説明

医療用複室容器

【課題】煩雑な工程や難しい技術を要せずに製造でき、取扱性も良好でありながら、混合前の薬液の誤投与を防ぐことのできる医療用複室容器の提供。
【解決手段】薬液排出口14が下方となるように吊下げた場合に、弱シール部12cの開通前には、複数の薬液収納室12a、12b内の各薬液の各液面のうち最も上方に位置する液面Lよりも下方となり、弱シール部12cの開通後には、各薬液が混合した混合薬液の液面L以上となる領域において、一対の透明フィルム11a、11bのうちの少なくとも一方にマークが印刷されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の薬液収納室を有し、これら薬液収納室内の薬液を使用直前に混合して、点滴などに使用する医療用複室容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、区画された複数の薬液収納室を有し、これら薬液収納室内の薬液を使用直前に混合して、点滴などに使用する医療用複室容器が知られている。複数の薬液収納室は、例えば、外部から医療用複室容器に圧力を加えることで剥離して開通する弱シール部などの仕切部により、液密に区画されている。そして、使用の直前に仕切部を開通させて薬液を混合した後、混合薬液を排出口から排出し、点滴などにより患者に投与している。
【0003】
しかし、仕切部を開通し忘れ、本来混合調剤されるべき薬液が混合されず、混合前の一部の薬液のみを患者へ投与してしまう可能性がある。そこで、医療用複室容器に種々の対策をすることが検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、複数の薬液収納室の他に、これら薬液収納室の1つに連通可能な分室が設けられ、この分室に連通するように薬液排出口が設けられた医療用複室容器が開示されている。この医療用複室容器は、薬液収納室同士を区画する仕切手段を開通させないと、薬液収納室と分室とを区画する閉鎖手段が開通しないように構成されている。そのため、この医療用複室容器によれば、混合前の薬液が誤って排出口から排出されることがない。また、特許文献2にも同様に、複数の薬液が混合されないと薬液排出口から薬液が排出されないように構成された医療用複室容器が提案されている。
【0005】
また、特許文献3には、薬液排出口を含む医療用複室容器の一部分を折曲状態で固定した医療用複室容器が開示されている。この医療用複室容器によれば、外部からの加圧により薬液収納室間を区画する弱シール部が開通され、同時に折曲状態が解除されてはじめて、薬液が排出可能となる。そのため、この医療用複室容器においても、複数の薬液が混合されないと、薬液排出口から薬液が排出されないようになっている。
【0006】
一方、特許文献4には、複数の薬液収納室を区画する弱シール部が剥離しているかどうか、容易に目視確認できるようにすることで、混合前の薬液の投与を防ごうとする医療用複室容器が提案されている。この医療用複室容器においては、弱シール部を構成する2枚のフィルムシート部分のそれぞれに視認可能な処理が施されていて、弱シール部の剥離前と剥離後とでは、弱シール部の外観が視覚的に異なるようにされている。
【特許文献1】特開平9−327498号公報
【特許文献2】特開2005−342174号公報
【特許文献3】特開2007−282707号公報
【特許文献4】特開2004−141631号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1および2の医療用複室容器では、閉鎖手段をなす弱シール部と仕切手段をなす弱シール部とを形成するにあたって、これら弱シール部のシール強度を厳密に制御しなければならず、シール条件の微調整やフィルム材質の選定に留意する必要があった。また、特許文献3の医療用複室容器を製造する際には、医療用複室容器の一部分を折曲状態で固定する工程が必要であった。このように特許文献1〜3の医療用複室容器は、その製造工程が煩雑であった。
さらに、特許文献1および2の医療用複室容器は分室を有している点で、従来の一般的な医療用複室容器とは異なり、また、特許文献3の医療用複室容器はその一部分が折曲状態で固定されている点で、従来の一般的な医療用複室容器とは異なっている。そのため、特許文献1〜3の医療用複室容器を使用する場合には、各医療用複室容器に応じた方法で取り扱う必要があり、取扱性に劣るという問題もあった。
【0008】
一方、特許文献4の医療用複室容器では、弱シール部を構成する2枚のフィルムシート部分のそれぞれにあらかじめ印刷などで文様を付与しておき、その後、このように印刷された部分同士をヒートシールして弱シール部とする必要がある。この場合、印刷された文様部分に熱が加わるため、文様の形状などが乱れてしまう場合があり、文様の形状に影響を及ぼさずにヒートシールすることは技術的に難しいという問題があった。また、弱シール部のシール幅は通常10mm程度と狭いため、この部分に印刷などを施しても、弱シール部の剥離前なのか剥離後なのか、視覚的に判別しにくかった。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、煩雑な工程や難しい技術を要せずに製造でき、取扱性も良好でありながら、混合前の薬液の誤投与を防ぐことのできる医療用複室容器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の医療用複室容器は、対向する一対の透明フィルムからなり、開通可能な仕切部により区画された複数の薬液収納室が形成された容器本体と、前記複数の薬液収納室のうちの1つに連通して設けられた薬液排出口とを有する医療用複室容器であって、前記薬液排出口が下方となるように当該医療用複室容器を吊下げた場合に、前記仕切部の開通前には、前記複数の薬液収納室内の各薬液の各液面のうち最も上方に位置する液面よりも下方となり、前記仕切部の開通後には、前記各薬液が混合した混合薬液の液面以上となる領域に、前記一対の透明フィルムのうちの少なくとも一方に印刷が施されていることを特徴とする。
前記一対の透明フィルムは、正面側透明フィルムと背面側透明フィルムであり、前記印刷に文字が含まれ、前記印刷は、前記背面側透明フィルムに少なくとも施されていることが好ましい。その場合、前記印刷は、前記背面側透明フィルムのみに施されていてもよい。
また、前記一対の透明フィルムは、正面側透明フィルムと背面側透明フィルムであり、一部分が前記正面側透明フィルムに施され、残りの部分が前記背面側透明フィルムに施されていてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の医療用複室容器によれば、煩雑な工程や難しい技術を要せずに製造でき、取扱性も良好でありながら、混合前の薬液の誤投与を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の医療用複室容器について実施形態例を例示して、詳細に説明する。
【0013】
[第1実施形態例]
図1は、第1実施形態例の医療用複室容器10Aの斜視図、図2(a)は図1の医療用複室容器10Aの正面図、図2(b)は図1の医療用複室容器10Aの背面図である。
この医療用複室容器10Aは、周縁部が剥離不能に融着された対向する一対の矩形の透明フィルム11a、11bからなり、第1の薬液収納室12aと第2の薬液収納室12bとが長手方向に並べて形成された容器本体12を有する。第1の薬液収納室12aと第2の薬液収納室12bとの間には、開通可能な仕切部として、液密な弱シール部12cが直線状に形成され、この弱シール部12cにより、第1の薬液収納室12aと第2の薬液収納室12bとの間が区画されている。この医療用複室容器10Aは、第1の薬液収納室12aに第1薬液が収納され、第2の薬液収納室12bに第2薬液が収納された後、少なくともいずれか一方の薬液収納室12a、12bに対して外方から力を加えることによって、弱シール部12cが剥離、開通し、第1薬液と第2薬液とが混合され、混合薬液が容器本体12内で調製されるようになっている。
【0014】
容器本体12の周縁部のうち、第1の薬液収納室12aが形成された側の長手方向の端部には、この医療用複室容器10Aを吊下げるための吊下げ穴13が形成されている。一方、第2の薬液収納室12bが形成された側の長手方向の端部には、第2の薬液収納室12bに連通して、針刺可能なゴム栓などで閉塞された中空状の薬液排出口14が設けられている。よって、弱シール部12cを開通させ、薬液排出口14が下方となるように、この医療用複室容器10Aの吊下げ穴13を点滴スタンドのフックなどに引掛け、ゴム栓に例えば点滴針を刺入れることにより、容器本体12内で調製された混合薬液が薬液排出口14から排出され、点滴などにより患者に投与されるようになっている。
なお、薬液排出口14は、第2の薬液収納室12bへ第2薬液を注入するための注入口としても使用される。また、第1の薬液収納室12aへの第1薬液の注入は、図示略の第1薬液注入口から行われる。
【0015】
そして、この例では、一対の透明フィルム11a、11bのうちの背面側透明フィルム11bにおける特定の領域に、弱シール部12cが開通していることを示す「開通済み」の文字と、この文字の下に付された直線状のラインとからなるマークが印刷されている。
この例のように、印刷は、開通したことを連想させる内容とする。また、特定の領域に施される印刷に文字が含まれる場合には、図2に示したように、医療用複室容器10Aの使用者がこの文字を視認した場合に、文字が正しく見える側が正面側(図2(a))で、文字が左右逆に見える側が背面側(図2(b))である。
【0016】
ここで特定の領域とは、図3に示すように、薬液排出口14が下方となるように、第1薬液と第2薬液とが収納された医療用複室容器10Aを点滴スタンドのフックFなどに吊下げた場合において、弱シール部12cの開通前(図3(a))には、各薬液収納室12a、12b内に収納された各薬液(この例では第1薬液と第2薬液)の各液面のうち、最も上方に位置する液面(この例では第1薬液の液面L)よりも下方となる領域であって、かつ、弱シール部12cの開通後(図3(b))には、調製された混合薬液の液面L以上となる領域のことである。図3(a)中、Lは弱シール部12cの開通前における第2薬液の液面である。
なお、この例では、「開通済み」の文字は、弱シール部12cの開通後には、調製された混合薬液の液面Lよりも上方となる位置に印刷され、ラインは、弱シール部12cの開通後には、調製された混合薬液の液面Lと一致する位置に印刷されている。
【0017】
このような医療用複室容器10Aによれば、「開通済み」の文字とラインとからなる印刷は、弱シール部12cの開通前には、第1薬液の液面Lよりも下方に位置している。ところが、弱シール部12cが開通すると、第1薬液と第2薬液とが混合されて混合薬液が調製され、その液面Lは、開通前の第1薬液の液面Lよりも低い位置になる。その結果、「開通済み」の文字は混合薬液の液面Lよりも上方に位置し、ラインは混合薬液の液面Lに一致するようになる。
このようにラインと混合薬液の液面Lとが一致することによって、弱シール部12cが開通して第1薬液と第2薬液とが混合された結果、混合薬液の液面Lが所定の位置(ラインの示す位置)となったことが使用者に明確に示されるようになる。
そのため、この医療用複室容器10Aによれば、使用者は目視するだけで、弱シール部12cが開通したことを認識でき、弱シール部12cが未開通で第1薬液と第2薬液とが混合されていないにも関わらず、薬液排出口14から混合前の薬液(この場合は第2薬液のみ)が誤投与されてしまうことを防止できる。また、この医療用複室容器10Aによれば、煩雑な工程や難しい技術を要せずに製造でき、通常の取り扱い方法で使用できるため、取扱性の点も良好である。
【0018】
そして、さらにこの例では、一対の透明フィルム11a、11bのうち、特に背面側透明フィルム11bに印刷が施されている。
そのため、図4に示すように、弱シール部12cの開通前(図4(a))においては、使用者と印刷(図4においては図示略)との間には正面側透明フィルム11aと第1薬液とが介在し、使用者は、正面側透明フィルム11aと第1薬液とを通して印刷を視認することとなる。よって、正面側透明フィルム11aに印刷が施されている場合に比べて、使用者にとって印刷が見えにくい状態になっている。ところが、弱シール部12cの開通後(図4(b))においては、使用者と印刷との間に薬液が介在しなくなるとともに、印刷された部分の正面側透明フィルム11aと背面側透明フィルム11bとが密着するようになるため、印刷がはっきりと見えるようになる。
すなわち、印刷が背面側透明フィルム11bに施されていると、弱シール部12cの開通前後での印刷の見やすさの差異が大きいため、使用者は弱シール部12cが開通したことをより明確に認識しやすいという効果も得ることができる。
また、この場合、第1薬液が着色しているものであると、弱シール部12cの開通前後での印刷の見やすさの差異が一層大きくなるため、印刷が背面側透明フィルム11bに施されていることが好ましい。着色している第1薬液の例としては、例えば、白色で不透明な脂肪乳剤が挙げられる。
【0019】
なお、この例では、印刷されるマークとして、開通したことを示す「開通済み」の文字と、その下に付され、混合薬液の液面Lと一致するラインとからなるマークを例示したが、どちらか一方だけでもよく、文字とラインとの組み合わせに限定されない。
しかしながら、印刷に文字が含まれると、印刷の示す意図が使用者に明確に伝わりやすいために好適である。また、医療用複室容器10Aのどちら側が正面側か背面側かが明確に判断できる。そのため、上述した効果の点から背面側透明フィルム11bに印刷を施した医療用複室容器10Aであるのに、誤って背面側を前に向けて吊下げてしまうおそれも回避できる。また、印刷にラインなどの図形が含まれ、特にその図形が、この例のように混合薬液の液面Lと一致する位置に付されたものであると、弱シール部12cが開通して混合薬液が調製されたことを視覚的にも判断しやすく好ましい。以上の点から、印刷は文字と図形とから構成されるマークであることが好ましい。なお、印刷される文字の種類は「開通済み」に限定されず、他の文字であってもよいし、印刷される図形の種類も、例えば○、×、△などの記号、矢印やこれらを組み合わせたものでもよく、ラインに限定されない。
印刷されるマークに文字が含まれず、正面側透明フィルムと背面側透明フィルムとが区別できない場合には、印刷された側の透明フィルムが背面側となるように吊下げて使用することが上述の効果の点で好ましい。
【0020】
印刷は透明フィルム11a、11bの外面または内面のいずれか一方に施されていればよいが、印刷と薬液とが直に接触しない方が薬液へのコンタミネーション抑制の観点から好ましい。よって、透明フィルムの外面(外気と接し、薬液とは接しない側の面)に施されている方が好ましい。
【0021】
また、この例においては、容器本体12として、周縁部が剥離不能に融着された対向する一対の矩形の透明フィルム11a、11bからなるものを例示したが、例えば筒状の透明フィルムから形成され、周縁部のうち長手方向の両端部のみが剥離不能に融着された形態のものでもよいし、透明フィルムの形状も矩形に限定されない。
【0022】
また、透明フィルム11a、11bとしては、可撓性材料からなり、医療用途に使用できるものであれば制限はないが、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリエーテルサルホン、エチレン−ビニルアルコール共重合体等からなる合成樹脂フィルムが好適である。なかでも、透明性、柔軟性、衛生性に優れ、低コストであることから、ポリオレフィン樹脂が好ましい。
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリエチレン系樹脂;エチレン−αオレフィンランダム共重合体等のオレフィン系エラストマー;ポリプロピレン、エチレン−プロピレンランダム共重合体、α−オレフィン−プロピレンランダム共重合体等のポリプロピレン系樹脂;環状ポリオレフィン樹脂;これらの混合物;が挙げられる。また、これらの樹脂は、耐熱性向上等を目的として一部架橋されていてもよい。
また、透明フィルム11a、11bは、単層でも多層でもよく、その厚みは、好ましくは50〜1000μm、より好ましくは100〜500μmである。
【0023】
弱シール部12cの形成方法としては、例えば、容器本体12の内面側を融点や相溶性の異なる複数の樹脂(例えばポリエチレンとポリプロピレンなど)からなる組成物で形成し、高融点の樹脂の溶融温度以下でシールする方法などが挙げられる。その他には、ヒートシールを低温で行い、半溶着状態で弱接着させる方法、弱シール部12cの形成部分に予め電子線等で架橋した可撓性材料を用いる方法、強融着部分を特定の面積割合で発生させるシールバーを用いる方法、2枚の可撓性材料の間に易剥離性の樹脂テープを挟む方法等も挙げられる。
なお、薬液収納室を区画する開通可能な仕切部は、開通前には液密に薬液収納室を区画でき、医療用複室容器の使用直前には開通可能なものであればよく、例えば、樹脂製の仕切り部材などにより構成されたものでもよい。
また、医療用複室容器に形成された薬液収納室の数は、この例のように2つに限定されず、3つ以上であってもよい。
【0024】
[第2実施形態例]
図5は、第2実施形態例の医療用複室容器10Bの斜視図である。また、図6は、図5の医療用複室容器10Bの構成を解りやすくするため、その要部について模式的に示した(a)分解斜視図と、(b)正面図である。
この例の場合も、薬液排出口14が下方となるように、第1薬液と第2薬液とが収納された医療用複室容器10Bを吊下げた場合において、弱シール部12cの開通前には各薬液(この例では第1薬液と第2薬液)の各液面のうち、最も上方に位置する液面(この例では第1薬液の液面)よりも下方となる領域であって、かつ、弱シール部12cの開通後には、調製された混合薬液の液面以上となる領域に、マークが印刷されている。
具体的にこの例では、弱シール部12cが開通していることを示す、横一列に並んだ「開通しました」の文字の一部分(この例では上半分)が一対の透明フィルム11a、11bのうちの一方(この例では正面側透明フィルム11a)に印刷され、残りの部分(この例では下半分)が他方(この例では背面側透明フィルム11b)に印刷されている。その他の点については、第1実施形態例と同様である。
【0025】
このような医療用複室容器10Bにおいては、「開通しました」の文字が正面側透明フィルム11aと背面側透明フィルム11bとに分断して印刷され、しかも弱シール部12cの開通前においては、この印刷は第1薬液の液面よりも下方に位置している。そのため、弱シール部12cの開通前には、分断された印刷の部分における正面側透明フィルム11aと背面側透明フィルム11bと間には、第1薬液が介在する。そのため、使用者がこの印刷を見ても、「開通しました」の文字であることを認識しにくい。ところが、弱シール部12cが開通すると、第1薬液と第2薬液とが混合されて混合薬液が調製され、その液面は、開通前の第1薬液の液面よりも低い位置になる。そのため、印刷の部分におけるこれら正面側透明フィルム11aと背面側透明フィルム11bとの間には薬液が介在しなくなり、同時に、これら正面側透明フィルム11aと背面側透明フィルム11bとは印刷の部分において密着するようになる。その結果、文字の上半分と下半部とが合体して見え、使用者は印刷を「開通しました」との文字としてはっきりと認識できるようになる。
したがって、この医療用複室容器10Bによれば、使用者は目視するだけで、弱シール部12cが開通したことを認識できる。よって、弱シール部12cが未開通であって第1薬液と第2薬液とが混合されていないにも関わらず、薬液排出口14から混合前の薬液(この場合は第2薬液のみ)が誤投与されてしまうことを防止ができる。また、この医療用複室容器10Bも、煩雑な工程や難しい技術を要せずに製造でき、通常の取り扱い方法で使用できるため、取扱性の点でも良好である。
また、この場合、第1薬液が着色したものであると、弱シール部12cの開通前において、使用者が印刷を「開通しました」の文字であると認識するのはより困難になるため好ましい。
【0026】
なお、このような印刷は、正面側透明フィルム11aおよび背面側透明フィルム11bの外面または内面のいずれか一方に施されていればよいが、印刷と薬液とが直に接触しない方が薬液へのコンタミネーションの観点から好ましいため、好適には外面に施される。
また、この例では、「開通しました」の文字が上半分と下半分に分割され、上半分は正面側透明フィルム11aに印刷され、残りの半分が背面側透明フィルム11bに印刷されているが、上半分が背面側透明フィルム11bに印刷されていてもよい。また、文字の印刷は、この例のように上半分と下半分とに分割されていると、弱シール部12cの開通前には文字としてより認識されにくい点で好ましい。しかしながら、場合によっては、文字の右半分がいずれか一方の透明フィルム11a、11bに印刷され、左半分が他方に印刷されていてもよいし、複数の文字が交互に正面側透明フィルム11aと背面側透明フィルム11bとに印刷されていてもよい。
さらに、印刷される文字の種類は「開通しました」に限定されず、他の文字であってもよい。また、印刷は文字に限定されず、弱シール部12cが開通したことを示す図形であっても、文字と図形とを組み合わせたものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】第1実施形態例の医療用複室容器の斜視図である。
【図2】(a)図1の医療用複室容器の正面図、(b)図1の医療用複室容器の背面図である。
【図3】図1の医療用複室容器について、(a)弱シール部の開通前、(b)弱シール部の開通後を示す。
【図4】図1の医療用複室容器について、(a)弱シール部の開通前を示す縦断面図、(b)弱シール部の開通後を示す縦断面図である。
【図5】第2実施形態例の医療用複室容器の斜視図である。
【図6】図5の医療用複室容器の要部について摸式的に示した(a)分解斜視図と、(b)正面図である。
【符号の説明】
【0028】
10A、10B:医療用複室容器
11a:透明フィルム(正面側透明フィルム)
11b:透明フィルム(背面側透明フィルム)
12a:第1の薬液収納室
12b:第2の薬液収納室
12c:弱シール部(仕切部)
13:吊下げ穴
14:薬液排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する一対の透明フィルムからなり、開通可能な仕切部により区画された複数の薬液収納室が形成された容器本体と、前記複数の薬液収納室のうちの1つに連通して設けられた薬液排出口とを有する医療用複室容器であって、
前記薬液排出口が下方となるように当該医療用複室容器を吊下げた場合に、前記仕切部の開通前には、前記複数の薬液収納室内の各薬液の各液面のうち最も上方に位置する液面よりも下方となり、前記仕切部の開通後には、前記各薬液が混合した混合薬液の液面以上となる領域に、前記一対の透明フィルムのうちの少なくとも一方に印刷が施されていることを特徴とする医療用複室容器。
【請求項2】
前記一対の透明フィルムは、正面側透明フィルムと背面側透明フィルムであり、
前記印刷に文字が含まれ、前記印刷は、前記背面側透明フィルムに少なくとも施されていることを特徴とする請求項1に記載の医療用複室容器。
【請求項3】
前記印刷は、前記背面側透明フィルムのみに施されていることを特徴とする請求項2に記載の医療用複室容器。
【請求項4】
前記一対の透明フィルムは、正面側透明フィルムと背面側透明フィルムであり、
前記印刷は、一部分は前記正面側透明フィルムに施され、残りの部分は前記背面側透明フィルムに施されていることを特徴とする請求項1に記載の医療用複室容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−110385(P2010−110385A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283602(P2008−283602)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(000143880)株式会社細川洋行 (130)
【Fターム(参考)】