がかけられた場合に、2層間にずれが発生し、分離して挙動し始める引張荷重のことを、荷重と定義する(なお、コイル層11が樹脂の場合、すなわち、樹脂製の中間層12と樹脂製のコイル層11とが連なっていても、上述同様にして、荷重が定義される)。
【0047】
また、ずれる界面(中間層12と外層13との境界面)を境にして、吸引ルーメン15から乖離した側に位置する外層13が破断する場合にも、荷重が必要とされる[この荷重を第2荷重とする]。
【0048】
そして、これらの荷重に差が付けられる。詳説すると、シャフトチューブ19では、第2荷重が第1荷重よりも大きい。
【0049】
このようになっていると、シャフトチューブ19に対して、長軸方向に、引張り荷重がかけられた場合、外層13が破断するより前に、外層13と中間層12との間で、ずれが発生し、外層13は分離して挙動する。つまり、外層13は中間層12から分離することで、単体の樹脂チューブとして、比較的高い引張荷重(引張強度)を有する。
【0050】
逆に、外層が分離しない場合、例えば、第2荷重が第1荷重よりも小さい場合、中間層がコイル層と少なくとも一部で連なり、コイル層の外側表面と中間層の内側表面とが固着していると、シャフトチューブが引っ張られることで、コイル層の外側表面に固着された中間層の一部分は、コイル層とともに引っ張られる。そのため、コイル層の素線間に介在する中間層および外層のみが、局所的に延伸されるので、中間層が破断し、ひいては外層、シャフトチューブの引張強度は著しく低下する(例えば、外層割れ、または、外層の著しい塑性変形が生じる)。
【0051】
しかし、上述したように、外層13が破断するより先に、外層13と中間層12との間で、ずれが発生すると、外層13が中間層12から分離して、単体の樹脂チューブとして、比較的高い引張荷重(引張強度)を有する。このため、コイル層11、ひいてはシャフトチューブ19は、優れた内腔維持性を保ちながら、高い耐キンク性および引張強度を有する。そのため、このようなシャフトチューブ19は、血栓吸引カテーテル39等に好適に用いられるとよい。
【0052】
なお、外層13の破断に要する荷重[第2荷重]は、中間層12の破断に要する荷重よりも大きいと、望ましい。このようになっていると、シャフトチューブ19(ひいては血栓吸引カテーテル39)が引っ張られたとしても、一層、外層13は破断しにくいためである。
【実施例】
【0053】
そして、以上のようなシャフトチューブ19の実施例1〜3を下記示すとともに、比較となる対象例(比較例1)も下記に示す。
【0054】
〈◆実施例1(EX1)〉
実施例1のシャフトチューブ19は、以下の通りに作製される。まず、ステンレス鋼の平線(厚さ0.10mm、幅0.20mm)で作製された内径1.00mm、長さ400mmの密巻きコイル層11の内側に、直径1.00mm、長さ500mmのステンレス芯材が挿入されることで、密巻コイル層11が固定される。
【0055】
次に、ポリアミドエラストマー(ショアD硬度35D、融点152℃)で形成された樹脂チューブ(内径1.25mm、外径1.27mm、長さ300mm)が、ステンレス芯材を挿入された密巻コイル層11の外側に被せられる。
【0056】
さらに、この樹脂チューブの外側に、熱収縮チューブが被せられた後、一体になったステンレス芯材、密巻コイル層11、樹脂チューブ、および熱収縮チューブは、170℃に設定されたオーブンで2分間加熱される。そして、オーブンから取り出された一体物から、熱収縮チューブが剥がされることで、樹脂チューブが中間層12となる。
【0057】
さらに、中間層12の外側に、ポリアミドエラストマー(ショアD硬度72D、融点176℃)で形成された外層チューブ(内径1.22mm、外径1.37mm、長さ300mm)が被せられ、その後、直径1.00mmのステンレス芯材が抜き取られることで、内径1.00mm、外径1.37mmの薄肉のシャフトチューブ19が完成する。
【0058】
〔○耐キンク性〕
耐キンク性は、以下のように判断される。まず、シャフトチューブ19が真っ直ぐの状態にされ、その真っ直ぐな方向(長軸方向)において、50mm離れた任意の2点が把持される。そして、把持された2点が、長軸方向に沿って(一直線上)に近づけられ、2点の間隔が10mmにされる。このように2点の間隔が10mmになるまで近づけられた場合に、シャフトチューブ19に、つぶれ、または、外層割れ等の有無が確認される(なお、他の実施例および比較例における耐キンク性の判断は、上述と同様の手順で行われる)。
【0059】
実施例1のシャフトチューブ19では、つぶれ等が発生せずに、良好な耐キンク性が示された。
【0060】
〔○引張強度〕
引張強度は、ISO 10555の試験に準じて、以下のように判断される。詳説すると、シャフトチューブ19は、引張圧縮試験機{(株)島津製作所製のストログラフE2}を用いて、チャック間距離50mm、引張速度1000mm/minの条件で引っ張られる。そして、中間層12と外層13とが分離して挙動した後、外層13が破断する強度で、引張強度が判断される(なお、他の実施例および比較例における引張強度の判断は、上述と同様の手順で行われる)。
【0061】
実施例1のシャフトチューブ19では、外層13の破断する強度は20Nであり、十分な強度が示された。
【0062】
〈◆実施例2(EX2)〉
実施例2のシャフトチューブ19は、以下の通りに作製される。まず、ステンレス鋼の平線(厚さ0.07mm、幅0.14mm)から作製された内径1.15mm、長さ400mmの密巻コイル層11の内側に、直径1.15mm、長さ500mmのステンレス芯材が挿入されることで、密巻コイル層11が固定される。
【0063】
次に、ポリウレタンエラストマー(ショアA硬度85A、融点163℃)で形成された樹脂チューブ(内径1.35mm、外径1.39mm)が、ステンレス芯材に挿入された密巻コイル層11の外側に被せられる。
【0064】
さらに、この樹脂チューブの外側に、熱収縮チューブが被せられた後、一体になったステンレス芯材、密巻コイル層11、樹脂チューブ、および熱収縮チューブは、170℃に設定されたオーブンで2分間加熱される。そして、オーブンから取り出された一体物から、熱収縮チューブが剥がされることで、樹脂チューブが中間層12となる。
【0065】
さらに、中間層12の外側に、ポリウレタンエラストマー(ショアD硬度67D、融点179〜188℃)で形成された外層チューブ(内径1.33mm、外径1.40mm、長さ300mm)が被せられ、その後、直径1.15mmのステンレス芯材が抜き取られることで、内径1.15mm、外径1.40mmの薄肉のシャフトチューブ19が完成する。
【0066】
〔○耐キンク性〕
実施例2のシャフトチューブ19では、つぶれ等が発生せずに、良好な耐キンク性が示された。
【0067】
〔○引張強度〕
実施例2のシャフトチューブ19では、中間層12と外層13とが分離して挙動した後、外層13が破断した。外層13の破断する強度は12.7Nであり、十分な強度が示された。
【0068】
〈◆実施例3(EX3)〉
実施例3のシャフトチューブ19は、以下の通りに作製される。まず、ステンレス鋼の平線(厚さ0.05mm、幅0.10mm)で作製された内径0.50mm、長さ400mmの密巻コイル層11の内側に、直径0.50mm、長さ500mmのステンレス芯材が挿入されることで、密巻コイル層11が固定される。
【0069】
次に、ポリアミドエラストマー(ショアD硬度35D、融点152℃)で形成された樹脂チューブ(内径0.70mm、外径0.72mm、長さ300mm)が、ステンレス芯材を挿入された密巻コイル層11の外側に被せられる。
【0070】
さらに、樹脂チューブの外側に、熱収縮チューブが被せられた後、一体になったステンレス芯材、密巻コイル層11、樹脂チューブ、および熱収縮チューブは、170℃で設定されたオーブンで2分間加熱される。そして、オーブンから取り出された一体物から、熱収縮チューブが剥がされることで、樹脂チューブが中間層12となる。
【0071】
さらに、中間層12の外側に、ポリアミド樹脂であるナイロン12(ショアD硬度74D、融点178℃)で形成された外層チューブ(内径0.62mm、外径0.72mm、長さ300mm)が被せられ、その後、直径0.50mmのステンレス芯材が抜き取られることで、内径0.50mm、外径0.72mmの薄肉のシャフトチューブ19が完成する。
【0072】
〔○耐キンク性〕
実施例3のシャフトチューブ19では、把持された2点間隔が10mmになると、若干扁平になる部分が生じるものの、シャフトチューブ19自体に、大きなつぶれ、または、外層割れ等は発生せず、良好な耐キンク性が示された。
【0073】
〔○引張強度〕
実施例3のシャフトチューブ19では、中間層12と外層13とが分離して挙動した後、外層13が破断した。外層13の破断する強度は16Nであり、十分な強度が示された。
【0074】
〈◆比較例1(CEX1)〉
比較例1のシャフトチューブは、以下の通りに作製される。比較例1のシャフトチューブは、中間層までは、実施例1のシャフトチューブ19と同様に作製される。
【0075】
さらに、中間層の外側に、ポリアミドエラストマー(ショアD硬度72D、融点176℃)で形成された外層チューブ(内径1.22mm、外径1.37mm、長さ300mm)が被せられる。その後、外層チューブの外側に、熱収縮チューブが被せられ、200℃で設定されたオーブンで2分間加熱される。そして、直径1.00mmのステンレス芯材が抜き取られることで、内径1.00mm、外径1.37mmのシャフトチューブが完成する。
【0076】
〔○耐キンク性〕
比較例1のシャフトチューブでは、把持された2点間隔が20mmになると、シャフトチューブ自体に、外層割れが発生した。すなわち、耐キンク性は不良であった。
【0077】
〔○引張強度〕
比較例1のシャフトチューブでは、コイル層、中間層、および外層が、一体となって挙動し、中間層と外層とが破断した。破断する強度は12Nであった。
【0078】
そして、比較例1のシャフトチューブは、耐キンク性および引張強度の結果から、以下のようにいえる。すなわち、このシャフトチューブでは、中間層とコイル層とが、少なくとも一部で溶融し、コイル層の外側表面と中間層の内側表面とが連なって(固着して)おり、シャフトチューブが引っ張られると、コイル層の外側表面に固着された中間層の内側表面の部分は、コイル層とともに引っ張られる。そのため、コイル層の素線間に介在する中間層、さらには外層が局所的に延び、シャフトチューブの引張強度は著しく低下する(例えば、外層割れ、または、外層の著しい塑性変形が生じる)。その結果、このシャフトチューブを含む血栓吸引カテーテルでは、引張強度および耐キンク性が極めて低くなる。
【0079】
[実施の形態2]
実施の形態2について説明する。なお、実施の形態1で用いた部材と同様の機能・作用効果を有する部材については同一の符号を付記し、その説明を省略する。
【0080】
実施の形態1で列挙された実施例1〜3のシャフトチューブ19では、コイル層11が、密着巻きされていた。しかし、これに限定されるものではない。例えば、図2に示すように、コイル層11は、隣り合う素線11Lと素線11Lの間に隙間がある巻き方(疎ピッチ巻)であってもかまわない。そこで、疎ピッチ巻されたコイル層(疎巻コイル層)11を含むシャフトチューブ19の例である実施例4と、実施例4の比較となる対象例(比較例2)とを説明する。
【0081】
なお、実施例4のシャフトチューブ19は、実施例1〜3のシャフトチューブ19とコイル層11の巻き方に差があるが、実施の形態1で説明したように、隣り合うコイル層11と中間層12とを含む複層が、外層13に対してずれるようになっている。さらに、第1荷重は、外層13に対して中間層12がずれるために要する荷重であり、第2荷重は、外層13の破断に要する荷重であり、第2荷重が第1荷重よりも大きい。また、外層13の破断に要する荷重である第2荷重は、中間層12の破断に要する荷重よりも大きい。そのため、実施例4のシャフトチューブ19は、実施の形態1と同様の作用効果が奏ずる。
【0082】
なお、このよう疎ピッチ巻きは、柔軟性に優れることから、医療用カテーテルの先端側に使用されと望ましい。一方、実施の形態1で説明した密着巻のコイル層11は、優れた耐キンク性および高剛性を有することから、医療用カテーテルの末端側に使用されると望ましい。
【0083】
〈◆実施例4(EX4)〉
実施例4のシャフトチューブ19は、以下の通りに作製される。まず、ステンレス鋼の平線(厚さ0.03mm、幅0.10mm)で作製された内径1.00mm、長さ400mmの疎巻コイル層11の内側に、直径1.00mm、長さ500mmのステンレス芯材が挿入されることで、疎巻コイル層11が固定される。
【0084】
次に、ポリアミドエラストマー(ショアD硬度25D、融点148℃)で形成された樹脂チューブ(内径1.20mm、外径1.24mm、長さ300mm)が、ステンレス芯材を挿入された疎巻コイル層11の外側に被せられる。
【0085】
さらに、樹脂チューブの外側に、熱収縮チューブが被せられた後、一体になったステンレス芯材、疎巻コイル層11、樹脂チューブ、および熱収縮チューブは、170℃に設定されたオーブンで2分間加熱される。そして、オーブンから取り出された一体物から、熱収縮チューブが剥がされることで、樹脂チューブが中間層12となる。
【0086】
さらに、中間層12の外側に、ポリアミドエラストマー(ショアD硬度55D、融点168℃)で形成された外層チューブ(内径1.10mm、外径1.22mm、長さ300mm)が被せられ、その後、直径1.00mmのステンレス芯材が抜き取られることで、内径1.00mm、外径1.22mmの薄肉のシャフトチューブ19が完成する。
【0087】
〔○耐キンク性〕
実施例4のシャフトチューブ19では、つぶれ等が発生せずに、良好な耐キンク性が示された。
【0088】
〔○引張強度〕
実施例4のシャフトチューブ19では、中間層12と外層13とが分離して挙動した後、外層13が破断した。外層13の破断する強度は10Nであり、十分な強度が示された。
【0089】
〈◆比較例2(CEX2)〉
比較例2のシャフトチューブは、以下の通りに作製される。比較例2のシャフトチューブは、中間層までは、実施例4のシャフトチューブ19と同様に作製される。
【0090】
さらに、中間層の外側に、ポリアミドエラストマー(ショアD硬度55D、融点168℃)で形成された外層チューブ(内径1.10mm、外径1.22mm、長さ300mm)が被せられる。その後、外層チューブの外側に、熱収縮チューブが被せられ、200℃で設定されたオーブンで2分間加熱される。そして、直径1.00mmのステンレス芯材が抜き取られることで、内径1.00mm、外径1.20mmのシャフトチューブが完成する。
【0091】
そして、比較例2のシャフトチューブは、以下の耐キンク性および引張強度の結果から、比較例1のシャフトチューブと同様の現象が生じると考えられる。
【0092】
〔○耐キンク性〕
比較例2のシャフトチューブでは、把持された2点間隔が30mmになると、疎ピッチコイル間で、キンク(折れ曲がり)が発生した。すなわち、耐キンク性は不良であった。
【0093】
〔○引張強度〕
比較例2のシャフトチューブでは、コイル層、中間層、および外層が、一体となって挙動し、中間層と外層とが破断した。破断する強度は4Nと極めて低めであった。
【0094】
[実施の形態3]
実施の形態3について説明する。なお、実施の形態1・2で用いた部材と同様の機能・作用効果を有する部材については同一の符号を付記し、その説明を省略する。
【0095】
実施の形態1・2では、少なくとも3層(11・12・13)を含むシャフトチューブ19において、隣り合ったコイル層11と中間層12とで一体的に形成された複層が、外層13に対してずれていた。しかし、これに限定されるものではない。例えば、隣り合う外層13と中間層12とを含む複層が、コイル層11に対してずれるシャフトチューブ19であってもよい。
【0096】
詳説すると、このようなシャフトチューブ19では、コイル層11、中間層12、および外層13にて、隣り合う層同士であるコイル層11および中間層12では、少なくとも一方の層の溶融によって、部分的または全体的に、両層が連なる。さらに、隣り合う層同士である中間層12および外層13では、部分的または全体的に、両層が連なる(なお、中間層12と外層13との連なり方は、特に限定されず、例えば、密着でも、溶着でも、固着でも、接着であってもかまわない)。
【0097】
そして、このシャフトチューブ19では、外層13と中間層12とを含む複層の破断に要する荷重[第2荷重]は、中間層12に対してコイル層11がずれるために要する荷重[第1荷重]よりも大きい。
【0098】
このようになっていると、シャフトチューブ19に対して、長軸方向に、引張り荷重がかけられた場合、外層13と中間層12とを含む複層が破断するより前に、中間層12とコイル層11との間で、ずれが発生し、コイル層11は分離して挙動する。つまり、複層はコイル層11から分離することで、単体の樹脂チューブとして、比較的高い引張荷重(引張強度)を有する。
【0099】
逆に、複層が分離しない場合、例えば、第2荷重が第1荷重よりも小さい場合、複層における中間層は、コイル層と少なくとも一部で連なり、コイル層の外側表面と中間層の内側表面とが固着していると、シャフトチューブが引っ張られることで、コイル層の外側表面に固着された中間層の一部分は、コイル層とともに引っ張られる。そのため、コイル層の素線間に介在する複層のみが、局所的に延伸されるので、複層が破断し、ひいてはシャフトチューブの引張強度は著しく低下する(例えば、外層割れ、または、外層の著しい塑性変形が生じる)。
【0100】
しかし、上述したように、複層が破断するより先に、中間層12とコイル層11との間で、ずれが発生すると、複層がコイル層11から分離して、単体の樹脂チューブとして、比較的高い引張荷重(引張強度)を有する。このため、コイル層11、ひいてはシャフトチューブ19は、優れた内腔維持性を保ちながら、高い耐キンク性および引張強度を有する。そのため、このようなシャフトチューブ19は、血栓吸引カテーテル39等に好適に用いられるとよい。
【0101】
なお、外層13と中間層12とは複層になっているので、外層13および中間層12の一方が破断したとしても、複層全体(要は、外層13および中間層12の一方)が破断していなければ、シャフトチューブ19として問題はない。
【0102】
そのため、外層13に対して中間層12がずれるために要する荷重は、外層13の破断に要する荷重よりも大きく、かつ、中間層12の破断に要する荷重よりも大きくてもかまわない。
【0103】
そして、以上のようなシャフトチューブ19の実施例5・6を下記示すとともに、比較となる対象例(比較例3)を下記に示す。なお、実施例5・6では、コイル層11は密巻コイル層11であるが、これに限定されるものではない。例えば、コイル層11が、疎巻コイル層11であってもかまわない。
【0104】
〈◆実施例5(EX5)〉
実施例5のシャフトチューブ19は、以下の通りに作製される。まず、ステンレス鋼の平線(厚さ0.10mm、幅0.20mm)から作製された内径1.00mm、長さ400mmの密巻コイル層11の内側に、直径1.00mm、長さ500mmのステンレス芯材が挿入されることで、密巻コイル層11が固定される。
【0105】
次に、ポリアミドエラストマー(ショアD硬度55D、融点168℃)を内側層、ポリアミドエラストマー(ショアD硬度72D、融点176℃)を外側層とする2層樹脂チューブ(内径1.21mm、外径1.38mm、内側層厚さ0.01mm、外側層厚さ0.075mm)が、ステンレス芯材に挿入された密巻コイル層11の外側に被せられる。
【0106】
さらに、2層樹脂チューブの外側に、熱収縮チューブが被せられた後、一体になったステンレス芯材、密巻コイル層11、2層樹脂チューブ、および熱収縮チューブは、170℃に設定されたオーブンで2分間加熱される。
【0107】
そして、オーブンから取り出された一体物から、熱収縮チューブが剥がされ、さらに、直径1.00mmのステンレス芯材が抜き取ることで、ポリアミドエラストマー(ショアD硬度55D)を中間層12、ポリアミドエラストマー(ショアD硬度72D)を外層13とする内径1.00mm、外径1.37mmの薄肉のシャフトチューブ19が完成する(なお、中間層12の一部のみが、密巻コイル層11の一部に連なっていることが、確認された)。
【0108】
〔○耐キンク性〕
実施例5のシャフトチューブ19では、つぶれ等が発生せずに、良好な耐キンク性が示された。
【0109】
〔○引張強度〕
実施例5のシャフトチューブ19では、コイル層11と中間層12とが分離して挙動した後、中間層12と外層13との複層が破断した。中間層12と外層13との複層の破断する強度は18Nであり、十分な強度が示された。
【0110】
〈◆実施例6(EX6)〉
実施例6のシャフトチューブ19は、以下の通りに作製される。まず、ステンレス鋼の平線(厚さ0.10mm、幅0.20mm)から作製された内径1.00mm、長さ400mmの密巻コイル層11の内側に、厚み0.02mmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE、融点327℃)を被覆した銀メッキ軟銅線(PTFE被覆前外径1.00mm、PTFE被覆後外径1.04mm)が挿入されることで、密巻コイル層11が固定される。
【0111】
次に、ポリアミドエラストマー(ショアD硬度55D、融点168℃)を内側層、ポリアミドエラストマー(ショアD硬度72D、融点176℃)を外側層とする2層樹脂チューブ(内径1.21mm、外径1.38mm、内側層厚さ0.01mm、外側層厚さ0.075mm)が、PTFEを被覆した銀メッキ軟銅線に挿入された密巻コイル層11の外側に被せられる。
【0112】
さらに、2層樹脂チューブの外側に、熱収縮チューブが被せられた後、一体になった銀メッキ軟銅線、密巻コイル層11、2層樹脂チューブ、および熱収縮チューブは、170℃で設定されたオーブンで2分間加熱される。
【0113】
そして、オーブンから取り出された一体物から、熱収縮チューブが剥がされる。さらに、PTFEを被覆した銀メッキ軟銅線の端部のPTFEが除去され、銀メッキ軟銅線のみが引き抜かれることで、ポリアミドエラストマー(ショアD硬度55D)を中間層12、ポリアミドエラストマー(ショアD硬度72D)を外層13とする内径1.00mm、外径1.41mmの薄肉のシャフトチューブ19が完成する(なお、中間層12の一部のみが、密巻コイル層11の一部に連なっていることが、確認された)。
【0114】
〔○耐キンク性〕
実施例6のシャフトチューブ19では、つぶれ等が発生せずに、良好な耐キンク性が示された。
【0115】
〔○引張強度〕
実施例6のシャフトチューブ19では、コイル層11と中間層12とが分離して挙動した後、中間層12と外層13との複層が破断した。中間層12と外層13との複層の破断する強度は18Nであり、十分な強度が示された。
【0116】
〈◆比較例3(CEX3)〉
比較例3のシャフトチューブは、以下の通りに作製される。比較例3のシャフトチューブは、200℃で設定されたオーブンで2分間加熱した以外は、実施例5のシャフトチューブ19と同様に作製される。詳説すると、ポリアミドエラストマー(ショアD硬度55D)を中間層、ポリアミドエラストマー(ショアD硬度72D)を外層とする内径1.00mm、外径1.37mmのシャフトチューブ19が比較例3のシャフトチューブとなる(なお、中間層の一部のみが、密巻コイル層の一部に連なっていることが、確認された)。
【0117】
そして、比較例3のシャフトチューブは、以下の耐キンク性および引張強度の結果から、比較例1・2のシャフトチューブと同様の現象が生じると考えられる。
【0118】
〔○耐キンク性〕
比較例3のシャフトチューブでは、把持された2点間隔が30mmになると、密ピッチコイル間で、キンク(折れ曲がり)が発生した。すなわち、耐キンク性は不良であった。
【0119】
〔○引張強度〕
比較例3のシャフトチューブでは、コイル層、中間層、および外層が、一体となって挙動し、中間層と外層とが破断した。破断する強度は10Nであった。
【0120】
[その他の実施の形態]
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能である。
【0121】
以上では、コイル層11、中間層12、および外層13にて、隣り合う層同士であるコイル層11および中間層12では、少なくとも一方の層の溶融によって、部分的または全体的に、両層が連なり、かつ、隣り合う層同士である中間層12および外層では、部分的または全体的に、両層が連なっていた。
【0122】
そして、3つの層(11・12・13)では、隣り合う2つの層が複層となって、残りの層に対してずれるようになっており、ずれる層同士にて、一方層に対して他方層がずれるために要する荷重を第1荷重とし、ずれる界面を境にして、吸引ルーメン15から乖離した側に位置する単層または複層の破断に要する荷重を第2荷重とすると、第2荷重のほうが、第1荷重よりも大きかった。
【0123】
しかしながら、シャフトチューブ19に含まれる層は、3層(11・12・13)に限らず、例えば、シャフトチューブ19は、上記の実施例6および下記の実施例7に示すように、コイル層11の内側に、内層が含まれてもよい。
【0124】
ただし、内層を形成する樹脂は、特に限定されない。例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体等のフッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン類、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ポリアミドエラストマー等のポリアミド類、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン、ポリウレタンエラストマー、ポリイミド等が、内層を形成する樹脂として挙げられる。
【0125】
また、内層を含むシャフトチューブ19は、実施例6・7のように、コイル層11を密巻コイル層11にしていてもよいが、これに限定されない。例えば、内層を含むシャフトチューブ19は、コイル層11を疎巻コイル層11にしていてもよい。
【0126】
なお、以上のシャフトチューブ19のサイズは、特に限定されないが、シャフトチューブ19の肉厚が、比較的薄く、引張強度の低下が問題となる、外径2.00mm以下および内径1.60mm以下という2条件の少なくとも一方を満たすような場合、上述してきたシャフトチューブ19の作用効果が顕著に現れる。
【0127】
また、実施例1〜7および比較例1〜3に関する諸情報をまとめた表を、図4に示す。なお、図4の表での“t”は、各層の厚みを意味し、“w”はコイル層11となるステンレス鋼の平線の幅を意味し、“○/×”は耐キンク性の良否を意味する。
【0128】
〈◆実施例7(EX7)〉
実施例7のシャフトチューブ19は、以下の通りに作製される。まず、ステンレス鋼の平線(厚さ0.10mm、幅0.20mm)から作製された内径1.00mm、長さ400mmの密巻コイル層11の内側に、厚み0.02mmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE、融点327℃)を被覆した銀メッキ軟銅線(PTFE被覆前外径1.00mm、PTFE被覆後外径1.04mm)が挿入されることで、密巻コイル層11が固定される。
【0129】
次に、ポリアミドエラストマー(ショアD硬度35D、融点152℃)で形成される樹脂チューブ(内径1.29mm、外径1.31mm、長さ300mm)が、PTFEを被覆した銀メッキ軟銅線に挿入された密巻コイル層11の外側に被せられる。
【0130】
さらに、樹脂チューブの外側に、熱収縮チューブが被せられた後、一体になった銀メッキ軟銅線、密巻コイル層11、樹脂チューブ、および熱収縮チューブは、170℃に設定されたオーブンで2分間加熱される。
【0131】
そして、オーブンから取り出された一体物から、熱収縮チューブが剥がされることで、樹脂チューブが中間層12となる。
【0132】
さらに、中間層12の外側に、ポリアミドエラストマー(ショアD硬度72D)で形成された外層チューブ(内径1.26mm、外径1.41mm、長さ300mm)が被せられ、PTFEを被覆し銀メッキ軟銅線の端部のPTFEが除去され、銀メッキ軟銅線のみが引き抜かれることで、内層にPTFEを含むシャフトチューブ19(内径1.00mm、外径1.41mmの薄肉のシャフトチューブ19)が完成する。
【0133】
〔○耐キンク性〕
実施例7のシャフトチューブ19では、つぶれ等が発生せずに、良好な耐キンク性が示された。
【0134】
〔○引張強度〕
実施例7のシャフトチューブ19では、中間層12と外層13とが分離して挙動した後、外層13が破断した。外層13の破断する強度は20Nであり、十分な強度が示された。
【符号の説明】
【0135】
11 コイル層
12 中間層
13 外層
15 吸引ルーメン
19 シャフトチューブ[医療用チューブ]
31 ハブ
32 コネクタ
33 ガイドワイヤールーメンシャフト
39 血栓吸引カテーテル[医療用カテーテル]

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空を囲み、その中空に最も近いコイル層と、
上記コイル層を囲む中間層と、
上記中間層を囲む外層と、
を含む医療用チューブにあって、
上記コイル層、上記中間層、および上記外層にて、
隣り合う層同士である上記コイル層および上記中間層では、少なくとも一方の層の溶融によって、部分的または全体的に、両層が連なり、
隣り合う層同士である上記中間層および上記外層では、部分的または全体的に、両層が連なっており、
上記の3つの層では、隣り合う2つの層が複層となって、残りの層に対してずれるようになっており、
ずれる層同士にて、一方層に対して他方層がずれるために要する荷重を第1荷重とし、
ずれる界面を境にして、上記中空から乖離した側に位置する単層または複層の破断に要する荷重を第2荷重とすると、
上記第2荷重のほうが、上記第1荷重よりも大きい医療用チューブ。
【請求項2】
隣り合う上記コイル層と上記中間層とを含む複層が、上記外層に対してずれるようになっており、
上記第1荷重は、上記外層に対して上記中間層がずれるために要する荷重であり、
上記第2荷重は、上記外層の破断に要する荷重であり、
上記第2荷重は、上記中間層の破断に要する荷重よりも大きい、
請求項1に記載の医療用チューブ。
【請求項3】
隣り合う上記外層と上記中間層とを含む複層が、上記コイル層に対してずれるようになっており、
上記第1荷重は、上記中間層に対して上記コイル層がずれるために要する荷重であり、
上記第2荷重は、上記外層と上記中間層とを含む複層の破断に要する荷重であり、
上記外層に対して上記中間層がずれるために要する荷重は、上記外層の破断に要する荷重よりも大きく、かつ、上記中間層の破断に要する荷重よりも大きい、
請求項1に記載の医療用チューブ。
【請求項4】
上記コイル層は、金属または樹脂である請求項1〜3のいずれか1項に記載の医療用チューブ。
【請求項5】
上記中間層は、熱可塑性樹脂、または、熱可塑性エラストマーである請求項1〜4のいずれか1項に記載の医療用チューブ。
【請求項6】
上記中間層が熱可塑性エラストマーの場合、その熱可塑性エラストマーは、ポリアミドエラストマー、または、ポリウレタンエラストマーである請求項5に記載の医療用チューブ。
【請求項7】
上記外層は、熱可塑性樹脂、または、熱可塑性エラストマーである請求項1〜6のいずれか1項に記載の医療用チューブ。
【請求項8】
上記外層が熱可塑性エラストマーの場合、ショアD硬度が、50D以上74D以下である請求項7に記載の医療用チューブ。
【請求項9】
外径が2.00mm以下、内径が1.60mm以下である請求項1〜8のいずれか1項に記載の医療用チューブ。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の医療用チューブを含む医療用カテーテル。
【請求項11】
吸引カテーテルである請求項10に記載の医療用カテーテル。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−255025(P2011−255025A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−132823(P2010−132823)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】