説明

医療用具の製造方法および医療用具

【課題】医療用具の表面に耐久性の良い潤滑性表面を形成できる医療用具の製造方法およびこの製造方法により製造された医療用具を提供すること。
【解決手段】
本発明は、高分子材料からなる医療用具の表面に、ジイソシアネート化合物を接触させ、次いで、ポリアルキレンオキサイド、ポリウレタンプレポリマー、およびポリアルキレングリコールの混合物を接触させることにより潤滑性が付与された医療用具の製造方法である。また、本発明は、前記製造方法により製造された医療用具である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用具の製造与方法および医療用具に関し、特に体内に挿入して使用される医療用具の表面に湿潤時における潤滑性が付与された医療用具の製造方法およびその方法により製造された医療用具に関する。
【背景技術】
【0002】
カテーテルやガイドワイヤ等の体内に挿入して使用される医療用具においては、体内挿入時における生体組織との摩擦抵抗を低減させるべく、その表面にポリアルキレンオキサイド等の水溶性高分子化合物を固定して、湿潤時に潤滑性を有するように処理することが知られており、この潤滑性を付与するための方法が幾つか報告されている。例えば、特許文献1には、医療用具の表面をジイソシアネート化合物に接触させた後、ポリアルキレンオキサイドにポリウレタンプレポリマーを加えた混合物を、その医療用具の表面に接触させることにより、耐久性の良い潤滑性表面を形成できることが開示されている。
【特許文献1】特開2005−287845号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述した従来の方法でもある程度の耐久性を奏することができるものの、更に耐久性の良い潤滑性表面を形成する方法が望まれている。そこで、本発明の目的は、医療用具の表面に耐久性の良い潤滑性表面を形成できる医療用具の製造方法およびその医療用具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、高分子材料からなる医療用具の表面に、ジイソシアネート化合物を接触させ、次いで、ポリアルキレンオキサイド、ポリウレタンプレポリマー、およびポリアルキレングリコールの混合物を接触させることにより潤滑性が付与された医療用具の製造方法である。
【0005】
また、本発明は、前記製造方法により製造された医療用具である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の製造方法によれば、摩擦を繰り返しても潤滑性がさらに低下しにくい、つまり耐久性が更に向上した高い潤滑性表面を形成できるという効果がある。また、本発明の医療用具によれば、耐久性の高い潤滑性層がその表面に形成されるため。高い潤滑性能を十分に維持できるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の医療用具の製造方法は、高分子材料からなる医療用具の表面に、ジイソシアネート化合物を接触させ、次いで、ポリアルキレンオキサイド、ポリウレタンプレポリマーおよびポリアルキレングリコールの混合物を接触させることにより医療用具表面に潤滑性が付与された方法である。
【0008】
本発明に係る方法を適用できる医療用具は、少なくとも潤滑性が付与される表面が高分子材料からなる医療用具である。高分子材料としては、医療用具の分野で通常使用されているものであれば特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、およびポリ塩化ビニル樹脂等の熱可塑性樹脂;ポリイミド樹脂およびエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂;オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、およびウレタン系エラストマー等の熱可塑性エラストマー;並びに、シリコーンゴム、天然ゴム、およびフッ素ゴム等のゴムを挙げることができる。
【0009】
医療用具の表面が、ポリオレフィン樹脂やフッ素樹脂のように、ジイソシアネート化合物と反応する水酸基等の官能基を有しない樹脂からなる場合、医療用具の表面とジイソシアネート化合物を接触させる前に、予めプラズマ照射を施すことにより、医療用具の表面にアミノ基または水酸基等のイソシアネート基と反応する官能基を導入することが好ましい。
【0010】
プラズマ照射をする場合の条件は、特に限定されないが、通常、真空度が39.9Pa〜133.3Pa、出力が100〜450ワット、時間が1〜15分間の条件下で、窒素ガス、酸素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス、および/またはネオンガス等を導入して行う。また、大気圧プラズマを照射しても良い。
【0011】
本発明において、医療用具の表面と接触させるジイソシアネート化合物は、分子中にイソシアネート基を2個有する化合物であって、通常、炭素数が、2〜13の範囲のものである。ジイソシアネート化合物の具体例としては、エチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、フエニレンジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、および4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート等を挙げることができる。これらの中でも、ジイソシアネート化合物としては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましい。
【0012】
ジイソシアネート化合物には、必要に応じて、少量のトリイソシアネート、ポリイソシアネートとポリオールとの付加化合物等を併用することができる。トリイソシアネートとしては、トリフェニルメタントリイソシアネート、およびトルエントリイソシアネート等を挙げることができる。また、ポリイソシアネートとポリオールとの付加化合物としては、トリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンとの付加化合物、ヘキサメチレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンとの付加化合物及びトリマー等を挙げることができる。
【0013】
ジイソシアネート化合物は、適当な溶媒に溶解して医療用具の表面に接触させることが好ましい。溶媒としては、ジイソシアネート化合物と反応しないものであれば特に限定されないが、例えば、塩化メチレン、酢酸エチル、アセトン、クロロホルム、メチルエチルケトン、およびエチレンジクロライド等を挙げることができる。溶液中のジイソシアネート化合物の濃度は、通常、0.5〜50重量%、好ましくは5〜30重量%である。
【0014】
前記混合物の成分として用いるポリアルキレンオキサイドは、アルキレンオキサイドを単量体とする重合体である。ポリアルキレンオキサイドとしては、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、およびエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合体が好ましく、ポリエチレンオキサイドが特に好ましい。また、ポリアルキレンオキサイドの数平均分子量は、通常5千〜50万の範囲のものである。
【0015】
ポリアルキレンオキサイドは、適当な溶媒に溶解して使用することが好ましい。溶媒は、非水系のものがとくに好ましく、ジイソシアネート化合物を溶解するときに使用するものと同様なものを使用することができる。溶液中のポリアルキレンオキサイドの濃度は、通常、0.1〜30重量%、好ましくは1〜20重量%である。
【0016】
前記混合物の成分となるポリウレタンプレポリマーは、高分子ポリオール、ジイソシアネート化合物および必要に応じて鎖伸長剤を、溶媒の存在下または不存在下で反応させて得られる、分子中にイソシアネート基を1個以上、好ましくは2個以上有する高分子化合物である。
【0017】
ポリウレタンプレポリマーを得るために用いられる高分子ポリオールとしては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、およびポリエステルポリカーボネートポリオール等を挙げることができ、なかでも、ポリエーテルポリオールを用いることが好ましい。また、ポリウレタンプレポリマーの製造においては、これらの高分子ポリオールを2種以上組み合わせて使用しても良い。
【0018】
ポリウレタンプレポリマーを得るための高分子ポリオールとして用いるポリエーテルポリオールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0019】
ポリウレタンプレポリマーを得るために用いられるジイソシアネート化合物としては、上述した医療用具に接触させるジイソシアネート化合物と同様の化合物を用いることができる。
【0020】
前記鎖伸長剤成分としては、イソシアネート基と反応し得る活性水素原子を分子中に2個以上有する分子量300以下の低分子化合物を挙げることができ、具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−シクロヘキサンジオール、ビス−(β−ヒドロキシエチル)テレフタレート、およびキシリレングリコール等のジオール類;トリメチロールプロパン等のトリオール類;ペンタエリスリトール等のペンタオール類;ヒドラジン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジンおよびその誘導体、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシレンジアミン、アジピン酸ジヒドラジド、並びにイソフタル酸ジヒドラジド等のジアミン類;アミノエチルアルコール、およびアミノプロピルアルコール等のアミノアルコール類等を挙げることができ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。
【0021】
ポリウレタンプレポリマーは、上述の各成分を混合し、例えば、30〜150℃の温度条件下、有機溶媒の存在下または不存在下で反応させれば得ることができる。また、ポリウレタンプレポリマーの分子量は特に限定されないが、5000〜20000が好ましい。なお、このようなポリウレタンプレポリマーは、例えば、コロネート(商標)2491(日本ポリウレタン社製)として市販されており、これを用いてもよい。
【0022】
得られたポリウレタンプレポリマーは、上述のポリアルキレンオキサイド溶液に添加して、混合すればよい。添加量は、特に限定されないが、ポリアルキレンオキサイドに対して、30〜50重量%であることが好ましい。また、ポリアルキレンオキサイド溶液にポリウレタンプレポリマーを添加する時は、ポリウレタンプレポリマーのイソシアネート基がポリアルキレンオキサイドの末端基と反応して失活することを避けるため、それにより得られる混合物を医療用具の表面に接触させる直前であることが好ましい。
【0023】
また、前記混合物の成分となるポリアルキレングリコールとしては、例えばポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコール等を挙げることができ、この中でもポリエチレングリコールが好ましい。ポリアルキレングリコールの数平均分子量としては、600〜20000のものを挙げることができる。
【0024】
ポリアルキレングリコールは、適当な溶媒に溶解して使用することが好ましく、この溶媒としては、ポリウレタンプレポリマーを溶解するときに使用するものと同様のものを使用できる。ポリアルキレングリコールは、配合するウレタンプレポリマーのイソシアネート基の当量に対して、水酸基が0.01〜1当量となるように配合することが好ましく、水酸基が0.01〜0.2当量となるように配合することがより好ましい。
【0025】
本発明を具体的に実施するには、通常、医療用具の表面を、浸漬、スプレー、その他の方法によって、ジイソシアネート化合物を溶解した溶液と接触させる。接触時間は、例えば、浸漬の場合は5〜60秒間である。
【0026】
医療用具の表面が、ポリオレフィン樹脂またはフッ素樹脂等の場合は、上述したように、医療用具の表面をジイソシアネート化合物に接触させる前に、予めプラズマ照射を行う。
【0027】
次いで、室温で風乾して溶媒を除去する。溶媒を除去するための時間は、通常、30秒間〜数十分間である。続いて、ポリアルキレンオキサイドとポリウレタンプレポリマーとポリアルキレングリコールの混合物を溶解した溶液を、浸漬、スプレーその他の方法により医療用具の表面と接触させ、続いて、室温で風乾して溶媒を除去する。浸漬の場合は、浸漬時間は5〜60秒間であり、溶媒を除去するための時間は、通常、30秒〜数十分間である。
【0028】
その後、医療用具を、40〜80℃の範囲で、好ましくは50〜70℃の範囲で加熱処理し、ポリアルキレンオキサイドを医療用具の表面に固定させる。この場合、処理時間は、通常2〜20時間である。なお、この後、水洗することにより、未反応のポリアルキレンオキサイド、ジイソシアネート化合物、及び、ポリウレタンプレポリマーを除去することが好ましい。
【0029】
本発明によれば、ジイソシアネート化合物を接触させた医療用具の表面に、ポリアルキレンオキサイドを接触させるにあたり、ポリアルキレンオキサイドにポリウレタンプレポリマーおよびポリアルキレングリコールを添加して混合することにより、従来の方法と比較して、ポリアルキレンオキサイドが医療用具の表面から脱離しにくくなる。すなわち、医療用具の表面に耐久性の良い潤滑性表面が形成される。そのため、この方法によって潤滑性が付与された医療用具は、その医療用具が繰り返し摩擦されても、潤滑性が悪化しにくい。なお、ポリアルキレンオキサイドにポリアルキレングリコールを加えることによって、医療用具の表面からポリアルキレンオキサイドが脱離しにくくなる理由は必ずしも明らかではないが、ポリウレタンプレポリマーとポリアルキレンオキサイドとの間でポリアルキレングリコールが反応して結合して、ポリアルキレンオキサイドを固定することによるものと推測される。
【0030】
本発明の医療用具は、上述の方法により表面に湿潤時における潤滑性が付与された医療用具であり、繰り返し摩擦されても、潤滑性が悪化しにくい。医療用具としての種類は特に限定されず、例えば、尿道カテーテル類、吸引カテーテル類等の経口または経鼻的に消化管内に挿入または留置されるカテーテル類;サーモダイリーションカテーテル(TDC)、血管造影カテーテル、シースイントロデユーサ、大動脈バルーンポンピング用カテーテル(IABP)、経皮的冠状動脈経血管形成術用バルーンカテーテル(PTCA)、マイクロカテーテル、血栓吸引用カテーテル、狭窄貫通用カテーテル等の血管又は心臓内に挿入または留置されるカテーテル類;さらに、ガイドワイヤ等を挙げることができる。医療用具の形状は、その種類に応じて決定すればよく特に限定されないが、例えばチューブ状および線状等を挙げることができる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0032】
<実施例1>
ポリアミド系エラストマー(PEBAX(商標)5533)を押出成形することにより得たチューブ(外径1.3mm、内径0.9mm、長さ350mm)を、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートのメチルエチルケトン溶液(濃度:20重量%)に30秒間浸漬して引き上げ、30秒間風乾した。次いで、このチューブを、直前に調製した分子量40万のポリエチレンオキサイド(濃度:3重量%)、分子量8000のポリプロピレングリコール系ポリウレタンプレポリマー(日本ポリウレタン社製コロネート(商標)2491、イソシアネート基含量10%)(濃度:0.35重量%)、および分子量1000のポリエチレングリコール(濃度:0.06重量%、前記ウレタンプレポリマーのイソシアネート基の当量に対して水酸基が0.15当量)のアセトニトリル溶液に、10秒間浸漬後、2分間風乾した。さらに、このチューブを60℃で15時間加熱処理し、その後、水洗して未反応のポリエチレンオキサイドを除去して、実施例1のチューブを得た。
【0033】
次に、得られた実施例1のチューブについて、潤滑性の耐久性試験を行った。まず、駆動方向が地面に対して垂直方向になるように設置されたアクチエーターに、測定端子が下方を向くようにフォースゲージを取り付けた。次いで、フォースゲージの測定端子に実施例1のチューブを接続して吊り下げて、そのチューブを37℃の水浴中に浸した。次いで、チューブの下端から120mmの位置を2枚のシリコーンゴムシート(40mm×50mm、厚さ10mm)で、荷重を80gf(0.784N)に調整して挟んだ。この際、シリコーンゴムシートとチューブの長手方向が一致するように、シリコーンゴムシートの向きを調整した。次いで、アクチエーターを8mm/secで上方に動かして、その直後から15秒後の間、1秒毎に、フォースゲージで測定される応力(チューブがシリコーンゴムシートから受ける摩擦応力)を記録し、その平均値を求めた。そして、この測定に用いたチューブをそのまま使用して、同様の測定を20回繰り返した。その結果、測定5回目の摩擦応力は45mN、10回目の摩擦応力は45mN、20回目の摩擦応力は45mNであった。
【0034】
<実施例2>
分子量1000のポリエチレングリコール(濃度:0.06重量%)の代わりに、分子量20000のポリエチレングリコール(濃度:0.50重量%、前記ウレタンプレポリマーのイソシアネート基の当量に対して水酸基が0.06当量)を加えたこと以外は、実施例1と同様にして、潤滑性を付与した実施例2のチューブを得た。この実施例2のチューブについて、実施例1と同様に、潤滑性の耐久性試験を行った。その結果、測定5回目の摩擦応力は38mN、10回目の摩擦応力は39mN、20回目の摩擦応力は38mNであった。
【0035】
<比較例1>
前記アセトニトリル溶液に分子量1000のポリエチレングリコール(濃度:0.06重量%)を加えないこと以外は、実施例1と同様にして、潤滑性を付与した比較例1のチューブを得た。そして、この比較例1のチューブについて、実施例1と同様に、潤滑性の耐久性試験を行った。その結果、測定5回目の摩擦応力は47mN、10回目の摩擦応力は49mN、20回目の摩擦応力は54mNであった。
【0036】
本発明によれば、20回の耐久性試験においても十分に潤滑性が維持できることが分かった。このため、上記構成とすることにより、医療用具の表面に、摩擦を繰り返しても潤滑性が悪化しにくい、耐久性の良い潤滑性表面を形成することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子材料からなる医療用具の表面に、
ジイソシアネート化合物を接触させ、次いで、
ポリアルキレンオキサイド、ポリウレタンプレポリマー、およびポリアルキレングリコールの混合物を接触させることにより潤滑性が付与された医療用具の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法により製造された医療用具。

【公開番号】特開2008−237523(P2008−237523A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−81846(P2007−81846)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】