説明

医薬の調製方法、ネーキッド結合要素、組合せ調製物、医薬組成物、中和方法、補体沈着向上方法、癌の治療方法、分析方法および癌治療薬の製造方法

本発明は、腫瘍や白血病の治療において、CD55のSCR1とSCR2双方に結合する結合要素の使用に関する。この結合要素は、CD55のSCR1とSCR2に結合する抗体であることができ、CD55を中和し、癌細胞が補体媒介攻撃による打撃を受けやすくなるようにさせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特異的結合要素および治療におけるその使用に関し、特に、CD55に結合する特異的結合要素と、補体活性のモジュレーションにおけるその使用と、新生物性疾患(neoplastic disease) 等の疾患の治療とに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの補体系は、活性化されたタンパク質、レセプター、正および負のレギュレーターを含む30種類に上る血清や細胞の成分から構成される高効率な認識・エフェクター機構からなる。すなわち、補体カスケードは、トリガステップ、フィードバックループによる増幅ステップ、そして最終的な膜侵襲、すなわち溶解ステップからなる。
【0003】
補体系の中心的成分はC3である。古典経路または第2経路によるC3bの生成は、オプソニン化や溶解にとって極めて重要である。
【0004】
古典経路は、成分C1がその構成成分であるC1qを介して抗体に付着し、免疫複合体を形成することにより開始される。しかしながら、第2経路では、抗体に相当する開始因子はない。むしろ、ネイティブC3(native C3)のチオエステル基の自然加水分解の結果、持続的な低レベル活性状態にある。この結果、C3は血漿中あるいは細胞表面上に存在する非特異アクセプター分子と結合することになる。これにより、C3転移酵素が生成したり、フィードバックループが出現したりする場合もあろう。強力なプロ炎症性能および破壊能のため、流動相(fluid phase) とバイスタンダー組織(bystander tissues) の双方において補体の活性化を抑制するようデザインされた調節システムが存在する。
【0005】
膜結合性補体調節タンパク質としてはつぎの4種類、すなわち、補体レセプター1(CR1)、CD55、CD46およびCD59が存在する(リスゼウスキ(Liszewski)ら、1996、Adv.Immunol.61:201〜283)。調節はつぎのいずれかによって達成される。
1.活性化されたタンパク質と酵素複合体の自然崩壊(すなわち、半減期が短い)。
2.活性複合体の不安定化および阻害。
3.「活性化された」成分のタンパク質分解切断。
【0006】
CD46、CD55およびCD59は、表面上皮細胞や腫瘍組織などの多くの組織において広く発現する。対照的に、CR1の発現は末梢の血液細胞に限定されており、そのため固形腫瘍の保護に直接関与しない。
【0007】
大部分の腫瘍は上皮細胞を起源とするものであり、表面上皮細胞の大部分が補体調節タンパク質を発現させるのに対し、腫瘍におけるCD55、CD46およびCD59の発現は様々である。結腸直腸(colorectal)癌や甲状腺癌の多くは、3種類の補体調節タンパク質をいずれも高レベルに発現する(ニーハンス(Niehans)ら、1996、Am.J.Pathol.149:129〜142;リー(Li)ら、2001、Br.J.Cancer 84:80〜86;ソルスタインソン(Thorsteinsson)、1998、APMIS.106:869〜878;ヤマカワ(Yamakawa)ら、1994、Cancer 73:2808〜2817)。
【0008】
乳房の乳管癌は、表現型に最も多くのバリエーションが見られ、1種類の阻害物質だけを発現している腫瘍もあれば、2〜3種の阻害物質を様々な組合せで発現している腫瘍もある(ニーハンス(Niehans)ら、1996、上掲;ソルスタインソン(Thorsteinsson)、1998、上掲)。
【0009】
腎臓細胞腫は1〜3種類の阻害物質(通常CD55とCD59)の弱〜中程度の発現を示す(ニーハンス(Niehans)ら、1996、上掲)一方、非小細胞(non-small cell)肺腫や卵巣癌、子宮頸癌は、通常CD59とCD46を発現し、CD55との免疫反応性は一定ではない(ニーハンス(Niehans)ら、1996、上掲;ブジョージ(Bjorge)ら、1977、Cancer Immunol.Immunother.42:185〜192;シンプソン(Simpson)ら、1997、Am.J.Pathol.151:1455〜1467)。
【0010】
これまでに各種細胞株において同様の結果が得られている(ブジョージ(Bjorge)ら、1996、上掲;ゴーター(Gorter)ら、1986、Lab.Invest.74 1;ジャール(Jurl)ら、1997、J.Surgical Oncol.64:222〜230;リー(Li)ら、2001、上掲)。
【0011】
3種類の補体調節タンパク質は全て血管内皮で発現する。補体が媒介する障害のリスクが増大する可能性のある炎症に関連してこれらタンパク質がどのような具体的な役割を果たしているのかについてはいまだ判明していない。CD55は、内皮細胞でプロ炎症性のメディエーターであるTNFα、IL−1βおよびIFN−γによりアップレギュレートされ、またMAC(膜侵襲複合体)やトロンビンによってもアップレギュレートされるが、CD46やCD59にはこれらの特性は見られない。この結果は、炎症や凝固中、補体から内皮細胞を保護することにおいて、CD55が極めて重要であることを示唆している。
【0012】
さらに、内皮細胞が後退して内皮下細胞外マトリックスが露出すると、第2補体経路が強力に誘導されて炎症を刺激するアナフィラトキシンが放出されることが近年示された。腫瘍は統制の乱れた内皮細胞を有し、血管壁を露出させていることが多いため、腫瘍環境においては補体の活性化が誘導されるであろう。これは、腫瘍細胞が補体調節レセプターを過剰発現する理由の1つである。しかしながら、実際は、腫瘍細胞と内皮細胞のいずれもがCD46ではなくCD55を、その細胞外マトリックス(ECM)へ分泌できることが示された(ハインドマーシュ(Hindmarsh)とマークス(Marks)、1998、J.Immunol.160:6128〜6136)。ハインドマーシュ(Hindmarsh)とマークス(Marks)は内皮細胞ではなく腫瘍に由来するCD55が機能的に活性であり、C3bの沈着を抑制できることを示した。
【0013】
しかしながら、マトリックスに沈着したCD55は炎症性サイトカインによってアップレギュレートされ得ないであろう。より最近になって本発明者らは、CD55とCD59はどちらも腫瘍および内皮細胞によって細胞外マトリックスに沈着でき、後者は強力な血管形成増殖因子(VEGF)(リー(Li)ら、2001、上掲)により、かなりアップレギュレートされることを示した。さらに、VEGFで刺激された内皮細胞により沈着したCD55は機能的に活性であることが示された。VEGFは、現在、サイトカインのうち、CD55の細胞表面における発現とECMへの沈着のいずれをもアップレギュレートすることが分かっている唯一のサイトカインであるという点で特別である。
【0014】
多くの腫瘍はVEGFを高レベルに分泌して血管形成を誘導するので、内皮細胞上およびECM内におけるCD55の発現が刺激される。興味深いことに、結腸直腸腫瘍(colorectal tumours)と抗CD55モノクローナル抗体の免疫組織化学作用の結果、腫瘍のストロマ(リー(Li)ら、2001、上掲;シンプソン(Simpson)ら、1997、上掲;ニーハンス(Niehans)ら、1996、上掲)および血管(ニーハンス(Niehans)ら、1996、上掲)が濃く染色される。ECM内に沈着したCD55が共有結合し、強酸または強アルカリによって放出されなくなっているのである。
【0015】
CD55は、古典補体経路および第2補体経路双方からのC3転移酵素に結合し、C2bとC3bをそれぞれ動かす。そのため、CD55はC3bの沈着を抑制することができ、下流における膜侵襲複合体の形成を阻害する。
【0016】
CD55は、隣接する4種類のショートコンセンサス(SCR)ドメインと細胞表面に近接するトレオニン/セリンに富む領域から構成される細胞外ドメインを有する。
【0017】
CD55は、第1および第2SCRドメイン間に単一のN−グリコシル化部位を有し、トレオニンとセリンに富む領域では非常にO−グリコシル化されている。
【0018】
CD55はグリコホスホイノシトール(GPI)アンカーによって細胞膜に付着しており、補体に曝されている全細胞、すなわち赤血球、白血球、内皮および上皮細胞によって発現される。
【0019】
CD55は、また、血漿、唾液および尿中にも少量検出された。この可溶性形態(soluble form)の生物学的意義は、機能的に活性であることが示されていないため、依然として明確でない。近年、HeLa細胞とHUVECがCD55を自身の細胞外マトリックスに組み込むこと、およびこの共有結合したCD55がC3bの沈着とプロ炎症性アナフィラトキシンC3aの放出を阻害できるということが示された(ハインドマーシュ(Hindmarsh)およびマークス(Marks)、1998、上掲)。
【0020】
補体調節タンパク質の機能を阻害する各種抗体は、腫瘍細胞を原位置で補体の活性化の影響を受けやすくするとともに、腫瘍細胞をモノクローナル抗体仲介補体依存性細胞毒に対しても敏感にさせることもある。
【0021】
キメラ抗Lewis Yモノクローナル抗体(cH18A)は、肺腺癌細胞の2種の細胞株に対し、補体仲介細胞溶解を媒介する程度は低かった。しかし、CD46、CD55およびCD59の機能をブロックする抗体の添加は補体媒介型溶解をかなり向上させる。補体調節タンパク質に対して複数のブロック抗体を用いると、いずれか1種類の抗体の場合よりcH18A仲介型溶解が向上する(アズマ(Azuma)ら、1995、Scand.J.Immunol.42:202〜208)。
【0022】
いくつかの研究グループが二重特異性抗体を作製している。これは、一方の腕が腫瘍細胞表面の抗原を標的とし、他方の腕は補体調節タンパク質の機能的ドメインを標的とするものである。HLAおよびCD55のSCR3を標的とする二重特異性抗体によれば、腎臓腫瘍へのC3bの沈着を92%向上させるという結果が得られた。同様に、同一の研究において、腎臓腫瘍抗原およびCD55のSCR3を標的とする二重特異性抗体によれば、腎臓腫瘍へのC3bの沈着を25〜400%上昇させるとともに、細胞に補体仲介型溶解を受けやすくさせるという結果が得られた(ブロク(Blok)ら、1998、J.Immunol.160:3437〜3443)。
【0023】
最後に、キメラ抗CD37モノクローナル抗体を用いて補体古典経路を活性化した場合、リンパ腫の特異的抗原とCD59の機能的ドメインとを標的とする二重特異性抗体のFabガンマコンストラクトは細胞溶解を3〜5倍上昇させた(ハリス(Harris)ら、1997年、Clin.Exp.Immunol.107:364〜371)。
【0024】
しかしながら、今までの研究によってCD55のSCR3を認識する各種モノクローナル抗体が、CD55を部分的に中和し、C3bの沈着を向上させるとともに、MAC複合体形成を導くことが示されたはいえ、これらの抗体はいずれもC3転移酵素によるSCR3への結合に対して競合しているにすぎず、よって、部分的にCD55を中和しているだけである。
【0025】
CD55の分子構造から、SCR3がCD55の活性ドメインであり、C3が結合するための正確な構造を提供するのにSCR2とSCR4が必要であることが示された。補体崩壊におけるSCR1の役割は示されていない。しかしながら、SCR2はC3が結合するための正確な構造を提供するのに必要であるが、CD55のシングルのSCRドメインに対するモノクローナル抗体を用いた研究から、SCR1またはSCR2に結合する抗体ではなく、SCR3に結合するモノクローナル抗体が、唯一CD55を中和できるということが示された(コイン(Coyne)ら、1992年、J.Immunol.149、2906)。
【0026】
モノクローナル抗体791T/36を用いた骨肉種、卵巣腫瘍および結腸直腸腫瘍(colorectal tumours)におけるイメージングの研究(エンブレトン(Embleton)ら、1981、Br.J.Cancer 43:582〜587)において、1cmという小さい病変部の画像化に成功した(ファランズ(Farrands)ら、1982、Lancet 2:397〜400;ファランズ(Farrands)ら、1983、J.of Bone and Joint Surg.65:638〜640;アーミテージ(Armitage)ら、1985、Nucl.Med.Commun.6:623〜631)。
【0027】
さらに、切除した腫瘍のオートラジオグラフィーから、抗体の局在化が、細胞表面と、そしてより強い程度で間質とに見られた(アーミテージ(Armitage)ら、1984、Br.J.Surg.71:407〜412)。
【0028】
これらの研究は、抗CD55抗体が正常組織に対する毒性を一切示すことなく、効果的に腫瘍を局部的に食い止めることができることを説明している。特に、内皮細胞または正常組織上においては、放射線標識された抗体の血液細胞に対する結合は検出されず、放射線標識のバックグラウンドレベルのみが測定された。最近、791T/36によって認識される抗原がCD55として特定された(スペンドラブ(Spendlove)ら、Eur.J.Immunol.30:2944〜2953;スペンドラブ(Spendlove)ら、Cancer Res.59:2282〜2286)。
【0029】
CD55/CD46キメラ構築体を用いた、CD55の第1の2種類のSCRドメインに対する791T/36の結合部位のマップ化が成功し、ペプチドの分析により791T/36がCD55のSCR1〜2に別個の3領域に結合できることが示された。1領域はSCR1に存在し、他2領域はSCR2に存在する。
【0030】
従来から、ナイーブ抗体ファージライブラリーを用いた、崩壊促進因子(DAF)を標的とする抗体等の抗体作製方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1は、癌の診断や治療におけるそのような抗体の使用について言及しており、DAFの過剰発現の評価あるいは肺癌の治療、特に細胞毒性剤と組み合わせた場合の治療における抗体LU30の使用が示唆されているが、挙げられている例は推測の域を出ていない。
【0031】
また、従来から、抗体791T/36に対して作製された抗イディオタイプ抗体105AD7の製造が知られており(例えば、特許文献2参照)、この特許文献2は、105AD7抗体の潜在的な治療上の使用について推測している。
【0032】
【特許文献1】国際公開第00/5204号パンフレット
【特許文献2】国際公開第00/4415号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0033】
しかしながら、今のところ、抗SCR3抗体を除き、治療面において有用な抗CD55抗体は示されていない。この分子の他のSCRを標的とする抗体を用いた治療上の研究は免疫コンジュゲート化された分子に限定されてきた(例えば、US4916213(ゾーマ社)、US4925922(ゾーマ社)およびベイヤーズ(Byers)ら、1987、Cancer Res.47:5042〜5046参照)。例えばベイヤーズ(Byers)らは、リシンのA鎖に結合させた791T/36を用いた研究について記載しており、無胸腺マウスの腫瘍の増殖を強く阻害することが示された。そのため、791T/36−RTAを、進行した結腸直腸癌(colorectal cancer)患者の第I相臨床試験においてスクリーニングした(ベイヤーズ(Byers)ら、1989、Cancer Reserch 49:6153〜6160)。しかしながら、用量依存性毒性(dose limiting toxicity)のため、その試験は成功しなかった。
【0034】
今までの研究においては、CD55のSCR1またはSCR2を標的とする抗体は、CD55に対して中和作用を有しないことが示されていたのに対し、驚くべきことに、本発明者らはこのたび、SCR1とSCR2の双方を標的とする抗体が、CD55を効果的に中和するだけでなく、SCR3中和抗体よりも優れたものであることを見い出した。
【0035】
従って本発明は、その第1のアスペクトにおいて、CD55を中和する方法を提供するものであり、該方法は、CD55のSCR1およびSCR2と特異的に結合するネーキッド結合要素の投与を含む。
【0036】
CD55を中和することによって、容易に補体の沈着を向上させることができる。従って本発明は、その第2のアスペクトにおいて、組織上の補体の沈着を向上させる方法を提供するものであり、該方法は、CD55のSCR1およびSCR2と特異的に結合するネーキッド結合要素の投与を含む。
【0037】
本発明の各方法は、生体内外で用いることができる。
【0038】
前述したように、CD55は多くの腫瘍細胞表面に広く存在し、補体の沈着を阻害する働きをする。本発明の方法は、腫瘍細胞上のそのような分子を中和することによって、腫瘍細胞に対する補体媒介型の攻撃を可能とする。従って、本発明は、別の面においては、癌の治療方法を提供するものであり、該方法は必要とする哺乳類動物へのCD55のSCR1およびSCR2と特異的に結合するネーキッド結合要素の治療有効量の投与を含む。
【0039】
本発明は、その更なる別の面において、(i)CD55のSCR1とSCR2の双方に結合するネーキッド結合要素または(ii)前記結合要素をコードする核酸の、CD55を中和するための医薬の調製における使用を提供するものである。
【0040】
本発明は、その更なる他の面において、癌治療に使用するための、SCR1とSCR2の双方に結合するネーキッド結合要素を提供するものである。
【0041】
本発明は、更なるアスペクトにおいて、(i)CD55のSCR1とSCR2の双方に結合するネーキッド結合要素または(ii)前記結合要素をコードする核酸の、癌治療薬の調製における、使用を提供するものである。
【0042】
さらに本発明は、癌治療のための医薬組成物を提供するが、該組成物はCD55のSCR1とSCR2の双方に結合するネーキッド結合要素を含む。
【0043】
特異的結合要素
本明細書において、「結合要素」とは、互いに対して結合特異性を有する一対の分子を構成する要素である。よって、結合要素とは特異的結合要素である。結合対を構成する前記要素は天然由来であるか、全部または一部が合成により生成されたものである。分子対の一方の要素は表面に凸部または凹部等の領域を有し、この領域は、分子対の他方の要素の特定の空間・極性構造と特異的に結合する、すなわち該構造と相補的である。このため、対を構成する各要素は互いに特異的に結合する性質を有する。結合対のタイプとしては、抗原−抗体、ビオチン−アビジン、ホルモン−ホルモンレセプター、レセプター−リガンド、酵素−基質が挙げられる。
【0044】
本発明は抗原−抗体型の反応に関するものであるが、本発明の結合要素および本発明における使用のための結合要素は、CD55のSCR1およびSCR2の双方に結合可能であればいかなる部分(moiety)とすることができる。
【0045】
本明細書において使用する用語「ネーキッド」は、本発明の結合要素または本発明における使用のための結合要素は、リシン等、抗癌性を有するいかなる物質にも結合されていない、ということを意味する。
【0046】
抗体
「抗体」は免疫グロブリンであり、天然に存在するか、一部または全部が合成により生成される。この用語は、また抗体結合ドメインであるか抗体結合ドメインに相当する結合ドメインを有するいかなるポリペプチド、タンパク質またはペプチドをも包含する。これらは、天然源由来のものでもよいし、一部または全部が合成により生成されたものでもよい。抗体の例としては免疫グロブリンのアイソタイプとそのアイソタイプサブクラス、Fab、scFv、Fv、dAb、Fd等の抗原結合ドメインを含むフラグメント、およびダイアボディ(diabodies)等が挙げられる。
【0047】
本発明の結合要素は、モノクローナル抗体やポリクローナル抗体等の抗体、またはそのフラグメントであることができる。抗体の定常領域はいかなるクラスのものでもよく、例えばヒトのクラスIgG、IgA、IgM、IgDおよびIgEが挙げられるが、これらに限定されるものではない。抗体はどのサブクラス、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4に属していてもよい。IgG1が好ましい。好ましい実施態様においては、抗体は、ATCCに寄託された細胞株(受託番号HB9173)によって産生される791T/36である。
【0048】
抗体は多くの方法で修飾することができるが、「抗体」という用語は、必要な特異性を備えた結合ドメインを有するものであれば、いかなる結合要素や物質も包含するものとして解釈すべきである。よって、この用語は抗体のフラグメントや誘導体、抗体と機能的に等価なものおよび同種のものを包含し、例えば天然のものであれ、全部または一部が合成されたものであれ、免疫グロブリン結合ドメインを有するいかなるポリペプチドをも含む。よって、免疫グロブリン結合ドメイン(または等価物)が別のポリペプチドと結合したキメラ分子も含まれる。キメラ抗体のクローニングと発現についてはEP−A−0120694とEP−A−0125023に記載されている。
【0049】
抗体分子を構成する種々のフラグメントには、抗原に結合する機能を有するものがあることが示されている。そのような結合フラグメントの例としては、(i)VL、VH、CLおよびCH1の各ドメインからなるFabフラグメント;(ii)VHおよびCH1の各ドメインからなるFdフラグメント;(iii)単一抗体のVLおよびVHドメインからなるFvフラグメント;(iv)VHドメインからなるdAbフラグメント(ワード(Ward),E.S.ら、Nature 341:544〜546(1989));(v)単離したCDR領域;(vi)F(ab’)2フラグメント、すなわち2個の結合されたFabフラグメントを含む二価のフラグメント(vii)VHドメインとVLドメインとが、これら2ドメインを関係づけて抗原結合部位を形成させることができるペプチドリンカーによって互いに結合している一本鎖Fv分子(scFv)(バード(Bird)ら、Science 242:423〜426(1988);ヒューストン(Huston)ら、PNAS USA 85:5879〜5883(1988));(viii)二重特異性一本鎖Fv二量体(PCT/US92/09965)および(ix)「ダイアボディ」、すなわち遺伝子融合によって形成された多価または多重特異性フラグメント(WO94/13804;P.ホーリンガー(Hollinger)ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444〜6448(1993))が挙げられる。
【0050】
本発明において使用するための抗体またはポリペプチドのフラグメント(例えば791T/36抗体のフラグメント)は、一般に少なくとも5〜7個の隣接するアミノ酸からなる一続きのアミノ酸残基配列を意味し、これは少なくとも約7〜9個の隣接するアミノ酸からなる場合もあるが、通常は少なくとも約9〜13個の隣接するアミノ酸、より好ましくは少なくとも約20〜30以上の隣接するアミノ酸、最も好ましくは少なくとも約30〜40以上の連続するアミノ酸からなる残基である。フラグメントの好ましいグループは、モノクローナル抗体791T/36抗体のCDR領域を全部または部分的に含むものである。
【0051】
そのような抗体やポリペプチドの「誘導体」や791T36抗体のフラグメントの「誘導体」は、タンパク質のアミノ酸配列を変えること(例えば、タンパク質をコードする核酸を操作するまたはタンパク質そのものに変更を加える)によって改変された抗体やポリペプチドを意味する。天然のアミノ酸配列のそのような誘導体は、1以上のアミノ酸の挿入、付加、欠失および/または置換を伴うことができるが、これらを伴ったものであってもCD55中和活性等の抗CD55活性を有するペプチドを提供するものが好ましい。そのような誘導体において挿入、付加、欠失および/または置換されるアミノ酸の数は25以下が好ましく、より好ましくは15以下、さらに好ましくは10以下、特に好ましくは4以下、最も好ましくは1または2である。
【0052】
「抗体」という用語は、「ヒト化された」各種の抗体を含む。ヒト化抗体の作製方法は、本技術分野において公知である。方法については、例えば米国特許第5225539号(ウィンター(Winter))に記載されている。ヒト化抗体は、モノクローナル抗体(791T/36等)の超可変領域とヒト抗体の定常領域とを有する改変された抗体であってもよい。よって、結合要素はヒトの定常領域を含むことができる。
【0053】
超可変領域以外の可変領域もまた、ヒト抗体の可変領域に由来することができる、および/または791T/36等のモノクローナル抗体に由来することができる。そのような場合、可変領域全体をマウスモノクローナル抗体791T/36由来のものとすることができ、この抗体はキメラ化されていると言われる。キメラ化抗体の作製方法は、本技術分野において公知である。そのような方法としては、例えばボス(Boss)(セルテック社)の米国特許およびキャビリー(Cabilly)(ジェネンテック社)の米国特許に記載されたものが挙げられる(それぞれ米国特許第4816397号および4816567号を参照)。
【0054】
モノクローナル抗体やその他各種抗体を用い、組換えDNA技術の技法を利用すれば、元の抗体の特異性を保持する別の抗体またはキメラ分子を生成することが可能である。この技法では、抗体の、免疫ブロブリン可変領域(あるいは相補性決定領域(CDR))をコードするDNAを、異なる免疫グロブリンの定常領域(あるいは定常領域にフレームワーク領域をプラスした領域)に導入する(例えば、EP−A−184187、GB2188638A、EP−A−239400参照)。抗体を産生するハイブリドーマ等の細胞を遺伝子変異等の変化に付すことができる(この変化は、産生される抗体の結合特異性を変えるものであっても、変えないものであってもよい)。
【0055】
本発明の好ましい実施態様においては、結合要素は図1bに示す配列のCD55のSCR1(アミノ酸83〜93)およびSCR2(アミノ酸101〜112とアミノ酸145〜157)に結合するものである。
【0056】
結合要素は、ATCCに寄託された細胞株(受託番号HB9173)によって産生された抗体の各種CDRの内の1以上あるいは該CDRのフラグメントを含むことができる。
【0057】
前述したように、本発明の好ましい実施態様において、結合要素はATCCに寄託されたハイブリドーマ細胞(受託番号HB9173)によって産生された抗体791T/36である。本明細書において、「791T/36」と記載した場合、791T/36に対してかなりの相同性を有する配列も含まれる。791T/36の相補性決定領域(CDR)と他抗体のCDRとの相同性の程度は、少なくとも60%であることが好ましく、より好ましくは70%、さらに好ましくは80%、特に好ましくは90%、最も好ましくは95%である。
【0058】
2種類のアミノ酸配列または2種類の核酸の配列における相同率は、最適な比較ができるように配列同士を並べ(例えば、相手側配列と最もよく合うように並べるため、一方の配列にギャップを挿入することができる)、対応する位置のアミノ酸残基やヌクレオチドを比較することによって決定することができる。「最もよく合う並び」とは、2個の配列を並べたときに最も高い相同率が得られる並びをいう。相同率は、比較する配列中の同一のアミノ酸残基またはヌクレオチドの個数によって決定される(すなわち、相同率%=(同一の位置の数/位置の全数)×100)。
【0059】
2配列間の相同率の決定は、当業者に公知の数学的アルゴリズムを用いて達成できる。2配列を比較するための数学的アルゴリズムの一例は、カーリン(Karlin)とアルツシュル(Altschul)のアルゴリズム(1990、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2264〜2268)であり、これはさらにカーリン(Karlin)とアルツシュル(Altschul)(1993、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873〜5877)に記載のように改変されている。アルツシュル(Altschul)らのNBLASTとXBLASTプログラム(1990、J.Mol.Biol.215:403〜410)はそのようなアルゴリズムを組み込んだものである。BLASTのヌクレオチド検索はNBLASTプログラム(スコア=100、ワード長=12)を用いて行うことができ、これにより本発明の核酸分子と相同なヌクレオチド配列が得られる。BLASTのタンパク質検索はXBLASTプログラム(スコア=50、ワード長=3)を用いて行うことができ、これにより本発明のタンパク質分子と相同なアミノ酸配列が得られる。配列にギャップを挿入して比較する場合は、アルツシュル(Altschul)らの文献(1997)、Nucleic Acids Res.25:3389〜3402に記載のようにGapped BLASTを利用することができる。あるいは、PSI−Blastを用いれば反復検索により、分子同士の関係が薄くても検出できる(同上)。BLAST、Gapped BLAST、PSI−Blastの各プログラムを用いる場合、各プログラムのデフォルトパラメータ(例えばXBLASTやNBLAST)を使用できる(http://www.ncbi.nlm.nih.gov.を参照)。
【0060】
配列比較用の数学的アルゴリズムの別の例は、Myers & Miller, CABIOS(1989)のアルゴリズムである。このアルゴリズムは、CGC配列アライメント・ソフトウェアパッケージの一部のALIGNプログラム(バージョン2.0)に組み込まれている。当業界における他の公知の配列解析アルゴリズムとしては、Torellis & Robotti(1994)、Comput.Appl.Biosci.,10:3−5に記載のADVANCEやADAM、Pearson & Lipman(1988)、Proc.Natl.Acad.Sci.85:2444−8に記載のFASTAが挙げられる。FASTAにおいては、ktupは検索の感度およびスピードを設定する制御オプションである。
【0061】
高度の配列同一性が存在する場合、アミノ酸配列の相違は比較的少ない。相違は例えば20未満、10未満の場合、また、5未満の場合すらあろう。
【0062】
本発明者らは、CD55のSCR1とSCR2に向けられた抗体、例えば791T/36抗体やそのフラグメントあるいはその誘導体を癌治療薬として使用することによって、CD55を不活化し、腫瘍細胞が補体媒介型の攻撃を受けやすくさせることができることを示した。このことは、癌患者の腫瘍内における抗体の局在化と癌患者の生存率の上昇によって示される(実施例参照)。
【0063】
したがって、本発明は、さらに、791T/36のネーキッド「フラグメント」や「誘導体」あるいは「791T/36」ファミリーの他のポリペプチドであってCD55エピトープのSCR1とSCR2の双方に結合するものを癌治療剤の調製のために使用することを提供する。
【0064】
結合要素は、単独であるいは1以上の他の薬剤と組み合わせて投与することができる。よって本発明は、さらに、癌治療において同時に、別々にまたは順次的に使用するための組合せ調製物としての作用剤、およびCD55のSCR1とSCR2の双方に結合するネーキッド結合要素を含む製品を提供するものである。作用剤としては各種化学療法剤を挙げることができ、その例としてはドキソルビシン、タキソール、5−フルオロウラシル(5FU)、ロイコボリン、イリノテカン、マイトマイシンC、オキサリプラチン、ラルチトレキセド、タモキシフェンおよびシスプラチンを挙げることができ、これらは本発明の結合要素と共働的に作用できるものである。他の各種作用剤としては、非ステロイド系の抗炎症薬(例えば、アスピリン、パラセタモール、イブプロフェン、ケトプロフェン)や麻酔剤(モルヒネ等)等の鎮痛薬、または鎮吐剤を挙げることができる。別の実施形態においては、作用剤は別の結合要素であってもよい。よって、好ましい態様においては、結合要素は1以上の他の結合要素と組み合わせて投与することができる。そのような結合要素としては、抗CD20抗体(例えばリツキサン(リツキシマブ);バイオジェン・アイデック社、米国マサチューセッツ州、ケンブリッジ);抗VEGF抗体(例えばアバスチン(ベバシズマブ);ジェネンテック社、米国カルフォルニア州、南サンフランシスコ/ロシュ社、スイス国バーゼル);抗CD171A抗体(例えばパノレックス(エドレコロマブ);セントコア社;米国ペンシルベニア州、マルバーン)/グラクソスミスクライン社、英国、アックスブリッジ);抗CEA抗イディオタイプmAb(例えばシーバック(CeaVac)、タイタンファーマスーティカルズ社、米国カルフォルニア州、南サンフランシスコ);抗EGFR抗体(例えばエルビタックス(セツキシマブ)、イムクローン社、米国ニューヨーク/ブリストル・マイヤーズ・スクイブ社、米国ニューヨーク、メルク社、米国ニュージャージー州、ホワイトハウス・ステーション);抗HMFG抗イディオタイプmAb(例えばトリアブ、タイタンファーマスーティカルズ社、米国カルフォルニア州、南サンフランシスコ)、抗EGFR抗体(例えばABX−EGF、アブジェニクス社、米国カリフォルニア州フリーモント/アムジェン社、カルフォルニア州、サウザンドオークス)および/または抗HER2抗体(例えばハーセプチン、ジェネンテック社、米国カルフォルニア州、南サンフランシスコ)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0065】
作用剤(active agent)は結合要素と共働的に作用するのが好ましい。作用剤と共働的に作用し殺腫瘍を向上させる結合要素の能力は、免疫エフェクター機構によるものではなく、むしろCD55を不活化し補体の沈着や溶解を促進することの直接的な結果によるものである。本発明の結合要素は検出可能な標識を保持することができる。
【0066】
治療
「治療」とは、ヒトまたは非ヒト動物に利益を提供しうる如何なる治療計画をも含む。治療は、現在見られる症状に関するものであってもよいし、予防的なもの(予防的処置)であってもよい。したがって、「治療」は治癒、軽減、予防等の効果を提供する。
【0067】
「癌治療」は、癌性増殖に起因する症状の治療を含むとともに、新生物増殖や腫瘍の治療を含む。本発明のシステムによって扱うことができる腫瘍の例としては、例えば骨肉腫や軟部組織肉腫等の肉腫;乳癌腫、肺癌腫、膀胱癌腫、甲状腺癌腫、前立腺癌腫、結腸癌腫、結腸直腸癌腫、膵臓癌腫、胃癌腫、肝臓癌腫、子宮癌腫、子宮頸癌腫、卵巣癌腫等の癌腫;ホジキンや非ホジキンリンパ腫等のリンパ腫;神経芽細胞腫;メラノーマ;ミエローマ;ウィルムス腫瘍;急性リンパ芽球性白血病等の白血病;グリオーマ;網膜芽細胞腫を挙げることができる。
【0068】
結合要素は、癌性細胞あるいは組織(腫瘍細胞と非腫瘍細胞を含む)上に存在するCD55のSCR1とSCR2に結合すると、CD55を中和し補体の沈着を促進するとともに補体の媒介するこれら細胞の溶解を向上させることができる。
【0069】
特に、本発明の組成物および方法は、現在罹患している癌の治療に有用であり、かつ、一度治療や手術を行った癌の再発予防に有用である。
【0070】
投与
本発明の結合要素は、単独でも投与できるが、医薬組成物として投与するのが好ましく、これは一般に、意図した投与経路に応じて選択される適切な医薬的賦形剤や希釈剤、担体を含むものである。本発明の結合要素は、治療を必要とする患者に適切な経路で投与することができる。正確な投与量は、該要素の正確な性質(全抗体なのか、フラグメントなのか、ダイアボディかなど)や、該要素に付着させる検出可能なラベルの性質をはじめとする、数々の因子によって決定される。
【0071】
適切な投与経路の例としては、経口、経結腸直腸、経鼻、局所(口内、舌下等)、経膣、非経口(皮下、筋内、経静脈、皮内、髄膜、硬膜外等)投与が挙げられるが、これらに限定されるものではない。静脈投与が好ましい。
【0072】
カテーテルや他の外科的挿管による送達も考えられるが、注射(静脈注射)が本組成物の治療的投与のための主経路である。粉末形態の場合は、液状形態に戻してから使用することができる。
【0073】
静脈注射または患部への注射のためには、活性成分は非経口で許容されうる水溶液の形態(パイロジェンフリーで適切なpH、等張性および安定性を有するもの)をとる。当業者にとって、塩化ナトリウム注、リンゲル注、ラクテート化リンゲル注等の等張性媒体を用いて適切な溶液を調製することは十分容易である。必要に応じ、保存剤、安定化剤、緩衝剤、抗酸化剤、および/またはその他の添加剤も使用できる。
【0074】
経口投与のための医薬組成物は、錠剤、カプセル剤、粉末または液状であることができる。錠剤はゼラチンやアジュバント等の固形の担体を含むことができる。液体の医薬組成物は一般に、水、石油、動物性・植物性油、鉱物油や合成油等の液体の担体を含むことができる。また、生理的食塩水溶液、デキストロースまたは他のサッカライド溶液またはエチレングリコール、プロピレングリコールまたはポリエチレングリコール等のグリコール類も使用できる。
【0075】
本発明の組成物は、また、ミクロスフィアや、リポソーム、その他の微細球状デリバリーシステム、徐放性調製物等を、血流のある組織に配置することによって投与することもできる。徐放性担体の好適な例としては、個別形状体に使用する半透性ポリマーマトリックス、例えば、座薬やマイクロカプセルが挙げられる。移植可能な、あるいはマイクロカプセル形状の徐放性マトリックスとしてはポリラクチド(米国特許第3773919号;ヨーロッパ特許出願0058481A)、L−グルタミン酸とγ−エチル−L−グルタメートからなるコポリマー(シドマン(sidman)ら、Biopolymers 22(1):547〜556、1985)、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)やエチレンビニルアセテート(ランガー(Langer)ら、J.Biomed.Mater.Res.15:167〜277、1981およびランガー(Langer)、Chem.Tech.12:98〜105、1982)が挙げられる。ポリペプチドを含有するリポソームは周知の方法によって調製される(DE3218121A;エプスタイン(Epstein)ら、PNAS USA、82:3688〜3692、1985;ホワン(Hwang)ら、PNAS USA、77:4030〜4034、1980;EP−A−0052522A;E−A−0036676;EP−A−0088046;EP−A−0143949;EP−A−0142541;JP−A−83−11808;US Patent Nos 4485045および4544545)。通常、リポソームは小さい(約200〜800オングストローム)単層構造体であり、脂質含量は約30モル%コレステロールより高く、その選択された部分(proportion)がポリペプチドの溶出最適速度を達成するよう調節される。
【0076】
前述した技法およびプロトコール、または本発明に従って用いることができる他の技法およびプロトコールの例は、"Remington’s Pharmaceutical Sciences"第16版、オスロ・エー(Oslo, A)編、1980に記載されている。
【0077】
組成物は腫瘍部位あるいは他の所望とする部位に局在化されるような方法で投与することができる、すなわち、腫瘍や他の各種細胞を標的とする方法で送達されることができる。抗体や細胞特異的リガンド等のターゲッティングシステムを利用するターゲッティング治療は、作用剤をある種の細胞により高い特異性で送達するために用いることができる。ターゲッティングはいろいろな理由から好ましい。例えば、薬剤が許容できない程度に毒性を示すものであったり、そうでなくてもあまりにも高用量を必要としたり、あるいはターゲッティング以外では標的の細胞に届かせることができない場合を挙げることができる。
【0078】
医薬組成物
前述したように、本発明は、癌治療のための医薬組成物にまで拡張され、この組成物はCD55のSCR1とSCR2に結合するネーキッド結合要素を含むものである。本発明の医薬組成物および本発明に従って使用するための医薬組成物は、活性成分のほか、医薬として許容される賦形剤、担体、緩衝剤・安定化剤、あるいはその他当業者に周知の物質を含むことができる。そのような物質は、毒性がないことが必要とされ、かつ活性成分の効能に干渉しないものでなくてはならない。担体やその他の物質の正確な性質がどうあるべきかは、経口や注射(例えば静脈注射)といった投与経路によって決められるであろう。
【0079】
形状は、液体であってもよいし(例えばpH6.8〜7.6の非リン酸緩衝液を含有する生理的食塩水溶液)、凍結乾燥粉末であってもよい。
【0080】
投与量
本発明組成物は、好ましくは、「治療有効量」を患者に投与するものであって、これは対象となる患者に効果を示す十分な量である。実際の投与量、投与の割合や経時プロフィル(rate and time-course)は治療対象となるものの性質や重篤度によって決まる。治療の処方(投与量の決定等)は究極的には医師一般や他のメディカルドクターの責任・裁量の範囲内であり、典型的には治療対象の疾病、個々の患者の症状、送達部位、投与方法、その他、医師のよく知る因子群が考慮される。
【0081】
最適な投与量は、年齢、性別、体重、治療対象となる状態の重篤度、投与される活性成分および投与経路等、数々のパラメータに基づき医療従事者によって決定されることができる。一般的に、ポリペプチドと抗体の血清濃度は、レセプターを飽和させることのできる血清濃度であることが望ましい。約0.1nMを超える濃度が、通常十分な濃度である。例えば、抗体100mg/mの投与量は、約8日間で20nM程度の血清濃度を提供する。
【0082】
大まかなガイドラインによると、抗体の投与は毎週10〜300mg/mの量とすることができる。これと同等の抗体フラグメントを投与する場合には、CD55を飽和できる濃度を超えた血清レベルを維持するため、投与間隔をより短くして使用することが必要とされる。
【0083】
結合要素の生産
本発明の結合要素および本発明の使用のための結合要素は、その全部または一部分を化学合成により生成することができる。結合要素は十分確立された標準液、または好ましくは固相ペプチド合成法、広く入手可能な一般的記述によって容易に調製できる(J.M.スチュワート(Stewart)およびJ.D.ヤング(Young)、固相ペプチド合成(Solid Phase Peptide Synthesis)、第2版、ピアースケミカル社(Pierce Chemical Company)、イリノイ州、ロックフォード(Rockford)(1984);M.ボダンズスキー(Bodanzsky)およびA.ボダンズスキー(Bodanzsky)、ペプチド合成の実践(The Practice of Peptide Synthesis)、ニューヨーク州、スプリンガー バーラグ(Springer Verlag)(1984);および応用バイオシステムズ430Aユーザーズマニュアル(Applied Biosystems 430A Users Manual)、ABI社、カルフォルニア州、フォスターシティ(Foster City)等参照)。あるいは溶液中で、液相法により調製したり、固相、液相と溶液化学を組み合わせることによって調製することもできる(例えば、まず各ペプチド部分を完成させ、ついで所望され、かつ適切な場合には、存在する保護基を全て除去後、カルボン酸やスルホン酸、その反応誘導体の反応によって残基Xを導入する)。
【0084】
本発明における使用に適した結合要素を生産する別の便利な方法は、結合要素をコードする核酸を発現させることであり、核酸を発現システムにおいて用いることである。よって、本発明は、さらに、ネーキッド結合要素(すなわち、癌治療のための薬剤の調製において、CD55のSCR1とSCR2の双方に結合する要素)をコードする単離された核酸を提供するものである。
【0085】
本発明に従って使用するための核酸は、DNAまたはRNAを包含することができ、かつその全体または一部が合成物であってもよい。好ましいアスペクトにおいては、本発明に使用する核酸は先に定義した本発明の結合要素をコードするものである。当業者であれば、本発明の結合要素をなお提供できる。そのような核酸に対する置換、欠失および/または付加を決定することができるであろう。
【0086】
本発明で使用するための結合要素をコードする核酸の配列は、核酸の配列とクローンさえ入手できれば、本明細書に含まれる情報やレファレンスおよび本技術分野に知られた技法(例えばSambrook,FritschおよびManiatis「モレキュラー・クローニング;ラボラトリー・マニュアル」コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス、1989年およびAusubelら、「分子生物学における簡単なプロトコル」ジョン・ウィリー・アンド・サンズ、1992年参照)によって、当業者は容易に調製することができる。これら技法の例としては、(i)ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を利用した核酸サンプルの増幅(例えば、ゲノム源から)、(ii)化学合成、(iii)cDNA配列の調製、を挙げることができる。抗体の各種フラグメントをコードするDNAは、当業者に知られた何らかの適切な方法(コードしているDNAを準備し、発現させるべきどちらの側であれ、適切な制限酵素認識部位を特定し、DNAからそのような部分を切り出す等)によって生成し、利用することができる。この部分は、ついで市販されている標準的な発現システムの適切なプロモーターに機能的に結合させることができる。別の組換えアプローチは、適切なPCRプライマーを用いてDNA中の目的関連部分を増幅させることである。部位特異的変異変異誘発を用いる等により、配列に対して各種の修飾を行うことができ、これにより、修飾されたペプチドを発現させることができる。また、核酸を発現させるために用いた宿主細胞中のコドンの選択順位を確認することもできる。
【0087】
核酸は、プラスミド、ベクター、転写または発現カセット(前記の核酸を少なくとも一種類含む)といった形態のコンストラクトとして含まれていてもよい。このコンストラクトは、1以上の前記コンストラクトを含むリコンビナント宿主細胞内に含まれていてもよい。発現は、適切な条件で核酸を含有するリコンビナント宿主細胞を培養すれば容易に達成できる。発現させて生産した後、何らかの適切な技法を用いて特異的結合要素を単離および/または精製し、その後適宜使用することができる。
【0088】
本発明に従って使用するための結合要素コード核酸分子やベクターは、例えば天然の環境から単離および/または精製することにより、実質的に純粋または均一な形態において提供することができる。あるいは、核酸の場合には、必要な機能を有するポリペプチドをコードする配列以外の核酸や遺伝子源がない(あるいは実質的にない)形態として提供できる。
【0089】
様々な種類の宿主細胞におけるポリペプチドのクローニングシステムや発現システムは周知である。適切な宿主細胞としては、バクテリア、哺乳類細胞、酵母およびバキュロウィルスの系を挙げることができる。ヘテロ・ポリペプチドの発現のために本技術分野において利用できる哺乳類細胞株としてはチャイニーズハムスター卵巣細胞、Hela細胞、ベビー・ハムスター腎細胞、NSOマウス・メラノーマ細胞、その他多数のものを挙げることができる。一般的で、好ましい細菌宿主はE.coli.である。
【0090】
E.coli.等の原核細胞における各種抗体および抗体フラグメントの発現は、本技術分野において確立されたものである。これについては、例えばPluckthunによる”Bio/Technology”9:545−551(1991)が参照される。培養中の真核細胞における発現も、結合要素を生産するための選択肢として当業者は利用することができる。最近のレビュー記事としては、Reff、”Curr.Opinion Biotech.”4:573−576(1993);Trillら、”Curr.Opinion Biotech.”6:553−560(1995)が参照される。
【0091】
あるいは、本発明において使用するための特異的結合要素の生産は、トランスジェニック生物、例えば哺乳動物、鳥、魚、昆虫または植物のトランスジェニック生物において、本技術分野に知られた方法によって行うことができる。そのようなトランスジェニック技法においては、(1以上の)結合要素をコードする核酸を細胞または胚に導入することができる。そのような導入方法としては、直接注入、エレクトロポレーション、核移入技法(nuclear transfer technique)、ベクター(例えば、ウィルスベクター)を利用する方法等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。より好ましい一実施態様においては、特異的結合要素は鳥の組織、好ましくは鳥の卵で生産されるものであり、例えば、英国出願第0227645.9号(2002年11月27日出願)およびこの出願の優先権を主張する国際出願において開示された方法を用いることができる。
【0092】
適当な調節配列を有する適切なベクターを選択または構築することができる。この調節配列としては、プロモーター配列、ターミネーター配列、ポリアデニレーション配列、エンハンサー配列、マーカー遺伝子および必要に応じて使用できるその他各種配列を挙げることができる。ベクターとしては各種プラスミド、ウィルス性ベクター(例えば、「ファージ」)または必要に応じてファージミドを挙げることができる。詳細については、例えばサムブルック(Sambrook)ら、モレキュラー・クローニング:ラボラトリー・マニュアル(第2版)コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス(1989年)参照。核酸を操作するための多くの知られた技法やプロトコール、例えば核酸コンストラクトの調製、変異の誘発、シークエンシング、DNAの各種細胞への導入および遺伝子発現、タンパク質解析等については、オースベル(Ausubel)ら編のショート・プロトコル・イン・モレキュラー・バイオロジー(第2版)ジョン・ウィリー・アンド・サンズ(1992年)が参照される。
【0093】
核酸は、適切なものでありさえすれば如何なる手段によっても宿主細胞に導入することができる。この導入には利用可能な如何なる技法をも用いることができる。真核細胞の場合に適切な技法としては、リン酸カルシウムトランスフェクション法、DEAE−デキストラン法、エレクトロポレーション、リポソーム媒介トランスフェクション法およびレトロウィルスまたはその他のウィルス(ワクシニアウィルス等、また昆虫細胞の場合にはバキュロウィルス)を用いた形質導入を挙げることができる。細菌細胞の場合に適切な技法としては、塩化カルシウムトランスフォーメーション、エレクトロポレーションおよびバクテリオファージを用いたトランスフェクションを挙げることができる。
【0094】
抗生物質耐性遺伝子や感受性遺伝子等のいわゆるマーカー遺伝子を利用して、目的とする核酸を有するクローンを同定でき、これについては本技術分野において周知である。
【0095】
導入に続き、核酸からの発現を誘導するが、これは例えば、宿主細胞を遺伝子発現に適した条件で培養することで行うことができる。
【0096】
前記核酸は、宿主細胞のゲノム(染色体等)に導入される。この導入は、標準的な技法に従い、ゲノムとの組換えを促進する配列の組込みによって促進される。核酸は細胞内のエクストラ染色体ベクター上のものか、さもなければ該細胞に対し同定可能に異種あるいは外来性であることができる。
【0097】
分析
さらに本発明は、細胞サンプルまたは組織への補体の沈着を向上させるために使用できる、抗体等の更なる薬剤を同定するための分析を提供するものであり、これは任意に癌治療に用いることができる。
【0098】
より好ましい面において、前記分析はCD55を阻害できる薬剤を同定するための分析方法を含むものであり、これはつぎの各ステップ:
a)候補剤をCD55のSCR1とSCR2の少なくとも一部に接触せしめ;そして
b)前記の候補剤のSCR1とSCR2に対する結合を測定する、
を含む。
【0099】
さらなる実施態様において、前記分析方法はCD55を阻害できる薬剤を同定するための方法を含むものであり、これはつぎの各ステップ:
(a)ネーキッド結合要素の存在下で候補剤をCD55のSCR1とSCR2の少なくとも一部に接触せしめ(ここでネーキッド結合要素は、候補剤が存在しないとCD55のSCR1とSCR2の双方に結合できるものである);
(b)候補剤が、ネーキッド結合要素のCD55のSCR1とSCR2に対する結合を阻害する程度を決定する、
を含む。
【0100】
前記分析はさらに、CD55のSCR1とSCR2の双方に結合する候補剤を選択するステップ;および/または候補剤の存在下および非存在下において、細胞サンプルに沈着する補体の量を決定するステップ、を含むこともできる。
【0101】
本発明の分析のより好ましい実施態様において、CD55のSCR1とSCR2の部分は、図1bに示した配列のアミノ酸83〜93、101〜112および145〜157を含む。
【0102】
本発明は、さらに、スクリーニング方法を提供するものであり、これはCD55のSCR1とSCR2の双方に対するネーキッド結合要素の結合阻害能を有する候補剤のライブラリーをスクリーニングするステップを含む。
【0103】
本発明の分析はいわば篩(スクリーン)であり、これによって多くの候補剤が試験される。したがって、当業者に知られた各種化合物をスクリーニングするための何らかの適切な技法を用いることができる。前記スクリーンはハイスループット・スクリーンである。例えば国際公開第84/03564号パンフレットは、大量のペプチドを固体の支持体上に合成し薬剤と反応させ洗浄するという方法について記載している。結合したものが検出される技法である。
【0104】
本発明は、また、競合的薬剤(competitive drug)のスクリーニング分析という用途も意図しており、この分析は、CD55のSCR1とSCR2に特異的に結合できる791T/36等の中和抗体が、CD55のSCR1と2に結合する試験化合物と競合するものである。
【0105】
本発明のスクリーニング方法によって同定された各剤および癌治療のための医薬の製造におけるその使用もまた、本発明によって意図されたものである。
【0106】
本発明の各面における好ましい特徴は、必要な変更を加えれば他の面についても当てはまる。
【0107】
以下、本発明を実施例によってさらに説明するが、これら実施例は本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【実施例】
【0108】
実施例1.CD55中和分析
オクチルグルコシドに溶解させた791T細胞から、イムノアフィニティー−マトリックス精製によって精製CD55抗原を得た。精製抗原から得られたタンパク質の配列データに基づくプライマーを用いて、CD55cDNAのクローニングおよび配列決定を行った(スペンドラブ(Spendlove)ら、1999、Cancer Res.59:2282)。得られたDNA配列は、カラス(Caras)らによって同定されGenbankデータベースに収められているもの(受託番号M31516)と一致した。
【0109】
細胞
骨肉腫細胞株791Tを、熱失活させた10%ウシ胎仔血清を添加したRPMI(ギブコ、BRL、ペイズリーおよびUK)中で増殖させた。
【0110】
モノクローナル抗体
モノクローナル抗体791T/36(IgG2b 抗791Tgp72;エンブレトン(Embleton)ら、1981、Br.J.Cancer 43:582〜587)、BRIC216(IgG1 抗SCR3(CD55の);テイト(Tate)ら、1989、Biochem.J.261,489)、BRIC220(IgG1 抗SCR1(CD55の);テイト(Tate)ら、1989、Biochem.J.261,489)、BRIC110(IgG1 抗SCR2(CD55の);スプリング(Spring)ら、1987、Immunology 62 377;コイン(Coyne)ら、1992、J.Immunol.149 2906)については、従前報告されている。この中のBRIC抗体はブラッド・グループ・レファレンス・ラボラトリー(Blood Group Reference laboratory) (英国ロンドン)から購入した。
【0111】
方法
CD55を過剰発現している791T腫瘍細胞を10%FCS含有培地で洗浄し、100μL当たり1×10の細胞密度で再懸濁した。一次抗体を50μg/mLの濃度で、サンプル体積の3倍量(3×10細胞/300μL)とともにインキュベートした。一次抗体としては、ポジティブコントロール抗体216(抗SCR3)、ネガティブコントロール抗体220(抗SCR1)および試験抗体791T/36(抗SCR1、SCR2)を用いた。細胞と抗体を、4℃で1時間インキュベートしてからPBSで洗浄した。サンプルをチューブあたり100μLとして3試料に分けた。補体源として合計濃度5%でヒト血清(熱失活なし)を添加した。チューブを数回反転させてから37℃で2時間インキュベートした(30分毎に混合した)。細胞をPBSで2回洗浄後、ポリクローナルウサギ抗ヒトC3cFITCコンジュゲート抗体(1/100)に終体積100μLとなるように添加した。細胞を4℃で1時間インキュベートした後、PBSで2回洗浄し、1%調製細胞200μLに再懸濁させた。
【0112】
結果
図2は非ブロック抗体220存在下で、C3bの791T細胞への沈着が低レベル(modest levels)であったことを示している(MLF200)。CD55中和抗体216の存在下では、C3bの沈着の向上が観察される(MLF350)。しかしながら、モノクローナル抗体791T/36の存在下では、C3bの沈着量がより一層増大した(MLF520)。このことは、216がSCR3への結合をC3転移酵素と競合するのに有効であるが、791T/36のSCR1とSCR2ドメインへの結合はCD55を機能的に不活化させC3bの沈着を250%増大させたことを示唆している。
【0113】
実施例2.腫瘍イメージングのため放射線標識791T/36で処置された再発結腸直腸癌(colorectal cancer)患者の長期生存
抗体とラベリング
抗体源はハイブリドーマ791T/36クローン3である(791T/36、IgG2bアイソタイプ)。ハイブリドーマを産生しているマウスの腹水を、pH7.5、0.1mol/Lのクエン酸・リン酸バッファー中、プロテインA−「セファロース」カラムに適用し、カラムを十分に洗浄した。結合した免疫グロブリンを、pH6.0、5.0、4.5および3.0で順次溶出させ、次いでこれをリン酸緩衝化生理食塩水によって透析した。ついで、透析液を1,000,000gで1時間遠心し、0.22μmのMillexミリポア・フィルターを用いて濾過し、−70℃で保存した(タンパク質濃度:1mg/mL)。この調製物は、マウス・イムノグロブリン・タイピング抗血清(マイルズ・ラボラトリーズ、ストーク・ポッジズ、バックス)による免疫核酸試験で、IgG2bのみを含有しており、またパイロゲン・フリーであることがわかった(ブーツ・ファーマスーティカル社、ノッツ)。
【0114】
抗体調製物の各バッチは、試薬「Iodogen」を用いて131Iで標識した。未結合ヨウ素は、セファデックスG25のゲル濾過によって除去した。標識された調製物は、生理食塩水(血清アルブミン1%含有)で希釈し、Millex濾過によって滅菌した。
【0115】
結腸直腸癌(colorectal cancer)を再発した72名の患者に対し、放射線標識したモノクローナル抗体791T/36によるイメージングを行った。患者は抗体10μgの皮内(id)投与、続いて200μgの静脈投与を受けた。200μgの抗体と約70MBqの131Iを含有する2dLの調製物を30分かけて各患者の前腕前部静脈に注入した。
【0116】
生存について7年間追跡し、同時期の再発結腸直腸癌患者グループとの比較を行った。791T/36を受けた患者のうち長期生存者が12名(16%)おり、これに対し同時期グループでは7年間生存したのは89名の患者のうちわずか1名(p>0.001)であった。
【0117】
【表1】

【0118】
この結果は、放射線標識した791T/36抗体を受けた患者は、非無作為試験(non-randomised trial)において生存率に関し明白な利益を享受していることを示している。腫瘍に到達する放射線標識の投与量は、放射線標識のみで殺腫瘍を引き起こすのに必要なレベルより非常に低い。したがって、前記抗体がCD55を不活化することによって、残りの腫瘍に対する補体の攻撃が可能となったということが十分考えられる。これら患者は791T/36抗体の静脈投与を一回受けただけであることを考えると、得られた生存率の向上は劇的である。ヒト化791T/36抗体を繰返し注射すると、一層明白な治療上の利点が得られるであろう。
【0119】
実施例3.SCR1とSCR2に対する新規なモノクローナル抗体の産生
CD55抗原を過剰発現している791T細胞(106細胞)を6〜8週齢のBalb/cマウスの腹腔内に2回注射し(各回の間隔を3週間あけて)免疫した。ついで、マウスにヒトFcと融合させたSCR1−2タンパク質を注射して追加免疫し、プロテインAクロマトグラフィーによって精製した。マウスの尾部から採血し、文献記載に従って血清をスクリーニングに付し、CHO細胞が発現するCD55SCR1−2/CD46SCR3−4キメラ分子を認識する能力を有するものを選択した(スペンドラブ(Spendlove)ら、2000、Eur.J.Immunol.30,2944)。
【0120】
また、SCR1−2CD55Fcタンパク質とIC、2Nおよび2Cペプチドを認識する能力についてもスクリーニングした。このペプチドは前に述べたようにBSAに付着させたものである(スペンドラブ(Spendlove)ら、2000、Eur.J.Immunol.30,2944)。
【0121】
CD55SCRIおよびSCR2を認識する抗体を産生しているマウスに対して、SCR1−2Fcタンパク質を静脈注射し追加免疫して、5日後に脾臓細胞(splenocytes)を取り出し、PEGを用いてNSOミエローマ細胞と10:1の比で融合させる。HAT培地を用いてハイブリドーマを選別し、SRR1−2Fcタンパク質を認識する抗体の産生についてELISAを行いスクリーニングする。正しい抗体を産生するハイブリドーマを限界希釈法で3回クローニングし(ウェル当たり1細胞)、クローン性を確実なものとする。モノクローナル抗体を、CHO細胞によって発現されているCD55SCR1−2/CD46SCR3−4キメラ分子を認識する能力について、文献記載に従いスクリーニングする(スペンドラブ(Spendlove)ら、2000、Eur.J.Immunol.30,2944)。
【0122】
また、SCR1−2CD55Fcタンパク質とIC、2Nおよび2Cペプチドを認識する能力についてスクリーニングする。このペプチドは既に文献記載されているようにBSAに付着させたものである(スペンドラブ(Spendlove)ら、2000、Eur.J.Immunol.30,2944)。791T/36と同じ部位を認識するかどうか決定するため、プレートを前記のようにCD55でコーティングする。
【0123】
ついで、新規のモノクローナル抗体とインキュベートし、続いてビオチン化791T/36とインキュベートする。791T/36の結合については、アビジンペルオキシダーゼとABTS基質を用いて、プレートリーダーで405nmでの光学濃度(OD)を読み取り定量する。モノクローナル抗体が791T/36と同一または関連する部位を認識すると、CD55抗原に対する791T/36の結合が阻害されるであろう。
【0124】
本明細書中に言及された文書全てを、本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。ここに記載した実施形態に対する、本発明の範囲と精神から逸脱せずになされうる様々な変更やバリエーションについては当業者に明らかであろう。
【0125】
本発明を、特定の好ましい実施態様と関連させ記述してきたが、請求の範囲に記載の本発明を不当にそのような特定の実施態様に限定してはならないものと理解されるべきである。実際、本発明を実施するためのここに記載した態様に関する当業者に自明な種々の改変は、本発明の範囲内に入るものであると意図されている。
【0126】
参考文献
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16.ファランズ(Farrands),P.A.、A.パーキンス(Perkins)、L.サリー(Sully)、J.S.ホプキンス(Hopkins)、M.V.ピム(Pimm)、R.W.ボールドウィン(Baldwin)およびJ.D.ハードキャッスル(Hardcastle)、1983、J.of Bone and Joint Surg.65:638〜640.
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26.カサスノバス(Casasnovas),J.M.、M.ラービー(Larvie)およびT.スタール(Stehle)、1999、The EMBO J.18:2911〜2922.
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31.テイト(Tate)CG、ウチカワ(Uchikawa)M、タナー(Tanner)MJA、ジャドソン(Judson)PA、パーソンズ(Parsons)SF、マリンソン(Mallinson)Gおよびアンスティー(Anstee)DJ(1989),Biochem.J.261,489.
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33.スペンドラブ(Spendlove)I、リー(Li)L、ポッター(Potter)V、クリスチャンセン(Christiansen)D、ラブランド(Loveland)Bおよびデュラン(Durrant)LG(2000),Eur.J.Immunol.30,2944.
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1a】105AD7ハイブリドーマからの、VKおよびVHのcDNAが翻訳されたCDR配列を示す。大文字はCDR領域を示し、小文字は隣接するフレームワークのアミノ酸である。
【図1b】3種類のCDRペプチドとCD55のアラインメントを示す。アミノ酸の番号付けは、リーダー配列を含む完全長配列からなされたものである。後の分析に用いるCD55ペプチドをアンダーラインで示した。黒丸(・)アミノ酸が相同であることを示し、物理化学的性質が類似するアミノ酸には(|)で印をしてある。
【図2】補体C3bの沈着の分析を示す。791T細胞をヒト血清(補体源)とインキュベートした。C3bの沈着は、ウサギ抗C3bFITC標識抗体を用いて、ブロック抗体(216)、非ブロック抗体(220)または試験抗体791T/36の存在下で測定した。蛍光はFACScanフロー・サイトメーターで定量し、平均線形蛍光(mean linear fluorescence;MLF)で示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CD55を中和するための医薬の調製方法において、(i)CD55のSCR1とSCR2の双方に結合するネーキッド結合要素、または(ii)前記結合要素をコードする核酸を使用する医薬の調製方法。
【請求項2】
組織への補体の沈着の向上のための医薬の調製方法において、(i)CD55のSCR1とSCR2の双方に結合するネーキッド結合要素、または(ii)前記結合要素をコードする核酸を使用する医薬の調製方法。
【請求項3】
癌治療薬の調製方法において、(i)CD55のSCR1とSCR2の双方に結合するネーキッド結合要素、または(ii)前記結合要素をコードする核酸を使用する医薬の調製方法。
【請求項4】
癌が、結腸直腸癌、乳癌、卵巣癌、子宮頸癌、胃癌、肺癌、肝臓癌、皮膚癌、脊椎癌のうちの1つ以上である請求項3に記載の医薬の調製方法。
【請求項5】
前記結合要素が抗体またはそのフラグメントである請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の医薬の調製方法。
【請求項6】
前記結合要素が、下記化1に示す配列のアミノ酸83〜93、下記化2に示す配列のアミノ酸101〜112、および下記化3に示すアミノ酸145〜157に結合する請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の医薬の調製方法。
【化1】

【化2】

【化3】

【請求項7】
前記結合要素は、ATCCに寄託された受託番号HB9173の細胞株により産生される抗体のCDRの1つ以上またはその断片を含む請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の医薬の調製方法。
【請求項8】
前記結合要素は、ATCCに寄託された受託番号HB9173のハイブリドーマ細胞により産生される抗体791T/36である請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の医薬の調製方法。
【請求項9】
前記結合要素は、少なくとも1つのヒトの定常領域を含む請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の医薬の調製方法。
【請求項10】
癌治療に使用するための、SCR1とSCR2の双方に結合するネーキッド結合要素。
【請求項11】
癌治療において同時に、または別々にあるいは順次使用するための組合せ調製物としての作用剤、およびCD55のSCR1とSCR2の双方に結合するネーキッド結合要素。
【請求項12】
前記作用剤が、ドキソルビシン、タキソール、5−フルオロウラシル(5FU)、イリノテカンまたはシスプラチンである請求項11に記載の組合せ調製物。
【請求項13】
前記作用剤が抗体である請求項11に記載の組合せ調製物。
【請求項14】
前記作用剤が、抗−CD20抗体;抗−VEGF抗体;抗−CD171A抗体;抗−CEA抗−イディオタイプmAb;抗−EGFR抗体;抗−HMFG抗−イディオタイプmAb;抗−EGFR抗体、ハーセプチン等の抗−HER2抗体である請求項13に記載の組合せ調製物。
【請求項15】
前記ネーキッド結合要素が請求項1ないし請求項9のいずれか1項に定義されたものである請求項10または請求項11に記載のネーキッド結合要素または請求項12ないし請求項14のいずれか1項に記載の組合せ調製物。
【請求項16】
CD55のSCR1とSCR2の双方に特異的に結合するネーキッド結合要素、および医薬として許容される賦形剤、希釈剤または担体を含有する癌治療のための医薬組成物。
【請求項17】
前記ネーキッド結合要素が請求項1ないし請求項9のいずれか1項に定義されたものである請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
CD55のSCR1とSCR2の双方に特異的に結合するネーキッド結合要素の投与を含むCD55の中和方法。
【請求項19】
CD55のSCR1とSCR2の双方に特異的に結合するネーキッド結合要素の投与を含む補体沈着を向上させる方法。
【請求項20】
CD55のSCR1とSCR2の双方に特異的に結合するネーキッド結合要素の治療的有効量を投与することを含む癌の治療方法。
【請求項21】
前記ネーキッド結合要素が請求項1ないし請求項9のいずれか1項に定義されたものである請求項16ないし請求項18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
CD55を阻害可能な薬剤を特定するための分析方法において、
a)候補剤をCD55のSCR1とSCR2の少なくとも一部に接触せしめることと、
b)前記候補剤のSCR1とSCR2の双方への結合を測定することと
を含む分析方法。
【請求項23】
CD55を阻害可能な薬剤を特定するための分析方法において、
(a)候補剤の非存在下においてはCD55のSCR1とSCR2の双方に結合可能なネーキッド結合要素の存在下において候補剤をCD55のSCR1とSCR2の少なくとも一部に接触せしめることと、
(b)候補剤が、ネーキッド結合要素のCD55のSCR1とSCR2への結合をどの程度阻害したかを測定することと
を含む分析方法。
【請求項24】
前記結合要素が請求項6ないし請求項9のいずれか1項に定義されたものである請求項23に記載の分析方法。
【請求項25】
請求項22ないし請求項24のいずれか1項に記載の分析方法において、
さらに、(c)CD55のSCR1とSCR2の双方に結合する候補剤を選択する段階と、および/または(d)候補剤の存在下あるいは非存在下において細胞試料上への補体沈着量を測定する段階とを含む分析方法。
【請求項26】
CD55のSCR1とSCR2の前記一部が、下記化1に示す配列のアミノ酸83〜93、下記化2に示す配列のアミノ酸101〜112および化3に示すアミノ酸145〜157を含む請求項22ないし請求項25のいずれか1項に記載の分析方法。
【化1】

【化2】

【化3】

【請求項27】
請求項22ないし請求項26のいずれか1項に記載の分析方法により特定された薬剤を使用する癌治療薬の製造方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織への補体の沈着の向上のための医薬の調製方法において、(i)CD55のSCR1とSCR2の双方に結合するネーキッド結合要素、または(ii)前記ネーキッド結合要素をコードする核酸を使用し、ネーキッド結合要素が、抗腫瘍特性を有する剤と結合していないようにした医薬の調製方法。
【請求項2】
癌治療薬の調製方法において、(i)CD55のSCR1とSCR2の双方に結合するネーキッド結合要素、または(ii)前記ネーキッド結合要素をコードする核酸を使用し、ネーキッド結合要素が、抗腫瘍特性を有する剤と結合していないようにした癌治療薬の調製方法。
【請求項3】
癌が、結腸直腸癌、乳癌、卵巣癌、子宮頸癌、胃癌、肺癌、肝臓癌、皮膚癌、脊椎癌のうちの1つ以上である請求項2に記載の癌治療薬の調製方法。
【請求項4】
前記結合要素が、抗体またはそのフラグメントである請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の医薬の調製方法。
【請求項5】
前記結合要素が、下記化1に示す配列のアミノ酸83〜93、下記化2に示す配列のアミノ酸101〜112、および下記化3に示すアミノ酸145〜157に結合する請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の医薬の調製方法。
【化1】

【化2】

【化3】

【請求項6】
前記結合要素は、ATCCに寄託された受託番号HB9173の細胞株により産生される抗体の各種CDRの1つ以上またはそのフラグメントを含む請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の医薬の調製方法。
【請求項7】
前記結合要素は、ATCCに寄託された受託番号HB9173のハイブリドーマ細胞により産生される抗体791T/36である請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の医薬の調製方法。
【請求項8】
結合要素は、少なくとも1つのヒトの定常領域を含む請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の医薬の調製方法。
【請求項9】
癌治療に使用するための、SCR1とSCR2の双方に結合するネーキッド結合要素。
【請求項10】
癌治療において同時に、または別々にあるいは順次使用するための組合せ調製物としての作用剤、およびCD55のSCR1とSCR2の双方に結合するネーキッド結合要素であって、前記作用剤が、化学療法剤、鎮痛剤または鎮吐剤であるネーキッド結合要素。
【請求項11】
前記作用剤が、ドキソルビシン、タキソール、5−フルオロウラシル、イリノテカンまたはシスプラチンである請求項10に記載のネーキッド結合要素。
【請求項12】
前記作用剤が抗体である請求項10に記載のネーキッド結合要素。
【請求項13】
前記作用剤が、抗CD20抗体、抗VEGF抗体、抗CD171A抗体、抗CEA抗イディオタイプmAb、抗HMFG抗イディオタイプmAb、抗EGFR抗体または抗HER2抗体である請求項12に記載のネーキッド結合要素。
【請求項14】
前記ネーキッド結合要素が請求項1ないし請求項8のいずれか1項に定義されたものである請求項9または請求項10に記載のネーキッド結合要素または請求項11ないし請求項13のいずれか1項に記載の作用剤。
【請求項15】
CD55のSCR1とSCR2の双方に結合するネーキッド結合要素、および医薬として許容される賦形剤、希釈剤または担体を含有する癌治療のための医薬組成物。
【請求項16】
ネーキッド結合要素が請求項1ないし請求項8のいずれか1項に定義されたものである請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
CD55のSCR1およびSCR2に特異的に結合するネーキッド結合要素の投与を含むCD55の補体活性阻害作用の中和方法。
【請求項18】
CD55のSCR1およびSCR2に特異的に結合するネーキッド結合要素の投与を含む補体沈着を向上させる方法。
【請求項19】
CD55のSCR1およびSCR2に特異的に結合するネーキッド結合要素の治療的有効量をこれを必要とする哺乳類動物に投与すること含む癌の治療方法。
【請求項20】
ネーキッド結合要素が請求項1ないし請求項8のいずれか1項に定義されたものである請求項17ないし請求項19のいずれか1項に記載の方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−520742(P2006−520742A)
【公表日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−554700(P2004−554700)
【出願日】平成15年11月26日(2003.11.26)
【国際出願番号】PCT/GB2003/005163
【国際公開番号】WO2004/048413
【国際公開日】平成16年6月10日(2004.6.10)
【出願人】(504236651)キャンサー リサーチ テクノロジー リミテッド (4)
【氏名又は名称原語表記】CANCER RESEARCH TECHNOLOGY LTD.
【Fターム(参考)】