説明

医療用バスケット型処置器具

【課題】嵌頓時でも、安全に嵌頓を解除することが可能で、先端チップをバスケットワイヤごと回収可能で、患者の体に対する負担が小さい医療用バスケット型処置器具を提供すること。
【解決手段】管状のシース4内部に配置された操作用ワイヤ24と、操作用ワイヤの遠位端部に接続され、操作用ワイヤをシースの内部で長手方向に沿って移動させ、シースの遠位端から出入りさせることで、拡開・収縮可能になっているバスケット部22と、バスケット部の遠位端部に具備され、バスケット部を構成する複数本のバスケットワイヤ22a〜22fの各遠位端部が束ねられた先端チップ50とを有する医療用バスケット型処置器具2であって、先端チップ50は、先端チップの他の部分に比較して強度が弱い第1脆弱部54を有しており、操作用ワイヤ24に所定以上の力が付与された場合に、操作用ワイヤが切断されることなく、第1脆弱部54で先端チップ50が分離されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用バスケット型処置器具に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用バスケット型処置器具は、患者の消化管等から、異物(結石など)を回収するために用いられている。医療用バスケット型処置器具は、シースの遠位端から繰り出される複数本のバスケットワイヤが、異物を把持・開放できるように構成されている。操作者が、バスケットワイヤの近位端に接続してある操作用ワイヤを引張るように操作することにより、バスケットワイヤが異物を把持した状態で、異物を回収することが可能である。なお、把持した異物のサイズが大きすぎて、異物の回収も開放もできなくなる場合がある(嵌頓)。
【0003】
そこで、嵌頓となった場合に、バスケット型処置器具のバスケットワイヤの遠位端が先端チップから外れるように構成することで、医療用バスケット型処置器具を体内から取り出すことを容易にする技術が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、バスケットワイヤの遠位端を先端チップから外した後、先端チップが、患者の体内に残留してしまう。そのため、先端チップを回収するための他の処置を別途行う必要があり、患者の体へ更に負担をかけてしまうという課題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2004−516880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、嵌頓時でも、安全に嵌頓を解除することが可能で、先端チップをバスケットワイヤごと回収可能で、患者の体に対する負担が小さい医療用バスケット型処置器具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る医療用バスケット型処置器具は、
管状のシース内部に配置された操作用ワイヤと、
前記操作用ワイヤの遠位端部に接続され、前記操作用ワイヤを前記シースの内部で長手方向に沿って移動させ、前記シースの遠位端から出入りさせることで、拡開および収縮可能になっているバスケット部と、
前記バスケット部の遠位端部に具備され、前記バスケット部を構成する複数本のバスケットワイヤの各遠位端部が束ねられた先端チップとを有する医療用バスケット型処置器具であって、
前記先端チップは、前記先端チップの他の部分に比較して強度が弱い第1脆弱部を有しており、
前記操作用ワイヤに所定以上の力が付与された場合に、前記操作用ワイヤが切断されることなく、前記第1脆弱部で前記先端チップが分離されることを特徴とする。
【0008】
本発明では、嵌頓時、操作者が、操作用ワイヤを引張る力を徐々に強めるように、医療用バスケット型処置器具の操作を行う。本発明では、先端チップの他の部分に比較して、第1脆弱部の強度が弱く構成してある。このため、所定以上の力が操作用ワイヤに付与された場合に、操作用ワイヤが切断されることなく、第1脆弱部で先端チップが分離される。すなわち、操作用ワイヤが切断されるよりも前に、バスケットワイヤの遠位端を束ねる先端チップが、第1脆弱部で分離される。このため、バスケット部から異物が開放され、嵌頓状態が解かれる。しかも、本発明では、先端チップが分離した後にも、各々の先端チップがバスケットワイヤの遠位端と接続状態にある。このため、シースをワイヤと共に引き抜けば、先端チップが体内に残されることも無い。したがって、患者のダメージを低減することができる。
【0009】
好ましくは、前記第1脆弱部は、前記操作用ワイヤまたは前記バスケットワイヤの少なくとも1つのワイヤが破損する力に比較して弱い力で分離されるように構成してある。
【0010】
嵌頓時、操作者が、しだいに操作用ワイヤを引張る力を強くしていった場合にも、操作用ワイヤまたはバスケットワイヤの少なくとも1つのワイヤが破損するよりも先に、第1脆弱部で先端チップが分離し、それ以上の力はワイヤに伝わらない。このため、患者の体内で操作用ワイヤまたはバスケットワイヤが破損するといった事態が発生する虞はない。
【0011】
好ましくは、前記先端チップの遠位側に、第1脆弱部が形成してあり、前記先端チップの近位端には、長手方向に沿って切欠きまたは隙間が形成してある。
【0012】
先端チップの近位端には、長手方向に沿って切欠きまたは隙間が形成してあるため、バスケットワイヤで異物を把持する力が強まった時に、切欠きまたは隙間を広げようとする力が作用する。したがって、先端チップが第1脆弱部で割れやすい。
【0013】
好ましくは、少なくとも1本の前記バスケットワイヤが接合される第1チップ部分と、他の前記バスケットワイヤの内の少なくとも1本が接合される第2チップ部分とが、前記先端チップに設けられた前記第1脆弱部を介して接合または一体化されている。
【0014】
バスケットワイヤで異物を把持する力が強まった時に、第1チップ部分と第2チップ部分とを離そうとする力が第1脆弱部に作用する。したがって、先端チップが第1脆弱部で割れやすい。
【0015】
好ましくは、前記第1チップ部分と前記第2チップ部分とを接合する第2脆弱部が、前記第1脆弱部とは別に、前記第1脆弱部より近位側に形成してある。
【0016】
第2脆弱部が、第1脆弱部より近位側に形成してあるため、バスケットワイヤで異物を把持する力が強まった時に、第1脆弱部を支点として、第2脆弱部で分離させようとする力が作用し、分離され易い。なお、第1脆弱部以外に第2脆弱部が形成してあるために、第1チップ部分と第2チップ部分との接合強度も向上する。
【0017】
好ましくは、前記第1脆弱部の強度に比較して、前記第2脆弱部の強度が弱く形成してある。このため、バスケットワイヤで異物を把持する力が強まった時に、第2脆弱部で先端チップの近位側が先に分離し易くなり、先端チップの遠位側(第1脆弱部)で分離するように案内できる。
【0018】
好ましくは、前記第1脆弱部および前記第2脆弱部は、切欠きにより残された部分、他より厚みが薄い薄肉部分、他と異なる材質の異材質部分、2以上の部品を接合する接合部分、切り溝が形成されている溝形状部分の少なくとも一つである。また、第1脆弱部および第2脆弱部は、切欠きにより残された部分、他より厚みが薄い薄肉部分、他と異なる材質の異材質部分、2以上の部品を接合する接合部分、切り溝が形成されている溝形状部分の組み合わせであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る医療用バスケット型処置器具の平面図である。
【図2】図2は、図1に示すバスケット部の斜視図である。
【図3】図3は、図2に示す先端チップの側面図である。
【図4】図4は、図1に示す医療用バスケット型処置器具の使用状態を説明する参考斜視図である。
【図5】図5(A)は、図1に示すバスケット部が異物を把持している状態を模式的に示す説明図、図5(B)は、図5(A)に示す先端チップが分離する様子を模式的に示す説明図である。
【図6】図6は、本発明の他の実施形態に係る医療用バスケット型処置器具の先端チップを示す側面図である。
【図7】図7(A)は、図6に示すバスケット部が異物を把持している状態を模式的に示す説明図、図7(B)は、図7(A)に示す先端チップが分離する様子を模式的に示す説明図である。
【図8】図8は、本発明の他の実施形態に係る医療用バスケット型処置器具の先端チップを示す側面図である。
【図9】図9は、本発明の他の実施形態に係る医療用バスケット型処置器具の先端チップを示す側面図である。
【図10】図10は、本発明の他の実施形態に係る医療用バスケット型処置器具の先端チップを示す側面図である。
【図11】図11は、予め第1脆弱部が一体化された先端チップ部品の様子を示す斜視図である。
【図12】図12(A)は、図11に示す先端チップ部品を用いて先端チップを構成した場合の側面図、図12(B)は、図12(A)のXIIB−XIIB断面図である。
【図13】図13は、図11に示す先端チップ部品の変形例を示す斜視図である。
【図14】図14は、図11に示す先端チップ部品の変形例を示す斜視図である。
【図15】図15(A)は、本発明の他の実施形態に係る医療用バスケット型処置器具の先端チップを示す側面図、図15(B)は、図15(A)のXVB−XVB断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
第1実施形態
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。図1および図2に示す医療用バスケット型処置器具2は、図4に示すように内視鏡40のチャネル内に軸方向移動自在に挿入され、不図示の消化管等の内側に挿入されて使用されるものである。
【0021】
まず、医療用バスケット型処置器具2の全体構成について説明する。図1および図2に示すように、本実施形態の医療用バスケット型処置器具2は、遠位端4aから近位端4bに連続する内腔5を有するシース4と、シース4の近位端4bが接続してある操作部材3と、シース4の内腔5を軸方向に貫通するバスケット付きワイヤ部材20とを有する。
【0022】
シース4の内径は、好ましくは0.8mm〜2.6mmであり、シース4の肉厚は、好ましくは0.1mm〜1.0mmである。シース4の軸方向長さは、特に限定されないが、1500mm〜2500mmである。
【0023】
シース4は、たとえば、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂などの樹脂チューブ、あるいは金属製コイルをフッ素樹脂で被覆してあるコイルチューブで構成してある。シース4をこのようなチューブで構成することで、曲がりくねった体腔内に沿って挿入可能である程度の適度な可撓性を有する。なお、シース4の挿入特性を向上させるために、シース4の遠位端部の所定長さ範囲のみを特に柔軟に構成しても良い。シース4の遠位端部の所定長さ範囲のみを特に柔軟に構成するための手段としては、特に限定されないが、たとえば遠位端部の外径を小さくしたり、コイルチューブにおけるコイルの巻きピッチを遠位端側で疎にすればよい。
【0024】
図1に示すように、シース4の近位端部4bには、操作用本体30が装着してある。操作用本体30には、操作用把手32が軸方向に移動自在に装着してある。
【0025】
図1および図2に示すように、シース4の内腔5には、その軸方向に沿って移動自在にバスケット付きワイヤ部材20が挿入される。このバスケット付きワイヤ部材20は、操作用ワイヤ24と、その遠位端部に接合部28を介して接続してあるバスケット部22とを有する。
【0026】
図2に示すように、バスケット部22は、本実施形態では、6本のバスケットワイヤ22a〜22fから成り、6本のバスケットワイヤ22a〜22fの先端部が先端チップ50により接合してある。バスケットワイヤ22a〜22fの後端部は、接合部28において、銀ロー溶接などの溶接法やかしめにより結束してあり、操作用ワイヤ24に接合してある。
【0027】
各バスケットワイヤ22a〜22fは、シース4の遠位端4aに形成してある開口部41から飛び出した状態で、図2に示すように、半径方向外方に弾力により膨らむように、各ワイヤが捩れるように形成してある。その結果、図5(A)に示すように、バスケットワイヤ22a〜22fの間の隙間に胆石や結石などの異物60などを把持することが可能になっている。このバスケット部22は、シース4の内部に引き込まれた状態では、折り畳まれて、その外径が小さくなるように弾性変形可能になっている。
【0028】
操作用ワイヤ24は、バスケット部22を構成する6本のバスケットワイヤ22a〜22fを長手方向に延長することにより構成しても良いが、これらバスケットワイヤ22a〜22fとは全く別のワイヤにより構成しても良い。操作用ワイヤ24は、その近位端側に作用する操作力をバスケット部22まで伝達し、シース4の内部で折り畳まれたバスケット部22をシース4の遠位端4aの開口部41から外部に送り出すことが可能な程度の剛性を有する。また、この操作用ワイヤ24は、シース4の開口部41から遠位側で拡開し、バスケットワイヤ22a〜22fが異物60の把持を維持できる力よりも大きい引張強度を有する。操作用ワイヤ24は、たとえば線径が0.4mm〜2.5mm程度の金属製ワイヤで構成してある。操作用ワイヤ24の材質としては、ステンレス鋼、ニッケルチタン合金を用いることが好ましい。
【0029】
バスケット部22を構成するバスケットワイヤ22a〜22fは、たとえば線径が0.1mm〜1.0mm程度の金属製ワイヤで構成してある。ワイヤの材質としては、たとえばニッケルチタン合金、ステンレス、金、銀、白金、ニッケル、鉄、チタン、アルミ、スズ、亜鉛、タングステンなどが例示されるが、ニッケルチタン合金が好ましい。ニッケルチタン合金は、形状記憶合金の一種であり、超弾性の特性を有し、胆石などを把持するときにワイヤのキンクを防ぐことができると共に、ワイヤが開いた形状を維持しやすいからである。
【0030】
図1および図2に示す先端チップ50は、図3に示すように、バスケットワイヤ22a〜22cの遠位端を接続する第1チップ部分51と、残りのバスケットワイヤ22d〜22fの遠位端を接続する第2チップ部分52を有している。第1チップ部分51と第2チップ部分52との接続は、ロー付、半田付、レーザ溶接、カシメ、接着などにより行われる。先端チップ50の遠位側には、先端球形状の第1脆弱部54が形成してあり、第1チップ部分51と第2チップ部分52とは、第1脆弱部54と一体化してある。
【0031】
図3に示すように、先端チップ50の近位端には、長手方向に沿って切欠き55が形成してある。切欠き55の長手方向の深さDは、特に限定されないが、先端チップ50の長手方向全長LOに対して10%〜80%の深さであることが好ましい。なお、切欠き55の代わりに、先端チップ50の近位端には、長手方向に沿って切り溝が形成してあっても良い。先端チップ50の材質としては、特に限定されないが、ステンレス鋼、ニッケルチタン合金、合成樹脂等を用いることが好ましい。
【0032】
図5(A)に示すように、バスケットワイヤ22a〜22fが、比較的サイズの大きい異物60を把持し、嵌頓状態になったとする。操作者は、医療用バスケット型処置器具2の使用中、図1に示す操作用第1孔30a、操作用第2孔32b、操作用第3孔32cに、指を引っ掛けて操作を行っている。嵌頓状態になった場合に、操作者は、操作用把手32を、近位側へ徐々にスライドさせてバスケット付きワイヤ部材20を引張り、図5(A)に矢印で示すように、バスケット部22を徐々にシース4の内腔5へ収容していく。また、シース4を、コイルシース等の丈夫な他のシースに交換して、上記と同様に操作しても良い。
【0033】
このように、バスケット付きワイヤ部材20(操作用ワイヤ24およびバスケットワイヤ22)に所定以上の力が作用した場合に、図5(B)に示すように、バスケット付きワイヤ部材20が切断されることなく、第1脆弱部54で先端チップ50が2片に分離する。第1脆弱部54の強度は、バスケット付きワイヤ部材20の強度に対して20%〜80%の強度に弱く構成してある。
【0034】
本実施形態のバスケット部22を成形するには、まず、ワイヤ22a〜22fを捩った状態に癖付けを行い、ワイヤ22a〜22fの遠位端部を先端チップ50と銀ロー溶接などで接合する。その後、切断具等を用いて、図3に示すように、先端チップ50の近位端から長手方向に沿って切欠き55を形成すればよい。あるいは切欠き55が形成された先端チップ50の第1チップ部分51および第2チップ部分52に、それぞれワイヤ22a〜22c,22d〜22fを接合しても良い。
【0035】
次に、本実施形態に係る医療用バスケット型処置器具2の使用方法について説明する。図4に示すように、本実施形態に係る医療用バスケット型処置器具2は、通常内視鏡40と共に使用される。内視鏡40のチューブ本体42の遠位端が、常法に従い消化管等の目的部位まで案内された段階で、内視鏡の近位端から医療用バスケット型処置器具2をチューブ本体42のチャネル内部に差し込む。医療用バスケット型処置器具2の遠位端部を、内視鏡40のチューブ本体42の遠位端開口から側方に飛び出させ、消化管内に挿入する。医療用バスケット型処置器具2の遠位端部には、金属製短管(不図示)が装着してあるため、医療用バスケット型処置器具2の遠位端部の挿入位置は、X線により観察することができる。
【0036】
その後、必要に応じて、シース4を通して、図2に示す造影剤用開口10から造影剤を消化管内に流し、消化管内の内部をX線により観察する。次に、シース4の遠位端の開口部41から、バスケット付きワイヤ部材20のバスケット部22を飛び出させ、バスケット部22を拡げ、胆石や結石などの異物60をバスケット部22により掴む。嵌頓状態でなければ、異物60をバスケット部22により把持した状態(バスケット付きワイヤ部材20の引張力を維持した状態)で、シース4をバスケット付きワイヤ部材20と共に、消化管から引き抜き、異物60の除去を行う。もし嵌頓状態であれば、上述したように、操作者は、操作用把手32を、近位側へ徐々にスライドさせてバスケット付きワイヤ部材20を引張り、図5(A)に矢印で示すように、バスケット部22を徐々にシース4の内腔5へ収容していく。また、シース4を、コイルシース等の丈夫な他のシースに交換して、上記と同様に操作しても良い。その結果、先端チップ50の切欠き55を広げる方向に力が作用し、第1脆弱部54で先端チップ50が2つに分離され、そのため、異物60は、バスケット部22から離れ、嵌頓状態が解除される。そして、図5(B)に示すように分離した先端チップ50を、シース4をバスケット付きワイヤ部材20と共に、消化管から引き抜く。
【0037】
本実施形態では、先端チップ50の他の部分に比較して、第1脆弱部54の強度が弱く構成してある。このため、嵌頓時に所定以上の力が操作用ワイヤ24に付与された場合に、操作用ワイヤ24またはバスケットワイヤ22a〜22fが切断されることなく、第1脆弱部54で先端チップ50が分離される。すなわち、操作用ワイヤ24またはバスケットワイヤ22a〜22fが切断されるよりも前に、バスケットワイヤ22の遠位端を束ねる先端チップ50が、第1脆弱部54で分離される。
【0038】
このため、バスケット部22から異物60が開放され、嵌頓状態が解かれる。しかも、本実施形態では、先端チップ50が分離した後にも、第1部分51を有する先端チップ50はバスケットワイヤ22a〜22cの遠位端と接続状態にあり、第2部分52を有する先端チップ50はバスケットワイヤ22d〜22fの遠位端と接続状態にある。このため、シース4をバスケット付きワイヤ部材20と共に引き抜けば、先端チップ50が体内に残されることも無い。したがって、患者へのダメージを低減することができる。
【0039】
また、嵌頓時、操作者が、しだいに操作用ワイヤ24を引張る力を強くしていった場合にも、操作用ワイヤ24またはバスケットワイヤ22a〜22fの少なくとも1つのワイヤが破損するよりも先に、第1脆弱部54で先端チップ50が分離し、それ以上の力は操作用ワイヤ24およびバスケットワイヤ22a〜22fに伝わらない。このため、患者の体内で操作用ワイヤ24またはバスケットワイヤ22a〜22fが破損するといった事態が発生する虞はない。
【0040】
さらに、先端チップ50の近位端には、長手方向に沿って切欠き55が形成してあるため、バスケットワイヤ22a〜22fで異物60を把持する力が強まった時に、切欠き55を広げようとする力が作用し、第1チップ部分51と第2チップ部分52とを離そうとする力が第1脆弱部54に作用する。したがって、先端チップ50が第1脆弱部54で割れやすい。
第2実施形態
【0041】
本実施形態では、以下に述べる以外は、上述した第1実施形態と同様であり、重複する説明を省略する。
【0042】
図6に示すように、本実施形態の先端チップ50aは、バスケットワイヤ22a〜22cの遠位端を接続する第1チップ部分(第1管状部品)51aと、残りのバスケットワイヤ22d〜22fの遠位端を接続する第2チップ部分(第2管状部品)52aを有している。先端チップ50の遠位側には、先端球形状の第1脆弱部54aが、合成樹脂、半田または溶接により形成してあり、第1脆弱部54aよりも近位側には、第2脆弱部55aが、合成樹脂、半田または溶接により形成してある。第1管状部品51aと第2管状部品52aとは、第1脆弱部54および第2脆弱部55aで接続されている。第1管状部品51aおよび第2管状部品52aの材質は特に限定されないが、ステンレス鋼、ニッケルチタン合金、合成樹脂等により構成されることが好ましい。
【0043】
好ましくは、第1脆弱部54aの強度に比較して、第2脆弱部55aの強度が弱く形成してある。このように構成する手段としては、たとえば、第1脆弱部54aの強度に比較して、第2脆弱部55aの強度が弱くなるように、半田成分を異ならせることなどが考えられる。また、シース4を、コイルシース等の丈夫な他のシースに交換して、上記と同様に操作しても良い。
【0044】
図7(A)に示すように、バスケットワイヤ22a〜22fが、比較的サイズの大きい異物60を把持し、嵌頓状態になったとする。操作者は、図1に示す操作用把手32を、近位側へ徐々にスライドさせてバスケット付きワイヤ部材20を引張り、図7(A)に矢印で示すように、バスケット部22を徐々にシース4の内腔5へ収容していく。
【0045】
このように、バスケット付きワイヤ部材20(操作用ワイヤ24およびバスケットワイヤ22)に所定以上の力が作用した場合には、まず、第2脆弱部55aが先に分離し始め、次に、第1脆弱部54aが分離する。そして、図7(B)に示すように、バスケット付きワイヤ部材20が切断されることなく、第1脆弱部54aおよび第2脆弱部55aで、先端チップ50aが2片に分離する。
【0046】
本実施形態の先端チップ50aを形成するには、まず、図6に示す第1管状部品51aの内側に3本のバスケットワイヤ22a〜22cを通し、第1管状部品51aの遠位端を、レーザによって溶接した後に、余分なバスケットワイヤ22a〜22cを切断する。また、第2管状部品52aの内側に、残りの3本のバスケットワイヤ22d〜22fを通し、第2管状部品52aの遠位端で、レーザによって溶接した後に、余分なバスケットワイヤ22d〜22fを切断する。
【0047】
次に、半田またはレーザ溶接によって、第1管状部品51aと第2管状部品52aの遠位端を接続する第1脆弱部54aを形成する。その後に、図6に示すように、半田またはレーザ溶接によって、第1脆弱部54aよりも近位側で、第1管状部品51aと第2管状部品52aの外周面同士を接続する第2脆弱部55aを形成する。なお、第1脆弱部54aと第2脆弱部55aとを半田などにより同時に作ると共に、第1脆弱部54aおよび第2脆弱部55aに対するバスケットワイヤ22a〜22cおよび22d〜22fの接続も同時に行い、その後に余分なバスケットワイヤ22の切断を行っても良い。
【0048】
また、図8に示すように、第1管状部品51aと第2管状部品52aとが、先端チップ50の遠位側で、第1脆弱部54aのみによって半田やレーザー溶接で接続されるように、先端チップ50bを構成しても良い。さらに、図9に示すように、レーザ溶接によって、第1管状部品51aと第2管状部品52aの遠位端を接続する第1脆弱部54cを形成し、スポット溶接によって、第1管状部品51aと第2管状部品52aの外周面同士を接続する第2脆弱部56cを形成しても良い。また、図示しないが、第2脆弱部56cよりも近位側に、第3脆弱部が形成してあっても良い。
【0049】
さらに、図10に示すように、第1管状部品51aと第2管状部品52aとが、先端チップ50の遠位側で、第1脆弱部54cのみによってレーザ溶接で接続されるように、先端チップ50dを構成しても良い。
【0050】
本実施形態では、第2脆弱部55a,56cが、第1脆弱部54a,54cより近位側に形成してあるため、バスケットワイヤ22a〜22fで異物60を把持する力が強まった時に、第1脆弱部54a,54cを支点として、第2脆弱部55a,56cで分離させようとする力が作用し、分離され易い。また、第1脆弱部54a,54c以外に第2脆弱部55a,56cが形成してあるために、第1管状部品51aと第2管状部品52aとの接合強度も向上する。
【0051】
また、第1脆弱部54a,54cの強度に比較して、第2脆弱部55a,56cの強度が弱く形成してあるため、バスケットワイヤ22a〜22fで異物60を把持する力が強まった時に、第2脆弱部55a,56cで先端チップ50a〜50dの近位側が先に分離し易くなり、先端チップ50a〜50dの遠位側(第1脆弱部54a,54c)で分離するように案内できる。
第3実施形態
【0052】
以下に述べる以外は、上述した実施形態と同様であり、重複する説明を省略する。本実施形態では、図11および図12に示すように、先端チップ50eは、予め一体成型された先端チップ部品57eを有している。
【0053】
先端チップ部品57eは、図12に示すように、第1管状部品51a’と、第2管状部品52a’とが、先端チップ50eの先端側で、第1脆弱部54eで一体的に形成されている。
【0054】
本実施形態の先端チップ50eを形成するには、第1管状部品51a’の内側に3本のバスケットワイヤ22a〜22cを通し、さらに第2管状部品52a’の内側に、残りの3本のバスケットワイヤ22d〜22fを通し、先端チップ部品57eの遠位端を、レーザによって溶接し、余分なバスケットワイヤ22a〜22fの遠位端を切断する。次に、先端チップ部品57eの遠位端に、たとえば半田で先端処理部58を形成する。先端処理部58は、バスケットワイヤ22d〜22fの遠位端が先端チップ50eに接続されるようにすると共に、先端チップ50eの遠位端に丸みを持たせることができる。
【0055】
なお、図13に示すように、先端チップ部品57fを構成するそれぞれの第1管状部品51a’、第2管状部品52a’の横断面を、それぞれ、より円形に近くなるように形成してあっても良い。
【0056】
また、図14に示すように、先端チップ部品57fの横断面の外周部が、全体として、円形に近くなるように形成してあっても良い。これにより、患者の体への負担を、さらに減らすことができる。
【0057】
本実施形態では、第1脆弱部54eが予め先端チップの一部として一体成型されているため、第1脆弱部54eの強度バラツキを低減できるという効果もある。
第4実施形態
【0058】
以下に述べる以外は、上述した実施形態と同様であり、重複する説明を省略する。本実施形態では、図15(A)および図15(B)に示すように、先端チップ50fが、第1管状部品51a、第2管状部品52a、および第3管状部品53aで構成してある。
【0059】
第1管状部品51aには、一部のバスケットワイヤ22a,22bが挿入してあり、第2管状部品52aには、他のバスケットワイヤ22c,22dが挿入してあり、第3管状部品53aには、残りのバスケットワイヤ22e,22fが挿入してある。第1脆弱部54aは半田またはレーザ溶接で構成してあり、第2脆弱部55aも半田またはレーザ溶接で構成してある。
【0060】
本実施形態では、先端チップ50fの断面を、より円形に近づけることができ、外径を、より小さくすることが可能になり、患者の体への負担をさらに低減することができる。また、本実施形態では、バスケットワイヤ22の本数や強度に応じて、先端チップ50fの設計の自由度を高めることができるなどの効果も期待できる。
【0061】
なお、上述した実施形態では、第1脆弱部54,54a〜54eが、先端チップ50〜50fの先端側にあるとして説明を行ったが、これに限定されない。第1脆弱部は、必ずしも先端チップの遠位側に形成されなくても良く、先端チップの近位側に形成されても良い。
【0062】
また、バスケットワイヤは6本であるとして説明を行ったが、これに限定されない。異物60を把持できる本数であれば、6本未満で構成しても良いし、7本以上で構成しても良い。ワイヤ本数が少ないと異物を把持しづらく、逆に多すぎても異物を収納しにくくなる上に、嵌頓の危険性が高まるため、ワイヤ本数は4〜8本であることが好ましい。
【符号の説明】
【0063】
4…シース
22…バスケット部
22a〜22f…バスケットワイヤ
24…操作用ワイヤ
50…先端チップ
51…第1チップ部分
52…第2チップ部分
55…第1脆弱部
55a…第2脆弱部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状のシース内部に配置された操作用ワイヤと、
前記操作用ワイヤの遠位端部に接続され、前記操作用ワイヤを前記シースの内部で長手方向に沿って移動させ、前記シースの遠位端から出入りさせることで、拡開および収縮可能になっているバスケット部と、
前記バスケット部の遠位端部に具備され、前記バスケット部を構成する複数本のバスケットワイヤの各遠位端部が束ねられた先端チップとを有する医療用バスケット型処置器具であって、
前記先端チップは、前記先端チップの他の部分に比較して強度が弱い第1脆弱部を有しており、
前記操作用ワイヤに所定以上の力が付与された場合に、前記操作用ワイヤが切断されることなく、前記第1脆弱部で前記先端チップが分離されることを特徴とする医療用バスケット型処置器具。
【請求項2】
前記第1脆弱部は、前記操作用ワイヤまたは前記バスケットワイヤの少なくとも1つのワイヤが破損する力に比較して弱い力で分離されるように構成してあることを特徴とする請求項1に記載の医療用バスケット型処置器具。
【請求項3】
前記先端チップの遠位側に、前記第1脆弱部が形成してあり、前記先端チップの近位端には、長手方向に沿って切欠きまたは隙間が形成してあることを特徴とする請求項1または2に記載の医療用バスケット型処置器具。
【請求項4】
少なくとも1本の前記バスケットワイヤが接合される第1チップ部分と、他の前記バスケットワイヤの内の少なくとも1本が接合される第2チップ部分とが、前記先端チップに設けられた前記第1脆弱部を介して接合または一体化されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の医療用バスケット型処置器具。
【請求項5】
前記第1チップ部分と前記第2チップ部分とを接合する第2脆弱部が、前記第1脆弱部とは別に、前記第1脆弱部より近位側に形成してあることを特徴とする請求項4に記載の医療用バスケット型処置器具。
【請求項6】
前記第1脆弱部の強度に比較して、前記第2脆弱部の強度が弱く形成してあることを特徴とする請求項5に記載の医療用バスケット型処置器具。
【請求項7】
前記第1脆弱部および前記第2脆弱部は、切欠きにより残された部分、他より厚みが薄い薄肉部分、他と異なる材質の異材質部分、2以上の部品を接合する接合部分、切り溝が形成されている溝形状部分の少なくとも一つであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の医療用バスケット型処置器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−219(P2013−219A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132243(P2011−132243)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】