説明

医療用ハンドピース

【課題】気液が充分に混合され、パターン幅が大きく、且つ噴霧注水パターンの全体が均一な霧化状態になるような噴霧注水機構を備えた医療用ハンドピースを提供する。
【解決手段】術者により把持されるグリップ部2と、前記グリップ部2の先端部に設けられ、前記グリップ部2の長手軸40aに交差するよう切削工具5を着脱自在に装着し得るヘッド部4と、前記グリップ部2内に挿通され、前記ヘッド部4に及ぶ給水管路10及び給気管路11と、前記ヘッド部4に形成され、前記給水管路10からの水と前記給気管路11からの空気とを混合して噴射口91から前記切削工具5に向けて噴射する為の水噴霧管路9とを備えた医療用ハンドピース1において、前記水噴霧管路9における前記給気管路11からの空気と前記給水管路10からの水との混合部位90に、液溜め部92を設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッド部に装着される切削工具に対して、噴霧水を噴射させる機能を備えた医療用ハンドピースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療用ハンドピース、特に歯科用エアタービンハンドピースは、ヘッド部に装着される切削工具に対して、噴霧水を噴射させる機能を備えている。エアタービンハンドピースは、切削工具を高速回転させる為、歯牙の切削時に切削工具が発熱し、生体に悪影響を及ぼすことがある。従って、この種のハンドピースでは、通常切削時に切削工具に向け噴霧水を噴射して切削工具の発熱を抑える為の水噴射機構を備えている(例えば、特許文献1或いは特許文献2参照)。このような水噴射機構は、ヘッド部或いはグリップ部内で、給水管路からの水と、給気管路からの加圧空気とを混合し、噴射口(注水孔)から水を霧状にして噴射し得るよう構成されている。特に、特許文献2には、複数の注水孔のそれぞれの傾斜角度、開口角度、開口径のうちの少なくとも1つを変えることによって、各注水孔からの注水パターンを変え、これら注水孔から同時に噴霧注水させることによって、作用部分の長い切削工具であっても、注水冷却効果が充分に発揮されるようにした歯科用ハンドピースが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭55−84160号公報
【特許文献2】実公平4−50015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、前記のような噴霧注水機構を備えた従来の歯科用ハンドピースにおける水噴射パターンの例を、図9を参照して説明する。図9は、歯科用エアタービンハンドピース100の先側部分を示し、該ハンドピース100は、術者により把持されるグリップ部101と、前記グリップ部101の先端部に設けられ、このグリップ部101の長手軸に交差するよう切削工具103を着脱自在に装着し得るヘッド部102と、前記グリップ部101内に挿通され、前記ヘッド部102に及ぶ給水管路104及び給気管路105と、前記ヘッド部102に形成され、前記給水管路104からの水と前記給気管路105からの空気とを混合して噴射口107から前記切削工具に向けて噴射する為の水噴霧管路106とを備えている。水噴霧管路106は、給水管路104及び給気管路105の合流部(気液混合部)から斜め下向きに、且つ内径が徐々に拡大するよう形成され、ヘッド部102の基部下面で開口し、この開口部を噴射口107として、切削工具103に向け噴射口107より噴霧注水がなされるよう構成されている。尚、図9では、グリップ部101内での給水管路104及び給気管路105の図示を省略している。
【0005】
図9に示す噴霧注水機構における噴霧注水パターンは、図示のように、切削工具103の作用部全体にわたって噴霧注水がなされる。しかし、この噴霧注水パターンを微視的に観察すると、パターンの中央部では水がリッチな状態(図の実線部)であり、周辺部分では空気がリッチな状態(図の点線部)となっており、噴霧注水パターンの全体が均一な霧化状態になっていないことが観察された。これが、短い切削工具1031(2点鎖線部参照)に対しては先端作用部1031aに的確に噴霧が行われるため問題なかったが、特に長い切削工具103に対して、その全体(特に先端の作用部103a)に充分な冷却機能を果たし得ない一要因となっていることが判明した。このような気液が不均一な噴霧注水パターンは、給水管路と給気管路を単に合流させているだけであるから、水噴霧管路106内では気液が分離した層流が生じ、これがそのまま噴射される為であると考えられる。
【0006】
本発明は、前記に鑑みなされたものであり、気液が充分に混合され、パターン幅が大きく、且つ噴霧注水パターンの全体が均一な霧化状態になるような噴霧注水機構を備えた医療用ハンドピースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る医療用ハンドピースは、術者により把持されるグリップ部と、前記グリップ部の先端部に設けられ、前記グリップ部の長手軸に交差するよう切削工具を着脱自在に装着し得るヘッド部と、前記グリップ部内に挿通され、前記ヘッド部に及ぶ給水管路及び給気管路と、前記ヘッド部に形成され、前記給水管路からの水と前記給気管路からの空気とを混合して噴射口から前記切削工具に向けて噴射する為の水噴霧管路とを備えた医療用ハンドピースにおいて、前記水噴霧管路における前記給気管路からの空気と前記給水管路からの水との混合部位に、液溜め部を設けたことを特徴とする。
【0008】
本発明において、前記液溜め部が、前記混合部位における前記水噴霧管路を、前記切削工具の装着部位とは反対側に膨大化させることによって形成されているものであることが望ましい。また、前記水噴霧管路が前記混合部位から前記噴射口に向かって内径が徐々に拡大するよう形成されると共に、前記噴射口の形状が前記グリップ部の長手方向に伸びる長円形とされているものであることが望ましい。更に、前記水噴霧管路を少なくとも1個備えており、換言すれば2個以上備えていても良く、2個以上備えている場合は、切削工具の周りに適宜間隔をおいて配置されることが望ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の医療用ハンドピースによれば、術者はグリップ部を把持することにより、前記グリップ部の先端部に設けられたヘッド部を切削対象部位に向けて、装着された切削工具によって切削作業を行うことができる。このとき、前記給水管路からの水と前記給気管路からの空気とが混合されて水噴霧管路から噴射口を経て切削工具に向け噴射されるから、切削工具の発熱が抑えられる。しかも、水と空気の混合部には、液溜め部が設けられているから、液溜め部において前記のような層流を生じることなく気液の混合が充分になされる。これによって、噴射口から噴射される噴霧注水パターンは、全体が均一に霧化されたものとなる。従って、切削工具の長さ方向にわたりムラのない冷却が実現され、また、切削工具に付着する切削屑の除去も的確になされる。
【0010】
前記液溜め部が、前記混合部位における前記水噴霧管路を、前記切削工具の装着部位とは反対側に膨大化させることによって形成されているものした場合、この液溜め部による気液の混合がより的確になされる。従って、噴霧注水パターンが、全体にわたり気液がより均一なものとなる。因みに、液溜め部を前記切削工具の装着部位側に膨大化させることによって形成した場合も、気液の混合状態は、従来のものより優れるが、本発明のように、切削工具の装着部位とは反対側に膨大化させることによって形成する場合は、気液の混合がより優れることが本発明者等の試行によって実証されている。
【0011】
また、前記水噴霧管路が前記混合部位から前記噴射口に向かって内径が徐々に拡大するよう形成されているものとした場合、噴霧注水パターンの広がりが大きくなる。特に、前記噴射口の形状が前記グリップ部の長手方向に伸びる長円形とされているものとした場合、噴霧注水パターンは、装着される切削工具の長手方向に沿うよう広がることになり、長い切削工具に対しても、その作用部全体にわたる噴霧注水がなされ、充分な冷却効果等が得られる。更に、均一な噴霧ができることにより、切削工具の長短に関係なく、常に先端作用部を冷却することができる。
【0012】
更に、前記水噴霧管路を少なくとも1個備えておれば、前記の優れた効果が得られるが、2個以上備えているものとした場合には、これらを切削工具の周りに適宜間隔をおいて配置させることにより、歯牙や口腔組織に遮られることなく切削工具に対して複数方向から前記噴霧注水パターンが作用し、各噴霧注水パターンの気液の均一性とも相俟って、より効果的に切削工具の冷却及び切削屑の除去を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る医療用ハンドピースの一実施形態としての歯科用エアタービンハンドピースの側面図である。
【図2】同歯科用エアタービンハンドピースの要部の縦断面図である。
【図3】図2におけるIII線部の拡大図である。
【図4】図2におけるIV−IV線矢視図である。
【図5】同歯科用エアタービンハンドピースにおける水噴射パターンの例を示す図である。
【図6】同歯科用エアタービンハンドピースにおける水噴射パターンの発生原理を説明する図である。
【図7】本発明に係る医療用ハンドピースの他の実施形態としての歯科用エアタービンハンドピースにおけるヘッド部の下面図である。
【図8】図7におけるVIII−VIII線矢視拡大断面図である。
【図9】従来の歯科用エアタービンハンドピースにおける水噴射パターンの例を示す図5と同様図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の医療用ハンドピースの実施の形態について図面に基づき説明する。図1は、本発明に係る医療用ハンドピースの一実施形態としての歯科用エアタービンハンドピースの全体構成を示す側面図である。図1において、ハンドピース1は、術者が治療する際に手に持つ部分であるグリップ部2を有し、このグリップ部2の基端部には、従来のハンドピースと同様に空気や水などの作用媒体の供給チューブ3と接続する為の接続部2aが設けられ、グリップ部2の先端部にはネック部2bを介してヘッド部4が連結されている。このヘッド部4には切削工具5が着脱自在に装着可能とされている。図2は、図1のヘッド部4及びその近傍部を拡大した図である。これらの図面に示すように、ヘッド部4は、グリップ部2の先端に連結される軸部40と、前記切削工具5及び該切削工具5を駆動する駆動部6を収容する筒状ハウジング部41とを一体的に備えており、軸部40の軸心(グリップ部2の長手軸)40aに対して、筒状ハウジング部41の中心軸(以下、回転軸と言う)41aが垂直又はほぼ垂直に方向付けられている。
【0015】
ヘッド部4の軸部40は、筒状グリップ部2の先端に挿入固定できる大きさと形に加工された断面縮小部40bを有する。また、軸部40には、グリップ部2側の後端面40cと筒状ハウジング部41の内壁面とを流体的に連通する複数の貫通孔が形成されている。これら複数の貫通孔には、切削工具駆動部6に加圧空気を供給するための駆動用給気管路7と、切削工具駆動部6からの加圧空気を排気するための排気路8(一部図示省略)とが含まれる。また、軸部40には、図2に示すヘッド部4の下端面であって、切削工具5の装着部位の近傍に開口する水噴霧管路9と、該水噴霧管路9に合流する注水噴霧用の給水管路10及び給気管路11とが形成されている。
【0016】
駆動用給気管路7は、図1に示す作用媒体供給チューブ3との接続部2aからグリップ部2の内部に該グリップ部2の長手軸方向に沿って配設された給気パイプ70に接続されている。駆動用給気管路7は、給気パイプ70との接続部から分岐する複数の分岐管路からなり、これら分岐管路の先端部が筒状ハウジング部41の内壁面に臨み、その周方向に並ぶように開口されて、後記する切削工具駆動部6を構成するタービンに向け加圧空気が噴出されるよう構成されている。また、排気路8は、駆動用給気管路7の下方に形成されており、その先端部は筒状ハウジング部41の内壁面に開口し、一方、後端部は前記後端面40cに開口し、切削工具駆動部6で使用された加圧空気がこの排気路8及びグリップ部2の筒内を経て装置外に排出されるようになされている。
【0017】
前記注水噴霧用の給水管路10及び給気管路11は、図1に示す作用媒体供給チューブ3との接続部2aからグリップ部2の内部に該グリップ部2の長手軸方向に沿って配設された給水パイプ10a及び給気パイプ11aにそれぞれ接続されている。この給水パイプ10a及び給気パイプ11aは、それぞれ前記給水管路10及び給気管路11を構成する。更に、前記軸部40には、前記切削工具5の先端部を照明する為の導光体12が配設されている。
【0018】
図2に示すように、ヘッド部4の筒状ハウジング部41は、前記給気管路7から噴出される加圧空気を切削工具5の回転力に変換する駆動部6の外側形状に対応した形と大きさの円筒状内空部410を有する。この内空部410は、その上部と下部の開口部411、412において開放されている。そして、前記駆動部6が上部開口部411から内空部410に挿入され、内空部410に挿入された駆動部6に設けた工具支持部50に対して下部の開口部412を介して切削工具5が着脱自在に装着できるよう構成されている。また、内空部410に配置された駆動部6を、該内空部410の所定位置に保持するために、上部の開口部411にはキャップを兼ねるサブハウジング413が着脱自在に設けられている。該サブハウジング413は、その外周部に雄ねじが形成され、開口部411の内周部に形成された雌ねじ部に螺合され、ヘッド部4に取付けられるビス414によって、その螺合状態がロックされるようになされている。
【0019】
切削工具5の駆動部6は、内空部410の前記回転軸41aに沿って切削工具5を支持する工具支持部50を有する。工具支持部50には、一端部(図2の下端部)から所定の深さの工具支持穴(図示省略)が形成されている。また、工具支持部50は、工具支持穴に挿入された切削工具5を保持する機構を備え、この保持する機構としては、公知のチャック方式或いはフリクション方式等による機構が採用される。前記工具支持部50は、上部と下部にそれぞれ設けた上部軸受部61と下部軸受部62とによって、回転軸41aを中心に回転自在に支持されている。上部軸受部61と下部軸受部62は、基本的に、同一の構成を有し、本実施形態では周知の玉軸受を採用している。しかし、軸受の構造は玉軸受に限るものでなく、他の軸受構造(例えば、滑り軸受や空気軸受等)を採用してもよい。そして、これら玉軸受としての上部軸受部61及び下部軸受部62のそれぞれの内側リング(図示省略)は工具支持部50に外装されて固定されている。他方、上部軸受部61の外側リング611は、前記サブハウジング413に対してOリング612を介して圧入状態で固定されている。サブハウジング413の内周部には該Oリング612を収容する周溝413aが形成されている。このOリング612によって、後記するロータ63に噴出される加圧空気の上方への漏れが防止される。下部軸受部62の外側リング621は、筒状ハウジング部41の内空部410に対してOリング622を介して圧入状態で固定されている。このOリング622によって、加圧空気の下方への漏れが防止される。該Oリング622は、筒状ハウジング部41の内空部410の下部内周に形成される周溝410aに収容されている。
【0020】
前記工具支持部50における前記上部軸受部61と下部軸受部62との間に位置する部分には、前記給気管路7から噴出される加圧空気を利用して、工具支持部50、更に該工具支持部50を介して切削工具5を前記回転軸41a周りに回転させる為の2段式ロータ63が一体に設けられている。ロータ63は、上段の第1のタービンブレード部631と、下段の第2のタービンブレード部632とよりなる。第1のタービンブレード部631及び第2のタービンブレード部632は、それぞれ複数のタービン翼631a,632aを備えている。各タービン翼631a,632aの前記回転軸41aに向かう方向から見た側面形状は、前者がロータ63の回転方向に凹む凹面形状とされ、後者がこれとは反対の方向に凹む凹面形状とされている。前記筒状ハウジング部41における内空部410における内周には、駆動部6が所定位置に設置された状態で前記第1のタービンブレード部631及び第2のタービンブレード部632間に位置する部位に、前記第1のタービンブレード部631に噴射された加圧空気を第2のタービンブレード部632に導く為の導入部615が形成されている。該導入部615は、複数の凹状空所からなり、内空部410の内周に周方向に沿って並ぶよう形成されている。
【0021】
前記水噴霧管路9は、図3及び図4にも示すように、前記注水噴霧用の給水管路10及び給気管路11が合流する気液の混合部位90より先側に形成され、その先端部は、ヘッド部4の下端面であって、切削工具5の装着部位の近傍に開口し、この開口部が噴射口91とされている。該水噴霧管路9は、前記混合部位90から前記噴射口91に向かって内径が徐々に拡大するよう形成されている。噴射口91の形状は、前記グリップ部2の長手方向(前記長手軸40aに沿った方向)に伸びる長円形とされている。そして、前記混合部位90には、液溜め部92が形成されており、該液溜め部92は、前記混合部位90における前記水噴霧管路9を、前記切削工具5の装着部位とは反対側に膨大化させることによって形成されている。
【0022】
以上のように構成されたハンドピース1を用いて歯牙の切削を行なう場合、図1に示すように、目的の作業に適した切削工具5が選択されて、工具支持部50にその下方から装着される。次に、図示しない加圧空気供給源から供給された加圧空気が供給用チューブ3を通じて給気管路7に送り込まれる。次に、加圧空気は、給気管路7から、その先側に形成されたノズル部(図示省略)によって加速され、ロータ63の回転軸41aと直交する方向に(ロータ63の回転方向60に関して下流側に)向け噴出される。ロータ63に吹き込まれた加圧空気は、第1のタービンブレード部631のタービン翼631aに作用し、ロータ63は回転軸41aの軸心周りに矢印60方向に回転する。第1のタービンブレード部631のタービン翼631aは、その側面形状が回転方向60に凹む凹曲形状とされているから、第1のタービンブレード部631に吹き込まれた加圧空気のエネルギーは、ロータ63の回転動力として効果的に消費される。従って、この段階でロータ63は高回転速度で大きな回転トルクを保有した状態で回転することになる。
【0023】
そして、第1のタービンブレード部631に供給された加圧空気は、各タービン翼631a間から下方に流れ、ロータ63の回転と共にヘッド部4の筒状ハウジング部41に形成されている前記導入部615を経てロータ63における第2のタービンブレード部632の各タービン翼632a間に送り込まれる。各タービン翼632a間に流入した加圧空気は、下方に移動し、排気路8に送り出される。排気路8に送り出された空気は、グリップ部2の内筒部を経て、ハンドピース1に接続された作用媒体供給チューブ3を通じて外部に放出される。第2のタービンブレード部632に送り込まれた空気は、該第2のタービンブレード部632を構成するタービン翼632aに作用して、ロータ63の前記回転を更に推進する。しかし、該タービン翼632aの側面形状は第1のタービンブレード部631のタービン翼631aとは逆方向に凹む凹曲形状とされているから、第2のタービンブレード部632に導入された空気による回転推進力は左程大きくなく、ここでのロータ63の回転速度が高められる度合いは小さく、全体としてのロータ63の回転速度を抑えることができる。しかし、第1のタービンブレード部631に対する加圧空気の作用によって、ロータ63は回転トルクを充分に保有しているから、歯牙の切削用として求められる切削能力を維持することができる。しかも、ロータ63の回転速度が抑制されることにより、切削工具5の耐用回転速度以下とすることが可能となり、切削工具5の折損や、工具保持部50からの飛び出し等の懸念もなくし、更に、切削時の騒音或いは発熱が小さくなり、患者に不快感を与えることもなくなる。加圧空気の噴出を停止させると、ロータ63の回転が停止するが、ロータ63の回転中は、前記導入部615を構成する複数の凹状空所に常時空気が充満され、この部分の内圧が高い状態とされるから、加圧空気の噴出を停止させても、サックバックがおこらず、歯牙の切削部位から切削屑や治療液等がヘッド部4の機構部内に吸引されることがない。
【0024】
前記のように、ロータ63を高速回転させながら、切削工具5を歯牙の治療対象部位に作用させて歯牙の切削治療がなされる。この時、切削工具5は摩擦によって発熱し、高温になると生体等に悪影響を及ぼす。その為、切削作業中、前記水噴霧管路9より切削工具5に注水して、切削工具5を冷却し、また、切削工具5に付着する切削屑の除去を行う。この注水は、給水管路10からの水と、給気管路11からの空気とを混合部位90において混合し、この混合部位90に連なる水噴霧管路9を経て噴射口91から噴射させることによってなされる。この混合部位90は、水噴霧管路9を前記切削工具5の装着部位とは反対側に膨大化させることによって形成された液溜め部92を有しており、給水管路10からの水と、給気管路11からの空気とが液溜め部92においてよく混合される。従って、図5に示すように、噴射口91から気液の比率が均一な霧化状態の噴霧注水パターンPで噴霧注水がなされ、切削工具は、実線で示す長い切削工具5や、2点鎖線で示す短い切削工具51のように長短に関係なく、その長手方向(特に、先端作用部5a、51a)にムラなく冷却がなされると共に、切削屑の除去も的確になされる。図5では、噴霧注水パターンPにおける霧化状態が均一であることを表す為に、噴霧水の流れを全て同じ破線で擬似的に示しており、図9のような層流状態の噴霧注水パターンとは著しく異なることが理解される。
【0025】
図6は、図5のような噴霧注水パターンPの形成原理を説明する図であり、水噴霧管路9及びその近傍部を切欠いた概念図として示している。図に示すように、給水管路10からの水と、給気管路11からの空気とが混合部位90で混合する際、その直近部に液溜め部92が形成されているから、両流体(水及び空気)は、図の曲線で示すように乱流を起こし、その混合が促進される。従って、水噴霧管路9から噴射口91に向け流出する際には、その横断面領域において気液の混合比率が均一化され、この状態で噴射口91から切削工具5に向け噴射され、これによって、図5に示すような霧化状態が均一な噴霧注水パターンPが得られる。そして、水噴霧管路9の軸心は、切削工具5に向くよう該切削工具5の軸心(回転中心41a)に対して傾斜し、且つ、液溜め部92が、混合部位90における水噴霧管路9を前記切削工具5の装着部位とは反対側に膨大化させることによって形成されているから、この混合が極めて効果的になされる。また、水噴霧管路9が、前記噴射口91に向かって内径が徐々に拡大するよう形成されているから、噴霧注水パターンPが切削工具5に向かって広がるように形成される。しかも、図4に示すように、噴射口91の形状が前記グリップ部2の長手軸40aに沿って伸びる長円形とされているから、噴霧注水パターンPが上下に大きく広がる扇方の形状をなし、長い切削工具5であっても、その作用部全体に噴霧注水がなされ、効果的な冷却或いは切削屑除去が実現される。
【0026】
図7及び図8は本発明の医療用ハンドピースの他の実施形態としての歯科用エアタービンハンドピースを示している。尚、図7は同歯科用エアタービンハンドピース1におけるヘッド部4の下面図(図4と同様図)であり、図8は図7のVIII−VIII線矢視拡大断面図であって、下部の開口部412を下向きにして示している。この実施形態では、水噴霧管路9を3個備えており、3個の噴射口91がヘッド部4の下面に、前記回転軸41aを中心とする周方向に沿って120°毎の間隔で設けられている。ヘッド部4の下部開口部412には、水及び空気の周溝形成用のリング部材415が装着され、このリング部材415の装着状態で給水用周溝10b及び給気用周溝11bが、ヘッド部4の下部開口側内周面との間に形成される。そして、給水用周溝10b及び給気用周溝11bは、それぞれ前記給水パイプ10a及び給気パイプ11aに連なる(連なり部分の図示省略)と共に、その周方向3箇所において給水管路10及び給気管路11に連通するよう構成されている。給水管路10及び給気管路11は、前記と同様に合流して気液の混合部位90を形成する。ヘッド部4に対するリング部材415の装着部位には、Oリング416,417が介在され、前記給水用周溝10b及び給気用周溝11bを流通する水及び空気の水密性及び気密性が保たれている。
【0027】
3個の水噴霧管路9は、前記と同様に、いずれも前記混合部位90よりヘッド部4に装着される切削工具(図示省略)の作用部に向くよう形成され、また、混合部位90から前記噴射口91に向かって内径が徐々に拡大するよう形成されている。更に、各噴射口91の形状は、前記回転軸41aを中心として放射方向に伸びる長円形とされている。このような構成の歯科用エアタービンハンドピース1においても、各噴射口91からは図5に示すような気液の比率が均一な霧化状態の噴霧注水パターンPで噴霧注水がなされる。しかも、回転軸41aを中心として3方からこの噴霧注水がなされるから、切削工具の冷却効果や、切削屑除去効果が一層向上する。
【0028】
尚、前記の実施形態では、歯科用のエアタ−ビンハドピースを例に採って説明したが、術者によって使用されるその他の医療用ハンドピースにも本発明を適用することができる。また、水噴霧管路9に通じる給水管路10及び給気管路11の形成態様は、例示のものに限定されるものではない。更に、図7及び図8に示す実施形態において、水噴霧管路9及び噴射口91をそれぞれ3個設けた例を示したが、これに限らず、例えば2個或いは4個であっても良い。
【符号の説明】
【0029】
1 歯科用エアタービンハンドピース(医療用ハンドピース)
2 グリップ部
4 ヘッド部
40a 長手軸
5 切削工具
9 水噴霧管路
90 混合部位
91 噴射口
92 液溜め部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
術者により把持されるグリップ部と、
前記グリップ部の先端部に設けられ、前記グリップ部の長手軸に交差するよう切削工具を着脱自在に装着し得るヘッド部と、
前記グリップ部内に挿通され、前記ヘッド部に及ぶ給水管路及び給気管路と、
前記ヘッド部に形成され、前記給水管路からの水と前記給気管路からの空気とを混合して噴射口から前記切削工具に向けて噴射する為の水噴霧管路とを備えた医療用ハンドピースにおいて、
前記水噴霧管路における前記給気管路からの空気と前記給水管路からの水との混合部位に、液溜め部を設けたことを特徴とする医療用ハンドピース。
【請求項2】
請求項1に記載の医療用ハンドピースにおいて、
前記液溜め部が、前記混合部位における前記水噴霧管路を、前記切削工具の装着部位とは反対側に膨大化させることによって形成されていることを特徴とする医療用ハンドピース。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の医療用ハンドピースにおいて、
前記水噴霧管路が前記混合部位から前記噴射口に向かって内径が徐々に拡大するよう形成されると共に、前記噴射口の形状が前記グリップ部の長手方向に伸びる長円形とされていることを特徴とする医療用ハンドピース。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の医療用ハンドピースにおいて、
前記水噴霧管路を少なくとも1個備えていることを特徴とする医療用ハンドピース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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