説明

医療用手技評価システム、手技評価装置及び手技評価装置用プログラム

【課題】 医師や医学生に対し、手術や触診等の医療行為の手技に対して客観的に評価することのできるツールを提供すること。
【解決手段】 医師や医学生等の評価対象者が縫合処置を模擬的に行う切込み27を含み、当該切込み27の周囲に作用する力により弾性変形可能な軟素材18と、この軟素材18の変形に応じた状態量を測定する反射型フォトインタラプタ16と、この反射型フォトインタラプタ16の測定値から、縫合処置に対する手技の評価値を求める手技評価装置12とを備えて医療用手技評価システム10が構成されている。手技評価装置12は、反射型フォトインタラプタ16の測定結果に基づく値を予め設定された評価関数のパラメータに代入し、前記評価値を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用手技評価システム、手技評価装置及び手技評価装置用プログラムに係り、更に詳しくは、手術時の処置等の各種医療行為に対する医師及び医学生の手技を客観的に評価することができる医療用手技評価システム、手技評価装置及び手技評価装置用プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
手術時には、組織の切開や切除、切開や切除した組織の縫合、及び縫合糸を縛る結紮等の処置が行われているが、これら処置等の医療行為に関する手技は、相当数の訓練を行うことで向上する。ところが、人体に対する訓練は制限されていることから、手術手技を向上させる訓練用のツールとして、人体を模擬した手術訓練用シミュレーターが知られており(特許文献1参照)、当該シミュレーターは、特に、経験の少ない未熟な医師や医学生にとって有用である。
【特許文献1】特開2005−10164号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、経験の少ない医師や医学生が前記シミュレーター等を使用して訓練しても、自己の手技を客観的に評価するツールが現存しないため、自己の手技を評価するには、指導者による主観的な評価を求めるしかない。従って、このような場合にあっては、手技の評価が正確に行われない可能性がある他、当該評価を得るには、常に評価を行う指導者が必要となり、評価の伴う訓練を単独で効率的に行えないという不都合がある。
【0004】
本発明は、このような不都合に着目して案出されたものであり、その目的は、医師や医学生に対し、手術や触診等の医療行為の手技に対して客観的に評価することのできる医療用手技評価システム、手技評価装置及び手技評価装置用プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)前記目的を達成するため、本発明に係る医療用手技評価システムは、評価対象者が医療行為を模擬的に行う対象部位を含み、当該対象部位の周囲に作用する力により弾性変形可能な軟素材と、この軟素材の変形に応じた状態量を測定するセンサと、このセンサの測定値から、前記医療行為に対する手技の評価値を求める手技評価装置とを備え、
前記手技評価装置は、前記センサの測定結果に基づく値を予め設定された評価関数のパラメータに代入し、前記評価値を算出する、という構成を採っている。
【0006】
(2)また、前記センサは、発光素子及び受光素子を備えた反射型フォトインタラプタであり、前記発光素子からの光が前記軟素材に反射して前記受光素子で受光可能な位置に設けられ、前記受光素子を通過する電流の変化に基づき、前記パラメータへの代入値を求める、という構成を採ることができる。
【0007】
(3)ここで、前記手技評価装置は、前記受光素子からの電圧値を検出する電圧検出部と、前記医療行為の開始から終了までの各時間に対する電圧値の関係を示す電圧変化グラフが作成されるデータ集計部と、このデータ集計部のデータから前記手技に関連する指標となる値を求めるデータ演算部と、この値を前記評価関数のパラメータに代入して前記評価値を算出する評価値算出部とを備える、という構成を採っている。
【0008】
(4)この際、前記指標は、前記医療行為の開始から終了までの所要時間と、前記医療行為の間の最小電圧値と、前記電圧変化グラフと時間軸とで囲まれる領域の面積を前記所要時間で除した単位時間面積と、前記電圧変化グラフを高速フーリエ変換して得られたフーリエ変換グラフに対し、二番目に高いピーク値を最も高いピーク値で除したFFTピーク比とを含むとよい。
【0009】
(5)また、本発明は、評価対象者が医療行為を模擬的に行う対象部位の変形に対応した状態量を測定するセンサの検出値により、前記医療行為の手技の評価値を求める医療用の手技評価装置であって、
前記センサでの検出結果から、前記手技に関連する指標となる値を求め、当該値を予め設定された評価関数のパラメータに代入し、前記評価値を算出する、という構成を採っている。
【0010】
(6)更に、本発明は、評価対象者が医療行為を模擬的に行う対象部位の変形に対応した状態量を測定するセンサの検出値により、前記医療行為に対する手技の評価値を求める医療用の手技評価装置を実行させるためのプログラムであって、
前記センサでの検出結果から、前記手技に関連する指標となる値を求め、当該値を予め設定された評価関数のパラメータに代入し、前記評価値を算出するように、前記手技評価装置を機能させる、という構成を採っている。
【発明の効果】
【0011】
本発明よれば、評価対象者としての医師や医学生が軟素材上で行った手術や触診等の医療行為の手技について、能力に応じた評価値が得られることになり、医師や医学生の手技の定量的な評価が可能となり、客観的な評価を伴う訓練を単独で効率的に行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0013】
図1には、本実施形態に係る医療用手技評価システムの概略構成図が示されている。この図において、医療用手技評価システム10は、医師や医学生等により行われる手術時の縫合処置の手技を評価するシステムであって、医師や医学生等の評価対象者により縫合処置が模擬的に行われる模擬体11と、模擬体11に行われた縫合処置に対して定量的な評価を行う手技評価装置12とを備えて構成されている。
【0014】
前記模擬体11は、図1及び図2に示されるように、平面視ほぼ方形状の土台14と、この土台14の上に固定された基板15と、当該基板15に配線されたセンサとしての反射型フォトインタラプタ16と、反射型フォトインタラプタ16の側方周囲を囲むように基板15上に配置されたフレーム17と、反射型フォトインタラプタ16を覆うようにフレーム17の上面に固定され、評価対象者の縫合処置により作用する力により弾性変形可能な軟素材18とを備えて構成されている。
【0015】
前記反射型フォトインタラプタ16は、図示しない電源からの電流により光を照射する発光素子20と、発光素子20から照射された光を受光する受光素子21とを含む公知のものが用いられている。この受光素子21は、図示しない電源からアースに向って通過する電流の大きさが受光量に応じて異なるようになっており、受光素子21の上流側から前記手技評価装置12側に電流が分岐して流れる回路構成となっている。なお、反射型フォトインタラプタ16には、受光素子21での外部光の受光を阻止するフィルタ(図示省略)が設けられている。
【0016】
ここで、発光素子20から照射された光は、反射型フォトインタラプタ16を上方から覆う軟素材18に反射されて受光素子21で受光されることになるが、軟素材18の弾性変形により反射型フォトインタラプタ16と軟素材18との距離が変わると、受光素子21での受光量が変わり、受光素子21を通過する電流の大きさが変わる。これに伴って、受光素子21の上流側から分岐して手技評価装置12側に流れる電流の大きさが変わることになる。具体的には、反射型フォトインタラプタ16と軟素材18との距離が短くなるほど、受光素子21を通過する電流が多くなる一方、手技評価装置12側に流れる電流が少なくなり、結果として、手技評価装置18側に分岐する回路の電圧が高くなる。
【0017】
前記フレーム17は、平面視でほぼ方形状をなす外形に設けられ、その中央には、平面視ほぼ円形状の貫通部23が形成され、当該貫通部23内に反射型フォトインタラプタ16が収容されるようになっている。この貫通部23は、反射型フォトインタラプタ16よりも高く(深く)設定され、無変形の初期状態における軟素材18の下面と反射型フォトインタラプタ16との間に隙間が生じるように設定されている。なお、この隙間の高さは、軟素材18の弾性変形の範囲と、反射型フォトインタラプタ16の特性とを考慮して定められる。具体的には、軟素材18から反射型フォトインタラプタ16までの距離と、受光素子21を通過する電圧との関係がほぼ線形となる範囲に設定される。
【0018】
前記軟素材18は、前記フレーム17とほぼ同一の外形寸法を有する平面視ほぼ方形状のウレタンフォーム25と、このウレタンフォーム25の上面に固定される擬似表皮26と、これらウレタンフォーム25及び擬似表皮26に形成された切込み27とを備えている。
【0019】
前記擬似表皮26は、人間の皮膚の状態を擬似してプリンゲルによって形成されており、ウレタンフォーム25とほぼ同一の平面形状をなし、ウレタンフォーム25の厚みよりも薄く設定されている。
【0020】
前記切込み27は、図2中上下方向に形成されており、当該上下方向の長さが反射型フォトインタラプタ16の同一方向の幅よりも大きく設定され、また、擬似表皮26の表面からウレタンフォーム25の途中まで延びる深さの断面楔形に設けられている。この切込み27は、手術時における皮膚の切開部分を擬似しており、この切込み27を評価対象者が縫合することで、後述するように、当該縫合処置に対する手技評価がなされる。従って、切込み27は、評価対象者が医療行為となる手術時の処置を模擬的に行う対象部位を構成する。
【0021】
前記手技評価装置12は、ソフトウェア及びハードウェアによって構成され、プロセッサ等、複数のプログラムモジュール及び処理回路より成り立っている。この手技評価装置12は、受光素子21側からの電圧値(以下、単に「電圧値」と称する)を検出してデジタル信号に変換する電圧検出部29と、所定のタイミングで計時を行うタイマ30と、切込み27に対する縫合処置の開始から終了までの各時間に対する電圧値の関係を示す電圧変化グラフG(図3参照)が作成されるデータ集計部31と、このデータ集計部31のデータから、縫合手技に関連する各種指標の値を求めるデータ演算部32と、これらデータ集計部31及びデータ演算部32から、縫合手技の評価値Zを算出する評価値算出部33と、求めた評価値Zを表示する表示部34とを備えて構成されている。
【0022】
前記電圧検出部29では、タイマ30による計時を開始してから終了まで、所定時間(本実施形態では、2μsec)毎に電圧値を計測し、当該電圧値を所定時間(本実施形態では、50msec)単位で平均化した平均電圧値を求めるようになっている。
【0023】
前記タイマ30は、評価対象者が切込み27に針を入れた時に計時を開始し、当該切込み27から針を抜いた時に計時を終了するように動作する。これら開始及び終了の指令は、特に限定されるものではないが、切込み27の目視によって手動で行ってもよいし、図示しないカメラでの撮影に基づいて自動で行っても良い。
【0024】
前記データ集計部31では、電圧検出部29で求めた平均電圧値を時間に対応させてプロットする。ここで、電圧値は、前記軟素材18が無変形となる初期状態よりも上側に変形したときに「+」の符号が付される一方、軟素材18が前記初期状態よりも下側に変形したときに「−」の符号が付されるように設定される。
【0025】
前記データ演算部32では、縫合処置の開始から終了までの所要時間Xと、この縫合処置の間における最小電圧値Xと、電圧変化グラフGと時間軸とで囲まれる領域の面積を前記所要時間Xで除した単位時間面積Xと、前記電圧変化グラフGを高速フーリエ変換(FFT)することで得られるとともに、周波数とパワーの関係を示すフーリエ変換グラフG(図4参照)と、このフーリエ変換グラフGにおいて二番目に高いピーク値Pを最も高いピーク値Pで除したFFTピーク比Xとが演算される。
【0026】
前記評価値算出部33では、所要時間X、最小電圧値X、単位時間面積X、及びFFTピーク比Xをパラメータとする次式の評価関数に、データ演算部32で求めた各値が代入されて評価値Zが求められる。
Z=AX+BX+CX+DX+E
なお、A、B、C、D、Eは、定数である。
この評価関数は、予め、複数の医師と複数の未経験者とそれぞれに対して、前記パラメータの各値を取得し、公知の判別解析を用いて、評価値Zの平均が0となるように、各定数A〜Eが求められるようになっており、評価値Zが大きいほど、縫合手技が上手いと判断される。また、A〜Eの一部若しくは全部を任意に設定することも可能である。
【0027】
なお、ここでのパラメータとしては、縫合手技の上手下手を左右する指標であれば、種類や数を問わずに何でも採用することができ、それに伴って、別途、評価関数を判別解析で求めて、その評価関数を適用すれば良い。本実施形態での指標は、以下に説明するように、縫合手技の上手下手を左右するものである。すなわち、所要時間Xは、それが短い程、高い手技を持つ証になり得るからである。また、最小電圧値Xは、軟素材18が下方に変形する程、小さくなるが、高い手技を持つ医師が縫合すると、切込み27の表面の縫合に留まらず、切込み27の深部まで縫合がなされ、それに伴って、軟素材18が下方に大きく変形し得るからである。更に、単位時間面積Xは、深い部分までの縫合が満遍なくされているか否かを見分けるためである。また、FFTピーク比Xは、高い手技を持つ医師が縫合すると、縫合時の震えが少ないことから、フーリエ変換グラフGでの山(ピーク)が少なくなり、二番目に高いピーク値Pを最も高いピーク値Pで除したFFTピーク比Xが小さくなると考えられるからである。
【0028】
従って、このような実施形態によれば、軟素材18の切込み27を縫合することにより、比較的簡単な構成の手技評価装置12で、縫合手技を左右する四つの指標をパラメータとした評価関数を使って、縫合手技を表す評価値Zを自動的に求めることができ、指導者が付き添わなくても、縫合手技の客観的な評価を簡単に得ることが可能になる。
【0029】
なお、前記実施形態では、軟素材18の変形を測定するセンサとして、反射型フォトインタラプタ16を採用したが、本発明はこれに限らず、軟素材18の変形に対応した所定の状態量を測定できるセンサであれば何でも良く、例えば、超音波センサ等を代替して適用することもできる。また、反射型フォトインタラプタ16を複数配置してもよく、このようにすると、更に精度の高い手技評価を得ることができる。
【0030】
また、本発明では、軟素材18の形状を調整することで、切断や結紮等の他の手術の手技や触診等、他の医療行為の手技の評価も可能である。
【0031】
更に、軟素材18としては、本実施形態の構成に限定されるものではなく、評価対象となる手技に応じて弾性変形可能なものであれば何でも良い。但し、本実施形態のように反射型フォトインタラプタ16を使用した場合には、透光性の高い材料により形成されることが好ましい。
【0032】
その他、本発明における装置各部の構成は図示構成例に限定されるものではなく、実質的に同様の作用を奏する限りにおいて、種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本実施形態に係る医療用手技評価システムの概略構成図。
【図2】模擬体の概略平面図。
【図3】時間と電圧との関係を示す電圧変化グラフ。
【図4】周波数とパワーとの関係を示すフーリエ変換グラフ。
【符号の説明】
【0034】
10 医療用手技評価システム
12 手技評価装置
16 反射型フォトインタラプタ(センサ)
18 軟素材
20 発光素子
21 受光素子
27 切込み(対象部位)
29 電圧検出部
31 データ集計部
32 データ演算部
33 評価値算出部
Z 評価値
電圧変化グラフ
フーリエ変換グラフ
所要時間
最小電圧値
単位時間面積
FFTピーク比

【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象者が医療行為を模擬的に行う対象部位を含み、当該対象部位の周囲に作用する力により弾性変形可能な軟素材と、この軟素材の変形に応じた状態量を測定するセンサと、このセンサの測定値から、前記医療行為に対する手技の評価値を求める手技評価装置とを備え、
前記手技評価装置は、前記センサの測定結果に基づく値を予め設定された評価関数のパラメータに代入し、前記評価値を算出することを特徴とする医療用手技評価システム。
【請求項2】
前記センサは、発光素子及び受光素子を備えた反射型フォトインタラプタであり、前記発光素子からの光が前記軟素材に反射して前記受光素子で受光可能な位置に設けられ、前記受光素子を通過する電流の変化に基づき、前記パラメータへの代入値を求めることを特徴とする請求項1記載の医療用手技評価システム。
【請求項3】
前記手技評価装置は、前記受光素子からの電圧値を検出する電圧検出部と、前記医療行為の開始から終了までの各時間に対する電圧値の関係を示す電圧変化グラフが作成されるデータ集計部と、このデータ集計部のデータから前記手技に関連する指標となる値を求めるデータ演算部と、この値を前記評価関数のパラメータに代入して前記評価値を算出する評価値算出部とを備えていることを特徴とする請求項2記載の医療用手技評価システム。
【請求項4】
前記指標は、前記医療行為の開始から終了までの所要時間と、前記医療行為の間の最小電圧値と、前記電圧変化グラフと時間軸とで囲まれる領域の面積を前記所要時間で除した単位時間面積と、前記電圧変化グラフを高速フーリエ変換して得られたフーリエ変換グラフに対し、二番目に高いピーク値を最も高いピーク値で除したFFTピーク比とを含むことを特徴とする請求項3記載の医療用手技評価システム。
【請求項5】
評価対象者が医療行為を模擬的に行う対象部位の変形に対応した状態量を測定するセンサの検出値により、前記医療行為の手技の評価値を求める医療用の手技評価装置であって、
前記センサでの検出結果から、前記手技に関連する指標となる値を求め、当該値を予め設定された評価関数のパラメータに代入し、前記評価値を算出することを特徴とする手技評価装置。
【請求項6】
評価対象者が医療行為を模擬的に行う対象部位の変形に対応した状態量を測定するセンサの検出値により、前記医療行為に対する手技の評価値を求める医療用の手技評価装置を実行させるためのプログラムであって、
前記センサでの検出結果から、前記手技に関連する指標となる値を求め、当該値を予め設定された評価関数のパラメータに代入し、前記評価値を算出するように、前記手技評価装置を機能させることを特徴とする手技評価装置用プログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−185400(P2007−185400A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−6863(P2006−6863)
【出願日】平成18年1月16日(2006.1.16)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)