説明

医療用多層チューブ

【課題】薬剤を吸着しにくくかつ破断強度の大きく弾性に富む医療用チューブを提供すること。
【解決手段】 内層121が薬剤耐浸入性素材、外層123が耐破断性素材であって、両者を接着して成型したことを特徴とするチューブ102である。薬剤耐浸入性素材の例としては、PBRを挙げることができ、耐破断性素材の例としてはPVCを挙げることができる。また、医療用チューブという観点からは透明性のある素材であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用多層チューブに関し、特に、輸液に使用する医療用多層チューブに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、輸液セットのように、輸液製剤が入った薬液バッグと先端の針との間にチューブが介在して構成された医療用品が知られており、輸液はこのチューブを通って患者に静注される。このような医療用チューブは、輸液セット用チューブのみが存在するわけでなく、種々の太さや長さのものがあり、液体を導通するものとして広く使用される。
【0003】
そして、様々な医療シーンで用いられるため、医療用チューブには、柔軟であって破断しにくい特性が求められる。
【0004】
このような観点から、従来から医療用チューブにはPVC(ポリ塩化ビニル)が広く用いられている。
【0005】
また、医療用途であることから一回使用が原則である。このため、結果として、大量の廃棄物が排出されるという実情がある。
【0006】
一方で、PVCを初めとする塩素系プラスチックはダイオキシン類の主要発生源とされることから、近年ではその使用を低減することが求められている。
【0007】
また、PVCは、薬剤を吸着してしまいやすく、微量薬剤を投与する際にPVC製医療用チューブはその使用を避けたいという潜在的な要請がある。
【0008】
ここで、PVC代替としてPBR(ポリブタジエン)製の医療用チューブが使用されるが、PBRはPVCに比して破断強度が小さく、弾性率も低い、という問題点がある。現実の医療現場では輸液バッグを吊すスタンドの移動の際や人間の移動の際に、突っ張ったり引っかけたりすることもあり、PVCと同等以上でなくとも、安全率を考えて、極力破断強度が高く、弾性率の大きな医療用チューブが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−103192号
【特許文献2】特許第3192217号
【特許文献3】特許第4419448号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記に鑑みてなされたものであって、薬剤を吸着しにくくかつ破断強度の大きく弾性に富む医療用チューブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の医療用多層チューブは、内層が薬剤耐浸入性素材、外層が耐破断性素材であって、両者を接着して成型したことを特徴とする。
【0012】
すなわち、請求項1にかかる発明は、薬剤を吸着しにくく破断強度の大きな医療用チューブを提供可能となる。
ここで、薬剤耐浸入性素材の例としては、PBRを挙げることができ、耐破断性素材の例としてはPVCを挙げることができる。また、医療用チューブという観点からは透明性のある素材であることが好ましい。
【0013】
両者を接着するとは、必ずしも直接接着する態様のみに限定されず、接着剤や中間層が形成されることにより接着する態様も含まれるものとする。成型方法としては、押出成形を挙げることができる。
【0014】
また、チューブの太さは特に限定されないが、例えば、内径が2mm〜4mm、外径が3.5mm〜7mmとすることができる。また、内層の肉厚と外層の肉厚との比は、例えば、2:8〜8:2の範囲とする例を挙げることができるが、押出成形性や均質性の観点からは6:4〜4:6の比とすることができる。
【0015】
請求項2に記載の医療用多層チューブは、請求項1に記載の医療用多層チューブにおいて、内層と外層との間に中間層を設け、中間層の素材を内層とも外層とも接着する素材としたことを特徴とする。
【0016】
すなわち、請求項2にかかる発明は、素材の選択肢を広げることができる。外層と内層の両方に接着する素材であればとくに中間層の素材に限定はないが、例えば、外層がPVC、内層がPBRである場合には、両者を接着すべくエチレン・ビニルアルコール(EVA)とすることができる。内層または外層の肉厚と中間層の肉厚の比としては、5:1〜15:1とすることができる。
【0017】
請求項3に記載の医療用多層チューブは、請求項1または2に記載の医療用多層チューブにおいて、内層をPBR、外層をPVCとしたことを特徴とする。
【0018】
すなわち、請求項3にかかる発明は、医療用として何れも使用実績のある素材を組み合わせて信頼性の高い製品とすることが出来る。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、微量薬剤の導通にも使用でき、強度的な信頼性も高い医療用チューブを提供可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の医療用多層チューブを用いた輸液セットの構成例を示した説明図である。
【図2】本発明の医療用多層チューブの断面概念図を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の医療用多層チューブを用いた輸液セットの構成例を示した説明図である。図2は、本発明の医療用多層チューブの断面概念図を示した説明図である。なお、説明の便宜上、各構成部の縮尺は適宜変更してある。
【0022】
輸液セット100は、図1に示したように、点滴液が貯留された輸液バッグ101と、チューブ102と、患者Cの静脈(腕)に穿刺する静脈針103とを含んだ構成である。また、チューブ102途中には、点滴液の流量を目視にて確認可能にする点滴筒104と、点滴液の流量調整を行うためのクランプ105とが存在している。
【0023】
輸液バッグ101は、スタンドSに吊され、重力により点滴液がチューブ102を通って、患者Cの体内に移送される。このチューブ102は、場合により患者Cの横たわるベッドのある床面に達するなど比較的長く、時として強く引っ張られることがある。
【0024】
そこで、チューブ102は破断強度を確保するために、図2に断面を示したように三層構造としている。内層121はPBR、中間層122はEVA、外層123はPVCである。これらは、管構造であって互いに密着しているが、接着剤により貼着するのでなく、押出成形により互いを密着させて製造している。
【0025】
外層123にPVCを用いたのは、これまで通りの使用感、すなわち、耐破断強度が高く、弾性率も高い素材であって、傷つきにくい点を考慮した結果である。
【0026】
内層121にPBRを用いたのは、薬品吸着し難く、微量薬剤を移送するときに好適だからである。微量薬剤を用いるときだけ全体がPBR製のチューブを用いることもできるが、医療用チューブは、通常、透明チューブであって、PBR製であるかPVC製であるか現場では確認できない。よって、どのような薬剤を導通するときでもチューブの素材を意識せず使用できるようにチューブ102は多層チューブとしており、一層の汎用性を確保している。
【0027】
中間層122にEVAを用いたのは、内層121に好適なPBRと外層123に好適なPVCとを押出成形しても両者が接着せず、このどちらにも接着する素材として好適だからである。中間層122を介して、内層121と外層123とを接着することにより、両素材の特性を生かした医療用に適したチューブを提供可能となる。
【0028】
内層121と外層123とは同程度の厚みとしているが、これに限らず、内層121は薬品耐侵入性が確保されれば、例えば外層123の1/3の厚みとすることができる。逆に、PVCの使用量を低減するのであれば、内層121の厚みを外層123の厚みより厚くするようにする。中間層122は、いわば内層121と外層123との接着部材として作用すればよいので、その厚みは例えば、外層123の1/10とすることができる。
【0029】
なお、内層が薬剤を吸着せず、外層が強度的に保証されるのであれば、その素材は上記に限定されず種々採用できる。このとき、両者が押出成形で接着する素材であれば、中間層は設けなくても良い。なお、中間層を設ける場合であっても内層と外層とに接着する素材であれば特に限定されない。例えば、外層としてPE(ポリエチレン)を用いても良い。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明によれば、輸液セット以外でも例えば、人工心肺回路といった、比較的大径のチューブに適用することもできる。
【符号の説明】
【0031】
100 輸液セット
101 輸液バッグ
102 チューブ
103 静脈針
104 点滴筒
105 クランプ
121 内層
122 中間層
123 外層
S スタンド
C 患者

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内層が薬剤耐浸入性素材、外層が耐破断性素材であって、両者を接着して成型したことを特徴とする医療用多層チューブ。
【請求項2】
内層と外層との間に中間層を設け、中間層の素材を内層とも外層とも接着する素材としたことを特徴とする請求項1に記載の医療用多層チューブ。
【請求項3】
内層をPBR、外層をPVCとしたことを特徴とする請求項1または2に記載の医療用多層チューブ。




【図1】
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【図2】
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