説明

医療用チューブセット

【課題】操作が容易になるとともに、チューブの挿入性を向上させることのできるスタイレットを備えた医療用チューブセットを提供する。
【解決手段】チューブと、チューブの挿入性を向上させるスタイレット20とで医療用チューブセットを構成した。そして、スタイレット20を、チューブ内を挿通可能な内芯21と、内芯21の先端部に固定された先端チップ部22と、内芯21における先端チップ部22と先端チップ部22から所定距離離れて設けられたストッパ24との間で移動可能になった球状の移動拡張部材23とで構成した。また、先端チップ部22の後端部に、チューブの先端部に係合可能な係合凹部を形成した。さらに、移動拡張部材23をチューブの先端部内に位置することによりチューブ先端部を外周方向に拡張して先端チップ部22が通過できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体内に挿入されて体内から残留物や排液を抜き取る際に用いられる医療用チューブセットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、腸閉塞の患者に対して肛門からチューブを挿入して留置することにより腸内の残留物を排出することが行われている。このような場合に用いられるチューブとして、ガイドワイヤを介して体内に挿入されるものがある(例えば、特許文献1参照)。このチューブを体内に挿入する際には、まず大腸ファイバーを肛門から挿入し、その大腸ファイバー内にガイドワイヤを挿入する。そして、大腸ファイバーを肛門から抜去したのちに、チューブの先端開口部をガイドワイヤの後端部に入れガイドワイヤに沿わせた状態でチューブを体内に挿入する操作が行われる。
【特許文献1】特開平10―151195号公報
【発明の開示】
【0003】
しかしながら、前述したチューブでは、チューブを体内に挿入して留置するための操作が煩雑になる。このため、チューブの内腔に、チューブの挿入性を向上させるためのスタイレットを挿入してチューブをスタイレットとともに体内に挿入し、チューブの先端部が大腸内の狭窄部を通過して体内の患部に届いたのちに、チューブからスタイレットを抜去する方法が検討されている。このようにチューブとともにスタイレットを体内に挿入する場合には、スタイレットの先端部の形状を先細り状に形成するとともに、その先端部をチューブの先端から突出させてチューブの挿入がスムーズになるようにしておかなければならない。
【0004】
しかしながら、従来のスタイレットでは、スタイレットの先端部にスタイレットをチューブの内部側に向って押すような力が加わると、スタイレットの先端部がチューブの内部に押し込まれてしまうことがある。このため、チューブの先端開口部とスタイレットの先端の突出部分との間に段差を設けてスタイレットの先端部がチューブ内に入ることを防止することが検討されている。そして、スタイレットの先端部がチューブ内に入ることを確実に防止するためには、このチューブの先端開口部とスタイレットの突出部分との間の段差を大きくする必要があるが、この段差が大きすぎると、チューブからスタイレットを引き抜く際の抵抗、特にチューブの先端開口部からスタイレットの突出部分を引き抜く際の抵抗が増大するという問題が生じる。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みなされたもので、その目的は、操作が容易になるとともに、チューブの挿入性を向上させることのできるスタイレットを備えた医療用チューブセットを提供することにある。
【0006】
前述した目的を達成するため、本発明に係る医療用チューブセットの構成上の特徴は、体内に挿入されるチューブと、チューブを体内に挿入する際にチューブの挿入性を向上させるために用いられるスタイレットとを備えた医療用チューブセットであって、スタイレットを、チューブ内を挿通可能な内芯と、内芯の先端部に固定され後端にチューブの萎んだ状態の先端部外周を覆ってチューブの先端部に係合可能な係合凹部が形成された先端チップ部と、内部に設けられた穴部に内芯を挿通させ内芯における先端チップ部と先端チップ部から所定距離離れた部分との間で移動可能に設けられ外径が先端チップ部の外径よりも大きいか、または等しく設定され、かつチューブの先端部内に位置することによりチューブの萎んだ状態の先端部を外周方向に拡張して先端チップ部が通過できるようにする移動拡張部材とで構成したことにある。
【0007】
前述したように構成した本発明の医療用チューブセットでは、医療用チューブセットを体内に挿入する際には、先端チップ部の後端に形成された係合凹部にチューブの先端部開口縁部を係合させるとともに、移動拡張部材をチューブの内部に位置させる。これによると、先端チップ部の後端部がチューブの先端部の外周を覆った状態になるため、先端チップ部に、チューブの内部側に向って押す力が加わっても、先端チップ部がチューブの内部側に入り込んで後退することはない。また、先端チップ部の係合凹部は、チューブの萎んだ状態の先端部に係合するため、先端チップ部の外径を大きく設定する必要がなく、先端チップ部の後端部とチューブの先端部との間に大きな段差を設ける必要もなくなる。このため、医療用チューブセットの挿入性がよくなる。
【0008】
また、医療用チューブセットを体内に挿入したのちに、スタイレットをチューブから抜去する際には、スタイレットをチューブの後端側から先端側に向けて押し込んで、先端チップ部の係合凹部とチューブの先端部との係合を解除させるとともに、移動拡張部材でチューブの先端部開口部を外周方向に向けて拡張させる。このとき、先端チップ部は、チューブの先端部から前方に突出した状態になる。そして、スタイレットをチューブの後端側に引っ張って移動拡張部材および先端チップ部を後退させてチューブの先端部の内部に入れた状態で、さらにスタイレットを後端側に引っ張ってチューブから抜去する。
【0009】
このスタイレットをチューブの後端側に引っ張る操作の際、移動拡張部材は、スタイレットにおける先端チップ部から所定距離離れた部分に位置しているが、チューブの先端部開口との間の摩擦によりスタイレットとともに移動することを制止される。そして、移動拡張部材は、スタイレットにおける先端チップ部に当接する位置に移動したのちに、チューブの先端部を拡張させた状態にして、先端チップ部とともにチューブの先端部内部に入っていく。この場合、移動拡張部材の外径が先端チップ部の外径よりも大きいかまたは等しく設定されているため、移動拡張部材と先端チップ部とはスムーズにチューブの先端部の内部に入っていく。
【0010】
なお、この場合、移動拡張部材と先端チップ部との外径とは、それぞれ直径が最大になる部分の直径である。これによると、移動拡張部材と先端チップ部とを移動する方向から見ると、移動拡張部材と先端チップ部との間に段差がなくなる。このため、スタイレットのチューブからの抜去がスムーズになる。また、これによると、簡単な操作で、確実にスタイレットをチューブから抜去することができる。なお、チューブの先端部は、先細りに形成して移動拡張部材を通過させることにより外周側に拡張するようにしてもよいし、後部側部分と略同径にして先端チップ部の係合凹部と係合したときに、先細り状に萎むようにしてもよい。
【0011】
この場合、チューブの先端部に軸方向に延びるスリットを設けて萎ませ易くすることもできる。また、先端チップ部は、円錐形等の先細り状に形成して医療用チューブセットの挿入がスムーズになるようにすることが好ましい。スタイレットの先端チップ部を先細りにすることにより、例えば、医療用チューブセットを狭窄部が発生した腸内に挿入する場合には、腸の狭窄部に医療用チューブセットを通過させやすくなる。さらに、先細りの先端チップ部をスタイレットの先端に設け、医療用チューブセットを腸内に挿入したのちに、チューブからスタイレットを抜去することにより、腸管穿孔の発生を低減させることができる。また、スタイレットの内芯は、中実の線状部材で構成してもよいし、中空の管状体で構成してもよい。スタイレットの内芯を管状体で構成することにより、内部にガイドワイヤを通すことができる。
【0012】
また、本発明に係る医療用チューブセットの他の構成上の特徴は、移動拡張部材を球状の部材で構成したことにある。
【0013】
このように構成した医療用チューブセットでは、先端チップ部をチューブの先端部に係合させた状態で、スタイレットをチューブの後端側から先端側に向けて押し込むと、移動拡張部材は、内芯における先端チップ部から所定距離離れた部分に位置した状態で内芯とともにチューブの先端側に移動していく。この際、チューブの萎んだ状態の先端部は、移動拡張部材の先端側の球面で外周方向に押し広げられる。そして、移動拡張部材がチューブの先端から外部に突出したときには、チューブの先端部は拡張した状態を維持するかまたは萎んだ状態になる。
【0014】
このとき、チューブの先端部が拡張したままの状態であれば、スタイレットをチューブの後端側に引っ張ったときに、移動拡張部材がチューブの先端部に位置したままスタイレットが後退するため、移動拡張部材は、内芯における先端チップ部に接触する位置に位置する。そして、さらにスタイレットが後方に引っ張られると、先端チップ部の外径は、移動拡張部材の外径よりも小さいかまたは等しく設定されているため、先端チップ部はチューブの開口縁部の抵抗を受けることなく移動拡張部材とともにチューブの内部に入っていく。
【0015】
また、チューブの先端部が萎んだ状態になっている場合に、スタイレットをチューブの後端側に引っ張ると、移動拡張部材がチューブの先端部に位置したままスタイレットが後退して、移動拡張部材は、内芯における先端チップ部に接触する位置に位置するようになる。そして、さらにスタイレットが後方に引っ張られると、移動拡張部材は、先端チップ部によってチューブの内部側に押圧され、後部側の球面でチューブの先端部を外周方向に押し広げる。そして、移動拡張部材は、先端チップ部とともにチューブの内部に入っていく。このように、移動拡張部材を球状の部材で構成することにより、移動拡張部材の構造が単純になるとともに、スタイレットの確実な抜去操作が可能になる。
【0016】
また、本発明に係る医療用チューブセットのさらに他の構成上の特徴は、移動拡張部材を、先端部が先端チップ部の係合凹部に係合できる係合突部を備えた部材で構成したことにある。これによると、スタイレットをチューブの後端側から先端側に向けて押し込んで、先端チップ部と移動拡張部材とをチューブの先端部から外部に突出させたのちに、スタイレットをチューブの後端側に引っ張るときに、先端チップ部の係合凹部が移動拡張部材の係合突部に係合するため、先端チップ部と移動拡張部材とが一体となって移動するようになる。このため、スタイレットのチューブからのよりスムーズな抜去が可能になる。
【0017】
また、本発明に係る医療用チューブセットのさらに他の構成上の特徴は、移動拡張部材を、先端部が先端チップ部の少なくとも後端部を覆った状態で先端チップ部に係合できる係合被覆部を備えた部材で構成したことにある。
【0018】
これによると、スタイレットをチューブの先端側に押し込んで、先端チップ部と移動拡張部材とをチューブの先端から外部に突出させたのちに、スタイレットをチューブの後端側に引っ張るときに、移動拡張部材の係合被覆部が先端チップ部の後端部を覆った状態で移動拡張部材が先端チップ部に係合する。このため、先端チップ部と移動拡張部材とが一体となり、これを移動する方向から見ると、先端チップ部は移動拡張部材によって隠れた状態になる。このため、スタイレットのチューブからの抜去がさらにスムーズになる。この場合、移動拡張部材が先端チップ部の後端側部分だけを覆うようにしてもよいし、先端チップ部全体を覆うようにしてもよい。
【0019】
また、本発明に係る医療用チューブセットのさらに他の構成上の特徴は、内芯における先端チップ部から所定距離離れた部分にストッパを設け、移動拡張部材が、先端チップ部とストッパとの間で移動できるようにしたことにある。これによると、移動拡張部材の内芯に対する移動範囲を簡単な構造で規制することができる。なお、ストッパとしては、内芯の周面に形成した大径部や、内芯の周面に固定されたリング状の部材等で構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
(第1実施形態)
以下、本発明に係る医療用チューブセットの第1実施形態を図面を用いて詳しく説明する。図1は、同実施形態に係る医療用チューブセットAを示している。この医療用チューブセットAは、患者の腸T(図7および図8参照)内に発生した狭窄部(病変部分)Kよりも肛門側から見て奥側に位置する部分に残留する残留物を排出するために使用されるもので、患者の腸T内に留置されるチューブ10と、チューブ10の内部に着脱可能に取り付けられるスタイレット20とで構成されている。チューブ10は、図2に示したように、細長いチューブからなるチューブ本体11と、チューブ本体11の基端部11aから分岐した3本の分岐管12,13,14とで構成されている。
【0021】
チューブ本体11の先端部11bはやや先細り状に形成された開口部を備えた円筒状に形成されており、チューブ本体11の周面における先端部11bの近傍後部側にイリゲーション側孔11cが形成されている。また、チューブ本体11の周面におけるイリゲーション側孔11cの近傍後部側には、複数の洗浄用側孔11dが周方向の位置を代えながら軸方向に沿って形成されている。そして、チューブ本体11の周面における洗浄用側孔11dの近傍後部側部分に膨張収縮が可能な造影バルーン15が設けられている。
【0022】
なお、チューブ本体11の内部には、先端部11bの開口から基端部11aを介して分岐管12の後端開口に連通する直径の大きな主腔11e(図4ないし図6参照)が形成されている。また、図示していないが、チューブ本体11の内部における主腔11eの断面における両側には2個の小さな副腔が形成されている。そして、一方の副腔は、イリゲーション側孔11cから基端部11aを介して分岐管13に連通し、他方の副腔は、造影バルーン15から基端部11aを介して分岐管14に連通している。また、複数の洗浄用側孔11dは、主腔に連通している。
【0023】
そして、分岐管12の後端部には、二股状の接続管(図示せず)を介して、排液バッグ等の吸引装置およびシリンジ等の洗浄液供給装置を接続できる。これによって、洗浄用側孔11dおよび先端部11bの先端開口を介して腸T内に洗浄液を供給して洗浄できるとともに腸T内の残留物を吸引除去することができる。イリゲーション側孔11cは、分岐管13から供給される空気を体内に放出することにより、主腔11eを介して吸引装置で吸引され陰圧になった腸T内に空気を補給したり、造影剤を注入したりするために設けられている。
【0024】
また、分岐管14の後端部14aには、水を供給するためのシリンジ等の供給装置(図示せず)が接続され、造影バルーン15は、分岐管14を介して供給装置から供給される水により膨張して、チューブ本体11の先端側部分を腸T内の所定部分に固定する。この造影バルーン15は、伸縮可能な弾性樹脂にX線を透過させない不透過物質を混練した材料で形成されており、X線を照射することにより造影できるように構成されている。したがって、医療用チューブセットAを患者の腸T内に挿入したときにX線を照射することにより、医療用チューブセットAの先端側部分の位置を正確に知ることができる。
【0025】
また、分岐管13は、分岐管12よりも直径が小さいチューブで構成され、その後端部13aには逆流防止弁16が取り付けられている。この逆流防止弁16は、外部から分岐管13内への空気の流れは通すが、分岐管13内から外部に向う空気や液体等は通さないように構成されている。この逆流防止弁16によって、患者の腸T内の残留物等がイリゲーション側孔11c、副腔および分岐管13を介して外部に放出されることが防止される。また、分岐管14は、分岐管13と略等しい直径のチューブで構成され、その後端部14aには、水を造影バルーン15に送るためのシリンジ等の供給装置が接続される。この供給装置を作動させることにより、造影バルーン15を適度な状態に膨張させることができる。
【0026】
そして、分岐管12の略中央には、分岐管12の内腔を閉塞させたり内腔を絞って内腔内の流量を調節したりするためのクランプ17が取り付けられている。このクランプ17は、細長い板状体を屈曲して弾性を備えた略四角形の枠状に形成して、一方の端部側部分の内面に複数の段部からなる係合部17aを形成するとともに、他方の端部17bがその係合部17aの所定部分に係合できるようにしている。また、クランプ17の前後にはそれぞれ分岐管12を挿通させるための穴部(図示せず)が形成されており、両穴部に分岐管12を挿通させてクランプ17は分岐管12に取り付けられている。
【0027】
また、クランプ17の下部中央における内面の両側には支持片17cが設けられ、その両支持片17cにピン18が掛け渡されている。そして、クランプ17の上部中央における内面には、ピン18に向って突出する押圧片18aが形成されている。したがって、係合部17aにおける端部17bの係合位置を変えることにより、ピン18と押圧片18aとの間の間隔を変えて分岐管12の内腔の大きさを変えたり、閉塞したりする調節ができる。
【0028】
スタイレット20は、図3に示したように、チューブ本体11および分岐管12の内部を挿通可能な内芯21と、内芯21の先端に固定された先端チップ部22と、内芯21における先端チップ部22の後部側に内芯21に沿って移動可能に設けられた移動拡張部材23とを備えている。先端チップ部22は、図4ないし図6に示したように、後部側よりも先端側が細くなった円錐台形状に形成され、後端部にチューブ本体11の先端部11bの開口縁部が係合可能な係合凹部22aが形成されている。
【0029】
また、移動拡張部材23は、前後に貫通する挿通穴23aを備えた球体で構成され、挿通穴23aに内芯21を通すことにより内芯21に沿って移動可能になっている。この移動拡張部材23の直径は、チューブ本体11の先端部11bの先端開口部の内径よりもやや大きく設定されており、移動拡張部材23は先端部11bの先端開口部内に位置することにより先端部11bの先端開口部を外周方向に拡張する。また、移動拡張部材23の直径は、先端チップ部22の後端部の直径よりもやや大きく設定され、移動拡張部材23の前部側の半分近くの部分は先端チップ部22の係合凹部22a内に入り込んで先端チップ部22と係合可能になっている。
【0030】
この移動拡張部材23と先端チップ部22とが係合したとき、係合凹部22aの開口縁部と移動拡張部材23との境界部に殆ど段差が生じないように先端チップ部22と移動拡張部材23とは形成されている。また、内芯21における先端チップ部22から所定距離を保った部分に、移動拡張部材23の移動範囲の最後部を規制するためのストッパ24が設けられている。そして、チューブ本体11の後端部には円柱状の把持部25が設けられ、把持部25の前部側部分には、分岐管12の後端開口部に係合可能な先細り状の段部に形成された先細り段状係合部26が設けられている。
【0031】
この構成において、医療用チューブセットAを用いて患者の腸T内の残留物を排出する場合には、まず、クランプ17を緩めた状態のチューブ10における分岐管12の後端開口からスタイレット20を、先端チップ部22側から挿入して、図1に示した状態にする。この場合、図4に示したように、移動拡張部材23がストッパ24に当接して内芯21に沿った移動範囲内の最後部に位置し、先端チップ部22の係合凹部22aにチューブ本体11の先端部11bの開口縁部が係合した状態にする。また、先細り段状係合部26を分岐管12の後端部に係合させる。
【0032】
ついで、医療用チューブセットAを先端チップ部22側から腸T内に挿入して狭窄部Kを通過させて、図7の状態にする。この際、患者の体にX線を照射して造影バルーン15を透視することによりその位置を確認しながら操作を行う。また、スタイレット20の先端チップ部22が先細りに形成されているため、医療用チューブセットAは狭窄部Kを広げながら容易に挿入される。そして、医療用チューブセットAの先端チップ部22が腸T内の所定の患部に達すると、チューブ10からスタイレット20を抜去する操作を行う。この場合、一旦、図5に示したように、スタイレット20の把持部25をチューブ10の内部側に押して、先端チップ部22をチューブ本体11の先端部11bから突出させる。このとき、移動拡張部材23は、ストッパ24に押されてスタイレット20の他の部分とともに移動し、チューブ本体11の先端部11bの先端開口部を拡張させる。
【0033】
つぎに、スタイレット20の把持部25をチューブ10の後方外部側に引っ張る。この場合、移動拡張部材23は先端部11bの開口縁部との摩擦により停止状態になり、スタイレット20の他の部分は、チューブ10に対して後退していく。そして、先端チップ部22の係合凹部22aに移動拡張部材23が係合すると、移動拡張部材23は、先端チップ部22と一体になってチューブ本体11内に入っていく。このとき、移動拡張部材23によって、先端部11bの先端開口部は拡張されているとともに、先端チップ部22と移動拡張部材23との間には段差がないため、先端チップ部22は、先端部11bの開口縁部に引っ掛かることなくスムーズにチューブ本体11内に入って、図6の状態になる。
【0034】
この状態では、先細り段状係合部26が分岐管12の後端部から後退して係合が解除されている。このため、さらにスタイレット20の把持部25をチューブ10の外部側に引っ張ることにより、スタイレット20をチューブ10から容易に抜去することができる。このように、医療用チューブセットAを腸T内に挿入したのちに、チューブ10からスタイレット20を抜去するため、腸管穿孔の発生を低減することができる。
【0035】
つぎに、分岐管12の後端部に吸引装置および洗浄液供給装置を接続するとともに、分岐管14の後端部に、水を供給するための水供給装置を接続する。そして、水供給装置を作動(シリジンの場合はピストンを押す操作)させて造影バルーン15内に水を供給する。これによって、造影バルーン15は膨張して腸Tの内壁に圧接または狭窄部Kに密着し、図8に示したように、チューブ10の先端部11bを固定する。また、造影バルーン15によるチューブ10の腸Tの内壁または狭窄部Kへの固定によって、イリゲーション側孔11cを介して腸T内に造影剤を注入する際に、造影剤が肛門側に漏出することが防止される。
【0036】
つぎに、洗浄液供給装置を作動させて、腸T内に洗浄液を供給するとともに、吸引装置を作動させて、腸T内の残留物と洗浄液との混合物を吸引除去する。これによって、腸T内の残留物は徐々に排出されていく。その際、腸T内が陰圧にならないように、分岐管13から空気が補給される。また、逆流防止弁16は、腸T内の残留物が分岐管13を逆流して外部に放出されることを防止する。また、腸T内に洗浄液を供給したり、腸T内の残留物と洗浄液との混合物を吸引除去したりする際には、クランプ17によってその流量を調整する。そして、腸T内の残留物が全て排出されると、チューブ10を患者の体から取り外す。この場合、造影バルーン15内の水を抜いて造影バルーン15を収縮させた状態で、チューブ10を引っ張ることにより体内から抜き取る。
【0037】
このように、本実施形態に係る医療用チューブセットAでは、チューブ10を体内に挿入する際の挿入性を向上させるために用いられるスタイレット20に、内芯21の先端部に固定され後端に係合凹部22aが形成された先端チップ部22と、内芯21に沿って先端チップ部22とストッパ24との間で移動可能になった移動拡張部材23とを設けている。そして、医療用チューブセットAを腸T内に挿入する際には、先端チップ部22の係合凹部22aにチューブ本体11の先端部11bの開口縁部を係合させて、移動拡張部材23を先端部11bの内部に位置させるようにしている。このため、先端チップ部22がチューブ本体11の内部側に入り込むことを防止した状態で、医療用チューブセットAを腸T内に挿入することができる。
【0038】
また、医療用チューブセットAを腸T内に挿入したのちに、スタイレット20をチューブ10から抜去する際には、スタイレット20の把持部25側をチューブ10の後端側から先端側に向けて押し込んで、先端チップ部22とチューブ本体11の先端部11bとの係合を解除させるとともに、移動拡張部材23でチューブ本体11の先端部11bの先端開口部を外周方向に向けて拡張させる。そして、スタイレット20を後端側に引っ張ることによりチューブ10から抜去することができる。この場合、移動拡張部材23の外径が先端チップ部22の外径よりも大きく設定されているため、移動拡張部材23と先端チップ部22とはスムーズにチューブ10の先端部内部に入っていく。
【0039】
また、チューブ本体11における先端部11bの先端開口部以外の部分は、先端開口部よりも太く形成されているため、移動拡張部材23と先端チップ部22とがチューブ10の先端部内に入ったのちは、スタイレット20は後方に向ってスムーズに移動する。また、移動拡張部材23を球状の部材で構成したため、移動拡張部材23の構造が単純になるとともに、スタイレット20の確実な抜去操作が可能になる。さらに、内芯21における先端チップ部22から所定距離離れた部分にストッパ24を設け、移動拡張部材23が、先端チップ部22とストッパ24との間で移動できるようにしているため、移動拡張部材23の内芯21に対する移動範囲を簡単な構造で規制することができる。
【0040】
(第2実施形態)
図9ないし図14は、本発明の第2実施形態に係る医療用チューブセットBの要部を示している。この医療用チューブセットBでは、チューブ本体31の先端部31bが先端側に行くほど直径が小さくなった略円錐状の先細り形状に形成されている。また、内芯41における先端チップ部42の後端部に対応する部分には、円板状のストッパ44が内芯41と同軸的に設けられて、移動拡張部材43の移動範囲の最前部を規制している。この医療用チューブセットBのそれ以外の部分の構成については、前述した第1実施形態の医療用チューブセットAと同一である。したがって、同一部分に同一符号を記して説明は省略する。
【0041】
この医療用チューブセットBを、患者の腸T内に挿入する際には、医療用チューブセットBの先端側部分が、図9に示した状態になるようにする。そして、医療用チューブセットBを腸T内に挿入したのちに、チューブ30からスタイレット40を抜去する際には、まず、スタイレット40の後端部をチューブ30の内部側に押して、図10に示したように、先端チップ部42をチューブ本体31の先端部31bから突出させる。このとき、移動拡張部材43は、ストッパ24に押されてスタイレット40の他の部分とともに移動して、チューブ本体31の先端部31bを拡張させて他の部分と略同径になるようにする。
【0042】
そして、さらに、スタイレット40の後端部をチューブ30の内部側に押して、図11に示したように、移動拡張部材43をチューブ本体31の先端部31bから突出させ、先端チップ部42をさらに前方に突出させる。つぎに、スタイレット40をチューブ30の後部側に引っ張る。この場合、移動拡張部材43は先端部31bの開口縁部に制止されて停止状態になり、スタイレット40の他の部分は、チューブ30に対して後退していく。そして、ストッパ44が移動拡張部材43に当接して、図12の状態になる。
【0043】
さらに、スタイレット40をチューブ30の後部側に引っ張ると、図13に示したように、移動拡張部材43は、先端部31bを拡張させながら、先端チップ部42と一体になってチューブ本体31内に入っていく。そして、さらに、スタイレット40をチューブ30の後部側に引っ張ると、図14に示したように、移動拡張部材43および先端チップ部42は、先端部31b内に入り、先端部31bは、元の先細り形状に戻る。そして、さらにスタイレット40をチューブ30の後部側に引っ張ることにより、スタイレット40をチューブ30から抜去することができる。
【0044】
この医療用チューブセットBによると、チューブ本体31の先端部31bがやや急な先細り形状に形成されているため、先端チップ部42の係合凹部22aとより確実に係合するようになる。また、内芯41における先端チップ部42の後端部に対応する部分に、ストッパ44を設けたため、内芯41における移動拡張部材43の先端側の停止位置を正確にすることができる。さらに、先端チップ部42で直接移動拡張部材43を押圧することがなくなるため、先端チップ部42が破損することを防止できる。この医療用チューブセットBのそれ以外の作用効果については前述した医療用チューブセットAの作用効果と同様である。
【0045】
(第3実施形態)
図15は、本発明の第3実施形態に係る医療用チューブセットCの要部を示している。この医療用チューブセットCでは、移動拡張部材53の形状が球形でなく、前部側部分が先端チップ部52の係合凹部52aに係合可能な略円錐状の係合突部53aに形成され、後部側部分が緩やかな曲面に形成されている。そして、内芯51における先端チップ部52の後端部に対応する部分にストッパは設けられていない。この医療用チューブセットCのそれ以外の部分の構成については、前述した第2実施形態の医療用チューブセットBと同一である。したがって、同一部分に同一符号を記して説明は省略する。
【0046】
このように構成したため、スタイレット40をチューブ30の後端側から先端側に向って押し込んで、移動拡張部材53をチューブ本体31の先端部31bから外部に突出させたのちに、スタイレット40をチューブ30の後端側に引っ張るときに、先端チップ部52の係合凹部52aが移動拡張部材53の係合突部53aに係合する。このため、先端チップ部52と移動拡張部材53とが一体となって移動するようになる。このため、スタイレット40のチューブ30からのよりスムーズな抜去が可能になる。また、移動拡張部材53をチューブ本体31の先端部31bから外部に突出させる際にも、移動拡張部材53の係合突部53aによって、先端部31bは無理のない状態でスムーズに拡張される。この医療用チューブセットCのそれ以外の作用効果については前述した医療用チューブセットBの作用効果と同様である。
【0047】
(第4実施形態)
図16は、本発明の第4実施形態に係る医療用チューブセットDの要部を示している。この医療用チューブセットDでは、移動拡張部材63の形状が、後部側から前部側に向って広がったドーム状に形成されている。すなわち、移動拡張部材63の前端部は大きく開いた開口部からなる係合被覆部63aで構成され、移動拡張部材63の後方に面する外周面は曲面に形成されている。この医療用チューブセットDのそれ以外の部分の構成については、前述した第3実施形態の医療用チューブセットCと同一である。したがって、同一部分に同一符号を記して説明は省略する。
【0048】
このように構成したため、スタイレット40をチューブ30の先端側に押し込んで、移動拡張部材63をチューブ本体31の先端部31bから外部に突出させたのちに、スタイレット40をチューブ30の後端側に引っ張るときに、移動拡張部材63の係合被覆部63aが先端チップ部52の後端部を覆った状態で移動拡張部材63が先端チップ部52に係合する。このため、先端チップ部52と移動拡張部材63との移動する方向から見ると、先端チップ部52が移動拡張部材63に隠れて見えなくなり、スタイレット40のチューブ30からの抜去がさらにスムーズになる。この医療用チューブセットDのそれ以外の作用効果については前述した医療用チューブセットCの作用効果と同様である。
【0049】
また、本発明に係る医療用チューブセットは、前述した各実施形態に限定するものでなく、適宜変更して実施することができる。例えば、前述した各実施形態では、チューブ本体11等の先端部11b等をそれぞれ先細り形状にしているが、この先端部11b等を他の部分と同径の円筒状に形成することもできる。この場合、先端部11b等の先端開口部を萎ませて先端チップ部22等と係合させる。また、先端部11b等に軸方向に沿ったスリットを設けて先端部11b等が先端チップ部22等に係合し易くなるようにすることもできる。
【0050】
さらに、前述した医療用チューブセットDでは、移動拡張部材63の係合被覆部63aが先端チップ部52の後端部を覆うようにしているが、移動拡張部材63を大きくして、先端チップ部52の全体を覆えるようにすることもできる。また、前述した各実施形態は、それぞれ内芯21等と別部材からなるストッパ24,44の少なくとも一方を備えており、これらのストッパ24,44は内芯21等に固定されているが、このストッパとしては、内芯21等の周面に大径部を設けることにより形成したものを用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の第1実施形態に係る医療用チューブセットを示した正面図である。
【図2】図1に示した医療用チューブセットが備えるチューブの正面図である。
【図3】図1に示した医療用チューブセットが備えるスタイレットの正面図である。
【図4】医療用チューブセットの要部を示した正面図である。
【図5】先端チップ部がチューブ本体の先端部から突出した状態の医療用チューブセットの要部を示した正面図である。
【図6】先端チップ部がチューブ本体の先端部の内部に入った状態の医療用チューブセットの要部を示した正面図である。
【図7】医療用チューブセットを腸内に挿入した状態を示した説明図である。
【図8】チューブを腸内に留置した状態を示した説明図である。
【図9】第2実施形態に係る医療用チューブセットの要部を示した断面図である。
【図10】図9の医療用チューブセットの先端チップ部をチューブ本体の先端部から突出させた状態を示した断面図である。
【図11】図10の医療用チューブセットから移動拡張部材をチューブ本体の先端部から突出させた状態を示した断面図である。
【図12】図11の医療用チューブセットからスタイレットを後部側に引いた状態を示した断面図である。
【図13】図12の医療用チューブセットからスタイレットを後部側に引いて移動拡張部材をチューブ本体の開口部に位置させた状態を示した断面図である。
【図14】図13の医療用チューブセットからスタイレットを後部側に引いて先端チップ部をチューブ本体の内部に入れた状態を示した断面図である。
【図15】第3実施形態に係る医療用チューブセットの要部を示した断面図である。
【図16】第4実施形態に係る医療用チューブセットの要部を示した断面図である。
【符号の説明】
【0052】
10,30…チューブ、11,31…チューブ本体、11b,31b…先端部、20,40…スタイレット、21,41,51…内芯、22,42,52…先端チップ部、22a,52a…係合凹部、23,43,53,63…移動拡張部材、23a…挿通穴、24…ストッパ、53a…係合突部、63a…係合被覆部、A,B,C,D…医療用チューブセット、T…腸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体内に挿入されるチューブと、前記チューブを体内に挿入する際に前記チューブの挿入性を向上させるために用いられるスタイレットとを備えた医療用チューブセットであって、
前記スタイレットを、前記チューブ内を挿通可能な内芯と、前記内芯の先端部に固定され後端に前記チューブの萎んだ状態の先端部外周を覆って前記チューブの先端部に係合可能な係合凹部が形成された先端チップ部と、内部に設けられた穴部に前記内芯を挿通させ前記内芯における前記先端チップ部と前記先端チップ部から所定距離離れた部分との間で移動可能に設けられ外径が前記先端チップ部の外径よりも大きいか、または等しく設定され、かつ前記チューブの先端部内に位置することにより前記チューブの萎んだ状態の先端部を外周方向に拡張して前記先端チップ部が通過できるようにする移動拡張部材とで構成したことを特徴とする医療用チューブセット。
【請求項2】
前記移動拡張部材を球状の部材で構成した請求項1に記載の医療用チューブセット。
【請求項3】
前記移動拡張部材を、先端部が前記先端チップ部の係合凹部に係合できる係合突部を備えた部材で構成した請求項1に記載の医療用チューブセット。
【請求項4】
前記移動拡張部材を、先端部が前記先端チップ部の少なくとも後端部を覆った状態で前記先端チップ部に係合できる係合被覆部を備えた部材で構成した請求項1に記載の医療用チューブセット。
【請求項5】
前記内芯における前記先端チップ部から所定距離離れた部分にストッパを設け、前記移動拡張部材が、前記先端チップ部と前記ストッパとの間で移動できるようにした請求項1ないし4のうちのいずれか一つに記載の医療用チューブセット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2007−236666(P2007−236666A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−63827(P2006−63827)
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(000228888)日本シャーウッド株式会社 (170)
【Fターム(参考)】