説明

医療用ポリプロピレン系樹脂組成物及び成形品

【課題】薬剤吸着防止性に優れ、薬剤吸着量の少ない医療用ポリプロピレン系樹脂組成物及び成形品を提供する。
【解決手段】JIS K7210(230℃、2.16kg荷重)に準拠したメルトフローレート(MFR)が3〜50g/10分であり、かつ炭素数30以下のオリゴマー量が500μg/g以下であるプロピレン系樹脂100重量部と、造核剤0.01〜1重量部とを含むことを特徴とする医療用ポリプロピレン系樹脂組成物及び成形品など。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用ポリプロピレン系樹脂組成物及び成形品に関し、詳しくは、従来品に比べ、薬剤吸着量の少ない医療用ポリプロピレン系樹脂組成物、及び予め注射器に薬液が注入されるプレフィルドシリンジのような医療用成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、薬剤収納容器には、ガラス製バイアル瓶が用いられている。しかし、ガラス瓶では、輸送中や取り扱い中の落下事故により破損したり、重いため搬送者、医療従事者に肉体的、精神的負担を与えるものであった。この問題点の解決策として、容器のプラスチック化があり、輸液関係の薬剤については、かなりの部分がガラス製容器からプラスチック容器へ変換されているのが現状である。
一方、近年、特許文献1に記載のようなシリンジの先端部を封止したシリンジ内に薬液や注射液を充填し、さらに、一方をガスケットで封止した状態で輸送、保管し、投与の際には、シリンジ先端部に注射針もしくは投与用器具を取り付け、ガスケットを、押し込みシリンジ内を摺動させることにより、薬液や注射液を流出させ、投与が可能ないわゆるプレフィルドシリンジが使われ始めている。プレフィルドシリンジは、操作が非常に簡便であること、既に薬液と用量が設定されているため、誤用なく正確な投与が可能であること、緊急の場合においても、薬剤の調整を行う必要がないため、細菌の感染を回避できることなど、多くの利点を有しており、近年の医療現場においては、治療の効率化、医療過誤、細菌汚染防止などの観点から、各種薬剤のプレフィルド化が望まれてきている。
【0003】
薬剤収納容器のプラスチック化において、最も問題となる点は、薬剤が容器に吸着することによる力価低下である。既に、ニトログリセリンやインシュリンおよびベンゾジアゼピン系薬物などの脂溶性の高い多くの医薬品は、各種医薬品容器や輸液セット中で含量低下を起こすことが報告されており、注射液と医療用具との相互作用が問題となっている。
特にインシュリン注射液は、糖尿病患者が血糖値を低下させるために使用する薬剤であり、投与量の正確なコントロールが要求されている。このことから容器中で医薬品の含量低下(力価低下)が起きない薬剤収納容器が要求される。
この薬剤吸着の問題から、薬剤吸着を起こしやすい薬剤については、依然ガラス製容器、あるいはガラス製プレフィルドシリンジが用いられ、医師、看護師をはじめ搬送者に多大な肉体的、精神的負担を強いているのが現状である。
【0004】
収納容器のプラスチック化に関しては、その材料としてポリプロピレンを用いること、また、特殊な処理を施したポリプロピレンを用いることが開示されている(例えば、特許文献2、3参照。)。
しかしながら、これらの先行技術では、薬剤の吸着を低下させることに関しては記載されていない。
さらに、特許文献4、5には、プラスチックまたはガスケット基材の表面に、加工を施すことにより、薬剤吸着が改善されることが記載されているが、これらは、材料自体を改良するものではなく、余分な工程を必要としている。
【特許文献1】特開平9−276404号公報
【特許文献2】特開2005−314490号公報
【特許文献3】特開2005−8685号公報
【特許文献4】特開2002−177364号公報
【特許文献5】特開2004−298220号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、従来から使われている薬剤吸着性の高い薬剤に対し使用されているガラス製バイアル瓶、プレフィルドシリンジをはじめとした各種薬剤収納容器の作業性の悪さをプラスチック化により克服しようとするものであって、従来品に比べ、薬剤吸着防止性に優れ、薬剤吸着量の少ない医療用ポリプロピレン系樹脂組成物、及びプレフィルドシリンジのような医療用成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究の結果、特定のプロピレン系樹脂を基材とし、特定の造核剤を特定量含有するポリプロピレン系樹脂組成物を、医療用収納容器材料に用いると、輸送、保管中等に薬剤の力価または実質的に有効な薬剤量の低下を抑制することを見出し、これらの知見により、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、JIS K7210(230℃、2.16kg荷重)に準拠したメルトフローレート(MFR)が3〜50g/10分であり、かつ炭素数30以下のオリゴマー量が500μg/g以下であるプロピレン系樹脂100重量部と、造核剤0.01〜1重量部とを含むことを特徴とする医療用ポリプロピレン系樹脂組成物が提供される。
【0008】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、プロピレン系樹脂は、プロピレン単独重合体であることを特徴とする医療用ポリプロピレン系樹脂組成物が提供される。
さらに、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、プロピレン系樹脂は、エチレン又はα−オレフィンの含有量が0.1〜4重量%であるプロピレン系ランダム共重合体であることを特徴とする医療用ポリプロピレン系樹脂組成物が提供される。
【0009】
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、プロピレン系樹脂は、溶媒中で塊状重合を行った後、炭化水素系媒体で洗浄し得られるものであることを特徴とする医療用ポリプロピレン系樹脂組成物が提供される。
さらに、本発明の第5の発明によれば、第1〜4のいずれかの発明において、造核剤は、芳香族燐酸エステル金属塩化合物、有機リン酸Na塩化合物、ジナトリウム=(1R,2R,3S,4S)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボキシラートを主成分とする化合物、アミド系化合物、又は下記一般式(1)で示される構造を有する化合物であることを特徴とする医療用ポリプロピレン系樹脂組成物が提供される。
【0010】
【化1】

[式中、nは、0〜2の整数であり、R〜Rは、同一または異なって、それぞれ水素原子または炭素数が1〜20のアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、カルボニル基、ハロゲン基もしくはフェニル基であり、Rは、炭素数が1〜20のアルキル基である。]
【0011】
一方、本発明の第6の発明によれば、第1〜5のいずれかの発明に係る医療用ポリプロピレン系樹脂組成物を成形してなる成形品が提供される。
また、本発明の第7の発明によれば、第6の発明において、医療用器具または医療用容器であることを特徴とする成形品が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の医療用ポリプロピレン系樹脂組成物は、薬剤吸着防止性に優れ、薬剤吸着量が少ないから、医療用収納容器材料に用いると、輸送、保管中等に薬剤の力価または実質的に有効な薬剤量の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の医療用ポリプロピレン系樹脂組成物は、MFRが3〜50g/10分であり、かつ炭素数30以下のオリゴマー量が500μg/g以下であるプロピレン系樹脂100重量部と、造核剤0.01〜1重量部とを含むことを特徴とする。
以下、詳細に医療用ポリプロピレン系樹脂組成物の構成成分、及び医療用成形品などについて説明する。
【0014】
1.医療用ポリプロピレン系樹脂組成物の構成成分
(1)プロピレン系重合体(樹脂)
本発明の医療用ポリプロピレン系樹脂組成物で用いられるプロピレン系重合体は、プロピレン単独重合体であっても、プロピレン系共重合体であっても、あるいはこれらの混合物であってもよい。剛性が高いプロピレン単独重合体がより好ましい。
また、プロピレン系共重合体は、プロピレンと他のα−オレフィンとの共重合体であり、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であっても、どちらでも良いが、透明性の観点から、ランダム共重合体が望ましい。
【0015】
共重合体に用いられるα−オレフィンは、プロピレンを除く炭素数2〜20のα−オレフィンが挙げられ、例えば、エチレン、ブテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1等を例示できる。プロピレンと共重合されるα−オレフィンは、一種類でも二種類以上用いてもよい。このうち、エチレン、ブテン−1が好適であり、より好ましくはエチレンが好適である。また、これらプロピレン系重合体は、二種以上混合して使用してもよい。
【0016】
共重合に用いられるα−オレフィンの含量は、15重量%以下であることが好ましい。α−オレフィンの含量が15重量%を超えると、剛性が低くなり、容器等として不適となるおそれがある。また、10重量%以下が更に好ましく、特に0.1〜4重量%が好ましい。
ここで、プロピレン及びα−オレフィンの含量は、下記の条件の13C−NMR法によって計測される値である。
装置:日本電子社製 JEOL−GSX270
濃度:300mg/2mL
溶媒:オルソジクロロベンゼン
【0017】
また、本発明で用いられるプロピレン単独重合体は、アイソタクチックペンタッド分率が好ましくは0.90以上、より好ましくは0.94以上である。アイソタクチックペンタッド分率が0.90未満であると、剛性やバリアー性が満足できないおそれがある。
ここで、アイソタクチックペンタッド分率は、13C−NMRを用いたプロトンデカップリング法で測定する値である。
【0018】
本発明で用いられるプロピレン系重合体は、JIS K7210の「プラスチック―熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の試験方法」(試験条件:230℃、2.16kg荷重)に準拠したメルトフローレート(MFR)が3〜50g/10分の範囲のものであり、5〜40g/10分が好ましく、10〜30g/10分がさらに好ましい。メルトフローレートが3g/10分未満では、成形加工性の低下をきたし製品として満足できるものが得られ難くなるおそれがある。一方、50g/10分を超えると、機械的強度の低下が懸念される。
【0019】
また、プロピレン系重合体中から発生する揮発成分量(炭素数30以下のオリゴマー量)が500(μg/g)未満であると、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、薬剤吸着防止性に優れる。プロピレン系重合体の炭素数30以下のオリゴマー量が150(μg/g)未満が更に好ましく、より好ましくは50(μg/g)未満である。
【0020】
炭素数30以下のオリゴマー量は、ダイナミックヘッドスペース(DHS)−GC/MSによって測定をした。以下に測定法を示す。
(I)測定及び評価概要
試料を200℃に加熱し、そこで発生する揮発成分を−150℃で捕集した後、ガスクロマトグラフ(GC)/マススペクトロメーター(MS)で各揮発成分の分離・検出および同定を行う。各揮発成分の定量は、n−エイコサンを標準とした値で計算する。ここで、対象揮発成分は、炭素数10〜32まで炭素数2毎の脂肪族直鎖飽和炭化水素である。
【0021】
(II)装置及び測定方法
(i)加熱追出し(ダイナミックヘッドスペース)装置:
試料を約50mg精秤して、加熱追出し管(GERSTEL社製TDS管)に充填をし、その両端に約10mgの石英ウール(GL Sciences社製、Cat.No.3001−12404)を詰めた。先のTDS管を40℃の加熱抽出装置(GERSTEL社製 TDS−A)に装入した後、管内をヘリウムで置換し、60℃/分の速度で200℃まで昇温10分間加熱した。この加熱期間中、TENAXを充填したGC注入口(GERSTEL社製 CIS4)を−150℃に冷却することにより、試料より発生した揮発成分を捕集した。捕集した成分は、捕集部分を急速に加熱することにより、気化させてGCカラムに導入した。
【0022】
(ii)ガスクロマトグラフ(GC):
アジレント社製 HP6890
カラム:DB−5ms
カラムの昇温条件:40℃×5min〜10℃/min〜300℃×15min
【0023】
(iii)マススペクトロメーター(MS):
アジレント社製 Mass Sensitive Detector 5973N
測定成分のイオン化には、電子衝撃(EI)法を用いる。
【0024】
また、本発明で用いるプロピレン系重合体の製造方法としては、特に限定されないが、立体規則性触媒を使用する重合法が好ましい。立体規則性触媒としては、チーグラー触媒やメタロセン触媒などが挙げられる。一般的にオリゴマー量の少ないメタロセン触媒がより好ましい。
【0025】
チーグラー触媒としては、チタン化合物として有機アルミニウム等で還元して得られた三塩化チタンまたは三塩化チタン組成物を電子供与性化合物で処理し、更に活性化したもの(例えば、特開昭47−34478号公報、特開昭58−23806号公報、特開昭63−146906号公報参照。)、塩化マグネシウム等の担体に四塩化チタンを担持させることにより得られるいわゆる担持型触媒(例えば、特開昭58−157808号公報、特開昭58−83006号公報、特開昭58−5310号公報、特開昭61−218606号公報参照。)等が含まれる。これらの触媒は、特に制限なく公知の触媒が使用可能である。
【0026】
また、助触媒として、有機アルミニウム化合物を使用する。例えば、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロライド、ジイソブチルアルミニウムクロライドなどのアルキルアルミニウムハライド、ジエチルアルミニウムハイドライドなどのアルキルアルミニウムハイドライド、ジエチルアルミニウムエトキシドなどのアルキルアルミニウムアルコキシド、メチルアルモキサン、テトラブチルアルモキサンなどのアルモキサン、メチルボロン酸ジブチル、リチウムアルミニウムテトラエチルなどの複合有機アルミニウム化合物などが挙げられる。また、これらを2種類以上混合して、使用することも可能である。
【0027】
また、上述の触媒には、立体規則性改良や粒子性状制御、可溶性成分の制御、分子量分布の制御等を目的とする各種重合添加剤を使用することができる。例えば、ジフェニルジメトキシシラン、tert−ブチルメチルジメトキシシランなどの有機ケイ素化合物、酢酸エチル、安息香酸ブチル、p−トルイル酸メチル、ジブチルフタレートなどのエステル類、アセトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、ジエチルエーテルなどのエーテル類、安息香酸、プロピオン酸などの有機酸類、エタノール、ブタノールなどのアルコール類等の電子供与性化合物を挙げることができる。
【0028】
また、メタロセン触媒としては、(i)シクロペンタジエニル骨格を有する配位子を含む周期表第4族の遷移金属化合物(いわゆるメタロセン化合物)と、(ii)メタロセン化合物と反応して安定なイオン状態に活性化しうる助触媒と、必要により、(iii)有機アルミニウム化合物とからなる触媒であり、公知の触媒はいずれも使用できる。メタロセン化合物は、好ましくはプロピレンの立体規則性重合が可能な架橋型のメタロセン化合物であり、より好ましくはプロピレンのアイソ規則性重合が可能な架橋型のメタロセン化合物である。
【0029】
(i)メタロセン化合物としては、例えば、特開昭60−35007号、特開昭61−130314号、特開昭63−295607号、特開平1−275609号、特開平2−41303号、特開平2−131488号、特開平2−76887号、特開平3−163088号、特開平4−300887号、特開平4−211694号、特開平5−43616号、特開平5−209013号、特開平6−239914号、特表平7−504934号、特開平8−85708号の各公報に開示されている。
【0030】
更に、具体的には、メチレンビス(2−メチルインデニル)ジルコニウムジクロリド、エチレンビス(2−メチルインデニル)ジルコニウムジクロリド、エチレン1,2−(4−フェニルインデニル)(2−メチル−4−フェニル−4H−アズレニル)ジルコニウムジクロリド、イソプロピリデン(シクロペンタジエニル)(フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、イソプロピリデン(4−メチルシクロペンタジエニル)(3−t−ブチルインデニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレン(2−メチル−4−t−ブチル−シクロペンタジエニル)(3’−t−ブチル−5’−メチル−シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス(インデニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス(4,5,6,7−テトラヒドロインデニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス[1−(2−メチル−4−フェニルインデニル)]ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス[1−(2−エチル−4−フェニルインデニル)]ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス[4−(1−フェニル−3−メチルインデニル)]ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレン(フルオレニル)t−ブチルアミドジルコニウムジクロリド、メチルフェニルシリレンビス[1−(2−メチル−4,(1−ナフチル)−インデニル)]ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス[1−(2−メチル−4,5−ベンゾインデニル)]ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス[1−(2−メチル−4−フェニル−4H−アズレニル)]ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス[1−(2−エチル−4−(4−クロロフェニル)−4H−アズレニル)]ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス[1−(2−エチル−4−ナフチル−4H−アズレニル)]ジルコニウムジクロリド、ジフェニルシリレンビス[1−(2−メチル−4−(4−クロロフェニル)−4H−アズレニル)]ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス[1−(2−エチル−4−(3−フルオロビフェニリル)−4H−アズレニル)]ジルコニウムジクロリド、ジメチルゲルミレンビス[1−(2−エチル−4−(4−クロロフェニル)−4H−アズレニル)]ジルコニウムジクロリド、ジメチルゲルミレンビス[1−(2−エチル−4−フェニルインデニル)]ジルコニウムジクロリドなどのジルコニウム化合物が例示できる。上記において、ジルコニウムをチタニウム、ハフニウムに置き換えた化合物も、同様に使用できる。場合によっては、ジルコニウム化合物とハフニウム化合物等の混合物を使用することもできる。また、クロリドは、他のハロゲン化合物、メチル、イソブチル、ベンジル等の炭化水素基、ジメチルアミド、ジエチルアミド等のアミド基、メトキシ基、フェノキシ基等のアルコキシド基、ヒドリド基等に置き換えることができる。
これらの内、インデニル基あるいはアズレニル基を珪素あるいはゲルミル基で架橋したメタロセン化合物を用いると立体規則性が高く高剛性で、オリゴマー量の少ないプロピレン系重合体が収率良く得られるので好ましい。
【0031】
また、メタロセン化合物は、無機または有機化合物の担体に担持して使用してもよい。該担体としては、無機または有機化合物の多孔質化合物が好ましく、具体的には、イオン交換性層状珪酸塩、ゼオライト、SiO、Al、シリカアルミナ、MgO、ZrO、TiO、B、CaO、ZnO、BaO、ThO、等の無機化合物、多孔質のポリオレフィン、スチレン・ジビニルベンゼン共重合体、オレフィン・アクリル酸共重合体等からなる有機化合物、またはこれらの混合物が挙げられる。
【0032】
(ii)メタロセン化合物と反応して安定なイオン状態に活性化しうる助触媒としては、有機アルミニウムオキシ化合物(たとえば、アルミノキサン化合物)、イオン交換性層状珪酸塩、ルイス酸、ホウ素含有化合物、イオン性化合物、フッ素含有有機化合物等が挙げられる。
【0033】
(iii)有機アルミニウム化合物としては、トリエチルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウム、ジアルキルアルミニウムハライド、アルキルアルミニウムセスキハライド、アルキルアルミニウムジハライド、アルキルアルミニウムハイドライド、有機アルミニウムアルコキサイド等が挙げられる。
【0034】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、炭素数30以下のオリゴマー量が少ないことが特徴の一つであり、これにより薬剤吸着量を低減することができ、医療用に好適に用いることができる。
炭素数30以下のオリゴマーの量を少なくするためには、特定のメタロセン触媒を用いて製造するか、又はメタロセン触媒若しくはチーグラー触媒によって製造されたプロピレン系樹脂に対し、炭素数30以下のオリゴマーを除く処理を施すことにより、達成可能である。
【0035】
好ましくは、触媒の存在下に、プロピレン溶媒中で塊状重合を行った後、炭素数30以下のオリゴマーを除く処理として、造粒工程前に炭化水素系媒体で洗浄することが挙げられ、この洗浄処理を行うことにより、炭素数30以下のオリゴマーの量を少なくすることができる。
炭化水素系媒体としては、炭素数7以下の比較的蒸発し易い不活性炭化水素が用いられる。より具体的には、液状のプロパン、プロピレン、ブタン、1−ブテン、ペンタン、1−ペンテン、ヘキサン、1−ヘキセン、ヘプタン、1−ヘプテンなどが挙げられ、中でも工業的な見地から液状プロピレンが好ましい。
【0036】
洗浄の方法としては、(イ)重合工程でできたプロピレン系重合体粒子を含むプロピレンスラリーに対して、フレッシュな液状プロピレンを更に追加、あるいは交流接触させ洗浄する方法、(ロ)プロピレンスラリーから一度分離したプロピレン系重合体粒子に再度液状プロピレン中に投入し攪拌洗浄する方法などが挙げられる。また、上記手法を、連続、あるいはバッチで行うことが挙げられる。このうちでは、特に連続式による交流接触する方法が工業的に効率的であるので好ましい。
【0037】
また、洗浄温度が0〜100℃、好ましくは30〜70℃で、実施することが好ましい。下限値未満では、十分な洗浄効果が得られず不都合である。一方、上限値を超えると、べたつき成分だけでなく、プロピレン系重合体そのものも炭化水素系媒体に可溶化してしまうため、不都合である。
【0038】
また、洗浄する時間としては、0.25〜2時間、好ましくは0.5〜1.5時間である。下限値未満では、十分な洗浄効果が得られず不都合である。一方、上限値を超えても特に問題がないが、すでに十分な洗浄効果が得られており、更に時間を延ばしても意味がなく、不都合である。
【0039】
本発明に係るプロピレン系重合体の製造法において、最も好ましい実施態様としては、連続式塊状重合による重合体の製造後、連続式による交流接触する方法で、洗浄を行うことである。以下に、図1を参照して具体的に説明する。
【0040】
図1において、重合反応槽Aにて、プロピレン系重合体が製造され、重合後のスラリーは、プロピレン系重合体スラリー抜出配管2より抜き出され、交流洗浄塔Bの上部へスラリー導入配管3よりスラリーが導入される。また、交流洗浄塔Bの下部へ洗浄液導入配管4より洗浄液が導入される。
【0041】
交流洗浄塔Bの内部では、プロピレン系重合体パウダーを含むスラリーと洗浄液とが交流接触され、スラリーが洗浄される。洗浄されたスラリーは、製品抜出配管6を経て交流洗浄塔Bの下部から抜き出され、更に図示しない分離・乾燥工程などに導入される。一方、洗浄液は、洗浄液抜出配管5を経て交流洗浄塔Bの上部から抜き出される。
【0042】
炭化水素系媒体での洗浄により、得られたポリプロピレン重合体は、その後乾燥工程を経てペレット化される。
【0043】
(2)造核剤
本発明においては、プロピレン系重合体100重量部に対し、造核剤を0.01〜1重量部の範囲で混合し、医療用ポリプロピレン系樹脂組成物を得る。すなわち、本発明の医療用ポリプロピレン系樹脂組成物は、前記特定のプロピレン系樹脂100重量部と、造核剤0.01〜1重量部とを含むことを特徴とする。尚、造核剤の添加効果としては、樹脂組成物に透明性と剛性を付与するためである。
【0044】
本発明で用いられる造核剤としては、好ましくは、芳香族燐酸エステル金属塩化合物、有機リン酸Na塩化合物、ジナトリウム=(1R,2R,3S,4S)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボキシラートを主成分とする化合物、アミド系化合物、一般式(1)で示される構造を有する化合物などが挙げられる。具体的には、下記の一般式(1)〜(4)で表される造核剤であって、例えば、(株)ADEKA社製NA11、NA21や、ミリケン(株)社製ハイパフォームHPN68Lなど、公知のものが挙げられる。
また、最近の研究で、下記の一般式(1)で表わされる構造を有する化合物は、得られる成形品に優れた透明性を与える数少ない造核剤であることが分かっている。
【0045】
【化2】

[式中、nは、0〜2の整数であり、R〜Rは、同一または異なって、それぞれ水素原子または炭素数が1〜20のアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、カルボニル基、ハロゲン基もしくはフェニル基であり、Rは、炭素数が1〜20のアルキル基である。]
【0046】
一般式(1)で表される造核剤としては、一般式(5)で示される化合物が好ましく、化学式(6)で示される化合物がより好ましい。
【0047】
【化3】

[式中、nは、0〜2の整数であり、R、R、R、Rは、水素原子であり、Rは、水素原子または炭素数が1〜20のアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、カルボニル基、ハロゲン基もしくはフェニル基であり、Rは、炭素数が1〜20のアルキル基である。]
【0048】
【化4】

【0049】
この様な造核剤としては、市販のものを用いることができる。具体的には、ミリケン(株)社製NX8000を挙げることができる。この造核剤の添加量は、プロピレン系樹脂100重量部に対して0.1〜0.3重量部が好ましく、0.1重量部未満では、透明性が充分ではなく、一方、0.3重量部を超えると、第15改正日本薬局方試験に不合格になる。
【0050】
【化5】

[式(2)中、Rは、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基であり、MはNaであり、nはMの価数である。]
【0051】
一般式(2)で表される有機リン酸塩系造核剤としては、ナトリウム−2,2’−メチレン−ビス−(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2’−エチリデン−ビス−(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2’−エチリデン−ビス−(4−i−プロピル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2’−ブチリデン−ビス−(4,6−ジメチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2’−ブチリデン−ビス−(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2’−t−オクチルメチレン−ビス−(4,6−メチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2’−t−オクチルメチレン−ビス−(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2’−メチレン−ビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2’−メチレン−ビス−(4−エチル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム(4,4’−ジメチル−6,6’−ジ−t−ブチル−2,2’−ビフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2’−エチリデン−ビス−(4−s−ブチル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2’−メチレン−ビス−(4,6−ジ−メチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2’−メチレン−ビス−(4,6−ジ−エチルフェニル)フォスフェート等が挙げられる。これらのうち、特にナトリウム−2,2’−メチレン−ビス−(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェートが好ましい。
この様な造核剤としては、市販のものを用いることができる。具体的には、(株)ADEKA社製NA−11(ナトリウム−2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート)を挙げることができる。この造核剤の添加量は、プロピレン系樹脂100重量部に対して0.01〜0.2重量部が好ましく、0.01重量部未満では、透明性が充分ではなく、一方、0.2重量部を超えると、性能が向上せず、経済的にも好ましくない。
【0052】
【化6】

(式中、Rは、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、R及びRは、水素原子又は炭素数1〜12のアルキル基を示し、Mは、周期律表第III族または第IV族の金属原子を示し、Xは、Mが周期律表第III族の金属原子を示す場合には、HO−を示し、Mが周期律表第IV族の金属原子を示す場合には、O=又は(HO)−を示す。)
【0053】
一般式(3)で表される造核剤としては、ヒドロキシアルミニウム−ビス[2,2’−メチレン−ビス(4,6−ジメチルフェニル)フォスフェート]、ヒドロキシアルミニウム−ビス[2,2’−エチリデン−ビス(4,6−ジメチルフェニル)フォスフェート]、ヒドロキシアルミニウム−ビス[2,2’−メチレン−ビス(4,6−ジエチルフェニル)フォスフェート]、ヒドロキシアルミニウム−ビス[2,2’−エチリデン−ビス(4,6−ジエチルフェニル)フォスフェート]、ヒドロキシアルミニウム−ビス[2,2’−メチレン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート]、およびヒドロキシアルミニウム−ビス[2,2’−エチリデン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート]、ヒドロキシアルミニウム−ビス[2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート]、ヒドロキシアルミニウム−ビス[2,2’−エチリデン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート]、ヒドロキシアルミニウム−ビス[2,2’−メチレン−ビス(4−エチル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート]、ヒドロキシアルミニウム−ビス[2,2’−エチリデン−ビス(4−エチル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート]、ヒドロキシアルミニウム−ビス[2,2’−メチレン−ビス(4−i−プロピル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート]、ヒドロキシアルミニウム−ビス[2,2’−エチリデン−ビス(4−i−プロピル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート]等の芳香族燐酸エステル金属塩類を挙げることができる。該芳香族燐酸エステル金属塩類の中でも、ヒドロキシアルミニウム−ビス[2,2’−メチレン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート]、およびヒドロキシアルミニウム−ビス[2,2’−エチリデン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート]が好ましい。これら芳香族燐酸エステル金属塩類は、2種以上の混合物として用いても良い。
【0054】
また、該芳香族燐酸エステル金属塩類は、有機アルカリ金属塩と併用させることが効果的である。該有機アルカリ金属塩とは、アルカリ金属カルボン酸塩、アルカリ金属β−ジケトナート及びアルカリ金属β−ケト酢酸エステル塩からなる群より選択される少なくとも一種の有機アルカリ金属塩を示すことができる。該有機アルカリ金属塩を構成するアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。
【0055】
上記アルカリ金属カルボン酸塩を構成するカルボン酸としては、例えば酢酸、プロピオン酸、アクリル酸、オクチル酸、イソオクチル酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リシノール酸、12−ヒドロキシステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸、メリシン酸、β−ドデシルメルカプト酢酸、β−ドデシルメルカプトプロピオン酸、β−N−ラウリルアミノプロピオン酸、β−N−メチル−ラウロイルアミノプロピオン酸等の脂肪族モノカルボン酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、マレイン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジ酸、クエン酸、ブタントリカルボン酸、ブタンテトラカルボン酸等の脂肪族多価カルボン酸、ナフテン酸、シクロペンタンカルボン酸、1−メチルシクロペンタンカルボン酸、2−メチルシクロペンタンカルボン酸、シクロペンテンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、1−メチルシクロヘキサンカルボン酸、4−メチルシクロヘキサンカルボン酸、3,5−ジメチルシクロヘキサンカルボン酸、4−ブチルシクロヘキサンカルボン酸、4−オクチルシクロヘキサンカルボン酸、シクロヘキセンカルボン酸、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸等の脂環式モノ又はポリカルボン酸、安息香酸、トルイル酸、キシリル酸、エチル安息香酸、4−t−ブチル安息香酸、サリチル酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の芳香族モノ又はポリカルボン酸等が挙げられる。
【0056】
上記アルカリ金属β−ジケトナートを構成するβ−ジケトン化合物としては、例えば、アセチルアセトン、ピバロイルアセトン、パルミトイルアセトン、ベンゾイルアセトン、ピバロイルベンゾイルアセトン、ジベンゾイルメタン等が挙げられる。
【0057】
また、上記アルカリ金属β−ケト酢酸エステル塩を構成するβ−ケト酢酸エステルとしては、例えば、アセト酢酸エチル、アセト酢酸オクチル、アセト酢酸ラウリル、アセト酢酸ステアリル、ベンゾイル酢酸エチル、ベンゾイル酢酸ラウリル等が挙げられる。
【0058】
該有機アルカリ金属塩の成分であるアルカリ金属カルボン酸塩、アルカリ金属β−ジケトナート又はアルカリ金属β−ケト酢酸エステル塩は、各々上記アルカリ金属とカルボン酸、β−ジケトン化合物又はβ−ケト酢酸エステルとの塩であり、従来周知の方法で製造することができる。また、これら各アルカリ金属塩化合物の中でも、アルカリ金属の脂肪族モノカルボン酸塩、特に、リチウムの脂肪族カルボン酸塩が好ましく、とりわけ炭素数8〜20の脂肪族モノカルボン酸塩が好ましい。
【0059】
一般式(3)で表される造核剤としては、市販のものを用いることができる。具体的には、(株)ADEKA社製NA−21(主成分:ヒドロキシアルミニウム−ビス[2,2−メチレン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート])を挙げることができる。この造核剤の添加量は、プロピレン系樹脂100重量部に対して0.01〜0.1重量部が好ましく、0.01重量部未満では、透明性が充分ではなく、一方、0.1重量部を超えると、第15改正日本薬局方試験に不合格になる。
【0060】
【化7】

[式(4)中、MおよびMは、同一または異なって、カルシウム、ストロンチウム、リチウムおよび一塩基性アルミニウムから選択される少なくとも1種の金属カチオンであり、R、R、R、R、R、R、R、R、RおよびR10は、同一または異なって、水素、C−Cアルキル(ここで、いずれか2つのビシナル(隣接炭素に結合)またはジェミナル(同一炭素に結合)アルキル基は、一緒になって6個までの炭素原子を有する炭化水素環を形成してもよい)、ヒドロキシ、C−Cアルコキシ、C−Cアルキレンオキシ、アミンおよびC−Cアルキルアミン、ハロゲン(フッ素、塩素、臭素および沃素)並びにフェニルからなる群からそれぞれ選択される。]
【0061】
上記「一塩基性アルミニウム」なる用語は、周知であり、2つのカルボン酸基が結合した単一カチオンとしてアルミニウムヒドロキシド基を含むことを意図している。さらに、これら可能な塩のそれぞれにおいて、非対称炭素原子の立体配置は、シスまたはトランスのいずれでもよいが、シスが好ましい。
【0062】
一般式(4)で表される造核剤は、凝集等を防止する目的で、他の化合物を混合して用いても差し支えない。この造核剤に対して他の化合物の割合は、50重量%以下であり、30重量%以下が好ましく、20重量%以下が更に好ましい。
この様な造核剤としては、市販のものを用いることができる。具体的には、ミリケン(株)社製ハイパフォームHPN68L(CAS No.351870−33−2を80wt%、CAS No.7631−86−9(二酸化ケイ素)を10wt%,CAS No.112−84−5(シス−13−ドコセン酸アミド)を10wt%のブレンド物)を挙げることができる。ハイパフォームHPN68Lの造核剤成分(CAS No.351870−33−2:ジナトリウム=(1R,2R,3S,4S)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボキシラート)の構造を下記に示す。
【0063】
【化8】

【0064】
上記構造式において、Metalは、1価または3価の金属を指し、その中でも1価が好ましい。特に好ましいMetalは、ナトリウムである。なお、3価金属の場合は、水酸基を含むアルミニウム金属も可能である。
【0065】
また、最近の報告では、医療用ポリプロピレン系樹脂組成物に添加する造核剤として、アミド系化合物が見出され、本発明においても、好ましく用いることができる。以下にその構造について示す。
上記造核剤は、次の一般式(7)で示されるアミド系化合物であり、中でも、一般式(8)で示されるアミド系化合物が好ましく、一般式(9)で示されるアミド系化合物がより好ましい。
【0066】
(CONHR …(7)
[式中、Rは、炭素数2〜30の飽和若しくは不飽和の脂肪族ポリカルボン酸残基、炭素数4〜28の飽和若しくは不飽和の脂環族ポリカルボン酸残基、又は炭素数6〜18の芳香族ポリカルボン酸残基を表わす。Rは、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜18のアルケニル基、又は炭素数3〜46のシクロアルキル基若しくはシクロアルケニル基を表わす。aは、2〜6の整数を表す。]
【0067】
【化9】

[式(8)中、Rは、炭素数3〜10の3価の飽和脂肪族炭化水素基、炭素数4〜10の4価の飽和脂肪族炭化水素基、炭素数5〜15の3価もしくは4価の飽和脂環族炭化水素基、又は炭素数6〜15の3価もしくは4価の芳香族炭化水素基を表す。Rは、同一又は異なって、それぞれ水素原子又は炭素数1〜10の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表す。aは、3又は4の整数を表す。]
【0068】
【化10】

[式(9)中、Rは、1,2,3−プロパントリカルボン酸又は1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸から全てのカルボンキシル基を除いて得られる残基を表す。3個又4個のRは、互いに同一又は異なって、それぞれ水素原子又は炭素数1〜10の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表す。aは、3又は4の整数を表す。]
【0069】
具体的には、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリシクロヘキシルアミド、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(2−メチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(3−メチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(4−メチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(2−エチルシクロヘキシルアミド)1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(3−エチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(4−エチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(2−n−プロピルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(3−n−プロピルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(4−n−プロピルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(2−iso−プロピルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(3−iso−プロピルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(4−iso−プロピルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(2−n−ブチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(3−n−ブチルシクロヘキシルアミド)1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(4−n−ブチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(2−iso−ブチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(3−iso−ブチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(4−iso−ブチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(2−sec−ブチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(3−sec−ブチルシクロヘキシルアミド)1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(4−sec−ブチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(2−tert−ブチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(3−tert−ブチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(4−tert−ブチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(4−n−ペンチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(4−n−ヘキシルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(4−n−ヘプチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(4−n−オクチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ[4−(2−エチルヘキシル)シクロヘキシルアミド]、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(4−n−ノニルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(4−n−デシルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸[(シクロヘキシルアミド)ジ(2−メチルシクロヘキシルアミド)]、1,2,3−プロパントリカルボン酸[ジ(シクロヘキシルアミド)(2−メチルシクロヘキシルアミド)]、
【0070】
1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラシクロヘキシルアミド、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(2−メチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(3−メチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(4−メチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(2−エチルシクロヘキシルアミド)1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(3−エチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(4−エチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(2−n−プロピルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(3−n−プロピルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(4−n−プロピルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(2−iso−プロピルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(3−iso−プロピルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(4−iso−プロピルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(2−n−ブチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(3−n−ブチルシクロヘキシルアミド)1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(4−n−ブチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(2−iso−ブチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(3−iso−ブチルシクロヘキシルアミド)1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(4−iso−ブチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(2−sec−ブチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(3−sec−ブチルシクロヘキシルアミド)1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(4−sec−ブチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(2−tert−ブチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(3−tert−ブチルシクロヘキシルアミド)1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(4−tert−ブチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(4−n−ペンチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(4−n−ヘキシルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(4−n−ヘプチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(4−n−オクチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ[4−(2−エチルヘキシル)シクロヘキシルアミド]、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(4−n−ノニルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(4−n−デシルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸[ジ(シクロヘキシルアミド)ジ(2−メチルシクロヘキシルアミド)]等が挙げられる。
【0071】
上記アミド系化合物の中でも、特に造核作用(核剤効果)の観点から、一般式(8)または(9)におけるRが水素原子又は炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基であるアミド系化合物が好ましい。
具体的には、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリシクロヘキシルアミド、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(2−メチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(3−メチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(4−メチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(2−エチルシクロヘキシルアミド)1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(3−エチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(4−エチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(2−n−プロピルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(3−n−プロピルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(4−n−プロピルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(2−iso−プロピルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(3−iso−プロピルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(4−iso−プロピルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(2−n−ブチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(3−n−ブチルシクロヘキシルアミド)1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(4−n−ブチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(2−iso−ブチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(3−iso−ブチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(4−iso−ブチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(2−sec−ブチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(3−sec−ブチルシクロヘキシルアミド)1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(4−sec−ブチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(2−tert−ブチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(3−tert−ブチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(4−tert−ブチルシクロヘキシルアミド)、
【0072】
1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(シクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(2−メチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(3−メチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(4−メチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(2−エチルシクロヘキシルアミド)1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(3−エチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(4−エチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(2−n−プロピルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(3−n−プロピルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(4−n−プロピルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(2−iso−プロピルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(3−iso−プロピルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(4−iso−プロピルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(2−n−ブチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(3−n−ブチルシクロヘキシルアミド)1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(4−n−ブチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(2−iso−ブチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(3−iso−ブチルシクロヘキシルアミド)1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(4−iso−ブチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(2−sec−ブチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(3−sec−ブチルシクロヘキシルアミド)1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(4−sec−ブチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(2−tert−ブチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(3−tert−ブチルシクロヘキシルアミド)1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(4−tert−ブチルシクロヘキシルアミド)等が挙げられる。
【0073】
これら好ましいアミド系化合物の中でも、特に透明性・剛性のバランス及び原料入手の容易性の観点から、一般式(8)または(9)におけるRが水素原子又はメチル基であるアミド系化合物が特に好ましい。具体的には、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリシクロヘキシルアミド、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(2−メチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(3−メチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(4−メチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラシクロヘキシルアミド、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(2−メチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(3−メチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(4−メチルシクロヘキシルアミド)などが例示される。
【0074】
また、透明性の改良効果を重視する場合には、一般式(7)、(8)または(9)におけるRが1,2,3−プロパントリカルボン酸から全てのカルボンキシル基を除いて得られる残基であるアミド系化合物が特に好ましい。具体的には、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリシクロヘキシルアミド、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(2−メチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(3−メチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(4−メチルシクロヘキシルアミド)などが挙げられる。
上記のアミド系化合物は、単独で、又は2種以上を適宜組み合わせて、用いることができる。
この造核剤、例えば1,2,3−プロパントリカルボン酸トリス(2−メチルシクロヘキシルアミド)の添加量は、プロピレン系樹脂100重量部に対して0.01〜0.3重量部が好ましく、0.01重量部未満では、透明性が充分ではなく、一方、0.3重量部を超えると、第15改正日本薬局方試験に不合格になる。
なお、上記の造核剤を併用し、透明性、剛性、耐熱性等のバランスを向上しても、かまわない。
【0075】
(3)その他の成分
本発明の医療用ポリプロピレン系樹脂組成物には、前記プロピレン系重合体および前記造核剤の他に、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の付加的成分(任意成分)を添加することができる。
この様な付加的成分(任意成分)としては、フェノール系及びリン系の酸化防止剤、ヒンダードアミン系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系の耐候劣化防止剤、ステアリン酸の金属塩に代表される分散剤、キナクリドン、ペリレン、フタロシアニン、酸化チタン、カーボンブラック等の着色物質、滑剤、中和剤等を例示できる。
【0076】
本発明の医療用ポリプロピレン系樹脂組成物は、そのまま単独で使用することできるが、別のプロピレン樹脂組成物や、エチレンゴムのような別のポリマーを添加しても良い。本発明の医療用ポリプロピレン系樹脂組成物を、逆に別のポリマーに添加しても良い。
【0077】
2.ポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法
本発明の医療用ポリプロピレン系樹脂組成物は、前記特定のプロピレン系重合体と前記造核剤、および必要に応じて、他の添加剤を、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、リボンブレンダー等に投入して混合した後、通常の単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、プラベンダー、ロール等で190〜260℃の温度範囲で溶融混練することにより得ることができる。
【0078】
3.成形品
本発明の成形品は、上記医療用ポリプロピレン系樹脂組成物を公知の方法である射出成形法、押出成形法、ブロー成形法など各種成形法によって、成形することにより得られる。
本発明の成形品としては、注射筒、医療用器具および医療用容器、薬剤液を充填してなる注射筒および容器などを挙げることができる。
具体的には、注射器外筒、ディスポーザブルシリンジ及びその部品、カテーテル・チューブ、輸液バッグ、血液バッグ、真空採血管、手術用不織布、血液用フィルター、血液回路などのディスポーザブル器具や、人工肺、人工肛門などの人工臓器類の部品、ダイアライザー、プレフィルドシリンジ、キット製剤、薬剤容器、試験管、縫合糸、湿布基材、歯科用材料の部品、整形外科用材料の部品、コンタクトレンズのケース、PTP(press through package)、スティックパック・分包、プラスチックバイアル、目薬容器、薬液容器、液体の長期保存容器、キャップなどを挙げることができる。
中でも、輸液バッグ、プレフィルドシリンジ、プラスチックバイアルが向いている。
また、成形品は、オートクレーブ滅菌、放射線滅菌、エチレンオキシドガス滅菌など公知の滅菌処理を行っても良い。
【実施例】
【0079】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの記載により何ら限定されるものではない。なお、各実施例及び比較例において用いた物性測定法や試験方法は、以下の通りである。
【0080】
1.物性測定法(試験方法)
(1)エチレン濃度:
プロピレンランダム共重合体中のエチレンに基づく単量体単位の含有量は、13C−NMRにより組成を検定したプロピレンランダム共重合体を基準物質として、エチレンの特性吸収帯を用いる赤外分光法(FTIR−8300;SHIMADZU製)により、ランダムコポリマー中のエチレン含量を測定した。共重合体粒子をプレス成形により約500μmの厚さのフィルムとしたものを用いた。
(2)MFR:
JIS K7210の「プラスチック―熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の試験方法」、試験条件:230℃ 2.16Kg荷重に、準拠して測定した。
【0081】
(3)薬剤吸着試験:
本実施例では、薬剤としてインシュリンを使用した。プロピレン系重合体粒子を厚さ約0.1mmのシート状に成形し、これを適当な大きさに裁断した。ガラスシャーレ中に10mass/volppmに相当するインシュリン溶液を用意し、これに、シートを一時間浸漬した。以上のように用意した測定試料をHPLC(Agilent1100シリーズ)により分析し、その吸着率を求め、インシュリン回収率(重量%)を算出した。
(4)ヘイズ値:
厚さ2mmのシート片を用いて、JIS K7105に準拠して測定した。なお、シート片は、成形温度:230℃、金型温度:40℃の条件にて、射出成形したシート片である。
(5)第15改正 日本薬局方試験:
45.プラスチック製薬品容器試験法(プラスチック製水性注射剤容器)の1.ポリエチレン製又はポリプロピレン製水性注射剤容器の項の試験法に従って、透明性、重金属、鉛、カドミウム、強熱残分、泡立ち、PH、過マンガン酸カリウム還元性物質、紫外吸収スペクトル、蒸発残留分を測定した。
【0082】
[実施例1]
I.プロピレン系重合体の製造
[チーグラー型固体触媒成分の製造]
攪拌翼、温度計、ジャケット、冷却コイルを備えた100リットルの反応器に、Mg(OEt):30molを仕込み、次いで、Ti(OBu)を、仕込んだMg(OEt)中のマグネシウムに対して、Ti(OBu)/Mg=0.60(モル比)となるように仕込んだ。さらに、トルエンを19.2kg仕込み、攪拌しながら昇温した。139℃で3時間反応させた後、130℃に降温して、MeSi(OPh)のトルエン溶液を、先に仕込んだMg(OEt)中のマグネシウムに対して、MeSi(OPh)/Mg=0.67(モル比)になるように添加した。なお、ここで用いたトルエン量は、7.8kgであった。添加終了後、130Cで2時間反応させ、その後、室温に降温し、Si(OEt)を添加した。Si(OEt)の添加量は、先に仕込んだMg(OEt)中のマグネシウムに対して、Si(OEt)/Mg=0.056(モル比)となるようにした。
【0083】
次に、得られた反応混合物に対して、マグネシウム濃度が0.58(mol/L)になるように、トルエンを添加した。さらに、フタル酸ジエチル(DEP)を、先に仕込んだMg(OEt)中のマグネシウムに対して、DEP/Mg=0.10(モル比)になるように添加した。得られた混合物を、引き続き攪拌しながら10℃に冷却し、TiClを2時間かけて滴下して均一溶液を得た。なお、TiClは、先に仕込んだMg(OEt)中のマグネシウムに対して、TiCl/Mg=4.0(モル比)になるようにした。TiCl添加終了後、攪拌しながら0.5℃/分で15℃まで昇温し、同温度で1時間保持した。次いで、再び0.5℃/分で50℃まで昇温し、同温度で1時間保持した。さらに、1℃/分で118℃まで昇温し、同温度で1時間処理を行った。処理終了後、攪拌を停止し、上澄み液を除去した後、トルエンで、残液率=1/73になるように洗浄し、スラリーを得た。
【0084】
次に、ここで得られたスラリーに、室温で、トルエンとTiClを添加した。なお、TiClは、先に仕込んだMg(OEt)中のマグネシウムに対して、TiCl/Mg(OEt)=5.0(モル比)となるようにした。また、トルエンは、TiCl濃度が、2.0(mol/L・TOL)になるように調製した。このスラリーを攪拌しながら昇温し、118℃で1時間反応を行った。反応終了後、攪拌を停止し、上澄み液を除去した後、トルエンで、残液率=1/150となるように洗浄し6のスラリーを得た。
【0085】
[予備重合されたチーグラー型固体触媒成分]
チーグラー型固体触媒成分400gを、攪拌翼、温度計、冷却ジャケットを有する別の反応器に移送し、ノルマルヘキサンを加えて、固体成分の濃度として5.0(g/l)になるように希釈した。得られたスラリーを攪拌しながら、15℃で、トリメチルビニルシラン、TEA及びTBMDESを添加した。ここで、TBMDESは、t−ブチルメチルジエトキシシランを示し、t−ブチルは、ターシャリーブチル基を示す。なお、TEA、トリメチルビニルシラン、TBMDESの添加量は、それぞれ、固体触媒成分中の固体成分1gに対して、3.1mmol、0.2ml、0.2mlとなるようにした。添加終了後、引き続き攪拌しながら、15℃で1時間保持し、さらに、30℃に昇温して、同温度で2時間攪拌した。次に、再び15℃に降温し、同温度を保持しながら、反応器の気相部に、1.2kgのプロピレンガスを72分かけて定速でフィードして予備重合を行った。フィード終了後、攪拌を停止して上澄み液を除去した後、ノルマルヘキサンで洗浄を行い、予備重合されたチーグラー型固体触媒成分のスラリーを得た。なお、残液率は、1/12とした。得られた予備重合触媒の予備重合量はチーグラー型固体触媒成分単位重量に対して2.8倍であった。
【0086】
[プロピレン単独重合体の製造]
内容積3リットルの撹拌機付き、ステンレス製重合器を窒素置換した後、トリエチルアルミニウム3.5ミリモル、TBEDMS0.07ミリモル、水素2.0MPa及び液状プロピレン1500mlを重合器内に導入した。内部温度を70℃まで昇温させた後、上記予備重合触媒のスラリー溶液を裸触媒が4mgとなるよう投入し、重合を開始した。60分間の本重合の後、重合器内の温度を30℃まで冷却し未反応ガスを放出した。得られた重合体の乾燥は90℃で1時間行い、プロピレン単独重合体約250gを得た。
本重合体のMFRは、10.5(g/10分)であった。また、炭素数30以下のオリゴマー量は、2000μg/gであった。
【0087】
II.プロピレン単独重合体の洗浄
内容積3リットルの撹拌機付きステンレス製槽を使用し、400メッシュのフィルターに、先ほど得られたプロピレン単独重合体を50g入れ、攪拌棒中央部に取り付けた。またフィルター内の共重合体がフィルターから抜け落ちないようフィルター開口部を結んだ。そこに、新たに液状プロピレンを1500ml導入し、フィルターが完全に液状プロピレンに浸るようにした。
次いで、槽内の温度を40℃に昇温し、1時間攪拌させた。その後プロピレンガスを放出し、フィルター内に残った重合体について、90℃で1時間乾燥を行った。液状プロピレンに溶解しなかった成分量は、49.5gであり、MFRは10.0(g/10分)であった。また、炭素数30以下のオリゴマー量は、190μg/gであった。
【0088】
III.プロピレン単独重合体(ポリプロピレン系樹脂組成物)の造粒
プロピレン単独重合体100重量部に対し、造核剤(1,2,3−プロパントリカルボン酸トリス(2−メチルシクロヘキシルアミド))0.02重量部、中和剤としてDHT−4A(協和化学工業(株)製マグネシウム・アルミニウム・ハイドロオキサイド・カーボネート・ハイドレート)を0.03重量部、ホスファイト系酸化防止剤としてアデガスタブ2112((株)ADEKA製)を0.1重量部及びヒンダードアミン系紫外線安定剤としてTINUVIN622LD(チバ・ジャパン(株)製)を0.05重量部配合し、スーパーミキサーでドライブレンドした後、35ミリ径の2軸押出機を用いて溶融混練した。ダイ出口部温度250℃でダイから押し出しペレット化した。得られたペレットを射出成形機により、樹脂温度240℃、射出圧力900kg/cm及び金型温度40℃で射出成形し、シートを作成した。得られたシートから、試験片を採り、吸着試験を行った。結果を表1に示す。
【0089】
[比較例1]
実施例1において、プロピレン単独重合体の製造後、液状プロピレンによる洗浄を実施しなかった以外は、実施例1と同様に重合体を製造した。また、実施例1と同様に、プロピレン単独重合体に、造核剤や中和剤、酸化防止剤などを配合し、シート状にした試験片を用い、吸着試験を実施した。結果を表1に示す。
【0090】
[実施例2]
I.プロピレンランダム共重合体の製造
内容積3リットルの撹拌機付き、ステンレス製槽を窒素置換した後、トリエチルアルミニウム3.5ミリモル、TBEDMS0.07ミリモル、エチレン7.0g、水素4.2MPa及び液状プロピレン1500mlを重合器内に導入した。内部温度を70℃まで昇温させた後、実施例1に記載の予備重合触媒のスラリー溶液を裸触媒が4mgとなるよう投入し、重合を開始した。15分間の本重合の後、重合器内の温度を30℃まで冷却し未反応ガスを放出した。得られた重合体の乾燥は90℃で1時間行い、プロピレン/エチレンランダム共重合体約200gを得た。
本重合体のMFRは11.0(g/10分)、エチレン含有量は4.2wt%であった。また、炭素数30以下のオリゴマー量は、910μg/gであった。
【0091】
II.プロピレンランダム共重合体の洗浄
内容積3リットルの撹拌機付きステンレス製槽を使用し、400メッシュのフィルターに先ほど得られたプロピレンランダム共重合体を50g入れ、攪拌棒中央部に取り付けた。また、フィルター内の共重合体がフィルターから抜け落ちないようフィルター開口部を結んだ。そこに新たに液状プロピレンを1500ml導入し、フィルターが完全に液状プロピレンに浸るようにした。次いで槽内の温度を40℃に昇温し、1時間攪拌させた。その後プロピレンガスを放出し、フィルター内に残った重合体について90℃で1時間乾燥を行った。液状プロピレンに溶解しなかった成分量は、49.0gであり、MFRは10.0(g/10分)、エチレン含有量は4.0wt%であった。また、炭素数30以下のオリゴマー量は、69μg/gであった。
【0092】
III.プロピレンランダム共重合体(ポリプロピレン系樹脂組成物)の造粒
プロピレンランダム共重合体100重量部に対し、造核剤(1,2,3−プロパントリカルボン酸トリス(2−メチルシクロヘキシルアミド))0.02重量部、中和剤としてDHT−4A(協和化学工業(株)製マグネシウム・アルミニウム・ハイドロオキサイド・カーボネート・ハイドレート)を0.03重量部、ホスファイト系酸化防止剤としてアデガスタブ2112((株)ADEKA製)を0.1重量部及びヒンダードアミン系紫外線安定剤としてTINUVIN622LD(チバ・ジャパン(株)製)を0.05重量部配合し、スーパーミキサーでドライブレンドした後、35ミリ径の2軸押出機を用いて溶融混練した。ダイ出口部温度250℃でダイから押し出しペレット化した。得られたペレットを射出成形機により、樹脂温度240℃、射出圧力900kg/cm及び金型温度40℃で射出成形し、シートを作成した。得られたシートから、試験片を採り、吸着試験を行った。結果を表1に示す。
【0093】
[比較例2]
実施例2において、プロピレンランダム共重合体の製造後、液状プロピレンによる洗浄を実施しなかった以外は、実施例2と同様に、重合体を製造した。また、実施例2と同様に、プロピレンランダム共重合体に、造核剤や中和剤、酸化防止剤などを配合し、シート状にした試験片を用い、吸着試験を実施した。結果を表1に示す。
【0094】
[実施例3]
I.遷移金属化合物成分の製造
(1)メタロセン化合物の合成:
(r)−ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(4−クロロフェニル)−4H−アズレニル}]ジルコニウムの合成は、特開平11−240909号公報に記載の方法で合成した。
【0095】
(2)化学処理イオン交換性層状珪酸塩の調製:
10リットルの攪拌翼の付いたガラス製セパラブルフラスコに、蒸留水3.75リットル、続いて濃硫酸(96%)2.5kgをゆっくりと添加した。50℃で、さらにモンモリロナイト(水澤化学社製ベンクレイSL)を1kg分散させ、90℃に昇温し、6.5時間その温度を維持した。50℃まで冷却後、このスラリーを減圧ろ過し、ケーキを回収した。このケーキに蒸留水を7リットル加え再スラリー化後、ろ過した。この洗浄操作を、洗浄液(ろ液)のpHが3.5を超えるまで実施した。
回収したケーキを窒素雰囲気下110℃で終夜乾燥した。乾燥後の重量は、705gであった。
得られたイオン交換性層状ケイ酸塩の組成(モル)比は、Al/Si=0.129、Mg/Si=0.018、Fe/Si=0.013であった。
先に化学処理した珪酸塩は、キルン乾燥機によりさらに乾燥を実施した。乾燥機の仕様、条件は、以下の通りである。
回転筒:円筒状、内径50mm、加湿帯550mm(電気炉)、かき上げ翼付き
回転数:2rpm、傾斜角;20/520、珪酸塩の供給速度;2.5g/分、ガス流速;窒素、96リットル/時間、向流
乾燥温度:200℃(粉体温度)
【0096】
(3)固体触媒の調製
内容積13リットルの攪拌機の付いた金属製反応器に、上記で得た乾燥珪酸塩0.20kgとヘプタンという0.74リットルの混合物を導入し、さらにトリノルマルオクチルアルミニウムのヘプタン溶液(0.04M)1.26リットルを加え、系内温度を25℃に維持した。1時間の反応後、ヘプタンにて十分に洗浄し、珪酸塩スラリーを2.0リットルに調製した。
(r)−ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(4−クロロフェニル)−4H−アズレニル}]ジルコニウム2.18g(3.30mmol)に、ヘプタンを0.80リットル加え、トリイソブチルアルミニウムのヘプタン溶液(0.71M)を33.1ミリリットル加えて、室温にて1時間反応させた混合物を、珪酸塩スラリーに加え、1時間攪拌後、ヘプタンを追加して5.0リットルに調整した。
続いて、温度40℃にて、プロピレンを100g/時間の速度で供給し、4時間予備重合を行った。さらに1時間、後重合した。
予備重合終了後、残モノマーをパージした後、触媒をヘプタンにて十分に洗浄した。続いて、トリイソブチルアルミニウム(0.71M/L)のヘプタン溶液0.17L添加した後に、45℃で減圧乾燥を実施した。この操作により、乾燥した予備重合触媒0.60kgを得た。
【0097】
[触媒の合成]
塩化マグネシウム1.25kgを溶解させた脱塩水6.3リットル中に市販のモンモリロナイト1kgを分散させ、80℃で1時間攪拌した。この固体を水洗した後、8%の塩酸水溶液7リットル中に分散させ、90℃で2時間攪拌し、脱塩水で洗浄した。このモンモリロナイトの水スラリー液を固形分濃度15%に調整し、スプレードライヤーにより噴霧造粒を行って、球状粒子を得た。その後、この粒子を200℃で2時間減圧乾燥した。
【0098】
[触媒成分の調整]
内容積0.3リットルの攪拌翼のついたガラス製反応器に上記で得た化学処理モンモリロナイト5.04gを導入し、トルエン、さらにトリエチルアルミニウムのトルエン溶液(30.2mmol)を加え、室温で攪拌した。1時間後、トルエンにて洗浄した(残液率1%未満)。
次に、100mlのフラスコに上記合成の(r)−ジメチルシリレンビス(2−メチル−4−フェニルジヒドロアズレニル)ジルコニウムジクロリド0.0752mmolのトルエンスラリー液30mlとトリイソブチルアルミニウム(0.75mmol)のトルエン溶液0.93mlを室温にて加え、攪拌した。
続いて、プロピレンで十分置換を行った内容積1.0リットルの攪拌式オートクレーブに、ノルマルヘプタン400mlを導入し、40℃に保持した。そこにトリイソブチルアルミニウム(5.08mmol)のトルエン溶液6.3mlを加え、次に先に調整したモンモリロナイトを、さらに上記調整した(r)−ジメチルシリレンビス(2−メチル−4−フェニルジヒドロアズレニル)ジルコニウムジクロリドとトリイソブチルアルミニウムの混合溶液を導入した。5kg・f/cmまで昇圧し、温度、圧力を維持した。30分後、プロピレンをパージし、サイホンにて予備重合触媒スラリーを回収し、室温にて減圧乾燥した。この操作により触媒1g当たりポリプロピレンが1.47gを含む予備重合触媒が得られた。
【0099】
II.プロピレンランダム共重合体の製造
内容積270Lの撹拌式オートクレーブに液状プロピレンを38kg/hr、エチレンを1.4kg/hr、水素を0.2g/hr、およびトリイソブチルアルミニウム(TIBA)を9g/hrにて連続的に供給した。内温を60℃に保持し、上記触媒の流動パラフィン(東燃ゼネラル石油社製:ホワイトレックス335)スラリーを一定量連続的に供給し、11kg/hrのプロピレン・エチレンランダム共重合体を得た。
本重合体のMFRは7.5(g/10分)、エチレン含有量は3.7wt%であった。また、炭素数30以下のオリゴマー量は110μg/gであった。
【0100】
III.プロピレンランダム共重合体の洗浄
内容積3リットルの撹拌機付きステンレス製槽を使用し、400メッシュのフィルターに先ほど得られたプロピレンランダム共重合体を50g入れ、攪拌棒中央部に取り付けた。また、フィルター内の共重合体がフィルターから抜け落ちないようフィルター開口部を結んだ。そこに新たに液状プロピレンを1500ml導入し、フィルターが完全に液状プロピレンに浸るようにした。次いで槽内の温度を40℃に昇温し、1時間攪拌させた。その後プロピレンガスを放出し、フィルター内に残った重合体について、90℃で1時間乾燥を行った。
液状プロピレンに溶解しなかった成分量は、49.0gであり、MFRは7.0(g/10分)、エチレン含有量は3.4wt%であった。また、炭素数30以下のオリゴマーは45μg/gであった。
【0101】
IV.プロピレンランダム共重合体(ポリプロピレン系樹脂組成物)の造粒
プロピレンランダム共重合体100重量部に対し、造核剤(1,2,3−プロパントリカルボン酸トリス(2−メチルシクロヘキシルアミド))0.02重量部、中和剤としてDHT−4A(協和化学工業(株)製マグネシウム・アルミニウム・ハイドロオキサイド・カーボネート・ハイドレート)を0.03重量部、ホスファイト系酸化防止剤としてアデガスタブ2112((株)ADEKA製)を0.1重量部及びヒンダードアミン系紫外線安定剤としてTINUVIN622LD(チバ・ジャパン(株)製)を0.05重量部配合し、スーパーミキサーでドライブレンドした後、35ミリ径の2軸押出機を用いて溶融混練した。ダイ出口部温度250℃でダイから押し出しペレット化した。得られたペレットを射出成形機により、樹脂温度240℃、射出圧力900kg/cm及び金型温度40℃で射出成形し、シートを作成した。得られたシートから、試験片を採り、吸着試験を行った。結果を表1に示す。
【0102】
[実施例4]
実施例3において、プロピレンランダム共重合体の製造後、液状プロピレンによる洗浄を実施しなかった以外は、実施例3と同様に、重合体を製造した。また、実施例3と同様に、プロピレンランダム共重合体に、造核剤や中和剤、酸化防止剤などを配合し、シート状にした試験片を用い、吸着試験を実施した。結果を表1に示す。
【0103】
【表1】

【0104】
上記の各実施例及び比較例から次の事項が判明した。
(1)実施例1は、チーグラー型固体触媒を用いて製造したプロピレン単独重合体を更に液状プロピレンで洗浄したポリプロピレンであり、炭素数30以下のオリゴマー量が190μg/gであった。また、そのポリプロピレンを用いたポリプロピレン系樹脂組成物の成形体のインシュリン回収率は、79.7wt%であった。
(2)比較例1は、実施例1において液状プロピレンによる洗浄を実施していないポリプロピレンであり、炭素数30以下のオリゴマー量が2000μg/gであった。また、そのポリプロピレンを用いたポリプロピレン系樹脂組成物の成形体のインシュリン回収率は72.7wt%と、実施例1に比べ回収率が低い。
(3)実施例2は、チーグラー型固体触媒を用いて製造したプロピレンランダム重合体を更に液状プロピレンで洗浄したポリプロピレンであり、炭素数30以下のオリゴマー量が69μg/gであった。また、そのポリプロピレンを用いたポリプロピレン系樹脂組成物の成形体のインシュリン回収率は、74.5wt%であった。
(4)比較例2は、実施例2において液状プロピレンによる洗浄を実施していないポリプロピレンであり、炭素数30以下のオリゴマー量は910μg/gであった。また、そのポリプロピレンを用いたポリプロピレン系樹脂組成物の成形体のインシュリン回収率は、69.5wt%と、実施例2に比べ回収率が低い。
(5)実施例3は、遷移金属化合物(メタロセン)触媒を用いて製造したプロピレンランダム重合体を、更に液状プロピレンで洗浄したポリプロピレンであり、炭素数30以下のオリゴマー量は45μg/gであった。また、そのポリプロピレンを用いたポリプロピレン系樹脂組成物の成形体のインシュリン回収率は、77.0wt%であった。
(6)実施例4は、実施例3において液状プロピレンによる洗浄を実施していないポリプロピレンであり、炭素数30以下のオリゴマー量が110μg/gであった。また、そのポリプロピレンを用いたポリプロピレン系樹脂組成物の成形体のインシュリン回収率は、75.1wt%と、実施例3に比べ回収率は低いが、チーグラー型固体触媒を用いて製造したプロピレン系重合体に比べ、その値は大きい。
【0105】
更に、本発明者らは、鋭意検討をし、以下の実施例などにより新たな事象について、見出した。
【0106】
[実施例5]
I.プロピレンランダム共重合体の製造
実施例3及び4の製造法により、プロピレンランダム共重合体を製造した。
【0107】
II.プロピレンランダム共重合体の洗浄
実施例1、2、3に記載の手順により、プロピレンランダム共重合体の液状プロピレン洗浄を実施した。
【0108】
III.プロピレンランダム共重合体(ポリプロピレン系樹脂組成物)の造粒
プロピレンランダム共重合体100重量部に対し、造核剤NA11((株)ADEKA製)を0.2重量部、中和剤としてDHT−4A(協和化学工業(株)製マグネシウム・アルミニウム・ハイドロオキサイド・カーボネート・ハイドレート)を0.03重量部、ホスファイト系酸化防止剤としてアデガスタブ2112((株)ADEKA製)を0.1重量部及びヒンダードアミン系紫外線安定剤としてTINUVIN622LD(チバ・ジャパン(株)製)を0.05重量部配合し、スーパーミキサーでドライブレンドした後、35ミリ径の2軸押出機を用いて溶融混練した。ダイ出口部温度250℃でダイから押し出し、ペレット化した。
【0109】
IV.プロピレン系重合体粒子の成形
プロピレン系重合体粒子について、射出成形によりカップ成形を行った。カップ成形は、住友125Tにより、成形温度240℃、金型温度15℃で行った。得られたカップの大きさは、肉厚0.7mm、高さ56mm、カップ上部口部の内径80mm、底の内径57mmであった。
【0110】
V.薬剤吸着試験
薬剤として、インスリンを使用した。インスリンは、適当な量のTFA水溶液に溶解し、更にこの溶液を水で濃度が10mass/volppmとなるよう希釈をした。測定は、成形カップにインスリン溶液を20ml入れた後、一時間放置、その後インスリン溶液を取り出し、試料をHPLC(Agilent1100シリーズ)により分析し、そのインスリン回収率を求めた。結果を表2に示す。
【0111】
[実施例6]
I.プロピレンランダム共重合体の製造
実施例3及び4の製造法により、プロピレンランダム共重合体を製造した。
【0112】
II.プロピレンランダム共重合体の洗浄
実施例4と同様に、液状プロピレン洗浄を実施しなかった。
【0113】
III.プロピレンランダム共重合体(ポリプロピレン系樹脂組成物)の造粒
プロピレンランダム共重合体100重量部に対し、造核剤NA11((株)ADEKA製)を0.2重量部、中和剤としてDHT−4A(協和化学工業(株)製マグネシウム・アルミニウム・ハイドロオキサイド・カーボネート・ハイドレート)を0.03重量部、ホスファイト系酸化防止剤としてアデガスタブ2112((株)ADEKA製)を0.1重量部及びヒンダードアミン系紫外線安定剤としてTINUVIN622LD(チバ・ジャパン(株)製)を0.05重量部配合し、スーパーミキサーでドライブレンドした後、35ミリ径の2軸押出機を用いて溶融混練した。ダイ出口部温度250℃でダイから押し出しペレット化した。
【0114】
IV.プロピレン系重合体粒子の成形
実施例5と同様の方法により、カップ成形を行った。
【0115】
V.薬剤吸着試験方法
実施例5と同様の方法で、薬剤吸着試験を行った。結果を表2に示す。
【0116】
[実施例7]
I.プロピレンランダム共重合体の製造
実施例3及び4の製造法により、プロピレンランダム共重合体を製造した。
【0117】
II.プロピレンランダム共重合体の洗浄
実施例5と同様に、液状プロピレン洗浄を実施した。
【0118】
III.プロピレンランダム共重合体(ポリプロピレン系樹脂組成物)の造粒
プロピレンランダム共重合体100重量部に対し、造核剤NA21((株)ADEKA製)を0.1重量部、中和剤としてDHT−4A(協和化学工業(株)製マグネシウム・アルミニウム・ハイドロオキサイド・カーボネート・ハイドレート)を0.03重量部、ホスファイト系酸化防止剤としてアデガスタブ2112((株)ADEKA製)を0.1重量部及びヒンダードアミン系紫外線安定剤としてTINUVIN622LD(チバ・ジャパン(株)製)を0.05重量部配合し、スーパーミキサーでドライブレンドした後、35ミリ径の2軸押出機を用いて溶融混練した。ダイ出口部温度250℃でダイから押し出しペレット化した。
【0119】
IV.プロピレン系重合体粒子の成形
実施例5と同様の方法により、カップ成形を行った。
【0120】
V.薬剤吸着試験方法
実施例5と同様の方法で、薬剤吸着試験を行った。結果を表2に示す。
【0121】
[実施例8]
I.プロピレンランダム共重合体の製造
実施例3及び4の製造法により、プロピレンランダム共重合体を製造した。
【0122】
II.プロピレンランダム共重合体の洗浄
実施例5と同様に、液状プロピレン洗浄を実施した。
【0123】
III.プロピレンランダム共重合体(ポリプロピレン系樹脂組成物)の造粒
プロピレンランダム共重合体100重量部に対し、造核剤として1,2,3−プロパントリカルボン酸トリス(2−メチルシクロヘキシルアミド)0.15重量部及びNA11((株)ADEKA製)0.1重量部、中和剤としてDHT−4A(協和化学工業(株)製マグネシウム・アルミニウム・ハイドロオキサイド・カーボネート・ハイドレート)を0.03重量部、ホスファイト系酸化防止剤としてアデガスタブ2112((株)ADEKA製)を0.1重量部及びヒンダードアミン系紫外線安定剤としてTINUVIN622LD(チバ・ジャパン(株)製)を0.05重量部配合し、スーパーミキサーでドライブレンドした後、35ミリ径の2軸押出機を用いて溶融混練した。ダイ出口部温度250℃でダイから押し出し、ペレット化した。
【0124】
IV.プロピレン系重合体粒子の成形
実施例5と同様の方法により、カップ成形を行った。
【0125】
V.薬剤吸着試験方法
実施例5と同様の方法で、薬剤吸着試験を行った。結果を表2に示す。
【0126】
[実施例9]
I.プロピレンランダム共重合体の製造
実施例3及び4の製造法により、プロピレンランダム共重合体を製造した。
【0127】
II.プロピレンランダム共重合体の洗浄
実施例5と同様に、液状プロピレン洗浄を実施した。
【0128】
III.プロピレンランダム共重合体(ポリプロピレン系樹脂組成物)の造粒
プロピレンランダム共重合体100重量部に対し、造核剤としてNX8000(ミリケン(株)製ミラッドNX8000)を0.25重量部及びNA11((株)ADEKA製)を0.1重量部、中和剤としてDHT−4A(協和化学工業(株)製マグネシウム・アルミニウム・ハイドロオキサイド・カーボネート・ハイドレート)を0.03重量部、ホスファイト系酸化防止剤としてアデガスタブ2112((株)ADEKA製)を0.1重量部及びヒンダードアミン系紫外線安定剤としてTINUVIN622LD(チバ・ジャパン(株)製)を0.05重量部配合し、スーパーミキサーでドライブレンドした後、35ミリ径の2軸押出機を用いて溶融混練した。ダイ出口部温度250℃でダイから押し出しペレット化した。
【0129】
IV.プロピレン系重合体粒子の成形
実施例5と同様の方法により、カップ成形を行った。
【0130】
V.薬剤吸着試験方法
実施例5と同様の方法で、薬剤吸着試験を行った。結果を表2に示す。
【0131】
[実施例10]
I.プロピレンランダム共重合体の製造
実施例3及び4の製造法により、プロピレンランダム共重合体を製造した。
【0132】
II.プロピレンランダム共重合体の洗浄
実施例5と同様に、液状プロピレン洗浄を実施した。
【0133】
III.プロピレンランダム共重合体(ポリプロピレン系樹脂組成物)の造粒
プロピレンランダム共重合体100重量部に対し、造核剤としてGAMD(新日本理化(株)製ゲルオールMD)を0.2重量部、中和剤としてDHT−4A(協和化学工業(株)製マグネシウム・アルミニウム・ハイドロオキサイド・カーボネート・ハイドレート)を0.03重量部、ホスファイト系酸化防止剤としてアデガスタブ2112((株)ADEKA製)を0.1重量部及びヒンダードアミン系紫外線安定剤としてTINUVIN622LD(チバ・ジャパン(株)製)を0.05重量部配合し、スーパーミキサーでドライブレンドした後、35ミリ径の2軸押出機を用いて溶融混練した。ダイ出口部温度250℃でダイから押し出し、ペレット化した。
【0134】
IV.プロピレン系重合体粒子の成形
実施例5と同様の方法により、カップ成形を行った。
【0135】
V.薬剤吸着試験方法
実施例5と同様の方法で、薬剤吸着試験を行った。結果を表2に示す。
【0136】
[比較例3]
I.プロピレンランダム共重合体の製造
実施例3及び4の製造法により、プロピレンランダム共重合体を製造した。
【0137】
II.プロピレンランダム共重合体の洗浄
実施例5と同様に、液状プロピレン洗浄を実施した。
【0138】
III.プロピレンランダム共重合体(ポリプロピレン系樹脂組成物)の造粒
プロピレンランダム共重合体に造核剤を添加しなかった。それ以外は、実施例5と同様の方法により、ペレット化した。
【0139】
IV.プロピレン系重合体粒子の成形
実施例5と同様の方法により、カップ成形を行った。
【0140】
V.薬剤吸着試験方法
実施例5と同様の方法で、薬剤吸着試験を行った。結果を表2に示す。
【0141】
[比較例4]
I.プロピレンランダム共重合体の製造
実施例3及び4の製造法により、プロピレンランダム共重合体を製造した。
【0142】
II.プロピレンランダム共重合体の洗浄
実施例6と同様に、液状プロピレン洗浄を実施しなかった。
【0143】
III.プロピレンランダム共重合体(ポリプロピレン系樹脂組成物)の造粒
プロピレンランダム共重合体に造核剤を添加しなかった。それ以外は、実施例6と同様の方法により、ペレット化した。
【0144】
IV.プロピレン系重合体粒子の成形
実施例5と同様の方法により、カップ成形を行った。
【0145】
V.薬剤吸着試験方法
実施例5と同様の方法で、薬剤吸着試験を行った。結果を表2に示す。
【0146】
【表2】

【0147】
(1)実施例5は、メタロセン触媒を用いて製造したプロピレンランダム共重合体を、更に液状プロピレンで洗浄したポリプロピレンであり、炭素数30以下のオリゴマー量が45μg/gであった。このポリプロピレンは、成形の際、核剤NA11をプロピレンランダム共重合体100重量部に対し0.2重量部添加しており、ポリプロピレン系樹脂組成物の成形体のインシュリン回収率は、97.5wt%であった。また、ヘイズは38%であり、局方試験は適合であった。
(2)実施例6は、実施例5と同様に、メタロセン触媒を用いて製造したプロピレンランダム共重合体であるが、液状プロピレンによる洗浄を実施していないポリプロピレンであり、炭素数30以下のオリゴマー量が110μg/gであった。このポリプロピレンは、成形の際、核剤NA11をプロピレンランダム共重合体100重量部に対し0.2重量部添加しており、ポリプロピレン系樹脂組成物の成形体のインシュリン回収率は、94.5wt%と、実施例5に比べ低い。また、ヘイズは38%であり局方試験は適合であった。
(3)実施例7は、実施例5と同様のポリプロピレンであり、炭素数30以下のオリゴマー量が45μg/gであった。このポリプロピレンには、成形の際、核剤NA21をプロピレンランダム共重合体100重量部に対し0.1重量部添加しており、ポリプロピレン系樹脂組成物の成形体のインシュリン回収率は、97.4wt%であった。また、ヘイズは35%であり、局方試験は適合であった。
(4)実施例8は、実施例5と同様のポリプロピレンであり、炭素数30以下のオリゴマー量が45μg/gであった。このポリプロピレンは、成形の際、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリス(2−メチルシクロヘキシルアミド)を0.15重量部及びNA11を0.1重量部添加しており、ポリプロピレン系樹脂組成物の成形体のインシュリン回収率は、97.6wt%であった。また、ヘイズは30%であり、局方試験は適合であった。
(5)実施例9は、実施例5と同様のポリプロピレンであり、炭素数30以下のオリゴマー量が45μg/gであった。このポリプロピレンは、成形の際、NX8000を0.25重量部及びNA11を0.1重量部添加しており、ポリプロピレン系樹脂組成物の成形体のインシュリン回収率は、97.5wt%であった。また、ヘイズは15%であり、局方試験は適合であった。
(6)実施例10は、実施例5と同様のポリプロピレンであり、炭素数30以下のオリゴマー量が45μg/gであった。このポリプロピレンは、成形の際、GAMDを0.2重量部添加しており、ポリプロピレン系樹脂組成物の成形体のインシュリン回収率は、97.4wt%であった。また、ヘイズは25%であり、局方試験は不適合であった。
【0148】
(7)比較例3は、実施例5と同様のポリプロピレンであり、炭素数30以下のオリゴマー量が45μg/gであった。このポリプロピレンは、成形の際、核剤を添加しておらず、ポリプロピレン系樹脂組成物の成形体のインシュリン回収率は、97.9wt%であった。また、局方試験は適合であるが、ヘイズは72%であり、透明性が求められる容器や、シリンジには使用できない。
(8)比較例4は、実施例6と同様のポリプロピレンであり、炭素数30以下のオリゴマー量が110μg/gであった。このポリプロピレンは、成形の際、核剤を添加しておらず、ポリプロピレン系樹脂組成物の成形体のインシュリン回収率は、96.6wt%であった。また、局方試験は適合であるが、ヘイズは72%であり、透明性が求められる容器や、シリンジには使用できない。
【0149】
以上、本発明の実施例及び比較例から明らかなように、液状プロピレンによる洗浄を行ったポリプロピレン粒子は、未洗浄品に比べ、n≦C30のオリゴマー量は少なく、そのポリプロピレンを用いたポリプロピレン系樹脂組成物の成形体のインシュリン回収率は高い。すなわち薬剤吸着量が少ない。
したがって、本実施例により製造したプロピレン系重合体を用いたポリプロピレン系樹脂組成物を成形したプレフィルドシリンジは、薬剤吸着防止性に優れると言える。また、プロピレン単独重合体は、プロピレンランダム共重合体に比べ、薬剤吸着量が少ない。更に、特定のメタロセン化合物から得られるプロピレン系重合体は、洗浄有無に関わらず、その炭素数30以下のオリゴマー量は少ない。しかし、洗浄をすることにより、オリゴマー量は更に減少し、薬剤吸着量が減少することを示す。
【0150】
また、試験試料としてポリプロピレン系重合体粒子をカップ成形したものを使用すると、分析値の振れが少なく精度の高い分析結果を得ることができた。更に、重合体粒子の造粒の際、核剤を添加すると、オリゴマー量の少ないポリプロピレン成形体においては、薬剤回収率は、ほとんど変わらないレベルであったが、オリゴマー量が多いポリプロピレン成形体では、薬剤回収率が大きく低下することが分かった。これは、ポリマー中のオリゴマー量が多いほど、表面状態が悪化するためと考えられる。しかし、メタロセン触媒で製造したポリプロピレン系重合体粒子は、液状プロピレンによる洗浄の有無に関わらず、オリゴマー量が少ないため、核剤を添加した際も、薬剤回収率は高い値を示した。
一方、プレフィルドシリンジのような医療用材は、透明性が要求されるが、核剤を添加しない試料は、いずれも添加をした試料に比べ、透明性が極めて悪いことが分かった。また用いる核剤の種類によっては、局方試験に不適合となる場合があることが分かった。
【0151】
上記のことから、プロピレン系重合体の組成が、MFR=3〜50(g/10分)であり且つn≦C30のオリゴマーが500(μg/g)以下のプロピレン単独重合体を用いた医療用ポリプロピレン樹脂組成物は、薬剤吸着量が少ないという特徴がある。薬剤は、より正確な量を投与することが効果の面、安全面において、必須であり、より正確な量の薬を患者に投与する目的において、この樹脂組成物によるプレフィルドシリンジ等は、極めて有効なものである。
【産業上の利用可能性】
【0152】
本発明の医療用ポリプロピレン系樹脂組成物は、薬剤吸着防止性に優れ、薬剤吸着量が少ないから、医療用収納容器材料として、好適に用いることができる。また、本発明の医療用ポリプロピレン樹脂組成物を各種成形法によって、注射筒、医療用器具および医療用容器、薬剤液を充填してなる注射筒および容器などに、好適に成形できる。そのような成形品としては、特に、輸液バッグ、プレフィルドシリンジ、プラスチックバイアルなどに向いている。
【図面の簡単な説明】
【0153】
【図1】本発明のポリプロピレン系樹脂組成物を得るための洗浄プロセスの好ましい一実施態様を説明する概略図である。
【符号の説明】
【0154】
A 塊状重合反応槽
B 交流洗浄塔
1 モノマー導入配管
2 共重合体スラリー抜出配管
3 共重合体スラリー導入配管
4 洗浄液導入配管
5 洗浄液抜出配管
6 製品抜出配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
JIS K7210(230℃、2.16kg荷重)に準拠したメルトフローレート(MFR)が3〜50g/10分であり、かつ炭素数30以下のオリゴマー量が500μg/g以下であるプロピレン系樹脂100重量部と、造核剤0.01〜1重量部とを含むことを特徴とする医療用ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項2】
プロピレン系樹脂は、プロピレン単独重合体であることを特徴とする請求項1に記載の医療用ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項3】
プロピレン系樹脂は、エチレン又はα−オレフィンの含有量が0.1〜4重量%であるプロピレン系ランダム共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の医療用ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項4】
プロピレン系樹脂は、溶媒中で塊状重合を行った後、炭化水素系媒体で洗浄し得られるものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の医療用ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項5】
造核剤は、芳香族燐酸エステル金属塩化合物、有機リン酸Na塩化合物、ジナトリウム=(1R,2R,3S,4S)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボキシラートを主成分とする化合物、アミド系化合物、又は下記一般式(1)で示される構造を有する化合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の医療用ポリプロピレン系樹脂組成物。
【化1】

[式中、nは、0〜2の整数であり、R〜Rは、同一または異なって、それぞれ水素原子または炭素数が1〜20のアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、カルボニル基、ハロゲン基もしくはフェニル基であり、Rは、炭素数が1〜20のアルキル基である。]
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の医療用ポリプロピレン系樹脂組成物を成形してなる成形品。
【請求項7】
医療用器具または医療用容器であることを特徴とする請求項6に記載の成形品。

【図1】
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【公開番号】特開2009−108310(P2009−108310A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−259346(P2008−259346)
【出願日】平成20年10月6日(2008.10.6)
【出願人】(596133485)日本ポリプロ株式会社 (577)
【Fターム(参考)】