説明

医療用穿刺針

【課題】良好な穿刺性を確保し、かつ、挿入体の先端によって血管壁などを傷つけることがないように挿入体の進行方向を針本体の中心軸線に対して屈曲させることが可能な医療用穿刺針を提供する。
【解決手段】医療用穿刺針10は、可撓性を有する挿入体20を挿通自在な内腔31が形成された直管形状を有する針本体30と、針本体の中心軸線Cに対して傾斜する先端開口32を備える刃面33と、を有している。医療用穿刺針はさらに、刃面に連続する内腔内面のうち刃先側の内腔内面に設けられたガイド部材40を有している。このガイド部材は、挿入体が針本体の中心軸線よりも刃面ヒール部34の側に屈曲しつつ先端開口を挿通するようにガイドする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用穿刺針に関する。
【背景技術】
【0002】
近年医療において、カテーテルと呼ばれる細長い中空管状の医療器具を用いて様々な形態の治療や検査が行われている。動脈や静脈などにカテーテルを導入するときにはガイドワイヤーが用いられる。このガイドワイヤーは、医療用穿刺針を用いて血管に導入されている。ガイドワイヤーなどの可撓性を有する挿入体を血管内に挿入するときには、挿入体の先端によって血管壁を傷つけないようにすることが必要である。
【0003】
特許文献1には、針本体の先端部を湾曲形状に形成することによって、あるいは針本体の周壁に開口を形成することによって、挿入体の進行方向を針本体の中心軸線に対して屈曲させることが可能な医療用穿刺針が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−194112(図5、図7を参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、針本体の先端部を湾曲形状に形成した医療用穿刺針にあっては、針本体を血管などに穿刺するときの抵抗が大きく、穿刺性が悪いという問題がある。また、針本体の周壁に開口を形成した医療用穿刺針にあっては、穿刺性は確保できるものの、開口が血管壁に向かい合い易くなり、挿入体の先端によって血管壁を傷つける虞がある。
【0006】
本発明の目的は、上記従来技術に伴う課題を解決するためになされたものであり、良好な穿刺性を確保し、かつ、挿入体の先端によって血管壁などを傷つけることがないように挿入体の進行方向を針本体の中心軸線に対して屈曲させることが可能な医療用穿刺針を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明の医療用穿刺針は、可撓性を有する挿入体を挿通自在な内腔が形成された直管形状を有する針本体と、前記針本体の中心軸線に対して傾斜する先端開口を備える刃面と、前記刃面に連続する内腔内面のうち刃先側の内腔内面に設けられ、前記挿入体が前記針本体の中心軸線よりも刃面ヒール部の側に屈曲しつつ前記先端開口を挿通するようにガイドするガイド部材と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、挿入体を針本体の先端側に向けて送り出して進行させると、挿入体は、ガイド部材に沿って、針本体の中心軸線よりも刃面ヒール部の側に屈曲しつつ先端開口を挿通するようにガイドされる。これによって、挿入体の進行方向を針本体の中心軸線に対して屈曲させ、例えば血管壁などを傷つけることなく血管内などに挿入体を挿入することが可能となる。
【0009】
しかも、針本体の先端に先端開口を備えているため、針本体の周壁に開口を形成する場合に比べて血管壁などに向かい難くなる。したがって、挿入体を屈曲させつつ挿通しても、挿入体の先端によって血管壁などを傷つけることがなくなる。
【0010】
さらに、直管形状の針本体の先端に刃面を形成しているので、針本体を血管などに穿刺するときの抵抗が小さく、良好な穿刺性を確保することができる。
【0011】
したがって、本発明の医療用穿刺針によれば、良好な穿刺性を確保し、かつ、挿入体の先端によって血管壁などを傷つけることがないように挿入体の進行方向を針本体の中心軸線に対して屈曲させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1(A)(B)は、実施形態に係る医療用穿刺針を示す正面図および平面図、図1(C)は、針本体の先端部分を示す拡大図である。
【図2】針本体の先端部分を模式的に示す断面図である。
【図3】図3(A)(B)は、医療用穿刺針の作用の説明に供する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0014】
図示する医療用穿刺針は、カテーテルを導入するときに用いるガイドワイヤーを血管に導入するときに用いるためのデバイスである。近年、カテーテル等を動脈に導入する手技において、経大腿動脈アプローチ(TFI)よりも、術後の患者の負担が軽いとされる経橈骨動脈アプローチ(TRI)での手技が増加している。大腿動脈よりも橈骨動脈の方が血管径が小さいことから、TRI方式にあっては、医療用穿刺針、ガイドワイヤー、カテーテル等はその外径が小さいものが使用されている。橈骨動脈の径は2〜3mm程度である。なお、以下の説明において、デバイスの手元操作側を「基端側」、体腔内へ挿通される側を「先端側」と称す。また、医療用穿刺針を単に「穿刺針」とも称する。
【0015】
図1〜図3を参照して、本実施形態の穿刺針10は、概説すれば、可撓性を有するガイドワイヤー20(挿入体20に相当する)を挿通自在な内腔31が形成された直管形状を有する針本体30と、針本体30の中心軸線Cに対して傾斜する先端開口32を備える刃面33と、を有している。穿刺針10はさらに、刃面33に連続する内腔31内面のうち刃先側の内腔31内面に設けられたガイド部材40を有している。このガイド部材40は、ガイドワイヤー20が針本体30の中心軸線Cよりも刃面ヒール部34の側に屈曲しつつ先端開口32を挿通するようにガイドする。以下、穿刺針10を詳述する。
【0016】
針本体30は、直管形状を有する中空の金属パイプから形成されている。針本体30の形成材料は特に限定されないが、ステンレス鋼が好適である。針本体30の外径としては、0.9〜2.0mm程度が一般的である。
【0017】
針本体30の基端部には、内腔31に連通する通孔51が形成されたハブ50が取り付けられている(図1(A)(B)を参照)。ガイドワイヤー20は、ハブ50の後端開口52より挿入され、針本体30の内腔31に挿通される。ハブ50は硬質の樹脂から形成されている。術者は、ハブ50を持って穿刺針10の先端を血管100などに穿刺する。
【0018】
ハブ50には、刃面33が向いている側を現すためのマーカー53が取り付けられている。マーカー53の態様は限定されるものではなく、接着剤やテープ等によってプレートを貼り付けたり、塗料を塗布したりしたものでもよい。穿刺針10を穿刺した後においても、マーカー53を視認することによって、刃面33が向いている側をハブ50の部分で容易に確認することができる。
【0019】
針本体30の先端部には、穿刺用の刃面33が形成されている。直管形状の針本体30の先端に刃面33を形成しているので、針本体30を血管100などに穿刺するときの抵抗が小さく、良好な穿刺性を確保することができる。先端開口32は、針本体30の中心軸線Cに対して斜めに形成されている。これにより、先端開口32は、針本体30の長手方向に沿って所定長にわたって開口したものとなっている(図1(C)を参照)。先端開口32の長手方向の寸法は、内腔31の径寸法に比べて十分に長い寸法である。刃面33の傾斜方向に沿った長さは、一例を挙げれば、約2.5mmである。図示する穿刺針10の刃形は、ランセットポイントと指称される形状であるが、刃形はこのタイプに限定されるものではなく、バックカットポイントなど適宜形状の刃形を採用することができる。
【0020】
図1(C)および図2を参照して、ガイド部材40は、刃面33に連続する内腔31内面のうち刃先側の内腔31内面に設けられている。ガイド部材40の表面は、ガイドワイヤー20が針本体30の中心軸線Cよりも刃面ヒール部34の側に屈曲しつつ先端開口32を挿通するようにガイドするガイド面41となっている。ガイド面41は、ガイドワイヤー20の進行を上記のようにガイドし得る限りにおいて、円弧面に形成したり、あるいは平坦な傾斜面に形成したりすることができる。ガイドワイヤー20を屈曲させる角度θは、針本体30の中心軸線Cに対して0度より大きく、90度以下の範囲が好ましい。
【0021】
ガイド部材40は、刃面33を含む面よりも内腔31側に存在すること、すなわち、刃面33を超えて先端側に存在しない形状を有することが好ましい。針本体30を血管100などに穿刺するときの抵抗がガイド部材40によって大きくなることを防止でき、良好な穿刺性を維持することができるからである。
【0022】
ガイド部材40の形成材料は特に限定されず、樹脂材料や金属材料など適宜の材料を適用できる。樹脂材料としては、例えばポリカーボネート樹脂を例示でき、金属材料としては、例えばステンレス鋼を例示できる。
【0023】
ガイド部材40は、接着あるいは接合によって内腔31内面に取り付けられている。ガイド部材40の形成材料に対応して、接着(接着剤やUV接着など)、接合(溶接や超音波接合など)など公知の手法を適用することによって、ガイド部材40を内腔31内面に簡単に取り付けることができる。上述したように、先端開口32の長手方向の寸法は、内腔31の径寸法に比べて十分に長い寸法である。この点からも、ガイド部材40を内腔31内面に簡単に取り付けることができる。針本体30の壁の厚さ、つまり針本体30を構成する金属管の肉厚は薄いことが好ましい。同一外径寸法の針本体30であれば、肉厚が薄い方が先端開口32の開口面積を大きくとることができ、ガイド部材40を設置するスペースを大きく取ることができ、取り付け作業も行い易いからである。
【0024】
ガイド部材40の作製手法は特に限定されず、公知の手法を適用することができる。例えば、樹脂材料や金属材料を切削することによって作製することができる。この他にも、樹脂材料からなるガイド部材40であれば射出成型などの金型を用いた工法を適用でき、金属材料であれば鋳造やプレス成型などの工法をも適用できる。
【0025】
図2を参照して、先端開口32の周縁部(特に、刃面ヒール部34の近傍)は、縁部が丸められて(角がとれた形状となって)いる。ガイドワイヤー20を目的部位に向けて導入するために、ガイドワイヤー20を内腔31内で摺動させたり回転させたりする場合に、ガイドワイヤー20と先端開口32の周縁部とが擦れて損傷する等の不具合の発生を抑えることができるからである。
【0026】
実施形態の作用を説明する。
【0027】
術者は、ハブ50を持って穿刺針10の先端を血管100などに穿刺する。穿刺針10を穿刺した後においても、マーカー53を視認することによって、刃面33が向いている側をハブ50の部分で容易に確認することができる。図3(A)を参照して、ガイドワイヤー20を、ハブ50の後端開口52より挿入し、針本体30の内腔31に挿通する。図3中の矢印101は血流の流れ方向を示している。
【0028】
図3(B)を参照して、ガイドワイヤー20を針本体30の先端側に向けて送り出して進行させると、ガイドワイヤー20は、ガイド部材40のガイド面41に沿って、針本体30の中心軸線Cよりも刃面ヒール部34の側に屈曲しつつ先端開口32を挿通するようにガイドされる。これによって、ガイドワイヤー20の進行方向を針本体30の中心軸線Cに対して屈曲させ、血管壁を傷つけることなく血管100内にガイドワイヤー20を挿入することが可能となる。
【0029】
しかも、針本体30の周壁に開口を形成するのではなく、針本体30の先端に先端開口32を備えている。このため、先端開口32は血流の下流方向に向かって開口し、針本体の周壁に開口を形成する場合に比べて血管壁に向かい難くなる。したがって、ガイドワイヤー20を屈曲させつつ挿通しても、ガイドワイヤー20の先端によって血管壁を傷つけることがなくなる。
【0030】
さらに、前述したように、直管形状の針本体30の先端に刃面33を形成しているので、針本体30を血管100などに穿刺するときの抵抗が小さく、良好な穿刺性を確保することができる。
【0031】
したがって、本実施形態の穿刺針10によれば、良好な穿刺性を確保し、かつ、ガイドワイヤー20の先端によって血管壁などを傷つけることがないようにガイドワイヤー20の進行方向を針本体30の中心軸線Cに対して屈曲させることが可能となる。
【0032】
そして、ガイドワイヤー20を血管100内にある程度の長さ分だけ導入した後には、穿刺針10のみが抜去され、続いて、血管100内に留置したガイドワイヤー20の基端側を挿通するようにして、血管造影用、血管拡張用などのカテーテルが血管100内に導入される。
【0033】
以上、本発明の医療用穿刺針を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、医療用穿刺針を構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。また、任意の構成物が付加されていても良い。
【0034】
例えば、先端開口32の周縁部(特に、刃面ヒール部34の近傍)を内側から樹脂材料によって被覆してもよい。挿入体20を内腔31内で摺動させたり回転させたりする場合に、挿入体20と先端開口32の周縁部とが擦れて損傷する等の不具合の発生を抑えることができるからである。
【符号の説明】
【0035】
10 医療用穿刺針、
20 ガイドワイヤー(挿入体)、
30 針本体、
31 内腔、
32 先端開口、
33 刃面、
34 刃面ヒール部、
40 ガイド部材、
41 ガイド面、
50 ハブ、
51 通孔、
52 後端開口、
53 マーカー、
100 血管、
C 中心軸線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する挿入体を挿通自在な内腔が形成された直管形状を有する針本体と、
前記針本体の中心軸線に対して傾斜する先端開口を備える刃面と、
前記刃面に連続する内腔内面のうち刃先側の内腔内面に設けられ、前記挿入体が前記針本体の中心軸線よりも刃面ヒール部の側に屈曲しつつ前記先端開口を挿通するようにガイドするガイド部材と、を有する医療用穿刺針。
【請求項2】
前記ガイド部材は、前記刃面を含む面よりも内腔側に存在する請求項1に記載の医療用穿刺針。
【請求項3】
前記ガイド部材は、接着あるいは接合によって前記内腔内面に取り付けられている請求項1または請求項2に記載の医療用穿刺針。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−239(P2012−239A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−137342(P2010−137342)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】